JP4666656B2 - 真空吸着装置、その製造方法および被吸着物の吸着方法 - Google Patents

真空吸着装置、その製造方法および被吸着物の吸着方法 Download PDF

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Description

本発明は、半導体ウエハやガラス基板等の被吸着物を搬送、加工、検査等するときに使用される真空吸着装置に関するものである。
半導体装置の製造工程においては、半導体ウエハを搬送、加工、検査する場合に、真空圧を利用した真空吸着装置が一般的に用いられている。なかでも、多孔質材からなる載置部の載置面にウエハを真空吸着する真空チャックが多く用いられてきた。
このような半導体ウエハの真空吸着装置では、載置面の平坦度を高める必要があるため、ダイヤモンド砥石等による載置面の平面研削加工が行われる。しかしながら載置部を構成する多孔質体と支持部を構成する緻密質体とは強度および硬度が異なるため、載置部上面の研削加工の際に載置部と、その外周を取り囲む支持部との接合部に段差が生じていた。このような段差があると、載置面の平坦度が得られないだけでなく、ウエハを載置したときにウエハの外周端部が位置する段差付近から吸気漏れが生じやすくなる。このため、均一な吸着が難しくなり、さらには吸着力が発現しない場合があった。その結果、被吸着物である半導体ウエハの搬送時にウエハが脱落したり、ウエハを載置面に載置して平坦化加工する際に十分な加工精度が得られなかったりする問題があった。
一方、支持部と載置部との接合部の段差を避けて、載置部の外径をウエハの外径よりも大きくし、ウエハの外周端部を支持部ではなく、載置部に載せて吸着する方法も検討された。しかし、載置部表面の露出部から吸気漏れがあるため十分な吸着力が発現しなかったり、研削液が載置部内に侵入し、載置部を汚染して目詰まりを起こし吸着力を低下したりする問題があった。
そこで、本発明者らは、載置部と支持部との接合部の段差および隙間を無くし、十分な吸着力で均一にウエハを載置でき、ウエハの高平坦化加工を可能とするべく、多孔質体からなる載置部と緻密質体からなる支持部とが実質的に隙間なく一体的に接合されており、支持部上面に載置部側に張り出した庇状薄肉部を有する真空吸着装置を提案した(特許文献1参照)。これは、載置面の加工により生じる段差は載置部の撓み変形によるものと考えられたため、載置部側に張り出した庇状薄肉部を設けることで、緻密質薄肉部が載置部の撓み変形に追従し、載置面における載置部と支持部との接合部の段差の発生を抑制できるというものであった。
また、本発明者らは、載置部の外周に緻密質快削性セラミックスからなる被吸着物の外周端部を支持する周縁部を設けた真空吸着装置を提案した(特許文献2参照)。これによれば、載置部と周縁部との研削性が近似しているため、載置面を研削したときに、載置部と周縁部との間に段差が小さくなり、ウエハを載置する面の平坦度が高まるので、ウエハの外周端部を周縁部に載せて研削を行えば、ウエハの平坦度が向上する。また、周縁部は緻密質なので、載置部の汚染の問題も解消できる。
特開2005−212000号公報 特開2004−283936号公報
しかしながら、特許文献1に記載の真空吸着装置では、載置面の加工時に研削砥石の押圧による負荷がかかり、載置部および庇状薄肉部の撓み変形が繰り返されることにより、庇状薄肉部が破損したり、載置部との接合部が剥離して隙間が生じたりする問題があった。また、ウエハの吸着、脱離を繰り返したときにも、庇状薄肉部が破損したり、載置部から剥離したりする場合があった。これは真空吸着する際に真空度を高めるとウエハを介して載置面に大気圧がかかり、載置面が押されて凹形状に変形するために起きると考えられる。したがって歩留まりが悪いことに加え、使用中に破損や剥離が起きるおそれがあるため、製品として実用に供することはできなかった。
