JP4683491B2 - モータ保護装置 - Google Patents

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Description

本発明は、モータ保護装置に関し、特に、モータの過熱防止機能によって、例えば、電動パワーステアリングに用いられるモータを保護するモータ保護装置に関する。
ステアリングシャフトを回動させて車両を操舵する際、該ステアリングシャフトに電動モータで回動補助力を付与して操舵を楽にさせる電動パワーステアリングシステムが知られる。
特開2005−324796号公報には、上記電動モータの過熱を防止するため、モータの巻線温度を推定し、その推定温度に基づいてモータの温度保護制御を行う電動パワーステアリング装置の制御装置が記載されている。
一般に、モータの巻線温度を推定する場合、ジュールの法則に従い、巻線を流れる電流値と巻線の抵抗値を利用する。すなわち、電流値をI、抵抗値をR、通電時間をtとした場合、発熱量Qは、Q=I×I×R×t…(式1)で推定できる。
この式1により発熱量は推定されるが、さらに温度を推定するためには、放熱量も考慮しなければならない。次式2は、放熱量補正項としての定数aを含む熱量推定式である。累積値Tは温度を代表する。
累積値T=Σ(K×I×I−a)…(式2)。この式2は、パワーステアリングが動作して電動モータに通電されたときの発熱量を通電時間分積算して温度を推定する式であり、放熱量として定数aを減算している。式2おける定数aは、温度を高めに見積もって温度保護を確実にするため、巻線の最高温度から通電を停止した時に常温に戻るまでの時間より長い時間で累積値がゼロに戻るようごく小さい値を設定する。定数aが大きすぎると、累積値Tが小さくなる傾向が大となり、巻線温度を低く見積もり易くなるためである。定数aにより、通電が長時間行われない場合、累積値Tはゼロに復帰する。なお、式2において、係数Kは積算係数であり、計算値を実測値に近づけるように予め実験によって求める数値である。
特開2005−324796号公報
上記式2を使用すれば、温度センサを使用することなく電動モータの温度を推定でき、この推定温度が予め設定した温度以上になれば、電動モータへの電流供給を停止することによって電動モータの保護が図られる。
上記式2は整備された一般道路を専ら走行する車両には適しているが、オフロードを走行する不整地走行車両(ATV)等には必ずしも適さない。オフロード走行では転舵の角度と頻度が多く、電動モータの通電頻度が多くなるので、累積値Tが過大になり、実際には発熱保護の必要がない低い温度で電動モータへの電流供給が停止してステアリングシャフトに対する補助力が付与されなくなる可能性がある。
累積値Tが過剰となって実際の温度と相関しなくなるのは、次の理由による。放熱量を考慮した補正用の定数aは極めて小さい固定値であるが、実際の放熱量は電動モータの温度と周囲温度との差によって変動する。長時間の動作では、該温度差が大きくなるので放熱量が多くなって電動モータの実際の温度は比較的上昇しにくい。したがって、定数aが極めて小さい固定値である式2によれば、発熱量の累積値は増大傾向となり、累積値Tと実際温度との相関がとれなくなるものと考えられる。
本発明の目的は、頻繁に作動する走行条件下で使用されることがあるパワーステアリング装置等において、精度良く電動モータの温度を推定してモータの過熱防止を図ることができるモータ保護装置を提供することにある。
上記課題を解決するための本発明は、モータと、前記モータに供給する電流を制御するモータドライバと、前記モータに供給される電流に基づいて前記モータの温度を推定する温度推定手段と、推定された前記モータの温度に応じてモータ供給電流の上限値を制限する過熱保護手段とを有するモータ保護装置において、前記制限されたモータ供給電流の上限値を大きい値に補正する電流値補正手段を具備し、前記加熱保護手段による電流上限値の制限が行われている場合、前記温度推定手段が、前記補正されたモータ供給電流の上限値を用いて前記モータの温度を推定する点に第1の特徴がある。
