本発明は、建設や運搬等に用いられるブルドーザ、パワーシャベル、クレーン等の履帯を用いた装軌車輌における操向制御方法及び装置に関するもので、特に、エンジンで駆動する発電機と得られた電力を蓄電する蓄電装置とを動力源とし、左右それぞれの履帯に接続された永久磁石式同期電動機を駆動すると共に、旋回時には内輪側の永久磁石式同期電動機を回生動作させて発電し、得られた電力を外輪側永久磁石式同期電動機に供給できるようにした、ハイブリッド駆動の装軌車輌における操向制御方法及び装置に関するものである。
建築機械として用いられるブルドーザ、パワーシャベル、クレーン等の履帯を用いた装軌車輌における操向制御の先行技術としては、例えば特許文献1、2があげられる。このうち特許文献1のものは、エンジン出力軸から変速機、傘歯車を介して駆動される左・右スプロケット軸にそれぞれ走行用履帯が設けられ、かつ、この走行用履帯の走行速度を左右独立して制御できるよう、それぞれのスプロケット軸にクラッチ・ブレーキシステムを設けた装軌式車両において、旋回方向、旋回半径を指示する操作レバーと、左右各履帯間の目標速度比の設定手段、及び左右各履帯間の実際速度比検知手段とを備え、目標速度比と実際速度比との偏差にもとづくフィードバック制御により、左右各履帯の速度制御を行なうことによって、旋回に際して安定な操向制御を可能として車速に関係なく、容易に所望の旋回半径が維持されるようにすると共に、運転上の危険な状態が避けられるようにした装軌車輌の制御装置が開示されている。
また、特許文献2は本件出願人になるもので、エンジンで駆動する発電機と得られた電力を蓄電する蓄電装置とを動力源とし、左右それぞれの履帯に接続された永久磁石式同期電動機を駆動するハイブリッド駆動の装軌車輌において、旋回時、内側となる永久磁石式同期電動機を回生動作させてブレーキとし、生じた電力を外側となる永久磁石式同期電動機に与えて駆動させると共に、生じた回生電力で蓄電装置を破損しないよう回路から切り離すようにした、装軌車輌の駆動方法と装置が開示されている。
特開平5−124537号公報
特開2003−333704号公報
しかしながら特許文献1に開示された制御装置では、クラッチ、ブレーキによって一方の履帯を減速し、それによって旋回半径を一定に保つ操作をおこなうようにしているが、こういった装軌車輌は通常大きな重量を有し、高速運転時における高速旋回は、直進しようとする大きな慣性力、及び履帯と地上との摩擦力とに抗する必要があって、外側となる履帯を駆動するために直進または低速旋回時より大きな出力が必要となる。そのため、その出力に見合った大きなエンジンが必要となって必然的にシステム全体が大型となり、軽量化が難しくなると共に高価になる。
また、特許文献2に示された装軌車輌の制御方法は、例えば旋回中に加速を行った場合は内輪側永久磁石式同期電動機から得られる回生電力が減少し、外輪側永久磁石式同期電動機に与える電力が少なくなって旋回半径が大きくなってしまう可能性があり、逆に減速した場合も、内輪側永久磁石式同期電動機からえられる回生電力が増大し、外輪側永久磁石式同期電動機に与える電力が大きくなって回転半径が小さくなり、場合によっては転倒などの危険性が増す場合がある。すなわち、速度変化を見ずに加速側トルクの増やす量と減速側トルクの減らす量を定めると、外輪加速トルクと内輪減速トルクとの釣り合いがとれずに速度変化が生じ、転倒などの危険性が増すわけである。
さらに永久磁石式同期電動機は、最大出力トルクが決まっているが、その最大出力トルクを越えたトルク指令がなされた場合、指令したトルクが得られずに速度変化を起こす可能性もある。また、この特許文献2に開示された制御方法は、あくまでも走行中の制御であるため、超信地旋回と称する停止した状態で左右の履帯を逆回転させ、その場で回転させる旋回を行う場合は適用できず、マニュアルで制御する必要がある。
そのため本発明においては、どのような場合でも外輪加速トルクと内輪減速トルクの釣り合いがとれて速度変化を起こさないようにすると共に、ステアリングに応じた操向比を得ることができ、また、速度ゼロ(停止状態)からの超信地旋回をも行うことができるようにした装軌車輌における操向制御方法及び装置を提供することが課題である。
上記課題を解決するため本発明における装軌車輌における操向制御方法は、
エンジンで発電機を駆動し、得られた電力を蓄電装置に蓄えると共に左右の履帯のそれぞれに対応して設けられたインバータを介して回生動作可能な永久磁石式同期電動機に与えて駆動する装軌車両における操向制御方法において、
アクセル・ブレーキ量から前記それぞれの永久磁石式同期電動機の前後進用トルク指令値を算出すると共に、ステアリングの回転量と前記アクセル・ブレーキ量とで決定した左右の履帯の目標速度と左右の履帯の実速度との偏差を比例積分して左右の履帯の操向用トルク補正値を算出し、該左右の履帯の操向用トルク補正値で前記前後進用トルク指令値を補正して前記インバータに与え、前記永久磁石式同期電動機の出力トルクを制御することを特徴とする。
そしてこの装軌車輌における操向制御方法を実施する装軌車輌における操向制御装置は、
エンジンで駆動される発電機と、該発電機が発電した電力を蓄える蓄電装置と、左右の履帯のそれぞれに対応して設けられた回生動作可能な永久磁石式同期電動機と、該永久磁石式同期電動機のそれぞれに対応して設けられ、前記蓄電装置と発電機からの電力の供給を受けて前記永久磁石式同期電動機を駆動するインバータとを有する装軌車輌における操向制御装置において、
ステアリングの回転量とアクセル・ブレーキ量とから旋回方向と左右の履帯目標速度を決定する履帯目標速度決定装置と、該履帯目標速度決定装置が決定した左右の履帯目標速度と左右の履帯の実速度との偏差を比例積分し、左右の履帯の操向用トルク補正値を算出する比例積分制御装置とからなる操向制御装置と、前記アクセル・ブレーキ量から前記それぞれの永久磁石式同期電動機の前後進用トルク指令値を算出する前後進用トルク指令値算出装置とからなり、前記前後進用トルク指令値を前記操向用トルク補正値で補正して前記インバータに送り、前記永久磁石式同期電動機を駆動することを特徴とする。
このように装軌車輌における操向制御方法及び装置を構成することにより、従来技術のように外輪加速トルクと内輪減速トルクとの釣り合いがとれず、速度変化が生じて転倒などの危険性が増すことが防止できると共に、直進時には左右の速度差を無くし、直進性を高めることもできる。
そして、前記インバータは一側の永久磁石式同期電動機の減速による回生動作で生じた回生電力を、他側のインバータを介して対応する永久磁石式同期電動機に供給できるように構成することが好ましい。
また、前記履帯目標速度は、ステアリングの操向量に対応したゲインを出力する操向比ゲイン計算テーブルを用いて左右の履帯のそれぞれに対応させて求めた操向比ゲインと、左右の履帯の実速度から算出した平均履帯速度とを乗じて算出し、そのために、前記履帯目標速度決定装置は、左右の履帯にそれぞれ対応させてステアリングの操向量に対応したゲインを出力する操向比ゲイン計算テーブルと、左右の履帯の実速度の平均値を算出する平均履帯速度算出装置と、前記操向比ゲイン計算テーブル出力に該平均履帯速度算出装置出力を乗じ、履帯目標速度を出力する乗算器とから構成することが好適な実施例である。
このように装軌車輌における操向制御方法及び装置を構成することにより、従来技術のように外輪加速トルクと内輪減速トルクとの釣り合いがとれず、速度変化が生じて転倒などの危険性が増すことが防止できると共に、ステアリング量に応じた任意の目標操向比を決定することができ、直進時には左右の速度差を無くし、直進性を高めることのできる制御装置を簡単な構成で提供することができる。
