従来、原水を電気分解してアルカリ性電解水や酸性電解水を生成する電解水生成装置には、電極や隔膜を備えた電解槽に原水を連続的に通水しながら電極間に電圧を印加することで電解水を連続的に生成するものがある。
従来の一般的な電解水生成装置の構成の模式図を図7に示す。この電解水生成装置では電解槽6内は隔膜5により陰極室4と陽極室2とに隔てられ、陰極室4には陰極3が、陽極室2には陽極1が、それぞれ配設されている。
このような電解水生成装置では、水道水等のカルシウムイオンを含む飲用可能な水(原水)を電解槽6内に通水しながら、陰極3と陽極1との間に電圧を印加することにより原水に直流電流を通電すると、原水に含まれるカルシウムイオン等の陽イオンは陰極3に、陰イオンは陽極1に引き寄せられて、電極の表面において接触している水は電気分解されて下記に示した反応が起こる。
陰極反応
2H2O+2e-→H2+2OH-
陽極反応
H2O→1/2O2+2H++2e-
すなわち、電気分解によって陰極室4では水酸化物イオン、水素ガスを含有したpH値がアルカリ性のアルカリ性電解水を生成し、陽極室2では酸素ガスを含有したpH値が酸性の酸性電解水を生成する。
なお、原水の電気伝導率が低い場合には、所定のpH値のアルカリ性電解水を生成するために電解補助剤としてカルシウム化合物等を添加する必要がある。
図8は電解水生成装置の構成の一例を示したものである。図示の例では、電解槽6内は隔膜5により陰極室4と陽極室2とに隔てられ、陰極室4には陰極3が、陽極室2には陽極1が、それぞれ配設されている。電解槽6に原水を供給する原水供給路7は、陰極室4に直接連通する陰極側原水供給路7aと、陽極室2に直接連通する陽極側原水供給路7bとに分岐されている。また、原水供給路7には浄水部17と電解質供給装置18が設けられている。浄水部17は、原水中に含まれる有機物、無機物あるいは次亜塩素酸などの臭気成分を除去するものであり、通常、抗菌活性炭フィルタ及び中空糸膜などのマイクロフィルターにて構成されている。また電解質供給装置18は、原水の電気伝導率が低い場合に所定のpH値のアルカリ性電解水を生成するため、原水に電解補助剤としてカルシウム化合物等を添加するものである。また、陰極室4にはこの陰極室4で生成されたアルカリ性電解水を吐出する吐水経路(アルカリ水吐出路9)が接続され、また陽極室2にはこの陽極室2で生成された酸性電解水を吐出する吐水経路(酸性水吐出路8)が接続されている。
このように構成される電解水生成装置では、陰極3及び陽極1の間に電圧が印加された状態で、原水供給路7を通水する原水が浄水部17にて浄化された後、陰極側原水供給路7a及び陽極側原水供給路7bを通じてそれぞれ陰極室4及び陽極室2へ供給される。このとき原水に含まれるカルシウムイオン等の陽イオンは陰極3に、陰イオンは陽極1に引き寄せられ、電極の表面において接触している水は電気分解されて上記と同様の電極反応が起こり、陰極室4ではアルカリ性電解水を生成し、陽極室2では酸性電解水を生成する。
生成したアルカリ性電解水及び酸性電解水は、アルカリ水吐出路9及び酸性水吐出路8から吐出されるものであり、このように電解水が連続的に生成されるものである。生成されるアルカリ性電解水は胃腸症状の改善に有効な医療用物質(治療用水)であり、pH9〜10の範囲で飲用に供される。
このような電解水生成装置としては、例えば特許文献1に開示されているように、生成された電解水のpHを算出し、この算出したpHが所定値となるように電解電圧値、電解電流値、原水供給量等を調整し、所望のpHの電解水を生成するものがある。
ところで、アルカリ性電解水の特性値としては、pHのほか、ミネラル量、酸化還元性電位、及び水素含有量が挙げられる。特にアルカリ性電解水の酸化還元電位の指標において還元性を示す物質量である水素量に着目すべき場合もある。すなわち、近年では生体内におけるスーパーオキサイドアニオンラジカル(O2 -)或いはハイドロキシラジカル(OH・)と水素との反応が検証されつつあり、その安全性の高さからもアルカリ性電解水は水素の抗酸化活性力による他疾患への適用も視野に入れた検討が進められている。