また、本発明は、前記加熱保護手段が、前記温度推定手段で推定されたモータの温度が予定値まで増大したときに、前記モータ温度に応じた電流制限割合で前記モータ供給電流の上限値を制限するように構成され、前記電流値補正手段が、前記電流制限割合によって前記上限値を大きい値に補正する点に第2の特徴がある。
また、本発明は、前記電流値補正手段が、前記電流制限割合が小さくなるに従い前記上限値が大きくなるように補正する点に第3の特徴があり、前記電流制限割合が、予め設定したゼロ近傍の値に低減されたときに前記電流制限割合を1.0にリセットされる点に第4の特徴がある。
また、本発明は、前記温度推定手段が、供給電流によるモータの発熱量と放熱量との差を時系列で積算する発熱量累積手段を具備し、かつ前記放熱量が、前記発熱量累算手段で算出された発熱量累積値と周囲温度との差の関数である点に第5の特徴がある。
さらに、本発明は、前記発熱量が前記モータ供給電流値と予定の発熱係数との乗算値で計算され、前記放熱量が発熱量累積値と周囲温度との差と予定の放熱係数との乗算値で計算されるとともに、前記発熱係数および放熱係数は、前記発熱量累積値が、予め測定した前記モータの実測温度より高くなるように設定されている点に第6の特徴がある。
また、さらに、本発明は、電動パワーステアリング装置用モータの過熱防止に利用される点に第7の特徴がある。
モータに供給される電流に基づいてモータの温度が推定され、モータの温度が上昇したときに電流が制限されると、その結果、制限された電流値に従ってモータ温度は低く推定される。したがって、あるところで、電流値と推定温度とが平衡してしまう。そこで第1の特徴では、モータ温度の推定に際しては、制限された電流値を高めに補正して、電流が制限されても推定温度はその制限された電流値に応じて低く見積もられることがないようにした。これにより、電流が下がりきらない平衡状態で電流制限が行われるという自体が回避される。
第2、第3の特徴によれば、モータの電流を制限するために電流制限割合を使用することとし、温度推定のための電流値はこの電流制限割合の関数として決定される。したがって、この電流制限割合が1.0以下になって電流制限が行われているときに温度推定のための電流値の補正が自動的に行われる。
第4の特徴によれば、電流値がゼロの関数となることを防止するとともに、電流が十分に小さくなっているにもかかわらず、推定温度が上昇するという不具合を回避できる。
第5の特徴によれば、放熱量を固定値とせず、発熱量と周囲温度との差によって求めるようにしたので、モータが頻繁に始動・停止される状況でモータの温度をより正確に推定できる。
第6の特徴によれば、モータの実測温度よりも推定温度が高くなるように設定した発熱係数および放熱係数を用いるので、モータの推定温度は高めに計算される。したがって、モータの負荷が大きくなっても、モータの過熱以前にモータへの供給電流が制限される。
第7の特徴によれば、頻繁にパワーステアリングが動作する走行状態においてパワーステアリング装置用のモータの温度をより正確に推定して、過熱から保護することができる。
以下、図面を参照して本発明の一実施形態を説明する。図2は、本発明の一実施形態に係る電動パワーステアリング用制御装置を組み込んだ鞍乗り型車両の左側面図である。鞍乗り型車両(以下、単に「車両」という)1は、小型軽量に構成された車体の前後に、比較的大径の低圧バルーンタイヤである左右の前輪2および3を備え、主に不整地での走行性能を高めたATV(All Terrain Vehicle)である。
車体フレーム4の中央部には、原動機としてのエンジン5が搭載される。エンジン5は水冷短気筒エンジンであり、出力軸を車両1の前後方向に沿わせてレイアウトされる。エンジン5の下部から前方に導出されたプロペラシャフト8fが、車体フレーム4の前部下側で前減速機構11を介して前輪2に動力伝達可能に接続される。同様に、プロペラシャフト8rが、車体フレーム4の後部下側で後減速機構12を介して後輪3に動力伝達可能に接続される。
