JP5499793B2 - 高温強度及び溶接熱影響部の低温靭性及び耐再熱脆化性に優れた耐火鋼材とその製造方法 - Google Patents
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Description
その一方、近年、高温でも強度が低下しにくい特性、いわゆる「耐火性能」を持たせた鋼材が開発され、環境問題や美観等の問題から耐火被覆を使用せずに鋼構造物を構成する例が登場している。
この耐火性能を備える鋼材についても従来より盛んに研究開発が行われ、特許文献1〜17に示す様な発明が開示されている。
中でも特にMoを積極的に利用した成分系の発明が多く開示されており、特許文献1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、13、14及び15ではMo添加を前提とする成分系が規定されている。
これらは、火災発生時の加熱によりMoの析出を促し、析出強化による高温強度上昇を狙ったものであり、鋼材の耐火性能を確保する目的において多くの研究者により採用されてきた手法である。
即ち、鋼構造物が火災に曝された時、母材及び溶接継手が高温強度は充分に備えているが、溶接継手の溶接熱影響部(以下、HAZと記載)に変形能が殆ど無い為、鋼構造物の変形を溶接継手が負担する様な設計とした場合、HAZが変形に追随できずに破断する例がある事が本発明者らの研究の結果明らかとなった。
このHAZが高温に曝された時の変形能の小ささ(以下、HAZの再熱脆化と記載)は、HAZに特有のベイナイト組織における旧γ粒界に沿った粒界破壊が原因である事が、本発明者らの研究の結果明らかとなった。
耐火鋼のHAZにおいても、高温強度上昇の為に添加したMoやBがMo炭化物やB窒化物として析出する事が原因となる事を本発明者らは実験により確認した。
特許文献1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、13、14及び15では、高温に曝された時のMo炭化物の析出を高温強度上昇の手段として利用する為、Mo添加を前提とする成分系を規定しているが、本発明者らは実験により、該成分系ではいずれもHAZのベイナイト組織の旧γ粒界にMoの炭化物もしくはLaves相が多量に析出し、HAZの再熱脆化が著しくなる事を確認している。
しかし、一般に加速冷却を用いずに熱間圧延ままで鋼材を製造する場合は、加速冷却を用いる場合に比べてベイナイト組織や細粒のフェライト組織が得られにくく、高温強度を稼ぐ上で不利となる。但し、熱間圧延ままで高温強度を確保する為に各種合金元素を無差別に添加すると、合金元素の粒界析出等によりHAZ部の再熱脆化が顕在化する傾向がある。
その為、溶接入熱が高い場合でも充分な耐震性を獲得する為に、溶接部の靱性は充分に高く取る必要がある。本発明はこうした課題にも同時に対応し、5kJ/mm以上の入熱が加わった場合の溶接HAZの靱性も獲得すべく、合金元素添加量を最適化する必要がある。
更に、建築等の用途に使う鋼材として充分な母材靭性を確保する事も重要である為、本発明では母材靭性の獲得も必要である。
より具体的には、本発明は、建築等の鋼構造物に用いられる耐火鋼材に関し、火災に曝された場合に600℃において高い降伏強度を有し、同時に該鋼材の溶接熱影響部において火災時の再熱脆化が抑制されており、更に母材及び溶接継手の靭性に優れる耐火鋼材及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、熱間圧延後、室温まで放冷するに続いて、400℃以上、650℃以下の温度で焼戻す事により、高温強度を下げる事無く室温引張り強さのみを下げて、母材の靱性を向上させる事も可能である。
(1) 化学組成が質量%で、
C:0.005%以上、0.050%以下、
Si:0.01%以上、0.50%以下、
Mn:0.50%以上、2.00%以下、
Cr:0.50%以上、2.00%以下、
N:0.001%以上、0.006%以下、
Ti:0.001%以上、0.030%以下、
Al:0.005%以上、0.10%以下、
V:0.11%以上、0.40%以下
を含有し、さらに、
Mo:0.01%未満、
B:0.0003%未満、
P:0.02%未満、
S:0.01%未満、
O:0.01%未満
に制限した、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼材であって、室温引張り強さが400〜610MPaであり、室温引張り強さが400〜489MPaの場合は600℃における降伏応力が157MPa以上であり、室温引張り強さが490〜610MPaの場合は600℃における降伏応力が217MPa以上であり、本鋼材の溶接熱影響部の600℃破断絞り値が20%以上であることを特徴とする、高温強度及び溶接熱影響部の低温靭性及び耐再熱脆化性に優れた耐火鋼材。
