JP4667328B2 - コンクリートの剥落防止工法 - Google Patents

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本発明は、鉄道、道路等の橋梁の床版コンクリートの劣化により、コンクリート片が剥落するのを防止する工法に関する。
鉄道、道路等の橋梁などにはコンクリートが広く使用されている。しかし、当該コンクリートの劣化によりコンクリート片が剥落する事故が生じる。そこで、日本道路公団により、コンクリート片の剥落を防ぐために予防、保全的に考えだされたのが、コンクリートの剥落防止工法である。このコンクリート剥落防止工法の考え方は、以下の要求性能に基いている。(1)剥落等の落下しようとするコンクリート片を剥落させない性能(剥落防止性能)、(2)既設構造物に発生しているひび割れ注入が困難なひび割れに浸透し、かつひび割れを接着する性能(ひび割れ含浸性能)及び(3)構造物の予定供用期間中に、鋼材腐食を助長させる劣化因子の進入を防止した上で、上記(1)及び(2)の性能を維持する性能。さらに、剥落防止性能については、剥落させない性能に加えて、コンクリートの劣化発生が確認できることが要求される。
このような要求性能に合わせて、現在行なわれている剥落防止工法は、(1)表面の脆弱層を除去(ケレン、研磨、サンドブラスト、ウォータージェット等)し、(2)エポキシ樹脂、硬化型アクリル樹脂などのひび割れ含浸接着材を塗布し、(3)その上に、エポキシ樹脂系接着材、アクリル樹脂系接着材、ウレタン樹脂系接着材、ポリマーセメントモルタル等を用いて繊維メッシュシートの貼付けをし、(4)さらにその上に必要により保護塗装をする工法である(特許文献1〜5)。
特開2002−121901号公報 特開2003−307034号公報 特開2004−238757号公報 特開2005−15329号公報 特開2005−213899号公報
前記繊維メッシュシートとしてはビニロン繊維が広く使用されているが、ビニロン繊維は−数十℃という極低温では伸び性能が劇的に低下することが知られている。最近では、ビニロン繊維に代わり、ポリプロピレン製繊維が極低温下でも十分な伸び性能を示すことから使用されているが、ポリマーセメントモルタルとは親和性が低く、付着性が悪いという欠点があった。
従って、本発明の目的は、繊維メッシュシートとしてポリプロピレン製繊維を用いた、付着性及び剥落防止効果の優れたコンクリートの剥落防止工法を提供することにある。
そこで本発明者は、ポリプロピレン製繊維メッシュシートとポリマーセメントモルタルとの付着性の改善手段について種々検討した結果、当該繊維メッシュシートの両面をコロナ放電処理し、かつその躯体コンクリート側の濡れ指数をその反対側よりも低くすることにより、当該繊維メッシュシートとポリマーセメントモルタルとの付着性が向上するとともに、コンクリートの剥落防止性能が顕著に向上することを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、ポリマーセメントモルタルで繊維メッシュシートを貼り込むコンクリートの剥落防止工法であって、当該繊維メッシュシートが、その両面をコロナ放電により濡れ性を付与されたポリプロピレン製繊維であり、当該繊維メッシュシートの躯体コンクリート側の濡れ指数が表層側よりも低いものであることを特徴とするコンクリートの剥落防止工法を提供するものである。
本発明工法によれば、ポリプロピレン製繊維メッシュシートとポリマーセメントモルタルとの付着性が良好で、かつ優れた剥落防止効果が得られる。
本発明コンクリートの剥落防止工法は、繊維メッシュシートとして、その両面をコロナ放電により濡れ性を付与されたポリプロピレン製繊維であり、当該繊維メッシュシートの躯体コンクリート側の濡れ指数が表層側よりも低い、繊維メッシュシートを用いることを特徴とする。
繊維メッシュシートは、ポリプロピレン製繊維である。通常、繊維メッシュシートとしてはビニロン製が広く使用されているが、ビニロン製繊維は、−30℃等の極低温では伸び性能が劇的に低下するという欠点がある。ポリプロピレン製繊維には、かかる欠点がない。
当該繊維メッシュシートの繊維径は1μm〜2mm、特に1〜500μmが好ましい。繊維長は0.2〜10mmが好ましい。また、メッシュの形状は、ほぼ正三角形の格子を形成した3軸織物の格子点を固定したネット、ほぼ正方形の格子を形成した2軸ネット、これらのネットに立体的に突起物を設けたネット等が挙げられる。
