例えばFe50Pt50(原子%)といった規則合金では、Co合金に比べて著しく大きな結晶磁気異方性エネルギ(例えば1x106J/m3以上)が確保される。こうして十分な結晶磁気異方性エネルギが確保されれば、結晶粒がさらに微細化されても結晶粒内に確実に磁化は維持されることができる。その一方で、結晶磁気異方性エネルギが小さいと、いわゆる熱攪乱に基づき結晶粒内の磁化は失われてしまう。結晶粒の微細化にあたってCo合金に代えて規則合金の利用が望まれる。しかしながら、規則合金で構成される多結晶構造連続膜では、前述のように粒界に沿って非磁性原子の偏析が実現されることはできない。規則合金で形成される結晶粒同士の間で磁気的相互作用を確実に断ち切る術が模索される。
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、確実に磁性結晶粒の微細化に貢献することができる多結晶構造膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、第1発明によれば、下地層の表面で相互に隔てられる複数の磁性結晶粒と、磁性結晶粒に覆い被さる非晶質物質と、下地層の表面で磁性結晶粒および非晶質物質に覆い被さり、所定の配向に揃えられる非磁性結晶から構成される配向制御層と、配向制御層の表面で相互に隔てられ、所定の配向に揃えられる複数の磁性結晶粒とを備えることを特徴とする多結晶構造膜が提供される。ここで、非晶質物質は例えばSiO2 といった非磁性体から構成されればよい。その他、非晶質物質は金属酸化物や金属窒化物から構成されてもよい。
こういった多結晶構造膜によれば、下地層上や配向制御層の表面で隣接する磁性結晶粒同士の間に空間的な隔たりが確保される。すなわち、磁性結晶粒同士の間には任意の間隔が区画される。こうして磁性結晶粒は個々に独立して配置されることから、隣接する磁性結晶粒同士の間で磁気的相互作用は確実に断ち切られることができる。個々の磁性結晶粒ごとに磁区は確立されることができる。
しかも、この多結晶構造膜では、上下の磁性結晶粒の間に非晶質物質および配向制御層が介在するものの、多結晶構造膜全体で磁性結晶粒の膜厚は増大することができる。その上、個々の磁性結晶粒の配向は揃えられることから、多結晶構造膜から漏れ出る磁界は強められることができる。
磁性結晶粒は規則合金から構成されればよい。磁性結晶粒では非規則Co合金に比べて著しく大きな結晶磁気異方性エネルギ(例えば1x106J/m3以上)が確保される。こうして十分な結晶磁気異方性エネルギが確保されれば、磁性結晶粒がさらに微細化されても磁性結晶粒内に確実に磁化は維持されることができる。規則合金は例えばL10構造を有すればよい。こういった規則合金は例えばFe50Pt50、Fe50Pd50およびCo50Pt50(いずれも原子%)に代表されることができる。
第1発明に係る多結晶構造膜の製造にあたって、例えば、下地層の表面に、相互に隔てられる複数の第1磁性結晶粒を形成する工程と、第1磁性結晶粒に覆い被さる非晶質層を形成する工程と、非晶質層上に、所定の配向に揃えられる結晶層を形成する工程と、結晶層の表面に、相互に隔てられる複数の第2磁性結晶粒を形成する工程とを備えることを特徴とする多結晶構造膜の製造方法が提供されてもよい。
こういった製造方法によれば、所定の配向に揃えられる結晶層の表面で第2磁性結晶粒は形成されることから、第2磁性結晶粒の配向は確実に揃えられることができる。しかも、第1磁性結晶粒および結晶層の間には非晶質層が介在する。こういった非晶質層によれば、第1磁性結晶粒および結晶層の間で界面反応は十分に軽減されることができる。したがって、後続する製造過程で第1磁性結晶粒の配向は確実に維持されることができる。
第1磁性結晶粒の形成にあたって、多結晶構造膜の製造方法は、下地層の表面に所定の割合で第1および第2金属原子を堆積させる工程と、堆積した第1および第2金属原子に熱を加える工程とをさらに備えてもよい。加熱に基づき下地層上では第1および第2金属原子の熱凝集が引き起こされる。熱凝集の結果、下地層の表面には、第1および第2金属原子を含む第1磁性結晶粒は形成される。第1磁性結晶粒の形成にあたって第1金属原子や第2金属原子の移動が引き起こされることから、隣接する第1磁性結晶粒同士の間には任意の間隔が形成される。しかも、偏りなく均一に第1磁性結晶粒は配置される。
