JP4697376B2 - フレーム部材の溶接方法および閉断面フレームの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、一対のフレーム部材を互いに組み合わせて溶接し、閉断面構造を構成するための技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、軽量化と高剛性との両立を図るための自動車の車体構造として、図5に示すように、荷重を受け止める構造部位をアルミニウム製の骨格構造とし、骨格に板状プレス部品を張って車体とするアルミスペースフレームボディが用いられることが多くなっている。この、アルミスペースフレーム1のメンバー2を鋳造品で構成する場合、別々に鋳造された一対のフレーム部材3、4を互いに組み合わせることにより閉断面構造を形成する必要がある。そして、一対のフレーム部材3、4を溶接によって固定する場合には、溶接歪による断面寸法の収縮(本説明では「溶接歪収縮」ともいう。)を考慮することが、高精度のメンバー2を安定供給する上で必要不可欠となる。
【0003】
図6、図7には、従来のメンバー2の構造例を示している。ここで、図6はメンバー2の立体模式図であり、図7(a)は図6のA−A線における断面図であり、図7(b)は図6のB−B線における断面図である。メンバー2を構成するフレーム部材3、4は、断面コ字状をなしており、開放端の一方が他方の外側に重なるようにして溶接継手部5、6を構成している。また、溶接継手部5、6には、溶接歪による収縮を考慮した隙間7を設けている。さらに、図6に破線で示すように、フレーム部材3、4の内側の複数の部位には、リブ8、9を設けている。そして、溶接継手部5、6に対し、メンバー2の外側からアーク溶接トーチ10によって加熱を行い、溶接ビード11を形成する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記従来のメンバー2の構造において、溶接歪によるメンバー2の断面寸法の収縮を補正するため、リブ9の隙間7へと回り込んだ部分9aに、図8に示すような収縮量補正のための見込み12を予め肉付けした場合には、溶接前の状態で溶接継手部5、6の外側部分に見込み12の増加分だけ板隙13を生じ、溶接が極めて困難となってしまうといった問題が発生する。
また、溶接歪によるメンバー2の断面寸法の収縮をリブ9により補正するためには、リブ9の寸法管理を正確に行うことが必要となり、通常のハイトゲージ14(図4参照)を用いてリブ9の測定を容易に行うことが可能となるよう、図9に示すリブ9の幅Dを大きくする必要がある。しかしながら、リブ8、9を設けた部分は、リブ8、9の設置部以外の部分に比して溶接継手部5、6の熱容量が増大して、図9に矢印αで示す熱の逃げが、リブ8、9を設けた部分で特に顕著となる。その結果、連続したアーク溶接線を形成するためには、リブ8、9を設けた部分にのみ大きな熱量を与える必要があり、溶接品質の確保が困難となってしまう。このため、リブ9の幅Dは熱容量の増大を防ぐために小さく抑える必要があり、リブ9の寸法管理を容易に行うための、専用の計測冶具を用いることが必要となってしまう。
【0005】
加えて、リブ9がフレーム部材4の鋳造後に、見込み量の変更等が必要となった場合、リブ9が溶接継手部6に直接設けられた構造上、溶接継手部6を損傷することなくリブ9のみ手作業で修正(見込み修正)を加えることは困難となるといった課題もあった。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、一対のフレーム部材を互いに組み合わせて溶接し、閉断面構造を構成する際の、一対のフレーム部材の寸法管理と修正作業とを容易とし、かつ、高精度の閉断面フレームを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための、本発明の請求項1に係るフレーム部材の溶接方法は、断面コ字状をなしており、互いに組み合わせることにより閉断面構造をなし、溶接によって互いに固定される一対のフレーム部材の溶接方法であって、前記一対のフレーム部材の双方に、溶接前の溶接歪が生じていない時点から、開放端間に板隙が生じないよう開放端の一方が他方の外側に重なる溶接継手部と、前記一対のフレーム部材を互いに組み合わせた状態で、当該溶接継手部の熱容量に影響を及ぼさない位置にて先端面同士が当接する対向部とを設け、かつ、前記一対のフレーム部材の一方または双方の対向部には、溶接歪による断面寸法の収縮が前記一対のフレーム部材に生じた後の寸法精度が確保できるよう溶接歪収縮に相当する量の肉付けがされた、見込みを設け、前記溶接継手部を重ね合わせ、かつ、前記対向部の先端面同士を当接させた状態で、前記溶接継手部を溶接することを特徴とするものである。
本発明によれば、前記対向部は、前記溶接継手部の熱容量に影響を及ぼさない位置に設けられていることから、前記溶接継手部に連続したアーク溶接線を形成することが容易である。
【0007】
また、フレーム部材を互いに組み合わせた状態で当接するよう対向して設けられた対向部の見込みは、溶接歪収縮に相当する量の肉付けがされたものであることから、溶接歪による断面寸法の収縮が生じた後の寸法精度が確保できる。なお、本発明では、前記対向部の見込みの大小にかかわらず、溶接前の溶接歪が生じていない時点から、一対のフレーム部材の開放端間に板隙が生じないよう、開放端の一方が他方の外側に重なるように構成されている。
