従来、熱可塑性樹脂製の成形品(以下、樹脂成形品ともいう)の成形方法(製造方法)としては、射出成形と並び、押し出し成形が現在普及している。押し出し成形では、ペレット等の熱可塑性樹脂材料を押し出し成形機の加熱シリンダー内でスクリューの回転により可塑化溶融するとともに、溶融樹脂を連続的に内圧ダイ(口金)に通すことにより、一定断面形状の成形品を得ることができる。それゆえ、押し出し成形は、例えば、熱可塑性樹脂製のフィルム、シート、パイプ等を連続して製造する方法として好適である。
従来、上述した押し出し成形に超臨界流体を用いた方法が提案されている。具体的には、超臨界流体を物理発泡剤として利用し、成形品内に微細な発泡セルを形成する発泡押出し成形方法(例えば、特許文献1参照)が提案されている。さらに、超臨界流体を可塑剤として利用し、高ガラス転移温度等の難成形材料の可塑化溶融性能を向上させながら超臨界流体を溶融樹脂に混合、混錬する押し出し成形方法(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
また、押し出し成形は、液晶ポリマーのフィルムの成形方法および該フィルム表面への金属薄膜形成方法として嘱望されている。熱可塑性樹脂である液晶ポリマーは、耐熱性が高く、熱的な寸法安定性および高周波電気特性に優れること等から、フレキシブル回路基板等の材料として有望であるためである。
しかしながら、一般に、熱可塑性液晶ポリマーは溶融粘度が低く、溶融状態の液晶ポリマー分子がダイから押し出されるときに、液晶ポリマー分子が吐出方向の一方向に配向し易いために、液晶ポリマー製のフィルムは一方向に裂け易いという欠点を有している。そこで、このような液晶ポリマーのフィルムの欠点を解消するために、液晶ポリマーのフィルムをインフレーション成形を利用して成形する方法が提案されている(特許文献3参照)。特許文献3では、ダイから吐出して得られる一方向に液晶ポリマー分子が配向した未固化状態(半溶融状態)のフィルムにおいて、一方向の分子配向を崩す方法が提案されている。ここで、インフレーション成形は、溶融樹脂をサーキュラダイ(スパイラルダイ等)を通して押し出し、次いで、チューブ状樹脂バブルを成形し、さらに該樹脂バブル内にエアを吹き込み、樹脂バブルを膨張冷却して所要の径を有するチューブ状フィルムを成形する方法である。
また、樹脂成形品上に金属膜を形成する手法としては、従来、スパッタ法、蒸着法等が知られている。しかしながら、これらの方法は、装置が高価であり、且つ真空プロセスであるのでコスト高となる。一方、低コストの金属膜形成法としては、無電解メッキプロセスが広く知られている。
無電解メッキプロセスにより樹脂成形品上に金属膜を形成する手順は、使用する材料などにより多少異なるが、通常、まず押し出し成形等による成形プロセスで樹脂成形品を作製した後、成形品の脱脂を行う。次いで、エッチング、中和及び湿潤化、触媒付与、触媒活性化の各工程を経た後、成形品を無電解メッキ液に浸漬して成形品上に金属膜を形成する。無電解メッキでは、金属膜として金、銀、銅、ニッケルなどの反射率の高い膜をポリマー表面にコーティングすることができる。さらに、上述のようにして無電解メッキ膜(金属膜)が形成された成形品に電解メッキを施して金属膜の膜厚を厚くする場合もある。
上記無電解メッキプロセスにおけるエッチング工程は、成形品の表面を粗面化して、それにより得られるアンカー効果により、触媒と樹脂との密着性を向上させる目的で行われる。エッチング工程では、エッチング液としてクロム酸溶液やアルカリ金属水酸化物溶液などを用いるが、これらのエッチング液は中和等の後処理が必要なため、コスト高の要因となっている。また、毒性の高いエッチング液であるので、その取り扱いが煩雑であるという問題がある。
そこで、エッチングによる成形品表面の粗面化を必要としないメッキプロセスが、従来、幾つか提案されている。例えば、メッキ触媒を含有する薄膜を、有機バインダーや紫外線硬化性樹脂によりプラスチック表面に形成するプロセスが提案されている(例えば、特許文献4及び5参照)。また、アミン化合物等のガス雰囲気で紫外線レーザーをプラスチック表面に照射してプラスチック表面を改質する技術が提案されている(例えば、特許文献6参照)。また、コロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線処理等によるプラスチック表面の改質技術も提案されている。
さらに、上述した従来の無電解メッキ膜形成技術の問題点を克服するために、超臨界流体を用いたプラスチックの無電解メッキ法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1に記載された方法によれば、有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解し、これを各種ポリマーに接触させることによりポリマー表面に金属錯体を注入する。そして、加熱や化学還元処理等によって金属錯体を還元して金属微粒子をポリマー表面に析出させる。これにより、ポリマー表面全体が無電解メッキ可能な状態となる。このプロセスによれば、廃液処理が不要で、表面粗さが良好な樹脂が得られる無電解メッキプロセスが達成できるとされる。
ところで、上述した樹脂成形品上に金属膜を形成した成形品の一つとして自動車用ランプに使用されるリフレクター等の光反射体があるが、近年、この光反射体用の樹脂材料としては、熱硬化性樹脂から量産性の高いポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂への移行が進んでいる。該リフレクターにおいては、ヘッドランプ内の温度が上昇するため、160℃〜180℃の耐熱性を有し、金属反射膜の剥離が生じない性能が要求されている。
このような成形品(ポリマー基材)表面への金属反射膜の形成方法としては、成形品表面をプラズマ活性化処理した後、蒸着により金属膜を形成する方法(ダイレクト蒸着法)が提案されているが、この方法により作製されたリフレクターでは、高温環境下に長時間保持されると、光反射膜が曇るという問題があった。曇りの要因は金属膜とポリマー基材とが剥離することにある。剥離の要因としては、ポリマー基材の熱膨張や変形、ポリマー基材内からの加熱分解ガス等が挙げられる。
ポリマー基材からの加熱分解ガスを抑制する方法として、例えば、樹脂成分を改良する方法が提案されている(例えば、特許文献7参照)。特許文献7に記載されている樹脂組成物は、末端カルボキシル基量を特定量以下とすることにより、ポリマー基材の熱分解ガスの発生を抑えている。しかしながら、特許文献7に記載されている樹脂組成には、離型剤が含まれておらず、大型で複雑な三次元形状の成形品の成形する際には、離型不良が発生する恐れがある。これを改善する手法として、樹脂成分の離型剤を改善する方法が提案されている(例えば、特許文献8参照)。
また、従来、プラスチック成形体表面に金属膜を形成した構造体として、レーザービームプリンターや複写機等の光走査に用いられるfθミラー、プロジェクションテレビの光路折曲に用いられる大型ミラー等が挙げられる。このようなプラスチックミラーの製造方法としては、従来、金型の高精度な鏡面を転写した成形品表面に、蒸着等によって金属反射膜を形成していた。こうした蒸着法では、高価な蒸着装置が必要となり設備費用が高くなる。特に、大面積の成形品では、蒸着時の1バッチあたりの成形品の取り数が少なくなり生産性が悪化するという問題があった。
上述のような問題を克服するため、従来、金属シートを金型表面に真空で貼り付け、熱可塑性樹脂との複合射出成形を同時に行うことで、蒸着工程を行わずにプラスチックミラーを作製する方法が提案されている(例えば、特許文献9参照)。しかしながら、特許文献9で提案されている方法では、金属膜の反射率が低くなることが課題となっている。また、特許文献9で提案されている方法では、金属シートを金型に密着させる必要があるため、複雑な金型形状を金属シートでトレースすることは困難である。
また、従来、上述した金属シートの代わりに、樹脂フィルム(転写シート)上にアルミ、銀といった金属反射膜を形成した金属反射フィルムを用いることでより高い反射率を得る方法が提案されている(例えば、特許文献10参照)。特許文献10で提案されている方法では、平面形状の成形品であれば容易であるが、成形品の形状が曲面となり複雑となった場合には、成形時に金属反射フィルムが曲面状に変形する過程で、フィルムに張力がかかり金属反射膜に亀裂が生じる恐れがある。これは、蒸着等により樹脂フィルム上に形成された金属反射膜の結合力が樹脂フィルムの結合力より弱いことに起因するものである。また、特許文献10で提案されている方法では、射出成形での一体化が前提であるために溶融樹脂の流動の影響を受け、金属反射膜が破れやすいという問題も生じる。なお、特許文献10に記載の成形品の製造方法では、成形後に樹脂フィルム(転写シート)は剥離される。
上述した金属膜の亀裂を抑制する手法として、蒸着等の金属膜が形成されたポリマー基材と射出成形によって得られたポリマー成形体を、圧着プレスにより固着させる方法が提案されている(例えば、特許文献11参照)。特許文献11に開示されている方法では、射出成形後に別工程にて、加熱圧着プレスさせる必要があり、量産性向上の妨げとなる恐れがある。
