本発明はポリマー基体のメッキ前処理方法及びメッキ方法並びに熱可塑性樹脂製成形品の製造方法に関し、より詳細には、超臨界流体等の高圧流体を用いたポリマー基体のメッキ前処理方法及びメッキ方法並びに熱可塑性樹脂製成形品の製造方法に関する。
メッキは装飾、防食、機能性付加等を目的としており、電解及び無電解のメッキ法、蒸着法などが一般的なメッキ方法として知られている。特に、絶縁性のポリマー基体にメッキを施す場合には、無電解メッキ法が広く利用されている。ポリマー基体の無電解メッキプロセスは材料、目的等により多少異なるが、通常図7に示すような手順でポリマー基体上にメッキ膜が形成される。以下に、図7に示したフローチャートに従って従来のメッキ膜の形成方法について簡単に説明する。
まず、ポリマー基体表面から油等を除去する(図7中の脱脂工程S71)。次いで、エッチングを行い、ポリマー基体表面の粗化を行う(図7中の工程S72)。次いで、ポリマー基体表面のエッチング液を中和処理して除去し(図7中の工程S73)、界面活性剤水溶液でポリマー基体表面の濡れ性を改善する(図7中の湿潤化工程S74)。次に、ポリマー基体表面にメッキ触媒を付着させる(図7中のキャタリスト工程S75)。キャタリスト工程(図7中の触媒付与工程)では、例えば、メッキ用触媒としてパラジウム触媒を用いた場合、塩化スズと塩化パラジウムの塩酸酸性水溶液にポリマー基体を浸漬させてパラジウム−スズコロイド粒子を表面に吸着させる。その後、硫酸や塩酸などの酸で、ポリマー基体表面のスズを除去し、メッキ用触媒を活性化(還元)させる(図7中のアクセレーター工程S76)。上述のような手順で、ポリマー基体に金属メッキを施す際の前処理が行われる。そして、上記メッキ前処理方法によって、表面にメッキ用触媒が付着されたポリマー基体をメッキ液に浸漬させることにより、メッキ膜をポリマー基体表面に形成する(図7中のメッキ膜形成工程S77)。
図7に示した従来のメッキ前処理方法では、次のような問題がある。上記エッチング工程S72では、エッチング液としてクロム酸溶液やアルカリ金属水酸化物溶液などを用いるので、エッチング工程S72後には、エッチング液を中和させる中和工程S73等の後処理が必要となるため、コスト高の要因となる。さらに、これらのエッチング液は毒性が強く、その取扱いにはかなりの注意を要する。
上記問題を解決するために、従来、エッチング工程によるポリマー基体表面の粗面化を必要としない種々のメッキ前処理方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2)。これらの文献では、メッキ用触媒を含有する薄膜を有機バインダーや紫外線硬化樹脂によりポリマー基体表面に形成する方法が提案されている。また、アミン化合物および/またはアミド化合物のガス雰囲気中で紫外線レーザーをポリマー基体表面に照射してポリマー基体表面を表面改質する技術を利用したメッキ前処理方法も提案されている(例えば、特許文献3を参照)。さらに、上記技術以外でもコロナ放電処理、プラズマ処理、紫外線処理等によるポリマー基体の表面改質技術を利用する方法が提案されている。
また、最近、超臨界流体を用いたポリマー基体の無電解メッキ法が提案されている(例えば、特許文献4を参照)。超臨界流体(SCF:Super Critical Fluid)は、気体のような浸透性を有すると同時に液体のような溶媒としての機能を備えている。それゆえ、有機物質等を溶解させた超臨界流体を基体表面に接触させると、超臨界流体の溶解された物質を超臨界流体とともに基体表面からその内部に浸透させる(表面改質する)ことができる。特許文献4に記載されたメッキ方法では、まず、その前処理として、メッキ用触媒を含有する超臨界流体をポリマー基体に接触させることにより、メッキ用触媒をポリマー基体表面からその内部に浸透させる。これにより、ポリマー基体表面にメッキ用触媒を付着させる。次いで、メッキ用触媒が付着されたポリマー基体をメッキ液に浸漬して、ポリマー基体表面にメッキ膜を形成する。
また、有機金属錯体を溶解した超臨界流体を用いたポリマー基体のメッキ前処理方法も提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。この方法では、まず、有機金属錯体を溶解した超臨界流体をポリマー基体に接触させることにより、ポリマー基体内部に有機金属錯体を浸透させる。次いで、有機金属錯体が付着されたポリマー基体に加熱等の処理を施すことにより、有機金属錯体をメッキ用触媒である金属微粒子に変質させる(還元する)。
本発明者らは、ポリマー基体の射出成形プロセスで用いられる金型内で有機金属錯体を溶解した超臨界流体を成形品表面に接触させ、成形品表面の任意の箇所に有機金属錯体を浸透させることにより、ポリマー基体の射出成形プロセス後、即座にポリマー基体に無電解メッキを行うことのできる射出成形方法を提案している(例えば、特許文献5を参照)。
特開平9−59778号公報
特開2001−303255号公報
特開平6−87964号公報
特開2001−316832号公報
特開2004−218062号公報
堀照夫,「超臨界流体を用いる高分子材料のめっき」,表面技術,第7−13頁,vol.56,No.2,2005年
上述のように、特許文献4及び5並びに非特許文献1等で提案されている超臨界流体を用いたメッキ前処理方法は、エッチング工程を必要としないため、低コストで環境に優しい前処理方法である。そこで、このようなメッキ前処理方法を用いて、多種類のポリマー基体に対しても、より密着力の高いメッキ膜を形成することが要望されている。
本発明の目的は、超臨界流体等の高圧流体を用いたポリマー基体のメッキ前処理方法及びメッキ方法並びに成形品の製造方法において、メッキ用触媒を含む有機金属錯体を種々のポリマー基体表面に効率よく浸透させ、且つ、より密着力の高いメッキ膜をポリマー基体表面に形成するためのメッキ前処理方法及びメッキ方法並びに熱可塑性樹脂製成形品の製造方法を提供することである。
本発明の第1の態様に従えば、ポリマー基体のメッキ前処理方法であって、アミド基を有する物質が溶解している第1の高圧流体を上記ポリマー基体に接触させることと、有機金属錯体が溶解している第2の高圧流体を上記ポリマー基体に接触させることとを含むメッキ前処理方法が提供される。
なお、本明細書でいう「高圧流体」とは、超臨界流体のみならず、高圧の液状流体(液体)及び高圧不活性ガスのような高圧ガスも含む意味である。
本発明の第1の態様に従うメッキ前処理方法では、第1の高圧流体を上記ポリマー基体に接触させた後に、第2の高圧流体を上記ポリマー基体に接触させることが好ましい。なお、本発明のメッキ前処理方法はこれに限定されず、第1の高圧流体及び第2の高圧流体を上記ポリマー基体に同時に接触させても良い。
上述したような有機金属錯体を溶解させた超臨界流体等の高圧流体を用いてポリマー基体のメッキ前処理を行う方法について、本発明者らが鋭意検討した結果、従来の方法では、ポリマー基体材料と有機金属錯体の親和性が不十分であることが判明した。すなわち、有機金属錯体を溶解させた超臨界流体を用いた従来のメッキ前処理方法では、ポリマー基体内部に浸透する有機金属錯体の量や、ポリマー基体内部にて有機金属錯体をメッキ用触媒(金属微粒子)に還元する効率が低いことが分かった。そのため、ポリマー基体上に高密着力のメッキ膜を形成するためには、有機金属錯体の使用量や、触媒付与の処理時間を増大しなければならないという問題があった。上述のような有機金属錯体が溶解した超臨界流体を用いたポリマー基体のメッキ前処理方法を工業化するためには、これらの課題を解決することが必須であり、本発明はこれらの課題を解決するためになされたものである。
本発明の第1の態様に従うメッキ前処理方法及びそれを用いた無電解メッキ法の一例を図1を用いて簡単に説明する。まず、ポリマー基体表面の油等を除去する(図1中の脱脂工程S11)。次いで、アミド基(−CONH)を有する物質を超臨界流体等の高圧流体(第1の高圧流体)に溶解する。次いで、アミド基を有する物質を溶解した高圧流体をポリマー基体表面に接触させて、高圧流体とともにアミド基を有する物質をポリマー基体内部に浸透させて、ポリマー基体表面を表面改質する(図1中の表面改質工程S12)。次いで、メッキ用触媒を含有する有機金属錯体を高圧流体(第2の高圧流体)に溶解する。そして、有機金属錯体を溶解した高圧流体を表面改質されたポリマー基体表面に接触させて、高圧流体とともに有機金属錯体をポリマー基体内部に浸透させる(図1中の触媒付与工程S13)。この工程により、メッキ用触媒をポリマー基体表面に付着させる。そして、ポリマー基体を洗浄する(図1中の工程S14)。以上の工程により本発明のメッキ前処理方法が終了する。その後、従来と同様にして、前処理されたポリマー基体をメッキ液に浸漬させ、ポリマー基体表面にメッキ膜を形成する(図1中のメッキ膜形成工程S15)。
上述のような本発明のメッキ前処理方法を用いることにより、以下のような効果を奏することを本発明者らは見出した。
(1)アミド基を有する物質をポリマー基体表面近傍に浸透させることにより、有機金属媒体の浸透量が増大する。
(2)ポリマー基体内部におけるメッキ用触媒の還元効率が向上する。
(3)ポリマー基体の表面近傍にのみアミド基を浸透させることにより、ポリマー基体の物性の劣化を抑制することができる。
(4)有機金属錯体を浸透させた際にメッキ膜を形成するには十分な量のメッキ用触媒を有機金属錯体から還元することができる。すなわち、本発明のメッキ前処理方法を用いた場合には、有機金属錯体をメッキ用触媒に還元する工程(例えば、図7の触媒活性化工程S76)を行わなくてもメッキ膜をポリマー基体上に形成することができる。
本発明の第2の態様に従えば、ポリマー基体のメッキ前処理方法であって、アミド基を有する物質及び有機金属錯体を高圧流体に溶解させることと、上記高圧流体を上記ポリマー基体に接触させることとを含むメッキ前処理方法が提供される。
本発明の第2の態様に従うメッキ前処理方法及びそれを用いた無電解メッキ法の一例を図3に示す。第2の態様に従うメッキ前処理方法では、図3の工程S32に示すように、アミド基を有する物質と有機金属錯体の両方を溶解した超臨界流体等の高圧流体をポリマー基体表面に接触させることにより、ポリマー基体表面の表面改質処理と触媒付与処理とを同時に行う方法である。本発明者らは、ポリマー基体表面の表面改質処理と触媒付与処理とを同時に行っても、第1の態様のメッキ前処理方法と同様の効果が得られることを見出した。
ここで、本発明のメッキ前処理方法を用いて形成したメッキ膜とポリマー基体との結合状態について説明する。その様子を模式的に表わしたのが図6である。なお、図6では、比較のため、従来の方法でメッキ膜を形成した場合のメッキ膜とポリマー基体との結合状態の模式図も示した。
図6(a)は、図7に示した従来から用いられている最も一般的なメッキ前処理方法(エッチング工程を用いた前処理方法)を用いてメッキ膜を形成した場合のメッキ膜とポリマー基体との結合状態を表わした図である。そのような従来のメッキ前処理方法では、エッチングによりポリマー基体表面を粗化するので、図6(a)に示すように、ポリマー基体21表面に凹部が形成される。その後、メッキ用触媒23をポリマー基体21表面に付与すると、メッキ用触媒23は主にポリマー基体21の凹部に付着し、そのメッキ用触媒を核としてメッキ膜22が形成される。その結果、図6(a)に示すように、メッキ膜22がポリマー基体21の凹部に食い込むような状態(アンカー効果)で形成されるので、比較的密着力の高いメッキ膜22が形成される。
