特許文献1に開示された超磁性金属酸化物を用いた磁気ビーズは、磁性金属を用いたものに比べると磁気特性が低いために、目的物質の分離精製工程における固液分離(磁気分離)に長時間を要し、また磁力を用いて固液分離操作を行う際に磁気応答性が低いため目的物質の精製能率が低減するといった問題がある。また、特許文献2にように、カルボニル鉄を粒子核として用いた磁気ビーズは、優れた磁気特性を発揮しうる。しかし粒子表面をケイ素酸化物により被覆しただけでは、生体物質を分離精製する工程において通常使用される核酸等の抽出物質とケイ素酸化物とを特異的に吸着させるカオトロピック物質を含有する高塩濃度の溶液中(核酸溶解吸着液)に金属粒子が浸漬されるため、粒子核を構成する磁性金属元素が溶液中へ多量に溶出してしまう。そして、それに伴い生体物質の精製分離に支障をきたし、目的物質の抽出能が低減することが判明した。そこで本発明では、これらの問題に鑑み、高い飽和磁化を有するとともに、化学的安定性に優れた金属微粒子を提供することを目的とした。
発明者等は、上記課題を解決すべく、化学的安定性を高くし且つ飽和磁化の劣化を抑制すべく、ケイ素酸化物被膜等が金属粒子最表面に被覆された金属微粒子およびその製造方法を鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。本発明の金属微粒子は、その金属粒子核の表面に表面改質層が形成されており、さらにその表面が無機材料で被覆された金属微粒子であることを特徴とする。本発明の金属微粒子の製造方法は、磁性金属元素を主として構成する金属微粒子を、シランカップリング剤溶液中で攪拌混合することにより、化学的安定性を向上させる表面改質層を形成し、金属アルコキシドを加水分解させることにより表面改質層の表面に無機材料被覆を形成することを主な特徴とする。以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の金属微粒子は、磁性金属を主成分とする平均粒径が10μm以下の金属微粒子核と、前記金属微粒子核の表面に形成された前記磁性金属とSiを含有する表面改質層と、前記表面改質層の表面を被覆する1種類以上の無機材料被覆を有することを特徴とする。ここで、金属微粒子核とは表面改質層および被覆層の形成工程を施す前の磁性粒子のことをいう。また、表面改質層とは金属微粒子核の表面を改質することにより、金属微粒子核表面に形成され、透過電子顕微鏡観察によってコントラストをもって金属粒子核と区別して観察される層である。前記磁性金属核は少なくともFe、Co、Niの1種を含む磁性金属であることが望ましい。磁性金属核の平均粒径が10μmを超えると、無機材料を被覆した金属微粒子全体も大きくなり、溶媒中での金属微粒子の分散性が低下し、目的とする生体物質を抽出する工程において溶液中で金属微粒子が短時間で沈降してしまう。より好ましくは、無機材料被覆まで設けた金属微粒子における平均粒径を10μm以下とする。さらに、金属微粒子核の平均粒径は望ましくは0.1〜5μmの範囲内とする。金属微粒子核の平均粒径が0.1〜5μmの範囲内、より好ましくは、無機材料被覆まで設けた金属微粒子における平均粒径が0.1〜5μmの範囲内では、溶媒中で金属粒子の分散性が極めて高く、さらに高い磁気特性を有するために磁気分離操作を短時間で行うことが可能である。また、本発明の金属微粒子の表面は1種類以上の無機材料により被覆されている。このことにより、金属元素を主として金属微粒子を構成しているにも関わらず、耐溶出性に優れるといった特性を発現する。
本発明の金属微粒子では、さらに前記表面改質層は厚さは20nm以下とし、2〜20nmであることが好ましい。表面改質層の厚さが2nm未満でも化学的安定性を向上させる効果を発現しうるが、より優れた効果を発現するためには2nm以上であることが望ましい。一方、表面改質層の厚さの上限は特に限定されるものではないが、必要以上に厚くしようとすると工程が煩雑になるので20nm以下であることが望ましい。
さらに、前記表面改質層を含む金属微粒子核の最表面から粒子の中心方向へ30nmの深さの部位における前記磁性金属の濃度と、金属微粒子核内部における前記磁性金属元素の飽和濃度との差が10原子%以内であることが好ましい。このことは、金属微粒子が優れた化学的安定性を有していることを示す。30nmの深さの部位における前記磁性金属の濃度と、金属微粒子核内部における前記磁性金属元素の飽和濃度との差が10原子%よりも大きい場合には、金属粒子核表面の浸食が進行しており、金属粒子核において多量の欠陥を含み、金属微粒子の化学的安定性に劣っていることを示している。
本発明の金属微粒子は、表面にC−H結合を伴った磁性金属を主成分とする平均粒径が10μm以下の金属微粒子核と、前記金属微粒子核を被覆する1種類以上の無機材料被覆を有することを特徴とする。
さらに、前記無機材料被覆は、ケイ素酸化物を主体とすることが好ましい。該構成によって生体物質抽出能が発現する。また、金属微粒子表面に形成する無機材料被覆はTi、Al、Zrのうちの少なくとも一種の酸化物被覆層を形成し、その表面がさらにケイ素酸化物被覆により被覆されてもよい。このような多層無機材料被覆を施すことによりケイ素酸化物のみで被覆を形成した場合と同等以上の高分散、耐溶出の効果を発現する。
さらに、前記ケイ素酸化物を主体とする被覆層は、膜厚が400nm以下であることが好ましい。被覆層の膜厚が前記範囲内であると、金属微粒子の化学的安定性を十分に発現することができる。一方、被覆層の膜厚を400nmよりも大きくするためには、被覆を形成する工程が煩雑になり、さらには磁気特性の低減を生ずるために好ましくない。同様に、金属微粒子核表面にTi、Al、Zrの酸化物被覆層を形成し、その表面がさらにケイ素酸化物被覆により被覆された多層無機材料被覆金属微粒子の場合には、多層無機材料被覆の膜厚が400nm以下であることが好ましい。