また飲用に供する場合のみならず、食品の保存・安定化の維持等の食品加工等も視野に入れた場合、水素を高効率に生成してアルカリ性電解水に安定量を含有させることができる電解水生成装置が望まれている。
しかし、単に電解時の通電量を増大させたり電解時間を長くするなどして電解効率を図っただけでは、アルカリ性電解水のpHがアルカリ側に大きく傾き過ぎて飲用に向かないアルカリ性電解水が生成されてしまう。このため、pHを所定範囲に維持しつつ水素生成効率を向上することが望まれるようになってきている。
そこで、水素に着目した電解方法として、例えば特許文献2に示されるように水道水から純水を調製し、更にNaClを加えてその電解効率を100μS/cm以上に調整した上で電気分解し、得られたアルカリ性電解水を中性に調整するといった方法もあるが、装置が大がかりとなってしまい、一般家庭で使用するためには更に簡便な構成の装置が求められる。
特開平11−64274号公報
特開平10−118653号公報
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1に第一の実施形態を示す。本実施形態では、電解槽6内に陰極3と陽極1とが間隔をあけて対向して配設されている。陽極1の周囲には透水性の隔膜5が設けられている。すなわち、前記透水性の隔膜5の内側にて形成される陽極室2内に陽極1が配設されており、電解槽6内の前記陽極室2を除く部分にて構成される陰極室4内に陰極3が配設されている。前記透水性の隔膜5としては、例えば適宜の多孔質膜が設けられる。
電解槽6内に原水を供給する原水供給路7は陰極室4に接続され、陽極室2には直接は接続されていない。このため、原水は原水供給路7を介してまず陰極室4に供給され、陰極室4から隔膜5を介して陽極1に供給されるようになっている。
この原水供給路7には、原水中に含まれる有機物、無機物あるいは次亜塩素酸などの臭気成分を除去するための浄水部17が設けられている。この浄水部17は例えば抗菌活性炭フィルタ及び中空糸膜などのマイクロフィルターにて構成することができる。また、この原水供給路7には供給量調整手段11として、原水供給路7を通水する原水の通水量を調整するための流量調整弁11aが設けられている。供給量調整手段11は、原水供給路7を通じた陰極室4への原水の供給量を調整する機能を有する。
また、陰極室4にはこの陰極室4にて生成されたアルカリ性電解水を電解槽6の外部へ吐出するためのアルカリ水吐出路9が接続されており、一方陽極室2にはこの陽極室2にて生成された酸性電解水を電解槽6の外部へ吐出するための酸性水吐出路8が接続されている。前記アルカリ水吐出路9には、吐出量比変更手段10として、このアルカリ水吐出路9におけるアルカリ性電解水の通水量を調整するための流量調整弁10aが設けられている。この吐出量比変更手段10は、アルカリ水吐出路9を通じた陰極室4からのアルカリ性電解水の吐出量と、酸性水吐出路8を通じた陽極室2からの酸性電解水の吐出量との比を変更するものである。
このように構成される電解水生成装置の動作を説明する。まず陰極3と陽極1との間に電圧が印加された状態で、原水が原水供給路7を通じて電解槽6の陰極室4に供給される。このとき原水は浄水部17を通過することで有機物、無機物、次亜塩素酸等の臭気成分などが除去される。
陰極室4に供給された原水は、陰極室4内を満たすと共に透水性の隔膜5を介して陽極室2内にも供給されてこの陽極室2内も満たす。
このとき電解槽6内では陰極室4内の陰極3表面で下記に示す陰極反応が生じると共に、陽極室2内の陽極1表面で下記に示す陽極反応が生じる。
陰極反応
2H2O+2e- →H2+2OH-
陽極反応
H2O→1/2O2+2H++2e-
