無線ネットワークに関する標準的な規格の1つにIEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.11(例えば、非特許文献1を参照のこと)や、HiperLAN/2(例えば、非特許文献2又は非特許文献3を参照のこと)、IEEE302.15.3、Bluetooth通信などを挙げることができる。IEEE802.11規格については、無線通信方式や使用する周波数帯域の違いなどにより、IEEE802.11a(例えば、非特許文献4を参照のこと),b,gといった拡張規格が存在する。
一般的には、無線技術を用いてローカル・エリア・ネットワークを構成するために、エリア内に「アクセス・ポイント」又は「コーディネータ」と呼ばれる制御局となる装置を1台設けて、この制御局の統括的な制御下でネットワークを形成する方法が用いられている。
アクセス・ポイントを配置した無線ネットワークでは、ある通信装置から情報伝送を行なう場合に、まずその情報伝送に必要な帯域をアクセス・ポイントに予約して、他の通信装置における情報伝送と衝突が生じないように伝送路の利用を行なうという、帯域予約に基づくアクセス制御方法が広く採用されている。すなわち、アクセス・ポイントを配置することによって、無線ネットワーク内の通信装置が互いに同期をとるという同期的な無線通信を行なう。
ところが、アクセス・ポイントが存在する無線通信システムで、送信側と受信側の通信装置間で非同期通信を行なう場合には、必ずアクセス・ポイントを介した無線通信が必要になるため、伝送路の利用効率が半減してしまうという問題がある。
これに対し、無線ネットワークを構成する他の方法として、端末同士が直接非同期的に無線通信を行なう「アドホック(Ad−hoc)通信」が考案されている。とりわけ近隣に位置する比較的少数のクライアントで構成される小規模無線ネットワークにおいては、特定のアクセス・ポイントを利用せずに、任意の端末同士が直接非同期の無線通信を行なうことができるアドホック通信が適当であると思料される。
アドホック型無線通信システムには中央制御局が存在しないので、例えば家庭用電気機器からなるホーム・ネットワークを構成するのに適している。アドホック・ネットワークには、1台が故障又は電源オフになってもルーティングを自動的に変更するのでネットワークが破綻しにくい、移動局間でパケットを複数回ホップさせることにより高速データレートを保ったままで比較的遠くまでデータを伝送することができる、といった特徴がある。アドホック・システムにはいろいろな開発事例が知られている(例えば、非特許文献5を参照のこと)。
例えば、IEEE802.11系の無線LANシステムでは、IEEE802.11におけるネットワーキングは、BSS(Basic Service Set)の概念に基づいている。BSSは、AP(Access Point:制御局)のようなマスタが存在する「インフラ・モード」で定義されるBSSと、複数の移動局(Mobile Terminal:移動局)のみにより構成される「アドホック・モード」で定義されるIBSS(Independent BSS)の2種類で構成される。後者のアドホック・モードでは、制御局を配さなくとも自律分散的にピア・ツウ・ピア(Peer to Peer)で動作する。そして、ビーコン送信時間になると各端末がランダムな期間をカウントし、その期間が終わるまでに他の端末のビーコンを受信しなかった場合に、自分がビーコンを送信する。
ここで、IEEE802.11を例にとって、従来の無線ネットワーキングの詳細について説明する。
インフラ・モード:
インフラ・モードのBSSにおいては、無線通信システム内にコーディネイションを行なうアクセス・ポイントが必須である。すなわち、アクセス・ポイントは、自局周辺で電波の到達する範囲をBSSとしてまとめ、いわゆるセルラ・システムで言うところの「セル」を構成する。アクセス・ポイント近隣に存在する移動局は、アクセス・ポイントに収容され、BSSのメンバとしてネットワークに参入する。
アクセス・ポイントは適当な時間間隔でビーコンと呼ばれる制御信号を送信し、このビーコンを受信可能である移動局はアクセス・ポイントが近隣に存在することを認識し、さらにアクセス・ポイントとの間でコネクション確立を行なう。これに対し、アクセス・ポイント周辺の移動局は、周辺局から受信したビーコン内部のTBTTフィールドをデコードすることにより次回のビーコン送信時刻を認識することが可能であるから、場合によっては(受信の必要がない場合には)、次回あるいは複数回先のTBTTまで受信機の電源を落としスリープ状態に入ることもある。
インフラ・モード時には、アクセス・ポイントのみが所定フレーム周期でビーコンを送信する。他方、周辺移動局は、アクセス・ポイントからのビーコンを受信することでネットワークへの参入を果たし、自らはビーコンを送信しない。
アドホック・モード:
もう一方のアドホック・モード時のIEEE802.11の動作について、図25を参照しながら説明する。
アドホック・モードのIBSSにおいては、複数の移動局同士でネゴシエーションを行なった後に自律的にIBSSを定義する。IBSSが定義されると、移動局群は、ネゴシエーションの末に、一定間隔毎にTBTTを定める。各移動局は自局内のクロックを参照することによりTBTTが到来したことを認識すると、ランダム時間の遅延の後、未だ誰もビーコンを送信していないと認識した場合にはビーコンを送信する。
図25に示す例では、2台の移動局がIBBSを構成する様子を示している。この場合、IBSSに属するいずれか一方の移動局が、TBTTが到来する毎にビーコンを送信することになる。また、各移動局から送出されるビーコンが衝突する場合も存在している。
IEEE802.11aにおけるフレーム・フォーマット:
図26には、IEEE802.11の拡張規格であるIEEE802.11aにおいて規定されているフレーム・フォーマットの構成例を示している。
各パケットの先頭には、パケットの存在を示すためのプリアンブルが付加されている。プリアンブルは、規格により既知のシンボル・パターンが定義されており、パケットの受信側ではこの既知パターンに基づき、受信信号がプリアンブルに値するか否かを判断し、信号の存在を認識することができる。
プリアンブルに続いて、シグナル・フィールドが定義されている。このシグナル・フィールドには、当該パケットの情報部を復号するのに必要な情報が格納されている。当該パケットの復号に必要な情報はPLCPヘッダ(Physical Layer Convergence Protocolヘッダ)と呼ばれ、PLCPヘッダには、情報部(並びPLCPヘッダの一部であるServiceフィールドも含まれる)の伝送レートを示すRATEフィールド、情報部の長さを示すLENGTHフィールド、パリティ・ビット、エンコーダのTailビット、Serviceフィールドなどが含まれている。パケットの受信側では、PLCPヘッダのRATEフィールド並びLENGTHフィールドの復号結果に基づき、以降の情報部の復号作業を行なうことができる。
PLCPヘッダを格納しているSIGNAL部は、雑音に強い符号化が施されており、6Mbps相当で伝送される。一方、情報部は、通常パケットでは、受信機におけるSNRなどに応じて、なるべくエラーが生じない範囲で最も高ビットレートが提供される伝送レート・モードにて伝送される。
IEEE802.11aにおいては、6、9、12、18、24、36、48、54Mbpsという計8種類の伝送レート・モードが定義されている。したがって、送受信機が近隣に位置する際には、高いビットレートの伝送レート・モードが選択され、遠くに位置する通信局では、この情報を復号することができない場合もある。
情報部は、PSDU(Physical Layer Service Data Unit)として、上位レイヤであるリンク層に受け渡される。
IEEE802.11では、幾つかのフレーム・タイプが定義されている。図27には、上述したRTS/CTS手順で使用される、RTS、CTS、ACK、Dataの各フレームにおけるPSDU部の構成を示している。但し、RTC並びにCTSに関しては後に説明する。
各フレームには、Frame ControlフィールドとDurationフィールドが共通で定義されている。Frame Controlフィールドは、当該フレームの種類や用途などを示す情報が格納されており、具体的には、以下の表1に示す情報が記載されている。
Durationフィールドには、NAV(Network Allocation Vector)の用途(後述)の情報が格納されており、該パケットのトランザクションが終了するまでの時間が記されている。
RTSフレームには、上記の他、宛先を示すReceiver Address(RA)と、送信元を示すTransmitter Address(TA)と、チェックサムであるFCSが存在する。また、CTSフレーム並びにACKフレームには、上記の他、宛先を示すRAとチェックサムであるFCSが存在している。
Dataフレームには、上記の他、送信元や宛先通信局他の特定を行うアドレスフィールドが4つと、シーケンス・フィールド(SEQ)と、上位レイヤに提供する正味の情報であるFrame Bodyと、チェックサムであるFCS(Frame Check Sequence)が存在する。
IEEE802.11におけるアクセス制御手順:
同一チャネル上に複数のユーザがアクセスする際、競合を回避する必要がある。競合を回避する代表的な通信手順として、CSMA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance:搬送波感知多重アクセス)が知られている。CSMAとは、キャリア検出に基づいて多重アクセスを行なう接続方式のことである。無線通信では自ら情報送信した信号を受信することが困難であることから、CSMA/CD(Collision Detection)ではなくCSMA/CA(Collision Avoidance)方式により、他の通信装置の情報送信がないことを確認してから、自らの情報送信を開始することによって、衝突を回避する。
CSMA/CAに基づく通信方式について、図28を参照しながら説明する。図示の例では、通信環境下に4台の通信局#0〜#3が存在するものとする。
送信データを持つ各通信局は、最後にパケットを検出してから所定のフレーム間隔DIFS(DCF(Distributed Coordination Function)Inter Frame Space)だけメディア状態を監視し、この間にメディアがクリアすなわち送信信号が存在しなければ、ランダム・バックオフを行ない、さらにこの間にも送信信号が存在しない場合に、送信権利が与えられる。
図示の例では、他の周辺局より短いランダム・バックオフを設定した通信局#0が送信権利を獲得し、通信局#1に対するデータ送信を開始することができる。
このデータ送信に際し、送信元の通信局#0は、MACフレームのヘッダ(MACヘッダ)のDurationフィールドにおいて、NAV(Network Allocation Vector)の用途の情報が格納されており、データ通信のトランザクションが終了するまでの時間が記されている。
このデータ・フレームの送信先である通信局#1は、MACヘッダに記載されているDurationの期間だけ、自局宛のデータの受信動作を行なう。そして、データ受信が完了すると、データ送信元の通信局#0宛てにACKパケットを返す。
また、このデータ・フレームを受信したデータ送信先以外の通信局は、MACヘッダのDurationフィールドの記載を解読し、当該トランザクションが終了するまでメディアを監視することなくメディアが占有されている状態であると認識し、送信をストップさせる。この作業のことを、周辺局が「NAVを立てる」などと呼ぶ。NAVは、Durationフィールドで示された期間にわたり有効となる。例えば、受信先の通信局#1がACKパケットを返すまでの期間がDurationとして指定される。
このようにして、CSMA/CA方式によれば、競合を回避しながら単一の通信局が送信権利を獲得するとともに、データ通信動作の期間中は周辺局がデータ送信動作を停止することにより衝突を回避することができる。
ところが、アドホック環境の無線LANネットワークにおいては、隠れ端末問題が生じることが知られている。隠れ端末とは、ある特定の通信局間で通信を行なう場合、通信相手となる一方の通信局からは聞くことができるが他方の通信局からは聞くことができない通信局のことである。隠れ端末同士ではネゴシエーションを行なうことができないため、上述したCSMA/CA方式のみでは送信動作が衝突する可能性がある。
このため、隠れ端末問題を解決する方法論として、RTS/CTS手順によるCSMA/CAが知られている。IEEE802.11においてもこの方法論が採用されている。
RTS/CTS方式では、データ送信元の通信局が送信要求パケットRTS(Request To Send)を送信し、データ送信先の通信局から確認通知パケットCTS(Clear To Send)を受信したことに応答してデータ送信を開始する。そして、隠れ端末はRTS又はCTSのうち少なくとも一方を受信すると、RTS/CTS手続に基づくデータ伝送が行なわれると予想される期間だけ自局の送信停止期間を設定することにより、衝突を回避することができる。
図29には、RTS/CTS手順の動作例を示している。但し、無線通信環境下には、通信環境下に4台の通信局#0〜#3が存在するものとする。そして、通信局#2は隣接する通信局#0と通信可能であり、通信局#0は隣接する通信局#1、#2と通信可能であり、通信局#1は隣接する通信局#0、#3と通信可能であり、通信局#3は隣接する通信局#1と通信可能な状態にあるが、通信局#2は通信局#1にとって隠れ端末となり、通信局#3は通信局#0にとって隠れ端末となっている。
通信局#0は、上述のCSMAの手順に従いメディアが一定期間(時刻T0から時刻T1まで)クリアである旨を確認した後、時刻T1からRTSパケットを通信局#1に宛てて送信する。このRTSパケットのFrame ControlフィールドのType/SubType情報には該パケットがRTSであることを示す情報が記載され、Durationフィールドには当該パケット送受信トランザクションが終了するまでの時間(すなわち時刻T8までの時間)が記載され、RAフィールドには宛先通信局(通信局#1)のアドレスが記載され、TAフィールドには、自局(通信局#0)のアドレスが記載されている。
なお、RTSパケット以降に続いて送受信されるCTS/DATA/ACKの各フレームの伝送レートは基本的にRTSで適用された伝送レート・モードに従うことになる。
