JP4692204B2 - 圧縮自着火式内燃機関の制御装置 - Google Patents

圧縮自着火式内燃機関の制御装置 Download PDF

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Description

本発明は、例えばVVT(Variable Valve Timing)など可変動弁機構を有する圧縮自着火式内燃機関を制御するための、圧縮自着火式内燃機関の制御装置の技術分野に関する。
この種の技術分野において、燃料の噴射時期を制御するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示されたディーゼルエンジンの燃料噴射時期制御装置(以下、「従来の技術」と称する)によれば、噴射圧力及びノズルから壁面までの距離に応じて噴射時期を制御することによって、燃料の着火時期を目標着火時期に制御することが可能であるとされている。
尚、可変動弁機構によって筒内圧が高く制御される場合の噴射時期を、筒内圧が低く制御される場合の噴射時期に対して遅角させる技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
尚、運転状態に応じて弁開閉タイミングを操作して、圧縮圧力を制御する技術も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
尚、多気筒内燃機関の少なくとも一つの気筒の着火時期が目標とずれている場合、全気筒の吸気閉弁時期を変化させる技術も提案されている(例えば、特許文献4参照)。
特開2000−2146号公報 特開2003−83141号公報 特開平11−257108号公報 特開2005−2803号公報
圧縮自着火式内燃機関において機関温度が低い場合、例えば冷間時などには、必然的に壁面の温度も低くなるが、壁面の温度が低いと、噴射された燃料はそのまま壁面で冷却され、気化せずに液体状態のまま壁面に付着してしまう。壁面に燃料が付着すると、例えば、THC(Total Hydro Carbon:全炭化水素)の排出量増加及び潤滑油への燃料の混入などが発生しかねない。即ち、従来の技術には、場合によっては、環境性能を含む圧縮自着火式内燃機関の全体的な性能が低下しかねないという技術的な問題点がある。
本発明は上述した問題点に鑑みてなされたものであり、内燃機関の全体的な性能の低下を防止し得る圧縮自着火式内燃機関の制御装置を提供することを課題とする。
上述した課題を解決するため、本発明に係る圧縮自着火式内燃機関の制御装置は、燃料を噴射する噴射手段を備え且つ少なくとも吸気弁の閉弁時期が可変な圧縮自着火式内燃機関を制御するための圧縮自着火式内燃機関の制御装置であって、前記噴射された燃料の着火時期を特定する着火時期特定手段と、前記特定された着火時期と前記噴射された燃料の噴射時期との差分に対応する着火遅れ時間を特定する着火遅れ時間特定手段と、前記特定された着火遅れ時間に基づいて前記内燃機関の気筒内壁に前記噴射された燃料が到達するか否かを推定する推定手段と、前記気筒内壁に前記噴射された燃料が到達すると推定された場合に、前記着火遅れ時間が減少するように前記着火時期を制御することによって前記気筒内壁に対する前記噴射された燃料の到達量を減少させる着火時期制御手段とを具備することを特徴とする。
本発明に係る「圧縮自着火式内燃機関(以下、適宜「内燃機関」と称する)」とは、燃料を自着火させることによって得られる爆発力を動力に変換する機関を包括する概念であり、典型的には車両用のディーゼルエンジンを指す。更に、本発明に係る圧縮自着火式内燃機関は、燃料噴射手段を備えると共に、少なくとも吸気弁の閉弁時期が可変に構成される。
ここで、燃料噴射手段とは、圧縮自着火式内燃機関に備わる気筒内に燃料を噴射する手段を包括する概念であり、例えば、インジェクタなどを指す。この場合、インジェクタは、例えば、圧電素子(例えば、ピエゾ素子)などの圧電現象を利用して、気筒内に燃料を噴射する態様を有していてもよい。
一方、「少なくとも吸気弁の閉弁時期が可変な」とは、圧縮自着火式内燃機関に、少なくとも吸気弁の閉弁時期を可変に制御し得る機構、装置又はシステムなどが備わることを指す。このような機構、装置又はシステムとは、例えば、VVT或いはそれに準じる機構、装置或いはシステムであってもよい。尚、吸気弁の閉弁時期が可変である限りにおいて、例えば、吸気弁の開弁時期が可変であってもよい(即ち、吸気バルブタイミングが可変であってもよい)。更には、排気弁のバルブタイミングが可変に構成されていてもよい。この場合、例えば、EX(Exhaust)−VVTと称されるような機構、装置或いはシステムによって係る排気弁のバルブタイミングが可変に構成されてもよい。更に、このようなバルブタイミングのみならず、バルブリフト量が可変に構成されていてもよい。
尚、本発明における「時期」とは、広い意味では時刻の概念に属するが、係る時期を表すものは絶対的な時刻でなくともよく、例えば、ある規準となる時刻(或いはタイミング)からの経過時間であってもよい。更には、内燃機関における何らかの状態量であってもよい。このような状態量としては、例えばクランク角が好適である。この場合、クランク角は、例えば、TDC(Top Death Center:上死点)におけるクランク角(即ち、ゼロ度)を基準時刻又は基準タイミングとする、CA ATDC(Crank Angle After TDC:上死点後クランク角)として表されてもよい。例えば、CA ATDCが180度(―180度)の位置とは、BDC(Bottom Death Center:下死点)を指す。従って、例えば、「吸気弁の閉弁時期が可変」とは、吸気弁を閉弁すべきクランク角を任意に制御可能であることを含むものである。
