以下、本発明に係る塗布装置について説明する。具体的には、有機EL(electroluminescence)表示装置を製造するために用いられる塗布装置を例として説明する。この塗布装置は、ステージ上に載置された基板に対して有機EL材料や正孔輸送材料等を所定のパターン形状に塗布するものである。
まず、図1および図2を参照して、塗布装置の概要を説明する。図1は、塗布装置10の概略構成を示す平面図および正面図である。図1(a)は、塗布装置10を上側から見た図であり、図1(b)は、塗布装置10を側面からY軸正方向の向きに見た図である。また、図2は、塗布装置10の各部と制御部との接続関係を示す図である。ここでは、塗布装置10の動作の概要を説明する目的で図1を用いるので、後述する各ボックス71〜73および仕切部材9を図1では図示していない。なお、塗布装置10は、上述したように有機EL材料や正孔輸送材料等の複数種類の塗布液を用いて塗布を行うことが可能であるが、以下では、それらの代表として有機EL材料を塗布液として用いる場合を例として説明を行う。
図1に示すように、塗布装置10は、ノズル移動機構部1、ノズルユニット2、液受け部3、ステージ4、およびステージ移動機構部5を備えている。また、図2に示すように、塗布装置10は、制御部6を備えている。制御部6は、ノズル移動機構部1、ノズルユニット2、およびステージ移動機構部5と電気的に接続されている。
図1に示すように、ステージ4には塗布処理の対象となる基板Pが載置される。基板Pには、X軸方向に平行に等間隔で複数本の溝が形成されている。本塗布装置10は、この溝に有機EL材料を吐出することによって溝に有機EL材料を流し込む。なお、図示していないが、ステージ4には、加熱機構や吸着機構が設けられている。加熱機構は、有機EL材料が塗布された基板Pをステージ4上で予備加熱処理するためのものである。吸着機構は、基板Pをステージ4上に吸着して固定するためのものである。
ステージ移動機構部5は、ステージ4の下側に接続される。具体的には、ステージ移動機構部5は、旋回部51、平行移動テーブル52、ガイド受け部53、およびガイド部材54を有している。ガイド部材54は、ノズル移動機構部1の下方を通るようにY軸方向に延設されて固定される。ガイド受け部53は、ガイド部材54上を滑動するようにガイド部材54上に設置される。平行移動テーブル52は、ガイド受け部53の上面に固設される。平行移動テーブル52は、内部のモータ(図示せず)からの駆動力を受けてガイド部材54に沿った図示Y軸方向への移動が可能である。旋回部51は、平行移動テーブル52の上面に固設される。旋回部51は、内部のモータ(図示せず)からの駆動力を受けて、Z軸を中心とした回動が可能である。上記ステージ4は、旋回部51の上面に固設される。以上より、ステージ4は、ステージ移動機構部5によってY軸方向に平行移動が可能であるとともに、Z軸を中心として回転可能である(図1(a)に示す矢印参照)。なお、ステージ移動機構部5の動作は制御部6によって制御される。
また、ステージ4の上方には有機EL塗布機構(ノズル移動機構部1およびノズルユニット2)が配置される。ノズル移動機構部1はX軸方向(ステージ4の載置面と平行な方向)に延びるレール11を有し、レール11に沿って移動可能なようにノズルユニット2がノズル移動機構部1に接続される。ノズルユニット2は、ノズルから塗布液を吐出することによって基板に対して塗布を行う塗布機構であり、例えば赤色の有機EL材料の処理液を吐出する3本のノズル21〜23を有する。ノズルユニット2の各ノズル21〜23は、処理液を吐出する向きが鉛直下向きとなるようにノズルユニット2の下側に配置される。なお、各ノズル21〜23は、Y軸方向に関して少しずれた位置に配置される。具体的には、各ノズル21〜23はY軸方向に関して、基板Pに形成された溝の3列分の長さ(Y軸方向の長さ)だけ間隔を空けて配置されている。ノズルユニット2の移動、および、各ノズル21〜23からの有機EL材料の吐出は、制御部6によって制御される。
