JP4699787B2 - 耐磨耗性と剛性とに優れた耐熱性Al基合金 - Google Patents

耐磨耗性と剛性とに優れた耐熱性Al基合金 Download PDF

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本発明は、耐磨耗性と剛性とに優れたAl基合金であって、自動車や航空機などのエンジン部品(ピストン、コンロッド)などの用途の内、200〜300℃程度までの耐熱強度(高温強度とも言う)と軽量性を要求される機械部品に用いて好適な、耐熱性Al基合金に関するものである。
従来の溶解鋳造合金では、Al−Cu系合金(2618などの2000系Al合金)を始め、種々の耐熱合金が開発されているが、使用温度が150℃を超える高温下では、十分な耐熱強度を得ることができなかった。Al−Cu系合金では時効硬化による微細析出物で強度を確保しているため、使用温度が150℃を超えると、この析出物相が粗大化し、著しく強度が低下するからである。
そこで、従来から、急冷凝固法を適用したAl基合金が開発されてきた。急冷凝固法の一つである急冷粉末冶金法によれば、Fe、Cr、Mn、Ni、Ti、Zrなどの合金元素の添加量を、前記溶解鋳造Al合金よりも増すことができる。したがって、これら合金元素を多量に添加したAl合金を急冷凝固によって粉末化し、これを固化成型することで、使用温度が150℃を超える高温下でも、耐熱強度に優れたAl基合金を得ることができる(特許文献1、2参照)。これは、前記合金元素によって、高温でも安定なAlとの金属間化合物を組織中に分散させて、耐熱強度を高くしている。
更に、前記金属間化合物の微細化により、金属間化合物の分率を増加させ、高強度化を図る技術も提案されている(特許文献3参照)。
また、急冷凝固法の一つであるスプレイフォーミング法による、Fe、V、Mo、Zr、Tiなどの合金元素を添加し、これら合金元素とAlとの金属間化合物を微細化させた、軽量化耐熱Al基合金も開発されており、過剰のSiを添加し、初晶のSiを微細化させて、耐磨耗性を兼備させた高強度Al基合金も開発されている(特許文献4参照)。
更に、上記以外の種々の合金元素を添加して非晶質化させた耐熱Al基合金(特許文献5参照)や、2種以上の遷移元素を添加した過飽和固溶体からなるマトリックス中に準結晶を均一分散させた耐熱Al基合金(特許文献6参照)や、Al−Fe系急冷凝固Al基合金を熱間押出加工し、更に熱間鍛造加工した羽根車なども提案されている(特許文献7参照)。
特許2911708号公報(全文) 特公平7−62189号公報(全文) 特開平5−195130号公報(全文) 特開平9−125180号公報(全文) 特公平6−21326号公報(全文) 特許第3142659号公報(全文) 特開平10−26002号公報(全文)
前記特許文献1〜7などの急冷粉末冶金法によれば、合金元素の添加量を増せば、Al基合金の耐熱強度を高くできる(約300℃で300MPaレベル)。しかし、合金元素の添加量を増加し過ぎると、金属間化合物サイズの粗大化を招くため、耐摩耗性が必要な構造材においては、この粗大な化合物から、チッピングを起こし、耐摩耗性を低下させる。
また、これらAl基合金は、金属Alマトリックスと金属間化合物相とで構成され、軟らかい金属Alマトリックス中に、硬い金属間化合物相が分散した、分散強化型組織となっている。
このような分散強化型組織においては、金属Alマトリックスの強度が比較的低いために、耐熱強度と軽量性を要求される機械部品に使用された場合、硬い金属間化合物相を表面に保持できず、耐摩耗性や剛性が低下するという問題もある。
本発明は、かかる問題に鑑みなされたもので、耐磨耗性と剛性とに優れた耐熱性Al基合金を提供することを目的とする。
この目的を達成するために、本発明の耐磨耗性と剛性とに優れた耐熱性Al基合金の要旨は、質量%にて、Mn:5〜10%、V:0.5〜5%、Cr:0.5〜5%、Fe:0.5〜5%、Si:1〜8%、Ni:0.5〜5%、を各々含み、かつ、これら6種の元素の総和が15〜30%であり、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl基合金であって、このAl基合金組織が体積分率で35〜80%の金属間化合物相と残部が金属Alマトリックスとで構成され、前記金属間化合物相組織中に、Al−Mn系の金属間化合物相を有し、このAl−Mn系の金属間化合物相に、V、Cr、Fe、Si、Niの1種以上が固溶しており、これら固溶した元素の総和が10質量%以上であることとする。
上記Al基合金の200〜300℃付近における伸び特性や加工性を更に向上させるためには、好ましくは、Al基合金組織中に存在する金属間化合物の平均サイズを5μm以下に微細化させる。このように上記金属間化合物の平均サイズを微細化した場合、Al基合金の靱性も向上する。
なお、本発明では、個々の金属間化合物粒子を金属間化合物と称し、これら個々の金属間化合物粒子が複数個互いに隣接した集合体(連続体)を金属間化合物相と言う。
