JP2005061239A - 内燃機関の燃料噴射制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】パイロット燃料噴射における噴射量を迅速且つ確実に最適値へと制御することが可能な燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】メイン燃料噴射の前にパイロット燃料噴射を行う内燃機関の本発明の燃料噴射制御装置は、燃焼室内圧力を検出する筒内圧センサ29と、該筒内圧センサで検出した実際の燃焼室内圧力と機関クランク角とを用いて燃焼室内に発生した筒内発熱量に関する発熱パラメータを算出する発熱パラメータ算出手段とを具備する。パイロット燃料噴射による燃料がほとんど燃焼しており且つメイン燃料噴射による燃料がまだほとんど燃焼していないパイロット噴射燃料燃焼終了時期に、上記発熱パラメータ算出手段によって算出された発熱パラメータの値に基づいて、次回以降のパイロット燃料噴射による燃料噴射量を制御する。
【選択図】 図2
【解決手段】メイン燃料噴射の前にパイロット燃料噴射を行う内燃機関の本発明の燃料噴射制御装置は、燃焼室内圧力を検出する筒内圧センサ29と、該筒内圧センサで検出した実際の燃焼室内圧力と機関クランク角とを用いて燃焼室内に発生した筒内発熱量に関する発熱パラメータを算出する発熱パラメータ算出手段とを具備する。パイロット燃料噴射による燃料がほとんど燃焼しており且つメイン燃料噴射による燃料がまだほとんど燃焼していないパイロット噴射燃料燃焼終了時期に、上記発熱パラメータ算出手段によって算出された発熱パラメータの値に基づいて、次回以降のパイロット燃料噴射による燃料噴射量を制御する。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関し、詳細にはディーゼル機関の燃焼を最適化する燃料噴射制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の排気ガス規制の強化や騒音低減に対する要求から、ディーゼル機関においても燃焼室内での燃焼最適化の要求が高まってきている。燃焼最適化のためにはディーゼル機関においても燃料噴射量、燃料噴射時期、噴射期間などを正確に制御することが必要となる。
【0003】
しかし、ディーゼル機関では、一般に吸入空気量の調整は行わず機関負荷は燃料噴射量により制御している。従って、ディーゼル機関では理論空燃比よりかなり高いリーン空燃比領域で燃焼が行われ、しかも負荷に応じて空燃比が変化する。このため、従来ディーゼル機関では、ガソリン機関のように、空燃比を厳密に制御することは行われておらず、燃料噴射量、燃料噴射時期などの燃料噴射パラメータもガソリン機関ほどには精密な制御は行われていない。又、従来、ディーゼル機関では機関運転条件(機関回転数、機関負荷など)から燃料噴射量、噴射時期、噴射圧などの燃料噴射特性値の目標値を決定し、この目標値に応じて燃料噴射弁をオープンループ制御しているが、オープンループ制御では、実際の燃料噴射量が目標噴射量に対して誤差を生じることを防止できず、燃焼状態を目標とする状態に正確に制御することは困難であった。
【0004】
更に、排気ガス性状の改善と騒音の低減のためには、各気筒の1サイクル中に、メイン燃料噴射の前後に複数回の燃料噴射を行い、燃焼状態を最適に調整するマルチ燃料噴射が有効である。しかし、マルチ燃料噴射を行うためには、複数回の燃料噴射のそれぞれの燃料噴射量と噴射時期とを精密に制御する必要がある。また、燃焼状態改善のために最近ディーゼル機関において採用されるようになったコモンレール式高圧燃料噴射装置では、燃料噴射時間が短く、しかも噴射中に燃料噴射圧が変化する等のため、燃料噴射量に誤差を生じやすい問題がある。このため、コモンレール式高圧燃料噴射装置では燃料噴射弁の公差を小さく設定して燃料噴射精度を向上させる等の対策が取られているが、実際には燃料噴射弁は各部の摩耗などにより使用期間とともに燃料噴射特性が変化するため、オープンループ制御を行っていたのでは燃料噴射特性値を常に正確に目標値に一致させることは困難である。
【0005】
このように、ディーゼル機関では燃料噴射量などに誤差が生じやすいため最適な燃焼状態を得る目標値を設定できても、実際にその燃料噴射量を目標値に合致させることが困難な事情がある。
燃焼状態を目標とする燃焼状態に合致させるためには、実際の燃焼状態を何らかの形で検出し、実際の燃焼状態が目標とする燃焼状態に合致するように燃料噴射量や燃料噴射時期などの燃料噴射特性値をフィードバック制御することが有効である。
【0006】
このように、燃焼状態を検出して燃料噴射特性値をフィードバック制御する内燃機関の燃焼制御装置の例としては特許文献1に記載されたものがある。
【0007】
特許文献1の装置は、ディーゼル機関の燃焼騒音を計測し、計測した燃焼騒音に基づいて早期燃料噴射による噴射量、早期燃料噴射の噴射時期、メイン燃料噴射の噴射時期を補正するものである。また、燃焼騒音を検出する方法として燃焼室内圧力を検出する筒内圧センサで検出した燃焼室内圧力の2階時間微分値を用いている。
【0008】
すなわち、特許文献1の装置は実際に計測した燃焼騒音に基づいて早期燃料噴射における噴射量、噴射時期、およびメイン燃料噴射における噴射時期等をフィードバック制御することにより、燃焼騒音を常に目標レベル以下に抑制するものである。
【0009】
【特許文献1】
特開平11−247703号公報
【特許文献2】
特開平10−238395号公報
【特許文献3】
特開平11−173200号公報
【特許文献4】
特開平11−257142号公報
【特許文献5】
特開2000−205022号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、燃焼騒音には上述したように複数の燃料噴射特性(例えば、早期燃料噴射における噴射量、噴射時期、およびメイン燃料噴射における噴射量、噴射時期等)が関与しており、どの燃料噴射特性を調整すれば燃焼騒音を目標レベル以下に抑制することができるのか不明である。したがって、特許文献1の装置では、燃焼騒音を目標レベル以下に抑制するために、各燃料噴射特性を実際に調整して燃焼騒音の変化を測定し、その変化に応じて他の燃料噴射特性を設定するという試行錯誤を繰り返さなければならない。
【0011】
したがって、特許文献1の装置では、各燃料噴射特性値を最適値に制御するまでに時間がかかり、またその制御も複雑である。このため、一つの燃料噴射特性のみを迅速且つ確実に最適値に制御することが必要とされている。特に、早期燃料噴射における噴射量は、燃焼騒音に大きな影響を及ぼす燃料噴射特性であり、この噴射量を迅速且つ確実に最適値にすることが必要とされている。
【0012】
そこで、本発明は、上記問題に鑑み、早期燃料噴射における噴射量を迅速且つ確実に最適値へと制御することが可能な内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することを目的としている。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、第1の発明では、機関燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射弁を具備し、圧縮上死点近傍におけるメイン燃料噴射の前に早期燃料噴射を行う内燃機関の燃料噴射制御装置において、燃焼室内圧力を検出する筒内圧センサと、該筒内圧センサで検出した実際の燃焼室内圧力と機関クランク角とを用いて燃焼室内に発生した筒内発熱量に関する発熱パラメータを算出する発熱パラメータ算出手段とをさらに具備し、早期燃料噴射による燃料がほとんど燃焼しており且つメイン燃料噴射による燃料がまだほとんど燃焼していない早期噴射燃料燃焼終了時期に上記発熱パラメータ算出手段によって算出された発熱パラメータの値に基づいて、次回以降の早期燃料噴射による燃料噴射量を制御する。
第1の発明によれば、メイン燃料噴射による燃料がまだほとんど燃焼していない時期に発熱パラメータが算出されるため、算出された発熱パラメータは早期燃料噴射の影響のみを受けた値となっており、また、早期燃料噴射による燃料がほとんど燃焼した時期に発熱パラメータが算出されるため、算出された発熱パラメータは早期燃料噴射によって噴射された燃料のほとんど全てが燃焼した結果生じる筒内発熱量に関する値となっている。したがって、このように算出された発熱パラメータの値は早期燃料噴射における噴射量を大きく反映した値となっており、他の燃料噴射パラメータ、例えば、メイン燃料噴射の噴射時期等の影響がほとんどない値となっている。したがって、この発熱パラメータの値から早期燃料噴射における噴射量の多少を正確に判断することができ、よってこの噴射量を迅速且つ確実に最適値へと制御することができる。
なお、発熱パラメータ算出手段は、後述する実施形態では、ECUである。また、「早期燃料噴射」には、吸気行程中に行われる吸気中噴射と、メイン燃料噴射よりかなり早い時期(例えばメイン燃料噴射開始よりクランク角で20度(20°CA)以上早い時期)に行われる早期パイロット燃料噴射と、メイン燃料噴射の直前(例えば、メイン燃料噴射開始より20°CA以内)に行われる近接パイロット燃料噴射とが含まれる。
【0014】
第2の発明では、第1の発明において、上記発熱パラメータは、上記筒内圧センサで検出した燃焼室内圧力Pとクランク角θから定まる燃焼室容積Vとの積PVと、燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合のピストンの圧縮のみにより生じる燃焼室内圧力とクランク角から定まる燃焼室容積との積PVbaseとの差ΔPVである。
第2の発明において、ΔPVは、燃焼室内における燃焼によって発生した筒内発熱量を表している。すなわち、圧力と容積との積PVの値は筒内ガスのもつエネルギに対応した値であり、PVの単位時間当たりの変化量は筒内ガスに付与されたエネルギ、すなわちピストンの上昇による圧縮仕事と燃焼による発熱量との和になる。ここで、ピストンの圧縮仕事によるPVの変化量は、燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合の圧力と容積との積PVbaseとして算出されており、よって、筒内圧センサで検出した燃焼室内圧力Pとクランク角θから定まる燃焼室容積Vとの積PVとPVbaseとの差ΔPVは気筒内での燃焼による発熱量を示す。
燃焼による筒内発熱量は燃料噴射量に対応しており、また、早期噴射燃料燃焼終了時期にΔPVが算出されることにより、ΔPVの値は比較的正確に実際の早期燃料噴射における噴射量を表す値となっている。したがって、第2の発明によれば、実際の早期燃料噴射における噴射量に基づいて次回以降の噴射量を最適に制御することができる。
【0015】
第3の発明では、第1の発明において、上記発熱パラメータは、上記筒内圧センサで検出した燃焼室内圧力Pとクランク角θから定まる燃焼室容積Vの予め定めた定数κ乗との積PVκと、燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合のピストンの圧縮のみにより生じる燃焼室内圧力とクランク角から定まる燃焼室容積の上記定数κ乗との積PVκbaseとの差ΔPVκである。
第3の発明において、ΔPVκ値は、燃焼室内における燃焼によって発生した筒内発熱量を近似的に表している。すなわち、内燃機関における熱発生率dQ/dθは、下記式(1)のように表すことができる。ここで、圧縮上死点付近において行われ且つ噴射期間の短いパイロット燃料噴射では、式(1)中のV1− κを一定と近似することができる。このため、式(1)から下記式(2)を導き出すことができ、或る期間における筒内発熱量dQをその期間におけるPVκの変化量(d(PVκ))として取り出すことができる。従って、パイロット燃料噴射による燃焼前後のPVκの変化量からパイロット燃料噴射による筒内発熱量を算出することができる。
【数1】