また、図6(b)は、例えば、上述の特許文献3で提案されているようなメッキ前処理方法でポリマー基体表面にメッキ膜を形成した場合のメッキ膜とポリマー基体との結合状態を表わした図である。特許文献3で提案されているメッキ前処理方法では、アミン化合物および/またはアミド化合物のガス雰囲気中で紫外線レーザーをポリマー基体表面に照射して、ポリマー基体を表面改質し、その改質された部分にメッキ用触媒を付着させる方法である。このような方法では、ポリマー基体21とメッキ用触媒23とは化学結合24(共有結合等)により結合され、次いで、そのような化学結合24を介してポリマー基体に付着したメッキ用触媒23を核としてメッキ膜22が形成される。
一方、本発明のメッキ前処理方法では、アミド基を有する物質を溶解した高圧流体と有機金属錯体を溶解した高圧流体をポリマー基体表面に接触させて浸透させるため、図6(c)に示すように、メッキ用触媒23がポリマー基体の表面近傍に含浸しており(表面及びその内部近傍に埋め込まれた状態になっており)、メッキ膜22はこのポリマー基体21の表面近傍に含浸されたメッキ用触媒23を核として形成される。そのため、形成されたメッキ膜22はメッキ用触媒23を介してポリマー基体21の表面近傍に食い込むような状態で形成(固着)される。それゆえ、本発明のメッキ前処理方法を用いてメッキ膜をポリマー基体上に形成した場合には、非常に密着性の優れたメッキ膜22を形成することができる。特に、図6(b)で説明したメッキ膜と比べると、図6(b)の場合にはメッキ用触媒23とポリマー基体21との化学結合24によりメッキ膜22が形成されているのに対して、本発明のメッキ前処理方法では図6(c)に示すように、ポリマー基体21の表面近傍に含浸されたメッキ用触媒23を介してポリマー基体21とメッキ膜22とが物理的(又は機械的)に結合されている。図6(c)に示すような物理的な結合は、図6(b)に示すような化学結合よりはるかに大きな結合力を持っており、本発明のメッキ前処理方法の方が、特許文献3で提案されているような方法より、より密着性の高いメッキ膜を形成することができる。
また、本発明のメッキ前処理方法では、上記高圧流体が、超臨界状態の二酸化炭素(以下、超臨界二酸化炭素ともいう)であることが好ましい。また、高圧流体として二酸化炭素を用いる場合には、超臨界二酸化炭素以外に、亜臨界二酸化炭素、液体二酸化炭素または二酸化炭素ガスが用い得る。ただし、本発明はこれに限定されない。高圧流体としては、浸透物質をある程度溶解する媒体であれば任意のものを用い得る。例えば、高圧流体として、空気、水、ブタン、ペンタン、メタノール等を用いても良い。なお、浸透物質を溶解する高圧流体としては、有機材料に対する溶解度がヘキサン並みであり、無公害であり、且つプラスチックに対する親和性の高い超臨界二酸化炭素が特に好ましい。また、高圧流体に対する浸透物質の溶解度を向上させるために少量のエタノール等の有機溶剤をエントレーナとして混合しても良い。
本発明のメッキ前処理方法で用いる有機金属錯体としては、高圧流体にある程度の溶解度を有し、メッキ用触媒となる金属元素を含有する材料が好ましい。高圧流体として超臨界二酸化炭素を用いた場合には、例えば、ビス(シクロペンタジエニル)ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、ジメチル(シクロオクタジエニル)プラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトヒドレート銅(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナトプラチナ(II)、ヘキサフルオロアセチルアセトナト(トリメチルホスフィン)銀(I)、ジメチル(ヘプタフルオロオクタネジオネート)銀(AgFOD)等を用いることができる。
本発明のメッキ前処理方法で用いるアミド基を有する物質としては、高圧流体にある程度溶解するものであれば任意であり、例えば、アクリルアミド、ε−カプロラクタム、ニコチンアミド、アセトアニリド、フェニル酢酸アミド、オレアミド、オキサミド等を用いることができる。中でも、ε−カプロラクタムは超臨界二酸化炭素に対する溶解度が高いので特に望ましい。
本発明のメッキ前処理方法が適用可能なポリマー基体としては、例えば、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルイミド、ポリメチルペンテン、非晶質ポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、液晶ポリマー基体、スチレン系樹脂、ポリメチルペンテン、ポリアセタール、エポキシ樹脂等やそれらを複数種混合したもの、または、上記物質を主成分とするポリマー基体アロイやそれらに各種の充填剤を配合したものを使用することができる。
本発明の第3の態様に従えば、ポリマー基体のメッキ方法であって、第1または第2の態様に従うメッキ前処理方法を用いて、前処理されたポリマー基体を用意することと、上記ポリマー基体上に無電解メッキ法によりメッキ膜を形成することとを含むメッキ方法が提供される。
本発明の第4の態様に従えば、熱可塑性樹脂製成形品の製造方法であって、アミド基を有する物質及び有機金属錯体を高圧流体に溶解させることと、熱可塑性樹脂を溶融することと、上記高圧流体を溶融した上記熱可塑性樹脂に導入することと、溶融した上記熱可塑性樹脂を成形することとを含む製造方法が提供される。
本発明の第4の態様に従う熱可塑性樹脂製成形品の製造方法によれば、熱可塑性樹脂製成形品の成形工程時に、アミド基を有する物質及び有機金属錯体を熱可塑性樹脂の溶融樹脂に浸透させて熱可塑性樹脂の改質処理及び触媒付与処理を行うことができる。すなわち、熱可塑性樹脂の成形工程時にメッキ前処理工程(改質処理及び触媒付与処理)を行うので、成形品の製造プロセスをより一層簡略化することができるとともに、様々な種類の熱可塑性樹脂に対してメッキ用触媒を容易に浸透させることができる。
本発明の成形品の製造方法では、上記製造方法が、加熱シリンダーを有する射出成形機を用いた製造方法であり、上記高圧流体を溶融した上記熱可塑性樹脂に導入する際に、上記加熱シリンダー内の溶融した熱可塑性樹脂のフローフロント部に上記高圧流体を導入することが好ましい。
本発明の成形品の製造方法で射出成形機を用い、加熱シリンダー内の溶融した熱可塑性樹脂のフローフロント部にアミド基を有する物質及び有機金属錯体を含有する高圧流体を導入すると、射出成形時には、まず、アミド基を有する物質及び有機金属錯体が浸透したフローフロント部の溶融樹脂が金型に射出される。次いで、アミド基を有する物質及び有機金属錯体をほとんど含まない溶融樹脂が金型に射出充填される。アミド基を有する物質及び有機金属錯体が浸透したフローフロント部の溶融樹脂が射出された際には、金型内における流動樹脂のファウンテンフロー現象(噴水効果)により、フローフロント部の溶融樹脂は金型表面に引っ張られながら金型に接して表面層(スキン層)を形成する。それゆえ、この射出成形機を用いた成形品の製造方法では、アミド基を有する物質及び有機金属錯体が分散したスキン層とそれらがほとんど分散していないコア層とからなる成形品が得られる。上記射出成形機を用いた製造方法では、成形品の表面内部に十分な量のメッキ用触媒を浸透させることができ、この成形品の表面に無電解メッキによりメッキ膜を形成した場合には、密着性の優れたメッキ膜を形成することができる。
本発明の成形品の製造方法では、上記製造方法が、押し出し成形機を用いた製造方法であり、溶融した上記熱可塑性樹脂を成形する際に、上記熱可塑性樹脂を連続的に成形することが好ましい。
上記押し出し成形機を用いた本発明の成形品の製造方法では、アミド基を有する物質及び有機金属錯体が浸透した溶融樹脂を押し出しダイ等により所定の形状(例えば、フィルム状)に連続成形するので、成形品の表面及び内部に均一にアミド基を有する物質及び有機金属錯体が分散した所定形状の成形品を連続的に製造(成形)することができる。すなわち、この押し出し成形機を用いた成形品の製造方法では、十分な量のメッキ用触媒が表面に分散した所定形状の成形品を連続的に作製することができる。それゆえ、この成形品の表面に無電解メッキによりメッキ膜を形成した場合には、密着性の優れたメッキ膜を形成することができる。
本発明の成形品の製造方法では、上記製造方法が、第1及び第2加熱シリンダーと金型とを有するサンドイッチ成形機を用いた製造方法であり、上記高圧流体を溶融した上記熱可塑性樹脂に導入する際に、第1加熱シリンダー内の溶融樹脂に上記アミド基を有する物質及び有機金属錯体を溶解した高圧流体を導入し、上記熱可塑性樹脂を成形する際に、第1加熱シリンダー内の溶融樹脂を上記金型内に射出した後、第2加熱シリンダー内の溶融樹脂を上記金型内に射出することが好ましい。
上記サンドイッチ成形機を用いた成形品の製造方法では、第1加熱シリンダー内のアミド基を有する物質及び有機金属錯体が浸透した溶融樹脂を金型に射出した後、第2加熱シリンダー内の溶融樹脂を射出するので、アミド基を有する物質及び有機金属錯体を含まない樹脂(第2加熱シリンダー内の溶融樹脂)からなるコア層と、コア層上に形成されたアミド基を有する物質及び有機金属錯体を含む樹脂(第1加熱シリンダー内の溶融樹脂)からなるスキン層とを有する成形品が得られる。すなわち、このサンドイッチ成形機を用いた成形品の製造方法では、十分な量のメッキ用触媒がスキン層に分散した成形品を作製することができる。それゆえ、この成形品の表面に無電解メッキによりメッキ膜を形成した場合には、密着性の優れたメッキ膜を形成することができる。
本発明の成形品の製造方法では、上記有機金属錯体が、メッキ用触媒となる金属元素を含むことが好ましい。この場合、本発明の成形品の製造方法が、さらに、成形された熱可塑性樹脂の表面に、無電解メッキ法によりメッキ膜を形成することを含むことが好ましい。
本発明のポリマー基体のメッキ前処理方法によれば、ポリマー基体の表面近傍にアミド基を浸透させることにより、ポリマー基体の種類に関係無くメッキ用触媒を含む有機金属錯体とポリマー基体との親和性を向上させることができる。この結果、より短い処理時間でより多くの有機金属錯体をポリマー基体内部に浸透させることができる。すなわち、本発明のポリマー基体のメッキ前処理方法によれば、メッキ用触媒を種々のポリマー基体内部に効率よく浸透させることができる。
また、本発明のポリマー基体のメッキ方法によれば、予め上記本発明のメッキ前処理方法を用いてより多くのメッキ用触媒が表面近傍に含浸されたポリマー基体を用意し、その上にメッキ膜を形成するので、非常に密着力の高いメッキ膜を形成することができる。
さらに、本発明のメッキ前処理方法及びメッキ方法によれば、エッチング工程を必要としないため、低コストで環境に優しいメッキ前処理方法及びメッキ方法を提供することができる。また、本発明のメッキ前処理方法及びメッキ方法によれば、メッキ触媒を活性化する工程(還元処理工程)が必ずしも必要としないので、より簡単に且つ短時間でメッキ膜を形成することができる。
また、本発明の熱可塑性樹脂製成形品の製造方法によれば、有機金属錯体からメッキ用触媒を還元するための工程を行う必要がないことはもちろん、成形品の表面改質処理及び触媒核付与処理を成形工程時に行うので、より一層プロセスを簡略化することができる。また、本発明の成形品の製造方法によれば、様々な種類の熱可塑性樹脂に対してメッキ用触媒を浸透させることができる。
以下に、本発明のメッキ前処理方法及びメッキ方法並びに熱可塑性樹脂製成形品の製造方法の実施例について図面を参照しながら具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