また、前記金属微粒子において、飽和磁化の値が100〜200A・m2/kgあることが好ましい。飽和磁化の値が上記範囲内であると、磁力を用いた生体物質の回収を短時間で行うことが出来る。飽和磁化の値が100A・m2/kg未満の場合は、生体物質の回収において長時間を要する。また、表面改質層が形成した磁性金属粒子へ無機材料被覆を施すことにより、飽和磁化の値は磁性金属微粒子核単体の場合よりも減少する。飽和磁化の値が200A・m2/kgよりも大きい場合には、無機材料被覆が十分に形成しておらず、耐溶出性の向上効果や生体物質の抽出能を発現することが出来ない。
さらに、前記金属微粒子核はカルボニル鉄であることが好ましい。カルボニル鉄は、Feを主成分としているにも関わらず、Fe単体の微粒子と比較すると化学的に安定で大気中に暴露されても酸化されにくい。さらには比較的安価で入手しやすいため、工業的な観点からも優れている。
また、本発明の生体物質抽出用磁気ビーズは、前記金属微粒子を用いたことを特徴とする。前記金属微粒子を用いることによって、生体物質抽出能に優れた磁気ビーズを実現する。
また、本発明の金属微粒子の製造方法は、磁性金属を主成分とする平均粒径が10μm以下の金属微粒子核を分散させた水溶液またはアルコール溶液中においてシランカップリング剤を加水分解して前記金属微粒子核表面に前記磁性金属とSiを含有する表面改質層を形成した後、前記金属微粒子核を乾燥する工程と、前記表面改質層が形成された金属微粒子核に無機材料被覆層を形成する工程とを有することを特徴とする。かかる方法によって、金属微粒子核の表面に磁性金属とSiを含有する表面改質層を設け、耐溶出性の高い金属微粒子を実現できる。
さらに、前記無機材料被覆層はケイ素酸化物を主体とする被覆層であり、該被覆層は、ケイ素アルコキシドを加水分解することによって形成されることが好ましい。これによって生体物質抽出能が高い金属微粒子が得られる。また、前記無機材料被覆はTi、Al、Zrのうちの少なくとも一種の酸化物被覆層とその表面がケイ素酸化物被覆により被覆された多層無機材料被覆により構成されていてもよい。
本発明によれば、高い化学的安定性を有し、かつ高い飽和磁化を兼ね備えた金属微粒子およびその製造方法を提供することができる。特に、生体物質の分離精製工程において、高塩濃度の溶液中に金属微粒子が浸漬される際に金属元素の溶液中への溶出を抑制することが可能である。
本発明の金属微粒子は、磁性金属を主成分とする金属微粒子核、その表面に形成された表面改質層ならびに前記表面改質層が形成された金属微粒子核を被覆する1種類以上の無機材料被覆により構成される。磁性金属を主成分とする金属微粒子核は、Fe、CoおよびNiの単体、これらの合金並びにこれらと他の元素との合金および化合物が好ましい。高い飽和磁化を示す磁性金属を主成分とする金属微粒子核を用いることによって迅速な磁気分離が可能となる。このうち特に高い飽和磁化を有することからFeを主成分とすること、すなわちFe単体、Feを含有する合金・化合物であることが好ましい。Feを主成分とする金属微粒子核として、例えばカルボニル鉄微粒子が挙げられる。カルボニル鉄は、Feを主成分としているにも関わらず、Fe単体の微粒子と比較すると化学的に安定で大気中に暴露されても酸化されにくい。さらには比較的安価で入手しやすく工業的な生産に関して好ましい。上記金属微粒子核の平均粒子径は10μm以下であることが好ましい。さらに好ましくは金属微粒子核の平均粒子径は0.1〜5μmであることが望ましい。良好な分散性を実現するために、その粒子径は前記範囲とする。平均粒子径の下限は特に規定されるものではないが、核酸抽出担体の媒介として使用する目的においては、磁力を利用して生体物質の回収および分散を行うために良好な磁気特性を有し、磁気分離操作を迅速に行うことを考慮すると0.1μm以上であることが望ましい。
金属元素を粒子核とする場合には、上述のように核酸溶解吸着液中における耐溶出性に優れていることが望ましい。本発明の表面改質層は生体物質の抽出工程において、金属粒子核を構成する金属元素の溶出を緩和させる効果、すなわち溶出緩衝層としての効果を発現する。本発明の表面改質層は、金属微粒子核にシランカップリング処理をすることによって、金属微粒子核表面が改質されることにより形成できる。また、表面改質層は透過電子顕微鏡観察によってコントラストをもって金属粒子核と区別して観察される層である。シランカップリング処理のよって改質された表面改質層は、金属核の主成分である磁性金属とSiを含有する。さらに、非金属元素としてC、N、Oを含有してもよい。前記表面改質層は、金属粒子の通常の酸化によって生じる単なる表面酸化層とは区別される。
表面改質層の作製方法について説明する。金属微粒子核となる磁性粒子をアルコールまたは水中へ分散させる。アルコールとしては低級アルコールであるエタノール、メタノール、イソプロパノール等が挙げられる。水は純水もしくはイオン交換水が好ましい。分散法としては、特に限定される物ではないが、溶媒中に粒子を分散させる好適な分散機を使用することが望ましく、プロペラを使用したモーター攪拌、超音波印加、ボールミル攪拌、振動攪拌等が挙げられる。次に磁性粒子を分散させた溶液へシランカップリング剤を添加する。シランカップリング剤としては、アミノフェニルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(トリエトキシシリル)プロピルアミン、(1,3−ジメチルーブチリデン)プロピルアミン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−アミノエチル−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニルー3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニルー3−アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。シランカップリング剤の添加量は磁性粒子に対して0.01〜1質量%が好ましい。シランカップリング剤の添加量が前記範囲よりも少ない場合には、表面改質層が形成されないかもしくはその緩衝能が不十分であり、前記範囲よりも多い場合にはシランカップリング剤が粒子表面に均一に結合しにくくなる。上記以外の方法として、予め0.01〜1質量%のシランカップリング剤を溶解したアルコールもしくは水溶液を準備し、前記溶媒へ磁性粒子を分散させる方法を用いる方法も、均一な表面改質層を形成させるために有効である。上記のように磁性粒子を分散させたシランカップリング剤溶液を加水分解させるために、例えば1時間以上攪拌を施す。これにより、金属微粒子核たる磁性粒子表面へ均一に表面改質層が形成される。また、シランカップリング剤による処理は、同種または異なるシランカップリング剤を用いて2回以上行うことにより、表面改質層の緩衝能力をさらに向上させることも可能である。上記の方法により、金属微粒子核の表面が改質され、構成金属元素およびSiを含有する表面改質層が形成される。これにより、後述するケイ素酸化物被覆を施す際に、弱アルカリ性の溶媒中に金属微粒子が浸漬されることによる金属核からの金属元素の溶出およびケイ素酸化物被覆を形成した金属粒子において核酸抽出液中における金属元素の溶出を防ぐことができる。
