JP4658293B2 - アンチ立体配置を有する光学活性β−アミノアルコール類の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ラセミ体のα−アミノケトン類を出発原料として、医薬農薬の合成中間体として有用なアンチ立体配置を有する光学活性β−アミノアルコール類を、エナンチオ選択的、ジアステレオ選択的かつ高收率に製造する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
光学活性β−アミノアルコール類を製造する方法としては以下の方法が知られている。
▲1▼α−(置換アミノ)アルデヒドと金属試薬との反応による方法
特開昭50−137911 *(anti/sin=4.3〜2.5/1 )
J.Org.Chem.,55,1439(1990).
▲2▼光学活性α−アミノケトンのジアステレオ選択的還元による方法
Tetrahedoron.Lett.,35,547(1994)
▲3▼光学活性α−アルコキシイミンのジアステレオ選択的還元による方法
J.Chem.Soc.Chem.Commun.,746(1987)
▲4▼α−アミノ−β−ケト酸のジアステレオ選択的水素化による方法
J.Am.Chem.Soc.,111,9134(1989)
J.Am.Chem.Soc.,115,144(1993)
▲4▼ケトオキシムの不斉還元
特開平9−25592
上述した従来法のうち、▲1▼、▲5▼の方法はアンチ異性体の生成率が高いものの、廃液等の問題から工業的なアンチ異性体の製造には適さない。▲2▼、▲3▼の方法は、あらかじめ光学活性体の原料を製造しておかねばならず煩雑であり、▲4▼の方法は、分子内にカルボキシル基のような官能基を含む基質に対しては、高いジアステレオ選択性で光学活性β−アミノアルコールを製造することが可能であるが、分子中にその様な官能基をもたない単純β−アミノアルコール類の光学活性体を製造することは困難である。
このため従来より、ラセミ体原料を用いて、アンチ立体配置の光学活性β−アミノアルコール類を製造するための、一般性の高い、高収率かつ立体選択的な製造方法の開発が望まれていた。
なお、本発明において、アンチ立体配置を有する化合物(アンチ異性体)とは、炭素鎖を主鎖としてジグザグに左右方向に置いた場合に、その上下方向にそれぞれ置換するアミノ基とヒドロキシル基が異なる面を向くような立体配置を有するものをいう。
【0003】
【発明の解決しようとする課題】
本発明は入手容易なラセミ体のα−アミノカルボニル化合物を出発原料として、アンチ立体配置を有するβ−アミノアルコール類の実用的製造法を提供することを目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記問題点を解決するために、本発明は、下記一般式(1)
Ra−CO−CH(NHCOORb)−Rc (1)
〔式中、Ra、Rcは、同一又は相異なって、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基をそれぞれ表す。
Rbは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基をそれぞれ表す。]で表されるラセミ体のα−アミノカルボニル化合物類に光学活性遷移金属化合物及び塩基の存在下に水素あるいは水素を供与する化合物を作用させることを特徴とする、下記一般式(2)
Ra−C*H(OH)−C*H(NHCOORb)−Rc (2)
(式中、Ra、Rb及びRcは前記と同じ意味を表し、C*は光学活性炭素を表す。)
で表されるアンチ立体配置を有する光学活性β−アミノアルコール類を製造する方法を提供する。
本発明のアンチ立体配置を有する光学活性β−アミノアルコール類の製造法において、前記光学活性遷移金属化合物は光学活性均一系水素化触媒であるのが好ましい。
前記光学活性均一系水素化触媒は、より好ましくは、下記一般式(6)
MaXYPxmNxn (6)
(式中、Maは、第VIII族金属原子を表し、X,Yは、同一又は相異なって、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基又はアルコキシル基を表し、Pxは、ホスフィン配位子を表し、Nxは、アミン配位子を表し、m、nは0又は1〜4の整数を表し、PxとNxのうち少なくとも一方は光学活性である。)で表される遷移金属化合物である。
また、本発明のアンチ立体配置を有する光学活性β−アミノアルコール類の製造法において、前記塩基としては、下記一般式(7)
Mbm'Zn' (7)
