本発明は上述した課題に対処するためになされたものであって、その目的の一つは、混合気の燃焼により生成されるNOxの量を低減しながら自着火タイミングを適切なタイミングに制御することが可能な自着火式内燃機関を提供することにある。
かかる目的を達成するため本願の1つ目の発明に係る自着火式内燃機関は、シリンダボアが形成されたシリンダブロックと、前記シリンダブロックの上部に配置されたシリンダヘッドと、前記シリンダボア内において往復動するピストンと、少なくとも前記シリンダボアの壁面と前記シリンダヘッドの下面と前記ピストンの頂面とにより構成される燃焼室内に空気と燃焼ガスと燃料とを含む混合気を形成し同混合気の温度を所定の温度より高くすることにより自着火させて燃焼させる自着火方式による運転を行う自着火運転実行手段と、を備える。
更に、本発明に係る自着火式内燃機関は、
前記自着火式内燃機関の運転状態を取得する運転状態取得手段と、所定の指示信号に応答して発生した火花発生用電圧に基づいて前記燃焼室内の複数の位置にて火花を発生させる多点火花発生手段と、を備える。
前記自着火運転実行手段は、圧縮上死点における混合気の温度である圧縮端温度を前記所定の温度より低い温度に制御する混合気温度制御手段と、前記取得された内燃機関の運転状態に応じて圧縮上死点近傍の火花を発生させるためのタイミングである自着火用火花発生タイミングを決定し、同決定された自着火用火花発生タイミングにて前記多点火花発生手段に対する前記所定の指示信号を発生する自着火用火花発生タイミング決定手段と、を含む。
本発明に係る自着火式内燃機関は、前記発生した火花により前記混合気の温度を前記所定の温度より高めることによって同混合気を自着火させて燃焼させる。
前記多点火花発生手段は、前記所定の指示信号に基づいて前記火花発生用電圧を発生する電圧発生手段と、前記燃焼室に少なくとも一面が露呈するように配設された絶縁体と、同燃焼室にて火花発生用ギャップを形成するように前記燃焼室に露呈した絶縁体の一面である燃焼室露呈面の所定位置を突出の基端として同所定位置からそれぞれ突出する一対の突出部からなる火花発生部を複数有するとともに前記電圧発生手段に対して同複数の火花発生部を直列に接続する接続部を有する火花発生用導体と、を備える。
また、前記多点火花発生手段は、前記絶縁体の燃焼室露呈面が複数の凹部を有するように形成され、且つ、前記火花発生部が同複数の凹部のそれぞれに収容されるように構成されている。
これによれば、混合気温度制御手段により、圧縮上死点における混合気の温度である圧縮端温度が自着火温度(混合気が自着火して燃焼を開始する同混合気の温度)より低い温度に制御される。この混合気温度制御手段は、例えば、吸気弁を閉弁するタイミングを変更することにより混合気の実圧縮比(圧縮上死点における燃焼室の容積に対する圧縮開始時における燃焼室の容積の比)を変更する手段、排気弁を閉弁するタイミング及び吸気弁を開弁するタイミングを変更することにより燃焼室内に残留する燃焼ガスの量を変更する手段、又は、吸気通路内の空気を加熱若しくは冷却する手段等である。
更に、多点火花発生手段により、取得された内燃機関の運転状態に応じた圧縮上死点近傍の自着火用火花発生タイミングにて燃焼室内の複数の位置において火花が発生させられる。これにより、燃焼室内の1つの位置にて火花を発生させる場合と比較して、混合気を確実に着火させることができる。
更に、混合気が複数の位置にて着火され、着火された一部の混合気が燃焼することにより、高温且つ高圧の燃焼ガスが燃焼室内の複数の位置にて生成される。従って、複数の位置にて燃焼ガスから残余の未燃の混合気へ熱エネルギーが伝達されるので、1つの位置にて火花を発生させる場合と比較して、未燃の混合気の温度を上記自着火温度まで迅速に上昇させることができる。この結果、火炎の伝播により混合気が燃焼する期間を短くすることができるので、生成されるNOxの量を減少させることができる。
また、これによれば、1つの電圧発生手段により発生した電圧を火花発生用導体に印加することにより、燃焼室内の複数の位置にて同時に火花を発生させることができる。
また、これによれば、燃焼室内に形成されるガスの流れ(スワール流やタンブル流等)により、火花発生部の近傍において発生したイオンや電子等が火花発生部の近傍から流出することが防止されるとともに、火花発生部や火花発生部の近傍における混合気の熱が奪われることが防止される。
これにより、火花発生部に電圧が印加されると、火花発生部の近傍においてイオンや電子等が増加するとともに、火花発生部の温度や火花発生部の近傍における混合気の温度が上昇するので、確実に火花を発生させることができる。更に、電圧が印加されている期間において火花が消滅させられる(放電が維持されなくなる)ことを防止することができる。この結果、混合気を火花によってより一層確実に着火させることができる。
また、本願の2つ目の発明に係る自着火式内燃機関は、シリンダボアが形成されたシリンダブロックと、前記シリンダブロックの上部に配置されたシリンダヘッドと、前記シリンダボア内において往復動するピストンと、少なくとも前記シリンダボアの壁面と前記シリンダヘッドの下面と前記ピストンの頂面とにより構成される燃焼室内に空気と燃焼ガスと燃料とを含む混合気を形成し同混合気の温度を所定の温度より高くすることにより自着火させて燃焼させる自着火方式による運転を行う自着火運転実行手段と、を備える。
更に、本発明に係る自着火式内燃機関は、
前記自着火式内燃機関の運転状態を取得する運転状態取得手段と、所定の指示信号に応答して発生した火花発生用電圧に基づいて前記燃焼室内の複数の位置にて火花を発生させる多点火花発生手段と、を備える。
前記自着火運転実行手段は、圧縮上死点における混合気の温度である圧縮端温度を前記所定の温度より低い温度に制御する混合気温度制御手段と、前記取得された内燃機関の運転状態に応じて圧縮上死点近傍の火花を発生させるためのタイミングである自着火用火花発生タイミングを決定し、同決定された自着火用火花発生タイミングにて前記多点火花発生手段に対する前記所定の指示信号を発生する自着火用火花発生タイミング決定手段と、を含む。
前記発生した火花により前記混合気の温度を前記所定の温度より高めることによって同混合気を自着火させて燃焼させる。
前記多点火花発生手段は、前記所定の指示信号に基づいて前記火花発生用電圧を発生する電圧発生手段と、前記燃焼室に少なくとも一面が露呈するように配設された絶縁体と、同燃焼室にて火花発生用ギャップを形成するように前記燃焼室に露呈した絶縁体の一面である燃焼室露呈面の所定位置を突出の基端として同所定位置からそれぞれ突出する一対の突出部からなる火花発生部を複数有するとともに前記電圧発生手段に対して同複数の火花発生部を直列に接続する接続部を有する火花発生用導体と、を備える。
前記絶縁体は、前記ピストンの頂面の全部又は一部を構成するように同ピストンに配設される。
前記火花発生用導体の接続部は、一端が前記電圧発生手段に接続されるとともに他端が前記燃焼室に臨むように前記シリンダヘッドに配設された第1の接続用導体と、少なくとも一端が同燃焼室に臨み且つ前記ピストンの位置が圧縮上死点位置近傍の所定の位置にあるとき同第1の接続用導体の他端と空間を介して近接するように前記絶縁体に配設された第2の接続用導体と、を含む。
これによれば、上記1つ目の発明に関連して説明したように、混合気温度制御手段により、圧縮上死点における混合気の温度である圧縮端温度が自着火温度(混合気が自着火して燃焼を開始する同混合気の温度)より低い温度に制御される。
更に、上記1つ目の発明に関連して説明したように、燃焼室内の1つの位置にて火花を発生させる場合と比較して、混合気を確実に着火させることができる。
更に、上記1つ目の発明に関連して説明したように、火炎の伝播により混合気が燃焼する期間を短くすることができるので、生成されるNOxの量を減少させることができる。
また、これによれば、1つの電圧発生手段により発生した電圧を火花発生用導体に印加することにより、燃焼室内の複数の位置にて同時に火花を発生させることができる。
また、これによれば、複数の火花発生部をピストンの頂面(シリンダの中心軸に略垂直な面)内にて空間的に一様に配置することができる。これにより、未燃の混合気の温度を空間的に略一様に上昇させることができる。この結果、すべての未燃の混合気をより一層迅速に自着火させることができる。
ところで、ピストンは往復動する。従って、ピストンに配設された火花発生用導体と、シリンダヘッド等のピストン以外の部材に配設された電圧発生手段(例えば、点火コイル及び点火プラグからなる電圧発生源等)と、を配線により直接接続すると、断線により故障する恐れがある。
これに対し、上記構成によれば、火花発生用導体と、電圧発生手段と、が直接接続されていなくとも、シリンダヘッドに配設された第1の接続用導体と、ピストンの頂面に配置された第2の接続用導体と、が空間を介して電気的に接続される(絶縁破壊・放電を起こす)ので、電圧発生手段により発生させられた電圧は、火花発生用導体の火花発生部に印加される。これにより、火花発生部にて火花を発生させることができる。この結果、断線により故障する可能性が小さい自着火式内燃機関を提供することができる。
この場合、前記絶縁体の燃焼室露呈面は、有底のキャビティを前記ピストンの頂面の中央部に形成してなり、
前記火花発生用導体は、前記複数の火花発生部が少なくとも前記キャビティの内部に配置されるように構成されていることが好適である。
これによれば、キャビティの内部の混合気が同キャビティの内部の燃焼室露呈面に配置された火花発生部により着火される。これにより、キャビティの内部の複数の火花発生部から燃焼室の中央部に向けて火炎が伝播するので、同中央部における未燃の混合気の温度を迅速に高めることができる。この結果、未燃の混合気の温度を上記自着火温度まで迅速に上昇させることができる。
また、本願の3つ目の発明に係る自着火式内燃機関は、シリンダボアが形成されたシリンダブロックと、前記シリンダブロックの上部に配置されたシリンダヘッドと、前記シリンダボア内において往復動するピストンと、少なくとも前記シリンダボアの壁面と前記シリンダヘッドの下面と前記ピストンの頂面とにより構成される燃焼室内に空気と燃焼ガスと燃料とを含む混合気を形成し同混合気の温度を所定の温度より高くすることにより自着火させて燃焼させる自着火方式による運転を行う自着火運転実行手段と、を備える。
更に、本発明に係る自着火式内燃機関は、
前記自着火式内燃機関の運転状態を取得する運転状態取得手段と、所定の指示信号に応答して発生した火花発生用電圧に基づいて前記燃焼室内の複数の位置にて火花を発生させる多点火花発生手段と、を備える。
前記自着火運転実行手段は、圧縮上死点における混合気の温度である圧縮端温度を前記所定の温度より低い温度に制御する混合気温度制御手段と、前記取得された内燃機関の運転状態に応じて圧縮上死点近傍の火花を発生させるためのタイミングである自着火用火花発生タイミングを決定し、同決定された自着火用火花発生タイミングにて前記多点火花発生手段に対する前記所定の指示信号を発生する自着火用火花発生タイミング決定手段と、を含む。
前記発生した火花により前記混合気の温度を前記所定の温度より高めることによって同混合気を自着火させて燃焼させる。
前記多点火花発生手段は、前記所定の指示信号に基づいて前記火花発生用電圧を発生する電圧発生手段と、前記燃焼室に少なくとも一面が露呈するように配設された絶縁体と、同燃焼室にて火花発生用ギャップを形成するように前記燃焼室に露呈した絶縁体の一面である燃焼室露呈面の所定位置を突出の基端として同所定位置からそれぞれ突出する一対の突出部からなる火花発生部を複数有するとともに前記電圧発生手段に対して同複数の火花発生部を直列に接続する接続部を有する火花発生用導体と、を備える。
前記絶縁体は、前記ピストンの頂面の全部又は一部を構成するように同ピストンに配設される。
前記絶縁体の燃焼室露呈面は、有底のキャビティを前記ピストンの頂面の中央部に形成してなる。
前記多点火花発生手段は、少なくとも2つの前記火花発生用導体を備える。
前記少なくとも2つの火花発生用導体のうちの1つは、前記複数の火花発生部が前記キャビティの内部の前記絶縁体の燃焼室露呈面に配置されてなるとともに、同少なくとも2つの火花発生用導体のうちの他の1つは、前記複数の火花発生部が同キャビティの外部の同絶縁体の燃焼室露呈面に配置されてなる。
前記電圧発生手段は、前記少なくとも2つの火花発生用導体のそれぞれに対して独立に電圧を印加するように構成されている。
これによれば、上記1つ目の発明に関連して説明したように、混合気温度制御手段により、圧縮上死点における混合気の温度である圧縮端温度が自着火温度(混合気が自着火して燃焼を開始する同混合気の温度)より低い温度に制御される。
更に、上記1つ目の発明に関連して説明したように、燃焼室内の1つの位置にて火花を発生させる場合と比較して、混合気を確実に着火させることができる。
更に、上記1つ目の発明に関連して説明したように、火炎の伝播により混合気が燃焼する期間を短くすることができるので、生成されるNOxの量を減少させることができる。
また、これによれば、1つの電圧発生手段により発生した電圧を火花発生用導体に印加することにより、燃焼室内の複数の位置にて同時に火花を発生させることができる。
また、これによれば、燃焼室においてキャビティの内部の燃料の濃度がキャビティの外部の燃料の濃度より高い混合気(成層混合気)を形成した際、キャビティの内部のみにて火花を発生させることにより、成層混合気を着火させることができる。これにより、すべての火花発生部にて火花を発生させる場合と比較して、火花を発生させることにより消費されるエネルギーを減らすことができるので、良好な燃費にて内燃機関を運転することができる。
一方、燃焼室においてキャビティの内部及びキャビティの外部の燃料の濃度が互いに略同一の混合気(均質混合気)を形成した際、キャビティの内部及びキャビティの外部の両方にて火花を発生させることにより、混合気の温度を空間的に略一様に上昇させることができる。この結果、すべての未燃の混合気をより一層迅速に自着火させることができる。
この場合、前記多点火花発生手段は、前記絶縁体が前記シリンダボアと同径の円柱状の貫通穴を有する板状部材からなり、同貫通穴が同シリンダボアと同軸となるように同絶縁体を配設することにより同貫通穴の側壁面が前記燃焼室露呈面を構成してなることが好適である。
これによれば、絶縁体を簡素な板状形状を有する部材(板状部材)により構成することができるので、同絶縁体を容易に製造及び配設することができる。
この場合、前記混合気温度制御手段における前記圧縮端温度は、700Kから900Kまでの温度であることが好適である。
自着火温度は、およそ1000Kであることが知られている。従って、上記構成のように、圧縮端温度を700Kから900Kまでの温度に制御することにより、燃焼室にて火花を発生させるまでの間に(過早に)混合気が自着火することを防止することができるとともに、燃焼室にて火花を発生させることにより混合気の温度を自着火温度(1000K以上の温度)まで迅速に上昇させることができる。
この場合、前記自着火運転実行手段は、前記燃焼室内に形成される混合気に含まれる前記空気の量と、前記燃焼ガスの量と、の和の前記燃料の量に対する比が30以上となるように構成されることが好適である。
これによれば、燃料の濃度が極めて低い超希薄混合気が形成され、形成された超希薄混合気が燃焼されるので、燃焼により生成されるNOxの量を低減することができる。
この場合、前記多点火花発生手段は、前記火花を発生させる位置の数が4以上であるとともに、同各位置がそれぞれ隣り合う他の位置と略等しい間隔を有するように構成されている。
これによれば、4つ以上の火花を発生させる位置(火花発生位置)がそれぞれ隣り合う他の火花発生位置と略等しい間隔を有するように配置されるので、混合気の温度を空間的に略一様に上昇させることができる。これにより、火花が発生してから短い期間のうちにすべての未燃の混合気を自着火させることができる。
一方、上記自着火式内燃機関のいずれかは、前記複数の火花発生部のそれぞれに向けて燃料が噴射されるように形成された噴孔を有する燃料噴射手段を備えることが好適である。
これによれば、火花発生部の近傍に燃料の濃度が高い領域を形成することができる。これにより、例えば、噴射される燃料の量が少ないために混合気が着火されにくい運転領域においても、火花発生部が発生する火花により混合気を確実に着火させることができる。
この場合、上記自着火式内燃機関は、
