JP4662641B2 - ステンレス鋼被覆アーク溶接棒 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶接作業性が優れたステンレス鋼被覆アーク溶接棒に関し、特に、ピット及びブローホール等の耐気孔欠陥性が優れたステンレス鋼被覆アーク溶接棒に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ステンレス鋼被覆アーク溶接棒(以下、溶接棒ともいう)には、金属炭酸塩とチタン酸化物とをベースとしたチタニア(TiO2)系(JIS:日本工業規格、及びAWS:アメリカ溶接協会の規格では−16タイプに区分される)に加えて、チタニアの一部をシリカ(SiO2)に置換したチタニア−シリカ系(AWS:アメリカ溶接協会の規格では−17タイプに区分される)が多用されている。このうち、−17タイプは−16タイプに比べてアーク力が強く、溶接作業性が優れていることから、近時、多用されてきている。
【0003】
而して、ステンレス鋼の溶接金属において、Siは凝固時に粒界に低融点フィルムを形成するため、高温割れを起こしやすいことから、Siの含有量はできるだけ低い方が望ましい。
【0004】
また、ステンレス鋼被覆アーク溶接棒の気孔は、一般的に被覆剤の水分量が少ないほど、またシールドガス発生量、即ち、金属炭酸塩が多いほど、更に金属弗化物が多いほど防止でき、同一水分量では−16タイプ溶接棒より高シリカである−17タイプ溶接棒の方が気孔が発生しやすいことは周知のことである。
【0005】
更に、一般的に被覆アーク溶接棒における被覆の固着には水ガラス(珪酸カリ水溶液、珪酸ソーダ水溶液又は両者の混合液)を使用するため、製造時に200℃以上の高温で焼成した後、大気に放置すると被覆剤への水分の吸着(以下、吸湿という)が起こり、これが原因で気孔欠陥が発生することも周知のことである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、近時多用されている−17タイプ溶接棒は、被覆剤中の多量のシリカにより、溶接金属へSiが還元し、この溶接金属中のSi含有量が増大して、溶接金属の規格から外れてしまうという問題点がある。この溶接金属中のSiの増大により、前述のごとく、溶接金属の高温割れが発生する虞がある。また、−17タイプの溶接棒は、大気中に長時間放置すると、溶接金属に気孔欠陥が発生しやすい。このため、高温多湿の日本を含む東南アジア等では、この−17タイプの溶接棒は使用しにくいものである。
【0007】
なお、−17タイプ又は高シリカタイプの溶接棒は、前述のAWSの他にも、特開昭57−130797号公報に開示されている。しかし、この公報においては、被覆剤の明確な数値限定がなく、また、溶接金属のSi含有量の低減及び気孔欠陥の改善に関して何ら言及されていない。
【0008】
従って、アーク特性が良好で溶接作業性に優れていると共に、Si含有量が低く、気孔欠陥が発生しにくい溶接金属が得られる−17タイプの溶接棒の開発が望まれていた。
【0009】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、−17タイプ溶接棒としての特性を保持することができると共に、溶接金属のSi含有量の低減により高温割れを防止することができ、更に気孔欠陥の発生を防止できるステンレス鋼被覆アーク溶接棒を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るステンレス鋼被覆アーク溶接棒は、ステンレス鋼心線を被覆剤で被覆したステンレス鋼被覆アーク溶接棒において、前記被覆剤は、被覆剤全質量に対して、金属炭酸塩:CO2換算値で2.5乃至10質量%、チタン酸化物:TiO2換算値で25乃至45質量%、金属弗化物:F換算値で1.5乃至7質量%及び珪酸化合物:SiO2換算値で15乃至30質量%を含有し、更に、酸化鉄、酸化クロム、酸化ニッケル及び酸化マンガンからなる群から選択された1種又は2種以上を総量で3乃至18質量%含有し、金属粉末が30質量%以下に規制されており、チタン酸化物、珪酸化合物、酸化鉄、酸化クロム、酸化ニッケル及び酸化マンガンは、粒径が350μm以下のものをこれらの酸化物全質量に対して80質量%以上含有し、粒径が10μm以下の微粒のものをこれらの酸化物全質量に対して15乃至45質量%含有することを特徴とする。
