従来では、表示装置としてCRT(陰極線管)が主として用いられていた。しかし、近年では薄型の表示装置が、CRTに取って代わりつつある。薄型表示装置は、発光型と受光型に大別することができる。発光型としては、プラズマディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、発光ダイオードディスプレなどが知られている。受光型としては、液晶ディスプレイ、エレクトロクロミックディスプレイ、電気光学結晶ディスプレイ、電気泳動ディスプレイなどが知られている。
受光型表示装置は、自らは発光しないので、表示明度が低くて見づらいという問題がある。そこで、多くの受光型表示装置は、バックライトを備えることによってこの問題を解決している。この場合、受光型表示装置は透光型の表示パネルを含み、画素ごとに透光性を制御することによって表示を行なっている。このように画素ごとに透光性を制御するために、表示パネルは縦横に配置された電極帯やスイッチング素子を含んでいる。
図8は、特許文献1の特開昭60−165621号公報に開示された液晶表示パネルにおける電極帯およびスイッチング素子の配列を示す模式的平面図である。この図に示されているように、一般に液晶表示パネルにおいては、ガラス基板1上に、スイッチング素子としての非晶質シリコンTFT(薄膜トランジスタ)2、ドレイン金属電極3、ゲート金属電極4、および透明導電性酸化物の画素電極5が配置されている。
図9は、図8に示された電極帯およびスイッチング素子の配列を含む液晶表示パネルおける線A−Aに沿った模式的断面図である。この図において、第1のガラス基板1に対面して配置された第2のガラス基板2の全面上に、透明酸化物の共通電極7が設けられている。その共通電極7上には、画素電極5に対応する位置にカラーフィルタ8が配置されている。カラーフィルタ8は赤色、緑色、および青色のフィルタを含み、それら3色のフィルタは周期的に配列されている。対面する第1と第2のガラス基板1、6の間には液晶層10が挿入され、その周縁はエポキシ樹脂9によって封止されている。
特許文献1によれば、図9中の第1ガラス基板1の上面に、凹レンズとして作用するマイクロレンズ20のアレイが形成されている。これらのマイクロレンズ20は、TFT2およびドレイン電極3の上方に対応する領域に配置されている。そして、図9の上方からTFT2およびドレイン電極3の領域に向けて直進しようとするバックライト光は、凹レンズとして作用するマイクロレンズ20によって進路が曲げられて、画素電極5の領域内へ向けられる。すなわち、マイクロレンズ20がなければTFT2およびドレイン電極3の領域によって阻止されていたバックライト光が透明画素電極5の領域内に照射され、液晶表示パネルの表示明度を改善することができる。
図10は、特許文献1に開示されたエレクトロクロミック表示パネルを模式的断面図で示している。この表示パネルも、図9の表示パネルと同様に、ガラス基板1上に配置されたTFT2、ドレイン電極3、および透明画素電極5を含んでいる。しかし、それらのTFT2、ドレイン電極3、および透明画素電極5は、液晶層ではなくてエレクトロクロミック材料層としての酸化タングステン層50で覆われている。そして、この酸化タングステン層50上には、イオン電導層としてのフッ化マグネシウム層51および透明共通電極層52が形成されている。
このエレクトロクロミック表示パネルにおいても、ガラス基板1の上面に、凹レンズとして作用するマイクロレンズ20のアレイが形成されている。そして、図10の上方からTFT2およびドレイン電極3の領域に向けて直進しようとするバックライト光は、凹レンズとして作用するマイクロレンズ20によって進路が曲げられて、画素電極5の領域内へ向けられる。こうして、エレクトロクロミック表示パネルの表示明度も改善され得る。
以上のように表示明度が改善された透光型表示パネルを得るためには、ガラス基板内に平板型マイクロレンズアレイを作製しなければならない。