同様に、第2磁性結晶粒の形成にあたって、多結晶構造膜の製造方法は、結晶層の表面に所定の割合で第1および第2金属原子を堆積させる工程と、堆積した第1および第2金属原子に熱を加える工程とをさらに備えてもよい。加熱に基づき結晶層上では第1および第2金属原子の熱凝集が引き起こされる。熱凝集の結果、結晶層の表面には、第1および第2金属原子を含む第2磁性結晶粒は形成される。第2磁性結晶粒の形成にあたって第1金属原子や第2金属原子の移動が引き起こされることから、隣接する第2磁性結晶粒同士の間には任意の間隔が形成される。しかも、偏りなく均一に第2磁性結晶粒は配置される。
このとき、第1および第2金属原子の堆積と加熱とが繰り返されると、既存の磁性結晶粒に向かって第1および第2金属原子の熱凝集が引き起こされる。こうした熱凝集の結果、磁性結晶粒は一回り大きく成長する。こうして磁性結晶粒の粒径は制御されることができる。磁性結晶粒の均一な配置は維持される。このとき、第1および第2金属原子の堆積量は例えば膜厚1.0nm未満(好ましくは0.5nm未満)に設定されることが望まれる。
前述の結晶層によれば、新たな磁性結晶粒の形成にあたって、第1および第2金属原子は既存の磁性結晶粒の影響を受けない。したがって、新たに積層される第1および第2金属原子の熱凝集は既存の磁性結晶粒の影響を受けずに実現される。既存の磁性結晶粒の肥大化は回避されることができる。結晶層上で改めて磁性結晶粒は形成される。したがって、隣接する磁性結晶粒同士の間には、既存の磁性結晶粒と同様に、任意の間隔が形成される。しかも、偏りなく均一に磁性結晶粒は配置されることができる。
このとき、第2磁性結晶粒の形成にあたって加えられる熱のエネルギは、第1磁性結晶粒の形成にあたって加えられる熱のエネルギよりも小さく設定されればよい。第2磁性結晶粒の形成にあたって前述のように熱が加えられると、既存の第1磁性結晶粒は十分に熱を輻射する。その結果、第1磁性結晶粒の形成後には、比較的に小さな熱エネルギの加熱で十分に第2磁性結晶粒の熱凝集は実現されることができる。
結晶層は例えばMgOから構成されればよい。この場合には、結晶層の形成に先立って非晶質層は除熱されてもよい。常温でMgOのスパッタリングが実施されると、堆積するMgOの結晶ではいわゆる(100)面の配向が確立される。こういった結晶によれば、磁性結晶粒ではいわゆる(001)面の配向が確立されることができる。結晶層上では個々の磁性結晶粒ごとに確実に配向は揃えられることができる。
第2発明によれば、下地層の表面で相互に隔てられる複数の磁性結晶粒と、磁性結晶粒の表面に分布し、磁性結晶粒に含まれる原子に基づき生成される非磁性物質と、下地層の表面で磁性結晶粒および非磁性物質に覆い被さり、所定の配向に揃えられる非磁性結晶から構成される配向制御層と、配向制御層の表面で相互に隔てられ、所定の配向に揃えられる複数の磁性結晶粒とを備えることを特徴とする多結晶構造膜が提供される。ここで、非磁性物質は酸化物や窒化物で構成されればよい。
こういった多結晶構造膜によれば、前述と同様に、隣接する磁性結晶粒同士の間で磁気的相互作用は確実に断ち切られることができる。個々の磁性結晶粒ごとに磁区は確立されることができる。しかも、多結晶構造膜全体で磁性結晶粒の膜厚は増大することができる。その上、個々の磁性結晶粒の配向は揃えられることから、多結晶構造膜から漏れ出る磁界は強められることができる。第1発明と同様に、磁性結晶粒は規則合金から構成されればよく、規則合金はL10 構造を有すればよい。
第2発明に係る多結晶構造膜の製造にあたって、例えば、下地層の表面に、相互に隔てられる複数の第1磁性結晶粒を形成する工程と、第1磁性結晶粒の表面で、磁性結晶粒に含まれる原子に基づき非磁性物質を生成する工程と、非磁性物質上に、所定の配向に揃えられる結晶層を形成する工程と、結晶層の表面に、相互に隔てられる複数の第2磁性結晶粒を形成する工程とを備えることを特徴とする多結晶構造膜の製造方法が提供されてもよい。