前記混合気の燃焼状態が所定の状態となるタイミングの基準値である基準燃焼タイミングを前記取得された内燃機関の運転状態に応じて決定する基準燃焼タイミング決定手段と、
実際の混合気の燃焼状態が前記所定の状態となるタイミングである実燃焼タイミングを推定する実燃焼タイミング推定手段と、
前記決定された基準燃焼タイミングと、前記推定された実燃焼タイミングと、に基づいて前記自着火用火花発生タイミング決定手段により決定された自着火用火花発生タイミングを補正する燃焼時期変動抑制用火花発生タイミング補正手段と、
を備えることが好適である。
これによれば、混合気が燃焼している状態(混合気の燃焼状態)が所定の状態となるタイミングの基準値として決定された基準燃焼タイミングと、実際の混合気の燃焼状態が同所定の状態となるタイミングとして推定された実燃焼タイミングと、に基づいて運転状態に応じて決定された自着火用火花発生タイミングが補正される。ここで、所定の状態は、例えば、1つの燃焼サイクルにおいて燃焼室内の圧力若しくは燃焼により発生する熱量(熱発生量)の変化率(熱発生率)が最大となった状態、又は、熱発生量が1つの燃焼サイクル全体における熱発生量の半分となった状態等である。
これにより、前回の燃焼サイクルにおける実燃焼タイミングが、運転状態に応じた基準燃焼タイミングと異なっていても、今回の燃焼サイクルにおける実燃焼タイミングが基準燃焼タイミングに近づくように今回の燃焼サイクルにおける自着火用火花発生タイミングが補正される。この結果、今回の燃焼サイクルにおける実燃焼タイミングを運転状態に応じた基準燃焼タイミングに近しいタイミングとすることができるので、良好な燃費にて内燃機関を運転することができる。
この場合、上記自着火式内燃機関は、
前記取得された内燃機関の運転状態に応じて圧縮上死点近傍の火花を発生させるためのタイミングである火炎伝播用火花発生タイミングを決定し、同決定された火炎伝播用火花発生タイミングにて前記多点火花発生手段に対する前記所定の指示信号を発生する火炎伝播用火花発生タイミング決定手段を備えるとともに、前記燃焼室内に少なくとも空気及び燃料を含む混合気を形成し同混合気を前記多点火花発生手段が発生する火花により点火して火炎の伝播により燃焼させる火炎伝播方式による運転を行う火炎伝播運転実行手段と、
前記取得された内燃機関の運転状態が所定の第1運転状態であるときは前記自着火運転実行手段を使用するとともに、同取得された内燃機関の運転状態が同第1運転状態以外の所定の第2運転状態であるときは前記火炎伝播運転実行手段を使用する運転方式切替え手段と、
前記燃焼室における混合気の燃焼により発生するノッキングの程度を表す指標値を検出するノッキング検出手段と、
前記検出された指標値に基づいて前記火炎伝播用火花発生タイミング決定手段により決定された火炎伝播用火花発生タイミングを補正するノッキング抑制用火花発生タイミング補正手段と、
を備えることが好適である。
これによれば、自着火方式と火炎伝播方式とが運転状態に応じて切り替えられて内燃機関の運転が行われる。更に、火炎伝播方式による運転が行われるとき(火炎伝播運転時)、検出されたノッキングの程度を表す指標値に基づいて運転状態に応じて決定された火炎伝播用火花発生タイミングが補正される。これにより、前回の燃焼サイクルにおける混合気の燃焼により発生したノッキングの程度に応じて、今回の燃焼サイクルにおける火炎伝播用火花発生タイミングが補正される。この結果、ノッキングが連続して発生することを防止することができるので、燃焼に伴う過大な音(騒音)の発生を防止したり、燃費の悪化を防止したりすることができる。
また、上記自着火式内燃機関は、
前記燃焼室内に少なくとも空気及び燃料を含む混合気を形成し同混合気を前記多点火花発生手段が発生する火花により点火して火炎の伝播により燃焼させる火炎伝播方式による運転を行う火炎伝播運転実行手段と、
前記取得された内燃機関の運転状態が所定の第1運転状態であるときは前記自着火運転実行手段を使用するとともに、同取得された内燃機関の運転状態が同第1運転状態以外の所定の第2運転状態であるときは前記火炎伝播運転実行手段を使用する運転方式切替え手段と、を備え、
前記自着火運転実行手段は、前記燃焼室から同燃焼室内の燃焼ガスを排出する行程である排気行程から同燃焼室内に空気を導入する行程である吸気行程に移行する際に、排気弁を閉弁した後に吸気弁を開弁するように構成され、
前記火炎伝播運転実行手段は、前記排気行程から前記吸気行程に移行する際に、前記排気弁を閉弁する前に前記吸気弁を開弁するように構成されることが好適である。
これによれば、自着火方式により内燃機関が運転されるとき(自着火運転時)は、負のオーバーラップ期間が設けられる。負のオーバーラップ期間は、排気行程から吸気行程に移行する際に吸気弁及び排気弁の両方が閉弁されている期間である。これにより、多量の燃焼ガスが燃焼室内に残留する。この結果、圧縮端温度が所望の温度となるように混合気の温度を制御することができる。
一方、火炎伝播方式により内燃機関が運転されるとき(火炎伝播運転時)は、正のオーバーラップ期間が設けられる。正のオーバーラップ期間は、排気行程から吸気行程に移行する際に吸気弁及び排気弁の両方が開弁されている期間である。これにより、殆どの燃焼ガスが燃焼室から排出される。この結果、新たに燃焼室内に導入される空気の量を増加させることができるので、内燃機関の出力を高めることができる。
この場合、前記自着火運転実行手段は、前記排気行程から前記吸気行程に移行する際、前記排気弁が閉弁してから前記吸気弁が開弁するまでの間に、前記取得された内燃機関の運転状態に応じて定められる噴射燃料量のうちの一部の量の燃料を前記燃焼室内に噴射するとともに、同吸気弁が開弁した後に残余の量の燃料を同燃焼室内に噴射し、
前記火炎伝播運転実行手段は、前記吸気行程の初期に同取得された内燃機関の運転状態に応じて定められる噴射燃料量のすべての量の燃料を同燃焼室内に噴射することが好適である。
負のオーバーラップ期間中においては、燃焼ガスが燃焼室内に残留しているため、燃焼室内のガスの温度は高い。従って、上記構成のように、自着火運転時においては、負のオーバーラップ期間中に運転状態に応じて定められた噴射燃料量のうちの一部の量の燃料を噴射することにより、噴射された燃料を予反応させる(燃料分子の分解等の予備的な反応を行わせる)ことができる。これにより、発生した火花による混合気の着火性を良好にすることができるとともに、混合気の自着火性を良好にすることができる。
一方、火炎伝播運転時においては、運転状態に応じて定められる噴射燃料量のすべての量の燃料を吸気行程の初期に噴射することにより燃料が燃焼室にて十分に拡散するための時間を確保することができる。これにより、ノッキングの発生を抑制することができる。
また、上記自着火式内燃機関は、
前記燃焼室内に少なくとも空気及び燃料を含む混合気を形成し同混合気を前記多点火花発生手段が発生する火花により点火して火炎の伝播により燃焼させる火炎伝播方式による運転を行う火炎伝播運転実行手段と、
前記取得された内燃機関の運転状態が所定の第1運転状態であるときは前記自着火運転実行手段を使用するとともに、同取得された内燃機関の運転状態が同第1運転状態より高負荷側の所定の第2運転状態であるときは前記火炎伝播運転実行手段を使用する運転方式切替え手段と、を備え、
前記自着火運転実行手段は、前記混合気の空燃比を前記多点火花発生手段により発生した火花によって同混合気が着火される空燃比のうちの最もリーン側の空燃比となるように同混合気を形成し、
前記火炎伝播運転実行手段は、前記取得された内燃機関の運転状態が前記第2運転状態のうちの低負荷側の低負荷側第2運転状態であるとき、前記燃焼室内に前記燃焼ガスを残留させ且つ前記混合気の空燃比が理論空燃比となるように同混合気を形成するとともに、同取得された内燃機関の運転状態が同第2運転状態のうちの同低負荷側第2運転状態より高負荷側の高負荷側第2運転状態であるとき、同燃焼室から略全部の同燃焼ガスを排出させ且つ同混合気の空燃比が前記理論空燃比よりリッチ側の空燃比であって同内燃機関の出力を最大とする空燃比となるように同混合気を形成することが好適である。
上述したように、本発明の内燃機関による自着火運転時においては、混合気は、先ず、火花により着火されて火炎の伝播により燃焼し、その後、同混合気は自着火方式により燃焼する。この混合気が着火された直後の火炎の伝播による燃焼によって多量のNOxが生成される。
これに対し、上記構成によれば、取得された内燃機関の運転状態が所定の第1運転状態である自着火運転時においては、火花により混合気が着火される空燃比のうちの最もリーン(燃料濃度が低い)側の空燃比を有する混合気が形成される。これにより、火花が発生した直後の期間において混合気が火炎の伝播により燃焼することによって生成されるNOxの量を減少させることができるとともに、発生した火花により混合気が着火されないことを防止することができる。
一方、取得された内燃機関の運転状態が上記第1運転状態より高負荷側の所定の第2運転状態である火炎伝播運転時であって同取得された内燃機関の運転状態が同第2運転状態のうちの低負荷側の運転状態であるとき、燃焼室内に多量の燃焼ガスが残留させられる。これにより、混合気が燃焼している期間における燃焼室内のガスの温度が低くなる。この結果、同混合気が燃焼することにより生成されるNOxの量を減少させることができる。更に、燃焼室内に残留させられた燃焼ガスによりポンプ損失を低減させることもできるので、良好な燃費にて内燃機関を運転することができる。
また、火炎伝播運転時であって取得された内燃機関の運転状態が上記第2運転状態のうちの高負荷側の運転状態であるとき、略全部の燃焼ガスが燃焼室から排出される。これにより、新たに燃焼室内に導入される空気の量を増加させることができる。更に、内燃機関の出力を最大とする空燃比(理論空燃比よりリッチ(燃料濃度が高い)側の出力空燃比)を有する混合気が形成されるので、内燃機関の出力を高めることができる。
一方、上記自着火式内燃機関は、
前記燃焼室内に少なくとも空気及び燃料を含む混合気を形成し同混合気を前記多点火花発生手段が発生する火花により点火して火炎の伝播により燃焼させる火炎伝播方式による運転を行う火炎伝播運転実行手段と、
前記取得された内燃機関の運転状態が所定の第1運転状態であるときは前記自着火運転実行手段を使用するとともに、同取得された内燃機関の運転状態が同第1運転状態以外の所定の第2運転状態であるときは前記火炎伝播運転実行手段を使用する運転方式切替え手段と、
外部の空気を前記燃焼室内へ導入するための2つの互いに異なる経路を構成する第1の吸気通路及び第2の吸気通路と、
前記第1の吸気通路内を通過する空気のみを冷却する吸気冷却手段と、
前記第1の吸気通路と前記第2の吸気通路とをそれぞれ通過する空気の量を制御する吸気通路流量制御手段と、を備え、
前記吸気通路流量制御手段は、前記自着火運転実行手段により前記内燃機関が運転されているとき、前記第1の吸気通路内を通過する空気の量より多い量の空気が前記第2の吸気通路内を通過するように構成されるとともに、前記火炎伝播運転実行手段により同内燃機関が運転されているとき、前記第2の吸気通路内を通過する空気の量より多い量の空気が前記第1の吸気通路内を通過するように構成されることが好適である。
これによれば、自着火運転時においては、燃焼室内に導入される空気の多くが冷却されないので、混合気の温度が低くなることを防止することができ、混合気を確実に自着火させることができる。
一方、火炎伝播運転時においては、燃焼室内に導入される空気の多くが冷却される。これにより、ノッキングが発生することを防止することができる。また、燃焼室内に導入される空気の質量を増加させることができるので、内燃機関の出力を増加させることができる。
この場合、上記自着火式内燃機関は、前記第2の吸気通路内を通過する空気のみを加熱する吸気加熱手段を備えることが好適である。
これによれば、自着火運転時においては、燃焼室内に導入される空気の多くが加熱されるので、混合気の温度を高めることができ、混合気をより一層確実に自着火させることができる。
また、上記自着火式内燃機関は、
前記燃焼室内に少なくとも空気及び燃料を含む混合気を形成し同混合気を前記多点火花発生手段が発生する火花により点火して火炎の伝播により燃焼させる火炎伝播方式による運転を行う火炎伝播運転実行手段と、
前記取得された内燃機関の運転状態が所定の第1運転状態であるときは前記自着火運転実行手段を使用するとともに、同取得された内燃機関の運転状態が同第1運転状態以外の所定の第2運転状態であるときは前記火炎伝播運転実行手段を使用する運転方式切替え手段と、
前記シリンダヘッドに形成され、前記燃焼室に空気を導入するための2つの吸気ポートと、
前記吸気ポートの一方に配置され、同吸気ポートの通路断面積を変更するように開度を調整可能な吸気ポート流量制御弁と、
前記吸気ポート流量制御弁の開度を制御する吸気ポート流量制御弁制御手段と、を備え、
前記吸気ポート流量制御弁制御手段は、前記自着火運転実行手段により前記内燃機関が運転されているときにおける前記吸気ポート流量制御弁の開度が前記火炎伝播運転実行手段により同内燃機関が運転されているときにおける同吸気ポート流量制御弁の開度より小さくなるように構成されることが好適である。
これによれば、自着火運転時においては、燃焼室内に形成されるスワール流が強められる(スワール流の速度が大きくなる、又は、スワール流を構成する空気の量が多くなる)。これにより、着火された一部の混合気と、残余の未燃の混合気と、が迅速に混合されるので、同未燃の混合気の温度を迅速に高めることができる。この結果、同未燃の混合気を迅速に自着火させることができる。
また、自着火運転時においてはスワール流が強められるから、燃焼室内に残留させられた燃焼ガスと、新たに燃焼室内に導入された空気と、により燃焼室内に混合気の温度が高い領域と同温度が低い領域とからなる同温度の空間的な分布(勾配)が形成される。これにより、自着火による燃焼を緩慢にすることができるので、燃焼に伴う過大な音(騒音)の発生を防止することができる。
一方、火炎伝播運転時においては、吸気ポート流量制御弁の開度が大きくなるので、燃焼室内に空気を導入する際の抵抗を減少させることができる。これにより、吸気(燃焼室内への空気の導入)に伴って生じる損失を減少させることができるので、燃費を向上させることができる。
一方、上記自着火式内燃機関は、
前記取得された内燃機関の運転状態に応じて圧縮上死点近傍の火花を発生させるためのタイミングである火炎伝播用火花発生タイミングを決定し、同決定された火炎伝播用火花発生タイミングにて前記多点火花発生手段に対する前記所定の指示信号を発生する火炎伝播用火花発生タイミング決定手段を備えるとともに、前記燃焼室内に少なくとも空気及び燃料を含む混合気を形成し同混合気を前記多点火花発生手段が発生する火花により点火して火炎の伝播により燃焼させる火炎伝播方式による運転を行う火炎伝播運転実行手段と、
前記取得された内燃機関の運転状態が所定の第1運転状態であるときは前記自着火運転実行手段を使用するとともに、同取得された内燃機関の運転状態が同第1運転状態以外の所定の第2運転状態であるときは前記火炎伝播運転実行手段を使用する運転方式切替え手段と、
前記内燃機関の運転方式が前記自着火運転実行手段による運転から前記火炎伝播運転実行手段による運転へ切り替えられたとき、前記取得された内燃機関の運転状態に応じた補正量を決定するとともに、同決定された補正量により前記火炎伝播用火花発生タイミング決定手段により決定された火炎伝播用火花発生タイミングを補正する切替え時火炎伝播用火花発生タイミング補正手段と、
前記内燃機関の運転方式が前記火炎伝播運転実行手段による運転から前記自着火運転実行手段による運転へ切り替えられたとき、前記取得された内燃機関の運転状態に応じた補正量を決定するとともに、同決定された補正量により前記自着火用火花発生タイミング決定手段により決定された自着火用火花発生タイミングを補正する切替え時自着火用火花発生タイミング補正手段と、
を備えることが好適である。
一般に、火炎伝播運転時において燃焼室内に形成される混合気の空燃比は、自着火運転時における混合気の空燃比より非常にリッチな空燃比である。従って、火炎伝播運転時における燃焼ガスの温度は、自着火運転時における燃焼ガスの温度より極めて高くなる。
一方、上述したように、自着火運転時においては、混合気の温度を高くすることにより混合気を確実に自着火させるため、混合気に多量の燃焼ガスが含められる。このため、火炎伝播運転から自着火運転へと運転方式を切り替えたとき、最初の自着火方式による燃焼に供される混合気は、自着火運転が定常的に行われている場合より高温の燃焼ガスを含むことになる。従って、自着火運転への切り替え直後の燃焼サイクルにおいては、混合気の温度が高くなるから、自着火タイミングが早くなり過ぎる場合がある。その結果、発生するトルクが運転状態に応じて決定されたトルクとならず、トルク変動が生じてしまう可能性がある。