本発明に係るAl基合金は、金属Alマトリックスと上記多量の金属間化合物相とで構成され、軟らかい金属Alマトリックス中に、硬い金属間化合物相が分散した、分散強化型組織となっている。このような分散強化型組織においては、前記した通り、金属Alマトリックスの強度が比較的低いために、耐熱強度と軽量性を要求される機械部品に使用された場合、硬い金属間化合物相を表面に保持できず、耐摩耗性や剛性が低下するという問題がある。
更に、本発明のように、合金元素の添加量が多くなり、金属間化合物相が多くなると、Al基合金の耐摩耗性は、Alマトリックスの強度がより律速するようになる。即ち、前記耐熱機械部品に使用された場合に、硬い金属間化合物相を表面に保持できるだけのAlマトリックスの強度がより必要となる課題もある。
これに対して、本発明者らは、Mnを必須に含むAl基合金では、V、Cr、Fe、Cu、Mg、Si、Ni、Ndなどの、他の合金添加元素を更に含有した場合に、Al基合金の製造条件によっては、その金属組織中に存在するAl−Mn系金属間化合物相に、これら他の合金添加元素が1種以上固溶する場合があることを知見した。
そして、Al−Mn系金属間化合物相に、金属間化合物を構成するMn以外の前記他の合金添加元素が1種以上、更に固溶した場合、金属間化合物相に前記元素が更に固溶しない場合に比して、耐熱性、耐摩耗性とが著しく向上することを見出した。
また、本発明者らは、このような合金系のAl基合金では、Al基合金の製造条件によっては、その金属Alマトリックス(母相)中にも、V、Cr、Fe、Cu、Mg、Si、Ni、Ndなどの合金添加元素が1種以上固溶する場合があることを知見した。
そして、金属Alマトリックス(母相)中に、V、Cr、Fe、Cu、Mg、Si、Ni、Ndなどの合金添加元素が1種以上固溶した場合も、これら合金元素が固溶しない場合に比して、耐熱性、耐摩耗性とが向上することも見出した。
また、Al−Mn系金属間化合物を主相とすることにより、Al基合金の剛性である、常温ヤング率や高温ヤング率も、ともに兼備した材料となることも知見した。なお、本発明で言う、Al−Mn系金属間化合物とは、後述する分析方法によって、Mnを含む金属間化合物の構成元素(分析元素)の内、Alを除いて、Mnの含有量が最も高い値を示す金属間化合物を指す。
(Al基合金組成)
本発明のAl基合金の化学成分組成(単位:質量%)について、各元素の限定理由を含めて、以下に説明する。
本発明Al基合金の基本的な化学成分組成は、質量%にて、Mn:5〜10%、V:0.5〜5%、Cr:0.5〜5%、Fe:0.5〜5%、Si:1〜8%、Ni:0.5〜5%、を各々含み、かつ、これら6種の元素の総和が15〜30%であり、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものとする。Mnに加えて、V、Cr、Fe、Si、Niの、特定の複数元素の組み合わせによる同時含有は、耐熱性、剛性とともに、耐摩耗性を向上させる効果がある。
本発明Al基合金では、これらの基本的な化学成分組成に加えて、更に、Cu:0.5〜5%、Mg:0.5〜3%の1種または2種、および/または、更にNd:0.2〜2%、を選択的に含んで良い。
(Mn)
Mnは、Al−Mn−Si系などのAl−Mn系の金属間化合物を形成し、本発明のAl基合金中に存在する金属間化合物のうち、最も多く存在し、耐熱強度(耐熱性)を向上させる。更に、Al−Mn系金属間化合物を主相とすることにより、Al基合金の剛性である、常温ヤング率や高温ヤング率も、ともに兼備できるようになる。そして、このAl−Mn系金属間化合物相に、Mn以外の前記合金添加元素のいずれかが更に固溶することによって、Al基合金の耐熱性と耐磨耗性とを向上させる。
これらの効果を発揮させるため、Mn含有量の範囲は5〜10%とする。5%の下限未満では、十分なAl−Mn系の金属間化合物量(数)が得られず、上記耐熱強度、耐磨耗性、剛性などの特性を向上できない。一方、10%の上限を超えると、粗大な化合物を形成して、却って、これらの特性を阻害する。Mn含有量の範囲はより好ましくは5.5〜9%である。
(V)
Vは、Al−V系の金属間化合物を形成し、耐熱強度(耐熱性)を向上させる。V含有量の範囲は0.5〜5%とする。0.5%の下限未満では、十分なAl−V系の金属間化合物量(数)が得られず、耐熱強度が高くならない。一方、5%の上限を超えると、粗大な化合物を形成して、却って耐熱強度が低下する。V含有量の範囲はより好ましくは0.6〜4%である。
(Cr)
Crは、Al−Mg−Cr系、Al−Cr−Cu−Fe系の金属間化合物を形成し、耐熱強度(耐熱性)を向上させる。Cr含有量の範囲は0.5〜5%とする。0.5%の下限未満では、十分なAl−Mg−Cr系、Al−Cr−Cu−Fe系の金属間化合物量(数)が得られず、耐熱強度が高くならない。一方、5%の上限を超えると、粗大な化合物を形成して、却って耐熱強度が低下する。Cr含有量の範囲はより好ましくは0.6〜4.5%である。
(Fe)