表面改質層が形成された金属核は、さらに無機材料で被覆される。該被覆によって、よりいっそう耐溶出性を改善することができる。特に無機質材料被覆をケイ素酸化物を主体とする被覆層とすることで、高い核酸抽出担体性能を持たせることができる。また、異なる無機質材料で多層に被覆を形成することにより、さらに分散性、耐溶出性を改善することも可能である。無機質材料としてはTi、Al、Zrの酸化物が挙げられる。生体物質の精製を目的とする場合には、上記無機質材料で被覆された金属微粒子の表面がケイ素酸化物により被覆される。また、ケイ素酸化物被覆を形成させる工程を2回以上行うことで、ケイ素酸化物被覆をより均一に形成することも可能である。
ケイ素酸化物は、例えばケイ素アルコキシドの加水分解反応で得られる。ケイ素アルコキシドの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、テトラプロポキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等でも良い。また、テトラエトキシシランはケイ素酸化物源と成り得るアルコキシシランの中でも、生成した被膜の絶縁性が高いという作用効果に優れ、コストも比較的安いので好ましい。
Ti、Al、Zrの酸化物被覆を形成する際には、表面改質層が形成した金属微粒子を分散させたアルコール溶液中おいて、Ti、Al、Zrのアルコキシドを加水分解することにより当該被覆を形成することができる。これにより得られた無機材料被覆金属微粒子をケイ素酸化物により多重に被覆することにより、ケイ素酸化物被覆のみで被覆された場合と同等以上の核酸抽出性能を発現する。
テトラエトキシシランを採用する場合を例に、ケイ素酸化物被覆の形成方法を説明する。上述の表面改質層が形成した金属微粒子を、アルコール溶液中に分散させる。当該アルコール溶液としては、例えばエタノール、メタノール、イソプロパノールなどの低級アルコールが挙げられる。テトラエトキシシランの加水分解を行わせるためには、反応を促進させるために触媒としてアンモニア水を添加する。アンモニア水はテトラエトキシシランを理論上100%加水分解可能な量以上の水を含む。具体的にはテトラエトキシシラン1molに対して水2mol以上である。アルコール溶液の使用割合は、テトラエトキシシラン100重量部に対して100〜10000重量部が好ましい。さらに、テトラエトキシシランの使用割合は、金属微粒子100重量部に対してテトラエトキシシラン5〜150重量部が好ましい。より好ましくは金属微粒子100重量部に対してテトラエトキシシラン5〜80重量部である。テトラエトキシシランが5重量部未満であると、金属微粒子の表面をケイ素酸化物被覆により均一に被覆することが困難となる。一方、テトラエトキシシランの使用割合が150重量部を超える場合は、金属微粒子の被覆を形成するケイ素酸化物の他に、ケイ素酸化物単体の微粒子が多量に形成され、生体物質の抽出効率が低下する。さらに好ましくはテトラエトキシシランが10〜60重量部である。テトラエトキシシランの加水分解に用いられる水の使用割合は、テトラエトキシシラン100重量部に対して、好ましくは17〜1000重量部である。この割合が17重量部未満の場合には、テトラエトキシシランの加水分解の進行が遅くなり、作製効率が悪くなる。一方、1000重量部を越えると、ケイ素酸化物を主体として構成される単離球が多量に形成されてしまうため、好ましくない。触媒として用いられるアンモニア水の使用割合は、例えば、アンモニア水の濃度が28%の場合には、テトラエトキシシラン100重量部に対して、10〜100重量部が好ましい。10重量部よりも少ない場合には、触媒としての作用が十分に発揮されないため、好ましくない。また、100重量部よりも多い場合には、ケイ素酸化物を主体として構成される単離球が多量に形成されてしまうため、好ましくない。上記手法において、溶媒中にはアンモニア水およびケイ素アルコキシドが含まれるため、pHが約11と弱アルカリ性である。そのため、金属粒子が腐食することが懸念されるが、本発明では、金属核の表面に表面改質層が形成された金属微粒子を採用しており、これにより金属を粒子核としているにも関わらず、ケイ素酸化物被覆を作製する際の金属核の腐食を防ぐことができる。
前記金属微粒子に均一にケイ素酸化物被覆を形成するためには、ボールミル混合機、V型混合機、モーター攪拌機、ディゾルバー攪拌機または超音波印加装置などを用いて、溶液と金属微粒子を十分混合する。混合時間はテトラエトキシシランの加水分解反応が十分に進行する時間以上必要である。本発明に係る金属微粒子は、ケイ素酸化物被覆形成後で十分な性能を発揮するため必ずしも熱処理を必要としないが、生成する残留水和物を除去する観点から、水和物を除去可能な温度以上で熱処理を行い、被覆膜の強度を増加させることも可能である。
ケイ素酸化物被覆層の厚みは平均で400nm以下であることが好ましい。十分な磁力を得るためには、金属微粒子の飽和磁化は、前記磁性金属の飽和磁化の50%以上かつ100%未満であることが望ましいが、400nmを超えると飽和磁化の低下が大きくなり、それが困難となる。より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは80nm以下である。一方、当該発明の磁性微粒子は、磁気ビーズと称される生体物質抽出の媒体として供される場合には、被覆はケイ素酸化物の化学的性質を発現する必要があるため、例えば電気二重層の観点で規定される表面電位(ζ電位)がケイ素酸化物単体と同等の数値を示す5nm以上が好ましい。
