JP4656770B2 - クーリング層積層構造及びその形成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はクーリング性を必要とする部位、主として土木構造物や建築物の屋根や屋上、外壁、内壁、天井などに適用することで、太陽光照射時等の表面温度上昇時、特に夏期の日中においてもクーリング効果を発揮することができるクーリング層積層構造及びその形成方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、都市部において、コンクリート建造物や冷房等から排出される人工放射熱などにより、都市気候が作り出されている。特に夏期において都市部における温度の上昇は著しく、そのため建物内の冷房使用が頻繁になり、消費電力エネルギーが増加してしまう。このような日射による蓄熱や、室内温度の上昇を抑制する方法の一つとして、水の蒸発潜熱を利用した方法が提案されている。例えば、日射によって温度の上昇を生じた屋上や屋根に水を散水したり、さらにこれを持続させるために予めこれらの表面に吸水性物質等の保水体を被覆しておいたりするものである。しかし、このような表面の冷却方法は、人工的に保水体へ給水を行なうもので、新たに設備が必要となるためコストの面で大きな負担となり、また、屋上や屋根の構造も変えるという煩雑性を伴う問題があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、水の散水や、人工的な水の供給等を行わなくても、冷却効果(以下、「クーリング効果」ともいう。)が発揮され、夏期の冷房使用による消費電力エネルギーを節約することができる積層構造を提供することを目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者は鋭意検討の結果、大気中の水蒸気を自律的に吸湿し、太陽光等による熱によってその水分が気化し、太陽光等による熱量を水の蒸発潜熱に置換することでクーリング効果を発揮することができる積層構造に想到し、本発明を完成した。
【0005】
すなわち、本発明は以下の特徴を有するものである。
1.水蒸気吸脱着性がヒステリシス特性を有する吸放湿層上に、水蒸気透過性を有する透湿層を積層し、
吸放湿層が、(a)合成樹脂結合材を固形分で100重量部、(b)多孔質無機粉体を10〜600重量部、(c)(メタ)アクリル酸エステル類、アクリルアミド類、芳香族ビニル類、ビニルエステル類、ハロゲン化ビニル類から選ばれる1種または2種以上の単量体を共重合して得られる架橋構造を有するものであり、温度20±2℃、相対湿度45±5%における吸湿率10%以上であるカルボキシル基含有吸放湿性合成樹脂微粒子を2〜100重量部含有することを特徴とするクーリング層積層構造。
2.吸放湿層において、(a)がカルボキシル基含有合成樹脂結合材、(c)がカルボキシル基含有吸放湿性合成樹脂微粒子であり、さらに、(d)カルボジイミド基、エポキシ基、アジリジン基、オキサゾリン基から選ばれる1種以上の官能基を有する架橋剤を含有することを特徴とする1.に記載のクーリング層積層構造。
3.水蒸気吸脱着性がヒステリシス特性を有する吸放湿層上に、水蒸気透過性を有する透湿層を積層し、
吸放湿層が、(e)水硬性無機結合材を固形分で100重量部、(b)多孔質無機粉体を10〜600重量部、(c)(メタ)アクリル酸エステル類、アクリルアミド類、芳香族ビニル類、ビニルエステル類、ハロゲン化ビニル類から選ばれる1種または2種以上の単量体を共重合して得られる架橋構造を有するものであり、温度20±2℃、相対湿度45±5%における吸湿率10%以上であるカルボキシル基含有吸放湿性合成樹脂微粒子を2〜100重量部含有することを特徴とするクーリング層積層構造。
4.吸放湿層が、さらに、(a)合成樹脂結合材を固形分で1〜100重量部含有することを特徴とする3.に記載のクーリング層積層構造。
5.吸放湿層において、(a)がカルボキシル基含有合成樹脂結合材、(c)がカルボキシル基含有吸放湿性合成樹脂微粒子であり、さらに、(d)カルボジイミド基、エポキシ基、アジリジン基、オキサゾリン基から選ばれる1種以上の官能基を有する架橋剤を含有することを特徴とする4.に記載のクーリング層積層構造。
6.(b)が比表面積100m2/g以上の多孔質粉体であることを特徴とする1.〜5.のいずれかに記載のクーリング層積層構造。
7.透湿層のJIS Z0208による透湿度が40g/m2・24H以上であることを特徴とする1.〜6.のいずれかに記載のクーリング層積層構造。
