JP4331971B2 - 靭性及び材質安定性に優れた225MPa及び235MPa級低降伏点鋼の製造方法 - Google Patents

靭性及び材質安定性に優れた225MPa及び235MPa級低降伏点鋼の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として地震による建物への入力エネルギーを特定の部位に吸収させ耐震性能を確保するためのエネルギー吸収デバイス用225MPa級及び235MPa級低降伏点鋼の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より行われている耐震設計は、大地震時に柱や梁の構造体が塑性化することによりエネルギーを吸収しようとするものであり、建築物の倒壊を防ぎ人的被害の防止を大前提としながら、建設コストも比較的低く抑えることができる非常に合理的な設計法である。
【0003】
一方、近年の耐震設計技術の発展により、制振・免震構造の開発と実用化が進み、地震による建物への入力エネルギーを特定の部位(エネルギー吸収デバイス)に吸収させ耐震性能を確保するとともに、主要構造である柱、梁の損傷を防止する設計技術が注目されている。
【0004】
このような制震デバイス用として低降伏点鋼が利用される。その原理は、通常の柱や梁の構造材よりも降伏点が低いことにより、地震時に早期に降伏し、地震による振動エネルギーを塑性エネルギーに変換することで振動応答を抑えるというものである。
【0005】
低降伏点鋼の製造方法として、種々の発明が提案されている。
【0006】
例えば、降伏応力を低下する方法として、添加元素のごく微小とする方法(例えば特許文献1参照)や、さらに、場合によっては、ごく微量の添加元素のみを含有する鋼を高温で焼準処理する方法などが発明されている(例えば、特許文献2〜4参照)。しかし、これらはいずれもフェライトを粗大化させるにより低降伏点化を達成しており、低温靭性に劣るという欠点があった。また、いずれもCを0.005%以下とするために製鋼工程において脱炭工程を実施する必要があり、製鋼工程への負荷が高く、添加元素はごく微量であるにも関わらず製造コスト的には必ずしも有利ではないという問題があった。さらに、これらの鋼では(極)低C+粗粒フェライトであるため、引張試験における荷重−伸び曲線は降伏点の出ないラウンドものとなって、降伏比が低く、地震エネルギー吸収後、すなわち加工硬化による降伏点の上昇が大きく、エネルギー吸収デバイス用鋼としては好ましいものではなかった。
【0007】
また、適正量のTi添加により、製鋼工程において脱炭処理による極低C化を行うことなく実効的なC量を低減し、低降伏点化を達成する方法がある(例えば、特許文献5〜13参照)。しかし、脱炭処理を行わない場合、これらに規定しているC範囲においては、製鋼工程能力を考慮した場合、実際のC量のばらつきは±0.01%となり、これに対応してTi及びNb、Vなどの高温において炭化物を生成する合金元素量を制御し、適正な値を決定することは極めて困難であった。そのため、これらの鋼は材質の安定性に問題があり、材質・製造安定性に優れた高靭性低降伏点鋼の開発が求められていた。
【0008】
【特許文献1】
特開平3−31467号公報
【特許文献2】
特開平5−214442号公報
【特許文献3】
特開平5−320760号公報
【特許文献4】
特開平5−320761号公報
【特許文献5】
特開平10−245626号公報
【特許文献6】
特開平10−298644号公報
【特許文献7】
特開平11−12650号公報
【特許文献8】
特開平11−229076号公報
【特許文献9】
特開平11−246937号公報
【特許文献10】
特開平11−343537号公報
【特許文献11】
特開2000−1737号公報
【特許文献12】
特開2000−109953号公報
【特許文献13】