Feは、Al−Cr−Cu−Fe系の金属間化合物を形成し、耐熱強度(耐熱性)を向上させる。Fe含有量の範囲は0.5〜5%とする。0.5%の下限未満では、十分なAl−Cr−Cu−Fe系の金属間化合物量(数)が得られず、耐熱強度が高くならない。一方、5%の上限を超えると、粗大な化合物を形成して、却って耐熱強度が低下する。Fe含有量の範囲はより好ましくは0.6〜4.5%である。
(Ni)
Niは、金属Alマトリックスに固溶して、耐熱強度(耐熱性)を向上させる。Ni含有量の範囲は0.5〜5%とする。0.5%の下限未満では、耐熱強度が高くならない。一方、5%の上限を超えると、却って耐熱強度が低下する。Ni含有量の範囲はより好ましくは0.6〜4.5%である。
(Si)
SiはAl−Mn−Si系の金属間化合物を形成し、耐熱強度(耐熱性)を向上させる。Si含有量の範囲は1〜8%とする。1%の下限未満では、十分なAl−Mn−Si系の金属間化合物量(数)が得られず、耐熱強度が高くならない。一方、8%の上限を超えると、粗大な化合物を形成して、却って耐熱強度が低下する。Si含有量の範囲はより好ましくは1.5〜7%である。
(6種の元素の総和)
本発明では、AL−Mn系金属間化合物相やAl母相中への合金元素の固溶量を確保し、耐熱性、剛性、耐摩耗性向上を確実なものとするために、更に、これらMn、V、Cr、Fe、Si、Niの6種の合金元素の総和でも規定する。即ち、これら6種の元素の総和(これら6種の元素の合計含有量)は15〜30%、より好ましくは16〜29%と規定する。
金属Alマトリックスと金属間化合物相とで構成されている本発明Al基合金において、金属Alマトリックスは軟らかく、金属間化合物相は硬い。したがって、本発明Al基合金では、このような、軟らかい金属Alマトリックス中に、硬い金属間化合物相が分散した組織となっている。そして、この硬い金属間化合物相が、Al基合金に、耐熱性と耐磨耗性、剛性、また、高温疲労強度を持たせる主相となる。一方、軟らかい金属Alマトリックスは、これら硬い金属間化合物相のバインダー、あるいは、これら硬いの土台となって、金属間化合物相の機能を発揮させる役割を担う。
これらの金属間化合物相や金属Alマトリックスの機能は、AL−Mn系金属間化合物相やAl母相中へ、合金元素が固溶することによって、より発揮される。したがって、上記6種の元素の総和が下限15%未満では、AL−Mn系金属間化合物相、およびAl母相中への合金元素の固溶量が各々不足する。このため、Al基合金の耐熱性と耐磨耗性とを効果的に向上させることができない。
一方、上記6種の元素の総和が30%の上限を超えた場合、AL−Mn系金属間化合物相と、この金属間化合物相にMn以外のいずれかの合金元素が固溶した組織が得られたとしても、靭性が低下して、Al基合金の耐熱強度を却って低下させる。
以下、これ以外の選択的な添加元素について説明する。
(Cu、Mgの1種または2種)
Cu、Mgはともに、金属間化合物を形成して耐熱強度(耐熱性)を向上させる。
Cuは、0.5%以上の含有で、Al−Cr−Cu−Fe系の金属間化合物を形成し、耐熱強度(耐熱性)を向上させる。しかし、5%を超えると、粗大な化合物を形成して、却って耐熱強度が低下する。したがって、Cuを選択的に含有させる場合の含有量の範囲は0.5〜5%、より好ましくは0.6〜4.5%の範囲とする。
Mgは、0.5%以上の含有で、Al−Mg−Cr系の金属間化合物を形成し、耐熱強度(耐熱性)を向上させる。しかし、3%を超えると、粗大な化合物を形成して、却って耐熱強度が低下する。したがって、Mgを選択的に含有させる場合の含有量の範囲は0.5〜3%、より好ましくは0.6〜2.5%の範囲とする。
(Nd)
Ndは0.2%以上の含有で、耐熱強度(耐熱性)を向上させる。しかし、2%を超えると、却って耐熱強度や靱性が低下する。したがって、Ndを選択的に含有させる場合の含有量の範囲は0.2〜2%、より好ましくは、0.3〜1.8%の範囲とする。
(金属間化合物相の体積分率)
Al基合金において、Al−Mn系金属間化合物を含め、上記合金添加元素によって形成される金属間化合物相の体積分率が少な過ぎると、これら金属間化合物相が不足する一方で、金属Alの体積分率が大きくなり、Al基合金の耐熱性、耐摩耗性、剛性が低下する。
一方、これら金属間化合物相の体積分率が多過ぎると、粗大な化合物を形成して、却って耐熱性、耐摩耗性、剛性が低下する。また、金属Alの量が少なくなりすぎ、Al基合金の靱性が低下して、脆くなる。このため、耐熱Al基合金として使用できなくなる。
したがって、これら金属間化合物相は、Al基合金組織中に、体積分率で35〜80%、好ましくは40〜75%を占めるように存在させる。なお、本発明で言う金属間化合物とは、実施例で後述する図1(組織を示す図面代用写真)における黒色乃至灰色の粒子であり、これら個々の金属間化合物乃至金属間化合物粒子が複数個互いに隣接した集合体(連続体)を本発明では金属間化合物相と言う。
(金属間化合物の平均サイズ)
本発明では、前記した通り、Al基合金の伸び特性や加工性を向上させるために、好ましくは、上記金属間化合物相は、Al−Mn系金属間化合物を含めて、Al基合金組織中に存在する金属間化合物の平均サイズを5μm以下、より好ましくは4.5μm以下に微細化させる。このように上記金属間化合物の平均サイズを微細化した場合、Al基合金の靱性も向上する。