実施例1では、図1に示す手順でポリマー基体表面にメッキ膜を形成した。この例では、ポリマー基体として、直径50mm、厚み1mmのポリカーボネート製基板を用いた。ポリマー基体に浸透させるアミド基を有する物質としては、ε−カプロラクタム(和光純薬工業社製)を用い、メッキ用触媒(この例ではPd)を含有する有機金属錯体としては、ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用いた。なお、この例では、アミド基を有する物質及び有機金属錯体を溶解させる高圧流体として、超臨界状態の二酸化炭素(以下、超臨界二酸化炭素という)を用いた。また、この例では、メッキ膜としてニッケル膜を形成した。
[高圧装置]
実施例1のメッキ前処理方法を用いた説明する前に、メッキ前処理方法で超臨界二酸化炭素をポリマー基体に接触させるために用いた高圧装置について説明する。この例で用いた高圧装置の概略構成を図2に示した。
この例で用いた高圧装置100は、図2に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ10と、シリンジポンプ11と、3つの高圧容器12,13,14と、抽出容器15とで構成され、これらは配管16で繋がれている。また、この例で用いた高圧装置100の各構成要素間には、図2に示すように、超臨界二酸化炭素の流動を制御するためのバルブ101〜110及び背圧弁111が適宜所定の箇所に設置されている。
シリングポンプ11(ISCO社製260D)は液体二酸化炭素ボンベ10から導入された液体二酸化炭素を所定の圧力に昇圧して超臨界状態の二酸化炭素を生成するためのポンプである。高圧容器13及び14はそれぞれ超臨界二酸化炭素にアミド基を有する物質及び有機金属錯体を溶解させるための容器である。高圧容器12は、ポリマー基体にアミド基を有する物質及び/または有機金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素を接触させて、ポリマー基体の表面改質処理及び/または触媒付与処理を行うための高圧容器である。この例では、高圧容器12、13及び14の容量をそれぞれ5ml、25ml及び10mlとした。また、高圧容器12,13,14にはそれぞれヒーター及び冷却水路(いずれも不図示)が設けられており、高圧容器を所定の温度に調節することができる。抽出容器15は、ポリマー基体の表面改質処理及び/または触媒付与処理を行っている際に高圧容器12から押し出される超臨界二酸化炭素、並びに、ポリマー基体を高圧容器12から取り出す際に高圧容器12から排気される超臨界二酸化炭素をそれぞれ排出するための容器である。また、配管16の表面にはヒーター(不図示)が巻かれており、配管16は所定の温度に調節されている。
なお、本発明のポリマー基体のメッキ前処理方法では、有機金属錯体またはアミド基を有する物質を溶解した超臨界二酸化炭素を高圧容器や金型等に圧力損失なく(圧力一定で)導入することが望ましい。有機金属錯体またはアミド基を有する物質を溶解した超臨界二酸化炭素が流動する経路の途中で圧力の低い箇所が存在すると、そのような箇所で超臨界流体に溶解した物質が一部析出し、その結果、超臨界二酸化炭素により高圧容器12に運ばれる量が減少してしまうためである。本実施例では、図2に示すように、高圧容器12の排出側に背圧弁111を設け、背圧弁111の一次側圧力がシリンジポンプ11のポンプ圧(この例では20MPa)と同じになるように調整し、超臨界二酸化炭素が圧力一定(圧力損失なし)で高圧容器間を流動するようにした。
[メッキ前処理方法及びメッキ膜の形成方法]
次に、この例のポリマー基体のメッキ前処理方法及びメッキ膜の形成方法について図1及び2を用いて説明する。なお、本発明のポリマー基体のメッキ前処理方法は任意のタイミングで行うことが可能であり、射出成形や押し出し成形、圧縮成形等の成形加工処理を行った直後に同じ射出成形機内で行うこともできる。本実施例では、成形加工処理を行う射出成形機とは別の高圧装置を用いてポリマー基体をバッチ処理した。
まず、ポリマー基体をエタノールで超音波洗浄し、その後乾燥させた(図1中の脱脂工程S11)。次いで、洗浄されたポリマー基体を高圧装置100の高圧容器12内に設置した。次いで、アミド基を溶解した超臨界二酸化炭素をポリマー基体表面に接触させて、アミド基をポリマー基体内に浸透させることにより、ポリマー基体の表面改質を行った(図1中の工程S12)。次いで、メッキ用触媒を含有する有機金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素をポリマー基体表面に接触させて、有機金属錯体をポリマー基体内に浸透させることにより、ポリマー基体の表面近傍にメッキ用触媒を含浸させた(図1中の工程S13)。
ここで、図1に示したメッキ前処理方法における表面改質工程S12から触媒付与工程S13について、図2を用いてより詳細に説明する。なお、以下の説明は図2に示した高圧装置100のバルブ101〜110が全て閉じられた状態から説明する。
まず、洗浄されたポリマー基体を高圧容器12に設置した。また、600mgのε−カプロラクタムを高圧容器13に投入し、30mgの有機金属錯体を高圧容器14に投入した。次いで、高圧容器12、13及び14を、それぞれ120℃、50℃及び45℃に昇温させた。なお、配管16のヒーターは50℃に設定した。
次に、バルブ101を開けて、液体二酸化炭素を液体二酸化炭素ボンベ10からシリンジポンプ11に導入し、シリンジポンプ11を液体二酸化炭素で満たした後、バルブ101を閉じた。次いで、シリンジポンプ11に導入された液体二酸化炭素を20MPaに昇圧し、超臨界二酸化炭素を生成した。
次いで、バルブ102、103及び105を開けて、超臨界二酸化炭素をシリンジポンプ11から高圧容器13、14に注入して20MPaまで昇圧した。この操作により、高圧容器13及び14内で、それぞれε−カプロラクタム及び有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解させた。次いで、バルブ103及び105を閉じた。
次いで、バルブ107、108及び109を開き、高圧容器12に超臨界二酸化炭素を注入して高圧容器12内の圧力を20MPaまで昇圧した。そして、高圧容器12が20MPaに昇圧された後、バルブ107を閉じた。このように、高圧容器12内の圧力を高圧容器13及び14内の圧力と同じ圧力20MPaで保持することにより、後述する工程でアミド基を有する物質または有機金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素を高圧容器13または14から高圧容器12に流動させる際に圧力損失が生じないようにした。
次いで、バルブ103及び104を開け、シリンジポンプ11から5ml/minの流量で圧力20MPaの超臨界二酸化炭素を3分間流し、高圧容器13中のε−カプロラクタムが溶解した超臨界二酸化炭素を高圧容器12に流し込んだ。高圧容器12から押し出された超臨界二酸化炭素は抽出容器15に排出した。次いで、バルブ103及び104を閉め、その後、高圧容器12中でε−カプロラクタムが溶解した超臨界二酸化炭素(20MPa、120℃)をポリマー基体に3分間接触させた。上述のようにして、アミド基を溶解した超臨界二酸化炭素をポリマー基体表面に接触させて、アミド基をポリマー基体内に浸透させることにより、ポリマー基体の表面改質処理を行った(図1中の工程S12)。
次に、バルブ105及び106を開き、シリンジポンプ11から5ml/minの流量で20MPaの超臨界二酸化炭素を2分間流し、高圧容器14中の有機金属錯体が溶解した超臨界二酸化炭素を高圧容器12に流し込んだ。高圧容器12から押し出された超臨界二酸化炭素は抽出容器15に排出した。次いで、バルブ105及び106を閉め、その後、高圧容器12中で有機金属錯体が溶解した超臨界二酸化炭素(20MPa、120℃)をポリマー基体に3分間接触させた。上述のようにして、有機金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素をポリマー基体表面に接触させて、有機金属錯体をポリマー基体内に浸透させることにより、ポリマー基体の表面近傍にメッキ用触媒を含浸させた(図1中の工程S13)。
次に、高圧容器12のヒーターを切り、水を高圧容器12の冷却水路に流して約30℃まで冷却した。このとき、バルブ102及び107を開き、冷却中もシリンジポンプ11の圧力制御によって高圧容器12中の圧力が20MPaに保たれるようにした。次いで、バルブ102を閉じ、その後バルブ110を開けて高圧容器12内を減圧した。そして、メッキ用触媒が表面に付着された(表面近傍に含浸した)ポリマー基体を高圧容器12から取り出し、エタノールで1分間超音波洗浄した(図1中の工程S14)。この例では、以上のような手順でポリマー基体のメッキ前処理を行った。
ポリマー基体のメッキ前処理が終了した後、無電解メッキ法によりポリマー基体上にメッキ膜を形成した(図1中の工程S15)。具体的には、ポリマー基体を85℃に昇温したNi−Pメッキ液(日進化成社製NP−700)に1分間浸漬して、ポリマー基体表面にニッケル皮膜を形成した。このようにして、この例では、ポリマー基体表面にメッキ膜を形成した。
なお、上述のように、本実施例のメッキ前処理方法及びメッキ方法では、有機金属錯体を超臨界二酸化炭素とともにポリマー基体内に浸透させた後、従来のように有機金属錯体をメッキ用触媒核に還元する処理(触媒活性化処理)を行わなくてもポリマー基体上に高密着力のメッキ膜を形成することができた。これは、本実施例のメッキ前処理方法では、有機金属錯体を超臨界二酸化炭素とともにポリマー基体内に浸透させた時点で、ある程度、有機金属錯体がメッキ用触媒核となる金属微粒子に還元されているためであると考えられる。それゆえ、本発明のポリマー基体のメッキ前処理方法では、有機金属錯体をメッキ用触媒核に還元するための工程を行う必要がないので、プロセスを簡略化することができる。ただし、本発明のポリマー基体のメッキ前処理方法では、有機金属錯体をポリマー基体に浸透させた後、別途、還元処理を行っても良い。実際、本発明者らが、有機金属錯体をポリマー基体に浸透させた後、ポリマー基体を加熱するなどの触媒活性化処理を行ったところ、さらにメッキ用触媒核の還元効率が向上することが確認された。
[比較例1]
比較例1では、メッキ用触媒を含有する有機金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素のみをポリマー基体に接触させた。すなわち、アミド基を有する物質を溶解した超臨界二酸化炭素をポリマー基体に接触させる工程は行わなかった。それ以外は、実施例1と同様にしてポリマー基体表面にメッキ膜を形成した。
実施例2のポリマー基体のメッキ前処理方法では、アミド基を有する物質及びメッキ用触媒を含有する有機金属錯体の両方が溶解された超臨界二酸化炭素をポリマー基体表面に接触させて、ポリマー基体の表面改質処理と触媒付与処理とを同時に行った。この例におけるメッキ前処理方法及びメッキ膜の形成方法の具体的な手順を図3に示した。なお、この例では、ポリマー基体、アミド基を有する物質及び有機金属錯体には、実施例1と同じものを用い、メッキ膜としてニッケル膜を形成した。また、超臨界二酸化炭素をポリマー基体に接触させるための高圧装置も、実施例1と同様の装置(図2の装置)を用いた。以下、図2及び3を用いてこの例におけるポリマー基体のメッキ前処理方法及びメッキ膜の形成方法について説明する。
まず、ポリマー基体をエタノールで超音波洗浄し、その後乾燥させた(図3中の脱脂工程S31)。次いで、洗浄されたポリマー基体を高圧装置100の高圧容器12内に設置した。