また、上記真空吸着装置は、アルミナ等のセラミックス粉末とガラス粉末を水等の溶媒を加えて混合したスラリーを、支持部に形成された凹部に注型した後、ガラス粉末の軟化点以上の温度で焼成する工程を含む製造方法により得られるものであり、真空吸着装置の載置部は、セラミックス粉末とガラス粉末を含むスラリーを焼成したものから構成されている。このような製法では、庇状薄肉部が支持部の凹部に張り出した構造のため、庇状薄肉部に接する部分へのスラリーの充填が難しく、スラリーの未充填による粗大ポアや隙間が生じる場合があった。載置部の庇状薄肉部に接する部分に粗大ポアや隙間があると、上述したような庇状薄肉部の剥離や破損が生じ易くなる。このような製法上の問題もあり、実用化に至らなかった。
また、特許文献2に記載の真空吸着装置は、ガラス粉末とセラミックス粉末を加熱溶融固化させた緻密質体を周縁部に形成するものであり、熱膨張を完全に一致させることは困難であるため、冷却後の周縁部材に亀裂が生じることが多かった。また、載置部は気孔があるためウエハ真空吸着の際の大気圧やウエハ研削時の研削砥石の押圧によって圧縮変形するが、周縁部は気孔がなく緻密なため変形を起こし難く、載置部と周縁部間で段差が生じることがあった。したがって、特許文献1に記載の真空吸着装置と同様に歩留まりや吸着力の点で問題があった。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、ウエハの外周端部が載置される部分の段差を低減し、ウエハの搬送や加工時に十分な吸着力でウエハを載置でき、長期間の使用に供することができる真空吸着装置を提供するものである。
本発明の真空吸着装置は、緻密質セラミックスからなる支持部と、前記支持部と実質的に隙間なく一体的に接合されたセラミックス/ ガラス複合多孔質材からなる載置部と、前記載置部の外周縁部表面に設けられた気孔率3〜10%の溶射セラミックスからなる環状被覆部と、から構成され、前記環状被覆部の溶射セラミックスはアンカー効果を発揮するように載置部の気孔に進入していることを特徴とするものである。
本発明によれば、環状被覆部の溶射セラミックスが載置部の気孔に進入した構造となっているため、アンカー効果により載置部と環状被覆部との密着性に優れ、載置面加工時の押圧やウエハ真空吸着時の大気圧によって載置部が撓み変形を繰り返しても環状被覆部が載置部から剥離することはない。また、環状被覆部の剛性および加工性が載置部と近似しているため段差を極めて小さく抑えることができる。さらに、環状被覆部の気孔率を3〜10%とすることで搬送や加工に十分な吸着力でウエハを載置することができる。
また、本発明の真空吸着装置において、前記環状被覆部の溶射セラミックスは載置部の気孔に進入しており、その進入深さが50μm以上である。進入深さがこのような範囲内であれば、環状被覆部が剥離することがない。また、ウエハ等の被吸着物の外周端部が前記環状被覆部に位置するように載置されるので、段差による不具合を防ぐことができる。
さらに、本発明の真空吸着装置は、アルミナ粉末または炭化珪素粉末と、ガラス粉末と、水またはアルコールとを加えて混合してスラリーを調整する工程と、前記載置部が形成される支持部の凹部に前記スラリーを充填するスラリー充填工程と、前記凹部にスラリーが充填された支持部をガラスの軟化点以上の温度で焼成する工程と、前記焼成工程によりスラリーを焼成して得られた載置部の少なくとも外周縁部の表面を研削加工して被溶射面を形成する工程と、被溶射面にセラミックスを溶射して環状被覆部を形成する工程と、載置部および環状被覆部の表面を研削加工して載置面を形成する工程と、を含む製造方法により得られる。このような製造方法を用いれば、載置部と支持部とが実質的に隙間なく一体的に接合された構造とすることができる。