本発明では、各合金元素の含有量や金属間化合物の量が多くなるほど、耐熱強度は向上する。しかし、一方で、合金元素量や金属間化合物量が少ないAl基合金に比して、金属間化合物の平均サイズの靱性への影響が大きくなる。この点、金属間化合物の平均サイズが5μmを超えて大きくなった場合には、前記各要件を満足しても、Al基合金の諸特性や靱性が低下する可能性がある。
(金属間化合物平均サイズの測定)
金属間化合物(金属間化合物粒子)の平均サイズの測定は、5000〜15000倍のTEM(透過型電子顕微鏡)によりEDXを併用して行なった。即ち、TEMの視野内の観察組織像から、金属間化合物をトレースし、画像解析のソフトウエアとして、MEDIACYBERNETICS社製のImage-ProPlus を用いて、各金属間化合物の重心直径を求め、平均化して求めた。測定対象視野数は10とし、各視野の平均サイズを更に平均化して、金属間化合物の平均サイズとした。
(Al−Mn系金属間化合物相)
本発明では、Al基合金の金属組織中に、Al−Mn系を主相とする金属間化合物相を形成する。本発明Al基合金組織において、Al−Mn系金属間化合物は、例えば、Al6 Mn、Al4 Mn、Al12Mn、Al―(Mn,Fe)、Al―(Mn,Fe)−Si、Al−(Mn,Fe)−V―Siなどの金属間化合物を形成する。本発明では、これらMnを含む金属間化合物、あるいはこれ以外のMnを含む金属間化合物でも、後述する分析方法によって、金属間化合物の構成元素(分析元素)の内、Alを除いて、Mnの含有量が最も高い値を示す金属間化合物をAl−Mn系金属間化合物と規定する。
Al−Mn系金属間化合物を主相とすることにより、Al基合金の剛性である、常温ヤング率や高温ヤング率も、ともに兼備した材料となる。
そして、このAl−Mn系金属間化合物相に、金属間化合物を構成するMn以外の他のV、Cr、Fe、Si、Niの合金添加元素が1種以上、固溶した場合、金属間化合物相に前記元素が更に固溶しない場合に比して、Al−Mn系金属間化合物およびAl基合金の強度、靭性、硬さ(耐熱強度、耐摩耗性)を向上させることができる。
この効果を発揮するためには、Al−Mn系の金属間化合物相における、固溶したV、Cr、Fe、Si、Niの合金添加元素の総和が10質量%以上、好ましくは11質量%以上であることが必要である。合金添加元素の総和が下限10質量%未満では、Al基合金の強度、靭性、硬さ(耐熱強度、耐摩耗性)の向上効果が十分ではない。
(Al−Mn系金属間化合物相への固溶量評価方法)
Al−Mn系金属間化合物相への合金添加元素の固溶量測定は、5000〜15000倍のTEM(透過型電子顕微鏡)および、このTEMに付随の45000倍のEDX(Kevex社製、Sigmaエネルギー分散型X線検出器:energy dispersive X- ray spectrometer)を用いる。即ち、この分析機器によって、前記TEM視野内の、Mnを含む金属間化合物の内、Alを除いて、Mnの含有量が最も高い値を示す金属間化合物をAl−Mn系金属間化合物と特定する。そして、これら特定されたAl−Mn系金属間化合物を例えば各々10点任意に選択し、これらAl−Mn系金属間化合物中の、前記した元素の固溶量の総和を各々測定して、それを平均化する。
(金属Al中への各元素の固溶)
上記したAl−Mn系金属間化合物相への固溶に加えて、金属Alマトリックス中にも、各合金添加元素の総和で0.1〜10質量%固溶することによって、金属Alマトリックスの強度が上昇し、耐熱機械部品に使用された場合でも、金属Alマトリックスが硬い金属間化合物相を表面に保持でき、Al基合金の耐摩耗性を向上させることができる。
各合金添加元素の固溶量の総和が0.1%質量未満では、金属Alマトリックスの強度が、耐熱機械部品に使用された場合に、硬い金属間化合物相を表面に保持できる程度に上昇しない。一方、各合金添加元素の固溶量の総和が10質量%を超えた場合、却って、金属Alマトリックスが脆くなって、靱性が低下し、耐熱機械部品として使用できなくなる。
各合金添加元素の固溶量の総和とは、Al基合金が、Mnの他に、V、Cr、Fe、Si、Niのみを含む場合には、これらの合金添加元素の固溶量の総和となる。また、Al基合金が、更に、Cu、Mgの1種または2種を含む場合には、これらCu、Mgを加えた合金添加元素の総和となる。また、Al基合金が、更に、Ndを含む場合には、これらNdを加えた合金添加元素の総和となる。
(Al母相への固溶量の評価方法)
金属Alマトリックスへの合金添加元素の固溶量測定は、前記Al−Mn系金属間化合物相への合金添加元素の固溶量測定と同じく、5000〜15000倍のTEM(透過型電子顕微鏡)および、このTEMに付随の45000倍のEDX(Kevex社製、Sigmaエネルギー分散型X線検出器:energy