図11(a)から(c)は、平板型マイクロレンズアレイの作製方法の一例を模式的な断面図で図解している。図11(a)において、ガラス基板1a上にアレイ状に配列された小孔61aを有する金属レジスト層61が、フォトリソグラフィとエッチングによって形成される。図11(b)において、周知のイオン交換法によって、すなわち対向する複数の矢印62によって表されているようなイオン交換によって、レジスト層61の小孔61aを介して高屈折率領域1bが形成される。このとき、イオン交換はイオンの等方的熱拡散によって進行するので、高屈折率領域1bは、ガラス基板1a内において自然に概略半球状に形成される。もちろん、金属レジスト層61は、熱拡散温度に耐える耐熱性を有するとともに、イオンの通過を阻止する機能を有していなければならない。そして、図11(c)において、レジスト層61が除去されて、平板型マイクロレンズアレイ60が得られる。
なお、このようなマイクロレンズは光の屈折現象を利用しており、屈折型マイクロレンズである。また、このように透光性基板内に屈折率分布を有するレンズは、GRIN(GRaded INdex)レンズと呼ばれることもある。
ところで、従来からマイクロレンズとして屈折型マイクロレンズが主に用いられているが、近年では光学システムのサイズ、重量、コストなどを低減させる観点から、回折型のマイクロレンズが注目されている。回折型マイクロレンズは、光の回折現象を利用してレンズ機能を生じさせるものである。回折型マイクロレンズは、主としてレリーフ型(または膜厚変調型)マイクロレンズと屈折率変調型マイクロレンズに大別される。レリーフ型マイクロレンズでは、典型的には透光性基板の表面に同心円状の複数の微細なリング状溝が形成されており、それらの溝の深さ(すなわち基板の厚さ)が周期的に変化させられた構造を有している。他方、屈折率変調型マイクロレンズは、典型的には平板状基板が同心円状の複数の微細な帯状リング領域に分けられており、それらの領域の屈折率が周期的に変化させられた構造を有している。
透光性基板の厚さの周期的変化や屈折率の周期的変化は、その基板を通過する光の位相を周期的に変化させ、回折格子と同様に光の回折効果を生じさせる。そして、回折格子の格子ピッチが小さくなるにしたがって、回折格子を通過する光の回折角が大きくなる。したがって、同心円の中心から周縁に至るにしたがって同心円状回折格子のピッチを減少させることによって、その回折格子を通過する光を凸レンズのように集光することができる。
図12は、従来のレリーフ型マイクロレンズの作製方法の一例を模式的な断面図で図解している(非特許文献1:「マイクロレンズ(アレイ)の超精密加工と量産化技術」技術情報協会出版、2003年4月28日、第20−21頁、および第71−81頁)。また、図13は、図12の作製方法において用いられる露光マスクを模式的な平面図で示しており、周知のフレネルゾーンプレートに類似のパターンを有している。
図12(a)において、Si基板11上にポジ型フォトレジスト層12を形成し、第1のフォトマスク13を介して紫外光14aが照射される。この第1のフォトマスク13は、図13(a)に示されているような同心円状の帯状リングパターンを有し、リング間のピッチは同心円の中心から周縁に向かうにつれて減少させられている。なお、図13(a)においては図面の明瞭化と簡略化のためにわずかに2つの透光リングが示されているが、実際にはさらに多くのリングが含まれ得ることは言うまでもない。
図12(b)において、露光されたレジスト層12を現像して第1のレジストパターン12aが形成される。そして、その第1レジストパターン12aをマスクとして、矢印14bで表された反応性イオンエッチング(RIE)によって、所定深さの帯状溝リングが形成される。
図12(c)において、第1レジストパターン12aを除去することによって、バイナリレベル(光の位相を2段階に変調)のレリーフ型マイクロレンズ11aが得られる。なお、帯状溝リングの幅と深さは、2レベルまたは多レベルのレリーフ型マイクロレンズのそれぞれに応じて最も良好な回折効率が得られるように設定される。
図12(d)から(f)は、図12(a)から(c)と同様な工程に続いて4レベルのレリーフ型マイクロレンズを作製する工程を図解している。
図12(d)において、図12(c)までと同様の工程で形成されたSi基板11aの上面にさらに第2のレジスト層15を形成し、第2のマスク16を介して紫外光14cを照射する。図13(b)は、この第2マスク16を模式的平面図で示している。図13(a)と(b)から分かるように、第2マスク16は第1マスク13に比べて2倍の本数の帯状透光リングを有している。換言すれば、第2マスクの帯状透光リングおよび帯状不透光リングは、第1マスクの帯状透光リングおよび帯状不透光リングに比べて約1/2の幅を有している。