RTSパケットは、通信局#0の近隣に位置する通信局#2でも受信される。通信局#2は、該RTS信号を受信すると、プリアンブルを発見することにより受信作業を開始し、さらにPLCPヘッダを復号して得られた情報に基づきPSDUを復号する。そして、PSDU内のFrame Controlフィールドの記載内容から当該パケットがRTSパケットであることを認識し、通信局#0が何らかの情報を送信したい旨を知る。さらにRAフィールドから、自局が宛先通信局でないことを認識する。すると、通信局#2は通信局#0の送信希望を妨げないように、該トランザクションが終了するまでメディアを監視することなくメディアが占有されている状態であると認識し、NAVを立てて送信をストップさせる。NAVは、Durationフィールドで示された期間に渡り有効となり、通信局#2は時刻T8まで送信不許可状態となる。
一方、このRTSパケットは宛先である通信局#1でも受信される。通信局#1は、上記と同様の手順によりPSDUを復号することにより、通信局#0が自局宛てにパケットを送信したい旨を認識すると、通常(DIFS)よりも短いフレーム間隔SIFS(Short Inter Frame Space)をおいて、時刻T3でCTSパケットを返送する。
CTSパケットの伝送レート・モードは、RTSと同一でなければならない。また、PSDUのFrame Controlフィールドには当該パケットがCTSパケットである旨が記載され、Durationフィールドには当該トランザクションが終了するまでの時間(すなわち時刻T8までの時間)が記載され、RAフィールドには宛先通信局(通信局#1)のアドレスが記載されている。
このCTSパケットは通信局#1の近隣に位置する通信局#3でも受信される。通信局#1は、上記と同様の手順によりPSDUを復号することにより、「近隣のとある通信局が時刻T8までパケットの受信を予定している」旨を認識する。すると、通信局#3は通信局#1の受信希望を妨げないように、該トランザクションが終了するまでNAVを立てて送信をストップさせる。NAVは、Durationフィールドで示された期間に渡り有効となり、通信局#3も時刻T8まで送信不許可状態となる(同上)。
一方、このCTSパケットは宛先である通信局#0でも受信される。通信局#0は、上記と同様の手順によりPSDUを復号することにより、通信局#1は受信準備ができていることを認識し、短いフレーム間隔SIFSをおいて時刻T5でDataパケットを送信開始する。Dataパケット送信が時刻T6で終了し、通信局#1がこれを誤りなく復号できた場合には、SIFS間隔をおいて時刻T7でACKを返送し、これを通信局#0が受信して1パケットの送受信トランザクションが時刻T8で終了する。
時刻T8になると、近隣通信局である通信局#2並びに通信局#3は、NAVを下ろし、通常の送受信状態へと復帰する。
以上をまとめると、RTSパケット並びにCTSパケットのやりとりにより、送信局である通信局#0の周辺局はRTSを受信したことに応答して送信が禁止されるとともに、受信局である通信局#1の周辺局はCTSを受信したことに応答して送信が禁止される。この結果、周辺局からの突然の送信信号に妨害されることなく、通信局#0から通信局#1に宛てての情報送信並びにACKの返送が行なわれる。
上記の送信手順を系内の各通信局がランダム・バックオフ(送信前にメディアがクリアであることを確認するために行なうメディア・センスする時間を乱数で設定する)を併用しながら行なうことにより,分散制御でのアクセス制御が行なわれることになる。
なお、IEEE802.11では、4種類のフレーム間隔(IFS:Inter Frame Space)が定義されている。ここでは、そのうち3つのIFSについて図30を参照しながら説明する。IFSとしては、短いものから順にSIFS(Short IFS)、PIFS(PCF IFS)、DIFS(DCF IFS)が定義されている。
IEEE802.11では、基本的なメディア・アクセス手順としてCSMAが採用されているが(前述)、送信機が何かを送信する前には、メディア状態を監視しながらランダム時間にわたりバックオフのタイマーを動作させ、この間に送信信号が存在しない場合に始めて送信権利が与えられる。
通常のパケットをCSMAの手順に従って送信する際(DCF(Distributed Coordination Functionと呼ばれる)には、何らかのパケットの送信が終了してから、まずDIFSだけメディア状態を監視し、この間に送信信号が存在しなければ、ランダム・バックオフを行ない、さらにこの間にも送信信号が存在しない場合に、送信権利が与えられることになっている。
これに対し、ACKなどの例外的に緊急度の高いパケットを送信する際には、SIFSのフレーム間隔の後に送信することが許されている。これにより、緊急度の高いパケットは、通常のCSMAの手順に従って送信されるパケットよりも先に送信することが可能となる。
要するに、異なる種類のフレーム間隔IFSが定義されている理由は、IFSがSIFS、PIFS、DIFSのいずれであるか、すなわちフレーム間隔の長さに応じてパケットの送信権争い優先付けが行なわれる、という点にある。PIFSがどのような目的で用いられているかについては後述に譲る。
IEEE802.11における優先送信:
IEEE802.11では、通信局が伝送フレーム内に優先的な送信時間帯を設置することにより帯域予約伝送を行なう手段を用意している。この帯域予約伝送について説明する。
CSMAに基づくアクセス競合では、一定の帯域を保証して確保することが不可能である。このため、IEEE802.11では、帯域を保証して確保するためのメカニズムとして、PCF(Point Coordination Function)が存在する。
このPCFは、ポーリングを基本として成り立っており,HIPERLAN/2やIEEE802.15.3などのTDMAによるアクセス制御と同様、システム系内にコーディネータとなる制御局を配置することによって行なわれる。
図31には、このPCFの動作例を示している。同図に示す例では、通信局#0がアクセス・ポイント(AP)として動作し、通信局#1と通信局#2がAPの管理するBSSに参入している場合を想定している。そして、通信局#1が帯域を保証して情報の送信を行なうものとする。
通信局#0は、例えばビーコンを送信した後に、SIFSの間隔で通信局#1宛てにポーリングを行なう(図中CF−Poll)。CF−Pollを受信した通信局#1は、データの送信権利を与えられ、SIFS間隔でデータを送信することが許される。よって、通信局#1はSIFSの後にデータを送信する。
通信局#0が該送信データに対するACKを返送し、1トランザクションが終了すると、通信局#0は再度通信局#1に対してポーリングを行なう。図示の例では、今回のポーリングが何らかの理由により失敗している。このとき、通信局#0は、ポーリングの後SIFS経過後も通信局#1から情報が送信されてこないことを認識すると、ポーリングが失敗したとみなし、PIFS間隔の後に再度ポーリングを行なう。このポーリングがうまくいくと、通信局#1からデータが送信されてACKが返送される。
この一連の手順の最中に、例えば通信局#2が送信したパケットを保持していたとしても、DIFSの時間間隔が過ぎる以前にSIFSあるいはPIFSの間隔で通信局#0あるいは通信局#1が送信を行なってしまうため、通信局#2に送信権利が移ることはなく、Pollingを受けている通信局#1が常に優先権利を得ていることになる。
このようなPCFによるアクセスの期間は、例えば、定期的なデータ配送の目的で伝送フレームに配置される。例えば、図32に示すように、APは周期的にPCFを配置することが多い。
International Standard ISO/IEC 8802−11:1999(E) ANSI/IEEE Std 802.11, 1999 Edition, Part11:Wireless LAN Medium Access Control(MAC) and Physical Layer(PHY) Specifications
ETSI Standard ETSI TS 101 761−1 V1.3.1 Broadband Radio Access Networks(BRAN); HIPERLAN Type 2; Data Link Control(DLC) Layer; Part1: Basic Data Transport Functions
ETSI TS 101 761−2 V1.3.1 Broadband Radio Access Networks(BRAN); HIPERLAN Type 2; Data Link Control(DLC) Layer; Part2: Radio Link Control(RLC) sublayer
Supplement to IEEE Standard for Information technology−Telecommunications and information exchange between systems−Local and metropolitan area networks−Specific requirements−Part 11: Wireless LAN Medium Access Control(MAC) and Physical Layer(PHY) specifications: High−speed Physical Layer in the 5GHZ Band
C.K.Tho著"Ad Hoc Mobile Wireless Network"(Prentice Hall PTR社刊)
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳解する。
本発明において想定している通信の伝搬路は無線であり、複数の通信局間でネットワークを構築する。本発明で想定している通信は蓄積交換型のトラヒックであり、パケット単位で情報が転送される。また、以下の説明では、各通信局は単一のチャネルを想定しているが、複数の周波数チャネルすなわちマルチチャネルからなる伝送媒体を用いた場合に拡張することも可能である。
本発明に係る無線ネットワークでは、緩やかな時分割多重アクセス構造を持った伝送(MAC)フレームによりチャネル・リソースを効果的に利用した伝送制御が行なわれる。また、各通信局は、CSMA(Carrier Sense Multiple Access:キャリア検出多重接続)に基づくアクセス手順に従い直接非同期的に情報を伝送し、自律分散型の無線ネットワークを構築することができる。本発明の一実施形態では、例えば、IEEE802.11の拡張規格であるIEEE802.11aに通信環境を想定している。
このように制御局と被制御局の関係を特に持たない無線通信システムでは、各通信局はビーコン情報を報知することにより、近隣(すなわち通信範囲内)の他の通信局に自己の存在を知らしめるとともに、ネットワーク構成を通知する。また、ある通信局の通信範囲に新規に参入する通信局は、ビーコン信号を受信することにより、通信範囲に突入したことを検知するとともに、ビーコンに記載されている情報を解読することによりネットワーク構成を知ることができる。
以下に説明する各通信局での処理は、基本的にはネットワークに参入するすべての通信局で実行される処理である。但し、場合によっては、ネットワークを構成するすべての通信局が、以下に説明する処理を実行するとは限らない。
A.装置構成
図1には、本発明の一実施形態に係る無線ネットワークにおいて通信局として動作する無線通信装置の機能構成を模式的に示している。図示の無線通信装置100は、同じ無線システム内では効果的にチャネル・アクセスを行なうことにより、衝突を回避しながらネットワークを形成することができる。
図示の通り、無線通信装置100は、インターフェース101と、データ・バッファ102と、中央制御部103と、送信データ生成部104と、無線送信部106と、タイミング制御部107と、アンテナ109と、無線受信部110と、受信データ解析部112と、情報記憶部113とで構成される。
インターフェース101は、この無線通信装置100に接続される外部機器(例えば、パーソナル・コンピュータ(図示しない)など)との間で各種情報の交換を行なう。
データ・バッファ102は、インターフェース101経由で接続される機器から送られてきたデータや、無線伝送路経由で受信したデータをインターフェース101経由で送出する前に一時的に格納しておくために使用される。
中央制御部103は、無線通信装置100における一連の情報送信並びに受信処理の管理と伝送路のアクセス制御を一元的に行なう。本実施形態では、基本的には、CSMA又はTDMAに基づくメディア・アクセス制御を行なうとともに、他の通信局との間で優先通信をハンドルすることができる。CSMAに基づくアクセス手順では、伝送路の状態を監視しながらランダム時間に渡りバックオフのタイマーを動作させ、この間に送信信号が存在しない場合に送信権を獲得する。
送信データ生成部104は、自局から周辺局宛てに送信されるパケット信号やビーコン信号を生成する。ここで言うパケットには、データ・パケットの他、受信先の通信局の送信要求パケットRTSや、RTSに対する確認応答パケットCTS、ACKパケットなどが挙げられる。例えばデータ・パケットは、データ・バッファ102に蓄積されている送信データを所定長だけ切り出し、これをペイロードとしてパケットが生成される。
無線送信部106は、送信信号をOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)など所定の変調方式で変調する変調器や、デジタル送信信号をアナログ信号に変換するD/A変換器、アナログ送信信号を周波数変換してアップコンバートするアップコンバータ、アップコンバートされた送信信号の電力を増幅するパワーアンプ(PA)など(いずれも図示しない)を含み、所定の伝送レートにて、パケット信号の無線送信処理を行なう。
無線受信部110は、アンテナ109を介して他局から受信した信号を電圧増幅する低雑音アンプ(LNA)や、電圧増幅された受信信号を周波数変換によりダウンコンバートするダウンコンバータ、自動利得制御器(AGC)、アナログ受信信号をデジタル変換するA/D変換器、同期獲得のための同期処理、チャネル推定、OFDMなどの復調方式により復調処理する復調器など(いずれも図示しない)で構成される。
アンテナ109は、他の無線通信装置宛に信号を所定の周波数チャネル上で無線送信し、あるいは他の無線通信装置から送られる信号を収集する。本実施形態では、単一のアンテナを備え、送受信をともに並行しては行なえないものとする。
タイミング制御部107は、無線信号を送信並びに受信するためのタイミングの制御を行なう。例えば、自己のパケット送信タイミングやRTS/CTS方式に則った各パケット(RTS、CTS、データ、ACKなど)の送信タイミングの制御(直前のパケット受信から自局がパケットを送信するまでのフレーム間隔IFSや、競合伝送時におけるバックオフの設定など)、他局宛てのパケット受信時におけるNAVの設定、ビーコンの送受信などのタイミング制御を行なう。
受信データ解析部112は、他局から受信できたパケット信号(RTS、CTS信号の解析を含む)や、ビーコン信号を解析する。
