JP4667998B2 - ノンアスベスト水硬性抄造板 - Google Patents

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Description

本発明は、特に有用な建築材料である水硬性抄造板であって、アスベストを使用しない、安価でかつ層間密着強度および寸法安定性の両面に優れるノンアスベスト水硬性抄造板に関する。
セメント、石膏等の水硬性材料の中で、水硬性抄造板は優れた建築材料であるが、昨今、アスベストを使用しないノンアスベスト水硬性抄造板が注目されており、アスベスト使用の抄造板並に安価で且つ必要性能を満たすことができれば、建築材料の中で最も有用であると考えられる。
抄造板の分野において、従来補強繊維として使用されていたアスベストが環境上或いは健康上問題があることから、有機繊維への移行が世界的に進んでいる。補強繊維に用いる有機繊維としては、一般的にポリビニルアルコール(以下、PVAと略記する)系繊維が、繊維強度、耐アルカリ性そしてセメントとの親和性の高さから最も優れていると考えられている。
また有機繊維をアスベスト代替の補強繊維として使用する場合、セメント歩留まりの向上、繊維分散性確保等の目的からパルプが併用されている。中でも一般的に抄造板に使用されるパルプとしては、針葉樹を叩解したものが多い。しかしながら、パルプを使用した場合、従来のアスベスト使用の場合に比べてセメントの歩留まりに劣るため、抄造板の層間密着強度が低くなる傾向があった。またアスベストよりも吸水性の高い有機繊維及びパルプを使用するため、抄造板の寸法変化率がアスベスト使用の場合に比べて大きくなるという問題があった。
パルプを使用した抄造板においてセメント歩留まり及び層間密着強度を向上させる方法として、保水性の高い助剤を添加する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしこの方法を用いても、充分な層間密着強度は得られず、また抄造板の吸水率も増加するため、寸法変化率が大きくなるという問題があった。
また、セメント歩留まりを向上させる手段として補強繊維として用いる有機繊維を熱処理しながら型付けしてところどころに幅もしくは径の大きくなった部分を持たせ、パルプと絡み易くすることによりセメント捕捉性を高め、さらに寸法安定性を確保するために、無機繊維や無機フィラーを使用する方法が提案されている(例えば、特許文献2〜4参照。)。しかし、これらの方法のように有機繊維を特殊な形状にした場合、繊維同士も絡み合い易くなり繊維分散不良の問題が生じ易く、また熱処理による繊維強度低下を引き起こし、その結果充分な層間密着強度は得られない。また無機繊維や無機フィラーを使用する場合、セメントとの密着性向上のために工程が煩雑となったり、また無機繊維はセメントよりも高価であるため、コストアップが生じてしまうといった問題点があった。
特開昭59−73463号公報 特開昭59−203747号公報 特開昭59−174553号公報 特開昭60−5049号公報
本発明の目的は、アスベスト代替の補強繊維を使用した水硬性抄造板であって、コストアップを伴うことなく、しかも層間密着強度および寸法安定性の両面に優れるノンアスベスト水硬性抄造板(以下、単に「抄造板」と記すことがある。)を提供することにある。
本発明者等は上記問題点を鑑みて鋭意検討を行った結果、補強材料として特定の断面充実度を有するPVA系繊維および特定の叩解度を有するユーカリパルプを特定量使用することにより、層間密着強度および寸法安定性の両面に優れる抄造板が得られることを見出した。
すなわち本発明は、断面充実度が40〜70%であるPVA系繊維を全固形分中1.0〜2.0質量%、濾水度100〜500mlであるユーカリパルプを全固形分中2.5〜4.0質量%各々含有してなり、層間密着強度が2.0N/mm以上かつ寸法変化率が0.25%以下であることを特徴とする抄造板であり、好ましくは、PVA系繊維の断面充実度が40〜60%であり、ユーカリパルプの濾水度が200〜500mlであり、ユーカリパルプの含有量が全固形分中2.5〜3.5質量%である上記の抄造板である。
本発明の、アスベスト代替の補強繊維として、特定の断面充実度を有するPVA系繊維および特定の叩解度を有するユーカリパルプを特定量使用することにより、層間密着強度及び寸法安定性の両面に優れる抄造板の製造が可能になる。