尚、TDCから任意のクランク角に到達するまでの時間は、機関回転数(即ち、単位時間当たりの回転数)に応じて必然的に変化する。従って、正確には、クランク角によって表されるのは、あくまで位置概念であって時刻概念とは異なるが、クランク角を指定することによって結果的には実時間軸上でその事象に対応する点を指し示しているのであり、このようなクランク角或いはその他の状態量に基づいて本発明に係る「時期」が表されても何ら問題は生じない。一方で、クランク角のように、吸気弁又は排気弁の開閉時期に限らず圧縮自着火式内燃機関における各部の動作時期を包括的に規定し得る状態量によって本発明に係る時期が表される場合、圧縮自着火式内燃機関の各部を協調的に制御することが可能となるので好適である。
本発明に係る圧縮自着火式内燃機関の制御装置によれば、その動作時には、着火時期特定手段によって、噴射された燃料(以下、適宜「噴射燃料」と称する)の着火時期が特定される。ここで、本発明における「特定」とは、直接的又は間接的に検出することの他に、何らかのパラメータ、内燃機関の状態量、又は内燃機関の動作条件若しくは環境条件を規定する値などに基づいて推定、推測、判定又は決定することを含む概念である。
噴射燃料の着火時期を特定する態様は、上述した概念の範囲で自由であってよいが、例えば、着火時期を実際の着火現象に伴う形で検出する場合には、噴射燃料が着火したことによって生じる物理的、機械的、電気的或いは化学的な状態量の変化を直接的又は間接的に検出してもよい。この際、例えば、気筒内の圧力を検出する手段(例えば、筒内圧センサなど)によって得られる筒内圧、クランク角などに対応付けて得られる気筒内容積及び比熱比などから得られる仕事量を監視し、係る仕事量が所定の閾値を超えたことをもって燃料の着火が検出されてもよい。一方、着火時期を着火以前に推定するような場合には、予め着火時期と相関するものとして設定された各種状態量がパラメータとして入力された着火時期算出モデルなどのシミュレーションモデルに基づいて着火時期が推定されてもよい。この場合、例えば、機関回転数、噴射量、水温、吸気ガス温、吸気ガス圧、レール圧、噴射時期、吸気酸素濃度及び排気温などがパラメータとして与えられてもよい。
また、本発明に係る圧縮自着火時式内燃機関の制御装置によれば、このようにして特定された着火時期と噴射燃料の噴射時期との差分に対応する着火遅れ時間が着火遅れ時間特定手段によって特定される。
ここで、噴射燃料の噴射時期は、好適には着火時期が特定された噴射燃料が噴射された時期であるが、着火時期の変化量が問題とならない程度に微小であることが判明している限りにおいて、必ずしも厳密に着火時期が特定された噴射燃料の噴射時期でなくともよい。噴射時期は、噴射手段が燃料を噴射する時期であるから、例えば、噴射手段に入力される制御値などに基づいて比較的簡便に取得することが可能である。
尚、着火遅れ時間は、例えば、噴射時期及び着火時期が夫々予め規定される基準時刻からの経過時間として規定されるならば、単にこれらの差分と等しい。一方、燃料の噴射時期及び着火時期が夫々クランク角で規定される場合、これらの差分は角度の次元であり、時間の概念とは異なる。この場合、着火遅れ時間特定手段は、係る差分に対応する時間(即ち、着火遅れ時間)を、例えば、内燃機関の機関回転数など、クランク角と時間概念とを関連付ける何らかの状態量に基づいて特定してもよい。
本発明に係る圧縮自着火式内燃機関の制御装置によれば、その動作時には、推定手段によって、噴射燃料が内燃機関の気筒内壁に到達するか否かが、この特定された着火遅れ時間に基づいて推定される。
ここで、「到達するか否か」とは、必ずしも噴射燃料の気筒内壁への到達以前に、このような推定がなされることのみを表すものではなく、噴射燃料の気筒内壁への到達と同期して(即ち、リアルタイムに)、更には噴射燃料の気筒内壁への到達以後にこのような推定が行われてもよい趣旨である。
着火遅れ時間に基づいて到達の有無を推定する態様は何ら限定されないが、着火遅れ時間とは、即ち、噴射燃料が気筒内の空間を噴霧状態で飛行することが可能な時間であるから、係る点に鑑みれば、気筒内壁に到達するか否かを決定する要素としては、例えば、噴射手段、より具体的には噴射ノズルなどの噴射口の形状及び設置位置、気筒形状、気筒内圧力及び燃料の噴射量などが大きな位置を占める。従って、このような要素に基づいて到達の有無が判別されてもよい。
また、本発明に係る推定手段は、気筒内壁に噴射燃料が到達するか否かを上記着火遅れ時間に基づいて推定し得る限りにおいて例えば、燃料性状又は機関回転数などの各種動作条件に基づいて気筒内壁への到達の有無を推定する態様を有していてもよい。この際、これら各種動作条件と、噴射燃料の到達の有無とが直接的に又は間接的に対応付けられていてもよい。或いは何らかのアルゴリズムに従って適宜対応付けが可能である場合などには、そのような対応付けがなされていてもよい。例えば、直接的に対応付けられる場合、然るべき記憶手段にこれら動作条件を規定する値と到達の有無とを対応付けたマップなどが格納されていてもよい。