【0008】
また、本発明の請求項2に係るフレーム部材の溶接方法は、請求項1記載のフレーム部材の溶接方法において、前記対向部を、閉断面内に設けるものである。
この構成により、前記対向部を設けることによる製品外観の変更を防ぐことができる。また、前記対向部の有無と無関係に、外部からの溶接継手部の溶接作業が可能となる。
【0009】
また、本発明の請求項3に係るフレーム部材の溶接方法は、請求項1または2記載のフレーム部材の溶接方法において、前記対向部は、鋳造品の押出しピンを兼ねるものである。
本発明によれば、前記対向部が、鋳造品であるフレーム部材に必須の構造物である押出しピンを兼ねることで、前記フレーム部材に前記対向部を設けることによる、製品形状の大幅な変更を避けることができる。
【0010】
また、本発明の請求項4に係る閉断面フレームの製造方法は、請求項1から3のいずれか1項記載のフレーム部材で閉断面フレームを構成することを特徴とするものである。
そして、本発明によれば、溶接歪収縮を考慮した高精度の閉断面フレームを得ることができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分及び相当する部分については同一符号で示し、詳しい説明は省略する。
【0012】
図2には、本発明の実施の形態に係る閉断面フレーム15を断面図示している。閉断面フレーム15は、鋳造品である一対のフレーム部材16、17を互いに組み合わせることにより閉断面構造を構成したものである。また、フレーム部材16、17は、溶接継手部18、19と、溶接継手部18、19の熱容量に影響を及ぼさない位置に設けた対向部20、21とを備えている。フレーム部材16、17の対向部20、21は、フレーム部材16、17を互いに組み合わせた状態で、対向し先端面同士が当接する位置に設けられている。
なお、本発明の実施の形態では、対向部20、21は押出しピンを兼ね、複数ある押出しピンの中から、所望のピッチで選択された押出しピンを、対向部20、21として用いたものである。また、対向部20、21は、必要に応じてリブ22、23によりフレーム部材16、17の外壁に対し連結され、強度の補強がなされる。
【0013】
図1には、溶接の前後における閉断面フレームの断面を並べて図示しており、図1の左側は溶接前の閉断面フレーム15’を、図1の右側は溶接後の溶接歪収縮が生じた閉断面フレーム15を表している。図1の左側の溶接前の閉断面フレーム15’において、フレーム部材17の対向部21には溶接歪収縮に相当する量の見込み24を考慮した寸法設定がされている。しがたって、溶接前の閉断面フレーム15’は、必要な製品寸法Hに対し、見込み24の肉付け量分Δhだけ全高が高くなっている。
また、フレーム部材16、17の溶接継手部18、19は、対向部21の見込み24の肉付け量分Δhを考慮したオーバーラップ量Wを有するように、夫々の高さ寸法が設定されている。すなわち、見込み24の肉付け量分Δhの大小にかかわらず、溶接前の溶接歪が生じていない時点から、フレーム部材16、17の開放端間に板隙が生じないよう、開放端の一方が他方の外側に重なり、必要なオーバーラップ量Wが得られるように、溶接継手部18、19の高さ寸法が決定されるものである。なお、見込み24は、フレーム部材16の対向部20に設けても良く、また、対向部20、21の双方に分散して設けても良い。
【0014】
上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることができる。まず、対向部21に設けた、溶接歪による断面寸法の収縮が一対のフレーム部材16、17に生じた後の寸法精度が確保できるよう溶接歪収縮に相当する量の肉付けがされた、見込み24によって、溶接歪による断面寸法の収縮が生じた後の寸法Hの精度を確保することが可能である。また、対向部20、21を、溶接継手部18、19から離間させて設置することにより、溶接継手部18、19の熱容量に影響を及ぼすことがなくなり、溶接継手部18、19に、対向部20、21の存在による熱の逃げ量のばらつきを抑え、連続したアーク溶接線を形成することが容易である。
また、対向部21の見込み24の肉付け量分Δhの大小にかかわらず、溶接前の溶接歪が生じていない時点(図1の閉断面フレーム15’)から、一対のフレーム部材16、17の溶接継手部18、19同士の必要なオーバーラップ量Wを得ることが可能となり、板隙の発生を防ぐことができる。よって、溶接継手部18、19の溶接作業を容易に行うことができる。
【0015】
また、対向部20、21が、鋳造品であるフレーム部材16、17に必須の構造物である押出しピンを兼ねることで、対向部20、21を設けることによる製品形状の大幅な変更を避けることができる。また、対向部20、21を設けることによる鋳造金型の形状変更も、最小限に抑えることが可能となる。
そして、対向部20、21が、閉断面フレーム15の閉断面内に設けられていることから、対向部20、21を設けることによる製品外観の変更を防ぐことができる。また、対向部20、21の有無と無関係に、従来と同様、外部から溶接継手部18、19の溶接作業が可能となる。
