以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
図1は、本実施の形態の加熱調理器における外観斜視図である。本加熱調理器1は、直方体形状のキャビネット10の正面の上部に操作パネル11を設け、キャビネット10の正面における操作パネル11の下側には、下端側の辺を中心に回動する扉12を設けて概略構成されている。そして、扉12の上部にはハンドル13が設けられ、扉12には耐熱ガラス製の窓14が嵌め込まれている。
図2は、上記加熱調理器1の扉12を開いた状態の外観斜視図である。キャビネット10内に、直方体形状の加熱室20が設けられている。加熱室20は、扉12に面する正面側に開口部20aを有し、加熱室20の側面,底面および天面がステンレス鋼板で形成されている。また、扉12は、加熱室20に面する側がステンレス鋼板で形成されている。加熱室20の周囲および扉12の内側に断熱材(図示せず)が載置されており、加熱室20内と外部とが断熱されている。
また、上記加熱室20の底面には、ステンレス製の受皿21が設置されている。また、加熱室20の両側面の間には、被加熱物を載置するためのステンレス鋼線製のラック24(図3参照)が敷設されている。さらに、加熱室20の両側面における中段部下側には、略水平に延在する略長方形の側面蒸気吹出口22(図2では一方のみが見えている)が設けられている。
図3は、上記加熱調理器1の基本構成を示す概略構成図である。図3に示すように、本加熱調理器1は、加熱室20と、蒸気用の水を貯める水タンク30と、水タンク30から供給された水を蒸発させて蒸気を発生させる蒸気発生装置40と、蒸気発生装置40からの蒸気を加熱する蒸気昇温室50と、蒸気発生装置40や蒸気昇温室50等の動作を制御する制御装置80とを備えている。
上記加熱室20内に設置された受皿21の上方であり、且つ、加熱室20における両側面の間には、脚付きで格子状のラック24が敷設されており、そのラック24の略中央に被加熱物90が置かれる。
また、上記水タンク30の下側に設けられた接続部30aは、第1給水パイプ31の一端に設けられた漏斗形状の受入口31aに接続可能になっている。そして、第1給水パイプ31から分岐して上方に延びる第2給水パイプ32の端部にはポンプ35の吸込側が接続され、そのポンプ35の吐出側には第3給水パイプ33の一端が接続されている。さらに、第1給水パイプ31から分岐して上方に延びる水位センサ用パイプ38の上端には、水タンク用水位センサ36が配設されている。さらに、第1給水パイプ31から分岐して上方に延びる大気開放用パイプ37の上端には、後述する排気ダクト65に接続されている。
そして、上記第3給水パイプ33は、垂直に配置された部分から略水平に屈曲するL字形状をしており、第3給水パイプ33の他端には補助タンク39が接続されている。さらに、補助タンク39の下端には第4給水パイプ34の一端が接続され、その第4給水パイプ34の他端には蒸気発生装置40の下端が接続されている。また、蒸気発生装置40における第4給水パイプ34の接続点よりも下側には、排水バルブ70の一端が接続されている。そして、排水バルブ70の他端には排水パイプ71の一端が接続され、排水パイプ71の他端には排水タンク72が接続されている。尚、補助タンク39の上部は、大気開放用パイプ37と排気ダクト65を介して大気に連通されている。
上記水タンク30が第1給水パイプ31の受入口31aに接続されると、水タンク30内の水は、水タンク30と同水位になるまで大気開放用パイプ37内に上昇する。その際に、水タンク用水位センサ36につながる水位センサ用パイプ38は先端が密閉されているため水位は上がらないが、水タンク30の水位に応じて水位センサ用パイプ38の密閉された空間の圧力は大気圧から上昇する。この圧力変化を、水タンク用水位センサ36内の圧力検出素子(図示せず)で検出することによって、水タンク30内の水位が検出されるようになっている。ポンプ35が静止中である際の水位測定では、大気開放用パイプ37は不要であるが、ポンプ35の吸引圧力が直接上記圧力検出素子に働いて水タンク30の水位検出の精度が低下するのを防止するために、開放端を有する大気開放用パイプ37を設けている。