本発明に係る圧縮自着火指揮内燃機関の制御装置によれば、推定手段が、気筒内壁に噴射燃料が到達するか否かを係る着火遅れ時間に基づいて推定するため、噴射燃料が気筒内壁に到達するか否かを比較的簡便且つ正確に推定することが可能となる。
尚、このような動作条件と同等なものとして、大気圧、外気温又は湿度などの環境条件に基づいてこのような推定が行われてもよい。或いは、噴射燃料の気筒内壁への到達を目視などによって直接的に確認することが困難であることに鑑みれば、噴射燃料の気筒内壁への到達の有無に応じて変化する何らかの物理的、電気的、機械的又は化学的な現象を検出することによって、噴射燃料が気筒内壁に到達する(既に述べたように、「到達した」ことを含む概念である)ことが推定されてもよい。
尚、噴射燃料が気筒内壁へ到達するか否かを推定することが可能である限りにおいて、推定手段とは、噴射燃料の気筒内壁への到達量を推定する手段であってもよい。この場合、到達量に応じて、少なくとも噴射燃料が到達するか否かは容易に判別可能であり、このように到達量が推定可能である場合も、本発明に係る「推定手段」の範疇である。
尚、「気筒内壁」とは、気筒内において、燃料が到達することによって、或いは到達した燃料が気筒内壁に付着することによって内燃機関における動作効率、動力性能又は環境性能などを含んだ全体的な性能の低下を招きかねない壁面部分を包括する概念であり、典型的には燃焼室を規定する壁面部分を指す。尚、係る概念が担保される限りにおいて、気筒内壁とは、気筒内で上下運動するピストンの表面部分を含んでもよい。
一方、噴射された燃料が気筒内壁に到達すると推定された場合には、着火時期制御手段着火遅れ時間が減少するように着火時期を制御することによって、気筒内壁に対する燃料の到達量を減少させる。着火遅れ時間が相対的に長くなれば必然的に燃料の到達距離が長くなり得、着火遅れ時間が相対的に短くなれば必然的に燃料の到達距離は短くなり得るから、着火遅れ時間が減少するように着火時期が制御された場合には、結果的に気筒内壁への燃料の到達量を減少させることが可能となるのである。
ここで、「到達量を減少させる」とは、気筒内壁への噴射燃料の到達量が既知であるか否かとは無関係な制御態様であってよい。また、「減少させる」とは、このような、到達量を減少させることを目的とした着火時期の制御が何らなされない場合と比較して、気筒内壁への噴射燃料の到達量が幾らかなりとも少なくなればよいことを表す概念であって、必ずしも気筒内壁への燃料の到達量がゼロ或いはゼロとみなし得る程度に小さい量にならずともよい趣旨である。但し、内燃機関の全体的な性能を担保する観点からは、気筒内壁への燃料の到達量はゼロとなるのが好適である。この場合、到達量がゼロとなるとは、即ち、噴射された燃料が気筒内壁へ到達しないことと等価であり、その判断は、推定手段によって容易に実現され得る。
尚、着火遅れ時間が減少するように着火時期を制御する態様は、着火時期を制御可能である限りにおいて何ら限定されないが、気筒内壁への噴射燃料の到達量をリアルタイムに或いはリアルタイムとみなし得る程度に俊敏に制御可能な態様であるのが望ましい。内燃機関における着火時期は、燃料の噴射時期や圧縮空気と燃料との混合気の温度などに大きく影響を受けるから、このような制御態様の一つとして、着火時期は、例えば燃料の噴射時期や圧縮比を変化させることによって制御されてもよい。
このように、本発明に係る圧縮自着火式内燃機関の制御装置によれば、噴射された燃料が気筒内壁に到達すると推定された場合に、着火遅れ時間が減少するように着火時期が制御されることにより気筒内壁への燃料の到達量減少させられるため、気筒内壁への燃料の付着が防止される。従って、内燃機関の全体的な性能の低下を防止することが可能となるのである。
本発明に係る圧縮自着火式内燃機関の制御装置の一の態様では、前記推定手段は、(i)前記噴射された燃料が前記着火遅れ時間において到達する距離及び(ii)前記噴射手段の噴射口と前記気筒内壁面との距離の相対比較に基づいて前記気筒内壁に前記噴射された燃料が到達するか否かを推定してもよい。
この場合、着火遅れ時間において燃料が到達する距離及び噴射口と気筒内壁との距離の相対比較に基づいて到達の有無が推定されるため、推定手段に要求される負荷は比較的小さくて済み効率的である。
尚、気筒形状並びに噴射手段の物理形状及び設置態様などは、通常、固定値であるから、結局、この場合、推定の精度を規定する大きな要素の一つは、着火遅れ時間における燃料の到達距離である。従って、高温且つ高圧の三次元空間たる燃焼室或いは気筒内空間に噴射された燃料が、着火遅れ時間においてどの位置まで到達するかについては、予め実験的に、経験的に、或いはシミュレーションなどに基づいて判断の指標が与えられていてもよいし、予め係る到達距離を着火遅れ時間の関数として設定可能であるならば、係る時間関数に着火遅れ時間に相当する数値を代入することによって或いは代入して得られる値に適宜補正を行うことによって比較的高精度に特定されるのが望ましい。
本発明に係る圧縮自着火式内燃機関の制御装置の他の態様では、前記着火時期制御手段は、前記燃料の噴射時期及び前記吸気弁の閉弁時期のうち少なくとも一方を変化させることによって前記着火時期を制御する。