8.1.〜7.のいずれかに記載のクーリング層積層構造を形成する方法であって、吸放湿性塗料を塗付した後に、透湿性塗料を塗付することを特徴とするクーリング層積層構造の形成方法。
9.1.〜7.のいずれかに記載のクーリング層積層構造を形成する方法であって、吸放湿性塗料を塗付した後に、透湿性成形板を貼着することを特徴とするクーリング層積層構造の形成方法。
10.1.〜7.のいずれかに記載のクーリング層積層構造を形成する方法であって、吸放湿性成形板に、透湿性塗料を塗付することを特徴とするクーリング層積層構造の形成方法。
11.1.〜7.のいずれかに記載のクーリング層積層構造を形成する方法であって、吸放湿性成形板に、透湿性成形板を貼着することを特徴とするクーリング層積層構造の形成方法。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をその実施の形態とともに詳細に説明する。
【0007】
[吸放湿層]
本発明における吸放湿層は、水蒸気吸脱着性がヒステリシス特性を有するものである。
【0008】
ここで水蒸気吸脱着性のヒステリシス特性とは、図1に示すように、相対湿度を横軸に、水蒸気吸脱着量を縦軸にとった場合の吸脱着等温線で、吸着曲線より脱離曲線が上側になることを意味するものである。なお、この吸脱着等温線は、温度を一定(25℃に設定)として相対湿度を低い状態から高い状態へ順次上げた後、再び低い状態へ戻すことによって得られ、吸放湿層が単位重量当りに保持可能な水蒸気量を表すものである。
具体的には、まず温度25℃、相対湿度40%の恒温恒湿器内に吸放湿層の重量が平衡になるまで放置し、放置後の重量を測定する。次に同温度で湿度のみを上昇させた恒温恒湿器内で同様の操作を行い、順次段階的に湿度のみを上げながら相対湿度90%まで測定を行う。その後、同温度下で湿度のみを段階的に下げながら同様の操作を繰り返し、重量を測定する。このような測定により得られる各湿度における吸放湿層の重量から水蒸気吸脱着量を算出することにより、水蒸気吸脱着性を示す吸脱着等温線を得ることができる。
【0009】
本発明では、このような水蒸気吸脱着性を有することにより、大気中の水蒸気を吸着した吸放湿層が、温度の上昇とともに水蒸気を脱離し、その際、水蒸気の蒸発潜熱により吸放湿層から熱が奪われるため、温度の上昇を抑えることができる。さらに、このヒステリシス特性によって、夜間等の温度の低い状態において大気中の水蒸気を吸着し、温度が高い昼の間に脱離による温度上昇の抑制効果を発揮することができる。
【0010】
本発明における吸放湿層は、
(i)合成樹脂結合材を結合材とする組成物(以下「組成物(i)」という)、
(ii)水硬性無機結合材を結合材とする組成物(以下「組成物(ii)」という)、
のいずれかにより得ることができる。
【0011】
組成物(i)は、
(a)合成樹脂結合材を固形分で100重量部、
(b)多孔質無機粉体を10〜600重量部
含有することが望ましい。
【0012】
(a)合成樹脂結合材(以下「(a)成分」という。)を用いることにより、可撓性を有する吸放湿層を得ることができる。また、可撓性の程度は、樹脂のガラス転移温度等を調整することにより、自由に変えることができる。
(a)成分としては、例えば、エチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合系等の水系、溶剤系の何れの樹脂も使用することができる。特に、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂から選ばれる1種または2種以上の樹脂を用いると耐久性を高めることができ、またエポキシ樹脂を用いると密着性を高めることができ好ましい。
【0013】
(a)成分は、反応性官能基含有合成樹脂結合材であることが望ましい。(a)成分の反応性官能基としては、後述する架橋剤の官能基と反応可能であるものが使用できる。このような官能基の組み合わせとしては、例えば、カルボキシル基と金属イオン、カルボキシル基とカルボジイミド基、カルボキシル基とエポキシ基、カルボキシル基とアジリジン基、カルボキシル基とオキサゾリン基、水酸基とイソシアネート基、カルボニル基とヒドラジド基、エポキシ基とアミノ基、等があげられる。
【0014】