他方、自着火運転が定常的に行われている場合、火炎伝播運転が定常的に行われている場合よりも、燃焼ガス温度が低下することに起因して燃焼室壁温が相対的に低下している。従って、自着火運転から火炎伝播運転へと運転方式を切り替えた直後の暫くの期間、圧縮端近傍における混合気の温度は、火炎伝播運転が定常的に行われている場合の圧縮端近傍における混合気の温度よりも低下する場合がある。その結果、火炎伝播運転が定常的に行われている状態に対して適合された火花発生タイミングは必ずしも最適な火花発生タイミングとはならないから、発生するトルクが運転状態に応じて決定されたトルクとならず、トルク変動が生じてしまう可能性がある。
更に、吸気弁及び排気弁の少なくとも一方を開閉するタイミング(バルブタイミング)、を機械式の可変バルブタイミング機構により変更している内燃機関においては、火炎伝播運転から自着火運転へ、及び、その逆へ、と運転方式を切り替えたとき、バルブタイミングの切り替えが遅れる。このため、運転方式切り替え直後の暫くの期間(即ち、バルブタイミングが切り替え後の運転方式に応じた適切なバルブタイミングになるまでの期間)、実圧縮比及び燃焼室内に残留する燃焼ガス量等が運転状態に応じた目標値と異なってしまう。その結果、運転方式切り替え直後の暫くの期間、自着火運転又は火炎伝播運転が定常的に行われている状態に対して適合された火花発生タイミングは必ずしも最適な火花発生タイミングとはならないから、発生するトルクが運転状態に応じて決定されたトルクとならず、トルク変動が生じてしまう可能性がある。
そこで、上記構成のように、自着火運転又は火炎伝播運転が定常的に行われている場合に対する運転方式切り替え直後における燃焼ガス温度の相違、燃焼室壁温の相違及びバルブタイミングのずれ等に応じて火花発生タイミングを制御する。これによれば、運転方式切り替え直後においても、火花発生タイミングを最適な火花発生タイミングに近づけることができる。その結果、運転方式切り替え時においても、運転状態に応じて決定されたトルクに近いトルクが発生し、トルク変動を低減することができる。
(第1実施形態)
以下、本発明による内燃機関の各実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、第1実施形態に係る内燃機関10の概略構成を示している。この内燃機関10は、4サイクル自着火方式により運転することが可能な多気筒(4気筒)内燃機関である。なお、図1は、特定気筒の断面のみを示しているが、他の気筒も同様な構成を備えている。
この内燃機関10は、シリンダブロック、シリンダブロックロワーケース及びオイルパン等を含むシリンダブロック部20と、シリンダブロック部20の上に固定されるシリンダヘッド部30と、シリンダブロック部20に空気を供給するための吸気系統40と、シリンダブロック部20からの排ガスを外部に放出するための排気系統50と、多点火花発生手段としての多点型点火装置60と、を含んでいる。
シリンダブロック部20は、中心軸を有する中空円筒状のシリンダ21、シリンダ21内に収容された略円柱状のピストン22、コンロッド23及びクランク軸24を含んでいる。ピストン22はシリンダ21内を往復動し、ピストン22の往復動がコンロッド23を介してクランク軸24に伝達され、これにより同クランク軸24が回転するようになっている。シリンダ21のボア壁面(シリンダボアの壁面)と、ピストン22の頂面(ピストンヘッド)と、シリンダヘッド部30の下面と、は燃焼室25を形成している。シリンダ21のボア壁面は、金属(本例では、鋳鉄)からなり、燃焼室25の壁面のうちの導体部分を構成している。シリンダ21のボア壁面の電位は、接地電位となっている。
シリンダヘッド部30は、図1及びシリンダヘッド部30の下面を燃焼室25側から見た図2に示したように、燃焼室25に連通した第1の吸気ポート31a、燃焼室25に連通した第2の吸気ポート31b、第1の吸気ポート31a及び第2の吸気ポート31bをそれぞれ開閉する2つの吸気弁32、2つの吸気弁32をそれぞれ駆動する吸気弁駆動手段としての電磁式の吸気弁駆動機構32a、燃焼室25に連通した第1の排気ポート33a、燃焼室25に連通した第2の排気ポート33b、第1の排気ポート33a及び第2の排気ポート33bをそれぞれ開閉する2つの排気弁34、2つの排気弁34をそれぞれ駆動する排気弁駆動手段としての電磁式の排気弁駆動機構34a、吸気ポート流量制御弁としてのスワール制御弁(SCV)35、吸気ポート流量制御弁制御手段としてのスワール制御弁アクチュエータ35a及び燃料噴射弁(インジェクタ)36を備えている。吸気弁駆動機構32a及び排気弁駆動機構34aは、駆動回路37に接続されている。
第1の吸気ポート31aは、周知のストレートポートである。第2の吸気ポート31bは、周知のスワールポート(本例では、ヘリカルポート)であって、同第2の吸気ポート31bを通過した空気がシリンダ21の中心軸を回転の中心軸として旋回する同空気の流れ(スワール流)を燃焼室25にて形成するようになっている。
スワール制御弁35は、第1の吸気ポート31aに回転可能に支持され、スワール制御弁アクチュエータ35aにより駆動されることにより第1の吸気ポート31aの開口断面積を可変とするようになっている。なお、本実施形態においては、スワール制御弁35は、すべての空気が第2の吸気ポート31bを通過するように全閉状態に制御されている。
燃料噴射弁36は、1つの噴孔を有している。燃料噴射弁36は、その噴孔が燃焼室25に露呈するとともに燃焼室25の略中央に向けて燃料が噴射されるように、シリンダ21の中心軸と同軸にシリンダヘッド部30に配設されている。燃料噴射弁36には、同燃料噴射弁36に高圧燃料を供給する蓄圧室36aが接続されている。蓄圧室36aには、燃料を同蓄圧室36aへ圧送する燃料ポンプ36bが接続されている。燃料ポンプ36bには、図示しない燃料タンク内の燃料が供給されるようになっている。
吸気系統40は、図1に示したように、第1の吸気ポート31a及び第2の吸気ポート31bに連通したインテークマニホールド41、インテークマニホールド41に連通したサージタンク42、サージタンク42に一端が接続された吸気ダクト43、吸気ダクト43の他端部から下流(サージタンク42)に向けて順に吸気ダクト43に配設されたエアフィルタ(AF)44、機械式過給機(SC)45、吸気通路流量制御手段としてのバイパス流量調整弁(BV)46、吸気冷却手段としてのインタークーラ(IC)47、スロットル弁48及びバイパス通路49を備えている。
機械式過給機45は、機械式過給機用クラッチ45aを備えている。機械式過給機用クラッチ45aは、指示信号に応答して、機械式過給機45を内燃機関10によって機械的に駆動する状態(作動状態、即ち、過給状態)と、機械式過給機45を内燃機関10によって駆動しない状態(非作動状態、即ち、非過給状態)と、に切り替えるようになっている。
インタークーラ47は水冷式であって、吸気ダクト43を通過する空気を冷却するようになっている。インタークーラ47は、インタークーラ47内の冷却水の熱を大気中に放出するラジエタ47aと、インタークーラ47とラジエタ47aとの間で冷却水を循環させる循環ポンプ47bと、に接続されている。
スロットル弁48は吸気ダクト43に回転可能に支持され、スロットル弁アクチュエータ48aにより駆動されることにより吸気ダクト43の開口断面積を可変とするようになっている。
バイパス通路49の一端はバイパス流量調整弁46と接続され、他端はインタークーラ47とスロットル弁48との間の位置にて吸気ダクト43に接続されている。バイパス流量調整弁46は、指示信号に応答して図示しないバルブ開度を変更することにより、インタークーラ47へ流入する空気量とインタークーラ47をバイパスする空気量(バイパス通路49へ流入する空気量)とを調整できるようになっている。本実施形態においては、バイパス流量調整弁46は、すべての空気がインタークーラ47をバイパスするように制御されている。
なお、インテークマニホールド41、サージタンク42及び吸気ダクト43により形成され、インタークーラ47を通る経路は、第1の吸気通路を構成している。更に、インテークマニホールド41、サージタンク42、吸気ダクト43及びバイパス通路49により形成され、インタークーラ47を通らない経路は、第2の吸気通路を構成している。
排気系統50は、第1の排気ポート33a及び第2の排気ポート33bに連通し同第1の排気ポート33a及び第2の排気ポート33bとともに排気通路を形成するエキゾーストマニホールドを含む排気管51及び排気管51に配設された三元触媒装置52を備えている。
多点型点火装置60は、図3及び図4に示したように、点火プレート部61と、2つの点火プラグ62と、点火コイル63と、電源回路64と、点火制御回路65と、を備える。なお、電源回路64と、点火制御回路65と、は、電圧発生手段を構成している。
点火プレート部61は、板状絶縁体61aと、板状絶縁体61aに保持された火花発生用導線61bと、を備える。
板状絶縁体61aは、セラミックスからなる絶縁体である。板状絶縁体61aは、平板形状を有する。板状絶縁体61aは、厚み方向に貫通した貫通穴であって、シリンダ21のボアと同径の円柱状の貫通穴を有する。板状絶縁体61aは、その貫通穴がシリンダ21と同軸となるようにシリンダブロック部20と、シリンダヘッド部30と、の間に配設されている。
板状絶縁体61aの貫通穴の側壁面は、板状絶縁体61aがシリンダブロック部20とシリンダヘッド部30との間に配設された状態において、燃焼室25に露呈する燃焼室露呈面を構成している。板状絶縁体61aの貫通穴の側壁面には、周方向にて等間隔に配置された複数(本例では、8つ)の凹部61a1が形成されている。
凹部61a1の開口部は、板状絶縁体61aの内周面の正面視において、板状絶縁体61aの中心軸と平行な短軸と、同内周面の周方向に伸びる長軸と、を有する楕円形状である(図3を参照。)。板状絶縁体61aの中心軸と直交する平面で同凹部61a1を切断した断面の形状は略半円形である(図4を参照。)。更に、板状絶縁体61aの外周部の2箇所には、点火プラグ62の先端部を含む同点火プラグ62の一部を収容するための凹部が形成されている。
火花発生用導線61bは、上記凹部61a1と同数の火花発生部61b1と、接続部61b2と、からなる。火花発生部61b1は、一対の突出部からなる。一対の突出部は、1つの凹部61a1内に収容されている。一対の突出部は、1つの凹部61a1を構成する面(凹部構成面)の所定位置を突出の基端として同所定位置から板状絶縁体61aの中心軸に向けてそれぞれ突出している。
一対の突出部の一方は、同一対の突出部の他方と空間を介して対向するように配置されている。これにより、火花発生部61b1は、板状絶縁体61aがシリンダブロック部20とシリンダヘッド部30との間に配設された状態において、燃焼室25にて火花発生用ギャップGPを形成している。
接続部61b2は、2つの点火プラグ62の間に上記複数の火花発生部61b1を直列に接続する導線である。接続部61b2は、板状絶縁体61aの内部に配設されている。
接続部61b2の一方の端部は、2つの点火プラグ62のうちの一方に接続され、接続部61b2の他方の端部は、2つの点火プラグ62のうちの他方に接続されている。
接続部61b2の両端部を除く部分は、複数の接続線に分割されている。各接続線は、板状絶縁体61aの貫通穴の側壁面の周方向にて互いに隣接する2つの火花発生部61b1のうちの一方の1つの突出部(点火プラグ62と接続されている突出部を除く。)と、同2つの火花発生部61b1のうちの他方の1つの突出部(点火プラグ62と接続されている突出部を除く。)と、を接続している。
点火プラグ62は、導線と、同導線を外部と絶縁する絶縁性筐体と、からなる。点火プラグ62の先端部は、板状絶縁体61aの外周部に形成された凹部にそれぞれ挿入されている。
点火コイル63は、図4に示したように、一次コイル63aと、一次コイル63aよりコイルの巻き数が多い二次コイル63bと、鉄芯63cと、NPN型のトランジスタ63dと、トランジスタ接地用導線63eと、二次コイル接地部としての二次コイル接地用導線63fと、からなる電気回路を備えている。
一次コイル63aの一端は、電源回路64に接続されている。電源回路64は、所定の大きさの電圧を定常的に発生するようになっている。一次コイル63aの他端は、トランジスタ63dのコレクタ電極に接続されている。トランジスタ63dのベース電極は、点火制御回路65に接続されている。トランジスタ63dのエミッタ電極は、トランジスタ接地用導線63eを介して接地されている。
点火制御回路65は、トランジスタ63dのベース電極に供給する電流を制御することにより、一次コイル63aに流れる電流を制御するようになっている。
二次コイル63bは、鉄芯63cを介した一次コイル63aとの間の相互誘導作用により火花発生用電圧を発生するようになっている。二次コイル63bの両端のそれぞれは、2つの点火プラグ62のそれぞれに接続されている。二次コイル63bは、二次コイル63bの一端からの同二次コイル63bの巻き数が同二次コイル63bの全体の巻き数の半分となる位置(コイル巻き数二分位置)の電位がシリンダ21のボア壁面(燃焼室25の壁面のうちの導体部分)と等しい電位となるように同コイル巻き数二分位置にて二次コイル接地用導線63fを介して接地(エンジンアース)されている。即ち、コイル巻き数二分位置と、シリンダ21のボア壁面と同電位の部分(例えば、シリンダブロック等)と、が電気的に接続されている。
このような構成により、多点型点火装置60は、所定の指示信号に応答して点火制御回路65からトランジスタ63dに供給される所定の大きさの制御用電流を一時的に遮断することにより、トランジスタ63dを導通状態から非導通状態へ変化させ、一次コイル63aに流れる一次コイル側電流を急激に変化させる。これにより、鉄芯63c内に形成される磁界が急激に変化する。その結果、鉄芯63cを介した一次コイル63aとの間の相互誘導作用により、二次コイル63bは電源回路64が発生していた電圧より大きな火花発生用電圧を発生する。多点型点火装置60は、この発生した火花発生用電圧に基づいて燃焼室25内の複数の位置(火花発生部61b1)にて火花を発生させる。
再び図1を参照すると、このシステムは、エアフローメータ(AFM)71、運転状態取得手段の一部を構成するクランクポジションセンサ72、筒内圧力検出手段としての筒内圧力センサ73、ノッキング検出手段としてのノックセンサ74、運転状態取得手段の一部を構成するアクセル開度センサ75及び電気制御装置80を備えている。エアフローメータ71は吸気ダクト43内を通流する空気の量を表す信号を出力するようになっている。クランクポジションセンサ72は、クランク軸24が1°回転する毎に幅狭のパルスを有するとともに同クランク軸24が360°回転する毎に幅広のパルスを有する信号を出力するようになっている。この信号は、エンジン回転速度NEを表す。筒内圧力センサ73は、燃焼室25内の圧力(筒内圧力)Pを表す信号を出力するようになっている。ノックセンサ74は、ノッキングの程度を表す指標値としてのシリンダブロック部20の振動Vcを表す信号を出力するようになっている。アクセル開度センサ75は、運転者によって操作されるアクセルペダル76の操作量(アクセルペダル操作量)Accpを表す信号を出力するようになっている。
電気制御装置80は、互いにバスで接続されたCPU81、CPU81が実行するプログラム、テーブル(ルックアップテーブル、マップ)、定数等を予め記憶したROM82、CPU81が必要に応じてデータを一時的に格納するRAM83、電源が投入された状態でデータを格納するとともに同格納されたデータを電源が遮断されている間も保持するバックアップRAM84及びADコンバータを含むインターフェース85等からなるマイクロコンピュータである。インターフェース85は、上記センサ71〜75と接続され、CPU81にセンサ71〜75からの信号を供給するとともに、同CPU81の指示に応じてスワール制御弁アクチュエータ35a、燃料噴射弁36、蓄圧室36a、燃料ポンプ36b、駆動回路37、機械式過給機用クラッチ45a、バイパス流量調整弁46、スロットル弁アクチュエータ48a及び点火制御回路65に指示信号を送出するようになっている。
(作動)