こういった製造方法によれば、前述と同様に、第2磁性結晶粒の配向は確実に揃えられることができる。しかも、第1磁性結晶粒および結晶層の間には非磁性物質が介在する。こういった非磁性物質によれば、第1磁性結晶粒および結晶層の間で界面反応は十分に軽減されることができる。したがって、後続する製造過程で第1磁性結晶粒の配向は確実に維持されることができる。
第1磁性結晶粒の形成にあたって、前述と同様に、下地層の表面に所定の割合で第1および第2金属原子を堆積させる工程と、堆積した第1および第2金属原子に熱を加える工程とが実施されればよい。同様に、第2磁性結晶粒の形成にあたって、前述と同様に、結晶層の表面に所定の割合で第1および第2金属原子を堆積させる工程と、堆積した第1および第2金属原子に熱を加える工程とが実施されればよい。このとき、第2磁性結晶粒の形成にあたって加えられる熱のエネルギは、第1磁性結晶粒の形成にあたって加えられる熱のエネルギよりも小さく設定されればよい。
以上のような多結晶構造膜は例えば磁気ディスクといった磁気記録媒体で利用されることができる。磁気記録媒体では、例えば基板といった支持体の表面に前述の下地層、磁性結晶粒、非晶質物質や非磁性物質および配向制御層は積層形成されればよい。前述のように磁気的に隔てられた微細な磁性結晶粒によれば、磁気記録媒体の表面で規定される記録トラック同士の間で遷移ノイズは極力低減されることができる。こうした多結晶構造膜は記録トラックの高密度化すなわち磁気記録媒体の大容量化に大いに貢献することができる。
以下、添付図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。
図1は磁気記録媒体駆動装置の一具体例すなわちハードディスク駆動装置(HDD)11の内部構造を概略的に示す。このHDD11は、例えば平たい直方体の内部空間を区画する箱形の筐体本体12を備える。収容空間には、磁気記録媒体としての1枚以上の磁気ディスク13が収容される。磁気ディスク13はスピンドルモータ14の回転軸に装着される。スピンドルモータ14は例えば7200rpmや10000rpmといった高速度で磁気ディスク13を回転させることができる。筐体本体12には、筐体本体12との間で収容空間を密閉する蓋体すなわちカバー(図示されず)が結合される。
収容空間では、垂直方向に延びる支軸15にヘッドアクチュエータ16が装着される。ヘッドアクチュエータ16は、支軸15から水平方向に延びる剛体のアクチュエータアーム17と、このアクチュエータアーム17の先端に取り付けられてアクチュエータアーム17から前方に延びる弾性サスペンション18とを備える。周知の通り、弾性サスペンション18の先端では、いわゆるジンバルばね(図示されず)の働きで浮上ヘッドスライダ19は片持ち支持される。浮上ヘッドスライダ19には、磁気ディスク13の表面に向かって弾性サスペンション18から押し付け力が作用する。磁気ディスク13が回転すると、磁気ディスク13の表面で生成される気流の働きで浮上ヘッドスライダ19には浮力が作用する。弾性サスペンション18の押し付け力と浮力とのバランスで磁気ディスク13の回転中に比較的に高い剛性で浮上ヘッドスライダ19は浮上し続けることができる。
浮上ヘッドスライダ19には、周知の通りに、読み出し書き込みヘッド(図示されず)が搭載される。読み出し書き込みヘッドには読み出しヘッド素子および書き込みヘッド素子が組み込まれる。読み出しヘッド素子は、例えば、磁気ディスク13から作用する磁界の向きに応じて変化する電気抵抗に基づき2値情報を識別する巨大磁気抵抗効果(GMR)素子やトンネル接合磁気抵抗効果(TMR)素子で構成されればよい。書き込みヘッド素子は、例えば薄膜コイルパターンで生成される磁界を利用して磁気ディスク13に2値情報を書き込む薄膜磁気ヘッドで構成されればよい。
