以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本明細書において、送信側の無線局とマルチパス伝送路と受信側の無線局とによってパスダイバーシチのためのシステムを構成している無線伝送システムのことを、耐マルチパス性を発揮する変復調方式を用いてデータを送受信することができるシステムと定義する。パスダイバーシチのためのシステムの例としては、(1)送信側の無線局においてスペクトル拡散方式(たとえば、DSSS方式、FHSS方式、THSS方式)を用いてデータが変調され、受信側の無線局においてスペクトル拡散方式を用いてデータが復調されるシステム、(2)送信側の無線局においてOFDM方式を用いてデータが変調され、受信側の無線局においてOFDM方式を用いてデータが復調されるシステム、(3)送信側の無線局において耐マルチパス変調方式(たとえば、PSK−VP方式、PSK−RZ方式、DSK方式)を用いてデータが変調され、受信側の無線局において耐マルチパス変調方式に対応する復調方式を用いてデータが復調されるシステム、(4)送信側の無線局においてシングルキャリア変調方式(たとえば、PSK方式、QAM方式)を用いてデータが変調され、受信側の無線局において等化器を用いてデータが復調されるシステムを想定する。なお、本発明において、パスダイバーシチのためのシステムは、上記の例に限定されるものではなく、将来出現するパスダイバーシチのためのシステムも、本発明の範囲に含まれる。
(第1の実施形態)
図1Aは、本発明の第1の実施形態に係る無線伝送システムの構成の一例を示す図である。図1Aにおいて、無線伝送システムは、無線局である管理局1〜3と、無線局である端末局10−1〜10−n、20−1〜20−n及び30−1〜30−nとを備える。図1Bは、図1Aに示す管理局1〜3及び端末局の位置関係を示す図である。
管理局1〜3は、それぞれ通信エリアE1〜E3を形成し、各通信エリア内に存在する端末局と無線を介して接続されている。管理局1〜3は、各通信エリア内に存在する端末局に対して、チャネル割り当てなどを行う。なお、通信エリアE1〜E3は、管理局1〜3が単局でパケットを送信する場合(単局送信)の通信エリアを示す。通信エリアE1には、端末局10−1〜10−nが存在し、通信エリアE2には、端末局20−1〜20−nが存在する。また、通信エリアE3には、端末局30−1〜30−nが存在する。なお、各端末局10−1〜10−n、20−1〜20−n及び30−1〜30−nを特に区別する必要がない場合、端末局11と総称する。また、端末局と管理局とを特に区別する必要がない場合、無線局と総称する。
管理局1〜3及び端末局11は、受信側において復調されることによって耐マルチパス性を発揮する変復調方式を用いてパケットを送受信する。
本実施形態では、耐マルチパス性を有する変復調方式として、PSK−VP方式を用いてデータを送信する場合を例に説明する。
管理局1〜3は、ネゴシエーション区間(以下、ネゴ区間と呼ぶ)において、システム間調停(以下、ネゴシエーションと呼ぶ)し、エリア間におけるチャネル干渉を回避する。ネゴ区間は、共通チャネル上に定期的に設けられている区間である。具体的には、管理局1〜3は、管理局1〜3間で共通に用いられる共通チャネルを用い、通信に先立ち、互いに自局エリアで使用するチャネル情報や、自局ID、自局が管理する端末局ID、システムを同期させるためのビーコン情報などの情報を含む通信可能な状態を確立するためのネゴシエーションパケット(以下、チャネル情報パケットと呼ぶ)を送受信する。なお、チャネル情報パケットは、上述したチャネル情報や自局IDなどの情報を全て含んでいる必要はなく、1つの情報のみを含んでいてもよい。共通チャネルは、システムを制御するためのチャネルであり、一般的な無線伝送システムにおいて用いられるシステム制御用の共通チャネルと同様である。また、共通チャネルは、一般的なデータ伝送に用いられてもよい。チャネル情報パケットを受信した管理局は、チャネル情報パケットを正常に受信できたことを周囲に通知する応答パケットを生成し、チャネル情報パケットの送信元の管理局に送信する。なお、応答パケットはネゴ区間において送受信されるパケットであるので、ネゴシエーションパケットである。
なお、本実施形態では、管理局同士は、FDMAシステムの周波数チャネルを用いて通信するものとして説明するが、TDMAシステムのタイムスロット、CDMAシステムなどの拡散コードを用いてもよい。
また、本実施形態では、管理局は、自局が管理する端末局同士が通信する場合に常に介在する集中制御局であるものとして説明する。ただし、管理局が有する機能はこれに限られず、例えば、管理局は他のシステムとのネゴシエーションや、他のシステムへのデータの中継のみを行い、同じ管理局下に存在する端末同士は管理局を介さずに通信することとしてもよい。また、管理局は、最初から決まっている必要はなく、例えば、1つの無線システムを構成する無線局(例えば、図1の無線局10−1、無線局10−n、無線局1)のうち、管理局になり得る機能を有する無線局が管理局となることを宣言することで決めればよい。なお、1つの無線システム内に管理局になり得る機能を有する無線局が複数ある場合には、例えば、最初に管理局となることを宣言した無線局が管理局となればよい。
管理局1〜3は、自局が形成する通信エリア内に、新たにシステムを構築する管理局が発生し、パケットの中継送信が可能な管理局の数が2つ以上になると、パケットの複局同時送信が可能であると判断する。管理局1〜3は、他の管理局がパケットを中継送信する際にパケットに与えるべき遅延量を複数の候補値から選択して決定する。そして、管理局1〜3は、複局同時送信が可能な他の管理局に決定した遅延量を通知する。このとき、管理局1〜3が決定する複数の遅延量は、各遅延量の差が所定の遅延分解能以上になり、かつ、複数の遅延量の内の最大値と最小値との差が所定の遅延上限以下になるように設定されている。所定の遅延分解能及び所定の遅延上限は、それぞれ、受信側においてパスダイバーシチによる効果が得られる値、すなわち、受信側の無線局が複数の遅延波をパスダイバーシチ受信することができる値に設定されている。以下、管理局1〜3が、パケットを複局同時送信する他の管理局がパケットに与えるべき遅延量を通知するために生成して送信するパケットを、遅延量通知パケットと呼ぶ。
また、管理局1〜3は、他の管理局又は端末局から受信したパケットが中継送信する必要があるパケット(以下、ブロードキャストパケットと呼ぶ)である場合、ブロードキャストパケットを送信する基準となるタイミング(以下、基準タイミングと呼ぶ)から、他局から通知されてきた遅延量だけ遅延させたタイミングを送信開始タイミングとする。そして、管理局1〜3は、送信開始タイミングになると、ブロードキャストパケットを中継送信する。これにより、複局同時送信時に、任意の受信点において適度な到来時間差を持つマルチパスを発生させることができるため、ブロードキャストパケットを受信する無線局(以下、受信局と呼ぶ)において、パスダイバーシチによる効果を確実に得ることができる。
図2は、本システムにおいて送受信されるパケットの構成例を示す図である。図2に示すパケットは、プリアンブル(PR)と、ユニークワード(UW)と、パケット識別子と、宛先局アドレスと、送信元アドレスと、送信元管理局アドレスと、情報データと、CRCとからなる。
プリアンブルは、利得制御やクロック再生、周波数制御等のために用いられる。ユニークワードは、フレーム種別の判定や、フレーム同期に用いられる。送信元アドレスは、パケットの送信元である無線局のアドレスである。宛先局アドレスは、パケットの送信先である無線局のアドレスである。送信元管理局アドレスは、他の管理局に複局同時送信させるためのパケットを送信する管理局のアドレスが記録されるためのものである。本実施形態では、送信元管理局アドレスとして、送信元管理局のIDが記録されるものとして説明する。以下、複局同時送信が可能な管理局のうち、最も早くパケットを受信した管理局のIDを送信元管理局IDと呼ぶ。情報データは、送信すべきデータの本体である。パケット識別子は、パケットを識別するために用いられる。CRCは、CRC(Cyclic Redundancy Check)符号であって、誤り検出に用いられる。
図3A及びBは、本実施形態におけるマルチホップ伝送の一例を示す図である。図3A及びBにおいて、管理局1〜3は、パスダイバーシチ効果が発揮できる到来時間差(τ)に比べ、伝搬時間が無視できる程近傍に位置している。また、管理局1〜3は、互いの通信エリアの中に位置している。図4A〜Cは、図3Aにおいて送受信されるパケットの構成を示す図である。
図3Aは、パケットの送信元である端末局10−1が、端末局20−n宛てのブロードキャストパケットを送信した場合のパケットの流れを示す図である。端末局10−1は、図4Aに示すパケットを生成して送信する。ここで、パケット識別子は、0が中継不要パケット、1がブロードキャストパケット、2がチャネル情報パケット、3が応答パケット、4が遅延量通知パケットを示すものとする。この場合、端末局10−1が生成するパケットの識別子には、当該パケットがブロードキャストパケットであることを示す「1」が記録される。また、宛先局アドレスには、パケットの宛先である端末局20−nのアドレスが記録され、送信元アドレスには、端末局10−1のアドレスが記録される。また、端末局10−1がパケットを送信する時点では、パケットは、まだ管理局によって中継送信されていないため、送信元管理局アドレスには「0」が記録される。
管理局1は、端末局10−1から送信されてきたパケットを受信すると、図4Bに示すブロードキャストパケットを生成して送信する。図4Bは、管理局1が送信するパケットの構成を示す図である。管理局1は、端末局10−1から送信されてきたパケットの送信元管理局IDを、自局のIDに書き換えて送信する。管理局2及び3は、管理局1から送信されてきたブロードキャストパケットを受信すると、当該ブロードキャストパケットを中継送信する。図4Cは、このとき管理局2及び3が送信するパケットの構成を示す図である。このように、1つの管理局(ここでは、管理局1)から送信されたブロードキャストパケットは、複数の管理局(ここでは、管理局2及び3)によって複局同時送信される。管理局2及び3が複局同時送信したブロードキャストパケットは、宛先局である端末局20−nで受信される。
なお、システムによっては、端末局10−1において、宛先局までパケットを伝送するために、中継が必要か否かを判断することができない場合がある。このような場合、端末局10−1は、パケット識別子を「0」としてパケットを送信することとしてもよい。この場合、端末局10−1からのパケットを受信した管理局1は、パケットに含まれる宛先局アドレスを認識して中継の要否を判定し、中継が必要な場合にパケット識別子を「1」に書き換えて中継伝送すればよい。
本実施形態に係る無線伝送システムでは、先に述べたネゴ区間において遅延量通知パケットを送信する。これにより、管理局2及び3がブロードキャストパケットを複局同時送信した場合に、任意の受信点に適度な到来時間差を持つマルチパスが到来する。したがって、パスダイバーシチ効果により、単局送信時に比べて、同じ伝送特性が得られる通信エリアを拡大することができる。管理局2及び3が複局同時送信する場合の通信エリアは、図3Aに示す通信エリアE23に相当する。このように、単局送信時の通信エリアE1〜E3に比べ、複局同時送信することによって、通信エリアを拡大することができる。したがって、図3Aに示すように、宛先端末局20−nが管理局2の単局エリアE2外に移動してしまった場合でも、端末局20−nは、パケットを正常に受信することができる。
なお、本実施形態に係る無線伝送システムでは、図3Bに示すように、管理局1自身が送信元として送信したブロードキャストパケット(例えば、エリアE1で使用する、あるいは使用しようとしているチャネルの情報などを含むパケット)が、管理局2及び3によって、複局同時送信される場合もある。また、例えば、管理局1〜3が共有する情報を、管理局1〜3が所定の周期で複局同時送信する場合もある。共有する情報とは、例えば、各エリアで使用されるチャネルの情報や、各エリアに位置する端末局のID、システムを同期させるためのビーコン情報などである。
図3Bの場合も図3Aと同様に、管理局1が送信したパケットは、管理局2及び3によって複局同時送信され、適度な到来時間差で管理局9で受信される。したがって、単局エリア外に他の無線システムを構築しようとする管理局9が発生した場合、当該他の無線システムを管理する管理局9が図3Bのように通信エリアE23内に位置すれば、管理局9は、管理局1のチャネル情報などを正常に受信することができる。
図5は、管理局1の機能的構成例を示すブロック図である。図5に示すように、管理局1は、アンテナ31、RF部32、復調部33、パケット判定部34、自局パケット処理部35、遅延量決定部36、送信タイミング制御部38、送信パケット処理部40、変調部41及びテーブル格納部42を備える。なお、管理局2及び3も、管理局1と同様の構成を有する。
パケット判定部34は、復調部33によって復調された復調データ中に含まれるCRC符号などの誤り検出符号を用いて、パケットを正常に受信することができたか否かを判断する。パケットを正常受信できた場合、パケット判定部34は、パケット中に含まれるパケット識別子と、宛先局アドレスと、送信元アドレスと、送信元管理局IDとを解析する。
受信したパケットがチャネル情報パケットである場合、パケット判定部34は、送信パケット処理部40に、復調データ中に含まれる送信元アドレスを応答先の管理局のアドレスとして通知し、応答パケットを生成するよう指示する。また、パケット判定部34は、応答パケットの送信開始タイミングを決定するよう送信タイミング制御部38に通知する。
受信したパケットが応答パケットである場合、パケット判定部34は、応答パケットに含まれる送信元アドレス(管理局ID)を周辺局情報として遅延量決定部36に渡す。また、受信したパケットが遅延量通知パケットである場合、パケット判定部34は、遅延量通知パケットを遅延量決定部36に渡す。受信したパケットがブロードキャストパケットである場合、パケット判定部34は、ブロードキャストパケットの受信が完了したことを示す受信完了信号を生成し、送信元管理局ID及びパケット識別子と共に受信完了信号を送信タイミング制御部38に渡す。また、このとき、パケット判定部34は、ブロードキャストパケット中のUW以降のデータを中継データとして送信パケット処理部40に渡し、中継送信するためのブロードキャストパケットを生成するよう指示する。また、受信したパケットが自局宛のパケットである場合、パケット判定部34は、復調データを自局パケット処理部35に渡す。
自局パケット処理部35は、パケット判定部34から受け取った自局宛パケットに対する処理を行う。
遅延量決定部36は、後述する応答区間の終了時刻までに通知された周辺局情報を元に、自局が送信したブロードキャストパケットの中継送信が可能な管理局のID及び数を認識する。中継送信が可能な管理局数が複数の場合、すなわち、複局同時送信可能な管理局が存在する場合、遅延量決定部36は、複局同時送信可能な管理局の数に応じて、各管理局に割り当てる遅延量を決定する。そして、遅延量決定部36は、決定した遅延量を遅延量記録テーブル37に記録すると共に、決定した遅延量を宛先アドレスと共に送信パケット処理部40に渡す。また、遅延量決定部36は、遅延量通知パケットを受け取ると、自局及び他局に割り当てられた遅延量を抽出して遅延量記録テーブル37に記録する。
送信タイミング制御部38は、基準タイミングと、遅延量記録テーブル37に記録されている遅延量とに基づいて、ブロードキャストパケットを送信するタイミングを制御する。具体的には、送信タイミング制御部38は、パケット判定部34から受信完了信号を受け取ってから所定時間経過後を基準タイミングとし、当該基準タイミングから遅延量だけ遅延させたタイミングを、ブロードキャストパケットを中継送信する際の送信開始タイミングとする。そして、送信タイミング制御部38は、送信開始タイミングになると、送信開始を指示するための送信開始信号を生成して変調部41に渡す。また、送信タイミング制御部38は、応答パケットの送信をパケット判定部34から通知されると、所定の応答区間において、ランダムなタイミングで送信開始信号を生成し、変調部41に渡す。
送信パケット処理部40は、定期的に設けられたネゴ区間において、図示しない制御部から自局が管理する端末局IDや自局エリアで使用するチャネル情報などを含む自局データを受け取り、自局データに所定のヘッダ(プリアンブルやユニークワード)やフッダ(CRC符号など)を付加したチャネル情報パケットを生成し、保持する。また、送信パケット処理部40は、遅延量決定部36から遅延量及び宛先アドレスを受け取ると、宛先アドレスと遅延量に所定のヘッダやフッダを付加した遅延量通知パケットを生成し、保持する。また、送信パケット処理部40は、パケット判定部34から中継データを受け取ると、中継データに所定のヘッダを付加し、ブロードキャストパケットを生成し、保持する。また、送信パケット処理部40は、パケット判定部34から応答パケットを生成するよう指示を受けると、応答パケットを生成し、保持する。
テーブル格納部42は、遅延量記録テーブル37を格納する。遅延量記録テーブル37には、他の管理局から通知された遅延量と、自局が送信元管理局となる場合に他の管理局に割り当てるべき遅延量とが記録される。
変調部41は、送信パケット処理部40によって生成されたパケット中の送信データで変調した変調ベースバンド信号を生成し、出力する。図6は、PSK−VP方式を用いて通信する場合における変調部41の構成を示すブロック図である。図6において、変調部41は、読み出し制御部45と、波形出力部46と、D/A変換器47とを有する。
読み出し制御部45は、ベースクロックで動作するカウンタで構成されている。読み出し制御部45は、送信開始信号を受け取ると、カウンタ値に基づいて、送信データを読み出すためのデータ読み出しクロックと、変調波形のデータを読み出すためのアドレスを示すアドレス信号とを生成する。読み出し制御部45は、生成したデータ読み出しクロックを送信パケット処理部40に渡し、送信パケット処理部40から読み出した送信データのビット列を内部に有するL段(Lは自然数)のシフトレジスタに入力し、Lビットのデータをアドレス信号として波形出力部46に渡す。
送信パケット処理部40は、受け取ったデータ読み出しクロックに同期して、送信データを読み出して変調部41の読み出し制御部45に渡す。
波形出力部46は、受け取ったアドレス信号に基づいて、送信データに応じた変調波形データを内部の波形メモリから読み出す。具体的には、波形出力部46は、送信データのあらゆるLビットのパターンにより決まるPSK−VP変調信号のベースバンド波形を予め計算する。また、波形出力部46は、波形データとして、前述のLビットのパターンで表されるアドレスに格納している読み出し専用メモリ(ROM)を有している。波形出力部46は、アドレス信号で指定されたアドレスに格納されている波形データを変調波形データとして出力する。
D/A変換器47は、波形出力部46から入力された変調波形データをアナログ信号に変換し、変調ベースバンド信号として出力する。
以上のように、変調部41は、送信開始信号を受け取ると、変調波形を波形メモリから読み出すためのアドレス信号を生成する。これにより、変調ベースバンド信号を出力するタイミングは、送信開始信号を受け取ったタイミングに応じてベースクロック単位で変化する。また、ベースクロックは、通常、シンボル周波数(シンボル長の逆数)の数倍から十数倍の周波数が用いられることが多い。したがって、シンボル長の数分の1から十数分の1の単位で、変調ベースバンド信号を出力するタイミングを調整することができる。
なお、図6では、PSK−VP方式を用いる場合について説明したが、他の変調方式(例えば、PSK−RZ方式やDSK方式)を用いて信号を変調する場合、波形メモリに格納する変調波形のデータを変更すればよい。
RF部32は、変調部41から出力される変調ベースバンド信号を周波数変換し、アンテナ31から無線信号として送信する。また、RF部32は、アンテナ31が受信したRF帯の受信信号をベースバンド信号に変換し、受信ベースバンド信号として出力する。
復調部33は、受信ベースバンド信号を復調し、復調データとして出力する。図7は、PSK−VP方式を用いて通信する場合における復調部33の構成を示すブロック図である。復調部33は、検波部51と、検波後フィルタ52と、データ判定部53とを含む。
検波部51は、受信局12のRF部32から出力されるベースバンド信号を検波する。検波後フィルタ52は、検波信号を低域ろ波する。データ判定部53は、検波後フィルタ52から出力される信号を判定し、復調データを得る。
図8は、以上のように構成される管理局1〜3の動作の概要を示すシーケンス図である。まず、管理局1が送信するチャネル情報パケットは、管理局2及び3によって受信される。管理局2及び3は、管理局1に応答パケットを送信する。管理局1は、応答パケットを受信すると、管理局1が送信元管理局となるブロードキャストパケットを、管理局2及び3が複局同時送信する際の各管理局の遅延量を決定する。そして、管理局1は、決定した遅延量を通知するための遅延量通知パケットを生成して、管理局2及び3に送信する。このように、チャネル情報パケットは、複局同時送信を要求するための複局同時送信要求パケットと言える。
図9は、図5に示す管理局1の既存周辺管理局探索モードにおける動作を示すフローチャートである。管理局1は、電源投入時など、新たにシステムの構築を開始する際(既存周辺管理局探索モード時)、パケットの受信を所定時間待ち、中継送信が可能な管理局(以下、周辺管理局と呼ぶ)が存在するか否かを判断する。管理局1は、パケットの受信を所定時間待つための待機タイマーをリセットし(ステップS31)、受信状態で待機する(ステップS32)。
そして、所定時間が経過するまでの間に(ステップS34においてNo)、パケットを受信すると(ステップS33においてYes)、管理局1は、受信したパケットを復調する(ステップS35)。具体的には、復調部33は、アンテナ31で受信され、RF部32で周波数変換された受信ベースバンド信号を復調し、復調データとする。
パケット判定部34は、復調データにCRCチェックを施し、パケットを正常に受信できたか否かを判断する(ステップS36)。パケットを正常に復調することができない場合、管理局1は、再び受信状態で待機する(ステップS32)。一方、パケットを正常に復調することができた場合、パケット判定部34は、受信したパケットのパケット識別子を参照し、チャネル情報パケットであるか否かを判断する(ステップS37)。
パケットがチャネル情報パケットでない場合、管理局1は、再び受信状態で待機する(ステップS32)。一方、パケットがチャネル情報パケットである場合、パケットの送信元アドレス(送信元ID)を認識し、遅延量決定部36に渡す(ステップS38)。遅延量決定部36は、受け取った送信元IDを、自局よりも以前から存在する周辺管理局のID(以下、既存周辺管理局IDと呼ぶ)として保存する(ステップS39)。
一方、ステップS34において、所定時間が経過した場合、処理は図10のステップS51に進む。
図10は、既存周辺管理局探索モードが終了した後の管理局1の動作を示すフローチャートである。管理局1において、遅延量決定部36は、応答パケットの送信回数をゼロにし(ステップS51)、既存周辺管理局数が応答パケット送信回数よりも多いか否かを判断する(ステップS52)。既存管理局数が応答パケット送信回数よりも少ない場合、遅延量決定部36は、チャネル情報パケットを生成するよう、送信パケット処理部40に指示する。送信パケット処理部40は、チャネル情報パケットを生成して変調部41に渡す。変調部41は、チャネル情報パケットから変調信号を生成し、RF部32及びアンテナ31を介して送信する(ステップS53)。
そして、管理局1は、受信状態で待機し、他の管理局から応答パケットが送信されてくるのを待つ(ステップS54)。管理局1は、応答区間が終了するまで(ステップS61においてNo)、パケットを受信したか否かを判断する(ステップS55)。パケットを受信し(ステップS55においてYes)、受信したパケットを正常に復調できた場合、パケット判定部34は、受信したパケットが応答パケットであるか否かを判断する。受信したパケットが応答パケットである場合、遅延量決定部36は、応答パケットに含まれる送信元IDを周辺管理局IDとして保存する(ステップS56〜S60)。ステップS56〜S60の動作は、図9に示すステップS35〜S39の動作と同様であるため、詳細な説明を省略する。
一方、ステップS61において、応答区間が終了し、応答パケットの受信待ち時間が経過すると、遅延量決定部36は、応答パケット送信回数をゼロにする(ステップS62)。そして、遅延量決定部36は、中継可能局数が2以上であるか否かを判断する(ステップS63)。具体的には、遅延量決定部36は、応答区間に応答があった周辺管理局の数(以下、中継可能局数と呼ぶ)を、応答区間に保存した周辺管理局IDの数から判断する。中継可能局数が2つ未満であった場合(ステップS63においてNo)、管理局1は処理を終了する。