エンジン5において、クランクケース6上に立設されるシリンダ部7の後部にはスロットルボディ17が接続され、スロットルボディ17の後部にはエアクリーナ18が接続される。排気管19がシリンダ部7に接続され、排気管19の先端部は車体後部のサイレンサ21に接続される。
車両1の車体上部の車幅方向中央前部には燃料タンク22が設けられ、その後方にはシート23が配置される。シート23の後部下方にはバッテリ94が配置されている。燃料タンク22の前部はステアリングシャフト25を上下に延在可能なように凹部が形成されており、ステアリングシャフト25の上端部にはバー型のステアリングハンドル(以下、単に「ハンドル」という)24が固定されている。ステアリングシャフト25の下部前方にはエンジン冷却用のラジエータ26が配設され、ラジエータ26の前方にはラジエータファン29が設けられる。
車体フレーム4の前部には、車体前部を覆う車体カバー31、前輪2の上方を覆うフロントフェンダ32、並びにフロントプロテクタ33およびフロントキャリア34が取り付けられる。車体フレーム4の後部には、後輪3の上方を覆うリアフェンダ35およびリアキャリア36が取り付けられる。
図2に併せて図3を参照しつつ電動パワーステアリング装置を説明する。図3は電動パワーステアリング装置を示す図2の要部拡大側面図である。ステアリングシャフト25の上部および下端部は、車体フレーム4に接合された上部支持ブラケット54および下部支持ブラケット55でそれぞれ支持される。電動パワーステアリング装置80は、ステアリングシャフト25の中間部に設けられたアクチュエータユニット81と、アクチュエータユニット81に一体化されたパワーアシストモータ82を駆動制御するECUとしてのコントロールユニット93とからなる。パワーアシストモータ82はアクチュエータユニット81内に設けられるトルク検出手段としてのトルクセンサ91の検出値に基づいて駆動制御される。
ステアリングシャフト25の下端部はアクチュエータユニット81の入力軸83に同軸で連結されるとともに、これらと同軸をなす出力軸84が、軸受55aを介して下部支持ブラケット55に支持される。入力軸83および出力軸84は、アクチュエータユニット81のハウジング85内において、トルクセンサ91の一部であるトーションバー92を介して互いに接続されている。
前輪2には、接地抵抗が作用しているので、ハンドル24を右または左回りに操作すると、ハンドル24に機械的に連結される入力軸83と、前輪2に機械的に連結される出力軸84との間に、相対回転力が生じる。その結果、トーションバー92が捩れるので、この捩れ量に基づいてハンドル24の操舵トルクを検出できる。操舵トルクの検出値はコントロールユニット93に入力され、この検出値に応じてパワーアシストモータ82が駆動制御される。
これにより、ハンドル24を回動操作する際にステアリングシャフト25(出力軸84)を含むステアリング機構には、ハンドル24からの操作力に加えて、パワーアシストモータ82からの回動補助力が付与されるのでハンドル24の操作量が相対的に軽減される。
図4は、出力軸84の周辺拡大断面図である。図4において、左右一対のタイロッド75は、車両1の車体幅方向に延び、それぞれ左右の前輪2に連結される。これらタイロッド75の端部(前輪2が連結される側と反対側の端部)は車体幅方向中央部でピットマンアーム84aに連結される。ピットマンアーム84aは出力軸84にスプライン嵌合される。
ピットマンアーム84aは、下部支持ブラケット55の直ぐ下方に位置しており、このピットマンアーム84aと軸受55aとでステアリングシャフト25つまりハンドル24の右または左周りの最大転舵位置を規定するハンドルストッパを構成している。すなわち、軸受55aに下側にはストッパ本体55bが突設されるとともに、ピットマンアーム84aの左右前面には当接部84bがそれぞれ形成されており、ハンドル24が転舵角度0度の状態つまり車両直進状態から右または左回りに所定角度θ1回動したときに、当接部84bがストッパ本体55bの側部に当接し、それ以上のハンドル操作が規制された最大転舵状態となる。ストッパ本体55bの側部に最大転舵検出手段としての最大転舵スイッチ10がそれぞれ設けられる。