ただし、実際には燃焼室壁面等からの燃焼室内の熱が奪われて熱損失が発生している。この熱損失分を考慮すると、パイロット燃料噴射によって増大したPVκの値と、燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合にPVκが到達していると考えられるPVκの値(PVκbase)との差分、すなわちΔPVκが燃焼室内における燃焼によって発生した筒内発熱量を近似的に表していると考えられる。なお、κはポリトロープ指数である。
【0016】
第4の発明では、第3の発明において、上記PVκbaseは、吸気弁が閉弁した後であって早期燃料噴射による燃料が燃焼を開始する前における圧縮行程中の二つの時期でのPVκの値に基づいて算出される。
気筒内のピストンの移動による圧縮および膨張を指数κのポリトロープ変化で近似することができれば、燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合のPVκの値は常に一定となる。しかしながら、上述したように熱損失が発生するため、PVκの値はクランク角θが進むにつれて徐々に減少する。このPVκの値の減少は、クランク角θに対してほぼ一定の割合で起こる。したがって、早期燃料噴射によって燃焼室内で燃焼が起こる前に、筒内圧センサに基づいて算出されたPVκの値をクランク角θの異なる2点で求めることによって、PVκbaseを比較的正確に算出することができる。
このようにPVκbaseを比較的正確に算出することができるため、このPVκbaseを用いて算出するΔPVκも比較的正確に算出することができる。
【0017】
第5の発明では、第1〜第4のいずれか一つの発明において、上記筒内圧センサで検出した燃焼室内圧力Pと、クランク角θから定まる燃焼室容積Vと、予め定めた定数κとを用いて、Vのκ乗とPとの積PVκの値を算出し、メイン燃料噴射開始以降であって、PVκが最小値となる時期、またはPVκのクランク角θに対する変化率d(PVκ)/dθが所定値を超えた時期を、上記早期噴射燃料燃焼終了時期として採用する。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を用いて本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の燃料噴射装置を自動車用ディーゼル機関に適用した場合の実施形態の概略構成を示す図である。
図1において、1は内燃機関(本実施形態では#1から#4の4つの気筒を備えた4気筒4サイクルディーゼル機関が使用される)、10aから10dは機関1の#1から#4の各気筒燃焼室に直接燃料を噴射する燃料噴射弁を示している。燃料噴射弁10aから10dは、それぞれ燃料通路(高圧燃料配管)を介して共通の蓄圧室(コモンレール)3に接続されている。コモンレール3は、高圧燃料噴射ポンプ5から供給される加圧燃料を貯留し、貯留した高圧燃料を高圧燃料配管を介して各燃料噴射弁10aから10dに分配する機能を有する。
【0019】
図1に20で示すのは、機関の制御を行う電子制御ユニット(ECU)である。ECU20は、リードオンリメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、マイクロプロセッサ(CPU)、入出力ポートを双方向バスで接続した公知の構成のマイクロコンピュータとして構成されている。ECU20は、本実施形態では、燃料ポンプ5の吐出量を制御してコモンレール3の圧力を機関運転条件に応じて定まる目標値に制御する燃料圧制御を行っている他、機関運転状態に応じて燃料噴射の噴射時期及び噴射量の目標値を設定するとともに、後述する筒内圧センサ出力に基づいて求めたパラメータを用いて燃料噴射量、噴射時期、燃料噴射圧等の燃料噴射特性値をフィードバック制御する燃料噴射制御等の機関の基本制御を行う。
【0020】
これらの制御を行うために、本実施形態ではコモンレール3にはコモンレール内燃料圧力を検出する燃料圧センサ27が設けられている他、機関1のアクセルペダル(図示せず)近傍にはアクセル開度(運転者のアクセルペダル踏み込み量)を検出するアクセル開度センサ21が設けられている。また、図1に23で示すのは機関1のカム軸の回転位相を検出するカム角センサ、25で示すのはクランク軸の回転位相を検出するクランク角センサである。カム角センサ23は、機関1のカム軸近傍に配置され、クランク回転角度に換算して720度毎に基準パルスを出力する。また、クランク角センサ25は、機関1のクランク軸近傍に配置され所定クランク回転角毎(例えば15度毎)にクランク角パルスを発生する。
【0021】
ECU20は、クランク角センサ25から入力するクランク回転角パルス信号の周波数から機関回転数を算出し、アクセル開度センサ21から入力するアクセル開度信号と、機関回転数とに基づいて燃料噴射弁10aから10dの燃料噴射時期と燃料噴射量との目標値を算出する。
【0022】
また、図1に29aから29dで示すのは、各気筒10aから10dに配置され、気筒燃焼室内の圧力を検出する公知の形式の筒内圧センサである。筒内圧センサ29aから29dで検出された各燃焼室内圧力は、ADコンバータ30を経てECU20に供給される。
【0023】
本実施形態では、コモンレール3の燃料圧力はECU20により機関運転状態に応じた圧力に制御され、例えば10MPaから150MPa程度の高圧で、しかも広い範囲で変化する。
また、本実施形態では、機関1は各気筒の行程1サイクルの間に圧縮上死点近傍で行われるメイン燃料噴射の前に気筒内に燃料を噴射する早期燃料噴射を行う。
【0024】
早期燃料噴射としては、例えば、以下の三つの燃料噴射が挙げられる。一つは、吸気中燃料噴射である。吸気中燃料噴射は吸気行程中(例えば吸気上死点付近)において行われる補助的な少量の燃料噴射である。二つ目は、早期パイロット燃料噴射である。早期パイロット燃料噴射は、圧縮行程中であってメイン燃料噴射よりかなり早い時期(例えばメイン燃料噴射開始よりクランク角で20度(20°CA)以上早い時期)に行われるパイロット燃料噴射である。
【0025】
これら吸気中燃料噴射または早期パイロット燃料噴射で噴射された燃料は予混合気を形成し、圧縮着火するためNOXやパティキュレートをほとんど生成せず、早期パイロット燃料噴射を行うことにより排気性状を向上させることができる。また、吸気中燃料噴射および早期パイロット燃料噴射は燃焼室内の温度と圧力とを上昇させ、後述する近接パイロット燃料噴射やメイン燃料噴射の着火遅れ期間を短縮するため、メイン燃料噴射による燃焼騒音やNOX生成を抑制することができる。
【0026】
また、吸気中燃料噴射および早期パイロット燃料噴射は、比較的燃焼室内の温度圧力が低い時点で行われるため、噴射量が多い場合には噴射された燃料が液状のままシリンダ壁に到達して、潤滑油希釈などの問題を起こす。このため、噴射量が多い場合には早期パイロット燃料噴射は必要とされる噴射量を分割して少量ずつ複数回に分けて噴射することによりシリンダ壁への液状燃料の到達を防止する。
【0027】
もう一つは、近接パイロット燃料噴射である。近接パイロット燃料噴射は、圧縮行程中であってメイン燃料噴射の直前(例えば、メイン燃料噴射開始より20°CA以内)に行われるパイロット燃料噴射である。近接パイロット燃料噴射は、早期パイロット燃料噴射に較べて炭化水素の発生が少なく、早期パイロット燃料噴射と同様にメイン燃料噴射の着火遅れ期間を短縮してメイン燃料噴射の騒音やNOX生成を抑制することができる。
【0028】
上記のように早期燃料噴射を行うことにより、ディーゼル機関の排気性状や騒音を改善することが可能であるが、この改善効果を得るためには早期燃料噴射における噴射量を精密に制御する必要がある。例えば、最も噴射量の精度が要求される近接パイロット燃料噴射では、1回の燃料噴射量は1.5〜2.5mm3程度に制御する必要がある。
【0029】
ところが、上述したように、燃料噴射弁には公差による個体間のばらつきや、使用期間による燃料噴射特性の変化などが生じるため、通常のオープンループ制御では燃料噴射の精度を向上させることはできず、充分に早期燃料噴射による効果を得ることはできない。
【0030】
また、例えば上述した特許文献1の装置のように燃焼騒音に基づいて燃料噴射を制御しても、早期燃料噴射における噴射量を迅速且つ正確に最適な値に制御するのは困難であるという問題がある。
【0031】
本実施形態では、筒内圧センサ29a〜29d(以下、「筒内圧センサ29」と総称する)を用いて検出した燃焼室内圧力Pとそのときの燃焼室容積Vとを用いて算出する発熱パラメータ(燃焼室内に発生した筒内発熱量に関するパラメータ)PVκやPVとを用いて早期燃料噴射の噴射量を個別に正確に制御することを可能としている。
【0032】
より詳細には、本実施形態では、以下で説明する発熱パラメータΔPVの値(以下、「ΔPV値」と称す)を算出し、算出したΔPV値に基づいて早期燃料噴射の噴射量を制御する。まず、図2を参照して、ΔPVの物理的な意味について説明する。
【0033】
図2は、早期燃料噴射を行った場合の、各気筒の圧縮行程後期から膨張行程前期における発熱パラメータのクランク角θに対する変化を示す図である(クランク角θ=0は圧縮上死点を示す)。図中、燃料噴射の噴射率が示されており、それぞれの山の面積は各燃料噴射の相対的な燃料噴射量を示している。図から分かるように、圧縮上死点近傍でメイン燃料噴射が行われ、このメイン燃料噴射に先行して早期燃料噴射が行われている。
【0034】
また、図2において、圧力Pは筒内圧センサ29で検出した実際の燃焼室内圧力のクランク角θに対する変化を示す。さらに、図2には、筒内圧センサ29で検出した燃焼室内圧力Pにクランク角θに基づいて算出された燃焼室容積Vを乗算した発熱パラメータPVのクランク角θに対する変化、および筒内圧センサ29で検出した燃焼室内圧力Pにクランク角θに基づいて算出された燃焼室容積Vをκ乗して得た値を乗算した発熱パラメータPVκのクランク角θに対する変化がそれぞれ示されている。ここで、κはポリトロープ指数である。
【0035】
ところで、燃焼室内の気体の有するエネルギは圧力と容積との積PVで表され、このPVの値の単位時間当たりの変化量は筒内ガスに付与されたエネルギ、すなわち単位時間当たりのピストンの上昇による圧縮仕事と、燃焼による筒内発熱量との和になる。
【0036】
ここで、図2に示したように、燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合の燃焼室内圧力と燃焼室容積との積をPVbaseとすると、PVbaseの変化はピストンの上下動による筒内の気体のエネルギの変化を表す。よって、筒内圧センサ29に基づいて算出されたPVとPVbaseとの差分ΔPV(=PV−PVbase)は、燃焼による筒内発熱量を意味する。
【0037】
したがって、早期燃料噴射によって噴射された燃料全てが燃焼したときのΔPVの値を算出すれば、算出したΔPVの値は早期燃料噴射による燃焼によって発生した総筒内発熱量を表す値となる。
【0038】
このようにΔPVの値が早期燃料噴射によって発生した総筒内発熱量を表すようにするためには、その算出時期が重要である。以下では、本実施形態における、ΔPVの値の算出時期について説明する。
【0039】
一般に、気筒内への燃料噴射が行われると、噴射された燃料の多くはその燃料の着火直後に燃焼するが、一部の燃料は着火直後に燃焼せずに徐々に燃焼していく。したがって、燃料の着火直後におけるΔPVの値を算出しても、算出したΔPVの値は燃料噴射において噴射された燃料のほとんど全てが燃焼した場合の総筒内発熱量に対応した値にはなっていない。このため、各燃焼噴射による総筒内発熱量を求めるためには、ΔPVの値の算出を燃料噴射後の比較的遅い時期に行うことが必要とされる。
【0040】
一方、早期燃料噴射に続くメイン燃料噴射において噴射された燃料が少しでも燃焼した時期にΔPVの値を算出すると、算出されたΔPVの値には、早期燃料噴射のみならずメイン燃料噴射による燃焼の影響が含まれてしまう。したがって、早期燃料噴射による総筒内発熱量を求める場合、ΔPVの値の算出は、メイン燃料噴射において噴射された燃料がほとんど燃焼していない時期(図2の一点鎖線)に行うことが必要とされる。
【0041】
そこで、本実施形態では、早期燃料噴射による燃料がほとんど燃焼しており且つメイン燃料噴射による燃料がまだほとんど燃焼していない時期(以下、「早期噴射燃料燃焼終了時期」と称す)におけるΔPVの値を算出する。これにより、算出したΔPVの値は早期燃料噴射による総筒内発熱量に比例した値となっている。