一方、上述したように、従来、ポリマー表面に安価に金属膜を形成する方法として無電解メッキ法が知られているが、ポリマー表面をクロム酸等のエッチングで粗化する必要があるので、それに適用可能なポリマーがエッチング液で浸漬されるABS等に限定されていた。ポリカーボネート等の他の材料では、無電解メッキ可能にするために、ABSやエラストマーを混合したグレードが市販されているものの、これらの材料は耐熱性や反射性能の要求を十分に満足するものではなかった。
また、従来、湿式の無電解メッキ法で高反射率の金属膜が得られる方法として銀鏡反応が知られている。該方法によりガラス上に銀薄膜が形成された各種リフレクターや鏡は広く使われている。しかしながら、形状自由度が大きい樹脂成形品への銀鏡反応の適用は進んでいない。また、上述したようにエッチング適用材料及び触媒核が固定化できる樹脂材料がABS等に限られており、耐熱性の高い樹脂材料に銀鏡反応を適用することが困難であった。樹脂基材に銀鏡反応により反射膜を形成する方法として、例えばプラズマ処理やコロナ放電処理等で表面を活性化する方法が提案されている(例えば、特許文献12参照)。特許文献12に開示されている方法では、基材表面と反射膜の間に透明なアクリル樹脂等の硬化膜を必要とし、150℃以上の耐熱を有する銀反射膜付成形品は提案されていない。
また、本発明者らは、超臨界流体等の二酸化炭素を溶媒として利用し、金属錯体等の金属微粒子を二酸化炭素に溶解させ、射出成形時に金型キャビティ内等にて該金属微粒子を浸透させ無電解メッキの触媒核を表面に偏析させる射出成形方法を提案している(例えば、特許文献13参照)。本発明者らの検討によれば、無電解メッキの触媒核として寄与するのは成形品の表面近傍に存在する金属微粒子だけであり、成形品内部に浸透した金属微粒子はロスとなる。そして、特許文献13に開示している方法では、金属微粒子の浸透深さの制御が困難であり、また金型内分散においては樹脂の表面粘度が異なる等の理由で、金属微粒子を成形品表面に均一に浸透させることが困難であった。
特開2001−341186号公報
特開2002−273777号公報
特開平2−88212号公報
特開平9−59778号公報
特開2001−303255号公報
特開平6−87964号公報
特開2000−35509号公報
特開2005−97563号公報
特開平5−315829号公報
特開平3−82513号公報
特開2004−148638号公報
特開2000−73178号公報
特開2005−205898号公報
堀照夫著「超臨界流体の最新応用技術」株式会社エヌ・ティー・エス出版、p.250−255(2004)
一般に、上述した従来の押し出し成形方法においては、後工程における成形品の表面改質処理や無電解メッキプロセスが煩雑になる場合が多い。また、無電解メッキプロセスを適用できる材料はいくつかの材料にまっており(ABS等)、上述した液晶ポリマー等は無電解メッキの適用が困難な樹脂材料である。液晶ポリマーは化学的に安定であるためエッチング液により表面を粗化するのが困難であり、従来の無電解メッキプロセスによって、液晶ポリマー上に無電解メッキ膜を形成することが困難であるという問題がある。
また、上記非特許文献1で提案されている無電解メッキ方法では、金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素を用いて、ポリマーを高圧容器内でバッチ処理する方法であるため、連続処理は困難であるという問題がある。また、本発明者らが上記非特許文献1で提案されている無電解メッキ方法について検討したところ、処理時間が増大し、金属錯体の還元率も低いことが分かった。
本発明は、上述のような課題を解決するためになされたものであり、本発明の第1の目的は、連続処理可能であり、より短時間で効率よく金属錯体等の改質材料を熱可塑性樹脂に浸透させることができる成形品の製造方法を提供することである。
また、本発明の第2の目的は、無電解メッキ可能な熱可塑性樹脂のフィルム、シート、パイプ等の成形品を連続製造することが可能な成形品の製造方法を提供することである。
さらに、本発明の第3の目的は、表面を粗面化することなく、無電解メッキ処理を可能とする熱可塑性樹脂製成形品の製造方法を提供することである。
また、上述した従来の樹脂成形品表面への金属膜の形成方法では、特に耐久性(高耐熱性)が要求される自動車のヘッドランプリフレクター等の用途、および高反射率特性が要求される光学部品のミラー用途に対して、耐久性と高反射率特性を両立し、さらに蒸着等のドライプロセスを必要としない、安価で大量生産可能な手法が提案されていない。また、大面積で複雑形状を有する成形品に高品質な金属膜を形成することは、より困難であった。
そこで、本発明の第4の目的は、上記課題を解決して、高い信頼性及び反射特性を有する金属膜が形成された成形品の安価で汎用性の高い製造方法を提供することである。さらに、本発明の第5の目的は、表面の少なくとも一部が改質材料により高機能された面を有する樹脂成形品を得る製造方法を提供することである。
また、本発明の第6の目的は、金属微粒子等の改質材料の浸透量や浸透深さが均一になるように制御された成形品の製造方法を提供することである。
本発明の第1の態様に従えば、成形品の製造方法であって、改質材料を含む加圧流体を熱可塑性樹脂に浸透させることと、上記加圧流体を上記改質材料が浸透した上記熱可塑性樹脂から排気すること、上記改質材料が浸透した排気後の熱可塑性樹脂をフィルム状に連続的に成形することを含み 前記改質材料が、メッキの触媒核となる金属錯体であることを特徴とする製造方法が提供される。
なお、本明細書でいう「高圧流体」又は「加圧流体」には、超臨界流体のみならず、高圧の液状流体(液体)及び高圧不活性ガスのような高圧ガスも含む意味である。
本発明者らの検討によれば、上記非特許文献1で提案されている無電解メッキ方法のバッチ処理では、超臨界流体に溶解した金属錯体がポリマー(成形品)に浸透し、無電解メッキが十分に可能となるには、少なくとも10分間程度から数十分間の処理時間が必要であることが判明している。なお、上記非特許文献1で提案されている無電解メッキ方法では、表面が固化したポリマーが超臨界流体と接触した際に軟化するが、ポリマー表面が軟化した後、金属錯体を浸透させるステップを経るため、そのステップの処理時間分が処理時間増大の要因にもなる。
さらに、上記非特許文献1で提案されている無電解メッキ方法では、ポリマー(成形品)の表面における金属微粒子の浸透量が、多くても2〜3at%(原子%)であり、また、ポリマーに浸透した金属錯体の還元率が50〜60%以下と低いため、高価な金属錯体の材料ロスが大きいことが判明した。この問題の要因の一つには、処理温度が低温であることが考えられる。金属錯体を無電解メッキの触媒核となる金属微粒子に還元するためには、高温・高圧の条件が必要であるが、処理温度がポリマーのガラス転移温度や融点以上では、ポリマーが大きく変形するために、高温・高圧での還元処理が困難となる。それゆえ、上記非特許文献1で提案されている無電解メッキ方法では、低温度にて還元処理せざるを得ないので、金属錯体の還元効率が低下すると考えられる。
そこで、本発明者らは、超臨界流体等を用いて熱可塑性樹脂に改質材料を浸透させる方法について鋭意検討した結果、改質材料を含む加圧流体を押し出し成形装置内の溶融樹脂に注入することにより、熱可塑性樹脂に改質材料が短時間で効率良く浸透することを見出した。また、本発明の第1の態様に従う製造方法では、改質材料を溶解した加圧流体を押し出し成形装置内の溶融樹脂に注入するので、成形と同時に熱可塑性樹脂の表面改質および内部改質処理が可能となる。 また、本発明の成形品の製造方法では、押し出し成形加工時に加圧流体に溶解させた改質材料を加圧流体とともに溶融樹脂の少なくとも表面に浸透させた後に、該加圧流体を排出している。その際、加圧流体に樹脂材料のオリゴマーや離型剤等の低分子成分を溶解させ、樹脂材料からそれらの低分子成分を抽出除去してもよい。これにより、高温環境下において揮発しやすい成分が樹脂フィルム内部で一層低減できるので、無電解メッキ後のメッキ膜の耐候性の向上が期待できる。
本発明の第1の態様に従う製造方法では、加熱シリンダー及び押し出しダイを有する押し出し成形装置を用いた製造方法であり、上記高圧流体を上記熱可塑性樹脂に浸透させる際に、上記押し出し成形装置の加熱シリンダーから押し出しダイまでの領域内で上記高圧流体を上記熱可塑性樹脂に浸透させることが好ましい。また、本発明の第1の態様に従う製造方法では、上記高圧流体を上記押し出しダイ内の上記熱可塑性樹脂に浸透させることが好ましい。
改質材料を溶解した高圧流体の注入箇所は押し出し成形装置内の加熱シリンダーから押し出しダイまでの領域の任意の箇所に設け得る。例えば、高圧流体及びそれに溶解した改質材料を、加熱シリンダーだけでなく、加熱シリンダーと押し出しダイとを連結する部分や押し出しダイにおいて浸透させてもよい。押し出しダイで溶融樹脂を押し広げてフィルム化する工程の際に、ダイ表面の一部から改質材料を溶解した高圧流体を樹脂表面に浸透させると、樹脂成形品の表面のみに該改質材料を浸透させることができ、表面のみが改質された樹脂成形品を得ることができる。それゆえ、この場合、成形品の内部を改質する必要がない用途の樹脂成形品に対しては、改質材料の使用量を抑制することができる。また、高圧流体の樹脂への浸透量を抑制できるので、樹脂成形品の発泡を抑制することが必要な場合に、その制御が容易となる。