図5は、電動パワーステアリング用制御装置の要部機能を示すブロック図である。コントロールユニット93は、最大転舵スイッチ10から入力される最大転舵検出信号並びにパワーアシストモータ82へ供給される電圧および電流の値に基づいてステアリングシャフト25の転舵角度を検出するとともに、検出された転舵角度に基づいてステアリングシャフト25への操舵補助力を制御する。
コントロールユニット93は、ステアリングシャフト25の相対転舵角度(任意位置からの転舵角度)を算出する転舵角度算出部93dと、最大転舵検出信号に基づいてステアリングシャフト25の転舵基準位置(車体に対する転舵基準状態)を推定する基準位置推定部93eとを有する。
目標ベース電流演算部93fは、トルクセンサ91による検出トルクと、前記相対転舵角度および転舵基準位置から知り得るステアリングシャフト25の絶対転舵角度(転舵基準位置からの相対転舵角度)とに基づき、操舵補助力の基本となるモータ電流値である目標ベース電流値を算出する。目標ベース電流値の決定には車速をパラメータに加えるのが望ましい。
目標電流演算部93gは目標ベース電流値にイナーシャ補正やダンパ補正を加えて目標電流値を決定する。イナーシャ補正はトルクの変化量をパラメータとして目標電流値を補正する。モータイナーシャを考慮し、転舵開始時にハンドル24を介して運転者が感じる重さを改善し、操舵フィーリングを向上させることができる。ダンパ補正はパワーアシストモータ82の回転数をパラメータとして目標電流値を補正する。補正値は回転数の増大に伴って目標電流値を小さくする方向に設定される。ハンドル24の手応えを適正化して操舵フィーリングを向上させることができる。
パワーアシストモータ82に供給される電流を検出する電流センサ93aが設けられ、検出電流値は目標電流制限部93bおよび電流フィードバック制御部93cに入力される。
パワーアシストモータ82の目標電流値は過熱保護のために目標電流制限部93bで目標電流上限値に制限される。目標電流制限部93bはパワーアシストモータ82に供給される電流に基づき、後述の算出式でパワーアシストモータ82の温度を算出し、その温度に応じて目標電流上限値を決定する。
バッテリ94からの電流はモータ出力部93hつまりモータドライバを介してパワーアシストモータ82に供給される。モータ出力部93hはFETブリッジ回路であり、入力されるオンデューティ指示値に応答してパワーアシストモータ82へ供給する電流値を変化させる。電流フィードバック制御部93cは、電流センサ93aによる検出電流値を目標電流値に収斂させるようにデューティ指示値を決定し、モータ出力部93hに入力する。
このように、パワーアシストモータ82は、トルクセンサ91からの操舵トルク検出信号だけでなく、ステアリングシャフト25の絶対操舵角度も加味して駆動制御されるので、例えば、車両直進位置からハンドル24を切る時と、車両直進位置にハンドル24を戻す時とで操舵補助力を変化させることができる等、きめ細かな制御が可能となる。また、パワーアシストモータ82に供給される電流の上限値はパワーアシストモータ82の推定温度によって決定され、推定温度が予定の過熱保護温度以上になったときに操舵補助力を低減もしくはゼロにしてパワーアシストモータ82を過熱から保護する。
前記目標電流制限部93bで実行されるパワーアシストモータ82の温度推定手法を従来技術との対比で説明する。
パワーアシストモータ82の温度は、発熱量と放熱量との差の累積値に基づいて推定される。「背景技術」の項で式2に関して説明したように、従来は放熱量を定数aとして設定しており、通電中か否かにかかわらず一定量が放熱されるとしていた。そして、定数aは極めて小さい値であったので、通電が連続するような走行状態では、温度に対応する累積値Tはほとんど減少せずに上昇し続ける傾向となる。したがって、目標電流値は短時間で制限され、操舵補助力が発生しなくなることがあった。