レール11は、X軸方向について基板Pよりも長く構成され、ノズルユニット2は、X軸方向に関して基板Pの幅よりも広い範囲を移動することが可能である。したがって、ノズルユニット2がレール11の一端から他端まで移動することによって、X軸方向に関して基板Pの一端から他端まで有機EL材料を塗布することができる。ただし、ノズルユニット2がレール11の一端から他端まで移動する間に各ノズル21〜23から有機EL材料が吐出されると、基板Pに有機EL材料が塗布されるだけでなく、基板Pの外側においても有機EL材料が吐出されることとなる。そこで、基板Pの外側で吐出された有機EL材料を受ける目的で液受け部3が設置されている。なお、液受け部3で受けた有機EL材料は、液受け部3の排出口(図示していない)から排出される。
次に、以上のように構成された塗布装置10の動作の概要について説明する。塗布装置10における塗布処理の対象となる基板Pは、図示しない搬送ロボット等によって塗布装置10に搬入されてステージ4上に載置される。なお、塗布装置10に搬入されてくる基板Pには、陽極および正孔輸送層がすでに形成されているものとする。
ステージ4上に基板Pが固定されると、制御部6は塗布処理を開始する。すなわち、塗布装置10に搬入された基板Pがステージ4に固定されると、制御部6はまず、ステージ4およびノズルユニット2を初期位置に移動させる。具体的には、制御部6は、予め定められた初期位置にステージ4を基板Pごと移動させるとともに、レール11の一端にノズルユニット2を移動させる。なお、ステージ4の初期位置は、基板PにおいてY軸方向に並んで形成された複数本の溝のうちの最もY軸正方向側にある溝の真上にノズル21(各ノズル21〜23のうちで最もY軸正方向側にあるノズル)が位置する位置である。以上のようにステージ4およびノズルユニット2が初期位置に配置されると、制御部6は塗布処理を開始する。
塗布処理においては、制御部6は、ノズルユニット2およびステージ移動機構部5を制御し、ノズルユニット2およびステージ移動機構部5の動作を開始させる。すなわち、制御部6は、ノズルユニット2のX軸方向の移動とステージ4のY軸方向の移動とを制御するとともに、各ノズル21〜23による有機EL材料の吐出を制御する。これによって、以降、ノズルユニット2のX軸方向の移動動作(第1動作)とステージ4のY軸方向の移動動作(第2動作)とが繰り返される。具体的には、まず、第1動作として、ノズルユニット2の各ノズル21〜23から赤色の有機EL材料が吐出されるとともにノズルユニット2がレール11の一端から他端へ移動する。これによって、基板Pに形成された溝に対する3列分の塗布が完了する。上述のように、各ノズル21〜23はY軸方向に関して、基板Pに形成された溝の3列分の長さ(Y軸方向の長さ)だけ間隔を空けて配置されている。そのため、1回の第1動作においては、互いに2列ずつ間隔を空けた3列分の溝について塗布が行われる。次に、第2動作として、基板Pに形成された溝の9列分の長さだけY軸の正方向にステージ4がピッチ送りされる。以降、第1動作と第2動作とを繰り返すことによって、基板Pへの塗布が3列分ずつ行われる。これによって、基板Pに有機EL材料がストライプ状に塗布されていく。
第1動作および第2動作は、基板Pの有効領域(溝が形成されている領域)に対して有機EL材料が塗布されるまで行われる。なお、この時点では、X軸方向に関しては基板Pの有効領域以外の部分についても有機EL材料が塗布されるが、有効領域以外の領域に塗布された有機EL材料は、後述する除去処理によって除去される。以上によって、1枚の基板Pに対する塗布動作の説明を終了する。