次に、上記のように構成された内燃機関10の作動の概要について説明する。この内燃機関10は、圧縮上死点における混合気の温度である圧縮端温度を混合気が自着火して燃焼を開始する混合気の温度(自着火温度)より低い温度に制御するとともに、燃焼室25内の複数の位置において圧縮上死点の直前のタイミングにて火花を発生させる。この内燃機関10は、発生した火花により燃焼室25内の混合気の温度を上記自着火温度より高めることによって同混合気を自着火させて燃焼させる自着火方式による運転を行う。
また、この内燃機関10は、実際の混合気の燃焼状態が所定の状態となるタイミング(実燃焼タイミング)を推定し、推定された実燃焼タイミングに基づいて内燃機関10の運転状態に応じて決定された火花を発生するタイミングを補正する。
(自着火運転用の制御量及び制御時期決定)
より具体的に述べると、CPU81は、図5にフローチャートにより示した吸気弁32及び排気弁34を制御するタイミングと、燃料噴射弁36を制御するタイミングと、燃料噴射弁36に噴射させる燃料の量と、を決定するための自着火運転用の制御量及び制御時期決定ルーチンを、第n気筒(nは、1、2、3及び4)のクランク角が第n気筒の圧縮上死点に一致する毎に第n気筒専用に実行するようになっている。
従って、第n気筒のクランク角が第n気筒の圧縮上死点に一致すると、CPU81は、ステップ500から処理を開始してステップ510に進み、現時点のアクセルペダル操作量Accp及び現時点のエンジン回転速度NEと、アクセルペダル操作量Accp及びエンジン回転速度NEと自着火運転用の排気弁開弁タイミングEOとの関係を規定するテーブルMapEOslfと、に基づいて自着火運転用の排気弁開弁タイミングEO(=MapEOslf(Accp,NE))を決定する。ここで、テーブルMapEOslfは、求められる自着火運転用の排気弁開弁タイミングEOが膨張下死点より前(進角側)の所定のタイミングとなるように予め設定されている。なお、アクセルペダル操作量Accp及びエンジン回転速度NEは内燃機関10の運転状態を表す。
また、以下の説明において、MapXx(a,b)と表記されるテーブルは、変数a及び変数bと値Xとの関係を規定するテーブルを意味することとする。添え字xは、必要に応じてテーブルを特定するために使用される。また、値XをテーブルMapXx(a,b)に基づいて求めるとは、値Xを現時点の変数a及び現時点の変数bと、テーブルMapXx(a,b)と、に基づいて求める(決定する)ことを意味することとする。
次に、CPU81は、ステップ520に進んで自着火運転用の排気弁閉弁タイミングECをテーブルMapECslf(Accp,NE)に基づいて求める。ここで、テーブルMapECslfは、求められる自着火運転用の排気弁閉弁タイミングECが排気上死点より前の所定のタイミングとなるように予め設定されている。
そして、CPU81は、ステップ530に進んで自着火運転用の吸気弁開弁タイミングIOをテーブルMapIOslf(Accp,NE)に基づいて求める。ここで、テーブルMapIOslfは、任意の運転状態のときに、同テーブルMapIOslfに基づいて求められる自着火運転用の吸気弁開弁タイミングIOがテーブルMapECslfに基づいて求められる自着火運転用の排気弁閉弁タイミングECより後(遅角側)の所定のタイミングとなるように予め設定されている。
続いて、CPU81は、ステップ540に進んで自着火運転用の吸気弁閉弁タイミングICをテーブルMapICslf(Accp,NE)に基づいて求める。ここで、テーブルMapICslfは、求められる自着火運転用の吸気弁閉弁タイミングICが吸気下死点の直後の所定のタイミングとなるように予め設定されている。
後述するように、排気弁閉弁タイミングECにて排気(排気行程)が終了し、吸気弁開弁タイミングIOにて吸気(吸気行程)が開始する。従って、排気行程から吸気行程に移行する際に吸気弁及び排気弁の両方が閉弁されている期間である負のオーバーラップ期間は、排気弁閉弁タイミングEC及び吸気弁開弁タイミングIOによって決定される。ところで、負のオーバーラップ期間の開始時期又は終了時期が変更されると、前回の燃焼サイクルにおいて混合気が燃焼することにより生成された燃焼ガスが燃焼室25内に残留する量が変化するので、次回の燃焼サイクルにおける燃焼に供される混合気の温度が変化する。
また、後述するように、吸気弁閉弁タイミングICにて燃焼室25内の混合気の圧縮が開始する。従って、圧縮上死点における燃焼室25の容積に対する圧縮開始時における燃焼室25の容積の比である実圧縮比は、吸気弁閉弁タイミングICによって決定される。ところで、実圧縮比が変更されると、圧縮上死点における混合気の温度(圧縮端温度)は変化する。
そこで、テーブルMapECslf、テーブルMapIOslf及びテーブルMapICslfは、負のオーバーラップ期間及び実圧縮比の変化による圧縮端温度の変化も考慮に入れて、任意の運転状態のときに、火花が発生させられない場合の圧縮端温度を混合気が自着火して燃焼を開始する温度(自着火温度)より低い所定の温度(700K〜900K、本例では、800K)とするように、設定されている。なお、ステップ520、ステップ530及びステップ540の処理が実行されることは、混合気温度制御手段の機能の一部が達成されることに対応している。
その後、CPU81は、ステップ550に進んで自着火運転用の噴射燃料量τをテーブルMapτslf(Accp,NE)に基づいて求める。ここで、テーブルMapτslfは、求められる自着火運転用の噴射燃料量τの燃料が燃焼室25内に噴射されることにより発生した火花によって混合気が着火される空燃比のうちの最もリーン側の空燃比(着火可能リーン空燃比)を有する混合気が同燃焼室25にて形成されるように予め設定されている。ここで、着火可能リーン空燃比を有する混合気は、空気の量と、燃焼ガスの量と、の和の燃料の量に対する比が30以上であることが好適である。
次に、CPU81は、ステップ560に進んで自着火運転用の燃料噴射開始タイミングθiをテーブルMapθislf(Accp,NE)に基づいて求める。ここで、テーブルMapθislfは、任意の運転状態のときに、同テーブルMapθislfに基づいて求められる自着火運転用の燃料噴射開始タイミングθiが上記テーブルMapIOslfに基づいて求められる自着火運転用の吸気弁開弁タイミングIOの直後の所定のタイミングとなるように予め設定されている。従って、求められる自着火運転用の燃料噴射開始タイミングθiは、吸気行程の初期のタイミングとなる。
そして、CPU81はステップ599に進んで本ルーチンを一旦終了する。以上により、第n気筒の吸気弁32、排気弁34及び燃料噴射弁36を制御するタイミング並びに第n気筒の燃焼室25内に噴射される燃料の量が決定される。
(自着火運転用の火花発生時期決定)
更に、CPU81は、図6にフローチャートにより示した火花発生タイミングを決定するための自着火運転用の火花発生時期決定ルーチンを、第n気筒のクランク角が第n気筒の圧縮上死点より45°だけ前(進角側)のクランク角(BTDC45°)に一致する毎に第n気筒専用に実行するようになっている。
従って、第n気筒のクランク角が第n気筒のBTDC45°に一致すると、CPU81は、ステップ600から処理を開始してステップ610に進み、自着火運転用の火花発生タイミング(自着火用火花発生タイミング)SをテーブルMapSslf(Accp,NE)に基づいて求める。ここで、テーブルMapSslfは、求められる自着火運転用の火花発生タイミングSが圧縮上死点の直前の所定のタイミング(本例では、BTDC10°前後であって遅くともBTDC5°)となるように予め設定されている。なお、ステップ610の処理が実行されることは、自着火用火花発生タイミング決定手段の機能の一部が達成されることに対応している。
次に、CPU81は、ステップ620に進んで混合気の燃焼状態が所定の状態となるタイミングの基準値である基準燃焼タイミングBrefをテーブルMapBref(Accp,NE)に基づいて求める。ここで、所定の状態は、燃焼により発生する熱量(熱発生量)Qの変化率(熱発生率)dQ/dθが1つの燃焼サイクルにおいて最大となった状態である(θはクランク角)。テーブルMapBrefは、消費される燃料量が最も小さくなるとき又は内燃機関10の熱効率が最も高くなるときの熱発生率dQ/dθとクランク角との関係を実験により求め、その求めた結果に基づいて予め設定されている。なお、ステップ620の処理が実行されることは、基準燃焼タイミング決定手段の機能が達成されることに対応している。
そして、CPU81は、ステップ630に進んで後述する熱発生率算出ルーチンにおいてクランク角と関連付けてRAM83に記憶された1つの燃焼サイクル分の熱発生率dQ/dθのうちの最大となる熱発生率dQ/dθに対応するクランク角を実燃焼タイミングBactとして推定する。ここで、実燃焼タイミングは、実際の混合気の燃焼状態が上記所定の状態となるタイミングである。なお、ステップ630の処理が実行されることは、実燃焼タイミング推定手段の機能の一部が達成されることに対応している。
続いて、CPU81は、ステップ640に進んで上記ステップ620にて求められた基準燃焼タイミングBrefから上記ステップ630にて推定された実燃焼タイミングBactを減じた値に補正係数kを乗じることにより補正量を算出し、算出された補正量を上記ステップ610にて求められた自着火運転用の火花発生タイミングSに加えた値により同自着火運転用の火花発生タイミングSを更新(補正)する。ここで、補正係数kは、正の値である。なお、ステップ640の処理が実行されることは、燃焼時期変動抑制用火花発生タイミング補正手段の機能が達成されることに対応している。また、燃焼時期変動抑制用火花発生タイミング補正手段は、火花発生タイミングSの補正量を所定の関数f(Bref,Bact)により求めるように構成されていてもよい。
そして、CPU81はステップ699に進んで本ルーチンを一旦終了する。
(熱発生率算出)
一方、CPU81は、熱発生率を算出するための図示しない熱発生率算出ルーチンを、クランク角が所定の微小なクランク角だけ変化する毎に第n気筒専用に実行するようになっている。なお、熱発生率算出ルーチンが実行されることは、実燃焼タイミング推定手段の機能の一部が達成されることに対応している。
熱発生率dQ/dθは、燃焼室25の容積Vと、燃焼室25内の圧力(筒内圧力)Pと、下記(1)式と、に基づいて求めることができる。
dQ/dθ={1/(κ−1)}・{V・(dP/dθ)+κ・P・(dV/dθ)}…(1)
ここで、熱量Qの単位はジュールであり、κは比熱比である。
従って、所定のタイミングになると、CPU81は、上記(1)式と、現時点の燃焼室25の容積Vと、筒内圧力センサ73により検出された現時点の筒内圧力Pと、に基づいて熱発生率dQ/dθを算出する。
更に、CPU81は、算出された熱発生率dQ/dθをクランク角と関連付けて1つの燃焼サイクル分だけRAM83に記憶させる。
(駆動制御)
また、CPU81は、図7にフローチャートにより示した内燃機関10を駆動制御するための駆動制御ルーチンを、クランク角が所定の微小なクランク角だけ変化する毎に第n気筒専用に実行するようになっている。
従って、所定のタイミングになると、CPU81はステップ700から本ルーチンの処理を開始してステップ705に進み、第n気筒の現時点のクランク角が前述した図5のステップ510にて決定された第n気筒の排気弁開弁タイミングEOと一致しているか否かを判定する。そして、第n気筒の現時点のクランク角が第n気筒の排気弁開弁タイミングEOと一致していると、CPU81はステップ705にて「Yes」と判定してステップ710に進み、排気弁駆動機構34aに指示信号を送出して第n気筒の排気弁34を開弁させる(図8の(1)を参照。)。これにより、前回の燃焼サイクルにおける燃焼により生成された燃焼ガスが燃焼室25から排出され始める(排気(排気行程)が開始する)。
以降、CPU81はステップ715からステップ760までの処理に従って、排気弁34を開弁させる場合と同様に各種の指示信号を適当なタイミングにて発生し、以下に記述する各種の動作を行わせる。
ステップ715及びステップ720…第n気筒の現時点のクランク角が図5のステップ520にて決定された第n気筒の排気弁閉弁タイミングECと一致したとき、排気弁駆動機構34aに指示信号を送出して第n気筒の排気弁34を閉弁させる(図8の(2)を参照。)。これにより、排気(排気行程)が終了する。
ステップ725及びステップ730…第n気筒の現時点のクランク角が図5のステップ530にて決定された第n気筒の吸気弁開弁タイミングIOと一致したとき、吸気弁駆動機構32aに指示信号を送出して第n気筒の吸気弁32を開弁させる(図8の(3)を参照。)。これにより、燃焼室25内へ空気が導入され始める(吸気(吸気行程)が開始する)。
このとき、すべての空気がインタークーラ47をバイパスするようにバイパス流量調整弁46が制御されているので、空気は冷却されることなく燃焼室25内へ導入される。更に、すべての空気が第2の吸気ポート31bを通過するようにスワール制御弁35が全閉状態に制御されているので、燃焼室25内に導入された空気により、シリンダ21の中心軸を回転の中心軸として旋回する空気の流れ(スワール流)が形成される。
また、負のオーバーラップ期間が設けられているので、燃焼室25内に比較的多量の燃焼ガスが残留する。なお、ステップ715〜ステップ730の処理が実行されることは、混合気温度制御手段の機能の一部が達成されることに対応している。
ステップ735及びステップ740…第n気筒の現時点のクランク角が図5のステップ560にて決定された第n気筒の燃料噴射開始タイミングθiと一致したとき、第n気筒の燃料噴射弁36を図5のステップ550にて決定された噴射燃料量τに応じた時間だけ開弁させ、噴射燃料量τの燃料を燃焼室25内に噴射させる(図8の(4)を参照。)。噴射された燃料は、燃焼室25内に続いて吸入される空気の流れにより同燃焼室25にて拡散する。
ステップ745及びステップ750…第n気筒の現時点のクランク角が図5のステップ540にて決定された第n気筒の吸気弁閉弁タイミングICと一致したとき、吸気弁駆動機構32aに指示信号を送出して第n気筒の吸気弁32を閉弁させる(図8の(5)を参照。)。これにより、吸気(吸気行程)が終了するとともに空気と燃料と燃焼ガスとからなる混合気の圧縮が開始する。なお、ステップ745及びステップ750の処理が実行されることは、混合気温度制御手段の機能の一部が達成されることに対応している。
ステップ755及びステップ760…第n気筒の現時点のクランク角が図6のステップ640にて決定された第n気筒の火花発生タイミングSと一致したとき、点火制御回路65に指示信号を送出して第n気筒の燃焼室25内の複数の位置にて火花を発生させる。これにより、混合気が燃焼室25内の複数の位置(火花発生用ギャップGP)にて着火され、着火された一部の混合気が燃焼することにより、高温且つ高圧の燃焼ガスが燃焼室25内の複数の位置にて生成される。この燃焼ガスにより、残余の未燃の混合気の温度が上記自着火温度まで高められるので、同未燃の混合気は自着火して燃焼する。その結果、燃焼室25内のすべての混合気は燃焼する。なお、ステップ755及びステップ760の処理が実行されることは、自着火用火花発生タイミング決定手段の機能の一部が達成されることに対応している。
その後、CPUはステップ799に進んで本ルーチンを一旦終了する。
このようにして、内燃機関10は自着火方式により運転される。なお、上述したように、自着火方式による運転を行うためにCPU81が各種のルーチンを実行することは、自着火運転実行手段の機能が達成されることに対応している。
以上説明したように、本発明による自着火式内燃機関の第1実施形態によれば、火花が発生させられない場合の圧縮端温度が自着火温度より低い温度に制御される。更に、取得された内燃機関の運転状態に応じた圧縮上死点近傍の自着火用火花発生タイミングにて火花が燃焼室25内の複数の位置にて発生させられる。これにより、燃焼室25内の1つの位置にて火花を発生させる場合と比較して、混合気を確実に着火させることができる。
更に、混合気が複数の位置にて着火され、着火された一部の混合気が燃焼することにより、高温且つ高圧の燃焼ガスが燃焼室25内の複数の位置にて生成される。従って、複数の位置にて燃焼ガスから残余の未燃の混合気へ熱エネルギーが伝達されるので、1つの位置にて火花を発生させる場合と比較して、未燃の混合気の温度を上記自着火温度まで迅速に上昇させることができる。この結果、火炎の伝播により混合気が燃焼する期間を短くすることができるので、生成されるNOxの量を減少させることができる。