【0011】
この場合に、チタン酸化物、珪酸化合物、酸化鉄、酸化クロム、酸化ニッケル及び酸化マンガンは、粒径が350μm以下のものをこれらの酸化物全質量に対して80質量%以上含有し、粒径が10μm以下の微粒のものをこれらの酸化物全質量に対して15乃至45質量%含有することが好ましい。なお、本発明においては、チタン酸化物、珪酸化合物、酸化鉄、酸化クロム、酸化ニッケル及び酸化マンガンを総称して特定酸化物という。
【0012】
また、前記特定酸化物を含めて、全ての被覆剤は、粒径が350μm以下のものを被覆剤全質量に対して80質量%以上含有し、粒径が10μm以下の微粒を被覆剤全質量に対して15乃至45質量%含有することが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例に係るステンレス鋼被覆アーク溶接棒について詳細に説明する。上述のように、高シリカである−17タイプ溶接棒は溶接金属のSi含有量が高くなり過ぎて高温割れを引き起こし、且つ気孔欠陥が発生しやすく、健全な溶接金属が得られないことから、本願発明者等はその改善について種々検討した。
【0014】
その結果、溶接のような高温において、酸素との結合がSiより弱いFe、Cr、Ni及びMn酸化物の添加が溶接金属のSi増加を抑制するとの知見を得た。また、被覆剤の全部又は一部の原料の粒径を特定することにより、乾燥直後は勿論、大気放置後でも安定した作業性を保持し、且つ気孔欠陥が発生しないという知見を得た。本発明はこれらの知見を得て完成されたものである。
【0015】
本発明の特徴は、溶接金属のSi含有量を低く抑えるため、高温で酸素との結合力がSiより弱い酸化物を添加すること、更に被覆剤の一部又は全部の原料の粒径を特定することにより、耐気孔性を改善したことにある。
【0016】
即ち、溶接のような高温において、酸素との結合力がSiより小さいFe、Cr、Ni及びMn酸化物の添加が溶接金属中のSiの増加を抑制する。図1は横軸に鉄及びマンガン酸化物の総量をとり、縦軸に溶接金属のSi含有量をとって、鉄酸化物とマンガン酸化物との総量と溶接金属のSi含有量との関係を示すグラフ図である。図1に示す溶接においては、心線径を3.2mmとし、溶接電流を105A(AC:交流)としてJIS Z3221に規定されている溶接条件により溶接したものである。図1に示すように、酸化物の総量が3質量%未満では、溶接金属中のSi含有量が高いが、酸化物の総量が3質量%以上であると溶接金属中のSi含有量が低下し、溶接金属中のSi含有量を抑制する効果が十分に得られる。しかし、酸化物の総量が18質量%を超えると、スラグの剥離性が劣化する。このため、酸化物の総量は3乃至18質量%とする。他のCr及びNi酸化物についても同様であり、結局、酸化鉄、酸化クロム、酸化ニッケル及び酸化マンガンの総量を3乃至18質量%とすることにより、溶接金属のSi含有量を低減することができる。
【0017】
一方、被覆剤をステンレス鋼心線に被覆するときの塗装性を向上させるためには、被覆剤原料の粒径が350μm以下のものが被覆剤全質量に対して80質量%以上であることが有効である。
【0018】
更に、原料の粒径が10μm以下の微粒は、被覆剤の混練及び塗装に必要な水ガラス量を減少させて吸湿量を低下させる効果があるので、大気放置後の気孔欠陥の発生を抑制することができる。更にまた、このような微粒は被覆剤中に均一に分散してアークを安定にし、アーク力を増す働きがあるので、溶融金属の撹拌が十分に行われて気孔が溶融金属から浮上しやすくなり、欠陥発生を防止する作用がある。