また、本発明は、上述のような真空吸着装置を用いて、被吸着物の外周端部が前記環状被覆部上に位置するように載置する被吸着物の吸着方法を提供するものである。この方法によりウエハの搬送や加工時に吸着不良を起こすことを防ぐことができる。
本発明によれば、環状被覆部の溶射セラミックスが載置部の気孔に進入した構造となっているためアンカー効果により載置部と環状被覆部との密着性に優れ、載置面加工時の押圧やウエハ真空吸着時の大気圧によって載置部が撓み変形を繰り返しても環状被覆部が載置部から剥離することはない。また、環状被覆部の剛性および加工性が載置部と近似しているため段差を極めて小さく抑えることができる。さらに、環状被覆部の気孔率を3〜10%とすることで搬送や加工に十分な吸着力でウエハを載置でき、長期間の使用に供することができる。
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図1は本発明の一実施形態に係る真空吸着装置の概略構成を示す断面図である。緻密質セラミックスからなる支持部1と、前記支持部と実質的に隙間なく一体的に接合されたセラミックス/ ガラス複合多孔質材からなる載置部2と、前記載置部の外周縁部表面に設けられた気孔率3〜10%の溶射セラミックスからなる環状被覆部3とから構成されている。図2は、本発明の真空吸着装置の平面図およびAA′断面図を示したものである。支持部1には、真空吸着のための吸引孔4および吸引溝5が形成されており、載置部2の気孔に連通する吸引孔4から真空ポンプ等(図示せず)で吸引することでウエハ等の被吸着物を載置面2aに吸着固定することができる。
ここで「実質的に隙間なく一体的に接合された」とは、載置部2の多孔質構造が支持部1との界面と接するまで連続し、直接に接合された状態をいう。したがって、載置部2の上面(載置面2a側)と吸引溝5の部分を除いた底面と側面は支持部1と密着している。なお、載置部はセラミックスとそれを結合するガラスから構成されており、ガラスはセラミックス粒子同士の結合と同時に支持部との接合に寄与している。
ここで、載置面2aは、載置部2とその周囲の環状被覆部3とを同時に研削加工されることにより形成される。このとき、載置部2と環状被覆部3は同等の研削性を有しているため、載置面2aと環状被覆部3の表面との間で段差は生じない。これは、研削砥石の押圧によって載置部が撓んでも、環状被覆部3の溶射セラミックスが載置部の気孔に進入した構造となっており、載置部2との密着性に優れているので、環状被覆部が撓み変形に追従するためである。また、環状被覆部3は3〜10%の適度の気孔率を有しているため、研削速度が大きく相違することはない。
環状被覆部の厚さ、幅等の寸法形状は特に限定されるものではない。ただし、環状被覆部の厚さについては、厚すぎると溶射セラミックスの剛性が大きくなり過ぎるため好ましくなく、逆に薄すぎると気密性が不十分になり吸気漏れを生ずるおそれがあるため好ましくない。したがって環状被覆部の厚さとしては、0.2〜1.0mmが望ましい。環状被覆部の幅については、被吸着物の外周端部が環状被覆部上に位置するように(図3)、環状被覆部の内径は被吸着物の直径以下とし、環状被覆部の外径は被吸着物の直径よりも大きく形成する。ただし、環状被覆部の内径が被吸着物の直径に比べて小さすぎると被吸着物の外周が反り上がる変形が起きるため、環状被覆部の内径と被吸着物の直径との差はできるだけ小さいほうが好ましく、1mm以下とすることが望ましい。また、緻密質支持部と環状被覆部との間には段差があるため、この段差の影響を少なくするためには、環状被覆部の外径を被吸着物の直径よりも1mm以上大きくすることが望ましい。