一方、中継可能局数が2つ以上であった場合(ステップS63においてYes)、遅延量決定部36は、ブロードキャストパケットを中継可能な管理局に割り当てる遅延量を決定し、遅延量記録テーブル37に記録するとともに、中継可能局のIDと、決定した遅延量とを送信パケット処理部40に渡し、遅延量通知パケットを生成するよう指示する(ステップS64)。
送信パケット処理部40は、遅延量通知パケットを生成して変調部41に渡す(ステップS65)。変調部41は、遅延量通知パケットから変調信号を生成し、RF部32及びアンテナ31を介して送信する(ステップS66)。遅延量決定部36は、応答区間に保存した周辺管理局IDの数と、既存周辺管理局探索モード時に得た既存周辺管理局IDの数とを比較して、自局よりも後に発生した管理局(後発周辺管理局)の数を認識し、後発周辺管理局の数が応答パケット送信回数よりも多いか否かを判断する(ステップS67)。後発周辺管理局の数が応答パケット送信回数よりも少ない場合(ステップS67においてNo)、管理局1は、処理を終了する。一方、後発周辺管理局の数が応答パケット送信回数よりも多い場合(ステップS67においてYes)、管理局1は、図12に示すステップS81の動作に進む。
一方、ステップS52において、既存周辺管理局数が応答パケット送信回数よりも多い場合、管理局1は、図11に示すステップS81の動作に進む。
図11は、既存周辺管理局の数が応答パケットの送信回数よりも多い場合における管理局1の動作を示すフローチャートである。管理局1は、待機タイマーをリセットし(ステップS81)、チャネル情報パケットの待ち時間が経過するまで(ステップS94においてNo)、パケットの受信を待つ(ステップS82)。パケットを受信すると(ステップS83においてYes)、復調部33がパケットを復調し(ステップS84)、パケット判定部34が復調データにCRCチェックを施す。パケットを正常に受信できた場合(ステップS83)、パケット判定部34は、パケットのパケット識別子を参照し、受信したパケットがチャネル情報パケットであるか否かを判断する(ステップS86)。受信したパケットがチャネル情報パケットでない場合、管理局1は再び待機状態に戻る(ステップS82)。
一方、受信したパケットがチャネル情報パケットである場合、パケット判定部34は、送信元管理局IDを認識して(ステップS87)、遅延量決定部36に渡す。遅延量決定部36は、受け取った送信元管理局IDが既に保存している既存周辺管理局IDと一致しているか否かを判断する(ステップS88)。送信元管理局IDが一致しない場合には再び受信待機状態に戻るが(ステップS82)、送信元管理局IDが一致した場合、遅延量決定部36は、送信パケット処理部40に応答パケットを生成するよう指示する。
送信パケット処理部40は、応答パケットを生成して保存する(ステップS89)。一方、送信タイミング制御部38は、ランダムなタイミングで送信開始信号を生成し、変調部41に渡す(ステップS90)。変調部41は、送信開始信号を受け取ると、応答パケットの送信データを読み出して変調信号を生成する。変調部41によって生成された変調信号は、RF部32及びアンテナ31を介して無線信号として送信される(ステップS91)。
そして、遅延量決定部36は、応答パケット送信回数を1つ増加させる(ステップS92)。そして、管理局1は、応答区間の終了時刻まで待機し(ステップS93)、図10に示すステップS52の動作に戻る。
一方、チャネル情報パケットの待ち時間が経過しても既存周辺管理局からのチャネル情報パケットを受信できなかった場合(ステップS94においてYes)、遅延量決定部36は、保存している既存周辺管理局数を1つ減らす(ステップS95)。そして、管理局1は、図10に示すステップS52の動作に戻る。
図12は、後発周辺管理局の数が応答パケットの送信回数よりも多い場合における管理局1の動作を示すフローチャートである。図12のステップS88において、遅延量決定部36は、受け取った送信元管理局IDが既に保存している周辺管理局IDと一致しているか否かを判断し、送信元管理局IDが一致しない場合にはステップS82に戻り、一致する場合には送信パケット処理部40に応答パケットを生成するよう指示する。その他、図12におけるステップS81〜S94の動作は、図11と同一の符号を付したステップと同様であるため、説明を極力省略する。チャネル情報パケットの待ち時間が経過しても、既にIDを保存した周辺管理局からのチャネル情報パケットを受信できなかった場合(ステップS94においてYes)、遅延量決定部36は、保存している後発周辺管理局数を1つ減らす(ステップS101)。そして、管理局1は、図10に示すステップS67の動作に戻る。以上、図9〜図12のフローチャートを用いて、管理局1の動作について説明したが、管理局2及び3も管理局1と同様に動作する。
図13は、図10のステップS66において送信された遅延量通知パケットを受信した管理局2の動作を示すフローチャートである。まず、遅延量決定部36は、復調部33によって復調され(ステップS111)、パケット判定部34によって正常に受信できたと判断された(ステップS112においてYes)パケットが、遅延量通知パケットであるか否かを判断する(ステップS113)。受信したパケットが遅延量通知パケットである場合、遅延量決定部36は、パケットから遅延量を抽出し(ステップS114)、抽出した遅延量を遅延量記録テーブル37に記録する(ステップS115)。なお、図13において、管理局2の動作について説明したが、管理局1及び3も管理局2と同様に動作する。
図14は、図10〜図13の動作によって、各管理局に割り当てるべき遅延量が決定した後における、パケット受信時の管理局1の動作を示すフローチャートである。管理局1において、復調部33は、アンテナ31によって受信され、RF部32から出力される受信ベースバンド信号を復調し、復調データとする(ステップS131)。
パケット判定部34は、復調データにCRCチェックを施し、パケットを正常に受信できたか否かを判断する(ステップS132)。パケットを正常に復調することができない場合、管理局1は処理を終了する。一方、パケットを正常に復調することができた場合、パケット判定部34は、受信したパケットのパケット識別子を参照し、中継不要なパケットであるか否かを判断する(ステップS133)。
受信したパケットが中継不要なパケットである場合、パケット判定部34は、パケットの宛先アドレスを参照し、当該パケットが自局宛であるか否かを判断する(ステップS134)。パケットが自局宛でない場合、管理局1は処理を終了するが、パケットが自局宛である場合、パケット判定部34は、復調データを自局パケット処理部35に渡す。管理局1は、自局パケット処理部35で復調データに対して所定の処理を行い(ステップS135)、処理を終了する。
一方、ステップS133において、受信したパケットが中継不要なパケットでない場合、パケット判定部34は、パケット識別子を参照し、受信したパケットがブロードキャストパケットであるか否かを判断する(ステップS136)。受信したパケットがブロードキャストパケットでない場合、管理局1は処理を終了する。一方、受信したパケットがブロードキャストパケットである場合、パケット判定部34は、受信完了信号を生成し、パケットの識別子と共に送信タイミング制御部38に渡す(ステップS137)。
そして、パケット判定部34は、パケットの送信元IDを参照し、送信元管理局IDがゼロであるか否かを判断する(ステップS138)。送信元管理局IDがゼロでない場合、パケット判定部34は、送信元管理局IDを送信タイミング制御部38に出力する(ステップS140)。一方、送信元管理局IDがゼロである場合、パケット判定部34は、送信元管理局IDを自局IDに変換し(ステップS139)、変換したIDを送信元管理局IDとして送信タイミング制御部38に出力する(ステップS140)。
また、パケット判定部34は、復調データから図2のUW以降のデータをペイロードデータとして抽出し、必要に応じてペイロードデータ中の送信元管理局IDを自局IDに変換したペイロードデータを中継データとして、送信パケット処理部40に渡す(ステップS141)。送信パケット処理部40は、所定のヘッダを付加してブロードキャストパケットを生成し、保存する(ステップS142)。
送信タイミング制御部38は、受信完了信号を受け取ると、基準タイミングを決定する(ステップS143)。そして、遅延量決定部36は、遅延量記録テーブル37を参照し(ステップS144)、基準タイミングから、自局に割り当てられた遅延量だけ遅延させたタイミングを送信開始タイミングとして決定する(ステップS145)。送信タイミング制御部38は、送信開始タイミングになると、送信開始信号を生成して変調部41に渡す。
変調部41は、送信開始信号を受け取ると、ブロードキャストパケットの送信データを読み出して変調信号を生成する。変調部41によって生成された変調信号は、RF部32及びアンテナ31を介して無線信号として送信される(ステップS146)。
なお、図14において、管理局1の動作について説明したが、管理局2及び3も管理局1と同様に動作する。また、ステップS139において、送信元管理局IDを書き換えた場合、ブロードキャストパケットは単局送信されるため、送信タイミング制御部38は、所定の基準タイミングを送信開始タイミングとして、送信開始信号を生成してもよい。
図15A〜Cは、一つの無線システムが発生してから図1に示すシステム構成になるまでのネゴシエーションの手順の一例を示す図である。図16A〜Cは、一つの無線システムが発生してから図1に示すシステム構成になるまでの管理局1〜3及び端末局11の位置関係を示す図である。以下、図15A〜C及び図16A〜Cを参照して、図5に示す管理局1〜3がネゴシエーションし、各管理局に割り当てる遅延量を決定する手順について説明する。なお、図15A〜Cでは、既存周辺管理局探索モードにおいて管理局2及び3がチャネル情報パケットを受信する際の手順を示すパケットの図示を省略している。
まず、図16Aに示すように、無線伝送システムとして、管理局1の無線伝送システムしか存在しない場合、管理局1は、図10に示した手順でネゴ区間にチャネル情報パケットを送信する(図15A)。
次に、図16Bに示すように、管理局1の通信エリアE1内に、新たに無線伝送システムを構築して管理できる機能を有する管理局2が発生した場合、管理局2は、共通チャネルを所定期間観測し、図9に示す手順に従って既存周辺管理局を探索する。所定期間は、例えば、ネゴ区間の1周期時間以上である。その後、管理局2は、管理局1が送信したチャネル情報パケットを受信すると(図15B:B−11)、図11に示す手順に従い、チャネル情報パケットを正常に受信できたことを周囲に通知するための応答パケットを生成して所定の応答区間に送信する(図15B:B−12)。
管理局1は、応答区間に、管理局2から送信されてきた応答パケットを受信し、図10に示す手順で中継可能局数を認識する(図15B:B−12)。このとき、無線伝送システムに存在する管理局は、管理局1及び2の2つであるため、管理局1が応答区間内に受信する応答パケットは1つである。したがって、ブロードキャストパケットを中継送信する際に複局同時送信することはできないため、管理局1は、管理局2の送信タイミングを特に決めない。
この場合、管理局1から送信されたブロードキャストパケットは、管理局2で受信され、予めシステムで定めた所定の基準タイミング(T0)に、単純に単局で中継送信される。
管理局2は、管理局1から受信したチャネル情報パケットを元に、管理局1との干渉が生じないように、自局システムでの使用チャネルを決定する。そして、管理局2は、応答区間(B−11,12)終了後の所定時間後に、図10に示す手順で、チャネル情報パケットを送信する(図15B:B−21)。管理局1は、図12に示す手順に従い、管理局2が送信したチャネル情報パケットを受信すると(図15B:B−21)、応答区間に応答パケットを送信する(図15B:B−22)。管理局2は、応答区間に応答パケットを受信することによって(図15B:B−22)、管理局1が存在することを再認識する。その後、管理局1及び2は、定期的に設けられたネゴ区間においてチャネル情報パケット及び応答パケットを送受信する。
次に、図16Bから図16Cに示すように、管理局1及び2が形成する通信エリアE1及びE2内に、無線伝送システムを構築して管理できる機能を有する管理局3が新たに発生した場合について説明する。まず、管理局3は、共通チャネルを所定期間観測し、図9に示す手順に従って、既存周辺管理局を探索する。その後、管理局2及び3は、管理局1から送信されてきたチャネル情報パケットを受信する(図15C:C−11)。管理局3は、図11に示す手順に従い、管理局1が送信したチャネル情報パケットに対する応答パケットを生成する。なお、この区間において、管理局2も応答パケットを作成する。応答区間において、管理局2及び3は、ランダムなタイミングで応答パケットを送信する(図15C:C−12)。
管理局1は、図10に示す手順で、管理局2及び3が送信した応答パケットを応答区間に受信すると、管理局2及び3に割り当てる遅延量を決定し、遅延量記録テーブル37に記録する。そして、応答区間終了直後から、他の管理局のチャネル情報パケットが送信されるまでの区間において、管理局1は、決定した遅延量を含む遅延量通知パケットを生成して各管理局2及び3に送信する(図15C:C−13)。
管理局2及び3は、図13に示す手順で、管理局1が送信した遅延量通知パケットを受信すると、複局同時送信時における自局及び他局に割り当てられた遅延量を抽出し、遅延量記録テーブル37に記録する(図15C:C−13)。
次に、管理局2が送信したチャネル情報パケットを管理局1及び3が、各々図12及び図11に示す手順で受信する(図15C:C−21)。そして、図15CのC−22及びC−23において、図15CのC−12及びC−13と同様の手順で、管理局2の送信パケットを複局中継送信する際の遅延量が、各管理局の遅延量記録テーブル37に記録される。
次に、管理局1及び2は、管理局3から送信されてくるチャネル情報パケットを図12に示す手順で受信する(図15C:C−31)。そして、図15CのC−12及びC−13と同様の手順で、管理局3の送信パケットを複局中継送信する際の遅延量が、各管理局の遅延量記録テーブル37に記録される(図15C:C−32及びC−33)。その後、管理局1〜3は、定期的に設けられたネゴ区間においてチャネル情報パケット及び応答パケットを送受信する。
図17Aは、管理局1〜3が保持する遅延量記録テーブル37の構成を示す図である。例えば、管理局1がパケットの送信元である場合、管理局2は、パケットを中継送信する際に、基準タイミングから遅延量τだけ遅延させたタイミングを送信開始タイミングとする。一方、管理局3は、パケットを中継送信する際に、基準タイミングから遅延量0だけ遅延させたタイミング、つまり、この場合には基準タイミングを送信開始タイミングとする。なお、遅延量τは、受信側において、パスダイバーシチ効果が得られる適度な値、すなわち、所定の遅延分解能以上、かつ所定の遅延上限以下の値である。このように、管理局1〜3の遅延量決定部36は、複局同時送信可能な管理局を認識し、認識した管理局によって複局同時送信される際の複数の遅延量を決定し、他の管理局に通知する。当該他の管理局は、通知された遅延量を遅延量記録テーブルとして記憶する。
図17Bは、図16Bに示す位置関係において、管理局1が送信したブロードキャストパケットを管理局2のみが中継送信する場合のパケットの送受信タイミングを示す図である。管理局2は、パケットを中継送信する際、遅延量を与えることなくパケットを送信する。
図17Cは、図16Cに示す位置関係において、管理局1が送信したブロードキャストパケットを管理局2及び3が中継送信する場合のパケットの送受信タイミングを示す図である。管理局2及び3は、図17Aの遅延量記録テーブルに従ってブロードキャストパケットを複局同時送信する。
図17Cに示すように、管理局2及び3は、管理局1から送信されてきたブロードキャストパケットを受信完了したタイミングから、所定時間(T1)後を基準タイミング(T0)とする。管理局2は、基準タイミングT0から遅延量“0”が経過したタイミング、つまり、基準タイミングT0に、ブロードキャストパケットを送信する。一方、管理局3は、基準タイミングから遅延量“τ”経過したタイミングを送信タイミングとしてブロードキャストパケットを送信する。管理局2及び3は、遅延量差τに比べて伝搬時間が無視できる程度近傍に位置しているので、2つの管理局から送信されたパケットは、パスダイバーシチ効果が発揮できる適度な送信時間差τに極めて近い値で受信局(例えば、管理局9)に到来する。したがって、受信局は、パスダイバーシチによる効果を最大限に発揮させてパケットを正常に受信することができる。
以上のように、本実施形態によれば、各管理局は、複局同時送信が行われる前にネゴシエーションし、複局同時送信時における各管理局の送信タイミングを決定する。送信タイミングの決定に用いられる複数の遅延量は、各遅延量の差が所定の遅延分解能以上であり、複数の遅延量の内の最大値と最小値との差が所定の遅延上限以下であるように設定されている。したがって、管理局が移動して位置関係が変化したり、複局同時送信する管理局の数が変化したとしても、各遅延量の差が所定の遅延分解能以上であり、最大値と最小値との差が所定の遅延上限以下であるので、複局同時送信されたデータは、パスダイバーシチによる効果を確実に発揮することができる到来時間差で、受信局で受信されることとなる。したがって、近接して配置されている複数の無線局が同一データを伝送する複局同時送信システムにおいて、無線局の位置関係や、データを複局同時送信する無線局数が変化しても、パスダイバーシチによる効果を確実に得ることができる無線伝送システム並びにそれらに用いられる無線局及び方法が提供されることとなる。
なお、第1の実施形態において、管理局の内、最低限、少なくとも1つの管理局(たとえば、管理局1)が、自局又は他局が送信したチャネル情報パケットに対する応答パケットに応じて、無線伝送システムにおいて複局同時送信が行われる際の基準タイミングからの複数の遅延量を決定すれば、管理局1が送信元となるデータを管理局2及び3に複局同時送信させることができる。
なお、本実施形態では、各管理局が、ネゴシエーション区間においてチャネル情報パケットを伝送し、そのパケットに対する応答パケットを返すというような、複局同時送信の可否に関わらず存在する管理局間のやり取り領域が存在するシステムについて説明した。当該システムでは、一例として、チャネル情報パケットに対する応答パケットを返すという、図15CのC−m2(m=1,2,3)のチャネル情報確認区間を、自局が送信した際に、幾つの管理局が中継送信可能であるかを確認するための複局状況確認区間として利用していた。また、チャネル情報パケットに対する応答パケットを、複局状況を確認するための応答パケットとしても利用し、各管理局の複局送信時のタイミング決定するものとして説明した。ここで、ネゴシエーション区間内に複局送信できる管理局を探すための管理局探索パケットを送信し、そのパケットに対する応答パケットを返す領域を別に設け、上記した手順と同様にして複局送信時の各管理局の送信タイミングを適切に設定することももちろん可能である。但し、そのような方法に比べて、第1の実施形態は、各管理局がネゴシエーション区間において複局送信の可否に関わらず存在する管理局間のやり取りを複局送信のタイミング設定にも利用しているので、タイミング設定することによる伝送効率の低下が抑えられる。
なお、第1の実施形態では、互いの通信エリア内に位置する複数の管理局は、他の管理局から送信されたブロードキャストパケットを必ず中継送信するものとして説明していた。ここで、各管理局は、ブロードキャストパケットを受信できても自局の都合で中継送信できない状況が生じるものであってもよい。その場合には、上述した応答パケット中に、中継送信できるか否かを示す情報を含むこととすればよい。
なお、本実施形態では、互いに通信可能な管理局の数が3つである場合について説明したが、管理局の数が4つ以上になった場合にも、図15Cに示したC−m1、C−m2、C−m3(m=1,2,3)の手順を管理局の数だけ繰り返すことによって、各管理局の遅延量を決定することができる。
なお、本実施形態では、チャネル情報パケットを受信した各管理局は、応答区間において、ランダムなタイミングで応答パケットを送信していた。したがって、応答区間において、稀に応答パケットが衝突する場合がある。図18は、応答パケットの衝突が生じる際のパケットの送受信タイミングを示す図である。図18に示すように、N−m2の応答区間において、複数の管理局が送信した応答パケットが衝突すると、パケットを正常受信できない場合が起こりうる。その場合、例えば、チャネル情報パケットを送信した管理局mが、図18のN−m3のように、応答区間終了直後に応答パケット再送要求パケットを送信し、管理局mに対して中継送信可能な管理局は、再度ランダムなタイミングで応答パケットを送信すればよい。チャネル情報パケットを送信した管理局がすべての中継送信可能な管理局の応答パケットを正常受信できるまでこの手順を繰り返すことにより、自局が送信したパケットを中継する全ての管理局に割り当てるべき遅延量を決定することができる。ただし、衝突が連続してネゴ区間内にすべての管理局のネゴシエーションが完了しなくなることを避けるため、応答パケットの再送回数には上限を設けることが望ましい。
なお、パスダイバーシチによる効果に寄与し得る有効なブランチ数には、上限がある。以下、この上限値を最大有効ブランチ数という。例えば、変復調方式としてPSK−VP方式を用いた場合、遅延分解能はシンボル長の数分の1程度、遅延上限は1シンボル時間未満の値であるため、受信局において分離できる到来波の数(遅延上限を遅延分解能で除した値以下の数)は、せいぜい3つ程度であり、最大有効ブランチ数は、2〜3程度に抑えられる。したがって、複局同時送信する管理局の数が、最大有効ブランチ数を超えるほど多い場合、ブランチ数に等しい複局数(上記の例では、3局)で確実に適度な到来時間差が生じるマルチパスを発生させた場合に比べ、パスダイバーシチ効果は上がらない。したがって、応答区間内に正常受信できた周辺の管理局からの応答パケットの数が、パスダイバーシチによる効果が得られる最大有効ブランチ数を超える場合、チャネル情報パケットを送信した管理局mは、応答区間での応答パケットの衝突が発生しても、応答パケット再送要求パケットを送信しないことが望ましい。この場合、管理局mは、正常受信できた周辺の管理局に対してのみ、遅延量を含む遅延量通知パケットを送信すればよい。このように、遅延量を決定する管理局は、複局同時送信が可能な管理局の数が最大有効ブランチ数よりも多い場合、複局同時送信が可能であると決定する無線局の数を最大有効ブランチ数以下にするとよい。なお、遅延量通知パケットを受信した管理局は、パケット内に自局に対する遅延量が存在しない場合、そのパケットを送信した管理局からブロードキャストパケットを受信しても中継伝送しないこととすればよい。
また、本実施形態では、管理局は、自局の通信エリア内に存在する端末局を管理するものとして説明したが、管理局は、端末局を管理する能力を有していればよく、必ずしも管理局が管理する対象の端末局が存在していなくてもよい。これは、例えば、管理局が新たに無線伝送システムを構築する過程で、管理局が形成する通信エリア内に、端末局が存在していない場合もあり得るためである。
また、複数の管理局によって複局同時送信されるデータ列は、必ずしも完全一致である必要はなく、複局同時送信することで伝送特性を向上させて、データ伝送の確実性を増したい部分が同一であればよい。
また、本実施形態では、変復調方式としてPSK−VP方式を用いて通信する場合について説明したが、変復調方式としてOFDM方式を用いて通信する場合においても、本実施形態と同様の効果を得ることができる。
図19は、OFDM方式を用いて通信する場合における変調部41aの構成を示すブロック図である。図19において、変調部41aは、読み出し制御部61と、符号化部62と、インタリーブ部63と、多値変調マッピング部64と、変換開始信号生成部65と、時間領域変換部66と、ガードインターバル付加部67と、プリアンブル付加部68と、D/A変換部69とを有する。
読み出し制御部61の動作は、図6に示す読み出し制御部45の動作と同様である。読み出し制御部61は、生成した読み出しクロックを送信パケット処理部40に出力して送信データを受け取り、これを符号化部62に渡す。
符号化部62は、例えば、畳み込み符号を用いて、誤り訂正のための符号化を行う。インタリーブ部63は、符号化部62によって符号化された信号にインタリーブ処理を施す。多値変調マッピング部64は、インタリーブ処理が施された信号に、PSKやQAMなどのディジタル変調方式によるシンボルマッピングを行い、周波数領域信号を生成する。
変換開始信号生成部65は、送信タイミング制御部38から送信開始信号を受け取ると、周波数領域信号を時間領域信号に変換するタイミングを示す変換開始信号を生成して時間領域変換部66に渡す。