【0019】
図2は横軸に粒径が10μm以下の原料(酸化チタン及び長石)の含有量をとり、縦軸にビード長100mm以内に発生したピット数(個)をとって、粒径が10μm以下の酸化チタン及び長石の微粒の添加量を変えてシングルビードに発生したピット数を測定したものを示す。図2に示す溶接においては、直径が3.2mmの溶接棒を温度30℃、相対湿度が80%の条件で4時間放置して吸湿させ、板厚が6mmのSUS304の母材を使用して、溶接電流が105A(AC)の条件で、水平板の上に垂直板を立てて、水平すみ肉溶接したものである。図2に示すように、微粒の含有量が15質量%未満ではピットの発生を防止できないことがあるが、15質量%以上では、ピット数が0になっている。逆に、微粒の含有量が45質量%を超えると、高温焼成時に被覆が割れてしまうことがある。このため、微粒の含有量は15乃至45質量%とすることが好ましい。
【0020】
なお、図2のデータは特定酸化物のうち、酸化チタン及び長石についてのものであるが、その他の酸化物、即ち、長石以外の珪砂等の珪酸化合物、又は酸化鉄、酸化クロム、酸化ニッケル及び酸化マンガンの粒径を規定しても同様の効果が得られる。この場合は、チタン酸化物、珪酸化合物、酸化鉄、酸化クロム、酸化ニッケル及び酸化マンガンからなる特定酸化物の総量に対する粒度の割合を規定する必要がある。
【0021】
また、図2は特定酸化物の粒度に関するデータであるが、この特定酸化物について得られた結果は、被覆剤全体の粒度構成を規制した場合にも該当し、特定酸化物のみでなく、被覆剤全体の粒度を10μm以下の微粒が被覆剤全質量に対して15乃至45質量%とすることにより、耐気孔性をより安定して向上させることができる。
【0022】
なお、図1及び2の説明における粒径とはHELOS&RODOS社製のレーザ回折式粒度分布測定装置により測定したものである。
【0023】
以下、本発明のステンレス鋼被覆アーク溶接棒の組成及び数値限定理由について説明する。
【0024】
金属炭酸塩:CO 2 換算値で2.5乃至10質量%
金属炭酸塩の配合は、アーク中で分解してCO2ガスを発生し溶融金属を大気から遮断する作用及びスラグの塩基度を高めて溶接金属のS又はO等を抑えて清浄度を上げる作用がある。被覆剤全質量に対してCO2換算値で金属炭酸塩の含有量が2.5質量%未満では、この働きが不十分である。逆に、被覆剤全質量に対してCO2換算値で金属炭酸塩の含有量が10質量%を超えると、アーク力が低下して溶接作業性が劣化する。従って、被覆剤全質量に対してCO2換算値で金属炭酸塩の含有量は2.5乃至10質量%とする。なお、金属炭酸塩には、石灰石、炭酸バリウム、炭酸マンガン、炭酸ソーダ、炭酸マグネシウム及び炭酸リチウム等がある。
【0025】
チタン酸化物:TiO 2 換算値で25乃至45質量%
チタン酸化物の配合は、アークを安定にし、スラグの流動性、被包性及び剥離性を良好にし、ビード外観及びビード形状を良好にする。被覆剤全質量に対してチタン酸化物の含有量がTiO2換算値で25質量%未満では、この効果が得られない。逆に、被覆剤全質量に対してチタン酸化物の含有量がTiO2換算値で45質量%を超えると、スラグの流動性がなくなり、スパッタが増える。従って、被覆剤全質量に対してチタン酸化物の含有量はTiO2換算値で25乃至45質量%とする。なお、チタン酸化物としては、ルチル、酸化チタン、イルミナイト、チタン酸カリ及びチタン酸カルシウム等がある。
【0026】
金属弗化物:F換算値で1.5乃至7質量%