環状被覆部は、溶射セラミックス膜からなる。環状被覆部を形成するセラミックス材料としては、アルミナ、アルミナにチタニアを加えたもの等を用いることができる。環状被覆部の溶射セラミックスは載置部の気孔に進入しており、その進入深さが50μm以上である。これによりアンカー効果が発揮され環状被覆部の剥離を防ぐことができる。進入深さは、主として溶射セラミックス原料の粒径や載置部の気孔径によって定まる。プラズマ溶射を用いる場合の溶射セラミックス原料の粒径としては10〜30μmが好適であり、載置部の気孔径としては10〜100μmが適している。このような範囲で調整することにより、50μm以上の進入深さとすることができる。進入深さの上限値は特に定めないが、本発明者らの検討によれば、200μmの進入深さまで形成できている。また、溶射距離によっても、進入深さを調整することができる。特にローカイド溶射においては、溶射距離により進入深さを調整する必要がある。溶射距離が大きいと進入深さが小さくなり、溶射距離が小さいと進入深さが大きくなる傾向がある。なお、前記環状被覆部の厚さに進入深さは含まれない。
載置部は所定のセラミックス(例えば、アルミナ、炭化珪素等)とガラスから構成され、連通する開気孔を有する多孔質組織を有している。載置部の開気孔率は20%以上50%以下であることが好ましく、その平均気孔径は10μm以上100μm以下であることが好ましい。この範囲内であれば、十分な吸着力および機械的強度を確保できる。また、上述したように平均気孔径が10μm以上であれば、環状被覆部の溶射セラミックスが載置部の気孔に進入して密着を高めることができる。
支持部1は、好ましくはアルミナ、窒化珪素、炭化珪素、ジルコニアから選ばれたセラミックスから構成される。載置部を構成するセラミックスと同じものが好ましいことから、アルミナまたは炭化珪素が好適である。支持部は真空吸着装置を加工装置や搬送装置に組み込んで固定するのに用いられるため機械的強度が確保できるように緻密質である。
本発明に係る真空吸着装置は、真空吸着装置10のように、その平面形状が円形のものに限定されるものではなく、被吸着物の形状に応じた変形が可能である。例えば、真空吸着装置の平面形状は略四角形であってもよい。
また、本発明の他の実施態様として、環状被覆部を載置部の外周縁部表面だけでなく、支持部上まで延長して形成したり(図4)、支持部の外周壁部を研削除去して載置部の外周側面まで環状被覆部を拡張した構造(図5)としたりすることも可能である。
次に、本発明の真空吸着装置の製造方法について説明する。最初に、公知の方法により、支持部1となる凹型部を有する容器形状のセラミックス部材を作製する。例えば、アルミナ等のセラミックス粉末に所定量のバインダを加えて造粒処理し、これを一軸プレス成形し、さらにCIP成形して、円板状のプレス成形体を作製する。続いて、このプレス成形体を凹型容器形状に加工し、さらに最終的に吸引孔4となる貫通孔および吸引溝5となる溝形状を内底の所定位置に形成する。こうして得られた加工体を、必要に応じて脱脂処理した後、所定の雰囲気、温度、時間で焼成し、必要に応じて加工することにより、支持部1となる容器形状のセラミック部材を得ることができる。続いて、こうして作製した支持部1の吸引孔4および吸引溝5に、後に説明するように支持部1にスラリーを充填することができるように、樹脂等の焼失材料を充填する。
続いて、載置部の多孔質材を形成するためのスラリーを調製する。このスラリーは、セラミックス粉末(好ましくは、アルミナ粉末または炭化珪素粉末)およびガラス粉末に、水またはアルコール等の溶剤を加えて、ボールミル、ミキサー等の公知の方法を用いて混合することにより、作製することができる。なお、水またはアルコール等の添加量は、特に限定されるものではないが、セラミックス粉末の粒度、ガラス粉末の添加量を考慮して、適切な流動性が得られるように、調節することが好ましい。