さらに、前記左右の履帯の目標速度と左右の履帯の実速度との偏差の比例積分は、前記ステアリングの操向量に応じた比例制御ゲインを出力する比例制御ゲインテーブルを用いて左右の履帯のそれぞれに対応させて求めた比例制御ゲインと、左右の履帯目標速度と左右の履帯の実速度とから算出した偏差とを乗じると共に、該積と前記偏差を積分制御した値とを加えて求め、前記比例積分制御装置は、前記履帯目標速度決定装置が決定した左右の履帯目標速度と左右の履帯の実速度との偏差を算出する差分出力器と、前記ステアリングの操向量に応じた比例制御ゲインを出力する比例制御ゲインテーブルと、該比例制御ゲインテーブル出力に前記差分出力器出力を乗じる乗算器と、前記差分出力器出力を積分制御する積分制御装置と、該積分制御装置出力と前記乗算器出力を加算する加算器とからなり、該加算器出力を操向用トルク補正値として出力するよう構成する。
このように装軌車輌における操向制御方法及び装置を構成することにより、直進時は小さなゲインで、旋回時はステアリングの操向量に応じた大きなゲインでトルクが補正され、旋回時にゲインが小さいために必要な補正トルクが指示できないといったことがなく、また、直進時にはゲインを小さくすることで、過敏な反応を抑えることができる。そのため、従来技術のように外輪加速トルクと内輪減速トルクとの釣り合いがとれずに速度変化が生じ、転倒などの危険性が増すことが防止できると共に、直進時には左右の速度差を無くして直進性を高めることができる。
そして、前記ステアリングの回転量と前記アクセル・ブレーキ量とで決定した左右の履帯の目標速度と左右の履帯の実速度との偏差を比例積分して算出した左右の履帯の操向用トルク補正値のうち、絶対値の小さい方の値を選択して前記ステアリングの操向量に応じた正負の符号を付し、前記前後進用トルク指令値を補正する操向用トルク補正値とし、そのために、前記操向制御装置は、前記左右の履帯に対応させた比例積分制御装置からの操向用トルク補正値出力のうち、絶対値の小さい方の出力を選択して前記ステアリングの操向量に応じた正負の符号を付し、操向用トルク補正値として出力するトルク補正量最小値検出装置を有して構成する。
このように装軌車両の操向制御装置を構成することにより、操向用トルク補正値によって補正された前後進用トルク指令値は、永久磁石式同期電動機9の最大出力トルクを超えることがなく、指令したトルク値が得られずに速度変化を起こすといったことが防止できる。
さらに、前記ステアリングの回転量とアクセル・ブレーキ量により旋回中であることとアクセル量が0であることを検出した時、前記ステアリングの回転量と前記アクセル・ブレーキ量とで決定した左右の履帯の目標速度と左右の履帯の実速度との偏差を比例積分して算出した左右の履帯の操向用トルク補正値のうち、外輪側の前記操向用トルク補正値は0とし、内輪側の前記操向用トルク補正値はそのままとして、前記前後進用トルク指令値を補正する操向用トルク補正値とし、そのため、前記トルク補正量最小値検出装置は、前記履帯目標速度決定装置が検出した前記ステアリングの操向量とアクセル・ブレーキ量による旋回中であることとアクセル量が0であることの信号を受け、外輪側の前記操向用トルク補正値は0とし、内輪側の前記操向用トルク補正値はそのままとして出力するよう構成する。
このように装軌車両の操向制御装置を構成することにより、例えば下り坂などにおいてアクセルの踏み込みをやめ、エンジンブレーキだけを用いて減速しながら旋回するような場合でも、外輪側の履帯が増速されることがなく、車体が転倒する危険性は防止できる。
そして、超信地旋回を安定して行うため本発明になる装軌車両の操向制御方法は、
エンジンで発電機を駆動し、得られた電力を蓄電装置に蓄えると共に左右の履帯のそれぞれに対応して設けられたインバータを介して回生動作可能な永久磁石式同期電動機に与えて駆動する装軌車両における操向制御方法において、
アクセル・ブレーキ量から前記それぞれの永久磁石式同期電動機の前後進用トルク指令値を算出すると共に、シフトレバーのポジションにより超信地旋回であることを検出し、ステアリングの操向量に対応した操向比ゲインを出力する超信地旋回用操向比ゲインテーブルを用いて左右の履帯のそれぞれに対応させて求めた操向比ゲインを前記前後進用トルク指令値に乗じて前後進用トルク指令値とし、前記インバータに与えて前記永久磁石式同期電動機の出力トルクを制御することを特徴とする。
また、この装軌車両の操向制御方法を実施する制御装置は、
前記操向制御装置は、シフトレバーのポジションを検出するシフトポジション検出装置からの超信地旋回ポジションの信号を受け、ステアリングの操向量に応じて正負が逆の超信地旋回用操向比ゲインを出力する超信地旋回用操向比ゲイン計算テーブルを有し、該超信地旋回用操向比ゲイン計算テーブル出力を前記前後進用トルク指令値算出装置から出力された前後進用トルク指令値に乗ずる乗算器を備えたことを特徴とする。
このように装軌車両の操向制御方法及び装置を構成することにより、マニュアル操作が不要で、一定速度で安定した超信地旋回を可能とした操向制御方法及び装置を提供することができる。
以上記載のごとく本発明になる装軌車両の操向制御方法及び装置によれば、どのような場合でも外輪加速トルクと内輪減速トルクの釣り合いがとれ、速度変化を起こさないようにすると共に、ステアリングに応じた操向比を得ることができ、また、速度ゼロ(停止状態)からの超信地旋回をも行うことができるようにした装軌車輌における操向制御方法及び装置を提供することができる。
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
図1は本発明になる装軌車輌における操向装置の実施の形態を示した概略ブロック図、図2は図1に示した駆動装置における制御装置の実施例1の詳細ブロック図、図3は図2に示した制御装置における比例積分制御装置の詳細ブロック図であり、図4は図1に示した装軌車輌の操向制御装置における制御装置の実施例2の詳細ブロック図で、特に履帯目標速度決定装置の詳細である。図5は図1に示した装軌車輌の操向制御装置における制御装置の実施例3の詳細ブロック図、図6は図5に示した実施例3の装軌車輌の操向制御装置における制御装置の動作を説明するためのフロー図、図7は図1に示した装軌車輌の操向制御装置における制御装置の実施例4の詳細ブロック図であり、超信地旋回を実施するための制御装置である。図8は図1に示した装軌車輌の操向制御装置における制御装置の実施例5の詳細ブロック図であり、特に比例積分制御装置の詳細である。図9は図1に示した装軌車輌の操向制御装置における制御装置の実施例6の詳細ブロック図、図10は図9に示した実施例6の装軌車輌の操向制御装置における制御装置の動作を説明するためのフロー図である。図中、同一構成要素には同一番号を付してある。
図1は本発明になる装軌車輌における操向装置の実施の形態を示した概略ブロック図であり、1は装軌車輌のエンジン、2は発電機、3は発電機2によって発電された交流を直流に変換するコンバータ、4は蓄電池41と電力変換装置42とで構成された蓄電装置で、電力変換装置42は、永久磁石式同期電動機8、9を回生動作させて大きな電力が出力されたとき、その電力をそのまま蓄電池41に印加すると蓄電池41を壊す可能性があるため、得られた電力が蓄電池41を壊さないように変換するための装置である。5は、コンバータ3からの直流電力を蓄電装置4や左走行用インバータ6、右走行用インバータ7に与えたり、あるいは永久磁石式同期電動機8、9が回生動作したときに生じた電力が、左走行用インバータ6、右走行用インバータ7によって直流に変換された際、その直流電力を蓄電装置4に送ったり、逆側の走行用インバータに送ったりする直流バス、6、7はこの直流バス5を通して送られてきた電力を交流に変換して永久磁石式同期電動機8、9に与えたり、逆に永久磁石式同期電動機8、9が回生動作したときに生じた電力を直流に変換する左走行用インバータと右走行用インバータ、8、9は発電機として動作させて回生電力を得ることもできる永久磁石式同期電動機、10、11は装軌車輌の履帯、12は装軌車輌のステアリング、13は左側履帯10、右側履帯11の速度から車速を検出する車速度計、14はその詳細を図2に示した本発明の装軌車輌における操向装置の制御装置、15、16はこの制御装置14からインバータ6、7へのインバータトルク指令値である。