また、上記蒸気発生装置40は、下側に第4給水パイプ34の他端が接続されたポット41と、ポット41内の底面近傍に配置された蒸気発生ヒータ42と、ポット41内の蒸気発生ヒータ42の上側近傍に配置された水位センサ43と、ポット41の上側に取り付けられた蒸気吸引エジェクタ44とを有している。また、加熱室20の側面上部に設けられた吸込口25の外側には、ファンケーシング26を配置している。そして、ファンケーシング26に設置された送風ファン28によって、加熱室20内の蒸気は、吸込口25から吸い込まれて、第1パイプ61および第2パイプ62を介して蒸気発生装置40の蒸気吸引エジェクタ44の入口側に送り込まれる。第1パイプ61は、一端がファンケーシング26に接続されている。また、第2パイプ62は、一端が第1パイプ61の他端に接続される一方、他端が蒸気吸引エジェクタ44のインナーノズル45の入口側に接続されている。
上記蒸気吸引エジェクタ44は、インナーノズル45の外側を包み込むアウターノズル46を備えており、インナーノズル45の吐出側がポット41の内部空間と連通するようになっている。そして、蒸気吸引エジェクタ44のアウターノズル46の吐出側には第3パイプ63の一端が接続され、その第3パイプ63の他端には蒸気昇温室50が接続されている。
上記ファンケーシング26,第1パイプ61,第2パイプ62,蒸気吸引エジェクタ44,第3パイプ63および蒸気昇温室50で外部循環路60を形成している。また、加熱室20の側面の下側に設けられた放出口27には放出通路64の一端が接続され、放出通路64の他端には排気ダクト65の一端が接続されている。さらに、排気ダクト65の他端には排気口66が設けられている。蒸気放出通路64の排気ダクト65側には、ラジエータ69が外嵌して取り付けられている。そして、外部循環路60を形成する第1パイプ61,第2パイプ62との接続部には、排気通路67を介して排気ダクト65が接続されている。さらに、排気通路67における第1,第2パイプ61,62の接続側には、排気通路67を開閉するダンパ68が配置されている。
また、上記蒸気昇温室50は、加熱室20の天井側であって且つ略中央に、開口を下側にして配置された皿型ケース51と、この皿型ケース51内に配置された第1蒸気加熱ヒータ52と、皿型ケース51内に配置された第2蒸気加熱ヒータ53とを有している。皿型ケース51の底面は、加熱室20の天井面に設けられた金属製の天井パネル54で形成されている。天井パネル54には複数の天井蒸気吹出口55が形成されている。ここで、天井パネル54は、上下両面が塗装等によって暗色に仕上げられている。尚、使用を重ねることにより暗色に変色する金属素材や暗色のセラミック成型品によって、天井パネル54を形成してもよい。
さらに、上記蒸気昇温室50は、加熱室20の上部に左右両側に向かって延在する蒸気供給通路23(図3においては一方のみが見えている)の一端が夫々接続されている。そして、蒸気供給通路23は加熱室20の両側面に沿って下方向かって延在しており、その他端には、加熱室20の両側面における中段部下側に設けられた側面蒸気吹出口22に接続されている。
次に、本加熱調理器1の制御系について説明する。
制御装置80は、マイクロコンピュータおよび入出力回路等から構成され、図4に示すように、送風ファン28と、第1蒸気加熱ヒータ52と、第2蒸気加熱ヒータ53と、ダンパ68と、排水バルブ70と、蒸気発生ヒータ42と、操作パネル11と、水タンク用水位センサ36と、水位センサ43と、加熱室20(図3に示す)内の温度を検出する温度センサ81と、加熱室20内の湿度を検出する湿度センサ82と、ポンプ35とが、接続されている。そして、水タンク用水位センサ36,水位センサ43,温度センサ81および湿度センサ82からの検出信号に基づいて、送風ファン28,第1蒸気加熱ヒータ52,第2蒸気加熱ヒータ53,ダンパ68,排水バルブ70,蒸気発生ヒータ42,操作パネル11およびポンプ35を所定のプログラムに従って制御する。
