JP4679850B2 - パルス電解による物質の製造方法及び製造装置 - Google Patents

パルス電解による物質の製造方法及び製造装置 Download PDF

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Description

本発明は、パルス電解による物質の製造方法、パルス電解による物質の製造装置、パルス電解によって製造された物質およびパルス電解によって製造された物質を消費する装置に関する。
従来から、直流電解による物質の電解生成の不均一性を改善するために、パルス電解が検討されている。例えば、非特許文献1には、電解めっきにパルス電解を適用する技術が開示されている。
「パルス電源を用いたコネクター接点の金めっき」,実務表面技術,1985年,Vol.32,No.12,p.652−658
非特許文献1には、パルス電解により、めっき皮膜形成すなわち物質の電解生成の均一性を向上可能であることが示されている。しかし、非特許文献1の技術では、拡散層の影響により、目的物質を十分に均一に生成できない場合もあった。また、非特許文献1の技術では、目的物質の単位時間当たりの生成量を、電解浴容積を大きくすることなく増加させることは困難である。
本発明は、これらの問題を解決するためになされたもので、目的物質を均一に電解生成可能であるとともに、目的物質の単位時間当たりの電解生成量を、電解浴容積を大きくすることなく増加させることができる、パルス電解による物質の製造方法および製造装置を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、パルス電解による物質の製造方法であって、静電誘導型サイリスタを用いた誘導エネルギー蓄積型のパルス発生回路が採用されたパルス電源を電解液に浸漬された電極対に接続し、前記パルス電源から前記電極対に電気パルスを印加することによって前記パルス電解を行い、前記パルス電解に用いられる電気パルスが、立ち上げられた後、電解対象イオンとの間で電子移動を行う電極と前記電解液との界面に前記電解対象イオンの拡散層が全く発生しないうちに立ち下げられることを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載の製造方法において、前記電極と前記電解液との界面から離れて存在する前記電解対象イオンと前記電極との間で電子移動が行われることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の製造方法において、前記電解に係る電気化学反応が、電気化学的な非平衡状態で進行することを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の製造方法において、前記電解に係る電気化学反応が、電子移動律速であることを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の製造方法において、前記電気パルスのピーク電圧が、直流電解における分解電圧以上であることを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の製造方法において、前記電解対象イオンが水素イオンであり、前記電解により水素ガスを製造することを特徴とする。
請求項7の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の製造方法において、前記電解対象イオンが陰イオンであり、前記電解により気体を製造することを特徴とする。
請求項8の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の製造方法において、前記電解対象イオンが金属陽イオンであり、前記電解により金属を製造するともに、前記電極が前記金属によってめっきされることを特徴とする。
請求項9の発明は、パルス電解による物質の製造装置であって、電解液に浸漬された電極対に接続され、前記電極対に電気パルスを印加するパルス電源を備え、前記パルス電源が、前記電気パルスの立ち上げ後、電解対象イオンとの間で電子移動を行う電極と前記電解液との界面に前記電解対象イオンの拡散層が全く発生しないうちに前記電気パルスを立ち下げる手段、を備え、前記パルス電源に、静電誘導型サイリスタを用いた誘導エネルギー蓄積型のパルス発生回路が採用されることを特徴とする。
請求項10の発明は、請求項9に記載の製造装置において、特定量の物質を単位時間内に製造するための電解浴容積が、直流電解の場合より小さいことを特徴とする。
請求項11の発明は、請求項9又は請求項10に記載の製造装置において、前記静電誘導型サイリスタが、SiCまたはGaNを用いて作製されることを特徴とする。
請求項12の発明は、請求項9ないし請求項11のいずれかに記載の製造装置において、前記パルス電源が、太陽電池により発電された電力を用いて前記電気パルスを発生することを特徴とする。
請求項1ないし請求項12の発明によれば、電解対象イオンの拡散層が発生しないので、電極対間に流れる電流が電解対象イオンの拡散速度によって律せられることがない。これにより、拡散律速による限界電流以上の電流を電極対間に流すことが可能となり、目的物質の単位時間当たりの電解生成量を、電解浴容積を大きくすることなく増加させることができる。
