以下、図面を参照してこの発明の実施の形態に係る可変インダクタ及び可変インダクタをその回路中に組み込んだ発振器及びこの発振器を備えた無線端末並びに可変インダクタをその回路中に組み込んだ増幅器及びこの増幅器を備えた無線端末について詳細に説明する。
尚、以下の説明において、可変インダクタ回路の分配器に用いる能動素子であるトランジスタとしてFETを用いた例について説明するが、FETに代えてバイポーラトランジスタを用いても可変インダクタ回路を実現することもできる。
<可変インダクタ>
(第1の実施形態)
初めに、この発明の基本的な実施形態に係る可変インダクタついて説明する。図1及び図2は、この発明の一実施形態に従う可変インダクタの回路構成を示している。信号入力端子11に入力された入力信号(Input)は、能動素子を用いて構成された分配器12によって、複数の信号経路13a,13b,…,13nに分配される。信号経路13a,13b,…,13nには、インダクタ14a,14b,…14nがそれぞれ挿入されている。インダクタ14a,14b,…14nは、例えばスパイラル状に形成された導線により作られ、互いに相互結合されるように近接して配置されている。
インダクタ14a,14b,…14nは、夫々入力された信号の大きさに依存した磁束を発生し、その磁束は、近接する他のインダクタにも作用して、その他のインダクタとの間で相互結合を生じる。従って、インダクタ14a,14b,…14nは、夫々それ自身で発生する磁束に起因する自己インダクタンスと、各々に相互結合している他のインダクタが発生する磁束によって定まる相互インダクタンスを有する。例えば、インダクタ14aのインダクタンス、即ち、インダクタ14aの両端の端子15,16(可変インダクタ端子と称する。)間のインダクタンスは、インダクタ14aの自己インダクタンスLsa、及びインダクタ14aと他のインダクタ14b,…14nとの間の相互インダクタンスMab,…,Manによって決まる。ここで、相互に結合したインダクタの向き(電流及び巻き線方向の両者を考慮した向き)に依存して、相互結合しているインダクタは、そのインダクタから発生される磁束を互いに強め合う関係にも、互いに弱め合う関係にも設定できる。従って、可変インダクタ端子15,16間のインダクタンスLaは、自己インダクタンスLsaに対して大きくすることも、小さくすることもできる。
インダクタ14a,14b,…14nには、分配器12から信号経路13a,13b,…,13nに分配される信号が供給される。ここで、分配器12から夫々インダクタ14a,14b,…14nに分配される信号レベルの分配比を調整することによって、相互インダクタンスMab,…,Man、即ち、インダクタ14a,14b,…14nの相互結合による磁束の量を制御できる。従って、可変インダクタ端子15,16間のインダクタンスを所望の値に設定することができる。
分配器12は、後述するようにトランジスタなどの能動素子により構成される。従って、方向性結合器を利用した従来の可変インダクタ回路とは、異なり、図1及び図2に示される分配器12は、容易に集積回路化することができる。分配器12は、図1に示される回路では、信号入力端子11とインダクタ14a,14b,…14nの一端との間に接続されている。図2に示す回路では、分配器12にインダクタ14a,14b,…14nの一端及び他端が接続されている。
次に、図1及び図2に示した可変インダクタのより具体的な幾つかの実施形態について説明する。
(第2の実施形態)
図3及び図4は、ソースが接地されたトランジスタ回路を分配器12が含む実施形態に係る可変インダクタを示している。この実施形態に係る回路は、図1に示した基本回路構成の具体的回路例に相当している。信号入力端子11からの入力信号は、ソースが接地されているFET、例えば、MOSFET(以下、単にトランジスタという)21a,21bにより増幅されて二つの信号経路に分配され、この信号経路に挿入されたインダクタ14a,14bに供給される。トランジスタ21a,21bのゲート端子は、信号入力端子11に接続され、ソース端子は、インダクタ14a,14bの一端に接続され、ドレイン端子が可変インダクタの出力端子22a、22bに接続されている。この可変インダクタでは、MOSFET21a、21bで増幅された信号電流が可変インダクタの出力端子22a、22bから出力される。
インダクタ14a,14bの他端は、電流源23a,23bの一端及びキャパシタ24a,24bの一端に接続されて交流成分(高周波成分)に対しては、接地される。電流源23a,23bの他端及びキャパシタ24a,24bの他端はグラウンドに接続される。インダクタ14a,14bを流れる電流のうち、直流成分は電流源23a,23bを流れ、交流成分(高周波成分)はキャパシタ24a,24bによってバイパスされる。
図3及び図4に示す可変インダクタにおいては、インダクタ14a,14bを表すシンボルの近くに付されている黒い点は、インダクタの巻き始めの位置を表し、この位置が同一のインダクタは、何れも巻線の向きが同一で発生する磁束が同位相であるとする。
図3に示すようにインダクタ14a,14bが同一の向きの場合には、インダクタ14a,14bは、磁束が互いに強め合う向きに発生される。従って、インダクタ14a単体の自己インダクタンスをLsa、インダクタ14b単体の自己インダクタンスをLsbとし、インダクタ14a,14b間の相互結合係数をkabとすると、相互結合を考慮したインダクタ14aの実効的なインダクタンス、即ち、可変インダクタ端子15,16間のインダクタンスLaは、下記式(1)で表される。
La=Lsa+kab・Lsb (1)
インダクタ14a,14b間の相互インダクタンスをMabとすると、この式(1)は、式(2)で表される。
La=Lsa+Mab (2)
一方、図4に示すようにインダクタ14a,14bが逆向きの場合には、インダクタ14a,14bは、互いに磁束を弱め合う関係に発生される。このインダクタンスLaは、式(3)或いは(4)で表される。
La=Lsa−kab・Lsb (3)
或いは
La=Lsa−Mab (4)
ここで、相互結合係数kab、即ち、相互インダクタンスMabは、インダクタ14a,14bの物理的な配置、トランジスタ21a,21bの大きさ、及び電流源23a,23bの電流値Ia,Ib等によって定まる。従って、インダクタ14a,14bの物理的な配置を変化させなくとも、電流値Ia,Ibやトランジスタ21a,21bの大きさを調整することなどによって、インダクタンスLaの値を可変とすることができる。
例えば、電流源23bを外部からの制御信号によって電流値Ibを制御できる可変電流源とし、この電流値Ibを連続的に変化させれば、これに伴い相互インダクタンスMabが変化される。これにより、可変インダクタ端子15,16間のインダクタンスLaは、連続的に変化される。電流源23bがオン/オフされると、インダクタンスLaを(Lsa+Mab)或いは(Lsa−Mab)と、Lsaとの間で2値的に切り替えることが可能となる。
図3及び図4に示す実施形態では、分配器12にFETによるソース接地回路を用いたが、バイポーラトランジスタによるエミッタ接地回路を用いることもできる。エミッタ接地回路の場合、FETのゲート端子、ドレイン端子及びソース端子をバイポーラトランジスタのベース端子、コレクタ端子及びエミッタ端子にそれぞれ置き換えて考えればよい。また、図3及び図4に示す回路では、二つのインダクタを用いているが、3つ以上のインダクタを用いた回路にあっても本実施形態と同様の構成を適用できる。
更に、この実施形態の変形例として、分配各々のゲート端子又はベース端子が複数のインダクタの少なくとも一つのインダクタを介して信号入力端子11に共通に接続された複数のトランジスタにより分配器12が構成されても良い。本実施形態の他の変形例として、各々のゲート端子又はベース端子が信号入力端子11に共通に接続され、そのドレイン端子又はコレクタ端子が夫々複数のインダクタの一端に接続された複数のトランジスタにより分配器12が構成されても良い。
(第3の実施形態)