以下、上記構成を有する加熱調理器1によって下段における一段加熱調理を行う基本動作について、図3および図4にしたがって説明する。上記操作パネル11の電源スイッチ(図示せず)が押圧されると電源がオンし、操作パネル11の操作によって加熱調理の運転が開始される。そうすると、先ず、制御装置80は、排水バルブ70を閉鎖し、ダンパ68によって排気通路67を閉じた状態でポンプ35の運転を開始する。そして、ポンプ35によって、水タンク30から蒸気発生装置40のポット41内に第1〜第4給水パイプ31〜34を介して給水される。その後、ポット41内の水位が所定水位に達したことを水位センサ43が検出すると、ポンプ35を停止して給水を止める。
次に、上記蒸気発生ヒータ42に通電し、ポット41内に溜まった所定量の水を蒸気発生ヒータ42によって加熱する。
そして、上記蒸気発生ヒータ42の通電と同時に、または、ポット41内の水の温度が所定温度に達すると、送風ファン28をオンすると共に、蒸気昇温室50の第1,第2蒸気加熱ヒータ52,53に通電する。そうすると、送風ファン28は、加熱室20内の空気(蒸気を含む)を吸込口25から吸い込み、外部循環路60に空気(蒸気を含む)を送り出す。その際に、送風ファン28に遠心ファンを用いているので、プロペラファンを用いる場合に比べて高圧を発生させることができる。さらに、送風ファン28に用いる遠心ファンを直流モータで高速回転させることによって、循環気流の流速を極めて速くすることができる。
次に、上記蒸気発生装置40のポット41内の水が沸騰すると飽和蒸気が発生し、発生した飽和蒸気は、蒸気吸引エジェクタ44の箇所で外部循環路60を通る循環気流に合流する。そして、蒸気吸引エジェクタ44から出た蒸気は、第3パイプ63を介して高速で蒸気昇温室50に流入する。
そして、上記蒸気昇温室50に流入した蒸気は、第1,第2蒸気加熱ヒータ52,53によって加熱されて、略300℃(調理内容により異なる)の過熱蒸気となる。この過熱蒸気の一部は、下側の天井パネル54に設けられた複数の天井蒸気吹出口55から加熱室20内の下方に向かって噴出される。また、過熱蒸気の他の一部は、蒸気昇温室50の左右両側に設けられた蒸気供給通路23を介して、加熱室20の両側面における中断部下側に配置された側面蒸気吹出口22から噴出される。
こうして、上記加熱室20の天井側から噴出した過熱蒸気が、中央の被加熱物90側に向かって勢いよく供給される。それと同時に、加熱室20の左右の側面におけるラック24よりも上側から噴出した過熱蒸気は、被加熱物90の側方から被加熱物90を包むように上昇しながら供給される。その結果、加熱室20内において、中央部では吹き下ろし、その外側では上昇するという形の対流が生じる。そして、対流する蒸気は、順次吸込口25に吸い込まれて、外部循環路60を通って再び加熱室20内に戻るという循環を繰り返す。
このようにして、上記加熱室20内で過熱蒸気の対流を形成することにより、上記加熱室20内の温度・湿度分布を均一に維持しつつ、蒸気昇温室50からの過熱蒸気を天井蒸気吹出口55と側面吹出口22とから噴出して、ラック24上に載置された被加熱物90に効率よく衝突させることが可能になり、過熱蒸気の衝突によって被加熱物90が加熱される。その場合、被加熱物90の表面に接触した過熱蒸気は、被加熱物90の表面で結露する際に潜熱を放出することによっても被加熱物90を加熱する。これにより、過熱蒸気の大量の熱を確実に且つ速やかに被加熱物90全面に均等に与えることができる。したがって、斑がなくて仕上がりのよい高速な加熱調理を実現することができるのである。
また、上記加熱調理運転時において、時間が経過すると、加熱室20内の蒸気量が増加し、量的に余剰となった分の蒸気は、放出口27から放出通路64および排気ダクト65を介して排気口66から外部に放出される。その際に、放出通路64に設けたラジエータ69によって放出通路64を通過する蒸気を冷却して結露させることにより、外部に蒸気がそのまま放出されるのを防止している。尚、ラジエータ69によって放出通路64内で結露した水は、放出通路64内を流れ落ちて受皿21に導かれ、調理によって発生した水と共に調理終了後に処理される。