しかし、実際は、例えば、ハンドル24の戻し操作が頻繁なオフロード走行では、発熱と放熱との繰り返しにより温度がほぼ平衡する。図6は、オフロード走行条件で式2に基づいて計算された累積値Tと、パワーアシストモータ82のブラシ部での実測温度TBとを示す図である。この図のように、累積値Tは上昇し続けているが、実測温度TBは140°C程度で平衡している。累積値Tが上昇し続けると、実測温度TBが平衡しているにもかかわらず、累積値Tで代表される温度は目標電流値の制限温度を超えるようになり、目標電流値の上限が制限されて操舵補助力の付与が停止される。
そこで、計算値で実際のパワーアシストモータ82の温度を代表できるように、式2を修正することを検討した。まず、図7に通電時および通電停止後のパワーアシストモータ82の温度変化を示す。図7において、線TBはパワーアシストモータ82の実測温度TBでありブラシでの測定結果を示す。線Tは式2による累積値T、線TSは式2を修正した後述の式による累積値TSによる温度シミュレーション結果をそれぞれ示す。線TBで示すように、実測温度TBは、通電によって約200°Cまで急勾配で上昇し、その後少し上昇程度が鈍くなり、平衡状態に入る気配を示す。そして、200秒の通電時間を経過した時に通電を停止すると、急激に放熱して温度低下する。しかし、温度低下の程度はすぐに鈍くなり、温度は始動時の温度に対する漸近線に沿って低下する。
一方、式2による累積値Tに基づく温度シミュレーション結果では、通電開始から直線的に温度上昇し、通電を停止すると直線的に温度下降する。実測温度TBはパワーアシストモータ82の温度と周囲温度との差に応じて放熱速度が変化しているのに対して、累積値Tに基づくシミュレーション結果ではパワーアシストモータ82の温度と周囲温度との差に拘わらず、計算毎に定数aが減算されていくだけなので、直線的な温度下降になると考えられる。
そこで、パワーアシストモータ82の温度と周囲温度との差を考慮した推定式を設定した。この推定式の設定に際しては、累積値TSに基づく温度シミュレーション結果で、各時間毎のシミュレーション温度が実測温度TBを上回るように、つまり図7の線TSになるように発熱係数および放熱係数を設定した。推定式は次の通りである。
累積値TS=Σ((発熱係数Kup×電流I×I)−(放熱係数Kdn×(前回積算温度Td−周囲温度Tm)))+初期温度T0…(式3)。初期温度T0および周囲温度Tmはデフォルト値であり、いずれも予想されるモータ周囲温度の最大値より高く設定するのがよい。
図1は、目標電流制限部93bの要部機能を示すブロック図である。電流センサ93aで検出された電流値Iは乗算部100で二乗される。電流値Iの二乗された値は発熱係数Kupおよび放熱係数Kdnとともに発熱量算出部101に入力される。発熱量算出部101には、周囲温度Tmも入力され、次式4に従って発熱量Qが算出される。発熱量Q=Kup×I×I−Kdn×(Td−Tm)…(式4)。発熱量Qは加算部102で累算され、累積値バッファ103に入力される。発熱量Qの累積値ΣQは積算温度Tdとして発熱量算出部101にフィードバックされる。積算温度Tdは加算部104に入力され、初期温度T0と加算して累積値TSが出力される。
この累積値TSに従って、パワーアシストモータ82に供給される目標電流値が決定される。まず、累積値TSはレシオマップ105に入力され、電流レシオつまり電流制限割合が決定される。レシオマップ105に設定されたレシオは累積値TSが予定値までは「1.0」であり、この予定値を超えた領域では「0」である。乗算部106では、目標ベース電流値Ibにレシオが乗算される。レシオが「1.0」以下では電流値が制限される。乗算部106から出力される目標電流値つまり目標電流上限値が制限された電流値はイナーシャ・ダンパ補正部107でさらに補正されて出力される。