【0016】
また、本発明の実施の形態では、対向部20、21を溶接継手部18、19から離間させて設置することにより、図3に示すように、エアグラインダー25等を用いた手作業による対向部21の修正の際に、溶接継手部19を損傷するおそれが少なくなり、修正作業を簡易に行うことが可能となる。
さらに、対向部20、21が溶接継手部18、19の熱容量に影響を及ぼさないことから、図4に示すように、対向部20、21の上面20a、21aの面積を、一般的な計測装置(チェッキングフィクスチャー26上にフレーム部材16または17を載置して、チェッキングフィクスチャー27上にハイトゲージ14(いわゆるダンチゲージ等)を載置して構成される。)の、測定子14aを確実に当接させて測定することが可能となるように、十分に広いものとすることができる。よって、本発明の実施の形態によれば、専用の計測冶具を用いる必要もなくなることとなり、個々のフレーム部材16、17の寸法精度についても、高精度に管理することが可能となる。
【0017】
従って、本発明の実施の形態によれば、一対のフレーム部材16、17で閉断面フレーム15を構成することにより、溶接歪収縮を考慮した高精度の閉断面フレームを得ることができる。
【0018】
なお、本発明の実施の形態では、対向部20、21が、鋳造品であるフレーム部材16、17に必須の構造物である押出しピンを兼ねる構造としたことから、対向部20、21はフレーム部材16、17の幅方向の対称位置に設けられているが、例えば、中央部に一本の対向部を設ける場合や、さらに複数の対向部を設けることによっても、同様の作用効果を得ることができる。
また、本発明の実施の形態では、鋳造品である一対のフレーム部材16、17を互いに組み合わせることにより閉断面フレーム15を形成する場合を例示して説明したが、コ字状断面をなす押出し成形品を組み合わせて互いに溶接し、閉断面フレームを構成する場合や、切削加工により得られた部材同士を組み合わせて互いに溶接し、閉断面構造を構成する場合であっても、上述の溶接歪収縮の問題が生じる場合には、本発明の実施の形態と同様の溶接継手部と、当該溶接継手部の熱容量に影響を及ぼさない位置に設けた対向部とを設けることで、同様の作用効果を得ることが可能である。さらに、一対のフレーム部材の材料も、アルミニウム、アルミニウム合金に限定されることなく、他の溶接歪収縮の大きな材料からなるフレーム部材にも適用することが可能である。
【0019】
【発明の効果】
本発明はこのように構成したので、一対のフレーム部材を互いに組み合わせて溶接し、閉断面構造を構成する際の、一対のフレーム部材の寸法管理と修正作業とを容易とし、かつ、溶接歪収縮を考慮した高精度の閉断面フレームを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態に係る閉断面フレームの、溶接前の断面と、溶接後の溶接歪収縮が生じた断面とを図示した説明図である。
【図2】 本発明の実施の形態に係る閉断面フレームの断面図である。
【図3】 本発明の実施の形態に係るフレーム部材に、手作業により修正を行う様子を示す模式図である。
【図4】 本発明の実施の形態に係るフレーム部材の寸法測定を行う様子を示す模式図である。
【図5】 アルミスペースフレームとそのメンバーを構成するフレーム部材とを示す斜視図である。
【図6】 従来のメンバーの立体模式図である。
【図7】 (a)は図6に示す従来のメンバーのA−A線における断面図であり、(b)は同B−B線における断面図である。
【図8】 図6に示す従来のメンバーの問題点を示す説明図である。
【図9】 図6に示す従来のメンバーの別の問題点を示す説明図である。
【符号の説明】
10 アーク溶接トーチ
11 溶接ビード
15 閉断面フレーム
16、17 フレーム部材
18、19 溶接継手部
20、21 対向部
24 見込み
H 製品高さ
W オーバーラップ量
Claims (4)
- 断面コ字状をなしており、互いに組み合わせることにより閉断面構造をなし、溶接によって互いに固定される一対のフレーム部材の溶接方法であって、
前記一対のフレーム部材の双方に、溶接前の溶接歪が生じていない時点から、開放端間に板隙が生じないよう開放端の一方が他方の外側に重なる溶接継手部と、
前記一対のフレーム部材を互いに組み合わせた状態で、当該溶接継手部の熱容量に影響を及ぼさない位置にて先端面同士が当接する対向部とを設け、かつ、前記一対のフレーム部材の一方または双方の対向部には、溶接歪による断面寸法の収縮が前記一対のフレーム部材に生じた後の寸法精度が確保できるよう溶接歪収縮に相当する量の肉付けがされた、見込みを設け、
前記溶接継手部を重ね合わせ、かつ、前記対向部の先端面同士を当接させた状態で、前記溶接継手部を溶接することを特徴とするフレーム部材の溶接方法。 - 前記対向部を、閉断面内に設けることを特徴とする請求項1記載のフレーム部材の溶接方法。
- 前記対向部は、鋳造品の押出しピンを兼ねることを特徴とする請求項1または2記載のフレーム部材の溶接方法。
- 請求項1から3のいずれか1項記載のフレーム部材で閉断面フレームを構成することを特徴とする閉断面フレームの製造方法。
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