また、セラミックス粉末に対して添加するガラス粉末の量は、使用するセラミックス粉末の粒径(粒度分布)や焼成温度におけるガラスの粘性等を考慮して定められるが、多過ぎるとセラミックス粉末の充填が阻害されて焼成収縮が生じ、逆に少な過ぎるとセラミックス粉末の結合強度が低下し、脱粒や欠け等が生ずる。このため、ガラス粉末の量は、所望の結合強度、平均気孔径が得られる範囲においてできるだけ少ないことが好ましく、具体的には、概ねセラミックス粉末100質量部に対して5〜30質量部とすることが好ましい。
さらにガラスとしては、その熱膨張係数が、多孔質材のもう一方の構成成分であるセラミックス材料の熱膨張係数より小さいものを用いることが好ましい。これにより、焼成段階で支持部1の容器形状の凹型部表面(接合界面)と実質的に隙間なく一体的に接合される載置部を形成することが容易となり、また、載置部において結合材としての役割を有するガラスに圧縮応力が加わった状態を作り出すことができる。ガラスは一般的に引張強度が弱いために、ガラスに圧縮応力が加わった状態とすることにより、載置部の強度が高められ、研削加工時の脱粒や欠け等の発生を抑制することができる。
こうして作製したスラリーを支持部1の凹型部に充填する。このとき必要に応じて、スラリー中の残留気泡を除去するための真空脱泡処理や充填率を高めるための振動を加えるとよい。支持部1に充填されたスラリーを十分に乾燥した後、ガラスの軟化点以上の温度で焼成することにより、載置部となる多孔質材が形成される。このときの焼成温度がガラスの軟化点より低いと、ガラスが支持部に融着しないため支持部1と載置部となる多孔質材を密着させることができない。反対に焼成温度が高過ぎても変形や収縮が生じるために支持部と多孔質材とを密着させることができない。したがって多孔質材の焼成温度は、ガラス軟化点以上のできるだけ低い温度で焼成することが望ましい。
載置部となる多孔質材の開気孔率と平均気孔径の調節は、基本的に、原料粉末であるセラミックス粉末の粒度分布を調整することによって行うことができる。また、セラミックス粉末とガラスの粉末の配合比率を変えること、スラリーの粘度を変えること、スラリーの支持部1への充填率を変えること、粒子状樹脂、繊維状樹脂、カーボン粉末等の焼失材を添加すること等によっても、多孔質材の開気孔率と平均気孔径を制御することができる。
載置部となる多孔質材の開気孔率を20%〜50%とし、平均気孔径を10μm〜100μmとするためには、セラミックス粉末として平均粒径が20μm〜300μmのものを用い、ガラスの粉末としては、その平均粒径がこのセラミックス粉末の平均粒径よりも小さいものを用いることが好ましい。具体的には、ガラスの粉末の平均粒径は、セラミックス粉末の平均粒径の1/3以下であることが好ましく、1/5以下であることがより好ましい。これは、ガラス粉末の平均粒径がセラミックス粉末よりも大きいと、セラミックス粉末の充填が阻害されて、後のガラス軟化点以上での焼成時に焼成収縮を起こし亀裂や隙間が生じる場合がある。
次に載置部2の少なくとも外周縁部の表面を加工して環状被覆部が形成される被溶射面を形成する。被溶射面は環状溝形であり、溝の深さは環状被覆部の厚さおよび加工代を考慮して設定する。このとき外周縁部だけでなく、必要に応じて載置部表面の平面加工を施すことが可能であり、また、支持部の上部または支持部の外周壁部の加工を行って、図4、5のような構造としても良い。
環状溝にプラズマ溶射またはローカイド溶射により溶射セラミック膜からなる環状被覆部3を形成する。溶射セラミック膜の原料はアルミナが好適である。必要に応じて溶射不要な箇所にマスキングを施すこともできる。本発明に好適な環状被覆部の気孔率は3〜10%である。この範囲であれば、気密性および強度を確保できるためである。気孔率は主として溶射距離、すなわち溶射ガンの先端から被溶射面である載置部までの距離に依存し、本発明においては100〜200mmの距離で溶射することにより調整できる。溶射距離が小さいと気孔率が小さくなり、溶射距離が大きいと気孔率が大きくなる傾向がある。これは、溶射距離が大きくなれば、噴霧された溶融セラミックスの温度の低下と速度の減少が起こるためである。プラズマ溶射の場合は、原料粉末の粒径は被溶射面である載置部の気孔率および気孔径によるが、密着性および気密性の点から平均粒径10〜30μm程度で調整すると良い。