dispersive X- ray spectrometer)を用いる。そして、これらの機器により、前記TEM視野内の金属Alマトリックスを例えば各々10点任意に選択して、前記した元素の固溶量の総和を各々測定し、平均化する。
(製造方法)
以下に、本発明Al基合金の製造方法を説明する。
以上述べた本発明Al基合金組織と特性とは、急冷凝固法により得られたAl合金プリフォーム体を、CIPやHIPにて緻密化処理することによって得られる。更に、前記プリフォーム体を、そのまま、あるいは、CIPやHIP処理後鍛造、押出、圧延などの熱間加工(塑性加工)しても良い。
本発明Al基合金は、合金元素量が多いために、金属間化合物相を多く析出させるために、通常の溶解鋳造方法では制作が困難である。また、急冷凝固法により得られたAl合金プリフォーム体そのまま、あるいは、プリフォーム体をCIPやHIPしたものでは、本発明Al基合金組織と特性とは得られない。
(急冷粉末冶金法)
急冷凝固法の一つである急冷粉末冶金法によって、本発明Al基合金を製造する場合、上記本発明成分組成のAl合金のアトマイズ粉末の内、平均粒径が20μm以下、好ましくは10μm以下の微粒粉を分級して使用する。平均粒径が20μmを越えるアトマイズ粉末は、冷却速度が遅いため、金属間化合物相が粗大化する。このため、平均粒径が20μmを越えるアトマイズ粉末を使用した場合、本発明Al基合金を製造できない可能性が高い。このため、平均粒径が20μm以下の微粒粉のみをCIPで固化成型することで、Al合金プリフォーム体が得られる。
(スプレイフォーミング法)
但し、Al基合金組織を、合金元素が固溶したAl−Mn系金属間化合物相や金属Alマトリックスとするためには、急冷凝固法の内のスプレイフォーミング法が好適である。
スプレーフォーミング法は、通常の溶解鋳造法( インゴットメイキング) よりも、格段に速い冷却・凝固速度を有するために、金属間化合物中および金属Alマトリックス中に、所定量固溶させることができる。このため、Al基合金の耐熱性と耐磨耗性とをより向上させることができる。言い換えると、スプレーフォーミング法の冷却・凝固速度は、各金属間化合物相形成と、金属Alマトリックスや金属間化合物への上記合金元素の強制固溶とに適したものと言える。
但し、いずれの方法:急冷粉末法およびスプレイフォーミング法においても、溶解条件、冷却・凝固速度の最適化は必要である。好ましい形態は、上記本発明成分組成のAl合金を、溶解温度1250〜1600℃で溶製した後、この溶湯をスプレイ開始温度まで200℃/h以上の冷却速度で冷却し、その後、900〜1200℃でこの溶湯をスプレイを開始して、急冷粉末または、スプレイフォーミング法によりプリフォームを作製する。
(溶解条件)
溶解温度を1250℃以上としたのは、上記本発明成分組成のAl合金において、各金属間化合物相を完全に溶解させるためである。また、各合金元素の含有量が多いほど、各金属間化合物相を完全に溶解させるためには、溶解温度を1250℃℃以上のより高い温度とすることが好ましいが、1600℃を超える温度とする必要は無い。
(スプレイ条件)
溶湯のスプレイを開始する際、好ましくは、前記溶湯を、スプレイ開始温度まで200℃/h以上の冷却速度で冷却し、その後900〜1200℃でこの溶湯のスプレイを開始して、急冷粉末またはスプレイフォーミング法によりプリフォームを作製する。前記高温で溶解するのは、金属間化合物相を完全に溶解させるためであるが、ここで一旦溶湯を冷却してからスプレイを開始するのは、金属間化合物をある程度晶出させることや、晶出した金属間化合物を核として、スプレイフォーミング中に、他の金属間化合物を微細に晶出させる効果があるためである。また、低温からスプレイを開始すると、スプレイの冷却速度を上げ、晶出する金属間化合物が更に微細化される効果がある。
より具体的には、上記溶湯をスプレイ開始温度まで200℃/h以上の冷却速度で冷却するパターン制御によって、先ず、スプレイ開始までに、金属間化合物の微細化に効果のあるAl−Cr、Al−Fe金属間化合物をある程度晶出させ、これを核として、スプレイ中に、Al−Mn系の金属間化合物を微細に晶出させる。このパターン制御を行なわないと、晶出する金属間化合物を微細化できない可能性が高い。
また、溶湯のスプレイ開始温度までの前記冷却速度が200℃/h未満では、上記した、金属間化合物を微細に晶出させることができず、晶出する金属間化合物を微細化できない可能性が高い。
溶湯のスプレイ開始温度は、スプレイ過程における、冷却・晶出速度に影響する。即ち、溶湯のスプレイ開始温度は、低温の方が冷却速度を速くしやすい。しかし、スプレイ開始温度が900℃未満では、スプレイ過程前に、溶湯中に金属間化合物が晶出してしまい、ノズルが閉塞しやすくなる。一方、スプレイ開始温度が1200℃を超えると、スプレイ過程中での冷却速度が遅くなり、金属間化合物が粗大化しやすい。
スプレイ過程(スプレイフォーミング過程)では、冷却速度を十分に速くすることが重要となる。冷却速度を十分に速くすると、金属間化合物の晶出核生成頻度が多くなるために金属間化合物粒子の粗大化を防止でき、金属間化合物相を微細化できる。また、金属間化合物粒子が微細かされるために、隣接粒と接触する頻度も小さくなり、金属間化合物相の外郭寸法も小さくできる。
