JP4655969B2 - 鉄の定量方法 - Google Patents

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本発明は、鉄の定量方法、特に、試料水中に含まれる鉄の定量方法に関する。
ボイラへの給水として用いられる水道水などの原水は、通常、ボイラ内での腐食やスケールの発生を防止するために、溶存酸素を除去する脱酸素処理および硬度分、すなわちカルシウムやマグネシウムを除去する軟水化処理が施されている。ここで、脱酸素処理は、通常、原水を分離膜で処理することにより実施されている。また、軟水化処理は、通常、原水をイオン交換樹脂で処理することにより実施されている。
ところで、水道水などの原水は、鉄分を含む場合が多い。この鉄分は、脱酸素処理で用いる分離膜を目詰まりさせ、原水の脱酸素処理効率を損なう可能性があり、また、軟水化処理で用いるイオン交換樹脂に吸着し、原水の軟水化を妨げる可能性がある。このため、ボイラ給水として用いられる原水は、通常、脱酸素処理および軟水化処理される前段階での鉄分濃度の管理が重要である。また、ボイラにおいては、ボイラ水に含まれる鉄分量がボイラ缶体での腐食進行やスケールの発生傾向を示す指標として有意なことから、ボイラ水における鉄分の正確な定量が重要である。そこで、ボイラシステムにおいては、原水やボイラ水に含まれる鉄の定量が実施されている。
原水やボイラ水などの水中において、鉄分は、イオン状、コロイド状および酸化鉄や水酸化鉄等の沈殿物状などの種々の状態で存在している。このため、水中に含まれる鉄分の全量を正確に定量するためには、分析対象となる水(試料水)において、コロイド状や沈殿物状の鉄分を水中へイオンとして溶解し、水中の鉄イオンを定量する必要がある。ここで、鉄イオンの定量は、通常、フェナントロリン吸光光度法、フレーム原子吸光法、電気加熱原子吸光法若しくはICP発光分光分析法により実施される。因みに、フェナントロリン吸光光度法を実施する場合は、水中に含まれる三価の鉄イオンを予め二価の鉄イオンに還元しておく必要もある。
非特許文献1は、このような鉄の定量方法において適用可能な試料水の前処理方法を規定している。この前処理方法は、試料水に対して塩酸、硝酸および硫酸等の鉱酸の一種若しくは二種を添加して煮沸した後に放冷し、純水で薄めて試料水量を調整している。しかし、このような前処理方法は、試料水に対する鉱酸の添加、試料水の煮沸および試料水量の調整という数段階の工程を経る必要があるため、作業が煩雑で長時間を要する。
一方、水分析においては、場合によっては数百から数千に達する多数の試料水を迅速に分析する必要があることから、試料水の分取、前処理および分析という一連の分析作業を分析機器において自動的に実行する連続流れ分析が主流になりつつある。ところが、試料水中の鉄の定量は、上述のような煩雑で長時間を要する前処理が必要になるため、連続流れ分析での実施が実質的に困難である。
日本工業規格 JIS K0101:1998、6−8頁
本発明の目的は、試料水中に含まれる鉄の全量を容易に定量できるようにすることにある。
本発明に係る鉄の定量方法は、試料水中に含まれる鉄の定量方法であり、試料水に亜二チオン酸塩を添加する工程と、亜二チオン酸塩が添加された試料水中の鉄をフレーム原子吸光法、電気加熱原子吸光法およびICP発光分光分析法から選択した一の分析方法により定量する工程とを含んでいる。
この定量方法において、試料水に亜二チオン酸塩を添加すると、試料水中に含まれているコロイド状および沈殿状の鉄分がイオン化して水中に溶解し、また、試料水中に含まれる三価の鉄イオンは二価の鉄イオンへ還元される。このため、この試料水に対して上記の分析方法を適用すると、試料水に含まれる鉄の全量を正確に定量することができる。
この定量方法では、試料水のpHを4.2以下に調整してから亜二チオン酸塩を添加する。また、この定量方法では、亜二チオン酸塩が添加された試料水を加熱するのが好ましい。これらの場合、試料水に含まれるコロイド状および沈殿物状の鉄分と亜二チオン酸塩との反応速度が速まり、より迅速な鉄の定量が可能になる。
本発明に係る鉄の定量方法は、試料水に亜二チオン酸塩を添加してから試料水中の鉄を所定の分析方法により定量しているので、試料水中に含まれる鉄の全量を容易に定量することができる。