【0042】
具体的には、早期噴射燃料燃焼終了時期として、以下の三つの時期のいずれか一つの時期が用いられる。
【0043】
まず、一つ目の時期としては、筒内圧センサ29で検出した圧力Pとそのときの体積Vのκ乗とを乗算したPVκが、最小値をとる時期が挙げられる。
【0044】
一般に、気筒内のピストンの移動による圧縮を指数κのポリトロープ変化で近似すると、圧力Pと燃焼室容積Vとは、PVκ=C(一定値)の関係を有する。すなわち、燃焼が生じず、気筒内のガスの圧縮・膨張による仕事以外のエネルギが付与等されないポリトロープ変化では、PVκの値は常に一定となる。
ここで、κはポリトロープ指数である。ポリトロープ指数κは、予め実験などにより求めておくことができ、さらにVはθのみの関数となるため、各クランク角θの値に対してVκを予め算出しておくことも可能である。したがって、各クランク角θにおいてPVκの値は簡易な計算で算出することができる。
【0045】
ただし、実際には燃焼室壁面等から一定の割合で燃焼室内のエネルギ(熱)が奪われて熱損失が発生し、膨張による仕事以外のエネルギの放出が行われる。このため、PVκの値は、図2の早期燃焼噴射前から分かるように、時間、またはクランク角θに対して一定の割合で減少する。
【0046】
一方、燃焼室内で燃焼が生じると気筒内のガスには圧縮による仕事以外にエネルギ(熱)が加えられるため、気筒内のガスの変化はもはやポリトロープ変化ではなくなり、PVκの値は燃焼が生じている間増大を続ける。
【0047】
したがって、PVκの値は、筒内で燃焼が生じていない期間中に減少し、燃焼が開始されると増大する。すなわち、早期燃料噴射において噴射された燃料の多くが燃焼してからPVκの値は減少し、その後、メイン燃料噴射による燃焼が開始されるとPVκの値は増大する。このため、早期燃料噴射によるPVκの増加が終了してからPVκの値が最小となる時期が、早期燃料噴射による燃料がほとんど燃焼しており且つメイン燃料噴射による燃料がまだほとんど燃焼していない時期となっており、このような時期が早期噴射燃料燃焼終了時期とされる。
【0048】
ただし、PVκが最小となる時期の検出を早期燃料噴射開始前から開始すると、PVκが最小となる時期が早期燃料噴射による燃焼の直前の時期となってしまう。したがって、このような事態を避けるため、本実施形態では、早期燃料噴射による燃焼がある程度完了してから、すなわちメイン燃料噴射が開始してからPVκが最小となる時期を早期噴射燃料燃焼終了時期としている。
【0049】
実際には、一定クランク角毎にPVκの値を算出し、算出したPVκの値を前回算出したPVκの値と比較し、今回算出したPVκの値が前回算出したPVκの値よりも大きい場合、前回PVκを算出したときのクランク角度θを早期噴射燃料燃焼終了時期とする。
【0050】
二つ目の時期としては、早期燃料噴射から所定期間が経過してから、上述した発熱パラメータPVκのクランク角θに対する一次変化率(一次微分値)(以下、「PVκ微分値」と称す)が、所定値を超えた時期が挙げられる。ここで、PVκ微分値d(PVκ)/dθは、上述したように簡易な計算で算出することができる発熱パラメータPVκの値から後述するように簡単な差分計算で求めることができる。
【0051】
上述したように、燃焼室内で燃焼が生じていない場合には、PVκがクランク角θに対して一定の割合で減少するため、PVκ微分値は負の一定値となる。一方、燃焼室内で燃焼が生じている場合には、PVκが増大するため、PVκ微分値は正の値をとる。
【0052】
したがって、早期燃料噴射において噴射された燃料の多くが燃焼してからPVκ微分値は負の値をとり、その後、メイン燃料噴射による燃焼が開始されるとPVκ微分値は正の値をとる。よって、燃焼室内で燃焼が生じている場合に通常PVκ微分値がとる負の値と、燃焼室内で燃焼が生じている場合にPVκ微分値がとる正の値との間の値を閾値とすると、PVκ微分値がこの閾値を超える時期が早期燃料噴射による燃料がほとんど燃焼しており且つメイン燃料噴射による燃料がまだほとんど燃焼していない時期となっており、このような時期が早期噴射燃料燃焼終了時期とされる。なお、本実施形態では、閾値を実験等に基づいて予め所定値として定める。所定値は、例えば零である。
【0053】
三つ目の時期としては、メイン燃料噴射の開始時期と同一の時期が挙げられる。このような時期であれば、メイン燃料噴射による燃料は全く燃焼しておらず、メイン燃料噴射によるΔPVへの影響を完全に排除することができる。ただし、この場合、上述した一つ目および二つ目の時期に比べて、僅かながら時期が早い。したがって、早期燃料噴射とメイン燃料噴射との噴射間隔が短い場合、メイン燃料噴射の開始時期には早期燃料噴射によって噴射された燃料の一部がまだ燃焼していなことがある。このため、早期噴射燃料燃焼終了時期として三つ目の時期を用いるのは、早期燃料噴射とメイン燃料噴射との噴射間隔が比較的長い場合に有効である。
【0054】
なお、早期噴射燃料燃焼終了時期を上述した三つの時期のいずれの時期とした場合であっても、早期燃料噴射とメイン燃料噴射との間の噴射間隔が長いと、早期噴射燃料燃焼終了時期おけるΔPVの値は早期燃料噴射によって発生する総筒内発熱量に比例した値となりにくい。これは、燃焼室壁面等から燃焼室内のエネルギが奪われて熱損失が発生しており、早期燃料噴射とメイン燃料噴射との噴射間隔が長いと、ΔPVの値に対する熱損失の影響が大きくなることによる。すなわち、早期燃料噴射による発熱からΔPVの値の算出までの長い期間中に熱損失が起こり、算出されたΔPVの値は総筒内発熱量から熱損失分だけ小さくなった量に対応する値となってしまう。
【0055】
そこで、早期燃料噴射とメイン燃料噴射との噴射間隔が長い場合、すなわち早期燃料噴射の噴射時期と上述した早期噴射燃料燃焼終了時期との期間が予め定めた最長期間よりも長い場合には、早期噴射燃料燃焼終了時期におけるΔPVの値の代わりに、早期燃料噴射の噴射時期から所定期間が経過した時期におけるΔPVの値を用いる。これにより、早期燃料噴射とメイン燃料噴射との噴射間隔が長い場合におけるΔPVに対する熱損失の影響を抑制することができる。
【0056】
ところで、上述したように、ΔPVの値の算出にあたり、燃焼室内で燃焼が生じなかった場合の燃焼室内圧力と燃焼室容積との積PVbaseを用いている。PVbaseは、気筒内のピストンの移動による圧縮および膨張を指数κのポリトロープ変化で近似することにより、すなわちPVκ=C(一定値)とすることにより、吸気弁閉弁後であって早期燃料噴射による燃焼開始前における燃焼室内圧力と、このときの燃焼室容積とから算出することができるとも考えられる。
【0057】
しかしながら、上述したように、ポリトロープ変化では気筒内のガスの圧縮・膨張による仕事以外のエネルギが付与されないことが前提となっているが、実際には燃焼室壁面等から一定の割合で燃焼室内のエネルギ(熱)が奪われて熱損失が発生するため、燃焼室内で燃焼が生じなかった場合でも厳密にはポリトロープ変化とはなっていない。したがって、このような熱損失を考慮しつつ、燃焼室内で燃焼が生じなかった場合の燃焼室内圧力と燃焼室容積との積PVbaseを算出する必要がある。
【0058】
そこで、本実施形態では、熱損失を考慮しつつPVbaseを算出する。以下、PVbaseの算出原理について説明する。
上述したように、PVbaseは気筒内のピストンの移動による圧縮および膨張を指数κのポリトロープ変化で近似して算出されるPVから、熱損失分を減算することで求めることができる。本実施形態では、ポリトロープ変化で近似して算出される燃焼室内圧力から熱損失分を減算することで、燃焼室内で燃焼が生じなかった場合の燃焼室内圧力Pbaseを算出し、これにクランク角θから定まる燃焼室内容積Vを乗算することでPVbaseを求める。
【0059】
特定のクランク角θにおけるポリトロープ変化で近似して算出される燃焼室内圧力P(θ)refは、吸気弁閉弁後であって早期燃料噴射による燃焼開始前の任意のクランク角における筒内圧センサに基づいて算出された燃焼室内圧力をP(0)、このときの燃焼室容積をV(0)とすると、PVκ=C(一定値)の関係から、式(3)のように表される。ここで、V(θ)は上記特定のクランク角θから定まる燃焼室容積である。
【数2】
【0060】
また、熱損失による単位クランク角当たりの圧力の減少分dPloss/dθは下記式(4)のように表すことができる。式(4)中のαは比例定数であり、実験的に求めることができる。そして、この式(4)を積分することにより、下記式(5)が求められる。
【数3】
【0061】
したがって、指数κのポリトロープ変化で近似した特定のクランク角θにおける燃焼室内圧力P(θ)refは吸気弁閉弁後であって早期燃料噴射による燃焼開始前の任意のクランク角における燃焼室内圧力から算出することができ、また、熱損失分P(θ)lossは上記任意のクランク角から特定のクランク角θまでαPを積分することによって算出することができる。そして、特定のクランク角θにおけるP(θ)baseの値は、式(6)のようにポリトロープ変化で近似した特定のクランク角におけるP(θ)refから、上述したように算出した熱損失分に相当する圧力の減少分P(θ)lossを減算することによって求めることができる。
【数4】
【0062】
図3および図4は、早期燃料噴射によって噴射された燃料のほとんどが燃焼した場合における総筒内発熱量に対応したΔPV値の算出操作を示すフローチャートである。本操作は、ECU20により一定クランク角毎に実行される。
【0063】
図3および図4において、ステップ101では現在のクランク角θと、筒内圧センサ29で検出した燃焼室内圧力Pとが読み込まれる。そして、ステップ102では、クランク角θに基づいて現在の燃焼室容積Vが算出される。本実施形態では、θとVとの関係は予め計算により求められ、θを用いた一次元マップとしてECU20のROMに格納されている。ステップ102では、ステップ101で読み込んだθの値を用いてこの一次元マップから燃焼室容積Vを求める。
【0064】
次いで、ステップ103では、ステップ101で読み込んだ圧力Pとステップ102で算出した容積Vとを用いてPVκが算出される。κ(ポリトロープ指数)は予め実験的に求められ、ECU20のROMに格納されている。ステップ104は、PVκ微分値の算出操作を示す。本実施形態では、PVκ微分値d(PVκ)/dθは、今回算出したPVκの値(PVκ)iと、前回本操作実行時に算出したPVκの値(PVκ)i−1との差分として算出される。
【0065】
ステップ105では、フラグXRの値が1にセットされているか否かが判定される。フラグXRは、早期燃料噴射が行われたか否かを示すフラグであり、XR=1は早期燃料噴射が行われたことを示している。ステップ105において、早期燃料噴射が行われている(XR=1)場合にはステップ106および107が実行されない。一方、早期燃料噴射が行われていない(XR≠1)場合にはステップ106へと進む。
【0066】
ステップ106では、吸気弁が閉弁されたか否か判定される。吸気弁が閉弁されたか否かの判定は、吸気弁を駆動する吸気弁駆動装置(図示せず)へのECU20からの指令値であって開弁時期に関する指令値と、クランク角センサ25の出力とに基づいて行われる。ステップ106において吸気弁が閉弁されていないと判定された場合には、ステップ108〜114は実行されない。代わりに、ステップ107が実行される。ステップ107では、ステップ101で読み込まれた燃焼室内圧力Pの値が初期値P(0)とされ、ステップ102で算出された燃焼室容積Vの値が初期値V(0)とされる。これにより、吸気弁が閉弁されるまで、これら初期値P(0)およびV(0)が更新されるため、これら初期値はステップ108〜114が実行されるときに吸気弁が閉弁されたときの値となっている。
【0067】
一方、ステップ106において、吸気弁が閉弁されたと判定された場合にはステップ108へ進み、フラグXSの値が1に設定される。