金属弗化物の配合は、スラグの流動性を確保してビード形状を良好にすると共に、ピットの発生を防止する作用がある。被覆剤全質量に対して金属弗化物の含有量がF換算値で1.5質量%未満では、この作用が不十分である。逆に、被覆剤全質量に対して金属弗化物の含有量がF換算値で7質量%を超えると、アークが不安定になり、スラグの剥離性が劣化する。従って、被覆剤全質量に対して金属弗化物の含有量はF換算値で1.5乃至7質量%とする。なお、金属弗化物としては、蛍石、氷晶石、弗化マグネシウム、弗化ソーダ、弗化アルミニウム、弗化バリウム、弗化リチウム及び弗化カリ等がある。
【0027】
珪酸化合物:SiO 2 換算値で15乃至30質量%
珪酸化合物は、アーク中の溶滴の移行を小粒にして、所謂−17タイプ溶接棒の特徴であるスプレーアーク化するのに必須であり、且つスラグの粘性を調節してビード形状を良好にする作用がある。被覆剤全質量に対して珪酸化合物の含有量がSiO2換算値で15質量%未満では、この作用が得られない。逆に、被覆剤全質量に対して珪酸化合物の含有量がSiO2換算値で30質量%を超えると、スラグの剥離性が劣化する。従って、被覆剤全質量に対して珪酸化合物の含有量はSiO2換算値で15乃至30質量%にする。より好ましい珪酸化合物の含有量は被覆剤全質量に対してSiO2換算値で16乃至25質量%である。なお、珪酸化合物としては長石、珪砂、珪灰石、マイカ、タルク、カオリン、珪酸ソーダ、珪酸カリ及び珪酸リチウム等がある。
【0028】
酸化鉄、酸化クロム、酸化ニッケル及び酸化マンガンからなる群から選択された1種又は2種以上:総量で3乃至18質量%
図1に示すように、酸化鉄、酸化クロム、酸化ニッケル及び酸化マンガンの酸化物の合計が総量で3質量%未満では、Si増加を抑制する効果を十分に得られない。一方、酸化鉄、酸化クロム、酸化ニッケル及び酸化マンガンが総量で18質量%を超えると、スラグの剥離が劣化する。このため、酸化鉄、酸化クロム、酸化ニッケル及び酸化マンガンからなる群から選択された1種又は2種以上の含有量は総量で3乃至18質量%とする。
【0029】
金属粉末:30質量%以下
金属粉末はFe−Si、Fe−Ti、Fe−Al、Mn,Al及びMg等の脱酸剤を添加する他に、使用する心線の成分と目的とする溶接金属の成分により、Cr、Ni、Mo、Nb又はこれらの鉄合金を添加することにより被覆剤中に含有させることができる。脱酸剤は溶接金属の酸素量を下げて延性及び靭性を改善する効果がある。脱酸剤以外のその他の金属粉末は成分調整のために添加される。これらの金属粉末の含有量が30質量%を超えると、溶接時の心線による発熱で保護筒が軟化する所謂棒焼けが発生する。このため、金属粉末の含有量は30質量%以下に規制する。
【0030】
チタン酸化物、珪酸化合物、酸化鉄、酸化クロム、酸化ニッケル及び酸化マンガンからなる特定酸化物の粒度構成:粒径が350μm以下のものをこれらの酸化物全質量に対して80質量%以上含有し、且つ粒径が10μm以下の微粒のものをこれらの酸化物全質量に対して15乃至45質量%含有
前述のごとく、被覆剤の塗装性を向上させるために、上述の特定酸化物において、粒径が350μm以下のものの含有量が被覆剤全質量に対して80質量%以上であることが有効である。また、図2に示すように、この特定酸化物のうち、粒径が10μm以下のものの含有量を15質量%以上とすることにより、ピットの発生を防止できる。一方、粒径が10μm以下のものの含有量が45質量%を超えると、高温焼成時に被覆が割れてしまうことがある。このため、粒径が10μm以下ものの含有量は15乃至45質量%とする。
【0031】
被覆剤の粒度構成:粒径が350μm以下のものを被覆剤全質量に対して80質量%以上含有し、且つ粒径が10μm以下の微粒を被覆剤全質量に対して15乃至45質量%含有