浮上ヘッドスライダ19の浮上中に、ヘッドアクチュエータ16が支軸15回りで回転すると、浮上ヘッドスライダ19は半径方向に磁気ディスク13の表面を横切ることができる。こうした移動に基づき浮上ヘッドスライダ19上の読み出し書き込みヘッドは磁気ディスク13上の所望の記録トラックに位置決めされる。ヘッドアクチュエータ16の回転は例えばボイスコイルモータ(VCM)といった駆動源21の働きを通じて実現されればよい。周知の通り、複数枚の磁気ディスク13が筐体本体12内に組み込まれる場合には、隣接する磁気ディスク13同士の間で2本のアクチュエータアーム17すなわち2つの浮上ヘッドスライダ19が配置される。
図2は磁気ディスク13の断面構造を詳細に示す。この磁気ディスク13は、支持体としての基板23と、この基板23の表裏面に広がる多結晶構造膜24とを備える。基板23は、例えば、ディスク形のSi本体25と、Si本体25の表裏面に広がる非晶質のSiO2 膜26とで構成されればよい。ただし、基板23にはガラス基板やアルミニウム基板が用いられてもよい。多結晶構造膜24に磁気情報は記録される。多結晶構造膜24の表面は保護膜27や潤滑膜28で被覆される。保護膜27には例えばダイヤモンドライクカーボン(DLC)といった炭素材料が用いられればよい。
本発明の第1実施形態に係る多結晶構造膜24は、基板23の表面に広がる下地層31を備える。この下地層31は、所定の配向に揃えられる結晶層から構成される。この結晶層は非磁性を示す。こういった結晶層の確立にあたって下地層31には例えばMgOが用いられればよい。MgOの各結晶では(100)面の配向が確立される。
下地層31の表面には多数の第1磁性結晶粒32が散在する。隣接する第1磁性結晶粒32同士は下地層31の表面で相互に隔てられる。すなわち、第1磁性結晶粒32同士の間には任意の間隔が区画される。第1磁性結晶粒32は規則合金から構成される。規則合金はいわゆるL10構造を有すればよい。この種の規則合金は例えば1x106J/m3以上の結晶磁気異方性エネルギを確保することができる。規則合金は例えばFe50Pt50、Fe50Pd50およびCo50Pt50(いずれも原子%)のいずれかから選択されればよい。第1磁性結晶粒32では(001)面の配向が確立される。したがって、基板23の表面に垂直方向に磁化容易軸は揃えられる。
この多結晶構造膜24は、下地層31の表面で第1磁性結晶粒32に覆い被さる第1分離層33を備える。第1分離層33は、下地層31の表面で第1磁性結晶粒32に覆い被さる非晶質層34と、同様に下地層31の表面で第1磁性結晶粒32および非晶質層34に覆い被さる結晶層35とから構成される。非晶質層34は例えばSiO2 といった非磁性材料から構成されればよい。その他、非晶質層34の形成にあたって金属酸化物や金属窒化物が用いられてもよい。結晶層35は例えば非磁性を示す。結晶層35では個々の結晶ごとに所定の方向に配向が揃えられる。結晶層35には例えばMgO膜が用いられればよい。MgO膜の各結晶では(100)面の配向が確立される。
第1分離層33の表面には多数の第2磁性結晶粒36が散在する。隣接する第2磁性結晶粒36同士は第1分離層33の表面で相互に隔てられる。すなわち、第2磁性結晶粒36同士の間には任意の間隔が区画される。第2磁性結晶粒36は前述の第1磁性結晶粒32と同様の構造を有する。第2磁性結晶粒36では(001)面の配向が確立される。したがって、基板23の表面に垂直方向に磁化容易軸は揃えられる。
この多結晶構造膜24では、第1分離層33の表面で第2磁性結晶粒36に覆い被さる第2分離層37や、第2分離層37の表面で散在する第3磁性結晶粒38が確立される。第2分離層37は、第1分離層33と同様に、非晶質層39と結晶層41とから構成されればよい。第3磁性結晶粒38は第1および第2磁性結晶粒32、36と同様に構成されればよい。結晶層41の働きで第3磁性結晶粒38では(001)面の配向が確立される。
こういった多結晶構造膜24では、分離層33、37で仕切られる各層ごとに著しく微細な磁性結晶粒32、36、38は実現されることができる。しかも、磁性結晶粒32、36、38同士は個々に独立して配置されることから、隣接する磁性結晶粒32、36、38同士の間で磁気的相互作用は確実に断ち切られることができる。個々の磁性結晶粒32、36、38ごとに磁区は確立されることができる。こうして磁気的に隔てられた微細な磁性結晶粒32、36、38によれば、磁気ディスク13の表面で規定される記録トラック同士の間で遷移ノイズは極力低減されることができる。磁性結晶粒32、36、38は記録トラックの高密度化すなわち磁気ディスク13の大容量化に大いに貢献することができる。