(式中、Mbは、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンを表し、Zは、OH-、RO-(Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す)、芳香族アニオン、
HS-又はCO3 2-を表し、m'、n'は1〜3の整数を表す。)
で表される化合物であるのが好ましい。
本発明によれば、医薬農薬の合成中間体として有用なアンチ立体配置を有する前記一般式(2)で表されるアンチ立体配置を有する光学活性β−アミノアルコール類を、高選択的かつ高収率に製造することができる。
【0005】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明は、上述したように前記一般式(1)で表されるα−アミノカルボニル化合物類に、遷移金属化合物及び塩基の存在下に、水素または水素を供与する化合物を作用させることを特徴とする、前記一般式(2)で表されるアンチ立体配置を有する光学活性β−アミノアルコール類の製造方法である。
【0006】
本発明の原料化合物は、下記一般式(1)
Ra−CO−CH(NHCOORb)−Rc (1)
式中、Ra、Rcは、同一又は相異なって、置換基を有していてもよい直鎖もしくは分岐のアルキル基、置換基を有していてもよい直鎖もしくは分岐のアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基をそれぞれ表す。
Rbは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基をそれぞれ表す。
前記一般式(1)において、Ra、Rcの置換基を有していてもよい直鎖もしくは分岐のアルキル基、置換基を有していてもよい直鎖もしくは分岐のアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基の置換基としては、本反応を阻害することのない置換基であれば、その置換位置、置換基の種類、置換基の数等に特に制限はない。
かかる置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル基等のアルキル基、
メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、t−ブトキシ基等のアルコキシ基、
メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、イソプロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基、
ベンゼン環の任意の位置に置換基を有していてもよいフェニル基、
ナフタレン環の任意の位置に置換基を有していてもよい、1−ナフチル、2−ナフチル基等のナフチル基、
フラン、ピラン、ジオキソラン、ジオキサン、ピロール、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、トリアゾール、チアゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピラジン、ベンゾイミダゾール、ベンゾピラゾール、ベンゾチアゾール、キノリン等の複素環の基(これらの基は、任意の位置に置換基を有していてもよい)、及び、
フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子等を挙げることができる。
前記置換基を有していてもよい直鎖もしくは分岐のアルキル基のアルキル基としては、メチル,エチル,プロピル,イソプロピル、ブチル,sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル,イソペンチル,ネオペンチル,tert−ペンチル,ヘキシル,ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ドデシル基等の炭素数1〜20のアルキル基を例示することができる。
前記置換基を有していてもよい直鎖もしくは分岐のアルケニル基のアルケニル基としては、ビニル、1−プロペニル、2−プロペニル、1−イソプロペニル、1−ブテニル、1−イソプロペニル、2−ブテニル、3−ブテニル、1,3−ブタジエニル、1−ペンテニル、2−ペンテニル、3−ペンテニル等の炭素数2〜20のアルケニル基を例示することができる。
前記置換基を有していてもよいシクロアルキル基のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル,シクロブチル,シクロペンチル,シクロヘキシル基等の炭素数3〜8のシクロアルキル基を挙げることができる。