調理終了後、上記制御装置80によって操作パネル11に調理終了のメッセージが表示され、さらに操作パネル11に設けられたブザー(図示せず)によって合図の音を鳴らす。これらのメッセージやブザーによって調理終了を知った使用者が扉12を開けると、制御装置80は、センサ(図示せず)によって扉12が開いたことを検知して、排気通路67のダンパ68を瞬時に開く。そうすると、外部循環路60の第1パイプ61が排気通路67を介して排気ダクト65に連通し、加熱室20内の蒸気は、送風ファン28によって、吸込口25,第1パイプ61,排気通路67および排気ダクト65を介して排気口66から排出される。このダンパ動作は、調理中に使用者が扉12を開いても同様に機能する。したがって、使用者は、蒸気にさらされることなく、安全に被加熱物90を加熱室20内から取り出すことができるのである。
以下、図3および図4に示す基本構成を有すると共に、上述した基本動作に従って、二段加熱調理を行う場合の構成について、特に蒸気供給通路23の先端部に関して詳細に説明する。
図5は、上記加熱室20の背面側から見た縦断面図である。上記加熱室20上に載置されている蒸気昇温室50は、概略四角形の凹部51aを有する皿形ケース51内に、大電力(1000W)の大管径のシーズヒータである第1蒸気加熱ヒータ52および第2蒸気加熱ヒータ53を配置して構成されている。さらに、図5では示していないが、皿形ケース51の凹部51aの開口は、加熱室20の天井面に設けられた金属製の天井パネル54で覆われている。
上記皿形ケース51の側壁91には、蒸気供給管94A,94B,94Cが接続されている。尚、この蒸気供給管94A,94B,94Cが接続された側壁91側が本加熱調理器1の背面側であり、蒸気供給管94A,94B,94Cは、図3に示すように、本加熱調理器1における加熱室20の背面側に設けられた蒸気吸引エジェクタ44に、3本の第3パイプ63を介して接続されている。また、皿形ケース51における側壁91に隣接すると共に互いに対向している側壁92,93の夫々には、蒸気吹出口が設けられており、図3に示す蒸気供給通路23が接続されている。
ここで、上記皿形ケース51の側壁92に設けられた4個の蒸気吹出口には、4本の蒸気供給通路23A1〜23A4(図5では、23Aで代表して記載)が接続されている。一方、皿形ケース51の側壁93に設けられた4個の蒸気吹出口には、4本の蒸気供給通路23B1〜23B4(図5では、23Bで代表して記載)が接続されている。
上記加熱室20の側壁96における中段下側の位置に、4本の蒸気供給通路23A1〜23A4からの蒸気を受けて水平方向に流れの方向を変えて加熱室20内に吹き出す1つの蒸気吹出部101が設けられており、加熱室20の側壁96における蒸気吹出部101の位置には、1つの側面蒸気吹出口22(図5では現れていない)が形成されている。そして、皿形ケース51の側壁92に設けられた蒸気吹出口に接続された蒸気供給通路23A1〜23A4は、加熱室20の天井パネル54に沿って水平に延在した後、側壁96に沿って垂直に延在して、蒸気吹出部101に接続されている。
上記加熱室20の側壁96に対向する側壁97においても同様に、側壁97における中段下側の位置に1つの蒸気吹出部102が設けられており、側壁97における上記蒸気吹出部102の位置には、1つの側面蒸気吹出口22(図5では現れていない)が形成されている。そして、皿形ケース51の側壁93に接続された蒸気供給通路23B1〜23B4は、蒸気吹出部102に接続されている。
上記加熱室20の側壁96,97における蒸気吹出部101,102よりもやや上方に、上記第1被加熱物保持材としてのステンレス製のトレイ107を敷設するための係止部103,104が水平に配設されており、その上面にトレイ107の互いに対向する2辺が載置されている。したがって、敷設されているトレイ107を持ち上げて手前に引き出すことによって、トレイ107を加熱室20内から取り出すことができるのである。
その場合、上記トレイ107は、上記加熱室20の側壁96,97における上下方向中段に敷設されているため、トレイ107上に載置された被加熱物は、加熱室20の天井パネル54に形成された複数の天井蒸気吹出口55に近い位置に配置される。さらに、トレイ107は、加熱室20の側壁96,97に設けられた蒸気吹出部101,102よりもやや上方に敷設されているため、トレイ107上に載置された被加熱物は、側面蒸気吹出口22よりも上側に配置される。したがって、被加熱物は、加熱室20の天井パネル54に形成された複数の天井蒸気吹出口55から下方に向って噴出される過熱蒸気と、加熱室20の左右の側面におけるトレイ107よりも下側に位置する側面蒸気吹出口22から斜め上方に噴出される過熱蒸気とによって、効率良く高速に加熱調理されるのである。