時間領域変換部66は、変換開始信号を受け取ると、周波数領域信号を時間領域信号に変換してOFDM信号とする。ガードインターバル付加部67は、OFDMのシンボルごとにガードインターバルを付加して、OFDM変調した信号を出力する。
プリアンブル付加部68は、同期処理に用いるためのプリアンブルを信号に付加する。D/A変換部69は、プリアンブルが付加されたディジタルのOFDM信号をアナログ信号に変換し、変調ベースバンド信号として出力する。
図20は、図19に示す変調部41aの主要部において生成される信号及び送信開始信号のタイミングを示す図である。
変調部41aにおいて、変換開始信号生成部65は、送信タイミング制御部38から送信開始信号を受け取ると、変換開始信号を生成する。時間領域変換部66は、変換開始信号が示すタイミングに従って、周波数領域信号を時間領域信号に変換してOFDMシンボルを生成する。このように、変調部41aは、送信開始信号を受け取ると、送信データを変調する。
図21は、OFDM方式を用いて通信する場合における復調部33aの構成を示すブロック図である。図21において、復調部33aは、同期回路部71と、ガードインターバル除去部72と、周波数領域変換部73と、多値変調デマッピング部74と、デインタリーブ部75と、誤り訂正部76とを有する。
同期回路部71は、OFDMシンボルに対するシンボル同期信号を生成し、復調部33aが有する他の部に出力する。シンボル同期信号は、各部における内部処理用のタイミングに用いられる。ガードインターバル除去部72は、受信ベースバンド信号から各OFDMシンボルに含まれるガード区間を除去する。
周波数領域変換部73は、時間領域信号を周波数領域信号に変換する。多値変調デマッピング部74は、周波数領域信号から多値変調のコンスタレーション上のデマッピング処理を行って判定データを得る。デインタリーブ部75は、判定データにデインタリーブ処理を施す。誤り訂正部76は、デインタリーブ処理されたデータに誤り訂正処理を施して、復調データを得る。誤り訂正処理に、例えばビタビ符号のような畳み込み符号が用いられている場合、ビタビ復号処理が行われる。
OFDM方式では、マルチパスの到来時間差がガード区間以内であればシンボル間干渉を起こさず、誤りを生じない。さらに、通常、複数キャリアにまたがって誤り訂正が行われる。したがって、スペクトル全体が落ち込むようなフラットフェージングより、スペクトルに複数のノッチが生じるような周波数選択性フェージングの方が、パスダイバーシチ効果を発揮する。OFDM方式では、遅延分解能は周波数帯域幅の逆数に相当し、遅延上限は、ガード区間長に相当する。したがって、図19に示す変調部41aと、図21に示す復調部33aとを用いる場合、各管理局の遅延量の差が上記の遅延分解能以上、かつ遅延上限以下となるように、遅延量を決定すればよい。
さらに、変調方式にQPSK方式などのシングルキャリア方式を用い、復調方式に伝送路歪を補償する等化器を用いた場合も、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。このとき、図6の変調部41の構成において、波形出力部46内の波形メモリに格納されている変調波形のみを使用するシングルキャリア方式の波形に置き換えるだけでよいため、変調部の構成は、図6を援用する。
図22は、シングルキャリア方式を用いて通信する場合における復調部33bの構成を示すブロック図である。図22において、復調部33bは、検波部91と、等化器92と、シンボル同期部93と、データ判定部94とを有する。等化器92は、トランスバーサルフィルタ95と、誤差検出部97と、係数更新部96とからなる。
検波部91は、受信ベースバンド信号を検波する。等化器92において、トランスバーサルフィルタ95は、係数更新部96から出力されるフィルタ係数に従って受信ベースバンド信号を等化し、等化信号として出力する。誤差検出部97は、等化信号と、復調データとの誤差を検出する。係数更新部96は、誤差検出部97によって検出された誤差に基づいて、トランスバーサルフィルタのフィルタ係数を更新する。
シンボル同期部93は、トランスバーサルフィルタ95から出力された信号をクロック再生することによって、シンボルタイミングを再生する。データ判定部94は、シンボルタイミングに従って等化後の信号をサンプリングし、復調データを得る。
データを復調するために等化器を用いる場合、遅延分解能は、シンボル長に相当し、遅延上限は、タップ数で決まる時間長に相当する。したがって、図6に示す変調部41と、図22に示す復調部33bを用いる場合、各管理局の遅延量の差が上記の遅延分解能以上、かつ遅延上限以下となるように、遅延量を決定すればよい。
図23は、DSSS方式を用いて通信する場合における変調部41cの構成を示すブロック図である。図23において、変調部41cは、1次変調部101と、2次変調部102とを有する。1次変調部101は、読み出し制御部104と波形出力部105とからなる。2次変調部102は、拡散符号制御部106と、乗算器107とからなる。
1次変調部101において読み出し制御部104は、図6に示す読み出し制御部45と同様に、送信開始信号を受けて読み出しクロックを生成し、生成した読み出しクロックを送信パケット処理部40に出力して送信データを受け取り、送信データに基づくアドレス信号を波形出力部105に渡す。波形出力部105は、予め変調波形のデータを波形メモリに格納しておいて、アドレス信号に応じた変調波形のデータを読み出し、1次変調信号として出力する。
2次変調部102において、拡散符号制御部106は、送信開始信号を受け取ると、拡散信号を乗算器107に出力する。乗算器107は、1次変調信号を拡散信号で拡散する。D/A変換器108は、拡散されたディジタル信号をアナログ信号に変換し、変調ベースバンド信号として出力する。以上のように、変調部41cは、送信開始信号を受け取ると、信号の拡散変調を開始する。これにより、データに所定の遅延量を与えて送信することができる。
図24は、DSSS方式を用いて通信する場合における復調部33cの構成を示すブロック図である。図24において、復調部33cは、2つのフィンガー111−1、111−2と、合成部112と、符号判定部113とを有する。フィンガー111−1、111−2は、相関器114−1、114−2と、検波器115−1、115−2と、振幅位相検出部116−1、116−2とからなる。
相関器114−1、114−2は、受信した拡散信号を逆拡散し、逆拡散信号を生成する。検波器115−1、115−2は、逆拡散信号を検波し、検波信号を生成する。振幅位相検出部116−1、116−2は、検波信号から振幅と位相とを検出し、それぞれ振幅情報及び位相情報として出力する。
合成部112は、2系統の検波信号をそれぞれの振幅情報と位相情報をもとに合成し、合成信号を生成する。符号判定部113は、合成信号を符号判定して復調データを得る。
また、DSSS方式では、遅延分解能は、拡散符号の1チップ長に相当し、遅延上限は、拡散符号長に相当する。したがって、図23に示す変調部41cと、図24に示す復調部33cとを用いる場合、各管理局の遅延量の差が上記の遅延分解能以上、かつ遅延上限以下となるように、遅延量を決定すればよい。
このように、パスダイバーシチのためのシステムを構成する無線伝送システムに応じて、所定の遅延分解能及び所定の遅延上限は、異なる。しかし、パスダイバーシチのためのシステムの構成が決まれば、所定の遅延分解能及び所定の遅延上限を決めることができるので、本発明は、あらゆるパスダイバーシチのためのシステムに適用可能である。
(変形例)
第1の実施形態では、各管理局は、他の管理局から応答パケットを受信するたびに、遅延量通知パケットを毎回送信するものとして説明した。ここで、遅延量の送信は、新たに管理局が発生する際や、既存の管理局が消失する際にのみ行われてもよい。本変形例において、各管理局は、新たに管理局が発生する際や、既存の管理局が消失する際にのみ遅延量通知パケットを生成する。なお、管理局1〜3の構成は、第1の実施形態と同様であるため、図5を援用する。
図25は、本変形例に係る管理局1の動作を示すフローチャートである。まず、管理局1は、他の管理局からチャネル情報パケットを受信したか否かを判断する(ステップS151)。チャネル情報パケットを受信していない場合、管理局1は、所定の待ち時間が終了したか否かを判断し(ステップS155)、待ち時間が終了していない場合、ステップS151の動作に戻る。一方、待ち時間が終了している場合、管理局1は、ステップS156の動作に進む。
一方、ステップS151において、チャネル情報パケットを受信した場合、管理局1は、応答パケットを生成して送信する(ステップS152)。そして、管理局1は、遅延量通知パケットを受信したか否かを判断する(ステップS153)。遅延量通知パケットを受信した場合、管理局1は、遅延量通知パケットから周辺管理局IDと遅延量を抽出し、遅延量記録テーブル37に記録して(ステップS154)、ステップS156の動作に進む。
管理局1は、チャネル情報パケットを送信するか否かを判断する(ステップS156)。ここで、遅延量記録テーブル37に遅延量が記録されていない場合、ステップS156において、管理局1は、既存周辺管理局が1つ以下しかないとみなし、自局がチャネル情報パケットを送信すべきであると判断する。一方、遅延量記録テーブル37に遅延量が記録されている場合、ステップS156において、管理局1は、既存周辺管理局が2つ以上あるとみなし、遅延量記録テーブル37に記録されている全ての他の管理局からチャネル情報パケットを受信するまで、自局がチャネル情報パケットを送信しないと判断する。
チャネル情報パケットを送信すると判断した場合、管理局1は、チャネル情報パケットを生成して送信し(ステップS157)、応答パケットを受信したか否かを判断する(ステップS158)。応答区間において、応答パケットを受信しない場合、管理局1は、ステップS151の動作に戻る。一方、応答パケットを受信した場合、管理局1は、受信した応答パケットの数から中継可能局数が2つ以上であるか否かを判断する(ステップS159)。中継可能局数が2つ未満である場合、管理局1は、ステップS151の動作に戻る。
一方、中継可能局数が2つ以上である場合、管理局1は、自局が送信元管理局となった場合における他の管理局の遅延量を決定済みであるか否かを判断する(ステップS160)。他の管理局の遅延量が決定済みである場合、管理局1は、遅延量記録テーブルに記録している管理局IDと、ステップS158で受信した応答パケットの送信元IDから得た中継可能局のIDとが一致するか否かを判断する(ステップS161)。IDが一致する場合、管理局1は、処理を終了するが、IDが一致しない場合、管理局1は、遅延量通知パケットを生成して、他の管理局に送信する(ステップS162)。また、ステップS160において、他の管理局の遅延量が決定済みでない場合にも、同様に、ステップS162において、遅延量通知パケットを生成する。
以上のように、本変形例によれば、管理局は、中継可能局数が2以上であっても、他の管理局の遅延量をまだ決定していない場合、又は、応答パケットの送信元の管理局のIDが、遅延量記録テーブルに記録されているIDと異なる場合にのみ遅延量通知パケットを生成して送信する。すなわち、他の管理局の遅延量が最初に決定された場合と、周辺管理局の増減又は入れ替えが発生し、記録していた周辺管理局のIDと受信した応答パケットの送信元IDとが異なった場合にのみ、遅延量通知パケットが送信されることとなる。第1の実施形態では、ネゴシエーション区間内に図15CのC−13、C−23、C−33のように、遅延量通知パケットを伝送するための領域を用意する必要があるため、複局同時送信時における遅延量を決定することによる伝送効率の低下が若干生じる。しかしながら、本変形例によれば、ネゴシエーション区間内に遅延量通知パケットを伝送するための領域を毎回設ける必要がないため、第1の実施形態に比べ、伝送効率の低下が抑えられる。
(第2の実施形態)
本実施形態に係る無線伝送システムは、管理局がパケットを送信した後、他の管理局がパケットを中継送信する際に、送信元局である管理局も再度同じパケットを送信する点で、第1の実施形態と相違する。
図26A及びBは、第2の実施形態におけるマルチホップ伝送の一例を示す図である。図26A及びBに示すように、送信元管理局である管理局1は、管理局2及び3に中継送信すべきパケットを送信した後、当該パケットを宛先局に再送信する。なお、本実施形態に係る無線伝送システム及び管理局の構成は、第1の実施形態と同様であるため、それぞれ図1A,B及び図5を援用する。
本実施形態において、パケットを中継送信する管理局は、ブロードキャストパケットを受信完了したタイミングから所定時間経過後を基準タイミングとする。また、パケットの送信元管理局である管理局は、パケットをいったん送信したタイミングから所定時間経過後を基準タイミングとする。この2つの基準タイミングは、一致しているものとして説明する。
図27A〜Cは、第2の実施形態に係る管理局が行うネゴシエーションの手順の一例を示す図である。システム構成の移行は、第1の実施形態と同様の例を用いて説明するため、図16A〜Cを援用する。
以下、図16A〜C及び図27A〜Cを参照して、本実施形態における管理局1〜3がネゴシエーションし、複局同時送信時における各管理局の遅延量を決定するまでの各管理局の動作及び手順について、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
まず、図16Aに示すように、管理局1のシステムしか存在しない場合における管理局1の動作は、第1の実施形態と同様である。
第2の実施形態に係る管理局1〜3の動作が第1の実施形態と異なるのは、図10に示すフローチャートにおけるステップS63の動作である。第2の実施形態に係る管理局1〜3は、ステップS63において、中継可能局数が1以上であるか否かを判断する。そして、中継可能局数が1以上である場合、ステップS64以降の動作に進み、遅延量通知パケットを生成して送信する。それ以外の動作は、第1の実施形態と同様であるため、図10〜図14を援用する。
次に、図16Aの状態から図16Bの状態にシステム構成が移行した場合、新たにシステムを構築する管理局2は、管理局1が送信したチャネル情報パケットを受信すると、応答パケットを生成し、応答区間に応答パケットを送信する(図27B:B−12)。管理局1は、応答区間の終了時刻までに通知された周辺局情報を元に、自局の送信パケットを中継送信できる管理局の数が1であることを認識する。
第1の実施形態では、中継送信が可能な管理局が1つである場合、他の管理局に割り当てる遅延量を決定しない。本実施形態では、送信元管理局である管理局がパケットを再送信するため、中継送信が可能な管理局が1つであっても、中継送信時に複局同時送信することができる。したがって、管理局1において、遅延量決定部36は、管理局2の遅延量を基準タイミングから適度にずらした値(τ)に決定し、遅延量記録テーブル37に記録するとともに送信パケット処理部40に通知する。また、このとき、遅延量決定部36は、自局に割り当てる遅延量も決定する。
そして、管理局1は、応答区間終了直後から管理局2のチャネル情報パケットが送信されるまでの区間において、決定した遅延量を含む遅延量通知パケットを管理局2に送信する(図27B:B−13)。この点が、第1の実施形態と相違する。本実施形態では、図16Bの状態で、すでに図15Cの動作、手順を行い、複局同時送信時に、各管理局がパケットに与えるべき遅延量を決定する。図27BのB−13以降の動作、手順については、複局同時送信時に、自局に割り当てる遅延量をも決定し、その値も含んだ遅延量通知パケットを図27BのB−13、B−23で送信すること以外は、第1の実施形態の図15CのC−13以降の動作、手順と同じであるため、詳細な説明は省略する。
次に、図16Bの状態から図16Cの状態にシステム構成が移行した場合についても、複局同時送信時の送信タイミングとして送信元管理局自身に割り当てる遅延量も決定すること以外は、第1の実施形態(図27C)と同様であるため、説明を省略する。
図28Aは、図16Bに示す位置関係にある管理局1及び2が、図27Bに示す手順で遅延量を設定した場合における遅延量記録テーブルの一例を示す図である。管理局1及び2は、図28Aに示す遅延量記録テーブルを参照して、他局がパケットを中継送信する際にパケットに与えるべき遅延量を決定する。例えば、管理局1がパケットの送信元管理局である場合、管理局2は、管理局1から受信したパケットを中継送信する際に、基準タイミング(T0)に対してτだけ遅延させたタイミングで送信する。
図28Bは、図28Cに示す位置関係にある管理局1、2及び9において、ブロードキャストパケットが管理局1から送信され、管理局2で中継されて管理局9に到達するまでのパケットの送信タイミングを示す図である。ここで、管理局1及び2は、図28Aの遅延量記録テーブルを保持しているものとする。
図28Bに示すように、管理局2は、管理局1から送信されてきたブロードキャストパケットを受信すると、第1の実施形態と同様の手順で送信開始タイミングを決定する。管理局1は、ブロードキャストパケットを送信したタイミングから所定時間(T1)後を基準タイミング(T0)とし、その時刻を送信タイミングとしてブロードキャストパケットを送信する。管理局1と管理局2とは、パスダイバーシチ効果が発揮できる適度な時間差τに比べて伝搬時間が無視できる程度近傍に位置している。よって、管理局9は、パスダイバーシチによる効果が得られる適度な送信時間差τに極めて近い値の到来時間差で、2つの管理局から送信されたパケットを受信する。したがって、管理局9は、パスダイバーシチによる効果を最大限に得ることができる。
図29Aは、図16Cに示す位置関係にある管理局1〜3が、図27Cに示す手順によって遅延量を設定した場合における遅延量記録テーブルの一例を示す図である。なお、本実施形態において、無線伝送システムは、パスダイバーシチによる効果に寄与する最大の有効ブランチ数が3であるシステム(例えば、変復調方式としてスペクトル拡散方式を用いて、送信側において拡散符号長が4チップである拡散符号でスペクトル拡散して生成した変調信号を、受信側において3フィンガーでRAKE受信を行うシステム)として説明する。
図29Aにおいて、遅延量τは、遅延上限以下であり、遅延量τ/2は、遅延分解能以上である。例えば、変復調方式にスペクトル拡散方式を用いるシステムの場合、遅延上限は、拡散符号長以下の値に相当し、遅延分解能は、拡散符号の1チップ長以上に相当する。
図29Bは、図26Bに示す位置関係にある管理局1〜3が、図29Aに示す遅延量記録テーブルに従って、ブロードキャストパケットを複局同時送信する際のタイミングを示す図である。
図29Bに示すように、管理局2及び3は、管理局1から送信されてきたブロードキャストパケットを受信完了したタイミングから所定時間(T1)後を基準タイミング(T0)とする。管理局2は、基準タイミングから遅延量τだけ遅延させたタイミングを送信開始タイミングとしてブロードキャストパケットを送信する。一方、管理局3は、基準タイミングから遅延量τ/2だけ遅延させたタイミングを送信開始タイミングとしてブロードキャストパケットを送信する。
ブロードキャストパケットの送信元である管理局1は、ブロードキャストパケットを送信したタイミングから所定時間後を基準タイミング(T0)とする。管理局1は、基準タイミングを送信開始タイミングとしてブロードキャストパケットを送信する。管理局1と管理局2と管理局3とは、パスダイバーシチ効果が発揮できる適度な時間差τ/2に比べて伝搬時間が無視できる程近傍に位置しているので、3つの管理局から送信されたパケットは、どの2つをとっても、パスダイバーシチ効果が発揮できる適度な送信時間差τ/2又はτに極めて近い値で管理局9に到来する。したがって、管理局9は、パスダイバーシチによる効果を最大限に得ることができる。
以上のように、本実施形態によれば、複局同時送信可能な管理局として決定された各管理局は、自局のデータに与える遅延量も決定し、送信元管理局がブロードキャストパケットを再送信するので、中継送信が可能な管理局が1つしかない場合であっても、適度な時間差を設けて複局同時送信することができ、パスダイバーシチによる効果を確実に得ることができる。また、中継送信が可能な管理局の数がパスダイバーシチによる効果に寄与する最大の有効ブランチ数よりも少ない場合にも、第1の実施形態に係る無線伝送システムに比べて、大きなパスダイバーシチ効果を得ることができる。
なお、本実施形態では、互いに通信可能な管理局が3局の場合について述べたが、4局以上になった場合にも、図27Cに示したC−m1、C−m2、C−m3(m=1,2,3)の手順を局数分繰り返すことにより、各管理局に対して複局同時送信時の適切な遅延量を確実に設定することができる。
(第3の実施形態)
第3の実施形態に係る無線伝送システムは、中継伝送時に複局同時送信が可能な場合の送信元管理局が中継送信するパケットに与える遅延量を、予め基準タイミング(T0)から適度にずらした値に決めている点で、第2の実施形態と相違する。それ以外の、無線伝送システム及び管理局の構成、システム間におけるチャネル情報のネゴシエーションの手順は、第1の実施形態及び第2の実施形態と同様である。
図30Aは、一つの無線システムが発生した図16Aのシステム構成から図16Bのシステム構成になるまでの第3の実施形態におけるネゴシエーションの手順の一例を示す図である。本実施形態に係る管理局は、B−13、B−23の区間において、遅延量通知パケットを送信しない点で、図27B(第2の実施形態)と相違する。
各管理局は、ブロードキャストパケットを他局によって中継送信させる際、自局(送信元管理局)がパケットを再送するときに、パケットに与える遅延量を予め保持している。例えば、各管理局は、自局がパケットの送信元管理局となる場合、基準タイミング(T0)から適度な遅延量(τ)だけ遅延させたタイミングを送信開始タイミングとする。したがって、図30Aに示すように、管理局1は、周辺管理局数が1つである場合、遅延量通知パケットを生成しない。
遅延量通知パケットを受信しない管理局2は、ブロードキャストパケットを中継送信する際、ブロードキャストパケットに遅延量を与えないで送信する。つまり、管理局2は、予め定められた基準タイミング(T0)を中継送信時の送信開始タイミングとする。したがって、管理局2がブロードキャストパケットを中継送信し、管理局1がパケットを再送信した場合、管理局9に到達するパケットには、τの到来時間差がある。
図30Bは、図16Bに示す位置関係にある管理局1及び2が、図30Aに示す手順によって遅延量を決定した場合における遅延量記録テーブルの一例を示す図である。管理局1及び2がブロードキャストパケットを再送信する際に、パケットに与えるべき遅延量は予め設定されている。したがって、ブロードキャストパケットを中継送信可能な管理局が1つしかない場合、遅延量通知パケットを送信しなくても、図30Bに示す遅延量記録テーブルを各管理局が決定して保持することができる。
図30Cは、図16Cに示す位置関係にある管理局1が送信したブロードキャストパケットを管理局2が中継送信する場合におけるパケットの送受信タイミングを示す図である。図30Cに示すように、2つの管理局から送信されたパケットは、パスダイバーシチ効果が発揮できる適度な送信時間差τに極めて近い値で管理局9に到来する。したがって、管理局9は、パスダイバーシチ効果を最大限に発揮させてパケットを正常に受信することができる。
以上のように、本実施形態によれば、パケットの中継送信が可能な管理局が送信元を含む2つである場合、遅延量通知パケットを送信することなく、送信元の管理局が自局のパケットに与える遅延量を基準タイミングから適度にずらした値に決定し、他の管理局に遅延量を与えることなく基準タイミングに送信元局と共に中継送信させる。したがって、遅延量通知パケットを送受信するための区間を用意する必要がないため、第2の実施形態の方法に比べ、伝送効率の低下を抑えながら、最大限のパスダイバーシチ効果を確実に発揮させることができる。
なお、本実施形態では、管理局の数が2つである場合について説明した。ここで、管理局の数が3つ以上であり、かつ、受信局において、パスダイバーシチによる効果が得られる最大ブランチ数が2つしかない場合にも本実施形態は有用である。図31Aは、受信局において、パスダイバーシチによる効果が得られる最大ブランチ数が2つである場合に、3つ以上の管理局がパケットを複局同時送信する際のパケットの送受信タイミングを示す図である。図31Bは、図31Aに示すタイミングでブロードキャストパケットを送受信する管理局が保持するテーブルの一例を示す図である。図31Bにおいて、送信元管理局となる各管理局に割り当てられる遅延量はτである。一方、他の管理局から送信されてきたパケットを中継送信する管理局に割り当てられる遅延量は0である。この場合にも、各管理局は、他の管理局に遅延量通知パケットを送信することなく、各管理局がパケットに与える遅延量を最適に決定することができる。したがって、遅延量通知パケットを送受信するための区間を用意する必要がないため、第2の実施形態の方法に比べ、伝送効率の低下を抑えながら、最大限のパスダイバーシチ効果を確実に発揮させることができる。