図12(e)において、露光された第2レジスト層15を現像して同図に示されているような第2のレジストパターン15aが形成される。そして、その第2レジストパターン15aをマスクとして、矢印14dで表されているRIEによって、さらに所定深さまでのエッチングが行なわれる。
図12(f)において、第2レジストパターン15aを除去して、4レベルの位相変化を生じ得るレリーフ型マイクロレンズ11bが得られる。なお、2レベルの回折型レンズに比べて、多レベルの回折型レンズでは高い回折効率が得られ、より高い集光効率が得られる。また、上述のようなフォトリソグラフィとRIEの工程をN回繰り返すことによって、2
Nレベルのレリーフ型マイクロレンズを作製することができる。ただし、理論上は無限数レベルの回折レンズで100%の回折効率が得られることになるが、作製工程数と費用が増大するので、実際上は95%の回折効率が得られる8レベルの回折型レンズで十分であろう(上述の工程をN=3回繰り返すことで作製可能)。
特開昭60−165621号公報
「マイクロレンズ(アレイ)の超精密加工と量産化技術」技術情報協会出版、2003年4月28日、第20−21頁、および第71−81頁
1、1a ガラス基板、1b マイクロレンズ、2 TFT、3 ドレイン金属電極、4 ゲート金属電極、5 透明画素電極、6 ガラス基板、7 透明共通電極、8 カラーフィルタ、9 エポキシ樹脂、10 液晶層、11 シリコン基板、11a 2レベルのレリーフ型マイクロレンズ、11b 4レベルのレリーフ型マイクロレンズ、12 第1レジスト層、13 第1マスク、14a 露光、14b RIE、15 第2レジスト層、16 第2マスク、14c 露光、14d RIE、20 マイクロレンズ、20a DLC層、20b マイクロレンズ、21 DLC膜、22 マスク層、22a 凹部、23 エネルギビーム、21a 高屈折率領域、21b 屈折率変調領域、21c 中心軸(中心面)、31 シリカ基板、32 レジストパターン、32a 溶融されたレジスト、32b エッチングされつつあるレジスト、31a エッチングされつつあるシリカ基板、31b 凸部、31c 刻印型、40 屈折率変調型の回折型マイクロレンズ、41 DLC膜、Rmn 帯状リング領域、f 焦点距離、42 Ni導電層、43 レジストパターン、44 金マスク層、45 エネルギビーム、41a 高屈折率領域、41b 低屈折率領域、50 エレクトロクロミック材料層、51 イオン伝導層、52 透明共通電極、60 マイクロレンズアレイ、61 金属マスク、61a 開口、62 イオン交換、71 ガラス基板、72 透明画素電極、73 不透明領域、74 液晶層、75 マイクロレンズ、76a 収束光、76b 透過光、82 DLC膜、82a 低屈折率領域、82b 高屈折率領域、84 レリーフ型位相格子マスク、85 KrFレーザ光、86 スペーサ。
まず、本発明に必要とされるマイクロレンズアレイを透光性DLC層内に形成することに関して、本発明者らは、DLC膜にエネルギビームを照射することによってその屈折率を高めることができることを確認している。そのようなDLC膜は、シリコン基板、ガラス基板、ポリマ基板、およびその他の種々の基体上にプラズマCVD(化学気相堆積)によって形成することができる。そのようなプラズマCVDによって得られる透光性DLC膜は、通常は1.55程度の屈折率を有している。
DLC膜の屈折率を高めるためのエネルギビームとしては、紫外線(UV)、X線、シンクロトロン放射(SR)光、イオンビーム、電子ビームなどを用いることができる。なお、SR光は、一般に紫外光からX線までの広い波長範囲の電磁波を含んでいる。