図2は、図1の制御装置14を141として詳細ブロック図とした本発明になる装軌車輌における操向装置の実施例1であり、図2において131、132は、図1に10、11で示した左側履帯と右側履帯の速度を検出する左履帯速度計(131)と右履帯速度計(132)で、図1に13で示した車速度計を構成する。20、21は図示していないアクセルやブレーキ、及びシフトレバーのポジションからの信号を受け、このアクセルやブレーキ、及びシフトレバーのポジションに応じた車速が得られるトルク指令値を算出する前後進用トルク指令値算出装置左(20)と前後進用トルク指令値算出装置右(21)、22は操向制御装置で23は履帯の目標速度決定装置、24、25はその詳細を図3に示したこの履帯目標速度決定装置23と、左履帯速度計131及び右履帯速度計132からの信号をそれぞれ受けて、前後進用トルク指令値左と前後進用トルク指令値右の値を補正する、操向用トルク補正値左、操向用トルク補正値右を出力する左比例積分制御装置(24)、及び右比例積分制御装置(25)、26、27は足し算器である。
図3は図2に示した制御装置における比例積分制御装置の詳細ブロック図であり、13は図1、図2にそれぞれ13、131、132で示した履帯速度計、23は履帯目標速度決定装置、24、25は図2に左比例積分制御装置と右比例積分制御装置として示した比例積分制御装置、241は差分出力器(足し算器)、242は比例ゲインをKPとした増幅器243を有する比例制御装置、244は積分ゲインをKIとした増幅器245と積分装置246を有する積分制御装置、247は差分出力器(足し算器)である。
このような構成の制御装置を備えた本発明になる装軌車輌において、図1に示したエンジン1が駆動されて発電機2が回転すると、発電された交流電力はコンバータ3を介して直流に変換され、直流バス5、電力変換装置42を通して必要に応じて蓄電装置4に送られて蓄電されると共に、左走行用インバータ6、右走行用インバータ7に送られる。
いま、ステアリング12が直進を指示する位置にあり、図示していないシフトレバーが所定のポジションにおかれて図示していないアクセルが踏み込まれると、制御装置14を構成する図2に示した前後進用トルク指令値算出装置左20と前後進用トルク指令値算出装置右21は、このアクセルやブレーキ、及びシフトレバーのポジションに応じた車速が得られる前後進用トルク指令値左、前後進用トルク指令値右を出力して足し算器26、27に送る。
一方、履帯目標速度決定装置23はステアリング12の状態を検知し、現在はステアリング12が直進を指示しているので、左右の比例積分制御装置24、25にアクセルやブレーキに応じた等しい左履帯目標速度、右履帯目標速度を送る。
この左右の比例積分制御装置24、25には、左履帯速度計131と右履帯速度計132から左右の履帯の実速度が送られており、図3に示したように、これら履帯目標速度と履帯の実速度が差分出力器(足し算器)241で差分が取られ、結果が比例ゲインをKPとした増幅器243を有する比例制御装置242、及び積分ゲインをKIとした増幅器245と積分装置246を有する積分制御装置244に送られる。そして比例制御装置242に送られた差分出力器(足し算器)241の出力は、比例ゲインKPで増幅されて差分出力器(足し算器)247に送られ、同じように積分制御装置244では積分ゲインをKIで増幅されて積分装置246で積分され、差分出力器(足し算器)247に送られる。
そしてこの差分出力器(足し算器)247は、比例制御装置242と積分制御装置244から送られてきた出力の差分を取り、操向用トルク補正値左と操向用トルク補正値右として出力して足し算器26、27に送る。すなわち、左履帯速度計131と右履帯速度計132から送られてくる実速度が、履帯目標速度決定装置23が出力した左履帯目標速度と右履帯目標速度と同じ場合は差がゼロであるからゼロが、また、異なる場合はその差を比例積分した値が足し算器26、27に送られるわけである。
ここで比例積分をおこなうのは、図3の差分出力器(足し算器)241の出力をそのまま操向用トルク補正値とした場合、比例制御の限界で定常偏差が生じて目標速度と実際の速度の間に若干の速度差が生じてしまうためで、ステアリング中立時には直進性が下がり、旋回時にはステアリングに応じた速度差を正確に実現できない恐れがあるため、積分制御を実行して速度差の補正を行うものである。
こうして操向用トルク補正値左と操向用トルク補正値右が足し算器26、27に送られると、足し算器26、27はこの送られてきた値と、先に前後進用トルク指令値算出装置左20と前後進用トルク指令値算出装置右21からアクセルやブレーキ、及びシフトレバーのポジションに応じて送られてきている前後進用トルク指令値左、前後進用トルク指令値右と加え合わせ、その和を左インバータトルク指令15、右インバータトルク指令16として図1の左走行用インバータ6、右走行用インバータ7に送る。そのため、左、右の走行用インバータ6、7は、この指示されたトルクが生じるよう先に直流バス5を介して送られている直流電力を交流に変換し、永久磁石式同期電動機8、9に駆動電力を与えて図示していないスプロケットで、左側履帯10、右側履帯11を駆動する。
そのため、左履帯速度計131と右履帯速度計132から送られてくる左右の履帯の実速度が、履帯目標速度決定装置23から送られてくる左履帯目標速度と右履帯目標速度と異なる場合、左右の比例積分制御装置24、25は、その差の比例積分値を操向用トルク補正値左と右として出力する。そして、足し算器26、27によってその補正値が前後進用トルク指令値左と前後進用トルク指令値右に加えられ、左インバータトルク指令15、右インバータトルク指令16として図1の左走行用インバータ6、右走行用インバータ7に送られるから、例え障害物などがあって片側の履帯の速度に変化が生じても、それが修正されて常に等しい速度が維持され、直進性が確保される。
そして、旋回するためにステアリング12が左右のいずれかに切られると、前記したように内輪側となる永久磁石式同期電動機(8または9)は減速のために回生動作に移行し、その時生じる回生電力は、走行用インバータ6または7を介して逆側の永久磁石式同期電動機(9または8)に与えられ、永久磁石式同期電動機(9または8)は蓄電装置4からの電力と発電機2からの電力、及びこの回生電力を加え合わせた電力で駆動することが可能となる。
そして、旋回のためにステアリング12が左右のいずれかに切られることにより、図2の履帯目標速度決定装置23は、このステアリング12が示す旋回量に応じて左履帯と右履帯の履帯目標速度を決定し、左履帯目標速度と右履帯目標速度としてそれぞれ左比例積分制御装置24、右比例積分制御装置25に送る。この左比例積分制御装置24、右比例積分制御装置25には、前記したように左履帯速度計131と右履帯速度計132から左右の履帯の実速度が送られているから、左比例積分制御装置24、右比例積分制御装置25は、それぞれ履帯目標速度と実測度を比較してその差を比例積分する。
今、例えば装軌車輌が左に旋回しようとしているとすると、履帯目標速度決定装置23はステアリング12が切られた量に応じて内輪側となる左履帯目標速度を現在の速度より遅く、外輪側となる右履帯目標速度を現在の速度より早く設定して出力する。そのため、左比例積分制御装置24においては差分がマイナスに、右比例積分制御装置25においては差分がプラスになり、それがそれぞれ比例積分されて操向用トルク補正値左(マイナス)、操向用トルク補正値右(プラス)として足し算器26、27に送られる。