しかも、この多結晶構造膜24では、上下の磁性結晶粒32、36、38の間に非磁性の分離層33、37が介在するものの、多結晶構造膜24全体で磁性結晶粒32、36、38の膜厚は増大することができる。その上、磁性結晶粒32、36、38の磁化容易軸は垂直方向に揃えられることから、多結晶構造膜24から漏れ出る信号磁界は十分に強められることができる。こういった多結晶構造膜24は記録トラックの高密度化すなわち磁気ディスク13の大容量化に一層大きく貢献することができる。
次に磁気ディスク13の製造方法を詳述する。まず、ディスク形の基板23が用意される。基板23はスパッタリング装置に装着される。スパッタリング装置内には真空環境が確立される。基板23には例えば350℃程度で2分間の加熱が施される。こうして基板23の表面から自然吸着ガスは取り除かれる。その後、基板23は常温(いわゆる室温)まで冷却される。
スパッタリング装置では、図3に示されるように、真空環境下で基板23の表面にMgOが降り注がれる。いわゆるRF(高周波)スパッタリングが実施される。こうして基板23の表面には膜厚7.5nm程度でMgOの下地層31が積層形成される。RFスパッタリングにあたって室温が維持される結果、下地層31では、(100)面の配向に揃えられた非磁性結晶が確立される。
その後、スパッタリング装置では、図4に示されるように、真空環境下で下地層31の表面に例えばFe原子およびPt原子が降り注がれる。ここでは、いわゆるDC(直流)スパッタリングに基づき第1および第2金属原子すなわちFe原子およびPt原子が所定の割合で堆積させられる。堆積にあたってDCスパッタリングのターゲットには各々50原子%の割合でFe原子およびPt原子が含まれればよい。こうして下地層31の表面には膜厚0.5nm程度でFe50Pt50合金層42が形成される。
こうして基板23上に形成されたFe50Pt50合金層42には熱処理が施される。Fe50Pt50合金層42は真空環境下で450℃の熱に曝される。熱処理は5分間にわたって持続される。こうした加熱に基づき下地層31上ではFe50Pt50合金層42の熱凝集が引き起こされる。熱凝集の結果、例えば図5に示されるように、下地層31の表面には、Fe原子およびPt原子を含む規則合金の第1磁性結晶粒32は形成される。この第1磁性結晶粒32の形成にあたってFe原子やPt原子の移動が引き起こされることから、隣接する第1磁性結晶粒32同士の間には任意の間隔が形成される。しかも、偏りなく均一に第1磁性結晶粒32は配置される。個々の第1磁性結晶粒32ではMgOの働きで(001)面の配向が確立される。
その後、下地層31の表面には、図6に示されるように、再びDCスパッタリングに基づき真空環境下でFe原子およびPt原子が降り注がれる。前述と同様に、Fe原子およびPt原子が所定の割合で堆積させられる。堆積にあたってDCスパッタリングのターゲットには各々50原子%の割合でFe原子およびPt原子が含まれればよい。こうして下地層31の表面には膜厚0.5nm程度でFe50Pt50合金層43が形成される。Fe50Pt50合金層43は第1磁性結晶粒32に覆い被さる。ここでは、Fe原子やPt原子の堆積にあたって基板23の加熱状態は維持されてもよい。
こうして再び積層形成されたFe50Pt50合金層43には熱処理が施される。Fe50Pt50合金層43は真空環境下で450℃の熱に曝される。熱処理は1分間にわたって持続される。こうした加熱に基づき下地層31上では既存の第1磁性結晶粒32に向かってFe50Pt50合金層43の熱凝集が引き起こされる。熱凝集の結果、例えば図7に示されるように、下地層31の表面で規則合金の磁性結晶粒32は一回り大きく成長する。第1磁性結晶粒32の密度や粒径はFe50Pt50合金層42、43の膜厚や堆積および加熱の繰り返し回数に基づき調整されることができる。