一方、累積値TSは、電流上限マップ108にも入力される。電流上限マップ108には、累積値TSに応じた目標電流値が記憶されている。累積値TSが大きくなる程、電流値は小さくなるように設定される。電流値の変化の割合は累積値TSが小さい領域と累積値TSが大きい領域とで異なっており、累積値TSが大きい領域では、累積値TSの増大割合に対して電流値の低下割合が小さくなっている。
目標電流選択部109は、電流限界マップ108から読み出される電流値と、イナーシャ・ダンパ補正部107から出力される電流値とを比較する。そして、小さい方の電流値を、パワーアシストモータ82の目標電流値として採用し、電流フィードバック制御部93cに入力する。
次に、パワーアシストモータ82の温度推定方法の変形例を説明する。上述の実施形態では、周囲温度Tmを固定値とした。しかし、熱がこもりやすい空間つまりヒートマスが大きい空間を想定した場合、周囲温度Tmを固定値とすると不都合である。そこで、この変形例では、周囲温度Tmを式5で求めることとした。
周囲温度Tm=Σ((発熱係数Kup2×電流I×電流I)−(放熱係数Kdn2×(前回周囲温度Tm−周囲温度Tm0)))+初期温度T0…(式5)。この式5は係数が異なるもの、式3と同様に構成されている。
また、ヒートマスが小さい場合、つまりパワーアシストモータ82の周囲が比較的開放的な空間である場合は、周囲温度Tmは式6で近似的に計算することができる。周囲温度Tm=Σ((発熱係数Kup2×電流I×電流I−a)…(式6)。式6は、放熱量を定数aとした簡単な式としている。
周囲温度Tmの算出式として式5および式6のいずれを使うかは、パワーアシストモータ82を取り囲む空間の状況(広いか狭いか、または発熱部品が周囲に多いか少ないか等)に応じて決定すればよい。
上述の実施形態よれば、温度センサを用いることなく、パワーアシストモータの温度を推定して過熱防止を図ることができる。すなわち、レシオマップ105から読み出されたレシオに基づいて目標ベース電流値を補正する上記方式では、累積値TSに応じて電流が制限される。しかし、電流が制限されると累算値TSが減少するので、レシオマップ105に従ってレシオが上がり電流制限が緩和され、電流が増大する。そうすると、再び累算値TSが増大し、レシオが下がって電流が低減されるので、レシオが上がる。こうして、レシオが1.0から低減された後、ある電流値付近で制限電流が平衡状態となり、その電流値以下に電流を制限できない。
そこで、次の対策を講じる。図8は、第2実施形態に係る目標電流制限部の要部機能ブロック図であり、図1と同符号は同一または同等部分である。非制限電流算出部210は、現在のモータ電流Iを現在のレシオRcで割ることにより、電流レシオで目標電流を制限しなかった場合の電流を算出する。発熱量算出部201は前記式4中の「I」を「I/Rc」で置き換えた算出式を備えており、発熱係数Kup、放熱係数Kdn、周囲温度Tm、電流値I/Rc、および積算値バッファ103からフィードバックされる積算温度Tdを入力されて発熱量Qを算出し、加算部102に出力する。積算値バッファ103の出力つまり積算温度Tdは加算部104に入力され、初期温度T0と加算して累積値TSが出力される。こうして、制限しなかった場合の電流I/Rcをもとに計算された累積値TSは、レシオが低下しても減少することなく増大を続ける。したがって、これに対応してレシオは低下して目標電流は制限される。
レシオ判断部211は、現在のレシオが所定値(ゼロまたは予定の下限レシオ)以下に低下しているか否かを判断する。現在のレシオが所定値以下に低下していない場合は、現在のレシオRcを非制限電流算出部210に入力する。現在のレシオが所定値に低下している場合は、レシオ再設定部212を付勢する。レシオ再設定部212は、レシオRcとして「1.0」を非制限電流算出部210に入力する。このレシオの再設定つまりリセットにより、レシオRc=0で電流Iを割り算する不具合が防止されるとともに、電流が十分に制限されている状態での累積値TSの増加を防止することができる。