次いで、ステップ109ではP(i)baseが算出される。すなわち、ステップ109では、上記式(6)を本操作用に変形した式(7)が実行され、燃焼室内で燃焼が生じなかった場合の燃焼室内圧力P(i)baseが算出され、ステップ112へと進む。なお、式(7)中のΔP(i−1)refbaseについては式(8)によって算出される。また、iはステップ109での処理回数を示している。
【数5】
【0068】
ステップ110および111では早期噴射燃料燃焼終了時期が判断される。
まず、ステップ110では、メイン燃料噴射が開始されたか否かが判定される。メイン燃料噴射が開始されたか否かの判定は、ECU20から各燃料噴射弁10a〜10dにメイン燃料噴射の噴射指令が送信されたか否かに基づいて行われる。ステップ110において、メイン燃料噴射が開始されていないと判定された場合には、ステップ111〜114は実行されない。一方、ステップ110において、メイン燃料噴射が開始されたと判定された場合にはステップ111へと進む。
【0069】
次いで、ステップ111では、PVκ微分値がC1以上であるか否か、すなわち、早期噴射燃料燃焼終了時期に到達したか否かが判定される。C1は、実験等に基づいて予め設定される値であり、例えば零である。メイン燃料噴射による燃焼が開始されていないと、PVκ微分値がC1より小さくなり、ステップ112およびステップ113は実行されない。一方、メイン燃焼噴射による燃焼が開始されると、PVκ微分値がC1以上となり、ステップ112へと進む。ステップ112では、ステップ101で読み込まれた燃焼室内圧力Pからステップ109で算出されたP(i)baseが減算された値に、ステップ101で読み込まれた燃焼室容積Vを乗算して、早期噴射燃料燃焼終了時期におけるΔPVの値が算出される(ΔPV←(P−P(i)base)・V)。次いで、ステップ113では、フラグXRの値が零にリセットされ、今サイクルの早期噴射燃料燃焼終了時期におけるΔPVの値の算出が終了し、次サイクルの算出が開始される。
【0070】
上述したように、図3および図4の操作を実行することにより、各サイクル毎、および各気筒毎に早期噴射燃料燃焼終了時期におけるΔPVの値が算出され、記憶される。
【0071】
次に、上述したように算出した早期噴射燃料燃焼終了時期におけるΔPV値を用いた早期燃料噴射における噴射量制御について説明する。
【0072】
本実施形態では、早期燃料噴射における噴射量はECU20により別途実行される図示しない燃料噴射量設定操作により、機関回転数およびアクセル開度等を用いて予め定められた関係に基づいて設定されている。本来この基本値の通りに実際の燃料噴射が行われれば、機関の燃焼状態は最適になる。しかし、実際には燃料噴射弁の噴射特性のばらつきや変化等により、基本値に相当する指令信号を燃料噴射弁に与えても実際の燃料噴射が基本値通りにならない。特に、早期燃料噴射における噴射量は少量であるため燃料噴射弁の噴射特性のばらつきや変化等の影響を大きく受け、したがって実際の噴射量の基本値からのずれ量も大きくなる傾向にある。
【0073】
そこで、本実施形態では、早期噴射燃料燃焼終了時期におけるΔPV値を用いて、実際の早期燃料噴射が基本値で行われるように早期燃料噴射における噴射量をフィードバック補正する。図5に、本実施形態における早期燃料噴射における噴射量の補正操作の手順を説明するフローチャートを示す。以下、このフローチャートに従って補正操作の手順を説明する。
【0074】
ステップ121では、まず早期燃料噴射における噴射量の基本値がECU20から取得される。さらに、燃料噴射弁がこの基本値に相当する指令信号を受けて早期燃料噴射を行った結果、図3および図4に示した操作によって算出されたΔPVの値を取得する。次いで、ステップ122では、ステップ121で取得した噴射量の基本値に対応する筒内発熱量、すなわちΔPVの値(以下、「基本値対応ΔPV値(ΔPVref)」と称す)が算出される。
【0075】
次いで、ステップ123において、基本値対応ΔPVの値と上記算出されたΔPVの値との差分がC2よりも大きいか否か、すなわち、早期燃料噴射における噴射量の基本値と実際の燃料噴射量とのずれが一定基準よりも大きいか否かが判定される。C1は、予め設定される値であり、許容可能なずれに対応する値である。上記差分がC2以下であると判定された場合にはステップ124は実行されない。一方、差分がC2よりも大きいと判定された場合には、ステップ124へと進み、基本値対応ΔPV値から上記算出されたΔPVの値を減算した値に基づいて、補正値が算出される。この補正値は、燃料噴射弁に指令信号を与える際に、基本値に乗算される値である。したがって、次回以降の早期燃料噴射においては、基本値に補正値を乗算した値に相当する指令信号が燃料噴射弁に与えられる。
【0076】
ところで、ディーゼル機関において燃焼騒音が起こる理由の一つとして、メイン燃料噴射時における燃焼室内の温度が低いと着火遅れ期間が長くなり、この着火遅れ期間中に混合気の形成が進み、一気に多量の燃料が燃焼することが挙げられる。しがたがって、燃焼騒音を防ぐという観点から、上述したように算出した早期噴射燃料燃焼終了時期におけるΔPVの値に基づいて早期燃料噴射による燃焼室内の温度の増分を求め、その温度の増分を一定以上にするように早期噴射燃料噴射量を調整することも考えられる。そこで、上述したように算出したΔPVの値を用いた早期燃料噴射における噴射量制御として図6に示したような制御を行ってもよい。
【0077】
ステップ141では、図3および図4に示した操作によって算出されたΔPVの値を取得する。次いで、ステップ142では、アクセル開度センサ21およびクランク角センサ25等から機関運転状態に関する運転パラメータ(例えば、機関負荷、機関回転数等)が取得される。そして、ステップ143では、ステップ142で取得した運転パラメータから、その機関運転状態において最小限必要な筒内発熱量に相当するΔPVの値(以下、「最小ΔPV値(ΔPVmin)」と称す)が算出される。各運転パラメータとΔPVminとの関係は予め実験的に求められ、各運転パラメータを引数としたマップとしてECU20のROMに格納されており、ΔPVminの算出においてはそのマップが用いられる。
【0078】
次いで、ステップ144において、ステップ141で取得したΔPVの値が、ステップ143で算出したΔPVminの値よりも小さいか否か、すなわち、早期噴射燃料によって発生した筒内発熱量がその機関運転状態において最小限必要な筒内発熱量よりも小さいか否かが判定される。早期燃料噴射によって発生した筒内発熱量が最小限必要な筒内発熱量以上である場合(ΔPV≧ΔPVmin)にはステップ145が実行されない。一方、早期燃料噴射によって発生した筒内発熱量が最小限必要な筒内発熱量よりも小さい場合(ΔPV<ΔPVmin)には、ステップ145へと進む。ステップ145では、ΔPVminとΔPVとの差分(ΔPVmin−ΔPV)に対応した量だけ次回の燃料噴射量が増量補正される。
【0079】
次に、本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態の装置は、基本的に第一実施形態と同様であるが、筒内発熱量をΔPVではなく、後述するΔPVκから求めている。
【0080】
ところで、内燃機関における単位クランク角当たりの筒内発熱量、すなわち熱発生率dQは下記式(9)のように表せる。
【数6】
ここで、圧縮上死点付近において行われ且つ噴射期間の短い早期燃料噴射では、V1− κの変化が小さく、したがってV1− κを一定と近似することができる。この場合、式(9)を積分して下記式(10)を導き出すことができる。したがって、筒内発熱量をPVκの値から求めることができる。
【数7】
【0081】
このため、燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合の燃焼室内圧力と燃焼室内容積のκ乗との積をPVκbaseとすると、筒内圧センサ29に基づいて算出されたPVκからPVκbaseを減算した値ΔPVκは、燃焼による筒内発熱量に対応した値となる(ΔPVκ=PVκ−PVκbase)。したがって、早期噴射燃料燃焼終了時期におけるΔPVκ値を算出すれば、算出したΔPVκ値は早期燃料噴射による燃焼によって発生した総筒内発熱量に対応する値となる。
【0082】
ここで、PVκbaseの算出方法について説明する。上述したように、気筒内のピストンの移動による圧縮および膨張を指数κのポリトロープ変化で近似することができれば、燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合のPVκ値は常に一定となる。しかしながら、上述したように、燃焼室壁面等から燃焼室内のエネルギ(熱)が奪われて熱損失が発生するため、PVκ値はクランク角θが進むにつれて徐々に小さくなる。このPVκ値の減少は、クランク角θに対して一定の割合で起こるため、図2に示したようにPVκbaseは直線的に近似できる。
【0083】
そこで、本実施形態では、吸気弁閉弁後であって早期燃料噴射による燃焼開始前におけるPVκ値とこのときのクランク角との関係を、クランク角の異なる2点で取得する。そして、このように取得したPVκ値とクランク角との関係に基づき、外挿法により図2に示したようなPVκbaseの直線の式が求める。
【0084】
一般に、燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合のPVκ値の変化は緩慢であり、また、上述したPVκbaseの算出方法では、燃焼室壁面等からの熱損失分を上述したPVbaseを算出したときのように完全な近似によって求めているのではなく、実際の検出値に基づいて算出しているため、PVκbaseの直線は比較的精度よく燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合のPVκの変化を表している。
【0085】
上述したPVbaseの算出方法では、燃焼室壁面等からの熱損失分は完全な近似によって算出されているため、PVκbaseの算出精度はPVbaseの算出精度よりも高い。このため、場合によっては、ΔPVκの算出精度はΔPVの算出精度よりも高い。ただし、上述したようにΔPVκと筒内発熱量とは、圧縮上死点付近において行われ且つ噴射期間の短い早期燃料噴射を行ったときにのみ式(10)に示したような関係となるため、このような早期燃料噴射を行ったときに本実施形態を利用するが好ましい。
【0086】
【発明の効果】
本発明によれば、発熱パラメータの値から早期燃料噴射における噴射量の多少を正確に判断することができ、よってその噴射量を迅速且つ確実に最適値へと制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を自動車用4気筒ディーゼル機関に適用した実施形態の概略構成を示す図である。
【図2】早期燃料噴射を行った場合の燃焼パラメータのクランク角θに対する変化を示す図である。
【図3】早期燃料噴射によって噴射された燃料のほとんどが燃焼した場合における総筒内発熱量に対応したΔPV値の算出操作を示すフローチャートの一部である。
【図4】早期燃料噴射によって噴射された燃料のほとんどが燃焼した場合における総筒内発熱量に対応したΔPV値の算出操作を示すフローチャートの一部である。
【図5】早期燃料噴射における噴射量の補正操作の手順を説明するフローチャートである。
【図6】図5に示した手順とは別の早期燃料噴射における噴射量の補正操作の手順を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
1…ディーゼル機関
3…コモンレール
10a〜10d…筒内燃料噴射弁
20…電子制御ユニット(ECU)
21…アクセル開度センサ
25…クランク角センサ
29a〜29d…筒内圧センサ
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の燃料噴射制御装置に関し、詳細にはディーゼル機関の燃焼を最適化する燃料噴射制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の排気ガス規制の強化や騒音低減に対する要求から、ディーゼル機関においても燃焼室内での燃焼最適化の要求が高まってきている。燃焼最適化のためにはディーゼル機関においても燃料噴射量、燃料噴射時期、噴射期間などを正確に制御することが必要となる。