これにより、陰極室4内では水素を含むアルカリ性電解水が生成され、陽極室2内では酸性電解水が生成される。
そして、アルカリ性電解水はアルカリ水吐出路9を通じて電解槽6の外部へ吐出され、酸性電解水は酸性水吐出路8を通じて電解槽6の外部へ吐出される。
このとき、上記の陰極反応では水素ガスと水酸化物イオンの生成量の比率は一定であるため、通常はアルカリ性電解水のpH及び水素含有量は前記生成量の比率に応じた値となるはずであるが、図1に示す電解水生成装置では生成されるアルカリ性電解水のpHの上昇が抑制されて、pHの値に比して水素含有量が高いアルカリ性電解水を得ることができる。その理由は以下の通りであると推察される。
この電解水生成装置では、陽極室2へは原水は直接は供給されず、陰極室4から透水性の隔膜5を介して原水が供給されるため、陽極室2内の圧力は陰極室4内の圧力に比して負圧となる。このため陽極室2にて生成される酸性電解水の酸性水吐出路8を通じた吐出量は、陰極室4にて生成されるアルカリ性電解水のアルカリ水吐出路9を通じた吐出量に比して少なくなり、陰極室4内でのアルカリ性電解水の滞留時間よりも陽極室2内での酸性電解水の滞留時間が長くなるため、陽極室2内の酸性電解水中の水素イオン濃度は、陰極室4内でのアルカリ性電解水中の水酸化物イオン濃度よりも高くなる。すると、透水性の隔膜5付近における電位勾配が大きくなってこの隔膜5付近における水酸化物イオンと水素イオンとの中和反応が促進され、陽極室2内のアルカリ性電解水のpHの上昇が抑制されると考えられる。また、電解槽6に通水しながら原水の電解を行う過程では、陽極室2内には陰極室4にて生成されたアルカリ性電解水が透水性の隔膜5を通じて流入することとなるため、このとき陰極室4内の水酸化物イオンが陽極室2内に流入すると共に陰極室4内の水素はそのまま陰極室4内に残留し、これにより水素の発生量に比してアルカリ性電解水のpHの上昇が抑制されるとも考えられる。
このように構成される電解水生成装置では、隔膜5のうち陰極3と陽極1とに挟まれた位置に配置されている部分と陽極1との間の距離が、前記部分と陰極3との間の距離よりも小さくなるようにすることが好ましい。この場合、陰極3と隔膜5との間の空間よりも陽極1と隔膜5との間の空間が狭くなって流路抵抗がより大きくなり、このため陽極室2における酸性電解水の流速が遅くなる。そのため、陽極室2内における酸性電解水の滞留時間がより長くなり、それに伴って陰極室4内のアルカリ性電解水のpHの上昇が更に抑制される。
また、この電解水生成装置にて生成されるアルカリ性電解水のpHと水素含有量は、陰極3と陽極1との間の通電量、陰極室4への原水の供給量、並びに陰極室4からのアルカリ性電解水の吐出量と陽極室2からの酸性電解水の吐出量との比を変更することで制御することができる。陰極室4への原水の供給量は原水供給路7の流量調整弁11aを調整することにより変更することができ、また陰極室4からのアルカリ性電解水の吐出量と陽極室2からの酸性電解水の吐出量との比はアルカリ水吐出路9の流量調整弁10aを調整することで変更することができる。
図2は本実施形態において、陰極室4への原水の供給量を一定とした状態で、陰極3と陽極1との間の通電量、及び陰極室4からのアルカリ性電解水の吐出量と陽極室2からの酸性電解水の吐出量との比を変更した場合の、生成されるアルカリ性電解水のpHと水素含有量を測定した結果を示す。このとき、原水の水温は20℃、陰極室4への原水の供給量は2.5L/minとし、陰極3と陽極1との間の通電量は0.1〜4.0Aの範囲で変更したものである。また、この図2のグラフ中のイは(アルカリ性電解水の吐出量):(酸性電解水の吐出量)の比を2:1とした場合、ロはこの比を4:1とした場合、ハはこの比を8:1とした場合の結果を示す。