電流制限状態を長時間続けた場合、過剰に累積値TSが増加してしまい、ハンドル操作を止めた後累積値が減少するのに時間がかかりすぎて電流制限状態から通常状態に復帰するのが遅れるという不具合が起こり得る。レシオRcを「1」にリセットすることにより、適当な時間で電流制限状態から通常状態への復帰が可能になる。
なお、非制限電流算出部210は、現在のモータ電流を現在のレシオで割り算して発熱量算出のための電流値を計算するようにしたが、この非制限電流値算出部は、現実の電流値をレシオを用いて高めに補正するように構成されていればよい。
上述の実施形態は、本発明をパワーステアリング装置に適用した例を示したが、本発明のモータ保護装置は、パワーステアリング装置用のモータ保護に限らず、発熱量と放熱量との差を累積してモータ温度を推定する手段を備え、その推定温度に基づいてモータの過熱保護をするシステムに広く適用することができる。
また、本発明によれば、モータの過熱保護だけでなく、モータドライバのオンデューティ指示値でモータ供給電流を決定している場合においては、電流の上限値を制限することによってモータドライバの過熱保護も果たすことができる。
本発明の一実施形態に係る電動パワーステアリング用制御装置内の目標電流制限部の要部機能を示すブロック図である。 本発明の電動パワーステアリング用制御装置を組み込んだ鞍乗り型車両の左側面図である。 図2の要部拡大側面図である。 図3におけるA−A断面図である。 電動パワーステアリング用制御装置の要部機能を示すブロック図である。 オフロード走行条件でのモータ温度シミュレーション結果である累積値Tとパワーアシストモータのブラシ部での実測温度TBとを示す図である。 通電時および通電停止後のパワーアシストモータの温度変化を示す図である。 本発明の第2実施形態に係る目標電流制限部の要部機能を示すブロック図である。
符号の説明
1…鞍乗り型車両、 10…最大操舵スイッチ、 25…ステアリングシャフト、 80…電動パワーステアリング装置、 82…パワーアシストモータ、 91…トルクセンサ、 92…トーションバー、 93…コントロールユニット、 93a…電流センサ、 93b…目標電流制限部、 101、201…発熱量算出部、 105…レシオマップ、 108…電流上限マップ、 210…非制限電流算出部、 212…レシオ再設定部

Claims (7)

  1. モータ(82)と、前記モータ(82)に供給する電流を制御するモータドライバ(93h)と、前記モータ(82)に供給される電流値(I)に基づいて前記モータ(82)の温度を推定する温度推定手段(201)と、推定された前記モータ(82)の温度に応じてモータ供給電流の上限値を制限する過熱保護手段とを有するモータ保護装置において、
    前記加熱保護手段が、前記温度推定手段(201)で推定されたモータ(82)の温度が予定値を超える領域で、前記モータ温度に応じて前記モータ供給電流の上限値を制限する電流制限割合(Rc)を決定する電流制限割合設定手段(105)を含んでおり、
    前記温度推定手段(201)に供給されるモータ供給電流値(I)を前記電流制限割合(Rc)によって制限されたモータ供給電流以上に補正する電流値補正手段(210)と、
    前記電流制限割合(Rc)がゼロまたは予定の下限値以下であった場合に、前記電流値補正手段(210)に入力する前記電流制限割合(Rc)を1.0にリセットする電流制限割合再設定手段(212)とを具備し、
    前記電流値補正手段(210)が、現在のモータ電流値(I)を現在の電流制限割合(Rc)で除算することにより、前記電流制限割合で目標電流を制限しなかった場合の電流を算出し、前記モータ電流値(I)を(モータ電流値I/電流制限割合Rc)で置き換えて前記推定モータ温度(TS)を算出し、加算部(102)に出力するように構成され、
    前記温度推定手段が、供給電流によるモータ(82)の発熱量と放熱量との差を時系列で積算する発熱量累積手段を含んでおり、かつ前記放熱量が、前記発熱量累算手段で算出された発熱量累積値(Td)と周囲温度(Tm)との差の関数であり、