この態様によれば、着火時期制御手段は、燃料の噴射時期及び吸気弁の閉弁時期のうち少なくとも一方を変化させることによって着火時期を制御するため、着火時期をリアルタイムに且つ正確に制御することが可能となる。従って、内燃機関の全体的な性能の低下を効果的に防止し得る。
ここで、燃料の噴射時期には、着火時期に対して比較的高感度な領域と低感度な領域が存在する。比較的高感度な領域(以下、適宜「高感度領域」と称する)とは、即ち、噴射時期の変化に対してリニアに着火時期が変化する領域であり、比較的低感度な領域(以下、適宜「低感度領域」と称する)とは、噴射時期の変化がほとんど着火時期に影響しない領域である。従って、前述の着火遅れ時間でみれば、低感度領域で噴射時期を変化させた場合には大きな変化量が得られる一方、高感度領域では概ね変化量が飽和して一定値に漸近し易い。尚、噴射燃料の着火時期は、気筒内のガス温度に依存し、クランク角で言えば、圧縮ガスの温度が比較的高くなり易い上死点近傍であることが多い。従って、通常、燃料の噴射時期は下死点前後から上死点前後の時期に設定されることが多い。このような区間に限って言えば、高感度領域とは、概ね上死点近傍の領域であり、低感度領域とは、上死点から比較的進角側に離れた領域に存在する。このような低感度領域では、噴射時期を変化させることによって、着火遅れ時間を比較的大きく変化させることができる。
一方で、吸気弁の閉弁時期も着火時期に影響を与え得る。吸気弁の閉弁時期を相対的に早めた場合、圧縮工程がそれだけ長くなくなるため、気筒内における圧縮端の温度は上昇し易い。着火時期は、燃料と吸入ガスとの混合気の温度に支配されるから、圧縮端の温度が上昇する傾向にあれば、それだけ混合気の温度が上昇し易く、着火時期は相対的に早くなり易い。一方、吸気弁の閉弁時期を相対的に遅くした場合には、圧縮工程が短くなり、圧縮ガス量も減少するため、圧縮端温度は相対的に低下の傾向となり、着火時期は相対的に遅くなり易い。即ち、吸気弁の閉弁時期を制御することによって、着火時期を制御することが可能となる。着火遅れ時間に注目した場合、燃料の噴射時期が同じと仮定すれば、着火時期が早まれば着火遅れ時間が短くなり、着火時期が遅くなれば着火遅れ時間は長くなる。即ち、吸気弁の閉弁時期によって着火時期を制御することにより、着火遅れ時間は容易に制御され得る。
尚、着火時期を、吸気弁の閉弁時期によって噴射時期による制御と同程度にリアルタイムに制御するためには、吸気弁の閉弁時期を可変に制御するための機構として、油圧よりも応答速度の速い機構が採用されて好適である。例えば、電気的に動作するアクチュエータなどが用いられて好適である。
尚、噴射時期及び閉弁時期のいずれの手法によって着火時期を制御する場合であっても、好適には、その制御量の変化分と、噴射燃料の気筒内壁への到達の度合いとが相互に対応付けられている方がよい。例えば、前述したように、噴射口から気筒内壁までの距離と、噴射燃料の到達距離との相互比較に基づいて到達の有無が推定される場合、相互比較の過程で両者の差分を算出すれば、算出された差分は、到達の度合いを規定する指標値となり得る。従って、噴射時期及び閉弁時期の制御量は、このような指標値に対応付けられる形で決定されてもよい。
尚、この態様では、前記着火時期制御手段は、前記吸気弁の閉弁時期に優先して前記燃料の噴射時期を変化させてもよい。
内燃機関に吸入される空気量は、吸気弁が開弁している期間に影響される。自然吸気の場合、大気圧と吸気管負圧によって、時間当たりの吸気量は概ね決まってしまうから、吸気弁の閉弁時期が、吸入空気量を決定付ける大きな要因の一つとなる。理論的には、圧縮工程開始直前、即ち概ね下死点近傍で吸気弁が閉弁すれば、吸入空気量が最大になるはずなのであるが、吸入空気には吸気慣性が作用するため、実際には圧縮工程期間中にも吸気状態が継続することが多い。吸気弁の閉弁時期は、このような吸気慣性を鑑みた上で予め基準値が決定されており、例えば、上死点後クランク角にして−150度前後である。従って、噴射燃料の着火時期を変化させる目的から、吸気弁の閉弁時期を変化させた場合には、吸入空気量は減少する可能性がある。
着火時期を制御する際に、吸気弁の閉弁時期に優先して燃料の噴射時期を制御すれば、このような問題の発生を回避することが、或いは発生頻度を明らかに低減することが可能となるため好適である。尚、前述した如く、噴射時期の低感度領域では積極的に噴射時期によって着火時期を制御するのが好ましいから、噴射時期の高感度領域のみ吸気弁の閉弁時期によって着火時期を制御する(好適には、着火遅れ時間を減少させる)ことによって、効率的に噴射燃料の気筒内壁への到達を防止し得、内燃機関の全体的な性能の劣化を防止することが可能となる。
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
<実施形態>
以下、適宜図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。
<実施形態の構成>
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態に係るエンジンシステムの構成について説明する。ここに、図1は、エンジンシステム10の模式図である。
図1において、エンジンシステム10は、ECU100及びエンジン200を備える。