本発明に用いる繊維メッシュシートは、その両面をコロナ放電により濡れ性を付与したものである。ここでコロナ放電とは、高周波高電圧の気中で、原子、分子、電子イオン間でのそれぞれの衝突などによって、電子エネルギーの励起などが起こり、さらに光子の放出させることをいい、コロナ放電処理とは、これらの反応を物質表面で作用させて表面をラジカル化し、その結果プラスチックなどでは表面にカルボニル基等の極性基を生成させ、濡れ性を向上させる方法である。具体的には、高周波電源により供給される高周波高電圧出力を放電電極−処理ロール間に印加することでコロナ放電を発生させることにより行なわれる。ここで処理ロール上に被コロナ放電処理繊維メッシュシートを設置すればよい。例えばコロナ放電表面改質装置として信光電気計装(株)製のものを用いた場合、周波数は10〜60kHzで、電圧は10〜12kVをかければよい。より好ましくは、50又は60kHzで12kVで処理すればよい。
本発明においては、ポリプロピレン製繊維メッシュシートの両面をコロナ放電処理し、かつその躯体コンクリート側の濡れ指数が表層側よりも低いものとすることにより、当該繊維メッシュシートとポリマーセメントモルタルとの付着性及び剥落防止効果が向上する。ここで濡れ指数とは、JIS K 6768の濡れ試験法で得られる値である。コロナ放電処理が片面だけの場合や、躯体コンクリート側の濡れ指数が高い場合には、十分なポリマーセメントとの付着性及び剥落防止効果が得られない。また、繊維メッシュシートの躯体コンクリート側とその反対側(表層側)との濡れ指数の差は、表層側が躯体コンクリート側の1.1倍以上、特に1.2倍以上が好ましい。
また、当該濡れ指数は、躯体コンクリート側が15〜60dyne/cmであり、表層側が30dyne/cm以上であるのが好ましい。特に躯体コンクリート側が15〜60dyne/cmであり、表層側がその1.1倍以上、特に1.2倍以上であるのが好ましい。なお、表層側の濡れ指数は30dyne/cm以上であるが、測定値としては30〜72dyne/cmが好ましい。
本発明のコンクリートの剥落防止工法は、ポリマーセメントモルタルを用いて前記繊維メッシュシートを貼り込む以外は、通常の方法により行なうことができる。ポリマーセメントモルタルを用いた繊維メッシュシートの貼り込みは、躯体コンクリートに直接施工してもよいが、躯体コンクリートにエポキシ系ひび割れ含浸接着材を塗布、含浸せしめた後、ポリマーセメントモルタルで繊維メッシュシートを貼り込むのが好ましい。
本発明工法の対象となる躯体コンクリートとしては、鉄道、道路等の橋梁、建物等のコンクリート構造物であって、表面のコンクリート片が剥落するおそれのあるコンクリートであれば特に制限されないが、特に建物の表面、鉄道、道路等の橋梁が好ましい。
本発明工法のより好ましい態様では、まず躯体コンクリートにエポキシ系ひび割れ含浸接着材を塗布、含浸させる。この際、ひび割れ含浸接着材を塗布する前に、コンクリート表面の脆弱層の除去操作を行なうのが、繊維メッシュシートの付着性、ひび割れ含浸接着材の含浸性の点から特に好ましい。ここで脆弱層の除去手段としては、サンダーやグラインダー、ワイヤブラシなどによる研磨、ケレン、サンドブラスト、又はウォータージェット等が挙げられる。
ひび割れ含浸接着材としては、エポキシ系ひび割れ含浸接着材を用いるのが、含浸性及びひび割れの接着補強性の点から好ましい。エポキシ系ひび割れ含浸接着材としては、エポキシ樹脂を主成分とするひび割れ含浸接着材であればよく、1液型でも、硬化剤と組み合せた2液型でもよい。エポキシ樹脂としては、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂やこれらの誘導体(例えば、水添化物や臭素化物など)、ノボラック型エポキシ樹脂(例えば、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂など)、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、ウレタン結合を有するウレタン変性エポキシ樹脂、含窒素エポキシ樹脂(例えば、メタキシレンジアミンやヒダントイン等のアミンのエポキシ化物、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンやトリグリシジルパラアミノフェノール等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂など)、ゴム変性エポキシ樹脂(例えば、ゴム成分としてポリブタジエン等の合成ゴムや天然ゴムを含有するエポキシ樹脂など)、環状脂肪族型エポキシ樹脂、長鎖脂肪族型エポキシ樹脂などが挙げられる。