この足し算器26、27には、前記したように前後進用トルク指令値算出装置左20と前後進用トルク指令値算出装置右21から、アクセルやブレーキ、及びシフトレバーのポジションに応じた前後進用トルク指令値左、前後進用トルク指令値右が送られてきているから、それぞれ操向用トルク補正値左(マイナス)、操向用トルク補正値右(プラス)が加え合わされ、その和が左インバータトルク指令15、右インバータトルク指令16として図1の左走行用インバータ6、右走行用インバータ7に送られる。そのため、左右走行用インバータ6、7は、この指示されたトルクとなるよう左側永久磁石式同期電動機8は減速させ、右側永久磁石式同期電動機9は増速させるよう、それぞれの永久磁石式同期電動機に送る電力を調節する。
このとき、左旋回のために内輪側となる左側の永久磁石式同期電動機8は、前記したように発電機として回生動作し、生じた電力は左走行用インバータ6を介して右走行用インバータ7に送られる。そのため右側の永久磁石式同期電動機9は、右インバータトルク指令16により指示されたトルクを生じるよう、蓄電装置4からの電力とこの回生電力を加え合わせた電力を用いて増速し、ステアリングに応じた回転半径でもって装軌車輌が旋回することになる。
なお、このような旋回中に、アクセルが踏み込まれるか逆に踏み込みがゆるめられる、あるいはブレーキが踏まれて、増速、あるいは減速が指示された場合、前後進用トルク指令値算出装置20、21がそれを検知し、前後進用トルク指令値左、及び前後進用トルク指令値右を増加または減少させる。
そのため、増速する場合はそれぞれの前後進用トルク指令値左、前後進用トルク指令値右がアクセルの踏み込まれた量だけ増加し、また、履帯目標速度決定装置23もアクセル・ブレーキの状態を検知して目標速度を増速する。そのため前記したようにして操向用トルク補正値左、右もそれに合わせて増加し、左インバータトルク指令15、右インバータトルク指令16が増加して、左側履帯と右側履帯の速度差は一定のまま増速が行われ、減速の場合も同様に左側履帯と右側履帯の速度差が一定のまま減速が行われる。従って、従来技術のように外輪加速トルクと内輪減速トルクとの釣り合いがとれず、速度変化が生じて転倒などの危険性が増すことが防止できると共に、前記したように直進時には左右の速度差を無くし、直進性を高めることもできる。
図4は、図2に示した制御装置141における履帯目標速度決定装置23を、231として詳細ブロック図に示した本発明になる装軌車輌における操向装置の実施例2である。図中、30、31はステアリング12の回転量をゲインとして出力するための左操向比ゲイン計算テーブル(30)と右操向比ゲイン計算テーブル(31)であり、一例として右操向比ゲイン計算テーブル31を詳細に説明するため、37に拡大図を示してある。32は左履帯速度計131、右履帯速度計132から左右の履帯の実速度を得て平均履帯速度を算出する平均履帯速度算出装置、33、34は、この算出された平均履帯速度と、左操向比ゲイン計算テーブル30、右操向比ゲイン計算テーブル31から送られてくるステアリング12の回転量をゲインに換算した値とをそれぞれ乗算する掛け算器、35、36はこうして得られた左履帯目標速度(35)と右履帯目標速度(36)、37は前記したように右操向比ゲイン計算テーブル31の拡大図である。
このうち左操向比ゲイン計算テーブル30と右操向比ゲイン計算テーブル31は、前記したように一例として右操向比ゲイン計算テーブル31の拡大図を37に示したように、横軸はステアリング12の操向量で、装軌車輌を直進させるためにステアリング12を左右どちらにも切っていない状態が「中立」と記したライン、左100%は左に一杯に切った状態、右100%は右に一杯に切った状態である。縦軸は、ステアリング12の操向状態によるゲインを表し、中立の位置でゲインが「1.0」、ステアリング12を左に切って左旋回する場合、この37で示したテーブルは右履帯に対応したテーブルのため外輪側となるから、ステアリングに設けられた遊びに応じて所定量ステアリング12が切られた時点でゲインを1.0から上昇させ、さらに所定量ステアリング12を切った時点でゲインを例えば最大の「1.5」として一定とする。また、ステアリング12が右に切られた右旋回の場合、今度は内輪側となるからステアリングに設けられた遊びに応じて所定量ステアリング12が切られた時点でゲインを1.0から下降させ、さらに所定量ステアリング12が切られた時点でゲインを例えば最小の「0.5」として一定ととし、これら最大ゲイン「1.5」と最小ゲイン「0.5」近辺でも、ステアリングの微小変化に反応させないように遊びが設けられている。なお、これら最大ゲイン「1.5」と最小ゲイン「0.5」はあくまでも一例であり、電動機の定格出力や走行負荷等を考慮して決定する。
図4に示した本発明の実施例2においては、図2に示した実施例1における制御装置141の履帯目標速度決定装置23から出力されていた左履帯目標速度、右履帯目標速度を、30、31で示したステアリング12の操向量に基づいて操向比ゲインを得るためのテーブルと、装軌車輌の実速度を送ってくる左履帯速度計131及び右履帯速度計132から得られた速度の平均値とを用い、両者を乗算器33、34で乗じて決定し、左履帯目標速度35、右履帯目標速度36として出力するようにしたものである。
すなわち、30、31で示したステアリング12の回転量に基づいて操向比ゲインを得るためのテーブルは、前記したようにステアリング12を所定量左回転させたときに左操向比ゲイン計算テーブル30の場合はゲインを下降させ、右操向比ゲイン計算テーブル31の場合はゲインが上昇させるように設定してある。そのため、例えば左旋回の場合は内輪側となる左側履帯はステアリング12を所定以上操向すると減速方向のゲインが出力され、外輪側となる右側履帯は増速方向のゲインが出力される。また、ステアリング12を逆に右方向に所定量回転させたときは、外輪側となる左側履帯は増速方向のゲインが出力され、内輪側となる右側履帯は減速方向のゲインが出力される。
このように構成した実施例2の制御装置を有する装軌車輌において、旋回するためにステアリング12が左右のいずれかに切られると、前記図2で説明した実施例1の場合と同様、内輪側となる永久磁石式同期電動機(8または9)は減速のために回生動作に移行し、その時生じる回生電力は、走行用インバータ6または7を介して逆側の永久磁石式同期電動機(9または8)に与えられ、永久磁石式同期電動機(9または8)は蓄電装置4からの電力と発電機2からの電力、及びこの回生電力を加え合わせた電力で駆動することが可能となる。
そして、ステアリング12からの信号がテーブル30、31に送られ、その操向量に応じたゲインが掛け算器33、34に送られる。一方、装軌車輌における左右の履帯の速度が、左履帯速度計131と右履帯速度計132から平均履帯速度算出装置32に送られて平均値が算出され、それが掛け算器33、34に送られて、先に送られているステアリング12の回転量に応じた操向比ゲインに乗じられ、左履帯目標速度35、右履帯目標速度36として出力されて、前記図2における左比例積分制御装置24、右比例積分制御装置25に送られる。
それ以外の動作は前記図2で説明した実施例1の場合と同様であり、この左比例積分制御装置24、右比例積分制御装置25には、前記したように左履帯速度計131と右履帯速度計132から左右の履帯の実速度が送られているから、左比例積分制御装置24、右比例積分制御装置25は、それぞれ履帯目標速度と実測度を比較し、その差を比例積分する。
今、前記したように装軌車輌が左に旋回しようとしているとすると、図4に示した履帯目標速度決定装置231からは、ステアリング12が所定量を超えて切られた場合に内輪側となる左履帯目標速度35が現在の速度より遅く、外輪側となる右履帯目標速度36が現在の速度より早くするような出力が送り出されるから、左比例積分制御装置24においては差分がマイナスに、右比例積分制御装置25においては差分がプラスになり、それがそれぞれ比例積分されて操向用トルク補正値左(マイナス)、操向用トルク補正値右(プラス)として足し算器26、27に送られる。