本発明では(a)成分の反応性官能基として、特に、カルボキシル基が好適に用いられる。カルボキシル基含有合成樹脂結合材は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などのエチレン性不飽和カルボン酸等、及びこれらのアンモニウム塩、有機アミン塩、アルカリ金属塩等のカルボキシル基含有モノマーを共重合することにより得られる。これらモノマーは1種または2種以上を使用することができる。
【0015】
(b)多孔質無機粉体(以下「(b)成分」という。)は、本発明吸放湿層にヒステリシス特性を付与するために有効にはたらく成分である。(b)成分を含有することにより、水の気化潜熱による温度上昇抑制効果を長時間保持することができる。
(b)成分としては、例えば、シリカゲル、ゼオライト、硫酸ナトリウム、アルミナ、活性炭、アロフェン等の粘土鉱物の多孔質粉体を使用することができる。(b)成分としてはシリカゲル、ゼオライト、活性炭、アロフェンから選ばれる1種以上が好ましく、この中でもシリカゲルが最も好ましい。
【0016】
(b)成分の比表面積は100m2/g以上(好ましくは200m2/g以上、さらに好ましくは300m2/g以上)であることが望ましく、このような比表面積を有することにより高いクーリング効果を発揮させることが可能となる。
なお、比表面積は、BET法により測定される値である。
(b)成分の混合量は(a)成分の固形分100重量部に対して、10〜600重量部である。(b)成分の混合量が10重量部より小さい場合は、十分な吸脱着性能、ヒステリシス特性を得ることができない。600重量部を超えると吸放湿層が脆くなりやすく、クラック発生のおそれが高くなる。
【0017】
組成物(i)においては、上述の成分に加え、さらに
(c)吸放湿性合成樹脂微粒子(以下「(c)成分」という。)を含有することが望ましい。(c)成分を含有することにより、水蒸気吸脱着量を増加させ、水蒸気吸脱着速度を高めることができる。
(c)成分は吸放湿性を有するものであるが、具体的には、温度20℃、相対湿度45%における吸湿率が10%以上(好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上)である吸放湿性合成樹脂微粒子を好適に用いることができる。
なお、温度20℃、相対湿度45%における吸湿率とは、試料を120℃にて1時間乾燥した後、温度20℃、相対湿度45%の恒温恒湿器にて24時間吸湿させたときの重量変化を測定することにより得られる値であり、下記式により求めることができる。
吸湿率(%)={(吸湿後の重量−乾燥後の重量)/乾燥後の重量}×100
【0018】
(c)成分は、例えば、各種(メタ)アクリル酸エステル類、アクリルアミド類、芳香族ビニル類、ビニルエステル類、ハロゲン化ビニル類等の単量体の1種または2種以上を公知の方法により共重合して得られるものであるが、水蒸気吸脱着性向上の点から、架橋構造を有することが望ましい。このような架橋構造は、重合段階における架橋性単量体の導入、重合後における架橋性化合物の導入等の方法により形成することができる。架橋性単量体としては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、メチレンビスアクリルアミド等、また、架橋性化合物としては、ヒドラジン系化合物等を好適に用いることができる。
【0019】
(c)成分は反応性官能基含有吸放湿性合成樹脂微粒子であることが望ましい。このような反応性官能基としては、(a)成分と同様のものが使用できるが、本発明では、特に、カルボキシル基が好適に用いられる。(c)成分にカルボキシル基を導入する方法としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシル基を有する単量体の単独重合あるいは共重合可能な他の単量体との共重合による方法、(メタ)アクリロニトリル等のシアノ基含有単量体を共重合した重合体に加水分解処理を施す方法、アルケン、ハロゲン化アルキル、アルコール、アルデヒド等の酸化による方法、等があげられる。(c)成分のカルボキシル基含有量は、1mmol/g以上であることが望ましい。
【0020】
(c)成分の混合量は、(a)成分の固形分100重量部に対して2〜100重量部、好ましくは10〜40重量部である。この混合量が2重量部より小さい場合は単位時間における水蒸気吸着性が低下する傾向となる。100重量部を超えると吸放湿層が脆くなりやすく、クラック発生のおそれが高くなる。
(c)成分の粒径は、特に限定されないが、0.1〜100μm程度のものを使用することができる。
【0021】