特開2000−178677号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、Cを極端に低減することなく、溶接部靭性及び材質安定性に優れた制震デバイスとして使用可能なエネルギー吸収デバイス用225MPa級及び235MPa級低降伏点鋼の製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明では、Cを極端に低減することなく、Ti及びCr添加量を適切に制御し、フェライト相中に固溶するC量を簡易に制御可能とすることで、制震デバイス用225MPa及び235MPa級低降伏点鋼として優れた性能を発揮するとともに、材質の安定を図ることが可能であることを見出し、本発明に至った。
【0011】
(1) 鋼成分が質量%で、
C:0.005%以上0.04%未満、
Si:0.5%以下、
Mn:1.0%以下、
P:0.02%以下、
S:0.01%以下、
Ti:0.01〜0.1%、
Cr:0.05〜1.0%、
Al:0.06%以下、
N:0.006%以下、
かつ、
CM=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+
Mo/15+V/10
と定義される溶接割れ感受性組成PCMが0.18%以下で、残部が鉄及び不可避的不純物からなる成分の鋼片または鋳片を1100〜1250℃の温度範囲に再加熱後、1100℃以下での累積圧下量を30%以上として、750℃以上の温度で圧延し、圧延終了後700℃から400℃までの冷却速度を2Ks −1 以下とすることを特徴とする溶接部靭性及び材質安定性に優れた225MPa級及び235MPa級低降伏点鋼の製造方法。
【0012】
(2) 鋼成分が質量%で、
C:0.005%以上0.04%未満、
Si:0.5%以下、
Mn:1.0%以下、
P:0.02%以下、
S:0.01%以下、
Ti:0.01〜0.20%、
Cr:0.05〜1.0%、
Al:0.06%以下、
N:0.006%以下、
かつ、
Nb:0.03〜0.3%、
V:0.01〜0.05%
Ta:0.005〜0.1%
の範囲で1種以上を含有し、かつ、
CM=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+
Mo/15+V/10
と定義される溶接割れ感受性組成PCMが0.18%以下で、残部が鉄及び不可避的不純物からなる成分の鋼片または鋳片を1100〜1250℃の温度範囲に再加熱後、1100℃以下での累積圧下量を30%以上として、750℃以上の温度で圧延し、圧延終了後700℃から400℃までの冷却速度を2Ks −1 以下とすることを特徴とする溶接部靭性及び材質安定性に優れた225MPa級及び235MPa級低降伏点鋼の製造方法。
【0013】
(3) 鋼成分が質量%でさらに、
Mo:0.05〜0.3%、
Ni:0.05〜0.3%、
Cu:0.05〜0.3%、
の範囲で1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)または(2)記載の溶接部靭性及び材質安定性に優れた225MPa級及び235MPa級低降伏点鋼の製造方法
【0014】
(4) 鋼成分が質量%でさらに、
Ca:0.0005〜0.004%、
REM:0.0005〜0.004%
Mg:0.0001〜0.006%
のいずれか1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の溶接部靭性及び材質安定性に優れた225MPa級及び235MPa級低降伏点鋼の製造方法
【0019】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0020】
適正量のTi添加により、製鋼工程において脱炭処理による極低C化を行うことなく実効的なC量を低減し、低降伏点化を達成する方法は既に発明されている。しかし、脱炭処理を行わない場合、これらの発明にて規定しているC範囲においては、製鋼工程能力を考慮した場合、実際のC量のばらつきは±0.01%となり、これに対応してTi及びNb、Vなどの高温において炭化物を生成する合金元素量を制御し、適正な値を決定することは極めて困難であった。そのため、これらの鋼は材質の安定性に問題があり、材質・製造安定性に優れた高靭性225MPa級及び235MPa級低降伏点鋼の開発が求められていた。