前記置換基を有していてもよいアラルキル基のアラルキル基としては、例えば、ベンジル、α−メチルベンジル、α,α−ジメチルベンジル、α−エチルベンジル基等の炭素数7〜20のアラルキル基を挙げることができる。
前記置換基を有していてもよいアリール基のアリール基としては、フェニル,1−ナフチル、2−ナフチル基等の芳香族炭化水素基、
フラニル、ピラニル、ジオキソラニル等の含酸素複素環基、
チエニル等の含イオウ複素環基、
ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、トリアゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、ピリジル、ピラダジル、ピラジニル、ベンゾイミダゾリル、ベンツピラゾリル、ペンゾチアゾリル、キノリル、アントラニル、インドリル、フェナントリニリル等の飽和若しくは不飽和の含窒素複素環基を例示することができる。
前記Rbとして、具体的には、水素原子、
メチル,エチル,プロピル,イソプロピル、ブチル,sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル,イソペンチル,ネオペンチル,t−ペンチル,ヘキシル,ヘプチル等の炭素数1〜10のアルキル基,
シクロプロピル,シクロブチル,シクロペンチル,シクロヘキシル等の炭素数3〜8のシクロアルキル基,
フェニル基,2−メチルフェニル,2−エチルフェニル,2−イソプロピルフェニル,2−t−ブチルフェニル,2−メトキシフェニル,2−クロロフェニル,2−ビニルフェニル,3- メチルフェニル,3−エチルフェニル,3−イソプロピルフェニル,3−メトキシフェニル,3−クロロフェニル,3−ビニルフェニル,4−メチルフェニル,4−エチルフェニル,4−イソプロピルフェニル,4−t−ブチルフェニル,4−ビニルフェニル,クメニル,メシチル,キシリル基、
1−ナフチル,2−ナフチル,アントリル,フェナントリル,インデニル基等の置換基を有していてもよいアリール基、
ベンジル、4−クロロベンジル、α−メチルベンジル基等の置換基を有していてもよい炭素数7〜20のアラルキル基,
ビニル,アリル、クロチル基等の炭素数2〜10のアルケニル基等を例示することができる。
【0007】
本発明で使用される光学活性遷移金属化合物は、光学活性均一系水素化触媒であるのが好ましい。かかる均一系水素化触媒としては、例えば、Ru,Rh,Ir,Pt等の周期律表第VIII族元素の遷移金属の錯体が好ましい。これらの遷移金属化合物は、例えば、Angew.Chem.Int.Ed.,37、1703(1998)等に記載の方法で合成、入手することができる。
前記遷移金属化合物は、一般式(6)で表される光学活性遷移金属錯体であるのがより好ましい。
MaXYPxmNxn (6)
式中、Maは、第VIII族金属原子を表し、X,Yは、同一又は相異なって、水素原子、ハロゲン原子、水酸基又はアルコキシ基を表し、Pxは、ホスフィン配位子を表し、Nxは、アミン配位子を表し、m,nはそれぞれ0又は1〜4の整数を表わし、PxとNxのうち少なくとも一方は光学活性である。PxとNxがともに光学活性でもよい。
前記一般式(6)中、Maは、Ru、Rh、Ir、Ptなどの第VIII族金属を表す。これらの内、錯体の安定性、入手容易性の点からRuの錯体が特に好ましい。
前記一般式(6)中、X、Yは、同一若しくは相異なって、水素原子、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ基等のアルコキシ基などのアニオンを表す。
前記ホスフィン配位子であるPxとしては、例えば、一般式PRARBRCで表されるリンの単座配位子やRDREP−W−PRFRGで表されるリンの2座配位子等を挙げることができる。
前記一般式PRARBRCにおいて、RA、RB、RCは、同一又は相異なって、アルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基又はシクロアルキル基等を表し、また、RA、RB、RCの内、二つが一緒になって、置換基を有していてもよい脂環式基を形成してもよい。
前記一般式PRARBRCが光学活性である場合には、RA、RB、RCのうち少なくとも一つの基が光学活性であるか、三つとも異なる置換基からなるリン原子が光学活性である。
前記一般式RDREP−W−PRFRGにおいて、RD、RE、RF、RGは、同一又は相異なって、アルキル基、置換基を有していてもよいフェニル基又はシクロアルキル基を表し、また、RDとREあるいはRFとRGが一緒になって置換基を有していてもよい脂環式基を形成してもよい。Wは、炭素数1〜5の炭化水素基、シクロ炭化水素基,アリール基又は不飽和炭化水素基等を表す。