本発明の成形品の製造方法で使用することができる高圧流体又は加圧流体としては、超臨界状態の流体に限らず、例えば、加圧した空気、CO、CO2、O2、N2、H2O、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、メタノール、エチルアルコール、アセトン、ジエチルエーテル等が挙げられる。中でも、超臨界状態の二酸化炭素(以下、超臨界二酸化炭素ともいう)または高圧二酸化炭素が特に好ましい。N2の臨界温度は−147℃、臨界圧力は34気圧であり、H2Oの臨界温度は374℃、臨界圧力は218気圧であるのに対して、超臨界二酸化炭素の臨界温度は31℃、臨界圧力は73気圧である。また、二酸化炭素は、n−ヘキサン並の溶解度を有し、熱可塑性樹脂材料へ可塑剤として作用し射出成形や押し出し成形で実績が高い。これらのことを考慮すると、改質材料を溶解させる媒体としては超臨界二酸化炭素、液状若しくはガス状の高圧二酸化炭素が望ましい。なお、高圧流体又は加圧流体としては、上記流体の1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合してもよい。また、改質材料の高圧流体への溶解度を向上させるため、各種アルコールやアセトン等を助溶媒(エントレーナ)として高圧流体に混合しても良い。
本発明に用い得る改質材料としては、高圧流体にある程度溶解する材料であれば任意の材料を用いることができる。例えば、改質材料として疎水化染料を用いれば、樹脂成形品を染色することができる。また、色が異なる数種類の染料を高圧流体とともに溶融或いは半溶融状態の熱可塑性樹脂に浸透させることで、それら異種染料がブレンドされた特殊な色で樹脂成形品を染色することができる。
また、改質材料として難燃性の材料(例えば、ポリリン酸アンモニウムのようなリン酸系の難燃剤や有機金属錯体等)を用いた場合には、樹脂成形品の難燃性を向上させることができる。また、セラミックやSiO2等の無機材料を含んだ低分子量の有機材料、例えば、金属アルコキシド等を改質材料として用いることにより、成形品内部にセラミックやSiO2等の無機材料を浸透させることができ、樹脂成形品の熱膨張係数や吸水率を低減することができる。
さらに、ニトロ基等を化学修飾し、高圧流体に可溶化させたカーボンナノチューブ等のナノカーボンを改質材料として用いた場合には、高導電性および高強度の樹脂成形品を得ることができる。
また、改質材料として、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドのブロックコポリマー,グリセリン脂肪酸エステル等の界面活性剤、ポリアルキルグリコール,アクリルアミド,εカプロラクタム等の水酸基やアミド基を有するポリマーやモノマーを用いた場合には、樹脂成形品を親水化することができる(濡れ性を付与することができる)。一方、改質材料として、シリコーンオイル等の疎水化材料を用いた場合には、樹脂成形品を疎水化することができる。
さらには、改質材料として無機材料を用いることができる。特に、金属錯体、金属アルコキシド等の金属微粒子を用いた場合には、樹脂成形品に導電性や熱伝導性を与えることができる。また、改質材料としてSiO2等の無機微粒子を用いた場合には、樹脂成形品の熱膨張係数を抑制したり、屈折率を制御することができる。ただし、これらの無機材料を改質材料として使用する場合には、高圧流体に可溶となるように化学もしくは物理修飾を施すことが望ましい。樹脂に相溶し難いこれらの金属微粒子を高圧流体に溶解させて樹脂に接触させることで、高圧流体の樹脂内部への拡散性や相溶性を利用でき、それにより、金属微粒子を樹脂内部や表面に均一分散させることが可能になる。
改質材料として、金属元素を含む金属錯体を用い、金属錯体を高圧流体とともに溶融樹脂に浸透させた場合には、高温状態の溶融樹脂内で金属錯体が熱還元されて金属微粒子に変換され、表面に金属微粒子が含浸した(析出した)樹脂成形品が得られる。特に、金属微粒子がメッキ触媒核となるものであれば、無電解メッキ可能な樹脂成形品を得ることができる。この場合、従来のように樹脂成形品の表面をエッチング等により粗面化することなく、無電解メッキ処理が可能な樹脂成形品が得られる。また、この場合、液晶ポリマー等の従来無電解メッキが困難であった樹脂材料に対しても、容易に無電メッキ可能とすることができる。
本発明の成形品の製造方法で用い得る金属錯体としては、高圧流体に対してある程度の溶解度を有する材料であれば、任意の材料が用い得る。例えば、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、ジメチル(シクロオクタジエニル)プラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトヒドレート銅(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトプラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナト(トリメチルホスフィン)銀(I)、ジメチル(ヘプタフルオロオクタネジオネート)銀(AgFOD)等が改質材料として用い得る。
また、本発明の成形品の製造方法で用い得る熱可塑性樹脂材料としては、押し出し成形等が可能な材料であれば任意の材料が用い得る。例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1などのポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリビニールアルコール、ポリアクリルニトリルなどのポリビニル、ポリオキシメチレン、ポリエチレンオキシドなどのポリエーテル等が用い得る。その他の材料としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリ乳酸などの高分子材料を用いることができる。また、ポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル、ポリテレフタルアミド等の芳香族アミド、ポリ4フッ化エチレン等のフッ素系高分子を用いることもできる。さらに、上記樹脂材料に、ガラス繊維、炭素繊維、無機化合物、セラミック等のフィラーを含有したものを用いてもよい。
本発明の第2の態様に従えば、成形品の製造方法であって、加熱シリンダー内で熱可塑性樹脂を溶融することと、改質材料を含む加圧流体を調整することと、上記改質材料を含む加圧流体を上記溶融した熱可塑性樹脂に接触させて浸透させることと、上記加圧流体を上記改質材料が浸透した上記熱可塑性樹脂から排気することと、上記改質材料が浸透した排気後の上記熱可塑性樹脂を成形することを含み 前記改質材料が、メッキの触媒核となる金属錯体であることを特徴とする製造方法が提供される。
本発明の第2の態様に従う製造方法では、加熱シリンダー及び押し出しダイを有する押し出し成形装置を用いた製造方法であり、上記高圧流体を上記熱可塑性樹脂に浸透させる際に、該押し出し成形装置の加熱シリンダーから押し出しダイまでの領域内で上記高圧流体を上記熱可塑性樹脂に浸透させることが好ましい。
本発明の第2の態様に従う製造方法では、上記改質材料が金属錯体であることが好ましい。
本発明の第2の態様に従う製造方法では、上記高圧流体を上記熱可塑性樹脂に浸透させた際に、上記熱可塑性樹脂に浸透した上記金属錯体が熱還元により金属微粒子に変質し、該金属微粒子が熱可塑性樹脂の表面に析出することが好ましい。本発明の第2の態様に従う製造方法では、上記金属微粒子がメッキ触媒核であることが好ましい。
本発明の成形品の製造方法では、さらに、金型を有する射出成形機を用いてインサート成形を行うことを含み、該インサート成形を行うことが、上記フィルム状の熱可塑性樹脂を射出成形装置の金型のキャビティ内部に保持することと、上記フィルム状の熱可塑性樹脂が保持された上記キャビティ内に上記射出成形機内の溶融樹脂を射出することとを含むことが好ましい。
本発明の成形品の製造方法では、本発明の第1または2の態様に従う製造方法により、表面もしくは内部に改質材料が浸透した高機能性の熱可塑性樹脂製フィルム(以下、樹脂フィルムともいう)をインサート(インモールド)成形することにより、樹脂フィルムと射出成形樹脂基材とを一体化させて部分的に高機能化された射出成形品を製造してもよい(以下、この製造方法を、インサート成形を用いた製造方法ともいう)。この場合にも、本発明の第1または2の態様に従う製造方法により改質材料が浸透した高機能性の樹脂フィルムを作製するので、改質材料を押し出しスクリュー等にて連続的に且つ安定に樹脂の表面もしくは内部に分散させることができ、改質材料の浸透深さや浸透量を容易に制御することができる。また、本発明のインサート成形を用いた製造方法では、改質材料の浸透した樹脂フィルムの厚みを適宜調整することにより、インサート成形後の樹脂成形品における改質材料の浸透厚みを制御することができる。