図5は、分配器12にゲートが接地されたトランジスタ回路を用いたこの発明の第3の実施形態に係る可変インダクタを示している。信号入力端子11には、少なくとも一つの第1のトランジスタ31a,31b,…,31nのソース端子及び複数の第2のトランジスタ32a,32b,…,32nのソース端子が接続されている。第1のトランジスタ31a,31b,…,31nのドレイン端子は第1のインダクタ14aの一端に接続され、ゲート端子は制御信号入力端子33a,33b,…,34nにそれぞれ接続されている。第2のトランジスタ32a,32b,…,32cのドレイン端子は、第2のインダクタ14bの一端に共通に接続され、ゲート端子は、制御信号入力端子34a,34b,…,34nにそれぞれ接続される。
制御信号入力端子33a,33b,…,33cには、それぞれ制御信号φ33a,φ33b,…,φ33nが入力される。制御信号入力端子34a,34b,…,34cには、それぞれ制御信号φ34a,φ34b,…,φ34nが入力される。制御信号φ33a,φ33b,…,φ33n及びφ34a,φ34b,…,φ34nを二値的に変化させると、インダクタ14a,14bへの信号レベルの分配比、即ち、インダクタ14a,14bを流れる電流の比が変化される。これによりインダクタ14a,14b間の相互インダクタンスMabが変化され、その結果、インダクタ14aの実効的なインダクタンスLa(端子15,16間のインダクタンス)を変えることができる。
インダクタ14aへの信号レベルの分配比は、トランジスタ31a,31b,…,31cのうち制御信号φ33a,φ33b,…,φ33nによりオン状態となるトランジスタの数によって決まる。同様に、インダクタ14bへの信号レベルの分配比は、トランジスタ32a,32b,…,32cのうち制御信号φ34a,φ34b,…,φ34nによりオン状態となるトランジスタの数によって決まる。
尚、制御信号φ33a,φ33b,…,φ33n及びφ34a,φ34b,…,φ34nをアナログ信号とし、31a,31b,…,31n及びトランジスタ32a,32b,…,32cを流れる電流を連続的に変化させることによって、端子15,16間のインダクタンスLaを連続的に変化させるようにしても良い。
図4では、インダクタ14aに複数の第1のトランジスタ31a,31b,…,31nを接続したが、インダクタンスの可変範囲が小さくてよい場合は、第1のトランジスタが1個でもよい。同様に、インダクタ14bに複数の第2のトランジスタ32a,32b,…,32nを接続したが、インダクタンスの可変範囲が小さくてよい場合は、第2のトランジスタが1個でもよい。
この実施形態に係る可変インダクタにおいては、分配器12にFETによるゲート接地回路を用いたが、バイポーラトランジスタによるベース接地回路を用いることもできる。ベース接地回路の場合、FETのゲート端子、ドレイン端子及びソース端子をバイポーラトランジスタのベース端子、コレクタ端子及びエミッタ端子にそれぞれ置き換えて考えれば良い。
さらに、本実施形態の変形例として分配器12をソース端子又はエミッタ端子が少なくとも一つの第1のインダクタを介して信号入力端子11に接続され、ゲート端子又はベース端子が制御信号入力端子に接続された少なくとも一つの第1のトランジスタと、ソース端子又はエミッタ端子が第1のインダクタを介して11信号入力端子に接続され、ドレイン端子またはコレクタ端子が第1のインダクタと相互結合する少なくとも一つの第2のインダクタの一端に接続され、ゲート端子又はベース端子が制御信号入力端子に接続された少なくとも一つの第2のトランジスタにより構成としても良い。
(第4の実施形態)
図6には、分配器12にソースフォロア回路を用いた本発明の第4の実施形態に係る可変インダクタが示されている。信号入力端子11には、複数(図4の例では2個)のトランジスタ41a,41bのゲート端子が接続される。トランジスタ41a,41bのドレイン端子は、定電位点である電源Vddに接続され、ソース端子は、インダクタ14a,14bの各々の一端にそれぞれ接続される。トランジスタ41a,41bのソース端子には、さらに電流源43a,43bが接続される。従って、トランジスタ41a,41bは、ソースフォロア回路として動作する。
ここで、第2の実施形態と同様に電流源43bを外部からの制御信号により電流値Ibを制御できる可変電流源として、この電流値Ibが連続的に変化されれば、これに伴ってインダクタ14a,14b間の相互インダクタンスMabが変化され、端子15,16間のインダクタンスLaは連続的に変化する。電流源43bがオン/オフされると、インダクタンスLaは、インダクタ14aの自己インダクタンスをLsaとして、(Lsa+Mab)或いは(Lsa−Mab)とLsaとの間で2値的に切り替わる。
尚、本実施形態では分配器12にFETによるエミッタフォロワ回路を用いているが、バイポーラトランジスタによるエミッタフォロワ回路を用いることもできることは、明らかである。
さらに、本実施形態の変形例として各々のゲート端子又はベース端子が夫々インダクタを介して信号入力端子11に接続され、各々のドレイン端子又はコレクタ端子が定電位点に接続された複数のトランジスタにより分配器12が構成されても良い。
(第5の実施形態)
図7は、分配器12にカスコード接続回路を用いたこの発明の第5の実施形態に係る可変インダクタを示している。信号入力端子11には、第1及び第2のトランジスタ51,52のゲート端子が接続される。トランジスタ51,52のソース端子は、電流源53,54にそれぞれ接続される。第1のトランジスタ51のドレイン端子は、第3のトランジスタ55のソース端子に接続され、第2のトランジスタ52のドレイン端子は、複数(図5の例では2個)の第4のトランジスタ56a,56bのソース端子に共通に接続される。即ち、トランジスタ51とトランジスタ55は、カスコード接続され、トランジスタ52とトランジスタ56a,56bは、カスコード接続される。
第3のトランジスタ55及び第4のトランジスタ56a,56bのドレイン端子は、インダクタ14a,14b,14cの一端にそれぞれ接続される。第3のトランジスタ55のゲート端子は、制御信号入力端子58に接続され、第4のトランジスタ56a,56bのゲート端子は、制御信号入力端子57a,57bにそれぞれ接続される。インダクタ14a,14b,14cを表すシンボルの近傍に付された黒丸に示されるように、インダクタ14aに対して、インダクタ14bは、互いに磁束を強め合う向きに、インダクタ14cは互いに磁束を弱め合う向きにそれぞれ配置される。
今、制御信号入力端子58に制御信号φを入力してトランジスタ55がオンされた状態で、制御信号入力端子57aに制御信号φ+が入力され、制御信号入力端子57bに制御信号φ−が入力されることにより、インダクタ14bに接続されたトランジスタ56aがオン、インダクタ14cに接続されたトランジスタ56bがオフされると、インダクタ14aの両端15,16間のインダクタンスLaは、インダクタ14aの自己インダクタンスLsaより大きくなる。これとは逆に、制御信号入力端子57aに制御信号φ−、制御信号入力端子57bに制御信号φ+がそれぞれ入力されて、トランジスタ56aがオフ、トランジスタ56bがオンにされると、インダクタ14aの両端15,16間のインダクタンスLaは、自己インダクタンスLsaに比べて小さくなる。
このように分配器12にカスコード接続回路を用いると、第2のトランジスタ52に対してカスコード接続された第4のトランジスタ56a,56bのオン、オフによりインダクタ14b,14cに対して選択的に信号が供給され、その結果、端子15,16間のインダクタンスLaを増減させることができる。
尚、この実施形態では、分配器12にFETによるカスコード接続回路を用いているが、バイポーラトランジスタによるカスコード接続回路を用いることもできることは、明らかである。
(第6の実施形態)
図8は、この発明の第5の実施形態に係る可変インダクタを示している。信号入力端子11には、増幅器60を構成するトランジスタ61のゲート端子が接続される。トランジスタ61のソース端子には、電流源63及び交流(高周波)バイパス用のキャパシタ64が接続される。トランジスタ61のドレイン端子には、インダクタ14aの一端とバッファ回路62の入力端子が接続され、バッファ回路62の出力端子には、他のインダクタ14bの一端が接続される。