情報記憶部113は、中央制御部103において実行される一連のアクセス制御動作などの実行手順命令プログラムや、受信したパケットやビーコンの解析結果から得られる情報などを蓄えておく。例えばビーコンを解析して得られる近隣装置の情報(NBOI(後述)など)は、情報記憶部113に格納され、送受信動作タイミングなどの通信動作制御やビーコン生成処理において適宜利用される。
B.ビーコン情報の交換に基づく自律分散ネットワークの構築
本実施形態に係る自律分散型ネットワークでは、各通信局は、所定のチャネル上で所定の時間間隔でビーコン情報を報知することにより、近隣(すなわち通信範囲内)の他の通信局に自己の存在を知らしめるとともに、ネットワーク構成を通知する。ビーコンを送信する伝送フレーム周期のことを、ここでは「スーパーフレーム(Super Frame)」と定義し、1スーパーフレームを例えば80ミリ秒とする。
新規に参入する通信局は、スキャン動作により周辺局からのビーコン信号を聞きながら、通信範囲に突入したことを検知するとともに、ビーコンに記載されている情報を解読することによりネットワーク構成を知ることができる。そして、ビーコンの受信タイミングと緩やかに同期しながら、周辺局からビーコンが送信されていないタイミングに自局のビーコン送信タイミングを設定する。
本実施形態に係る各通信局のビーコン送信手順について、図2を参照しながら説明する。
各通信局は、周辺で発信されるビーコンを聞きながら、ゆるやかに同期する。新規に通信局が現われた場合、新規通信局は既存の通信局のビーコン送信タイミングと衝突しないように、自分のビーコン送信タイミングを設定する。
また、周辺に通信局がいない場合、通信局01は適当なタイミングでビーコンを送信し始めることができる。ビーコンの送信間隔は80ミリ秒である。図2中の最上段に示す例では、B01が通信局01から送信されるビーコンを示している。
以降、通信範囲内に新規に参入する通信局は、既存のビーコン配置と衝突しないように、自己のビーコン送信タイミングB01を設定する。
例えば、図2中の最上段に示すように、通信局01のみが存在するチャネル上において、新たな通信局02が現われたとする。このとき、通信局02は、通信局01からのビーコンを受信することによりその存在とビーコン位置を認識し、図2の第2段目に示すように、通信局01のビーコン間隔のほぼ真中に自己のビーコン送信タイミングB02を設定して、ビーコンの送信を開始する。
さらに、新たな通信局03が現われたとする。このとき、通信局03は、通信局01並びに通信局02のそれぞれから送信されるビーコンの少なくとも一方を受信し、これら既存の通信局の存在を認識する。そして、図2の第3段に示すように、通信局01及び通信局02から送信されるビーコン間隔のほぼ真中にビーコン送信タイミングB03を設定して、ビーコンの送信を開始する。
以下、同様のアルゴリズムに従って近隣で通信局が新規参入する度に、ビーコン間隔が狭まっていく。例えば、図2の最下段に示すように、次に現われる通信局04は、通信局02及び通信局01それぞれが設定したビーコン間隔のほぼ真中にビーコン送信タイミングB04を設定し、さらにその次に現われる通信局05は、通信局02及び通信局04それぞれが設定したビーコン間隔のほぼ真中のタイミングでビーコン送信タイミングB05を設定する。
但し、帯域(スーパーフレーム周期)内がビーコンで溢れないように、最小のビーコン間隔Bminを規定しておき、Bmin内に2以上のビーコン送信タイミングを配置することを許容しない。例えば、80ミリ秒のスーパーフレーム周期でミニマムのビーコン間隔Bminを5ミリ秒に規定した場合、電波の届く範囲内では最大で16台の通信局までしか収容できないことになる。
スーパーフレーム内に新規のビーコンを配置する際、各通信局はビーコン送信の直後に優先利用領域(TPP)を獲得することから(後述)、1つのチャネル上では各通信局のビーコン送信タイミングは密集しているよりもスーパーフレーム周期内で均等に分散している方が伝送効率上より好ましい。したがって、本実施形態では、図2に示したように基本的に自身が聞こえる範囲でビーコン間隔が最も長い時間帯のほぼ真中でビーコンの送信を開始するようにしている。
但し、各通信局のビーコン送信タイミングを集中して配置し、残りのスーパーフレーム周期では受信動作を停止して装置の消費電力を低減させるという利用方法もある。あるいは、通信局固有の送信データ容量に合わせてビーコン送信タイミングを設定するという利用方法もある。後者の場合、通信局は、送信データ量が多いときには次ビーコンまでの間隔が長くなるような時刻(スロット)に自局のビーコン送信タイミングを設定するが、送信データ量が少ないときには次ビーコンまでの間隔が短くなるような時刻にビーコン送信タイミングを設定することができる。これによって、自律動作する複数の通信局同士でスーパーフレームを効率的に利用することができる。
図3には、1スーパーフレーム内で配置可能なビーコン送信タイミングの構成例を示している。但し、同図に示す例では、80ミリ秒からなるスーパーフレームにおける時間の経過を、円環上で時針が右回りに運針し80ミリ秒毎に巡回する時計のように表している。
図3に示す例では、0からFまでの合計16個の位置がビーコン送信を行なうことができる時刻すなわちビーコン送信タイミングを配置可能なスロットとして構成されている。図2を参照しながら説明したように、既存の通信局が設定したビーコン間隔のほぼ真中のタイミングで新規参入局のビーコン送信タイミングを順次設定していくというアルゴリズムに従って、ビーコン配置が行なわれたものとする。Bminを5ミリ秒と規定した場合には、1スーパーフレームにつき最大16個までしかビーコンを配置することができない。すなわち、16台以上の通信局はネットワークに参入できない。
なお、図2並びに図3では明示されていないが、各々のビーコンは、各ビーコン送信時刻であるTBTT(Target Beacon Transmission Time)から故意に若干の時間オフセットを持った時刻で送信されている。これを「TBTTオフセット」と呼ぶ。本実施形態では、TBTTオフセット値は擬似乱数にて決定される。この擬似乱数は、一意に定められる擬似ランダム系列TOIS(TBTT Offset Indication Sequence)により決定され、TOISはスーパーフレーム周期毎に更新される。
図4には、TBTTと実際のビーコン送信時刻を示している。図示のように、TBTT、TBTT+20マイクロ秒、TBTT+40マイクロ秒、TBTT+60マイクロ秒、TBTT+80マイクロ秒、TBTT+100マイクロ秒、TBTT+120マイクロ秒、…、TBTT+X秒のいずれかの時刻となるようTBTTオフセットを定義する。このような場合、ビーコン送信局は、スーパーフレーム周期毎にどのTBTTオフセットで送信するかを決定し、TOISを更新する。また、ビーコン送信局が意図した時刻に送信できない場合には、TOISにオールゼロなどを格納する。
TBTTオフセットを設けることにより、2台の通信局がスーパーフレーム上では同じスロットにビーコン送信タイミングを配置している場合であっても、実際のビーコン送信時刻がずらすことができ、あるスーパーフレーム周期にはビーコンが衝突しても、別のスーパーフレーム周期では各通信局は互いのビーコンを聞き合う(あるいは、近隣の通信局は双方のビーコンを聞く)ことができる。通信局は、スーパーフレーム周期毎に設定するTOISをビーコン情報に含めて周辺局に報知する(後述)。
また、本実施形態の無線ネットワーク内では、各通信局は、データの送受信を行なっていない場合には、自局が送信するビーコンの前後は受信動作を行なうことが義務付けられる。また、データ送受信を行なわない場合であっても、通信局は、数秒に一度は1スーパーフレームに渡り連続して受信機を動作させてスキャン動作を行ない、周辺ビーコンの存在に変化がないか、あるいは各周辺局のTBTTがずれていないかを確認することも義務付けられる。そして、TBTTにずれを確認した場合には、自局の認識するTBTT群を基準に−Bmin/2ミリ秒以内をTBTTと規定しているものを「進んでいる」、+Bmin/2ミリ秒以内をTBTTと規定しているものを「遅れている」ものと定義し、最も遅れているTBTTに合わせて時刻を修正する。
C.自律分散型ネットワークにおけるアクセス手順
通信局として動作する無線通信装置100は、制御局と被制御局の関係を特に設けない通信環境下で、緩やかな時分割多重アクセス構造を持った伝送(MAC)フレームにより伝送チャネルを効果的に利用した伝送制御、又はCSMA/CAに基づくランダム・アクセスなどの通信動作を行なう。
本実施形態の無線ネットワーク内では、各通信局は、ビーコンを一定間隔で送信しているが、ビーコンを送信した後しばらくの間は、該ビーコンを送信した局に送信の優先権を与えることで、信号の往来を自律分散的に管理し、通信帯域(QoS)を確保するようにしている。図5には、ビーコン送信局に優先送信権が与えられる様子を示している。本明細書では、通信局がビーコン信号を送信することにより設定若しくは獲得する優先利用領域のことを、「優先送信区間(Transmission Prioritized Period:TPP)」と定義する。
図6には、ビーコン送信局に優先送信期間TPPを与える場合のスーパーフレーム周期(T_SF)の構成例を示している。同図に示すように、各通信局からのビーコンの送信に続いて、そのビーコンを送信した通信局のTPPが割り当てられるが、TPPに続く区間を「Fairly Access Period(FAP)」と定義され、すべての通信局において通常のCSMA/CA方式により通信が行なわれる。そして、次の通信局からのビーコン送信タイミングでFAPが終わり、以降は同様にビーコン送信局のTPPとFAPが続く。
各通信局は、基本的にはスーパーフレーム周期毎に1回のビーコンを送信するが、場合に応じて、1つのスーパーフレーム内で複数個のビーコンあるいはビーコンに類する信号を送信することが許容され、ビーコンを送信する度に優先送信区間TPPを獲得することができる。言い換えれば、通信局は、スーパーフレーム周期毎に送信するビーコンの個数に応じて優先的な送信用のリソースを確保できることになる。ここで、通信局がスーパーフレーム周期の先頭で必ず送信するビーコンのことを「正規ビーコン」、それ以外のタイミングでTPP獲得又はその他の目的で送信する2番目以降のビーコン(あるいはビーコンに類する信号)のことを「補助ビーコン」と呼ぶ。
図7には、通信局がTPP区間及びFAP区間においてそれぞれ送信を開始するための動作を図解している。
TPP区間内では、通信局は、自局のビーコンを送信した後、より短いバケット間隔SIFSの後に送信を開始することができる。図示の例では、ビーコン送信局はSIFSの後にRTSパケットを送信する。そして、RTSパケットに呼応して送信されるCTS、データ、ACKの各パケットも同様にSIFSのフレーム間隔で送信することにより、近隣局に邪魔されず、一連の通信手順を実行することができる。
これに対し、FAP区間では、ビーコン送信局は、他の周辺局と同様にLIFS+ランダム・バックオフだけ待機してから送信開始する。言い換えれば、すべての通信局にランダムなバックオフにより送信権が均等に与えられることになる。図示の例では、他局のビーコンが送信された後、まずLIFSだけメディア状態を監視し、この間にメディアがクリアすなわち送信信号が存在しなければ、ランダム・バックオフを行ない、さらにこの間にも送信信号が存在しない場合に、RTSパケットを送信する。なお、RTS信号に起因して送信されるCTS、データ、ACKなどの一連のパケットはSIFSのフレーム間隔で送信することにより、近隣局に邪魔されず、一連のトランザクションを実行することができる。
上述した信号の往来管理方法によれば、優先度の高い通信局がより短いフレーム間隔を設定することで優先的に送信権を獲得することができる。
但し、優先送信期間TPPは、最小ビーコン間隔あるいは他に定められる時間単位で決定される一定期間に固定され、その後はFAPというすべての通信局が共通のIFSとランダム・バックオフで均等な条件で通信権を得る期間へと移行する。このため、通信局が、上位レイヤからの要求により、スーパーフレーム毎に1回のビーコン送信で得られる優先送信期間TPPを超えた通信帯域が必要となった場合には、例えば正規ビーコン以外に補助ビーコンを送信し、さらにTPPの獲得を行なうことができるようになっている。
図8には、通信局が補助ビーコンという仮想的なビーコンを複数送信して、この優先利用期間を増やす様子を示している。図示の例では、通信局#1は、上位レイヤから要求された通信帯域を確保するために、スーパーフレーム内で空いているビーコン・スロットを発見し、自局の補助ビーコンを配置することにより、1スーパーフレームで複数のTPPを得ている。NBOI情報の交換により自律分散的にスーパーフレームを構築するシステムにおいては、隠れ端末問題も考慮して空きビーコン・スロットを探索することができるので、補助ビーコンを利用した帯域の獲得方法は簡易である。
また、補助ビーコンは、ネットワーク情報の報知などを目的とする本来のビーコンとは異なる目的で送信されることから、必ずしも本来のビーコンと同等の情報を含んでいる必要はなく、「通常のフレームとは異なる、優先度を伴うフレームである旨」が記載された信号であれば十分である。さらに言えば、当該フレームはビーコンである必要すらなく、RTSやACKなどの制御信号用フレーム(制御フレーム)やデータ・フレームに「通常のパケットとは異なる優先度を伴うパケットである旨」が記載されているだけでもその目的を十分に発揮する。なお、本来のビーコンが持つ情報やフレーム構成については後述する。
図9には、本実施形態において、通信局として動作する無線通信装置の状態遷移図を示している。図示の例では、自局が優先送信権を獲得しているTPP期間に相当する「優先送信モード」と、すべての通信局が優先送信権を得ていないFAP期間に相当する「通常送信モード」という2つの状態が定義されている。
通信局は、通常動作モード下では、LIFS+ランダム・バックオフだけ待機してから送信開始する。
ここで、自局のビーコン送信タイミングTBTTが到来し、ビーコンを送信した後、優先送信モードに遷移し、優先送信期間TPPを獲得する。
優先送信モード下では、SIFSのフレーム間隔で送信することにより、近隣局に邪魔されず、送信権を獲得することができる。
通信局は、上位レイヤから要求される帯域量に相当する長さの優先送信期間TPPだけ優先送信モードを継続する。
そして、TPPが終了し、FAPへ移行したとき、あるいは他局のビーコンを受信したときには、優先送信モードから通常動作モードへ復帰する。
また、図10には、通信局として動作する無線通信装置の状態遷移図についての他の例を示している。図示の例では、自局が優先送信権を獲得しているTPP期間に相当する「優先送信モード」と、すべての通信局が優先送信権を得ていないFAP期間に相当する「通常送信モード」に加え、他局の優先送信期間TPPに相当する「非優先送信モード」という状態が定義されている。
通信局は、通常動作モード下では、通常のフレーム間隔MIFSにランダム・バックオフを加えた期間だけ待機してから送信開始する。FAPの期間中はシステム内のすべての通信局は、MIFS+バックオフにて送信する