ここで、上述したように、有機EL材料は、酸化することによって品質が劣化するので、有機EL材料を基板に塗布する際には、有機EL材料の酸化を防止する必要がある。そこで、本実施形態においては、基板Pの周囲の酸素濃度を管理すべく、塗布装置10は、局所雰囲気生成機構を備える。以下、図3〜図10を参照して局所雰囲気生成機構について説明する。
図3は、塗布装置10に設けられる局所雰囲気生成機構の概略構成を示す側断面図である。図3において、塗布装置10は、局所雰囲気生成機構として、第1ボックス71、第2ボックス72、第3ボックス73、および、仕切部材9を備えている。なお、第1〜第3ボックス71〜73は、YZ平面に平行な側面が全て形成されているが、図3においてはボックス内部の関係をわかりやすくするために当該側面を省略している。
まず、各ボックス71〜73について説明する。図3において、塗布装置10は、第1ボックス71、第2ボックス72、および第3ボックス73によって、それぞれ外部から遮蔽されて設置される。第1ボックス71は、ステージ4およびステージ移動機構部5が図示Y軸方向へ往復移動する空間(以下、チャンバ空間と記載する)を包囲して外部から遮蔽するように設けられる。また、第1ボックス71は、各ノズル21〜23がチャンバ空間へ突出して往復移動するための開口部S1を除いて、チャンバ空間と有機EL塗布機構(ノズル移動機構部1およびノズルユニット2)が設置される空間との間を仕切るように設置される。
第3ボックス73は、有機EL塗布機構が設置される空間を含み、ノズルユニット2等が図示X軸方向へ往復移動する空間(以下、スライダ空間と記載する)を包囲して設けられる。図4は、第3ボックス73の外観を示す斜視図である。図4に示すように、第3ボックス73には、各ノズル21〜23がスライダ空間からチャンバ空間へ突出して往復移動するための開口部S1が形成されている(図5参照)。また、第3ボックス73の上面には、図示しない供給部から有機EL材料を各ノズル21〜23に供給するための配管(図示せず)を通すための開口部S2が形成される。
第2ボックス72は、第1ボックス71の上部空間を包囲するように設けられる。第2ボックス72の内部には、有機EL塗布機構をその内部に有する第3ボックス73が設置され、第2ボックス72にも第3ボックス73と同様、各ノズル21〜23がスライダ空間からチャンバ空間へ突出して往復移動するための開口部S1が形成されている。なお、第2ボックス72で包囲された空間の内、スライダ空間を除いた空間をボックス空間と記載する。以上のように、塗布装置10は、第1〜第3ボックス71〜73によって、チャンバ空間、スライダ空間、およびボックス空間にそれぞれ仕切られて設置される。
第1〜第3ボックス71〜73には、その内部空間に窒素等の不活性ガス(以下、単に窒素と記載する)を供給するための供給管74と、その内部空間の気体を排出するための排気管75とが接続される。図3の例では、供給管74が第1ボックス71のY軸負方向側の壁面(以下、Y軸負方向側の壁面を前面とする)に接続されている。なお、図3の例では、複数の供給管74a〜74cが第1ボックス71の壁面に接続されている。また、排気管75が第2ボックス72のY軸正方向側の壁面(以下、Y軸正方向側の壁面を背面と記載する)に接続されている。このように供給管74および排気管75を接続した場合、供給管74から供給された窒素は、チャンバ空間へ供給され、開口部S1を通ってスライダ空間へ流入し、開口部S2を通ってボックス空間へ流入した後、排気管75から流出するような流れとなる。
また、第1ボックス71には、基板Pの搬入および搬出を行うための投入口が設けられている。投入口は、回転軸を中心に回動(図示矢印方向)するゲート76により開閉可能となっている。基板Pは、投入口が開放された状態で、搬送ロボット(図示せず)によりチャンバ空間内に搬入され、ステージ4上に載置される。また、塗布装置10によって塗布処理が行われるときは、上記ゲート76が閉鎖されることによってチャンバ空間内が外部から遮蔽される。