こうして環状被覆部3が形成されたら、載置部2とともに平坦度が最終的に例えば0.8μm未満となるように、研削、研磨処理して載置面2aを形成する。このとき、上述の通り載置部と支持部とがそれぞれ実質的に隙間なく一体的に接合されているので、吸着面の平坦度を高めることができる。これにより、半導体ウエハWを吸着保持した際の半導体ウエハWの平坦度を高めることもできる。なお、載置部2および環状被覆部3とともに支持部1の上面を加工しても良い。
(実施例1〜4、および比較例1)図2に示した構造を有するものを、上述した製造方法にしたがって作製した。支持部は凹型容器形状の緻密質アルミナからなり気孔率0.3%、外径φ250mm、高さ(厚さ)31.5mm、凹型部の内径205mm、深さ16.5mmの形状を有し、その熱膨張係数は8.0×10−6/℃である。アルミナ粉末(平均粒径125μm)、ガラス粉末(ほう珪酸ガラス、平均粒径:20μm、熱膨張係数40×10−7/℃、軟化点750℃)および蒸留水を100:20:20の質量比で混合し、ミキサーを用いて混錬してスラリーとした後、支持部の凹型部に注型し、真空脱泡を行った後、振動を加えて沈降充填させた。100℃で乾燥させた後、1000℃にて焼成した。次に載置部となる多孔質材の外周表面をダイヤモンド砥石で研削し、被溶射面である環状溝を形成した後、環状溝に0.8mmの厚さでプラズマ溶射によりアルミナ溶射膜を形成した。溶射条件は、原料;アルミナ粉末(99.9%、平均粒径20μm)、出力;50kW、溶射雰囲気;アルゴン+水素、ガン送り速度300mm/sとした。溶射条件を調べるために、溶射距離を変化させて気孔率および進入深さの異なる環状被覆部を持つ5つの真空吸着装置を作製した。最後に載置面の平坦度を1.0μm未満とすべく載置部、環状被覆部および支持部上面を#800ダイヤモンド砥石で研削し、載置面を得た。環状被覆部は外径205mm、内径199mm、厚み0.5mmとした。載置部の厚みは15mmとし、最終的な支持部の厚み、すなわち真空吸着装置の厚みは30mmとした。なお、これらの載置部の気孔率は32%、気孔径は36μmであった。それぞれ、アルキメデス法、水銀圧入法により測定した(以下、載置部の気孔率、気孔径について同様に測定した)。
(実施例5)上記例と同様の支持部にアルミナ粉末(平均粒径50μm)、ガラス粉末(ほう珪酸ガラス、平均粒径:3μm、熱膨張係数40×10−7/℃、軟化点750℃)および蒸留水を100:20:30の質量比で混合したスラリーを注型し、以下、上記した例と同様の条件で焼成、溶射等を行って、環状被覆部を形成した後、載置面を得た。載置部の気孔率は38%、気孔径は15μmであった。
(比較例2)上記例と同様の支持部にアルミナ粉末(平均粒径20μm)、ガラス粉末(ほう珪酸ガラス、平均粒径:3μm、熱膨張係数40×10−7/℃、軟化点750℃)および蒸留水を100:20:50の質量比で混合したスラリーを注型し、以下、上記した例と同様の条件で焼成、溶射等を行って、環状被覆部を形成した後、載置面を得た。載置部の気孔率は39%、気孔径は8μmであった。
(比較例3)図6に示したような支持部(気孔率:0.3%、外径:φ250mm、高さ(厚さ):31.5mm、凹型部分の内径199mm、深さ:16.5mm)の凹型部に実施例と同様のスラリーを注型した後、100℃で乾燥し、1000℃で焼成した。最後に載置部および支持部上面を上記例と同様に研削し、載置面を得た。