【0003】
しかし、ディーゼル機関では、一般に吸入空気量の調整は行わず機関負荷は燃料噴射量により制御している。従って、ディーゼル機関では理論空燃比よりかなり高いリーン空燃比領域で燃焼が行われ、しかも負荷に応じて空燃比が変化する。このため、従来ディーゼル機関では、ガソリン機関のように、空燃比を厳密に制御することは行われておらず、燃料噴射量、燃料噴射時期などの燃料噴射パラメータもガソリン機関ほどには精密な制御は行われていない。又、従来、ディーゼル機関では機関運転条件(機関回転数、機関負荷など)から燃料噴射量、噴射時期、噴射圧などの燃料噴射特性値の目標値を決定し、この目標値に応じて燃料噴射弁をオープンループ制御しているが、オープンループ制御では、実際の燃料噴射量が目標噴射量に対して誤差を生じることを防止できず、燃焼状態を目標とする状態に正確に制御することは困難であった。
【0004】
更に、排気ガス性状の改善と騒音の低減のためには、各気筒の1サイクル中に、メイン燃料噴射の前後に複数回の燃料噴射を行い、燃焼状態を最適に調整するマルチ燃料噴射が有効である。しかし、マルチ燃料噴射を行うためには、複数回の燃料噴射のそれぞれの燃料噴射量と噴射時期とを精密に制御する必要がある。また、燃焼状態改善のために最近ディーゼル機関において採用されるようになったコモンレール式高圧燃料噴射装置では、燃料噴射時間が短く、しかも噴射中に燃料噴射圧が変化する等のため、燃料噴射量に誤差を生じやすい問題がある。このため、コモンレール式高圧燃料噴射装置では燃料噴射弁の公差を小さく設定して燃料噴射精度を向上させる等の対策が取られているが、実際には燃料噴射弁は各部の摩耗などにより使用期間とともに燃料噴射特性が変化するため、オープンループ制御を行っていたのでは燃料噴射特性値を常に正確に目標値に一致させることは困難である。
【0005】
このように、ディーゼル機関では燃料噴射量などに誤差が生じやすいため最適な燃焼状態を得る目標値を設定できても、実際にその燃料噴射量を目標値に合致させることが困難な事情がある。
燃焼状態を目標とする燃焼状態に合致させるためには、実際の燃焼状態を何らかの形で検出し、実際の燃焼状態が目標とする燃焼状態に合致するように燃料噴射量や燃料噴射時期などの燃料噴射特性値をフィードバック制御することが有効である。
【0006】
このように、燃焼状態を検出して燃料噴射特性値をフィードバック制御する内燃機関の燃焼制御装置の例としては特許文献1に記載されたものがある。
【0007】
特許文献1の装置は、ディーゼル機関の燃焼騒音を計測し、計測した燃焼騒音に基づいて早期燃料噴射による噴射量、早期燃料噴射の噴射時期、メイン燃料噴射の噴射時期を補正するものである。また、燃焼騒音を検出する方法として燃焼室内圧力を検出する筒内圧センサで検出した燃焼室内圧力の2階時間微分値を用いている。
【0008】
すなわち、特許文献1の装置は実際に計測した燃焼騒音に基づいて早期燃料噴射における噴射量、噴射時期、およびメイン燃料噴射における噴射時期等をフィードバック制御することにより、燃焼騒音を常に目標レベル以下に抑制するものである。
【0009】
【特許文献1】
特開平11−247703号公報
【特許文献2】
特開平10−238395号公報
【特許文献3】
特開平11−173200号公報
【特許文献4】
特開平11−257142号公報
【特許文献5】
特開2000−205022号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、燃焼騒音には上述したように複数の燃料噴射特性(例えば、早期燃料噴射における噴射量、噴射時期、およびメイン燃料噴射における噴射量、噴射時期等)が関与しており、どの燃料噴射特性を調整すれば燃焼騒音を目標レベル以下に抑制することができるのか不明である。したがって、特許文献1の装置では、燃焼騒音を目標レベル以下に抑制するために、各燃料噴射特性を実際に調整して燃焼騒音の変化を測定し、その変化に応じて他の燃料噴射特性を設定するという試行錯誤を繰り返さなければならない。
【0011】
したがって、特許文献1の装置では、各燃料噴射特性値を最適値に制御するまでに時間がかかり、またその制御も複雑である。このため、一つの燃料噴射特性のみを迅速且つ確実に最適値に制御することが必要とされている。特に、早期燃料噴射における噴射量は、燃焼騒音に大きな影響を及ぼす燃料噴射特性であり、この噴射量を迅速且つ確実に最適値にすることが必要とされている。
【0012】
そこで、本発明は、上記問題に鑑み、早期燃料噴射における噴射量を迅速且つ確実に最適値へと制御することが可能な内燃機関の燃料噴射制御装置を提供することを目的としている。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、第1の発明では、機関燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射弁を具備し、圧縮上死点近傍におけるメイン燃料噴射の前に早期燃料噴射を行う内燃機関の燃料噴射制御装置において、燃焼室内圧力を検出する筒内圧センサと、該筒内圧センサで検出した実際の燃焼室内圧力と機関クランク角とを用いて燃焼室内に発生した筒内発熱量に関する発熱パラメータを算出する発熱パラメータ算出手段とをさらに具備し、早期燃料噴射による燃料がほとんど燃焼しており且つメイン燃料噴射による燃料がまだほとんど燃焼していない早期噴射燃料燃焼終了時期に上記発熱パラメータ算出手段によって算出された発熱パラメータの値に基づいて、次回以降の早期燃料噴射による燃料噴射量を制御する。
第1の発明によれば、メイン燃料噴射による燃料がまだほとんど燃焼していない時期に発熱パラメータが算出されるため、算出された発熱パラメータは早期燃料噴射の影響のみを受けた値となっており、また、早期燃料噴射による燃料がほとんど燃焼した時期に発熱パラメータが算出されるため、算出された発熱パラメータは早期燃料噴射によって噴射された燃料のほとんど全てが燃焼した結果生じる筒内発熱量に関する値となっている。したがって、このように算出された発熱パラメータの値は早期燃料噴射における噴射量を大きく反映した値となっており、他の燃料噴射パラメータ、例えば、メイン燃料噴射の噴射時期等の影響がほとんどない値となっている。したがって、この発熱パラメータの値から早期燃料噴射における噴射量の多少を正確に判断することができ、よってこの噴射量を迅速且つ確実に最適値へと制御することができる。
なお、発熱パラメータ算出手段は、後述する実施形態では、ECUである。また、「早期燃料噴射」には、吸気行程中に行われる吸気中噴射と、メイン燃料噴射よりかなり早い時期(例えばメイン燃料噴射開始よりクランク角で20度(20°CA)以上早い時期)に行われる早期パイロット燃料噴射と、メイン燃料噴射の直前(例えば、メイン燃料噴射開始より20°CA以内)に行われる近接パイロット燃料噴射とが含まれる。
【0014】
第2の発明では、第1の発明において、上記発熱パラメータは、上記筒内圧センサで検出した燃焼室内圧力Pとクランク角θから定まる燃焼室容積Vとの積PVと、燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合のピストンの圧縮のみにより生じる燃焼室内圧力とクランク角から定まる燃焼室容積との積PVbaseとの差ΔPVである。
第2の発明において、ΔPVは、燃焼室内における燃焼によって発生した筒内発熱量を表している。すなわち、圧力と容積との積PVの値は筒内ガスのもつエネルギに対応した値であり、PVの単位時間当たりの変化量は筒内ガスに付与されたエネルギ、すなわちピストンの上昇による圧縮仕事と燃焼による発熱量との和になる。ここで、ピストンの圧縮仕事によるPVの変化量は、燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合の圧力と容積との積PVbaseとして算出されており、よって、筒内圧センサで検出した燃焼室内圧力Pとクランク角θから定まる燃焼室容積Vとの積PVとPVbaseとの差ΔPVは気筒内での燃焼による発熱量を示す。
燃焼による筒内発熱量は燃料噴射量に対応しており、また、早期噴射燃料燃焼終了時期にΔPVが算出されることにより、ΔPVの値は比較的正確に実際の早期燃料噴射における噴射量を表す値となっている。したがって、第2の発明によれば、実際の早期燃料噴射における噴射量に基づいて次回以降の噴射量を最適に制御することができる。
【0015】
第3の発明では、第1の発明において、上記発熱パラメータは、上記筒内圧センサで検出した燃焼室内圧力Pとクランク角θから定まる燃焼室容積Vの予め定めた定数κ乗との積PVκと、燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合のピストンの圧縮のみにより生じる燃焼室内圧力とクランク角から定まる燃焼室容積の上記定数κ乗との積PVκbaseとの差ΔPVκである。
第3の発明において、ΔPVκ値は、燃焼室内における燃焼によって発生した筒内発熱量を近似的に表している。すなわち、内燃機関における熱発生率dQ/dθは、下記式(1)のように表すことができる。ここで、圧縮上死点付近において行われ且つ噴射期間の短いパイロット燃料噴射では、式(1)中のV1− κを一定と近似することができる。このため、式(1)から下記式(2)を導き出すことができ、或る期間における筒内発熱量dQをその期間におけるPVκの変化量(d(PVκ))として取り出すことができる。従って、パイロット燃料噴射による燃焼前後のPVκの変化量からパイロット燃料噴射による筒内発熱量を算出することができる。
【数1】
ただし、実際には燃焼室壁面等からの燃焼室内の熱が奪われて熱損失が発生している。この熱損失分を考慮すると、パイロット燃料噴射によって増大したPVκの値と、燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合にPVκが到達していると考えられるPVκの値(PVκbase)との差分、すなわちΔPVκが燃焼室内における燃焼によって発生した筒内発熱量を近似的に表していると考えられる。なお、κはポリトロープ指数である。
【0016】
第4の発明では、第3の発明において、上記PVκbaseは、吸気弁が閉弁した後であって早期燃料噴射による燃料が燃焼を開始する前における圧縮行程中の二つの時期でのPVκの値に基づいて算出される。
気筒内のピストンの移動による圧縮および膨張を指数κのポリトロープ変化で近似することができれば、燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合のPVκの値は常に一定となる。しかしながら、上述したように熱損失が発生するため、PVκの値はクランク角θが進むにつれて徐々に減少する。このPVκの値の減少は、クランク角θに対してほぼ一定の割合で起こる。したがって、早期燃料噴射によって燃焼室内で燃焼が起こる前に、筒内圧センサに基づいて算出されたPVκの値をクランク角θの異なる2点で求めることによって、PVκbaseを比較的正確に算出することができる。
このようにPVκbaseを比較的正確に算出することができるため、このPVκbaseを用いて算出するΔPVκも比較的正確に算出することができる。
【0017】
第5の発明では、第1〜第4のいずれか一つの発明において、上記筒内圧センサで検出した燃焼室内圧力Pと、クランク角θから定まる燃焼室容積Vと、予め定めた定数κとを用いて、Vのκ乗とPとの積PVκの値を算出し、メイン燃料噴射開始以降であって、PVκが最小値となる時期、またはPVκのクランク角θに対する変化率d(PVκ)/dθが所定値を超えた時期を、上記早期噴射燃料燃焼終了時期として採用する。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を用いて本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の燃料噴射装置を自動車用ディーゼル機関に適用した場合の実施形態の概略構成を示す図である。