請求項2の発明によれば、電解対象イオンとの間で電子移動を行う電極と電解液との界面から離れた領域でも電解対象イオンが酸化または還元されるので、電解対象イオンの酸化または還元による目的物質の電解生成を均一核発生により行うことが可能になり、目的物質を均一に電解生成可能である。また、電解に係る電気化学反応に関与する電解対象イオンを増加させることができるので、電解浴容積を大きくすることなく、目的物質の単位時間当たりの電解生成量を増加させることができる。
請求項5の発明によれば、高い電界が電解液内に生じるので、電解対象イオンの移動を促進可能である。
請求項1ないし請求項12の発明によれば、高圧電源が不要となるので、太陽電池等の低圧電源を利用可能になる。
請求項10の発明によれば、電解浴容積が小さくなるので、工業的に有利である。
請求項12の発明によれば、二酸化炭素を発生させる化石燃料を起源とするエネルギーに依存しないで電解を行うことができるので、地球環境へ負荷が小さい製造装置を実現可能である。
<電解の原理>
本発明の実施形態に係るパルス電解では、電解液(電解質溶液ないしは溶融塩)に浸漬した電極対に短時間幅の電気パルス(以下では、「短パルス」とも称する)を印加することによって電解を行い、目的物質を得ている。以下では、このような短パルスの周期的な繰り返し列を用いた電解(以下では、「短パルス電解」とも称する)の原理について、長時間幅の電気パルス(以下では、「長パルス」とも称する)の周期的な繰り返し列を用いた電解(以下では、「長パルス電解」とも称する)と対比させながら説明する。ここで、長パルス電解で起こる電気化学反応に関する以下の説明は、直流を用いた電解(以下では、「直流電解」とも称する)で起こる電気化学反応に関してもほぼ当てはまる。なお、以下の原理説明では、電極対のうち陰極で起こる電気化学反応に着目して説明を行うが、陽極で起こる電気化学反応に着目する場合は、以下の説明における「陽イオン」「還元」「陰極」を、それぞれ、「陰イオン」「酸化」「陽極」と読み替える等をすればよい。
○パルス波形;
図1および図2は、それぞれ、短パルスP1および長パルスP2の1パルス分の波形を示す図である。図1および図2において、横軸は時間tを示し、縦軸は電気パルスの電圧Vを示す。図1および図2の横軸に記された時間tSおよびtEは、それぞれ、電気パルスの立ち上げ開始時および立ち下げ終了時である。図1および図2に示す波形は、電解の原理の理解を容易ならしめるために模式的に描かれており、実際の波形形状を厳密に表現することを目的としていない。また、後述するように、図1と図2とでは、縦軸のスケールも大きく異なる。
短パルスP1および長パルスP2の全幅Δt(=tE−tS;sec)は、電解に係る電気化学反応によっても若干異なるが、それぞれ、数μsec以下および数10msec以上である。また、短パルスP1は場合によっては、数μsec以上および数10msec以下であっても良い。また、長パルスP2のピーク電圧VPが直流電解における分解電圧と同程度であるのに対して、短パルスP1のピーク電圧VPは、電解液中にアークが発生しない範囲内で分解電圧より著しく高くすることができ、例えば、数100V程度まで上昇させることができる。すなわち、短パルス電解では、印加電圧が分解電圧の約300倍に達することもある。なお、ここでいう「分解電圧」とは、直流電解において電解生成物の定常的な析出を維持するために必要な最小の電極対間電圧である。
○拡散層;
図3は、長パルス電解における、電解液に含まれる陽イオンの濃度C(x)(縦軸)の、陰極と電解液との界面(以下では、「陰極界面」とも称する)からの距離x(横軸)に対する依存性を示す図である。図3には、図2の時間t1(t1≦tS)および時間t2(tD≦t2≦tE)における、濃度C(x)の距離xに対する依存性が、それぞれ、実線L1および点線L2で模式的に示されている。なお、図3に示す依存性も、電解の原理の理解を容易ならしめるために模式的に描かれており、実際の依存性を厳密に表現することを目的としていない。
図3に実線L1で示すように、長パルスP2の印加開始前の時間t1では、陰極界面付近の濃度C(x)は、電解液中の陽イオンのバルク濃度X(個/cm3)で一定である。
そして、長パルスP2の印加が開始されると、陰極と陰極界面の陽イオンとの間で電子の移動が行われ、陽イオンの還元が開始される。
図3に破線で示すように、長パルスP2の印加開始後に、さらに所定時間経過した後の時間t2では、距離x=δより陰極に近い領域(x≦δ)において陰極に近付くにつれて濃度C(x)が低下しており、陰極付近に陽イオンの濃度勾配が生じている。この濃度勾配の発生は、陰極界面で起こる電気化学的反応が、陰極から陽イオンへの電子移動の速度ではなく、電解液中の陽イオンの拡散速度によって律速されていることに起因している(拡散律速)。すなわち、長パルス電解では、陰極界面に存在する陽イオンへ陰極から電子が移動して陽イオンが還元された場合に、減少した陽イオンの拡散によるバルクからの補充が時間的に遅れることに起因して、このような濃度勾配が発生している。この濃度勾配がある領域(0≦x≦δ)は、拡散層と呼ばれる。
一方、短パルス電解では、短パルスP1の立ち上げ後(時間tS)、陰極界面に拡散層が発生する前(t≦tD)に、短パルスの立ち下げが完了する(時間tE)。上述のような従来の拡散層が発生しない状態を実現するためには、図4の陰極付近の模式図に示すように、短パルスP1の印加中に陰極301に吸着している陽イオン302aが全て還元された場合に、還元される陽イオンの総量が短パルス印加中に電解液中の陽イオンが拡散で陰極界面301sに通達するのに必要な時間よりも短い必要がある。すなわち、短パルスP1の印加中に陽イオン302bが拡散可能な拡散距離Lと電解液中の陽イオン302bの濃度X(個/cm3)との積(短パルス印加中に陰極301の単位面積に補充可能な陽イオン302bの数)が、陰極301への陽イオン302aの吸着密度Xad(個/cm2)より小さければよい。ここで、電解液中の陽イオン302bの拡散係数をD(cm2/sec)とすれば、拡散距離Lは、(式1)で表現されるので、拡散層が発生しない条件は、(式2)で表現される。