    前記発熱量が前記補正されたモータ供給電流値(I)と予定の発熱係数(Kup)との乗算値で計算され、前記放熱量が発熱量累積値(Td)と周囲温度(Tm)との差と予定の放熱係数(Kdn)との乗算値で計算されるとともに、
    前記発熱係数(Kup)および放熱係数(Kdn)は、前記発熱量累積値(Td)が、予め測定した前記モータ(82)の実測温度より高くなるように設定され、
    推定モータ温度(TS)を、推定モータ温度TS=Σ((発熱係数Kup×補正された供給電流I/Rc×I/Rc)−(放熱係数Kdn×(前回積算温度Td−周囲温度Tm))+初期温度T0として算出することを特徴とするモータ保護装置。
  2. 前記推定モータ温度(TS)によって目標電流値および前記電流制限割合(Rc)が決定され、前記推定モータ温度(TS)が予定値に上昇するまでは前記電流制限割合(Rc)が1.0であり、該予定値を越えた領域では前記電流制限割合(Rc)は前記推定モータ温度(TS)に応じて1.0から0まで漸減し、目標ベース電流値(Ib)に前記電流制限割合(Rc)を乗算することで、前記電流制限割合(Rc)が1.0未満の時に電流値を制限するとともに、前記電流制限割合(Rc)によって制限された電流値はイナーシャ・ダンパ補正部(107)でさらに補正されることを特徴とする請求項1記載のモータ保護装置。
  3. 前記推定モータ温度(TS)が大きくなるに従って前記目標電流値が小さくなるように設定された電流上限マップ(108)を備え、該目標電流値の変化の割合は前記推定モータ温度(TS)が小さい領域と大きい領域とでは、推定モータ温度(TS)が大きい領域では、推定モータ温度(TS)が小さい領域と比べて推定モータ温度(TS)の増大割合に対して目標電流値の低下割合が小さくなるように設定されていることを特徴とする請求項記載のモータ保護装置。
  4. 前記モータ(82)の目標電流値は、電流上限マップ(108)から読み出される電流値と、イナーシャ・ダンパ制御部(107)から出力される電流値とを比較する目標電流選択部(109)を備え、
    前記目標電流選択部(109)は、前記比較される電流値のうち小さい方を採用して、電流フィードバック制御部(93c)を介して前記モータ(82)に入力することを特徴とする請求項記載のモータ保護装置。
  5. 前記周囲温度(Tm)は、モータ周囲のヒートマスが大きい場合に、周囲温度(Tm)を、周囲温度Tm=Σ((発熱係数Kup2×補正された供給電流I/Rc×I/Rc)−(放熱係数Kdn2×(前回周囲温度Tm−周囲温度TM0))+初期温度T0として算出し、
    モータの周囲のヒートマスが小さい場合に、周囲温度(Tm)を、周囲温度Tm=Σ(発熱係数Kup2×補正された供給電流I/Rc×I/Rc−定数a)として算出することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載のモータ保護装置。
  6. 前記モータ(82)が、ステアリングシャフト(25)に作用するトルクに応じた操舵補助力を該ステアリングシャフト(25)に付与するパワーステアリング装置用モータであり、
    前記モータドライバ(93h)が、前記トルクの大きさに応じてモータ供給電流を変化させて前記操舵補助力を制御するように構成されており、
    前記パワーステアリング装置が不整地走行車両用であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1つに記載のモータ保護装置。
  7. 前記モータ(82)が、ステアリングシャフト(25)の後方下部でエンジンの前方に設けられ、
    少なくとも前記モータドライバ(93h)を内蔵するモータコントローラ(93)が、前記ステアリングシャフト(25)の前方上部に設けられていることを特徴とする請求項6に記載のモータ保護装置。
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