バッファ回路62は、例えばソース接地回路或いはソースフォロア回路など、集積回路上に形成できる回路によって構成され、その利得は可変となっている。バッファ回路62の利得を変えると、これまでの実施形態と同様にインダクタ14a,14bへの信号レベルの分配比が変わるので、相互インダクタンスが変化されて可変インダクタ端子15,16間のインダクタンスを変化させることができる。
この実施形態においては、分配器12にトランジスタ61にFETを用いたが、バイポーラトランジスタを用いてもよいことは、これまでの実施形態と同様である。
(第7の実施形態)
これまで説明した実施形態では、分配器12を全て単相回路構成とした場合について述べたが、分配器12が差動回路で構成されても良い。この発明の第7の実施形態に係る可変インダクタとして、分配器12を差動回路構成とした例が図9に示されている。図9に示される回路では、分配器12にカスコード接続された差動増幅器が用いられている。
差動入力端子11a,11bに、差動対トランジスタ71a,71bのゲート端子と差動対トランジスタ72a,72bのゲート端子がそれぞれ接続されている。差動対トランジスタ71a,71bの共通ソース端子は、電流源78に、差動対トランジスタ72a,72bのドレイン端子は、電流源79にそれぞれ接続される。差動対トランジスタ71a,71bのドレイン端子は、トランジスタ73a,73bのソース端子にそれぞれ接続され、差動対トランジスタ72a,72bのドレイン端子は、トランジスタ74a,74bのソース端子及びトランジスタ75a,75bのソース端子にそれぞれ接続される。
トランジスタ73a,73b,74a,74b,75a,75bのゲート端子は、制御信号入力端子にそれぞれ接続される。トランジスタ73a,73bのドレイン端子は、差動出力端子22a,22bにそれぞれ接続されると共にインダクタ76a,76bの一端にそれぞれ接続される。トランジスタ74aとトランジスタ75bのドレイン端子は、インダクタ77aの一端に共通に接続され、トランジスタ74bとトランジスタ75aのドレイン端子は、インダクタ77bの一端に共通に接続される。インダクタ76a,76b,77a,77bの他端は、定電位点である電源Vddに接続される。
差動入力端子11a,11bには、互いに逆相の信号Input+,Input−が入力される。このように逆相の信号Input+,Input−が入力されることと、インダクタ76a,77a間の相互インダクタンスM12とインダクタ76b,77b間の相互コンダクタンスM13の符号が反転することは、等価である。従って、制御信号φ+及びφ−により、相互コンダクタンスM12及びM13に係わる相互結合を互いに磁束を打ち消し合う向きにも、磁束を強め合う向きにも制御することができ、これによってインダクタを変化させることが可能である。
さらに、図10にはバイポーラトランジスタを用いた差動回路を用いて分配器を構成した例を示している。用いるトランジスタの違いはあるが、原理的には図9に示した回路と同様である。
以上説明したように、この発明の実施例に係る可変インダクタによれば、集積回路上に形成可能な分配器を用いて電磁的にインダクタを変化させることができる。しかも、このような可変インダクタは、電気的特性が良好であって、小型化、低コスト化が容易であり、集積回路化に適している。
<可変インダクタを備えた発振器及びこの発振器を備えた無線端末>
次に、上述したこの発明に係る可変インダクタが組み込まれた発振器及びこの発振器を備えた無線端末について説明する。
図11は、この発明の実施例に係る発振器を概略的に示すブロック図である。
図11に示す発振器は、インダクタL0を有するLC共振回路を含むコア回路部(VCO core)102と、このインダクタL0と結合係数k1をもって電磁的に結合するインダクタL11を有し、このインダクタL11に供給される電流を制御することが可能な発振周波数制御部104−1(Frequency Controller)を備えている。
この発振周波数制御部104−1には、制御信号Control_1が入力され、この制御信号Control_1に従ってインダクタL11に流れる電流の振幅及び位相の少なくとも一方或いは両方が変更される。その結果、このインダクタL11に結合しているコア回路部102のインダクタL0のインダクタンスが変化されて発振周波数が変化される。例えば、インダクタL0で発生する磁界と強め合う向きに磁界を発生する方向の電流がインダクタL11に流れると、インダクタL0のインダクタンスの値は大きくなり、インダクタンスの値の−1/2乗に比例して発振周波数は、小さくなる。また、インダクタL0で発生する磁界を弱めあう方向の電流がインダクタL11に流れると、インダクタL0のインダクタンスの値は小さくなり、結果として発振周波数は、大きくなる。インダクタL0及びインダクタL11に流れる電流方向を同一にして電流振幅を制御すると、インダクタL0の増加分又は減少分を制御することが可能である。
一般的に容量Cを可変として得られる周波数の制御範囲は、Cmax/Cmin=2程度である。これに対しインダクタンスを変える方式では、例えば、インダクタLとインダクタL11に流す電流が同じ値とし、k=約0.7と仮定すると、Lmin=(1−k)L,Lmax=(1+k)Lとなり、Lmax/Lmin=約6と大きな変動幅を実現することができる。
通常、可変容量で発振周波数を変化させる場合は、発振周波数の5〜10%の範囲での変化しか得られないが、図11に示すように可変インダクタを備える発振器では、発振周波数の50%〜100%の範囲にまで発振周波数を変化させることができる。
尚、このインダクタL11は、1つに限らず、図11に示すように、インダクタL11のような複数のインダクタL11〜L1nが設けられても良い。図11に示す回路では、n個の発振周波数制御部104−nが設けられ、夫々の発振周波数制御部のインダクタL11〜L1nがVCO回路102のインダクタンスLと結合係数(k1〜kn)で電磁的に結合されている。
1つの発振周波数制御部104−1、即ち、コア回路部102のインダクタLに電磁的に結合するのは唯1つのインダクタL11である場合には、このインダクタL11に流れる電流振幅若しくは位相が変えられることによって、インダクタL0のインダクタンスの値を変更することができる。
また、複数個のインダクタL11〜L1nを備える回路では、VCO回路102を種々の態様で制御することが可能である。例えば、インダクタL11と同一の結合係数を有し、インダクタL11に流れる電流と同一の電流がインダクタL1nに流されても、この電流がオン/オフされて電流が流されるインダクタL1nの数を変えてインダクタL0と電磁的に結合する活性化されたL1nを変化させても良い。
また、夫々結合係数k1〜knが異なるインダクタL11〜L1nが用意され、これらのインダクタL11〜L1nが切り替えて使うことも可能である。さらに個々のインダクタL11〜L1nに流れる電流が変化されてコア回路部102をより細く制御することができる。
図12には、VCOコア回路102に相当する差動LC共振型の電圧制御発振回路106から発振信号(電圧信号)が発振周波数制御回路104に入力され、この発振信号が電圧−電流変換されてコア回路部102のインダクタL01,L02に結合するインダクタL1,L2に供給される回路例が示されている。
図12に示される回路においては、電源電圧Vddを有する電流源105に、インダクタL01の一端が接続され、他端は、MOSトランジスタT1のドレイン及びダイオードからなる可変キャパシタVC1に接続されている。このMOSトランジスタT1のソースは、接地されている。
同様に、電源電圧Vddを有する電流源105に、インダクタL02の一端が接続され、他端はMOSトランジスタT2のドレイン及びダイオードからなる可変キャパシタVC2に接続されている。このMOSトランジスタT2のソースは接地されている。
尚、MOSトランジスタT1のドレインとMOSトランジスタT2のゲートが接続され、同様にMOSトランジスタT2のドレインとMOSトランジスタT1のゲートとが接続されている。
可変キャパシタVC1,VC2には、容量制御電圧Vctrlが供給され、可変キャパシタVC1,VC2の容量が決まる。この可変キャパシタVC1,VC2とインダクタL1,L2との並列接続(L1−VC1),(L2−VC2)によって共振周波数が定まる。
