JP2006037214A - パルス電解による物質の製造に係る製造方法、製造装置、物質およびその消費装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】短パルス電解では、短パルスP1の立ち上げ後(時間tS)、陰極界面に拡散層が発生する前(t≦tD)に、短パルスの立ち下げが完了する(時間tE)。
【選択図】図1
Description
本発明の実施形態に係るパルス電解では、電解液(電解質溶液ないしは溶融塩)に浸漬した電極対に短時間幅の電気パルス(以下では、「短パルス」とも称する)を印加することによって電解を行い、目的物質を得ている。以下では、このような短パルスの周期的な繰り返し列を用いた電解(以下では、「短パルス電解」とも称する)の原理について、長時間幅の電気パルス(以下では、「長パルス」とも称する)の周期的な繰り返し列を用いた電解(以下では、「長パルス電解」とも称する)と対比させながら説明する。ここで、長パルス電解で起こる電気化学反応に関する以下の説明は、直流を用いた電解(以下では、「直流電解」とも称する)で起こる電気化学反応に関してもほぼ当てはまる。なお、以下の原理説明では、電極対のうち陰極で起こる電気化学反応に着目して説明を行うが、陽極で起こる電気化学反応に着目する場合は、以下の説明における「陽イオン」「還元」「陰極」を、それぞれ、「陰イオン」「酸化」「陽極」と読み替える等をすればよい。
図1および図2は、それぞれ、短パルスP1および長パルスP2の1パルス分の波形を示す図である。図1および図2において、横軸は時間tを示し、縦軸は電気パルスの電圧Vを示す。図1および図2の横軸に記された時間tSおよびtEは、それぞれ、電気パルスの立ち上げ開始時および立ち下げ終了時である。図1および図2に示す波形は、電解の原理の理解を容易ならしめるために模式的に描かれており、実際の波形形状を厳密に表現することを目的としていない。また、後述するように、図1と図2とでは、縦軸のスケールも大きく異なる。
図3は、長パルス電解における、電解液に含まれる陽イオンの濃度C(x)(縦軸)の、陰極と電解液との界面(以下では、「陰極界面」とも称する)からの距離x(横軸)に対する依存性を示す図である。図3には、図2の時間t1(t1≦tS)および時間t2(tD≦t2≦tE)における、濃度C(x)の距離xに対する依存性が、それぞれ、実線L1および点線L2で模式的に示されている。なお、図3に示す依存性も、電解の原理の理解を容易ならしめるために模式的に描かれており、実際の依存性を厳密に表現することを目的としていない。
長パルス電解では、電気化学反応は拡散律速となり、電気化学反応の進行領域は陰極界面に制限される。したがって、長パルス電解では、電気化学反応の対象となりうる陽イオンが電解液中に多数存在するにも関わらず、電気化学反応に実際に関与可能な陽イオンは、陰極界面に存在する陽イオンのみとなる。このため、長パルス電解では、電気化学反応に実際に関与する陽イオンを著しく増加させることが困難である。
先述のように、長パルス電解では、陰極界面に陽イオンの拡散層が発生しているので、陰極界面で進行する電気化学反応の反応速度は、電解液中の陽イオンの拡散速度によって律せられる(拡散律速)。電気化学反応に係る電極対間に流れるファラデー電流(以下では、単に「電流」とも称する)や、目的物質の電解生成速度は、当該反応速度によって決定されるので、電流および電解生成速度もまた陽イオンの拡散速度によって律せられている。したがって、長パルス電解では、電解浴容積(電解液量)が一定の場合、ピーク電圧VPを上昇させても、電流は陽イオンの拡散速度によって決まる限界電流を超えることができず、電解生成速度も陽イオンの拡散速度によって決まる限界電解生成速度を超えることができない。逆に言えば、長パルス電解では、限界電解生成速度を超える物質を電解生成する必要がある場合、電解浴容積を大きくしなければならない。
長パルス電解では、陰極界面に電気二重層が発生するため、電極対に印加された電圧に起因する電界は、当該電気二重層に集中し、陰極界面から離れた領域にはほとんど生じない。したがって、陰極界面から離れた領域にある陽イオンの移動の駆動力は、電位ポテンシャル勾配ではなく、化学ポテンシャル勾配のみに依存することになる。
長パルス電界では、先述したように、電気化学反応の反応速度が拡散律速となっているので、単位時間当たりのパルス印加数すなわちパルス周波数fを上昇させても、電解生成速度を増加させることはできない。