また、本発明のインサート成形を用いた製造方法においても、押し出し成形等で樹脂フィルムを成形する際に金属錯体が溶融樹脂に浸透し、溶融樹脂に接した際の熱等により浸透した金属錯体が還元されて金属微粒子となり樹脂フィルムの表面に析出する。それゆえ、この場合もまた、本発明の第1または2の態様に従う製造方法と同様に、従来のエッチング法では表面が粗化せず、メッキ膜の触媒核の固定が困難であった樹脂材料に適用可能となる。なお、本発明のインサート成形を用いた製造方法で作製された樹脂フィルムの内部には、触媒核として寄与しない金属微粒子も存在することがあるが、樹脂フィルムを薄膜化することによって、材料ロスを抑制することができる。そして、本発明のインサート成形を用いた製造方法で作製された樹脂成形品では、その強度はインサート成形時に成形される樹脂フィルムの樹脂基材で維持することができる。また、本発明のインサート成形を用いた製造方法で作製された樹脂成形品では、金属微粒子が含浸した樹脂フィルムと金属微粒子が含浸していない樹脂基材(成形品本体)とをインサート成形により一体化させた樹脂成形品であるので、成形品全体に占める金属微粒子の存在率を低減でき、成形品単体のコストを低減することができる。
本発明のインサート成形を用いた製造方法で用い得る改質材料は、高圧流体に溶解する改質材料であれば任意であるが、具体的には、本発明の第1及び第2の態様に従う製造方法(フィルム状の成形品の製造方法)で説明した材料と同様の材料が用い得る。例えば、改質材料として高圧流体に可溶な公知の各種染料を用いることで樹脂フィルムのみを(部分的に)着色した成形品を得ることができる。また、改質材料として、グリセリン脂肪酸エステル,ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドのブロックコポリマー,オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル等の界面活性剤、ポリアルキルグリコール,アクリルアミド,εカプロラクタム等の水酸基やアミド基を有するポリマーやモノマーを用いた場合には、樹脂成形品の樹脂フィルムの表面のみで濡れ性を改善することができる。また、改質材料としてフッ素化合物やシリコーンオイル等を用いた場合には、樹脂成形品の樹脂フィルムの表面のみに撥水性を付与することができる。
また、本発明のインサート成形を用いた製造方法において、高圧流体に溶解させる改質材料として、無電解メッキの触媒核となる金属微粒子を用いた場合には、無電解メッキの触媒核が表面に分散した樹脂フィルムが樹脂基材の表面に一体化された成形品を製造することができる。すなわち、樹脂フィルムの表面のみに無電解メッキの触媒核が分散した樹脂成形品を製造することができる。なお、用い得る金属微粒子の種類は、無電解メッキの膜やコスト等によって任意に選択可能であり、白金、ニッケル、パラジウム、銅等を用いることができる。この場合、インサート成形を行った直後の成形品の表面に直接、無電解メッキ金属膜を形成することができる。無電解メッキには従来の無電解メッキ液およびメッキプロセスが採用できる。
また、金属微粒子を含有した樹脂フィルム内の金属微粒子の分散状態は、樹脂シートの表面に無電解メッキの触媒核として作用する程度の金属微粒子が分散していればよく、表面だけでなくフィルム内部に分散していてもよい。なお、無電解メッキの触媒核として作用するために必要な樹脂フィルム表面の金属微粒子の分散量は、元素比率にて、0.1〜10at%(原子%)の範囲であることが望ましい。樹脂フィルム表面における金属微粒子の分散量が0.1at%未満であると、密着性の良好な無電解メッキ膜が形成され難くなる。一方、樹脂フィルム表面における金属微粒子の分散量が10at%より大きくなると、無電解メッキが不要となるほどの金属光沢が得られる。しかしながら、本発明の成形品の製造方法では、高価な金属錯体等を利用して金属微粒子を得るので、この場合、不経済となりかねない。なお、樹脂フィルム表面における各元素の元素比率はXPSによって分析することが可能である。
本発明のインサート成形を用いた製造方法では、上記改質材料が金属微粒子であり、さらに、インサート成形後に、無電解メッキにより上記フィルム状の熱可塑性樹脂上に金属膜を形成することを含むことが好ましい。特に、本発明のインサート成形を用いた製造方法では、上記金属膜が銀鏡反応により形成されることが好ましい。本発明のインサート成形を用いた製造方法で用い得る無電解メッキ法の種類は、従来と同様にニッケルメッキ、銅メッキ等を用いてもよいし、また、銀鏡反応を用いてもよい。特に、銀鏡反応により銀メッキ膜を樹脂成形品の表面に形成した場合には、透明性樹脂や高耐熱性樹脂等の難メッキ樹脂上に高反射率の金属膜を形成することができる。この場合、例えば、大面積のリフレクター等を安価に製造することができる。
また、本発明のインサート成形を用いた製造方法において樹脂基材の表面に銀反射膜を形成した場合には、銀反射膜を保護するために、任意の有機もしくは無機の保護膜を銀反射膜上に形成してもよい。例えば、銅メッキ膜やニッケルメッキ膜等の無電解メッキ膜を銀膜上に保護膜として形成し、樹脂フィルムおよび成形品基材(インサート成形時に射出成形される樹脂基材)を透明材料で形成した場合には、樹脂フィルムおよび成形品基材を介して光が高反射する樹脂成形品を製造することができる。また、低温度で成膜できる有機−無機ハイブリット材料、紫外線硬化樹脂等を銀反射膜上に保護膜としてコーティングしてもよい。
また、本発明の成形品の製造方法では、高圧流体に溶解させる金属錯体等の金属化合物は、樹脂表面に浸透させた後、上述のように、溶融樹脂の熱等によって還元し、メタル化した方が望ましい。これは、金属錯体等の金属化合物では有機物が配位しているなどの理由により、金属化合物のままでは、無電解メッキの触媒核として機能しにくくなる恐れがあるためである。
また、本発明はこれに限定されず、樹脂フィルムを成形した後、化学還元剤等によって金属錯体等を金属微粒子に還元してもよい。金属錯体の還元剤を同時に上記高圧流体に溶解させ、押し出し成形加工時における還元効率を向上させてもよい。高圧流体(不活性ガス)に溶解する還元剤としては、例えば、エタノール、プロパノール等のアルコールが用い得る。なお、本明細書でいう金属微粒子には、金属元素を含有した金属化合物も含まれる。
本願が開示する第3の態様に従えば、押し出し成形装置であって、熱可塑性樹脂を溶融する加熱シリンダーと、押し出しダイと、改質材料を含む高圧流体を溶融した上記熱可塑性樹脂に浸透させる注入装置とを備える押し出し成形装置が提供される。本発明の押し出し成形装置によれば、無電解メッキが可能な熱可塑性樹脂製のフィルム、シート、パイプ等を連続製造することが可能である。
第3の態様の押し出し成形装置では、上記注入装置が、上記加熱シリンダーから上記押し出しダイまでの領域に設けられていることが好ましい。
第3の態様の押し出し成形装置では、さらに、上記改質材料を含む高圧流体を調製する溶解槽を備えることが好ましい。なお、第3の態様はこれに限定されず、例えば、改質材料が予め溶解した高圧流体が充填されたボンベ等の貯蔵器を用意し、このような貯蔵器から直接押し出し成形装置内部に改質材料が溶解した高圧流体を導入してもよい。
本願が開示する第4の態様に従えば、成形品であって、押し出し成形により成形された熱可塑性樹脂製の成形品本体と、上記成形品本体上に設けられた金属導電膜とを備え、上記成形品本体の上記金属導電膜側の表面内部に金属微粒子が含浸していることを特徴とする成形品が提供される。
本願が開示する第5の態様に従えば、形品であって、熱可塑性樹脂製の成形品本体と、上記成形品本体上に設けられた金属導電膜と、上記成形品本体と上記金属導電膜との間に設けられた熱可塑性樹脂製のフィルムとを備え、上記フィルムの金属導電膜側の表面内部に金属微粒子が含浸していることを特徴とする成形品が提供される。
本願が開示する成形品では、上記金属導電膜が、無電解メッキ処理により形成された金属膜であることが好ましい。特に、この成形品では、上記金属導電膜が銀鏡反応により形成された銀反射膜であることが好ましい。
本発明の成形品の製造方法によれば、改質材料を溶解した加圧流体を押し出し成形装置等の装置内の溶融樹脂に注入するので、成形と同時に熱可塑性樹脂の表面改質および内部改質処理が可能となるとともに、改質材料を熱可塑性樹脂に短時間で効率良く浸透させることができる。また、本発明の成形品の製造方法によれば、表面或いは内部を改質したフィルム状の樹脂成形品を連続して製造することができる。それゆえ、本発明の成形品の製造方法によれば、改質材料に金属錯体を用いた場合には無電解メッキの触媒核(金属微粒子)が表面に含浸したフィルム状の樹脂成形品を安価に製造することができる。
本発明の成形品の製造方法では、金属錯体を溶解した高圧流体を溶融樹脂に浸透させて、表面に金属微粒子が浸透したフィルム状の樹脂成形品を成形することができる。それゆえ、本発明の成形品の製造方法によれば、従来、無電解メッキの適用が困難であった樹脂材料に対しても、金属微粒子が表面に含浸した無電解メッキ可能な樹脂成形品を作製することができる。
また、本発明のインサート成形を用いた製造方法によれば、金属微粒子等の改質材料が含浸した樹脂フィルムの膜厚等を制御することにより、樹脂成形品の改質材料の浸透量や浸透深さを均一に制御できる。
さらに、本発明のインサート成形を用いた製造方法によれば、多様な機能性を表面に有する樹脂製成形品を提供することができる。特に高品質な反射膜を有する樹脂成形品を高価なドライプロセスなしで大量生産できる。
以下に、本発明の樹脂成形品の製造方法の実施例について、図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
[参考例1]