Figure 0004679850
Figure 0004679850
○電気化学反応の進行領域;
長パルス電解では、電気化学反応は拡散律速となり、電気化学反応の進行領域は陰極界面に制限される。したがって、長パルス電解では、電気化学反応の対象となりうる陽イオンが電解液中に多数存在するにも関わらず、電気化学反応に実際に関与可能な陽イオンは、陰極界面に存在する陽イオンのみとなる。このため、長パルス電解では、電気化学反応に実際に関与する陽イオンを著しく増加させることが困難である。
一方、短パルス電解では、陰極界面から離れて存在する陽イオンと陰極との間で電子の移動が行われ、電子が陰極から電解液中に注入されるので、電気化学反応の進行領域が、陰極界面に制限されなくなる。これにより、陽イオンの還元が陰極界面から離れた領域でも行われるようになり、電気化学反応に実際に関与する陽イオンを著しく増加させること、すなわち目的物質の単位時間当たりの電解生成量(以下では、単に「電解生成速度」とも称する)を著しく増加させることができる。また、短パルス電解では、電気化学反応の進行領域が、陰極界面の狭い領域に制限されないので、陽イオンの還元による目的物質の電解生成を均一核発生により行うことが可能になる。このような均一核発生という特徴は、本実施形態の電解をメッキに適用した場合に、高強度のメッキ皮膜を均一に形成するために利用可能である。この点は、後述する実施例2でも説明する。
○ファラデー電流と単位時間当たりの電解生成量;
先述のように、長パルス電解では、陰極界面に陽イオンの拡散層が発生しているので、陰極界面で進行する電気化学反応の反応速度は、電解液中の陽イオンの拡散速度によって律せられる(拡散律速)。電気化学反応に係る電極対間に流れるファラデー電流(以下では、単に「電流」とも称する)や、目的物質の電解生成速度は、当該反応速度によって決定されるので、電流および電解生成速度もまた陽イオンの拡散速度によって律せられている。したがって、長パルス電解では、電解浴容積(電解液量)が一定の場合、ピーク電圧VPを上昇させても、電流は陽イオンの拡散速度によって決まる限界電流を超えることができず、電解生成速度も陽イオンの拡散速度によって決まる限界電解生成速度を超えることができない。逆に言えば、長パルス電解では、限界電解生成速度を超える物質を電解生成する必要がある場合、電解浴容積を大きくしなければならない。
一方、短パルス電解では、陰極界面に陽イオンの拡散層が発生せず、電子が陰極から電解液中に注入される。したがって、短パルス電解では、電解液中の陽イオンの拡散速度によって電流が律せられることがなく、ピーク電圧VPを上昇させれば、上述の限界電流を超える電流を電極対間に流すことが可能であり、上述の限界電解生成速度を超える物質を電解生成可能である。すなわち、短パルス電解では、長パルス電解とは異なり、陰極界面付近で進行する電気化学反応は、拡散律速とならず、陰極から陽イオンへの電子の移動速度によって律せられる(電子移動律速)。換言すれば、短パルス電解に係る電気化学反応は、物質移動過程よりも電子移動過程によって律せられている。これにより、電解浴容積が一定の場合、短パルス電解を用いて電極対に印加する電圧を高めれば、長パルス電解の場合より著しく多量の電解生成物質を単位時間内に得ることが可能である。
○パルス周波数と単位時間当たりの電解生成量;
長パルス電界では、先述したように、電気化学反応の反応速度が拡散律速となっているので、単位時間当たりのパルス印加数すなわちパルス周波数fを上昇させても、電解生成速度を増加させることはできない。
しかし、短パルス電解では、電気化学反応の反応速度が電子移動律速となっているので、陰極からの電子供給量を増加させれば、電子供給量に略比例して電流および電解生成速度を増加させることができる。したがって、短パルス電解では、パルス周波数fを上昇させれば、電流および電解生成速度を増加させることができる。例えば、パルス周波数fを最大(1/パルス全幅+(Xad/X)2/4D)Hzまで上げていけば、それに比例して電解にかける電荷量が比例して増えていき、電解されるイオンの量も比例して増えていく。なおパルス周波数fが(1/パルス全幅+(Xad/X)2/4D)Hzを超えれば実質的に拡散律速状態となるので本原理による電解ではなく通常の電解の状態となる。電解浴容積が一定の場合、短パルス電解を用いて電極対に印加する電圧を高めれば、長パルス電解の場合より著しく多量の電解生成物質を単位時間内に得ることが可能である。
○非平衡状態;
長パルス電解では、電気化学反応は電気化学的な平衡状態すなわちネルンストの式が成立する状態で進行しており、ピーク電圧VPは、直流電解における分解電圧と同程度に制限される。これは、電気化学反応に関与する化学種の濃度の揺動を拡散によって解消可能な程度の反応速度でしか電気化学反応を進行させることができないことを意味しており、拡散律速による制限電流以上の電流を流すことができないことに対応している。