組成物(i)において、(a)成分として反応性官能基含有合成樹脂結合材を使用し、(c)成分として反応性官能基含有吸放湿性合成樹脂微粒子を使用する場合には、(a)成分及び(c)成分の反応性官能基と反応可能な官能基を有する架橋剤(以下「(d)成分」という。)を使用することが望ましい。このような(d)成分が含まれることにより、架橋構造が導入され、吸放湿層の強度が向上し、さらには優れた水蒸気吸脱着性を発揮することができる。
(d)成分は、これらの官能基を一分子中に二個以上含むことが望ましい。
(d)成分の官能基としては、(a)成分及び(c)成分と反応可能なものである限り限定されないが、本発明では特に、カルボキシル基と反応可能な官能基であるカルボジイミド基、エポキシ基、アジリジン基、オキサゾリン基等から選ばれる1種以上が好適に用いられる。
【0022】
(d)成分の具体例としては、例えば、カルボジイミド基を含む架橋剤として、特開平10−60272号公報、特開平10−316930号公報、特開平11−60667号公報等に記載のもの等、エポキシ基を含む架橋剤として、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリヒドロキシアルカンポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等、アジリジン基を含む架橋剤として、2,2−ビスヒドロキシメチルブタノ―ル―トリス[3−(1−アジリジニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサメチレンジエチレンウレア、ジフェニルメタン−ビス−4,4’−N,N’−ジエチレンウレア等、オキサゾリン基を含む架橋剤として、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン等の重合性オキサゾリン化合物を各化合物と共重合可能な単量体と共重合した樹脂等があげられる。
【0023】
組成物(i)においては、上記成分の他、各種の添加剤、例えば、顔料、骨材、繊維、増粘剤、レベリング剤、可塑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、造膜助剤、凍結防止剤、乾燥調整剤、分散剤、消泡剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等を混合することもできる。
【0024】
組成物(ii)は、
(e)水硬性無機結合材を固形分で100重量部、
(b)多孔質無機粉体を10〜600重量部
を含有することが望ましい。
【0025】
(e)水硬性無機結合材(以下「(e)成分」という。)を用いることにより、吸放湿層の厚みを大きくすることが可能となる。また高い水蒸気吸脱着性能を確保することも可能となる。
(e)成分としては、例えば、ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント、白色セメント、焼石膏等があげられ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0026】
(b)成分は、組成物(i)と同様のものを使用することができる。
(b)成分の混合量は(e)成分の固形分100重量部に対して、10〜600重量部である。(b)成分の混合量が10重量部より小さい場合は、十分な吸脱着性能、ヒステリシス特性を得ることができない。600重量部を超えると吸放湿層が脆くなりやすく、クラック発生のおそれが高くなる。
【0027】
組成物(ii)においては、上述の成分に加え、さらに、組成物(i)と同様、(c)成分を含有することが望ましい。(c)成分を含有することにより、水蒸気吸脱着量を増加させ、水蒸気吸脱着速度を高めることができる。
(c)成分の混合量は、(e)成分の固形分100重量部に対して2〜100重量部である。この混合量が2重量部より小さい場合は単位時間における水蒸気吸着性が低下する傾向となる。100重量部を超えると吸放湿層が脆くなりやすく、クラック発生のおそれが高くなる。
【0028】
組成物(ii)は、(e)水硬性無機結合材を結合材とするものであるが、さらに、(a)合成樹脂結合材を含有することが望ましい。(a)成分を含むことにより、吸放湿層の強度を向上させることができ、また変形追従性を付与することもできる。(a)成分としては、組成物(i)と同様のものを使用することができる。(a)成分の混合量は、(e)成分の固形分100重量部に対して1〜100重量部であることが望ましい。