また、上記第1実施形態においては、圧縮端温度が700Kから900Kまでの温度である800Kに制御されるので、火花を発生させるまでの間に(過早に)混合気が自着火することを防止することができるとともに、火花を発生させることにより混合気の温度を自着火温度(1000K以上の温度)まで迅速に上昇させることができる。
更に、上記第1実施形態においては、燃料の濃度が極めて低い超希薄混合気が形成され、形成された超希薄混合気が燃焼されるので、燃焼により生成されるNOxの量を低減することができる。
加えて、上記第1実施形態においては、火花発生位置(火花発生部61b1の位置、即ち、火花発生用ギャップGPの位置)がそれぞれ隣り合う他の火花発生位置と略等しい間隔を有するように配置されるので、混合気の温度を空間的に略一様に上昇させることができる。これにより、火花が発生してから短い期間のうちにすべての未燃の混合気を自着火させることができるので、燃焼により生成されるNOxの量を低減することができる。
また、上記第1実施形態においては、1つの電圧発生手段により発生した電圧を火花発生用導線61bに印加することにより、燃焼室25内の複数の位置にて同時に火花を発生させることができる。
更に、上記第1実施形態においては、火花発生部61b1が凹部61a1に収容されているので、燃焼室25内に形成されるガスの流れ(スワール流やタンブル流等)により、火花発生部61b1の近傍において発生したイオンや電子等が火花発生部61b1の近傍から流出することが防止されるとともに、火花発生部61b1や火花発生部61b1の近傍における混合気の熱が奪われることが防止される。
これにより、火花発生部61b1に電圧が印加されると、火花発生部61b1の近傍においてイオンや電子等が増加するとともに、火花発生部61b1の温度や火花発生部61b1の近傍における混合気の温度が上昇するので、確実に火花を発生させることができる。更に、電圧が印加されている期間において火花が消滅させられる(放電が維持されなくなる)ことを防止することができる。この結果、混合気を火花によってより一層確実に着火させることができる。
加えて、上記第1実施形態においては、多点型点火装置60が備える板状絶縁体61aが簡素な板状形状を有する部材であるので、同板状絶縁体61aを容易に製造及び配設することができる。
また、上記第1実施形態においては、基準燃焼タイミングと、実燃焼タイミングと、に基づいて運転状態に応じて決定された自着火用火花発生タイミングが補正される。これにより、前回の燃焼サイクルにおける実燃焼タイミングが、運転状態に応じた基準燃焼タイミングと異なっていても、今回の燃焼サイクルにおける実燃焼タイミングが基準燃焼タイミングに近づくように今回の燃焼サイクルにおける自着火用火花発生タイミングが補正される。この結果、今回の燃焼サイクルにおける実燃焼タイミングを運転状態に応じた基準燃焼タイミングに近しいタイミングとすることができるので、良好な燃費にて内燃機関10を運転することができる。
(第1実施形態の変形例)
次に、本発明の第1実施形態に係る自着火式内燃機関の変形例について説明する。この変形例に係る内燃機関は、火花発生部のそれぞれに向けて燃料を噴射する燃料噴射弁を備える点のみにおいて上記第1実施形態に係る内燃機関10と相違している。以下、かかる相違点を中心として説明する。
この内燃機関10は、図9に示したように、上記第1実施形態に係る内燃機関10が備える燃料噴射弁36に代わる燃料噴射弁91を備えている。燃料噴射弁91は、火花発生部61b1(凹部61a1)の数と同数(本例では、8つ)の噴孔を有している。燃料噴射弁91は、その噴孔が燃焼室25に露呈するとともに各火花発生部61b1に向けて燃料が噴射されるように、シリンダ21の中心軸と同軸にシリンダヘッド部30に配設されている。
このような構成により、燃料噴射弁91により燃料が噴射されると、シリンダヘッド部30の下面を燃焼室25側から見た図10に示したように、噴射された燃料は各火花発生部61b1の近傍の領域に到達する。これにより、各火花発生部61b1の近傍に燃料の濃度が高い領域を形成することができる。この結果、例えば、噴射される燃料の量が少ないために混合気が着火されにくい運転領域(低負荷領域等)においても、火花発生部61b1が発生する火花により混合気を確実に着火させることができる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る自着火式内燃機関について説明する。第2実施形態に係る自着火式内燃機関は、ピストンの頂面に火花発生部が配置されている点において上記第1実施形態に係る内燃機関10と相違している。以下、かかる相違点を中心として説明する。
図11に示したように、この内燃機関10Aは、上記第1実施形態に係る内燃機関10が備えるピストン22をピストン基体部101及びピストン頂部絶縁体102に置換したピストンと、同内燃機関10の多点型点火装置60に代わる多点型点火装置110と、を備える。なお、ピストン頂部絶縁体102と、多点型点火装置110と、は多点火花発生手段を構成している。
ピストン基体部101は、金属(本例では、アルミ合金)からなる。ピストン基体部101は、上記第1実施形態に係るピストン22と同様に略円柱状である。ピストン基体部101は、上記第1実施形態に係るピストン22と同様にシリンダ21内に収容されている。ピストン基体部101の頂面には、上面が下面より大きい逆円錐台状の凹部101aが形成されている。ピストン基体部101は、図示を省略したピストンリングを介して、シリンダ21のボア壁面と電気的に接続されている。即ち、ピストン基体部101の電位は、接地電位となっている。
ピストン頂部絶縁体102は、セラミックスからなる絶縁体である。ピストン頂部絶縁体102の形状は、凹部101aと略同一の逆円錐台状である。ピストン頂部絶縁体102は、凹部101aと同軸に同凹部101aに収容され且つ固定されている。
ピストン頂部絶縁体102の燃焼室25側の面(上面)は、同ピストン頂部絶縁体102が凹部101aに収容・固定された状態において、燃焼室25に露呈する燃焼室露呈面を構成している。換言すると、燃焼室露呈面は、ピストン基体部101の燃焼室25側の面のうちの凹部101aの外周部の面とともに、ピストンの頂面を構成している。
ピストン頂部絶縁体102の燃焼室露呈面は、有底のキャビティ102aをピストンの頂面の中央部に形成している。
更に、多点型点火装置110は、図11及び同図11の2−2線に沿った平面にてピストン基体部101及びピストン頂部絶縁体102を切断した断面図である図12に示したように、第1の火花発生用導線111と、第2の火花発生用導線112と、第1の点火プラグ113と、第2の点火プラグ114と、第1の点火コイル115と、第2の点火コイル116と、電源回路117と、点火制御回路118と、を備える。なお、電源回路117と、点火制御回路118と、は電圧発生手段を構成している。点火制御回路118は、電気制御回路80に接続されている。
第1の火花発生用導線111は、複数(本例では、8つ)の火花発生部111aと、接続部111bと、からなる。
各火花発生部111aは、燃焼室露呈面のうちのキャビティ102aの内部の面(キャビティ102aを構成する面であるキャビティ構成面)内において、シリンダ21の中心軸に対して周方向にて等間隔に配置されている。火花発生部111aは、一対の突出部からなる。
一対の突出部は、上記キャビティ構成面内の所定位置を突出の基端として同所定位置からシリンダ21の中心軸に向けてそれぞれ突出している。一対の突出部の一方は、同一対の突出部の他方と空間を介して対向するように配置されている。これにより、火花発生部111aは、キャビティ102aの内部にて火花発生用ギャップGPを形成している。
接続部111bは、第1の点火プラグ113と、接地部ETと、の間に上記複数の火花発生部111aを直列に接続する導線である。接地部ETは、図示しない導線を介してピストン基体部101と電気的に接続されている。
接続部111bの一方の端部は、点火プラグ側接続用導体111b1と、絶縁体側接続用導体111b2と、を含んでいる。
点火プラグ側接続用導体111b1は、一端が第1の点火プラグ113の導線に接続されるとともに他端が燃焼室25に臨むように配置されている。なお、第1の点火プラグ113の導線と、点火プラグ側接続用導体111b1と、は第1の接続用導体を構成している。
絶縁体側接続用導体111b2は、一端が燃焼室25に臨み且つピストン22の位置が圧縮上死点位置近傍の所定の位置にあるとき(本例では、クランク角が上死点の前後20°以内にある期間)、点火プラグ側接続用導体111b1の他端と空間を介して近接するようにピストン頂部絶縁体102に配設されている。絶縁体側接続用導体111b2の他端は、火花発生部111aの1つの突出部に接続されている。なお、絶縁体側接続用導体111b2は、第2の接続用導体を構成している。
接続部111bの他方の端部は、火花発生部111aの1つの突出部と、接地部ETと、に接続されている。
接続部111bの上記一方の端部を除く部分は、ピストン頂部絶縁体102の内部に配設されている。接続部111bの両端部を除く部分は、複数の接続線に分割されている。各接続線は、キャビティ構成面内においてシリンダ21の中心軸に対して周方向にて互いに隣接する2つの火花発生部111aのうちの一方の1つの突出部(絶縁体側接続用導体111b2又は接地部ETと接続されている突出部を除く。)と、同2つの火花発生部111aのうちの他方の1つの突出部(絶縁体側接続用導体111b2又は接地部ETと接続されている突出部を除く。)と、を接続している。
第2の火花発生用導線112は、第1の火花発生用導線111と同様に、複数(本例では、8つ)の火花発生部112aと、接続部112bと、からなる。
各火花発生部112aは、燃焼室露呈面のうちのキャビティ102aの外部の面(キャビティ外周面)内において、シリンダ21の中心軸に対して周方向にて等間隔に配置されている。火花発生部112aは、一対の突出部からなる。
一対の突出部は、上記キャビティ外周面内の所定位置を突出の基端として同所定位置からシリンダヘッド部30に向けてそれぞれ突出している。一対の突出部の一方は、同一対の突出部の他方と空間を介して対向するように配置されている。これにより、火花発生部112aは、キャビティ102aの外部にて火花発生用ギャップGPを形成している。
接続部112bは、第1の火花発生用導線111の接続部111bと同様に、第2の点火プラグ114の導線と、接地部ETと、の間に上記複数の火花発生部112aを直列に接続する導線である。接続部112bの一方の端部は、第1の火花発生用導線111の接続部111bと同様に、点火プラグ側接続用導体112b1と、絶縁体側接続用導体112b2と、を含んでいる。
第1の点火プラグ113及び第2の点火プラグ114は、導線と、同導線を外部と絶縁する絶縁性筐体と、からなる。第1の点火プラグ113及び第2の点火プラグ114は、シリンダヘッド部30に配設されている。
第1の点火コイル115は、図12に示したように、一次コイル115aと、一次コイル115aよりコイルの巻き数が多い二次コイル115bと、鉄芯115cと、NPN型のトランジスタ115dと、トランジスタ接地用導線115eと、二次コイル接地部としての二次コイル接地用導線115fと、からなる電気回路を備えている。
二次コイル115bの一端は、第1の点火プラグ113に接続されている。二次コイル115bの他端は、二次コイル接地用導線115fを介して接地(エンジンアース)されている。即ち、二次コイル115bの他端と、シリンダ21のボア壁面と同電位の部分(例えば、ピストン基体部101及びシリンダブロック等)と、が電気的に接続されている。
第2の点火コイル116は、第1の点火コイル115と同様の構成を備えている。但し、二次コイル116bの一端は、第2の点火プラグ114に接続され、その他端は、二次コイル接地用導線116fを介して接地されている。
電源回路117は、上記第1実施形態に係る電源回路64と同様に、所定の大きさの電圧を定常的に発生するようになっている。電源回路117は、発生した電圧を第1の点火コイル115及び第2の点火コイル116のそれぞれに対して独立に印加するようになっている。
点火制御回路118は、電気制御装置80から供給される所定の指示信号に応答して第1の点火コイル115(一次コイル115a)及び第2の点火コイル116(一次コイル116a)のそれぞれに流れる電流を互いに独立に制御するようになっている。
このような構成により、多点型点火装置110は、電気制御回路80から点火制御回路118に供給される所定の指示信号に応答して、点火制御回路118に接続された第1の点火コイル115に含まれる二次コイル115b及び第2の点火コイル116に含まれる二次コイル116bに火花発生用電圧を発生させる。多点型点火装置110は、二次コイル115b及び二次コイル116bのそれぞれが発生した火花発生用電圧を第1の火花発生用導線111及び第2の火花発生用導線112のそれぞれに対して独立に印加する。これにより、多点型点火装置110は、第1の火花発生用導線111の複数の火花発生部111a(キャビティ102aの内部の位置)と、第2の火花発生用導線112の複数の火花発生部112a(キャビティ102aの外部の位置)と、にて互いに独立に火花を発生させる。
以上説明したように、本発明による自着火式内燃機関の第2実施形態によれば、複数の火花発生部111a及び複数の火花発生部112aがピストン22の頂面(シリンダ21の中心軸に略垂直な面)内にて空間的に一様に配置される。これにより、未燃の混合気の温度を空間的に略一様に上昇させることができる。この結果、すべての未燃の混合気をより一層迅速に自着火させることができる。
また、上記第2実施形態においては、シリンダヘッド部30に配設された第1の点火プラグ113に接続された点火プラグ側接続用導体111b1(又は、点火プラグ側接続用導体112b1)と、ピストンの頂面に配置された絶縁体側接続用導体111b2(又は、絶縁体側接続用導体112b2)と、が空間を介して電気的に接続される(絶縁破壊・放電を起こす)。従って、第1の火花発生用導線111(又は、第2の火花発生用導線112)と、第1の点火プラグ113(又は、第2の点火プラグ114)と、が配線(導線)により直接接続されていなくとも、二次コイル115b(又は、二次コイル116b)により発生させられた火花発生用電圧は、第1の火花発生用導線111の火花発生部111a(又は、第2の火花発生用導線112の火花発生部112a)に印加されるから、火花発生部111a(又は、火花発生部112a)にて火花を発生させることができる。この結果、断線により故障する可能性が小さい自着火式内燃機関を提供することができる。
更に、上記第2実施形態においては、キャビティ102aの内部の混合気が同キャビティ102aの内部の燃焼室露呈面に配置された火花発生部111aにより着火される。これにより、キャビティ102aの内部の複数の火花発生部111aから燃焼室25の中央部に向けて火炎が伝播するので、同中央部における未燃の混合気の温度を迅速に高めることができる。この結果、未燃の混合気の温度を上記自着火温度まで迅速に上昇させることができる。
加えて、上記第2実施形態においては、燃焼室25においてキャビティ102aの内部の燃料の濃度がキャビティ102aの外部の燃料の濃度より高い混合気(成層混合気)を形成した際、キャビティ102aの内部のみにて火花を発生させることにより、成層混合気を着火させることができる。これにより、すべての火花発生部(火花発生部111a及び火花発生部112a)にて火花を発生させる場合と比較して、火花を発生させることにより消費されるエネルギーを減らすことができるので、良好な燃費にて内燃機関10Aを運転することができる。
一方、燃焼室25においてキャビティ102aの内部及びキャビティ102aの外部の燃料の濃度が互いに略同一の混合気(均質混合気)を形成した際、キャビティ102aの内部(火花発生部111a)及びキャビティ102aの外部(火花発生部112a)の両方にて火花を発生させることにより、混合気の温度を空間的に略一様に上昇させることができる。この結果、すべての未燃の混合気をより一層迅速に自着火させることができる。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係る自着火式内燃機関について説明する。第3実施形態に係る自着火式内燃機関は、自着火方式による運転と混合気を火炎の伝播により燃焼させる火炎伝播方式による運転とを運転状態に応じて切り替えて運転を行う点において上記第1実施形態に係る内燃機関10と相違している。以下、かかる相違点を中心として説明する。