この足し算器26、27には、前記したように前後進用トルク指令値算出装置左20と前後進用トルク指令値算出装置右21から、アクセルやブレーキ、及びシフトレバーのポジションに応じた前後進用トルク指令値が送られてきているから、このトルク指令にそれぞれ操向用トルク補正値左(マイナス)、操向用トルク補正値右(プラス)が加え合わされ、その和が左インバータトルク指令15、右インバータトルク指令16として図1の左走行用インバータ6、右走行用インバータ7に送られる。そのため、左右走行用インバータ6、7は、この指示されたトルクとなるよう左側永久磁石式同期電動機8は減速させ、右側永久磁石式同期電動機9は増速させるよう、それぞれの永久磁石式同期電動機に送る電力を調節する。
すなわち、左側の永久磁石式同期電動機8の出力が左インバータトルク指令15となるよう供給電力が制限されて、その減速の際に前記したように発電機として回生動作し、生じた電力は左走行用インバータ6を介して右走行用インバータ7に送られるから、右側の永久磁石式同期電動機9は、送られてきた右インバータトルク指令16が指示するトルクが得られるよう増速するのに、蓄電装置4からの電力を余計消費することなく、ステアリング12の回転量に応じた回転半径でもって装軌車輌が旋回することになる。なお、直進の場合はステアリング12の回転量に応じた操向比ゲインを得るためのテーブル30、31の値は1であるから左履帯目標速度35、右履帯目標速度36は等しくなり、障害物などによって左履帯速度計131と右履帯速度計132からの信号が異なる場合を除き、前記したように左右の速度差が生じることなく直進性を得ることができる。
また、このような旋回中にアクセルが踏み込まれるか逆に踏み込みがゆるめられて、増速、あるいは減速が指示された場合も全く同様であり、前後進用トルク指令値算出装置左20、前後進用トルク指令値算出装置右21がそれを検知して前後進用トルク指令値左、及び前後進用トルク指令値右を増加または減少させる。
そのため、増速する場合はそれぞれの前後進用トルク指令値がアクセルの踏み込まれた量だけ増加し、左インバータトルク指令15、右インバータトルク指令16もそれに応じて増加して、左側履帯と右側履帯の速度差は一定のまま増速が行われ、減速の場合はブレーキ量に応じて同様に左側履帯と右側履帯の速度差が一定のまま減速が行われる。従って、従来技術のように外輪加速トルクと内輪減速トルクとの釣り合いがとれず、速度変化が生じて転倒などの危険性が増すことが防止できると共に、前記したように直進時には左右の速度差を無くし、直進性を高めることのできる制御装置14を簡単な構成で提供することができる。
図5は、図1に示した装軌車輌の操向制御装置における制御装置14を142とした実施例3の詳細ブロック図であり、図6はその制御装置142の動作を説明するためのフロー図である。図中40は実施例3の操向制御装置、41は左積分制御装置24と右積分制御装置25からの操向用トルク補正値左と操向用トルク補正値右のうち、絶対値が小さな方の値を選択してそれぞれ逆の符号を付して操向用トルク補正値左と操向用トルク補正値右として掛け算器26、27に出力するトルク補正量最小値検出装置である。
この図5に示した実施例3の装軌車輌の操向制御装置では、前記図2に24、25で示した左積分制御装置と右積分制御装置から足し算器26、27に送られていた操向用トルク補正値左と操向用トルク補正値右は、トルク補正量最小値検出装置41により絶対値の小さい方の値が選択され、それぞれ逆の符号が付されて、操向用トルク補正値左と操向用トルク補正値右として足し算器26、27に送られる。
これは、前記したように永久磁石式同期電動機8、9は最大出力トルクが決まっているが、その最大出力トルクを越えた前後進用トルク指令値が指令され場合、指令したトルク値が得られずに速度変化を起こす可能性があるためであり、2つの操向用トルク補正値のうち、絶対値が小さい方の操向用トルク補正値を採用することで補正後のインバータトルク指令値15、16(図1)が、永久磁石式同期電動機8、9の最大出力トルクを超えないようにしたものである。それ以外の構成は、図2または図4に示した実施例1、実施例2と同様である。
この制御装置142の動作を図6に示したフロー図に基づいて説明すると、今、旋回するためにステアリング12が左右のいずれかに切られると、内輪側となる永久磁石式同期電動機(8または9)は減速のために回生動作に移行し、その時生じる回生電力は、走行用インバータ6または7を介して逆側の永久磁石式同期電動機(9または8)に与えられ、永久磁石式同期電動機(9または8)は蓄電装置4からの電力と発電機2からの電力、及びこの回生電力を加え合わせた電力で駆動することが可能となる。
そして、旋回のためにステアリング12が左右のいずれかに切られたことにより、履帯目標速度決定装置23(この履帯目標速度決定装置は、図4に示した231でもよい)は、このステアリング12が示す旋回量に応じて左履帯と右履帯の履帯目標速度を決定し、それぞれ左比例積分制御装置24、右比例積分制御装置25に送る。この左比例積分制御装置24、右比例積分制御装置25には、左履帯速度計131と右履帯速度計132から左右の履帯の実速度が送られているから、それぞれ履帯目標速度と実測度を比較してその差を比例積分する。
今、例えば装軌車輌が左に旋回しようとしているとすると、履帯目標速度決定装置23はステアリング12が切られた量に応じて内輪側となる左履帯目標速度を現在の速度より遅く、外輪側となる右履帯目標速度を現在の速度より早く設定して出力する。そのため、左比例積分制御装置24においては差分がマイナスに、右比例積分制御装置25においては差分がプラスになり、それがそれぞれ比例積分されて操向用トルク補正値左(マイナス)、操向用トルク補正値右(プラス)としてトルク補正量最小値検出装置41に送られる。
これが図6のフロー図にステップS51で示した左右トルク補正量入力であり、トルク補正量最小値検出装置41は、次のステップS52において検出した値の絶対値を取り、更に次のステップS53で操向用トルク補正値左と操向用トルク補正値右のうちの小さい方の値(回生側)を検出する。
そして次のステップS54でステアリング12が切られた量から旋回方向を判定し、さらに次のステップS55で、前記ステップS53で検出した左右の操向用トルク補正値のうちの小さい方の値に、今検出した旋回方向により内輪側には負(−)の符号を、外輪側には正(+)の符号を付し、ステップS56で左右の操向用トルク補正値左、操向用トルク補正値右として足し算器26、27に送る。
この足し算器26、27には、前記したように前後進用トルク指令値算出装置左20と前後進用トルク指令値算出装置右21から、アクセルやブレーキ、及びシフトレバーのポジションに応じた前後進用トルク指令値が送られてきており、今の場合左旋回であるからこのトルク指令にそれぞれ操向用トルク補正値左(マイナス)、操向用トルク補正値右(プラス)が加え合わされ、その和が左インバータトルク指令15、右インバータトルク指令16として図1の左走行用インバータ6、右走行用インバータ7に送られる。そのため、左右走行用インバータ6、7は、この指示されたトルクとなるよう左側永久磁石式同期電動機8は減速させ、右側永久磁石式同期電動機9は増速させるよう、それぞれの永久磁石式同期電動機に送る電力を調節する。
なお、以下の動作は前記図1、図2で説明した実施例1、実施例にと同様であるので省略するが、このように装軌車両の操向制御装置を構成することにより、操向用トルク補正値によって補正された前後進用トルク指令値は、永久磁石式同期電動機8、9の最大出力トルクを超えることがなく、指令したトルク値が得られずに速度変化を起こすといったことが防止できる。