長パルス電解では、電気化学反応は電気化学的な平衡状態すなわちネルンストの式が成立する状態で進行しており、ピーク電圧VPは、直流電解における分解電圧と同程度に制限される。これは、電気化学反応に関与する化学種の濃度の揺動を拡散によって解消可能な程度の反応速度でしか電気化学反応を進行させることができないことを意味しており、拡散律速による制限電流以上の電流を流すことができないことに対応している。
先述したように、長パルス電解では、電解浴容積が一定の場合、電気化学反応の反応速度が拡散律速となっているので、ピーク電圧VPないしはパルス周波数fを上昇させても陰極からの電子供給量を一定以上に増加させることはできず、電解生成速度を一定以上に増加させることはできない。
ここでは、上述の電解の原理に基づいて、電解液中の電解対象イオンを電解するために用いられる電解装置の全体構成について、図5を参照しながら説明する。
パルス電源105は、静電誘導型サイリスタ(以下では、「SIThy」とも称する)のオープニングスイッチ機能およびクロージングスイッチ機能を用いて短パルスを発生させる誘導エネルギー蓄積型の短パルス発生回路すなわちIES(Inductive Energy Storage)回路を採用している。以下では、図6の回路図を参照しながら、IES回路について説明する。
SIThy14は、正のゲート電圧をゲートGに印加することによりターンオンが可能であるとともに、負のゲート電流をゲートGに流すことによりターンオフが可能である。以下では、このようなSIThy14の概略構成を説明する。
図10は、インダクタ13を流れる電流Iおよびインダクタ13の両端E1−E2の電圧(短パルス出力の電圧)Vの、1回の短パルス発生における時間変化を示す図である。以下では、図10を参照しながら、1回の短パルス発生におけるIES回路2およびSIThy14の動作を動作過程(A)〜(C)の順に説明する。
図8の時間範囲(A)に係る動作過程(A)は、短パルスP1のエネルギー源を磁界エネルギーとして誘導性素子であるインダクタ13に蓄積する動作過程である。
図8の時間範囲(B)に係る動作過程(B)は、空乏層DLによって容量性素子として機能するようになったSIThy14に電荷を蓄積して高圧を発生させる動作過程である。すなわち、誘導性素子に蓄積された磁界エネルギーを容量性素子に蓄積される電界エネルギーに移行して高圧を発生させる動作過程である。なお、電界エネルギーが蓄積される容量性素子を形成する空乏層DLは、SIThy14のnベース領域143近傍からゲート電極148を介してキャリアであるホールを引き抜くことによって生成される。
図10の時間範囲(C)に係る動作過程(C)は、容量性素子に蓄積された電荷を放電する動作過程である。
実施例1では、PH1の塩酸水溶液を電解液として用い、電解装置101による短パルス電解を行った。実施例1では、水素イオン(陰極)および酸素イオン(陽極)が電解対象イオンであり、水素ガス(陰極)および酸素ガス(陽極)が製造の目的物質である。
実施例2では、PH1の塩酸水溶液に塩化ニッケルを溶解させたものを電解液として用い、電解装置101による短パルス電解を行った。陽極近傍にはニッケル塊を設置し、めっき対象であるニッケルが容易に溶液内に溶け込んで補充できるようにした。実施例2では、ニッケルイオン(陰極)が電解対象イオンであり、金属ニッケル(陰極)が製造の目的物質である。
比較例1では、実施例1のパルス電源105を低圧直流電源に変更して直流電解を行った。
比較例2では、実施例2のパルス電源105を低圧直流電源に変更して直流電解を行った。
実施例1〜2および比較例1〜2の対比により明らかなように、本発明の短パルス電解により、同一電解浴容積でも大電流を電極対間に流すことが可能になり、より多量の物質を電解生成可能である。また、本発明のパルス電解により、物質生成を均一核発生により行うことが可能になり、めっき皮膜の品質向上を図ることができる。
上述の説明では、本発明を電気分解およびめっきに適用した例を示したが、本発明を電解精錬に適用してもよい。
P2 長パルス
14 静電誘導型サイリスタ
101 電解装置
102 電解浴
103 電解液
141 pエミッタ(アノードエミッタ)領域
142 nバッファ領域
143 nベース領域
144 pベース領域
145 nエミッタ(カソードエミッタ)領域
146 チャネル
147 アノード電極