ECU100は、不図示のCPU、ROM及びRAM(Random Access Memory)などを備えると共に、エンジン200の動作全体を制御する電子制御ユニットであり、本発明に係る「圧縮自着火式内燃機関の制御装置」の一例である。このROMには、例えば、ECU100が後述する付着防止処理を実行するための制御プログラムなどが予め格納されている。また、RAMにはECU100が付着防止処理を実行する過程において生じる各種データ及び後述する各種センサの出力値などが一時的に格納される構成となっている。
エンジン200は、本発明に係る「圧縮自着火式内燃機関」の一例たる車両用のディーゼルエンジンであり、シリンダブロック201に収容される複数のシリンダ202各々において、インジェクタ209によって噴射される燃料を自着火させて爆発させると共に、爆発力に応じて生じるピストン(不図示)の往復運動を、コネクションロッド(不図示)を介してクランクシャフト(不図示)の回転運動に変換することが可能に構成されている。以下に、エンジン200の要部構成をその動作と共に説明する。尚、複数のシリンダ202は、夫々同一の構成を有しており、図1においては、図面の煩雑化を防ぐ目的から、相互に重複する箇所の符号が一部省略されている。
シリンダ202内における燃料の燃焼に際し、外部から吸入された空気は吸気マニホールド203を介してシリンダ202に供給される。吸気マニホールド203には、エアフローメータ204が配設されている。エアフローメータ204は、ホットワイヤー式と称される形態を有しており、吸入された空気の質量流量を直接測定することが可能に構成されている。更に吸気マニホールド203には、吸入空気の温度(吸気温)を検出するための吸気温センサ205、吸入空気の圧力(吸気圧)を検出するための吸気圧センサ206及び吸入空気の酸素濃度(吸気酸素濃度)を検出するためのO2センサ220が夫々設置されている。エアフローメータ204、吸気温センサ205、吸気圧センサ206及びO2センサ220は、夫々ECU100と電気的に接続されている。
シリンダ202内部と吸気マニホールド203との連通状態は、吸気バルブ207の開閉に応じて制御される。吸気バルブ207の開閉は、クランクシャフトの動作に連動したカム及びカムシャフトの動作によって制御されるが、本実施形態に係るエンジン200は更に、電気的に駆動されるアクチュエータ208によって、吸気バルブの開閉時期を可変に制御し得る構成となっている。アクチュエータ208は、ECU100と電気的に接続されている。従って、吸気バルブの開閉時期は、ECU100によって制御可能となっている。
インジェクタ209には、燃料が不図示の燃料タンクからコモンレール210及び枝管211を介して供給されており、インジェクタ209は、この供給される燃料を、ECU100の制御に従ってシリンダ202内に直接噴射することが可能に構成されている。尚、コモンレール210は、高温且つ高圧のシリンダ内に燃料を安定に供給するため、インジェクタ209に対し、高圧の燃料供給を行うことが可能に構成されており、そのレール圧が、レール圧センサ212によって検出され、ECU100に出力される構成となっている。
シリンダ202内部では、インジェクタ209によって噴射された燃料と、吸気バルブ207を介して吸入された空気とが混合し、混合ガスとなって圧縮されると共に、更に係る圧縮の過程で混合ガスが燃焼温度に到達することによって混合ガスが燃焼する。シリンダ202には、ECU100と電気的に接続された筒内圧センサ213が設置されており、シリンダ202内の圧力が検出可能となっている。燃焼した混合ガスは排気ガスとなり吸気バルブ207の開閉に連動して開閉する排気バルブ216を通過して排気マニホールド217を介して排気される。この際、排気ガスの温度が、ECU100と電気的に接続された排気温センサ218によって検出される。また、排気マニホールド217を介して排気される排気ガスは、触媒装置219によって浄化される。
クランクシャフトの近傍には、クランクシャフトの回転位置(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ214が設置されている。クランクポジションセンサ214は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100は、クランクポジションセンサ214から得られるクランクシャフトの回転状態に基づいて、シリンダ202内部におけるピストンの位置及びエンジン200の機関回転数などを取得することが可能に構成されている。また、シリンダブロック201内の不図示のウォータージャケットには、エンジン200を冷却するための冷却水が循環しており、その温度は、ECU100と電気的に接続された冷却水温センサ215によって検出される構成となっている。
<実施形態の動作>
<付着防止処理の概要>
エンジン200では、インジェクタ209から噴射される燃料が、シリンダ202内部で気化及び着火せずに、シリンダ内壁に到達することがある。ここで、エンジン200の冷間時には特に、この到達した燃料が冷却され、液体状態でシリンダ内壁に付着する。シリンダ内壁に燃料が付着した状態では、エンジン200からTHCなどが比較的多く発生し易く、また、エンジンオイルなどの潤滑油に付着燃料が混入することによって、エンジン200の円滑な動作が阻害されかねない。即ち、環境性能を含むエンジン200の全体的な性能が低下しかねない。