図5は、局所雰囲気生成機構における窒素供給の流れを示すブロック図である。図5において、局所雰囲気生成機構は、上述した構成部の他に、窒素ボンベ81、フィルタ83、圧力調整部84、供給側の流量調整部85、排気側の流量調整部86、および吸引部87を備えており、互いに配管等で接続されている。ここで、窒素ボンベ81、フィルタ83、圧力調整部84、および流量調整部85が、供給管74から窒素を供給するための供給系に相当する。一方、流量調整部86および吸引部87が、排気管75から気体を排出するための排気系に相当する。なお、これらの機構は、塗布装置10に内蔵してもよいし、塗布装置10の外部装置として設けてもかまわない。塗布装置10の外部装置として設ける場合、設置場所に予め設けられている設備(例えば、工場の窒素供給装置や吸引装置)を用いてもかまわない。
窒素ボンベ81には、液体窒素等がその内部に貯蔵されている。窒素ボンベ81から窒素は、気体状態で取り出され、工場の用力として供給されてフィルタ83へ流動する。フィルタ83は、流動する窒素中の異物を除去して圧力調整部84および流量調整部85に送る。そして、圧力調整部84によって塗布装置10へ供給する窒素圧力が調整され、流量調整部85によって塗布装置10へ供給する窒素流量が調整された後、供給管74(および後述する供給管78)に窒素が供給される。一方、吸引部87は、排気管75から気体を吸引して第1〜第3ボックス71〜73内の気体を外部へ排出する。そして、流量調整部86によって、排気管75から気体を吸引して外部へ排出する流量が調整される。ユーザは、圧力調整部84、流量調整部85、および流量調整部86に設けられた流路の絞りや設定値等を調整することによって、上述した塗布装置10に対する流体バランスを調整することができる。
図3の説明に戻り、第1ボックス71と供給管74aおよび74bとを接続する付近には、拡散部77が設けられる。具体的には、拡散部77は、供給管74aおよび74bから第1ボックス71の内部空間に流入する入り口付近の当該内部空間側に設けられる。図6は、窒素投入口の構造を示す断面図である。また、図7は、拡散板771の構造を示す斜視図である。図6および図7に示すように、拡散部77は、拡散板771およびパンチングメタル772を含んでいる。拡散板771は、供給管74aおよび74bから上記内部空間へ流入する窒素の流れを妨げる位置に固設された板状部材であり、その周囲に所定の隙間が形成されている。供給管74aおよび74bから上記内部空間へ流入する窒素は、拡散板771によって妨げられて直接的に上記内部空間に流入することなく、拡散板771の周囲へ流れる方向を変えて流動する。パンチングメタル772は、多数の孔が打ち抜き加工された板状部材であり、拡散板771に対して上記内部空間側に固設される。パンチングメタル772は、拡散板771の周囲から流動する窒素の流動路上に配置される。つまり、供給管74aおよび74bから供給された窒素は、必ずパンチングメタル772に形成された孔を通って上記内部空間内に流入することになる。したがって、供給管74aおよび74bから供給された窒素は拡散部77によって拡散されて第1〜第3ボックス71〜73内に供給される。
また、投入口付近に供給管74cが接続されている。一般的に、投入口付近は、基板Pの搬入/搬出の際の開閉によって外気が侵入しやすく酸素濃度が高くなりやすいが、そのような箇所に窒素を供給することによって、侵入した酸素を拡散することができる。なお、供給管74cから内部空間に流入する入り口付近は、その流路が曲げられており、当該入り口付近に拡散部は設けられていない。