ここで、自局のビーコン送信タイミングTBTTが到来し、ビーコンを送信した後、優先送信モードに遷移し、優先送信期間TPPを獲得する。
優先送信モード下では、MIFSよりも短いフレーム間隔SIFSの待機時間だけで送信することにより、近隣局に邪魔されず、送信権を獲得することができる。通信局は、上位レイヤから要求される帯域量に相当する長さの優先送信期間TPPだけ優先送信モードを継続する。そして、TPPが終了し、FAPへ移行したときには、通常送信モードへ復帰する。
また、他局からのビーコンを受信し、当該他局の優先送信期間に突入したときには、非優先送信モードに遷移する。非優先送信モード下では、通常送信モード時のフレーム間隔MIFSよりもさらに長いフレーム間隔LIFSにランダム・バックオフを加えた期間だけ待機してから送信開始する。
そして、他局のTPPが終了し、FAPへ移行したときには、通常送信モードへ復帰する。
D.ビーコンのフレーム・フォーマット
図11には、本実施形態に係る無線通信システムにおいて送信されるビーコン・フレームのフォーマットの構成例を示している。
ビーコンには、受信対象局を一意に示すアドレスであるRA(Receiver Address)フィールド、送信元局を一意に示すアドレスであるTA(Transmitter Address)フィールド、ビーコンの種類を示すTypeフィールド、周辺局から受信可能なビーコンの受信時刻情報であるNBOI/NBAI(Neighboring Beacon Offset Information / Neighboring Beacon Activity Information)フィールド、TBTTオフセット値(前述)を示す情報であるTOIS(TBTT Offset Indication Sequence)フィールド、TBTTの変更やその他各種の伝達すべき情報を格納するALERTフィールド、当該局が優先的にリソースを確保している量を示すTxNumフィールド、そして当該ビーコンのシリアル番号として当該スーパーフレーム内に送信する各々のビーコンに排他的な一意の番号を付したSerialフィールド、当該局の信号検出能力レベルを示すSense Levelフィールド、当該局が属する論理ネットワークを示すNetIDフィールド,当該局がアクセス制御とは無関係に内包している時刻情報を通達するTSF(Timing Synchronization Function)フィールドなどが含まれている。
また、ビーコン・フレーム中には、その他の情報を通達するフィールドも存在するが、本発明の要旨には直接関係がないため、ETCフィールドと記載しておく。ETCフィールドには、このビーコンの送信直後にデータを送信する予定のある特定局に向けたページング情報などの情報が含まれる場合もある。
RA(Receiver Address)フィールドには、通常、ビーコンは報知情報であるため、ブロードキャスト・アドレスが格納される。但し、帯域確保の目的で補助ビーコンとして送信される場合には、RAフィールドは受信先局を一意に示す場合もある。
TA(Transmitter Address)フィールドには、自局を一意に示すアドレスが格納される。
Typeフィールドには、そのビーコンの種類が格納され、当該ビーコンが、各通信局が1スーパーフレームにつき1回送信する正規ビーコンなのか、優先的送信権利を得るために送信されている補助ビーコンなのかを識別するための情報が示されている。また、補助ビーコンの場合には、その補助ビーコンにより提供されるトラヒックのプライオリティがマッピングされている。例えば、正規ビーコンを示す値として255、補助ビーコンのプライオリティ値として0から254をマッピングするなどという形で値を割り当てると、正規ビーコンが最大のプライオリティとして認識される。
NBOIフィールドには、自局が受信可能なビーコンの位置(受信時刻)を自局の正規ビーコンの送信時刻からの相対位置でビットマップにて記載する。例えば、1スーパーフレームで最大で16局が収容される場合(図3を参照のこと)には、図12に示すように、NBOIフィールドは16ビットで構成される。また、NBAIフィールドは、NBOIフィールドと同様のフォーマットで「自局が実際に受信処理を行っているビーコン」を特定する情報が記載される。
図12にはNBOIの記述例を示している。NBOIはスーパーフレーム内で配置可能なビーコン数に相当する16ビットで構成される、最大16局を収容可能な各スロットに通信局0〜FがそれぞれTBTTを設定している。同図に示す例では、通信局0が「1100,0000,0100,0000」のようなNBOIフィールドを作っている。これは、通信局0が、「通信局1並び通信局9からのビーコンが受信可能である」旨を伝えることになる。つまり、受信ビーコンの相対位置に対応するNBOIの各ビットに関し、ビーコンが受信可能である場合にはマーク、受信されてない場合にはスペースを割り当てる。また、MSBが1になっているのは自局がビーコンを送信しているためで、自局がビーコンを送信している時刻に相当する場所もマークする。
各通信局は、あるチャネル上でお互いのビーコン信号を受信すると、その中に含まれるNBOIの記述に基づいて、チャネル上でビーコンの衝突を回避しながら自己のビーコン送信タイミングを配置したり周辺局からのビーコン受信タイミングを検出したりすることができる。
TOISフィールドでは、上述のTBTTオフセットを決定する擬似ランダム系列が格納されており,当該ビーコンがどれだけのTBTTオフセットを以って送信されているかを示す。実際のビーコン送信時刻は、例えば図4に示したように、TBTT、TBTT+20マイクロ秒、TBTT+40マイクロ秒、TBTT+60マイクロ秒、TBTT+80マイクロ秒、TBTT+100マイクロ秒、TBTT+120マイクロ秒、…、TBTT+X秒のいずれかの時刻となるよう定義される。通信局は、ビーコン送信に先立ち今回はTBTTからどれだけずらして送信するかを選択して実際のビーコン送信時刻を決定するとともに、TOISフィールドを更新する。また、送信局が意図した時刻に送信できない場合には、TOISにオールゼロなどを格納し、ビーコン受信局に対して,今回のビーコン送信タイミングは意図した時刻に行なえなかった旨を伝達する。
Delayフィールドでは、当該ビーコンが何らかの要因(例えばチャネルの利用状況)により予定していた送信時刻(すなわちビーコン送信予定時刻)よりも送れて送信される場合に、TBTTからどれだけ遅れて送信されたのかを示す値(Delay値)が格納される。Delay値は、ビーコン信号の送信予定時刻と実際に送信された時刻との相違に関する情報である。ビーコンの送信時刻が遅れる要因としては、他局の送信信号を検出し衝突を回避するため、あるいはその他の外的要因などが考えられる。ビーコンを受信した通信局は、ビーコンがTBTT並びにTBTTオフセットに基づいて予定されたビーコン送信予定時刻に送信されてこなかった場合であっても、このDelayフィールドを参照することにより当該ビーコンが本来収容されるTBTTを知ることができる。
なお、Delay値をTOISフィールドに書き込むことで、ビーコンのフレーム長を節約することができる。例えば、Delayフィールドを1ビットのフラグとし、このDelayフラグが0であればTOISフィールドには通常のTOISが記載され、Delayフラグが1であればTOISフィールドにはDelay値が記載されるように、TOISフィールドを定義する。
ALERTフィールドでは、異常状態において、周辺局に対して伝達すべき情報を格納する。具体的には、自局の正規ビーコンのTBTTを変更する予定がある場合には、その旨を記載し、また周辺局に対して、補助ビーコンの送信をやめさせて欲しいリクエストがある場合には、その旨を記載する。
TxNumフィールドでは、当該局が他の手段により優先的にリソースを確保して送信を行なっている時間率に相当する値を記載する。具体的には、当該局が優先的にリソースを確保するために送信している補助ビーコン数を記載する。
Serialフィールドには、当該ビーコンのシリアル番号として、当該スーパーフレーム内に送信する各々のビーコンに排他的な一意の番号が記載される。自局の正規ビーコンを基準に、何番目のTBTTで送信しているビーコンであるかの情報を記載する。
Sense Levelフィールドには、当該局がどのレベル(受信SINR)までの受信信号を受信信号として検出しているかの情報を格納する。通信局は、自局が通信可能なエリアを制御する目的で受信機におけるプリアンブル検出精度を下げ、低いSINRで受信された信号を故意に受信信号として検出しない場合がある。当該フィールドは当該通信局におけるこの制御状況を通達するものである。ビーコン受信局側では、このフィールドを参照することにより、当該ビーコン送信元局に宛ててデータレートを調整したり、自己のプリアンブル検出精度を同調させたりすることができる。
NetID(Network Identifier)フィールドは、当該ビーコン送信局のオーナーなどを示す識別子である。受信局は、このフィールドを参照することにより、自局と当該局が論理的に同一のネットワークに属しているか否かを認識することができる。
TSF(Timing Synchronization Function)フィールドは、当該ビーコン送信局が内包している時刻情報を通達するフィールドである。この時刻はメディア・アクセスとは別の用途で、主にアプリケーションの同期の目的で用いられる。ビーコンの送信時刻の変更やTDMA構造を保持するためのクロックの補正や、TBTTオフセットなどといったアクセス制御とは無関係に、送信局の備えるクロックに忠実にフリーランではじき出される当該信号の送信時刻を掲載する。ビーコンの受信局側では、この値を受信時刻とともに通信プロトコルの上位レイヤに提供し、当該局から送信される情報の基準時刻情報として保持することがある。
また、ETCフィールドに含まれる場合のあるPaging情報は、CSMAの従来例で示したRTS相当の情報に相当する場合もある。また、このPaging情報は毎回ビーコンに存在している訳ではなく、同一のPSDU中にビーコンと対象先通信局を明示したRTS情報がマルチプレクスされている場合もある。
E.ビーコンのTBTTの設定
通信局は電源投入後、まずスキャン動作すなわちスーパーフレーム長以上にわたり連続して信号受信を試み、周辺局の送信するビーコンの存在確認を行なう。この過程で、周辺局からビーコンが受信されなかった場合には、通信局は適当なタイミングをTBTTとして設定する。
一方、周辺局から送信されるビーコンを受信した場合には、周辺局から受信した各ビーコンのNBOIフィールドを当該ビーコンの受信時刻に応じてシフトしながら論理和(OR)をとって参照することにより、最終的にマークされていないビット位置に相当するタイミングの中からビーコン送信タイミングを抽出する。周辺通信局から受信した各ビーコンのNBOIフィールドを当該ビーコンの受信時刻に応じてシフトしながらORで参照することにより得られた0/1の系列を受信NBOIテーブル(Rx NBOI Table)と呼ぶ。
基本的には、通信局はビーコン送信の直後に優先利用領域(TPP)を獲得することから、各通信局のビーコン送信タイミングはスーパーフレーム周期内で均等に分散している方が伝送効率上より好ましい。したがって、周辺局から受信したビーコンから得たNBOIのORをとった結果、スペースのランレングスが最長となる区間の中心をビーコン送信タイミングとして定める。
但し、ランレングスが最長となるTBTT間隔が最小のTBTT間隔よりも小さい場合(すなわちBmin以下の場合)には、新規通信局はこの系に参入することができない。
図13には、新規に参入した通信局が周辺局から受信したビーコンから得た各ビーコンのNBOIに基づいて自局のTBTTを設定する様子を示している。NBOIは、スーパーフレーム内に配置可能なビーコン数に相当する16ビットで構成される。
図13に示す例では、新規に登場した通信局Aに着目し、通信局Aの周辺には通信局0、通信局1、通信局2が存在しているという通信環境を想定している。そして、通信局Aは、スキャン動作によりスーパーフレーム内にこの3つの局0〜2からのビーコンが受信できたとする。
NBOIフィールドは、周辺局のビーコン受信時刻を自局の正規ビーコンに対する相対位置に対応するビット位置にマッピングしたビットマップ形式で記述している(前述)。そこで、通信局Aでは、周辺局から受信できた3つのビーコンのNBOIフィールドを各ビーコンの受信時刻に応じてシフトして時間軸上でビットの対応位置を揃えた上で、各タイミングのNBOIビットのORをとって参照する。
周辺局のNBOIフィールドを統合して参照した結果、得られている系列が図13中“OR of NBOIs”で示されている「1101,0001,0100,1000」であり、1はスーパーフレーム内で既にTBTTが設定されているタイミングの相対位置を、0はTBTTが設定されていないタイミングの相対位置を示している。この系列において、スペース(ゼロ)の最長ランレングスは3であり、候補が2箇所存在していることになる。図13に示す例では通信局Aは、このうち15ビット目を自局の正規ビーコンのTBTTに定めている。
通信局Aは、15ビット目の時刻を自局の正規ビーコンのTBTT(すなわち自局のスーパーフレームの先頭)として設定し、ビーコンの送信を開始する。このとき、通信局Aが送信するNBOIフィールドは、ビーコン受信可能な通信局0〜2のビーコンの各受信時刻を、自局の正規ビーコンの送信時刻からの相対位置に相当するビット位置をマークしたビットマップ形式で記載したものである、図13中の“NBOI for TX (1 Beacon TX)”で示す通りとなる。
なお、通信局Aが帯域確保のために優先送信権を得るなどの目的で補助ビーコンを送信する際には、さらにこの後、周辺局のNBOIフィールドを統合した“OR of NBOIs”で示されている系列のスペース(ゼロ)の最長ランレングスを探し、探し当てたスペースの箇所に補助ビーコンの送信時刻を設定する。図13に示す例では、2つの補助ビーコンを送信する場合を想定しており,“OR of NBOIs”の6ビット目と11ビット目のスペースの時刻に補助ビーコンの送信タイミングを設定している。この場合、通信局Aが送信するNBOIフィールドは、自局の正規ビーコンと周辺局の受信ビーコンの相対位置に加え、さらに自局がビーコン送信を行なっている箇所(正規ビーコンに対する相対位置)にもマークされ、“NBOI for TX (3 Beacon TX)”で示されている通りとなる。