なお、パスダイバーシチによる効果に寄与する最大の有効ブランチ数が3つ以上の場合、パスダイバーシチによる効果を最大限に得るためには、送信元管理局以外の管理局も、適度に送信開始タイミングをずらす必要がある。この場合、第2の実施形態における図27Cの手順と同様に、遅延量通知パケットを送信し、例えば、図32Aに示す遅延量記録テーブルを各管理局に持たせることとすればよい。ただし、本実施形態では、送信元管理局に割り当てられる遅延量は予めτに定めているため、遅延量通知パケットは、送信元管理局の遅延量を示すデータを含む必要がない。したがって、第2の実施形態に比べ、遅延量通知パケット長を若干短くすることができる。よって、図27CのC−13やC−23に示す、遅延量通知パケットを送信するための区間を若干短くすることができる。したがって、パスダイバーシチによる効果に寄与する最大の有効ブランチ数が3つ以上の場合でも、第2の実施形態に比べて、伝送効率の低下を抑えながら、パスダイバーシチによる効果を最大限に得ることができる。
(第4の実施形態)
第1の実施形態において、チャネル情報パケットに対する応答パケットを受信するのは、チャネル情報パケットの送信元の管理局のみであった。これに対し、第4の実施形態では、チャネル情報パケットの送信元以外の管理局も、他の管理局が送信した応答パケットを受信する。それ以外の無線伝送システムの構成及び管理局のブロック構成、システム間のチャネル情報のネゴシエーション手順は第1の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
以下、図16A〜C及び図33A〜Cを参照して、本実施形態に係る管理局1〜3がネゴシエーションを行って、複局同時送信時に各管理局がパケットに与える遅延量を決定する手順について、第1の実施形態との違いを中心に説明する。
図33A〜Cは、一つの無線伝送システムが発生してから、図1A及びBに示すシステム構成になるまでのネゴシエーションの手順の一例を示す図である。図33A〜Cは、図16A〜Cに対応しており、管理局におけるパケットの送受信タイミングを示す。まず、図16A又はBに示すシステム構成である場合の管理局1〜3の動作は、第1の実施形態と同様である。
次に、図16Bの状態から図16Cの状態にシステム構成が移行した場合について説明する。新たにシステムを構築する管理局3は、管理局1から送信されてきたチャネル情報パケットを受信すると、応答パケットを生成し、ランダムなタイミングで送信する(図33CのC−11)。また、この応答区間において、管理局2も応答パケットを生成し、ランダムなタイミングで送信する。
管理局1は、管理局2及び3から送信されてきた応答パケットを受信する。また、この応答区間において、管理局2は、管理局3が送信した応答パケットを受信し、管理局3は、管理局2が送信した応答パケットを受信する。これが、第1の実施形態との相違点である。
これにより、管理局2において、遅延量決定部36は、管理局3からのチャネル情報パケットを受信することなく、管理局3を周辺管理局として認識することができる。また、管理局3においても同様に、管理局1のみならず管理局2も周辺管理局として記憶することができる。
このように、管理局2又は3は、管理局1が送信したチャネル情報パケットに対して、もう一方の他の管理局3又は2が送信した応答パケットを受信することにより、管理局1が送信したブロードキャストパケットを中継送信できる管理局の数が自局を含めて2であることを認識する。そして、各管理局は、管理局1が送信元管理局となった場合に、各管理局に割り当てる遅延量を決定する。なお、各管理局は、同一の管理局に対して決定する遅延量が異なる値にならないようにするため、予め定めた遅延量決定規則に従って、各管理局に割り当てる遅延量を決定する。
次に、管理局1及び3は、管理局2から送信されてきたチャネル情報パケットを受信する(図33C:C−21)。そして、図33CのC−12と同様の手順で、各管理局は、管理局2の送信パケットを中継送信する際の遅延量を決定し、遅延量記録テーブル37に記録する(図33C:C−22及びC−23)。
このように、各管理局は、個々に遅延量を決定する。したがって、第1の実施形態(図15C:C−13)のように、遅延量通知パケットを送信するための領域を用意する必要がないため、伝送効率の低下を抑制することができる。
なお、本実施形態では、遅延量決定規則として、応答区間の終了時刻までに通知された周辺局情報から得られる中継送信できる管理局の数と、パスダイバーシチによる効果に寄与する最大の有効ブランチ数とに応じて予め定めた基準タイミングに対する複数の遅延量の候補のうちから、応答パケットを先に送信した順に小さい方の値を管理局に与えることとする。
例えば、パスダイバーシチによる効果に寄与する最大有効ブランチ数が4である場合、遅延量として、中継送信時の複局数が2局の場合には0、τの2種類、複局数が3局の場合には0、τ/2、τの3種類、複局数が4局以上の場合には0、τ/3、2τ/3、τの4種類を、応答パケットを先に送信した順に小さい方の値を管理局に与えることとする。この遅延量決定規則に従えば、図33Cのように、管理局1のチャネル情報パケットに対して管理局2,3が順に応答パケットを返し、管理局2のチャネル情報パケットに対して管理局1,3が順に応答パケットを返し、管理局3のチャネル情報パケットに対して管理局1,2が順に応答パケットを返した場合、第1の実施形態の場合と同じく、図17Aの遅延量記録テーブルが各管理局で保持されることになる。なお、ここでは、遅延量τは遅延上限以下、遅延量τ/3は遅延分解能以上であるものとする。なお、遅延量決定規則として、これに限らず、例えば、応答パケットを先に送信した順に大きい方の値を管理局に与えるようにしてもよいし、応答パケットを送信した管理局のID番号の順に小さい方の値を管理局に与えるようにしてもよい。
なお、本実施形態では、互いに通信可能な管理局が3局の場合について述べたが、4局以上になった場合にも、図33Cに示したC−m1、C−m2(m=1,2,3)の手順を局数分繰り返すことにより、各管理局における複局同時送信時の適切な遅延量を確実に設定することができる。
なお、上記第1〜第4の実施形態において、ネゴ区間は、共通チャネル上に定期的に設けられるものとしたが、新たに管理局が発生する際や既存の管理局が消失する際にのみその管理局が既存の管理局に対してネゴシエーション要求を出して、設けられるものであってもよい。いずれにせよ、ネゴシエーションは管理局数が変化する際、すなわち複局数が変化する際には必ず行われるものであるため、本発明によれば、複局数が変化しても複局同時送信時に適度な到来時間差のマルチパスを発生できるため、パスダイバーシチ効果を確実に発揮させることができる。
また、上記第1〜第4の実施形態において、共通チャネルは、予め1つのチャネルが定められているものとし、新たに発生した管理局は、まず共通チャネルを観測するものとして説明したが、共通チャネルは、予め1つのチャネルに定められている必要はない。例えば、最初に存在する管理局が、複数の通信チャネルのうちの1つを、後に発生する他の管理局とネゴシエーションするための共通チャネルとして専用に定めてもよいし、自局の端末との通信に使用する通信チャネルと共通チャネルを共用させてもよい。なお、その場合、管理局は、まず共通チャネルが複数の通信チャネルのうちのどのチャネルであるかを認識するためのチャネル探索を周辺管理局の探索と併せて行えばよい。
なお、第1〜第4の実施形態では、基準タイミング(T0)は、管理局がブロードキャストパケットを受信完了したタイミングから所定時間経過後のタイミングであるものとして説明した。ここで、管理局が、パケットに含まれるユニークワードを検出したタイミングから所定時間経過後を基準タイミング(T0)としてもよい。また、管理局間の同期をとるためのビーコン信号を用いて、ビーコン信号を受信完了したタイミングから所定時間経過後を基準タイミング(T0)としてもよい。又は、各管理局が電波時計から得られる時刻情報などから基準タイミングを得てもよいし、各管理局がGPS(Global Positioning System)を有し、GPS信号に含まれる時刻情報から基準タイミングを得てもよい。
なお、第1〜第4の実施形態では、複局同時送信を行う各管理局が保持する遅延量記録テーブル37には、図17A、図29A、図32Aに示すように、全ての管理局に割り当てられた遅延量の遅延量が記録されていた。ここで、各管理局は、自局に割り当てられた遅延量のみを遅延量記録テーブルに記録することとしてもよい。図32Bは、自局に割り当てられた遅延量のみを各管理局が記録する場合における遅延量記録テーブルの一例を示す図である。例えば、図32Aに示すように、各管理局に割り当てられる遅延量が決定された場合、各管理局が保持する遅延量記録テーブルは、図32Bに示すものとなる。
これにより、遅延量記録テーブルを格納するために必要なメモリの容量を小さくすることができる。したがって、複局同時送信可能な局数が増加した場合であっても、遅延量記録テーブルを格納するために必要なメモリの容量の増加を抑制することができる。
なお、管理局のメモリ容量に余裕がある場合、遅延量記録テーブルとして、第1〜第4の実施形態で遅延量記録テーブルの一例として挙げたように、図17A、図29A、図32Aのようなすべての管理局の遅延量を記録した同一の遅延量記録テーブルを各管理局に持たせることが望ましい。なぜなら、無線システムを構成する管理局の数が図34Aから図34Bに示すように減少した場合でも、残存する管理局のタイミング変更規則を予め決めておけば、第1〜第3の実施形態で説明した遅延量通知パケットの伝送を行わずに各管理局の送信タイミングを適切に決めることができるので、遅延量通知パケットを送るための領域を必要とせずに、伝送効率の低下を抑えながら、最大限のパスダイバーシチ効果を確実に発揮させることができるからである。このことについて以下説明する。
図34Aに示す4つの管理局が存在するシステム構成から管理局が1つ減り、図34Bに示すシステム構成となった場合を例に説明する。なお、図34A及びBのシステムにおいて、パスダイバーシチによる効果に寄与する最大の有効ブランチ数は3つである場合を例に説明する。また、図34Aのシステム構成時に、各管理局は、図35Aに示す遅延量記録テーブルを保持しているものとする。
遅延量記録テーブル中の値τはパスダイバーシチ効果が発揮できる上限値を越えない値(例えば、変復調方式にスペクトル拡散方式を用いた場合、拡散符号長未満の値)であり、τ/2はパスダイバーシチ効果が発揮できる下限値を割らない値(例えば、変復調方式にスペクトル拡散方式を用いた場合、拡散符号の1チップ時間を越える値)である。
このシステムにおいて、管理局数が減少した時のタイミング変更規則を、例えば次のように予め決めておく。
(1)システムに残存する管理局数が、パスダイバーシチによる効果に寄与し得る有効なブランチの最大数(以下、最大有効ブランチ数と呼ぶ)以上の場合
システムから消失した管理局と同一の遅延量が割り当てられた管理局が存在する場合、各管理局に割り当てた遅延量を変更しない。
システムから消失した管理局と同一の遅延量が割り当てられた管理局が存在しない場合、システムに残存する管理局のうち、同一の遅延量が割り当てられた管理局が存在する。したがって、同一の遅延量が割り当てられた管理局のうち、管理局IDが大きい管理局に割り当てる遅延量を、システムから消失した管理局に割り当てられていた遅延量に変更する。
(2)システムに残存する管理局数が、最大有効ブランチ数未満の場合
残存する管理局のうち、同一の遅延量が割り当てられている管理局が存在する場合、同一の遅延量が割り当てられた管理局のうち、管理局IDが大きい管理局に割り当てる遅延量を、システムから消失した管理局に割り当てられていた遅延量に変更する。
残存する管理局のうち、同一の遅延量が割り当てられている管理局が存在しない場合、各管理局に割り当てた遅延量を変更しない。
上記規則(1)及び(2)に従えば、例えば、図34Aから図34Bのように管理局数が4から3に減少した場合でも、各管理局が独立して同じ遅延量記録テーブル(管理局1が消失して減少した場合は図35B、管理局2が消失して減少した場合は図35C、管理局3が消失して減少した場合は図35D、管理局4が消滅して減少した場合は図35E)に変更することができる。
なお、管理局の数が、最大有効ブランチ数よりも多い場合、図35Aに示すように、遅延量の候補値の数を、最大有効ブランチ数に等しい数又は最大有効ブランチ数よりも小さい数にすることが望ましい。これは、以下に示すような理由による。
最大有効ブランチ数は、遅延上限を遅延分解能で除した値以下になるが、遅延上限が遅延分解能に近接すると、これがごく小さな値になる。このような場合、闇雲に複局数を増やすと、以下のような問題が生じ得る。
例えば、最大有効ブランチ数が2の場合、遅延分解能だけ離れた到来遅延を有する2つの遅延波の間の到来時間に、さらに3つ目の遅延波が到来すると、3波目は元の2波の両方に重畳され、受信機でのパス分解後も共通して残留することとなって、パスダイバーシチにおけるブランチ(枝)間の相関を増し、劣化を生じてしまう。したがって、遅延上限が遅延分解能に近くなり、パスダイバーシチによる効果に寄与する最大有効ブランチ数が少数に限られるような場合においては、闇雲に複局送信を行う局数を増やすことによって、かえって特性の劣化が生じる場合が発生し得る。
遅延上限が遅延分解能に近くなり、最大有効ブランチ数が少数に限られるような場合について、背景技術の説明で挙げた各々の変復調方式に対して、さらに詳述すると以下のようになる。
DSSS方式を用いる場合、遅延上限は拡散符号長に相当するため、拡散符号長が短くなり、遅延分解能に相当する拡散チップ長に近づくと、最大有効ブランチ数が少数になる。例えば、拡散符号長が4チップ長であって、拡散率が4倍、すなわち、1シンボルが4チップの拡散符号で拡散されている場合、遅延分解能は1チップ長以上、遅延上限は4チップ長未満となるため、最大有効ブランチ数は高々4つ程度になる。FHSS方式を用いる場合、遅延分解能は拡散帯域幅、遅延上限はホップシーケンス長に相当する。したがって、拡散帯域幅が狭く、ホップシーケンス長が短い場合、最大有効ブランチ数が少数に限られる。
また、THSS方式を用いる場合、遅延分解能はパルス幅、遅延上限はパルスシーケンス長に相当する。したがって、パルス幅が広く、パルスシーケンス長が短い場合、最大有効ブランチ数が小数に限られる。同様に、OFDM方式では、遅延分解能はサブキャリアが分散配置された周波数帯域幅に相当し、遅延上限はガード区間長によって定まる。したがって、周波数帯域幅が狭く、ガード区間が短い場合、最大有効ブランチ数が少数に限られる。PSK−VP方式やPSK−RZ方式を用いる場合、原理的に、遅延上限がシンボル長を越えられないため、元々、遅延分解能と遅延上限が近接している。したがって、最大有効ブランチ数が少数に限られる。
また、等化器を用いる場合、遅延分解能はシンボル長、遅延上限は等化フィルタのタップ長で決まる。したがって、シンボル長に比べ、フィルタタップの時間長が短い場合、同様のケースとなる。なお、等化器においては、タップ数は回路規模を大きく左右するため、回路規模の制約から遅延上限が制限される場合が多い。
PSK−VP方式の特性評価結果を基に、最大有効ブランチ数が少数に限られる場合に、先に述べた特性の劣化が生じる例について具体的に説明する。図36は、BT積(スペクトル帯域幅とシンボル時間との積)を1.5としたQPSK−VP方式の2波の到来時間差に対するビット誤り率特性を示す図である。横軸は到来時間差をシンボル長Tで規格化した値を示し、縦軸はビット誤り率を示している。なお、伝送路はEb/No=25dBの2波ライスフェージング環境である。図36より、遅延量が0.2シンボル長から0.7シンボル長の範囲でパスダイバーシチによる効果が発揮されて、図36の到来時間差が0(単局送信時に相当)の場合に比べ、大幅な特性改善が得られることが分かる。つまり、この場合、遅延分解能は0.2シンボル長程度、遅延上限は0.7シンボル長程度である。したがって、この場合、最大有効ブランチ数は、2〜3程度のごく少数となる。
図37は、上記のQPSK−VP方式における2受信波と3受信波の場合のビット誤り率特性を示す図であり、図38は、図37における2受信波と3受信波の時間関係を示している。なお、各受信波はライスフェージング波で、3受信波は、2受信波の場合にさらに中間の時間位置に3波目を挿入した伝送路モデルである。図37に示すように、受信波が2波である場合に比べ、2波の間に3波目が挿入された場合のビット誤り率が劣化していることがわかる。このように、最大有効ブランチ数が少数(この例では2)に限られる場合には、最大有効ブランチ数を越える複数の到来波が異なるタイミングで受信機に到来すると、ある到来波(この例では2波の間に位置する3波目の波)の成分と、その両側の時間軸上にある2波の成分とが完全に分離しきれず、両側の2波に3波目の成分が共通に残留してしまい、両側の2波間の相関を高めることとなって、パスダイバーシチによる効果が十分に発揮できなくなり、特性の劣化を招くことが確認できる。
したがって、遅延波成分を分離できる遅延分解能と遅延上限とが有意に接近し、パスダイバーシチ効果に寄与する最大有効ブランチ数が少数に限られる場合、最大有効ブランチ数を越える数の管理局から不用意に複局送信させるとかえって伝送特性の劣化を招くことがあり得る。
したがって、遅延量の候補値の数を最大有効ブランチ数に等しい数以下にすることにより、最大有効ブランチ数に相当する数のタイミングに到来波を集中して受信することができる。これにより、最大有効ブランチ数に制限がある場合においても、パスダイバーシチによる効果を確実に得ることができる。
また、管理局の数が、最大有効ブランチ数より多い場合、複局同時送信が可能であっても、複局同時送信をさせない管理局を設けることとしてもよい。図39Aは、受信局における最大ブランチ数が3つである場合に、各管理局が保持する遅延量記録テーブルの一例を示す図である。この場合、図39Aに示すように、管理局1〜3がパケットの送信元管理局となる場合、管理局4は、ブロードキャストパケットを複局同時送信しない。一方、管理局4がパケットの送信元管理局となる場合、管理局3がブロードキャストパケットを複局同時送信しない。このように、複局同時送信が可能であっても、複局同時送信させない管理局(図39Aにおける遅延量「−」で表されている管理局)を設けるようにしてもよい。
なお、複局同時送信が可能であっても複局同時送信させない管理局を設けるには、例えば、ある管理局が遅延量通知パケットを送信する際に、一部の管理局に対しては、遅延量を含まない遅延量通知パケットを生成して送信すればよい。そして、遅延量を含まない遅延量通知パケットを受信した管理局は、当該遅延量通知パケットの送信元の管理局からブロードキャストパケットを受信した場合、ブロードキャストパケットを中継送信しないこととすればよい。このように、複局同時送信する管理局の数を制限することによって、管理局にかかる負荷を増大させることなく、パスダイバーシチによる効果を確実に得ることができる。
また、上記のように、闇雲に複局数が増えることを制限し、例えば、管理局の数が、最大有効ブランチ数より多い場合、最大ブランチ数に等しい複局数で送信させることとしたシステムでは、例えば、次のように、管理局数が減少した際のタイミング変更規則を予め決めておく。
(3)システムに残存する管理局数が、最大有効ブランチ数以上の場合
システムに残存する管理局のうち、複局同時送信能力を持ちながらそれまで複局同時送信に参加していなかった管理局の中で最も管理局IDの大きい管理局が、減少した管理局のうち、最も管理局IDの大きい管理局と同じタイミングに変更する。
上記規則(3)に従えば、例えば、図34Aに示すシステム構成である各管理局が、図39Aに示す遅延量記録テーブルを保持している場合、図34Bに示すように、管理局の数が4つから3つに減少しても、各管理局が独立して自局が保持する遅延量記録テーブルを変更することができる。
図39Bは、管理局1が消失した場合の遅延量記録テーブルの一例を示す図である。この場合、複局同時送信時の遅延量として、管理局4にゼロが割り当てられる。図39Cは、管理局2が消失した場合の遅延量記録テーブルの一例を示す図である。この場合、複局同時送信時の遅延量として、管理局2に割り当てられていた遅延量が管理局4に割り当てられる。図39Dは、管理局3が消失した場合の遅延量記録テーブルの一例を示す図である。この場合、複局同時送信時の遅延量として、管理局3に割り当てられていた遅延量が管理局4に割り当てられる。図39Eは、管理局4が消失した場合の遅延量記録テーブルの一例を示す図である。この場合、複局同時送信時の遅延量として、管理局1〜3に割り当てられた遅延量は変更されない。
このように、各管理局は、複局同時送信できる全ての管理局の遅延量を記憶する遅延量記録テーブルを保持し、複局数などの複局状況が変化した際の送信タイミング変更手順を予め決めておく。これにより、初期のネゴシエーション時の送信タイミング設定手順に比べ、複局状況が変化した場合であっても、簡素な手順で複局同時送信を行い得る管理局の送信タイミングを再設定することができる。したがって、伝送効率の低下を抑えながら、最大限のパスダイバーシチ効果を確実に発揮させることができる。
また、本実施形態では、チャネル情報パケットの送信を、無線伝送システムに存在する管理局数分繰り返すことによって、複局同時送信する際の遅延量を決定していた。ここで、最初に送信されたチャネル情報パケットと、当該チャネル情報パケットに対して送信される応答パケットとの数に基づいて遅延量を決定することとしてもよい。
図40は、一度のチャネル情報パケットの送信によって、各管理局が複局同時送信時にパケットに与えるべき遅延量を決定する際の管理局1〜3の動作を示すシーケンス図である。管理局2及び3は、管理局1が送信したチャネル情報パケットを受信すると、応答パケットを生成して送信する。管理局1は、管理局2及び3が送信した応答パケットを受信する。また、管理局2は、管理局3が送信した応答パケットを受信し、管理局3は、管理局2が送信した応答パケットを受信する。管理局1〜3は、受信したチャネル情報パケット及び応答パケットの合計数がブロードキャストパケットを中継送信する際に、複局同時送信できる管理局数であると判断する。そして、管理局1〜3は、前述した所定の規則に従い、自局が複局同時送信する際に、パケットに与えるべき遅延量を決定する。このように、一度のチャネル情報パケットの送信で、各管理局が遅延量を決定することとすれば、遅延量を決定するための手順をより簡易なものとすることができる。
(実施例)
最後に、上記した第1〜第4の実施形態のいずれかの無線伝送方法を用いてパスダイバーシチ効果を確実に発揮させる無線伝送システムの具体例について説明する。一例として、管理局の変復調方式にQPSK−VP方式を用いて、無線区間の伝送速度を2Mbpsとして宅内などの近距離で通信を行う場合について説明する。
宅内において1つの局から電波を送信した場合、電波が室内の壁や天井などで反射することでマルチパスが生じ、送信局が見通し外(例えば、隣室など)に位置する場合、送受信間の距離がほぼ同じ付近の受信電力分布は、一般的に、レイリー(Rayleigh)分布を示すことが知られている。また、宅内伝送では、一般的に部屋の大きさが数m四方程度と小さいため、1局で送信した時に生じるマルチパスが受信局へ到達する際の時間差のばらつき(以下、遅延分散と呼ぶ)は、数ns〜10ns程度となることが知られている。
図41Aは、PSK−VP方式の2波レイリーフェージング環境下(1波毎の遅延分散は0)における2波間の時間差τとビットエラーレート(BER)との関係を評価したシミュレーション結果を示す図である(非特許文献1の図9)。横軸は、シンボル時間で正規化された2波の到来時間差を示し、縦軸は、ビット誤り率を示す。φmは、シンボル内に加える冗長位相の最大位相遷移量を示す。
図41Aより、φmとして適切な値を選択することで、到来時間差が0.1〜0.8シンボルの間で、伝搬時間差=0の場合に比べてビット誤り率特性を大幅に改善できることがわかる。
図41Bは、1波毎は遅延分散0で独立にレイリーフェージングする波が受信局に、1波のみ到来する場合(A)、適度な時間差で2波到来する場合(B)、適度な時間差で3波到来する場合(C)のQPSK−VP方式の受信信号強度とBERとの関係を示すシミュレーション結果を示す図である(非特許文献1の図12)。PSK−VP方式のマルチパス環境下におけるBER特性は、波形整形方法や帯域制限具合により異なるが、例えば、非特許文献1に示された波形整形方法や帯域制限の条件(Parabolic、φm=π、Gauss、BT=1.3)を用いた場合、図41Bに示すように、1波すなわち1局がパケットを送信する場合に比べ、複局同時送信することで、パスダイバーシチによる効果が得られ、BER特性が大幅に改善されることが分かる。
また、図41A及びBに示すシミュレーション結果より、図17A、図29A、図32Aにおけるτの値を、例えば、複局数が2局の場合にはτ=0.5シンボル程度、3局以上の場合には、τ=0.4シンボル程度とすればよいことが分かる。