前記一般式PRARBRCで表される単座ホスフィン配位子の例としては、例えば、トリメチルホスフィン,トリエチルホスフィン,トリブチルホスフィン,トリフェニルホスフィン,トリシクロヘキシルホスフィン,トリ(p−トリル)ホスフィン,ジフェニルメチルホスフィン,ジメチルフェニルホスフィン、イソプロピルメチルホスフィン、シクロヘキシル(O−アニシル)−メチルホスフィン、1−〔2−(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル〕エチルメチルエーテル、2−(ジフェニルホスフィノ)−2’−メトキシ−1,1’−ビナフチル等の3級ホスフィンがが好適なものとして挙げることができる。さらに、RA、RB、RCが三種とも異なる置換基からなるホスフィン配位子を用いることもできる。
前記一般式RDREP−W−PRFRGで表されるラセミあるいは光学活性の2座ホスフィン配位子の例としては、ビスジフェニルホスフィノメタン,ビスジフェニルホスフィノエタン,ビスジフェニルホスフィノプロパン,ビスジフェニルホスフィノブタン,ビスジメチルホスフィノエタン,ビスジメチルホスフィノプロパンなどの2座配位の3級ホスフィン化合物等を好適なものとして挙げることができる。
【0008】
さらに、入手可能な2座ホスフィン配位子として、例えば、BINAP:2,2’−ビス−(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、BINAPのナフチル環にアルキル基やアリール基置換基をもつBINAP誘導体、例えば、H8BINAP、BINAP等のリン原子に結合するベンゼン環にアルキル基等の置換基を1〜5個有するBINAP誘導体、例えば、Xylyl−BINAP:2,2’−ビス−(ジ−3,5−キシリルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル、さらにBICHEP:2,2’−ビス−(ジシクロヘキシルホスフィノ)−6,6’−ジメチル−1,1’−ビフェニル、BPPFA:1−[ 1’,2−ビス−(ジフェニルホスフィノ)フェロセニル] エチルジアミン、CHIRAPHOS:2,3−ビス−(ジフェニルホスフィノ)ブタン、CYCPHOS:1−シクロヘキシル−1,2−ビス−(ジフェニルホスフィノ)エタン、DEGPHOS:1−置換−3,4−ビス−(ジフェニルホスフィノ)ピロリジン、DIOP:2,3−O−イソプロピリデン−2,3−ジヒドロキシ−1,4−ビス−(ジフェニルホスフィノ)ブタン、DIPAMP:1,2−ビス[(O−メトキシフェニル)フェニルホスフィノ]エタン、DuPHOS:(置換−1,2−ビス(ホスホラノ)ベンゼン)、NORPHOS:5,6−ビス−(ジフェニルホスフィノ)−2−ノルボルネン、PNNP:N,N’−ビス−(ジフェニルホスフィノ)−N,N’−ビス[1−フェニルエチル]エチレンジアミン、PROPHOS:1,2−ビス−(ジフェニルホスフィノ)プロパン、SKEWPHOS:2,4−ビス−(ジフェニルホスフィノ)ペンタン等を挙げることができる。また、フッ素置換基をもつBINAP誘導体等を用いることもできる。もちろん、この発明に用いることのできるホスフィン配位子は、安定して金属錯体を形成し得るものであれば、これらに何ら限定されるものではない。
アミン配位子であるNxとしては、一般式NRHRIRJで表される窒素の単座配位子や一般式RKRLN−X−NRMRNで表されるジアミン配位子等を挙げることができる。
前記一般式NRHRIRJにおいて、RH、RI、RJは、同一又は相異なって、水素,アルキル基,アリール基,不飽和炭化水素基を表し、RH、RI、RJの内、二つが一緒になって置換基を有していてもよい脂環式基を形成してもよい。また、RH、RI、RJの少なくともひとつが光学活性基であってもよい。
【0009】
前記一般式RKRLN−X−NRMRNにおいて、RK、RL、RM、RNは、同一又は相異なって、水素、アルキル基、アリール基又は不飽和炭化水素基を表し、RKとRLあるいはRMとRNが一緒になって置換基を有していてもよい脂環式基を形成してもよい。
Xは、炭素数1〜5のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基又は不飽和炭化水素基等を表す。