このグラフで示されるように、電極間の通電量を増大させることでアルカリ性電解水のpHが上昇すると、それに伴って水素含有量も上昇するが、酸性電解水の吐出量に対してアルカリ性電解水の吐出量が増大している場合には、水素イオン含有量の上昇に比してpHの上昇が抑制される。このため、流量調整弁10aを調整して前記吐出量を変更すると共に通電量を変更することで、所望のpHと水素含有量とを有するアルカリ性電解水を得ることができるものである。
また、更に流量調整弁11aを調整して陰極室4への原水の供給量を低減すると、陰極室4内におけるアルカリ性電解水の滞留時間が長くなることから、アルカリ性電解水の電解効率が向上し、アルカリ性電解水中の水素含有量を更に増大させることができるものである。
本実施形態において吐出量比変更手段10及び供給量調整手段11として設けられている各流量調整弁10a,11aは、流量を連続的に変更させることができるもの、流量を段階的に変更させることができるものの、いずれであっても良い。特に流量を連続的に変更させることができる流量調整弁10a,11aを設ければ、この流量調整弁10a,11aを調整することで、アルカリ性電解水のpHと水素含有量を細かく調整することが可能となる。
また、アルカリ性電解水の吐出量と酸性電解水の吐出量との比を変更するための吐出量比変更手段10としては、上記のようにアルカリ水吐出路9に流量調整弁10aを設けるほか、酸性水吐出路8に流量調整弁10aを設けたり、アルカリ水吐出路9と酸性水吐出路8に共に流量調整弁10aを設けるようにしても良い。またその他適宜の手段を設けて前記吐出量の比を変更することもできる。
また、陰極3への原水の供給量を変更するための供給量調整手段11としても、上記のように原水供給路7に流量調整弁11aを設けるほか、適宜の手段を採用してこの原水の供給量を変更しても良い。
図3に第二の実施形態を示す。本実施形態では、電解槽6内に複数の陰極3と陽極1とが交互に間隔をあけて一列に配設されている。隣り合う陰極3と陽極1との間は隔膜5を設けて仕切られている。これにより、陰極3が配設された複数の陰極室4と、陽極1が配設された複数の陽極室2とが交互に一例に配設され、各陰極室4と陽極室2とが隔膜5にて仕切られている。図示の例では合計三つの陽極室2が設けられていると共に各陽極室2の間に陰極室4が合計二つ設けられている。
この電解槽6には、各陰極室4に原水を供給する原水供給路7が設けられている。このとき原水供給路7は終端部で分岐して各陰極室4に接続されている。この原水供給路7は陰極室4のみに接続され、陽極室2には直接は接続されていない。このため、原水は原水供給路7を介してまず陰極室4に供給され、陰極室4から隔膜5を介して陽極1に供給されるようになっている。
この原水供給路7には、原水中に含まれる有機物、無機物あるいは次亜塩素酸などの臭気成分を除去するための浄水部17が設けられている。また、この原水供給路7には供給量調整手段11として、原水供給路7を通水する原水の通水量を調整するための流量調整弁11aが設けられている。
また、陰極室4にはこの陰極室4にて生成されたアルカリ性電解水を電解槽6の外部へ吐出するためのアルカリ水吐出路9が接続されており、一方陽極室2にはこの陽極室2にて生成された酸性電解水を電解槽6の外部へ吐出するための酸性水吐出路8が接続されている。このときアルカリ水吐出路9は始端側で分岐して各陰極室4に接続され、酸性水吐出路8は始端側で分岐して各陽極室2に接続されている。また、前記アルカリ水吐出路9には、吐出量比変更手段10として、このアルカリ水吐出路9におけるアルカリ性電解水の通水量を調整するための流量調整弁10aが設けられている。
また、各陰極3及び陽極1には、この陰極3と陽極1との間に電圧を印加するための直流電源32が電気配線を介して接続されている。このとき、陽極1に接続されている電気配線には、電流密度分布変更手段12として、この電気配線の通電をオンオフするスイッチ13が設けられている。図示の例では二つの陽極1に接続されている各電気配線にそれぞれスイッチ13が設けられているが、一方の陽極1に接続されている電気配線のみにスイッチ13を設けても良い。