特定酸化物以外の被覆剤全体においても、被覆剤の塗装性を向上させるために、粒径が350μm以下のものの含有量が被覆剤全質量に対して80質量%以上であることが有効である。また、被覆剤全体においても、粒径が10μm以下のものの含有量を15質量%以上とすることにより、ピットの発生を防止できる。一方、粒径が10μm以下のものの含有量が45質量%を超えると、高温焼成時に被覆が割れてしまうことがある。このため、被覆剤全体において、粒径が10μm以下ものの含有量は15乃至45質量%とすることが好ましい。
【0032】
本発明の被覆剤の構成は以上のとおりであるが、更に、アークの安定性及びスラグの特性を変更するため、Al2O3、Na2O、K2O、MgO及びZr2O3等をその合計が15質量%以下となるように添加しても、本発明の溶接棒の特性は本発明の目的を損なうものではない。
【0033】
次に、本発明におけるステンレス鋼心線について説明する。本発明の心線は、JIS Z3221及びAWS A5.4に規定されているCr−Ni系又はCr系ステンレス鋼溶着金属が得られることを前提とした心線である。また、本発明のステンレス鋼被覆アーク溶接棒は被覆率が25乃至55%であることが望ましい。被覆率が25%未満では、保護筒の形成が不十分である虞がある。一方、被覆率が55%を超えると、乾燥割れが発生し、生産性が低下する虞がある。被覆率とは、溶接棒全質量あたりの被覆剤の質量の百分率(%)のことである。
【0034】
【実施例】
以下、本発明の特許請求の範囲に入る実施例について、その特性を本発明の範囲から外れる比較例と比較して具体的に説明する。先ず、本実施例のステンレス鋼被覆アーク溶接棒の製造方法について説明する。始めに、ステンレス鋼心線と被覆剤とを準備する。被覆剤に水ガラス(珪酸カリ、珪酸ソーダ及び珪酸リチウムの1種又は2種以上の混合水溶液)等の適当な固着剤を添加して混練した後、この被覆剤を心線に被覆する。その後、被覆心線を200乃至400℃の範囲の温度で1時間程度乾燥させて焼成する。これにより、ステンレス鋼被覆アーク溶接棒が得られる。
【0035】
参考例
下記表1及び2はステンレス鋼心線の組成を示す。但し、被覆剤組成が本発明の範囲を満たすものを実施例、満たさないものを比較例とした。ステンレス鋼心線は直径が3.2mm、長さが350mmである。また、下記表3乃至8は心線と被覆剤との組み合わせ並びに被覆剤の組成及び原料の組み合わせを示す。なお、下記表3乃至8に示す「−」は添加されていないことを示す。また、下記表6乃至8に示す「Fe−45%Si」はFeがSiを45質量%含有していることを示しており、他の元素についても同じである。なお、本実施例のステンレス鋼被覆アーク溶接棒は被覆径が5.7mmであり、被覆率が41%である。
【0036】
これらの溶接棒を使用して後述する各溶接条件で溶接し、溶接作業性の評価及びピット試験を行い、溶接金属のSi含有量を測定した。溶接作業性については、板厚が6mmのSUS304の板材を溶接電流が105A(AC)の条件で水平すみ肉溶接を行った。ピット試験については、供試溶接棒を温度150℃で1時間再乾燥させた後、30℃の温度で相対湿度が80%の雰囲気で4時間吸湿させて行った。そして、板厚が6mmのSUS304の板材を溶接電流が105A(AC)の条件で水平すみ肉溶接を行った。なお、このピット試験では、各供試溶接棒を夫々4本使用した。また、溶接金属のSi含有量はJIS Z3221に規定された方法により測定した。下記表9に溶接作業性、ピット試験及び溶接金属のSi含有量の試験結果を示す。
【0037】
溶接作業性の評価は、優秀であったものを◎とし、良好であったものを○とし、不良であったものを×とした。ピット試験の評価は、評価ビード長を200mmとし、試験した供試溶接棒において4本ともピットがビード全般にないものを◎とし、4本のうち1乃至3本にピットがビード全般になく、残りにピットがビード先端のみに発生したものを◎〜○とし、4本ともピットがビード先端のみに発生したものを○とし、4本ともピットがビード全般に発生したものを×とした。また、溶接金属のSi含有量の評価はJIS及びAWS規格の上限値0.90質量%に対して、この上限値以下のものを○とし、その上限値を超えるものを×とした。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