図1において、1は内燃機関(本実施形態では#1から#4の4つの気筒を備えた4気筒4サイクルディーゼル機関が使用される)、10aから10dは機関1の#1から#4の各気筒燃焼室に直接燃料を噴射する燃料噴射弁を示している。燃料噴射弁10aから10dは、それぞれ燃料通路(高圧燃料配管)を介して共通の蓄圧室(コモンレール)3に接続されている。コモンレール3は、高圧燃料噴射ポンプ5から供給される加圧燃料を貯留し、貯留した高圧燃料を高圧燃料配管を介して各燃料噴射弁10aから10dに分配する機能を有する。
【0019】
図1に20で示すのは、機関の制御を行う電子制御ユニット(ECU)である。ECU20は、リードオンリメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、マイクロプロセッサ(CPU)、入出力ポートを双方向バスで接続した公知の構成のマイクロコンピュータとして構成されている。ECU20は、本実施形態では、燃料ポンプ5の吐出量を制御してコモンレール3の圧力を機関運転条件に応じて定まる目標値に制御する燃料圧制御を行っている他、機関運転状態に応じて燃料噴射の噴射時期及び噴射量の目標値を設定するとともに、後述する筒内圧センサ出力に基づいて求めたパラメータを用いて燃料噴射量、噴射時期、燃料噴射圧等の燃料噴射特性値をフィードバック制御する燃料噴射制御等の機関の基本制御を行う。
【0020】
これらの制御を行うために、本実施形態ではコモンレール3にはコモンレール内燃料圧力を検出する燃料圧センサ27が設けられている他、機関1のアクセルペダル(図示せず)近傍にはアクセル開度(運転者のアクセルペダル踏み込み量)を検出するアクセル開度センサ21が設けられている。また、図1に23で示すのは機関1のカム軸の回転位相を検出するカム角センサ、25で示すのはクランク軸の回転位相を検出するクランク角センサである。カム角センサ23は、機関1のカム軸近傍に配置され、クランク回転角度に換算して720度毎に基準パルスを出力する。また、クランク角センサ25は、機関1のクランク軸近傍に配置され所定クランク回転角毎(例えば15度毎)にクランク角パルスを発生する。
【0021】
ECU20は、クランク角センサ25から入力するクランク回転角パルス信号の周波数から機関回転数を算出し、アクセル開度センサ21から入力するアクセル開度信号と、機関回転数とに基づいて燃料噴射弁10aから10dの燃料噴射時期と燃料噴射量との目標値を算出する。
【0022】
また、図1に29aから29dで示すのは、各気筒10aから10dに配置され、気筒燃焼室内の圧力を検出する公知の形式の筒内圧センサである。筒内圧センサ29aから29dで検出された各燃焼室内圧力は、ADコンバータ30を経てECU20に供給される。
【0023】
本実施形態では、コモンレール3の燃料圧力はECU20により機関運転状態に応じた圧力に制御され、例えば10MPaから150MPa程度の高圧で、しかも広い範囲で変化する。
また、本実施形態では、機関1は各気筒の行程1サイクルの間に圧縮上死点近傍で行われるメイン燃料噴射の前に気筒内に燃料を噴射する早期燃料噴射を行う。
【0024】
早期燃料噴射としては、例えば、以下の三つの燃料噴射が挙げられる。一つは、吸気中燃料噴射である。吸気中燃料噴射は吸気行程中(例えば吸気上死点付近)において行われる補助的な少量の燃料噴射である。二つ目は、早期パイロット燃料噴射である。早期パイロット燃料噴射は、圧縮行程中であってメイン燃料噴射よりかなり早い時期(例えばメイン燃料噴射開始よりクランク角で20度(20°CA)以上早い時期)に行われるパイロット燃料噴射である。
【0025】
これら吸気中燃料噴射または早期パイロット燃料噴射で噴射された燃料は予混合気を形成し、圧縮着火するためNOXやパティキュレートをほとんど生成せず、早期パイロット燃料噴射を行うことにより排気性状を向上させることができる。また、吸気中燃料噴射および早期パイロット燃料噴射は燃焼室内の温度と圧力とを上昇させ、後述する近接パイロット燃料噴射やメイン燃料噴射の着火遅れ期間を短縮するため、メイン燃料噴射による燃焼騒音やNOX生成を抑制することができる。
【0026】
また、吸気中燃料噴射および早期パイロット燃料噴射は、比較的燃焼室内の温度圧力が低い時点で行われるため、噴射量が多い場合には噴射された燃料が液状のままシリンダ壁に到達して、潤滑油希釈などの問題を起こす。このため、噴射量が多い場合には早期パイロット燃料噴射は必要とされる噴射量を分割して少量ずつ複数回に分けて噴射することによりシリンダ壁への液状燃料の到達を防止する。
【0027】
もう一つは、近接パイロット燃料噴射である。近接パイロット燃料噴射は、圧縮行程中であってメイン燃料噴射の直前(例えば、メイン燃料噴射開始より20°CA以内)に行われるパイロット燃料噴射である。近接パイロット燃料噴射は、早期パイロット燃料噴射に較べて炭化水素の発生が少なく、早期パイロット燃料噴射と同様にメイン燃料噴射の着火遅れ期間を短縮してメイン燃料噴射の騒音やNOX生成を抑制することができる。
【0028】
上記のように早期燃料噴射を行うことにより、ディーゼル機関の排気性状や騒音を改善することが可能であるが、この改善効果を得るためには早期燃料噴射における噴射量を精密に制御する必要がある。例えば、最も噴射量の精度が要求される近接パイロット燃料噴射では、1回の燃料噴射量は1.5〜2.5mm3程度に制御する必要がある。
【0029】
ところが、上述したように、燃料噴射弁には公差による個体間のばらつきや、使用期間による燃料噴射特性の変化などが生じるため、通常のオープンループ制御では燃料噴射の精度を向上させることはできず、充分に早期燃料噴射による効果を得ることはできない。
【0030】
また、例えば上述した特許文献1の装置のように燃焼騒音に基づいて燃料噴射を制御しても、早期燃料噴射における噴射量を迅速且つ正確に最適な値に制御するのは困難であるという問題がある。
【0031】
本実施形態では、筒内圧センサ29a〜29d(以下、「筒内圧センサ29」と総称する)を用いて検出した燃焼室内圧力Pとそのときの燃焼室容積Vとを用いて算出する発熱パラメータ(燃焼室内に発生した筒内発熱量に関するパラメータ)PVκやPVとを用いて早期燃料噴射の噴射量を個別に正確に制御することを可能としている。
【0032】
より詳細には、本実施形態では、以下で説明する発熱パラメータΔPVの値(以下、「ΔPV値」と称す)を算出し、算出したΔPV値に基づいて早期燃料噴射の噴射量を制御する。まず、図2を参照して、ΔPVの物理的な意味について説明する。
【0033】
図2は、早期燃料噴射を行った場合の、各気筒の圧縮行程後期から膨張行程前期における発熱パラメータのクランク角θに対する変化を示す図である(クランク角θ=0は圧縮上死点を示す)。図中、燃料噴射の噴射率が示されており、それぞれの山の面積は各燃料噴射の相対的な燃料噴射量を示している。図から分かるように、圧縮上死点近傍でメイン燃料噴射が行われ、このメイン燃料噴射に先行して早期燃料噴射が行われている。
【0034】
また、図2において、圧力Pは筒内圧センサ29で検出した実際の燃焼室内圧力のクランク角θに対する変化を示す。さらに、図2には、筒内圧センサ29で検出した燃焼室内圧力Pにクランク角θに基づいて算出された燃焼室容積Vを乗算した発熱パラメータPVのクランク角θに対する変化、および筒内圧センサ29で検出した燃焼室内圧力Pにクランク角θに基づいて算出された燃焼室容積Vをκ乗して得た値を乗算した発熱パラメータPVκのクランク角θに対する変化がそれぞれ示されている。ここで、κはポリトロープ指数である。
【0035】
ところで、燃焼室内の気体の有するエネルギは圧力と容積との積PVで表され、このPVの値の単位時間当たりの変化量は筒内ガスに付与されたエネルギ、すなわち単位時間当たりのピストンの上昇による圧縮仕事と、燃焼による筒内発熱量との和になる。
【0036】
ここで、図2に示したように、燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合の燃焼室内圧力と燃焼室容積との積をPVbaseとすると、PVbaseの変化はピストンの上下動による筒内の気体のエネルギの変化を表す。よって、筒内圧センサ29に基づいて算出されたPVとPVbaseとの差分ΔPV(=PV−PVbase)は、燃焼による筒内発熱量を意味する。
【0037】
したがって、早期燃料噴射によって噴射された燃料全てが燃焼したときのΔPVの値を算出すれば、算出したΔPVの値は早期燃料噴射による燃焼によって発生した総筒内発熱量を表す値となる。
【0038】
このようにΔPVの値が早期燃料噴射によって発生した総筒内発熱量を表すようにするためには、その算出時期が重要である。以下では、本実施形態における、ΔPVの値の算出時期について説明する。
【0039】
一般に、気筒内への燃料噴射が行われると、噴射された燃料の多くはその燃料の着火直後に燃焼するが、一部の燃料は着火直後に燃焼せずに徐々に燃焼していく。したがって、燃料の着火直後におけるΔPVの値を算出しても、算出したΔPVの値は燃料噴射において噴射された燃料のほとんど全てが燃焼した場合の総筒内発熱量に対応した値にはなっていない。このため、各燃焼噴射による総筒内発熱量を求めるためには、ΔPVの値の算出を燃料噴射後の比較的遅い時期に行うことが必要とされる。
【0040】
一方、早期燃料噴射に続くメイン燃料噴射において噴射された燃料が少しでも燃焼した時期にΔPVの値を算出すると、算出されたΔPVの値には、早期燃料噴射のみならずメイン燃料噴射による燃焼の影響が含まれてしまう。したがって、早期燃料噴射による総筒内発熱量を求める場合、ΔPVの値の算出は、メイン燃料噴射において噴射された燃料がほとんど燃焼していない時期(図2の一点鎖線)に行うことが必要とされる。
【0041】
そこで、本実施形態では、早期燃料噴射による燃料がほとんど燃焼しており且つメイン燃料噴射による燃料がまだほとんど燃焼していない時期(以下、「早期噴射燃料燃焼終了時期」と称す)におけるΔPVの値を算出する。これにより、算出したΔPVの値は早期燃料噴射による総筒内発熱量に比例した値となっている。
【0042】
具体的には、早期噴射燃料燃焼終了時期として、以下の三つの時期のいずれか一つの時期が用いられる。
【0043】
まず、一つ目の時期としては、筒内圧センサ29で検出した圧力Pとそのときの体積Vのκ乗とを乗算したPVκが、最小値をとる時期が挙げられる。
【0044】
一般に、気筒内のピストンの移動による圧縮を指数κのポリトロープ変化で近似すると、圧力Pと燃焼室容積Vとは、PVκ=C(一定値)の関係を有する。すなわち、燃焼が生じず、気筒内のガスの圧縮・膨張による仕事以外のエネルギが付与等されないポリトロープ変化では、PVκの値は常に一定となる。
ここで、κはポリトロープ指数である。ポリトロープ指数κは、予め実験などにより求めておくことができ、さらにVはθのみの関数となるため、各クランク角θの値に対してVκを予め算出しておくことも可能である。したがって、各クランク角θにおいてPVκの値は簡易な計算で算出することができる。
【0045】
ただし、実際には燃焼室壁面等から一定の割合で燃焼室内のエネルギ(熱)が奪われて熱損失が発生し、膨張による仕事以外のエネルギの放出が行われる。このため、PVκの値は、図2の早期燃焼噴射前から分かるように、時間、またはクランク角θに対して一定の割合で減少する。
【0046】
一方、燃焼室内で燃焼が生じると気筒内のガスには圧縮による仕事以外にエネルギ(熱)が加えられるため、気筒内のガスの変化はもはやポリトロープ変化ではなくなり、PVκの値は燃焼が生じている間増大を続ける。
【0047】
したがって、PVκの値は、筒内で燃焼が生じていない期間中に減少し、燃焼が開始されると増大する。すなわち、早期燃料噴射において噴射された燃料の多くが燃焼してからPVκの値は減少し、その後、メイン燃料噴射による燃焼が開始されるとPVκの値は増大する。このため、早期燃料噴射によるPVκの増加が終了してからPVκの値が最小となる時期が、早期燃料噴射による燃料がほとんど燃焼しており且つメイン燃料噴射による燃料がまだほとんど燃焼していない時期となっており、このような時期が早期噴射燃料燃焼終了時期とされる。