このように構成される電解水生成装置の動作を説明する。まず陰極3と陽極1との間に電圧が印加された状態で、原水が原水供給路7を通じて電解槽6の陰極室4に供給される。このとき原水は浄水部17を通過することで有機物、無機物、次亜塩素酸等の臭気成分などが除去される。陰極室4に供給された原水は、陰極室4内を満たすと共に透水性の隔膜5を介して陽極室2内にも供給されてこの陽極室2内も満たす。
このように陰極室4及び陽極室2に原水が供給されると、電解槽6内では陰極室4内の陰極3表面で上記電極反応が生じ、陰極室4内では水素を含むアルカリ性電解水が生成され、陽極室2内では酸性電解水が生成される。アルカリ性電解水はアルカリ水吐出路9を通じて電解槽6の外部へ吐出され、酸性電解水は酸性水吐出路8を通じて電解槽6の外部へ吐出される。
本実施形態でも、上記各実施形態と同様に陽極室2へは原水は直接は供給されず、陰極室4から透水性の隔膜5を介して原水が供給されることから、生成されるアルカリ性電解水のpHの上昇が抑制されて、pHの値に比して更に水素含有量が高いアルカリ性電解水を得ることができる。また生成されるアルカリ性電解水のpHと水素含有量を、陰極3と陽極1との間の通電量、陰極室4への原水の供給量、並びに陰極室4からのアルカリ性電解水の吐出量と陽極室2からの酸性電解水の吐出量との比を変更することで制御することができる。
また、このとき上記スイッチ13が全て閉じている場合には、複数の陰極3と陽極1のうち全ての陰極3と陽極1との間で通電が生じ、上記の電極反応が生じる。このとき、各電極の表面には全体としてほぼ均一な電流密度の分布が生じている。そして、各陰極室4で生成したアルカリ性電解水が合流して混合されてアルカリ水吐出路9を通じて電解槽6の外部へ吐出され、また各陽極室2で生成した酸性電解水が合流して混合されて酸性水吐出路8を通じて電解槽6の外部へ吐出されるものである。
一方、二つのスイッチ13のうち一方をオンにすると共に他方をオフにする場合には、オフにしたスイッチ13が設けられている電気配線に接続されている陽極1と、この陽極1と隣り合う陰極3との間には通電が生じなくなる。すなわち、この陰極3の表面と、この陰極3に対向する各陽極1の表面における電流密度が0となり、陰極3全体では通電が生じている面と通電が生じていない面が生じるという電流密度の粗密の分布が生じ、陽極1全体でも通電が生じている面と通電が生じていない面が生じるという電流密度の粗密の分布が生じる。この場合、通電が生じている陰極3と陽極1の表面間では上記電極反応が生じて陰極室4でアルカリ性電解水が生成されると共に陽極室2で酸性電解水が生成されるが、通電が生じていない陰極3と陽極1の表面間では上記電極反応は生じず、アルカリ性電解水と酸性電解水は生成されない。
そして、陰極室4で生成したアルカリ性電解水が電解されていない水と合流して混合することにより希釈された状態でアルカリ水吐出路9を通じて電解槽6の外部へ吐出され、また陽極室2で生成した酸性電解水が電解されていない水と合流して混合することにより希釈された状態で酸性水吐出路8を通じて電解槽6の外部へ吐出されるものである。
このように電極全体において電流密度の粗密を発生させた場合に、電流密度の粗密が生じていない場合と比べて、電流密度の低い部分(電流密度が0の部分)が生じていることから、その分だけ電流密度が高い部分での電流密度を増大させる必要があるが、このとき生成されるアルカリ性電解水のpHの値に対応する水素含有量が増大することとなる。すなわち、同一のpHの値を有するアルカリ性電解水を生成する場合、電流密度に粗密を発生させた方が、アルカリ性電解水中に含まれる水素含有量が増大するものである。その理由は次の通りであると推察される。