排気管75と第2ボックス72との接続部には、パンチングメタル751が設けられる。このパンチングメタル751は、排気管75の内部空間側に固設され、排気管75に向かって流動する気体の流動路上に配置される。つまり、排気管75へ排出される気体は、必ずパンチングメタル751に形成された孔を通って排出されることになる。このように、排出口付近にパンチングメタル751を配置することによって、気体が排出される箇所が集中することを防止することができ、内部空間全体の気体をバラツキなく排出することができる。
以上のように、塗布装置10は、各ボックス71〜73によって囲まれる各空間を低酸素雰囲気にするための構成を有する。ここで、有機EL材料の酸化を防止するためにはチャンバ空間内全ての酸素濃度を低下させればよいが、最も酸素濃度を低下させなければならない空間は、各ノズル21〜23から有機EL材料を吐出する空間、および、塗布後の基板PがY軸正方向側に順次送られていく空間(図3に示す空間C)である。例えば、有機EL材料を基板Pに塗布する際の酸素濃度の上限を酸素濃度管理値とした場合、少なくとも空間Cにおける酸素濃度が酸素濃度管理値を満たさなければならない。したがって、空間Cにおける酸素濃度が酸素濃度管理値以下に低下するまでの時間を短縮することができれば、塗布装置10を効率よく稼働させることができる。つまり、塗布装置10の処理効率を向上するためには、空間Cにおける酸素濃度を短時間で低下させることが重要である。
そこで、空間Cを局所的に短時間で低酸素状態にすべく、塗布装置10は、局所雰囲気生成機構としてさらに仕切部材9を備える。仕切部材9は、空間Cを周囲の空間と仕切る部材である。図8は、仕切部材9の外観を示す斜視図である。図9は、仕切部材9の構成を示す平面図である。すなわち、図9(a)は仕切部材9の上面図(Z軸正方向側から見た図)であり、図9(b)は仕切部材9の側面図(X軸負方向側から見た図)であり、図9(c)は仕切部材9の下面図(Z軸負方向側から見た図)であり、図9(d)は仕切部材9の他の前面図(Y軸負方向側から見た図)である。なお、図8では、図面を見やすくする目的で、仕切部材9の他に基板P、ステージ4および旋回部51のみを示す。
仕切部材9はその内部に空間を有する箱状の形状であり、その外観は一方面が開口した略直方体形状である。また、仕切部材9には、当該一方面の開口部91の他に穴92〜94が形成されている。本実施形態では、仕切部材9の上面および下面となる遮蔽板の幅(X軸方向の長さ)は基板Pの幅よりも大きく、仕切部材9の内部に基板Pを搬入することが可能である。また、仕切部材9は、チャンバ空間内に配置され、上記空間Cがその内部空間に含まれるように配置される。さらに、仕切部材9は、基板Pが移動してくる側に開口部91を向けるように配置される。具体的には、基板PはY軸負方向側から移動してくる(図8に示す矢印参照)ので、開口部91がY軸負方向側を向くように仕切部材9が配置される。なお、仕切部材9は、その上面が第1ボックスの上面の内側に固設される(図3参照)。
仕切部材9には、塗布装置10の他の部材の配置の妨げにならないように複数の穴92〜94が形成される。具体的には、図9(a)に示すように、仕切部材9の上面には、各ノズル21〜23の移動方向(すなわち、X軸方向)に沿って第1穴92が形成される。図8には図示していないが、各ノズル21〜23は、この第1穴92に位置するように配置される。塗布動作時において、各ノズル21〜23は、第1穴92に沿ってX軸方向に移動する。つまり、第1穴92は、仕切部材9が塗布処理における各ノズル21〜23の移動の妨げになることを防止する目的で形成される。
図9(b)に示すように、仕切部材9の両側面には第2穴93が形成される。図8には図示していないが、液受け部3は、この第2穴93の位置に配置される。各ノズル21〜23は、この第1穴92に位置するように配置される。つまり、第2穴93は、仕切部材9が液受け部3の配置の妨げになることを防止する目的で形成される。なお、液受け部3によって第2穴93を塞ぐようにすれば、仕切部材9の内部空間の密閉性を高めることができ、仕切部材9の内部空間をより短時間で低酸素雰囲気にすることができる。