ここで、ケイ素酸化物被覆の膜の厚さとは、表面改質層を含む粒子核表面から、ケイ素酸化物被覆表面まで間の距離に相当する。膜の厚さは、例えば透過型電子顕微鏡により観察を行い測定する。試料粒子を透過型電子顕微鏡で観察すると、金属微粒子核とケイ素酸化物膜ではコントラストが生じ、ケイ素酸化物膜が金属微粒子の表面に形成されていることがわかる。本発明において、粒子10個以上の粒子について各々の粒子の膜厚を測定しその平均値を膜厚とした。各々の粒子の膜厚は、その粒子の膜の厚さを4箇所以上計測し、平均値をその粒子の膜厚とした。金属微粒子表面に上記のケイ素酸化物膜が形成していることは、例えばエネルギー分散型蛍光X線分析(EDX分析)、オージェ電子分光測定などの元素分析、または赤外分光光度計で測定を行うことで確認できる。金属微粒子を透過型電子顕微鏡観察し、上述したように金属微粒子表面の膜に対して、EDX分析もしくはオージェ電子分光分析を行うと、膜がケイ素酸化物によって構成されていることを確認することができる。赤外分光光度計で金属微粒子の吸収スペクトルを測定すると、波数1250〜1020cm−1の範囲でケイ素酸化物に起因する吸収ピークを観察することができ、このことによりケイ素酸化物膜の形成を確認することができる。
平均粒径は、例えば、金属微粒子の試料粉末を溶媒中に分散させて、レーザー光線を照射させ回折を利用して粒径分布を測定する方法により求めることができる。本発明においては、平均粒径には、該測定方法におけるメジアン径d50値を用いた。あるいは、粒径が100nm以下と小さい場合は、試料を透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡で観察して平均粒径を測定する。試料の電子顕微鏡写真を撮影し、金属粒子の粒径を測定し、その平均値を粒径として求める。後者の方法では、測定粒子の数が少なくとも50個以上になるようにして、平均値を得ることが望ましい。測定面積内の粒子数が少ない場合には、電子顕微鏡の倍率を変えるか若しくは視野を移動することにより、他の粒子も測定して合計の測定粒子数を50個以上にする。さらに、個々の微粒子の粒径(直径)とは、例えば被覆層を有する微粒子の外径に相当するが、断面が円形でない場合には最大長さと最小長さの平均値をその微粒子の粒径と見なす。
ケイ素酸化物膜の厚さは、テトラエトキシシランの加水分解反応を利用して形成する場合には、テトラエトキシシランの調合量に加えて、水、触媒の量等にも依存する。しかしながら、これらの量が過剰であると、ケイ素酸化物の膜厚は大きくなるが、膜を形成しない過剰なシリカが単独で形成されてしまう。ケイ素酸化物の膜厚は電解質を添加することにより増加させることができる。ここで、電解質の具体例としては、KCl、NaCl、LiCl、NaOHなどが挙げられる。
上記手法により金属粒子核表面に表面改質層を形成し、更にその表面がケイ素酸化物により被覆された金属微粒子を得ることができる。
ここで、表面改質層の特定方法ならびにその溶出抑制効果の評価方法について詳細を説明する。表面改質層は透過型電子顕微鏡により観察する方法並びに、オージェ電子分光分析による元素分析による方法を併用することにより同定することができる。透過型電子顕微鏡観察では、金属粒子の構成を実空間で観察できることから、表面改質層の形成の確認およびその厚さを確認することができる。オージェ電子分光分析は表面改質層の構成元素や、表面改質層から粒子の中心方向への磁性金属元素濃度の変化を知ることができる。それぞれの手法に関して詳細を以下に述べる。
表面改質層の構成は、粒子断面を透過型電子顕微鏡により観察することで確認することが出来る。透過型電子顕微鏡観察に好適な粒子断面は例えば集束イオンビーム加工観察装置により作製することができる。これにより得られた粒子断面を透過型電子顕微鏡により観察することで、金属粒子核、表面改質層およびケイ素酸化物被覆層を観察することができ、さらに表面改質層および被覆層の厚さを測定することも可能である。金属粒子核、表面改質層およびケイ素酸化物被覆層においてはその構成元素の含有率が異なるため、透過型電子顕微鏡観察像においてコントラストが生じ、各層を識別することができる。表面改質層の厚さは、ケイ素酸化物被覆と表面改質層との界面から、表面改質層と金属粒子核の界面までの距離を測定することで得られる。上記方法で得られた金属微粒子断面を透過型電子顕微鏡で観察し、上記距離を任意の4箇所以上で測定し、その平均値を表面改質層の厚さとして求める。観察を行う透過型電子顕微鏡の機種に関しては特に制限はないが、表面改質層はその厚さが20nm以下と薄いため、その観察に適した40万倍以上の高倍率の観察が可能である透過型電子顕微鏡を採用することが望ましい。
表面改質層の構成元素は、分析手法としてはオージェ電子分光分析法を採用することで求めることができる。特にオージェ電子分光分析とイオンエッチングを組み合わせた、粒子表面から粒子の中心方向への深さに対する構成元素の分布測定(デプスプロファイリング)により、表面改質層を特定することができる。