先ず、この内燃機関10Bの作動の概要について説明する。この内燃機関10Bは、予め定められた運転領域マップに従って自着火方式と火炎伝播方式との間で運転方式を切り替えて運転を行う。
この内燃機関10Bは、自着火方式により運転されるとき、上記第1実施形態と同様に、以下のように運転を行う。(1)すべての空気がインタークーラ47をバイパスするようにバイパス流量調整弁46を制御する。(2)燃焼室25にてスワール流が強められる(スワール流の速度が大きくなる、又は、スワール流を構成する空気の量が多くなる)ようにスワール制御弁35を全閉状態に制御する。(3)発生した火花によって混合気が着火される空燃比のうちの最もリーン側の空燃比を有する混合気が燃焼室25内に形成されるように噴射燃料量を決定する。
(4)負のオーバーラップ期間を設けることにより燃焼ガスを燃焼室25内に残留させる。但し、この内燃機関10Bは、上記第1実施形態と異なり、負のオーバーラップ期間内に運転状態に応じて定められる噴射燃料量のうちの一部の量の燃料を噴射するとともに、吸気行程の初期に残余の量の燃料を噴射する。
一方、この内燃機関10Bは、火炎伝播方式により運転されるとき、以下のように運転を行う。(1)すべての空気がインタークーラ47に流入するようにバイパス流量調整弁46を制御する。(2)燃焼室25内に形成されるスワール流が自着火運転時より弱められる(スワール流の速度が小さくなる、又は、スワール流を構成する空気の量が少なくなる)ようにスワール制御弁35を全開状態に制御する。(3)吸気行程の初期に運転状態に応じて定められる噴射燃料量のすべての量の燃料を噴射する。
更に、火炎伝播方式により運転される運転領域(火炎伝播運転領域)のうちの低負荷側の運転領域においては、この内燃機関10Bは、自着火運転時と同様に負のオーバーラップ期間を設けるとともに、燃焼に供される混合気の空燃比が理論空燃比となるように噴射燃料量を決定する。一方、上記火炎伝播運転領域のうちの高負荷側の運転領域においては、この内燃機関10Bは、正のオーバーラップ期間を設けるとともに、燃焼に供される混合気の空燃比が理論空燃比よりリッチ側の空燃比であって内燃機関10Bの出力を最大とする空燃比(出力空燃比)となるように噴射燃料量を決定する。
(運転方式切替え制御)
より具体的に述べると、CPU81は、図13にフローチャートにより示した運転方式を切り替えるための運転方式切替え制御ルーチンを、クランク角が所定の微小なクランク角だけ変化する毎に実行するようになっている。なお、運転方式切替え制御ルーチンが実行されることは、運転方式切替え手段の機能が達成されることに対応している。
従って、所定のタイミングになると、CPU81は、ステップ1300から処理を開始してステップ1305に進み、現時点の負荷(本例では、アクセルペダル操作量Accp)及び現時点のエンジン回転速度NE(これらは内燃機関10Bの運転状態を表す。)と、図14に示した運転領域マップと、に基づいて内燃機関10Bの運転状態が自着火運転領域Aにあるか否かを判定する。
図14に示したように、運転領域マップは、内燃機関10Bの負荷及びエンジン回転速度NEと、運転方式と、の関係を規定するマップである。
この運転領域マップにおいては、運転方式として自着火方式と、低負荷側火炎伝播方式と、高負荷側火炎伝播方式と、が指定されている。この運転領域マップにおいては、自着火方式が指定されている運転領域である自着火運転領域Aは、全運転領域のうちの所定の高負荷閾値より小さい負荷の領域である。なお、自着火運転領域A内の運転状態は、第1運転状態に対応している。
更に、低負荷側火炎伝播方式が指定されている運転領域である低負荷側火炎伝播運転領域Bは、上記高負荷閾値以上の負荷の領域(自着火運転領域Aよりも高負荷側の領域)であって、上記高負荷閾値より大きい所定の極高負荷閾値より小さい負荷の領域である。なお、低負荷側火炎伝播運転領域B内の運転状態は、低負荷側第2運転状態に対応している。加えて、高負荷側火炎伝播方式が指定されている運転領域である高負荷側火炎伝播運転領域Cは、上記極高負荷閾値以上の負荷の領域(低負荷側火炎伝播運転領域Bよりも高負荷側の領域)である。なお、高負荷側火炎伝播運転領域C内の運転状態は、高負荷側第2運転状態に対応している。
(自着火運転領域)
いま、内燃機関10Bの運転状態が自着火運転領域Aにあると仮定して説明を続ける。この仮定に従えば、CPU81はステップ1305にて「Yes」と判定し、ステップ1310に進んで燃焼室25にてスワール流が強められるようにスワール制御弁35を全閉状態に制御するための指示信号をスワール制御弁アクチュエータ35aに対して送出する。
これにより、上記第1実施形態と同様に、燃焼室25内に形成されるスワール流が強められるので、火花により着火された一部の混合気と、残余の未燃の混合気と、を迅速に混合させることができ、同未燃の混合気を迅速に自着火させることができる。また、強められたスワール流により、燃焼室25内に残留させられた燃焼ガスと、新たに燃焼室25内に導入された空気と、により燃焼室25内に混合気の温度が高い領域と同温度が低い領域とからなる同温度の空間的な分布(勾配)が形成されるので、自着火による燃焼を緩慢にすることができ、燃焼に伴う過大な音(騒音)の発生を防止することができる。
次いで、CPU81は、ステップ1315に進んで吸気ダクト43内のすべての空気がインタークーラ47をバイパスするようにバイパス流量調整弁46を制御するための指示信号を同バイパス流量調整弁46に対して送出する。これにより、吸気ダクト43内の空気は、冷却されることなく燃焼室25内に導入される。この結果、混合気の温度が低くなることを防止することができ、混合気を確実に自着火させることができる。
次に、CPU81は、ステップ1320に進んで自着火運転フラグXslfの値を「1」に設定する。ここで、自着火運転フラグXslfは、内燃機関10Bを自着火方式により運転するか否かを表すフラグであって、その値が「1」であれば自着火方式により運転し、「0」であれば火炎伝播方式(低負荷側火炎伝播方式又は高負荷側火炎伝播方式)により運転することを示す。
そして、CPU81は、ステップ1399に進んで本ルーチンを一旦終了する。
(制御量及び制御時期決定)
一方、CPU81は、図15にフローチャートにより示した吸気弁32及び排気弁34を制御するタイミングと、燃料噴射弁36を制御するタイミングと、燃料噴射弁36に噴射させる燃料の量と、を決定するための制御量及び制御時期決定ルーチンを、第n気筒(nは、1、2、3及び4)のクランク角が第n気筒の圧縮上死点に一致する毎に第n気筒専用に実行するようになっている。
従って、第n気筒のクランク角が第n気筒の圧縮上死点に一致すると、CPU81は、ステップ1500から処理を開始してステップ1505に進み、自着火運転フラグXslfの値が「1」であるか否かを判定する。この時点においては、図13の上記ステップ1320にて自着火運転フラグXslfの値が「1」に設定されている。
従って、CPU81はステップ1505にて「Yes」と判定してステップ1510に進み、自着火運転用の制御量及び制御タイミングを決定するために上記第1実施形態に係る図5に示した自着火運転用の制御量及び制御時期決定ルーチンと同じルーチンを実行する。これにより、第n気筒の吸気弁32、排気弁34及び燃料噴射弁36を制御するタイミング並びに第n気筒の燃焼室25内に噴射される燃料の量が決定される。
次いで、CPU81は、ステップ1515に進んで、後述するように、負のオーバーラップ期間において予備的に噴射するための燃料の量である予備的噴射燃料量τpを上記ステップ1510にて決定された噴射燃料量τに係数Kpを乗じた値に設定する。ここで、係数Kpは0から1までの値であって、0.1から0.2までの間の値であることが好適である。本例では、係数Kpは、0.15である。
次に、CPU81は、ステップ1520に進んで上記ステップ1510にて決定された噴射燃料量τから上記ステップ1515にて求められた予備的噴射燃料量τpを減じることにより噴射燃料量τを更新(補正)する。これにより、予備的噴射燃料量τpと噴射燃料量τとの和は、上記ステップ1510にて決定された噴射燃料量τと等しくなる。
続いて、CPU81は、ステップ1525に進んで予備的燃料噴射開始タイミングθipをテーブルMapθipslf(Accp,NE)に基づいて求める。ここで、テーブルMapθipslfは、任意の運転状態のときに、同テーブルMapθipslfに基づいて求められる予備的燃料噴射開始タイミングθipが上記ステップ1510にて求められた排気弁閉弁タイミングECから吸気弁開弁タイミングIOまでの間の所定のタイミングとなるように予め設定されている。従って、求められる予備的燃料噴射開始タイミングθipは、負のオーバーラップ期間中のタイミングとなる。
そして、CPU81はステップ1599に進んで本ルーチンを一旦終了する。
(火花発生時期決定)
更に、CPU81は、図16にフローチャートにより示した火花発生タイミングを決定するための火花発生時期決定ルーチンを、第n気筒のクランク角が第n気筒の圧縮上死点より45°だけ前(進角側)のクランク角(BTDC45°)に一致する毎に第n気筒専用に実行するようになっている。
従って、第n気筒のクランク角が第n気筒の圧縮上死点に一致すると、CPU81は、ステップ1600から処理を開始してステップ1605に進み、自着火運転フラグXslfの値が「1」であるか否かを判定する。この時点においては、図13の上記ステップ1320にて自着火運転フラグXslfの値が「1」に設定されている。
従って、CPU81はステップ1605にて「Yes」と判定してステップ1610に進み、自着火運転用の火花発生タイミングを決定するために上記第1実施形態に係る図6に示した自着火運転用の火花発生時期決定ルーチンと同じルーチンを実行する。これにより、第n気筒の火花発生タイミングが決定される。
そして、CPU81はステップ1699に進んで本ルーチンを一旦終了する。
更に、CPU81は、上記第1実施形態に係る熱発生率算出ルーチンと同じルーチンを、クランク角が所定の微小なクランク角だけ変化する毎に第n気筒専用に実行するようになっている。
(駆動制御)
また、CPU81は、内燃機関10Bを駆動制御するための駆動制御ルーチンを、クランク角が所定の微小なクランク角だけ変化する毎に第n気筒専用に実行するようになっている。この駆動制御ルーチンは、上記第1実施形態に係る図7に示した駆動制御ルーチンのステップ720とステップ725との間に、図17にフローチャートにより示した処理を加えた点のみにおいて同図7の駆動制御ルーチンと相違している。従って、以下、かかる相違点を中心として説明する。
CPU81がこのルーチンの処理を開始し、図7のステップ720までの処理を実行すると、同CPU81は、図17のステップ1705に進み、自着火運転フラグXslfの値が「1」であるか否かを判定する。この時点においては、図13の上記ステップ1320にて自着火運転フラグXslfの値が「1」に設定されている。
従って、CPU81はステップ1705にて「Yes」と判定してステップ1710に進み、第n気筒の現時点のクランク角が前述した図15のステップ1525にて決定された第n気筒の予備的燃料噴射開始タイミングθipと一致しているか否かを判定する。そして、第n気筒の現時点のクランク角が第n気筒の予備的燃料噴射開始タイミングθipと一致していると、CPU81はステップ1710にて「Yes」と判定してステップ1715に進み、図15のステップ1515にて決定された予備的噴射燃料量τpに応じた時間だけ燃料噴射弁36を開弁させ、噴射燃料量τpの燃料を燃焼室25内に噴射させる(図18の(2’)を参照。)。
これにより、燃焼室25内のガスの温度が高い負のオーバーラップ期間において、噴射された燃料を予反応させる(燃料分子の分解等の予備的な反応を行わせる)ことができる。この結果、発生した火花による混合気の着火性を良好にすることができるとともに、混合気の自着火性を良好にすることができる。
そして、CPU81はステップ725以降のステップに進んで、上述したように各種指示信号を送出した後、本ルーチンを一旦終了する。
このようにして、内燃機関10Bは自着火方式により運転される。
(低負荷側火炎伝播運転領域)
次に、内燃機関10Bの運転状態が低負荷側火炎伝播運転領域Bにあると仮定して説明を続ける。この仮定に従えば、CPU81が図13のルーチンの処理を開始すると、ステップ1305に進んだとき、「No」と判定し、ステップ1350に進んで燃焼室25にてスワール流が弱められるようにスワール制御弁35を全開状態に制御するための指示信号をスワール制御弁アクチュエータ35aに対して送出する。
次いで、CPU81は、ステップ1355に進んで吸気ダクト43内のすべての空気がインタークーラ47に流入するようにバイパス流量調整弁46を制御するための指示信号を同バイパス流量調整弁46に対して送出する。
次に、CPU81は、ステップ1360に進んで自着火運転フラグXslfの値を「0」に設定し、続くステップ1365にて現時点の負荷及び現時点のエンジン回転速度NEと、図14に示した運転領域マップと、に基づいて内燃機関10Bの運転状態が低負荷側火炎伝播運転領域Bにあるか否かを判定する。
上記仮定に従えば、CPU81はステップ1365にて「Yes」と判定し、ステップ1370に進んで低負荷側運転フラグXlowの値を「1」に設定する。ここで、低負荷側運転フラグXlowは、内燃機関10Bを低負荷側火炎伝播方式により運転するか否かを表すフラグであって、その値が「1」であれば低負荷側火炎伝播方式により運転し、「0」であれば高負荷側火炎伝播方式により運転することを示す。
そして、CPU81は、ステップ1399に進んで本ルーチンを一旦終了する。
(制御量及び制御時期決定)
一方、CPU81は、図15のルーチンの処理を開始すると、ステップ1505に進んだとき、「No」と判定し、ステップ1550に進んで、低負荷側運転フラグXlowの値が「1」であるか否かを判定する。この時点においては、図13の上記ステップ1370にて低負荷側運転フラグXlowの値が「1」に設定されている。
従って、CPU81はステップ1550にて「Yes」と判定してステップ1555に進み、低負荷側火炎伝播運転用の制御量及び制御タイミングを決定するために上記第1実施形態に係る図5に示した自着火運転用の制御量及び制御時期決定ルーチンと同様の、図示しない低負荷側火炎伝播運転用の制御量及び制御時期決定ルーチンを実行する。この低負荷側火炎伝播運転用のルーチンは、CPU81が参照するテーブルが異なる点のみにおいて上記自着火運転用のルーチンと相違している。従って、以下、かかる相違点を中心として説明する。
この低負荷側火炎伝播運転用のルーチンにおいては、CPU81は、テーブルMapEOslfに代えてテーブルMapEOlowを参照する。このテーブルMapEOlowは、テーブルMapEOslfと同様に、求められる低負荷側火炎伝播運転用の排気弁開弁タイミングEOが膨張下死点より前の所定のタイミングとなるように予め設定されている。
また、CPU81は、テーブルMapECslfに代えてテーブルMapEClowを参照する。このテーブルMapEClowは、テーブルMapECslfと同様に、求められる低負荷側火炎伝播運転用の排気弁閉弁タイミングECが排気上死点より前の所定のタイミングとなるように予め設定されている。
更に、CPU81は、テーブルMapIOslfに代えてテーブルMapIOlowを参照する。このテーブルMapIOlowは、テーブルMapIOslfと同様に、任意の運転状態のときに、同テーブルMapIOlowに基づいて求められる低負荷側火炎伝播運転用の吸気弁開弁タイミングIOがテーブルMapEClowに基づいて求められる低負荷側火炎伝播運転用の排気弁閉弁タイミングECより後(遅角側)の所定のタイミングとなるように予め設定されている。
加えて、CPU81は、テーブルMapICslfに代えてテーブルMapIClowを参照する。このテーブルMapIClowは、求められる低負荷側火炎伝播運転用の吸気弁閉弁タイミングICが吸気下死点より後のタイミングであって、テーブルMapICslfに基づいて求められる自着火運転用の吸気弁閉弁タイミングICのうちのいずれよりも後の所定のタイミングとなるように予め設定されている。