次いで、アミド基を有する物質(ε−カプロラクタム)及びメッキ用触媒を含有する有機金属錯体(ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II))を溶解した超臨界二酸化炭素をポリマー基体表面に接触させて、アミド基及び有機金属錯体をポリマー基体内に浸透させることにより、ポリマー基体の表面改質処理及び触媒付与処理を同時に行った(図3中の工程S32)。なお、この工程S32で、アミド基を有する物質及び有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解する際には、図2中の高圧容器14に、アミド基を有する物質を120mg、有機金属錯体を30mgそれぞれ投入して、超臨界二酸化炭素に溶解した。この操作以外は、実施例1と同様にして超臨界二酸化炭素(20MPa、120℃)をポリマー基体に3分間接触させた。次いで、メッキ用触媒が表面に付着されたポリマー基体を高圧容器12から取り出し、エタノールで1分間超音波洗浄した(図3中の工程S33)。この例では、以上のような手順でポリマー基体の前処理を行った。
ポリマー基体の前処理が終了した後、無電解メッキ法によりポリマー基体上にメッキ膜を形成した(図3中の工程S34)。具体的には、ポリマー基体を85℃に昇温したNi−Pメッキ液(日進化成社製NP−700)に1分間浸して、ポリマー基体表面にニッケル皮膜を形成した。このようにして、この例では、ポリマー基体表面にメッキ膜を形成した。
実施例3のポリマー基体のメッキ前処理方法では、射出成形機の金型内でポリマー基体を射出成形した後、その金型内でアミド基を有する物質及び有機金属錯体の両方を溶解した超臨界二酸化炭素をポリマー基体に接触させて、ポリマー基体の表面改質処理と触媒付与処理とを同時に行った。なお、この例におけるメッキ前処理方法は実施例2と同様の手順(図3)で行った。
[メッキ前処理装置]
実施例3のメッキ前処理方法を具体的に説明する前に、この例のメッキ前処理方法で超臨界二酸化炭素をポリマー基体に接触させるために用いたメッキ前処置装置について説明する。この例で用いたメッキ前処理装置の概略構成を図4に示した。
この例のメッキ前処理装置は、図4に示すように、主に、超臨界二酸化炭素を生成及び排出する高圧装置30(図4中の破線で囲まれた領域)と、ポリマー基体を射出成形する射出成形機31とから構成される。
高圧装置30は、図4に示すように、主に、バッファータンク300(容量0.98リットル)、アミド基を有する物質及び有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解させる溶解槽301、及び、射出成形機から排出された超臨界二酸化炭素を回収する回収槽309から構成され、これらの構成要素は配管311で繋がれている。また、この例で用いた高圧装置30の各構成要素間には、図4に示すように、超臨界二酸化炭素の流動を制御するためのバルブ302〜307及び背圧弁308が適宜所定の箇所に設置されている。なお、図4には図示していないが、この例の高圧装置30では、バッファータンク300の上流側に、二酸化炭素ボンベ及び二酸化炭素を加圧温調して超臨界二酸化炭素を生成するための高圧ポンプも備えている。
射出成形機31は、図4に示すように、主に、可動プラテン314、可動プラテン314に取り付けられた可動金型315、固定プラテン316、固定プラテン316に取り付けられた固定金型317、及び溶融樹脂を射出する加熱シリンダー318から構成される。
また、可動金型315には、図4に示すように、可動金型315と固定金型317との間に画成されたキャビティ321に超臨界二酸化炭素を導入するための超臨界流体導入口323と、超臨界二酸化炭素をキャビティ321から排出するための超臨界流体排出口324とが設けられている。超臨界流体導入口323は及び超臨界流体排出口324は、図4に示すように、それぞれ配管311a及び311bを介して高圧装置30に繋がれている。そして、図4に示すように、超臨界流体導入口323は、配管311a、溶解槽301等を介してバッファータンク300と流通しており、超臨界流体排出口324は、配管311b等を介して回収槽309と流通している。それゆえ、バッファータンク300で所定圧力に調整された超臨界二酸化炭素は、溶解槽301、配管311a等を介して、超臨界流体導入口323からキャビティ321に導入される。また、キャビティ321に導入された超臨界二酸化炭素は超臨界流体排出口324から配管311b等を介して回収槽309に排出される。
[メッキ前処理方法及びメッキ膜の形成方法]
次に、この例におけるポリマー基体のメッキ前処理方法及びメッキ膜の形成方法について、図4及び5を用いて具体的に説明する。なお、この例では、ポリマー基体、アミド基を有する物質及び有機金属錯体は、実施例1と同じものを用い、メッキ膜としてニッケル膜を形成した。
まず、二酸化炭素ボンベ(不図示)から高圧ポンプ(不図示)に二酸化炭素を供給し、高圧ポンプ内で加圧温調されて超臨界二酸化炭素を生成する。次いで、超臨界二酸化炭素をバッファータンク300に導入し、バッファータンク300内で20MPa、40℃の超臨界二酸化炭素を滞留させた。この際、図4に示すように、溶解槽301とバッファータンク300とは配管311で直結されているので、20MPa、40℃の超臨界二酸化炭素が溶解槽301内にも導入される。なお、この時点では、高圧装置30の各バルブ302〜307は閉じられているものとする。
次いで、メッキ用触媒(Pd)を含有する有機金属錯体(ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II))100mg、及び、アミド基を有する物質(ε−カプロラクタム)200mgを溶解槽301に投入して、圧力20MPa、温度40℃の超臨界二酸化炭素に溶解させた。
次に、固定金型317及び可動金型315により画成されたキャビティ321に、ポリマーを射出充填してポリマー基体を成形した。具体的には次のようにしてポリマー基体を成形した。
まず、340℃に温調された加熱シリンダー318に図示しないホッパーによりポリカーボネート(帝人化成製AD−5503)のペレットを導入し、スクリュー319の回転によりペレットを可塑化溶融しながら計量した。次いで、可動金型315が取り付けられた可動プラテン314を射出成形機31の型締め機構(不図示)を用いて40トンに加圧して、固定金型317と可動金型315とを嵌めあわせることにより樹脂が充填させる空間であるキャビティ321を画成した。
次いで、スクリュー319を金型側へ前進させることにより、加熱シリンダー318内で溶融されたポリカーボネート樹脂を、ノズル320を介してキャビティ321内に射出充填してポリマー基体(射出成形品)を成形した。なお、この際、両金型は図示しない冷却水路によって120℃に温度制御されている。
キャビティ321に溶融樹脂を射出充填してポリマー基体325を成形加工した後、図5に示すように、可動金型315が取り付けられた可動プラテン314を後退させる(固定金型317から離れる方向に移動させる)ことにより金型を開いた。金型の開き量は、キャビティ開き量をモニターする位置センサー(不図示)を電動サーボモーターの駆動力によりフィードバック制御することにより調整した。本実施例では、金型の開き量は200μmとした。
次に、電磁弁で駆動する自動バルブ303及び304を開き、配管311a及び可動金型315の超臨界流体導入口323を介して20MPaの超臨界二酸化炭素をキャビティ321に導入し、ポリマー基体325の両面に超臨界二酸化炭素を接触させた。なお、この例では、背圧弁308の上流に設けられた圧力計310の圧力が19.5MPaになるように背圧弁308のハンドルを調整した。それゆえ、自動バルブ304が開放された際には、キャビティ321に供給される超臨界二酸化炭素の圧力20MPaと背圧弁308の圧力19.5MPaとの差圧0.5MPaにより、超臨界二酸化炭素がキャビティ421内を流動する。そして、キャビティ321に導入された超臨界二酸化炭素は超臨界流体排出口323、配管311b及び背圧弁308を介して自動バルブ307まで満たされる。なお、キャビティ321における超臨界二酸化炭素のシールは、固定金型317の外周面に取り付けられたOリング322にて保持される。
次いで、キャビティ321内を20MPaの超臨界二酸化炭素で充満させた後、自動バルブ303を閉鎖し、代わりに自動バルブ302を開き、それと同時に自動バルブ307も開いた。この際、溶解槽301に充填されていた有機金属錯体及びアミド基を有する物質を溶解した超臨界二酸化炭素は、上述した差圧0.5MPaにより流動し、キャビティ321内に導入される。そして、所望の時間(この例では、3分間)、有機金属錯体及びアミド基を有する物質を溶解した超臨界二酸化炭素をキャビティ321内で流動させた。これにより、有機金属錯体及びアミド基を有する物質を溶解した超臨界二酸化炭素をポリマー基体325の両面に接触させて、ポリマー基体325両面に対して表面改質処理及び触媒付与処理を同時に行った。
上述のようにして、キャビティ321内でポリマー基体325の両面に対して表面改質処理及び触媒付与処理を同時に行った後、自動バルブ304を閉じ、自動バルブ305及び306を開いた。これにより、キャビティ321内や配管311内部に導入されていた超臨界二酸化炭素を回収槽309に排気して回収した。なお、この際、超臨界二酸化炭素を排気しながら、射出成形機31の型締め機構で加圧してキャビティ321を閉鎖し、ポリマー基体325を再固化させた。その後、金型を開いて、ポリマー基体325を射出成形機31から取り出した。次いで、実施例1と同様にしてポリマー基体325を洗浄した。この例では、以上のような手順でポリマー基体の前処理を行った。
そして、この例では、上記手順で前処理されたポリマー基体325を、実施例1と同様にして無電解メッキし、ポリマー基体表面にメッキ膜を形成した。
[比較例2]
比較例2では、図4に示したメッキ前処理装置を用いて、メッキ用触媒を含有する有機金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素のみをポリマー基体に接触させた。すなわち、比較例2では、アミド基を有する物質を溶解した超臨界二酸化炭素をポリマー基体に接触させる工程は行わなかった。それ以外は、実施例3と同様にしてポリマー基体表面にメッキ膜を形成した。
実施例4では、実施例1〜3並びに比較例1及び2で作製した表面にメッキ膜が形成されたポリマー基体(成形品)に対してテープ剥離試験を行い、メッキ膜の品質を評価した。また、実施例1〜3並びに比較例1及び2で作製した表面にメッキ膜が形成されたポリマー基体の内部部分析を行った。
[テープ剥離試験]
実施例1〜3並びに比較例1及び2で作製した表面にメッキ膜が形成されたポリマー基体に対してJIS K5600(25マス、1×1mm/マス)碁盤目テープ剥離試験を行い、メッキ膜の密着性について評価した。碁盤目テープ剥離試験では、セロハン粘着テープ(ニチバン(株)製)を用い、指の腹でメッキ膜に密着後剥離した。判定は25マスの内、剥離しないマス目の数で表した。メッキ膜が剥離しない場合を25/25、完全に剥離する場合を0/25として表した(表1)。
表1から明らかなように、実施例1、2及び3で作製したポリマー基体では、メッキ膜は殆ど剥離しなかったが、比較例1及び2で作製したポリマー基体ではメッキ膜は完全に剥離した。このことから、ポリマー基体のメッキ前処理方法において、アミド基を有する物質を溶解した超臨界二酸化炭素をポリマー基体に接触させることにより、メッキ膜の密着性が向上することが分かった。また、実施例1のように、アミド基を有する物質を溶解した超臨界二酸化炭素を接触させた後に、有機金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素を接触させた場合だけでなく、実施例2及び3のように、アミド基を有する物質及び有機金属錯体の両方を溶解した超臨界二酸化炭素を接触させた場合、すなわち、ポリマー基体の表面改質処理と触媒付与処理とを同時に行った場合でも同様に、メッキ膜の密着力が向上することが分かった。