この図12では、可変容量VC1,VC2が用いられているが、固定容量のキャパシタが用いられても良い。固定容量のキャパシタが用いられる場合には可変容量VC1,VC2に依存する周波数制御の変動分がなくなるだけで、その動作は変わらない。
この発振器106からは、MOSトランジスタT1のドレインからの出力1(Output_1)及びMOSトランジスタT2のドレインからの出力2(Output_2)が出力される。
この出力信号の発振周波数を変えるために、出力1及び出力2(Output_1, Output_2)は、発振周波数制御回路104の電流―電圧変換回路(V-I Converter )108に入力され、インダクタL01と電磁的に結合係数k1で結合するインダクタL1及びインダクタL02と電磁的に結合係数k2で結合するインダクタL2に流れる電流が制御される。
ここで、k1=0.7,k2=0.7,インダクタンスの値は、各インダクタ(L01,L02,L1,L2)ともLで等しく、また、各々に同じ大きさの電流が流れていると仮定する。
電磁的に結合するインダクタ間の電流の向きが磁界を強め合う向きである場合には、インダクタL01のインダクタンスの値は、L0から1.7L0に上昇する。
また、磁界を弱め合う向きに電流が流れると、インダクタL01のインダクタンスの値は、0.3L0に減少する。
従って、発振周波数の低い方がfLo=2GHz付近であれば、発振周波数の高い方は、fHi=(0.3/1.7)−1/2・fLoとなり、4GHz以上の発振周波数を得ることができることが分かる。
図13は、図12に示す電圧−電流変換回路108をカスコード接続のトランジスタで構成した具体例である。差動LC共振型の電圧制御発振回路16は、図12に示した回路構成と同一であり、図13中で同一の番号を付与しているため説明を省略する。以下に周波数制御部104について説明する。
インダクタL1には、トランジスタT12のドレインが接続され、トランジスタT12のソースは、ゲートに出力1(Output_1)が入力されるトランジスタT11のドレインに接続されている。トランジスタT11のソースは、電流源110を介して接地される。また、トランジスタT11のドレインには、インダクタL2にドレインが接続されたトランジスタT13のソースが接続される。尚、トランジスタT12のゲートには、制御信号φ+が入力され、トランジスタT13のゲートには、制御信号φ−が入力される。即ち、電流源を介してソースが接地され、出力1(Output_1)がゲートに供給されるトランジスタT11とカスコード接続されるトランジスタT12には、インダクタL1が接続され、制御信号φ+がトランジスタT12のゲートに供給される。また、トランジスタT11とカスコード接続されるトランジスタT13には、インダクタL2が接続され、制御信号φ−がトランジスタT13のゲートに供給される。
同様に、インダクタL2には、トランジスタT15のドレインが接続され、トランジスタT15のソースは、ゲートに出力2(Output_2)が入力されるトランジスタT14のドレインに接続されている。トランジスタT14のソースは、電流源を介して接地される。また、トランジスタT14のドレインには、インダクタL1にドレインが接続されたトランジスタT16のソースが接続される。尚、トランジスタT15のゲートには、制御信号φ+が入力され、トランジスタT16には、制御信号φ−が入力される。即ち、電流源を介してソースが接地され出力2(Output_2)がゲートに供給されるトランジスタT14とカスコード接続されるT15には、インダクタL2が接続され、制御信号φ+がトランジスタT15のゲートに供給される。またトランジスタT14とカスコード接続されるトランジスタT16には、インダクタL1が接続され、制御信号φ−がトランジスタT16のゲートに供給される。
この制御信号φ+,φ−を変化させることで、例えば、インダクタL1,L2に流れる電流の向きを反転させることができる。また、制御信号φ+,φ−の電位を適当に設定することでインダクタL1,L2に流れる電流の振幅を変更することもできる。
このように制御信号φ+,φ−を制御することでインダクタL1,L2に流れる電流を制御し、結果としてこのインダクタL1,L2に結合するインダクタL01,L02のインダクタンスの値を制御することが可能になる。例えば、インダクタL01(L02)に流れる電流とインダクタL1(L2)に流れる電流が同相のときには、インダクタL01(L02)のインダクタンスの値は、大きくなり、結果として、発振周波数は低くなる。また、インダクタL01(L02)に流れる電流とインダクタL1(L2)に流れる電流が逆相のときには、インダクタL01(L02)のインダクタンス値は、小さくなり、結果として、発振周波数は高くなる。
図14には、複数の差動対が配置された実施例に係る発振器が示されている。
電源電圧Vddを有する電流源に、インダクタL01の一端が接続され、他端は、MOSトランジスタT1のドレイン及びキャパシタC1に接続されている。このMOSトランジスタT1のソースは、電流源I0を介して接地されている。
同様に電源電圧Vddを有する電流源に、インダクタL02の一端が接続され、その他端は、MOSトランジスタT2のドレイン及びダイオードからなるキャパシタC2に接続されている。このトランジスタT2のソースは、電流源I0を介して接地されている。
トランジスタT1のドレインとトランジスタT2のゲートが接続され、同様にトランジスタT2のドレインとトランジスタT1のゲートとが接続されている。
図14に示す回路では、キャパシタC1,C2のキャパシタンスが固定であるが、図12と同様に可変キャパシタが用いられても良い。
図14に示す回路では、発振周波数制御部が複数の差動対から構成されている。一端が電源電圧Vddに接続されたインダクタL1n、例えば、インダクタL11は、VCO回路106のインダクタL01と結合係数k1n、例えば、結合係数k11で電磁的に結合され、他端がMOSトランジスタT1n、例えば、トランジスタT11のドレインに接続されている。トランジスタT1nのドレインとインダクタL1nとの間には、キャパシタC1(n)、例えば、キャパシタC11が分岐されて接続されている。このトランジスタT1nのゲートには、VCO回路の出力1(Output_1)が供給され、トランジスタT1nのソースは、可変電流源In、例えば、可変電流源I1を介して接地されている。
同様に、一端が電源電圧Vddに接続されたインダクタL2n、例えば、インダクタL21は、VCO回路のインダクタL02と結合係数k2n、例えば、結合係数k21で電磁的に結合され、他端をMOSトランジスタT2n、例えば、MOSトランジスタT21のドレインに接続されている。尚、トランジスタT2nのドレインとインダクタL1nとの間には、キャパシタC2n、例えば、キャパシタC21が分岐されて接続されている。
このトランジスタT2nのゲートには、VCO回路106の出力2(Output_2)が供給され、トランジスタT2nのソースは、可変電流源Inを介して接地されている。
キャパシタC1nとキャパシタC2n、例えば、キャパシタC11とキャパシタC21は、インダクタと接続されている他端が接続されている。
このような差動対が複数個用意され、個々の可変電流源I0〜Inの電流値を変化若しくはON/OFFせしめることでVCO回路106のインダクタL01,L02のインダクタンスを変化させ、発振周波数を制御することができる。
図15には、可変位相器と可変利得増幅器を用いた実施例に係る発振器が示されている。
VCO回路106は、図12に示す回路構成と同一であり、同一番号を付与してその説明を省略する。尚、出力端子には、外部から見たインピーダンスの大きいバッファ回路112、114が接続されている。
この発振器からの出力信号(Output_1,Output_2)は、発振周波数制御回路104の可変位相回路116、118に入力される。発振回路の信号は、可変移相器120,122により適宜制御されてその移相がシフトされ、続いて可変利得増幅器124、126を介して電流が制御され、インダクタL01と結合係数k1で電磁的に結合しているインダクタL1に位相/電流振幅値が制御された電流が供給される。