上述した宅内伝搬環境下における1局毎の遅延分散値(数ns〜10ns程度)は、本実施例の伝送速度(2Mbps)に対するシンボル時間長(1μs)に比べると、極めて小さい。したがって、例えば、上述した条件のQPSK−VP方式を用いて、部屋間などの近距離で無線通信する場合、図41A及びBに示すシミュレーション結果とほぼ同様のBER特性を得ることができると考えられる。
図42Aは、宅内に管理局を配置した場合における管理局1〜3の位置関係を示す図である。図42Aに示すように、宅内に4m四方の部屋が6つあり、各部屋の中央付近に、管理局1〜4が配置されているとする。このとき、管理局1〜3から管理局4までの伝搬距離の差(高々4m)に対する伝搬時間差は、せいぜい十数nsである。この伝搬時間差は、シンボル時間長(1μs)に比べて極めて小さい。したがって、中継送信時に複局同時送信する管理局の遅延量を上述した手順で決定する際に、2つの管理局(例えば、送信元局が管理局1の場合は管理局2,3)の送信タイミングの時間差τを0.2シンボル(200ns)〜0.8シンボル(800ns)以内とすることで、2ブランチ相当のパスダイバーシチ効果を発揮することができる。また、中継送信時に、複局同時送信する管理局が3局である場合、例えば、遅延量τを0.5シンボル程度として、図32Aに示すのような遅延量記録テーブルを管理局に保持して複局同時送信すれば、3ブランチ相当のパスダイバーシチ効果を発揮できる。
例えば、通信エリアの所要品質をBER=10-5とすると、図41Bの結果から単局送信時(A)に比べ、2局の複局同時送信時(B)で約20dB、3局の複局同時送信時(C)で約23dBのパスダイバーシチ利得が得られることが分かる。この利得による通信エリアの拡大効果を、説明の簡単のために仮に伝搬損失を自由空間損失で考え算出すると、単局送信時に比べ、2局の複局同時送信時で約10倍、3局の複局同時送信時で約14倍のエリア拡大が見込める。実際には、伝搬損失として、壁等による透過損失が加わるため、ここまでの拡大は見込めないが、それでも、本実施例の方法を用いて適切な時間差τを設けて中継伝送時に複局同時送信することにより、単局送信時に比べ、数倍のエリア拡大が見込める。
したがって、単局送信時の通信エリアを例えば半径10m程度として管理局の送信電力を決めた場合、図42Aに示したようなサイズ程度の家屋であれば、中継送信時に複局同時送信することにより、宅内全域にブロードキャストパケットを伝送することができる。また、家屋が比較的近接している場合には、図42Bに示すように、A宅の無線システムで使用しているチャネル情報などを含むブロードキャストパケットを隣家にまで到達させることができるため、隣接する家屋で各々構成している無線システム間でのチャネル干渉を回避することも可能となる。
なお、以上説明した第1〜第4の実施形態では、変復調方式として、PSK−VP方式を用いるものとして説明した。ここで、変復調方式は、耐マルチパス性を有する変復調方式であればよいため、PSK−VP方式には限られない。例えば、PSK−RZ方式や、DSSS方式等のスペクトル拡散方式、OFDM方式、又は、伝送シンボル内に加える位相変化の方向に情報をのせることで耐マルチパス性を発揮させるDSK(Double
Shift Keying)方式(遅延上限は0.5ビット未満)を用いても構わないし、復調部に等化器を用いても構わない。DSK方式については、非特許文献3に詳しく記載されている。
各変復調方式について、各管理局間の送信タイミングの差が遅延分解能以上遅延上限以下となるように各管理局の複局同時送信時の送信タイミングを、複局同時送信が行われる以前に各管理局がネゴシエーションすることを利用して決定することより、複局数が変化しても複局同時送信時に適度な到来時間差のマルチパスを発生できるため、パスダイバーシチ効果を確実に発揮させることができる。
また、第1〜第4の実施形態において、各管理局は、パケットを送信するものとして説明した。ここで、各管理局が送信する情報はパケットに限られず、例えば、管理局同士が長期に渡って同一の情報を送信する場合においても、本発明を適用することができる。
なお、背景技術の項で述べたように、各変復調方式の遅延分解能と遅延上限は、PSK−RZ方式の場合はシンボル長の数分の1、1シンボル未満、DSK方式の場合はシンボル長の数分の1、0.5シンボル未満、DSSS方式の場合は1チップ時間、拡散符号長、OFDM方式の場合は周波数帯域幅の逆数、ガード区間長、等化器を用いる場合はシンボル時間、タップ数で決まる時間長である。
(第5の実施形態)
図43Aは、本発明の第5の実施形態に係る無線伝送システムの構成の一例を示す図である。図43Aにおいて、無線伝送システムは、無線局1−1〜1−n及び2−1〜2−nを備える。図43Bは、図43Aに示す各無線局が単独で電波を送信(以下、単局送信と呼ぶ)した場合にその電波が所定の誤り率で正しく受信できる範囲(通信エリア)と、各無線局の位置関係とを示す図である。各無線局1−m、2−m(mは1以上n以下の自然数)は、単独で通信できる通信エリアE1−m、E2−mを各々有している。
各無線局は、それぞれ自局の通信エリア内に存在する無線局と無線を介して接続されている。各無線局は、他の無線局との通信時に対等分散型のネットワークを構成する。各無線局は、特定の無線局と直接通信できる場合、他の無線局を介さずに直接通信する。
なお、無線局は、自局の通信エリアで使用する通信チャネルを決定し、自局通信エリア内に存在する無線局に対して、自局の通信エリアで使用する通信チャネルの情報を報知する管理局として動作してもよい。図44Aは、図43Aに示す無線局1−1及び2−1が管理局として動作する場合の無線伝送システムの構成を示す図である。無線局1−1は、自局通信エリアE1−1内に存在する無線局1−2及び1−nに対して、通信エリアE1−1で使用するチャネル情報を報知する。これにより、通信エリアE1−1内に存在する無線局1−1〜1−nは、同じ通信チャネルを用いて通信を行う一つのグループを構成する。また、無線局2−1は、無線局1−1と同様に、通信エリアE2−1内で管理局として動作することによって、通信エリアE2−1内に存在する無線局2−1〜2−nも、一つのグループを構成する。無線局3−1は、無線局1−1と同様に、通信エリアE3−1内で管理局として動作することによって、通信エリアE3−1内に存在する無線局3−1〜3−nも、一つのグループを構成する。図44Bは、図44Aに示す無線局の位置関係を示す図である。
無線局がグループの管理局として動作する場合、グループの管理局として動作する無線局と、他の無線局とは、セルラー系のシステムを構成する基地局と無線局とのような関係にはない。管理局として動作する無線局と他の無線局とは、通信時において、対等分散型のネットワークを構成する。つまり、管理局として動作する無線局k−1(kは1〜3の自然数)は、自グループで使用する通信チャネルを決定する機能を備えるが、それ以外の機能に関して無線局k−2〜k−nとの区別はない。無線局k−1〜k−nは、直接通信できる場合、他の無線局を介さずに通信する。また、管理局は最初から決まっている必要はない。例えば、一つのグループを構成する無線局k−1〜k−nのうち管理局になり得る機能を有する無線局が、管理局となることを宣言することで決められる。なお、一つのグループ内に管理局になり得る機能を有する無線局が複数ある場合には、最初に管理局となることを宣言した無線局が管理局となればよい。
複数のグループを構成する無線局同士は、複数のグループ間で共通に用いられる共通チャネルを用い、互いに自局グループ内で使用するチャネル情報や、自局グループ内の無線局ID、グループ間あるいはグループ内での同期をとるためのビーコン情報などの情報を含むパケット(以下、チャネル情報パケットと呼ぶ)を周囲の無線局に報知しあう。これによって、複数のグループを構成する無線局同士は、異なるグループ間で発生する通信チャネルの干渉の防止や、異なるグループに属する無線局間の通信を可能にしている。
本実施形態に係る無線伝送システムは、図44Bに示すように無線局が複数のグループを構成しており、グループ内の任意の無線局が管理局として動作しているものとして説明する。また、本実施形態では、通信チャネル及び共通チャネルは、FDMAシステムの周波数チャネルを意味するものとして説明する。但し、上記チャネルは、これに限るものではなく、TDMAシステムのタイムスロット、CDMAシステムなどの拡散コードなどにより区別されるものであってもよい。
無線局k−1〜k−nは、耐マルチパス性を有する変復調方式を用いてパケットを送受信する。本実施形態では、耐マルチパス性を有する変復調方式として、PSK−VP方式を用いて送信する場合を例に説明する。
図45は、本システムにおいて送受信されるパケットの構成例を示す図である。図45に示すパケットは、プリアンブル(PR)と、ユニークワード(UW)と、パケット識別子と、宛先局アドレスと、送信元アドレスと、中継回数識別子と、情報データと、CRCとからなる。
プリアンブルは、利得制御やクロック再生、周波数制御等のために用いられる。ユニークワードは、パケット同期に用いられる。パケット識別子は、パケットを識別するために用いられる。宛先局アドレスは、パケットの送信先である無線局のアドレスを示すものである。送信元アドレスは、パケットの送信元である無線局のアドレスを示すものである。中継回数識別子は、パケットが送信される時点におけるそのパケットの中継された回数を示すものである。情報データは、送信すべきデータの本体である。CRCは、CRC符号であって、誤り検出に用いられる。なお、本実施の形態では、ユニークワードとパケット識別子とを別々に設けているが、パケットの種別に対応した複数のユニークワードを用意して、パケット同期とパケット種別の識別を同時に行うことももちろん可能である。
図46A及び46Bは、特許文献2に記載の従来の無線伝送システムと本実施形態における無線伝送システムとの違いを説明するための図である。図46Aは、特許文献2に記載の従来の無線伝送システムの構成図である。図46Bは、本実施形態における無線伝送システムの構成図である。図46A及び46Bにおいて、無線局1−2及び1−nは、パスダイバーシチ効果が発揮できる到来時間差(τ)に比べ、伝搬時間が無視できる程近傍に位置している。図46A及び46Bにおいて、無線局1−1と無線局2−1とは、互いの通信エリア内に存在していないため、直接通信を行うことができない。無線局1−1から無線局2−1にパケットを送信する場合、無線局1−2及び1−nがパケットの中継送信を行う。図46A及び46Bは、無線局1−2及び1−nの中継送信時に、無線局2−1へ複局同時送信する様子の一例を示している。なお、以下の説明では、中継送信が必要なパケットをブロードキャストパケットと呼ぶ。
図46Aに示す特許文献2に記載の従来の無線伝送システムの場合、無線局1−2及び1−nは、殆ど同時、すなわち遅延分解能未満の時間差でブロードキャストパケットを中継送信する。このため、従来の無線伝送システムは、パスダイバーシチによる効果が得られない。したがって、無線局1−2及び1−nが中継送信を行っても、無線局1−2及び1−nの単局送信時の通信エリアE1−2〜E1−n外に存在する無線局2−1〜2−nは、無線局1−1が送信したブロードキャストパケットを正常に受信することができない。
一方、図46Bに示す本実施形態における無線伝送システムの場合、無線局1−1は、ブロードキャストパケットを無線局1−2及び1−nに送信する。また、無線局1−1は、ネゴシエーション区間(ネゴ区間)において、無線局1−2及び1−nが適切な時間差で複局同時送信を行うことができるように、遅延量を無線局1−2及び1−nにそれぞれ通知する。各遅延量の差が所定の遅延分解能以上に設定され、最大値と最小値との差が所定の遅延上限以下に設定されるように、当該複数の遅延量は、決定されている。遅延分解能及び遅延上限は、パスダイバーシチのための各システムに応じて、決定される。以下、複局同時送信を行うために適切な送信タイミングを決定する手順をネゴシエーションと呼ぶ。無線局1−2及び1−nは、ブロードキャストパケットを中継送信する基準となるタイミング(基準タイミング)から、無線局1−1から通知された遅延量だけ遅延させたタイミングを送信開始タイミングとして、無線局1−1が送信したブロードキャストパケットの複局同時送信する。なお、無線局1−1は、上述した遅延量を無線局1−2及び1−nに与えるために遅延量情報を含むパケット(遅延量通知パケット)を生成し、送信する。
無線局1−1が無線局1−2及び1−nに与える遅延量の差は、受信側においてパスダイバーシチによる効果が得られる適度な値、すなわち、所定の遅延分解能以上かつ所定の遅延上限以下である。したがって、無線局1−2及び無線局1−nは、中継送信時において、無線局1−2及び1−nが単局送信した場合のそれぞれの通信エリアE1−2及びE1−nより通信エリアを拡大できる。よって、無線局1−2及び1−nの単局送信時の通信エリアE1−2及びE1−n外に存在する無線局2−1〜2−nは、ブロードキャストパケットを正常に受信することができる。なお、図46Bにおいて、E1−2,1−nは、パスダイバーシチによる効果が得られる適切な時間差で無線局1−2及び1−nが複局同時送信を行った際に確保される通信エリアを示している。
図47A及び47Bは、図46Bに示す無線伝送システムにおいて送受信されるパケットの構成を示す図である。図46Bにおいて、無線局1−1は、図47Aに示すパケットを生成して、無線局1−2及び無線局1−nに送信する。ここで、パケット識別子は、0が中継不要パケット、1がブロードキャストパケット、2がチャネル情報パケット、3が応答パケット、4が遅延量通知パケットを示すものとする。応答パケットとは、ブロードキャストパケットを正常に受信できたことを周囲に通知するためのパケットである。応答パケットは、ブロードキャストパケットに対する応答であるので、同報応答パケットともいう。
例えば、無線局1−1が生成するパケットの識別子には、当該パケットがブロードキャストパケットであることを示す「1」が記録される。また、宛先局アドレスには、パケットの宛先である無線局2−1のアドレスが記録され、送信元アドレスには、無線局1−1のアドレスが記録される。また、無線局1−1がパケットを送信する時点では、パケットはまだ中継送信されていないため、中継回数識別子には「0」が記録される。
無線局1−2及び1−nは、無線局1−1が送信した図47Aに示すパケットを受信すると、図47Bに示すブロードキャストパケットを生成して送信する。図47Bは、無線局1−2及び1−nが送信するパケットの構成を示す図である。図47Bに示すように無線局1−2及び1−nは、受信したブロードキャストパケットの中継回数識別子を、「1」に書き換えて送信する。このように、1つの無線局(図46Bの場合、無線局1−1)から送信されたブロードキャストパケットは、複数の無線局(図46Bの場合、無線局1−2及び1−n)によって複局同時送信される。
なお、本実施形態の無線伝送システムでは、中継回数識別子の最大値(最大中継回数)を所定回数に決めている。そして、無線局は、図47A又は47Bに示すパケットを受信した場合、パケットに含まれる中継回数識別子と所定の最大中継回数とを比較して、中継送信を行うか決定する。例えば、最大中継回数を1回として、各無線局が最大中継回数を予め保持しておけば、無線局2−2及び2−nは、中継局1−2及び1−nからのブロードキャストパケットを受信してもさらに中継することはない。したがって、図46Bに示す無線伝送システムでは、宛先局である無線局2−1でパケットが正常受信された後に、無駄にそのパケットが中継送信されなくて済む。なお、最大中継回数は、所定回数に決められていなくてもよい。例えば、図47A及び/又は47Bに示すパケットに、最大中継回数を保持する領域を別に設けて、パケットの重要度に応じて最大中継回数を設定してもよい。
なお、システムによっては、送信元の無線局において宛先局までパケットを伝送するために、中継が必要か否か分からない場合がある。このような場合、パケット識別子「0」と「1」との区別をなくし、応答パケットや遅延量通知パケット以外のもの、すなわちパケット識別子が「3」又は「4」以外のものは、全てブロードキャストパケットとして扱ってもよい。
図48は、無線局1−1の構成例を示すブロック図である。図48に示すように、無線局1−1は、アンテナ31、RF部32、復調部33、パケット判定部34、自局パケット処理部35、遅延量決定部36、送信タイミング制御部38、送信パケット処理部40、変調部41及びテーブル格納部42を備える。なお、他の無線局も、無線局1−1と同様の構成を有する。
パケット判定部34は、復調部33によって復調された受信データ中に含まれるCRC符号などの誤り検出符号を用いて、パケットを正常に受信することができたか否かを判断する。パケットを正常受信できた場合、パケット判定部34は、パケット中に含まれるパケット識別子と、宛先局アドレスと、送信元アドレスと、送信元無線局IDとを解析する。
受信したパケットがブロードキャストパケットである場合、パケット判定部34は、送信パケット処理部40に、受信したデータ中に含まれる送信元アドレスを応答先の無線局のアドレスとして通知し、応答パケットを生成するよう指示する。また、パケット判定部34は、応答パケットの送信開始タイミングを決定するよう送信タイミング制御部38に通知する。さらに、パケット判定部34は、ブロードキャストパケットの受信が完了したことを示す受信完了信号を生成して、送信元アドレス、パケット識別子、及び受信完了信号を送信タイミング制御部38に渡す。また、このとき、パケット判定部34は、ブロードキャストパケット中のUW以降のデータを中継データとして送信パケット処理部40に渡し、中継送信するためのブロードキャストパケットを生成するよう指示する。
受信したパケットがチャネル情報パケットである場合、パケット判定部34は、受信データ中に含まれる送信元アドレスと、送信元局がグループ内で使用しているチャネルと、中継回数識別子に格納された中継回数とを認識する。中継回数が最大中継回数以上の場合、パケット判定部34は、受信したパケットが自局の所属し得るエリア外の局から送信されたものと判断する。一方、中継回数が最大中継回数以下の場合、パケット判定部34は、受信されたパケットは自局が所属し得るエリアのグループの無線局から送信されたものと判断する。そして、パケット判定部34は、送信元アドレスと、グループ内で使用するチャネルの情報とを、図示しない通信制御部に渡す。
受信したパケットが応答パケットである場合、パケット判定部34は、応答パケットに含まれる送信元アドレスを周辺局情報として遅延量決定部36に渡す。
また、受信したパケットが遅延量通知パケットである場合、パケット判定部34は、遅延量通知パケットを遅延量決定部36に渡す。
また、受信したパケットが自局宛のパケットである場合、パケット判定部34は、受信データを自局パケット処理部35に渡す。自局パケット処理部35は、パケット判定部34から受け取った自局宛パケットに対する処理を行う。
遅延量決定部36は、後述する応答区間の終了時刻までに通知された周辺局情報を元に、自局が送信したブロードキャストパケットの中継送信が可能な無線局のID及び数を認識する。中継送信が可能な無線局数が複数の場合、遅延量決定部36は、各無線局に割り当てる遅延量を決定する。そして、遅延量決定部36は、決定した遅延量を遅延量記録テーブル37に記録すると共に、決定した遅延量及び宛先アドレスを送信パケット処理部40に渡す。また、遅延量決定部36は、遅延量通知パケットを受け取ると、自局及び他局に割り当てられた遅延量を抽出して遅延量記録テーブル37に記録する。
通信制御部(図示せず)は、チャネル情報パケットを受信した場合、パケット判定部34から送信元アドレスとチャネル情報とを受け取る。通信制御部は、送信元アドレスを自局が参加するグループの管理局のアドレスとして保存すると共に、チャネル情報を保存する。また、通信制御部は、自局が現在中継可能な状態であるか否かを示す中継可否信号を、送信タイミング制御部38に渡す。なお、通信制御部は、中継送信ができない場合にのみ中継可否信号を送信タイミング制御部38に渡してもよいし、中継送信が可能な場合にのみ中継可否信号を送信タイミング制御部38に渡してもよい。
送信タイミング制御部38は、自局が中継可能な場合、基準タイミングと、遅延量記録テーブル37に記録されている遅延量とに基づいて、ブロードキャストパケットを送信するタイミングを制御する。具体的には、送信タイミング制御部38は、パケット判定部34から受信完了信号を受け取ってから所定時間経過後を基準タイミングとし、当該基準タイミングから遅延量記録テーブル37に記録されている自局に割り当てられた遅延量だけ遅延させたタイミングを、ブロードキャストパケットを中継送信する際の送信開始タイミングとする。そして、送信タイミング制御部38は、送信開始タイミングになると、送信開始を指示するための送信開始信号を生成して変調部41に渡す。また、送信タイミング制御部38は、応答パケットの送信をパケット判定部34から通知されると、所定の応答区間において、ランダムなタイミングで送信開始信号を生成し、変調部41に渡す。
送信パケット処理部40は、自局が送信元となる場合には、図示しない制御部から自局から他の無線局に対して伝えたい情報を自局データとして受け取り、自局データに所定のヘッダ(プリアンブルやユニークワードなど)やフッダ(CRC符号など)を付加したブロードキャストパケットあるいは中継不要パケットを生成し、保持する。また、送信パケット処理部40は、遅延量決定部36から遅延量及び宛先アドレスを受け取ると、宛先アドレスと遅延量に所定のヘッダやフッダを付加した遅延量通知パケットを生成し、保持する。また、送信パケット処理部40は、パケット判定部34から中継データを受け取ると、中継データに所定のヘッダを付加し、ブロードキャストパケットを生成し、保持する。また、送信パケット処理部40は、パケット判定部34から応答パケットを生成するよう指示を受けると、応答パケットを生成し、保持する。
テーブル格納部42は、遅延量記録テーブル37を格納する。遅延量記録テーブル37には、他の無線局から通知された遅延量と、自局が送信元無線局となる場合に他の無線局に割り当てるべき遅延量とが記録される。
変調部41は、送信パケット処理部40によって生成されたパケット中の送信データで変調した変調ベースバンド信号を生成し、出力する。PSK−VP方式を用いて通信する場合における変調部41の構成は、図6に示す構成と同様である。また、復調部33の構成は、図7に示す構成と同様である。
図49は、以上のように構成される無線局の動作の概要を示すシーケンス図である。まず、無線局1−1が送信するブロードキャストパケットは、無線局1−2及び1−nによって受信される。無線局1−2及び1−nは、無線局1−1に応答パケットを送信する。無線局1−1は、応答パケットを受信すると、無線局1−1が送信元無線局となるブロードキャストパケットを無線局1−2及び1−nが複局同時送信する際の各無線局の遅延量を決定する。そして、無線局1−1は、決定した遅延量を通知するための遅延量通知パケットを生成して、無線局1−2及び1−nに送信する。
図50〜図53は、図48に示す無線局の動作を示すフローチャートである。無線局は、電源投入時など、新たなグループへの参加や新たなグループの構築を開始する際(既存管理局探索モード)、パケットの受信を所定時間待ち、所定のエリア内にグループを構成する管理局が存在するか否かを判断する。無線局は、管理局が存在した場合にはその管理局が管理するグループへ参加し、管理局が存在しない場合には自局が新たなグループの管理局となる。図50のフローチャートでそのときの無線局の動作について説明する。なお、以下に示すフローチャートは、無線局1−1の動作であるとして説明する。
無線局1−1は、パケットの受信を所定時間待つための待機タイマーをリセットし(ステップS231)、受信状態で待機する(ステップS232)。そして、無線局1−1は、所定時間が経過するまでの間に(ステップS234においてNo)、パケットを受信すると(ステップS233においてYes)、受信したパケットを復調する(ステップS235)。具体的には、復調部33は、アンテナ31で受信され、RF部32で周波数変換された受信ベースバンド信号を復調し、復調データとする。
パケット判定部34は、復調データにCRCチェックを施し、パケットを正常に受信できたか否かを判断する(ステップS236)。パケットを正常に復調することができない場合、無線局1−1は、再び受信状態で待機する(ステップS232)。一方、パケットを正常に復調することができた場合、パケット判定部34は、受信したパケットのパケット識別子を参照し、チャネル情報パケットであるか否かを判断する(ステップS237)。