たとえば、Heイオンを800keVの加速電圧の下で5×1017/cm2のドース量で注入することによって、屈折率変化量をΔn=0.65程度まで高めることができる。なお、H、Li、B、Cなどのイオンの注入によっても、同様に屈折率を高めることができる。また、0.1〜130nmのスペクトルを有するSR光を照射することによっても、屈折率変化量を最大でΔn=0.65程度まで高めることができる。さらに、UV光照射では、たとえば波長248nmのKrFエキシマレーザ光をパルス当たり160mW/mm2の照射密度にて100Hzの周期でパルス照射すれば、屈折率変化量をΔn=0.22程度まで高めることができる。なお、ArF(193nm)、XeCl(308nm)、XeF(351nm)などのエキシマレーザ光やArレーザ光(488nm)の照射によっても、同様に屈折率を高めることができる。これらのDLC膜のエネルギビーム照射による屈折率変化量は、従来のガラスのイオン交換による屈折率変化量(最大でもΔn=0.17)または石英系ガラスのUV光照射による屈折率変化量(Δn=0.01以下程度)に比べて顕著に大きいことが分かる。
図1は、本発明の実施形態の一例による液晶表示パネルを模式的な断面図で図解している。本実施形態の液晶表示パネルにおいても、図9の場合に類似して、第1のガラス基板1上に、非晶質シリコンTFT2、ドレイン金属電極3、および透明画素電極5が配置されている。そして、第1のガラス基板1に対面して配置された第2のガラス基板2の全面上に、透明共通電極7が設けられている。その共通電極7上には、画素電極5に対応する位置にカラーフィルタ8が配置されている。カラーフィルタ8は赤色、緑色、および青色のフィルタを含み、それら3色のフィルタは周期的に配列されている。対面する第1と第2のガラス基板1、6の間には液晶層10が挿入され、その周縁はエポキシ樹脂9によって封止されている。
しかし、図1の液晶表示パネルにおいては、第1ガラス基板1上に透光性のダイヤモンドライクカーボン(DLC:ダイヤモンド状カーボン)層20aが形成されており、そのDLC層20a内には、マイクロレンズ20bのアレイが形成されている。ただし、DLC層が液晶パネルのガラス基板上に形成されることは必ずしも必要ではなく、望まれる場合には、他の任意の基板上に形成されたDLC層内に形成されたマイクロレンズアレイが液晶パネルのガラス基板に対面して配置されてもよいことは言うまでもない。
図2は、図1に示されているような液晶パネルにおけるマイクロレンズアレイの光学的作用を模式的な断面図で図解している。この図において、ガラス基板71の下面上には、透明画素電極72以外に金属電極帯やTFTなどを含む不透明領域73が存在している。そして、それらの透明画素電極72および不透明領域73は液晶層74によって覆われている。他方、ガラス基板71の上面上には,DLC層内に形成されたマイクロレンズ75のアレイが配置されている。
図2の液晶パネルにおいて、マイクロレンズ75のアレイの上方から照射されたバックライトは、そのマイクロレンズ75によって収束光76aにされ、透明画素電極72に向けて集光させられる。そして、透明画素電極72を透過した光が液晶層74の透過光76bとなって表示光として作用する。すなわち、マイクロレンズ75がなければ不透明領域73に向けて直進にてロスとなっていた光が、マイクロレンズ75の作用によって表示光として有効に利用し得ることになり、液晶パネルの表示明度を改善することができる。
図3において、DLC膜を用いて屈折型マイクロレンズアレイを作製する方法が、模式的な断面図で図解されている。
図3(a)において、DLC膜21上にマスク層22が形成される。マスク層22としては、エネルギビーム23の透過を制限し得る機能を有する種々の材料を用いることができる。たとえば、マスク層に対するエネルギビームの透過量の設計に応じて最適化されるように、金、クロム、ニッケル、アルミ、タングステンなどから選択することができる。このマスク層22はアレイ状に配列された微小な凹部22aを有している。それらの凹部22aの各々は、概略球面の一部または概略円柱面(この円柱面の中心軸は図の紙面に直交)の一部からなる底面を有している。それらの凹部22aのアレイを含むマスク層22を介して、エネルギビーム23がDLC膜21に照射される。