[ポリマー基体の内部分析]
次に、実施例1〜3並びに比較例1及び2で作製した表面にメッキ膜が形成されたポリマー基体内部の元素分析を行った。具体的には、実施例1〜3並びに比較例1及び2で得られたポリマー基体のメッキ膜を塩酸で除去した後、ポリマー基体の表面近傍における元素比(表面から0〜7nmの範囲の平均値:at%)をX線光電子分光装置(XPS)で測定した。その結果を表2に示した。
表2から明らかなように、比較例1及び2のポリマー基体で検出されなかった窒素N、すなわちアミド基が実施例1、2及び3のポリマー基体の表面近傍で検出された。これは、ε−カプロラクタム(アミド基を有する物質)の溶解した超臨界二酸化炭素をポリマー基体に接触させたことにより、ポリマー基体の表面近傍の領域にアミド基が浸透したためであると考えられる。
また、表2から明らかなように、比較例1及び2のポリマー基体に比べて実施例1〜3のポリマー基体の方が表面近傍でより多くのPd(メッキ用触媒)が存在することが確認された。このことから、実施例1〜3のように、メッキの前処理工程において、アミド基を有する物質を溶解した超臨界二酸化炭素をポリマー基体に接触させることにより、より多くの有機金属錯体、すなわち、より多くのメッキ用触媒をポリマー基体表面に含浸させることができることが分かった。それゆえ、表1に示した上記テープ剥離実験において、実施例1〜3で形成したメッキ膜の密着性が向上したのは、メッキの前処理工程において、アミド基を有する物質を溶解した超臨界二酸化炭素をポリマー基体に接触させることにより、メッキ用触媒となるPdがより多く表面に付着したためであると考えられる。
また、表2中のPdとFの含有量の比率からすると、有機金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素をポリマー基体に接触させて有機金属錯体を浸透させた時点で、有機金属錯体中のPdとFとの結合が切れてメッキ用触媒となるPdが還元されて析出しているものと思われる。そのため、本発明のメッキ前処理方法では、有機金属錯体を浸透させた後、従来のメッキ前処理方法のように、有機金属錯体からメッキ触媒を析出させるための還元処理(触媒活性化処理)を行わなくてもポリマー基体上にメッキ膜を形成することができたものと考えられる。
なお、実施例1のメッキ前処理方法では、アミド基を有する物質を溶解した超臨界二酸化炭素をポリマー基体に接触させた後、有機金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素をポリマー基体に接触させたが、本発明はこれに限定されない。アミド基を有する物質を溶解した超臨界二酸化炭素と有機金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素を同時にポリマー基体に接触させても良い。実施例2及び3の結果からすると、この場合にも、実施例1〜3と同様の効果が得られることは明らかである。なお、この場合の超臨界二酸化炭素の接触方法としては、図2の高圧装置100内のバルブ104及び106を同時に開けて、高圧容器13内のアミド基を有する物質を溶解した超臨界二酸化炭素と高圧容器14内の有機金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素とをポリマー基体に接触させれば良い。
実施例5では、射出成形機を用いたポリマー基体(熱可塑性樹脂製成形品)の成形工程時に、ポリマー基体の表面改質処理及び触媒核付与処理(メッキ前処理)を行った。この例では、アミド基を有する物質及び有機金属錯体の両方を溶解した高圧流体を射出成形機内の溶融樹脂のフローフロント部に浸透させ、アミド基を有する物質及び有機金属錯体が浸透した該フローフロント部の溶融樹脂を金型内に射出充填して成形することにより、射出成形と同時にポリマー基体の表面改質処理及び触媒付与処理を行った。
この例では、メッキ用触媒を含有する有機金属錯体としてヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用い、アミド基を有する物質としてε−カプロラクタムを用いた。また、ポリマー基体の形成材料としては、射出成形が可能な材料であれば任意の材料が用い得るが、この例では、ポリカーボネートを用いた。また、この例では、高圧流体として、超臨界二酸化炭素を用いた。
[成形装置]
この例のポリマー基体の製造方法を説明する前に、この例の製造方法で用いた成形装置について説明する。この例で用いた成形装置の概略構成を図8に示した。この例で用いた成形装置400は、図8に示すように、射出成形機部401と、高圧流体発生装置部402とから構成される。
射出成形機部401は、図8に示すように、主に、溶融樹脂を射出する可塑化溶融シリンダー404(以下、加熱シリンダーともいう)と、可動金型405及び固定金型406を備える金型403とから構成される。金型403内では、固定金型406および可動金型405が突き当たることにより、中心にスプールを有する円盤形状のキャビティ407が画成される。また、この例の射出成形機部401では、図示しない電動トグル型締め機構に連動して、可動金型405が図面上で左右方向に開閉する構造となっている。また、加熱シリンダー404内のフローフロント部415の側部には、図8に示すように、ガス導入機構424を設けた。また、加熱シリンダー404には、図8に示すように、ガス導入機構424と対向するフローフロント部415の内壁位置に樹脂の内圧モニター410を設け、この内圧モニター410により高圧流体の導入位置近傍の樹脂内圧を計測した。その他の構造は、従来の射出成形機と同様の構造となっている。
高圧流体発生装置部402は、図8に示すように、主に、二酸化炭素ボンベ416と、公知のシリンジポンプ2台からなる連続フローシステム417(ISCO社製E−260)と、アミド基を含む物質及び有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解する溶解槽418とから構成され、各構成要素は配管425により繋がれている。また、高圧流体発生装置部402には、図8に示すように、超臨界二酸化炭素の流動を制御するための第1エアーオペレートバルブ420及び第2エアーオペレートバルブ423が適宜所定の箇所に設置されており、溶解槽418は第1エアーオペレートバルブ420及び第2エアーオペレートバルブ423を介して、射出成形機部401のガス導入機構424に繋がれている。
なお、本実施例では、溶融樹脂に浸透させる高圧流体としては、一つの高圧流体を用いているが、本発明はこれに限定されず、複数の高圧流体を用いてもよい。その場合には、高圧流体に溶解させて溶融樹脂に浸透させる各物質(この例では、アミド基を含む物質または有機金属錯体)を高圧流体毎に溶解させても良い。
[ポリマー基体の製造方法及びメッキ膜の形成方法]
次に、この例のポリマー基体(熱可塑性樹脂製成形品)の製造方法及びメッキ膜の形成方法を図8〜10を用いて説明する。まず、超臨界二酸化炭素の生成並びにアミド基を有する物質及び有機金属錯体の溶解方法について説明する。二酸化炭素ボンベ416に蓄えられた5〜7MPaの液化二酸化炭素を、連続フローシステム417に導入した。連続フローシステム417内のシリンジポンプでは、導入された二酸化炭素に対して、所定圧力(10MPa)で常時昇圧および圧力保持がなされ、超臨界二酸化炭素が生成される。なお、図8に示すように、連続フローシステム417の内部と溶解槽418の内部とが配管425を介して流通しているので、連続フローシステム417に二酸化炭素が供給され超臨界二酸化炭素が生成された時点で、連続フローシステム417で生成された超臨界二酸化炭素が溶解槽418に導入され、溶解槽418に仕込まれたアミド基を有する物質及び有機金属錯体が、超臨界二酸化炭素に溶解する(図10中のステップS41)。
なお、この際、溶解槽418は40℃に昇温されており、メッキ用触媒(Pd)を含有する有機金属錯体(ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II))、及びアミド基を有する物質(ε−カプロラクタム)が過飽和になるように溶解槽418予め仕込まれているので、有機金属錯体及びアミド基を有する物質は、連続フローシステム417から導入された超臨界二酸化炭素に常時飽和溶解している。また、この際、溶解槽418の圧力計419の表示は10MPaであった。
次に、超臨界二酸化炭素の加熱シリンダー404内への導入から射出成形までの手順を説明する。この例では、従来と同様に、次のようにして樹脂材料を可塑化溶融した。まず、加熱シリンダー404をバンドヒーター411によって所定の温度(この例では、280℃)に昇温した。次いで、樹脂材料となるペレットを乾燥機(不図示)にて乾燥脱水した後、ホッパー(不図示)から導入口413を介して加熱シリンダー404内に供給してペレットを可塑化溶融した。この際、樹脂ペレットは従来の射出成形方法と同様に、スクリュー412の回転により可塑化溶融され、樹脂はスクリュー412の前方方向(キャビティ側)に溶融しながら押し出される(図10中のステップS42)。そして、スクリュー412の前方に押し出された可塑化溶融樹脂により、樹脂の内圧が上昇し、スクリュー412が後退して計量が開始される。次いで、スクリュー412が所定の計量位置まで後退したら、スクリュー412の後退を停止させた。なお、計量の際、加熱シリンダー404のノズル先端404aはシャットオフバルブ408により樹脂漏れがないように閉鎖されている。シャットオフバルブ408はエアー駆動ピストン409の力により駆動される。
次に、溶融樹脂の可塑化及び計量が完了した後、スクリュー412を後退させて、溶融樹脂の内圧を減圧した。この際、内圧モニター410により、フローフロント部415の樹脂内圧が4MPaに低下したことを確認した。
次に、第1エアーオペレートバルブ420を開き、第1エアーオペレートバルブ420と第2エアーオペレートバルブ423との間の配管部425a内に有機金属錯体及びアミド基を有する物質の溶解した超臨界二酸化炭素を導入して、圧力計421が10MPaを表示するように配管部425a内を昇圧した。次いで、第1エアーオペレートバルブ420を閉じた。
次いで、第1エアーオペレートバルブ420を閉じた状態で第2エアーオペレートバルブ423を開き、配管部425a内の有機金属錯体及びアミド基を有する物質の溶解した超臨界二酸化炭素を、ガス導入機構424を介して、加熱シリンダー404内の減圧状態にあるフローフロント部415の溶融樹脂内部に注入し浸透させた(図10中のステップS43)。本実施例では、配管部425aの内容積で超臨界二酸化炭素の導入量を制御した。この際、有機金属錯体はアミド基を有する物質とともに溶融樹脂に導入されるので、有機金属錯体がより効率よく溶融樹脂に浸透する。また、この際、溶融樹脂に浸透した有機金属錯体の多くが、溶融樹脂の熱等によりメッキ用触媒(金属微粒子)に還元される。
次いで、スクリュー412を背圧力によって前方に前進させ、充填開始位置までスクリュー412を戻した。この動作により、スクリュー412前方のフローフロント部415にてアミド基を有する物質及び有機金属錯体(金属微粒子)を溶融樹脂に拡散させた。次いで、エアーピストン409を駆動してシャットオフバルブ408を開き、固定金型406および可動金型405にて画成される金型403内のキャビティ407内に溶融樹脂を射出充填した(図10中のステップS44)。