Nb:0.001%以上、0.050%未満、
Ni:0.01%以上、1.00%以下、
Cu:0.01%以上、0.50%以下、
W:0.01%以上、0.50%以下、
の内の1種または2種以上を含有する事を特徴とする、(1)に記載の高温強度及び溶接熱影響部の低温靭性及び耐再熱脆化性に優れた耐火鋼材。
Zr:0.002%以上、0.010%以下、
Mg:0.0005%以上、0.005%以下、
Ca:0.0005%以上、0.005%以下、
Y:0.001%以上、0.050%以下、
La:0.001%以上、0.050%以下、
Ce:0.001%以上、0.050%以下、
の内の1種または2種以上を含有する事を特徴とする、(1)または(2)に記載の高温強度及び溶接熱影響部の低温靭性及び耐再熱脆化性に優れた耐火鋼材。
本発明では、室温引張り強度が400〜610MPaとなり、600℃における降伏強度が高く、耐再熱脆化性に優れ、入熱5kJ/mmの溶接によるHAZでも靱性を確保し、母材靭性を確保する為の必要条件となる成分系を提案しており、該鋼片を温度および圧下量を規定した熱間圧延する事により、これらの特性を全て満たす鋼材を製造する事が可能となる。
なお、本発明に記載した必要な高温強度とは、引張強度400〜489MPaの鋼では157MPa以上を、引張強さ490〜610MPaの鋼では217MPa以上を、それぞれ意味する。
尚、表2の強度水準の欄に、室温引張り強さが400〜489MPaのものを400MPa級、室温引張り強さが490〜610MPaのものを500MPa級と表示してある。
高温引張試験はJISG0567に基づき600℃にて実施し、測定された0.2%耐力を600℃降伏強度とした。
HAZのシャルピー試験は、各鋼材に対して入熱10kJ/mmの溶接を想定した熱サイクルを付与した上でJISZ2202に準拠の2mmVノッチ衝撃試験片を採取し、JISZ2242に準拠の衝撃試験方法により行った。吸収エネルギーの閾値は建築構造物の耐震性を考慮して27Jとした。
Claims (5)
- 化学組成が質量%で、
C:0.005%以上、0.050%以下、
Si:0.01%以上、0.50%以下、
Mn:0.50%以上、2.00%以下、
Cr:0.50%以上、2.00%以下、
N:0.001%以上、0.006%以下、
Ti:0.001%以上、0.030%以下、
Al:0.005%以上、0.10%以下、
V:0.11%以上、0.40%以下
を含有し、さらに、
Mo:0.01%未満、
B:0.0003%未満、
P:0.02%未満、
S:0.01%未満、
O:0.01%未満
に制限した、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼材であって、室温引張り強さが400〜610MPaであり、室温引張り強さが400〜489MPaの場合は600℃における降伏応力が157MPa以上であり、室温引張り強さが490〜610MPaの場合は600℃における降伏応力が217MPa以上であり、本鋼材の溶接熱影響部の600℃破断絞り値が20%以上である事を特徴とする、高温強度及び溶接熱影響部の低温靭性及び耐再熱脆化性に優れた耐火鋼材。 - 請求項1に加えて、質量%で、
Nb:0.001%以上、0.050%未満、
Ni:0.01%以上、1.00%以下、
Cu:0.01%以上、0.50%以下、
W:0.01%以上、0.50%以下、
の内の1種または2種以上を含有する事を特徴とする、請求項1に記載の高温強度及び溶接熱影響部の低温靭性及び耐再熱脆化性に優れた耐火鋼材。 - 更に質量%で、
Zr:0.002%以上、0.010%以下、
Mg:0.0005%以上、0.005%以下、
Ca:0.0005%以上、0.005%以下、
Y:0.001%以上、0.050%以下、
La:0.001%以上、0.050%以下、
Ce:0.001%以上、0.050%以下、
の内の1種または2種以上を含有する事を特徴とする、請求項1または2に記載の高温強度及び溶接熱影響部の低温靭性及び耐再熱脆化性に優れた耐火鋼材。 - 請求項1、2または3の何れか一項に記載の鋼成分を有する鋼片を、1000℃以上、1300℃以下に加熱した後、熱間加工または熱間圧延を施すにあたり、1000℃以下、800℃以上における圧下比を50%以上とし、その後放冷する事を特徴とする、高温強度及び溶接熱影響部の低温靭性及び耐再熱脆化性に優れた耐火鋼材の製造方法。
- 請求項4に記載の製造方法を適用した後、鋼材を400℃以上650℃未満の温度範囲で5分以上、360分以内の焼戻し熱処理を行う事を特徴とする、高温強度及び溶接熱影響部の低温靭性及び耐再熱脆化性に優れた耐火鋼材の製造方法。
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