本発明の抄造板において、PVA系繊維の断面充実度が小さい繊維はより扁平な形状となり、抄造工程においてスラリーを抄き上げる際の目留め効果が高く、セメント歩留を向上させる。ユーカリパルプは抄造用パルプとして一般的に使用される針葉樹に比べて繊維径が細く、これを断面充実度の小さいPVA系繊維と併用することにより目留め効果がさらに付与され、セメント歩留が著しく向上する。しかしPVA系繊維の断面充実度が小さすぎると不均一で繊維強度が低くなるため、補強性に影響を及ぼす。一方、断面充実度が大きい繊維はより真円に近い形状となり、均一で繊維強度が高くなるので、高い補強性能が得られる。しかし、断面充実度が大きすぎると、スラリーを抄き上げる際の目留め効果が低く、セメント歩留を低下させてしまい、その結果抄造板の層間密着強度が低下することになる。具体的には断面充実度40〜70%のPVA系繊維を全固形分中1.0〜2.0質量%、濾水度100〜500mlであるユーカリパルプを全固形分中2.5〜4.0質量%、各々含有してなることが必要である。
PVA系繊維の添加量が全固形分1.0質量%より少ない場合には充分な補強性が得られず、また全固形分2.0質量%より多い場合にはセメントスラリー中での繊維分散が困難となり、不均一で欠点の多い抄造板となってしまう。また、ユーカリパルプの濾水度が500mlより高い、あるいはユーカリパルプの添加量が全固形分2.5質量%より少ない場合にはセメント歩留が低下し、層間密着強度が低下する。ユーカリパルプの濾水度は100mlより低くても構わないが、必要以上のパルプ叩解はコストアップに繋がる。また、ユーカリパルプの添加量が全固形分4.0質量%より多い場合には抄造板の吸水率が増加し、その結果寸法変化率が増大する問題が生じる。
PVA系繊維の断面充実度が40〜60%である場合には、ユーカリパルプの濾水度が200〜500mlであり、ユーカリパルプの含有量が全固形分中2.5〜3.5質量%であることが好ましい。PVA系繊維の断面充実度が小さいほど目留め効果が高く、充分に叩解していないユーカリパルプと併用することができる。
なお、本発明でいう層間密着強度は、抄造板の強度、耐久性に影響を及ぼすものであり、後述する方法で測定される。本発明において、抄造板の層間密着強度は2.0N/mm以上であることが必要である。層間密着強度が2.0N/mmを下回る場合、層間剥離の発生が顕著になる。一方、層間密着強度は高ければ高いほどよいが、あまり高くなると抄造板自体が脆くなる。好ましくは2.5N/mm以上であり、より好ましくは3.0N/mm以上5.0N/mm以下である。
また本発明の抄造板の寸法変化率は、抄造板の用途として多い屋根材、外装材等で用いられる場合に接合部に隙間が発生することを防止する防止するためには、0.25%以下が好ましい。特に好ましくは0.2%以下であり、さらに好ましくは0.1%以下である。
本発明の抄造板において、セメントとの接着面積を大きくして補強性能を充分に発揮するには、上記補強繊維の繊度は、0.1dtex以上、繊維長は2mm以上であることが好ましく、スラリー中での繊維の分散を良くするには、上記補強繊維の繊度は、20dtex以下、繊維長は20mm以下であることが好ましい。即ち、補強繊維の繊度は、0.1〜20dtexであることが好ましく、繊維長は2〜20mmであることが好ましい。より好ましくは、補強繊維の繊度は1〜15dtexであり、繊維長は4〜15mmである。また繊度、繊維長が異なる二種類以上の繊維を混合してもよい。
本発明の抄造板は、抄造方式により製造する。抄造とは、セメント粒子などを水媒体に懸濁させた粥状のものをメッシュに濾し取り成形するものである。その過程で薄い膜状としたものを順次積層して所望の厚みの成形板とする円網方式(ハチェック法)や長網方式、濃厚懸濁液を用いて1回ないし数回で、ある程度の厚みを確保するフローオン方式等がある。抄造方式は機械的に連続的、バッチ式で量産されるもので、均一で安定した性能が得られる利点があり、また2〜30mm、より好適には4〜20mmの比較的板厚の薄い材料を製造することができる。このような薄板の製造は抄造以外の通常のモルタル流し込みでは極めて困難である。
抄造板は上記したように円網、長網、フローオンなどの方式によって製造されるが、その材料構成は水硬性材料、補強用繊維、パルプ、その他添加剤(無機物質等)などである。スラリーの調製方法は特に限定されないが、固体成分が均一に分散されたスラリーを得る点からは、水を張った攪拌機にパルプを投入して攪拌し、次いで補強用繊維、水硬性材料、他の添加剤を順次添加するのが好ましい。本発明において、水硬性材料としてはポルトランドセメントが好適に使用される。補強用繊維は前述したように好適には有機繊維が使用される。パルプは前述したように、叩解度と添加量を適宜制御したものを使用する。その他添加剤としては高炉スラグやフライアッシュ、炭酸カルシウム、シリカフューム、セピオライト、アタパルジャイト、マイカ、ワラストナイトなどの無機物質等が挙げられる。これら添加剤は硬化体の物性を向上させる効果、例えば耐凍結融解性の向上、腐食性物質(塩素、硫酸などの各種有機酸)の侵入抑制、補強繊維とマトリックスとの付着性の改善、懸濁液の粘性を適度に調節して抄造効率を上げる効果や、抄造体の乾燥収縮制御を行う効果、硬化体の強度向上効果が発現するが、コストアップにならない範囲であれば使用しても差し支えない。