同様に、インダクタL02と結合係数k2で結合されるインダクタL2に流れる電流も同様に制御される。
この移相及び電流値を適宜制御することでVCO回路106のインダクタL01,L02のインダクタンスを可変とすることができ、もって発振周波数を変更制御することができる。
上述した回路例では、差動タイプについて説明したが、単相でも同様に適用することができる。図16を参照してコルピッツ発振回路に可変インダクタを適用した回路例を説明する。
電源電圧Vddに一端が接続されたインダクタLは、他端がMOSトランジスタTのドレインに接続され、トランジスタTのソースは抵抗Rを介して接地されている。トランジスタTのゲートは接地されている。インダクタL0とトランジスタTとが接続点から分岐され、キャパシタC1,C2が直列に接続され、接地されている。キャパシタC1とキャパシタC2の接続点には、トランジスタT1のソースが接続されている。
インダクタL0とキャパシタC1との接続点からの出力は、周波数制御部128(Frequency Control)に入力され、電源電圧Vddに接続され、インダクタL0と結合係数kで電磁的に結合しているインダクタL1に流れる電流を制御し、発振周波数を変更制御することが可能となる。
以上説明した実施態様では、MOSトランジスタを用いたものを説明したが、バイポーラトランジスタなどでも同様の機能を有する回路を実現できることは言うまでも無い。
また以上説明したインダクタ可変型の発振器を構成するインダクタ、即ち、LC共振回路側のインダクタL0と、電磁的に結合係数kで結合するインダクタL1は、各種の構成をもって実現することができる。例えば、図17に示すように、インダクタLを構成するスパイラル導体がインダクタL1を構成するスパイラル導体とが左右対称となるような配置で構成することができる。この場合は、図17の中央部にて夫々の導体が交差するが、この交差部分が絶縁膜を介して導体が重なり合うように構成することで交差領域以外は1層の配線で実現することができる。
また図18に示すようにインダクタL01と電磁的に結合する複数のインダクタL11・・・L1nを実現する際には、1ターンのL01の内周側に同じく1ターンのL11・・・L1nを配置する構成を採ることができる。
導体パターンは、同一平面上に配置する必要性はなく、例えば、図19に示すように多層配線を利用して、L01,L11・・・L1nを積層することも可能である。図19において、各インダクタL01、L11・・・L1nを構成するコイル導体間には絶縁層が存在することになるが、図19においては、絶縁層は、図面を簡略化するために省略されている。
このように可変周波数範囲の広い発振器を用いることで、周波数帯域が異なる複数の通信システムに適合する無線端末を小型化することができる。即ち、従来の無線端末においては、各通信システムに対応した発振周波数を供給するために個々の発振周波数に対応した発振器を搭載する必要がある。しかしながら、この発明の実施の形態にかかる発振器では、可変周波数範囲がひろいので、1個の発振器で種々の発振周波数が用いられている通信システムに対応することができる。図20には、異なる通信周波数、例えば、2GHz,2.4GHz,5GHzの通信周波数を利用する種々の通信システムをサポートする無線端末のブロックが示されている。個々の通信システムの信号は、アンテナ130−1,130−2,130−3、低雑音増幅器(Low Noise Amplifier)132−1,132−2,132−3、ミキサ(MIX)134−1,134−2,134−3を経由して中間周波数処理部(IF)136−1,136−2,136−3に供給される。中間周波数処理部(IF)136−1,136−2,136−3からの出力は、ベースバンド処理部に供給される。尚、個々のミキサ(MIX)134−1,134−2,134−3には、通信システムに対応した発振周波数の信号が供給される。この回路例では、発振器138から各々の無線システムに対して好適な周波数を持つローカル信号が供給される。発振周波数を供給する発振器138は、上述したこの発明の実施例に係る発振器が用いられる。インダクタンスを変更させることで得られた所望の周波数の信号がスイッチで切り替えられて各通信システムのミキサMIXに供給される。
以上のように、この発明の実施の形態に係る無線端末によれば、複数の発振器を備えることなく、周波数帯域の異なる複数の通信システム,例えば、携帯電話(PDC,W−CDMAなど),Bluetooth(登録商標),無線LAN(2.4GHz,5GHz)等を1台の無線端末でサポートすることができる。この発明の実施例に係る発振器によれば、広い可変周波数範囲を実現でき、その結果、1つの発振器で複数の通信システムに対し発振周波数を供給することができる。
<可変インダクタを備えた増幅器及びこの増幅器を有する無線端末>
次に、この発明の実施形態に係る可変インダクタを備えた増幅器を説明する。
図21は、本発明の一実施形態に係る増幅器を概略的に示すブロック図である。
図21に示される増幅器は、インダクタLaを含む増幅回路140と、このインダクタLと結合係数kで電磁的に結合したインダクタLcを備えた制御部142とを備えている。
制御部142は、増幅回路140への入力信号Input_1を受け、インダクタLcに信号電流を供給する。増幅器の出力Output_1は、インダクタLcに供給される信号電流によって変化するインダクタLaのインダクタンスの値に応じて特性が変化される。
図21に示す回路では、1つのインダクタLcのみが示されているが、1つに限らず、複数のインダクタLc−1〜Lc−nが設けられても良い。また、複数個のインダクタLc−1〜Lc−nを備える場合には、各種の制御が実現できる。例えば、同一の結合係数を有し、流れる電流が同一のインダクタLc−nを用意し、この電流をオン/オフすることで電流を流すLc−1〜Lc−nの数を変えてインダクタLと電磁的に結合する活性化されたLc−nを変化させることでも対応が可能である。
また、結合係数k1〜knが異なるインダクタLc−1〜Lc−nを用意し、切り替えて使うことも可能である。さらに個々のインダクタLc−1〜Lc−nに流れる電流を変化させより細かい制御を行うことも可能である。
ON/OFF制御を含めた電流量の制御と同様に位相を変えるによっても、インダクタLaのインダクタンスを見かけ上変更することができる。
またもっとも単純な制御は、インダクタLcが1個用意され、これに流れる電流がON/OFFの2値制御されるシステムでも良い。この制御システムにおいても、増幅特性可変の効果を十分に発揮することができる。
図22を参照して差動増幅器の具体例を説明する。
図22に示すように、ゲートに入力信号Input_1が入力されるMOSトランジスタM1のソースは、ディジェネレーション用のインダクタL1を介して電流源I1に接続されている。この電流源I1の他端は、接地されている。また、MOSトランジスタM1のドレインにインダクタL3が接続され、インダクタL3の他端は、電源電位Vddに接続されている。
差動対を構成するMOSトランジスタM2のゲートには、入力信号Input_2が入力され、インダクタL1、MOSトランジスタM1及びインダクタL3の接続と同様に、MOSトランジスタM2のソースには、ディジェネレーション用のインダクタL2が接続され、ドレインには、インダクタL4が接続され、インダクタL2は、電流源I1に接続され、インダクタL4は、電源電位Vddに接続されている。
このMOSトランジスタM1、M2のドレインからそれぞれ出力信号Output_1、Output_2が出力される。制御部は、差動増幅器の入力信号Input_1、Input_2をそれぞれゲートに入力するMOSトランジスタM3及びM4を備えている。MOSトランジスタM3のソースには、インダクタL1と結合係数k1で結合されるインダクタL5が接続され、可変電流源I2を介して接地されている。同様に、MOSトランジスタM4のソースは、インダクタL2と結合係数k2で結合されるインダクタL6を介して可変電流源I2に接続されている。MOSトランジスタM3,M4のドレインは、電源電位Vddに接続されている。