陰極3と陽極1との間で電解反応が生じて陰極室4でアルカリ性電解水が生成すると共に陽極室2で酸性電解水が生成する場合、この陰極室4と陽極室2とを仕切る隔膜5付近では、陰極室4で生成した水酸化物イオンと陽極室2で生成した水素イオンとの間で中和反応が生じ、この中和反応にて消費された水酸化物イオンと水素イオンの分だけ、アルカリ性電解水のpHが増大されると共に酸性電解水のpHが低減される。このとき、隔膜5を介して対向する陰極3と陽極1の各表面における電流密度が増大すると、隔膜5付近における水酸化物イオンと水素イオンの濃度が増大して中和反応が促進される。この中和反応の反応速度は化学反応速度論によれば、水酸化物イオンと水素イオンの各濃度にそれぞれ比例するため、例えば水酸化物イオンと水素イオンの各濃度がそれぞれ2倍になると、中和反応は4倍の速度で進行することとなり、水酸化物イオンと水素イオンの濃度上昇の度合いよりも、中和反応で消費される水酸化物イオンと水素イオンの量の増大の度合いの方が大きくなる。このため、電流密度の粗密の分布を大きくした状態で同一のpHのアルカリ性電解水を得ようとすると、電流密度の粗密の分布がない場合やこの分布が小さい場合と比べて、電解槽6内における全体の通電量を増大させて上記の電極反応を促進する必要がある。そして、このように全体の通電量を増大させると、電解反応によって陰極3表面で生成する水素の全体量も増大する。このため、電解槽6から吐出されるアルカリ性電解水の水素含有量が、pHの値に比して増大するものである。
従って、本実施形態の電解水生成装置では、上記スイッチ13をオフにして電極表面における電流密度の粗密を増大させることで(すなわち一部の電極における電流密度を0にすることで)、生成されるアルカリ性電解水のpHの値に比してその水素含有量を更に増大させることができる。また、スイッチ13をオフにした状態とオンにした状態とを切り替えることで、pHに対する水素含有量を変更し、所望のpH及び水素含有量を有するアルカリ性電解水を生成することができるものである。
ここで、図4は本実施形態と同様の構成により複数枚の陰極3及び陽極1を設けた電解水生成装置において、陰極室4への原水の供給量を2.5L/minとした状態で、陰極3と陽極1との間の通電量を0.1〜4.0Aの範囲で変更した場合の、生成されるアルカリ性電解水のpHと水素含有量を測定した結果を示す。このとき、複数の電極のうちの一部について通電をオンオフすることにより、互いに対向し合う陰極3及び陽極1の表面のうち通電が生じている領域と生じていない領域とを発生させると共に、この通電の生じていない領域の、電極全体に対する割合を変化させている。図4のグラフ中のイは電極表面の総面積に対する、通電が生じている領域の割合を100%とした場合、ロはこの割合を70%とした場合、ハはこの割合を40%とした場合の結果を示す。
このグラフで示されるように、電極間の通電量を増大させることでアルカリ性電解水のpHが上昇すると、それに伴って水素含有量も上昇し、またこのとき電極表面における通電の生じていない領域の割合が低くなって電極全体における電流密度の粗密の偏りが大きくなる程、水素イオン含有量の上昇に比してpHの上昇が抑制される。このため、一部の電極への通電のオンオフを制御することにより、アルカリ性電解水におけるpHと水素含有量とを所望の値になるように調整することができるものである。
また、このようにスイッチ13をオフにしてアルカリ性電解水を生成するにあたり、本実施形態のように複数(二つ)のスイッチ13を設けている場合には、各スイッチ13を繰り返し交互にオンオフさせることもできる。この場合、電極表面における電解反応が生じる電極反応が生じる面とこの電解反応が生じない面とが交互に入れ替わることとなり、電極寿命を延ばすことができる。この場合、例えば原水の電解を開始してから一定時間が経過するごとにスイッチ13のオンオフを切り替えたり、或いは電解槽6の通水量が一定量となるごとにスイッチ13のオンオフを切り替えたりすることができる。