一方、短パルス電解では、電気化学反応を非平衡状態すなわちネルンストの式が成立しないような条件下で進行させている。これは、電気化学反応が電荷移動律速となっており、拡散による平衡状態の回復を待つことなく電気化学反応を進行させることによるものである。この場合、分解電圧より高いピーク電圧VP、特に、実質的な分解電圧(理論分解電圧+過電圧)を超えて数倍から数百倍、電解液中でアーク放電して電界が付加となる最大ピーク電圧を超えない範囲で実質的な分解電圧よりも大きいピーク電圧を印加することにより、電流および電解生成速度を増加させることが可能である。
○電界浴容積;
先述したように、長パルス電解では、電解浴容積が一定の場合、電気化学反応の反応速度が拡散律速となっているので、ピーク電圧VPないしはパルス周波数fを上昇させても陰極からの電子供給量を一定以上に増加させることはできず、電解生成速度を一定以上に増加させることはできない。
一方、短パルス電解では、電気化学反応が電子移動律速となっているので、ピーク電圧VPないしはパルス周波数fを増加させれば陰極からの電子供給量を大幅に増加させることが可能であり、電解生成量も大幅に増加させることができる。逆の言い方をすれば、特定の電解生成速度を確保するために必要な電解浴容積は、長パルス電解より短パルス電解の方が小さくなる。すなわち、短パルス電解には、長パルス電解よりも電解浴を小型に構成可能となるという、工業上の利点が存在している。
<電解装置の全体構成>
ここでは、上述の電解の原理に基づいて、電解液中の電解対象イオンを電解するために用いられる電解装置の全体構成について、図5を参照しながら説明する。
図5に示すように、電界装置101の電解浴102に満たされた電解液103には、電極対104が浸漬される。電解浴容積は特に限定されず、要求される電解生成速度に合わせて適宜決定すればよい。ただし、先述したように、短パルス電解では、長パルス電解よりも、電解浴102を小型化可能であり、結果として電解装置101の全体を小型に構成可能である。また、電解液103および電極対104の種類は、適宜選択可能であり、後述する実施例でいくつかの例を説明する。
電極対104には、パルス電源105が接続される。パルス電源105は、太陽電池セルを接続した太陽電池ユニット106が発電した電力を利用して、先述の短パルスP1を発生し、電極対104に印加する。パルス電源105において、このように太陽電池を利用することにより、二酸化炭素を発生させる化石燃料を起源とするエネルギーに依存しないで電解を行うことができるので、地球環境へ負荷が小さい電解装置を実現可能である。特に、電解装置101を水素ガスの発生に利用することにより、地球環境への負荷が小さいクリーンエネルギーを実現可能である。そして、このようにして得られた水素ガスを、燃料電池や直接内燃機関などで消費することにより、炭素含有物質が残留するアルコール改質による場合よりも環境負荷を低下させることができる。
<パルス電源の構成>
パルス電源105は、静電誘導型サイリスタ(以下では、「SIThy」とも称する)のオープニングスイッチ機能およびクロージングスイッチ機能を用いて短パルスを発生させる誘導エネルギー蓄積型の短パルス発生回路すなわちIES(Inductive Energy Storage)回路を採用している。以下では、図6の回路図を参照しながら、IES回路について説明する。
IES回路2は、高圧電源を用いることなく、数10Vの低圧直流電源11から供給される電力を利用して、ピーク電圧VPが数10V〜数1000Vの電解用の短パルスP1の周期的な繰り返し列を発生可能である。このため、電解装置101では、パルス電源105におけるIES回路2の採用により、太陽電池ユニット106を電源として利用可能になっている。また、これから説明するように、IES回路2はシンプルな構成を有しているので、IES回路2の採用によりパルス電源105を小型化可能であり、結果として電解装置101の全体の小型化可能である。なお、低圧直流電源11の電圧V0の下限は、後述するSIThy14のラッチング電圧で決定される。
低圧直流電源11(太陽電池ユニット106)には、昇圧パルス発生部PCと充電用コンデンサ12とが並列接続される。充電用コンデンサ12は、低圧直流電源11のインピーダンスを見かけ上低下させることにより低圧直流電源11の放電能力を強化する。低圧直流電源11の電圧V0は、昇圧パルス発生部PCで昇圧されるが、この昇圧パルス発生部PCは、インダクタンスLを有するインダクタ13、SIThy14、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)(以下では単に「FET」とも称する)15、ゲート駆動回路16およびダイオード17を備えている。
IES回路2では、インダクタ13と、SIThy14のアノード・カソード間と、FET15のドレイン・ソース間とが直列接続される。すなわち、インダクタ13の一端E1が低圧直流電源11の正極に、インダクタ13の他端E2がSIThy14のアノードAに、SIThy14のカソードKがFET15のドレインDに、FET15のソースSが低圧直流電源11の負極に接続される。これにより、低圧直流電源11からこれらの回路素子に電流を供給可能になる。また、IES回路2では、SIThy14のアノード・ゲート間がダイオード17を介してインダクタ13と並列接続される。すなわち、SIThy14のゲートGがダイオード17のアノードAに、ダイオード17のカソードKがインダクタ13の一端E1(低圧直流電源11の正極)に接続される。また、FET15のゲート・ソース間には、ゲート駆動回路16が接続される。