148 ゲート電極
149 カソード電極
301 陰極
301s 陰極界面
302a,302b 陽イオン
303 電子
Claims (17)
- パルス電解による物質の製造方法であって、
前記パルス電解に用いられる電気パルスが、立ち上げられた後、電解対象イオンとの間で電子移動を行う電極と前記電解液との界面に前記電解対象イオンの拡散層が発生する前に立ち下げられることを特徴とする製造方法。 - パルス電解による物質の製造方法であって、
前記パルス電解に用いられる電気パルスが、立ち上げられた後、電解対象イオンとの間で電子移動を行う電極と前記電解液との界面に電気二重層が発生する前に立ち下げられることを特徴とする製造方法。 - 請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の製造方法において、
前記電極と前記電解液との界面から離れて存在する前記電解対象イオンと前記電極との間で電子移動が行われることを特徴とする製造方法。 - 請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の製造方法において、
前記電解に係る電気化学反応が、電気化学的な非平衡状態で進行することを特徴とする製造方法。 - 請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の製造方法において、
前記電解に係る電気化学反応が、電子移動律速であることを特徴とする製造方法。 - 請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の製造方法において、
前記電気パルスのピーク電圧が、直流電解における分解電圧以上であることを特徴とする製造方法。 - 請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の製造方法において、
前記電解対象イオンが水素イオンであり、前記電解により水素ガスを製造することを特徴とする製造方法。 - 請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の製造方法において、
前記電解対象イオンが陰イオンであり、前記電解により気体を製造することを特徴とする製造方法。 - 請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の製造方法において、
前記電解対象イオンが金属陽イオンであり、前記電解により金属を製造するともに、
前記電極が前記金属によってめっきされることを特徴とする製造方法。 - パルス電解による物質の製造装置であって、
電解液に浸漬された電極対に接続され、前記電極対に電気パルスを印加するパルス電源を備え、
前記パルス電源が、
前記電気パルスの立ち上げ後、電解対象イオンとの間で電子移動を行う電極と前記電解液との界面に前記電解対象イオンの拡散層が発生する前に前記電気パルスを立ち下げることを特徴とする製造装置。 - 請求項11に記載の製造装置において、
前記パルス電源に、静電誘導型サイリスタを用いた誘導エネルギー蓄積型のパルス発生回路が採用されることを特徴とする製造装置。 - 請求項11または請求項12に記載の製造装置において、
特定量の物質を単位時間内に製造するための電解浴容積が、直流電解の場合より小さいことを特徴とする製造装置。 - 請求項11ないし請求項13のいずれかに記載の製造装置において、
前記静電誘導型サイリスタが、SiCまたはGaNを用いて作製されることを特徴とする製造装置。 - 請求項11ないし請求項14のいずれかに記載の製造装置において、
前記パルス電源が、太陽電池により発電された電力を用いて前記電気パルスを発生することを特徴とする製造装置。 - パルス電解によって製造された物質であって、
前記パルス電解に用いられる電気パルスが、立ち上げられた後、電解対象イオンとの間で電子移動を行う電極と前記電解液との界面に前記電解対象イオンの拡散層が発生する前に立ち下げられることを特徴とする物質。 - パルス電解によって製造された物質を消費する装置であって、
前記パルス電解に用いられる電気パルスが、立ち上げられた後、電解対象イオンとの間で電子移動を行う電極と前記電解液との界面に前記電解対象イオンの拡散層が発生する前に立ち下げられることを特徴とする装置。
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