【0029】
組成物(ii)が(a)成分を含有する場合、組成物(i)と同様に、(a)成分は反応性官能基含有合成樹脂結合材であることが望ましい。
【0030】
組成物(ii)において、(a)成分として反応性官能基含有合成樹脂結合材を使用し、(c)成分として反応性官能基含有吸放湿性合成樹脂微粒子を使用する場合には、組成物(i)と同様に、(a)成分及び(c)成分の反応性官能基と反応可能な官能基を有する架橋剤(d)を使用することが望ましい。このような(d)成分が含まれることにより、架橋構造が導入され、吸放湿層の強度が向上し、さらには優れた水蒸気吸脱着性を発揮することができる。(d)成分は、組成物(i)と同様のものを使用することができる。
【0031】
組成物(ii)においては、上記成分の他、各種の添加剤、例えば、顔料、骨材、繊維、増粘剤、レベリング剤、可塑剤、防腐剤、防黴剤、防藻剤、抗菌剤、造膜助剤、凍結防止剤、乾燥調整剤、分散剤、消泡剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤等を混合することもできる。また、水を適宜混合することもできる。
【0032】
[透湿層]
本発明における透湿層は、水蒸気透過性を有する層を形成するように、各種の結合材、顔料、充填材、骨材、添加剤等から選ばれる成分を適宜選択し、混合したものであれば特に限定されるものではない。本発明では、このような透湿層を積層することにより、吸放湿層が外気や太陽光線に直接触れることがなくなる結果、吸放湿層の劣化や汚染等が抑制され、吸放湿効果が長期にわたり維持できるようになる。また、各種顔料や骨材を適宜混合して使用することにより、優れた美観性を付与することもできる。
【0033】
透湿層において用いることができる結合材としては、例えば、エチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アルキッド樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂等、あるいはこれらの複合系等の水系、溶剤系の何れの樹脂も使用することができる。特に、アクリル系、ウレタン系、シリコン系、フッ素系から選ばれる1種または2種以上の樹脂を用いると特に耐候性を高めることができ好ましい。透湿層においては、アルコキシシラン化合物等の撥水剤を用いることもできる。
【0034】
透湿層の透湿度は、積層構造全体の吸放湿作用と耐久性、耐候性、耐薬品性等の要求性能のバランスを考慮し適宜選択すればよいが、具体的には、JIS Z0208による透湿度が40g/m2・24H以上であることが望ましい。透湿度がこのような値であれば、吸放湿層の自律的な吸放湿作用を発揮させることができる。
【0035】
[形成方法]
本発明のクーリング層積層構造は、クーリング効果を必要とする部位である、土木構造物や建築物の屋根や屋上、外壁、内壁、天井などに適用することができる。
本発明における吸放湿層は、吸放湿性塗料を塗付することにより形成してもよいし、予めシート状、ボード状等の吸放湿性成形板に成形しておいてもよい。このような吸放湿性塗料や吸放湿性成形板は、前述の組成物(i)や組成物(ii)のような成分を有するものである。
同様に、透湿層は、透湿性塗料を塗付することにより形成してもよいし、予めシート状、ボード状等の透湿性成形板に成形しておいてもよい。
積層構造を形成する際の方法は特に限定されないが、下記のいずれかの方法が好適である。
(1)吸放湿性塗料を塗付した後に、透湿性塗料を塗付する方法。
(2)吸放湿性塗料を塗付した後に、透湿性成形板を貼着する方法。
(3)吸放湿性成形板に、透湿性塗料を塗付する方法。
(4)吸放湿性成形板に、透湿性成形板を貼着する方法。
【0036】
上記(1)及び(2)の方法では、まず、クーリング性を必要とする基材表面に吸放湿性塗料を塗付する。
このような基材としては、例えば、コンクリート、モルタル、金属、プラスチック、あるいはスレート板、押出成形板、サイディングボード等の各種ボード類等があげられる。このような各種基材に対して吸放湿性塗料を塗付する際には、基材に直接塗付してもよいし、表面形状や密着性等を考慮して何らかの表面処理(シーラー、サーフェーサー、フィラー等による下地処理等)を施した後に塗付してもよい。既に被膜が形成された基材に適用することも可能である。塗付作業時には、例えば、圧送ポンプ、スプレー、ローラー、刷毛、コテ等を用いることができる。
【0037】