図7は図1に示した装軌車輌の操向制御装置における制御装置14を、143とした実施例4の詳細ブロック図で、超信地旋回を実施するための制御装置である。図中60は実施例4の操向制御装置、61は前進、後進やギア比を変更するシフトレバーのシフトポジション検出装置、62はステアリング12の操向量とシフトポジション検出装置61からの信号を受け、内部に設けた左操向比ゲイン計算テーブル63、右操向比ゲイン計算テーブル64を用いて、前記した停止した状態で左右の履帯を逆回転させ、その場で回転させる超信地旋回におけるトルクゲインを出力する超信地旋回テーブル、65、66は掛け算器、67、68は操向用トルク補正値左、操向用トルク補正値右の決定装置で、これは、前記図2、図4、図5で説明した履帯目標速度決定装置23、231と左比例積分制御装置24、右比例積分制御装置25等で構成され、前記と同様にしてこれら操向用トルク補正値左、操向用トルク補正値右を算出する装置である。
このうち、超信地旋回テーブル62内の左操向比ゲイン計算テーブル63、右操向比ゲイン計算テーブル64は、前記図4に示した実施例2で用いられたステアリング12の回転量に応じた操向比ゲインを得るための左操向比ゲイン計算テーブル30、右操向比ゲイン計算テーブル31と同様、横軸がステアリング12の操向量で中央の縦線がステアリング12の中立(直進)の位置である。そして縦軸はゲインで、このステアリング12の中立の位置でゲインが0であり、ステアリング12を左回転させた場合、左操向比ゲイン計算テーブル63では−の、右操向比ゲイン計算テーブル64では+のゲインが出力され、逆に、ステアリング12を右回転させた場合、左操向比ゲイン計算テーブル63では+の、右操向比ゲイン計算テーブル64では−の、超信地旋回用トルクゲイン左、超信地旋回用トルクゲイン右を出力する。なお、左操向比ゲイン計算テーブル30と右操向比ゲイン計算テーブル31は、ステアリング12を切った方向によって左右のトルクの向きを逆にするためのものであり、このテーブルの出力ゲインの上限・下限の絶対値は、通常の前後進時と変わらないように「1」であるためゲインの上限値は「1」、下限値は「−1」となる。また、図示はしていないがこのテーブルは超信地旋回時のみ使うものであるため、超信地旋回以外では前記した通常のテーブルとする切り換手段を有している。
この図7に示した実施例4の制御装置143は、今まで述べてきた実施例1乃至3の制御装置が全て、走行中の装軌車輌の走行を安定して行うためのものであるのに対し、装軌車輌が停止している状態で左右の履帯を逆回転させ、その場で回転させる超信地旋回を行うときの制御装置である。すなわち、今まで述べてきた実施例1乃至3の制御装置では、旋回に当たって装軌車輌の走行速度にゲインをかけて旋回を行うトルクを算出していたが、走行速度が0の場合はゲインをかけても走行速度が得られない。そのためこの実施例4では、実施例1乃至3における操向制御装置60内に超信地旋回用の制御ブロックを設けたものである。
今、装軌車輌が停止していてシフトポジション検出装置61が超信地旋回を指示し、ステアリング12が右または左に切られると、そのステアリング12の回転量に応じて左操向比ゲイン計算テーブル63、右操向比ゲイン計算テーブル64が、互いに逆の符号で略等しい超信地旋回用トルクゲイン左と超信地旋回用トルクゲイン右を掛け算器65、66に送る。
この掛け算器65、66には、前後進用トルク指令値算出装置左20と前後進用トルク指令値算出装置右21から、アクセルやブレーキ、及びシフトレバーのポジションに応じた前後進用トルク指令値が送られてきているから、この前後進用トルク指令値に今算出したゲインが乗じられ、結果が足し算器26、27に送られる。この足し算器26、27には、前記したように操向用トルク補正値左、操向用トルク補正値右が送られてきているが、現在装軌車輌は停止しているから両者は0であり、超信地旋回が開始されて何らかの障害物のために所定旋回ができない場合だけ、補正値が送り出されて前後進用トルク指令値左と前後進用トルク指令値右が補正される。
そして足し算器26、27からは左インバータトルク指令15、右インバータトルク指令16が出力されて図1に示した左走行用インバータ6、右走行用インバータ7に送られ、永久磁石式同期電動機8、9が駆動されて超信地旋回が行われるわけであり、このように操向制御装置60の中に超信地旋回用の制御ブロックを設けることで、マニュアル操作が不要で安定した超信地旋回を可能とした装軌車両における操向制御装置を提供することができる。
図8は、図1に示した装軌車輌の操向制御装置における制御装置の実施例5に用いる比例積分制御装置の詳細ブロック図であり、前記図2、図5に24、25として示し、図3にその詳細を示した比例積分制御装置における比例制御装置(図3の242)に、さらにステアリング量によってゲインを変更する機能を付け加えたものである。図中、70は比例積分制御装置、71は履帯目標速度決定装置23と車速度計13からの出力の差分を出力する差分出力器(足し算器)、72はステアリング12の回転量に応じた比例ゲインKPを出力する比例制御ゲインテーブル73を有し、該比例制御ゲインテーブル73の出力と差分出力器71との出力とを掛け算器74で掛け合わせ、直進の場合と旋回の場合とで操向用トルク補正値を変化できるようにした比例制御装置、75は積分ゲインをKIとした増幅器77と積分装置78を有して差分出力器71の出力を積分制御する積分制御装置、76は足し算器である。
比例制御ゲインテーブル73は、ステアリング12の操向量に応じたゲインを出力するためのもので、横軸はステアリング12の操向量で中立と記した位置がステアリング12の直進指示位置、中立から右側が右回転、左側が左回転の量であり、縦軸はゲインで、中立の位置で直進用ゲインを出力し、ステアリング12を左右に所定量以上回転させたときにこの直進用ゲインから回転量に比例して増加し、更に所定量回転させた位置で旋回用ゲインの一定値としてそれ以上は増加させないようにしてある。すなわち、直進時と旋回時でゲインを変更させる際、ステップ状に変化させると速度が急変・振動する恐れがあるため、上限と下限を斜線で結んでステアリングの回転量に比例して増加する部分を短くしたものである。なお、直進用ゲイン・旋回用ゲインの決定は、実装置を用いた調整で行う。
前記図2、図5に24、25として示した比例積分制御装置は、その出力である操向用トルク補正値左と操向用トルク補正値右を算出する際のゲインを、直進時と旋回時で変えることはしていなかったが、同一ゲインで直進時と旋回時の操向用トルク補正値を決定すると、例えば左右の履帯速度が大きく変化することはまれな直進時に必要とするゲインで旋回時も制御した場合、旋回時はトルクが大きくなって小さなゲインでは所定のトルクが得られない場合がある。そのためこの実施例5では、ステアリング12の操向量に基づいて直進と旋回を判断し、それによってゲインを変えられるようにしたものである。
この図8に示した比例積分制御装置70は、前記図2、図5に24、25として示した比例積分制御装置に相当するものであり、前記実施例1、実施例3で説明したように、ステアリング12と左履帯速度計131、右履帯速度計132で構成される車速度計13からの信号と、ステアリング12の操向量によって左履帯目標速度と右履帯目標速度を出力する履帯目標速度決定装置23からの信号を受け、ステアリング12の回転量に相当したゲインで操向用トルク補正値を出力するようにしてある。
すなわち装軌車輌が直進しているときは、ステアリング12が直進を指示する位置にあり、これは図8における比例制御ゲイン計算テーブル73の中立位置に相当するから、この比例制御ゲイン計算テーブル73からは直進用ゲインが出力される。そして、図示していないシフトレバーが所定のポジションにおかれて図示していないアクセルが踏み込まれると、前記実施例1または実施例3で説明したように、図1における制御装置14を構成する図2に示した前後進用トルク指令値算出装置左20と前後進用トルク指令値算出装置右21は、このアクセルやブレーキ、及びシフトレバーのポジションに応じた車速が得られる前後進用トルク指令値を出力して足し算器26、27に送る。