受信したパケットがチャネル情報パケットでない場合、無線局1−1は、再び受信状態で待機する(ステップS232)。一方、受信したパケットがブロードキャストパケットである場合、パケット判定部34は、受信したパケットの送信元アドレス(送信元ID)と、送信元局がグループ内で使用しているチャネルと、パケットが中継送信された回数(中継回数)とを認識する(ステップS238)。中継回数が最大中継回数より大きい場合、無線局1−1は、受信したパケットが、自局が所属しうるエリアの外の局から送信されたものと判断し、再び受信状態で待機する(ステップS232)。一方、中継回数が最大中継回数以下の場合(ステップS239においてYes)、無線局1−1は、受信したパケットが、自局が所属し得るエリアのグループの無線局から送信されたものと判断する。そしてパケット判定部34は、自局が参加するグループの管理局IDとして送信元IDと、グループ内で使用するチャネルの情報とを、図示しない通信制御部に渡す。そして、通信制御部は、それらを保存する(ステップS240)。そして、処理は図11のステップS251に進む。
一方、ステップS234において、所定時間が経過した場合、無線局1−1は、自局が新たなグループの管理局となることとし(ステップS241)、グループ内で使用する使用チャネルを決定する(ステップS242)。そして、処理は図11のステップS251に進む。
図51は、既存管理局探索モードが終了した後の無線局1−1の動作を示すフローチャートである。無線局1−1は、受信状態で待機して(ステップS251)、パケットを受信しない状態(ステップS252においてNo)が所定時間続いた場合(ステップS253においてYes)、チャネルが使用可能であることを確認する。無線局1−1は、自局が送信元として送信したいパケットがない場合(ステップS254においてNo)、受信状態でさらに待機する。一方、無線局1−1は、自局に送信元として送信したい情報(チャネル情報パケット、中継送信中止パケット、ブロードキャストパケットのうちいずれかのパケット)がある場合(ステップS254においてYes)、情報パケットを送信パケット処理部40で生成し(ステップS255)、送信タイミング制御部38は送信開始タイミング信号を変調部41に出力し、送信パケット処理部40は情報パケットの送信データを変調部41に渡す。変調部41は、情報パケットの送信データから変調信号を生成し、RF部32及びアンテナ31を介して送信する(ステップS256)。
そして、無線局1−1は、受信状態で他の無線局から応答パケットが送信されてくるのを待つ(ステップS257)。無線局1−1は、応答区間が終了するまでの間(ステップS259においてNo)、応答パケットを正常受信したか否かを判断する(ステップS258)。応答パケットを正常に復調できた場合(ステップS258においてYes)、無線局1−1は、応答パケットの送信元の無線局が情報パケットの宛先の無線局であるか否かを判定する(ステップS260)。応答パケットの送信元の無線局が情報パケットの宛先局でない場合、パケット判定部34で送信元IDを認識して遅延量決定部36に渡し、遅延量決定部36は応答パケットに含まれる送信元IDを自局が送信したパケットを中継送信してもらえる無線局のID(中継局ID)として保存する(ステップS261)。なお、応答パケットを送信する無線局は、中継が可能であるか否かを判断し、判断結果を応答パケットに含ませて、当該応答パケットを送信してもよい。これにより、応答パケットを受信した無線局は、応答パケットを送信した無線局による中継が可能であるか否かを判断することができる。無線局1−1は、応答区間が終了するまでこの動作を繰り返す。応答パケットの送信元の無線局が情報パケットの宛先局であった場合、無線局1−1は、中継送信を取りやめることを通知する中継送信中止パケットを生成する(ステップS262)。無線局1−1は、中継送信中止パケットを変調して送信し(ステップS266)、ステップS251の受信待機状態に戻る。
一方、ステップS259において、応答区間が終了し、応答パケットの受信待ち時間が経過すると、遅延量決定部36は、中継可能局数が2以上であるか否かを判断する(ステップS263)。具体的には、遅延量決定部36は、応答区間に応答があった周辺無線局の数(以下、中継可能局数と呼ぶ)を、応答区間に保存した中継局IDの数から判断する。中継可能局数が2つ未満であった場合、無線局1−1は処理を終了する(ステップS263においてNo)。
一方、中継可能局数が2つ以上であった場合(ステップS263においてYes)、遅延量決定部36は、ブロードキャストパケットを中継局から複局送信する際の中継局に割り当てる遅延量を決定し、遅延量記録テーブル37に記録する(ステップS264)とともに、中継局IDと中継局毎に決定した遅延量とを送信パケット処理部40に渡し、遅延量通知パケットを生成するよう指示する。
送信パケット処理部40は、遅延量決定部36からの指示に従い、遅延量通知パケットを生成して(ステップS265)、変調部41に渡す。変調部41は、遅延量通知パケットから変調信号を生成し、RF部32及びアンテナ31を介して送信する(ステップS266)。
一方、ステップS251〜S253の受信待機中にパケットを受信した場合(ステップS252においてYes)、無線局1−1は、受信したパケットを復調し(ステップS267)、パケット判定部34で正常受信できたか否かを判定する(ステップS268)。正常に受信しなかった場合、再度ステップS251に進む。正常に受信できた場合、図52のステップS271に進む。
図52及び図53は、図51の受信待機状態(ステップS251〜S253)において何らかのパケットを正常受信した場合(図51のステップS268においてYes)の、無線局1−1の動作を示すフローチャートである。無線局1−1は、受信したパケットが自局に宛てられたパケットである場合(ステップS271におけるYes)、自局パケット処理部35において所定の処理を施し(ステップS272)、ステップS273に進む。一方、受信したパケットが自局に宛てられたパケットでない場合(ステップS271におけるNo)、そのままブロードキャストパケット、すなわち中継が必要なパケット、であるか否かを判断する(ステップS273)。
受信したパケットがブロードキャストパケットでない場合(ステップS273においてNo)、無線局1−1は再度ステップS251に進み受信状態で待機する。受信したパケットがブロードキャストパケットである場合(ステップS273においてYes)、送信タイミング制御部38は、通信制御部(図示せず)から渡された中継可否信号を用いて、中継送信が可能であるか否か判断する(ステップS274)。中継送信ができない場合、無線局1−1は、図51に示すステップS251に戻る。中継送信が可能な場合、無線局1−1は、ステップS275に進む。
無線局1−1は、パケット処理部34でパケットに含まれる中継回数を認識し、中継回数が既に最大中継回数に達している場合(ステップS275におけるNo)、再度ステップS251に進み受信状態で待機する。中継回数が既に最大中継回数に達していない場合(ステップS275におけるYes)、パケット判定部34は、受信完了信号を生成し、パケットの識別子と共に送信タイミング制御部38に渡す(ステップS276)。また、パケット判定部34は、送信元無線局IDを認識して送信パケット処理部40に渡し、応答パケットを生成するよう指示する。送信パケット処理部40は、応答パケットを生成して保存する(ステップS277)。
送信タイミング制御部38は、受信完了信号を基にランダムなタイミングで送信開始信号を生成し、変調部41に渡す。変調部41は、送信開始信号を受け取ると、応答パケットの送信データを読み出して変調信号を生成する。変調部41によって生成された変調信号は、RF部32及びアンテナ31を介して無線信号として送信される(ステップS278)。
さらに、パケット判定部34は、復調データから図45のUW以降のデータをペイロードデータとして抽出し、ペイロードデータ中の中継回数を1ふやしたペイロードデータを中継データとして、送信パケット処理部40に渡す(ステップS279)。送信パケット処理部40は、中継データに所定のヘッダを付加してブロードキャストパケットを生成し、保存する(ステップS280)。さらに、送信タイミング制御部38は、受信完了信号を基に、基準タイミングを決定する(ステップS281)。
ステップS282以降の無線局1−1の処理は、図53を用いて説明する。ステップS281において、送信タイミング制御部38が基準タイミングを決定した後、無線局1−1は、所定の時間、ブロードキャストパケットの送信元無線局から遅延量通知パケットが報知されるのを待つ(ステップS282〜S284)。
所定時間内に遅延量通知パケットを正常受信した場合(ステップS283におけるYes)、遅延量決定部36は、パケット判定部34から遅延量通知パケットのペイロード部分を受け取り遅延量を抽出し、抽出した遅延量を遅延量記録テーブル37に記録する(ステップS285)。そして、送信タイミング制御部38は、遅延量記録テーブル37を参照し、基準タイミングから、自局に割り当てられた遅延量だけ遅延させたタイミングを送信開始タイミングとして決定する(ステップS286)。一方、所定時間内に遅延量通知パケットを正常受信しなかった場合(ステップS283におけるNo)、送信タイミング制御部38は、図52に示すステップS281で決定した基準タイミングを送信開始タイミングとして決定する(ステップS287)。送信タイミング制御部38は、送信開始タイミングになると、送信開始信号を生成して変調部41に渡す(ステップS288におけるYes)。
変調部41は、送信開始信号を受け取ると、ブロードキャストパケットの送信データを読み出して変調信号を生成する。変調部41によって生成された変調信号は、RF部32及びアンテナ31を介して無線信号として送信される(ステップS289)。その後、無線局1−1は、再度ステップ51に進み受信状態で待機する。
以上、図50〜図53のフローチャートを用いて、無線局1−1の動作について説明したが、上記した無線局の動作はすべての無線局で共通する。
図54A〜54Cは、一つの無線局1−1が発生してから、その無線局1−1がグループを構成し、図43A〜43Bに示すグループ構成となり、無線局1−1から送信されたブロードキャストパケットが中継送信時に適度な時間差で複局同時送信されるまでの手順の一例を示す図である。図55A〜55Cは、一つの無線局1−1が発生してから、その無線局1−1がグループを構成し、図1に示すグループ構成になるまでの無線局1−1〜1−nの位置関係を示す図である。以下、図54A〜54C及び図55A〜55Cを参照して、図48に示す無線局1−1〜1−nがネゴシエーションし、中継送信時に各無線局に割り当てる遅延量を決定して、適度なタイミングで複局同時送信される手順について説明する。なお、図54A〜54Cでは、チャネル情報パケットが中継伝送されるものとして説明する。すなわち、チャネル情報パケットをブロードキャストパケットとして説明する。
まず、図54A及び図55Aに示すように、無線局1−1の周辺に他の無線局がなく、無線局1−1において所定の時間にチャネル情報パケットが受信されない場合、無線局1−1はチャネル情報パケットを送信元局として送信し、自局が管理局となることを宣言する。なお、本実施形態の無線システムでは、ある無線局kからブロードキャストパケット(チャネル情報パケットを含む)が送信されると、そのパケットの送信開始時点からそのパケットの中継伝送が完了されるまでの所定の時間が、そのパケットを送信元局として送信した無線局kのパケットを伝送するための区間(無線局k伝送区間)として割り当てられる。
次に、図55Bに示すように、無線局1−1の通信エリアE1−1内に、新たに無線局1−2が発生した場合、無線局1−2は、共通チャネルを所定期間観測して図50に示した手順に従って既存周辺管理局の探索をする。所定期間は、例えば、チャネル情報パケットが周期的に送信される場合には、その1周期時間以上とればよい。その後、無線局1−2は、無線局1−1が送信したブロードキャストパケットを受信すると(図54B:B−11)、図51に示した手順にしたがって、ブロードキャストパケットを正常に受信できたことを周囲に通知するための応答パケットを生成して所定の応答区間に送信する(図54B:B−12)。
無線局1−1は、応答区間に、無線局1−2から送信されてきた応答パケットを受信し、図50に示した手順で中継可能局数を認識する(図54B:B−12)。このとき、自グループに存在する無線局は、無線局1−1及び1−2の2つであるため、無線局1−1が応答区間内に受信する応答パケットは1つである。したがって、ブロードキャストパケットを中継送信する際に複局同時送信することはできないため、無線局1−1は、無線局1−2に遅延量を割り当てない(図54B:B−13)。
この場合、無線局1−1から送信されたブロードキャストパケットは、予めシステムで定めた所定の基準タイミング(T0)に、単純に無線局1−2から単局で中継送信される(図54B:B−14)。
次に、図55Bから図55Cに示すように、無線局1−1及び1−2が形成するグループに、新たに無線局1−nが発生した場合について説明する。まず、無線局1−nは、共通チャネルを所定期間観測して、図50に示した手順に従って既存周辺管理局の探索をする。その後、無線局1−2及び1−nは、無線局1−1から送信されてきたブロードキャストパケットを受信する(図54C:C−11)と、図52に示した手順にしたがって、無線局1−1が送信したブロードキャストパケットに対する応答パケットを生成し、応答区間において、ランダムなタイミングで応答パケットを送信する(図54C:C−12)。
無線局1−1は、図51に示した手順で、無線局1−2及び1−nが送信した応答パケットを応答区間に受信すると、無線局1−2及び1−nに割り当てる遅延量を決定し、遅延量記録テーブル37に記録する。そして、応答区間終了直後から所定時間内に、無線局1−1は、決定した遅延量を含む遅延量通知パケットを生成して無線局1−2及び1−nに送信する(図54C:C−13)。このように、ブロードキャストパケット(本実施形態では、チャネル情報パケット)は、複局同時送信を要求するための複局同時送信要求パケットと言える。
無線局1−2及び1−nは、図53に示した手順で、無線局1−1が送信した遅延量通知パケットを受信すると、複局同時送信時における自局及び他局に割り当てられた遅延量を抽出し、遅延量記録テーブル37に記録する(図54C:C−13)。
そして、無線局1−1から送信されたブロードキャストパケットは、予めシステムで定められた基準タイミング(T0)から各々自局に割り当てられた遅延量だけ遅延させたタイミングで複局同時送信される(図54C:C−14)。
図56Aは、無線局1−2及び1−nが保持する遅延量記録テーブル37の構成を示す図である。例えば、無線局1−1がパケットの送信元である場合、無線局1−nは、パケットを中継送信する際に、基準タイミングから遅延量τだけ遅延させたタイミングを送信開始タイミングとする。一方、無線局1−2は、パケットを中継送信する際に、基準タイミングから遅延量0だけ遅延させたタイミング、つまり、この場合には基準タイミングを送信開始タイミングとする。なお、遅延量τは、受信側において、パスダイバーシチ効果が得られる適度な値、すなわち、所定の遅延分解能以上、かつ所定の遅延上限以下の値である。
図56Bは、図55Bに示す位置関係において、無線局1−1が送信したブロードキャストパケットを無線局1−2のみが中継送信する場合のパケットの送受信タイミングを示す図である。無線局1−2は、パケットを中継送信する際、遅延量を与えることなくパケットを送信する。
図56Cは、図55Cに示す位置関係において、無線局1−1が送信したブロードキャストパケットを無線局1−2及び1−nが中継送信する場合のパケットの送受信タイミングを示す図である。無線局1−2及び1−nは、図56Aの遅延量記録テーブルに従ってブロードキャストパケットを複局同時送信する。
図56Cに示すように、無線局1−2及び1−nは、無線局1−1から送信されてきたブロードキャストパケットを受信完了したタイミングから、所定時間(T1)後を基準タイミング(T0)とする。無線局1−2は、基準タイミングT0から遅延量“0”が経過したタイミング、つまり、基準タイミングT0に、ブロードキャストパケットを送信する。一方、無線局1−nは、基準タイミングから遅延量“τ”経過したタイミングを送信タイミングとしてブロードキャストパケットを送信する。無線局1−2及び1−nは、遅延量差τに比べて伝搬時間が無視できる程度近傍に位置しているので、2つの無線局から送信されたパケットは、パスダイバーシチ効果が発揮できる適度な送信時間差τに極めて近い値で受信局(例えば無線局9)に到来する。したがって、受信局は、パスダイバーシチによる効果を最大限に発揮させてパケットを正常に受信することができる。
以上のように、本実施形態によれば、各無線局は、複局同時送信が行われる前にネゴシエーション区間(ネゴ区間)を設けて、パケットを受信した無線局からのネゴ区間における応答を基に、複局同時送信時における各無線局の送信タイミングを決定する。これにより、複局数が変化しても、複局同時送信時に適度な到来時間差のマルチパスを確実に発生できるため、受信局においてパスダイバーシチによる効果を確実に発揮させることができる。
なお、本実施形態では、各無線局は、応答区間に受信した応答パケットの数から、中継送信が可能な無線局の数を把握していた。ここで、ネゴ区間内において、複局同時送信できる無線局を探すための専用のパケット(複局状況確認パケット)を送信する領域を別に設けて、そのパケットに対する応答パケットを返すこととしてもよい。この場合においても、上記した手順と同様に、各無線局に割り当てる遅延量を適切に設定することができる。しかしながら、この場合には無線局探索パケットを送信しなければならない。これに対し、本実施形態では、複局同時送信できる無線局を把握するための応答パケットを得る際に、無線局が送受信するブロードキャストパケットを利用しているので、伝送効率を低下させることなく、遅延量を設定することができる。
なお、無線システムによっては、パケット長の長い情報パケットを送信する前に、無線局同士がパケット長の短いパケットを送受信し合って事前にネゴシエーションを行うことにより、情報パケットを送信しても大丈夫かどうかを確認した後に、情報パケットを送信するものがある。例えば、IEEE802.11標準規格のRTS(Request to Send)/CTS(Clear To Send)を用いた無線LANシステムなどがそれに当たる。このようなシステムでは、第1の実施形態のように送信元局がブロードキャストパケットを送信した後に応答区間を設ける必要はなく、もともと存在するネゴ区間を使って、本実施形態と同様の手順で複局送信時の各中継可能局の遅延量を決定すればよい。例えば、上述の無線LANシステムに本実施形態の手順を適用する場合、複局同時送信要求パケットとしてRTSを送信した送信元無線局1−1に対して、応答パケットとしてそのRTSを受信した中継能力を有する無線局1−2〜1−nがCTSに自局の無線局IDを含ませてそれを応答パケットとして返送し、無線局1−1が無線局1−2〜1−nに対する複局送信時の各遅延量を決定すればよい。但し、この場合にも、複数の無線局から返送されたCTSが衝突してしまい無線局1−1で正常受信できなくなることを避けるため、CTSを返送するタイミングは各無線局でずらす必要がある。
応答パケットの返送タイミングのずらし方としては、第1の実施形態のように各無線局がランダムに返送タイミングを決める方法もあるが、スロッテッドアロハ方式のように応答区間を複数の返送区間に区切り、各無線局が返送区間をランダムに選択して返送してもよい。また、各無線局が互いの無線局IDを事前に認識している場合には、無線局ID番号の小さい順あるいは大きい順など無線局ID番号に従う所定の規則を予め定めておき、複数の無線局がその規則に従って返送すればよい。このようにすれば、応答パケットが衝突することを極力避けることができる。
なお、第1の実施形態では、互いの通信できるエリア内に位置する複数の無線局は、ブロードキャストパケットを受信した際に、ブロードキャストパケットの中継送信の可否を判断して、中継送信不可の場合には応答パケットを返さないものとして説明した。しかし、中継送信できない無線局は、中継送信の可否を示す情報を含めた応答パケットを送信してもよい。
なお、第1の実施形態では、チャネル情報パケットは共通チャネル上で周期的に送信されるものとした。ここで、チャネル情報パケットは、共通チャネル上で不定期に送信されるものであってもよい。例えば、新たにグループに参加しようとする無線局やグループから抜けようとする無線局がチャネル情報パケットの送信要求パケットを送信し、管理局は、送信要求パケットを受信した所定時間後にチャネル情報パケットを送信するようにしてもよい。この場合にも、新たにグループに参加しようとする無線局は、送信要求パケットを送信したのち、図50の手順で所定時間、既存管理局の探索を行うことで、自局が管理局としてグループを構成すべきか、既存グループに参加すべきかの判断ができる。
なお、第1の実施形態では、チャネル情報パケットが共通チャネル上で中継伝送されるものとして、すなわち、チャネル情報パケットをブロードキャストパケットとして説明した。ここで、ブロードキャストパケットは、チャネル情報パケットに限らず、通信チャネル上で伝送される一般的な情報パケットであってももちろんよい。この場合にも、図54B及び54Cの各区間を通信チャネル上に設けて、同一グループの各無線局が上述した図51〜図53の手順で、複局同時送信時における各無線局の送信タイミングを適切に決定できる。但し、宛先局が他の通信チャネルを用いている無線局である場合には、複局送信時(図54:C−14)には、各無線局は、宛先局のグループが使用するチャネルを用いてブロードキャストパケットを複局送信する。
なお、本実施形態では、中継可能な無線局の数が2つまでである場合について説明したが、中継可能な無線局の数が3つ以上になった場合にも、図54Cに示したC−11〜C−14の手順で、適切な送信タイミングを設定し、中継送信時に複局同時送信を行って確実にパスダイバーシチによる効果を得ることができる。
なお、本実施形態では、ブロードキャストパケットを受信した各無線局は、応答区間において、ランダムなタイミングで応答パケットを送信していた。したがって、応答区間において、稀に応答パケットが衝突する場合がある。図57は、応答パケットの衝突が生じた際のパケットの送受信タイミングを示す図である。なお、図57では、無線局1−1が管理するグループにn個の中継送信可能な無線局が存在し、無線局1−mが送信したブロードキャストパケットを他のn−1個の無線局が複局同時送信を行って中継送信するまでの手順も示している。図57に示すように、n−m2の応答区間において、複数の無線局が送信した応答パケットが衝突すると、パケットを正常受信できない場合が起こりうる。その場合、例えば、ブロードキャストパケットを送信した無線局1−mが、図57のm2NGのように、応答区間終了直後に応答パケット再送要求パケットを送信し、無線局1−mに対して中継送信可能局な無線局は、n−m2bのように応答区間を再度設けて再度ランダムなタイミングで応答パケットを送信すればよい。ブロードキャストパケットを送信した無線局1−mが他のすべての中継送信可能な無線局の応答パケットを正常受信できるまでこの手順を繰り返すことにより、自局が送信したパケットを中継する全ての無線局に割り当てるべき遅延量を決定することができる。ただし、衝突が連続して所定の無線局1−m伝送区間内に中継送信が完了しなくなることを避けるため、応答区間の再設定回数には上限を設けることが望ましい。
なお、パスダイバーシチによる効果に寄与し得る有効なブランチの最大数(最大有効ブランチ数)には上限がある。例えば、変復調方式としてPSK−VP方式を用いた場合、遅延分解能はシンボル長の数分の1程度、遅延上限は1シンボル時間未満の値であるため、受信局において分離できる到来波の数(遅延上限を遅延分解能で除した値以下の数)はせいぜい3つ程度であり、最大有効ブランチ数は2〜3程度に抑えられる。したがって、最大有効ブランチ数を超えるほど複局同時送信する無線局の数が存在しても、最大有効ブランチ数に等しい複局数(上記の例では、3局)で確実に適度な到来時間差が生じるマルチパスを発生させた場合以上のパスダイバーシチ効果は得られない。したがって、図57において、応答区間内に正常受信できた周辺の無線局からの応答パケットの数が、最大有効ブランチ数を超えた場合、ブロードキャストパケットを送信した無線局1−mは、応答区間での応答パケットの衝突が発生しても、応答区間を再設定せずに、正常受信できた周辺の無線局に対してのみ、遅延量を含む遅延量通知パケットを送信することが望ましい。なお、遅延量通知パケットを受信した無線局は、パケット内に自局に対する遅延量が存在しない場合、そのパケットを送信した無線局からブロードキャストパケットを受信しても中継伝送しないこととすればよい。
また、複数の無線局によって複局同時送信されるデータ列は、必ずしも完全一致である必要はなく、複局同時送信することで伝送特性を向上させて、データ伝送の確実性を増したい部分が同一であればよい。
また、本実施形態では、変復調方式としてPSK−VP方式を用いて通信する場合について説明したが、変復調方式としてOFDM方式を用いて通信する場合においても、本実施形態と同様の効果を得ることができる。OFDM方式を用いて通信する場合における変調部の構成は、図19に示す構成と同様である。また、OFDM方式を用いて通信する場合における変調部の主要部において生成される信号及び送信開始信号のタイミングは、図20に示すタイミングと同様である。さらに、OFDM方式を用いて通信する場合における復調部の構成は、図21に示す構成と同様である。