このような燃料の付着は無論、燃料が噴射されてから着火するまでの時間、即ち着火遅れ時間において支配的に発生するから、燃料の付着を防止する観点からは、燃料の着火時期が重要な要素となる。そこで、本実施形態に係るエンジンシステム10では、ECU100によって付着防止処理が実行されることにより、噴射された燃料がシリンダ内壁に到達しないように着火時期が制御され、係る問題が好適に解決されている。
<付着防止処理の詳細>
ここで、図2を参照して、付着防止処理の詳細について説明する。ここに、図2は、付着防止処理のフローチャートである。
図2において、ECU100は、噴射時期ainjを取得する(ステップA10)。本実施形態では、インジェクタ209による燃料の噴射時期は、ECU100自身が制御しているため、噴射時期ainjはECU100が制御値として記憶している。尚、本実施形態において、エンジン200の動作時期は、主としてクランク角(CA)によって規定されており、以後、特に断りの無い限り、「時期」とは、クランク角を表すものとする。
次に、ECU100は、エンジン200の動作条件を規定する値として、機関回転数Ne、噴射量Q、冷却水温Tw、吸気温Ti、吸気圧Pi、レール圧Pr、吸気酸素濃度Do及び排気温Teを取得する(ステップA11)。機関回転数Neは、クランクポジションセンサ214からのセンサ出力に基づいて、ECU100自身が算出することが可能である。また、噴射量Qは、ECU100が制御値として保持している。尚、噴射量Qを求めるに当たって、ECU100は、噴射量Qを機関回転数Ne及びアクセルペダル開度に対応付けてなる噴射量マップを参照する。係る噴射量マップは予めROMに格納されている。尚、アクセルペダル開度は、図1において不図示のアクセルペダルの踏下量を検出する不図示のアクセルポジションセンサから取得される。これら機関回転数Ne及び噴射量Qの値は、RAMに一時的に格納される。また、冷却水温Tw、吸気温Ti、吸気圧Pi、レール圧Pr、吸気酸素濃度Do及び排気温Teの値は、夫々冷却水温センサ215、吸気温センサ205、吸気圧センサ206、レール圧センサ212、O2センサ220及び排気温センサ218によって検出され、ECU100によってRAMに一時的に格納される。
次に、ECU100は、燃料の着火時期aigを取得する(ステップA12)。着火時期aigは、ECU100がROMに予め格納された着火時期算出モデルに基づいた数値演算を行うことによって算出される。この際、ステップA11で得られた各センサ出力値、機関回転数Ne及び噴射量Qがパラメータとして利用される。このように数値演算的に着火時期が取得されることにより、実際に燃料が着火する以前に、着火時期aigを取得することが可能となり、処理のリアルタイム性が好適に担保されている。尚、着火時期aigは、筒内圧センサ213によって検出される、燃料の燃焼に際したシリンダ内の圧力変化などに基づいて取得されてもよい。
噴射時期ainj及び着火時期aigが取得されると、ECU100は、着火遅れ時間Tdを算出する(ステップA13)。着火遅れ時間Tdは、噴射時期ainjと着火時期aigとの差分に相当する時間である。ここで、これら噴射時期及び着火時期は、夫々クランク角で規定されているから、差分も角度として得られる。そこで、ECU100は、機関回転数Neに基づいて、係る差分のクランク角に対応する遅延時間を算出する。算出された着火遅れ時間Tdは、RAMに一時的に格納される。
着火遅れ時間Tdが算出されると、ECU100は、噴射燃料の到達距離r1を取得する(ステップA14)。ここで、噴射燃料の到達距離とは、着火遅れ時間Tdにおいて、噴射燃料が到達する距離であり、着火遅れ時間Td、インジェクタ209の噴射圧及びシリンダ202内の圧力などに基づいて算出される。尚、ROMなどの記憶手段に、予め到達距離r1と着火遅れ時間Tdとを対応付けてなる到達距離取得用のマップが用意される場合には、ECU100は、係るマップから該当する値を読み出すことによって、或いは読み出した値に適宜補正を加えることによって到達距離r1を取得してもよい。
次に、ECU100は、インジェクタ209の噴射ノズルからシリンダ内壁までの距離r2を取得する(ステップA15)。ノズルからシリンダ内壁までの距離r2は、エンジン200毎に定まる固定値であり、予めROMに格納されている。ECU100は、ROMから距離r2の値を読み出し、RAMに一時的に格納する。
噴射燃料の到達距離r1及び距離r2を取得すると、ECU100は、両者の差分(即ち、r1−r2)である差分Rを取得する(ステップA16)。続いて、算出された差分Rがゼロより大きいか否かを判別する(ステップA17)。ここで、差分Rがゼロ以下の値である場合(ステップA17:NO)、ECU100は、噴射燃料がシリンダ内壁に到達しない、或いは到達し得たとしても壁面に付着するには至らないものとして、処理をステップA10に移行させ、一連の処理を繰り返す。
一方、差分Rがゼロより大きい値である場合(ステップA17:YES)、噴射燃料がシリンダ内壁に到達し且つ到達してから付着するのに要する有意な時間が経過しているものとして、ECU100は、着火遅れ時間Tdを減少させるべく燃料の着火時期を制御する。尚、着火遅れ時間を減少させることによって、噴射燃料の到達距離r1を減少させることができ、差分Rを少なくとも小さくする(即ち、本発明に係る「到達量を減少させる」一例)ことが可能となる。