射出成形時の金型403内における溶融樹脂の充填の様子を模式的に図9に示した。図9(a)は初期充填時の模式図であり、図9(b)は充填完了時の模式図である。まず、初期充填時には、図9(a)に示すように、加熱シリンダー404内のフローフロント部415の溶融樹脂430が射出充填され、その際に溶融樹脂に浸透しているアミド基を有する物質、有機金属錯体及び超臨界二酸化炭素は減圧されながらキャビティ407に拡散する。また、この際、フローフロント部415の溶融樹脂430は充填時の噴水効果により、金型表面に接しながら充填され成形品(ポリマー基体)のスキン層を形成する。
そして、さらに射出充填が進むと、アミド基を有する物質及び有機金属錯体がほとんど浸透していない溶融樹脂(図8中の領域414の溶融樹脂)が射出充填され、充填完了時には、図9(b)に示すように、アミド基を有する物質及び有機金属錯体が浸透した樹脂で形成されたスキン層431と、アミド基を有する物質及び有機金属錯体がほとんど浸透していない樹脂で形成されたコア層432とから構成されるポリマー基体が得られる。
この例のポリマー基体の製造方法を用いると、ポリマー基体内部に浸透したアミド基を有する物質及び有機金属錯体は表面機能に寄与しないことから、アミド基を有する物質及び有機金属錯体の使用量を削減できる。また、1次充填後に溶融樹脂圧の保圧を高くすることにより、二酸化炭素のガス化によるポリマー基体の発泡を抑制できる。なお、この例のポリマー基体の製造方法では、フローフロント部にのみに超臨界二酸化炭素を浸透させるので、充填樹脂の全体量に対する二酸化炭素の浸透量は少ない。それゆえ、カウンタープレッシャーを金型403のキャビティ407内に付与しなくても、ポリマー基体の表面性は悪化しにくい。
次に、表面にアミド基を有する物質及び有機金属錯体が含浸したポリマー基体を、金型403から取り出した。次いで、実施例1と同様にしてポリマー基体を洗浄した(エタノール中で1分間超音波洗浄した)。この例では、以上のような手順でポリマー基体の成形及びメッキ前処理を行い、アミド基を有する物質及び有機金属錯体が表面に含浸したポリマー基体を得た。
次に、上記手順で作製されたポリマー基体に対して、実施例1と同様にして無電解メッキを施し、ポリマー基体表面にメッキ膜(ニッケル膜)を形成した(図10中のステップS45)。上述のようにして、この例では、表面にメッキ膜が形成されたポリマー基体(熱可塑性樹脂製成形品)を得た。
上述のように、本実施例のポリマー基体の製造方法では、アミド基を有する物質及び有機金属錯体を超臨界二酸化炭素とともに加熱シリンダー内の溶融樹脂に浸透させるだけでポリマー基体の表面に十分な量のメッキ触媒(金属微粒子)を含浸させることができるので、従来のように有機金属錯体をメッキ用触媒に還元する処理(触媒活性化処理)を行わなくても良い。それゆえ、本実施例のポリマー基体の製造方法では、有機金属錯体からメッキ用触媒を還元するための工程を行う必要がないので、プロセスを簡略化することができる。さらに、本実施例のポリマー基体の製造方法では、ポリマー基体の射出成形時に、表面改質処理及び触媒核付与処理を同時に行うことができるので、より一層プロセスを簡略化することができる。
また、本実施例のポリマー基体の製造方法では、射出成形時に、有機金属錯体を溶融樹脂に浸透させることができるので、射出成形可能な様々な種類の樹脂材料に対して容易にメッキ用触媒を浸透させることができる。
実施例6では、押し出し成形機を用いたポリマー基体(熱可塑性樹脂製成形品)の成形工程時に、ポリマー基体の表面改質処理及び触媒核付与処理(メッキ前処理)を行った。この例では、アミド基を有する物質及び有機金属錯体の両方を溶解した高圧流体を押し出し成形機内の溶融樹脂に浸透させた後、溶融樹脂を連続的に押し出しダイ(口金)より成形することにより、押し出し成形と同時にポリマー基体の表面改質処理及び触媒付与処理を行った。
この例では、メッキ用触媒を含有する有機金属錯体としてヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用い、アミド基を有する物質としてε−カプロラクタムを用いた。また、ポリマー基体の形成材料としては、押し出し成形が可能な材料であれば任意の材料が用い得るが、この例では、熱可塑性樹脂であるポリカーボネートを用いた。また、この例では、高圧流体として、超臨界二酸化炭素を用いた。
[成形装置]
まず、この例で用いた成形装置について説明する。この例で用いた成形装置の概略構成を図11及び12に示した。なお、図12は、図11中の矢印Aの方向から見た成形装置500の押し出しダイ512近傍の模式図である。
この例で用いた成形装置500は、図11に示すように、主に、押し出し成形機部501と、高圧流体供給部502とから構成される。
押し出し成形機部501は、図11に示すように、主に、可塑化溶融シリンダー516(以下、加熱シリンダーともいう)と、加熱シリンダー516内に樹脂のペレットを供給するホッパー506と、加熱シリンダー516内のスクリュー503を回転させるモーター505と、溶融樹脂の肉厚を薄くし且つ溶融樹脂を扇状に拡大させながら押し出すダイ512と、冷却ロール513とから構成される。なお、この例のスクリュー503としては、減圧部となるベント構造部504を有する単軸スクリューを用いた。
押し出しダイ512の構造及び方式は任意であり、作製する成形品の形状、用途等により適宜設定できるが、この例では押し出しダイ512として、フィルム成形用のTダイを用いた。また、Tダイ512は、図11に示すように、平ダイ510と、平ダイ510と加熱シリンダー516とを繋ぐ接合部508とからなる。また、この例の成形装置500では、Tダイ512より押し出された樹脂フィルム515は冷却ロール513等により巻き取られる。本実施例では、Tダイ512のダイ押し出し口におけるギャップtは0.5mmに設定した。
また、この例の成形装置500では、超臨界二酸化炭素の導入口を3箇所設け、それぞれにインジェクターバルブを設けた。1箇所目のインジェクターバルブは、図11に示すように、溶融樹脂が減圧される単軸スクリュー503のベント構造部504付近に設けられたインジェクターバルブ507であり、2箇所目のインジェクターバルブは、接合部508に設けられたインジェクターバルブ509であり、そして、3箇所目のインジェクターバルブが平ダイ510に設けられたインジェクターバルブ511である。なお、各インジェクターバルブ507,509,511の超臨界流体導入部には、樹脂内圧を測定する圧力センサー(不図示)が設けられている。また、後述するように、この例のポリマー基体の製造方法では、超臨界二酸化炭素を溶融樹脂に導入する際には、圧力センサーに表示される樹脂内圧よりも導入する超臨界二酸化炭素の圧力の方が高くなるように調整される。
高圧流体供給部502は、図11に示すように、主に、二酸化炭素ボンベ520と、公知のシリンジポンプ2台からなる連続フローシステム521(ISCO社製E−260)と、アミド基を含む物質及び有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解する溶解槽523とから構成され、各構成要素は配管529により繋がれている。また、高圧流体供給部502には、図11に示すように、超臨界二酸化炭素の流動を制御するための背圧弁524、ストップバルブ526,527,528が適宜所定の箇所に設置されており、溶解槽523は背圧弁524、ストップバルブ526,527,528を介して押し出し成形機部501のインジェクターバルブ507,509,511に繋がれている。
この例の成形装置500では、溶融もしくは半溶融状態の樹脂に対し、過飽和にならない適正な量の有機金属錯体及びアミド基を有する物質が溶解した超臨界二酸化炭素を、最適な圧力及び流量にて連続で浸透させることができる。なお、本実施例の押し出し成形機部501では、スクリュー503、加熱シリンダー516、ダイ512等の各機構は、公知の押し出し成形機の各機構と同様な形態を用いることができる。
[ポリマー基体の製造方法及びメッキ膜の形成方法]
次に、この例のポリマー基体(熱可塑性樹脂製成形品)の製造方法及びメッキ膜の形成方法について、図11及び13を用いて説明する。まず、超臨界二酸化炭素の生成並びにアミド基を有する物質及び有機金属錯体の超臨界二酸化炭素への溶解方法について説明する。二酸化炭素ボンベ520に蓄えられた5〜7MPaの液化二酸化炭素を、連続フローシステム521に導入した。連続フォローシステム521内のシリンジポンプでは、導入された二酸化炭素に対して、所定圧力(15MPa)で常時昇圧および圧力保持がなされ、超臨界二酸化炭素が生成される。
なお、図11に示すように、連続フローシステム521の内部と溶解槽523の内部とが配管529を介して流通しているので、連続フローシステム521に二酸化炭素が供給され超臨界二酸化炭素が生成された時点で、連続フローシステム521で生成された超臨界二酸化炭素が溶解槽523に導入され、溶解槽523に仕込まれたアミド基を有する物質及び有機金属錯体が、超臨界二酸化炭素に溶解する(図13中のステップS51)。
なお、この際、溶解槽523は40℃に昇温されており、メッキ用触媒(Pd)を含有する有機金属錯体(ヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II))及びアミド基を有する物質(ε−カプロラクタム)は過飽和になるように溶解槽523に予め仕込まれている。それゆえ、連続フローシステム521から導入された超臨界二酸化炭素には、常時、有機金属錯体及びアミド基を有する物質が飽和溶解している。また、この際、溶解槽523の圧力計525は15MPaを表示していた。
次に、超臨界二酸化炭素の溶融樹脂への導入から押し出し成形までの手順を説明する。まず、押し出し成形機部501のホッパー506に熱可塑性樹脂材料(ポリカーボネート)のペレットを充分な量だけ供給し、モーター505の回転により樹脂材料を可塑化溶融させた(図13中のステップS52)。スクリュー503の回転数は100rpm、加熱シリンダー516の平均設定温度は280℃とした。次いで、スクリュー503を後退させてベント構造部504近傍の可塑化溶融状態の樹脂の圧力を10MPa程度に減圧した。
次いで、ストップバルブ526を開き、有機金属錯体及びアミド基を有する物質を溶解した圧力15MPaの超臨界二酸化炭素を、インジェクターバルブ507を介して、ベント構造部504の溶融樹脂に導入した(図13中のステップS53)。この際、有機金属錯体及びアミド基を有する物質を溶解した超臨界二酸化炭素を、シリンジポンプの流量制御により10ml/minの流速に調整し、加熱シリンダー516内の溶融樹脂に連続的に導入した。これにより、超臨界二酸化炭素、並びに、有機金属錯体及びアミド基を有する物質を溶融樹脂に浸透させた。この際、有機金属錯体はアミド基を有する物質とともに溶融樹脂に導入されるので、有機金属錯体がより効率よく溶融樹脂に浸透する。また、溶融樹脂に浸透した有機金属錯体の多くは、溶融樹脂の熱等により、メッキ用触媒(金属微粒子)に還元される。
次に、スクリュー503を前進させて、加熱シリンダー516内の超臨界二酸化炭素、並びに、有機金属錯体(金属微粒子)及びアミド基を有する物質が浸透した溶融樹脂を加熱シリンダー516から押し出した。押し出された溶融樹脂は、接合部508を介して平ダイ510に送られ、平ダイ510を通過する。この際、溶融樹脂は広げられ且つその厚さを薄くしながら押し出される。次いで、平ダイ510のギャップtを介して押し出された溶融樹脂は冷却ロール513等によりで巻き取られながらフィルム状に連続成形される(図13中のステップS54)。この例では、上述のようにして、有機金属錯体(金属微粒子)及びアミド基を有する物質が表面及び内部に分散したフィルム状のポリマー基体を得た。