この差動増幅器からの出力信号の特性、例えば、歪特性等を変えるには、可変電流源I2の電流値を変えることになる。可変電流源I2の電流変化を電流ON/OFFの2値と仮定する。可変電流源I2がONの際には、互いに電磁的に結合したインダクタL1、L5の対及びインダクタL2、L6の対は、互いに磁界を弱め合う向きに構成されていると仮定する。このような回路では、可変電流源I2がONの場合はディジェネレーション用のインダクタのインダクタンスは、小さく見えるため、高利得で低雑音を実現できる。即ち、高利得・低雑音モードとすることができる。また、可変電流源I2がOFFの場合は、インダクタL1,L2で発生する磁界を打ち消す方向の磁界は、発生しないので、可変電流源I2がONの場合に比べ、ディジェネレーション用のインダクタンスは大きく見えることになる。この場合は良好な歪特性を得ることができる。即ち、歪特性重視のモードとすることができる。
従って、差動増幅器を構成する際に、ディジェネレーション用のインダクタを比較的大きいインダクタンスを有するもので設計しておけば良いことになる。
上述の説明では可変電流源I2の電流値をOn/OFFの2値で制御するとしているが、ステップ状若しくは連続変化させることで所望の増幅器の特性を得ることもできる。
図23は、この発明の他の実施形態を概略的に示すブロック図である。
図23に示される増幅器は、インダクタLaを含む第1の増幅回路150と、このインダクタLaと結合係数kで電磁的に結合されるインダクタLcを備えた第2の増幅器152とを備えている。
第2の増幅器152は、第1の増幅器150と同一の入力信号Input1が入力され、第1の増幅器150の増幅器特性、例えば、歪特性等を制御する制御部の機能を果たすとともに、第2の増幅器152の出力は、第1の増幅器150の出力に加えられて出力信号Output_1として出力される。
上述の実施態様と同様に、制御部に相当する第2の増幅器152は、増幅回路150への入力信号Input_1を受け、インダクタLcへ信号電流を供給する。第1の増幅器150の出力Output_1は、インダクタLCへ供給される信号電流によって変化するインダクタLのインダクタンス値に応じて特性が変化することになる。このとき第2の増幅器152の出力も出力Output_1に戻すことにより、入力信号Input_1に対する増幅率を大きくしている。
図24には、図23に示される差動増幅器の具体的な回路例を示されている。
ゲートに入力信号Input_1が入力されるMOSトランジスタM1のソースは、ディジェネレーション用のインダクタL1を介して電流源I1に接続されている。電流源I1の他端は、接地されている。また、MOSトランジスタM1のドレインにインダクタL3が接続され、インダクタL3の他端は電源電位Vddに接続されている。
差動対を構成するMOSトランジスタM2のゲートには、入力信号Input_2が入力され、インダクタL1、トランジスタM1及びインダクタL3の接続と同様に、MOSトランジスタM2のソースには、ディジェネレーション用のインダクタL2が接続され、ドレインには、インダクタL4が接続され、インダクタL2は、電流源I1に接続され、インダクタL4は、電源電位Vddに接続されている。
このMOSトランジスタM1、M2のドレインからそれぞれ出力信号Output_1、Output_2が出力される。制御部に相当する第2の増幅器152は、差動増幅器の入力信号Input_1、Input_2をそれぞれゲートに入力するMOSトランジスタM3及びMOSトランジスタM4を備えている。
MOSトランジスタM3のソースには、インダクタL1と結合係数k1で結合されるインダクタL5が接続され、可変電流源I2を介して接地されている。同様に、MOSトランジスタM4のソースは、インダクタL2と結合係数k2で結合されるインダクタL6を介して可変電流源I2に接続されている。
MOSトランジスタM3のドレインは、MOSトランジスタM1のドレインに接続され、MOSトランジスタM3を介して流れる可変電流源I2からの電流が出力信号Output_1中に加えられている。同様にMOSトランジスタM4のドレインは、MOSトランジスタM2のドレインに接続され、MOSトランジスタM4を介して流れる可変電流源I2からの電流が出力信号Output_2中に加えられている。
このような回路構成を採ることにより、制御部に流れる電流を増幅回路の出力として利用することができ、増幅器全体としての電流利用効率が上がることになる。
設計にもよるが、例えば、通常の増幅器に流れる電流を5mA程度とすると、低歪特性を実現するためには場合によっては、10mA程度まで電流を流す必要が生じる。これに対し、図24に示される回路では、高利得・低雑音を実現する際は、I1=I2=2.5mAとなるように設定すると、通常の増幅器において5mA流した場合と同等の特性を得ることが期待できる。一方、低歪特性を実現する際は、電流源I2がオフにされて電流源I1に2.5mA流すだけでも大きなディジェネレーションのインダクタの効果で低歪特性を実現することができる。
上述の回路において増幅器の特性を可変とすることができるが、これに伴い増幅器の入力インピーダンスも変化する。一般に増幅器の入力インピーダンスが変化することは望ましくない。そこで増幅器の入力部に入力インピーダンス制御部を設けることが好ましい。
図25を参照して、入力インピーダンス制御部として可変抵抗を備えた回路を説明する。
図25に示す回路においては、入力端子Input_1と入力端子Input_2との間に可変抵抗Rvが挿入されている。図25に示される回路は、可変抵抗Rvを除く他の回路構成が図24と同一の構成を有している。
この可変抵抗Rvは、図26(a)に示すようにFETを用いて構成しても良く、図26(b)に示すように固定抵抗とスイッチとの組み合わせても良い。
図25に示される回路においては、図27に示すように増幅段の入力インピーダンスは、下記式(5)で表される。
Zin = L gm/C+j(ωL−1/ωC) ...(5)
この式(5)において、バイアス電流が流れている場合は、式(5)の第1項で規定される実部が存在するが、バイアス電流をOFFした場合は、gm=0となるため、入力インピーダンスは実部を持たない。このためバイアス電流をOFFした場合の入力インピーダンスを、バイアス電流を流した場合の入力インピーダンスに近づけるためには、インピーダンスの実部を補償する必要がある。このために前述の可変抵抗Rvが用いられてインピーダンスの実部が補償される。
説明を簡略化するため可変抵抗Rvの抵抗値を2値、即ち、オープン/ONとする。図25に示す回路において、インダクタL1とインダクタL5、インダクタL2とインダクタL6が互いに磁束を打ち消し合う向きに配置されていると仮定する。この仮定で、電流源I1と電流源I2が共にONの場合、トータルのディジェネレーションのインダクタンスは、小さくなり高利得・低雑音で動作する。ここでは、可変抵抗Rvはオープンの状態にあるとする。一方、電流源I1のみをONにして電流源I2をOFFにした場合、トータルのディジェネレーションのインダクタンスは、大きくなり、低歪で動作するが、トランジスタM3およびトランジスタM4にはバイアス電流が流れないため、インピーダンスの実部が消えてしまう。このインピーダンスの実部を補償するために可変抵抗Rvの抵抗値をONとして可変抵抗Rvに適当な抵抗値を設定すると、高利得・低雑音モードで動作したときと近い入力インピーダンスとすることができる。
可変電流源I2による電流制御をステップ状、連続など2値以上で制御する場合には、可変抵抗Rvの抵抗値もステップ状,連続変化などで制御しても良い。このような場合には、図26(a)に示すようなFETを用いるタイプでゲートにかける電圧φを変化せしめれば良い。
図25に示す回路において後段にゲート接地回路でも利得を可変とすることができるようにした回路構成が図28に示されている。
図24におけるMOSトランジスタM1とインダクタL3との間にゲート接地されたMOSトランジスタM11a、M11bを介在させ、トランジスタM11aは、ゲート信号φ2でON/OFFされ、トランジスタM11bのゲートは、例えば電源に接続されて常にONとされる。