【0021】
本発明者は、Cを極端に低減することなく、Ti及びCr添加量を適切に制御し、フェライト相中に固溶するC量を簡易に制御可能とすることにより、制震デバイス用225MPa級及び235MPa級低降伏点鋼として優れた性能を発揮するとともに、材質の安定を図ることが可能であることを見出した。
【0022】
Tiは、C及びNを固定し、フェライト相中の固溶C/N量の低減を達成するのに最も効果的な元素である。しかし、上述のように、脱炭処理を行わない場合、現状の製鋼工程能力では±0.01%が実行上達成可能なC量の範囲であり、このC量のばらつきに対応して、最適なバランスとなるTi量、さらにはNb、V、Ta量を溶製段階にて決定し、添加することは実際上極めて困難である。
【0023】
そこで、本発明者はセメンタイト生成元素であるCrを適量添加することにより、鋼材製造後に容易に固溶C/N量を制御し、これにより鋼材の強度を簡易に制御可能とする方法を考案した。
【0024】
Crはフェライト相中にて置換型の固溶強化元素として作用するが、同様の置換型固溶強化元素であるMnと比較すると単位重量あたりの固溶強化能力が小さく、1.0%程度まで添加しても固溶強化代は高々20MPa程度である。
【0025】
一方、Crは、600℃以下の温度域にて極めて大きなセメンタイト生成駆動力を示し、かつ、セメンタイト生成駆動力の温度依存性は大きい。したがって、実績の添加C及びN量から、鋼材のミクロ組織(フェライト)中の固溶C/N量を予測し、固溶C/Nが過剰であり、強度が所要上限を超過すると予想される場合には、450〜600℃の温度範囲にてテンパー処理を行い、固溶C/Nをセメンタイトとして析出させることにより低減し、強度を制御することが可能となる。
【0026】
強度に対して最も重大な影響を及ぼすフェライト相中の固溶C及びNの固溶量は、例えば摩擦法によるスネークピーク測定により同定可能である。
【0027】
また、ある温度におけるフェライト相中の固溶C及びNの平衡固溶量は、市販の熱力学計算データベースソフトを利用することにより、添加合金元素量より容易に算出可能である。
【0028】
Ti、Nb、V、Taの添加量は、狙いとするC量に対して製鋼工程能力上予測される下限のC量に応じて決定する。Ti、Nb、V、Ta添加量をそれ以上とすると、実際にC量が狙いよりも低くなった場合、鋼材でのフェライト相中固溶C/N量が不足し、所要の強度確保が困難となるためである。
【0029】
さらに、Crの添加量は、狙いとするC量に対して製鋼工程能力上予想される上限のC量に応じて、実施可能な最低のテンパー温度において、セメンタイトが十分に析出し、強度上限より定まる固溶C/N量の許容値上限を当該温度にて達成可能となるように決定される。Crの添加量をそれ以下とすると、実際のC量が工程能力上限となった場合には、最低テンパー温度においても固溶C/N量を十分に低減することができず、強度が上限を超過する。逆に、Crの添加量をそれ以上とすると、テンパー温度の裕度は増大するが、過剰なCrによりHAZ靭性が低下する。
【0030】
次に、本発明が、請求項の通りに鋼組成を限定した理由について説明する。
【0031】
Cは、靭性を劣化させ、強度上昇させるパーライトなどの硬質第二相の生成に大きな影響を及ぼすもので、本発明鋼においては低いほど好ましい。しかし、脱炭のための製鋼コストを考慮し、下限を0.005%とした。一方、その上限については、後述するように実質的なC量低減のためのTi、Nb、V、Taの適正添加により、かなりの量まで許容できるが、Ti、Nb、V、Taの必要添加量が多くなり、コスト的にも、また溶接部の靭性の観点からも好ましくないため、上限を0.04%未満に限定した。
【0032】
Siは脱酸上鋼に含まれる元素であるが、多く添加すると溶接性、HAZ靭性が劣化するため、上限を0.5%に限定した。鋼の脱酸はTi、Alのみでも十分可能であり、HAZ靭性、焼入性などの観点から低いほど好ましく、必ずしも添加する必要はない。
【0033】