また、CPU81は、テーブルMapτslfに代えてテーブルMapτlowを参照する。このテーブルMapτlowは、求められる低負荷側火炎伝播運転用の噴射燃料量τの燃料が燃焼室25内に噴射されることにより同燃焼室25にて空燃比が理論空燃比である混合気が形成されるように予め設定されている。
更に、CPU81は、テーブルMapθislfに代えてテーブルMapθilowを参照する。このテーブルMapθilowは、テーブルMapθislfと同様に、任意の運転状態のときに、同テーブルMapθilowに基づいて求められる低負荷側火炎伝播運転用の燃料噴射開始タイミングθiが上記テーブルMapIOlowに基づいて求められる低負荷側火炎伝播運転用の吸気弁開弁タイミングIOの直後の所定のタイミングとなるように予め設定されている。
以上説明したように、CPU81が低負荷側火炎伝播運転用の制御量及び制御時期決定ルーチンを実行することにより、第n気筒の吸気弁32、排気弁34及び燃料噴射弁36を制御するタイミング並びに第n気筒の燃焼室25内に噴射される燃料の量が決定される。
そして、CPU81はステップ1599に進んで本ルーチンを一旦終了する。
(火花発生時期決定)
更に、CPU81は、図16のルーチンの処理を開始すると、ステップ1605に進んだとき、「No」と判定し、ステップ1650に進んで、火炎伝播運転用の火花発生タイミングを決定するため、図19のフローチャートにより示したステップ1900に進む。
次いで、CPU81は、ステップ1910に進んで火炎伝播運転用の火花発生タイミング(火炎伝播用火花発生タイミング)SをテーブルMapSfls(Accp,NE)に基づいて求める。ここで、テーブルMapSflsは、求められる火炎伝播運転用の火花発生タイミングSが圧縮上死点の直前の所定のタイミング(本例では、BTDC10°前後であって遅くともBTDC5°)となるように予め設定されている。なお、ステップ1910の処理が実行されることは、火炎伝播用火花発生タイミング決定手段の機能の一部が達成されることに対応している。
次に、CPU81は、ステップ1920に進んでノックセンサ74により検出されたシリンダブロック部20の振動Vcに基づいてノッキング強度IKNを算出する。本例では、ノッキング強度IKNは、1つの燃焼サイクルにおけるシリンダブロック部20の振動Vcの振幅の最大値である。
続いて、CPU81は、ステップ1930に進んで上記ステップ1920にて算出されたノッキング強度IKNに係数kknを乗じた値を補正量として算出し、算出された補正量を上記ステップ1910にて求められた火炎伝播運転用の火花発生タイミングSに加えた値により同火炎伝播運転用の火花発生タイミングSを更新(補正)する。ここで、補正係数kknは、正の値である。従って、ノッキング強度IKNが大きくなるにつれて火花発生タイミングSは大きく遅角される。なお、ステップ1930の処理が実行されることは、ノッキング抑制用火花発生タイミング補正手段の機能が達成されることに対応している。
そして、CPU81はステップ1999に進んで本ルーチンを一旦終了する。
(駆動制御)
また、CPU81は、上記駆動制御ルーチンの処理を開始すると、ステップ1705に進んだとき、「No」と判定し、ステップ725以降のステップに進んで、上述したように各種指示信号を送出した後、本ルーチンを一旦終了する。
このように、CPU81が上記駆動制御ルーチンを実行することにより、排気弁開弁タイミングEOにて排気弁34が開弁する(図20の(1)を参照。)。これにより、排気(排気行程)が開始する。次に、排気弁閉弁タイミングECにて排気弁34が閉弁する(図20の(2)を参照。)。これにより、排気(排気行程)が終了する。
次いで、吸気弁開弁タイミングIOにて吸気弁32が開弁する(図20の(3)を参照。)。これにより、燃焼室25内へ空気が導入され始める(吸気(吸気行程)が開始する)。
このとき、すべての空気がインタークーラ47に流入するようにバイパス流量調整弁46が制御されているので、吸気ダクト43内の空気は冷却されて燃焼室25内へ導入される。これにより、ノッキングが発生することを防止することができる。また、燃焼室25内に導入される空気の質量を増加させることができるので、内燃機関10Bの出力を増加させることができる。
更に、第2の吸気ポート31bとともに第1の吸気ポート31aを空気が通過するようにスワール制御弁35が全開状態に制御されているので、燃焼室25内に空気を導入する際の抵抗を減少させることができる。これにより、吸気(燃焼室25内への空気の導入)に伴って生じる損失を減少させることができるので、燃費を向上させることができる。
また、負のオーバーラップ期間が設けられているので、燃焼室25内に比較的多量の燃焼ガスが残留する。これにより、混合気が燃焼している期間における燃焼室25内のガスの温度を低くすることができるので、同混合気が燃焼することにより生成されるNOxの量を減少させることができる。更に、ポンプ損失を低減させることもできるので、良好な燃費にて内燃機関10Bを運転することができる。
そして、吸気行程初期の燃料噴射開始タイミングθiから噴射燃料量τの燃料の噴射が開始する(図20の(4)を参照。)。噴射された燃料は、燃焼室25内に続いて吸入される空気の流れにより同燃焼室25にて拡散する。これにより、ノッキングが発生することを防止することができる。
その後、吸気弁閉弁タイミングICにて吸気弁32が閉弁する(図20の(5)を参照。)。これにより、吸気(吸気行程)が終了するとともに空気と燃料と燃焼ガスとからなる混合気の圧縮が開始する。上述したように、この低負荷側火炎伝播運転用の吸気弁閉弁タイミングICは自着火運転用の吸気弁閉弁タイミングICより遅角されている。従って、実圧縮比が小さくなるので、混合気が燃焼している間にノッキングが発生することを防止することができる。
次いで、火花発生タイミングSにて燃焼室25内の複数の位置にて火花が発生する。これにより、混合気が燃焼室25内の複数の位置にて着火され、火炎の伝播が開始する。この火炎の伝播により、燃焼室25内のすべての混合気が燃焼する。
このようにして、内燃機関10Bは低負荷側火炎伝播方式により運転される。なお、上述したように、低負荷側火炎伝播方式による運転を行うためにCPU81が各種のルーチンを実行することは、火炎伝播運転実行手段の機能が達成されることに対応している。
(高負荷側火炎伝播運転領域)
次に、内燃機関10Bの運転状態が高負荷側火炎伝播運転領域Cにあると仮定して説明を続ける。この仮定に従えば、CPU81が図13のルーチンの処理を開始すると、ステップ1305に進んだとき、「No」と判定し、内燃機関10Bの運転状態が低負荷側火炎伝播運転領域Bにある場合と同様に、続くステップ1350からステップ1360までの処理を実行する。
次に、CPU81は、内燃機関10Bの運転状態が低負荷側火炎伝播運転領域Bにあるか否かを判定するステップ1365に進む。上記仮定に従えば、CPU81は同ステップ1365にて「No」と判定し、ステップ1380に進んで低負荷側運転フラグXlowの値を「0」に設定する。
そして、CPU81は、ステップ1399に進んで本ルーチンを一旦終了する。
(制御量及び制御時期決定)
一方、CPU81は、図15のルーチンの処理を開始すると、ステップ1505に進んだとき、「No」と判定し、ステップ1550に進んで、低負荷側運転フラグXlowの値が「1」であるか否かを判定する。この時点においては、図13の上記ステップ1380にて低負荷側運転フラグXlowの値が「0」に設定されている。
従って、CPU81はステップ1550にて「No」と判定してステップ1560に進み、高負荷側火炎伝播運転用の制御量及び制御タイミングを決定するために上記第1実施形態に係る図5に示した自着火運転用の制御量及び制御時期決定ルーチンと同様の、図示しない高負荷側火炎伝播運転用の制御量及び制御時期決定ルーチンを実行する。この高負荷側火炎伝播運転用のルーチンは、CPU81が参照するテーブルが異なる点のみにおいて上記自着火運転用のルーチンと相違している。従って、以下、かかる相違点を中心として説明する。
この高負荷側火炎伝播運転用のルーチンにおいては、CPU81は、テーブルMapEOslfに代えてテーブルMapEOhighを参照する。このテーブルMapEOhighは、テーブルMapEOslfと同様に、求められる高負荷側火炎伝播運転用の排気弁開弁タイミングEOが膨張下死点より前の所定のタイミングとなるように予め設定されている。
また、CPU81は、テーブルMapIOslfに代えてテーブルMapIOhighを参照する。このテーブルMapIOhighは、求められる高負荷側火炎伝播運転用の吸気弁開弁タイミングIOが排気上死点より前の所定のタイミングとなるように予め設定されている。
更に、CPU81は、テーブルMapECslfに代えてテーブルMapEChighを参照する。このテーブルMapEChighは、任意の運転状態のときに、同テーブルMapEChighに基づいて求められる高負荷側火炎伝播運転用の排気弁閉弁タイミングECがテーブルMapIOhighに基づいて求められる高負荷側火炎伝播運転用の吸気弁開弁タイミングIOより後(遅角側)の所定のタイミングとなるように予め設定されている。
加えて、CPU81は、テーブルMapICslfに代えてテーブルMapIChighを参照する。このテーブルMapIChighは、求められる高負荷側火炎伝播運転用の吸気弁閉弁タイミングICが吸気下死点より後のタイミングであって、テーブルMapICslfに基づいて求められる自着火運転用の吸気弁閉弁タイミングICのうちのいずれよりも後の所定のタイミングとなるように予め設定されている。
また、CPU81は、テーブルMapτslfに代えてテーブルMapτhighを参照する。このテーブルMapτhighは、求められる高負荷側火炎伝播運転用の噴射燃料量τの燃料が燃焼室25内に噴射されることにより同燃焼室25にて空燃比が理論空燃比よりリッチ側の空燃比であって内燃機関10Bの出力を最大とする空燃比(出力空燃比)である混合気が形成されるように予め設定されている。
更に、CPU81は、テーブルMapθislfに代えてテーブルMapθihighを参照する。このテーブルMapθihighは、任意の運転状態のときに、同テーブルMapθihighに基づいて求められる高負荷側火炎伝播運転用の燃料噴射開始タイミングθiが上記テーブルMapEChighに基づいて求められる高負荷側火炎伝播運転用の排気弁閉弁タイミングECの直後の所定のタイミングとなるように予め設定されている。
以上説明したように、CPU81が高負荷側火炎伝播運転用の制御量及び制御時期決定ルーチンを実行することにより、第n気筒の吸気弁32、排気弁34及び燃料噴射弁36を制御するタイミング並びに第n気筒の燃焼室25内に噴射される燃料の量が決定される。
そして、CPU81はステップ1599に進んで本ルーチンを一旦終了する。
(火花発生時期決定)
更に、CPU81は、内燃機関10Bの運転状態が低負荷側火炎伝播運転領域Bにある場合と同様に、図16のルーチンを実行して火炎伝播運転用の火花発生タイミングを決定する。
(駆動制御)
また、CPU81は、内燃機関10Bの運転状態が低負荷側火炎伝播運転領域Bにある場合と同様に、上記駆動制御ルーチンの処理を実行して、上述したように各種指示信号を送出する。
このように、CPU81が上記駆動制御ルーチンを実行することにより、排気弁開弁タイミングEOにて排気弁34が開弁する(図21の(1)を参照。)。これにより、排気(排気行程)が開始する。次に、吸気弁開弁タイミングIOにて吸気弁32が開弁する(図21の(2)を参照。)。これにより、燃焼室25内へ空気が導入され始める(吸気(吸気行程)が開始する)。
このとき、すべての空気がインタークーラ47に流入するようにバイパス流量調整弁46が制御されているので、吸気ダクト43内の空気は冷却されて燃焼室25内へ導入される。これにより、ノッキングが発生することを防止することができる。また、燃焼室25内に導入される空気の質量を増加させることができるので、内燃機関10Bの出力を増加させることができる。
更に、第2の吸気ポート31bとともに第1の吸気ポート31aを空気が通過するようにスワール制御弁35が全開状態に制御されているので、燃焼室25内に空気を導入する際の抵抗を減少させることができる。これにより、吸気に伴って生じる損失を減少させることができるので、燃費を向上させることができる。
次いで、排気弁閉弁タイミングECにて排気弁34が閉弁する(図21の(3)を参照。)。これにより、排気(排気行程)が終了する。
このように、排気行程から吸気行程に移行する際に吸気弁32及び排気弁34の両方が開弁されている期間である正のオーバーラップ期間が設けられている。これにより、殆どの燃焼ガスが燃焼室25から排出される。この結果、新たに燃焼室25内に導入される空気の量を増加させることができるので、内燃機関10Bの出力を高めることができる。
そして、吸気行程初期の燃料噴射開始タイミングθiから噴射燃料量τの燃料の噴射が開始する(図21の(4)を参照。)。噴射された燃料は、燃焼室25内に続いて吸入される空気の流れにより同燃焼室25にて拡散する。
その後、吸気弁閉弁タイミングICにて吸気弁32が閉弁する(図21の(5)を参照。)。これにより、吸気(吸気行程)が終了するとともに空気と燃料と燃焼ガスとからなる混合気の圧縮が開始する。上述したように、この高負荷側火炎伝播運転用の吸気弁閉弁タイミングICは自着火運転用の吸気弁閉弁タイミングICより遅角されている。従って、実圧縮比が小さくなるので、混合気が燃焼している間にノッキングが発生することを防止することができる。
次いで、火花発生タイミングSにて燃焼室25内の複数の位置にて火花が発生する。これにより、混合気が燃焼室25内の複数の位置にて着火され、火炎の伝播が開始する。この火炎の伝播により、燃焼室25内のすべての混合気が燃焼する。
このようにして、内燃機関10Bは高負荷側火炎伝播方式により運転される。なお、上述したように、高負荷側火炎伝播方式による運転を行うためにCPU81が各種のルーチンを実行することは、火炎伝播運転実行手段の機能が達成されることに対応している。
以上説明したように、本発明による自着火式内燃機関の第3実施形態によれば、自着火方式と火炎伝播方式とが運転状態に応じて切り替えられて内燃機関10Bが運転される。更に、火炎伝播方式により内燃機関10Bが運転されるとき(火炎伝播運転時)、検出されたノッキングの程度を表す指標値としてのシリンダブロック部20の振動Vcに基づいて運転状態に応じて決定された火炎伝播用の火花発生タイミングSが補正される。これにより、前回の燃焼サイクルにおける混合気の燃焼により発生したノッキングの程度に応じて、今回の燃焼サイクルにおける火炎伝播用の火花発生タイミングSが補正される。この結果、ノッキングが連続して発生することを防止することができるので、燃焼に伴う過大な音(騒音)の発生を防止したり、燃費の悪化を防止したりすることができる。
また、上記第3実施形態においては、自着火運転時、負のオーバーラップ期間が設けられる。これにより、多量の燃焼ガスが燃焼室25内に残留するので、圧縮端温度が所望の温度となるように混合気の温度を制御することができる。一方、高負荷側火炎伝播運転時、正のオーバーラップ期間が設けられる。これにより、殆どの燃焼ガスが燃焼室25から排出されるので、新たに燃焼室25内に導入される空気の量を増加させることができ、内燃機関10Bの出力を高めることができる。
更に、上記第3実施形態においては、自着火運転時、負のオーバーラップ期間中に運転状態に応じて定められた噴射燃料量のうちの一部の量の燃料を噴射することにより、噴射された燃料が予反応する(燃料分子の分解等の予備的な反応を行う)。これにより、発生した火花による混合気の着火性を良好にすることができるとともに、混合気の自着火性を良好にすることができる。一方、火炎伝播運転時、吸気行程の初期に運転状態に応じて定められる噴射燃料量のすべての量の燃料を噴射することにより燃料が燃焼室25にて十分に拡散するための時間を確保することができるので、ノッキングの発生を抑制することができる。
加えて、上記第3実施形態においては、自着火運転時、火花により混合気が着火される空燃比のうちの最もリーン側の空燃比を有する混合気が形成される。これにより、火花が発生した直後の期間において混合気が火炎の伝播により燃焼することによって生成されるNOxの量を減少させることができるとともに、発生した火花により混合気が着火されないことを防止することができる。