なお、一般のスプレイフォーミング法では、強度向上のためにプリフォームを緻密化する方向を重視している。このため、緻密なプリフォームを形成できる程度の緩い凝固状態を形成するために、冷却速度を遅くしている。この結果、一般のスプレイフォーミング法では、微細な金属間化合物相は形成され難い。例えば前記特許文献4のように、プリフォームの気孔率が1質量%以下となっているような場合には、明らかに、冷却速度が遅すぎ、必然的に本発明のような微細な金属間化合物相は得られず、金属間化合物相が粗大となっている。
(冷却条件)
急冷粉末の作製過程、またはスプレイフォーミングにおける(スプレイ過程中の)冷却速度は、例えば、ガス/メタル比(G/M比:単位質量あたりの溶湯に吹き付けるガスの量)によって制御できる。本発明では、このG/M比が高いほど、冷却速度を速くでき、本発明で規定するような微細な金属間化合物相が得られ、金属Alマトリックス中に、各元素を所定量固溶させることができる。また、金属間化合物相に、前記した金属間化合物を構成する以外の元素を強制固溶させることができる。
G/M比が低過ぎると、冷却速度が不足し、金属Alマトリックス中に、各元素を所定量固溶させることができなくなる。また、金属間化合物相に、前記した金属間化合物を構成する以外の元素を強制固溶させられなくなる。また、金属間化合物相も粗大となる。但し、G/M比が高過ぎると、プリフォームの歩留まり(溶湯の堆積効率)が低下する。
これらの条件を満足するG/M比の下限は、例えば、8Nm 3/kg以上、好ましくは9Nm 3/kg以上、さらに好ましくは10Nm3 /kg以上のより高めであり、G/M比の上限は、例えば、20Nm3 /kg以下、好ましくは17Nm3 /kg以下とすることが推奨される。
(緻密化)
このように、急冷粉末によって得られた粉末は、CIP後、真空でカプセル封入してAl合金プリフォーム体とする。またスプレイフォーミング法より得られたAl合金は、このAl合金プリフォーム体を真空容器中に密封する。その後、HIP処理を行なう。
熱間静水圧プレス処理(HIP処理;Hot Isostatic Pressing)における条件は、特に限定されないが、真空容器中にプリフォームを密封した状態で、例えば、温度450〜600℃、圧力80MPa(800気圧)以上、時間1〜10hrでの処理条件が推奨される。この熱処理過程で、さらに、Al−Mn系析出物が析出し、金属間化合物の平均サイズを微細化させるが、温度及び圧力が低すぎたり時間が短すぎると気孔が残留し易くなり、温度が高すぎたり時間が長すぎると、金属間化合物相が粗大化しやすく、アルミマトリックス中の固溶量も少なくなる。
この点、好ましい温度範囲は、500〜600℃程度、特に550〜600℃程度である。好ましい圧力は、900MPa以上、特に1000MPa以上である。なお圧力の上限は特に限定されないが、圧力をかけすぎても効果が飽和するため、通常2000MPa以下とする。好ましい時間は、1〜5hr程度、特に1〜3hr程度である。
このように熱間HIP処理されたAl基合金は、そのまま、あるいは、機械加工など適宜の処理が施されて、製品Al基合金とされる。
(熱間加工)
一旦緻密化した後、更に、熱間にて、鍛造、押出、圧延のいずれかで加工しても良い。また、前記急冷粉末冶金法によって得られた粉末も、CIPやHIPで一旦固化成型したAl基合金(プリフォーム体)を、上記熱間加工しても良い。
これらの熱間加工(塑性加工)によって、Al基合金組織における、金属間化合物相がより微細均一に分散されるとともに、金属Alマトリックスへの各元素の固溶量がより確保される。但し、金属Alマトリックスへの固溶量確保のためには、これらの鍛造、押出、圧延の熱間加工における加工温度は、400〜450℃の範囲と、比較的低くすることが好ましい。このような加工温度範囲において熱間加工すると、金属間化合物相がより微細化されるとともに、より均一に分散される。また、Alマトリックス中の固溶量がより確保される。
熱間加工における加工温度が450℃を超えて高くなると、金属間化合物相が析出して、Alマトリックス中の固溶量が確保できなくなるとともに、金属間化合物相が粗大化する可能性が高い。一方、加工温度が400℃未満では、熱間加工による上記金属間化合物微細化効果が達成できない。
同様の主旨で、これらの熱間加工における歪み速度は10-4〜10-1 (1/s) と比較的低くすることが好ましい。歪み速度がこれより大き過ぎると、熱間加工による上記効果が達成できない。また、歪み速度がこれより小さ過ぎると、金属間化合物相が析出して、Alマトリックス中に固溶する前記添加元素の固溶量が確保できなくなるとともに、金属間化合物相が粗大化する可能性が高い。
このように熱間加工されたAl基合金は、そのまま、あるいは、機械加工など適宜の処理が施されて、製品Al基合金とされる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