インダクタ13の両端E1−E2は、短パルス出力となっており、電極対104に接続される。
SIThy14は、ゲートGに与えられる信号に応答してターンオンおよびターンオフが可能である。
FET15は、ゲート駆動回路16から与えられる信号に応答してドレイン・ソース間の導通状態が変化するスイッチング素子である。FET15のオン電圧ないしはオン抵抗は低いことが望ましい。
ダイオード17は、SIサイリスタ14のゲートGに正バイアスを与えた場合に流れる電流を阻止するため、すなわち、SIThy14のゲートGに正バイアスを与えた場合にSIThy14が電流駆動とならないようにするために設けられる。
<静電誘導型サイリスタの概略構成>
SIThy14は、正のゲート電圧をゲートGに印加することによりターンオンが可能であるとともに、負のゲート電流をゲートGに流すことによりターンオフが可能である。以下では、このようなSIThy14の概略構成を説明する。
SIThy14は、n型の半導体基板に、不純物拡散およびエピタキシャル成長により複数の半導体領域を形成することによって得られる。n型の半導体基板の材質は、例えば、SiCまたはGaNである。
図7は、略円板形状を有するSIThy14の断面構造を模式的に示す断面模式図である。
SIThy14は、pエミッタ(アノードエミッタ)領域141、nバッファ領域142、nベース領域143、pベース領域144およびnエミッタ(カソードエミッタ)領域145を備える。pエミッタ領域141、nバッファ領域142、nベース領域143およびnエミッタ領域145は、この記載順で隣接して積層されており、pベース領域144はnベース領域143に埋め込まれた複数の埋め込み領域として存在している。pベース領域144の各埋め込み領域の中間部はキャリアが通過するチャネル146となっている。すなわち、SIThy14は、nベース領域143にpベース領域144が埋め込まれたチャネル構造を備えている。
pエミッタ領域141、pベース領域144およびnエミッタ領域145は、それぞれ、アノード電極147、ゲート電極148およびカソード電極149と接続される。ゲート電極148は、金属ないしはポリシリコン等の低抵抗の多結晶半導体からなり、pベース領域144に接合される。すなわち、SIThy14は、ゲート電極148がpベース領域144に酸化物膜を介さずに直接接触させられる接合ゲート構造を有する。これにより、SIThy14では、ターンオフ時に電流駆動によりキャリアの移動(ホールの引き抜き)を高速に行うことが可能である。
上述の各領域のうち、pエミッタ領域141、pベース領域144およびnエミッタ領域145は不純物を高濃度に含む領域となっている。一方、nベース領域143の不純物濃度は1012から1013個/cm3程度であり、nバッファ領域142よりも不純物濃度が低い。
SIThy14は、ゲート・カソード間が正バイアスされた状態になるとゲートポテンシャルが正方向に低下する。これにより、SIThy14は、チャネル146に電子が注入されターンオンが可能な状態となる。なお、SIThy14は、ゲートGを電流駆動してキャリアを高速注入すれば50nsec〜100nsecの時間でターンオンが可能であるが、ゲートGの電圧駆動によっても1μsec以内でターンオンが可能である。
一方、SIThy14は、ゲート・カソード間が逆バイアスされた状態になると、ゲートGからホールが引き抜かれゲートポテンシャルが負方向に上昇する。これにより、SIThy14には、pベース領域144を中心とした空乏層DLが生成する。図8は、SIThy14のnベース領域143に空乏層DL(ハッチング部)が生成した状態を示す断面模式図である。
nベース領域143に空乏層DLが生成した状態になると、SIThy14のアノード・ゲート間は空乏層容量Cを有する容量性素子と等価な素子として機能する。また、空乏層DLには電界が生ずるので、SIThy14に空乏層DLが生成した状態となるとSIThy14のアノード・ゲート間には電位差が生じる。空乏層DLは、SIThy14のゲートGから引き抜かれたホール量が増加するにつれて拡大し、最終的にはnバッファ層142に到達して拡大が緩やかになる。空乏層DLがnバッファ層142に到達し、nベース層143の厚みと空乏層DLの厚みとが一致した状態を以下では「パンチスルー状態」と呼ぶ。図9は、SIThy14のパンチスルー状態を示す断面模式図である。SIThy14が急峻なスイッチング動作によるパンチスルー状態となると、nベース領域143とnバッファ層142の境を中心に急峻な電界が発生し、SIThy14のアノード・ゲート間には、当該急峻な電界によって局所的にキャリアが誘起され、当該キャリアの移動による漏れ電流が流れる。
一般にパンチスルー型の半導体デバイスはパンチスルーしないノンパンチスルー型に比べ、主電極間の基板厚みを薄くできるため、主電極間の電流の流れを速くでき、また導通抵抗を低く出来るためオン損失が低い。IES回路2ではSIThyのクロージングスイッチ機能も重要なため、SIThyの基板構造としてはパンチスルー型を用いるのが望ましいが、nバッファ層の厚みが厚すぎたり濃度が濃すぎたりするとこのオン性能は悪化する。
<IES回路の動作>
図10は、インダクタ13を流れる電流Iおよびインダクタ13の両端E1−E2の電圧(短パルス出力の電圧)Vの、1回の短パルス発生における時間変化を示す図である。以下では、図10を参照しながら、1回の短パルス発生におけるIES回路2およびSIThy14の動作を動作過程(A)〜(C)の順に説明する。