一方、低負荷側火炎伝播運転時、燃焼室25内に多量の燃焼ガスが残留させられる。これにより、混合気が燃焼している期間における燃焼室25内のガスの温度が低くなるので、同混合気が燃焼することにより生成されるNOxの量を減少させることができる。更に、燃焼室25内に残留させられた燃焼ガスによりポンプ損失を低減させることもできるので、良好な燃費にて内燃機関10Bを運転することができる。
また、高負荷側火炎伝播運転時、略全部の燃焼ガスが燃焼室25から排出される。これにより、新たに燃焼室25内に導入される空気の量を増加させることができる。更に、燃焼室25内に出力空燃比を有する混合気が形成されるので、内燃機関10Bの出力を高めることができる。
更に、上記第3実施形態においては、自着火運転時、燃焼室25内に導入される空気が冷却されないので、混合気の温度が低くなることを防止することができ、混合気を確実に自着火させることができる。一方、火炎伝播運転時、燃焼室25内に導入される空気が冷却されるので、ノッキングが発生することを防止することができる。更に、燃焼室25内に導入される空気の質量を増加させることができるので、内燃機関10Bの出力を増加させることができる。
加えて、上記第3実施形態においては、自着火運転時、燃焼室25内に形成されるスワール流が強められる。これにより、着火された一部の混合気と、残余の未燃の混合気と、が迅速に混合されるので、同未燃の混合気の温度を迅速に高めることができる。この結果、同未燃の混合気を迅速に自着火させることができる。また、強められたスワール流によって、燃焼室25内に残留させられた燃焼ガスと、新たに燃焼室25内に導入された空気と、により燃焼室25内に混合気の温度が高い領域と同温度が低い領域とからなる同温度の空間的な分布(勾配)が形成される。これにより、自着火による燃焼を緩慢にすることができるので、燃焼に伴う過大な音(騒音)の発生を防止することができる。
一方、火炎伝播運転時、スワール制御弁35の開度が大きくなるので、燃焼室25内に空気を導入する際の抵抗を減少させることができる。これにより、吸気(燃焼室25内への空気の導入)に伴って生じる損失を減少させることができるので、燃費を向上させることができる。
なお、上記第3実施形態は、更に、第2の吸気通路の一部を構成するバイパス通路49内を通過する空気のみを加熱する吸気加熱手段としての吸気ヒーターを同バイパス通路49内に備えていてもよい。これによれば、自着火運転時、燃焼室25内に導入される空気が加熱されるので、混合気の温度を高めることができ、混合気をより一層確実に自着火させることができる。
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係る自着火式内燃機関について説明する。第4実施形態に係る自着火式内燃機関は、運転方式を切り替えた後の所定の期間において運転状態に応じて火花発生タイミングを補正する点のみにおいて上記第3実施形態に係る内燃機関10Bと相違している。以下、かかる相違点を中心として説明する。
(運転方式切替え制御)
CPU81は、運転方式を切り替えるための運転方式切替え制御ルーチンを、クランク角が所定の微小なクランク角だけ変化する毎に実行するようになっている。この運転方式切替え制御ルーチンは、上記第3実施形態に係る図13に示したルーチンのステップ1320、ステップ1370又はステップ1380と、ステップ1399と、の間に、図22にフローチャートにより示した処理を加えた点のみにおいて同図13のルーチンと相違している。従って、以下、かかる相違点を中心としてより具体的に説明する。
(自着火運転から火炎伝播運転への切り替え時)
いま、内燃機関10Cの運転状態が図14の自着火運転領域Aから低負荷側火炎伝播運転領域Bへ移行したと仮定して説明を続ける。この仮定に従えば、CPU81が図13のルーチンの処理を開始し、ステップ1370までの処理を実行すると、同CPU81は、図22のステップ2205に進み、自着火運転フラグXslfの値が前回の本ルーチンの実行時において後述するステップ2215にて設定された過去の自着火運転フラグXslfoldの値と相違しているか否かを判定する。
上記仮定に従えば、前回の本ルーチンの実行時においては内燃機関10Cが自着火方式により運転されていたので、過去の自着火運転フラグXslfoldの値は「1」である。一方、今回の本ルーチンの実行時においては内燃機関10Cの運転状態が図14の低負荷側火炎伝播運転領域Bにあるので、上記ステップ1360にて自着火運転フラグXslfの値は「0」に設定されている。
従って、CPU81は、ステップ2205にて「Yes」と判定し、ステップ2210に進んで火花発生時期補正回数Nswiの値を1以上の値(本例では、「5」)に設定する。ここで、火花発生時期補正回数Nswiは、今回の運転方式の切り替えに関して以降において火花発生タイミングSを補正する回数(燃焼サイクル数)を表す。
次に、CPU81は、ステップ2215に進んで過去の自着火運転フラグXslfoldの値を現時点の自着火運転フラグXslfの値に設定する。
そして、CPU81はステップ1399に進んで本ルーチンを一旦終了する。
(火炎伝播運転用の火花発生時期決定)
更に、CPU81は、火炎伝播運転用の火花発生タイミングを決定するための火炎伝播運転用の火花発生時期決定ルーチンを、図16のステップ1650の処理が実行される毎に実行するようになっている。この火炎伝播運転用の火花発生時期決定ルーチンは、上記第3実施形態に係る図19に示したルーチンのステップ1910とステップ1920と、の間に、図23にフローチャートにより示した処理を加えた点のみにおいて同図19のルーチンと相違している。従って、以下、かかる相違点を中心としてより具体的に説明する。
CPU81が図19のルーチンの処理を開始し、ステップ1910までの処理を実行すると、同CPU81は、図23のステップ2305に進み、火花発生時期補正回数Nswiの値が0より大きいか否かを判定する。この時点においては、図22の上記ステップ2210にて火花発生時期補正回数Nswiの値が「5」に設定されている。
従って、CPU81は、ステップ2305にて「Yes」と判定し、ステップ2310に進んで自着火火炎伝播切替用の火花発生時期補正量ΔSをテーブルMapΔSfls(Accp,NE)に基づいて求める。ここで、テーブルMapΔSflsは、任意の運転状態における自着火運転と火炎伝播運転との間の燃焼ガスの温度等の差が大きくなるにつれて、求められる火花発生時期補正量ΔSが大きくなるように、実験による測定値に基づいて予め設定されている。
次に、CPU81は、ステップ2315に進んで上記ステップ2310にて算出された火花発生時期補正量ΔSに火花発生時期補正回数Nswi及び係数Kswiをそれぞれ乗じた値を実際の補正量として算出し、算出された実際の補正量を図19の上記ステップ1910にて求められた火炎伝播運転用の火花発生タイミングSから減じた値により同火炎伝播運転用の火花発生タイミングSを更新(補正)する。ここで、補正係数Kswiは正の値(本例では、1/5)である。従って、火花発生時期補正回数Nswiが大きいほど火花発生タイミングSは大きく進角される。なお、ステップ2310及びステップ2315の処理が実行されることは、切替え時火炎伝播用火花発生タイミング補正手段の機能の一部が達成されることに対応している。
次いで、CPU81は、ステップ2320に進んで火花発生時期補正回数Nswiから1を減じた値(即ち、4)により火花発生時期補正回数Nswiを更新する。
そして、CPU81はステップ1920以降のステップに進んで、上述したように火花発生タイミングSを決定した後、本ルーチンを一旦終了する。
以降において、図23の各ステップを含む火炎伝播運転用の火花発生時期決定ルーチンが4回繰り返し実行されるまで(即ち、ステップ2320にて火花発生時期補正回数Nswiの値が「0」に設定されるまで)、以上の処理が繰り返される。この間、火花発生時期補正回数Nswiの減少に伴って、ステップ2315にて算出される実際の補正量は減少する。
火花発生時期補正回数Nswiの値が「0」に設定された後、CPU81が図19のルーチンの処理を開始すると、CPU81は、ステップ2305に進んだとき、「No」と判定し、ステップ2310からステップ2320までの処理を実行することなく、ステップ1920以降のステップに進んで、上述したように火花発生タイミングSを決定した後、本ルーチンを一旦終了する。
このようにして、自着火運転から火炎伝播運転へと運転方式を切り替えた直後の暫くの期間(本例では、5つの燃焼サイクルが終了するまでの期間)、運転状態に応じて火花発生タイミングSが補正される。これにより、運転方式切り替え直後においても、火花発生タイミングを最適な火花発生タイミングに近づけることができる。その結果、運転方式切り替え時においても、運転状態に応じて決定されたトルクに近いトルクが発生し、トルク変動を低減することができる。
(火炎伝播運転から自着火運転への切り替え時)
次に、内燃機関10Cの運転状態が図14の低負荷側火炎伝播運転領域Bから自着火運転領域Aへ移行したと仮定して説明を続ける。この仮定に従えば、CPU81が図13のルーチンの処理を開始し、ステップ1320までの処理を実行すると、同CPU81は、図22のステップ2205に進み、自着火運転フラグXslfの値が前回の本ルーチンの実行時において後述するステップ2215にて設定された過去の自着火運転フラグXslfoldの値と相違しているか否かを判定する。
上記仮定に従えば、前回の本ルーチンの実行時においては内燃機関10Cが低負荷側火炎伝播方式により運転されていたので、過去の自着火運転フラグXslfoldの値は「0」である。一方、今回の本ルーチンの実行時においては内燃機関10Cの運転状態が図14の自着火運転領域Aにあるので、上記ステップ1320にて自着火運転フラグXslfの値は「1」に設定されている。
従って、CPU81は、ステップ2205にて「Yes」と判定し、上述したように、ステップ2210及びステップ2215の処理を実行した後、ステップ1399に進んで本ルーチンを一旦終了する。
(自着火運転用の火花発生時期決定)
更に、CPU81は、自着火運転用の火花発生タイミングを決定するための自着火運転用の火花発生時期決定ルーチンを、図16のステップ1610の処理が実行される毎に実行するようになっている。この自着火運転用の火花発生時期決定ルーチンは、上記第3実施形態に係る図6に示したルーチンのステップ610とステップ620と、の間に、図24にフローチャートにより示した処理を加えた点のみにおいて同図6のルーチンと相違している。従って、以下、かかる相違点を中心としてより具体的に説明する。
CPU81が図6のルーチンの処理を開始し、ステップ610までの処理を実行すると、同CPU81は、図24のステップ2405に進み、火花発生時期補正回数Nswiの値が0より大きいか否かを判定する。この時点においては、図22の上記ステップ2210にて火花発生時期補正回数Nswiの値が「5」に設定されている。
従って、CPU81は、ステップ2405にて「Yes」と判定し、ステップ2410に進んで火炎伝播自着火切替用の火花発生時期補正量ΔSをテーブルMapΔSslf(Accp,NE)に基づいて求める。ここで、テーブルMapΔSslfは、任意の運転状態における自着火運転と火炎伝播運転との間の燃焼ガスの温度等の差が大きくなるにつれて、求められる火花発生時期補正量ΔSが大きくなるように、実験による測定値に基づいて予め設定されている。
次に、CPU81は、ステップ2415に進んで上記ステップ2410にて算出された火花発生時期補正量ΔSに火花発生時期補正回数Nswi及び係数Kswiをそれぞれ乗じた値を実際の補正量として算出し、算出された実際の補正量を図6の上記ステップ610にて求められた自着火運転用の火花発生タイミングSに加えた値により同自着火運転用の火花発生タイミングSを更新(補正)する。従って、火花発生時期補正回数Nswiが大きいほど火花発生タイミングSは大きく遅角される。なお、ステップ2410及びステップ2415の処理が実行されることは、切替え時自着火用火花発生タイミング補正手段の機能の一部が達成されることに対応している。
次いで、CPU81は、ステップ2420に進んで火花発生時期補正回数Nswiから1を減じた値(即ち、4)により火花発生時期補正回数Nswiを更新する。
そして、CPU81はステップ620以降のステップに進んで、上述したように火花発生タイミングSを決定した後、本ルーチンを一旦終了する。
以降において、図24の各ステップを含む自着火運転用の火花発生時期決定ルーチンが4回繰り返し実行されるまで(即ち、ステップ2420にて火花発生時期補正回数Nswiの値が「0」に設定されるまで)、以上の処理が繰り返される。この間、火花発生時期補正回数Nswiの減少に伴って、ステップ2415にて算出される実際の補正量は減少する。
火花発生時期補正回数Nswiの値が「0」に設定された後、CPU81が図6のルーチンの処理を開始すると、CPU81は、ステップ2405に進んだとき、「No」と判定し、ステップ2410からステップ2420までの処理を実行することなく、ステップ620以降のステップに進んで、上述したように火花発生タイミングSを決定した後、本ルーチンを一旦終了する。
このように、火炎伝播運転から自着火運転へと運転方式を切り替えた運転方式切り替え直後においても、自着火運転から火炎伝播運転へと運転方式を切り替えた場合と同様に、火花発生タイミングを最適な火花発生タイミングに近づけることができる。
以上説明したように、本発明による自着火式内燃機関の第4実施形態によれば、自着火運転又は火炎伝播運転が定常的に行われている場合に対する運転方式切替え直後における燃焼ガス温度の相違及び燃焼室壁温(シリンダ21のボア壁面やピストン22の頂面等の温度)の相違等に応じて火花発生タイミングが補正される。これにより、運転方式切り替え直後においても、火花発生タイミングを最適な火花発生タイミングに近づけることができる。その結果、運転方式切り替え時においても、運転状態に応じて決定されたトルクに近いトルクが発生し、トルク変動を低減することができる。
なお、上記第4実施形態は、電磁式の吸気弁駆動機構32a及び電磁式の排気弁駆動機構34aに代えて、可変バルブタイミング機構を備えた機械式の吸気弁駆動機構及び排気弁駆動機構を備えていてもよい。この場合、運転方式切り替え直後において実際のバルブタイミング(吸気弁32及び排気弁34をそれぞれ開閉するタイミング)が切り替え後の運転方式に応じた適切なバルブタイミングになるまでの期間、火花発生タイミングを最適な火花発生タイミングに近づけることができる。その結果、運転方式切り替え時においても、運転状態に応じて決定されたトルクに近いトルクが発生し、トルク変動を低減することができる。
以上説明したように、本発明の各実施形態に係る自着火式内燃機関によれば、混合気の燃焼により生成されるNOxの量を低減しながら自着火タイミングを適切なタイミングに制御することが可能な自着火式内燃機関が提供される。
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、火花発生部は、4つ以上であることが好適である。
10,10A,10B,10C…内燃機関、20…シリンダブロック部、21…シリンダ、22…ピストン、25…燃焼室、30…シリンダヘッド部、31a…第1の吸気ポート、31b…第2の吸気ポート、32…吸気弁、34…排気弁、35…スワール制御弁、35a…スワール制御弁アクチュエータ、36…燃料噴射弁、46…バイパス流量調整弁、47…インタークーラ、49…バイパス通路、60…多点型点火装置、61…点火プレート部、61a…板状絶縁体、61a1…凹部、61b…火花発生用導線、61b1…火花発生部、61b2…接続部、62…点火プラグ、63…点火コイル、63b…二次コイル、64…電源回路、65…点火制御回路、73…筒内圧力センサ、74…ノックセンサ、80…電気制御装置、91…燃料噴射弁、101…ピストン基体部、101a…凹部、102…ピストン頂部絶縁体、102a…キャビティ、110…多点型点火装置、111…第1の火花発生用導線、111a…火花発生部、111b…接続部、111b1…点火プラグ側接続用導体、111b2…絶縁体側接続用導体、112…第2の火花発生用導線、112a…火花発生部、112b…接続部、112b1…点火プラグ側接続用導体、112b2…絶縁体側接続用導体、113…第1の点火プラグ、114…第2の点火プラグ、115…第1の点火コイル、115b…二次コイル、116…第2の点火コイル、116b…二次コイル、117…電源回路、118…点火制御回路。