図9(c)に示すように、仕切部材9の下面には、開口部91とつながった第3穴94が形成される。第3穴94は、ステージ移動機構部5が通過する部分に形成される。塗布処理において、基板Pを載置したステージ4およびステージ移動機構部5は、塗布が進むにつれて次第にY軸正方向へ移動していくが、第3穴94は、仕切部材9がステージ移動機構部5の移動の妨げとなることを防止する目的で形成される。
また、塗布装置10は、仕切部材9の内部空間に不活性ガス(窒素)を供給する供給手段を有している。具体的には、当該供給手段として、図3に示す供給管78が仕切部材9に接続される。図5に示した供給系からの窒素は、この供給管78を介して仕切部材9の内部空間(空間C)に供給される。また本実施形態では、図9(d)に示すように、供給管78を介して供給される窒素の供給口は仕切部材9の後面(Y軸正方向側の面)の内壁に設けられる。この供給口には、図6に示した拡散部77と同様の構成である拡散部96が設けられる。すなわち、図9(d)に示すように、仕切部材9の後面の内壁にはパンチングメタル95が設けられる。また、パンチングメタル95の奥には図示しない拡散板が設けられる。
以下、塗布装置10によって塗布処理が行われる際における動作を説明する。塗布装置10によって基板Pに塗布を行う際には、まず、図5に示す供給系は、供給管74から第1〜第3ボックス71〜73内に窒素を供給する。また、供給系は、供給管78から仕切部材9の内部空間(空間C)に窒素を供給する。さらに、図5に示す排気系は、第1〜第3ボックス71〜73内の気体を排気管75から排出する。なお、供給系からの窒素の供給および排気系による排気は、例えば制御部6によって制御されてもよいし、例えばユーザによって制御されてもよい。以上によって、チャンバ空間、ボックス空間およびスライダ空間は窒素雰囲気となり、酸素濃度が低下していく。
ここで、本実施形態では、空間Cは仕切部材9によって周囲のチャンバ空間と仕切られており、かつ、供給管78から空間Cへ窒素が直接供給される。したがって、空間Cの酸素濃度は、仕切部材9の外部の他のチャンバ空間の酸素濃度と比べて短時間で上記酸素濃度管理値に達する。また、仕切部材9の内部空間はチャンバ空間よりも小さいので、仕切部材9の内部空間の酸素濃度が酸素濃度管理値に達するまでの時間は、仕切部材9を用いずに供給管74のみによってチャンバ空間全体を窒素雰囲気とする場合に比べて短くなる。このように、本実施形態によれば、必要な空間(空間C)を局所的に短時間で低酸素雰囲気とすることができる。したがって、塗布装置10による塗布処理をより早く開始することができるので、塗布装置10を効率よく稼働することができる。
空間Cの酸素濃度が酸素濃度管理値に達すると、上述したように制御部6は塗布装置10による塗布処理を開始する。すなわち、基板Pが初期位置にくるようにステージ4がY軸方向に移動される。なお、この初期位置は、基板PにおいてY軸方向に並んで形成された複数本の溝のうちの最もY軸正方向側にある溝の真上にノズル21が位置する位置である。つまり、初期状態においては、基板Pの塗布領域のうちでY軸正方向側の端部付近が各ノズル21〜23の下にくる。その後、塗布装置10による塗布処理が行われることによって、基板PはY軸正方向へ次第に移動していく。つまり、基板Pは、塗布処理が進むにつれて仕切部材9の開口部から内部空間へ進入していく。
図10は、基板Pに対する塗布処理が完了した時点の仕切部材9と基板Pとの位置関係を示す図である。図10に示すように、塗布処理の完了時においては、基板Pのほぼ全体(少なくとも、塗布が行われた全ての部分)が仕切部材9の内部に進入した状態となる。なお、本実施形態においては、塗布処理中においても供給管78から仕切部材9の内部空間に窒素が供給される。そのため、仕切部材9の内部空間の酸素濃度を常に酸素濃度管理値以下に維持され、基板Pに塗布された有機EL材料の酸化をより確実に防止することができる。