【表4】
【0042】
【表5】
【0043】
【表6】
【0044】
【表7】
【0045】
【表8】
【0046】
【表9】
【0047】
上記表9に示すように、実施例No.1乃至8はいずれも溶接作業性、ピット試験及び溶接金属のSi含有量において良好な結果を得ることができた。一方、比較例No.9は金属炭酸塩の含有量がCO2換算値で本発明の下限値(2.5質量%)未満であるため、シールドが不十分でピットが発生した。比較例No.10は金属炭酸塩の含有量がCO2換算値で本発明の上限値(10質量%)を超えているため、アーク力が不足し、スラグが邪魔をして溶接が困難であった。比較例No.11はチタン酸化物の含有量がTiO2換算値で本発明の下限値(25質量%)未満であるため、アークの安定性及びスラグの剥離性が劣化した。比較例No.12はチタン酸化物の含有量がTiO2換算値で本発明の上限値(45質量%)を超えているため、スパッタの発生量が極端に増加した。比較例No.13は金属弗化物の含有量がF換算値で本発明の下限値(1.5質量%)未満であるため、スラグの流動性がなくピットが発生した。比較例No.14は金属弗化物の含有量がF換算値で本発明の上限値(7質量%)を超えているため、アークが不安定となり、溶接が困難であった。比較例No.15は珪酸化合物がSiO2換算値で本発明の下限値(15質量%)未満であるため、アークがスプレー化しなかった。比較例No.16は珪酸化合物がSiO2換算値で本発明の上限値(30質量%)を超えているため、スラグの剥離性が劣化すると共に、溶接金属のSi含有量がJIS及びAWSの規格の上限値を超えた。比較例No.17は酸化物の合計が本発明の下限値(3質量%)未満であるため、溶接金属のSi含有量がJIS及びAWSの規格の上限値を超えた。比較例No.18は酸化物の合計が本発明の上限値(18質量%)を超えているため、スラグの剥離性が劣化し、溶接が困難であった。比較例No.19は金属粉末の合計が本発明の上限値(30質量%)を超えているため、溶接中に保護筒が不十分となり、棒焼けが発生して溶接が困難であった。
【0048】
実施例
本実施例は特定酸化物及び被覆剤全体の粒径を加味したものである。下記表10乃至13に示す組成を有する被覆剤を表1及び2に示す心線に被覆したステンレス鋼被覆アーク溶接棒を使用し、参考例と同様にして溶接を行い、溶接作業性及びピット試験を行った。また、被覆アーク溶接棒の生産性についても試験した。この生産性は製品歩留で評価した。この場合、製品歩留(%)とは製品量(kg)/原材料投入量(kg)×100で求められた値のことであり、心線も含む溶接棒全体の歩留まりのことである。この結果を表14に示す。なお、表10乃至表13に示す「−」は添加されていないことを示す。また、表12及び13の欄に示す「粒径」はHELOS&RODOS社製のレーザ回折式粒度分布測定装置により測定したものである。
【0049】
溶接作業性の評価は、優秀であったものを◎とし、良好であったものを○とし、不良であったものを×とした。ピット試験の評価は、ビード長さ200mmについて行い、試験した供試溶接棒において4本ともピットがビード全般にないものを◎とし、4本のうち1乃至3本にピットがビード全般になく、残りにピットがビード先端のみに発生したものを◎〜○とし、4本ともピットがビード先端のみに発生したものを○とし、4本ともピットがビード全般に発生したものを×とした。
【0050】
【表10】
【0051】
【表11】
【0052】
【表12】
【0053】
【表13】
【0054】
【表14】
【0055】