各通信局が上述したような処理手順で自局のビーコン送信タイミングTBTTを設定してビーコンの送信を行なう場合、各通信局が静止して電波の到来範囲が変動しないという条件下では、ビーコンの衝突を回避することができる。また、送信データの優先度に応じて(すなわち必要な帯域に応じて)、正規ビーコンの他に補助ビーコン(又は複数のビーコンに類する信号)をスーパーフレーム内で送信することにより、優先的にリソースを割り当て、QoS通信を提供することが可能である。優先利用領域を割り当てる際も、同様の仕組みで優先利用領域の衝突を回避することができる。また、周辺から受信したビーコン数(NBOIフィールド)を参照することにより、各通信局がシステムの飽和度を自律的に把握することができる。したがって、分散制御システムでありながら、通信局毎に系の飽和度を加味しつつ優先トラヒックの収容を行なうことが可能となる。さらに、各通信局が受信ビーコンのNBOIフィールドを参照することで、ビーコン送信時刻は衝突しないように配置されるので、複数の通信局が優先トラヒックを収容した場合であっても、衝突が多発するといった事態を避けることができる。
F.送信不許可区間(NBAIの設定並びに参照)
本実施形態に係る無線ネットワークでは、ビーコン受信の隠れ端末を軽減する目的で、ビーコンのフレーム・フォーマット中にNBAIフィールドが設定されている。NBAIフィールドは、NBOIフィールドと同様のフォーマットで、自局の正規ビーコンの送信時刻を基準にビットが配置され、自局が実際に受信処理を行なっているTBTTを特定する情報がビットマップ形式で記載される。
各通信局は、スリープ・モード状態においては他局のビーコンを受信しない。このため、スリープ・モード状態においては、NBAIビットには、オールゼロがセットされた状態で(但し、自局がビーコン送信を行なう時刻を除く)、ビーコンが送信される。一方、他局との通信状態に入ると、周辺局の正規ビーコンを受信する動作を行なう。この場合、NBAIビットには、周辺局の正規ビーコンの受信時刻(TBTT)に対応するビットに1がセットされた状態でビーコンが送信される。
なお、周辺局が補助ビーコンの送信などにより1つ以上の優先利用領域を利用している場合、当該優先利用領域における優先的な送信が自局に宛てて行なわれると判断される場合に限り、受信される補助ビーコンの受信時刻(TBTT)に対応するNABIビットに1をセットする。優先利用領域における優先的な送信が自局に宛てて行なわれるかどうかは、当該補助ビーコンを送信している通信局との間で通信状態に入っていることや事前のネゴシエーション結果を基に判断する。
また、さらに、補助ビーコンの送信などにより規定される毎に送信するデータの宛先がなんらかの手段により指定されている場合、上記データの宛先が自局であると判断される補助ビーコンに限り、当該補助ビーコンの受信時刻(TBTT)に対応するNBAIビットに1をセットする。すなわち、通信局は、当該時間帯に送信される補助ビーコン並びに他局がTPPを利用して送信した信号が自局に宛てて送信されているか(自局が当該信号を受信する必要があるか)否かにより、NBAIビットに1をセットするか否かを判断する。
一方、ビーコンを受信した通信局側では、受信ビーコン中のNBAIビットを、Rx NBOI Tableを作成したときと同様の手順(前述)により、ビーコン受信時刻に応じてシフトしながらORをとり、当該スーパーフレーム内に設定されている各TBTTにおいて送信不許可処理を行なうか否かを判断する。
該当する時刻のNBAIビットのORをとった結果が1であった場合、通信局は、当該TBTTの時刻あるいはそれに若干先立つ時刻からTBTTオフセットの最大長+ビーコン長にて規定される一定期間に渡り送信不許可状態にし、他局のビーコン受信を妨げないよう考慮する。但し、当該TBTTが自局のビーコン送信時刻であった場合には、送信不許可処理を行なわず、ビーコン情報を含むフレームを送信する。
なお、送信不許可状態は、ビーコン送信あるいはビーコン受信を行なうことにより解除され、通常の送受信処理状態へと変遷する。
G.問題が発生するケースの例示
ここで、4台の通信局が図33に示した状況で配置されている場合を想定する。この場合、上記の手順に従って各通信局がビーコンを送信すると、例えば図14に示すように各局のビーコンが送信されることがある。但し、スーパーフレーム中に8箇所のTBTTが設定できる場合を想定している。
図示の例では、1つのスーパーフレーム内で、通信局#0が通信局#1に宛てた通信用途で合計4つのビーコンを送信し、通信局#3が通信局#2に宛てた通信用途で3つのビーコンを送信している場合を想定している。このうち、通信局#0と通信局#3は、時刻T0、T2、T5にてそれぞれ同一のTBTTを選択している。
この場合、優先的に送信を行なう目的で設定された優先送信区間TPPが有効に利用できないケースが発生し得る。この様子を図15に例示している。図15では、図14における時刻T0、T2、T5のそれぞれに部分をスケールアップして示している。
時刻T0から始まるシーケンスでは、通信局#3のTBTTオフセットが通信局#0のTBTTオフセットよりも短かったため、通信局#3がまずビーコンとRTSを含む信号を送信する。これに呼応して通信局#2がCTSを通信局#3宛てに返送する。このCTSは通信局#1でも受信されるため、通信局#1はCSMA/CA手順に則り、CTS内で指示されたDuration期間に渡りNAVを立て、送信不許可区間を設定する。
その後、通信局#0からは、ビーコンと通信局#1を宛先とするRTSを含む信号並びにRTS情報を含む信号が送信される。通信局#1は、これを受信することができたとしても、送信不許可状態にあることからCTSを返送することができない。このため、通信局#0は自局がビーコンを送信して獲得する優先送信区間TPPが有効に動作しないことにつながる。これは、上述したNBOIによる隣接局の管理方法では、通信局#0が2ホップより先の通信局は関知できないということに依拠する。
また、時刻T2においては、通信局#0と通信局#3のTBTTオフセットが一致したため、通信局#0から通信局#1へのデータ伝送と、通信局#3から通信局#2へのデータ伝送が同時に並行して行なわれている。この場合、通信局#0並びに通信局#3は、それぞれビーコン送信により獲得する優先送信区間TPPが有効に動作している。
これに対し、時刻T5においては、通信局#3よりも通信局#0のTBTTオフセットが短かったため、時刻T0のときと類似する現象が生じる。すなわち、今度は通信局#2がCTSを返送することができず、通信局#3の優先送信区間TPPが有効に動作しない。
H.問題への対応(第1の解決方法)
この項では、図15に示したような、通信局の優先送信区間TPPが有効に動作しないという状況からベスト・エフォートにより脱却するための第1の解決方法について説明する。図16には、この場合の動作手順の一例を示している。但し、図16において示されている時刻T0などの参照点は図14などに示されているものとは無関係である。
H−1.調査手順の起動
時刻T0は、通信局#0並びに通信局#3のTBTTの時刻である。通信局#3は、当該TBTTにおけるTBTTオフセットの値が0であったため、TBTTにて通信局#2へのRTS(Paging情報)を含むビーコンの送信を行なう。時刻T1において、通信局#2は、通信局#3からのRTSに呼応してCTSを返送する。
通信局#2からのCTSは通信局#1においても受信される。通常のCSMA動作であれば、通信局#1は、CTSで示されているDurationの値によりNAVをセットし、送信不許可状態に入る。通信局#1は、時刻T0が通信局#0の送信ビーコンのTBTTであることを認識しており、且つ通信局#0からのビーコンをまだ受信していないため、緊急を要する信号以外については送信不許可状態に入っている。
本実施形態では、通信局#0からの送信ビーコン時刻からはじまる優先利用領域を干渉し、且つ長期間に渡るNAVの設定を要求するCTSを受信した場合、通信局#1は当該CTSの送信元通信局のアドレスを「マークすべき通信局」として記憶しておく。また、同時にどの時刻において当該CTSを受信したのかを「マークした時刻」として記憶しておく。
その後、時刻T2において、通信局#0は、TBTTからTBTTオフセットだけ経過すると、通信局#1へのRTS(Paging情報)を含むビーコンの送信を行ない、通信局#1はこれを受信する。
この時点で、通信局#1は、通信局#2からのCTSを受信したことに起因して送信不許可状態になっているが、受信信号がビーコンと自局宛てのRTSという両方の要素を有しているため、当該信号は優先利用領域を保持している通信局から送信されていることが分かる。通信局#1は、このように優先利用領域を保持している通信局から送信されてきた信号に関しては、優先的に処理されるべきと判断する。すなわち、通信局#1は、優先的に処理されるべき信号(この場合はビーコンと自局宛てのRTSの両要素を備えた信号)を受信した場合、現在設定されている送信不許可状態を取り消し、CTSの返送を行なう。
さらに、通信局#1は、送信不許可状態を取り消した場合には、「マークすべき通信局」として登録されている通信局が存在し、且つ「マークした時刻」が現時刻からBmin以上離れていないことを確認すると、優先的に受信可能な時間帯に何らかの問題が発生している可能性があるものと判断し、調査(Search)手順を開始することを決定する。この調査手順を経て、通信局は優先送信区間の重複を回避する処理を実行するが、この点については後に詳解する。
なお、通信局#1がCTSを送信することにより通信局#2の受信信号は一部干渉を被ることになり、データの一部が破損されることも生じ得るが、CTS信号の長さは短いことから信号の全体が破損する訳ではない。
H−2.調査手順の起動までの処理フロー
図17には、通信局がキャリア検出により送信不許可状態となっているときに、優先的に処理されるべきRTSパケットを受信したことにより送信不許可状態を取り消すための動作手順を、フローチャートの形式で示している。同図に示す動作手順は、実際には、通信局として動作する無線通信装置100内で、中央制御部103が所定の実行命令プログラムを実行するという形態で実現される。
通信局は、信号を受信すると(ステップS01)、まず当該信号が自局宛てか否かを判断する(ステップS02)。受信信号が自局宛てでないと判断されると、下記の処理を行なう。
まず、当該受信信号が優先的に送信されているか否かを判断する(ステップS03)。そして、優先的でない場合には、「マークすべき通信局」として保持している情報をクリアした後に(ステップS05)、通常の受信状態へと変遷する。上記の例では、優先的に送信されているか否かは、自局が送信不許可状態に受信されたか否かに基づいて判断されている。
また、当該受信信号が優先的に送信されていると判断された場合には(ステップS03)、続いて当該受信信号の宛先が自局の隣接局であるか否かを判断する(S04)。ここで、当該受信信号の宛先が隣接局であると判断された場合には、「マークすべき通信局」として保持している情報をクリアした後に(ステップS05)、通常の受信状態へと変遷する。
これに対し、当該受信信号の宛先が隣接局でないと判断された場合には(ステップS04)、当該受信信号の送信元局を「マークすべき通信局」として記憶する(ステップS06)。
一方、ステップS02において、当該受信信号が自局宛てであると判断された場合には、下記の処理を行なう。
まず、当該受信信号が優先的に送信されているか否かを判断する(ステップS07)。そして、優先的でない場合には、「マークすべき通信局」として保持している情報をクリアした後に(ステップS12)、通常の受信状態へと変遷する。上記の例においては、RTSがビーコンに付随していることを確認することにより、当該受信信号が優先的であると判断される。
また、当該受信信号が優先的に送信されていると判断された場合には、現在自局にNAVが設定されているか否かをさらに判断する(ステップS08)。ここで、NAVが設定されていない場合には、「マークすべき通信局」として保持している情報をクリアした後に(ステップS12)、通常の受信状態へと変遷する。
これに対し、自局にNAVが設定されている場合には(ステップS09)、当該NAVをキャンセルする(ステップS09)。次いで、「マークすべき通信局」として情報を保持しているか否かを判断する(S10)。ここで、「マークすべき通信局」として情報が保持されていない場合には通常の受信状態へと変遷するが、マークすべき通信局として情報が既に保持されている場合には、調査手順を開始することを決定し(ステップS11)、「マークすべき通信局」をクリアする(ステップS12)。
H−3.調査手順の詳細(第1例)
図17に示した処理により調査手順を開始することを決定した通信局#1は、その後、他通信局との間でメッセージを交換し、優先送信区間の重複を回避する処理を実行する。
□ 第1のメッセージの送信
調査手順を開始することを決定した通信局#1は、「マークすべき通信局」として登録してある通信局#2に対し、通信局#2の優先送信区間TPPにおける受信状況を報告してほしい旨を第1のメッセージとして送信する。図16に示す例では、時刻T3に第1のメッセージとしてのSearchが送信されている。
なお、通信局#1は、通信局#0と通信局#2に関する調査手順を起動したことから、タイマーを起動させ、以後しばらくの間は、自局から新規の調査手順を起動しないこと、さらに当該調査手順の対象局(通信局#0並びに通信局#2)以外の局からの当該調査手順に関わるメッセージを廃棄することとする。
□ 第2のメッセージの送信
第1のメッセージを受信した通信局#2は、現在通信局#2が優先送信区間TPPを用いて送受信状態にある通信局のTBTTと当該通信局のアドレスを1レコードとした情報を作成する。このTBTTは通信局#2の通常ビーコンの時刻からの相対時刻で示すことにより、システム全体を管理する時計が存在しなくても時刻を報知することができる。さらに、通信局#2は、この作成した情報を第2のメッセージとして通信局#1へ返送する。図16に示す例では、時刻T4に第2のメッセージとしてのReportが送信されている。
なお、第1のメッセージを受信した通信局#2は、近隣通信局において調査手順が開始されていることを認識し、タイマーを起動させ、以後しばらくの間は、自局から新規の調査手順を起動しないこと、さらに他局からの当該調査手順に関わるメッセージを廃棄することとする。
□ 第3のメッセージの送信
第2のメッセージを受信した通信局#1は、第2のメッセージに格納されている情報群のうち、自局が認識していない局(自局にとっての隠れ端末若しくは次隣接局)に関わるレコードのみを抽出し、抽出されたレコードのTBTT情報を含む第3のメッセージを作成する。このTBTTは通信局#1の通常ビーコンの時刻からの相対時刻で示すことにより、システム全体を管理する時計が存在しなくても時刻を報知することができる。さらに、通信局#1は、この作成した第3のメッセージを通信局#0へ送信する。図16に示す例では、第3のメッセージは時刻T5に、第3のメッセージとしてのAskが送信されている。
第3のメッセージは、「このメッセージに含まれているTBTTにおける優先送信区間TPPでは、通信局#1が通信局#2の受信とかちあう可能性がある」ことを示しており、言い換えれば、通信局#0に対して、当該TBTTでは通信局#1宛ての信号が必ずしも優先的に受信できない可能性があることを通信局#0に対して示すものである。