参考例1では、金属錯体(改質材料)を溶解した超臨界流体(高圧流体)を押し出し成形装置内の溶融樹脂に浸透させて、熱可塑性樹脂製のフィルム(以下、樹脂フィルムともいう)を作製する方法について説明する。なお、この例では、熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネートを用いた。金属元素を含む金属錯体としては、ジメチル(ヘプタフルオロオクタネジオネート)銀(銀錯体:AgFOD)を用いた。また、超臨界流体としては超臨界状態の二酸化炭素を用いた(以下、超臨界二酸化炭素ともいう)。なお、この例で作製した樹脂フィルムは抗菌効果を有する樹脂成形品として用いることができる。
[押し出し成形装置]
まず、この例で用いた押し出し成形装置について説明する。この例で用いた押し出し成形装置の概略構成を図1に示した。また、図2は、図1中の矢印Aの方向から見た押し出し成形装置100の押し出しダイ4近傍の模式図である。
この例で用いた押し出し成形装置100は、図1に示すように、主に、押し出し成形機部101と、二酸化炭素供給部102とから構成される。
押し出し成形機部101は、図1に示すように、主に、可塑化溶融シリンダー13(以下、加熱シリンダーともいう)と、加熱シリンダー13内に樹脂のペレットを供給するホッパー28と、加熱シリンダー13内のスクリュー3を回転させるモーター16と、溶融樹脂の肉厚を薄くし且つ溶融樹脂を扇状に拡大させながら押し出すダイ4と、冷却ロール24とから構成される。なお、この例のスクリュー3としては、減圧部となるベント構造部20を有する単軸スクリュー3を用いた。
押し出しダイ4の構造・方式は任意であり、作製する成形品の形状、用途等により適宜設定できるが、この例では押し出しダイ4として、フィルム成形用のTダイを用いた。また、Tダイ4は、図1に示すように、平ダイ4’と、平ダイ4’と加熱シリンダー13とを繋ぐ接合部12とからなる。また、この例の押し出し成形装置100では、Tダイ4より押し出された樹脂フィルム23は冷却ロール24等により巻き取られる。本参考例では、Tダイ4のダイ押し出し口におけるギャップtは1.0mmに設定した。
また、この例の押し出し成形装置100では、超臨界二酸化炭素の導入口を3箇所設け、それぞれにインジェクターバルブを設けた。1箇所目のインジェクターバルブは、図1に示すように、溶融樹脂が減圧される単軸スクリュー3のベント構造部20付近に設けられたインジェクターバルブ17であり、2箇所目のインジェクターバルブは、接合部12に設けられたインジェクターバルブ18であり、そして、3箇所目のインジェクターバルブが平ダイ4’に設けられたインジェクターバルブ19である。なお、各インジェクターバルブ17,18,19の超臨界流体導入部には、樹脂内圧を測定する圧力センサー(不図示)が設けられている。
二酸化炭素供給部102は、図1に示すように、主に、二酸化炭素ボンベ30と、圧縮ポンプ2と、溶解槽1と、循環ポンプ11と、流量計8と、2つの減圧弁21,10と、2つの逆止弁27a,27bと、背圧弁9と、3つのストップバルブ5,6,7と、3つの圧力計22,25,26と、これらの構成要素を繋ぐ配管31とから構成される。また、ストップバルブ5,6及び7の出力側(2次側)は、図1に示すように、配管31を介して押し出し成形機部101のインジェクターバルブ19,18及び17にそれぞれ繋がれており、押し出し成形機部101内部の溶融樹脂の流路と流通している。また、この例の二酸化炭素供給部102では、図1に示すように、改質材料を含む超臨界二酸化炭素が調製される循環経路29が設けられている。
なお、本参考例の押し出し成形装置100では、スクリュー3、加熱シリンダー13、ダイ4等の各機構は、公知の押し出し成形装置の各機構と同様な形態を用いることができる。
[樹脂フィルムの製造方法]
次に、本参考例における樹脂フィルムの製造方法(成形方法)を図1及び図11を参照しながら説明する。まず、押し出し成形機部101のホッパー28に樹脂材料(ポリカーボネート)のペレットを充分な量だけ供給し、モーター16の回転により樹脂材料を可塑化溶融させた(図11中のステップS1)。スクリュー3の回転数は100rpm、加熱シリンダー13の平均設定温度は280℃とした。次いで、予め改質材料が仕込まれた溶解槽1の内部で超臨界二酸化炭素を流動させることにより改質材料を超臨界二酸化炭素(高圧流体)に溶解させた(図11中のステップS2)。具体的には次のようにして改質材料を超臨界二酸化炭素に溶解させた。なお、本参考例における超臨界二酸化炭素への改質材料の溶解方法は下記の方法に限定されない。例えば、予め改質材料が溶解した超臨界二酸化炭素を充填したボンベ等の貯蔵器を用いてもよい。
まず、二酸化炭素ボンベ30から供給された液体二酸化炭素を圧縮ポンプ2で昇圧し、減圧弁21にて圧力計22が17MPaを示すように圧力調整した。次いで、加圧された二酸化炭素を図示しない温調タンクで40℃に昇温して、超臨界状態にした(超臨界二酸化炭素を発生させた)。その後、超臨界二酸化炭素は、逆止弁27aを介して、溶解槽1を含む循環経路29に流れる。この際、超臨界二酸化炭素は溶解槽1内部を流動し、溶解槽1内に仕込まれた改質材料(金属錯体)を溶解する。
循環経路29における配管及び溶解槽1内部の圧力は、上流(一次側)の圧力を制御する背圧弁9によって圧力計25が15MPaを示すように調整されている。なお、溶解槽1の内部は40℃に温度制御されている。そして、循環経路29においては、ダブルプランジャー式の循環ポンプ11によって、15MPaの一定圧力で差圧を生じることなく、改質材料が溶解した超臨界二酸化炭素が図1中の矢印Cの方向に循環している。なお、溶解槽1内には、超臨界二酸化炭素に溶解する改質材料が過飽和になるように十分な量が仕込まれている。そして、循環経路29内では改質材料が常に飽和状態で超臨界二酸化炭素に溶解しながら循環している。
背圧弁9の下流側の圧力は、減圧弁10によって圧力計26が13MPaを示すように調整されている。また、循環ポンプ11で制御される循環経路29内の超臨界二酸化炭素の流速によって、循環経路29から背圧弁9を介して流出する超臨界二酸化炭素の流量が調整される。例えば、循環ポンプ11の制御される流速が速い程、減圧弁10側に流れる超臨界二酸化炭素の流量が少なくなる。また、超臨界二酸化炭素が減圧弁10および加熱シリンダー13側に流出することで、循環経路29内の超臨界二酸化炭素の容積が減少した分は、循環経路29の上流の減圧弁21側から常に補充される。そのため、循環経路29内部の超臨界二酸化炭素の圧力は一定に保持されており、循環経路29内では一定流量にて超臨界二酸化炭素及びそれに溶解した改質材料が循環している。
次に、圧力計26より下流に設けられた流量計8にて、改質材料を溶解した超臨界二酸化炭素の流量を調整し、逆止弁27bを通過させた。次いで、ストップバルブ7を開き、改質材料を溶解した超臨界二酸化炭素を、インジェクターバルブ17から加熱シリンダー13内の単軸スクリュー3のベント構造部20に導入し、改質材料を加熱シリンダー13内の溶融樹脂に超臨界二酸化炭素(高圧流体)とともに浸透させた(図11中のステップS3)。なお、この例では、加熱シリンダー13に設けられたインジェクターバルブ17を介して改質材料が溶解した超臨界二酸化炭素を導入した例を説明したが、接合部12に設けられたインジェクターバルブ18または平ダイ4’に設けられたインジェクターバルブ19から改質材料が溶解した超臨界二酸化炭素を導入してもよい。
加熱シリンダー13内に導入される超臨界二酸化炭素の圧力は、インジェクターバルブ17の超臨界流体導入部に設けられた圧力センサーによって測定される樹脂内圧よりも高くなるように調整した。すなわち、超臨界二酸化炭素を加熱シリンダー13内に導入する際には、図1中の圧力計26で表示される圧力の値が、超臨界流体導入部に設けられた圧力センサーによって測定される樹脂内圧よりも高くなるように調整した。具体的には、この例では、可塑化溶融状態の樹脂の内圧をベント構造部20で10MPa程度に減圧した。次いで、圧力13MPaの改質材料を溶解した超臨界二酸化炭素の流速を流量計8にて10ml/minに調整した。そして、インジェクターバルブ17を介して超臨界二酸化炭素および改質材料をベント構造部20の溶融樹脂に連続的に導入して浸透させた。
この例では、上述のようにして加熱シリンダー13内の溶融樹脂に改質材料を超臨界二酸化炭素とともに浸透させた。それゆえ、本参考例の成形方法及び押し出し成形装置100によれば、溶融もしくは半溶融状態の熱可塑性樹脂に対し、過飽和にならない適正な量の改質材料が溶解した超臨界二酸化炭素を、最適な圧力、流量にて連続で且つ効率よく樹脂に注入して浸透させることができる。
本参考例の成形方法では、超臨界二酸化炭素およびそれに溶解した改質材料を加熱シリンダー13内に導入した際に、改質材料である銀錯体が高温の溶融樹脂と接し、且つ単軸スクリュー3によりせん断を受けることにより、銀錯体が分解、還元され、銀の微粒子が析出する。すなわち、本参考例の製造方法では、溶融もしくは半溶融状態の熱可塑性樹脂に改質材料を溶解した超臨界二酸化炭素を浸透させた時点で、金属錯体(銀錯体)が金属微粒子(銀粒子)に還元される。それゆえ、本参考例の製造方法では、別途、金属錯体を還元処理する必要がない。
次に、加熱シリンダー13より押し出された溶融樹脂は、接合部12及び平ダイ4’から構成されるTダイ4を通過させて、ダイのギャップtから排出した。なお、この例では、Tダイ4の平均設定温度は200℃とした。そして、ダイ4から押し出された樹脂は、冷却ロール24等で巻き取られながら樹脂フィルム23となる(図11中のステップS4)。この例では、上記方法により樹脂フィルム23を得た。この例で得られた樹脂フィルム23を、断面TEM(透過型電子顕微鏡)で調べたところ、その内部に平均セル径10μm程度の発泡セルが形成されていた。