次に、上記手順で前処理されたフィルム状のポリマー基体に対して、実施例1と同様にして無電解メッキを施し、ポリマー基体の表面にメッキ膜(ニッケル膜)を形成した(図13中のステップS55)。上述のようにして、この例では、表面にメッキ膜が形成されたフィルム状のポリマー基体(熱可塑性樹脂製成形品)を得た。
上述のように、本実施例のポリマー基体の製造方法では、アミド基を有する物質及び有機金属錯体を超臨界二酸化炭素とともに加熱シリンダー内の溶融樹脂に浸透させるだけでポリマー基体の表面に十分な量のメッキ用触媒(金属微粒子)を含浸させることができるので、従来のように有機金属錯体をメッキ用触媒に還元する処理(触媒活性化処理)を行わなくても良い。それゆえ、本実施例のポリマー基体の製造方法では、有機金属錯体からメッキ用触媒を還元するための工程を行う必要がないので、プロセスを簡略化することができる。さらに、本実施例のポリマー基体の製造方法では、ポリマー基体(成形品)の押し出し成形時に、ポリマー基体の表面改質処理及び触媒核付与処理を同時に行うことができるので、より一層プロセスを簡略化することができる。
さらに、本実施例のポリマー基体の製造方法で、押し出し成形時に、有機金属錯体を溶融樹脂に浸透させることができるので、押し出し成形可能な様々な種類の樹脂材料に対して容易にメッキ用触媒を浸透させることができる。
実施例7では、サンドイッチ成形機を用いたポリマー基体(熱可塑性樹脂製成形品)の成形工程時に、ポリマー基体の表面改質処理及び触媒核付与処理(メッキ前処理)を行った。
この例では、メッキ用触媒を含有する有機金属錯体としてヘキサフルオロアセチルアセトナトパラジウム(II)を用い、アミド基を有する物質としてε−カプロラクタムを用いた。また、ポリマー基体の形成材料としては、ポリカーボネートを用いた。また、この例では、高圧流体として、超臨界二酸化炭素を用いた。
[成形装置]
まず、この例のポリマー基体の製造方法で用いた成形装置について説明する。この例で用いた成形装置の概略構成を図14に示した。この例で用いた成形装置600は、図14に示すように、サンドイッチ成形機部601と、高圧流体供給部602と、高圧流体排出部603とから構成される。
サンドイッチ成形機部601は、図14に示すように、主に、ポリマー基体(成形品)の外皮(表面層)を形成するための第1の可塑化溶融シリンダー620(以下、第1加熱シリンダーともいう)と、ポリマー基体のコア部を形成するための第2の可塑化溶融シリンダー624(以下、第2加熱シリンダーともいう)と、第1加熱シリンダー620及び第2加熱シリンダー624の溶融樹脂の排出口620a及び624aに接続され且つ第1加熱シリンダー620及び第2加熱シリンダー624内部に流通したノズル部618と、可動金型611及び固定金型612を備える金型610とから構成される。
ノズル部618内には、図14に示すように、金型610内に射出する溶融樹脂の射出経路を切り替えるためのロータリーバルブ619が設けられている。この例では、後述するように、ロータリーバルブ619を回転させることにより、第1加熱シリンダー620内部から金型610のキャビティ616に至る溶融樹脂の射出経路と、第2加熱シリンダー624内部から金型610のキャビティ616に至る溶融樹脂の射出経路とが切り替えられる。なお、金型610のキャビティ616は、固定金型612および可動金型611が突き当たることにより画成される空間である。また、この例では、図12に示すように、スプール617を中心にして、自動車用のヘッドランプリフレクターを2個同時に成形できる金型610を用いた。固定金型612および可動金型611は、それぞれ固定プラテン614及び可動プラテン613にそれぞれ固定されており、型締め機構615により可動プラテン613を駆動することにより金型610が開閉される構造になっている。
また、この例では、図14に示すように、第1加熱シリンダー620には、アミド基を有する物質及び有機金属錯体を溶解した超臨界二酸化炭素を溶融樹脂に導入するためのエアー駆動式の導入シリンダー627と、超臨界二酸化炭素を溶融樹脂から排出するためのエアー駆動式の排出シリンダー629とが設けられている。導入シリンダー627及び排出シリンダー629の内部には、それぞれ導入ピストン628及び排出ピストン630が設けられている。また、この例では、第1加熱シリンダー620内のスクリュー621(以下、第1スクリューともいう)としては、図14に示すように、樹脂内圧を減圧させるベント部を2箇所設けた(図14中の第1ベント部623及び第2ベント部622)。そして、導入シリンダー627及び排出シリンダー629は、それぞれ第1ベント部623及び第2ベント部622の近傍に配置した。上述のように、この例の成形装置では、溶融樹脂に浸透させた超臨界二酸化炭素をガス化して射出充填前に排気させる機構を設けた。一方、第2加熱シリンダー624は、従来の加熱シリンダーと同じ構造とした。
高圧流体供給部602は、図14に示すように、主に、液体二酸化炭素ボンベ640と、公知のシリンジポンプ641と、アミド基を含む物質及び有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解する溶解槽642とから構成され、各構成要素は配管643により繋がれている。また、高圧流体供給部602では、図14に示すように、超臨界二酸化炭素の流動を制御するためのバルブ644,645が適宜所定の箇所に設置されており、溶解槽642は配管643により、サンドイッチ成形機部601の導入シリンダー627に繋がれている。
高圧流体排出部603は、図14に示すように、主に、フィルタ654と、バッファー容器653と、減圧弁652と、真空ポンプ650とから構成され、各構成要素は配管655により繋がれている。また、フィルタ654は配管652により、サンドイッチ成形機部601の排出シリンダー629に繋がれている。
[ポリマー基体の製造方法及びメッキ膜の形成方法]
次に、この例のポリマー基体(熱可塑性樹脂製成形品)の製造方法を、図14〜21を参照しながら説明する。なお、この例では、先のサンドイッチ成形が終了した時点(図15の状態)からポリマー基体の製造方法を説明する。それゆえ、図15では、前回の成形時に第2加熱シリンダー624から射出された溶融樹脂がノズル部618内の樹脂の流路に残留している。
最初に、アミド基を有する物質及び有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解させる方法について説明する。まず、バルブ644を開き、液体二酸化炭素ボンベ640よりシリンジポンプ641に二酸化炭素を供給した。シリンジポンプ641では、供給された二酸化炭素は所定の圧力(10MPa)に昇圧され、超臨界状態になる(超臨界二酸化炭素が生成される)。次いで、バルブ645を開き、超臨界二酸化炭素を40℃に昇温された溶解槽642に導入して、アミド基を有する物質及び有機金属錯体を超臨界二酸化炭素に溶解させた(図21中のステップS61)。なお、この例では、溶解槽642内には過飽和となるように、アミド基を有する物質及び有機金属錯体を予め仕込んだ。また、超臨界二酸化炭素を溶解槽642に導入することにより、導入シリンダー627までの配管領域も加圧した。なお、後述する可塑化計量工程における超臨界二酸化炭素、アミド基を有する物質及び有機金属錯体を第1加熱シリンダー620内に導入する時以外では、溶解槽642から導入シリンダー627までの領域がシリンジポンプ641により一定圧力で保持されるように制御した。
次に、ホッパー626から第1加熱シリンダー624内に十分な量の樹脂ペレット(不図示)を供給し、第1スクリュー621の回転により、ペレット(第1熱可塑性樹脂:ポリカーボネート)を可塑化溶融した。なお、可塑化計量時には、第1スクリュー621の回転によりスクリュー前方の内圧が上昇して第1スクリュー621が後退するので、導入シリンダー627の下部に設けられた第1スクリュー621の第1ベント部623では、溶融した第1熱可塑性樹脂(以下では、第1溶融樹脂ともいう)が減圧(7MPa程度)される。
次いで、第1溶融樹脂が減圧された状態で、図15に示すように、導入シリンダー627内の導入ピストン628を上昇させて、高圧流体供給部602の溶解槽642と第1加熱シリンダー620の内部とを流通させ、アミド基を有する物質及び有機金属錯体を超臨界二酸化炭素を第1加熱シリンダー620の内部に導入し、第1溶融樹脂に浸透させた(図21中のステップS62)。この浸透工程中は、シリンジポンプ641を流量制御に切り替え、一定流量の超臨界二酸化炭素を一定時間、第1加熱シリンダー620内に注入した。また、この際、有機金属錯体はアミド基を有する物質とともに第1溶融樹脂に導入されるので、有機金属錯体がより効率よく第1溶融樹脂に浸透する。また、第1溶融樹脂に浸透した有機金属錯体の多くは、第1溶融樹脂の熱等によりメッキ用触媒(金属微粒子)に還元される。
また、この例では、可塑化軽量中に第1溶融樹脂に浸透した超臨界二酸化炭素をガス化しては排出シリンダー629を介して、第1加熱シリンダー620内部から高圧流体排出部603に排出した。具体的には、次のようにして超臨界二酸化炭素を排出した。
まず、可塑化計量時に第1スクリュー621の第2ベント部622で第1溶融樹脂を減圧し、浸透している超臨界二酸化炭素を臨界圧力以下に減圧してガス化した。この際、図15に示すように、排出シリンダー630内に設けられた排気ピストン630を上昇させて、第1加熱シリンダー620の内部と高圧流体排出部603とを流通させ、第1加熱シリンダー620内の第2ベント部622でガス化した二酸化炭素を排出シリンダー630を介して高圧流体排出部603に排出した。なお、アミド基を有する物質及び有機金属錯体の高圧二酸化炭素に対する溶解度は、二酸化炭素の圧力の低下とともに低下し、圧力が臨界点以下になるとアミド基を有する物質及び有機金属錯体はほとんど二酸化炭素に溶解しない。それゆえ、上述のように、第1溶融樹脂に浸透した超臨界二酸化炭素をガス化させると、第1溶融樹脂内で、超臨界二酸化炭素に溶解していたアミド基を有する物質及び有機金属錯体と、二酸化炭素とが分離する。その結果、アミド基を有する物質及び有機金属錯体を第1溶融樹脂に浸透させた状態で第1溶融樹脂内に残し、ガス化した二酸化炭素のみを排気させることができる。
次いで、高圧流体排出部603に排出された二酸化炭素をフィルタ654、バッファー容器654を通過させた後、減圧弁652で圧力計651が0.5MPaを示すように減圧し、真空ポンプ650により排気した。この例では、上述のようにして、第1加熱シリンダー620内で第1熱可塑性樹脂を可塑化軽量しながら、第1溶融樹脂にアミド基を有する物質及び有機金属錯体を浸透させるとともに、超臨界二酸化炭素をガス化して第1溶融樹脂から排出した。
なお、上述した第1加熱シリンダー620における第1熱可塑性樹脂の可塑化計量の工程の際には、ホッパー626から供給された樹脂ペレットは、導入された超臨界二酸化炭素、アミド基を有する物質及び有機金属錯体と混錬されながら可塑化溶融されるので、第1溶融樹脂内部には超臨界二酸化炭素、アミド基を有する物質及び有機金属錯体が均一に拡散した状態となる。また、第1加熱シリンダー620における可塑化計量の際には、第1加熱シリンダー620内で加圧された第1溶融樹脂がノズル部618の先端から金型610内へ漏れないようにするため、図15に示すように、第2加熱シリンダー624内部とノズル部618内の射出流路とがロータリーバルブ619内の流路を介して流通するように、ロータリーバルブ619の回転を調整して、第1加熱シリンダー620内部とノズル部618内とが流通しないようにした。