□ スキャン並びにTBTTの変更
第3のメッセージを受信した通信局#0は、通信局#1の優先送信区間TPPにおける受信に関して問題を抱えていることを認識すると、通信局#1宛てのTPPでの送信時刻を変更するため、TBTTの変更処理を起動する。
このTBTT変更処理では、スーパーフレーム分のスキャン処理を行ない、第3のメッセージで記されていない時間帯での空きのTBTTを探し、通信局#1宛てに優先度の高い送信を行なう時間帯を変更しようと試みる。
また、通信局#0は、このスキャン処理を行なう決定を下すと同時に、送信ビーコンのALERTフィールドにて自局のTBTTを変更する予定があることを周辺に報知する。
そして、通信局#0は、図16に示すようにスキャン処理を起動し、これが終了すると、第3のメッセージで記されている時間帯をNGの時間帯として考慮した上で(後述)、上述した手順により空きのTBTTを探索し、現在NGの時間帯で送信しているビーコンのTBTTを置き換える。図16に示す例では、通信局#0のTBTTが時刻T6に置き換わっている。
□ 第4のメッセージの送信
十分な空きTBTTが存在していれば、上記の処理により、優先送信区間TPPが有効に利用できる状態へと戻ることになる。しかしながら、十分な空きTBTTが存在していない場合には、通信局#1の要求に十分に応えられない可能性がある。通信局#0は、他局宛てにも通信を行なっている場合には、通信局#1がNGと報告してきた時間では通信局#1以外の通信局に送信を行なうよう送信制御をスケジュールする。あるいは、当該時刻での補助ビーコンの送信をストップすることもある。
このような状況を通信局#1に知らせる目的で、通信局#0は、変更することができなかったTBTTの存在を通信局#1に対して報告する。通信局#1の要求に応じることができた場合であっても、要求通りすべてのTBTTを変更した旨を通信局#1に報告することが望ましい。通信局#0は、この情報を第4のメッセージとして通信局#1に送信する。第4のメッセージには、第3のメッセージにてNGの時刻と報告されたにも拘らず、依然としてNGの時刻にビーコンを送信している時刻を明記する。図16に示す例では、時刻T7において第4のメッセージとしてのStatusとして送信されている。
□ 第5のメッセージの送信
第4のメッセージを受信した通信局#1は、通信局#0がどれだけ要求に応えたかを把握する。図16に示す例では、通信局#0が要求に応えられなかったと報告してきた時間帯(TBTT)を「未解決時間帯」として保持し、この時間帯に生じた事象により調査手順を発生させないよう留意する。さらに、通信局#1は、「未解決時間帯」の情報を同様の状況に陥っている通信局#2と共有するため、「未解決時間帯」情報を第5のメッセージとして通信局#2へと転送する。図16に示す例では、時刻T8に第5のメッセージとしてのStatusが送信されている。
□ 第5のメッセージの受信
第5のメッセージを受信した通信局#2は、通信局#1と同様に、報告された時間帯(TBTT)を「未解決時間帯」として保持し、この時間帯に生じた事象により調査手順を発生させないよう留意する。
H−4.調査手順の詳細(第2例)
図16を参照しながら説明した上記の手順では、通信局#1が手順を起動し、Searchメッセージにより通信局#2に対し調査をかけた後、Askメッセージにより通信局#0に対してTBTT変更要求を送信している。これに対し、通信局#1が手順を起動し、さらに通信局#1が自ら調査結果を通信局#2に対して通達し、通信局#3にTBTT変更要求を行なわせるという手順であっても、優先送信区間がかち合う事態を解消するという本発明の目的は達成される。この場合の手順について、図18を参照ながら以下に説明する。
□ 第2のメッセージの送信
図17に示した処理により調査手順を開始することを決定した通信局#1は、現在通信局#1が優先送信区間TPPを用いて送受信状態にある通信局のTBTTと当該通信局のアドレスを1レコードとした情報を作成する。このTBTTは通信局#1の通常ビーコンの時刻からの相対時刻で示すことにより、システム全体を管理する時計が存在しなくても時刻を報知することができる。さらに、通信局#1は、この作成した情報を第2のメッセージとして通信局#2へと送信する。図18に示す例では、時刻T4に第2のメッセージとしてのReportが送信されている。なお、第2のメッセージを送信した通信局#1並び第2のメッセージを受信した通信局#2は、近隣通信局において調査手順が開始されていることを認識してタイマーを起動させ、以後しばらくの間は、自局から新規の調査手順を起動しないこと、さらに他局からの当該調査手順に関わるメッセージを廃棄することとする。
□ 第3のメッセージの送信
第2のメッセージを受信した通信局#2は、自局が優先的に受信している時間帯が隣接局の優先的に受信している時間帯と一致していることを認識する。そして、通信局#2は、通信局#1から受信した第2のメッセージに含まれる時間帯で優先受信をしている相手局に対してTBTTの変更を要請することを決定する。図18に示す例では、第2のメッセージに含まれる時間帯で優先受信をしている相手局として通信局#3が抽出される。
通信局#2は、第2のメッセージに格納されている情報群のうち、自局が認識していない局(自局にとっての隠れ端末若しくは次隣接局)に関わるレコードのみを抽出し、抽出されたレコードのTBTT情報を含む第3のメッセージを作成する。上記TBTTは通信局#2の通常ビーコンの時刻からの相対時刻で示すことにより、システム全体を管理する時計が存在しなくても時刻を報知することができる。さらに、通信局#2は、この作成した第3のメッセージとして通信局#3へ送信する。図18に示す例では、時刻T5に、第3のメッセージとしてのAskが送信されている。
第3のメッセージは、「このメッセージに含まれているTBTTにおける優先送信区間TPPでは、通信局#2が通信局#1の受信とかちあう可能性がある」ことを示しており、言い換えれば、通信局#3に対して、当該TBTTでは通信局#2宛ての信号が必ずしも優先的に受信できない可能性があることを示すものである。
□ スキャン並びにTBTTの変更
第3のメッセージを受信した通信局#3は、通信局#2が優先送信区間TPPにおける受信に関して問題を抱えていることを認識すると、通信局#2宛てのTPPでの送信時刻を変更するため、TBTTの変更処理を起動する。
このTBTT変更処理では、通信局#3は、スーパーフレーム分のスキャン処理を行ない、第3のメッセージで記されていない時間帯での空きのTBTTを探し、通信局#2宛てに優先度の高い送信を行なう時間帯を変更しようと試みる。
また、通信局#3は、このスキャン処理が行なう決定を下すと同時に、送信ビーコンのALERTフィールドにて自局のTBTTを変更する予定があることを周辺に報知する。
そして、通信局#3は、図18に示すようにスキャン処理を起動し、これが終了すると、第3のメッセージで記されている時間帯をNGの時間帯として考慮した上で(後述)、上述の手順により空きのTBTTを探索し、現在NGの時間帯で送信しているビーコンのTBTTを置き換える。図18に示す例では、通信局#3のTBTTがT6に置き換わっている。
□ 第4のメッセージの送信
十分な空きTBTTが存在していれば、上記の処理により、優先送信区間TPPが有効に利用できる状態へと戻ることになる。しかしながら、十分な空きTBTTが存在していない場合、通信局#2の要求に十分に応えられない可能性がある。通信局#3は、他局宛てにも通信を行なっている場合には、通信局#2がNGと報告してきた時間では通信局#2以外の通信局に送信を行なうよう送信制御をスケジュールする。あるいは、当該時刻での補助ビーコンの送信をストップすることもある。
このような状況を通信局#2に知らせる目的で、通信局#3は、変更することができなかったTBTTの存在を通信局#2に対して報告する。通信局#2の要求に応じることができた場合であっても、要求通りすべてのTBTTを変更した旨を通信局#2に報告することが望ましい。通信局#3は、この情報を第4のメッセージとして通信局#2に送信する。第4のメッセージには、第3のメッセージにてNGの時刻と報告されたにも拘わらず、依然としてNGの時刻にビーコンを送信している時刻を明記する。図18に示す例では、時刻T7に第4のメッセージとしてのStatusが送信されている。
□ 第5のメッセージの送信
第4のメッセージを受信した通信局#2は、通信局#3がどれだけ要求に応えたかを把握し、通信局#3が要求に応えられなかったと報告してきた時間帯(TBTT)を「未解決時間帯」として保持し、この時間帯に生じた事象により調査手順を発生させないよう留意する。さらに、通信局#2は、「未解決時間帯」の情報を同様の状況に陥っている通信局#1と共有するため、「未解決時間帯」情報を第5のメッセージとして通信局#1へ転送する。図18に示す例では、時刻T8に、第5のメッセージとしてのStatusが送信されている。
□ 第5のメッセージの受信
第5のメッセージを受信した通信局#1は、通信局#2と同様に、報告された時間帯(TBTT)を「未解決時間帯」として保持し、この時間帯に生じた事象により調査手順を発生させないよう留意する。
H−5.NGの時間帯を考慮した空きTBTTの探索処理
上述した通り、第3のメッセージとしてのAskを受信した通信局は、自局の優先送信区間TPPにおける送信に関する受信局の様子を加味した上で、TPPを獲得するためのビーコン送信タイミングTBTTを設定する必要がある。この場合に行なわれる空きTBTTの探索処理について図19を参照しながら以下に説明する。
図19では、Beacon−0を送信している通信局#0が第3のメッセージを受信したものと仮定し,通信局#0が空きTBTTの探索処理を行なう場合を例示している。
受信局の様子も加味した上でTBTTを設定する通信局#0は、1スーパーフレーム分のスキャン処理を行なう。これにより、近隣の通信局#1並びに通信局#2からビーコンが受信されたものとする。これらビーコンに含まれるNBOIが、それぞれ同図中“NBOI of Beacon−1”と“NBOI of Beacon−2”であった場合、図13を参照しながら説明した場合と同様の手順によりこれらをシフトした上でORをとり、Rx NBOI Tableを作成する。Rx NBOI Tableは、図示の“OR of NBOIs (Rx NBOI Table)”のようになる。
さらに、通信局#0は、第3のメッセージとして受信した時間帯情報を基に、第3のメッセージに含まれるレコードの時刻に対応するビットを1に設定したNG Timingテーブルを作成する。そして、Rx NBOI TableとこのNG TimingテーブルとのORをとり、最終NBOI Tableを作成する。これは、図19中のFinal NBOI Tableに相当する。
ここで、通信局#0は、1スーパーフレーム内で2つビーコンを送信しているが、NG Timingテーブルで1が設定されている時間帯で送信しているビーコンの有無を確認する。図19に示す例では、紙面一番左のタイミングがこれに相当し、このビーコン送信時刻を変更することを決定する。
新たなビーコン送信時刻は、上記で作成した最終NBOI Tableでマークされていない時間帯から選択する。図19に示す例では、左から6番目のタイミングに新規のTBTTが設定されている様子が示されている。通信局#0は,この時刻の最終NBOI Tableをマークした上で、一番左のTBTTを左から6番目のTBTTに変更する。
なお、NG Timingテーブルで1が設定されている時間帯で送信しているビーコンが複数存在した場合には、これらすべてのTBTTを変更し終えるか、あるいは最終NBOI Tableがすべてマークされるまで、上記の処理を繰り返し行ない、可能な限りTBTTの再設定を試みる。
H−6.付帯事項
なお、上記の調査手順並びにTBTTの変更手順は、ネットワーク・トポロジが変化したときや不要なときに起動されて混乱を招くことを避ける目的で、周辺局のビーコンの出現に大きな変化がない時間帯にのみ起動される必要がある。
具体的には、スキャン処理をした結果、周辺局からのビーコンの受信の有無、並びにTBTTの有無に変化がなく、且つビーコン内で報知されてくるNBOI/NBAI、ALERT、TxNum、Sense Levelなどに変化がない状態が数スーパーフレームに渡って続いていることを確認した上で、調査手順の起動並びに上記メッセージの解読を行なうことになる。
また、ネットワーク・トポロジの変化などにより、周辺のビーコンの存在に変化が生じた場合には、上記の「未解決時間帯」をクリアすることがある。
H−7.手順起動後の様子
上述した手順を踏むことにより、図14に示した各局のビーコンは、最終的には、例えば図20に示すように配置される。図示のように、通信局#0と通信局#3の不要なTBTTの一致は回避される。
しかしながら、この系内に存在している通信局の送信しているビーコン数は、スーパーフレーム中に定義できるTBTT数である8を超えているため、すべてのビーコンを異なるTBTTに割り当てることはできない。図20に示す例では、依然として時刻T5にて通信局#0と通信局#3のビーコンが同一のTBTTで送信されている。
このような場合に、通信局がアプリケーションに対して所望の帯域幅を提供できないと判断すると、アプリケーションに対して要求に見合う帯域を提供できないと報告する場合がある。
また、このような場合に、通信局がアプリケーションに対して所望の帯域幅を提供できないと判断すると、当該通信局の送受信レンジを小さくして被干渉を抑えるなどという手順が起動されることもある。図20に示す例では、通信局#1が送受信レンジを狭めて通信局#2をレンジ外に追いやることで問題を軽減することが可能となる。但し、通信局における送受信レンジの変更手法に関しては、本発明の要旨には直接関連しないため。ここではこれ以上の説明は行なわない。
I.問題への対応(第2の解決方法)
前項Hでは、問題が発生してから解決をする手順について説明したが、この項では、問題が発生しないよう事前に処理を付加する処理内容について説明する。
I−1.フレーム・フォーマット
図21には、この実施形態において利用されるフレーム・フォーマットの構成例を示している。同図に示す例では、図26に示した従来のフレーム・フォーマットと比較して、当該信号が優先通信にて送信されているか否かを示すプライオリティ・フィールドが追加される点で相違する。図示の例では、PLCPヘッダ内にプライオリティ・フィールドが構成された場合を例示しているが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、例えばMACヘッダ内に構成されていてもよい。