(評価方法)作製した各真空吸着装置の環状被覆部の気孔率は、各真空吸着装置から環状被覆部の小片を採取し、アルキメデス法により求めた。溶射セラミックスの載置部への進入深さは、載置面に垂直に切断した断面の載置部と環状被覆部との境界(境界長さ5mm)について5箇所顕微鏡観察して各観察箇所の最大進入深さを求め、5箇所の平均を進入深さとした。吸着力の評価は、8インチウエハを吸着させたときに、真空度がゲージ圧50kPaまで達したものを○、達しなかったものを×とした。ウエハの平坦度については、−50kPaの真空度(ゲージ圧)で真空吸着した8インチウエハ(直径200mm、厚さ800μm)の研磨加工を行った後、レーザー干渉式測定器により平坦度を測定した。
Figure 0004666656
本発明の範囲内である実施例1〜5では、十分な吸着力が得られ、ウエハの平坦度も良好であった。実施例5では、他の実施例と比べて気孔径が小さかったものの50μmの進入深さを有しており吸着力およびウエハの平坦度は良好であった。
一方、本発明の範囲外である比較例1では、吸着力は十分であったものの環状被覆部の気孔率が13.8%と大きく、また進入深さも40μmと不十分であったため、被覆部の研削不良や一部に剥離が起きてウエハの平坦度が悪くなった。比較例2では、溶射セラミックの進入深さが小さいためアンカー効果が発揮されず、載置面の平面加工の際に環状被覆部の剥離が起きたため十分な吸着力が得られなかった。ウエハの外周端部が気孔率0.3%の緻密質支持部に載置される比較例3では、ウエハの平坦度が2.4μmとなり、実施例と比べて著しく平坦度が悪かった。これは、載置部と緻密質支持部との支持剛性に大きな差があったためと思われる。
本発明の真空吸着装置の斜視図である。 本発明の真空吸着装置の平面図およびAA’垂直断面図である。 本発明の真空吸着装置の使用態様を示す模式断面図である。 本発明の他の形態を示す模式断面図である。 本発明の他の形態を示す模式断面図である。 従来の真空吸着装置の模式断面図である。
符号の説明
1;支持部
10、101、102;本発明の真空吸着装置
103;従来の真空吸着装置
2;載置部
2a;載置面
3、31、32;環状被覆部
4;吸引孔
5;吸引溝
W;被吸着物

Claims (5)

  1. 緻密質セラミックスからなる支持部と、前記支持部と実質的に隙間なく一体的に接合されたセラミックス/ ガラス複合多孔質材からなる載置部と、前記載置部の外周縁部表面に設けられた気孔率3〜10%の溶射セラミックスからなる環状被覆部と、から構成され、前記環状被覆部の溶射セラミックスはアンカー効果を発揮するように載置部の気孔に進入していることを特徴とする真空吸着装置。
  2. 前記環状被覆部の溶射セラミックスは載置部の気孔に進入しており、その進入深さが50μm以上であることを特徴とする請求項1記載の真空吸着装置。
  3. 被吸着物の外周端部が前記環状被覆部上に位置するように載置されることを特徴とする請求項1または2記載の真空吸着装置。
  4. アルミナ粉末または炭化珪素粉末と、ガラス粉末と、水またはアルコールとを加えて混合してスラリーを調整する工程と、
    前記載置部が形成される支持部の凹部に前記スラリーを充填するスラリー充填工程と、
    前記凹部にスラリーが充填された支持部をガラスの軟化点以上の温度で焼成する工程と、
    前記焼成工程によりスラリーを焼成して得られた載置部の少なくとも外周縁部の表面を研削加工して被溶射面を形成する工程と、
    被溶射面にセラミックスを溶射して環状被覆部を形成する工程と、
    載置部および環状被覆部の表面を研削加工して載置面を形成する工程と、
    を含むことを特徴とする請求項1〜3に記載の真空吸着装置の製造方法。
  5. 被吸着物の外周端部が前記環状被覆部上に位置するように載置する請求項1〜3記載の真空吸着装置を用いた被吸着物の吸着方法。
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