(1)の方法では、吸放湿性塗料の被膜を形成した後、透湿性塗料を塗付する。この際、例えば、スプレー、ローラー、刷毛、コテ等の塗装器具を用いることができる。
【0038】
(2)の方法では、吸放湿性塗料を塗付した後に、透湿性成形板を貼着する。このとき、吸放湿性塗料が乾燥する前に透湿性成形板を貼着すれば、接着剤や粘着剤を使用せずに積層構造を形成することができる。このようにすれば、吸放湿層の性能を十分に発揮させることが可能となる。
接着剤等を使用して貼着する場合は、吸放湿層の性能が阻害されないように、水蒸気透過性を有する接着剤等を使用することが望ましい。また、水蒸気透過性を確保するために、点接着や線接着等の手段を用いることもできる。
透湿性成形板を貼着する際には、釘、鋲、その他の各種固定具を使用することもできる。
【0039】
上記(3)及び(4)の方法では、予め積層構造を形成させたものを、クーリング性を必要とする部位に取り付けてもよいし、クーリング性を必要とする部位に吸放湿性成形板を取り付けた後に、透湿層を積層してもよい。
【0040】
吸放湿層をシート状、ボード状等の成形板に成形する場合は、例えば、加圧成形、押出成形、鋳込み成形、加熱圧縮成形、流し込み等の方法により製造することができる。この際、強度向上等のためにスレート板、押出成形板、金属板、プラスチック板、コンクリート板、サイディングボード等の各種ボード類や、壁紙、織布、不織布、セラミックペーパー、合成紙等の上に吸放湿層を積層させることも可能である。また、ガラスメッシュ、金属メッシュ等の各種メッシュ等を吸放湿層の表裏面に積層したり、吸放湿中に埋め込んだりすることもできる。
【0041】
吸放湿性成形板を、クーリング性を必要とする部位に取り付ける際には、釘、鋲、その他の各種固定具を使用することができる。また、接着剤、粘着剤等を介して基材表面に貼着することもできる。
【0042】
(3)の方法では、吸放湿性成形板に、透湿性塗料を塗付する。この際、例えば、スプレー、ローラー、刷毛、コテ等の塗装器具を用いることができる。
【0043】
(4)の方法では、吸放湿性成形板に、透湿性成形板を貼着する。透湿性成形板を接着剤等を使用して貼着する場合は、吸放湿層の性能が阻害されないように、水蒸気透過性を有する接着剤等を使用することが望ましい。水蒸気透過性を確保するために、点接着や線接着等の手段を用いることもできる。また、釘、鋲、その他の各種固定具を使用することもできる。
【0044】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより明確にする。なお、吸放湿層、透湿層を形成するための組成物においては表1に示す原料を使用した。
【0045】
【表1】
【0046】
また、各試験体について行った試験は、以下の方法によるものである。
【0047】
(水蒸気吸脱着性試験方法)
まず、温度25℃、相対湿度40%の恒温恒湿器内に各試験体の重量が平衡になるまで放置し、放置後の重量を測定した。次に同温度で湿度のみを上昇させた恒温恒湿器内で同様の操作を行い、順次段階的に湿度のみを上げながら相対湿度90%まで測定を行った。その後、同温度下で湿度のみを段階的に下げながら同様の操作を繰り返し、重量を測定した。各湿度における試験体の重量から水蒸気吸脱着量を算出することにより、水蒸気吸脱着性を示す吸脱着等温線を得た。
【0048】
(遮熱試験方法)
まず、温度25℃、相対湿度90%の恒温恒湿器内に各試験体の重量が平衡になるまで放置した。次に、250Wの赤外線ランプを用いて、赤外線を試験体表面に360分間照射し、その裏面温度を測定した。
【0049】
(吸放湿層の水蒸気吸脱着性試験1)
表1に示した原料を使用して、表2に示した比率に従って各原料を混合し、吸放湿性塗料を作製した(組成物1〜5)。
厚さ0.5mmのアルミ板上に、各吸放湿性塗料を乾燥膜厚が500μmとなるように塗付し、温度25℃相対湿度55%下で14日間乾燥し被膜を形成させて、試験体を作製した。これらの試験体について水蒸気吸脱着性試験を行った。結果を図2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
(試験例1)
厚さ0.5mmのアルミ板上に、組成物1を乾燥膜厚が500μmとなるように塗付し、温度25℃相対湿度55%下で1日間乾燥して被膜を形成させた後、表2に示す組成物Aを乾燥膜厚が30μmとなるように塗付し、同条件下で14日間乾燥して試験体を作製した。なお、この乾燥膜厚における組成物AのJISZ0208による透湿度は85g/m2・24H以上であった。