本発明に係る鉄の定量方法では、先ず、試料水に亜二チオン酸塩を添加する。
ここで試料水は、分析対象となる水であって特に制限されるものではなく、水道水、工業用水、地下水、河川水、湖沼水、ボイラ水、ボイラ等の熱機器からの復水などの各種の水である。
また、ここで用いられる亜二チオン酸塩は、通常、亜二チオン酸とアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、亜鉛およびカドミウム等との塩であり、水溶性のものである。また、亜二チオン酸塩は、無水物であってもよいし、水和物であってもよい。このうち、本発明では、一般に市販されており、入手が容易なことから、亜二チオン酸のアルカリ金属塩の一種である亜二チオン酸ナトリウムの無水塩を用いるのが好ましい。
試料水に対する亜二チオン酸塩の添加量は、通常、試料水の種類に応じた経験則等から予測される、試料水中に含まれる鉄分量に対して十分な量に設定する。特に、試料水中に含まれるコロイド状の鉄分および水酸化鉄や酸化鉄等の沈殿状の鉄分の全量を試料水中に溶解することができ、しかも、これらの鉄分の溶解後に試料水中に存在する三価の鉄イオンを二価の鉄イオンへ還元するのに必要な十分な量に設定するのが好ましい。具体的には、試料水中に含まれるものと予測される鉄分量に対し、モル比で5〜500倍当量に設定するのが好ましい。
因みに、試料水に含まれる微量鉄分の定量分析を実施する場合は、通常、試料水10ミリリットルに対して少なくとも30mg、好ましくは100mg以上の亜二チオン酸塩を添加する。
亜二チオン酸塩を添加した試料水は、通常、振り混ぜた後に10〜20分程度放置する。これにより、試料水中に含まれるコロイド状および沈殿状の鉄分と亜二チオン酸塩が反応し、当該鉄分がイオン化して試料水中に溶解するとともに、試料水中に存在する三価の鉄イオンが二価の鉄イオンへ還元される。すなわち、試料水中に含まれる鉄分の全量は、二価の鉄イオンの状態で試料水中に溶解した状態になる。
この際、亜二チオン酸塩を添加した試料水を加熱すると、上記反応が促進され易くなり、試料水をより迅速に次の分析工程へ移行させることができる。また、亜二チオン酸塩を添加する試料水は、予めpHが4.2以下、好ましくは3.5以下になるよう調整されていてもよい。この場合、試料水は、上述の通り加熱することもできる。試料水のpHをこのように調整すると、上記反応がより促進され易くなり、試料水をより迅速に次の分析工程へ移行させることができる。試料水のpHは、通常、試料水に対して塩酸などの鉱酸を添加して調整するのが好ましい。この際、試料水のpHは、酢酸アンモニウム水溶液等の緩衝液を添加し、微調整することもできる。試料水を加熱したり、試料水のpHを上述のように調整したりした場合は、通常、亜二チオン酸塩を添加した試料水の放置時間を3〜10分程度まで短縮することができる。
次に、上述のようにして処理された試料水に対し、鉄分、すなわち、二価の鉄の定量分析を実施する。ここで、定量分析方法としては、フレーム原子吸光法、電気加熱原子吸光法およびICP発光分光分析法から選択した一の分析方法を採用することができる。
フレーム原子吸光法による場合は、試料水をアセチレン−空気フレーム中へ噴霧し、鉄による原子吸光を所定の波長(通常は248.3nm)で測定して鉄を定量する。電気加熱原子吸光法による場合は、試料水を電気加熱炉で原子化し、鉄による原子吸光を所定の波長(通常は248.3nm)で測定して鉄を定量する。ICP発光分光分析法による場合は、試料水をプラズマ中へ噴霧して所定の波長(通常は238.204nm)の発光強度を測定し、この測定強度を空試験で得られた測定強度で補正した値から鉄を定量する。これらの分析方法の詳細は、JIS K0101:1998において規定されている。
因みに、亜二チオン酸塩が添加された試料水は、白濁する場合があるが、白濁した試料水は、そのまま上述のような定量分析方法が適用されてもよいし、ろ過してから上述のような定量分析方法が適用されてもよい。但し、白濁した試料水は、分析機器の細い流路を詰まらせたりする可能性があるため、その上澄み液を用いて上述の分析方法を適用するのが好ましい。