以下実施例によって、本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。なお本発明において繊維繊度、繊維強力、繊維強度、繊維伸度、繊維断面充実度、濾水度、および抄造板の層間密着強度、寸法変化率は以下の測定方法により測定されたものを意味する。
[繊度 dtex]
得られた繊維状物の一定試長の質量を測定して見掛け繊度をn=10以上で測定し、平均値を求めた。なお、一定試長の質量測定により繊度が測定できない繊維(細デニール繊維)はVIBROMAT M[Textechno社製]により測定した。
[強度 cN/dtex、伸度 %、ヤング率 cN/dtex]
予め温度20℃、相対湿度65%の雰囲気下で5日間繊維を放置して調湿したのち、単繊維を試長60mmとし、引張速度60mm/分としてFAFEGRAPH M[Textechno社製]にて繊維強力を測定し、該強力を繊度で除して強度をn=10以上で測定し、平均値を求めた。
伸度は、単繊維破断長(mm)/把持長(mm)×100により算出し、n=10以上の平均値を求めた。本発明では、試長60mmの値を用いている。
ヤングモジュラスは、伸度0.1%における強度をT(cN/dtex)、伸度0.4%における強度をT(cN/dtex)として、{(T−T)/(0.4−0.1)}×100により算出し、n=10以上の平均値により求めた。本発明では、試長60mmの値を用いている。
尚、繊維長が60mmより短い場合は、そのサンプルの可能な範囲での最大長さを把持長として測定することとする。
[繊維断面充実度 %]
走査型電子顕微鏡[(株)日立製作所製]にて繊維の断面形状を測定し、繊維の断面積をS1、その繊維を取り囲む最小円の面積をS2とし、以下の式により算出し、n=10以上の平均値を求めた。
断面充実度(%)=(S1/S2)×100
なお、二種以上の繊維が混在する場合は、繊維種の数をn種類、各種繊維の断面充実度をY(%)、各種繊維の混合比率をZ(%)として以下の式により求める。

断面充実度(%)=Σ(Y×Z/100)
k=1
[パルプの濾水度(CSF) ml]
パルプの濾水度試験方法JIS P8121−1976のカナダ標準型に準じて測定し、スラリー濃度0.4質量%、温度20℃に補正した平均値をCSFとして評価した。
[層間密着強度 N/mm
下記の標準抄造法により標準抄造板を製造し、ポリエチレンシートに包んで50℃、飽和湿度条件下で24時間予備養生し、次いで20℃、飽和湿度条件下で13日養生した材齢14日後の試験体から、40mm×40mmのサイズでサンプルを採取し、JIS A 5426「耐はく離性試験」の様な鋼製冶具で40mm×40mmのものをエポキシ系樹脂接着剤を用いてサンプルの表裏に接着し、接着強度が充分得られた後、105℃で24時間乾燥する。乾燥後、島津オートグラフAG5000−Bを用いて0.5mm/分の速度で接着面に直角に引っ張り、そのときの最大引張荷重を読み取る。測定はn=4以上行い、最大荷重をサンプルの面積で除した値の平均値を層間密着強度として評価した。
標準抄造法:
ハチェックによる円網抄造法により成形し、養生、調湿後の厚みが6.5mm±0.5mmとなるように抄造シート14枚をメーキングローラーに巻き取った後に、セメントシートを所定の大きさに切断するか、若しくは最大7.5MPaの圧力でプレス搾液後、セメントシートを所定の大きさに切断する。
[寸法変化率 %]
前述の標準抄造法により標準抄造板を製造し、ポリエチレンシートに包んで50℃、飽和湿度条件下で24時間予備養生し、次いで20℃、飽和湿度条件下で13日養生した材齢14日後の試験体から、170mm×50mmのサイズでサンプルを採取し、JIS A 5430「吸水による長さ変化率試験」に準じてn=3以上測定を行い、その平均値を寸法変化率として評価した。
[実施例1〜7、比較例1〜6]