このインダクタL3とMOSトランジスタM11aを迂回してMOSトランジスタM1のドレインが電源電位Vddに接続されるようにMOSトランジスタM12が配置されている。このMOSトランジスタM12は、ゲート信号φ1で駆動される。
同様に、MOSトランジスタM2とインダクタL4との間にMOSトランジスタM21aおよびM21bを介在させ、トランジスタM21はゲート信号φ2でON/OFFされ、トランジスタM21bは常にONとする。このインダクタL4とMOSトランジスタM21を迂回してMOSトランジスタM2のドレインが電源電位Vddに接続するようにMOSトランジスタM22が配置されている。このMOSトランジスタM22はゲート信号φ1で駆動される。
トランジスタM11a、M12及びトランジスタM21、M22は、同一サイズのMOSトランジスタで構成し、トランジスタM11bおよびトランジスタM21bは、小さいサイズのMOSトランジスタで構成したとする。ゲート信号φ1がOFFされ、ゲート信号φ2がONされると、出力には、トランジスタM11a、トランジスタM11b、トランジスタM21a、トランジスタM21bを介して供給される信号が出力される。一方ゲート信号φ1がONされ、ゲート信号φ2がOFFされると、出力には、トランジスタM11b、トランジスタM21bを介して供給される信号のみが出力され、他の信号は、トランジスタM12、トランジスタM22を介して捨てられてしまうため、利得が低くなる。この利得切り替え動作と、前述したディジェネレーションのインダクタを変化させる利得切り替えを併用することにより、さらに広い利得切り替え幅を実現することができる。
図29には、入力インピーダンス調整用にインダクタンス可変回路を応用した回路例が示されている。
図25に示した回路に示した可変抵抗Rvに代えてトランジスタM1及びインダクタL1,トランジスタM2及びインダクタL2,トランジスタM3及びインダクタL5,トランジスタM4及びインダクタL6と同様の回路構成を有するインピーダンス調整用回路160が設けられている。即ち、MOSトランジスタM5のドレインは、電源電位Vddに接続され、ソースは、インダクタL7を介して電流源I3に接続され、ゲートには、入力信号Input_1が供給されている。
また、MOSトランジスタM5と差動対をなすMOSトランジスタM6のドレインは、電源電位Vddに接続され、ソースはインダクタL8を介して電流源I3に接続され、ゲートには入力信号Input_2が供給されている。
このインダクタL7,L8のインダクタンスを制御する回路として、差動増幅器162の入力信号Input_1、Input2をそれぞれゲートに入力するMOSトランジスタM7及びM8を備えている。MOSトランジスタM7のソースには、インダクタL7と結合係数k3を有するインダクタL9が接続され、可変電流源I4を介して接地されている。同様にMOSトランジスタM8のソースは、インダクタL8と結合係数k4を有するインダクタL10を介して可変電流源I4に接続されている。尚、MOSトランジスタM7,M8のドレインは、電源電位Vddに接続されている。
説明を簡略化するために、インダクタL1〜L10のインダクタンスは同じ値とし、結合係数k1=k3=k2=k4とする。可変電流源I2,I4は。電流ON/OFFの2値で変化し、結合するインダクタは、相互に磁界を弱めあうように接続されているものとする。
可変電流源I2をONとした場合は、ディジェネレーション用のインダクタL1及びL2のインダクタンスの値は小さく見え高利得・低雑音モードで動作する。このとき可変電流源I4をOFFにしておくと、インピーダンス調整用回路は、擬似的に低歪モードで動作し、トータルの入力インピーダンスは、高利得・低雑音モードの回路と低歪モードの回路が並列に接続された値になる。
一方、可変電流源I2をOFFとした場合は、ディジェネレーション用のインダクタL1及びL2のインダクタンスの値は大きく見え低歪モードで動作する。このとき可変電流源I4をONにしておくと、インピーダンス調整用回路は、疑似的に高利得・低雑音モードで動作し、トータルの入力インピーダンスは。高利得・低雑音モードの回路と低歪モードの回路が並列に接続された値になり、動作モードを切り替えても変化しないこととなる。
更に、上述の実施態様では差動対の回路例を説明したが、単相の回路でも同様の効果を得ることができる。図30は、単相の増幅回路に適用した実施態様を示す回路図である。
図30に示すようにゲートに入力信号Input_1が入力されるMOSトランジスタM1のソースは、ディジェネレーション用のインダクタLを介して電流源I1に接続されている。電流源I1の他端は、接地されている。また、MOSトランジスタM1のドレインにインダクタL3が接続され、インダクタL3の他端は電源電位Vddに接続されている。このMOSトランジスタM1のドレインから出力信号Output_1が出力される。
制御部は、入力信号Input_1をゲートに入力するMOSトランジスタM2を備えており、MOSトランジスタM2のソースには、インダクタLと結合係数kを有するインダクタLCが接続され、可変電流源I2を介して接地されている。尚、MOSトランジスタM3のドレインはMOSトランジスタM1のドレインに接続され、MOSトランジスタM2を介して流れる可変電流源I2からの電流は出力信号Output_1中に加えられる。
可変電流源I2の電源が、例えば、ON/OFF制御されることで、ディジェネレーション用インダクタLのインダクタンスの値を制御することができる。
以上説明したディジェネレーション用のインダクタと、結合係数kで電磁的に結合する制御用のインダクタ、例えば、図21に示されるインダクタL1、L2等は各種の構成をもって実現することができる。例えば、図17に示すように、ディジェネレーション用インダクタLを構成するスパイラル導体と制御用インダクタLCを構成するスパイラル導体とが左右対称となるような配置で構成することができる。この場合は、図面中央部にて夫々の導体が交差することになり、この部分が絶縁膜を介して形成することで交差領域以外は1層の配線で実現することができる。インダクタは、図17に示す構成に限らず電磁的に結合できる状態であればいかなる構成でも良く、図18或いは図19に示したような導体パターンで構成されても良い。
以上説明した本発明の実施態様の回路ではMOSトランジスタを用いたが、他のトランジスタなどの能動素子を用いても良いことは言うまでもない。
この発明の実施例に係る増幅器は、携帯電話などの無線通信端末に利用することができる。図31にその一例が示されている。図31は、無線通信端末のブロック図を示している。
アンテナ(ANT)からのRF入力信号は、RF信号処理部(RF)に供給される。即ち、RF信号処理部(RF)において、スイッチ(T/R)を介してRFバンドパスフィルタ1(RF−BPF1)、低雑音増幅器(LNA)及びRFバンドパスフィルタ2(RF−BPF2)に供給され、乗算器(DC)にてローカル信号(RF−VCO)と乗算されて中間周波数信号に周波数変換される。この中間周波数信号は、中間周波数処理部(IF−Stage)及びベースバンド信号処理部(BB−Stage)に供給される。
低雑音増幅器(LNA)には、ベースバンド信号処理部(BB−Stage)内の受信電界強度判定部(RSSI)からゲイン制御信号(Gain Control)が供給されている。
送信される信号は、上述とは逆に処理される。即ち、ベースバンド信号処理部(BB−Stage)及び中間周波数処理部(IF−Stage)から供給された信号は、RF信号処理部(RF)にて処理される。RF信号処理部では、中間周波数信号が乗算器(UC)にてローカル信号(RF−VCO)と乗算されて周波数変換され、この変換された信号がRFバンドパスフィルタ(BP−BPF)を介してパワーアンプ(PA)に供給され、スイッチ(T/R)を介してアンテナ(ANT)に供給される。
このような無線端末の低雑音増幅器(LNA)に上述した増幅器が用いられる。
無線端末には、各種の規格・標準が存在するが、入力するRF信号のレベルが小さい場合は、低雑音増幅器(LNA)には、低雑音で信号を増幅する増幅器特性が要求される場合がある。このような場合には、LNAのディジェネレーション用のインダクタンス値を小さくなるように制御する。逆にRF信号が十分大きい場合は、RF信号を歪ませないことが重要になるので、LNAのディジェネレーション用のインダクタンス値を大きくなるように制御することになる。