ここで、オージェ電子分光分析結果から表面改質層の構成元素の特定方法並びに磁性金属粒子の粒子核における金属元素の濃度分布変化の測定方法について詳細を述べる。具体的に図15を用いて説明すると、図15にはカルボニル鉄粒子の表面に厚さ5nmの表面改質層が形成され、さらにその表面にケイ素酸化物被覆が形成された金属微粒子の粒子最表面から粒子の中心方向へのオージェ電子分光分析デプスプロファイルが示されている。ここで、デプススプロファイルの深さは、SiO2を同じ条件でイオンエッジングした際のエッジング速度から換算した量を使用する。このうち、金属微粒子を主として構成している磁性金属元素の元素濃度(この場合はFe元素)に注目する。Fe元素濃度の飽和値の半値、すなわち50%の値を示す元素濃度にあたる位置を金属粒子核の最表面と定義し、図中にAで示す。ここで金属元素の飽和値とは、デプスプロファイルにおいて粒子核の金属元素濃度が増加した後に一定となる値であり、デプスプロファイルにおいて粒子の表面から中心へ向かい、20nm隔てた2つの測定点における金属元素濃度の差が2原子%以内となる中心側の点における金属元素の濃度とする。本発明においては、金属粒子核は表面改質層を含むこととするので、Aは表面改質層の表面に一致する。次にAから深さ方向へ両矢印線で示されたように間隔30nmの離れた位置をBとする。金属粒子核における金属元素の濃度変化とは、金属粒子核における金属元素の濃度の飽和値とBの深さにおける金属元素の実測値との差と定義する。本発明によって得られる金属粒子はこの金属粒子核における濃度変化は10原子%以下である。このことは、金属微粒子が優れた化学的安定性を有していることを示す。30nmの深さの部位における前記磁性金属の濃度と、金属微粒子核内部における前記磁性金属元素の飽和濃度との差が10原子%よりも大きい場合には、金属粒子核表面の浸食が進行しており、金属粒子核において多量の欠陥を含み、金属微粒子の化学的安定性に劣っていることを示している。粒子核表面から深さ方向に30nmの部位において、Fe元素の元素濃度が著しく低下していることは、ケイ素酸化物被覆を形成する際にFe元素が粒子核から溶出したことを示している。表面改質層を有する場合には表面改質層(粒子核)表面から30nmの部位において、Fe元素の元素濃度に顕著な変化は見られず、Feの濃度変化を10原子%以内とすることができる。Fe等の磁性金属の濃度変化が10原子%を超えることは、溶出量が多く、欠陥も多くなることを意味し、化学的安定性に劣ることとなる。
一方、デプスプロファイルにおいて、表面改質層の位置を同定するためには、透過型電子顕微鏡観察により求められた表面改質層の厚さを用いて同定する。透過型電子顕微鏡観察により表面改質層の厚さが5nmと求められた場合には、表面改質層はAから深さ5nmの間に相当する。これにより、表面改質層を構成する構成元素をオージェ電子分光分析デプスプロファイルから同定することができる。
上述のシランカップリング処理をした金属微粒子核は、その表面にC−H結合が存在していることを電子エネルギー損失分光分析によって確認することができる。本発明は、表面にC−H結合を伴った磁性金属を主成分とする平均粒径が10μm以下の金属微粒子核と、前記金属微粒子核を被覆する1種類以上の無機材料被覆を有する金属微粒子としてとらえることができる。これは、磁性金属を主成分とする平均粒径が10μm以下の金属微粒子核を水溶液またはアルコール溶液中に分散させ、該溶液中でシランカップリング剤を加水分解させた後、前記金属微粒子核にさらに無機材料被覆層を形成することにより得られる。シランカップリング剤処理により金属微粒子核の表面へC−H結合を有する有機成分を形成することにより、緻密な結合を有する膜状態が実現されていると考えられるため、金属粒子核を構成する金属元素の溶出を抑制することができる。ここでC−H結合を有する分子膜はシランカップリング剤を加水分解して形成するため、樹脂材料とは区別される。このC−H結合は、上述のように電子エネルギー損失分光分析により検出することができる。例えば、集束イオンビーム加工観察装置により粒子断面を得て、金属微粒子核表面部を分析することにより、金属微粒子核がその表面にC−H結合を有することを確認することができる。
本発明における溶出抑制の効果は、所定量の溶媒に金属微粒子を一定時間浸漬し、溶液中に溶出した金属元素の含有率を測定することで確認することができるが、生体物質の抽出を目的とするならば、その工程で使用されるカオトロピック塩溶液を用いて金属微粒子の溶出性能を評価することが望ましい。
一般には、カオトロピック物質としてはグアニジン塩、イソチオシアン酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、尿素、過酸化塩酸ナトリウム、過酸化クロム酸ナトリウム等が挙げられる。さらに、核酸抽出用溶液は、緩衝能を発現させるべく、例えばトリス緩衝液、リン酸緩衝液、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を含有する緩衝液等を添加することもある。本発明において、東洋紡績製「Mag Extractor −Genome−」(登録商標)DNA抽出キット付属の核酸溶解吸着液を用いた。この溶液36重量部に対して前記金属微粒子1重量部を25℃において10分間浸漬した際の、水溶液中へ溶出した金属元素濃度を溶出量とする。10分間の浸漬の前には、超音波印加装置を使用して粒子を溶液中へ分散させる。溶液中への金属元素の溶出量は誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP発光分析)を使用して分析を行うことができる。本発明により得られる金属微粒子は金属微粒子核の表面に表面改質層を形成しているため、溶液中における粒子核の金属元素の溶出を抑制する効果が発現し、上記溶液中における溶出量が飛躍的に低減する。表面改質層を有さないケイ素酸化物被覆金属微粒子の場合には上記溶液中における金属元素の溶出量は1.5mg/リットルよりも多いのに対して、本発明のケイ素酸化物被覆金属微粒子ではその溶出量を1.5mg/リットル以下とすることができる。上記成分の水溶液は細胞、血液等から核酸などの抽出を目的とする生体物質を表面がケイ素酸化物等で被覆された金属微粒子と特異的に吸着させる現象を発現する核酸溶解吸着液または核酸抽出用溶液と称される溶液であり、上記水溶液中において、無機材料被覆金属微粒子の金属元素が1.5mg/リットルより多く溶出すると、生体物質の抽出を阻害し、抽出能が低減する要因となる。溶出量を1.5mg/リットル以下とすることで安定した抽出能を発揮する。より好ましくは1.0mg/リットル以下である。また、溶出量を測定する具体的な溶液として次の溶液を用いても良い。例えば50mmol/リットルのTris−HCl、7mol/リットルのグアニジン塩酸塩、20mmol/リットルのEDTAを含むpH7.5である水溶液である。かかる溶液を用いる場合は、溶液が異なる以外は前記東洋紡績製抽出キット付属の核酸溶解吸着液を用いる場合と同様の条件において、高い溶出能を発揮するための溶出量は2.0mg/リットル以下、より好ましくは1.0mg/リットル以下である。