予備攪拌機に水375リットルを投入して攪拌機を攪拌させ、パルプを所定量添加し、次いで普通ポルトランドセメントおよび無機微粒子を添加し、最後に特公昭62−32144号公報に示された方法により製造した表1に記載のPVA系繊維を添加し、攪拌した後に得られた濃度16質量%のスラリーをチェストに移送した。次いでフィードタンクから円網部にスラリーを供給し、希釈水(白水)によって濃度4質量%とし、ミニハチェックマシンを用いて抄造を行った。次いで得られたシート14枚をメーキングローラーに巻き取り、2MPaの圧力でプレス搾液し、ポリエチレンシートに包み50℃、飽和湿度条件下で24時間養生し、さらに20℃、飽和湿度条件下の環境下に開放状態で調湿した。得られた抄造板は厚さ6.5±0.5mm、密度1.37〜1.43g/cmであった。かかる抄造板の組成および性能を表2に示す。
なお、セメントは太平洋セメント(株)製の普通ポルトランドセメント、炭酸カルシウムは太平洋マテリアル(株)製のブレーン値4000cm/gのもの、フライアッシュは関電化工(株)製の第2種フライアッシュ、針葉樹未晒しパルプ(NUKP)はカナダ産のもの、ユーカリパルプはブラジル産の晒し品、またポリアクリルアミド系セメント凝集剤は日本技建(株)製のアイケイフロックを用いた。
Figure 0004667998
Figure 0004667998
表2の実施例1〜6に示すように、PVA系繊維の断面充実度が60〜70%である場合にはこれを全固形分中1.0〜2.0質量%、濾水度が100〜300mlであるユーカリパルプを全固形分中2.5〜4.0質量%添加するか、またPVA系繊維の断面充実度が40〜60%である場合にはこれを全固形分中1.0〜2.0質量%、濾水度が200〜500mlであるユーカリパルプを全固形分中2.0〜3.5質量%添加した抄造板は、上記範囲を満足しない比較例1〜6のパルプを含有する抄造板に比べ、優れた層間密着強度と寸法安定性を同時に有するものとなる。例えば実施例2のように、断面充実度が56%であるPVA系繊維を全固形分中2.0質量%、濾水度が210mlであるユーカリパルプを全固形分中3.0質量%含む抄造板の層間密着強度は3.2N/mm、寸法変化率は0.20%である。実施例2の層間密着強度は、比較例6の断面充実度が56%であるPVA系繊維を全固形分中2.0質量%、濾水度が200mlであるNUKPを全固形分中3.0質量%含む抄造板の層間密着強度0.80N/mmに比べ4倍高い値である。また実施例1、比較例4のように断面充実度が68%であるPVA系繊維を全固形
分中2.0質量%添加し、濾水度150mlであるユーカリパルプを使用しても、ユーカリパルプ添加量が全固形分中4.5質量%と不適正である比較例4では寸法変化率が0.30%となり、一方ユーカリパルプ添加量が全固形分中3.5質量%で適正である実施例1の寸法変化率は0.21%で比較例4より3割小さい値である。また実施例7のように、断面充実度が80%と34%のPVA系繊維をそれぞれ全固形分中1.0質量%ずつ含む場合でも(平均の断面充実度:57%)、濾水度が210mlであるユーカリパルプを全固形分中3.0質量%使用することで層間密着強度が3.0N/mm、寸法変化率が0.21%と優れた物性を示す抄造板が得られる。さらに実施例4〜6のように、炭酸カルシウム、フライアッシュなどの無機粒子を含む抄造板においても、PVA系繊維の断面充実度が60〜70%である場合にはこれを全固形分中1.0〜2.0質量%、濾水度が100〜300mlであるユーカリパルプを全固形分中2.5〜4.0質量%添加するか、またPVA系繊維の断面充実度が40〜60%である場合にはこれを全固形分中1.0〜2.0質量%、濾水度が200〜500mlであるユーカリパルプを全固形分中2.0
〜3.5質量%添加することにより、優れた層間密着強度と寸法安定性が得られる。
本発明の、特にアスベスト代替として有用な建築材料である抄造板において、特定の断面充実度を有するPVA系繊維および特定の叩解度を有するユーカリパルプを特定量使用することにより安価でかつ充分な層間密着強度および寸法安定性を同時に確保することが可能となる。

Claims (3)

  1. 断面充実度が40〜70%であるポリビニルアルコール系繊維を全固形分中1.0〜2.0質量%、濾水度100〜500mlであるユーカリパルプを全固形分中2.5〜4.0質量%各々含有してなり、層間密着強度が2.0N/mm以上で、かつ寸法変化率が0.25%以下であることを特徴とするノンアスベスト水硬性抄造板。
  2. ポリビニルアルコール系繊維の断面充実度が40〜60%であり、ユーカリパルプの濾水度が200〜500mlであり、ユーカリパルプの含有量が全固形分中2.5〜3.5質量%である請求項1記載のノンアスベスト水硬性抄造板。
  3. ポリビニルアルコール系繊維の繊度が0.1〜20dtex、繊維長が2〜20mmである請求項1記載のノンアスベスト水硬性抄造板。
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