上記表14に示すように、実施例No.21乃至23及び実施例No.26乃至30はいずれも請求項1及び2を満足するものであり、生産性、溶接作業性及びピット試験の結果が非常に優れていた(◎)。なお、比較例No.20は特定酸化物及び被覆剤全体において、粒径が10μm以下のものの含有量が請求項1及び2の下限値未満であるが、生産性、溶接作業性及びピット試験については良好(○)であった。比較例No.24は特定酸化物及び被覆剤全体において、粒径が10μm以下のものの含有量が請求項1及び2の上限値を超えているが、生産性については良好(○)であった。比較例No.25は特定酸化物において、粒径が10μm以下のものの含有量が請求項1の上限値を超えているが、生産性については良好(○)であった。比較例No.31は特定酸化物において、粒径が10μm以下のものの含有量が請求項1の下限値未満であるが、溶接作業性については良好(○)であり、ピット試験については優れていた(◎〜○)。実施例No.32は被覆剤全体において、粒径が10μm以下のものの含有量が請求項2の下限値未満であるが、溶接作業性については良好(○)であり、ピット試験については優れていた(◎〜○)。実施例No.33は被覆剤全体において、粒径が10μm以下のものの含有量が請求項2の上限値を超えているが、生産性については良好(○)であった。
【0056】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明によれば、先ず、第1に−17タイプ溶接棒としての特性を保持するために被覆剤の組成を適切に規定し、第2にチタン酸化物、珪酸化合物、鉄酸化物、酸化クロム、酸化ニッケル及び酸化マンガンの特定酸化物の組成を規定することにより、−17タイプ溶接棒の特性を保持しつつ、溶接金属のSi含有量の低減化を図って高温割れを防止し、更に気孔欠陥の発生を防止することができる。また、特定酸化物の粒度構成を規定することにより、塗装性を向上させることができる。更に、被覆剤全体の粒度構成を規定することにより、塗装性を更に一層向上させることができると共に、気孔欠陥の発生をより一層防止できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】横軸に鉄及びマンガン酸化物の総量をとり、縦軸に溶接金属のSi含有量をとって、鉄酸化物とマンガン酸化物との総量と溶接金属のSi含有量との関係を示すグラフ図である。
【図2】横軸に粒径が10μm以下の原料(酸化チタン及び長石)の含有量をとり、横軸にビード長100mm以内に発生したピット数をとって、酸化チタン及び長石の粒径が10μm以下の微粒の添加量を変えてシングルビードに発生したピット数を測定した結果を示すグラフ図である。
Claims (2)
- ステンレス鋼心線を被覆剤で被覆したステンレス鋼被覆アーク溶接棒において、前記被覆剤は、被覆剤全質量に対して、金属炭酸塩:CO2換算値で2.5乃至10質量%、チタン酸化物:TiO2換算値で25乃至45質量%、金属弗化物:F換算値で1.5乃至7質量%及び珪酸化合物:SiO2換算値で15乃至30質量%を含有し、更に、酸化鉄、酸化クロム、酸化ニッケル及び酸化マンガンからなる群から選択された1種又は2種以上を総量で3乃至18質量%含有し、金属粉末が30質量%以下に規制されており、チタン酸化物、珪酸化合物、酸化鉄、酸化クロム、酸化ニッケル及び酸化マンガンは、粒径が350μm以下のものをこれらの酸化物全質量に対して80質量%以上含有し、粒径が10μm以下の微粒のものをこれらの酸化物全質量に対して15乃至45質量%含有することを特徴とするステンレス鋼被覆アーク溶接棒。
- 前記被覆剤は粒径が350μm以下のものを被覆剤全質量に対して80質量%以上含有し、粒径が10μm以下の微粒を被覆剤全質量に対して15乃至45質量%含有することを特徴とする請求項1に記載のステンレス鋼被覆アーク溶接棒。
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