得られた試験体について、水蒸気吸脱着性試験、および遮熱性試験を行った。
【0052】
(試験例2)
組成物1に代えて表2に示す組成物2を使用した以外は、試験例1と同様にして試験体を作製し、水蒸気吸脱着性試験、および遮熱性試験を行った。
(試験例3)
組成物1に代えて表2に示す組成物3を使用した以外は、試験例1と同様にして試験体を作製し、水蒸気吸脱着性試験、および遮熱性試験を行った。
(試験例4)
組成物1に代えて表2に示す組成物4を使用した以外は、試験例1と同様にして試験体を作製し、水蒸気吸脱着性試験、および遮熱性試験を行った。
(試験例5)
組成物1に代えて表2に示す組成物2を使用し、組成物Aに代えて表2に示す組成物Bを使用した以外は、試験例1と同様にして試験体を作製し、水蒸気吸脱着性試験、および遮熱性試験を行った。なお、乾燥膜厚30μmにおける組成物BのJIS Z0208による透湿度は30g/m2・24H以上であった。
(試験例6)
組成物1に代えて表2に示す組成物5を使用した以外は、試験例1と同様にして試験体を作製し、水蒸気吸脱着性試験、および遮熱性試験を行った。
【0053】
(試験結果)
各試験例(試験例1〜6)について、水蒸気吸脱着性試験と遮熱試験を行った結果をそれぞれ図3、図4に示す。
水蒸気吸脱着性試験により、試験例1〜5は優れた水蒸気吸脱着性、及び遮熱性を示すことが認められた。試験例6では、水蒸気吸脱着性が低く、遮熱性においても不十分な結果となった。
これらの結果より、試験例1〜5では、水の蒸発潜熱を利用したクーリング機能が認められ、温度上昇を長時間抑制できることが明らかとなった。また、架橋剤の混合による効果も認められた。
【0054】
(吸放湿層の水蒸気吸脱着性試験2)
次に、表1に示した原料を使用して、表3に示した比率に従って各原料を混合し、吸放湿性塗料を作製した(組成物7〜11)。
厚さ0.5mmのアルミ板上に、各吸放湿性塗料を乾燥膜厚が2mmとなるように塗付し、温度25℃相対湿度55%下で14日間乾燥し被膜を形成させて、試験体を作製した。これらの試験体について水蒸気吸脱着性試験を行った。結果を図5に示す。
【0055】
(透湿性成形板の作製)
合成樹脂結合材1の固形分100重量部に対し、粒径約0.1〜1mmの天然石粉砕物及び着色骨材の混合物を600重量部混合して、組成物Cを作製した。
この組成物Cを、岩肌調の凹凸を有するシリコンゴム製型枠に流し込み、温度25℃相対湿度55%下で24時間養生させた後、メッシュを貼り付け、さらに塗材を流し込み、同条件下で14日間養生させて脱型することにより岩肌調模様を有する透湿性成形板を作製した。この成形板の厚みは約4mmであった。なお、この成形板のJIS Z0208による透湿度は55g/m2・24Hであった。
【0056】
(試験例7)
厚さ0.5mmのアルミ板上に、組成物7を約2mmの厚みで塗付し、その直後に、上記透湿性成形板を貼り付け、温度25℃相対湿度55%下で14日間乾燥して試験体を作製した。得られた試験体について、水蒸気吸脱着性試験、および遮熱性試験を行った。
【0057】
(試験例8)
表3に示した組成物8を用いた以外は、試験例7と同様にして試験体を作製し、試験を行った。
(実施例9)
表3に示した組成物9を用いた以外は、試験例7と同様にして試験体を作製し、試験を行った。
(試験例10)
表3に示した組成物10を用いた以外は、試験例7と同様にして試験体を作製し、試験を行った。
(試験例11)
表3に示した組成物11を用いた以外は、試験例7と同様にして試験体を作製し、試験を行った。
【0058】
【表3】
【0059】
(試験結果)
各試験例(試験例7〜11)について、水蒸気吸脱着性試験と遮熱試験を行った結果をそれぞれ図6、図7に示す。
試験例7〜10の試験体は、ヒステリシス特性を有する高い水蒸気吸脱着性を示し、クーリング性能を発揮することができた。この中でも、特に試験例7〜9の試験体は、長時間にわたり優れたクーリング性能を持続することができた。
これに対し、試験例11の試験体はいずれも水蒸気吸脱着性が低く、温度の上昇を抑制することが困難であった。
【0060】
【発明の効果】
本発明のクーリング層積層構造を建築物の屋根、屋上、壁、天井等に適用すると、これらが夏期における太陽光等の熱線によって蓄熱することを防止し、建築物内部の温度上昇を抑制することができる。