図3(b)において、エネルギビーム23の照射後にマスク層22を除去することによって、DLC膜21中に形成されたマイクロレンズアレイ21aが得られる。すなわち、エネルギビーム23の照射によって、マスク層22の凹部22aのアレイに対応して、DLC膜21内において高屈折率領域21aのアレイが形成されている。このとき、マスク層22の凹部22aは球面状または円柱面状の底面を有しているので、凹部21aの中央から周縁に向かうにしたがってマスク層の厚さが増大している。すなわち、エネルギビーム23は、凹部22aの周縁部に比べて中央部において透過しやすいことになる。したがって、高屈折率領域21aの深さは、その中央部において深くて周縁部において浅い球面状凸レンズまたは円柱面状凸レンズの形状を有している。その結果、それらの高屈折率領域21aの各々が、そのまま一つのマイクロレンズとして作用し得る。
なお、図3(a)に示されているようなエネルギビーム23によってマイクロレンズアレイを作製する場合、概略球面状または概略円柱面状の凹部22aの深さを調節することによって、図3(b)のマイクロレンズ21aの厚さを調節することができ、すなわちその焦点距離を調節することができる。また、凹部22aの深さを変化させなくても、照射するエネルギビーム23の透過能を変化させることによってもマイクロレンズ21aの焦点距離を調節することができる。たとえば、エネルギビーム23としてHeイオンビームを用いる場合、そのイオンの加速エネルギを高めて透過能を高めることによって、マイクロレンズ21aの焦点距離を短くすることができる。また、DLC膜に対するエネルギビーム23のドース量が高いほど屈折率変化Δnが大きくなるので、そのドース量を調節することによってもマイクロレンズ21aの焦点距離を調節することも可能である。
図3(c)は、他の形態のマイクロレンズアレイを模式的な断面図で示している。このマイクロレンズ21bは、DLC膜21を貫通する円柱状または帯状領域を有している。マイクロレンズ21bが円柱状である場合、その中心軸21cはDLC膜21の厚さ方向に平行であり、中心軸21cに近いほど屈折率が高くされている。マイクロレンズ21bが帯状である場合、その幅方向の中心を通る中心面(図の紙面に直交)21cはDLC膜21の厚さ方向に平行であり、中心面21cに近いほど屈折率が高くされている。
図3(c)のマイクロレンズアレイも、図3(a)に類似の方法によって形成され得る。すなわち、マスク層22の薄い領域およびDLC膜21を貫通し得る高いエネルギのビーム23を照射することによって、中心線または中心面21cに近い領域ほど高いドース量でそのエネルギビームが照射されることになって屈折率がより高められることになる。
図3(a)に示されているような概略球面状または概略円柱面状の底面を有する凹部22aを含むマスク層22は、種々の方法によって作製することができる。たとえば、DLC膜21上に均一な厚さのマスク層22を形成し、その上にアレイ状に配列された微小な穴または平行に配列された線状の開口を有するレジスト層を形成する。そして、そのレジスト層の微小な穴または線状の開口から等方的エッチングを行なうことによって、その微小な穴の下のマスク層22内に概略半球状または概略半円柱状の凹部22aを形成することができる。
図3(a)に示されているような概略球面状または概略円柱面状の底面を有する凹部22aを含むマスク層22は、図4の模式的な断面図に図解されているような方法で作製され得る刻印型を用いて簡便に作製することもできる。
図4(a)において、たとえばシリカの基板31上にレジストパターン32が形成される。このレジストパターン32は、基板31上でアレイ状に配列された複数の微小な円形領域上または平行に配列された複数の細い帯状領域上に形成されている。
図4(b)において、レジストパターン32が加熱溶融させられ、各微小円形領域上または細い帯状領域上で溶融したレジスト32は、その表面張力によって概略球面状または概略円柱面状の凸レンズ形状32aになる。
図4(c)において、概略凸レンズ状のレジスト32bとともにシリカ基板31aをRIEすれば、レジスト32bの径または幅がRIEで縮小しながらシリカ基板31aがエッチングされる。
その結果、図4(d)に示されているように、概略球面状または概略円柱面状の凸部31bが配列されたシリカの刻印型31cが最終的に得られる。なお、凸部31bの高さは、図4(c)におけるレジスト32bのエッチング速度とシリカ基板31aのエッチング速度との比率を調節することによって調節することができる。