Mnは固溶強度元素として母材の強度を上昇させるため、必要とする強度レベルに応じて、任意に添加できる。しかし、Mn量が多すぎると焼入性が上昇して溶接性、HAZ靭性を劣化させるだけでなく、連続鋳造スラブの中心偏析を助長するので上限を1.0%とした。
【0034】
Pは本発明鋼においては不純物であり、P量の低減はHAZにおける粒界破壊を減少させる傾向があるため、少ないほど好ましい。含有量が多いと母材、溶接部の低温靭性を劣化させるため上限を0.02%とした。
【0035】
SはPと同様本発明鋼においては不純物であり、母材の低温靭性の観点からは少ないほど好ましい。含有量が多いと母材、溶接部の低温靭性を劣化させるため上限を0.01%とした。
【0036】
Alは、一般に脱酸上鋼に含まれる元素であるが、脱酸はSiまたはTiだけでも十分であり、本発明鋼においては、その下限は限定しない。しかし、Al量が多くなると鋼の清浄度が悪くなるだけでなく、溶接金属の靭性が劣化するので上限を0.06%とした。
【0037】
Tiは、C及びNを固定し、実効的なC量を低減させる上で本発明においては不可欠な元素である。C及びNの固定は、Nb、V、Taでも可能であるが、Tiに比べてコストが高く、またTiC及びTiNは比較的高温にて析出するため、C及びN固定の効率が良く、母材特性も損なわないので、前記の元素中で最良の元素と考えられることから、0.01%以上の添加を必須とした。上限については、C固定の観点からC量に応じた必要量が算出されるが、Tiの絶対量が増えると、HAZ靭性を損なうため、上限を0.2%とした。C及びN固定に対して化学量論的に不足する分は、後述するNb、V、Ta及びCrにて補うこととした。
【0038】
Nb、V、TaはいずれもC及びNを固定し、Tiの補完的な意味を持つ。C固定の観点から化学量論的に等価なTi量=Ti当量(Ti(eq.))として、
Ti(eq.)=Ti+Nb/1.94+V/1.06+Ta/3.77
と表すことができる。
【0039】
したがって、実際のNb、V、Taの添加量は、後述するC、N、Ti当量間の関係から自ずと限定される。添加する場合には、その効果を発現させるため、おのおの0.03%、0.01%、0.005%の添加が必要である。Nb、V、Taは三者とも添加する必要はなく、単独添加でも良いが、おのおのの上限はコストやHAZ靭性の観点から、0.3%、0.05%、0.1%に限定しており、2種以上の複合添加は、おのおのの絶対量を低減できるため好ましい。
【0040】
Crは、実際のC及びNのばらつきに応じて、付加的に実施するテンパー処理において、C及びNを固定し、最終的に鋼材のフェライト相中の固溶C/N量を制御する上で本発明において不可欠な元素である。Crはフェライト相中にて置換型の固溶強化元素として作用するが、同様の置換型固溶強化元素であるMnと比較すると単位重量あたりの固溶強化能力が小さく、1.0%程度まで添加しても固溶強化代は高々20MPa程度である。Crの添加量は、狙いとするC量に対して製鋼工程能力上予想される上限のC量に応じて、実施可能な最低のテンパー温度において、セメンタイトが十分に析出し、強度上限より定まる固溶C/N量の許容値上限を当該温度にて達成可能となるように決定される。Crの添加量をそれ以下とすると、実際のC量が工程能力上限となった場合には、最低テンパー温度においても固溶C/N量を十分に低減することができず、強度が上限を超過する。したがって、Cr添加量の下限を0.05%とした。逆に、Crの添加量をそれ以上とすると、テンパー温度の裕度は増大するが、過剰なCrによりHAZ靭性が低下することから、添加量の上限を1.0%とした。
【0041】
Nは不可避的不純物として鋼中に含まれるものであるが、Cを固定するためのTi、Nb、V、Taを窒化物として消費してしまうため、上限を0.006%に限定した。
【0042】
鋼の個々の成分を上記の通り限定した上で、C、N、Ti当量間の関係を
−0.01%≦C−[Ti(eq.)−3.4N]/4≦0.01%