【0048】
ただし、PVκが最小となる時期の検出を早期燃料噴射開始前から開始すると、PVκが最小となる時期が早期燃料噴射による燃焼の直前の時期となってしまう。したがって、このような事態を避けるため、本実施形態では、早期燃料噴射による燃焼がある程度完了してから、すなわちメイン燃料噴射が開始してからPVκが最小となる時期を早期噴射燃料燃焼終了時期としている。
【0049】
実際には、一定クランク角毎にPVκの値を算出し、算出したPVκの値を前回算出したPVκの値と比較し、今回算出したPVκの値が前回算出したPVκの値よりも大きい場合、前回PVκを算出したときのクランク角度θを早期噴射燃料燃焼終了時期とする。
【0050】
二つ目の時期としては、早期燃料噴射から所定期間が経過してから、上述した発熱パラメータPVκのクランク角θに対する一次変化率(一次微分値)(以下、「PVκ微分値」と称す)が、所定値を超えた時期が挙げられる。ここで、PVκ微分値d(PVκ)/dθは、上述したように簡易な計算で算出することができる発熱パラメータPVκの値から後述するように簡単な差分計算で求めることができる。
【0051】
上述したように、燃焼室内で燃焼が生じていない場合には、PVκがクランク角θに対して一定の割合で減少するため、PVκ微分値は負の一定値となる。一方、燃焼室内で燃焼が生じている場合には、PVκが増大するため、PVκ微分値は正の値をとる。
【0052】
したがって、早期燃料噴射において噴射された燃料の多くが燃焼してからPVκ微分値は負の値をとり、その後、メイン燃料噴射による燃焼が開始されるとPVκ微分値は正の値をとる。よって、燃焼室内で燃焼が生じている場合に通常PVκ微分値がとる負の値と、燃焼室内で燃焼が生じている場合にPVκ微分値がとる正の値との間の値を閾値とすると、PVκ微分値がこの閾値を超える時期が早期燃料噴射による燃料がほとんど燃焼しており且つメイン燃料噴射による燃料がまだほとんど燃焼していない時期となっており、このような時期が早期噴射燃料燃焼終了時期とされる。なお、本実施形態では、閾値を実験等に基づいて予め所定値として定める。所定値は、例えば零である。
【0053】
三つ目の時期としては、メイン燃料噴射の開始時期と同一の時期が挙げられる。このような時期であれば、メイン燃料噴射による燃料は全く燃焼しておらず、メイン燃料噴射によるΔPVへの影響を完全に排除することができる。ただし、この場合、上述した一つ目および二つ目の時期に比べて、僅かながら時期が早い。したがって、早期燃料噴射とメイン燃料噴射との噴射間隔が短い場合、メイン燃料噴射の開始時期には早期燃料噴射によって噴射された燃料の一部がまだ燃焼していなことがある。このため、早期噴射燃料燃焼終了時期として三つ目の時期を用いるのは、早期燃料噴射とメイン燃料噴射との噴射間隔が比較的長い場合に有効である。
【0054】
なお、早期噴射燃料燃焼終了時期を上述した三つの時期のいずれの時期とした場合であっても、早期燃料噴射とメイン燃料噴射との間の噴射間隔が長いと、早期噴射燃料燃焼終了時期おけるΔPVの値は早期燃料噴射によって発生する総筒内発熱量に比例した値となりにくい。これは、燃焼室壁面等から燃焼室内のエネルギが奪われて熱損失が発生しており、早期燃料噴射とメイン燃料噴射との噴射間隔が長いと、ΔPVの値に対する熱損失の影響が大きくなることによる。すなわち、早期燃料噴射による発熱からΔPVの値の算出までの長い期間中に熱損失が起こり、算出されたΔPVの値は総筒内発熱量から熱損失分だけ小さくなった量に対応する値となってしまう。
【0055】
そこで、早期燃料噴射とメイン燃料噴射との噴射間隔が長い場合、すなわち早期燃料噴射の噴射時期と上述した早期噴射燃料燃焼終了時期との期間が予め定めた最長期間よりも長い場合には、早期噴射燃料燃焼終了時期におけるΔPVの値の代わりに、早期燃料噴射の噴射時期から所定期間が経過した時期におけるΔPVの値を用いる。これにより、早期燃料噴射とメイン燃料噴射との噴射間隔が長い場合におけるΔPVに対する熱損失の影響を抑制することができる。
【0056】
ところで、上述したように、ΔPVの値の算出にあたり、燃焼室内で燃焼が生じなかった場合の燃焼室内圧力と燃焼室容積との積PVbaseを用いている。PVbaseは、気筒内のピストンの移動による圧縮および膨張を指数κのポリトロープ変化で近似することにより、すなわちPVκ=C(一定値)とすることにより、吸気弁閉弁後であって早期燃料噴射による燃焼開始前における燃焼室内圧力と、このときの燃焼室容積とから算出することができるとも考えられる。
【0057】
しかしながら、上述したように、ポリトロープ変化では気筒内のガスの圧縮・膨張による仕事以外のエネルギが付与されないことが前提となっているが、実際には燃焼室壁面等から一定の割合で燃焼室内のエネルギ(熱)が奪われて熱損失が発生するため、燃焼室内で燃焼が生じなかった場合でも厳密にはポリトロープ変化とはなっていない。したがって、このような熱損失を考慮しつつ、燃焼室内で燃焼が生じなかった場合の燃焼室内圧力と燃焼室容積との積PVbaseを算出する必要がある。
【0058】
そこで、本実施形態では、熱損失を考慮しつつPVbaseを算出する。以下、PVbaseの算出原理について説明する。
上述したように、PVbaseは気筒内のピストンの移動による圧縮および膨張を指数κのポリトロープ変化で近似して算出されるPVから、熱損失分を減算することで求めることができる。本実施形態では、ポリトロープ変化で近似して算出される燃焼室内圧力から熱損失分を減算することで、燃焼室内で燃焼が生じなかった場合の燃焼室内圧力Pbaseを算出し、これにクランク角θから定まる燃焼室内容積Vを乗算することでPVbaseを求める。
【0059】
特定のクランク角θにおけるポリトロープ変化で近似して算出される燃焼室内圧力P(θ)refは、吸気弁閉弁後であって早期燃料噴射による燃焼開始前の任意のクランク角における筒内圧センサに基づいて算出された燃焼室内圧力をP(0)、このときの燃焼室容積をV(0)とすると、PVκ=C(一定値)の関係から、式(3)のように表される。ここで、V(θ)は上記特定のクランク角θから定まる燃焼室容積である。
【数2】
【0060】
また、熱損失による単位クランク角当たりの圧力の減少分dPloss/dθは下記式(4)のように表すことができる。式(4)中のαは比例定数であり、実験的に求めることができる。そして、この式(4)を積分することにより、下記式(5)が求められる。
【数3】
【0061】
したがって、指数κのポリトロープ変化で近似した特定のクランク角θにおける燃焼室内圧力P(θ)refは吸気弁閉弁後であって早期燃料噴射による燃焼開始前の任意のクランク角における燃焼室内圧力から算出することができ、また、熱損失分P(θ)lossは上記任意のクランク角から特定のクランク角θまでαPを積分することによって算出することができる。そして、特定のクランク角θにおけるP(θ)baseの値は、式(6)のようにポリトロープ変化で近似した特定のクランク角におけるP(θ)refから、上述したように算出した熱損失分に相当する圧力の減少分P(θ)lossを減算することによって求めることができる。
【数4】
【0062】
図3および図4は、早期燃料噴射によって噴射された燃料のほとんどが燃焼した場合における総筒内発熱量に対応したΔPV値の算出操作を示すフローチャートである。本操作は、ECU20により一定クランク角毎に実行される。
【0063】
図3および図4において、ステップ101では現在のクランク角θと、筒内圧センサ29で検出した燃焼室内圧力Pとが読み込まれる。そして、ステップ102では、クランク角θに基づいて現在の燃焼室容積Vが算出される。本実施形態では、θとVとの関係は予め計算により求められ、θを用いた一次元マップとしてECU20のROMに格納されている。ステップ102では、ステップ101で読み込んだθの値を用いてこの一次元マップから燃焼室容積Vを求める。
【0064】
次いで、ステップ103では、ステップ101で読み込んだ圧力Pとステップ102で算出した容積Vとを用いてPVκが算出される。κ(ポリトロープ指数)は予め実験的に求められ、ECU20のROMに格納されている。ステップ104は、PVκ微分値の算出操作を示す。本実施形態では、PVκ微分値d(PVκ)/dθは、今回算出したPVκの値(PVκ)iと、前回本操作実行時に算出したPVκの値(PVκ)i−1との差分として算出される。
【0065】
ステップ105では、フラグXRの値が1にセットされているか否かが判定される。フラグXRは、早期燃料噴射が行われたか否かを示すフラグであり、XR=1は早期燃料噴射が行われたことを示している。ステップ105において、早期燃料噴射が行われている(XR=1)場合にはステップ106および107が実行されない。一方、早期燃料噴射が行われていない(XR≠1)場合にはステップ106へと進む。
【0066】
ステップ106では、吸気弁が閉弁されたか否か判定される。吸気弁が閉弁されたか否かの判定は、吸気弁を駆動する吸気弁駆動装置(図示せず)へのECU20からの指令値であって開弁時期に関する指令値と、クランク角センサ25の出力とに基づいて行われる。ステップ106において吸気弁が閉弁されていないと判定された場合には、ステップ108〜114は実行されない。代わりに、ステップ107が実行される。ステップ107では、ステップ101で読み込まれた燃焼室内圧力Pの値が初期値P(0)とされ、ステップ102で算出された燃焼室容積Vの値が初期値V(0)とされる。これにより、吸気弁が閉弁されるまで、これら初期値P(0)およびV(0)が更新されるため、これら初期値はステップ108〜114が実行されるときに吸気弁が閉弁されたときの値となっている。
【0067】
一方、ステップ106において、吸気弁が閉弁されたと判定された場合にはステップ108へ進み、フラグXSの値が1に設定される。
次いで、ステップ109ではP(i)baseが算出される。すなわち、ステップ109では、上記式(6)を本操作用に変形した式(7)が実行され、燃焼室内で燃焼が生じなかった場合の燃焼室内圧力P(i)baseが算出され、ステップ112へと進む。なお、式(7)中のΔP(i−1)refbaseについては式(8)によって算出される。また、iはステップ109での処理回数を示している。
【数5】
【0068】
ステップ110および111では早期噴射燃料燃焼終了時期が判断される。
まず、ステップ110では、メイン燃料噴射が開始されたか否かが判定される。メイン燃料噴射が開始されたか否かの判定は、ECU20から各燃料噴射弁10a〜10dにメイン燃料噴射の噴射指令が送信されたか否かに基づいて行われる。ステップ110において、メイン燃料噴射が開始されていないと判定された場合には、ステップ111〜114は実行されない。一方、ステップ110において、メイン燃料噴射が開始されたと判定された場合にはステップ111へと進む。
【0069】
次いで、ステップ111では、PVκ微分値がC1以上であるか否か、すなわち、早期噴射燃料燃焼終了時期に到達したか否かが判定される。C1は、実験等に基づいて予め設定される値であり、例えば零である。メイン燃料噴射による燃焼が開始されていないと、PVκ微分値がC1より小さくなり、ステップ112およびステップ113は実行されない。一方、メイン燃焼噴射による燃焼が開始されると、PVκ微分値がC1以上となり、ステップ112へと進む。ステップ112では、ステップ101で読み込まれた燃焼室内圧力Pからステップ109で算出されたP(i)baseが減算された値に、ステップ101で読み込まれた燃焼室容積Vを乗算して、早期噴射燃料燃焼終了時期におけるΔPVの値が算出される(ΔPV←(P−P(i)base)・V)。次いで、ステップ113では、フラグXRの値が零にリセットされ、今サイクルの早期噴射燃料燃焼終了時期におけるΔPVの値の算出が終了し、次サイクルの算出が開始される。
【0070】
上述したように、図3および図4の操作を実行することにより、各サイクル毎、および各気筒毎に早期噴射燃料燃焼終了時期におけるΔPVの値が算出され、記憶される。
【0071】
次に、上述したように算出した早期噴射燃料燃焼終了時期におけるΔPV値を用いた早期燃料噴射における噴射量制御について説明する。