さらに、変調方式にQPSK方式などのシングルキャリア方式を用い、復調方式に伝送路歪を補償する等化器を用いた場合も、第1の実施形態と同様であり、変調部の構成は、図6の変調部41の構成において、波形出力部46内の波形メモリに格納されている変調波形のみを使用するシングルキャリア方式の波形に置き換えるだけでよく、復調部の構成は、図22を援用する。
DSSS方式を用いて通信する場合における変調部は、図23に示す構成と同様であり、復調部の構成は、図24に示す構成と同様である。
(変形例1)
第5の実施形態では、各無線局は、他の無線局から応答パケットを受信するたびに、遅延量通知パケットを毎回送信するものとして説明した。ここで、遅延量の決定及び遅延量通知パケットの送信は、新たに無線局が発生する際や、既存の無線局が消失する際にのみ行われてもよい。本変形例において、各無線局は、新たにグループ内に無線局が発生した際や、グループ内の既存の無線局が消失する際にのみ遅延量通知パケットを生成する。なお、新たにグループ内に無線局が発生したことは、例えば、新たにグループ内に発生した無線局がチャネル情報パケットを受信した直後に応答パケットを送信し、既存の無線局がその応答パケットを受信することで認識できる。また、グループ内の既存の無線局が消失することは、例えば、グループから消失しようとする無線局がチャネル情報パケットを受信した直後に、所定時間後にグループから抜けることを示す「グループ離脱通知パケット」を送信し、既存の無線局がその応答パケットを受信することで認識できる。
以上のように、本変形例によれば、無線局k伝送区間内にネゴ区間を毎回設ける必要がないため、複局送信時の適切なタイミングを設けるための手順を設けることによる伝送効率の低下を抑制することができる。
(変形例2)
複局同時送信すべきパケットの宛先の無線局からの同報応答パケットを受信した中継局は、同報応答パケットを受信した旨の通知を送信元の無線局に送信してもよい。この場合、送信元の無線局は、当該通知を受けたら、他の前記無線局に対して複局同時送信を取りやめることを通知するとよい。当該通知のために、送信元の無線局は、複局同時送信中止部を含むとよい。
(第6の実施形態)
本実施形態に係る無線伝送システムは、無線局がパケットを送信した後、他の無線局がパケットを中継送信する際に、送信元局である無線局も再度同じパケットを送信する点で、第5の実施形態と相違する。
図58は、第2の実施形態における中継伝送の一例を示す図である。図58に示すように、送信元無線局である無線局1−1は、無線局1−2及び1−nに中継送信すべきパケットを送信し(図58の太点線)、その後、無線局1−2及び1−nが中継送信する際に、当該パケットを宛先局に再送信する(図58の太線)。なお、本実施形態に係る無線伝送システム及び無線局の構成は、第5の実施形態と同様であるため、それぞれ図43A、43B及び図48を援用する。
本実施形態において、パケットを中継送信する無線局は、ブロードキャストパケットを受信完了したタイミングから所定時間経過後を基準タイミングとする。また、パケットの送信元無線局である無線局は、パケットをいったん送信したタイミングから所定時間経過後を基準タイミングとする。この2つの基準タイミングは、一致しているものとして説明する。
図59A〜59Cは、一つの無線局1−1が発生してから、その無線局1−1がグループを構成し、図1に示すグループ構成となり、無線局1−1から送信されたブロードキャストパケットが中継送信時に適度な時間差で複局同時送信されるまでの第6の実施形態に係る手順の手順の一例を示す図である。グループ構成の移行は、第5の実施形態と同様の例を用いて説明するため、図55A〜55Cを援用する。
以下、図55A〜55C及び図59A〜59Cを参照して、本実施形態における無線局がネゴシエーションし、複局同時送信時における各無線局の遅延量を決定するまでの各無線局の動作及び手順について、第5の実施形態との相違点を中心に説明する。
まず、図55Aに示すように、無線局1−1しかグループに存在しない場合における無線局1−1の動作は、第5の実施形態と同様である。
第6の実施形態に係る無線局の動作が第5の実施形態と異なるのは、図51に示すフローチャートにおけるステップS263の動作である。第6の実施形態に係る無線局は、ステップS263において、中継可能局数が1以上であるか否かを判断する。そして、中継可能局数が1以上である場合、ステップS264以降の動作に進み、遅延量通知パケットを生成して送信する。それ以外の動作は、第5の実施形態と同様であるため、図50〜図53を援用する。
次に、図55Aの状態から図55Bの状態にグループ構成が移行した場合、新たにグループに加わった無線局1−2は、無線局1−1が送信したブロードキャストパケットを受信すると、応答パケットを生成し、応答区間に応答パケットを送信する(図59B:B−12)。無線局1−1は、応答区間の終了時刻までに通知された応答パケットを基に、自局の送信パケットを中継送信できる無線局の数が1であることを認識する。
第5の実施形態では、中継送信が可能な無線局が1つである場合、他の無線局に割り当てる遅延量を決定しなかった。本実施形態では、送信元無線局である無線局1−1がパケットを再送信するため、中継送信が可能な無線局が1つであっても、中継送信時に複局同時送信することができる。したがって、無線局1−1において、遅延量決定部36は、無線局1−2の遅延量を基準タイミングから適度にずらした値(τ)に決定し、遅延量記録テーブル37に記録するとともに送信パケット処理部40に通知する。また、このとき、遅延量決定部36は、自局に割り当てる遅延量をも決定する。
そして、応答区間終了直後から所定時間内に、無線局1−1は、決定した遅延量を含む遅延量通知パケットを生成して無線局1−2に送信する(図59B:B−13)。この点が、第5の実施形態と相違する。本実施形態では、図55Bの状態で、すでに図54Cの動作、手順を行い、複局同時送信時に、各無線局がパケットに与えるべき遅延量を決定する。図59BのB−13以降の動作、手順については、複局同時送信時に、自局に割り当てる遅延量をも決定し、その値も含んだ遅延量通知パケットを図59BのB−13で送信すること以外は、第5の実施形態の図54CのC−13以降の動作、手順と同じであるため、詳細な説明は省略する。
次に、図55Bの状態から図55Cの状態にグループ構成が移行した場合についても、複局同時送信時の送信タイミングとして送信元無線局自身に割り当てる遅延量も決定すること以外は、第1の実施形態(図54C)と同様であるため、説明を省略する。
図60Aは、図55Bに示す位置関係にある無線局1−1及び1−2が、図59Bに示す手順で遅延量を設定した場合における遅延量記録テーブルの一例を示す図である。無線局1−1及び1−2は、図60Aに示す遅延量記録テーブルを参照して、他局がパケットを中継送信する際にパケットに与えるべき遅延量を決定する。例えば、無線局1−1がパケットの送信元無線局である場合、無線局1−2は、無線局1−1から受信したパケットを中継送信する際に、基準タイミング(T0)に対してτだけ遅延させたタイミングで送信する。
図60Bは、図55Bに示す位置関係にある無線局1−1、1−2及び図示しない無線局9において、ブロードキャストパケットが無線局1−1から送信され、無線局1−2で中継されて無線局9に到達するまでのパケットの送信タイミングを示す図である。ここで、無線局1−1及び1−2は、図60Aの遅延量記録テーブルを保持しているものとする。
図60Bに示すように、無線局1−2は、無線局1−1から送信されてきた遅延量通知パケットを受信すると、第1の実施形態と同様の手順で送信開始タイミングを決定する。無線局1−1は、ブロードキャストパケットを送信したタイミングから所定時間後を基準タイミング(T0)とし、その時刻を送信タイミングとしてブロードキャストパケットを送信する。無線局1−1と無線局1−2とは、パスダイバーシチ効果が発揮できる適度な時間差τに比べて伝搬時間が無視できる程度近傍に位置している。よって、無線局9は、パスダイバーシチによる効果が得られる適度な送信時間差τに極めて近い値の到来時間差で、2つの無線局から送信されたパケットを受信する。したがって、無線局9は、パスダイバーシチによる効果を最大限に得ることができる。
図61Aは、図59Cに示す手順によって遅延量を設定した場合における、図55Cに示す位置関係にある無線局1−1〜1−nの遅延量記録テーブルの一例を示す図である。なお、本実施形態において、無線システムは、最大有効ブランチ数が3であるもの(例えば、変復調方式としてスペクトル拡散方式を用いて、送信側において拡散符号長が4チップである拡散符号でスペクトル拡散して生成した変調信号を、受信側において3フィンガーでRAKE受信を行うもの)として説明する。
図61Aにおいて、遅延量τは、遅延上限以下であり、遅延量τ/2は、遅延分解能以上である。例えば、変復調方式にスペクトル拡散方式を用いるシステムの場合、遅延上限は、拡散符号長以下の値に相当し、遅延分解能は、拡散符号の1チップ長以上に相当する。
図61Bは、図58に示す位置関係にある無線局1−1〜1−nが、図61Aに示す遅延量記録テーブルに従って、ブロードキャストパケットを複局同時送信する際のタイミングを示す図である。
図61Bに示すように、無線局1−2〜1−nは、無線局1−1から送信されてきたブロードキャストパケットを受信完了したタイミングから所定時間(T1)後を基準タイミング(T0)とする。無線局1−2は、基準タイミングから遅延量τだけ遅延させたタイミングを送信開始タイミングとしてブロードキャストパケットを送信する。一方、無線局1−nは、基準タイミングから遅延量τ/2だけ遅延させたタイミングを送信開始タイミングとしてブロードキャストパケットを送信する。
ブロードキャストパケットの送信元である無線局1−1は、ブロードキャストパケットを送信したタイミングから所定時間後を基準タイミング(T0)とし、その時刻を送信タイミングとしてブロードキャストパケットを送信する。無線局1−2〜1−nは、パスダイバーシチ効果が発揮できる適度な時間差τ/2に比べて伝搬時間が無視できる程近傍に互いに位置しているので、3つの無線局から送信されたパケットは、どの2つをとっても、パスダイバーシチ効果が発揮できる適度な送信時間差τ/2又はτに極めて近い値で無線局9に到来する。したがって、無線局9は、パスダイバーシチによる効果を最大限に得ることができる。
以上のように、本実施形態によれば、送信元無線局がブロードキャストパケットを再送信するので、中継送信が可能な無線局が1つしかない場合であっても、適度な時間差を設けて複局同時送信することができ、パスダイバーシチによる効果を確実に得ることができる。また、中継送信が可能な無線局の数が最大有効ブランチ数に比べて少ない場合には、第5の実施形態の無線システムに比べて大きなパスダイバーシチ効果を得ることができる。
なお、本実施形態では、互いに通信可能な無線局が3局の場合について述べたが、4局以上になった場合にも、図59Cに示したC−11〜C−14の手順で各無線局に対して複局同時送信時の適切な遅延量を確実に設定することができる。
なお、第5の実施形態と同様に、本実施形態においても、通信に先立って情報パケットを送信しても大丈夫かどうかを確認するためのネゴシエーションパケット(例えば、IEEE802.11標準規格のRTS/CTS)を送受信するシステムでは、ネゴシエーションパケットを複局状況確認パケットと応答パケットとしても用いることが可能である。
なお、このようなシステムにおいて、第5の実施形態では、応答パケットを返送する無線局ID(返送無線局ID)を応答パケットに含ませるものとした。したがって、複数の応答パケットが返送された場合、各応答パケットは、返送無線局IDの挿入部分の値が異なる。そのため、パケットの衝突ができるだけ生じないようなランダムなタイミングで、各無線局は応答パケットを返送するものとした。本実施形態においても、もちろん同じように、各応答パケットは互いに異なる値を含むものとして、各無線局から応答パケットをランダムなタイミングで返送させてもよい。ここで、本実施形態においては、応答パケットは全ての無線局で全く同じものとして、すなわち応答パケットに返送無線局IDを含めずに、各無線局から応答パケットをほぼ同時に返送させてもよい。すなわち、各無線局からの応答パケットの送信時にも複局同時送信するものとしてもよい。この場合、応答パケットを受信しても、中継可能局数は認識できないが、中継送信可能な無線局が少なくとも1つ以上周辺に存在することは認識できる。本実施形態においては、送信元局には中継可能局とは異なる遅延量を設け、送信元局と中継可能局とが適度な送信時間差で共にブロードキャストパケットの複局同時送信を行う。したがって、この場合にも、2ブランチ相当のパスダイバーシチによる効果を確実に得ることができる。
(第7の実施形態)
第7の実施形態に係る無線伝送システムは、送信元無線局に対して予め遅延量を定めており、基準タイミング(T0)とは異なるタイミングで、中継伝送時に送信元局がパケットを再送信する点で、第6の実施形態と相違する。それ以外の、無線伝送システム、無線局の構成、及び遅延量決定手順は、第5の実施形態及び第6の実施形態と同様である。
図62Aは、一つの無線局1−1が発生してから、その無線局1−1がグループを構成し、図55Bに示すグループ構成となり、無線局1−1から送信されたブロードキャストパケットが中継送信時に適度な時間差で複局同時送信されるまでの第7の実施形態における手順の一例を示す図である。本実施形態に係る無線局は、図62BのB−13の区間において、遅延量通知パケットを送信しない点で、図59B(第5の実施形態)の無線局と相違する。
各無線局は、ブロードキャストパケットを他局によって中継送信される際、自局(送信元無線局)がパケットを再送するときに、パケットに与える遅延量を予め保持している。例えば、各無線局は、自局がパケットの送信元無線局となる場合、基準タイミング(T0)から適度な遅延量(τ)だけ遅延させたタイミングを送信開始タイミングとする。したがって、図62Aに示すように、無線局1−1は、中継可能局数が1つである場合、遅延量通知パケットを生成しない。
遅延量通知パケットを受信しない無線局1−2は、ブロードキャストパケットを中継送信する際、ブロードキャストパケットに遅延量を与えないで送信する。つまり、無線局1−2は、予め定められた基準タイミング(T0)を中継送信時の送信開始タイミングとする。したがって、無線局1−2がブロードキャストパケットを中継送信し、無線局1−1がパケットを再送信した場合、任意の受信点に到達するパケットには、τの到来時間差がある。
図62Bは、図55Bに示す位置関係にある無線局1−1及び1−2が、図62Aに示す手順によって遅延量を設定した場合における遅延量記録テーブルの一例を示す図である。各無線局1−1及び1−2がブロードキャストパケットを再送信する際に、パケットに与えるべき遅延量は予め設定されている。したがって、ブロードキャストパケットを中継送信可能な無線局が1つしかない場合、遅延量通知パケットを送信しなくても、図62Bに示す遅延量記録テーブルを各無線局が保持することができる。
図62Cは、図55Bに示す位置関係にある無線局1−1が送信したブロードキャストパケットを無線局1−2が中継送信する場合におけるパケットの送受信タイミングを示す図である。無線局9は、無線局1−1が送信したブロードキャストパケットの宛先局である。図62Cに示すように、2つの無線局から送信されたパケットは、パスダイバーシチ効果が発揮できる適度な送信時間差τに極めて近い値で図示しない無線局9に到来する。したがって、無線局9は、パスダイバーシチ効果を最大限に発揮させてパケットを正常に受信することができる。
以上のように、本実施形態によれば、パケットの中継送信が可能な無線局が2つである場合、遅延量通知パケットを送信することなく、各無線局がパケットに与える遅延量を設定することができる。したがって、遅延量通知パケットを送受信するための区間を用意する必要がないため、第6の実施形態の方法に比べ、伝送効率の低下を抑えながら、最大限のパスダイバーシチ効果を確実に発揮させることができる。
なお、本実施形態では、無線局の数が2つである場合について説明した。ここで、無線局の数が3つ以上であり、最大有効ブランチ数が2つしかない場合にも本実施形態は有用である。図63Aは、最大有効ブランチ数が2つである場合に、3つ以上の無線局がパケットを複局同時送信する際のパケットの送受信タイミングを示す図である。図63Bは、図63Aに示すタイミングでブロードキャストパケットを送受信する無線局が保持するテーブルの一例を示す図である。図63Bにおいて、送信元無線局に割り当てられる遅延量はτである。一方、他の無線局から送信されてきたパケットを中継送信する無線局に割り当てられる遅延量は0である。この場合にも、送信元無線局が他の無線局(中継局)に遅延量通知パケットを送信することなく、各無線局は、各無線局がパケットに与える遅延量を最適に設定することができる。したがって、遅延量通知パケットを送受信するための区間を用意する必要がないため、第6の実施形態の方法に比べ、伝送効率の低下を抑えながら、最大限のパスダイバーシチ効果を確実に発揮させることができる。
なお、最大有効ブランチ数が3つ以上の場合、パスダイバーシチによる効果を最大限に得るためには、送信元無線局以外の無線局も、適度に送信開始タイミングをずらす必要がある。この場合、第2の実施形態における図59Cの手順と同様に、遅延量通知パケットを送信し、例えば、図64Aに示す遅延量記録テーブルを各無線局に持たせることとすればよい。ただし、本実施形態では、送信元無線局に割り当てられる遅延量は予めτに定めているため、遅延量通知パケットは、送信元無線局の遅延量を示すデータを含む必要がない。したがって、第6の実施形態に比べ、遅延量通知パケット長を若干短くすることができる。よって、図59CのC−13に示す、遅延量通知パケットを送信するための区間を若干短くすることができる。したがって、最大有効ブランチ数が3つ以上の場合でも、第2の実施形態に比べて、伝送効率の低下を抑えながら、パスダイバーシチによる効果を最大限に得ることができる。
(第8の実施形態)
第5の実施形態において、ブロードキャストパケットに対する応答パケットを受信するのは、ブロードキャストパケットの送信元の無線局のみであった。これに対し、第8の実施形態では、ブロードキャストパケットの送信元以外の無線局も、他の無線局が送信した応答パケットを受信する。それ以外の無線伝送システムの構成及び無線局のブロック構成、システム間のチャネル情報のネゴシエーション手順は第5の実施形態と同様であるため、説明を省略する。
以下、図55A〜55C及び図65A〜65Cを参照して、本実施形態に係る無線局1−1〜1−nがネゴシエーションを行って、複局同時送信時に各無線局がパケットに与える遅延量を決定する手順について、第5の実施形態との違いを中心に説明する。
図65A〜65Cは、一つの無線局1−1が発生してから、その無線局1−1がグループを構成し、図1に示すグループ構成となり、無線局1−1から送信されたブロードキャストパケットが中継送信時に適度な時間差で複局同時送信されるまでの第4の実施形態に係る手順の一例を示す図である。図65A〜65Cは、図55A〜55Cにそれぞれ対応しており、無線局におけるパケットの送受信タイミングを示す。まず、図55A又は55Bに示すグループ構成である場合の無線局1−1及び1−2の動作は、第5の実施形態と同様である。但し、図54Bと図65Bを比較すれば分かるように、遅延量を決定し、各無線局がその遅延量を遅延量記録テーブル37に記録するための図65Bに示す区間が、これまでに示した第5〜第7の実施形態に比べて極めて短くできる。この理由については後述する。
次に、図55Bの状態から図55Cの状態にグループ構成が移行した場合について説明する。まず、無線局1−nは、第1の実施形態と同様に共通チャネルを所定期間観測して図50に示した手順に従って既存周辺管理局の探索をする。その後、無線局1−2及び1−nは、無線局1−1から送信されてきたブロードキャストパケットを受信する(図65C:C−11)と、図52に示した手順にしたがって、自局がそのパケットを中継することが出来る状態にあれば、無線局1−1が送信したブロードキャストパケットに対する応答パケットを生成し、応答区間において、ランダムなタイミングで応答パケットを送信する(図65C:C−12)。
無線局1−1は、無線局1−2及び1−nから送信されてきた応答パケットを受信する。また、この応答区間において、無線局1−2も、無線局1−nが送信した応答パケットを受信し、無線局1−nも、無線局1−2が送信した応答パケットを受信する。これが、第5の実施形態との相違点である。
これにより、無線局1−2において、遅延量決定部36は、無線局1−1から遅延量通知パケットを受信しなくても、無線局1−nを無線局1−1の中継可能局として認識することができる。また、無線局1−nにおいても同様に、無線局1−2を無線局1−1の中継可能局として認識することができる。
このように、無線局1−2は、無線局1−1が送信したブロードキャストパケットに対して他の無線局1−nが送信した応答パケットを受信し、応答パケット中に含まれる送信元ID(周辺局情報)から無線局1−1が送信したブロードキャストパケットを他の無線局1−nが中継送信できることを認識し、複局同時送信する中継可能局数が自局を含めて2であることを認識する。同様に、無線局1−nも、他の無線局1−2が送信した応答パケットを受信することにより、無線局1−1が送信したブロードキャストパケットを他の無線局1−2が中継送信できることを認識し、複局同時送信する中継可能局数が自局を含めて2であることを認識する。そして、各無線局は、無線局1−1のブロードキャストパケットを中継送信する際の各無線局に割り当てる遅延量を決定する。なお、各無線局は、同一の無線局に対して決定する遅延量が異なる値にならないようにするため、予め定めた遅延量決定規則に従って、各無線局に割り当てる遅延量を決定する。
このように、各無線局は、個々に遅延量を決定する。したがって、第5の実施形態(図54C:C−13)のように、遅延量通知パケットを送信するための領域を用意する必要がないため、遅延量決定のための時間を極めて短くすることができる。したがって、第5の実施形態に比べて、伝送効率の低下を抑えながら、最大限のパスダイバーシチ効果を確実に発揮させることができる。
本実施形態では、遅延量決定規則として、最大有効ブランチ数と、応答区間の終了時刻までに通知された周辺局情報から得た中継可能局数とに応じて予め定めた複数の遅延量の候補値から、応答パケットを先に送信した順に小さい方の値を無線局に与えることとする。なお、本実施形態では、無線通信システムに用いる変復調方式のパラメータや無線局の実装上の制約で定まる最大有効ブランチ数は、既知であるものとする。
例えば、最大有効ブランチ数が4の場合には、遅延量として、中継送信時の複局数が2局の場合には0、τの2種類、複局数が3局の場合には0、τ/2、τの3種類、複局数が4局以上の場合には0、τ/3、2τ/3、τの4種類を、応答パケットを先に送信した順に小さい方の値を無線局に与えることとする。この遅延量決定規則に従えば、図65Cのように、無線局1−1のブロードキャストパケットに対して無線局1−2,1−nが順に応答パケットを返した場合、第1の実施形態の場合と同じく、図56Aの遅延量記録テーブルが各無線局で保持されることになる。なお、ここでは、遅延量τは遅延上限以下、遅延量τ/3は遅延分解能以上であるものとする。なお、遅延量決定規則としては、これに限らず、例えば、応答パケットを先に送信した順に大きい方の値を無線局に与えるようにしてもよいし、応答パケットを送信した無線局のID番号の順に小さい方の値を無線局に与えるようにしてもよい。
なお、本実施形態では、互いに通信可能な無線局が3局の場合について述べたが、4局以上になった場合にも、各無線局は、図65Cに示したC−12の応答区間で他の無線局が送信した応答パケットを受信して、C−13の区間で所定の規則にしたがって各無線局に対して複局同時送信時の適切な遅延量を確実に設定することができる。
なお、上記第5〜第8の実施形態において、ネゴ区間は、ブロードキャストパケット伝送時に毎回設けられるものとした。ここで、ネゴ区間は、毎回設けられず、不定期に設けられてもよい。この場合には、例えば、同じグループに新たに無線局が参加する際や、グループから無線局が消失する際や、今まで中継送信可能状態にあった無線局が中継送信不可能となった場合や、その逆の場合に、それらの無線局が既存の無線局に対してネゴシエーションを再度実施することを要求するためのネゴシエーション要求パケットを送信し、ネゴシエーション要求パケットが送信された後、各無線局が初めてブロードキャストパケットを送信元局として送信する際にのみ、ネゴ区間を設ければよい。いずれにせよ、ネゴシエーションは無線局数が変化する際、すなわち複局数が変化する際には必ず行われるものであるため、本発明によれば、複局数が変化しても複局同時送信時に適度な到来時間差のマルチパスを発生できるため、パスダイバーシチ効果を確実に発揮させることができる。