となるように限定する。C−[Ti(eq.)−3.4N]/4はTi、Nb、V、TaがC、Nを固定した後、化学量論的に残存するC量を表し、パーライトなどの硬質組織生成やフェライト中に固溶残存するC量に関わる実効的なC量である。硬質組織は強度を増加させるばかりでなく、脆性破壊発生の起点となり靭性を劣化させ、また、固溶C量は降伏点の歪み速度依存性(歪み速度が大きいほど、降伏点が上昇)を増大させるため、実効C量は0.01%以下とする必要がある。実効C量が負ということはTi当量が過剰であることを意味し、Ti、Nb、V、Taのコストや過剰添加による粗大析出物による靭性劣化、さらには固溶C、Nの完全固定による上下降伏点の消失の点から−0.01%以上とした。実効C量を上記範囲に限定することで、ミクロ組織は必然的にフェライト単相となり、また、上下降伏点が消失しない範囲で固溶C良が低減されるため、降伏点の歪み速度依存性、すなわち、歪み速度10-4/秒での引張時の下降伏点に対する100/秒での引張時の下降伏点との比が1.5以下とすることができる。
【0043】
Cu、Ni、Moは、特に粗粒フェライトの場合に、目的とする(下)降伏点レベルに応じて、固溶強化元素としてそれぞれ任意に添加することができる。不可避的混入ではなく、意図的に添加し、強度レベルに寄与するためそれぞれ添加量の下限は0.05%とした。ただし、多量に添加すると、溶接熱影響部の靭性を劣化させるため、上限はいずれも0.3%に限定した。
【0044】
実効C量を上記範囲に限定し、硬質組織生成を抑制することで靭性は著しく改善されるが、さらに、Ca、REMの1種または2種を添加することでMnSの形態を制御し、靭性をより改善することが可能となる。MnSの形態制御の効果を発揮するためには、おのおの最低0.0005%の添加が必要である。しかし、過剰な添加はCa(REM)−O−S系の粗大介在物を形成し、靭性に悪影響を及ぼすため、おのおの上限を0.004%とした。
【0045】
Mgは、溶接熱影響部においてオーステナイト粒の成長を抑制し、細粒化する作用があり、溶接部の強靭化が図れる。このような効果を享受するためには、Mgは0.0001%以上必要である。一方、添加量が増えると添加量に対する効果代が小さくなるため、コスト上得策ではないので上限は0.006%としたが、好ましくは0.0002〜0.005%である。
【0046】
鋼の個々の成分を限定しても、成分系全体が適切でないと優れた特性は得られない。このため、PCMの値を0.18%以下の範囲に限定する。PCMは溶接性を表す指標で、低いほど溶接性は良好である。本発明鋼においては、PCMが0.18%以下の範囲であれば優れた溶接性の確保が可能である。なお、溶接割れ感受性組成PCMは以下の式により定義する。
CM=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+Mo/15+V/10+5B
また、上記式中において鋼成分中に含有されていない元素は0とする。
【0047】
さらに、上記フェライト単相組織で、低降伏点と降伏比50%以上を達成するためには、フェライト粒径を適正範囲に制御する必要がある。降伏強度は、フェライト粒径との相関が高く、粗粒ほど強度が低くなる。しかし、粗粒になると降伏点伸びが小さくなり、ついには上下降伏点が消失してしまう。このため、フェライト粒径は、任意の断面での平均切片長さで15〜60μmにした。上下限は、上下降伏点を有し、かつ低降伏点を維持できる範囲である。この上下降伏点は、高降伏比化のため、必ず出現するよう制御しなければならない。上下降伏点が消失し、引張試験における荷重−伸び曲線がラウンドになると、降伏強度として一般に0.2%耐力がとられ、見かけの降伏強度が低くなって降伏比が低くなるためである。降伏比が高いということは、制震デバイス用鋼として地震エネルギー吸収後の加工硬化による降伏点の上昇が小さいことを意味し、当該用途鋼にとっては非常に好ましいものである。上下降伏点が出現することで降伏比は必然的に高くなり、下降伏点と引張強さとの比で50%以上にするが、歪み(加工)硬化の観点からは、高いほど望ましく、60%以上が好ましい。
【0048】
鋼成分を上記の通り限定した上で、低降伏点化を達成し、降伏点の歪み速度依存性に関わる固溶Cを低減するためには、製造方法も限定する必要がある。