○動作過程(A);
図8の時間範囲(A)に係る動作過程(A)は、短パルスP1のエネルギー源を磁界エネルギーとして誘導性素子であるインダクタ13に蓄積する動作過程である。
まず、ゲート駆動回路16からFET15にオン信号が与えられてFET15のドレイン・ソース間がオン状態となる。これにより、SIThy14のゲートGがカソードKに対して正バイアスされた状態になるので、ゲートポテンシャルは低下する。ゲートポテンシャルの低下により、チャネル146には電子が注入されて、SIThy14がターンオンする。
SIThy14がターンオンすると、インダクタ13には電流が流れはじめる(この時のIES回路2の中の主電流を図1の(A)の矢印で示す)。この電流の時間増加率dI/dtは式(3)で与えられる。
Figure 0004679850
動作過程(A)では、ダイオード17は逆バイアスされている。このため、動作過程(A)では、ゲートGを電流駆動することによりSIThy14を高速でターンオンさせないで、ゲートGを電圧駆動することにより1μsec以下の時間でSIThy14のターンオンを行っている。このようにSIThy14のゲートGを電圧駆動することにより、SIThy14は積極的なゲートからのホール注入は無いものの正常にオンする。
また、動作過程(A)では、SIThy14のターンオン直後に過渡オン電圧VONTが発生し、過渡オン電圧VONTが消滅後に定常的なオン電圧VONが発生する。過渡オン電圧VONTの発生は、ターンオン直後にはSIThy14の基板内部にキャリア充満度が不足していることに起因する。
○動作過程(B);
図8の時間範囲(B)に係る動作過程(B)は、空乏層DLによって容量性素子として機能するようになったSIThy14に電荷を蓄積して高圧を発生させる動作過程である。すなわち、誘導性素子に蓄積された磁界エネルギーを容量性素子に蓄積される電界エネルギーに移行して高圧を発生させる動作過程である。なお、電界エネルギーが蓄積される容量性素子を形成する空乏層DLは、SIThy14のnベース領域143近傍からゲート電極148を介してキャリアであるホールを引き抜くことによって生成される。
まず、電流Iがピーク電流Ipに達するあたりの時点でゲート駆動回路16からFET15にオフ信号が与えられてFET15のドレイン・ソース間がオフ状態となり、低電圧直流電源11からインダクタ13への電流供給が停止される。この時点までで低電圧直流電源11からインダクタ13に供給された電気エネルギーEは(式4)で与えられる。
Figure 0004679850
電流供給停止により、インダクタ13からSIThy14に電流が転流される(この時のIES回路2の中の主電流を図6の(B)の矢印で示す)。この電流により、SIThy14のnベース領域143からホールが引き抜かれ、pベース領域144を中心とした空乏層DLがnベース領域143に拡大する。空乏層DLの拡大に応じてSIThy14のアノード・ゲート間の電位差が拡大するので、SIThy14のターンオフ後にある程度時間が経過するとSIThy14のアノード・ゲート間にはピーク電圧Vpの高圧が発生する。なお、ホールの引き抜きのためにダイオード17に流れる電流は順方向電流であるので、動作過程(B)におけるターンオフは電流駆動により高速に行われる。したがって、上述のピーク電圧VPは数nsecの時間で急激に立ち上がる。このピーク電圧VPは、短パルス出力として出力される。また、ピーク電圧VPは、インダクタ13に蓄積された磁界エネルギー(電気エネルギーEに等しい)の大きさに応じて高くなる。したがって、IES回路2では、SIThy14のオン期間におけるピーク電流Ipを変化させることにより、SIThy14のターンオフ後に発生させる短パルスP1のピーク電圧VPを変化させることができる。
○動作過程(C)
図10の時間範囲(C)に係る動作過程(C)は、容量性素子に蓄積された電荷を放電する動作過程である。
まず、インダクタ13に蓄積されたエネルギーが、回路損失分を除いて容量性素子(SIThy14)に移行すると、動作過程(B)とは逆方向の電流がIES回路2に流れる(この時のIES回路2の中の主電流を図6の(C)の矢印で示す)。この電流は、逆回復現象により逆導通状態となったダイオード17を介してSIThy14のアノードAからゲートGに流れる。この電流により、SIThy14のアノード・ゲート間の電位差は急激に低下する。また、動作過程(C)では、ゲートポテンシャルも低下してチャネル146も導通状態となり、SIThy14のアノード・ゲート間の電位差を急激に低下させるのに寄与している。
IES回路2においては、(式4)で示される電気エネルギーEから回路の損失によって失われる損失エネルギーを除いたエネルギーを高圧パルスのエネルギーとして取り出すことが可能である。SIThy14は、過渡オン電圧VONTの影響が小さくオン電圧VONが比較的小さいので、エネルギー損失を小さくすることが可能であり低損失の短パルス発生回路を実現可能である。
また、動作過程(B)〜(C)で発生した短パルスP1のパルス幅tWは、上述のインダクタ13と容量性素子との共振周波数の逆数に比例しており、(式5)の近似式で与えられる。
Figure 0004679850