従って、本発明の積層構造は夏期の冷房使用頻度を減少させ、電力消費を節約することが可能となる。また、本発明積層構造は既存の屋根、壁等に適用することができるため建築物の構造を大きく変える必要がなく、比較的容易に施工することができ、改修工事を兼ねることもできる。
また、本発明積層構造は、それ自体の温度上昇を抑制することもできることから、温度上昇に起因する接着不良等を防止することができる。吸放湿層あるいは透湿層として、シート状物を用いた場合は、温度上昇によるシートの波打ち現象等を防止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】水蒸気吸脱着性のヒステリシス特性を示すグラフ
【図2】水蒸気吸脱着性試験結果を示すグラフ(組成物1〜5)
【図3】水蒸気吸脱着性試験結果を示すグラフ(試験例1〜6)
【図4】遮熱性試験結果を示すグラフ(試験例1〜6)
【図5】水蒸気吸脱着性試験結果を示すグラフ(組成物7〜11)
【図6】水蒸気吸脱着性試験結果を示すグラフ(試験例7〜11)
【図7】遮熱性試験結果を示すグラフ(試験例7〜11)
Claims (11)
- 水蒸気吸脱着性がヒステリシス特性を有する吸放湿層上に、水蒸気透過性を有する透湿層を積層し、
吸放湿層が、(a)合成樹脂結合材を固形分で100重量部、(b)多孔質無機粉体を10〜600重量部、(c)(メタ)アクリル酸エステル類、アクリルアミド類、芳香族ビニル類、ビニルエステル類、ハロゲン化ビニル類から選ばれる1種または2種以上の単量体を共重合して得られる架橋構造を有するものであり、温度20±2℃、相対湿度45±5%における吸湿率10%以上であるカルボキシル基含有吸放湿性合成樹脂微粒子を2〜100重量部含有することを特徴とするクーリング層積層構造。 - 吸放湿層において、(a)がカルボキシル基含有合成樹脂結合材、(c)がカルボキシル基含有吸放湿性合成樹脂微粒子であり、さらに、(d)カルボジイミド基、エポキシ基、アジリジン基、オキサゾリン基から選ばれる1種以上の官能基を有する架橋剤を含有することを特徴とする請求項1に記載のクーリング層積層構造。
- 水蒸気吸脱着性がヒステリシス特性を有する吸放湿層上に、水蒸気透過性を有する透湿層を積層し、
吸放湿層が、(e)水硬性無機結合材を固形分で100重量部、(b)多孔質無機粉体を10〜600重量部、(c)(メタ)アクリル酸エステル類、アクリルアミド類、芳香族ビニル類、ビニルエステル類、ハロゲン化ビニル類から選ばれる1種または2種以上の単量体を共重合して得られる架橋構造を有するものであり、温度20±2℃、相対湿度45±5%における吸湿率10%以上であるカルボキシル基含有吸放湿性合成樹脂微粒子を2〜100重量部含有することを特徴とするクーリング層積層構造。 - 吸放湿層が、さらに、(a)合成樹脂結合材を固形分で1〜100重量部含有することを特徴とする請求項3に記載のクーリング層積層構造。
- 吸放湿層において、(a)がカルボキシル基含有合成樹脂結合材、(c)がカルボキシル基含有吸放湿性合成樹脂微粒子であり、さらに、(d)カルボジイミド基、エポキシ基、アジリジン基、オキサゾリン基から選ばれる1種以上の官能基を有する架橋剤を含有することを特徴とする請求項4に記載のクーリング層積層構造。
- (b)が比表面積100m2/g以上の多孔質粉体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のクーリング層積層構造。
- 透湿層のJIS Z0208による透湿度が40g/m2・24H以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のクーリング層積層構造。
- 請求項1〜7のいずれかに記載のクーリング層積層構造を形成する方法であって、吸放湿性塗料を塗付した後に、透湿性塗料を塗付することを特徴とするクーリング層積層構造の形成方法。
- 請求項1〜7のいずれかに記載のクーリング層積層構造を形成する方法であって、吸放湿性塗料を塗付した後に、透湿性成形板を貼着することを特徴とするクーリング層積層構造の形成方法。
- 請求項1〜7のいずれかに記載のクーリング層積層構造を形成する方法であって、吸放湿性成形板に、透湿性塗料を塗付することを特徴とするクーリング層積層構造の形成方法。
- 請求項1〜7のいずれかに記載のクーリング層積層構造を形成する方法であって、吸放湿性成形板に、透湿性成形板を貼着することを特徴とするクーリング層積層構造の形成方法。
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