【0049】
基本的には、本発明の通り成分を限定した鋼(鋼片あるいは鋳片)を熱間圧延しその後放冷する。このとき、加熱は必ずしも必要ではなく、圧延温度が確保されれば、鋳造後直接圧延を行っても良いが、1100〜1250℃の温度に再加熱することで容易に圧延温度が確保できる。上限を1250℃とする理由は、それ以上の高温再加熱は必要以上に組織が粗大となることや、圧延温度確保の上では十分なため省エネルギーを考慮したものである。また、特にTiが添加された場合には、最終的なTiの析出形態が変化し、靭性を劣化させる場合があるため、再加熱時の上限温度を1250℃以下に限定した。
【0050】
熱間圧延は1100℃以下での累積圧下量を30%以上として、750℃以上の温度で行う必要がある。これは、Ti当量とC、N量との間の関係式:C−[Ti(eq)−3.4N]/4が本発明の範囲に制御された鋼では変態点(Ar3)が比較的高く、圧延温度が750℃を下回ると表層近傍ではα/γ二相域圧延となって加工フェライトが生ずる場合があるためである。加工フェライト、すなわち二相域圧延では、靭性の劣化や各種性質の異方性などの問題が生ずる場合があり、可能な限り避けるべきである。
【0051】
圧延後は700℃から400℃までの冷却速度を2Ks −1 以下とすることで、フェライトから固溶Cが十分に吐き出され、すなわち固溶C量が低減し、降伏点の歪み速度依存性が小さくなるが、得ようとする強度レベルへの調整を目的として、必要に応じて、圧延後、Ac1以下の温度での焼き戻しやAc3以上の温度での焼きならしを行う。
【0052】
とくに、フェライト相中の固溶C/Nが過剰で強度が所要上限を超過している場合には、Ac1以下450℃〜600℃の温度域において焼き戻し(テンパー)処理を行い、セメンタイト析出促進を図って、固溶C/N量を低減させる。Crは、600℃以下の温度域にて極めて大きなセメンタイト生成駆動力を示し、かつ、セメンタイト生成駆動力の温度依存性は大きい。したがって、実績の添加C及びN量から、鋼材のミクロ組織(フェライト)中の固溶C/N量を予測し、固溶C/Nが過剰であり、強度が所要上限を超過すると予想される場合には、450℃〜600℃の温度範囲にて、固溶C/Nが適正となるように温度を決定し、焼き戻し(テンパー)処理を行う。
【0053】
焼き戻し処理によっても強度が過剰である場合には、さらにAc3以上の温度での焼きならしを行い、フェライト粒径を靭性及びHAZ靭性から決定される許容範囲内にて粗大化し、その後、再度450℃〜600℃の温度範囲にて焼き戻し処理を行う。
【0054】
【実施例】
転炉−連続鋳造−厚板工程で種々の鋼成分の鋼板(厚さ6〜50mm)を製造し、その組織、機械的性質を調査した。
【0055】
表1に比較鋼とともに本発明鋼の鋼成分を、また表2に鋼板のミクロ組織と諸特性、およびその時の製造プロセスを示す。
【0056】
本発明に則った鋼板(本発明鋼)は、いずれも良好な特性を有する。
【0057】
これに対し、本発明によらない比較鋼は、いずれかの特性が劣る。すなわち、鋼成分の点から、比較鋼はいずれもC、Ti当量(Ti(eq.))、N量間の関係が適正でなく、C−[Ti(eq.)−3.4N]/4の値が本発明が規定する範囲を逸脱しているため、総じて靭性に劣る。
【0058】
個々に説明すると、比較鋼9は、C量が高く、C固定のための炭化物形成元素(Ti、Nb、V、Ta)の総量が不足しているため、C固定が不十分となってフェライト単独組織が得られず母材の靭性が劣る。また、C量が多いことやフェライト粒径が小さいために下降伏点が高い。さらに、Ti量が本発明の上限規定を超えているため、溶接部靭性に劣ると予想される。
【0059】