本発明に係る鉄の定量方法は、試料水に対して亜二チオン酸塩を添加して所要時間放置するだけで試料水に対して上述の所定の分析法を適用することができるため、従来の煩雑な前処理が必要な定量方法に比べて短時間で試料水中に含まれる鉄分の全量を容易に定量することができる。したがって、上述の各種分析方法を実施可能な分析機器においてこの定量方法を採用すれば、試料水中の鉄を当該分析機器を用いて自動的に定量分析することができ、水分析において主流となりつつある連続流れ分析を実現することができる。
試料水Aの調整
鉄イオン濃度が1,000mg/リットルの原子吸光用標準液(和光純薬工業株式会社製)0.5ミリリットルに純水を加えて全量が100ミリリットルになるよう希釈し、イオン状鉄を含む試料水Aを調製した。
試料水Bの調製
ビーカーに純水100ミリリットルを加え、これを沸騰させた。この純水に対し、ガラス棒で撹拌しながら20重量%塩化鉄(III)水溶液5ミリリットルを加え、約1分間加熱した。その後、この水溶液の粗熱を取り、水酸化鉄(III)のコロイドを含む試料水を調製した。この試料水1.5ミリリットルに純水を加えて全量が1,000ミリリットルになるよう希釈し、試料水Bとした。
試料水Cの調製
特殊循環ボイラのボイラ水管理基準に関するJIS B8223:1999の第4頁において規定された、pH(25℃)が11.0〜11.8、酸消費量(pH4.8)が100〜800mgCaCO/リットル、電気伝導度(25℃)が400mS/メートル以下および塩化物イオン濃度が400mgCl/リットル以下の条件で運転されているボイラのボイラ水を採取し、試料水Cとした。この試料水Cは、イオン状、コロイド状および沈殿物状等の様々な状態の鉄分を含むものと予想される。
実施例1〜3
試料水10ミリリットルに対して8重量%塩酸水溶液1ミリリットルと25重量%酢酸アンモニウム水溶液0.72ミリリットルとを添加し、試料水のpHを略3に調整した。続いて、試料水に対し、亜二チオン酸ナトリウム無水塩(和光純薬工業株式会社製の化学用)100mgを添加して振り混ぜ、10分間放置した。この際、試料水は白濁した。
次に、白濁した試料水について、ICP発光分光分析法により鉄の定量を実施した。ここでは、セイコーインスツルメンツ株式会社製のICP発光分光分析装置「SPS7800」を用い、測定感度において有利な波長259.940nmの発光強度を測定し、その測定結果から予め作成した検量線に基づいて試料水中に含まれる鉄を定量した。
実施例4〜6
白濁した試料水を0.2μmのフイルタを用いてろ過した点を除いて実施例1〜3と同様に操作し、試料水中に含まれる鉄を定量した。
比較例1〜3
試料水について、そのまま、ICP発光分光分析法により鉄の定量を実施した。ICP発光分光分析法およびその結果に基づく鉄の定量方法は実施例1〜3と同じである。
比較例4〜6
試料水10ミリリットルに対してJIS K8180:1994に規定の塩酸0.5ミリリットルを添加して振り混ぜ、10分間放置した。その後、試料水について、ICP発光分光分析法により鉄の定量を実施した。ICP発光分光分析法およびその結果に基づく鉄の定量方法は実施例1〜3と同じである。
比較例7〜9
試料水10ミリリットルに対してJIS K8180:1994に規定の塩酸0.5ミリリットルを添加して振り混ぜ、突沸しないように緩やかに約10分間煮沸した。その後、放冷した試料水に純水を加えて煮沸前の容量に戻し、当該試料水について、ICP発光分光分析法により鉄の定量を実施した。ICP発光分光分析法およびその結果に基づく鉄の定量方法は実施例1〜3と同じである。
この比較例は、JIS K0101:1998において規定された、ICP発光分光分析法による鉄の定量方法に該当する。
評価
各実施例および比較例の定量結果を表1に示す。表1には、比較例7〜9の定量結果を基準値(100%)とした場合の相対値を併せて表示している。表1によると、実施例1〜6は、比較例7〜9と略同等の結果が得られており、信頼性が高いことがわかる。
Figure 0004655969
参考例1