通信局は、自局の優先送信区間TPP内にて送信する信号に関しては、プライオリティ・フィールドに1をセットし、それ以外に送信する信号に関しては,プライオリティ・フィールドを0にセットする。さらに、RTSに呼応して送信されるCTSや、CTSに呼応して送信されるDATAなどのように、ある信号の受信に起因して送信されるフレームにおいては、プライオリティ・フィールドは、直前に受信した信号にセットされているプライオリティ・フィールドをコピーして送信する。すなわち、通信局は、フレームの受信に呼応してフレームの送信を行なうときには、当該受信フレームに記載された優先度情報を送信フレーム中に転記するようにする。この結果、ある送信トランザクションが開始される時点におけるプライオリティ・フィールドの値が、当該送信トランザクションの最後まで継承されることとなる。
但し、プライオリティ・フィールドは、0/1の2値情報に限定されず、複数段階のプライオリティを示す場合もある。例えば、プライオリティ・フィールドとして8バイトが割り当てられていれば、256段階のプライオリティが設定可能となる。この場合、送受される信号のアプリケーションの重要度や、通信局の存在位置に起因する送信機会の不平等性などに応じて、256段階のプライオリティを設定することができる。すなわち、優先度の高いアプリケーションには高いプライオリティ値を設定したり、通信局が周辺通信局の送信信号との衝突を避けるために著しく送信機会を得られない場合などにも高いプライオリティ値を設定したりする。
前述したように、補助ビーコンは本来のビーコンとは異なる目的で送信されていることから、必ずしも本来のビーコンの情報を含んでいる必要はなく、「通常のパケットとは異なる優先度を伴うパケットである旨」が記載されていれば十分である。本実施形態では、補助ビーコンの定義を、このプライオリティ・フィールドが存在している信号、あるいはプライオリティ・フィールドに優先度が高いことを示す値を格納する信号、としても構わない。
なお、この項において「優先通信にて送信」されているとは、具体的には、ある通信局が自局の優先送信区間TPPにて送信を行なっている場合を想定している。すなわち、通信局は、TPPにて優先的に送信を行なう(あるいは行なおうとしている)フレームについては、プライオリティ・フィールドに1をセットしている。
I−2.送受危険帯のマーク手順
通信局は、図3に示したようなTDMA構造を保ちながら動作しており、1スーパーフレームをTBTTにより分割した複数の時間スロットとして管理している。
通信局は、信号を受信してそのPLCPヘッダをデコードし、プライオリティ・フィールドを参照することにより、当該パケットが優先的な送信権を以って送信されてきたか否かを判定する。ここで、優先送信されてきていることが判明した場合にはその旨を記録しておく。さらに、MACヘッダまでのデコードが終了すると、当該パケットの送信元局並びに受信宛先局が明らかとなる。通信局は、これらを参照し、当該パケットの受信宛先局が自局ではなく、且つ「自局が受信可能な範囲内」に存在しないことを確認すると、先に記録しておいた当該プライオリティ・フィールドを確認する。また、当該パケットの受信宛先局が自局でないことを確認しただけでプライオリティ・フィールドを確認することもある。ここで、当該パケットが優先的な送信権を以って送信されてきていることが明らかになった場合には、当該時刻が該当する時間スロットをマークし、「送受危険帯」としてこの情報を保持しておく。
図22には、送受危険帯をマークするための処理手順を示している。同図において時刻T0は通信局#3のTBTTであり、通信局#3は、例えば補助ビーコン送信などの定められた手順により優先送信区間TPPを入手している。したがって、それ以降TPPが満了するまでに通信局#3から送信される信号のプライオリティ・フィールドには1以上の値がセットされていることとなる(以降、説明の便宜上、1がセットされているものとする)。また、通信局#3からの送信信号に呼応して通信局#2から送信される信号のプライオリティ・フィールドにも1がセットされていることとなる。したがって、同図においてハッチングが施されている信号のプライオリティ・フィールドには1がセットされていることとなる。
通信局#1は、通信局#2からの信号は受信可能であるものの通信局#3からの信号は受信可能でない場所に存在しているものと仮定する。この場合、通信局#1は、時刻T0から発生する通信局#3のTPP中において、通信局#2から受信したCTS信号をマークし、時刻T0の時間スロットを「送受危険帯」として保持することになる。
なお、TPPが満了してから送信される信号並びにそれに呼応して送信される信号のプライオリティ・フィールドには0がセットされている。したがって、時刻T1から始まる次の時間スロットに関しては、通信局#2から送信されるCTS信号のプライオリティ・フィールドには0がセットされていることから、通信局#1は、「送受危険帯」とは判断しない。
I−3.送受危険帯のマーク処理フロー
図23には、上述した送受危険受信帯をマークするための処理手順をフローチャートの形式で示している。図示の処理手順においては、上記の説明と一部異なる処理が示されているが、どちらの処理が行なわれても本発明の所望の効果を実現することができる。
通信局は、信号を受信すると(ステップS21)、当該受信信号の宛先が自局であるか否かを判断する(ステップS22)。そして、当該受信信号が自分宛てである場合には「送受危険帯のマーク」処理は行なわない。
これに対し、当該受信信号が他局宛てである場合には、さらに当該受信信号の宛先が自局の隣接局であるか否かを判断する(ステップS23)。当該受信信号の宛先が隣接局である場合には「送受危険帯のマーク」処理は行なわない。この判断は場合により行なわれないこともある。何故ならば、隣接局宛てであるか否かに関わらず、送受の危険受信帯としてマークすべきからである。
他方、当該受信信号が隣接局宛てでもなかった場合には(ステップS23)、さらに当該受信信号の優先度を調べる(ステップS24)。ここで、当該受信信号の優先度が低いと判断された場合には、送受危険帯のマークする処理は行なわない。これに対し、当該受信信号の優先度が高いと判断された場合には、現時刻に対応する時間帯を「送受危険帯」としてマークし、「送受危険帯」情報を保持しているNG Tableを更新する(ステップS25)。
また、通信局は、時刻の経過も監視しており、スーパーフレームの切れ目などの単位時間が経過したかを判断する機能を有している。この監視により、単位時間が経過したか否かを判断する(ステップS26)。そして、スーパーフレーム相当の単位時間が経過したと認められた場合には、これまでに保持していた「送受危険帯」情報であるNG Timingテーブルの履歴を一部削除するなどの更新処理を行なう(ステップS27)。これにより、過去の「送受危険帯」をクリアする処理が実行され、最近の「送受危険帯」をキープすることが可能である。
I−4.優先送信手順その1
例えば補助ビーコンの併用により優先的なトラヒックの送信を行なう場合の手順について、図24を参照しながら以下に説明する。但し、同図に示す例では、図16などに示した場合と同様、隣り合う通信局同士のみが電波の到達範囲に存在しているものと仮定する。図示の例では、通信局#0が通信局#1に対して、優先的なトラヒックの送信を行なう場合を想定している。
通信局#0は、通信プロトコルの上位レイヤから優先トラヒックの送信要求が渡されると、このトラヒックの宛先である通信局#1に対してこれから優先トラヒックを送信するので、「送受危険帯」を報告してほしい旨を通達するメッセージ(図中Scanで示されるメッセージ)を送信する。
これを受信した通信局#1は、1スーパーフレーム分のスキャン処理を行ない、上述した手順により「送受危険帯」の抽出を行ない、結果を通信局#0へと報告するメッセージ(図中Updateで示されるメッセージ)を返信する。また、通信局#0自身も、補助ビーコン送信を併用した優先トラヒック送信のために空きの時間帯がどこなのかを把握するためスキャン処理を行なっている。
通信局#0は、通信局#1より上記Updateメッセージを受信することにより、通信局#1にとってどの時間帯が危険時間帯であるかを把握することができる。この危険時間帯を避けつつ、図19を参照しながら説明した手順を併用することにより、通信局#1宛てのトラヒックを収容すべく補助ビーコンの送信時刻を決定して、補助ビーコンの送信を開始する。
一方、通信局#1は、その後もスキャン処理を継続することにより、通信局#0からの補助ビーコンを受信し、通信局#0がどの時間帯で補助ビーコンを送信することを決定したかを把握する。そして、通信局#1は、今後の受信すべき時間帯として保持する。
I−5.優先送信手順その2
通信局は、一定時間にスキャン処理を行なっている。そして、このスキャンにより得られた情報(すなわちどの時間帯にビーコンを受信したか)に基づいて、送信ビーコンのNBOIビットを設定している。また、どの時間帯においてビーコンの受信を行なっているかをNBAIビットにて報知している。既に説明したルールに従いNBAI/NBOIビットを設定すると、下記の表に示す情報を報知していることになる。
このNBOI並びにNBAIビットの設定に際し、上記の「送受危険帯」の情報をも報知することを考える。NBOIビットなどは、スキャンの結果により得られる情報を基に作成するフィールドであるが、「送受危険帯」の情報もスキャンの結果により得られる情報であるため、これらを混在させることは仕組み的に容易である。結果的に、NBAI/NBOIビットは、下記のように設定されることとなる。
例えば、NBAI/NBOIビットが「00」であれば、当該時間帯(スロット)においてビーコンの存在は確認されないことから、送受危険帯でないと断定することができる。また、NBAI/NBOIビットが「10」は、通常のビーコン受信動作ではあり得ないビット列の組合せであるので、本実施形態では当該時間帯が送受危険帯であることを明示するために使用することにする。
すなわち、ビーコンを受信した通信局は、当該ビーコン送信局に対してフレーム送信を行なう場合には、受信したビーコンのNBAI及びNBOIの組合せに基づいて、受信が保証されない時間帯を知ることが可能となる。スーパーフレーム内で都合のよい(すなわち送受危険帯でない)スロットを判別することができる。言い換えれば、通信局は、フレーム送信相手局から受信したビーコンのNBAI及びNBOIの組合せを解読することにより、送受危険帯を避けて送信を行なうことができる。
このように、通信局が互いの送受危険帯を報知し合う仕組みを導入することにより、図15中の時刻T0並びにT5で例示したような、受信局の都合により通信が行なえないなどという状況を避けることができる。
前述の説明では、図15で示したような通信局の配置の場合には、例えば通信局#2と通信局#3が優先通信を行なっているために、通信局#3の近辺に位置する通信局#1が送信を行なえない状態になっている。この場合、通信局#0は、優先通信であるか否かに関わらず、通信局#1の送信可否状況を知ることができない。このため、通信局#0は、通信局#1が送信不可状態になっているにも関わらず通信局#1に向けて送信を行なってしまい、無駄が生じる。これに対し、本実施形態では、そのような状況を避けることができる。すなわち、通信局#0は、通信局#0から受信したビーコンのNBAI及びNBOIの組合せに基づいて、受信が保証されない時間帯を知ることができる。
なお、補助ビーコンが存在しているものの、当該補助ビーコンにより得られる優先送信区間TPPを利用して送信される通信の宛先が特定の通信局に固定されている場合には、他局宛ての当該補助ビーコンを受信した時間帯(スロット)のNBAI/NBOIビットには「10」とマークし、このスロット「送受危険帯」であることを自局の通信相手などに報知する。
上記の表3に示したようにNBAI/NBOIビットが定義されている場合、ビーコン受信局側では、NBOIとして0が記載されていても、NBAIとして1が記載されている時間帯(スロット)を使用するのは危険である。このため、受信ビーコンのNBAIとNBOIの対応ビット同士のOR(論理和)をとったものをNBOIとして扱うことが好ましい。すなわち、ビーコンを受信した通信局は、新規のビーコン送信タイミングを抽出する際には、受信ビーコンのNBAI/NBOIビットが「00」と記載されていないスロットはすべてNBOIビットとして1が記載されているものと判断した後に、図13並びに図19に示した手順(すなわち、オフセットを揃えた後に各NBOIのORをとる手順)にて、スーパーフレーム内の空きスロットを捜索する。何故なら、図13並びに図19に示した手順は、本質的には、NBOIビットの1/0に応じて行なうものではなく、所定時間帯が空いているか否かに応じて行なうべきものであるからである。
また、上記の表3に示したようにNBAI/NBOIビットが定義されている場合、ビーコン受信局側では、NBAIとして1が記載されていても、NBOIとして0が記載されている時間帯(スロット)であれば、送信が可能であると判断することができる。このため、受信ビーコンのNBAIとNBOIの対応ビット同士のAND(論理積)をとったものをNBAIとして扱うことが好ましい。すなわち、ビーコンを受信した通信局は、上記F項で説明した送信不許可区間を設定する際に、NBAI/NBOIビットとして「11」とマークされた時間帯(スロット)のみを送信不許可区間として設定する。NBAI/NBOビットとして「10」と設定された時間帯は、NBAIビットは1と設定されているものの、当該ビーコンの送信局はこの時間帯において自局が受信を意図する信号が存在していないことを報知しており、言い換えれば、当該ビーコンの送信局の受信を妨げる可能性がないことを同時に示唆しているからである。このように、送信不許可区間の設定は,本質的には、NBAIビットの1/0のビット列に応じて行なうものではなく、当該ビーコン送信局の受信を妨げないか否かに応じて行なうべきものである。
以上をまとめると、ビーコン・フレーム中のNBOI/NBAIフィールド(図11を参照のこと)は、各スロットにおける上位1ビット(NBAI)と下位1ビット(NBOI)がどのような意味を持っているかが重要なのではなく、NBAI/NBOIビットのようなビットマップにてTBTT毎に区切られるスーパーフレーム中の各時間帯(スロット)の状況を周辺の通信局に報知する、ということが肝要である。
ある特定の通信局Aに宛てた優先トラヒックを収容する目的で補助ビーコンを送信する通信局Bは、通信局AのNBAI/NBOIビットを参照することにより、少なくとも通信局Aから送信されてくるビーコンのNBAI/NBOIビットが「00」とセットされている時間帯から補助ビーコン送信時間帯を抽出すれば、優先送信区間TPPによる通信を安定して提供することが可能となる。
また、通信局は、周辺局から受信したビーコンのNBAI/NBOIビットを参照することにより、当該ビーコン送信局の送受危険帯を把握することが可能であり、この送受危険受信時間帯においては当該通信局は送信不許可になっていることを知ることができる。
通信局の送受危険帯では、優先送信を行なわない場合であっても、当該通信局宛ての送信を行なっても返答が返ってこない可能性が高いので、当該通信局宛ての送信を控えることも可能となる。これにより、無駄な送信を減らすことができる。この場合、当該通信局宛てに数回RTSを送信してみるが返答がない場合には、当該通信局宛て送信をしばらくの間は断念するなどという処理を併用してもよい。