一方、履帯目標速度決定装置23はステアリング12の状態を検知し、現在はステアリング12が直進を指示しているので、比例積分制御装置70(図2、図5において24、25)にアクセルに応じた等しい左、右履帯目標速度を送る。この比例積分制御装置70には、車速度計13(図2、図5においては左履帯速度計131と右履帯速度計132)から左右の履帯の実速度が送られており、この実速度が、差分出力器(足し算器)71で左右の履帯目標速度と比較されてその差が掛け算器74、積分制御装置75に送られる。このとき掛け算器74には、前記したように現在直進であるから比例制御ゲイン計算テーブル73から直進用ゲインが送られてきており、そのため差分出力器(足し算器)71の出力が0でない場合(すなわち実速度と履帯目標速度に差がある場合)はその値がそのまま足し算器76に出力される。なお、差分出力器(足し算器)71の出力が0の場合は当然のことながら0が出力される。
また、積分制御装置75に送られた差分出力器(足し算器)71の出力は、その値が0でない場合(すなわち実速度と履帯目標速度に差がある場合)は積分されて足し算器76に出力され、0の場合は0が出力される。
こうして比例制御装置72と積分制御装置75の出力が足し算器76に送られ、それぞれの値が加え合わされて操向用トルク補正値となるわけであるが、前記したように履帯目標速度決定装置23と車速度計13の値が等しければ差分出力器71の出力は0であり、当然のことながら足し算器76からの操向用トルク補正値も0となる。また、履帯目標速度決定装置23と車速度計13の値が等しくなければ差分出力器71の出力はその差に応じた値となり、掛け算器74には比例制御ゲイン計算テーブル73によって直進用ゲインが送られているから、この差に直進用ゲインが乗じられて足し算器76に送られる。またこの時、積分制御装置75はこの差を積分した値を足し算器76に送っているから、両者を加え合わせた値が操向用トルク補正値として出力される。
以下の動作は、前記図2、図5に示した実施例1、実施例3の場合と同じであり、この操向用トルク補正値(実際には左と右)が足し算器26、27(図2、図5参照)に送られて、先に前後進用トルク指令値算出装置左20と前後進用トルク指令値算出装置右21からアクセルやブレーキ、及びシフトレバーのポジションに応じて送られてきている前後進用トルク指令値と加え合わされ、和が左インバータトルク指令15、右インバータトルク指令16として図1の左走行用インバータ6、右走行用インバータ7に送られて走行速度が制御される。そのため、直進時は比例制御ゲインが直進用ゲインとされて比較的低いゲインで直進性の補正が行われる。
次に旋回動作であるが、旋回するためにステアリング12が左右のいずれかに切られると、比例制御ゲイン計算テーブル73はそのステアリング12が所定量以上操向された場合、その操向量に応じた旋回用ゲインを掛け算器74に送る。
そして、旋回のためにステアリングが左右のいずれかに切られることにより、履帯目標速度決定装置23は、このステアリング12が示す旋回量に応じて左履帯と右履帯の履帯目標速度を決定し、左履帯目標速度と右履帯目標速度としてそれぞれ比例積分制御装置70(図2、図5において24、25)にアクセル量に応じた左、右履帯目標速度を送る。この比例積分制御装置70には、車速度計13(図2、図5においては左履帯速度計131と右履帯速度計132)から左右の履帯の実速度が送られており、この実速度が、差分出力器(足し算器)71で左右の履帯目標速度と比較されてその差が掛け算器74、積分制御装置75に送られる。
今、例えば装軌車輌が左に旋回しようとしているとすると、履帯目標速度決定装置23はステアリング12が切られた量に応じて内輪側となる左履帯目標速度を現在の速度より遅く、外輪側となる右履帯目標速度を現在の速度より早く設定して出力する。そのため、図8に示した比例積分制御装置70を左の比例積分制御装置とすると、履帯目標速度決定装置23からの出力は車速度計13が示す現在速度より遅くなり、差分出力器71の出力は−の値となる。
このとき掛け算器74には、前記したように現在旋回が指示されているから比例制御ゲイン計算テーブル73からは旋回用ゲインが送られてきており、そのため差分出力器(足し算器)71の出力は掛け算器74によって比例制御ゲイン計算テーブル73から出力されたゲインが乗じられて足し算器76に出力される。また、積分制御装置75に送られた差分出力器(足し算器)71の出力は、積分されて足し算器76に出力され、それぞれの値が加え合わされて操向用トルク補正値となるわけであるが、この操向用トルク補正値は、比例制御ゲイン計算テーブル73からステアリング12の操向量に応じた旋回用ゲインが出力されることにより、直進時より大きなゲインが加算され、それだけ大きな補正トルクを指示することが可能となる。
また、図8に示した比例積分制御装置70を右の比例積分制御装置とすると、履帯目標速度決定装置23からの出力は車速度計13が示す現在速度より早くなり、差分出力器71の出力は+の値となって、同様にして大きな操向用トルク補正値が指示される。そのため、図2、図5に示した足し算器27には+の操向用トルク補正値が送られ、逆の足し算器26には−の操向用トルク補正値が送られて、前後進用トルク指令値算出装置左20と前後進用トルク指令値算出装置右21から送られているアクセルやブレーキ、及びシフトレバーのポジションに応じた前後進用トルク指令値に加算され、左インバータトルク指令15、右インバータトルク指令16として図1の左走行用インバータ6、右走行用インバータ7に送られる。
そのため、左右走行用インバータ6、7は、この指示されたトルクとなるよう左側永久磁石式同期電動機8は減速させ、右側永久磁石式同期電動機9は増速させるよう、それぞれの永久磁石式同期電動機に送る電力を調節する。そして、内輪側となる左側の永久磁石式同期電動機8は発電機として回生動作させ、生じた電力は左走行用インバータ6を介して右走行用インバータ7に送り、右側の永久磁石式同期電動機9は、右インバータトルク指令16により指示されたトルクを生じるよう、蓄電装置4からの電力とこの回生電力を加え合わせた電力を用いて増速し、ステアリングに応じた回転半径でもって装軌車輌が旋回することになる。
なお、このような旋回中に、アクセルが踏み込まれるか逆に踏み込みがゆるめられて、増速、あるいは減速が指示された場合、前後進用トルク指令値算出装置左20、前後進用トルク指令値算出装置右21がそれを検知し、前後進用トルク指令値左、或いは前後進用トルク指令値右を増加または減少させ、以上説明してきた方法で増速、あるいは減速が行われる。従って、直進時は小さなゲインで、旋回時はステアリング12の操向量に応じた大きなゲインでトルクが補正され、旋回時にゲインが小さいために必要な補正トルクが指示できないといったことがなく、また、直進時にはゲインを小さくすることで、過敏な反応を抑えることができ、従来技術のように外輪加速トルクと内輪減速トルクとの釣り合いがとれずに速度変化が生じ、転倒などの危険性が増すことが防止できると共に、直進時には左右の速度差を無くして直進性を高めることができる。