また、上記加熱室20の側壁96,97における下段であって、蒸気吹出部101,102より下方には、受皿21を敷設するための係止部105,106が水平に配設されており、その上面に矩形の受皿21における互いに対向する2辺が載置されている。そして、受皿21上には、ステンレス鋼線で格子状に形成された矩形の上記第2被加熱物保持材としてのラック24が載置されている。こうして、加熱されたラック24上の被加熱物90からしたたり落ちる油や水分や塩分等を含む滴は、受皿21によって確実に受けることができるのである。
図6は、上記蒸気供給通路23B1〜23B4と蒸気吹出部102との3面図である。尚、図6(a)は蒸気吹出部102の開口側から見た正面図であり、図6(b)は図6(a)のA‐A'矢視断面図であり、図6(c)は図6(a)のB‐B'矢視断面図である。また、図7は、図6(c)における蒸気吹出部102の拡大図である。以下、図6および図7に従って、蒸気供給通路23B1〜23B4と蒸気吹出部102とについて説明するが、蒸気供給通路23A1〜23A4と蒸気吹出部101とについても全く同様である。
上記蒸気吹出部102は、その縦断面が概略直角三角形を成している。そして、この直角三角形の直角を挟む2辺のうちの1辺の箇所は開口されて蒸気吹出口108を形成しており、他の1辺を成す天板109には4つの蒸気供給穴が設けられ、各蒸気供給穴には蒸気供給通路23A1〜23A4の先端が接続されている。また、上記直角三角形の長辺を成す傾斜板110は、蒸気吹出口108と天板109とを臨むように傾斜しており、蒸気供給通路23B1〜23B4からの蒸気の向きを蒸気吹出口108に向かう方向に変える機能を有している。
また、上記傾斜板110の下方における蒸気供給通路23B1〜23B4の直下に位置する4箇所には、水平方向に対してやや上方に向かう反射面を有する断面が「く」の字状の吹上板111を4枚取り付けている。そして、傾斜板110に沿って斜め下方に流れてきた蒸気を、吹上板111の反射面111aによって水平方向に対して上方に向かって吹き上げるようにしている。
すなわち、本実施の形態においては、上記吹出方向分離手段を吹上板111で構成するのである。
蒸気は非常に細かい水滴であるため重量を有している。したがって、蒸気昇温室50の蒸気吹出口から蒸気供給通路23B1〜23B4に吹き出された蒸気には慣性力が作用して、上記蒸気は蒸気供給通路23B1〜23B4における外側の壁面および傾斜板110に沿って流下する。したがって、図6(a)および図7において、矢印(a)で示すように、蒸気供給通路23B1〜23B4から吹き出された後に、傾斜板110に沿って真直ぐ下方に向って流れる蒸気は、吹上板111の反射面111aによって上方に向かって吹き上げられることになる。また、矢印(b)で示すように、蒸気供給通路23B1〜23B4から吹き出された後に、傾斜板110に沿って前方(扉12側)に向って流れる蒸気は、吹上板111を素通りして、そのまま下方前方に向かって吹き出されることになる。同様に、矢印(c)で示すように、蒸気供給通路23B1〜23B4から吹き出された後に、傾斜板110に沿って後方に向って流れる蒸気は、吹上板111を素通りして、そのまま下方後方に向かって吹き出されることになる。
そして、上記左右の蒸気吹出部101,102から上記矢印(a)のごとく吹き上げられた蒸気は、蒸気吹出部101,102よりもやや上方に敷設されている上段のトレイ107に向って下側から当ることになる。したがって、上段のトレイ107上の被加熱物は、蒸気吹出部101,102からの過熱蒸気と加熱室20の天井蒸気吹出口55から下方に吹き出される過熱蒸気とによって、表裏が略均一に加熱調理されるのである。