前記一般式NRHRIRJで表されるモノアミン配位子としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジヘキシルアミン、ジシクロペンチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジベンジルアミン、ジフェニルアミン、フェニルエチルアミン、プロリン、ピペリジンなどのモノアミン化合物を例示することができる。さらに、光学活性モノアミン配位子としては、光学活性フェニルエチルミン、ナフチルエチルアミン、シクロヘキシルアミン、シクロヘプチルエチレンジアミン等の光学活性モノアミン化合物を例示することができる。 前記一般式RKRLN−X−NRMRNで表されるジアミン配位子としては、メチレンジアミン、エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、プロピレンジアン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、2,3−ジアミノブタン、1,2−シクロペンタンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、N−メチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N,N’−トリメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミンなどが例示される。また、光学活性ジアミンも用いる事ができる。例えば光学活性1,2−ジフェニルエチレンジアミン、1,2−シクロヘキサンジアミン、1,2−シクロヘプタンジアミン、2,3−ジメチルブタンジアミン、1−メチル−2,2−ジフェニルエチレンジアミン、1−イソブチル−2,2−ジフェニルエチレンジアミン、1−イソプロピル−2,2−ジフェニルエチレンジアミン、1−メチル−2,2−ジ(p−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1−イソブチル−2,2−ジ(p−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1−イソプロピル−2,2−ジ(p−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1−ベンジル−2,2−ジ(p−メトキシフェニル)エチレンジアミン、1−メチル−2,2−ジナフチルエチレンジアミン、1−イソブチル−2,2−ジナフチルエチレンジアミン、1−イソプロピル−2,2−ジナフチルエチレンジアミン等の光学活性ジアミン化合物を例示することができる。
【0010】
光学活性ジアミン化合物は例示した光学活性ジアミン誘導体に限るものではなく、更に光学活性なプロパンジアミン、ブタンジアミン、フェニレンジアミン、シクロヘキサンジアミン誘導体等も用いる事ができる。この発明に用いることのできるアミン配位子は、安定して金属錯体を形成し得るものであれば、これらに何ら限定されるものではない。
前記本発明において、上記均一系水素化触媒の使用量は、反応基質の種類、反応容器や経済性等によって異なるが、反応基質であるカルボニル化合物に対して、通常、モル比1/100〜1/10,000,000、好ましくは、1/200〜1/100,000の範囲である。
【0011】
また、本発明に用いられる塩基としては、一般式(7)
【0012】
Mbm'Zn' (7)
(式中、Mbは、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンを表し、Zは、OH-、RO-(Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す)、芳香族アニオン、
HS-又はCO3 2-を表し、m'、n'は1〜3の整数を表す。)
で表される化合物を用いることが好ましい。
【0013】
かかる塩基としては、KOH、KOCH3、KOCH(CH3)2、KOC(CH3)3、KC10H8、NaOH、NaOCH3、LiOH、LiOCH3、LiOCH(CH3)2、Mg(OC2H5)2、NaSH、K2CO3、Cs2CO3等を例示することができる。また、本発明においては、4級アンモニウム塩も塩基として同様に用いることができる。
【0014】
上記の塩基の使用量は、第VIII族遷移金属錯体に対して、通常、0.5〜100当量であり、好ましくは2〜40当量である。
反応は、通常、基質である前記一般式(1)で表されるα−アミノカルボニル化合物を不活性溶媒に溶解し、所定量の遷移金属錯体及び塩基の存在下に、水素または水素を供与する化合物を作用させることにより行われる。