表面改質層を形成した金属微粒子核を被覆する無機材料の代わりに、表面改質層を形成した金属微粒子核と無機材料の間に、或いは表面改質層を形成した金属微粒子核を被覆する無機材料樹の外側に、さらに樹脂被覆層を設けてもよい。樹脂被覆層を設けることによって、耐食性が向上し、高塩濃度のカオトロピック溶液中においても飽和磁化の劣化が抑制される。また、比重を調整し、分散性を向上させることも可能である。樹脂層は熱可塑性樹脂を主体とする被膜層であることが好ましい。熱可塑性樹脂は、熱を加えると溶解流動し、冷却すると固化するため、金属微粒子を被覆することができる。また、表面改質層を形成した複数の金属微粒子核、或いは表面改質層が形成された金属微粒子核がさらに無機材料で被覆された金属微粒子を、樹脂が内包した構成とすることもできる。本発明では、樹脂層を設ける前に、金属粒子核には前記の表面改質層が設けてある。該表面改質層が存在する構成は、加熱を必要とする熱可塑性樹脂を被覆する場合に好適な構成ということができる。
熱可塑性樹脂は、これを特に限定するものではないが、例えばポリスチレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミドなどがある。このうちポリアミドとしては例えばナイロン6、ナイロン12、ナイロン66などのナイロン類が挙げられる。また、本発明の熱可塑性樹脂は互いに異なる2種以上の樹脂の混合物であっても良い。樹脂の被覆は以下のようにして形成することができる。熱可塑性樹脂と、該熱可塑性樹脂と相溶性のない分散媒体とを混合して混合分散物とし、前記混合分散物を熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱した後、前記融点よりも低い温度に冷却して前記金属微粒子を樹脂で被覆する。ここで、本発明の分散媒体は、熱可塑性樹脂に対して、実質的に相溶性を有さないことが好ましい。分散媒体は、例えばポリエチレングリコールなどのポリアルキレンオキシド、ポリビニルアルコール等を用いることができ、互いに異なる2種以上の樹脂の混合物であっても良い。また、金属微粒子の分散は、用いる熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱して行なうが、融点より10〜150℃高い温度に加熱して行なうことが好ましい。加熱温度が高すぎると樹脂の分解や金属微粒子の酸化が起こるため好ましくない。一方、加熱温度が低すぎると均一な被覆が困難となる。分散方法は、これを特に限定するものではないが、例えばニーダー等の混練機を用いることができる。融点よりも低い温度に冷却した後は、例えば磁気分離などによって樹脂を設けた金属微粒子を分離することができる。
樹脂被覆微粒子においては、前記樹脂被膜は、重合により形成することもできる。前記樹脂被膜の形成には、原料モノマーとして、単官能ビニル系モノマーを用いることができる。この単官能ビニル系モノマーには、多官能ビニル系モノマーを実質上架橋が起こらない範囲、例えば全モノマーに対して0.5モル%未満の量で加えてなるモノマー混合物であってもよい。この樹脂被膜としては、特にポリスチレン樹脂被膜が好適である。
以下、本発明に係る実施例を詳細に説明する。ただし、これら実施例によって必ずしも本発明が限定されるわけではない。
(実施例1)
平均粒径3.5μmのカルボニル鉄粉(BASF社製 グレードOM)5gをエタノール溶媒100ml中に分散し、これにγ―アミノプロピルトリメトキシシランを0.05g添加した。超音波印加装置によりこれを10分間攪拌した後、振動攪拌機にて1時間攪拌を行った。その後、エタノールで3回洗浄し、大気中にて12時間乾燥した。前記工程で得た微粒子5gをエタノール溶媒100ml中に分散し、これにテトラエトキシシランを5g添加した。この溶媒を攪拌しながらイオン交換水、アンモニア水およびKClの混合溶液を添加した。イオン交換水、アンモニア水およびKClはそれぞれ22g、4g、0.03g使用した。その後、ボールミルで3時間攪拌した。攪拌後、濾過することにより固液分離し、その後大気中において100℃以上に加熱して乾燥した。
得られた金属微粒子に形成したケイ素酸化物被覆を観察するために、電解放出型透過型電子顕微鏡で金属微粒子を観察した。また表面改質層を確認するために金属微粒子の断面を集束イオンビーム加工観察装置で観察面を作製し、透過型電子顕微鏡で観察した。得られた金属粒子の粒子核表面近傍の元素分布を調べるために、オージェ電子分光分析装置(ULVAC製 PHI 700)でデプスプロファイリング測定を行った。また、表面改質層の形成による金属微粒子からの金属元素の溶出量を測定するために、東洋紡績製「Mag Extractor −Genome−」(登録商標)DNA抽出キット付属の核酸溶解吸着液を900マイクロリットルと得られた金属粒子25mgを容量が2マイクロリットルのマイクロチューブ中で1分間超音波印加装置により攪拌し、25℃において10分間浸漬後、磁気分離により固液分離を行い溶液中のカルボニル鉄粒子の主構成元素であるFe元素の含有量をICP発光分析により測定した。また、50mmolTris−HCl、7molグアニジン塩酸塩、20mmol EDTA溶液(核酸抽出用溶液)を用いて、同様の条件で処理して、Fe元素の含有量をICP発光分析により測定した。得られた金属微粒子の磁気特性はVSM(振動型磁力計)により測定し、平均粒径(d50)は、レーザー回折型粒度分布測定装置(HORIBA製 LA−920)で測定した。