一方、上記左右の蒸気吹出部101,102から上記矢印(b)および矢印(c)のごとく斜め下方に吹き出される蒸気は、蒸気吹出部101,102よりもやや下方に敷設されている下段のラック24上に載置された被加熱物90の全体を包み込むのである。その場合に、蒸気供給通路23B1〜23B4から吹き出される過熱蒸気のうち、矢印(b)および矢印(c)のごとく斜め下方に吹き出される過熱蒸気の量の方が矢印(a)のごとく吹き上げられる過熱蒸気の量よりも多い。したがって、天井蒸気吹出口55から下方に吹き出される過熱蒸気を加味した場合に、上段のトレイ107上の被加熱物を加熱する過熱蒸気の量と下段のラック24上の被加熱物90を加熱する過熱蒸気の量とにアンバランスが生ずることは無いのである。
以上のごとく、本実施の形態においては、上記加熱室20の両側壁96,97における中段下側の位置に、蒸気供給通路23A1〜23A4,23B1〜23B4からの蒸気を受けて水平方向に流れの方向を変えて加熱室20内に吹き出す蒸気吹出部101,102を設けている。そして、各蒸気吹出部102における蒸気吹出口108と天板109とを臨む位置には、蒸気供給通路23B1〜23B4からの蒸気の向きを蒸気吹出口108の方に変えるような傾斜を有する傾斜板110を設け、傾斜板110の下方における蒸気供給通路23B1〜23B4の直下に位置する4箇所には、水平方向に対してやや上方に向かう反射面111aを有する吹上板111を4枚配置している。
そして、上記傾斜板110に沿って斜め下方に流れてきた蒸気を、吹上板111の反射面111aによって吹き上げるようにしている。また、傾斜板110に沿って吹上板111の前方(扉12側)および後方に向って流れる蒸気を、そのまま下方前方および下方後方に向かって吹き出すようにしている。したがって、上記吹き上げられて上段のトレイ107に当たる過熱蒸気によって、加熱室20の天井蒸気吹出口55から下方に吹き出される過熱蒸気と共に、トレイ107上に載置された被加熱物を上下両面から略均一に加熱調理することができる。また、上記下方に向かって吹き出される過熱蒸気によって、下段のラック24上に載置された被加熱物90の全体を包み込んで加熱調理することができるのである。
したがって、上下二段調理時において、上段の被加熱物と下段の被加熱物90との夫々において、上下両面の焼き加減が略同様になって、焼き斑が生じないのである。
尚、本実施の形態においては、上記吹上板111を傾斜板110と別体に形成して、傾斜板110に取り付けている。しかしながら、上記構造に限定されるものではなく、傾斜板110における吹上板111の設置領域を内側に向かって山形に突出させて、吹上板111を構成しても差し支えない。
図8は、上記蒸気供給通路23B1〜23B4と蒸気吹出部102とにおける他の実施の形態に関する3面図である。尚、図8(a)は蒸気吹出部102の開口側から見た正面図であり、図8(b)は図8(8)のC‐C'矢視断面図であり、図8(c)は図8(a)のD‐D'矢視断面図である。また、図9は、図8(c)における蒸気吹出部102の拡大図である。以下、図8および図9に従って、蒸気供給通路23B1〜23B4と蒸気吹出部102とについて説明するが、蒸気供給通路23A1〜23A4と蒸気吹出部101とについても全く同様である。
以下、図6および図7と同じ構成に付いては同じ番号を布して、その詳細な説明は省略する。本実施の形態においては、上記蒸気吹出口108を、パンチング穴115が設けられた上記吹出方向分離手段としての蒸気吹出板116によって閉鎖している。図6および図7に示す蒸気吹出部102においては、加熱室20側は単に蒸気吹出口108によって開放されている。したがって、吹上板111の反射面111aによって、傾斜板110に沿って斜め下方に流れてきた蒸気を上方と下方とに吹き分けるとは言っても、上方と下方とへの蒸気の吹き分けははっきり区別されることは無く、両方向の区切りは曖昧である。
そこで、本実施の形態においては、上記蒸気吹出口108を蒸気吹出板116によって閉鎖している。そして、この蒸気吹出板116には、蒸気吹出口108の上下方向中間部に水平方向に配列された複数のパンチング穴115でなる第1パンチング穴列117と、この第1パンチング穴列117の下側における蒸気供給通路23B1〜23B4の直下の領域を除く領域に水平方向に配列された複数のパンチング穴115でなる第2パンチング穴列118とを設けている。ここで、第1パンチング穴列117と第2パンチング穴列118との間には、所定の間隔が設けられている。つまり、本実施の形態においては、上記第1開口部を第1パンチング穴列117で構成し、上記第2開口部を第2パンチング穴列118で構成するのである。