下記表1に示すように、各成分組成のAl合金の溶湯を、1300〜1450℃の各溶解温度で溶解し、この溶湯を各スプレイ開始温度まで100℃/h以上の冷却速度で冷却し、その後1000〜1200℃でこの溶湯のスプレイを開始して、各G/M比2〜15でスプレイフォーミング(使用ガス:N2 )し、種々のプリフォームを作製した。発明例、比較例の各例における、これらスプレイフォーミング条件(溶解温度、スプレイ開始温度、平均G/M比:単位はNm 3/kg)も表1に示す。なお、表1において「−」で示す元素含有量は検出限界以下であることを示す。
これら得られた各プリフォームを、SUS製の缶に装填し、13kPa(100Torr)以下に減圧した状態で、温度400℃で2時間保持して脱気し、缶を密封してカプセルを形成した。得られたカプセルをHIP処理[温度:550℃、圧力:100MPa(1000気圧)、保持時間:2時間]して、緻密なAl基合金(試験材)を得た。
これらHIP処理後のAl基合金の組織と特性を以下のようにして、測定評価した。これらの結果を各々表2に示す。
(金属間化合物相の体積分率)
Al基合金組織の金属間化合物相の体積分率は、1000倍のSEMにより、約80μm×約120μm程度の大きさの各10視野のAl基合金の組織観察した。そして、反射電子像により、写真撮影なり画像処理した視野内の組織の、金属Al相と金属間化合物相との区別をEDXによって行った上で、視野内の金属間化合物相の体積分率を測定した。
(金属間化合物の平均サイズ)
金属間化合物(金属間化合物粒子)の平均サイズの測定は、5000〜15000倍のTEM(透過型電子顕微鏡)によりEDXを併用して行なった。即ち、TEMの視野内の観察組織像から、金属間化合物をトレースし、画像解析のソフトウエアとして、MEDIACYBERNETICS社製のImage-ProPlus を用いて、各金属間化合物の重心直径を求め、平均化して求めた。測定対象視野数は10とし、各視野の平均サイズを更に平均化して、金属間化合物の平均サイズとした。
(Mn金属間化合物相への元素固溶量)
前記視野内の各金属間化合物相を、X線回折およびTEMの電子線回折パターンから、金属間化合物相内の金属間化合物の結晶構造を解析し、その内、Mnの含有量がAlを除き他元素に比較して最も高いAl−Mn系金属間化合物相を特定し、他の金属間化合物と識別した。
その上で、15000倍の組織のFE−TEM(日立製作所製、HF−2000電界放射型透過電子顕微鏡)および、このTEMに付随の、45000倍のEDX(Kevex社製、Sigmaエネルギー分散型X線検出器:energy dispersive X- ray spectrometer)により、前記視野内のAl−Mn系金属間化合物相を各々10点測定し、V、Cr、Fe、Cu、Mg、Si、Ni、Ndの金属間化合物相への固溶量の総和を求め、平均化した。
(金属Al母相中への元素固溶量)
前記したTEM−EDXによる固溶量測定方法により、各例とも、金属Al中へのMn、V、Cr、Fe、Cu、Mg、Si、Ni、Ndの固溶量の総和を求めた。
(強度)
Al基合金の耐熱性を評価するため、室温と高温の強度を測定した。高温強度は、平行部Φ4×15mmLとした各Al基合金の試験片を200℃に加熱して15分この温度に保持後、試験片をこの温度で高温引張試験を行なった。引張速度は0.5mm/minとし、歪み速度5×10-4(1/s)とした。高温引張強度は、300MPa以上のものを高温強度乃至耐熱性が合格として評価した。室温強度は、上記支援を室温(15℃)で行なった。
(耐磨耗性)
Al基合金の高温での耐磨耗性試験は、ピンオンディスク磨耗試験で行なった。ピン材(Φ7mm×15mm長さ、約1g)に各試験材をセットし、磨耗相手側である試験ディスク材はFC200(鋳鉄)とした。試験温度は200℃とし、荷重10kgf、ピンの回転半径0.02mで、回転する前記試験ディスク材に、試験材を、潤滑無しで10分間接触させた。この際の各試験材の摩耗による質量減少率、(試験前質量−試験後質量)/試験材の試験前質量で評価した。この質量の摩耗減少率が0.2g以下のものを高温での耐磨耗性が合格として評価した。
(ヤング率)
Al基合金の剛性を評価するため、試験片(16mmφ×10mm)を作製し、室温と高温のヤング率を各々測定した。測定方法は、超音波法にて行い、測定装置は、マテック社製超音波音速測定装置(MBS8000型)によって行った。測定温度は、室温と200℃で行った。
表1〜2から明らかなように、発明例1〜8は、本発明で規定する各合金元素量範囲と、これら各合金元素量の総和の範囲をともに満足する。また、組織的にも、Al−Mn系の金属間化合物相を有し、金属間化合物相の体積分率規定を満足する。更に、このAl−Mn系の金属間化合物相に、V、Cr、Fe、Cu、Mg、Si、Ni、Ndの1種以上が固溶しており、これら固溶した元素の総和が10質量%以上である。そして、好ましい製造条件:スプレイフォーミング条件で製造されている。