本実施形態において、着火時期の制御は、燃料の噴射時期制御及び吸気バルブ207の閉弁時期制御によって実現される。ここで、図3を参照して、燃料の噴射時期制御の詳細について説明する。ここに、図3は、噴射時期と着火時期との相関図である。
図3において、縦軸及び横軸は、夫々着火時期及び噴射時期を表す。着火時期及び噴射時期のいずれも、上死点後クランク角(CA ATDC)によって表される。上死点後クランク角とは、上死点(TDC)を基準としたクランク角の偏差であり、例えば、図示横軸における「−20」とは、上死点よりも20度進角されたクランク位置を表す。
図示する通り、噴射時期には、着火時期に対する感度(即ち、噴射時期に対する着火時期の傾き)の低い領域である領域Bと、着火時期に対する感度の高い領域である領域A及びCが存在する。また、着火時期に対する感度の高い領域のうち領域Aに属する噴射時期では、噴射時期と着火時期とが概ねリニアな関係を保って変化する。
次に、図4を参照して、噴射時期が着火遅れに与える影響について説明する。ここに、図4は、噴射時期と着火遅れクランク角との相関図である。
図4において、縦軸及び横軸は、夫々着火遅れクランク角(即ち、噴射時期ainjと着火時期aigとの差分)及び噴射時期を表す。噴射時期に対する着火時期が図3のように推移することに伴って、噴射時期と着火遅れクランク角との関係は、図示の通りとなる。即ち、噴射時期に対する着火時期がリニアな関係を保持し得る、図3における領域Aに属する噴射時期で、着火遅れクランク角は飽和する(図示「飽和領域」参照)。一方、図3において領域Aよりも進角側の領域である領域Bに属する噴射時期では、着火時期に対する感度が低いため、噴射時期に対する着火遅れクランク角は、減少(即ち、着火遅れクランク角が小さくなる方向へ変化する)傾向を示す。反対に、図3において領域Aよりも遅角側の領域である領域Cでは、着火時期に対する感度が過剰なため、噴射時期に対する着火遅れクランク角は増加(即ち、着火遅れクランク角が大きくなる方向へ変化する)傾向を示す。
従って、着火遅れクランク角が飽和する、図示飽和領域に属する噴射時期では、着火遅れクランク角が最も小さくなり得る噴射時期Dを定義することができる。(図示D参照)。図4においては、噴射時期が上死点後クランク角にして概ね−5度付近に噴射時期Dが設定される。また、噴射時期Dの進角側及び遅角側には、着火遅れクランク角の飽和領域を規定するマージンEを定義することができる。即ち、図示「D−E」から「D+E」に至る領域に属する噴射時期では、着火遅れクランク角は飽和する。着火遅れクランク角は、着火遅れ時間とリニアな関係にあるから、燃料の噴射時期をこのような飽和領域内で決定、好適には、噴射時期Dとすることによって、着火遅れ時間は最小に制御され得る。
図2に戻り、差分Rがゼロより大きい場合、ECU100は、噴射時期ainjが、図4における飽和領域に属しているか否かを判別する(ステップA18)。噴射時期が飽和領域に属さない場合(ステップA18:NO)、ECU100は噴射時期を噴射時期Dに設定する(ステップA19)。噴射時期が噴射時期Dに設定されることによって、着火遅れ時間を噴射時期によってなし得る最小の値に設定することが可能となるため、ステップA19が行われると、処理は一旦ステップA10に復帰し、一連の処理が繰り返される。
一方、噴射時期が飽和領域に属する場合(ステップA18:YES)、厳密には噴射時期が噴射時期Dには設定されていなくとも、噴射時期制御による着火遅れ時間の短縮化はほとんど望めないため、ECU100は、吸気バルブ207の閉弁時期制御による着火時期制御を実行する。
ここで、図5を参照して、吸気バルブ閉弁時期による着火時期制御について説明する。ここに、図5は、吸気バルブ閉弁時期IVCとシリンダの圧縮端温度の相関図である。
図5において、縦軸及び横軸に夫々圧縮端温度及び吸気バルブ閉弁時期IVCが表されている。図示の通り、吸気バルブ閉弁時期IVCが進角側(図示左方向)へ向う程圧縮端温度は上昇する傾向にあり、吸気バルブ閉弁時期IVCが遅角側(図示右方向)へ向う程圧縮端温度は下降する傾向にある。即ち、吸気バルブの閉弁時期が上死点に対し進角側にある程圧縮可能な容積(圧縮シロ)及び圧縮されるガス量が増加するため、圧縮端温度が上昇するのである。
ここで、図6を参照して、吸気バルブ閉弁時期IVCが着火遅れに与える影響について説明する。ここに、図6は、吸気バルブ閉弁時期IVCと着火遅れクランク角との相関図である。
図6において、縦軸及び横軸は、夫々着火遅れクランク角及び吸気バルブ閉弁時期IVCを表す。図示の通り、吸気バルブ閉弁時期IVCが進角側に向う程、着火遅れクランク角は小さくなる、即ち、着火遅れ時間は減少する。これは、図5に示す如く進角側に設定される程圧縮端温度が上昇するためであり、燃料が反応温度に到達するのに要する時間が短くなって着火遅れ時間が減少するのである。