以下では、本発明の実施形態に係る実施例1〜2と、本発明の範囲外の比較例1〜2について説明する。実施例1および比較例1は、電解による水素ガスおよび酸素ガスの製造に係るものであり、実施例2および比較例2は、電解によるニッケルめっき(金属ニッケルの製造)に係るものである。なお、実施例1〜2および比較例1〜2では、4500cm3の容積を有する電解浴を用いるとともに、陰極として5cm×2cmの矩形形状のステンレス電極、陽極として6cm×3cmの矩形形状のチタン電極を用いた。陽極および陰極は、5cm離して対向させた状態で電解液中に浸漬した。
[実施例1]
実施例1では、PH1の塩酸水溶液を電解液として用い、電解装置101による短パルス電解を行った。実施例1では、水素イオン(陰極)および酸素イオン(陽極)が電解対象イオンであり、水素ガス(陰極)および酸素ガス(陽極)が製造の目的物質である。
パルス電源105により、ピーク電圧VP=10V〜850V、パルス全幅Δt=2.0μsec〜0.05μsec、パルス周波数f=1−3kHzの短パルス列を電極対104に印加したところ、3.5A〜38.0Aのピーク電流が電極対104の間に流れるとともに、陰極近傍からの水素ガスの発生と、陽極近傍からの酸素ガスの発生とが観察された。水素ガスの発生状態を目視で観察したところ、陰極表面の比較的大きな気泡の発生のみならず、陰極表面近傍で多数の微細な気泡の発生が観察された。このような微細な気泡の発生は、先述の原理説明における、陰極から電解液中への電子の注入と均一核発生に起因している。
実施例1では、ピーク電圧VPを上昇させると、電極対104の間に流れるピーク電流や単位時間あたりの水素ガスおよび酸素ガスの電解生成量も増加し、限界電流の7.5A(比較例1参照)より著しく大きいピーク電流を電極対104の間に流すことができた。この現象は、先述の原理説明における電子移動律速に起因している。また、実施例1では、パルス周波数fを1kHzから上昇させると、単位時間当たりの水素ガスおよび酸素ガスの電解生成量も増加した。
なお、実施例1では、陰極に着目すると、陰極への水素イオンの吸着密度Xad=9.2×1014(個/cm2)、水素イオンの塩酸水溶液中のバルク濃度X=6.0×1019(個/cm3)および水素イオンの塩酸水溶液中の拡散定数D=2.3×10-5(cm2/sec)であるから、(式2)から導かれるパルス全幅Δtは、Δt≦2.6μsecであり、上述のパルス全幅Δt=2.0μsec〜0.01μsecは(式2)を満たしている。ここで、吸着密度Xadは陽極金属表面の原子一個に吸着原子が一個吸着するという仮定で計算した。
[実施例2]
実施例2では、PH1の塩酸水溶液に塩化ニッケルを溶解させたものを電解液として用い、電解装置101による短パルス電解を行った。陽極近傍にはニッケル塊を設置し、めっき対象であるニッケルが容易に溶液内に溶け込んで補充できるようにした。実施例2では、ニッケルイオン(陰極)が電解対象イオンであり、金属ニッケル(陰極)が製造の目的物質である。
パルス電源105により、ピーク電圧VP=10V〜850V、パルス全幅Δt=2.0μsec〜0.05μsec、パルス周波数f=1〜3kHzの短パルス列を電極対104に印加したところ、3.5A〜38.0Aのピーク電流が電極対104の間に流れた。ニッケルめっき皮膜の組織を光学顕微鏡で観察したところ、微粒の結晶粒により均一かつ緻密なニッケルめっき皮膜が形成されていることが観察された。また、ニッケルめっき皮膜の強度も良好であった。このような良好なめっき皮膜の形成は、先述の原理説明における、陰極から電解液中への電子の注入と均一核発生による。
実施例2でも、実施例1と同様に、ピーク電圧VPを上昇させると、電極対104の間に流れるピーク電流や単位時間あたりの金属ニッケルおよび塩素ガスの電解生成量も増加し、限界電流の7.5A(比較例2参照)より著しく大きいピーク電流を流すことができた。この現象は、先述の原理説明における電子移動律速に起因している。また、実施例2では、パルス周波数fを1kHzからさらに上昇させると、単位時間当たりの金属ニッケルの電解生成量も増加した。
なお、実施例2では、陰極に着目すると、陰極へのニッケルイオンの最大吸着密度Xad=9.2×1014(個/cm2)、ニッケルイオンの塩酸水溶液中の濃度X=3×1019(個/cm3)およびニッケルイオンの塩酸水溶液中の拡散定数D=2×10-5(cm2/sec)であるから、(式2)から導かれるパルス全幅Δtは、Δt≦12μsecであり、上述のパルス全幅Δt=2.0μsec〜0.05μsecは(式2)を満たしている。
[比較例1]
比較例1では、実施例1のパルス電源105を低圧直流電源に変更して直流電解を行った。
電極対104に2Vの直流を印加したところ、7.5Aの電流が電極対104の間に流れ、陰極表面からの水素ガスの発生と、陽極表面からの酸素ガスの発生とが観察された。水素ガスの発生状態を目視で観察したところ、陰極表面の比較的大きな気泡の発生のみが観察された。
比較例1では、電圧を2Vから上昇させても、電流は7.5Aから増加しなかった。すなわち、比較例1では、7.5Aが拡散律速による限界電流となっている。
[比較例2]
比較例2では、実施例2のパルス電源105を低圧直流電源に変更して直流電解を行った。
電極対104に2Vの直流を印加したところ、7.5Aの電流が電極対104の間に流れた。ニッケルめっき皮膜の組織を光学顕微鏡で観察したところ、結晶粒が粗であることが観察された。加えて、ニッケルめっき皮膜の強度は良好でなかった。
比較例2では、電圧を2Vから上昇させても、電流は7.5Aから増加しなかった。すなわち、比較例2では、7.5Aが拡散律速による限界電流となっている。
[実施例と比較例との対比]