尚、本実施形態では陽極1に接続されている電気配線にスイッチ13を設けたが、勿論陰極3に接続される電気配線にスイッチ13を設けても良い。また、本実施形態では陽極1を二個設けて各陽極1に接続される電気配線にスイッチ13を設けたが、三個以上の陽極1又は陰極3を設けてそれぞれ接続される電気配線にスイッチ13を設け、オンにするスイッチ13の個数を1個、2個、3個・・・と変更するようにすれば、アルカリ性電解水におけるpHの値に対する水素含有量を更に細かく変更して所望のpH及び水素含有量を有するアルカリ性電解水を生成することができるものである。
図5に第三の実施形態を示す。本実施形態では、第一の実施形態の構成に加えて、第二の実施形態とは異なる構成を有する電流密度分布変更手段12が設けられている。本実施形態では、電流密度分布変更手段12として遮蔽部材14が設けられている。この遮蔽部材14は板状に形成され、電解槽6内における陽極1と陰極3との間の空間に向けてこの電極間の対向方向と直交する方向に進退移動可能に形成されている。また遮蔽部材14の前記進退移動を駆動するための適宜のアクチュエータ等からなる駆動装置19が設けられている。ここで、遮蔽部材14は陰極3と陽極1との間の空間の外側に配置されて陰極3と陽極1の間に介在していない状態から、前記空間に向けて移動することにより前記空間において陰極3と陽極1の間に介在してこの陰極3と陽極1の間を一部遮蔽している状態の間で移動可能なものであり、また遮蔽部材14の前記空間に向けての突出寸法を調整することで、前記空間における遮蔽部材14にて遮蔽される領域の面積を調整することができる。
本実施形態でも、第一の実施形態と同様にしてアルカリ性電解水と酸性電解水を生成して吐出することができ、このとき第一の実施形態と同様にアルカリ性電解水のpHの上昇が抑制されて、pHの値に比して水素含有量が高いアルカリ性電解水を得ることができ、且つ所望のpH及び水素含有量を有するアルカリ性電解水を得ることができる。
ここで、遮蔽部材14が陰極3と陽極1との間の空間の外側に配置されていて陰極3と陽極1の間に介在していない状態であれば、陰極3と陽極1の各対向面ではほぼ均一な通電が生じ、この表面で上記の電極反応が生じる。
一方、遮蔽部材14が陰極3と陽極1の間の空間に突出して陰極3と陽極1の間に介在することによりこの陰極3と陽極1の間を一部遮蔽している状態では、陰極3と陽極1の各対向面における遮蔽部材14にて遮蔽されている領域では電流密度が相対的に低減され、この対向面における遮蔽部材14にて遮蔽されていない領域では電流密度が相対的に増大するという、電流密度の粗密の分布が生じる。
このように電極全体において電流密度の粗密を発生させた場合に、電流密度の粗密が生じていない場合と比べて、電流密度の低い部分が生じていることから、その分だけ電流密度が高い部分での電流密度を増大させる必要があるが、このとき生成されるアルカリ性電解水のpHの値に対応する水素含有量が増大することとなる。すなわち、同一のpHの値を有するアルカリ性電解水を生成する場合、電流密度に粗密を発生させた方が、アルカリ性電解水中に含まれる水素含有量が増大するものである。その理由は、第二の実施形態において電流密度の粗密を発生させた場合と同様であると推察される。
また、遮蔽部材14の陰極3と陽極1との間の空間に向けての突出寸法を調整すると、電極における電流密度の粗密の分布を変動させることができる。これにより、アルカリ性電解水におけるpHの値に対する水素含有量を変更して所望のpH及び水素含有量を有するアルカリ性電解水を生成することができるものである。このとき、前記突出寸法を大きくして遮蔽部材14により陰極3と陽極1の間が遮蔽される領域を増大させる程、電流密度の分布の偏りを大きくして、生成されるアルカリ性電解水のpHの値に対応する水素含有量をより増大させることができる。