また、この例で作製された樹脂フィルム23の表面をX線光電子分光装置(XPS)にて元素比を測定した結果、Ag由来の元素が1at%(原子%)含まれることが分かった。また、銀錯体の還元率は90%と非常に高く、ほとんどの銀錯体がメタルに還元されていることが分かった。これは、銀錯体がその熱分解温度よりも高温な加熱シリンダー内の樹脂に接触することで、高効率に還元されたためであると考えられる。
上述のように、本参考例の樹脂成形品の製造方法及び押し出し成形装置を用いれば、改質材料を溶解した高圧流体を押し出し成形装置内の溶融樹脂に浸透させるので、成形と同時に熱可塑性樹脂の表面改質および内部改質処理が可能となるとともに、熱可塑性樹脂に改質材料が短時間で効率良く浸透させることができる。また、本参考例の製造方法及び押し出し成形装置では、上述のように表面或いは内部を改質した樹脂フィルムを連続して製造することができる。それゆえ、本参考例の製造方法及び押し出し成形装置によれば、表面近傍内部に金属微粒子(触媒核)が浸透した(含浸した)無電解メッキ可能なフィルム状の樹脂成形品を安価に製造することができる。
[参考例2]
参考例2では、改質材料にヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)錯体(Pd錯体)を用い、高圧流体及び改質材料を溶融樹脂に導入する際には、ストップバルブ5のみを開き、平ダイ4’に設けられたインジェクターバルブ19から高圧流体及び改質材料を導入した。上記以外は、参考例1と同様にして樹脂フィルムを作製した。なお、Tダイ4により成形された樹脂シートは図示しない延伸装置で延伸し、0.1mmの樹脂フィルムとした。また、この例では、押し出し成形装置100、熱可塑性樹脂及び高圧流体には参考例1と同様のものを用いた。
本参考例では、平ダイ4’に設けられたインジェクターバルブ19から、超臨界二酸化炭素およびPd錯体を低流量で導入した。具体的には、この例では、Pd錯体を溶解した超臨界二酸化炭素の流量を流量計8で5ml/minに調整した。また、Pd錯体を溶解した超臨界二酸化炭素を溶融樹脂に導入する際のインジェクターバルブ19付近の樹脂内圧は12MPaであった。
上記Pd錯体は150℃程度で完全分解する性質を有するので、Pd錯体はTダイ4内の高温な熱可塑性樹脂に浸透した時点で、短時間で分解、還元されてパラジウム金属元素になる。一方、超臨界二酸化炭素は浸透量が少ないので、樹脂内部にゆるやかに拡散し、Tダイ4先端(ギャップt)より大気開放される。それゆえ、この例の製造方法では、樹脂の発泡が抑制される。
本参考例で作製した樹脂フィルムは、片側の表面全体が黒色化しており、その樹脂表面をX線光電子分光装置(XPS)にて元素比を測定したところ、Pd由来の元素が4at%含まれることが分かった。また、還元率は85%と非常に高く、ほとんどのPd錯体がメタルに還元されていることが分かった。
上述のように、改質材料を溶解した超臨界二酸化炭素を、加熱シリンダー13以外の箇所から導入しても、参考例1と同様に、熱可塑性樹脂に改質材料が短時間で効率良く浸透させることができ、参考例1と同様の効果が得られることが分かった。また、この例のように、平ダイ4’において改質材料を溶解した超臨界二酸化炭素を浸透させることにより、成形品の片側表面に改質材料を浸透させることができることが分かった。
また、この例では、上記製造方法により得られた樹脂フィルムをNi無電解メッキ液に浸漬し、無電解メッキしたところ、樹脂フィルム表面に、密着性及び光沢性の良好な無電解メッキ膜が形成された。
[参考例3]
参考例3では、ダイとして、Tダイ4の代わりに円筒状ダイを用いてチューブ状の樹脂フィルムを作製した。この例の押し出し成形装置100では、加熱シリンダー13にジョイント部(不図示)を介して、ダイ径Φ50mm、ギャップ2mmの公知のインフレーション用ダイ(不図示)を取り付けた。また、円筒状ダイの外周部には、高圧流体及び改質材料を浸透させるためのインジェクターバルブを4箇所取り付け、これらのインジェクターバルブから高圧流体及び改質材料を溶融樹脂に導入した。また、この例の押し出し成形装置100では、単軸スクリュー3は1軸のフルフライトスクリューとした。上記以外の押し出し成形装置100の構成は参考例1と同じとした。
また、この例では、熱可塑性樹脂として液晶ポリマーを用い、改質材料としてはヘキサフルオロアセチルアセトナトヒドレート銅(II)錯体(Cu錯体)を用いた。超臨界流体としては、参考例1及び2と同様に超臨界二酸化炭素を用いた。
この例の成形品の製造方法では、単軸スクリュー3の回転数を130rpm、加熱シリンダー13の温度を平均設定340℃とした。また、超臨界流体及び改質材料をインフレーション用ダイに設置されたインジェクターバルブから導入する際には、その流量を5ml/minに調整した。上記以外は、参考例2と同様にして樹脂成形品(液晶ポリマーのチューブ状フィルム)を作製した。
上記製造方法で作製された液晶ポリマーのチューブ状フィルムは、その片側(外壁側)の表面全体が変色しており、その樹脂表面をX線光電子分光装置(XPS)にて元素比を測定したところ、Cu由来の元素が2.5at%含まれることが分かった。また、Cu錯体の還元率は80%と非常に高く、ほとんどのCu錯体がメタルに還元されていることが分かった。
また、この例では上記製造方法により得られた液晶ポリマーのチューブ状フィルムをCu無電解メッキ液に浸漬させ、無電解メッキしたところ、チューブ状フィルムの表面(外壁)に、密着性及び光沢性の良好な無電解メッキ膜が形成された。
上述のように、この例の成形品の製造方法を用いることにより、従来、無電解メッキの適用が困難であった液晶ポリマーに対しても容易に無電解メッキ膜を形成できることが分かった。
なお、上記参考例1〜3において、熱可塑性樹脂に浸透させる高圧流体を公知の方法と同様に物理発泡剤として利用することもできる。例えば、可塑化溶融シリンダー内に超臨界流体を多く浸透させ、ダイから大気中に押し出しする際に急減圧することで、微細発泡セルを成形品内部に形成することもできる。
また、上記参考例1〜3の押し出し成形法は、様々な多層積層成形法に応用することもできる。ここで、多層積層成形法としては、例えば、複数の押し出し成形装置からの溶融樹脂をフィードブロックで層状に組合せ、その後、通常の単層Tダイに送り込み、多層のフィルム、シートとして押し出す方法が挙げられる。また、任意の種類の樹脂層を本発明の成形方法において改質しておき、多層構造のプラスチック成形品の一部の層を、高圧流体に溶解する改質材料が浸透した一部の層で構成していてもよい。例えば、一部の層にある機能を付与し、他の層に別の機能を付与してもよい。
[実施例1]
実施例1では、少なくも表面に金属微粒子を有する樹脂フィルムを押し出し成形で作製した後、その樹脂フィルムを用いてインサート(インモールド)成形して樹脂成形品を作製する方法について説明する。なお、樹脂フィルムに用い得る樹脂材料は、押し出し成形できる熱可塑性樹脂であれば任意であるが、本実施例ではポリカーボネートを用いた。また、樹脂フィルムに浸透させる改質材料もまた任意であるが、本実施例では金属錯体であるヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いた。
[押し出し成形装置]
まず、樹脂フィルムを作製するために用いたこの例の押し出し成形装置について説明する。この例で用いた押し出し成形装置の概略構成図を図3に示した。この例で用いた押し出し成形装置200は、図3に示すように、主に、押し出し成形機部201と、二酸化炭素供給部202と、二酸化炭素排出部203とから構成される。
押し出し成形機部201は、図3に示すように、主に、可塑化溶融シリンダー50(以下、加熱シリンダーともいう)と、加熱シリンダー50内に樹脂のペレットを供給するホッパー53と、加熱シリンダー50内のスクリュー51を回転させるモーター52と、冷却ジャケット57と、溶融樹脂の肉厚を薄くし且つ溶融樹脂を扇状に拡大させながら押し出すダイ60と、冷却ロール61とから構成される。スクリュー51としては、減圧部となるベント構造部54を有する単軸スクリューを用いた。
押し出しダイ60の構造・方式は任意であり、作製する成形品の形状、用途等により適宜設定できるが、この例では押し出しダイ60として、フィルム成形用のTダイを用いた。また、この例の押し出し成形装置200では、Tダイ60より押し出された樹脂フィルム62は冷却ロール61等により巻き取られる。本実施例では、Tダイ60のダイ押し出し口におけるギャップtは0.5mmに設定した。
また、この例の押し出し成形装置200では、図3に示すように、二酸化炭素の導入口50aを溶融樹脂が減圧される単軸スクリュー51のベント構造部54付近に設けた。また、この例の押し出し成形装置200では、図3に示すように、樹脂内圧を測定するためのモニターを加熱シリンダー50と冷却ジャケット57との間の接続部(モニター56)と、冷却ジャケット57内部(モニター59)とに設けた。