第1磁性結晶粒32の形成後、下地層31の表面には、図8に示されるように、真空環境下でSiO2が降り注がれる。RFスパッタリングが実施される。こうして膜厚2.0nm程度でSiO2の非晶質層34が積層形成される。非晶質層34は下地層31の表面で第1磁性結晶粒32に覆い被さる。
形成された非晶質層34は除熱される。非晶質層34は常温(いわゆる室温)まで冷却される。その後、非晶質層34の表面には、図9に示されるように、RFスパッタリングに基づき真空環境下でMgOが降り注がれる。こうして非晶質層34の表面には膜厚5.0nm程度でMgOの結晶層35が積層形成される。RFスパッタリングにあたって室温が維持される結果、結晶層35では、(100)面の配向に揃えられた非磁性結晶が確立される。こうして第1分離層33は積層形成される。第1分離層33の形成後、第1分離層33を含む基板23には加熱が施されてもよい。
第1分離層33の表面には、図10に示されるように、再びDCスパッタリングに基づき真空環境下でFe原子およびPt原子が降り注がれる。前述と同様に、Fe原子およびPt原子が所定の割合で堆積させられる。堆積にあたってDCスパッタリングのターゲットには各々50原子%の割合でFe原子およびPt原子が含まれればよい。こうして第1分離層33の表面には膜厚0.4nm程度でFe50Pt50合金層44が再び形成される。ここでは、Fe原子やPt原子の堆積にあたって基板23の加熱状態は維持されてもよい。
こうして再び積層形成されたFe50Pt50合金層44には熱処理が施される。Fe50Pt50合金層44は真空環境下で450℃の熱に曝される。熱処理は1分間にわたって持続される。こうした加熱に基づき第1分離層33上ではFe50Pt50合金層44の熱凝集が引き起こされる。熱凝集の結果、例えば図11に示されるように、第1分離層33の表面には、Fe原子およびPt原子を含む規則合金の第2磁性結晶粒36は形成される。このとき、熱凝集は、既存の第1磁性結晶粒32の影響を受けずに実現されることができる。したがって、第1磁性結晶粒32の肥大化は回避される。第1分離層33上で改めて第2磁性結晶粒36は形成される。したがって、隣接する磁性結晶粒36同士の間には第1磁性結晶粒32と同様に任意の間隔が形成される。しかも、偏りなく均一に第2磁性結晶粒36は配置される。個々の第2磁性結晶粒36ではMgOの働きで(001)面の配向が確立される。
このとき、第1磁性結晶粒32および結晶層35の間には非晶質層34が介在する。こういった非晶質層34によれば、第1磁性結晶粒32および結晶層35の間で界面反応は十分に軽減されることができる。したがって、第1磁性結晶粒32の配向は確実に維持されることができる。
前述のように、第1磁性結晶粒32の形成では450℃の加熱が5分間にわたって持続される。その一方で、本発明者の検証によれば、磁性結晶粒32の形成後には1分間の加熱で十分に第2磁性結晶粒36の熱凝集は実現されることが確認された。言い換えれば、第2磁性結晶粒36の形成にあたって加えられる熱のエネルギは、第1磁性結晶粒32の形成にあたって加えられる熱のエネルギよりも小さく設定されればよい。第1磁性結晶粒32の熱輻射に基づき第2磁性結晶粒36の形成は比較的に小さい熱エネルギの加熱で実現されることが確認された。
その後、第1分離層33の表面には、前述と同様に、膜厚2.0nm程度の非晶質層39や膜厚5.0nm程度の結晶層41が積層形成される。こうして第2分離層37は確立される。第2分離層37の表面には、第2磁性結晶粒36の形成と同様に、Fe原子およびPt原子を含む第3磁性結晶粒38は形成される。こうして前述の多結晶構造膜24は形成されることができる。
本発明者は、以上のような製造方法で形成された多結晶構造膜24の一具体例を検証した。検証にあたって高分解能走査電子顕微鏡(HR−SEM)は用いられた。その結果、第1〜第3磁性結晶粒32、36、38は明らかに島状に散在することが確認された。
次に、本発明者はX線回折に基づき磁性結晶粒32、36、38を観察した。その結果、図12に示されるように、磁性結晶粒32、36、38では、FePt合金の(001)面に対応するピークが確認された。しかも、FePt合金の(111)面に対応するピークは確認されなかった。磁性結晶粒32、36、38は所定の規則合金から構成されることが確認された。その一方で、加熱に先立って形成されるFe50Pt50合金層の膜厚が増大すると、FePt合金の(111)面に対応するピークが徐々に現れることが確認された。