このような低雑音増幅器(LNA)の特性制御は、例えば、ゲイン制御信号(Gain Control)を用いて行うことができる。尚、増幅器の特性制御はRSSI以外の基準をもとに行っても良い。
このように無線端末のRF処理部のLNAに本発明の増幅特性可変の増幅器を用いることにより、消費電流を増加せしめることなく、適応的に所望のLNAの増幅特性を実現することができる。
図21〜図31を参照して説明した増幅器においては、少なくとも一対のインダクタンスLa、Lc、L1,L5、L2,L6、L7,L9,L8,L10は、
互いに結合係数k1,k2,k3,k4で互いに結合され、相互インダクタンスを有するものとして説明している。しかし、増幅器は、一対のインダクタンスは、互いに結合されず、相互インダクタンスを有しなくとも実現可能である。相互インダクタンスを用いる増幅器は、大きなディジェネレーションが実現でき、より少ない電流で、良好な歪特性が実現できる利点がある。これに対して、相互インダクタンスを有しないインダクタンスを備えた増幅器は、複雑な形状のインダクタを用いる必要がないため、設計が容易になる利点がある。
以下、図32〜図39を参照してこの発明の他の実施の形態に係る相互インダクタンスを有しないインダクタを備えた増幅器について詳細に説明する。
以下の説明では全てバイポーラトランジスタを用いた例について説明するが、FETなど他の能動素子を用いて構成することも可能である。
図32には、この発明の他の実施形態に係る増幅器の基本回路構成を示している。この図32に示されるように複数の増幅段A1〜Anは、入力側Inputに対して並列に接続され、増幅段A1〜Anが選択的に動作されることによって、利得切り替え機能が実現される。ここで、増幅段A1〜Anは、その増幅特性が同一でも良く、或いは、増幅特性が異なってもよく、又は、同一及び異なる増幅特性のものが組み合わされても良い。利得が切り替えられると入力インピーダンスは、変化されるが、この入力インピーダンスZinの変化は、可変抵抗Rxで補償される。即ち、いずれの増幅段A1〜Anが動作している場合も、増幅器全体の入力インピーダンスZinが大きく変化しないように、可変抵抗Rxの値が適切な値に設定される。ここで、例えば、増幅段A1は、ある程度の消費電流で、高利得かつ良好な歪み特性を有する増幅段とし、増幅段A2は、少ない消費電流で低い利得と良好な歪み特性を有する増幅段とすると、高い利得が要求される場合は、増幅段A1を動作させ、低い利得が要求される場合は増幅段A2を動作させることにより、所望の利得および歪み特性を実現するとともに、消費電流を必要最小限に抑えることが出来る。可変抵抗Rxを適切な値に設定することにより、増幅段A1と増幅段A2の動作を切り替えて利得を変化させた際の入力インピーダンスZinの変化を小さく抑えることが可能である。
図33は、図32の回路の可変抵抗Rxを実現する第1の実施例に係る回路を示している。入力インピーダンスを調整する可変抵抗Rxは、固定の抵抗R1、〜RmとスイッチSW1〜SWmを用いて実現される。スイッチSW1〜SWmが適切に切り替えられることによって、固定抵抗R1〜Rmが選択されて入力側の抵抗Rxに所望の抵抗値が与えられる。
図34は、図32の回路の可変抵抗Rxを実現する第2の実施例に係る回路を示している。入力インピーダンスを調整する可変抵抗Rxは、FET172で構成してあり、FET172の制御ゲートVctrlに適切な制御電圧を印加することによって、所望の抵抗値を実現することができる。
図35は、図32の回路の可変抵抗Rxを実現する第3の実施例に係る回路を示している。図35に示す回路においては、2つのエミッタ接地された増幅段A1およびA2が並列に接続され、入力インピーダンスを調整するためにMOSFETが入力段に接続されている。増幅段A1のディジェネレーションのインダクタL1は、高利得が実現出来るように小さいインダクタンスの値を有している。また、増幅段A2のディジェネレーションのインダクタL2は、低利得と良好な歪み特性を実現するように大きいインダクタンスの値を有している。図35に示される回路において、入力部のMOSFET172を除いた部分の入力インピーダンス(アドミタンス)をシミュレーションした結果が図36に示されている。図36は、回路定数や動作点を適切に設定して、増幅段A1がON、且つ、増幅段A2がOFFにされて高利得を実現した第1の場合及び増幅段A1がOFF、且つ、増幅段A2がONされて低利得を実現した第2の場合における反射係数をアドミタンス上に示したものである。図36から明らかなように、適切な抵抗が並列に接続されること、即ち、入力部に接続したMOSFET172がONされることにより、図36に示した第1及び第2の場合のインピーダンスをほぼ同じにすることが可能である。高利得を実現する際の消費電流は、3mA程度で、低利得を実現する際の消費電流は、1.5mA程度となり、低利得時には消費電流も削減されている。低利得時は、消費電流は少なくなっているが、ディジェネレーションのインダクタL2の値が大きいため、良好な歪み特性を実現できる。
図37は、図32の回路の可変抵抗Rxを実現する第4の実施例に係る回路を示している。図37に示される回路では、2つの差動増幅段A1、A2が並列に接続され、入力インピーダンスを調整するためにMOSFET172が入力段に接続されている。ここで、高利得を実現する際は、増幅段A1、A2の両方がONされる。2つの増幅器A1、A2が動作される場合には、ディジェネレーションのインダクタも小さく見えるため、高利得を実現することが出来る。また、低利得を実現する場合は、増幅段A1のみがONされ、増幅段A2がOFFされることにより、ディジェネレーションのインダクタは、インダクタL1のみが見えるようになるため、大きなディジェネレーションとなり、良好な歪み特性を実現することができる。
図38は、図33の回路の可変抵抗Rxを実現する第5の実施例に係る回路を示している。図38の回路においては、入力Input_1,Input_2の間に固定抵抗R1〜R3及びスイッチSW1〜SWmの直列回路が並列に接続されている。この回路では、スイッチSW1〜SWmを選択的にON-OFFすることによって入力側の抵抗Rxを適切に設定することができる。即ち、スイッチSW1〜SWmが適切に切り替えられることによって、固定抵抗R1〜Rmが選択されて入力側の抵抗Rxに所望の抵抗値が与えられる。
図39は、図32に示す増幅回路を無線機の低雑音増幅器に適用した回路例を示している。この図39に示す無線端末の回路においては、アンテナ(ANT)からのRF入力信号は、RF信号処理部(RF)に入力され、このRF信号処理部(RF)の図32を参照して説明した低雑音増幅器(LNA)に供給される。低雑音増幅器(LNA)からの出力信号は、乗算器(DC)にてローカル信号(RF−VCO)と乗算されて中間周波数信号に周波数変換される。この中間周波数信号は、バンドパスフィルタ(BPF)を介して中間周波数処理部(IF−Stage)の中間周波数アンプ(IF−AMP)に供給される。中間周波数アンプ(IF−AMP)からの出力は、直交復調器(QDEM)を介してベースバンド信号処理部(BB−Stage)に供給されて処理される。
この無線端末の回路においては、図32に示す増幅回路が低雑音増幅器に適用され、利得切り替えを実現するとともに入力インピーダンスを一定にしている。利得切り替え機能により、無線機のダイナミックレンジは広がり、低雑音増幅器の入力インピーダンスが変化しないため、単一の入力整合回路を用いて容易に50Ωなど所望のインピーダンスに常に整合させることが可能である。また、無線機に用いる回路には、低消費電力であることが求められるが、本発明を適用した低雑音増幅器は、必要最小限の電流で動作させることが可能であるため、無線機の低消費電力化にもつながるものである。
尚、この発明は、上記実施形態そのままに限定されるものでなく、実施段階では、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合わせてもよい。