また、上記第5〜第8の実施形態において、共通チャネルは予め一つのチャネルが定められているものとし、新たに発生した無線局は先ず共通チャネルを観測するものとしたが、共通チャネルは、予め一つのチャネルに定められている必要はない。例えば、最初に存在する無線局が、複数の通信チャネルのうち一つを、後に発生する他の無線局とネゴシエーションするための共通チャネルとして専用に定めてもよいし、自局の端末との通信に使用する通信チャネルと共通チャネルを共用させてもよい。なお、その場合、無線局は、先ず、共通チャネルが複数の通信チャネルのうち、どのチャネルであるかを認識するためのチャネル探索を周辺管理局探索と併せて行えばよい。
なお、第5〜第8の実施形態では、基準タイミング(T0)は、無線局がブロードキャストパケットを受信完了したタイミングから所定時間経過後のタイミングであるものとして説明した。ここで、無線局が、パケットに含まれるユニークワードを検出したタイミングから所定時間経過後を基準タイミング(T0)としてもよい。また、無線局間の同期をとるためのビーコン信号を用いて、ビーコン信号を受信完了したタイミングから所定時間経過後を基準タイミング(T0)としてもよい。又は、各無線局が電波時計から得られる時刻情報などから基準タイミングを得てもよいし、各無線局がGPS(Global Positioning System)を有し、GPS信号に含まれる時刻情報から基準タイミングを得てもよい。
なお、第5〜第8の実施形態では、複局同時送信を行う各無線局が保持する遅延量記録テーブル37には、図56A、図61A、図64Aに示すように、全ての無線局に割り当てられた遅延量の遅延量が記録されていた。ここで、各無線局は、自局に割り当てられた遅延量のみを遅延量記録テーブルに記録することとしてもよい。図64Bは、自局に割り当てられた遅延量のみを各無線局が記録する場合における遅延量記録テーブルの一例を示す図である。例えば、図64Aに示すように、各無線局に割り当てられる遅延量が決定された場合、各無線局が保持する遅延量記録テーブルは、図64Bに示すものとなる。
これにより、遅延量記録テーブルを格納するために必要なメモリの容量を小さくすることができる。したがって、複局同時送信可能な局数が増加した場合であっても、遅延量記録テーブルを格納するために必要なメモリの容量の増加を抑制することができる。
なお、無線局のメモリ容量に余裕がある場合、遅延量記録テーブルとして、第1〜第4の実施形態で遅延量記録テーブルの一例として挙げたように、図56A、図61A、図64Aのようなすべての無線局の遅延量を記録した同一の遅延量記録テーブルを各無線局に持たせることが望ましい。なぜなら、無線システムを構成する無線局の数が図66Aから図66Bのように減少した場合でも、残存する無線局のタイミング変更規則を予め決めておけば、第5〜第7の実施形態で説明した遅延量通知パケットの伝送を行わずに各無線局の送信タイミングを適切に決めることができるので、遅延量通知パケットを送るための領域を必要とせずに、伝送効率の低下を抑えながら、最大限のパスダイバーシチ効果を確実に発揮させることができるからである。このことについて以下説明する。
図66Aに示す4つの無線局が存在するグループ構成から無線局が1つ減り、図66Bに示すグループ構成となった場合を例に説明する。なお、図66A及び66Bのシステムにおいて、最大有効ブランチ数は3つである場合を例に説明する。また、図66Aのグループ構成時に、各無線局は、図67Aに示す遅延量記録テーブルを保持しているものとする。
遅延量記録テーブル中の値τはパスダイバーシチ効果が発揮できる上限値(遅延上限)以下の値(例えば、変復調方式にスペクトル拡散方式を用いた場合、拡散符号長以下の値)であり、τ/2はパスダイバーシチ効果が発揮できる下限値(遅延分解能)を割らない値(例えば、変復調方式にスペクトル拡散方式を用いた場合、拡散符号の1チップ時間以上の値)である。
このグループにおいて、無線局数が減少した時のタイミング変更規則を、例えば次のように予め決めておく。
(1)グループに残存する無線局数が、最大有効ブランチ数以上の場合
グループから消失した無線局と同一の遅延量が割り当てられた無線局が存在する場合、各無線局に割り当てた遅延量を変更しない。
グループから消失した無線局と同一の遅延量が割り当てられた無線局が存在しない場合、グループに残存する無線局のうち、同一の遅延量が割り当てられた無線局が存在する。したがって、同一の遅延量が割り当てられた無線局のうち、無線局IDが大きい無線局に割り当てる遅延量を、グループから消失した無線局に割り当てられていた遅延量に変更する。
(2)グループに残存する無線局数が最大有効ブランチ数未満の場合
残存する無線局のうち、同一の遅延量が割り当てられている無線局が存在する場合、同一の遅延量が割り当てられた無線局のうち、無線局IDが大きい無線局に割り当てる遅延量を、グループから消失した無線局に割り当てられていた遅延量に変更する。
残存する無線局のうち、同一の遅延量が割り当てられている無線局が存在しない場合、各無線局に割り当てた遅延量を変更しない。
上記規則(1)及び(2)に従えば、例えば、図66Aから図66Bのように無線局数が4から3に減少した場合でも、各無線局が独立して同じ遅延量記録テーブル(無線局1−1が消失して減少した場合は図67B、無線局1−2が消失して減少した場合は図67C、無線局1−3が消失して減少した場合は図67D、無線局1−nが消滅して減少した場合は図67E)に変更することができる。
なお、無線局の数が、最大有効ブランチ数よりも多い場合、図67Aに示すように、遅延量の候補値の数を、最大有効ブランチ数に等しい数又は最大有効ブランチ数よりも小さい数にすることが望ましい。その理由は、第1の実施形態と同様である。
また、無線局の数が、最大有効ブランチ数より多い場合、複局同時送信が可能であっても、複局同時送信をさせない無線局を設けることとしてもよい。図68Aは、受信局における最大有効ブランチ数が3つである場合に、各無線局が保持する遅延量記録テーブルの一例を示す図である。この場合、図68Aに示すように、無線局1−1〜1−3がブロードキャストパケットの送信元局となる場合、無線局1−nは、ブロードキャストパケットを複局同時送信しない。一方、無線局1−nがブロードキャストパケットの送信元局となる場合、無線局1−3がブロードキャストパケットを複局同時送信しない。このように、複局同時送信が可能であっても、複局同時送信させない無線局(図68Aにおける遅延量「−」で表されている無線局)を設けるようにしてもよい。
なお、複局同時送信が可能であっても複局同時送信させない無線局を設けるには、例えば、ある無線局が遅延量通知パケットを送信する際に、一部の無線局に対しては、遅延量を含まない遅延量通知パケットを生成して送信すればよい。そして、遅延量を含まない遅延量通知パケットを受信した無線局は、当該遅延量通知パケットの送信元の無線局からブロードキャストパケットを受信した場合、ブロードキャストパケットを中継送信しないこととすればよい。このように、複局同時送信する無線局の数を制限することによって、無線局にかかる負荷を増大させることなく、パスダイバーシチによる効果を確実に得ることができる。
なお、複局同時送信要求パケットを送信した無線局以外の他の無線局が、他の無線局が送信した応答パケットを最大有効ブランチ数よりも多く受信した場合、応答パケットを最大有効ブランチ数よりも多く受信した無線局は、応答パケットを送信しないとしてもよい。これにより、無駄な応答パケットが送信されるのを防止することができると共に、複局同時送信する無線局の数を制限することによって、無線局にかかる負荷を増大させることなく、パスダイバーシチによる効果を確実に得ることができる。
また、上記のように、闇雲に複局数が増えることを制限し、例えば、無線局の数が、最大有効ブランチ数より多い場合、最大有効ブランチ数に等しい複局数で送信させることとしたシステムでは、例えば、次のように、無線局数が減少した際のタイミング変更規則を予め決めておく。
(3)システムに残存する無線局数が、最大有効ブランチ数以上の場合
システムに残存する無線局のうち、複局同時送信能力を持ちながらそれまで複局同時送信に参加していなかった無線局の中で最も無線局IDの大きい無線局が、減少した無線局のうち、最も無線局IDの大きい無線局と同じタイミングに変更する。
上記規則(3)に従えば、例えば、図66Aに示すシステム構成である各無線局が、図68Aに示す遅延量記録テーブルを保持している場合、図66Bに示すように、無線局の数が4つから3つに減少しても、各無線局が独立して自局が保持する遅延量記録テーブルを変更することができる。
図68Bは、無線局1−1消失時に、上記規則にしたがって図68Aから変更された遅延量記録テーブルを示す図である。無線局1−1存在時には、無線局1−2及び1−3が送信元局の際のブロードキャストパケットを複局同時送信する場合に、無線局1−1は基準タイミングから遅延量ゼロのタイミングで送信していた。したがって、上記規則にしたがえば、図68Bに示すように、複局同時送信時の遅延量として、無線局1−nにゼロが割り当てられる。図68Cは、無線局1−2が消失した場合の遅延量記録テーブルの一例を示す図である。この場合、複局同時送信時の遅延量として、無線局1−2に割り当てられていた遅延量が無線局1−nに割り当てられる。図68Dは、無線局1−3が消失した場合の遅延量記録テーブルの一例を示す図である。この場合、複局同時送信時の遅延量として、無線局1−3に割り当てられていた遅延量が無線局1−nに割り当てられる。図68Eは、無線局1−nが消失した場合の遅延量記録テーブルの一例を示す図である。この場合、複局同時送信時の遅延量として、無線局1−1〜1−3に割り当てられた遅延量は変更されない。
このように、各無線局は、複局同時送信できる全ての無線局の遅延量を記憶する遅延量記録テーブルを保持し、複局数などの複局状況が変化した際の送信タイミング変更手順を予め決めておく。これにより、残存する各無線局は応答パケットや遅延量通知パケットを送信せずとも適切な遅延量を設定できる。したがって、複局状況が変化した場合であっても、第5〜第8の実施形態の遅延量設定手順で示したネゴ区間を設けなくてもよく、伝送効率の低下を抑えながら、最大限のパスダイバーシチ効果を確実に発揮させることができる。
また、本実施形態では、図68Aの遅延量記録テーブルから分かるように、送信元局毎に、各無線局の複局同時送信時の遅延量を決定している。すなわち、ある無線局が送信元局として初めてブロードキャストパケットを送信した際には、上述した第5〜第8の実施形態の遅延量設定手順のいずれかで必ず遅延量設定が行われるものとしている。ここで、グループ内の複局状況変更後にはじめてブロードキャストパケットが送信された時のみ、あるいはグループ内の複局状況変更後にはじめてチャネル情報パケットが送信された時のみ、当該パケットと当該パケットに対して送信される応答パケットとの数と無線局IDに基づいて遅延量を決定することとして、送信元局に依らず、各無線局の複局同時送信時の遅延量を決定してもよい。
図69は、一度のチャネル情報パケットの送信によって、各無線局が複局同時送信時にパケットに与えるべき遅延量を決定する際の無線局1−1〜1−nの動作を示すシーケンス図である。無線局1−2及び1−nは、無線局1−1が送信したチャネル情報パケットを受信すると、応答パケットを生成して送信する。無線局1−1は、無線局1−2及び1−nが送信した応答パケットを受信する。また、無線局1−2も無線局1−nが送信した応答パケットを受信し、無線局1−nも無線局1−2が送信した応答パケットを受信する。無線局1−1〜1−nは、受信したチャネル情報パケット及び応答パケットの合計数がブロードキャストパケットを中継送信する際に、複局同時送信できる無線局数であると判断する。そして、無線局1−1〜1−nは、前述した所定の規則に従い、自局が複局同時送信する際に、パケットに与えるべき遅延量を決定する。このように、一度のチャネル情報パケットの送信で、各無線局が遅延量を決定することとすれば、遅延量を決定するための手順をより簡易なものとすることができる。
なお、上記第5〜第8の実施形態では、各無線局が送信するブロードキャストパケットのパケット長は全て同じとし、このパケットの送信開始タイミングすなわちパケットの先頭位置を、各無線局の間で所定の手順によって割り当てられた遅延量だけ調整することにより、パスダイバーシチ効果を確実に発揮できるものとした。しかし、パケットの送信タイミングの調整位置は、これに限られない。例えば、各無線局によって、複局送信時のブロードキャストパケットのプリアンブル長が異なる場合などには、パスダイバーシチ効果によりデータ伝送の確実性を増したい部分が、所定の遅延量だけに調整されるようにすればよい。例えば、上記のように各無線局でパケットのプリアンブル長が異なる場合、パケット中のユニークワードの送信タイミングを予め定めた基準のタイミングから所定の遅延量だけ各無線局で調整して送信すればよい。
(実施例)
最後に、上記した第5〜第8の実施形態のいずれかの無線伝送方法を用いてパスダイバーシチ効果を確実に発揮させる無線伝送システムの具体例について説明する。一例として、無線局の変復調方式にQPSK−VP方式を用いて、無線区間の伝送速度を2Mbpsとして宅内などの近距離で通信を行う場合について説明する。
宅内において1つの局から電波を送信した場合、電波が室内の壁や天井などで反射することでマルチパスが生じ、送信局が見通し外(例えば、隣室など)に位置する場合、送受信間の距離がほぼ同じ付近の受信電力分布は、一般的に、レイリー(Rayleigh)分布を示すことが知られている。また、宅内伝送では、一般的に部屋の大きさが数m四方程度と小さいため、1局で送信した時に生じるマルチパスが受信局へ到達する際の時間差のばらつき(以下、遅延分散と呼ぶ)は、数ns〜10ns程度となることが知られている。
PSK−VP方式の2波レイリーフェージング環境下(1波毎の遅延分散は0)における2波間の時間差τとビットエラーレート(BER)との関係を評価したシミュレーション結果は、図41Aと同様である。
図41Aより、φmとして適切な値を選択することで、到来時間差が0.1〜0.8シンボルの間で、伝搬時間差=0の場合に比べてビット誤り率特性を大幅に改善できることがわかる。
1波毎に遅延分散0で独立にレイリーフェージングする波が受信局に、1波のみ到来する場合(A)、適度な時間差で2波到来する場合(B)、適度な時間差で3波到来する場合(C)のQPSK−VP方式の相対受信信号強度とBERとの関係を示すシミュレーション結果は、図41Bと同様である。PSK−VP方式のマルチパス環境下におけるBER特性は、波形整形方法や帯域制限具合により異なるが、例えば、非特許文献1に示された波形整形方法や帯域制限の条件(Parabolic、φm=π、Gauss、BT=1.3)を用いた場合、図41Bに示すように、1波すなわち1局がパケットを送信する場合に比べ、複局同時送信することで、パスダイバーシチによる効果が得られ、BER特性が大幅に改善されることが分かる。
また、これらのシミュレーション結果より、図56A、図61A、図64Aにおけるτの値を、例えば、複局数が2局の場合にはτ=0.5シンボル程度、3局以上の場合には、τを0.4シンボル程度とすればよいことが分かる。
上述した宅内伝搬環境下における1局毎の遅延分散値(数ns〜10ns程度)は、本実施例の伝送速度(2Mbps)に対するシンボル時間長(1μs)に比べると、極めて小さい。したがって、例えば、上述した条件のQPSK−VP方式を用いて、部屋間などの近距離で無線通信する場合、図36に示すシミュレーション結果とほぼ同等のBER特性を得ることができると考えられる。
図70Aは、宅内に無線局を配置した場合における無線局1−1〜1−nの位置関係を示す図である。図70Aに示すように、宅内に4m四方の部屋が6つあり、各部屋の中央付近に、無線局1−1〜1−nが配置されているとする。このとき、任意のある無線局(例えば、無線局1−n)までの他の無線局(例えば、無線局1−1〜1−3)からの伝搬距離の差(高々4m)に対する伝搬時間差は、せいぜい十数nsである。この伝搬時間差は、シンボル時間長(1μs)に比べて極めて小さい。したがって、中継送信時に複局同時送信する無線局の遅延量を上述した手順で決定する際に、2つの無線局(例えば、送信元局が無線局1−1の場合は無線局1−2及び1−3)の送信タイミングの時間差τを0.2シンボル(200ns)〜0.8シンボル(800ns)以内とすることで、2ブランチ相当のパスダイバーシチ効果を発揮することができる。また、中継送信時に、複局同時送信する無線局が3局である場合、例えば、遅延量τを0.5シンボル程度として、図64Aに示すような遅延量記録テーブルを無線局に保持して複局同時送信すれば、3ブランチ相当のパスダイバーシチ効果を発揮できる。
例えば、通信エリアの所要品質をBER=10-5とすると、図41Bの結果から単局送信時(A)に比べ、2局の複局同時送信時(B)で約20dB、3局の複局同時送信時(C)で約23dBのパスダイバーシチ利得が得られることが分かる。この利得による通信エリアの拡大効果を、説明の簡単のために仮に伝搬損失を自由空間損失で考え算出すると、単局送信時に比べ、2局の複局同時送信時で約10倍、3局の複局同時送信時で約14倍のエリア拡大が見込める。実際には、伝搬損失として、壁等による透過損失等が加わるため、ここまでの拡大は見込めないが、それでも、上記した第5〜第8の実施形態のいずれかの方法を用いて、適切な時間差τを設けて中継伝送時に複局同時送信することにより、単局送信時に比べ、数倍のエリア拡大が見込める。
例えば、単局送信時の通信エリアを半径10m程度として無線局の送信電力を決めた場合、中継送信時に複局同時送信することにより、通信エリアを少なくとも20m〜30m程度に拡大できる。したがって、図70Aに示したようなサイズ程度の家屋であれば、宅内全域にブロードキャストパケットを伝送することができる。また、家屋が比較的近接している場合には、図70Bに示すように、A宅のある無線グループ1で使用しているチャネル情報などを含むブロードキャストパケットを無線グループ1の管理局(例えば、無線局1−1)が送信し、当該パケットを管理局周辺の同グループの無線局(例えば、無線局1−2及び1−3)が複局同時送信することにより、当該パケットを隣家にまで到達させることができるため、隣接する家屋で各々構成している無線グループ間でのチャネル干渉を回避することも可能となる。
なお、以上説明した第5〜第8の実施形態では、変復調方式として、PSK−VP方式を用いるものとして説明した。ここで、変復調方式は、耐マルチパス性を有する変復調方式であればよいため、PSK−VP方式には限られない。例えば、DSSS方式等のスペクトル拡散方式や、OFDM方式、PSK−RZ方式、又は、伝送シンボル内に加える位相変化の方向に情報をのせることで耐マルチパス性を発揮させるDSK(Double
Shift Keying)方式(遅延上限は0.5ビット未満)を用いても構わないし、復調部に等化器を用いても構わない。DSK方式については、非特許文献3に詳しく記載されている。
各変復調方式について、各無線局間の送信タイミングの差が遅延分解能以上遅延上限以下となるように各無線局の複局同時送信時の送信タイミングを、複局同時送信が行われる以前に各無線局が何らかのパケットのやり取り(ネゴシエーション)を行うことを利用して決定することより、複局数が変化しても複局同時送信時に適度な到来時間差のマルチパスを発生できるため、パスダイバーシチ効果を確実に発揮させることができる。
なお、背景技術の項で述べたように、各変復調方式の遅延分解能と遅延上限は、PSK−RZ方式の場合はシンボル長の数分の1、1シンボル未満、DSK方式の場合はシンボル長の数分の1、0.5シンボル未満、DSSS方式の場合は1チップ時間、拡散符号長、OFDM方式の場合は周波数帯域幅の逆数、ガード区間長、等化器を用いる場合はシンボル時間、タップ数で決まる時間長である。
また、第5〜第8の実施形態において、各無線局は、パケットを複局同時送信するものとして説明した。ここで、各無線局が複局同時送信する情報はパケットに限られず、例えば、無線局同士が長期に渡って同一の情報を送信する場合においても、本発明を適用することができる。
なお、第1〜第8の実施形態において、無線局は、送信開始信号を出力するタイミングを制御することによって、アンテナから送信されるパケットの送信タイミングを制御していたが、別の方法として、図71に示すように、直接、変調ベースバンド信号を出力するタイミングを制御してもよい。
図71は、変調部が変調ベースバンド信号に遅延を与える場合における管理局1の構成を示すブロック図である。図71に示す管理局1は、図5及び図48に示す無線局と比較すると、遅延量決定部36が出力する遅延量信号を変調部41fが受け取る点で相違する。それ以外の構成は図5及び図48と同様であるため、同一の符号を付し、説明を省略する。
図72は、図71に示す変調部41fの構成を示すブロック図である。図72に示す変調部41fは、遅延付加部48をさらに備える点で、図6に示す第1の実施形態に係る変調部41と相違する。その他の構成要素は、図6と同様であるため、同一の符号を付し、説明を省略する。
図73は、図72に示す遅延付加部48の詳細な構成の一例を示すブロック図である。図73において、遅延付加部48は、遅延部491と、セレクタ492とを有し、入力された信号を所定の遅延量だけ遅延させて出力する。遅延部491は、シフトレジスタにより構成されており、波形出力部46から得られる信号を所定時間Tだけ遅延させる。セレクタ492は、遅延部491から出力される信号、又は波形出力部46から出力される信号を選択して出力する。セレクタ492は、遅延付加部48により決定された遅延量信号に従い、いずれの信号を選択するかを決定する。例えば、遅延量信号が“T”を示す場合、セレクタ492は、遅延部491から出力される信号を選択する。一方、遅延量信号が“0”を示す場合、セレクタ492は、波形出力部46から得られる信号を選択する。そして、セレクタ492は、選択した信号をD/A変換器47へ出力する。このように、変調ベースバンド信号を直接遅延させることにより、パケットの送信タイミングを制御することができる。
なお、図73では、遅延付加部48において選択される遅延量の候補値が2つである場合を例に説明したが、遅延量の候補値は3つ以上であってもよい。
また、図72では、ディジタル回路上で信号を遅延させる場合を例に説明したが、アナログ回路上で信号を遅延させてもよい。その場合、D/A変換器47の後段に遅延付加部48を設けるとよい。
さらに、読み出し制御部と波形出力部との間に遅延付加部を設け、読み出し制御部から出力されるアドレス信号に所定の遅延量を付加することとしてもよい。図74は、遅延付加部が、読み出し制御部と波形出力部との間に設けられた場合における変調部41gの構成を示すブロック図である。
変調部41gが有する遅延付加部48gは、遅延量決定部36により決定された遅延量信号に従い、アドレス信号を遅延させて波形出力部46へ入力する。なお、遅延付加部48gの構成及び動作は、図72に示す遅延付加部48と同様であるため、説明を省略する。このように、図74に示す構成を実現した場合であっても、第1〜第8の実施形態と同様に、アンテナ31から送信するパケットの送信タイミングを制御することができる。また、複数の無線局が基準タイミングから所定の遅延量を付加してデータを送信する方法であれば、以上説明した例に限られない。
なお、第1〜第8の実施形態における無線伝送システムでは、以下の点が共通する。当該無線伝送システムは、データを無線によって複局同時送信することができる。当該無線伝送システムは、データを送受信するための複数の無線局を備えている。当該無線伝送システムは、送信側の無線局とマルチパス伝送路と受信側の無線局とによってパスダイバーシチのためのシステムを構成している。当該複数の無線局の内、少なくとも1つの無線局は、自局又は他局が送信する複局同時送信要求パケットに対する応答パケットに応じて、無線伝送システムにおいて複局同時送信が行われる際の基準タイミングからの複数の遅延量を決定する。複数の遅延量において、各遅延量の差は、所定の遅延分解能以上に設定されている。複数の遅延量の内、最大値と最小値との差は、所定の遅延上限以下に設定されている。
なお、各実施形態で説明した遅延量決定部や送信タイミング制御部などの無線局が備える各機能ブロックは、典型的には、集積回路であるLSIとして実現される。これらは個別に1チップ化されてもよいし、一部又は全てを含むように1チップ化されてもよい。
なお、各実施形態で説明した動作を実現することができるのであれば、図面に示した機能ブロック以外の機能ブロック及び/又は手段によって本発明の無線局を構成してもよいことは言うまでもない。
以上、本発明を詳細に説明してきたが、前述の説明はあらゆる点において本発明の例示にすぎず、その範囲を限定しようとするものではない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。