こうして得られた刻印型31cは、図3(a)に示されているような凹部22aを含むマスク層22の作製に好ましく用いられ得る。すなわち、たとえばマスク層22が金材料で形成されている場合、金は展延性に富んでいるので、その金マスク層22に刻印型31cで刻印することによって、簡便に凹部22aを形成することができる。また、刻印型31cは一度作製すれば繰り返し使用可能であるので、エッチングによってマスク層22中の凹部22aを形成する場合に比べて遥かに簡便かつ低コストで凹部22aを形成することを可能にする。
なお、本発明におけるようにDLC膜を用いた屈折型マイクロレンズアレイは、従来のガラス基板を用いる場合にくらべて、エネルギビーム照射によって高屈折率のレンズを形成することができるので、ガラス基板に比べて遥かに薄いDLC膜中に屈折型マイクロレンズアレイを形成することができる。しかし、DLC膜を用いた屈折型マイクロレンズであっても、次に述べる回折型マイクロレンズに比べれば厚いDLC膜を要し、10μmから20μm程度以上の厚さを要する。
図5(a)の模式的な平面図と図5(b)の模式的な断面図において、DLC膜を用いて形成された回折型マイクロレンズが図解されている。回折型マイクロレンズは屈折型マイクロレンズに比べて薄く作製することが可能であり、1〜2μm程度の厚さのDLC薄膜中に回折型マイクロレンズを作製することができる。この回折型マイクロレンズ40は、同心円状の複数の帯状リング領域Rmnを含んでいる。ここで、符号Rmnは、第m番目のリングゾーン中の第n番目の帯状リング領域を表すとともに、同心円の中心からその帯状リング領域の外周までの半径をも表すものとする。それらの帯状リング領域Rmnは、同心円の中心から遠いものほど、減少させられた幅を有している。
互いに隣接する帯状リング領域Rmnは、互いに異なる屈折率を有している。図5の回折型マイクロレンズは、それが2レベルの回折型レンズである場合には、n=2番目までの帯状リング領域を含むリングゾーンをm=3番目まで含んでいることになる。そして、同じリングゾーン中では、外側に比べて内側の帯状リング領域の方が高い屈折率を有している。
このことから類推されるであろうように、4レベルの回折型レンズでは、一つのリングゾーンがn=4番目までの帯状リング領域を含み、この場合にも同じリングゾーン中では同心円の中心に近い帯状リング領域ほど高い屈折率を有している。すなわち、一つのリングゾーン中で内周側から外周側に向かって4段階の屈折率変化が形成されている。そして、そのような4段階の屈折率変化の周期がリングゾーンごとにm回繰り返されることになる。
なお、帯状リング領域Rmnの外周半径は、スカラー近似を含む回折理論から次式(1)にしたがって設定することができる。この式(1)において、Lはレンズの回折レベルを表し、λは光の波長を表し、そしてfはレンズの焦点距離を表している。また、最大の屈折率変化量Δnは、最大の位相変調振幅Δφ=2π(L−1)/Lを生じさせ得るものでなければならない。
図6の模式的な断面図において、図5に示されているような2レベルの回折型マイクロレンズの作製方法の一例が図解されている。
図6(a)において、DLC膜41上に、たとえばNiの導電層42が周知のEB(電子ビーム)蒸着法によって形成される。このNi導電層42上には図5中のn=1に対応する帯状リング領域Rmn(m=1〜3)を覆うようにレジストパターン43が形成される。そのレジストパターン43の開口部に、電気めっきによって金マスク44が形成される。
図6(b)において、レジストパターン43が除去されて、金マスク44が残される。そして、その金マスク44の開口部を通して、エネルギビーム45がDLC膜41に照射される。その結果、エネルギビーム45に照射された帯状リング領域Rm1の屈折率が高められ、エネルギビーム45がマスクされた帯状リング領域Rm2は当初のDLC膜の屈折率を維持している。すなわち、図5に示されているような2レベルの回折型マイクロレンズが得られる。なお、エネルギビーム照射後の金マスクは、シアン系のエッチング液に室温で数分程度浸漬することによって溶解されて除去される。
なお、図6の例ではDLC膜ごとにその上にマスク層が形成されるが、図13(a)に示されているような独立のマスクの開口部と遮蔽部とを逆にしたマスクを用いてDLC膜にエネルギビーム照射してもよい。また、図13(b)に示されているような独立のマスクの開口部と遮蔽部とを逆にしたマスクを用いてDLC膜にさらにエネルギビーム照射することによって、4レベルの回折型マイクロレンズが形成され得ることが理解されよう。この場合に、DLC膜にエネルギビーム照射して回折型マイクロレンズを形成する方法は、図12に図解されたレリーフ型マイクロレンズの作製方法にくらべて、顕著に簡略であることも理解されよう。