また、上述したように、本実施形態では仕切部材9の後面の内壁から窒素が供給される。そのため、仕切部材9の内部空間における窒素の流れは、奥側から開口部91へ向かう方向となるので、この流れによって、仕切部材9の外部から相対的に高い酸素濃度の気体が流入することを防止することができる。したがって、仕切部材9の後面の内壁から窒素を供給することによって、仕切部材9の内部空間における酸素濃度の上昇を確実に防止することができる。
なお、塗布処理中において、空間Cにおける酸素濃度が酸素濃度管理値を越えることを防止するために、塗布処理中においても供給管74からの窒素供給および排気管75からの気体排出が継続される。ここで、ノズルユニット2やノズル21〜23がX軸方向に往復移動することによって、スライダ空間内の気体や開口部S1付近の気体が攪拌される。したがって、例えばスライダ空間内に酸素が残存している場合、当該酸素が攪拌によってチャンバ空間(空間C)へ流出してチャンバ空間における酸素濃度を上昇させることがある。つまり、チャンバ空間における酸素濃度の管理においては、塗布処理前および塗布処理中の流体バランスを考慮する必要がある。本実施形態においては、スライダ空間内やボックス空間内も低酸素雰囲気に置換することによって、塗布処理中における酸素濃度の上昇を防止している。
また、空間Cにおける酸素濃度を安定させるためには、第1〜第3ボックス71〜73内の圧力も重要である。例えば、第1〜第3ボックス71〜73が外部に対して完全密閉構造でない場合、第1〜第3ボックス71〜73内の圧力が大気圧未満(つまり、外部より低い圧力)に維持されると外部の気体が第1〜第3ボックス71〜73内に流入する。したがって、本実施形態では、第1〜第3ボックス71〜73内の圧力を大気圧以上(つまり、外部と同じまたは高い圧力)に維持できるように、塗布処理前および塗布処理中の流体バランスが調整される。これによって、第1〜第3ボックス71〜73が外部に対して完全密閉構造でなくても、空間Cにおける酸素濃度の管理を行うことができる。
以上のように、本実施形態によれば、窒素が供給されるチャンバ空間の内部において仕切部材9を設けることによって、短時間で低酸素雰囲気となる空間を局所的に生成する。そして、塗布処理が行われた基板領域が当該空間に移動するように基板を移動させる。これによって、塗布処理を開始するまでの時間を短縮することができるので、塗布装置10を効率よく稼働することができる。
なお、上記実施形態では、仕切部材9の内部空間に窒素を供給する場合、仕切部材9の後面の内壁から窒素を供給することとした。ここで、他の実施形態では、仕切部材9の上面の内壁から窒素を供給するようにしてもよい。これによれば、塗布液が塗布された基板上面の近傍から窒素が供給されるので、基板上面を効果的に低酸素雰囲気とすることができる。なお、仕切部材9の上面の内壁から窒素を供給する場合、供給口から供給される窒素の流速を低減するために、上述した拡散板およびパンチングメタル(図6参照)を供給口に設けることが特に有効である。また、他の実施形態においては、仕切部材9の下面の内壁から窒素を供給するようにしてもよい。これによれば、供給口から供給される窒素が基板の塗布面に直接吹き付けられることがないので、塗布直後の塗布液に悪影響を与えることがない。さらに他の実施形態においては、仕切部材9の各面(上下面、左右面および後面)の内壁に窒素の供給口を設けるようにしてもよい。これによれば、仕切部材9の内部空間を均一に低酸素雰囲気にすることができる。