このため、発明例1〜8は、表2から明らかなように、高温強度、高温耐摩耗性、高温剛性に優れている。図1に発明例1の前記15000倍のFE−TEMでの組織(図面代用写真)を示す。この図1に示す組織は、Al基合金組織が、体積分率で50%の黒色乃至灰色の柱状乃至粒状の金属間化合物(相)と、残部がこれら金属間化合物で囲まれた白色部分の金属Alマトリックスとで構成されている。これら柱状乃至粒状の金属間化合物はAl−Mn系の金属間化合物であり、このAl−Mn系の金属間化合物(相)に、V、Cr、Fe、Si、Ni、Cu、Mg、Ndが総和で19%固溶した組織である。
但し、発明例8は、金属間化合物の平均サイズが好ましい上限を超えて粗大化している。この結果、発明例8は、表2から明らかなように、他の発明例に比して、高温強度、高温耐摩耗性、高温剛性が低い。
一方、比較例9〜18は、本発明で規定する各合金元素量範囲、これら各合金元素量の総和の範囲、金属間化合物相の体積分率規定、このAl−Mn系の金属間化合物相への合金元素固溶量総和、好ましい製造条件(スプレイフォーミング条件)のいずれかが外れている。
このため、比較例9〜18は、発明例に比して、高温強度、高温耐摩耗性、高温剛性が低い。
比較例9〜17は、好ましい製造条件で製造されているものの、本発明で規定する合金元素量範囲から外れている。
比較例9は、Mn含有量が下限を下回る。
比較例10は、Mn含有量が上限を上回る。
比較例11は、合金元素の総和が下限を下回る。
比較例12は、合金元素量の総和が上限を上回る。
比較例13は、必須のVを含んでいない(Vレス)。
比較例14は、必須のCrを含んでいない(Crレス)。
比較例15は、必須のFeを含んでいない(Feレス)。
比較例16は、必須のNiを含んでいない(Niレス)。
比較例17は、必須のSiを含んでいない(Siレス)。
比較例18は、成分組成は発明例1と同じ範囲内だが、スプレイフォーミング条件の内、平均G/M比が3Nm 3/kgと低過ぎる。
以上の結果から、本発明の各要件、好ましい要件の臨界的な意義が裏付けられる。
Figure 0004699787
Figure 0004699787
以上説明したように、本発明は、軽量であり、200〜300℃付近における耐熱強度、耐磨耗性と剛性が高い耐熱性Al基合金を提供できる。したがって、自動車や航空機などの、ピストン、コンロッドなどの耐熱特性が求められる種々の部品に適用することができる。
実施例発明例1のAl基合金組織を示す図面代用写真である。

Claims (9)

  1. 質量%にて、Mn:5〜10%、V:0.5〜5%、Cr:0.5〜5%、Fe:0.5〜5%、Si:1〜8%、Ni:0.5〜5%、を各々含み、かつ、これら6種の元素の総和が15〜30%であり、残部がAlおよび不可避的不純物からなるAl基合金であって、このAl基合金組織が体積分率で35〜80%の金属間化合物相と残部が金属Alマトリックスとで構成され、前記金属間化合物相組織中に、Al−Mn系の金属間化合物相を有し、このAl−Mn系の金属間化合物相に、V、Cr、Fe、Si、Niの1種以上が固溶しており、これら固溶した元素の総和が10質量%以上であることを特徴とする耐磨耗性と剛性とに優れた耐熱性Al基合金。
  2. 前記金属Alマトリックス中に、前記V、Cr、Fe、Si、Niの元素の内の1種以上が、これらの総和で0.1〜10質量%固溶している請求項1に記載の耐磨耗性と剛性とに優れた耐熱性Al基合金。
  3. 前記Al基合金組織中に存在する金属間化合物の平均サイズが5μm以下である請求項1または2に記載の耐磨耗性と剛性とに優れた耐熱性Al基合金。
  4. 前記Al基合金が、更に、Cu:0.5〜5%、Mg:0.5〜3%の1種または2種を含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の耐磨耗性と剛性とに優れた耐熱性Al基合金。
  5. 前記Al−Mn系の金属間化合物相に、Cu、Mgの1種または2種が更に固溶しており、これらCu、Mgを加えた前記固溶した元素の総和が10質量%以上である請求項4に記載の耐磨耗性と剛性とに優れた耐熱性Al基合金。
  6. 前記金属Alマトリックス中に、前記V、Cr、Fe、Si、Niに、Cu、Mgを加えた元素の内の1種以上が、これらの総和で0.1〜10質量%固溶している請求項4または5に記載の耐磨耗性と剛性とに優れた耐熱性Al基合金。
  7. 前記Al基合金が、更に、Nd:0.2〜2%を含む請求項1乃至6のいずれか1項に記載の耐磨耗性と剛性とに優れた耐熱性Al基合金。
  8. 前記Al−Mn系の金属間化合物相に、Ndが更に固溶しており、これらNdを加えた前記固溶した元素の総和が10質量%以上である請求項7に記載の耐磨耗性と剛性とに優れた耐熱性Al基合金。
  9. 前記金属Alマトリックス中に、前記V、Cr、Fe、Si、NiにNdを加えるか、前記V、Cr、Fe、Si、Niに、Cu、Mgを加え、更にNdを加えた元素の内の1種以上が、これらの総和で0.1〜10質量%固溶している請求項7または8に記載の耐磨耗性と剛性とに優れた耐熱性Al基合金。
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