二酸化炭素供給部202は、図3に示すように、主に、二酸化炭素ボンベ40と、シリンジポンプ42と、溶解槽41と、背圧弁43と、バルブ44と、圧力計46と、これらの構成要素を繋ぐ配管47とから構成される。また、バルブ44の下流側(2次側)は、図3に示すように、配管47を介して加熱シリンダー50の二酸化炭素の導入口50aに繋がれており、加熱シリンダー50内部の溶融樹脂の流路と流通している。なお、二酸化炭素の導入箇所は、これに限定されず、スクリュー51からTダイ60までの領域であれば、任意の箇所に設け得る。
また、二酸化炭素排出部203は、図3に示すように、主に、二酸化炭素を排出するための抽出容器63と、背圧弁64と、圧力計65と、これらの構成要素を繋ぐ配管66とから構成される。また、背圧弁64の上流側(1次側)は、図3に示すように、配管66を介して冷却ジャケット57の二酸化炭素排出口57aと繋がれており、冷却ジャケット57内部の溶融樹脂の流路と流通している。
なお、本実施例の押し出し成形装置200においては、スクリュー51、加熱シリンダー50、ダイ60等の各機構は、公知の押し出し成形装置の各機構と同様な形態を用いることができる。
[樹脂フィルムの成形方法]
次に、本実施例における樹脂フィルムの成形方法を図3及び図12を参照しながら説明する。まず、押し出し成形機部201のホッパー58に樹脂材料(ポリカーボネート)のペレットを充分な量だけ供給し、モーター52によりスクリュー51を回転させて樹脂材料を可塑化溶融し、溶融樹脂を加熱シリンダー50の先端に送った(図12中のステップS1)。この際、バンドヒータ55により加熱シリンダー50を280℃に温度調節した。
次いで、予め改質材料が仕込まれた溶解槽41の内部で高圧二酸化炭素を流動させることにより改質材料を高圧二酸化炭素(高圧流体)に溶解させた(図12中のステップS2)。具体的には次のようにして改質材料を二酸化炭素に溶解させた。なお、本実施例における高圧二酸化炭素への改質材料の溶解方法は下記の方法に限定されない。例えば、予め改質材料が溶解した高圧二酸化炭素を充填したボンベ等の貯蔵器を用いてもよい。
まず、二酸化炭素ボンベ40から供給された液体二酸化炭素をシリンジポンプ42で昇圧および圧力調整し、圧力計46が15MPaになるよう圧力調整した。そして、昇圧された高圧二酸化炭素を、40℃に温度制御され、改質材料が過飽和になるように仕込まれた溶解槽41内部に流動させ、改質材料を高圧二酸化炭素に溶解させた。
次いで、バルブ44を開放して、配管47及び導入口50aを介して、加熱シリンダー50のベント構造部54に改質材料を溶解した高圧二酸化炭素(高圧流体)を導入し、改質材料を高圧二酸化炭素とともに溶融樹脂に浸透させた(図12中のステップS3)。この際、シリンジポンプ42により高圧二酸化炭素の流量を制御し、且つ、背圧弁43により高圧二酸化炭素の圧力を制御しながら一定流量で改質材料を溶解した高圧二酸化炭素を導入した。この際、ベント構造部54の溶融樹脂に注入された高圧二酸化炭素および改質材料(金属錯体)は、スクリュー51の回転により樹脂に混錬される。
次いで、高圧二酸化炭素および金属錯体が混錬された溶融樹脂の圧力が樹脂内圧力のモニター56の表示で20MPaに上昇するように調整しながら、溶融樹脂を加熱シリンダー50から押し出した。この際、溶融樹脂に分散している金属錯体はスクリュー51の回転によるせん断熱により分解され、二酸化炭素に不溶な金属単体の微粒子に変質する(還元される)。
次いで、加熱シリンダー50から押し出された溶融樹脂を、冷却ジャケット57を通過させた。なお、冷却ジャケット57は、冷却ジャケット57内部に設けられた冷却水路58を流動する温調水により200℃まで冷却されている。また、この例の押し出し成形装置200では、図3に示すように、冷却ジャケット57内部の溶融樹脂の流路の断面積が、加熱シリンダー50と冷却ジャケット57との接続部の溶融樹脂の流路の断面積より大きくしているので、溶融樹脂が冷却ジャケット57内を通過した際には、冷却と同時に減圧される。この例では、溶融樹脂が冷却ジャケット57内を通過した際には、減圧部の樹脂内圧力モニター59は10MPaを示した。
また、この例では、溶融樹脂が冷却ジャケット57内を通過した際に、溶融樹脂に浸透している二酸化炭素(高圧二酸化炭素)を二酸化炭素排出部203により排出した。具体的には、二酸化炭素排出部203の背圧弁64で圧力計65の表示が10MPaになるように調整して、溶融樹脂に浸透している二酸化炭素を排出し、抽出容器63内部のアルコール溶媒に二酸化炭素をトラップした。なお、この例では、抽出容器63のアルコール内部の成分を分析したところ、二酸化炭素だけでなくポリカーボネート樹脂内部に残留しているモノマーやオリゴマー等の低分子成分も検出された。これらの低分子成分は、高温時に樹脂成形品内部より揮発して成形品表面に積層された金属膜との密着性を低下させる成分である。それゆえ、本実施例の製造方法で作製された樹脂成形品では、樹脂表面に積層された金属膜との密着性を低下させる成分を低減できるので、本実施例の押し出し成形方法は、高耐候性の金属膜を有する樹脂成形品を作製するための方法として好適である。
次いで、冷却ジャケット57から押し出された溶融樹脂は、Tダイ60を通過し、Tダイ60から押し出された樹脂62は冷却ロール61等で巻き取られフィルム状に連続成形された(図12中のステップS4)。そして、この例では、図示しない延伸装置で樹脂62を薄肉化して厚み0.1mmの樹脂フィルムを作製した。このようにして、この例の樹脂フィルムを得た。
この例で作製した樹脂フィルムを、断面TEM(Transmission Electoron Microscope)で調べたところ、樹脂フィルムの表面および内部に約30nmの粒径を有するパラジウム金属微粒子が均一分散していた。
[インサート成形]
次に、上記押し出し成形により作製された樹脂フィルムを用いて、インサート(インモールド)成形により樹脂成形品を作製する方法を、図4、5及び12を参照しながら説明する。なお、この例のインサート成形で用いた射出成形装置500は、従来と同様の構造のものを用いた。
まず、図4に示すように、上記押し出し成形により作製された樹脂フィルム300を、金型70の可動金型71のキャビティ77側の表面に保持した(図12中のステップS5)。なお、この例では、キャビティ77側の表面がミラー曲面形状を有する可動金型71を用い、そのミラー曲面形状の表面に樹脂フィルム300を保持した。なお、金型70内のキャビティ77は固定金型72と可動金型71で画成される空間である。また、この例では、可動金型71のバキューム73回路を用いて、樹脂フィルム300を可動金型71表面に吸着することにより樹脂フィルム300を保持した。なお、この際、樹脂フィルム300は、図4に示すように、可動金型71の表面に完全に密着していなくてもよく、可動金型71の表面と樹脂フィルム300との間の一部に隙間が生じていてもよい。また、本実施例において、樹脂フィルム300と、金型表面やインサート成形時に射出される樹脂材料との密着性を向上させるために、樹脂フィルム300の表面に各種公知の接着層を設けてもよい。
次いで、樹脂フィルム300を金型70のキャビティ77内に保持した状態で、射出成形装置500のスクリュー75にて可塑化溶融した樹脂76を射出成形装置500のスプールを経てキャビティ77に射出充填した(インサート成形:図12中のステップS6)。この際、樹脂フィルム300は、図5に示すように、射出樹脂により金型表面に密着され(樹脂フィルム300と金型表面との隙間が無くなり)、樹脂フィルム300が所定に形状(ミラー形状)に成形される。このようにして、この例では、樹脂フィルム300と成形品基材301(成形品本体)とが一体化された樹脂成形品を得た。
なお、この際、溶融樹脂により樹脂フィルム300が可塑性変形もしくは溶融することがあるが、成形品表面の金属膜の品質になんら影響を受けるものではない。また、この例では、ある程度弾力性を有する樹脂フィルム300をインサート成形しているので、従来のように金属フィルムをインサート成形した場合のように、金型内部に保持したフィルムに亀裂が生じることはない。
なお、本実施例の樹脂成形品の製造方法では、インサート(インモールド)成形時に射出成形する充填樹脂材料は任意の樹脂材料が用い得る。例えば、ポリエステル系等の合成繊維、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、液晶ポリマー、ABS系樹脂、ポリアミドイミド、ポリ乳酸等の生分解性プラスチック、ナイロン樹脂等及びそれら複合材料を用いることできる。また、ガラス繊維、カーボン繊維、ナノカーボン等の各種無機フィラー等を混練させた樹脂材料を用いることもできる。また、充填樹脂材料は樹脂フィルムの材料と同じでも異種でもよいが、樹脂フィルムの材料との接着性を高めるために同一材料であることが好ましい。本実施例では樹脂フィルムの材料と同一の材料、すなわち、ポリカーボネートをインサート成形にて射出充填した。ただし、ガラス繊維30%入りで荷重たわみ温度(ISO75−2)が148℃のポリカーボネート材料を用いた。
また、この例の樹脂成形品の製造方法では、金属微粒子等の改質材料が含浸した樹脂フィルムの膜厚等を制御することにより、インサート成形後の樹脂成形品の改質材料の浸透量や浸透深さを制御できる。
上述したこの例のインサート成形により得られた樹脂成形品の表面粗さを触針式表面粗さ測定装置(KLA−Tencor社製)で測定した。算術平均粗さ(Ra)は5nm、十点平均粗さ(Rz)は8nmであった。この結果から、この例の製造方法では、表面が非常に平滑な樹脂成形品が得られることが分かった。