図9は、図1に示した装軌車輌の操向制御装置における制御装置14を144とした実施例6の詳細ブロック図であり、図10はそのフロー図である。図中80は実施例6の操向制御装置、81はアクセルペダル、82は前記実施例3(図5)で説明したトルク補正量最小値検出装置で、前記実施例3では、左積分制御装置24と右積分制御装置25からの操向用トルク補正値左と操向用トルク補正値右のうち、絶対値が小さな方の値を選択してそれぞれ逆の符号を付して操向用トルク補正値左と操向用トルク補正値右として掛け算器26、27に出力していたが、この実施例6では、ステアリング信号83とアクセル信号84を受け、アクセル信号84が0の場合はステアリング信号83の旋回方向によって外輪側を判断し、外輪側の操向用トルク補正値は0に、内輪側の操向用トルク補正値はそのまま出力する機能が付け加えられている。
今まで説明してきた実施例1乃至3、及び実施例5においては、前後進用トルク指令値左、前後進用トルク指令値右をアクセルやブレーキ、及びシフトレバーのポジションに応じた車速が得られる前後進用トルク指令値を指令するよう説明してきたが、例えば下り坂などにおいてアクセルの踏み込みをやめ、エンジンブレーキだけを用いて減速しながら旋回するような場合、以上説明してきた実施例1乃至3、及び実施例5では例えアクセルが踏まれていなくても外輪側の履帯が増速される場合があり、最悪の場合、車体が転倒する危険性が生じる。
そのためこの実施例6では、操向制御装置80における履帯目標速度決定装置23でステアリング12とアクセルペダル81の状態を検出し、旋回が指示されている場合はステアリング信号83によってステアリング12の操向量を、アクセル信号84でアクセル量をそれぞれトルク補正量最小値検出装置82に送り、旋回方向とアクセル量から旋回中にアクセル0となった場合は外輪側のトルク補正値を0とし、内輪側のトルク補正値はそのまま出力するようにして、こういった転倒を防止できるようにしたものである。それ以外の構成は、図2、図4、図5、図8に示した実施例1、実施例2、実施例3、実施例5と同様である。
この制御装置144の動作を図10に示したフロー図に基づいて説明すると、今、前記と同様旋回するためにステアリング12が左右のいずれかに切られると、内輪側となる永久磁石式同期電動機(8または9)は減速のために回生動作に移行し、その時生じる回生電力は、走行用インバータ6または7を介して逆側の永久磁石式同期電動機(9または8)に与えられ、永久磁石式同期電動機(9または8)は蓄電装置4からの電力と発電機2からの電力、及びこの回生電力を加え合わせた電力で駆動することが可能となる。
そして、旋回のためにステアリング12が左右のいずれかに切られることにより、履帯目標速度決定装置23はこのステアリング12が示す旋回量に応じて左履帯と右履帯の履帯目標速度を決定し、左履帯目標速度と右履帯目標速度としてそれぞれ左比例積分制御装置24、右比例積分制御装置25に送る。この左比例積分制御装置24、右比例積分制御装置25には、左履帯速度計131と右履帯速度計132から左右の履帯の実速度が送られているから、左比例積分制御装置24、右比例積分制御装置25は、それぞれ履帯目標速度と実速度を比較してその差を比例積分する。
また履帯目標速度決定装置23は、ステアリング12とアクセルペダル81の状態を検出し、ステアリング12の操向量をステアリング信号83で、アクセル量をアクセル信号84でそれぞれトルク補正量最小値検出装置82に送る。
今、例えば装軌車輌が左に旋回しようとしているとすると、履帯目標速度決定装置23はステアリング12が切られた量に応じて内輪側となる左履帯目標速度を現在の速度より遅く、外輪側となる右履帯目標速度を現在の速度より早く設定して出力する。そのため、左比例積分制御装置24においては差分がマイナスに、右比例積分制御装置25においては差分がプラスになり、それがそれぞれ比例積分されて操向用トルク補正値左(マイナス)、操向用トルク補正値右(プラス)としてトルク補正量最小値検出82に送られる。
これが図10のフロー図にステップS91で示した左右トルク補正量入力であり、トルク補正量最小値検出装置82は、次のステップS92において操向用トルク補正値左と操向用トルク補正値右のうちの小さい方の値を検出し、次のステップS93に進む。そしてこのステップS93でアクセル信号84を参照してアクセル量が0か否かを判断し、0でない場合はステップS96に進んで前記図5で説明したように、操向用トルク補正値左と操向用トルク補正値右のうちの小さい方の値を検出し、検出した値の絶対値を取って内輪側は負(−)の符号を、外輪側に正(+)の符号を付し、操向用トルク補正値左、操向用トルク補正値右として足し算器26、27に送る。
一方、ステップS93においてアクセル量が0である場合はステップS94に進み、トルク補正量最小値検出装置82は、ステアリング信号83によって旋回方向を判定してステップS95に進む。そしてステップS95で判定した旋回方向により、外輪側となる操向用トルク補正値を0とし、内輪側となる操向用トルク補正値をそのまま出力するようにしてステップS96でこの値を操向用トルク補正値左、操向用トルク補正値右として足し算器26、27に送る。
この足し算器26、27には、前記したように前後進用トルク指令値算出装置左20と前後進用トルク指令値算出装置右21から、アクセルやブレーキ、及びシフトレバーのポジションに応じた前後進用トルク指令値が送られてきており、この前後進用トルク指令値にそれぞれ操向用トルク補正値左、操向用トルク補正値右が加え合わされ、その和が左インバータトルク指令15、右インバータトルク指令16として図1の左走行用インバータ6、右走行用インバータ7に送られる。そのため、左右走行用インバータ6、7は、この指示されたトルクとなるよう内輪側永久磁石式同期電動機8または9を減速させ、外輪側永久磁石式同期電動機9または8は補正せずに送る電力を調節する。以下の動作は前記図1、図2、図5、図8で説明した実施例1、実施例2、実施例3、実施例5と同様であるので省略する。
このようにすることにより、例えば下り坂などにおいてアクセルの踏み込みをやめ、エンジンブレーキだけを用いて減速しながら旋回するような場合でも、外輪側の履帯が増速されることがなく、車体が転倒する危険性は防止できる。
以上種々述べてきたように本発明によれば、建設や運搬等に用いられるブルドーザ、パワーシャベル、クレーン等の履帯を用いた装軌車輌において、どのような場合でも外輪加速トルクと内輪減速トルクの釣り合いがとれ、速度変化を起こさないようにすると共に、ステアリングに応じた操向比を得ることができ、また、速度ゼロ(停止状態)からの超信地旋回をも行うことができるから、装軌車輌を安全に、安定させて操向制御することができる。
本発明になる装軌車輌における駆動装置の実施の形態を示した概略ブロック図である。
図1に示した装軌車輌の操向制御装置における制御装置の実施例1の詳細ブロック図である。
図2に示した制御装置における比例積分制御装置の詳細ブロック図である。
図1に示した装軌車輌の操向制御装置における制御装置の実施例2の詳細ブロック図であり、特に履帯目標速度決定装置の詳細である。
図1に示した装軌車輌の操向制御装置における制御装置の実施例3の詳細ブロック図である。
図5に示した実施例3の装軌車輌の操向制御装置における制御装置の動作を説明するためのフロー図である。
図1に示した装軌車輌の操向制御装置における制御装置の実施例4の詳細ブロック図であり、超信地旋回を実施するための制御装置である。
図1に示した装軌車輌の操向制御装置における制御装置の実施例5の詳細ブロック図であり、特に比例積分制御装置の詳細である。
図1に示した装軌車輌の操向制御装置における制御装置の実施例6の詳細ブロック図である。
図9に示した実施例6の装軌車輌の操向制御装置における制御装置の動作を説明するためのフロー図である。
符号の説明
131 左履帯速度計
132 右履帯速度計
141 実施例1の制御装置
15 左インバータトルク指令値
16 右インバータトルク指令値
20 前後進用トルク指令値算出装置左
21 前後進用トルク指令値算出装置右
22 操向制御装置
23 履帯目標速度決定装置
24 左比例積分制御装置
25 右比例積分制御装置
26、27 足し算器