I−6.付帯事項その1
前項I−5で説明した優先送信手順により信号の送受信が行なわれる場合におけるその他の局面における動作例について、図35、図36、図37、図41、並びに図42を参照しながら説明する。以下の説明では、STA1、STA2、STA3、STA4、STA5という5台の通信局が存在することを想定している。
図35には、想定するネットワーク・トポロジを模式的に示している。図示の例では、STA1はSTA2のみと通信可能な場所に存在し、STA2はSTA1並びにSTA3と通信可能な場所に存在し、STA3はSTA2並びにSTA4と通信可能な場所に存在し、STA4はSTA3並びにSTA5と通信可能な場所に存在し、STA5はSTA4のみと通信可能な場所に存在している。
図36には、図35に示したようなネットワーク・トポロジにおけるスーパーフレームの構成例を示している。図示の例では、スーパーフレームは、通信局のビーコン送信間隔で定義され、1スーパーフレームは、T0〜T15の16個のTBTT(スロット)で構成される。
スーパーフレーム内では、各通信局STA1〜STA5は、図36に示すようなタイミングで、ビーコン送信時間帯(Beacon)並びに優先的に送信する時間帯すなわち優先利用領域(Priority)をそれぞれ設定していたものとする。すなわち、STA1は時刻T0に、STA2は時刻T8に、STA3は時刻T3に、STA4は時刻T8に、STA5は時刻T5に、それぞれビーコンの送信を行なっている。さらに、STA1とSTA2は時刻T4、T6、並びにT9とT10にて優先通信(Priority)を行なっており、STA4とSTA5は時刻T2、T9及びT10、並びにT13にて優先通信(Priority)を行なっている。
ここで、通常のビーコン送信時刻は、各通信局間で衝突は生じていない。これに対し、各通信局STA1、STA2、STA4、STA5が優先通信を行なっている時間帯は、時刻T9並びにT10において同時に行なわれており、且つSTA3はこれらを同時に受信することができるため、衝突が生じることになる。しかしながら、ここで行なわれている優先送信(Priority)は、どちらもSTA3とは無関係の通信であることから、STA3はこれを受信する必要がない。
したがって、この場合、STA3は、同一TBTTの時間帯において補助ビーコンの重複受信を行なう可能性があるが、これを衝突とは認識せず、ビーコン衝突に伴うTBTT変更のための手順は起動しない。この結果、図36に示した時間配置は衝突が発生しているとは扱われず、通信動作が継続される。
一方、図35に示したと同じネットワーク・トポロジにおいて、各通信局が図37に示すようなタイミングによりそれぞれ信号が送信している場合、STA2とSTA4のビーコンが同時刻(時刻T8)に送信されており、STA3はこれを同一時間帯にて受信することとなる。この場合、STA3は、ビーコンの衝突が発生しているものと判断し、STA2又はSTA4のいずれかの通信局宛てにビーコン送信時刻を変更してほしい旨のメッセージを送信する。当該メッセージを受信した通信局では、上述した初期動作と同様に、スキャン処理を行なうことでスーパーフレーム内の空きスロットを発見し、新規のTBTTを設定することで、ビーコン衝突状態から脱却する。
次に、例えばSTA4並びにSTA5が移動し、各通信局が図41に示したような配置になった場合について考察してみる。同図に示す例では、これまで互いに通信範囲になかったSTA2とSTA4が直接通信できる範囲に移動している。
このとき、図36に示したと同じタイミングで各通信局がビーコン送信時間帯(Beacon)並びに優先送信時間帯(Priority)を設定していたものとすると、通信局の移動によりSTA2とSTA4の優先送信時間帯の一部である時刻T9とT10の時間帯が一致しているため(図42を参照のこと)、STA2並びにSTA4の間で衝突として認識されることになる。この場合、STA2又はSTA4のいずれかの通信局は、上述した初期動作と同様に、スキャン処理を行なうことによりスーパーフレーム内の空きスロットを検出し、優先送信時間帯用の新規のTBTTを設定することで、優先送信時間帯の衝突状態から脱却する。
I−7.付帯事項その2
I項ではこれまで、各通信局はそれぞれスーパーフレーム内の空きのスロット(TBTT)においてビーコンを送信する、ということを基本として説明を行なってきた。この基本的なビーコン送信手順によれば、スーパーフレームを構成する各スロットには、1つのビーコンしか配置することが許容されない。
これに対し、この項では、上述した基本的なビーコン送信手順に従わないで実現されるネットワーク動作について、図38〜図40を参照しながら説明する。ネットワーク内のある特定の通信局としか通信を行なわないことが決定している通信局は、例外的に異なるタイミングでビーコンを送信することがある。図示の例では、STA2がSTA1としか通信を行なわないことを決定している。
図38には、図37に示したものと同様、STA1とSTA2が時刻T4、T6、並びにT9とT10において優先送信による通信を行なっている状況を示している。但し、図38に示す例では、STA2は、STA1としか通信を行なわないことを決定しているので、スーパーフレーム内に自局専用のビーコン送信タイミングTBTTを設定せず、その代わりに、時刻T9の優先通信時間帯においてビーコンの送信を行なっている。
また、図39に示す例では、時刻T0で送信されるSTA1のビーコン送信を皮切りに、T0からT1に至る期間において、STA2との間で優先通信が行なわれている。STA2は、STA1としか通信を行なわないことを決定しているので、スーパーフレーム内に自局専用のビーコン送信タイミングTBTTを設定しない。その代わりに、STA2は、優先通信の最中に、通信相手でありSTA1のビーコン送信と同じスロットを利用してビーコンの送信を行なっている。
図38並びに図39に示すような状況におけるSTA2のビーコン送信手順について、図40により詳細に描いている。図40では、STA1がSTA2と優先通信を行なっているT0並びにT1の時間帯をスケールアップして示している。
STA1は、STA2と通信状態にあるため、優先送信時間帯に入ると、通常のビーコン(正規ビーコン)又は補助ビーコンにRTSをマルチプレクスされた信号をSTA2に対して送信する。これに対し、STA2は、CTSを返送するが、このタイミングにおいて、CTSとともに自局のビーコンをマルチプレクスして送信している。その後のSTA1とSTA2との間の優先通信は、既に説明したと同様に、RTS/CTS手順に従って継続される。
このようにして送信されるビーコンは、通常のTBTTを設定して送信される上述したビーコン送信手順とは異なる。すなわち、特定の通信局としか通信を行なわないことを決定した通信局は、その特定の通信局との優先通信を行なう期間に乗じて自局のビーコンを送信する。本明細書では、通信相手を特定した通信局が、通常のビーコン送信手順に依らずに、特定の通信相手との通信動作を利用して送信されるビーコンのことを、「寄生ビーコン」と定義する。また、通信相手として特定された通信局のことを「寄生先」と呼ぶことにする。寄生ビーコンは、いわばマスタ・スレーブ関係にある通信局間で成立する。図38〜図40に示す例では、マスタ装置として動作するSTA1が、スレーブ装置として動作するSTA2の寄生先となっている。
通常のビーコン(正規ビーコン)のフレーム・フォーマット構成は、図11を参照しながら既に説明した通りである。寄生ビーコンの場合、例えば、Typeフィールドに寄生ビーコンである旨を記載し、さらにDelayフィールドには、寄生先であるSTA1のTBTTを基準に、当該寄生ビーコンがどれだけ遅れて送信されているかを示す値を記載した上で送信される。
これにより、寄生ビーコンを受信した通信局は、当該ビーコンがスーパーフレーム毎に送信されるビーコンとは異なる例外的なビーコンであることを認識するとともに、当該寄生ビーコンが寄生している先の通信局のTBTTをも検知して、TBTTの同期処理を行なうことができる。また、寄生ビーコンを受信した通信局は、寄生ビーコンを他の通常のビーコンと同じTBTTの時間帯で受信した場合であっても、ビーコンの衝突とはみなさず、TBTT変更手順は起動しない。勿論、2以上の寄生ビーコンを単一のTBTTの時間帯で受信した場合であっても、ビーコンの衝突とはみなさず、TBTT変更手順は起動しない。
I−8.付帯事項その3
この項では、上記付帯事項1で説明した状況における処理内容について、図43から45を参照しながら、さらに詳細に説明する。
図43には、以下の説明で想定する通信局の配置の例を示している。図示の例では、STA1からSTA5までの5局の通信局が存在している。そして、STA1、STA2、STA3は互いに通信可能範囲に位置し、STA4とSTA3は通信可能範囲に位置し、STA4とSTA5が通信可能範囲に位置している。このような信号の到達範囲が与えられた場合において、STA3が各状況に応じて行なう振る舞いについて、図44並びに図45を参照しながら説明する。但し、
図44並びに図45で示されている横軸は時間であり、T0からT1までが1つのスロット、すなわちビーコン送信タイミングTBTTを示している。
図44に示す例では、時刻T0ではSTA1が通常のビーコン(G−Bcn)を送信している。そして、STA2は、STA1のみを通信相手として特定しており、同じ時間帯T0を利用して、寄生ビーコン(A−Bcn)を送信している。
この場合、STA3は、STA1並びにSTA2両方のビーコンを同一の時間帯T0にて受信するが、重複して受信した片方が寄生ビーコンであることから、ビーコン送信タイミングTBTTの衝突とは認識せず、TBTT変更手順は起動しない。また、STA3が送信するビーコンに記載するNBAI/NBOIビットの当該時間帯T0に相当するビット位置には、STA3がSTA1のビーコン受信を行なっている場合には(当該時刻にビーコンが存在しており受信を妨げないでほしい旨を示す)「11」が設定され、STA3がSTA1のビーコン受信を行なっていない場合には(当該時刻にビーコンが存在しているが受信していない旨を示す)「01」が設定される。
また、図44において、時刻T2、T3、T4の各時間帯では、STA1とSTA2の間で優先通信(Priority)が行なわれている。これらの信号はSTA3が受信する必要はないもののSTA3においても受信される。さらに、時刻T3並びにT4においては、STA4とSTA5の間で優先通信が行なわれている。これらの信号もまたSTA3が受信する必要はないもののSTA3においても受信される。
このような状況は、STA3において信号の衝突が生じていることにはなるが、この衝突により困っている通信局は存在していない。したがって、STA3は優先送信時間帯の衝突とは認識せず、TBTT変更手順は起動しない。また、STA3が送信するビーコンのNBAI/NBOIビットの当該時間帯に相当するビット位置には、(自局とは無関係の信号が存在しており「送受危険帯」であることを示す)「10」が設定される。
STA3からのビーコンを受信した周辺局は、NBAI/NBOIビットのビット列を参照することにより、スーパーフレーム中のT3及びT4に対応するビット位置にNBAI/NBOIビットが「10」に設定されていることから、これらの時間帯がSTA3にとっての送受危険帯であると認識することができる。この送受危険帯では、STA3宛ての送信を行なっても返答が返ってこない可能性が高いため、周辺局はSTA3への送信を控えることも可能である。
また、図44において、時刻T6の時間帯においては、STA1とSTA4が同一の時間帯にて通常のビーコン(G−Bcn)を送信している。各ビーコン送信局におけるTBTTオフセットのずれにより両ビーコンの送信時刻がずれると、STA3は、これら重複したビーコンが同一の時間帯にて送信されていることを認識することができる。
この場合、STA3は、TBTT変更手順を起動し、STA1又はSTA4のいずれかの通信局に対し、TBTTを変更してほしい旨を告げるメッセージを送信する。また、STA3が送信するビーコンのNBAI/NBOIビットの当該時間帯に相当するビット位置には、STA3がSTA1のビーコン受信を行なっている場合には(当該時刻にビーコンが存在しており受信を妨げないでほしい旨を示す)「11」が設定され、STA3がSTA1のビーコン受信を行なっていない場合には(当該時刻にビーコンが存在しているが受信していない旨を示す)「01」が設定される。
また、図45には、各時間帯T0、T2、T4、T6においていずれもSTA3が信号の衝突と判断する状況について示している。
図45中の時刻T0並びにT2に示した時間帯においては、STA1から補助ビーコン(S−Bcn)が送信されるとともに、STA1とSTA2の間で優先通信が行なわれている。これらの信号はSTA3が受信する必要はないもののSTA3においても受信される。また、同一の時間帯においてSTA4の通常ビーコン(G−Bcn)が送信されている。各通信局におけるTBTTオフセットのずれにより両ビーコンの送信時刻がずれると、STA3はこれら重複したビーコンが同一の時間帯にて送信されていることを認識する。この場合、STA3は、TBTT変更手順を起動し,STA1及びSTA2、あるいはSTA4のいずれかの通信局に対し、ビーコン送信タイミングTBTTを変更してほしい旨を告げるメッセージを送信する。
なお、ここで、STA1とSTA3が通信範囲外にいる場合を想定すると、時刻T2においては、STA3はSTA1の補助ビーコンを受信できないが、STA2からの信号のプライオリティ・フィールドを参照することにより当該時間帯において近隣で優先通信が行なわれていることが判断できる。このため、STA2又はSTA4のいずれかの通信局にTBTTを変更してほしい旨を告げるメッセージを送信することになる。
また、図45において、時刻T4の時間帯においては、STA3が補助ビーコン(S−Bcn)を送信するとともに、STA3とSTA2の間で優先通信(Priority)が行なわれている。また、同一の時間帯においてSTA4の通常ビーコン(G−Bcn)が送信されている。そして、STA3又はSTA4は、TBTTオフセットのずれにより互いのビーコン信号の送信時刻がずれると、同一の時間帯にて信号を送信してしまっていることを認識する。
この場合、STA3又はSTA4は、自局が利用しているTBTTが衝突したものと判断し、いずれかの局がTBTT変更手順を起動し、衝突状態から脱却する。
また、図45において、時刻T6の時間帯では、STA3とSTA2の間で優先通信が行なわれている。また、同一の時間帯において、STA4とSTA5の間で優先通信が行なわれている。そして、STA3又はSTA4は、TBTTオフセットのずれにより互いの信号の送信時刻がずれると、同一の時間帯にて信号を送信してしまっていることを認識する。
この場合、STA3又はSTA4は、自局が利用しているTBTTが衝突したものと判断し、いずれかの局がTBTT変更手順を起動し、衝突状態から脱却する。