上記ケイ素酸化物被覆金属微粒子250mgをpH7.5であるTris−EDTA溶液(20mmol/リットルのトリス塩酸、1mmol/リットルのEDTA、)400μリットルへ分散させて分散液を調製し、この分散液100マイクロリットルを、λ-DNA(和光純薬製 0.5μg/マイクロリットル)2マイクロリットルおよび核酸抽出用溶液(50mmol/リットルのTris−HCl、5mol/リットルのグアニジン塩酸塩、20mmol/リットルのEDTA)850マイクロリットルに添加し、室温で10分間攪拌混合しDNAを金属微粒子へ吸着した。その後、洗浄液(50mmol/リットルのTris−HCl、5mol/リットルのグアニジン塩酸塩、20mmol/リットルのEDTA)、70%エタノール水溶液による洗浄を2回ずつ行った。金属微粒子からDNAを離脱させるために、DNAが吸着した金属微粒子を滅菌水100マイクロリットルに分散させ、室温で10分間攪拌混合した後、DNAを抽出した溶液を回収した。上記の工程において、固液分離操作を行う際には磁気分離法で行った。抽出したDNAは電気泳動法と蛍光強度を測定することによりDNA抽出能を評価した。DNA抽出量を測定する際には、DNA染色蛍光体としてPico Green(登録商標)(Molecular Probes製)で染色し、蛍光強度は蛍光強度測定装置(FluorImager595(登録商標) Amersham Biosciences製)で測定した。
得られた平均粒径3.8μmの金属微粒子のうち、特に粒径の小さな1つの鉄微粒子に着目し、透過型電子顕微鏡で観察した様子を図1の写真に示す。図2は、図1の写真の要部を模写した模式図である。金属粒子核1の表面がケイ素酸化物2により被覆されている粒子を得ることが出来た。ケイ素酸化物被覆の膜厚は100nmであった。
得られた金属微粒子の断面を透過型電子顕微鏡で観察した一部を拡大した様子を図3の写真に示す。図4は、図3の写真の要部を模写した模式図である。金属粒子核1の表面に表面改質層3が形成していることが確認できた。表面改質層の膜厚は5nmであった。さらにその表面がケイ素酸化物2により被覆されていることがわかる。また、この観察からケイ素酸化物被覆は非晶質構造であることも確認された。
また、得られた金属微粒子のオージェ電子分光分析によるデプスプロファイルの測定結果を図5に示す。図6は図5のFe元素のプロファイルのみを示した。これらの図では、深さ方向の距離はSiO2を同じ条件でイオンエッヂングした際の距離に換算した距離を示している。また、ここでオージェ電子分光分析を行った粒子のケイ素酸化物被覆は約20nmであった。表面近傍では、SiとOが約1:2の原子比で検出され、粒子核表面にケイ素酸化物被覆が形成していることが確認された。磁性金属元素の飽和量は92.4原子%と求まり、その半値は46.2原子%と求まった。デプスプロファイルにおける表面改質層の位置は、図6にAで示された深さ20nmの位置である。表面改質層の厚さはTEM観察により5nmと求まったので、表面改質層は厚さ20nm〜25nmの部位である。表面改質層においては、Fe、Si、C、N、Oが検出された。表面改質層表面から深さ30nm隔てた図6にBで示された部位における金属元素の実測値(92.1原子%)と金属元素の飽和量(92.4原子%)との差から求められる粒子核におけるFe元素の元素濃度変化量は、1原子%以下であった。このことから、ここで得られた表面改質層を有するケイ素酸化物被覆金属粒子のケイ素酸化物被覆形成時における金属元素の溶出が、表面改質層を有することにより抑制されていることが確認された。表1に示すように、Fe溶出量は1.0mg/リットル以下であり高い耐溶出性能を示した。また平均粒径は3.8μmであり、溶液中における沈降は見られず高い分散性を示した。さらに、飽和磁化は178Am2/kgの値を示し軟磁気特性に優れており、DNA抽出工程における磁気分離操作時間を短縮することが可能である。DNA抽出量は700ng以上の高い値を示した。
(実施例2)
実施例1と同様にシランカップリング剤前処理を行った粒子5gを、チタニウムイソプロポキシド1gを添加したエタノール100ミリリットルへ投入し、超音波を印加させて1時間攪拌した。その後、エタノールにて3回洗浄し、実施例1と同様にケイ素酸化物被覆処理を行った。得られた金属微粒子を用いて実施例1と同様に、Fe溶出量測定、磁気特性測定、平均粒径測定、核酸の抽出能評価を行った。結果を表1へ示す。表1に示すように、Fe溶出量は1.0mg/リットル以下であり高い耐溶出性能を示した。また、平均粒径は3.6μmであり、溶液中における沈降は見られず高い分散性を示した。さらに、飽和磁化は174Am2/kgの値を示し軟磁気特性に優れており、DNA抽出工程における磁気分離操作時間を短縮することが可能である。DNA抽出量は700ng以上の高い値を示した。
(実施例3)
表面改質層の作製工程におけるシランカップリング剤処理を5回繰り返し行った以外は実施例1と同様にして金属微粒子を作製した。得られた金属微粒子を用いて実施例1と同様に、東洋紡績製「Mag Extractor −Genome−」(登録商標)DNA抽出キット付属の核酸溶解吸着液を用いたFe溶出量測定、磁気特性測定、平均粒径測定、核酸の抽出能評価を行った。結果を表1へ示す。表1に示すように、Fe溶出量は1.0mg/リットル以下であり高い耐溶出性能を示した。また、平均粒径は4.7μmであり、溶液中における沈降は見られず高い分散性を示した。さらに、飽和磁化は172Am2/kgの値を示し軟磁気特性に優れており、DNA抽出工程における磁気分離操作時間を短縮することが可能である。DNA抽出量は700ng以上の高い値を示した。
(実施例4)
金属粒子核として平均粒径1.2μmのカルボニル鉄粉(BASF社製 グレードHQ)を使用した以外は、実施例1と同様にして金属微粒子を作製した。得られた金属微粒子を用いて実施例1と同様に、東洋紡績製「Mag Extractor −Genome−」(登録商標)DNA抽出キット付属の核酸溶解吸着液を用いたFe溶出量測定、磁気特性測定、平均粒径測定、核酸の抽出能評価を行った。結果を表1へ示す。表1に示すように、Fe溶出量は1.0mg/リットル以下であり高い耐溶出性能を示した。また、平均粒径は1.9μmであり、溶液中における沈降は見られず高い分散性を示した。さらに、飽和磁化は164Am2/kgの値を示し軟磁気特性に優れており、DNA抽出工程における磁気分離操作時間を短縮することが可能である。DNA抽出量は700ng以上の高い値を示した。
(実施例5)