比較鋼10は、炭化物形成元素(Ti、Nb、V、Ta)が添加されておらず、C量の絶対値が低いためにフェライト単独組織ではあるが、C固定が不十分で固溶Cが多く残存すると推定され、下降伏点の歪み速度依存性が大きく、靭性にも劣る。比較鋼11は、N量が高いためにC固定のための炭化物形成元素を消費し、C固定が不十分となってフェライト単独組織が得られず、下降伏点がやや高く、靭性にも劣る。比較鋼12は、炭化物形成元素が過剰なため、靭性に劣るばかりでなく、降伏点が消失するため降伏比が低い。また、高歪み速度では、降伏点が出現し、見かけの歪み速度依存性も大きい。さらに、Ti量が本発明の上限規定を超えているため、比較鋼9同様、溶接部靭性に劣ると予想される。比較鋼13は、C固定のためのTiが添加されていないため、C固定が不十分となってフェライト単独組織が得られず、下降伏点かやや高く、靭性にも劣る。
【0060】
【表1】
Figure 0004331971
【0061】
【表2】
Figure 0004331971
【0062】
【発明の効果】
本発明により、建築物の地震時のエネルギー吸収デバイス用として靭性に優れた低降伏点鋼が安価に供給可能となり、地震時の建物の安全性をより一層高めることが可能となった。

Claims (4)

  1. 鋼成分が質量%で、
    C:0.005%以上0.04%未満、
    Si:0.5%以下、
    Mn:1.0%以下、
    P:0.02%以下、
    S:0.01%以下、
    Ti:0.01〜0.1%、
    Cr:0.05〜1.0%、
    Al:0.06%以下、
    N:0.006%以下、
    かつ、
    CM=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+
    Mo/15+V/10
    と定義される溶接割れ感受性組成PCMが0.18%以下で、残部が鉄及び不可避的不純物からなる成分の鋼片または鋳片を1100〜1250℃の温度範囲に再加熱後、1100℃以下での累積圧下量を30%以上として、750℃以上の温度で圧延し、圧延終了後700℃から400℃までの冷却速度を2Ks -1 以下とすることを特徴とする溶接部靭性及び材質安定性に優れた225MPa級及び235MPa級低降伏点鋼の製造方法。
  2. 鋼成分が質量%で、
    C:0.005%以上0.04%未満、
    Si:0.5%以下、
    Mn:1.0%以下、
    P:0.02%以下、
    S:0.01%以下、
    Ti:0.01〜0.20%、
    Cr:0.05〜1.0%、
    Al:0.06%以下、
    N:0.006%以下、
    かつ、
    Nb:0.03〜0.3%、
    V:0.01〜0.05%
    Ta:0.005〜0.1%
    の範囲で1種以上を含有し、かつ、
    CM=C+Si/30+Mn/20+Cu/20+Ni/60+Cr/20+
    Mo/15+V/10
    と定義される溶接割れ感受性組成PCMが0.18%以下で、残部が鉄及び不可避的不純物からなる成分の鋼片または鋳片を1100〜1250℃の温度範囲に再加熱後、1100℃以下での累積圧下量を30%以上として、750℃以上の温度で圧延し、圧延終了後700℃から400℃までの冷却速度を2Ks -1 以下とすることを特徴とする溶接部靭性及び材質安定性に優れた225MPa級及び235MPa級低降伏点鋼の製造方法。
  3. 鋼成分が、質量%でさらに、
    Mo:0.05〜0.3%、
    Ni:0.05〜0.3%、
    Cu:0.05〜0.3%、
    の範囲で1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載の溶接部靭性及び材質安定性に優れた225MPa級及び235MPa級低降伏点鋼の製造方法
  4. 鋼成分が、質量%でさらに、
    Ca:0.0005〜0.004%、
    REM:0.0005〜0.004%
    Mg:0.0001〜0.006%
    のいずれか1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の溶接部靭性及び材質安定性に優れた225MPa級及び235MPa級低降伏点鋼の製造方法
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