実施例1〜2および比較例1〜2の対比により明らかなように、本発明の短パルス電解により、同一電解浴容積でも大電流を電極対間に流すことが可能になり、より多量の物質を電解生成可能である。また、本発明のパルス電解により、物質生成を均一核発生により行うことが可能になり、めっき皮膜の品質向上を図ることができる。
[変形例]
上述の説明では、本発明を電気分解およびめっきに適用した例を示したが、本発明を電解精錬に適用してもよい。
短パルスP1の波形を示す図である。 長パルスP2の波形を示す図である。 長パルスP2を電解に用いた場合における、電解液に含まれる陽イオンの濃度C(x)の、陰極からの距離xに対する依存性を示す図である。 短パルスP1を電解に用いた場合の陰極付近の状態を模式的に示す図である。 電解液中の電解対象イオンを電解するために用いられる電解装置の全体構成を示す図である。 IES回路2の回路図を示す図である。 静電誘導型サイリスタ14の断面構造を模式的に示す図である。 静電誘導型サイリスタ14のnベース領域143に空乏層DLが生成した状態を模式的に示す断面図である。 静電誘導型サイリスタ14のパンチスルー状態を模式的に示す断面図である。 インダクタ13を流れる電流Iおよびインダクタ13の両端E1−E2の電圧Vの、1回の高圧パルス発生における時間変化を示す図である。
符号の説明
P1 短パルス
P2 長パルス
14 静電誘導型サイリスタ
101 電解装置
102 電解浴
103 電解液
141 pエミッタ(アノードエミッタ)領域
142 nバッファ領域
143 nベース領域
144 pベース領域
145 nエミッタ(カソードエミッタ)領域
146 チャネル
147 アノード電極
148 ゲート電極
149 カソード電極
301 陰極
301s 陰極界面
302a,302b 陽イオン
303 電子

Claims (12)

  1. パルス電解による物質の製造方法であって、
    静電誘導型サイリスタを用いた誘導エネルギー蓄積型のパルス発生回路が採用されたパルス電源を電解液に浸漬された電極対に接続し、前記パルス電源から前記電極対に電気パルスを印加することによって前記パルス電解を行い、
    前記パルス電解に用いられる電気パルスが、立ち上げられた後、電解対象イオンとの間で電子移動を行う電極と前記電解液との界面に前記電解対象イオンの拡散層が全く発生しないうちに立ち下げられることを特徴とする製造方法。
  2. 請求項1に記載の製造方法において、
    前記電極と前記電解液との界面から離れて存在する前記電解対象イオンと前記電極との間で電子移動が行われることを特徴とする製造方法。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の製造方法において、
    前記電解に係る電気化学反応が、電気化学的な非平衡状態で進行することを特徴とする製造方法。
  4. 請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の製造方法において、
    前記電解に係る電気化学反応が、電子移動律速であることを特徴とする製造方法。
  5. 請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の製造方法において、
    前記電気パルスのピーク電圧が、直流電解における分解電圧以上であることを特徴とする製造方法。
  6. 請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の製造方法において、
    前記電解対象イオンが水素イオンであり、前記電解により水素ガスを製造することを特徴とする製造方法。
  7. 請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の製造方法において、
    前記電解対象イオンが陰イオンであり、前記電解により気体を製造することを特徴とする製造方法。
  8. 請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の製造方法において、
    前記電解対象イオンが金属陽イオンであり、前記電解により金属を製造するともに、
    前記電極が前記金属によってめっきされることを特徴とする製造方法。
  9. パルス電解による物質の製造装置であって、
    電解液に浸漬された電極対に接続され、前記電極対に電気パルスを印加するパルス電源を備え、
    前記パルス電源が、
    前記電気パルスの立ち上げ後、電解対象イオンとの間で電子移動を行う電極と前記電解液との界面に前記電解対象イオンの拡散層が全く発生しないうちに前記電気パルスを立ち下げる手段、
    を備え、
    前記パルス電源に、静電誘導型サイリスタを用いた誘導エネルギー蓄積型のパルス発生回路が採用されることを特徴とする製造装置。
  10. 請求項9に記載の製造装置において、
    特定量の物質を単位時間内に製造するための電解浴容積が、直流電解の場合より小さいことを特徴とする製造装置。
  11. 請求項9又は請求項10に記載の製造装置において、
    前記静電誘導型サイリスタが、SiCまたはGaNを用いて作製されることを特徴とする製造装置。
  12. 請求項9ないし請求項11のいずれかに記載の製造装置において、
    前記パルス電源が、太陽電池により発電された電力を用いて前記電気パルスを発生することを特徴とする製造装置。
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