さらに、図4(d)に示されているような刻印型の代わりに、図12(f)に示めされているような形状を有する刻印型を用いてDLC膜上の金マスク層に刻印し、その刻印された金マスク層を介してエネルギビーム照射することによって、一回のエネルギビーム照射で多レベルの回折型マイクロレンズを作製することも可能である。
さらにまた、回折型マイクロレンズに関する上述の実施形態では屈折型レンズの球面状凸レンズに対応する回折型マイクロレンズが説明されたが、本発明は屈折型レンズの柱面状凸レンズに対応する回折型マイクロレンズにも同様に適用し得ることが理解されよう。その場合には、屈折率変調された同心円状の複数の帯状リング領域の代わりに、屈折率変調された互いに平行な複数の帯状領域を形成すればよい。この場合、たとえば図5(b)の断面図において、屈折率変調された互いに平行な複数の帯状領域は、その図の紙面に対して垂直に伸びていることになる。また、その場合において、図6(b)中の金マスク44もその図の紙面に対して垂直に伸びていればよい。
図7では、本発明のさらに他の実施形態においてDLC膜を用いて回折型マイクロレンズを作製する方法が、模式的な断面図で図解されている。この実施形態では、屈折型レンズの柱面状凸レンズに対応する回折型マイクロレンズが作製され得る。なお図7においては、図面の簡略化と明瞭化のために、ガラス製のレリーフ型位相格子マスク(回折格子)の格子ピッチが一定にされている。
図7の作製方法においては、たとえば厚さ100μmのスペーサ86を介して、ガラス製のレリーフ型位相格子マスク84がDLC膜82に対して近接配置される。この状態で、たとえばKrFレーザ光(波長248nm)85を16mw/mm2のエネルギ密度で1時間照射することによって、回折型マイクロレンズを作製することができる。このとき、位相格子マスク84からの+1次回折光と−1次回折光との干渉光に露光される領域82bの屈折率が高められる。他方、その干渉光よって露光されない領域82aの屈折率は、成膜されたままの状態に維持される。
この場合、+1次回折光と−1次回折光との干渉光は、レリーフ型位相格子マスク84の凹凸周期の1/2の周期で現れる。したがって、DLC膜中の所望の高屈折率領域82bの周期に比べて2倍の凹凸周期で形成されたレリーフ型位相格子マスク84を用いることができる。また、高屈折率領域82bの幅の中央おけるほど、干渉光の強度が高くなる。したがって、DLC膜82において、低屈折率領域82aと高屈折率領域82bとの界面近傍において屈折率が連続的に変化し、高い回折効率を得ることができる。なお、望まれる場合には、レリーフ型位相格子マスク84の代わりに、クロム膜、酸化クロム膜、アルミ膜などをパターニングして得られる振幅型位相格子マスクを用いることもできる。
また、図7における回折型マイクロレンズの作製方法では高屈折率領域と低屈折率領域との間の境界領域が膜厚方向に平行な場合が例示されているが、望まれる場合には、その境界領域を膜厚方向に対して傾斜させてもよい。そのためには、図7の作製方法において、紫外光85をDLC膜面に対して斜め方向に入射させて、0次回折光と+1次回折光または−1次回折光との干渉光による露光を利用すればよい。ただし、0次回折光と+1次回折光または−1次回折光との干渉光は、位相格子マスク84の凹凸周期と同じ周期で現れる。したがって、DLC膜中の所望の高屈折率領域82bの周期に比べて同じ周期の凹凸で形成された位相格子マスク84を用いなければならない。
以上のように、本発明によって作製され得るDLC膜のマイクロレンズアレイを図1における液晶表示パネルに適用することによって、表示明度が改善された液晶表示パネルを簡便かつ低コストで提供することができる。なお、DLC膜のマイクロレンズアレイは、液晶表示パネルのみならず図10に示されているようなエレクトロクロミック表示パネルにも適用可能であることは言うまでもなく、他のどのような透光型表示パネルにも適用可能であることが理解されよう。