次いで、第1スクリュー621でアミド基を有する物質及び有機金属錯体が浸透した第1溶融樹脂660の可塑化計量が完了した時点で、図16に示すように、導入シリンダー627内の導入ピストン628及び排出シリンダー629内の排出ピストン630を下降させ、同時にシリンジポンプ641を流量制御から圧力制御に切り替え、高圧二酸化炭素の導入および排気を停止した。
次に、図17に示すように、第1加熱シリンダー620内部とノズル部618内の射出流路とが流通するように、すなわち、第1加熱シリンダー620内部と金型610内のキャビティ616とが流通するように、ロータリーバルブ619を回転させた。次いで、第1加熱シリンダー620の第1スクリュー621を前進させて、可塑化計量された第1溶融樹脂660を金型610内のスプール及びキャビティ616に射出した(図21中のステップS63:図17及び18の状態)。なお、図18の状態は、第1溶融樹脂660の射出充填が完了する直前の状態を表しており、図18に示すように、この例では、射出する第1溶融樹脂660の量は、キャビティ616内が全て充填されない程度の量に調整した。
一方、第2加熱シリンダー624では、上記第1溶融樹脂の射出中に、図示しないホッパーより樹脂ペレット(第2熱可塑性樹脂:ポリカーボネート)を第2加熱シリンダー624内に供給して、第2スクリュー625の回転により可塑化計量を行った。この際、第2加熱シリンダー624では、アミド基を有する物質及び有機金属錯体を導入せずに樹脂ペレットを可塑化溶融した(以下では、第2加熱シリンダー624内で可塑化溶融された樹脂を第2溶融樹脂ともいう)。そして、第1溶融樹脂660の射出充填が完了する直前に、第2溶融樹脂661の可塑化計量を完了させた(図18の状態)。なお、この例では、第1熱可塑性樹脂及び第2熱可塑性樹脂に同じ材料を用いたが、本発明はこれに限定されず、第1熱可塑性樹脂及び第2熱可塑性樹脂に異なる材料で形成してもよい。
次に、第1溶融樹脂の射出充填が完了した後、図19に示すように、第2加熱シリンダー624内部とノズル部618内の射出流路とが流通するように、すなわち、第2加熱シリンダー624内部と金型610内のキャビティ616とが流通するように、ロータリーバルブ619を回転させた。次いで、第2スクリュー625を前進させて、第2溶融樹脂を金型610内のスプール及びキャビティ616に射出した(図21中のステップS64:図19の状態)。この際、先にキャビティ616に充填されていた第1溶融樹脂は第2溶融樹脂の充填圧力により、キャビティ616を画成する金型表面に押しやられる。その結果、図20に示すように、第2溶融樹脂の射出完了後には、成形品の表面層(外皮)には、アミド基を有する物質及び有機金属錯体(金属微粒子)が分散した第1溶融樹脂の層が形成され、成形品の内部にはアミド基を有する物質及び有機金属錯体を含有しない第2溶融樹脂からなるコア部が形成される。
次いで、射出充填された溶融樹脂を冷却固化した後、金型610を開き成形品(ポリマー基体)を取り出した。次いで、実施例1と同様にして、ポリマー基体をエタノール中で1分間超音波洗浄した。この例では、上述したサンドイッチ成形により、アミド基を有する物質及び有機金属錯体(金属微粒子)が表面に分散しポリマー基体を得た。
次に、上記手順で成形及びメッキ前処理されたポリマー基体に対して、実施例1と同様にして無電解メッキを施し、ポリマー基体表面にメッキ膜(ニッケル膜)を形成した(図21中のステップS65)。上述のようにして、この例では、表面にメッキ膜が形成されたフィルム状のポリマー基体(熱可塑性樹脂製成形品)を得た。
上述のように、本実施例のポリマー基体の製造方法では、アミド基を有する物質及び有機金属錯体を超臨界二酸化炭素とともに加熱シリンダー内の溶融樹脂に浸透させるだけでポリマー基体の表面に十分な量のメッキ用触媒(金属微粒子)を含浸させることができるので、従来のように有機金属錯体をメッキ用触媒に還元する処理(触媒活性化処理)を行わなくても良い。それゆえ、本実施例のポリマー基体の製造方法では、有機金属錯体からメッキ用触媒を還元するための工程を行う必要がないので、プロセスを簡略化することができる。さらに、本実施例のポリマー基体の製造方法では、ポリマー基体のサンドイッチ成形時に、ポリマー基体の表面改質処理及び触媒核付与処理を同時に行うことができるので、より一層プロセスを簡略化することができる。
さらに、本実施例のポリマー基体の製造方法で、サンドイッチ成形時に、有機金属錯体を溶融樹脂に浸透させることができるので、サンドイッチ成形可能な様々な種類の樹脂材料に対して容易にメッキ用触媒を浸透させることができる。
なお、上記実施例5〜7では、成形工程時にアミド基を有する物質及び有機金属錯体を溶融樹脂に浸透させる例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、実施例5〜7のポリマー基体の製造方法において、成形工程時には、アミド基を有する物質のみを高圧流体とともに溶融樹脂に浸透させてポリマー基体を成形し、その後、実施例1〜3で説明したメッキ前処理方法のように、有機金属錯体を溶解した高圧流体を成形されたポリマー基体表面に接触させて有機金属錯体(メッキ用触媒)をポリマー基体表面に浸透させても良い。
実施例8では、実施例4と同様にして、実施例5〜7で作製した表面にメッキ膜が形成されたポリマー基体に対してテープ剥離試験を行い、メッキ膜の品質を評価した。また、実施例5〜7で作製した表面にメッキ膜が形成されたポリマー基体の内部部分析も、実施例4と同様にして行った。
[テープ剥離試験]
実施例5〜7で作製した表面にメッキ膜が形成されたポリマー基体に対して行ったテープ剥離試験の結果を表3に示した。
表3から明らかなように、実施例5〜7で作製したポリマー基体では、表2に示した実施例1〜3で作製したポリマー基体のテープ剥離試験の結果と同等の結果が得られ、密着性の良好なメッキ膜が形成されていることが分かった。すなわち、実施例5〜7のように、成形工程時に、ポリマー基体の表面改質処理及び触媒核付与処理を同時に行った場合においても、アミド基を有する物質を有機金属錯体と一緒にポリマー基体に浸透させることにより、メッキ膜の密着性が向上することが分かった。
[ポリマー基体の内部分析]
実施例5〜7で作製した表面にメッキ膜が形成されたポリマー基体に対して行った内部元素分析の結果を表4に示した。
表4から明らかなように、実施例5〜7で作製したポリマー基体では、実施例1〜3で作製したポリマー基体と同様に、窒素Nがポリマー基体の表面近傍で検出された。これは、ε−カプロラクタム(アミド基を有する物質)の溶解した超臨界二酸化炭素をポリマー基体に接触させたことにより、ポリマー基体の表面近傍の領域にアミド基が浸透したためであると考えられる。
また、表4から明らかなように、実施例5〜7で作製したポリマー基体においても、実施例1〜3で作製したポリマー基体と同様に、ポリマー基体の方が表面近傍でより多くのPd(メッキ用触媒)が存在することが確認された。また、表2に示した比較例1及び2と比べても明らかなように、実施例5〜7で作製したポリマー基体においても、成形工程において、アミド基を有する物質を溶解した超臨界二酸化炭素をポリマー基体の溶融樹脂に接触させることにより、より多くの有機金属錯体(メッキ用触媒)をポリマー基体に含浸させることができることが分かった。
上記実施例1〜3及び5〜7では、高圧流体として超臨界二酸化炭素を用いた例を説明したが、本発明はこれに限定されず、亜臨界二酸化炭素、液体二酸化炭素または二酸化炭素ガスを用いてもよい。この場合にも、上記実施例1〜3及び5〜7と同様の効果が得られる。
本発明のポリマー基体のメッキ前処理方法、メッキ方法及び製造方法では、アミド基を有する物質を溶解した高圧流体をポリマー基体(または溶融樹脂)に接触させてアミド基を浸透させることにより、有機金属錯体に含まれたメッキ触媒核を多様な種類のポリマー基体表面に効率よく浸透させることができる。これにより、ポリマー基体の種類に関係無く、より容易に密着力の高いメッキ膜をポリマー基体表面に形成することができる。それゆえ、本発明のポリマー基体のメッキ前処理方法、メッキ方法及び製造方法は、より広範囲で適用可能なメッキ前処理方法、メッキ方法及び製造方法であり、低コストで密着力の高いメッキ膜をポリマー基体表面に形成するためのメッキ前処理方法、メッキ方法及び製造方法としても好適である。
図1は、実施例1におけるポリマー基体のメッキ前処理方法の手順を説明するためのフローチャートである。
図2は、実施例1で用いた高圧装置の概略構成図である。
図3は、実施例2におけるポリマー基体のメッキ前処理方法の手順を説明するためのフローチャートである。
図4は、実施例3で用いたメッキ前処理装置の概略構成図である(射出成形前)。
図5は、実施例3で用いたメッキ前処理装置の概略構成図である(射出成形後)。
図6は、ポリマー基体とメッキ膜との結合状態の様子を表わした模式図であり、図6(a)は、化学エッチングで表面を粗化してメッキ触媒を付与した場合の図であり、図6(b)は、ポリマー基体表面を改質して、化学結合によりポリマー基体上にメッキ触媒を付与した場合の図であり、図6(c)は、本発明のメッキ前処理方法を用いた場合の図である。
図7は、従来のメッキ前処理方法の手順を説明するための図である。
図8は、実施例5で用いた成形装置の概略構成図である。
図9は、溶融樹脂の射出充填時の様子を示した図であり、図9(a)は、初期充填時の様子を示した図であり、図9(b)は、充填完了時の様子を示した図である。
図10は、実施例5におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するためのフローチャートである。
図11は、実施例6で用いた成形装置の概略構成図である。
図12は、図11中の矢印A方向から見たダイ近傍の模式図である。
図13は、実施例6におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するためのフローチャートである。
図14は、実施例7で用いた成形装置の概略構成図である。
図15は、実施例7におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するための図である。
図16は、実施例7におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するための図である。
図17は、実施例7におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するための図である。
図18は、実施例7におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するための図である。
図19は、実施例7におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するための図である。
図20は、実施例7におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するための図である。
図21は、実施例7におけるポリマー基体の製造方法の手順を説明するためのフローチャートである。
符号の説明
21 ポリマー基体
22 メッキ膜
23 メッキ用触媒
100 高圧装置
400,500,600 成形装置
401 射出成形機部
402,502,602 高圧流体供給部
501 押し出し成形機部
601 サンドイッチ成形機部
603 高圧流体排出部