反応に用いることのできる溶媒としては、不活性で反応原料(基質)及び触媒系を可溶化するものであれば、特に制限はない。かかる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、オクタンなどの脂肪族炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などの含ハロゲン炭化水素、エーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、アセトニトリル、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)、Nーメチルピロリドン、ピリジン、DMSO(ジメチルスルホキシド)等のヘテロ原子を含む有機溶媒を挙げることができる。
上記したものの内、本発明においては、生成物がアルコールであることからアルコール系溶媒が特に好適である。これら溶媒は単独でも用いることができるがこれらの混合溶媒としても使うことができる。
溶媒の使用量は、反応基質の溶解度及び経済性等により決定される。例えば、2−プロパノールを用いる場合は、基質濃度は1%以下の低濃度から基質だけの無溶媒に近い状態で行うことができるが、好ましくは20〜50重量%で用いることができる。
反応は、水素ガス又は水素を供与する化合物の存在下に行われる。水素ガスを用いる場合には、系内の水素圧力を1〜200気圧、好ましくは3〜100気圧の圧力下で行うのが望ましい。水素を供与する化合物としては、ヒドリド錯体や水素貯蔵合金等がある。
反応温度は、反応速度等を考慮して、−30〜100℃、好ましくは、15℃から100℃である。25℃〜40℃の室温付近でも実施する事ができる。反応は、反応基質濃度、温度、圧力等の反応条件によって異なるが、通常、数分から10時間で完結する。
なお、前記一般式(2)で表される光学活性アミノアルコールを工業的に大量製造する場合においては、反応形式はバッチ式であっても連続式であってもよい。
本発明により製造することができる一般式(2)で表される化合物、及び出発原料である一般式(1)で表される化合物の例を以下の表に示す。
【0015】
【表101】
【0016】
【表102】
【0017】
【表103】
【0018】
【実施例】
次に実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。
【0019】
実施例1
i) 光学活性2−t―ブトキシカルボニルアミノ−1−フェニルプロパノールの合成
100mlオートクレーブ中に2−プロパノール18ml、[(S)−Xylylbinap]Ru(II)Cl2[(S,S)DPEN]、22.4mg(0.02mmol)、0.5N−tBuOK/2−プロパノール溶液2.0ml、及び2−ブチルカルボニルアミノプロピオフェノン997mg(4.00mmol)をアルゴン雰囲気下に入れ、水素を12気圧まで圧入した。25℃にて22時間攪拌した後、反応混合物をシリカゲルショートカラム(溶離液=ジエチルエーテル)に付し、溶離液を減圧濃縮し、2−ブトキシカルボニルアミノ−1−フェニルプロパノール1004mg(収率100%)を得た。
得られた2−t−ブトキシカルボニルアミノ−1−フェニルプロパノールのジアステレオマ−比は、ヒドロキシル基が置換した炭素上プロトンの1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値から決定した(anti異性体δ=4.85、syn異性体δ=4.56)。anti異性体:syn異性体の生成比は2.22:1であった。
ii)光学純度の決定
異性体混合物のまま2−t−ブトキシカルボニルアミノ−1−フェニルプロパノール1004mg(4.00mmol)を100mlナスフラスコ中に3N塩酸20ml、メタノール10mlとともに入れ、1時間室温で撹拌した。メタノールを室温で減圧留去後、水層を酢酸エチルで洗浄した。水層に水酸化ナトリウムを添加して強塩基性として、クロロホルムで抽出分液した。有機層に塩化ベンゾイル349mg(3.08mmol)、トリエチルアミン1.0ml(7.44mmol)を加え、零度にて2時間撹拌後、水を添加し分液した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮して粗生成物を得た。この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=3:1)により精製し、2−ベンゾイルアミノ−1−フェニルプロパノール705mg(2.76mmol)を得た。さらに、このものをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)でそれぞれのジアステレオマーを分離した。アンチ体は高速液体クロマトグラフィー(キラルカラムOJ、エタノール:ヘキサン=1:5)によりそれぞれの鏡像体に分離でき、鏡像体過剰率は95%eeであった。
【0020】
実施例2