エポキシ系ひび割れ含浸接着材には、上記エポキシ樹脂以外に、反応性希釈剤、チクソトロピック性付与剤、表面張力低下剤等を含有していてもよい。ここで、反応性希釈剤としてはモノ又はジグリシジルエーテル系の反応性希釈剤が挙げられる。チクソトロピック性付与剤としては、ケイ酸系、含水ケイ素マグネシウム系、ケイ酸アルミニウム系、ポリヒドロキシカルボン酸、ポリヒドロキシカルボン酸アミド、ポリアクリル酸Na等が挙げられる。
エポキシ系ひび割れ含浸接着材の粘度(20℃)は、躯体コンクリートへの含浸性、ひび割れ充填性の点から100〜2000mPa・s、さらに100〜1000mPa・s、特に100〜700mPa・sが好ましい。
2液型の場合の硬化剤としては、脂肪族第一アミン(脂肪族ジアミン、脂肪族ポリアミン、芳香環含有脂肪族ポリアミン、脂環ポリアミン、環状ポリアミン等)、芳香族第一アミン、第三アミン硬化剤、含リン又は含ハロゲンアミン硬化剤、変性ポリアミンアダクトなどのアミン系硬化剤;ポリアミノアミド系硬化剤;脂肪族酸無水物、脂環式酸無水物、芳香族酸無水物、ハロゲン系酸無水物などの酸又は酸無水物系硬化剤などが用いられる。
ひび割れ含浸接着材のコンクリート表面への塗布は、例えばウールローラー塗り、刷毛塗り等により行なわれる。その塗布量は、コンクリート表面の状態、ひび割れ含浸接着材の種類等により異なるが、100〜400g/m2、特に120〜300g/m2が好ましい。
本発明工法によれば、前記繊維メッシュシートの付着性が良いので、コンクリート表面にひび割れ含浸接着材を塗布、含浸させ、当該接着材が硬化後、ポリマーセメントモルタルで前記繊維メッシュシートを貼り込めばよいが、ひび割れ含浸接着材を塗布、含浸させた後、接着プライマーを塗布し、次いでポリマーセメントモルタルで前記繊維メッシュシートを貼り込んでもよい。接着プライマーとしては、エポキシ樹脂を含有するプライマーが好ましく、エポキシ樹脂以外にカップリング剤などの改質剤、溶剤などの粘度調整剤、増量剤、顔料、安定化剤等を含有してもよい。接着プライマーに含まれるエポキシ樹脂としては、前記接着材に用いられるものと同様のものが用いられる。接着プライマーは、ひび割れに含浸する必要がないので、接着材に比べて粘度が高くともよい。
接着プライマーの塗布は、ウールローラー塗り、刷毛塗り等により行なうのが好ましい。接着プライマーの塗布量は、100〜400g/m2、特に120〜250g/m2が好ましい。接着プライマーは、前記接着材塗布後すぐに塗布するのが好ましい。また、接着プライマーを塗布した場合には、前記ポリマーセメントモルタルを用いての繊維メッシュシートの貼り込みは、接着プライマーが完全に硬化する前、すなわち、タックが消失するまでに行なわねばならない。
本発明工法においては、前記接着材が硬化後、接着プライマーを用いた場合は、接着プライマーが完全に硬化する前に、前記ポリマーセメントモルタルを用いて繊維メッシュシートを貼り込む。本発明工法に用いるポリマーセメントモルタルに含まれるポリマーとしては、スチレンアクリル系、オールアクリル系、SBR系、EVA系;これらのエポキシ、シランなどによる変性系;エポキシ樹脂系、ポリウレタン樹脂系が挙げられるが、エポキシ変性アクリル樹脂系ポリマーセメントが特に好ましい。中でもエポキシ変性(メタ)アクリレートとエポキシ基含有モノマーとを含むコポリマーを含有するポリマーセメントが特に好ましい。
またセメントモルタルに用いられるセメントとしては、普通、早強、中庸熱、低熱、耐硫酸塩等の各種ポルトランドセメント、;エコセメント(普通型);アルミナセメント;高炉スラグ、フライアッシュ等との混合セメント、又はこれらの混合物が挙げられる。骨材としては、砂、スラグ骨材、各種軽量骨材等が挙げられる。またセメントモルタルは、増粘剤、保水剤、繊維、減水剤、収縮低減剤、粉末樹脂、消泡剤、硬化促進剤、硬化遅延剤、膨張材等を配合することができる。