ここで、本発明者はX線回折に基づきMgO膜とFePt磁性結晶粒との関連を観察した。3種類の具体例が準備された。第1具体例では、MgO膜の形成にあたってスパッタリングのチャンバ内で基板は室温に維持された。チャンバ内で基板とMgOターゲットとの間隔は45.0mmに設定された。第2具体例では、MgO膜の形成にあたってスパッタリングのチャンバ内で基板は500℃に加熱された。基板とMgOターゲットとの間隔は45.0mmに設定された。同様に、第3具体例では、MgO膜の形成にあたってスパッタリングのチャンバ内で基板は500℃に加熱された。基板とMgOターゲットとの間隔は100.0mmに設定された。図13から明らかなように、第1具体例では、MgOの(200)面に対応するピークが確認された。その一方で、第2および第3具体例では、MgOの(200)面に対応するピークは観察されなかった。MgO膜が室温で形成された結果、MgO膜では1方向に配向が揃えられることが確認された。
図14は本発明の第2実施形態に係る多結晶構造膜24aの断面構造を詳細に示す。この多結晶構造膜24aでは磁性結晶粒32、36の表面に非磁性物質45が分布する。この非磁性物質45は、後述されるように、磁性結晶粒32、36に含まれる原子に基づき生成される酸化物や窒化物であればよい。その他、前述の第1実施形態の構成や構造と均等な構成や構造には同一の参照符号が付される。
多結晶構造膜24aの形成にあたって、前述と同様に、下地層31の表面には、Fe原子およびPt原子を含む第1磁性結晶粒32は形成される。その後、第1磁性結晶粒32の表面は、例えば図15に示されるように、酸化雰囲気に曝される。酸化雰囲気の確立にあたってチャンバ内には例えば酸素ガスや大気が導入されればよい。こうして第1磁性結晶粒32の表面は酸化される。磁性結晶粒32の表面で酸化物すなわち非磁性物質は生成される。その他、チャンバ内には窒化雰囲気が確立されてもよい。この場合には、チャンバ内には窒素ガスや大気が導入されればよい。第1磁性結晶粒32の表面では窒化物すなわち非磁性物質は生成される。
その後、前述と同様に、下地層31の表面ではMgOの結晶層35が形成される。こうして第1分離層は確立される。第1分離層の表面では、前述と同様に、第2磁性結晶粒36や結晶層41、第3磁性結晶粒38が順番に積層形成される。ここで、結晶層41の形成に先立って、第2磁性結晶粒36の表面は酸化雰囲気や窒化雰囲気に曝される。こうして第2磁性結晶粒36の表面では酸化物や窒化物すなわち非磁性物質が生成される。
第2磁性結晶粒36や第3磁性結晶粒38の形成の過程で、第1磁性結晶粒32および結晶層35の間や第2磁性結晶粒36および結晶層41の間には酸化物や窒化物といった非磁性物質が介在する。こういった非磁性物質によれば、第1磁性結晶粒32および結晶層35の間で界面反応は十分に軽減されることができる。同様に、第2磁性結晶粒36および結晶層41の間で界面反応は十分に軽減されることができる。したがって、第1磁性結晶粒32の配向や第2磁性結晶粒36の配向は確実に維持されることができる。
なお、以上のような多結晶構造膜24、24aでは、磁性結晶粒32、36、38中で面内方向に磁化容易軸が揃えられてもよい。こういった磁化容易軸の設定にあたってFe50Pt50磁性結晶粒32、36、38では、(100)面の配向が確立されればよい。こういった配向はMgOの配向に基づき制御されることができる。また、例えばSi本体25の化学反応が十分に阻止される限り、基板23の表面には必ずしもSiO2膜26が形成される必要はない。さらに、Fe50Pt50(原子%)に代えて、Fe50Pd50(原子%)、Co50Pt50(原子%)その他の規則合金が磁性結晶粒32、36、38に用いられる場合でも、前述の製造方法は同様に利用されることができる。以上のような多結晶構造膜24、24aでは、多結晶構造膜すなわち磁気記録層の膜厚の許容範囲内で分離層は幾層形成されてもよい。