i) 光学活性2−t―イソプロポキシカルボニルアミノ−1−フェニルプロパノールの合成
100mlオートクレーブ中に2−プロパノール20ml、[(S)−Xylylbinap]Ru(II)Cl2[(S,S)DPEN]、11.2mg(0.01mmol)、0.5N−tBuOK/2−プロパノール溶液1.0ml、及び2−イソプロポキシカルボニルアミノプロピオフェノン471mg(2.00mmol)をアルゴン雰囲気下に入れ、水素を12気圧まで圧入した。25℃にて48時間攪拌した後、反応混合物をシリカゲルショートカラム(溶離液=ジエチルエーテル)に付し、溶離液を減圧濃縮し、2−イソプロポキシカルボニルアミノ−1−フェニルプロパノール433mg(収率91%)を得た。
得られた2−t−イソプロポキシカルボニルアミノ−1−フェニルプロパノールのジアステレオマ−比は、ヒドロキシル基が置換した炭素上プロトンの1H−NMRスペクトルのケミカルシフト値から決定した(anti異性体δ=4.85、syn異性体δ=4.56)、anti異性体: syn異性体の生成比は2.85:1であった。
ii)光学純度の決定
異性体混合物のまま2−t−イソプロポキシカルボニルアミノ−1−フェニルプロパノール433mg(1.82mmol)を100mlナスフラスコ中に3N塩酸10ml、メタノール10mlとともに入れ、、5時間還流した。メタノールを室温で減圧留去後、水層を酢酸エチルで洗浄した。水層に水酸化ナトリウムを添加して強塩基性として、クロロホルムで抽出分液した。有機層に塩化ベンゾイル212mg(1.51mmol)、トリエチルアミン0.6ml(4.11mmol)クロロホルム4mlを加え、零度にて1時間撹拌後、水を添加し分液した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、濃縮して粗生成物を得た。この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=2:1)により精製し、2−ベンゾイルアミノ−1−フェニルプロパノール400mg(1.37mmol)を得た。さらに、このものをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)でそれぞれのジアステレオマーを分離した。アンチ体は高速液体クロマトグラフィー(キラルカラムOJ、エタノール:ヘキサン=1:5)によりそれぞれの鏡像体に分離でき、鏡像体過剰率は94%eeであった。
【0021】
【発明の効果】
本発明によって、医薬農薬の合成中間体として有用なアンチ立体配置を有する光学活性β−アミノアルコール類、高選択的かつ高収率で、工業的に有利に製造することができる。
Claims (2)
- 一般式(1)
Ra−CO−CH(NHCOORb)−Rc (1)
〔式中、Ra、Rcは、同一又は相異なって、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基をそれぞれ表し、Rbは、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアリール基をそれぞれ表す。〕で表されるラセミ体のα−アミノケトン類に、一般式(3)
MaXYPxmNxn (3)
(式中、Maは、第VIII族金属原子を表し、X,Yは、同一又は相異なって、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、水酸基又はアルコキシル基を表し、Pxは、ホスフィン配位子を表し、Nxは、アミン配位子を表し、m、nは0又は1〜4の整数を表し、PxとNxのうち、少なくともどちらか一方は光学活性である。)で表される遷移金属錯体及び塩基の存在下で、水素あるいは水素を供与する化合物を作用させることを特徴とする、一般式(2)
Ra−C*H(OH)−C*H(NHCOORb)−Rc (2)
(式中、Ra、Rb及びRcは前記と同じ意味を表し、C*は光学活性炭素を表す。)で表されるアンチ立体配置を有する光学活性β−アミノアルコール類の製造方法。 - 前記塩基が、一般式(7)
Mbm'Zn' (7)
(式中、Mbは、アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンを表し、Zは、OH-、RO-(Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す)、芳香族アニオン、HS-又はCO3 2-を表し、m'、n'は1〜3の整数を表す。)で表される化合物である、請求項1に記載の光学活性β−アミノアルコール類の製造方法。
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