上述したインサート成形により得られた樹脂成形品の概略断面図を図6に示した。インサート成形終了時点の樹脂成形品では、成形品基材301と、金属微粒子が分散している樹脂フィルム300とが一体化している。また、成形品基材301に含まれるガラス繊維は樹脂フィルム300に分散していない。
[金属膜及び保護膜の形成]
この例では、さらに、インサート成形により得られた樹脂成形品に直接無電解メッキ処理を行った(図12中のステップS7)。具体的には、この例では、公知の銀鏡反応によりインサート成形により得られた樹脂成形品上に銀反射膜を形成した。なお、銀メッキ液には、アンモニア過剰のアンモニア性硝酸銀水溶液、水酸化ナトリウム水溶液及びブドウ糖水溶液の混合液を用いた。この無電解メッキにより、図7に示すように、樹脂フィルム300上に銀反射膜302が形成された樹脂成形品が得られた。
なお、一般に、無電解メッキにより反射膜を形成した場合、その耐候性を向上させるために、各種公知の保護膜を反射膜上に形成することが好ましい。特に銀反射膜は反射率は高いものの酸化しやすく錆びやすいので、公知の紫外線硬化樹脂、無電解メッキ膜等で保護することが好ましい。そこで、この例においても、上述のようにして形成された銀反射膜302上に保護膜を形成した。
保護膜の種類は任意であるが、この例では、保護膜としてウエットプロセスで成膜でき、熱硬化後はガラスに近い200℃程度の耐熱性を有するアクリル成分とポリシロキサンの有機−無機ハイブリット材料(JSR製グラスカ)を用いた。この例では、銀反射膜302が形成された樹脂成形品上にディッピンクで約10μmの保護膜材料の膜を形成し、その後、100℃の環境下で2時間放置して保護膜材料の膜を硬化させて保護膜を形成した。保護膜形成後の樹脂成形品の概略断面を図8に示した。図8中の符合番号303で表した膜が保護膜である。
上述のようにして、この例では、ガラス繊維入りの成形品基材301上に、樹脂フィルム300、金属反射膜302および保護膜303が形成された樹脂成形品を得た。この例で作製した樹脂成形品の樹脂フィルム300近傍の拡大断面図を図9に示した。この例で作製した樹脂成形品では、図9に示すように、樹脂フィルム300の内部に金属微粒子400が分散しており、樹脂フィルム300の表面に析出している金属微粒子400は、金属反射膜302を無電解メッキで形成する際の触媒核として作用している。
本実施例で作製した図9に示す樹脂成形品を150℃の雰囲気で200時間放置し、環境試験を行ったところ、樹脂成形品の変形、銀反射膜の剥離や劣化は認められなかった。
上述のように、本実施例の樹脂成形品の製造方法では、従来、無電解メッキの適用が困難であった液晶ポリマー等の樹脂材料に対しても容易に金属膜を形成した樹脂成形品を製造することができる。また、本発明の樹脂成形品の製造方法では、特に高品質な反射膜を有する樹脂成形品を高価なドライプロセスなしで大量生産できるので、樹脂成形品の安価な製造方法である。
[参考例4]
参考例4では、改質材料として平均分子量200のポリエチレングリコールと平均分子量2000のポリエチレングリコールを混合した材料を用い、実施例1と同様に、インサート成形法を用いて樹脂成形品を作製した。本参考例における樹脂成形品の成形方法を図13を参照しながら説明する。
まず、この例では、実施例1と同様にして押し出し成形により改質材料が内部に分散した樹脂フィルムを作製した(図13中のステップS1〜S4)。ただし、この例では、ポリエチレングリコール及び高圧二酸化炭素が浸透した溶融樹脂が冷却ジャケット57を通過する際に、二酸化炭素排出部203で溶融樹脂中の二酸化炭素や樹脂に含まれる他の低分子成分の排気および抽出を行わなかった。それ以外は、実施例1と同様にして表面および内部に改質材料が分散した樹脂フィルムを作製した。
次いで、押し出し成形後に得られた樹脂フィルムを実施例1と同様にしてインサート成形した(図13中のステップS5及びS6)。次いで、インサート成形により作製された樹脂成形品(樹脂フィルムと成形品基材が一体化した樹脂成形品)をエタノール溶媒中にて30分間超音波洗浄して、樹脂成形品(樹脂フィルム)の表面近傍に分散しているポリエチレングリコール(改質材料)を除去した(図13中のステップS6’)。この工程により、ポリエチレングリコールが除去された箇所には微細孔が形成された樹脂成形品を得られる。
上述のように、本参考例の樹脂成形品の製造方法では、樹脂フィルム及び成形品基材の材料とは異なる低分子成分(この例ではポリエチレングリコール)が溶媒により樹脂フィルムから除去されるので、少なくとも成形品の表面に微細孔が形成された樹脂成形品が得られる。なお、樹脂フィルムから低分子成分を除去するプロセスのタイミングは任意であり、除去プロセスはインサート成形の前後いずれに行ってもよい。また、微細孔のサイズは、低分子成分(改質材料)の分子量や樹脂フィルムから低分子成分を抽出除去する際の条件により数nmオーダーからミクロンオーダーまでの範囲で制御可能である。
上述のようにして表面に微細孔が形成された樹脂成形品の表面粗さを実施例1と同様にして測定した。その結果、算術平均粗さ(Ra)は15nm、十点平均粗さ(Rz)は130nmとなり、実施例1で作製されたインサート成形後の樹脂成形品に比べて、表面粗さが大きくなった。これは、樹脂フィルム表面に分散していた低分子成分(ポリエチレングリコール)が除去され微細孔が形成されたことを示している。ただし、従来のメッキ工程で行うクロム酸や過マンガン酸のエッチング処理では成形品表面が数ミクロン程度粗化されることを考えると、本参考例で作製されたインサート成形後の樹脂成形品では、従来のエッチング処理により粗化された成形品に比べて良好な表面粗さが得られることが分かった。
次に、この例では、ポリエチレングリコールが除去された樹脂成形品に対して、公知の無電解銅メッキ処理を施した(図13中のステップS7)。具体的には、コンディショナー(奥野製薬工業(株)製 OPC−370)による脱脂工程、触媒(奥野製薬工業(株)製 OPC−80キャタリスト)の付与工程、活性剤(奥野製薬工業(株)製 OPC−500アクセレーターMX)による触媒活性化工程、および無電解銅メッキ工程を順次行った。なお、無電解銅メッキ工程では、メッキ液に、OPC−750無電解銅メッキ液(奥野製薬工業(株)製)を用いた。脱脂工程及び触媒の付与工程においては、樹脂フィルム上への触媒核およびメッキ膜の浸漬を助長するため、超音波振動を付与した。その結果、形成されたメッキ膜にはふくれがなく、クロスハッチのテープ剥離試験による密着強度も良好であった。
上述のようにして表面にメッキ膜が形成された樹脂成形品の樹脂フィルム近傍の拡大概略断面図を図10に示した。この例で形成された樹脂成形品では、樹脂フィルムの表面近傍に分散した改質材料(ポリエチレングリコール)を除去しているので、成形品基材301上に形成された樹脂フィルム300の表面には、図10に示すように、一部微細孔401が形成されている。そして、無電解メッキにより、この微細孔内に触媒核およびメッキ膜が浸漬し、樹脂フィルム300の表面の微細孔401によりアンカー効果が得られ、メッキ膜の強固な密着強度が得られたものと考えられる。すなわち、この例のメッキ膜が形成された樹脂成形品では、表面を極力平滑に維持した状態で強固なアンカー効果を得ることができる。さらに、本参考例の樹脂成形品の製造方法では、従来のエッチングでは十分に粗化できなかった樹脂材料、例えば、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネートの非メッキグレード、液晶ポリマー等に対しても容易にメッキ膜を形成することができる。また、本参考例の製造方法では、従来の手法と同様に、パラジウム触媒のコロイドが成形品基材に吸着しやすいように界面活性剤を用いても良い。
なお、この例の樹脂成形品の製造方法で用い得る改質材料としては、高圧二酸化炭素に溶解しかつ溶媒で除去できる低分子成分であれば任意である。例えば、ポリエチレングリコール等のポリアルキルグリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアミジン等の水溶性ポリマーおよびそのオリゴマー並びにモノマー、あるいはεカプロラクタム、アクリルアミド等を用いることができる。このような水溶性低分子材料を用いることで容易に樹脂表面より水やアルコール等で改質材料を除去することができる。それにより、任意なサイズの微細孔を樹脂成形品の表面に形成することができる。
また、この例の製造方法により表面の少なくとも一部に微細孔が形成された樹脂製成形品は、次のような用途に用いることができる。例えば、樹脂フィルムの材料にポリ乳酸等の生分解性プラスチックを用いた場合には、微細孔に細胞を培養する再生医療用デバイスとして適用することができる。また、微細孔のサイズを可視光の波長より十分小さい100nm以下程度にした場合には、空孔率を増やすことで成形品表面の屈折率を低減することができる。さらに樹脂フィルムの表面から内部までの空孔率分布に傾斜をつけることにより、表面反射率を抑制することができる。この場合、表面の空孔率を樹脂フィルム内部よりも増大させる必要があるが、本参考例の製造方法では、低分子成分は表面に近いほど多く抽出されるので、空孔率分布を容易に制御できる。また、本参考例の金属膜を形成するための無電解メッキプロセスは大面積の複雑な形状を有する成形品にも容易に適用可能である。