【0072】
本実施形態では、早期燃料噴射における噴射量はECU20により別途実行される図示しない燃料噴射量設定操作により、機関回転数およびアクセル開度等を用いて予め定められた関係に基づいて設定されている。本来この基本値の通りに実際の燃料噴射が行われれば、機関の燃焼状態は最適になる。しかし、実際には燃料噴射弁の噴射特性のばらつきや変化等により、基本値に相当する指令信号を燃料噴射弁に与えても実際の燃料噴射が基本値通りにならない。特に、早期燃料噴射における噴射量は少量であるため燃料噴射弁の噴射特性のばらつきや変化等の影響を大きく受け、したがって実際の噴射量の基本値からのずれ量も大きくなる傾向にある。
【0073】
そこで、本実施形態では、早期噴射燃料燃焼終了時期におけるΔPV値を用いて、実際の早期燃料噴射が基本値で行われるように早期燃料噴射における噴射量をフィードバック補正する。図5に、本実施形態における早期燃料噴射における噴射量の補正操作の手順を説明するフローチャートを示す。以下、このフローチャートに従って補正操作の手順を説明する。
【0074】
ステップ121では、まず早期燃料噴射における噴射量の基本値がECU20から取得される。さらに、燃料噴射弁がこの基本値に相当する指令信号を受けて早期燃料噴射を行った結果、図3および図4に示した操作によって算出されたΔPVの値を取得する。次いで、ステップ122では、ステップ121で取得した噴射量の基本値に対応する筒内発熱量、すなわちΔPVの値(以下、「基本値対応ΔPV値(ΔPVref)」と称す)が算出される。
【0075】
次いで、ステップ123において、基本値対応ΔPVの値と上記算出されたΔPVの値との差分がC2よりも大きいか否か、すなわち、早期燃料噴射における噴射量の基本値と実際の燃料噴射量とのずれが一定基準よりも大きいか否かが判定される。C1は、予め設定される値であり、許容可能なずれに対応する値である。上記差分がC2以下であると判定された場合にはステップ124は実行されない。一方、差分がC2よりも大きいと判定された場合には、ステップ124へと進み、基本値対応ΔPV値から上記算出されたΔPVの値を減算した値に基づいて、補正値が算出される。この補正値は、燃料噴射弁に指令信号を与える際に、基本値に乗算される値である。したがって、次回以降の早期燃料噴射においては、基本値に補正値を乗算した値に相当する指令信号が燃料噴射弁に与えられる。
【0076】
ところで、ディーゼル機関において燃焼騒音が起こる理由の一つとして、メイン燃料噴射時における燃焼室内の温度が低いと着火遅れ期間が長くなり、この着火遅れ期間中に混合気の形成が進み、一気に多量の燃料が燃焼することが挙げられる。しがたがって、燃焼騒音を防ぐという観点から、上述したように算出した早期噴射燃料燃焼終了時期におけるΔPVの値に基づいて早期燃料噴射による燃焼室内の温度の増分を求め、その温度の増分を一定以上にするように早期噴射燃料噴射量を調整することも考えられる。そこで、上述したように算出したΔPVの値を用いた早期燃料噴射における噴射量制御として図6に示したような制御を行ってもよい。
【0077】
ステップ141では、図3および図4に示した操作によって算出されたΔPVの値を取得する。次いで、ステップ142では、アクセル開度センサ21およびクランク角センサ25等から機関運転状態に関する運転パラメータ(例えば、機関負荷、機関回転数等)が取得される。そして、ステップ143では、ステップ142で取得した運転パラメータから、その機関運転状態において最小限必要な筒内発熱量に相当するΔPVの値(以下、「最小ΔPV値(ΔPVmin)」と称す)が算出される。各運転パラメータとΔPVminとの関係は予め実験的に求められ、各運転パラメータを引数としたマップとしてECU20のROMに格納されており、ΔPVminの算出においてはそのマップが用いられる。
【0078】
次いで、ステップ144において、ステップ141で取得したΔPVの値が、ステップ143で算出したΔPVminの値よりも小さいか否か、すなわち、早期噴射燃料によって発生した筒内発熱量がその機関運転状態において最小限必要な筒内発熱量よりも小さいか否かが判定される。早期燃料噴射によって発生した筒内発熱量が最小限必要な筒内発熱量以上である場合(ΔPV≧ΔPVmin)にはステップ145が実行されない。一方、早期燃料噴射によって発生した筒内発熱量が最小限必要な筒内発熱量よりも小さい場合(ΔPV<ΔPVmin)には、ステップ145へと進む。ステップ145では、ΔPVminとΔPVとの差分(ΔPVmin−ΔPV)に対応した量だけ次回の燃料噴射量が増量補正される。
【0079】
次に、本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態の装置は、基本的に第一実施形態と同様であるが、筒内発熱量をΔPVではなく、後述するΔPVκから求めている。
【0080】
ところで、内燃機関における単位クランク角当たりの筒内発熱量、すなわち熱発生率dQは下記式(9)のように表せる。
【数6】
ここで、圧縮上死点付近において行われ且つ噴射期間の短い早期燃料噴射では、V1− κの変化が小さく、したがってV1− κを一定と近似することができる。この場合、式(9)を積分して下記式(10)を導き出すことができる。したがって、筒内発熱量をPVκの値から求めることができる。
【数7】
【0081】
このため、燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合の燃焼室内圧力と燃焼室内容積のκ乗との積をPVκbaseとすると、筒内圧センサ29に基づいて算出されたPVκからPVκbaseを減算した値ΔPVκは、燃焼による筒内発熱量に対応した値となる(ΔPVκ=PVκ−PVκbase)。したがって、早期噴射燃料燃焼終了時期におけるΔPVκ値を算出すれば、算出したΔPVκ値は早期燃料噴射による燃焼によって発生した総筒内発熱量に対応する値となる。
【0082】
ここで、PVκbaseの算出方法について説明する。上述したように、気筒内のピストンの移動による圧縮および膨張を指数κのポリトロープ変化で近似することができれば、燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合のPVκ値は常に一定となる。しかしながら、上述したように、燃焼室壁面等から燃焼室内のエネルギ(熱)が奪われて熱損失が発生するため、PVκ値はクランク角θが進むにつれて徐々に小さくなる。このPVκ値の減少は、クランク角θに対して一定の割合で起こるため、図2に示したようにPVκbaseは直線的に近似できる。
【0083】
そこで、本実施形態では、吸気弁閉弁後であって早期燃料噴射による燃焼開始前におけるPVκ値とこのときのクランク角との関係を、クランク角の異なる2点で取得する。そして、このように取得したPVκ値とクランク角との関係に基づき、外挿法により図2に示したようなPVκbaseの直線の式が求める。
【0084】
一般に、燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合のPVκ値の変化は緩慢であり、また、上述したPVκbaseの算出方法では、燃焼室壁面等からの熱損失分を上述したPVbaseを算出したときのように完全な近似によって求めているのではなく、実際の検出値に基づいて算出しているため、PVκbaseの直線は比較的精度よく燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合のPVκの変化を表している。
【0085】
上述したPVbaseの算出方法では、燃焼室壁面等からの熱損失分は完全な近似によって算出されているため、PVκbaseの算出精度はPVbaseの算出精度よりも高い。このため、場合によっては、ΔPVκの算出精度はΔPVの算出精度よりも高い。ただし、上述したようにΔPVκと筒内発熱量とは、圧縮上死点付近において行われ且つ噴射期間の短い早期燃料噴射を行ったときにのみ式(10)に示したような関係となるため、このような早期燃料噴射を行ったときに本実施形態を利用するが好ましい。
【0086】
【発明の効果】
本発明によれば、発熱パラメータの値から早期燃料噴射における噴射量の多少を正確に判断することができ、よってその噴射量を迅速且つ確実に最適値へと制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を自動車用4気筒ディーゼル機関に適用した実施形態の概略構成を示す図である。
【図2】早期燃料噴射を行った場合の燃焼パラメータのクランク角θに対する変化を示す図である。
【図3】早期燃料噴射によって噴射された燃料のほとんどが燃焼した場合における総筒内発熱量に対応したΔPV値の算出操作を示すフローチャートの一部である。
【図4】早期燃料噴射によって噴射された燃料のほとんどが燃焼した場合における総筒内発熱量に対応したΔPV値の算出操作を示すフローチャートの一部である。
【図5】早期燃料噴射における噴射量の補正操作の手順を説明するフローチャートである。
【図6】図5に示した手順とは別の早期燃料噴射における噴射量の補正操作の手順を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
1…ディーゼル機関
3…コモンレール
10a〜10d…筒内燃料噴射弁
20…電子制御ユニット(ECU)
21…アクセル開度センサ
25…クランク角センサ
29a〜29d…筒内圧センサ
Claims (5)
- 機関燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射弁を具備し、圧縮上死点近傍におけるメイン燃料噴射の前に早期燃料噴射を行う内燃機関の燃料噴射制御装置において、
燃焼室内圧力を検出する筒内圧センサと、該筒内圧センサで検出した実際の燃焼室内圧力と機関クランク角とを用いて燃焼室内に発生した筒内発熱量に関する発熱パラメータを算出する発熱パラメータ算出手段とをさらに具備し、早期燃料噴射による燃料がほとんど燃焼しており且つメイン燃料噴射による燃料がまだほとんど燃焼していない早期噴射燃料燃焼終了時期に上記発熱パラメータ算出手段によって算出された発熱パラメータの値に基づいて、次回以降の早期燃料噴射による燃料噴射量を制御する内燃機関の燃料噴射制御装置。 - 上記発熱パラメータは、上記筒内圧センサで検出した燃焼室内圧力Pとクランク角θから定まる燃焼室容積Vとの積PVと、燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合のピストンの圧縮のみにより生じる燃焼室内圧力とクランク角から定まる燃焼室容積との積PVbaseとの差ΔPVである請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
- 上記発熱パラメータは、上記筒内圧センサで検出した燃焼室内圧力Pとクランク角θから定まる燃焼室容積Vの予め定めた定数κ乗との積PVκと、燃焼室内で燃焼が生じなかったと仮定した場合のピストンの圧縮のみにより生じる燃焼室内圧力とクランク角から定まる燃焼室容積の上記定数κ乗との積PVκbaseとの差ΔPVκである請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
- 上記PVκbaseは、吸気弁が閉弁した後であって早期燃料噴射による燃料が燃焼を開始する前における圧縮行程中の二つの時期でのPVκの値に基づいて算出される請求項3に記載の内燃機関の燃料噴射量制御装置。
- 上記筒内圧センサで検出した燃焼室内圧力Pと、クランク角θから定まる燃焼室容積Vと、予め定めた定数κとを用いて、Vのκ乗とPとの積PVκの値を算出し、メイン燃料噴射開始以降であって、PVκが最小値となる時期、またはPVκのクランク角θに対する変化率d(PVκ)/dθが所定値を超えた時期を、上記早期噴射燃料燃焼終了時期として採用する請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の燃料噴射量制御装置。
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