JIS K0101:1998に規定されたICP発光分光分析法に従った前処理(塩酸煮沸)および鉄の定量分析を実施して鉄濃度が判明している試料水(鉄濃度=6.973mg/リットル:本参考例において、この濃度を基準値という)10ミリリットルに対し、亜二チオン酸ナトリウム無水塩(和光純薬工業株式会社製の化学用)の水溶液1ミリリットル(亜二チオン酸ナトリウム無水塩粉末換算で100mg)、メタ重亜硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製の特級)の水溶液2ミリリットル(メタ重亜硫酸ナトリウム粉末換算で200mg)およびチオ硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製の試薬一級)の水溶液1ミリリットル(チオ硫酸ナトリウム粉末換算で100mg)を添加して振り混ぜた。ここで、メタ重亜硫酸ナトリウム水溶液は、亜二チオン酸ナトリウム無水塩水溶液の添加による試料水の白濁を防止するために添加したものである。また、チオ硫酸ナトリウム水溶液は、試料水に含まれる銅イオンが後述する測定の妨害になるのを防止するために添加したものである。試料水のpHは、塩酸水溶液と25%酢酸アンモニウム水溶液との添加により、亜二チオン酸ナトリウム無水塩水溶液等を添加する前に、予め3.2に調整した。
上述のようにして調製した試料水を25℃、50℃若しくは70℃に設定し、所定時間経過毎に鉄を定量した。ここでは、試料水に対して0.5重量%1,10−フェナントロリンエタノール溶液0.4ミリリットルを添加し、波長510nmの吸光度に基づき鉄を定量した。結果を表2に示す。表2において、25℃の場合は10〜15分経過しないと測定結果が100%付近へ到達しないのに対し、50℃および70℃では3分程度の経過で測定結果が100%付近に到達している。この結果によると、亜二チオン酸ナトリウム無水塩水溶液が添加された試料水は、加熱して温度を高めた方が、より迅速に鉄の定量分析結果を正確に得られることになる。
Figure 0004655969
参考例2
JIS K0101:1998に規定されたICP発光分光分析法に従った前処理(塩酸煮沸)および鉄の定量分析を実施して鉄濃度が判明している試料水(鉄濃度=6.973mg/リットル:本参考例において、この濃度を基準値という)10ミリリットルに対し、亜二チオン酸ナトリウム無水塩(和光純薬工業株式会社製の化学用)の水溶液1ミリリットル(亜二チオン酸ナトリウム無水塩粉末換算で100mg)、メタ重亜硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製の特級)の水溶液2ミリリットル(メタ重亜硫酸ナトリウム粉末換算で200mg)およびチオ硫酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製の試薬一級)の水溶液1ミリリットル(チオ硫酸ナトリウム粉末換算で100mg)を添加して振り混ぜた。メタ重亜硫酸ナトリウム水溶液およびチオ硫酸ナトリウム水溶液の添加目的は、参考例1と同じである。試料水のpHは、塩酸水溶液と25%酢酸アンモニウム水溶液との添加により、亜二チオン酸ナトリウム水溶液等を添加する前に、予め3.2、3.7若しくは4.2に調整した。
上述のようにして調製した試料水を50℃に設定し、所定時間経過毎に鉄を定量した。ここでは、試料水に0.5重量%1,10−フェナントロリンエタノール溶液0.4ミリリットルを添加し、波長510nmの吸光度に基づき鉄を定量した。結果を表3に示す。表3は、試料水のpHが低い場合(3.2の場合)は約100%の測定結果が得られるまでに要する時間が3分程度であるのに対し、pHが高い場合(3.7または4.2の場合)は100%の測定結果が得られるまでに5分以上を要していることを示している。この結果によると、試料水は、pHを低く設定した方が、より迅速に鉄の定量分析結果を正確に得られることになる。
Figure 0004655969

Claims (2)

  1. 試料水中に含まれる鉄の定量方法であって、
    前記試料水のpHを4.2以下に調整してから前記試料水に亜二チオン酸塩を添加する工程と、
    亜二チオン酸塩が添加された前記試料水中の鉄をフレーム原子吸光法、電気加熱原子吸光法およびICP発光分光分析法から選択した一の分析方法により定量する工程と、
    を含む鉄の定量方法。
  2. 亜二チオン酸塩が添加された前記試料水を加熱する、請求項1に記載の鉄の定量方法。
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