従って、このような電流密度分布変更手段12を設けることで、生成されるアルカリ性電解水のpHの値に対する水素含有量を更に向上することができ、簡便な構成にてpHの値の上昇を抑制しつつ高い水素含有量を有するアルカリ性電解水を得ることができる。また、電流密度の粗密の分布を調整することで生成されるアルカリ性電解水のpHと水素含有量を調整することができ、所望のpHと水素含有量とを有するアルカリ性電解水を得ることができるものである。
図6に第四の実施形態を示す。本実施形態では、第一の実施形態の構成に加えて、第二及び第三の実施形態とは異なる構成を有する電流密度分布変更手段12が設けられている。本実施形態における電流密度分布変更手段12は、対向して配置されている陽極1と陰極3のうち少なくとも一方を、この電極の対向方向と直交する方向に移動させるものであり、図示の例では陰極3を電極間の対向方向と直交する方向に移動可能に形成し、また電極位置変位手段15として前記陰極3の移動を駆動する適宜のアクチュエータ等からなる駆動装置19が設けられている。
本実施形態でも、第一の実施形態と同様にしてアルカリ性電解水と酸性電解水を生成して吐出することができ、このとき第一の実施形態と同様にアルカリ性電解水のpHの上昇が抑制されて、pHの値に比して水素含有量が高いアルカリ性電解水を得ることができ、且つ所望のpH及び水素含有量を有するアルカリ性電解水を得ることができる。
ここで、陰極3の陽極1側の面全体と陽極1の陰極3側の面全体とが正対している状態では、陰極3と陽極1の各対向面ではほぼ均一な通電が生じ、この表面で上記の電極反応が生じる。
一方、電極位置変位手段15により陰極3の位置を電極間の対向方向と直交する方向に変位させると、陰極3の陽極1側の面における陽極1と正対している領域、並びに陽極1の陰極3側の面における陰極3と正対している領域が低減する。そうすると、陰極3の陽極1側の面における陽極1と正対している領域では電流密度が相対的に増大し、前記陽極1側の面における陽極1と正対していない領域では電流密度が相対的に低減するという、電流密度の粗密が生じる。また陽極1の陰極3側の面における陰極3と正対している領域では電流密度が相対的に増大し、前記陰極3側の面における陰極3と正対していない領域では電流密度が相対的に低減するという、電流密度の粗密が生じる。
このように電極全体において電流密度の粗密を発生させた場合に、電流密度の粗密が生じていない場合と比べて、電流密度の低い部分が生じていることから、その分だけ電流密度が高い部分での電流密度を増大させる必要があるが、このとき生成されるアルカリ性電解水のpHの値に対応する水素含有量が増大することとなる。すなわち、同一のpHの値を有するアルカリ性電解水を生成する場合、電流密度に粗密を発生させた方が、アルカリ性電解水中に含まれる水素含有量が増大するものである。その理由は、第二の実施形態において電流密度の粗密を発生させた場合と同様であると推察される。
また、陰極3の電極間の対向方向と直交する方向での変位量を調整すると、電極における電流密度の粗密の分布を変動させることができる。これにより、アルカリ性電解水におけるpHの値に対する水素含有量を変更して所望のpH及び水素含有量を有するアルカリ性電解水を生成することができるものである。このとき、陰極3の陽極1側の面における陽極1と正対している領域、並びに陽極1の陰極3側の面における陰極3と正対している領域を低減させる程、電流密度の分布の偏りを大きくして、生成されるアルカリ性電解水のpHの値に対応する水素含有量をより増大させることができる。
従って、このような電流密度分布変更手段12を設けることで、生成されるアルカリ性電解水のpHの値に対する水素含有量を更に向上することができ、簡便な構成にてpHの値の上昇を抑制しつつ高い水素含有量を有するアルカリ性電解水を得ることができる。また、電流密度の粗密の分布を調整することで生成されるアルカリ性電解水のpHと水素含有量を調整することができ、所望のpHと水素含有量とを有するアルカリ性電解水を得ることができるものである。