図2に戻り、噴射時期制御では着火遅れを短縮化し難い状況では(ステップA18:YES)、ECU100は、吸気バルブ閉弁時期IVCが上死点後クランク角にして−180度、即ち、下死点に設定されているか否かを判別する(ステップA20)。ここで、下死点は、圧縮工程の開始位置であり、圧縮端温度を最も高くし得る閉弁時期である。従って、吸気バルブ閉弁時期IVCが下死点ではない場合(ステップA20:NO)、ECU100は、アクチュエータ208を制御して、吸気バルブ閉弁時期IVCを下死点に変更する(ステップA21)。ステップA21が実行された状態は、噴射時期及び吸気バルブ閉弁時期が着火遅れ時間を最も減少させ得る時期に設定された状態であり、ステップA21が実行されると、処理は再びステップA10に移行し、一連の処理が繰り返される。一方、ステップA20において、既に吸気バルブ閉弁時期IVCが下死点に設定されている場合(ステップA20:YES)、これ以上着火遅れ時間を減少させ得ないものとして、ECU100は、処理をステップA10に移行させる。
以上説明したように、本実施形態に係る付着防止処理によれば、シリンダ内壁への燃料の付着を効率的に防止することが可能となる。
尚、付着防止処理では、吸気バルブ閉弁時期IVCの制御に優先して噴射時期制御が実行されている。この理由について、図7を参照して説明する。ここに、図7は、吸気バルブ閉弁時期IVCと吸入空気量との相関図である。
図7において、縦軸及び横軸には、夫々吸入空気量及び吸気バルブ閉弁時期IVCが表される。空気を吸入することが可能となるのは、理論的には下死点までであり、下死点を超えて圧縮工程が開始されてまで吸気バルブが開弁していると、吸入空気が吸気バルブを介して漏洩してしまいかねない。即ち、吸入空気量の最大値Mは、吸気バルブ閉弁時期IVCが下死点に設定されることによって得られると考えることができる(図示鎖線の曲線参照)。
ところが、実際のエンジン200では、吸気慣性によって、下死点よりも遅角側の吸気バルブ閉弁時期(例えば、図7では−150度)において、吸入空気量が最大値Mとなる(図示実線の曲線参照)。即ち、吸気バルブ207が開弁したまま圧縮工程が開始されても、実際には暫くは吸気バルブ207を介した空気の吸入が継続される。従って、実際には、吸気バルブ閉弁時期IVCの初期値は、下死点よりも遅角側に設定されている。
このように下死点よりも遅角側に設定された吸気バルブ閉弁時期IVCを、例えば、図2におけるステップA21によって、下死点に設定した場合には、図7に示す通り、吸入空気量が減少してしまう。そこで、このように吸気慣性の影響を考慮した上で、本実施形態に係る付着防止処理では、吸気バルブ閉弁時期による着火時期制御に優先して噴射時期による着火時期制御が実行されるのである。即ち、本実施形態に係る付着防止処理によれば、エンジン200の性能低下を招くことなく効率的に燃料の付着を防止することが可能となっているのである。
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う圧縮自着火式内燃機関の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
本発明の第1実施形態に係るエンジンシステムの模式図である。 図1のエンジンシステムにおいてECUが実行する付着防止処理のフローチャートである。 図1のエンジンシステムにおける噴射時期と着火時期との相関図である。 図1のエンジンシステムにおける噴射時期と着火遅れクランク角との相関図である。 図1のエンジンシステムにおける吸気バルブ閉弁時期と圧縮端温度との相関図である。 図1のエンジンシステムにおける吸気バルブ閉弁時期と着火遅れクランク角との相関図である。 吸気バルブ閉弁時期と吸入空気量との相関図である。
符号の説明
10…エンジンシステム、100…ECU、200…エンジン、207…吸気バルブ、208…アクチュエータ、209…インジェクタ、214…クランクポジションセンサ。

Claims (4)

  1. 燃料を噴射する噴射手段を備え且つ少なくとも吸気弁の閉弁時期が可変な圧縮自着火式内燃機関を制御するための圧縮自着火式内燃機関の制御装置であって、
    前記噴射された燃料の着火時期を特定する着火時期特定手段と、
    前記特定された着火時期と前記噴射された燃料の噴射時期との差分に対応する着火遅れ時間を特定する着火遅れ時間特定手段と、
    前記特定された着火遅れ時間に基づいて前記内燃機関の気筒内壁に前記噴射された燃料が到達するか否かを推定する推定手段と、
    前記気筒内壁に前記噴射された燃料が到達すると推定された場合に、前記着火遅れ時間が減少するように前記着火時期を制御することによって前記気筒内壁に対する前記噴射された燃料の到達量を減少させる着火時期制御手段と
    を具備することを特徴とする圧縮自着火式内燃機関の制御装置。
  2. 前記推定手段は、(i)前記噴射された燃料が前記着火遅れ時間において到達する距離及び(ii)前記噴射手段の噴射口と前記気筒内壁との距離の相対比較に基づいて前記気筒内壁に前記噴射された燃料が到達するか否かを推定する
    ことを特徴とする請求項に記載の圧縮自着火式内燃機関の制御装置。
  3. 前記着火時期制御手段は、前記燃料の噴射時期及び前記吸気弁の閉弁時期のうち少なくとも一方を変化させることによって前記着火時期を制御する
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の圧縮自着火式内燃機関の制御装置。
  4. 前記着火時期制御手段は、前記吸気弁の閉弁時期に優先して前記燃料の噴射時期を変化させる
    ことを特徴とする請求項に記載の圧縮自着火式内燃機関の制御装置。
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