また、上記実施形態においては、仕切部材9の開口部91は、ノズル21〜23に比べて、基板が移動してくる側により近い位置に形成された。したがって、基板は、開口部91を通過してからノズル21〜23の下を通過するように移動することとなるので、塗布液の塗布が行われた後の基板領域だけでなく、塗布液の塗布が行われる最中の基板領域をも仕切部材9の内部空間に含めることができる。つまり、塗布液の塗布が行われた後の基板領域だけでなく、塗布液の塗布が行われる最中の基板領域をも短時間で低酸素雰囲気にすることができる。これによって、塗布液の酸化をより効果的に防止することができる。なお、他の実施形態においては、塗布液の塗布が行われた後の基板領域のみが仕切部材9の内部空間に含まれるようにしてもよい。具体的には、ノズル21〜23の位置よりもY軸正方向側に開口部91が位置する構成としてもよい。この場合、仕切部材9がノズル21〜23の移動を妨げることがないので、仕切部材9に穴92を形成する必要はない。
また、上記実施形態で示した仕切部材9の形状は一例であり、仕切部材9は、その内部空間と外部空間とを仕切るものであればどのような形状であってもよい。仕切部材9の内部空間と外部空間とを仕切ることができれば、当該内部空間を局所的に低酸素雰囲気とすることができるからである。上記実施形態においては、仕切部材9は、上面、下面、側面、および後面を有する形状であったが、例えば、第1ボックス71の上面が仕切部材9の上面を兼ねるようにしてもよい。さらに、上記実施形態において穴92〜94が形成されたことからもわかるように、仕切部材9は、その内部空間と外部空間とを完全に仕切る必要はなく、当該内部空間を局所的に低酸素雰囲気とすることができる程度であればよい。
塗布装置10における塗布処理が完了した基板Pは、図示しない搬送ロボットにより塗布装置10から搬出される。搬出された基板Pに対しては、基板Pの有効領域以外の領域に塗布された有機EL材料が除去される。除去処理は、基板P上の有機EL材料を除去する方法であればどのような方法であってもよく、例えば、レーザアブレーションによって有機EL材料を除去する方法であってもよいし、除去領域に予めマスキングテープを貼付しておく方法であってもよい。そして、除去処理が完了した基板Pに対して乾燥処理(ベーク処理)が行われる。以上によって、赤色の有機EL材料について塗布・乾燥処理が完了したことになる。この後、基板Pに対しては、赤色の場合と同様に、緑色および青色の有機EL材料について塗布・乾燥処理が行われる。すなわち、緑色の有機EL材料を塗布する処理、塗布された緑色の有機EL材料を乾燥させる処理、青色の有機EL材料を塗布する処理、および、塗布された青色の有機EL材料を乾燥させる処理が順に行われる。このように赤色、緑色および青色の有機EL材料について塗布・乾燥処理が行われることによって、有機EL表示装置の発光層が形成される。さらに、発光層が形成された基板に対して例えば真空蒸着法により陰極電極が発光層上に形成されることによって、有機EL表示装置が製造される。
なお、他の実施形態においては、ノズル21〜23から赤、緑、および青色の有機EL材料をそれぞれ吐出してもかまわない。この場合、赤、緑、および青色の順に配列された、いわゆる、ストライプ配列が1つの塗布工程で形成される。また、上述した実施形態では、3個1組のノズル21〜23で基板Pの各溝内に有機EL材料を流し込んでいるが、この3個1組のノズル21〜23を複数組設けて基板Pの各溝内に有機EL材料を流し込んでもかまわない。
また、上述した実施形態では、塗布液として有機EL材料や正孔輸送材料を塗布液とした有機EL表示装置の製造装置を一例にして説明したが、本発明は他の塗布装置にも適用できる。例えば、レジスト液やSOG(Spin On Glass)液やPDP(プラズマディスプレイパネル)を製造するのに使用される蛍光材料を塗布する装置にも適用することができる。また、液晶カラーディスプレイをカラー表示するために液晶セル内に構成されるカラーフィルタを製造するために使用される色材を塗布する装置にも適用することができる。