ポリマーセメントモルタルを用いて前記繊維メッシュシートを貼り込むには、前記接着材層又は接着プライマー層の上にポリマーセメントモルタルを塗付け、その上に前記繊維メッシュシートを貼付け、さらにその上にポリマーセメントモルタルを塗付けることにより行なわれる。これらの3層のコンクリート表層からの合計厚みは1.5〜15mm、さらに2〜6mmとするのが好ましい。なお、前記繊維メッシュシートを貼り込む前に、前記接着材層表面は、サンダーやグラインダー、ワイヤブラシ等により研磨しておくのが、接着性の点からより好ましい。
さらにまた、前記繊維メッシュシート貼付けポリマーセメントモルタル層の表面には、アクリルウレタン系トップコート、アクリルシリコン系トップコート、フッ素系トップコート、アクリル系トップコート、ウレタン系トップコート、ポリウレア系トップコート等の仕上げ層を施してもよい。
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
(1)試験方法とその判定
(1−1)押し抜き試験は、日本道路公団規格JHS−424:2004「はく落防止の押抜き試験方法」に従った。
以下のデータを合格ラインとした。
2次ピーク時の押抜き応力 ≧ 1.5kN
2次ピーク時の垂直変位量 ≧ 10mm
(1−2)付着試験は、日本道路公団規格JHS426:2004「ひび割れ含浸材料の試験方法」に準じ、以下のようにして行なった。
(i)コンクリート歩道板(300×300×60mm)上に剥落防止工を施工。
(ii)試験材齢まで養生。
(iii)試験前に剥落防止工施工面に、40×40mmの方形に、コンクリート歩道板表面に達するまでダイヤモンドカッターにて切込みを入れる。
(iv)同サイズの鋼製アタッチメントをエポキシ接着材にて貼付け、硬化後、建研式接着力試験器で施工面に対し垂直方向に引張り、付着力を測定する。
付着強度 ≧ 1.5 N/mm2を合格ラインとした。
(2)試験に用いた材料
ポリマーエマルション:
イーテック社KT−9537D(ポリアルキル(メタ)アクリレートとエポキシ変性(メタ)アクリレート含有)
セメント:
太平洋セメント社普通ポルトランドセメント
珪砂:
JIS標準砂をJIS Z 8801に規定する呼び寸法300μmのふるいを通過した珪砂
増粘剤:
信越化学社SB−4000PV(メチルセルロース)
繊維メッシュシート:
宇部日東化成社SIMTEX SCM1810(ポリプロピレン製繊維)これに対しコロナ処理を行ったもの
(3)試験用セメントモルタル配合:
普通ポルトランドセメント 40重量部
珪砂 60重量部
増粘剤 0.05重量部
ポリマーエマルション 10重量部
水 11重量部
(4)施工の仕様:
(i)基板を80番紙やすりをセットしたグラインダーで研磨して表面の脆弱層を落とし、水洗する。
(ii)モルタルは始めに約1mm厚に金コテで塗りつける。
(iii)モルタル塗付け直後に繊維メッシュシートを貼付け、コテで軽く伏せ込む。
(iv)さらにモルタルを塗付け、計3mm厚に仕上げる。
(v)そのまま20℃相対湿度60%で材齢28日まで養生する。
Figure 0004667328
表1から、コロナ放電処理をして、表層側の濡れ性を躯体コンクリート側よりも高くしたポリプロピレン製繊維メッシュシートを用いてコンクリート剥落防止工法を行なったコンクリートは、付着性が高く、かつ剥落防止効果が良好であった。これに対し、コロナ放電処理をしなかった又は表層側の濡れ性が低いポリプロピレン製繊維メッシュシートを用いて同様の工法を行なったコンクリートは、付着性及び剥落防止効果のいずれも十分でなかった。

Claims (3)

  1. ポリマーセメントモルタルで繊維メッシュシートを貼り込むコンクリートの剥落防止工法であって、当該繊維メッシュシートが、その両面をコロナ放電により濡れ性を付与されたポリプロピレン製繊維であり、当該繊維メッシュシートの躯体コンクリート側の濡れ指数が表層側よりも低いものであることを特徴とするコンクリートの剥落防止工法。
  2. 当該繊維メッシュシートの濡れ指数が、躯体コンクリート側が15〜60dyne/cmであり、表層側が30dyne/cm以上である請求項1記載のコンクリートの剥落防止工法。
  3. 躯体コンクリートにエポキシ系ひび割れ含浸接着材を塗布、含浸せしめた後、ポリマーセメントモルタルで繊維メッシュシートを貼り込む請求項1記載のコンクリートの剥落防止工法。
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