粒径2.3μmのFe微粒子(JFEスチール株式会社)を金属粒子核として使用した以外は実施例1と同様にして金属微粒子を作製した。得られた金属微粒子を実施例1と同様に集束イオンビーム加工装置により加工し、透過型電子顕微鏡観察を行い、同時に粒子核表面における電子エネルギー損失分光法による元素および化学結合状態の解析を行った。図16に電子エネルギー損失スペクトルを示す。図中の矢印はC−H結合に起因するスペクトルピークを示しており、シランカップリング剤処理により粒子核がその表面にC−H結合を伴うことが確認された。得られた金属微粒子を用いて実施例1と同様に、Fe溶出量測定を行った。Fe溶出量測定の結果を表1に示す。溶出量は1.0mg/リットル以下であり、高い溶出性能を示した。さらに、飽和磁化は152Am2/kgの値を示し軟磁気特性に優れており、DNA抽出工程における磁気分離操作時間を短縮することが可能である。
(比較例1)
シランカップリング剤前処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして金属微粒子を作製した。得られた金属微粒子を実施例1と同様に集束イオンビーム加工装置により加工し、透過型電子顕微鏡で観察を行った。得られた金属微粒子を用いて実施例1と同様に、東洋紡績製「Mag Extractor −Genome−」(登録商標)DNA抽出キット付属の核酸溶解吸着液を用いたFe溶出量測定、磁気特性測定、平均粒径測定、核酸の抽出能評価、オージェ電子分光分析装置によるデプスプロファイリングおよび核酸の抽出能評価を行った。Fe溶出量測定、磁気特性測定、平均粒径測定、核酸の抽出能評価の結果を表1に示す。また、得られた金属微粒子の断面を透過型電子顕微鏡で観察した様子を図7の写真に示す。図8は、図7の写真の要部を模写した模式図である。Fe粒子核1の表面にケイ素酸化物被覆2が形成していることが確認できた。この粒子においては実施例1で得られた金属微粒子で観察された表面改質層は確認されなかった。
比較例1で得られた金属微粒子のオージェ電子分光分析によるデプスプロファイルの測定結果を図9に示す。ここで、深さ方向の距離はSiO2を同じ条件でイオンエッチングした場合の距離に換算した距離を示している。表面近傍では、SiとOが約2:1の原子比で検出され、ケイ素酸化物被覆が形成していることが確認された。さらに、深さが15nm以上ではFe、Si、C、N、Oが検出されたが、ケイ素酸化物被覆と金属粒子核との界面付近のSiの減少が実施例1の場合に比べて急峻であることから、このことが表面改質層がTEMで確認されないことに対応すると考えられる。Fe含有量に注目すると、深さ10nmから18nmの範囲では実施例1と同様に、同等な増加量でFeが増加しているが、18nmよりも深い領域では実施例1の場合と異なり、Fe含有量がなだらかに変化していた。図9のFe元素のみのプロファイルを示した図10において、実施例1と同様に、粒子核の表面の部位Aは深さ12.9nmの位置と求められた。粒子核表面から深さ30nmの部位(深さ42.9nm)におけるFe元素濃度の実測値(75.6原子%)と飽和値(92.7原子%)の差を求めたところ、17.1原子%であった。このことは、比較例1で得られた金属粒子はケイ素化物被覆処理を行う際に、粒子核の表面近傍においてFe元素が溶出してしまったことを示している。表1に示すように、表面改質層を有さないケイ素酸化物被覆金属微粒子ではFe溶出量が4.5mg/リットルとFe溶出量が多く、耐溶出性が低い。DNA抽出量は実施例1〜3で得られた金属微粒子では700ng以上であるのに対して、比較例1で得られた金属微粒子では100ngと低かった。
(比較例2)
表面改質層とケイ素酸化物被覆が形成していないカルボニル鉄粒子を実施例1と同様に集束イオンビーム加工装置により加工し、透過型電子顕微鏡で観察を行った。さらに実施例1と同様に東洋紡績製「Mag Extractor −Genome−」(登録商標)DNA抽出キット付属の核酸溶解吸着液を用いたFe溶出量測定、磁気特性測定、平均粒径測定を行った。得られた金属微粒子断面の透過型電子顕微鏡観察像を図11に示す。図12は図11の写真の要部を模写した模式図である。図12に示したように表面改質層は確認され無かった。Fe溶出量は、3.0mg/リットルと大きな値となった。
(比較例3)
ケイ素酸化物被覆を作製しなかった以外は実施例1と同様にして、表面改質層が形成したカルボニル鉄微粒子を得た。得られた微粒子を実施例1と同様に集束イオンビーム加工装置により加工し、透過型電子顕微鏡で観察を行った。さらに実施例1と同様にFe溶出量測定、磁気特性測定、平均粒径測定を行った。得られた金属微粒子断面の透過型電子顕微鏡観察像を図13に示す。図14は図13の写真の要部を模写した模式図である。粒子核1の表面に表面改質層3が形成していることが確認された。Fe溶出量は、1.7mg/リットル、3.1mg/リットルであり、比較例2と比べると表面改質層によって溶出抑制の効果が見られるものの、ケイ素酸化物被覆まで形成した実施例に比べて溶出量が大きいものとなった。
(比較例4)
シランカップリング剤前処理を行わなかった以外は、実施例4と同様にして金属微粒子を作製した。得られた粒子に対して実施例1と同様にFe溶出量測定、磁気特性測定、平均粒径測定、核酸の抽出能評価を行った。表1に示すように、表面改質層を有さないケイ素酸化物被覆金属微粒子ではFe溶出量が3.3mg/リットル、2.4mg/リットルとFe溶出量が多く、耐溶出性が低い。DNA抽出量は実施例1〜4で得られた金属微粒子では700ng以上であるのに対して、比較例4で得られた金属微粒子では80ngと低かった。
(比較例5)
表面改質層とケイ素酸化物被覆が形成していない平均粒径1.2μmのカルボニル鉄粒子に対して実施例1と同様にFe溶出量測定、磁気特性測定、平均粒径測定を行った。Fe溶出量は、8.6mg/リットル、40.1mg/リットルと大きな値となった。
(比較例6)
表面改質層とケイ素酸化物被覆が形成していない粒径2.3μmのFe微粒子(JFEスチール株式会社)に対して実施例1と同様にFe溶出量測定、磁気特性測定、平均粒径測定を行った。Fe溶出量は、実施例5で得られた金属微粒子の場合に比べて大きな値となった。