その際に、上記蒸気吹出部102における天板109の縁部に設けられた折返し120と、加熱室20の側壁97における側面蒸気吹出口22の縁部に設けられた折返し122とを噛み合わせると共に、折返し122と天板109の縁部との間に蒸気吹出板116の縁部116aを挿入して、天板109の縁部と側面蒸気吹出口22の縁部とをかしめることにより、蒸気吹出板116を天板109と側壁97とに取り付けている。同様に、蒸気吹出部102における傾斜板110の縁部に設けられた折返し121と、側壁97における側面蒸気吹出口22の縁部に設けられた折返し123とを噛み合わせると共に、折返し123と傾斜板110の縁部との間に蒸気吹出板116の縁部116aを挿入して、傾斜板110の縁部と側面蒸気吹出口22の縁部とをかしめることによって、蒸気吹出板116を傾斜板110と側壁97とに取り付けている。
また、上記蒸気吹出板116の第1パンチング穴列117の下側における蒸気供給通路23B1〜23B4の直下の領域には、金属板が断面「L」字型に折り曲げられてなる2つの面を有する吹上板119における1つの面が、上記領域に取り付け固定されている。
こうすることによって、図9において、矢印(d)で示すように、上記蒸気供給通路23B1〜23B4から吹き出された後に、傾斜板110に沿って真直ぐ下方に向って流れる蒸気は、吹上板119における他の面でなる反射面119aによって上方に向かって吹き上げられることになる。また、矢印(e),(f)で示すように、蒸気供給通路23B1〜23B4から吹き出された後に、傾斜板110に沿って前方(扉12側)および後方に向って流れる蒸気は、吹上板119を素通りしてそのまま下方前方および下方後方に向かって吹き出されることになる。
その際に、上述したように、上記蒸気吹出板116における上段の第1パンチング穴列117と下段の第2パンチング穴列118との間には、所定の間隔が設けられている。また、吹上板119の反射面119aは、下段の第2パンチング穴列118における最上の列と同じ位置に配置されている。したがって、吹上板119の反射面119aと上段の第1パンチング穴列117との間には、所定の間隔が設けられており、吹上板119の反射面119aで反射された過熱蒸気のうち、第1パンチング穴列117に向って吹き上げられた過熱蒸気のみが第1パンチング穴列117から加熱室20内に吹出される。一方、吹上板119を素通りしてそのまま下方に向かって吹き出された過熱蒸気のうち、第2パンチング穴列118に向って吹き出された過熱蒸気のみが第2パンチング穴列118から加熱室20内に吹出される。
したがって、上記傾斜板110に沿って斜め下方に流れてきた蒸気を、確実に上方と下方とに吹き分けて加熱室20内に吹き出すことができるのである。
尚、本実施の形態においては、上記上段の第1パンチング穴列117と下段の第2パンチング穴列118とが設けられた蒸気吹出板116を用いている。しかしながら、この発明はこれに限定されるものではなく、上段の第1パンチング穴列117と下段の第2パンチング穴列118とに代えて、上段の第1スリットと下段の第2スリットとを設けた蒸気吹出板を用いることも可能である。
上記各実施の形態においては、上記蒸気吹出部101,102内における傾斜板110に吹上板111,119を設けて、傾斜板110に沿って流れる過熱蒸気を上方と下方前方と下方後方とに吹き分けるようにしている。しかしながら、この発明における過熱蒸気の上方と下方前方と下方後方とへの吹き分け方法は、上記方法のみに限定されるものではない。要は、蒸気供給通路23A1〜23A4,23B1〜23B4の先端から過熱蒸気を吹き出す際に、過熱蒸気の吹き出し方向が上方と下方前方と下方後方とに分かれていればよいのである。
図10および図11は、上記蒸気吹出部101,102内において、蒸気供給通路23A1〜23A4,23B1〜23B4の先端から、その吹き出し方向を上方と下方前方と下方後方とに分けて過熱蒸気を吹き出す方法の一例を示す。但し、図10および図11においては、上記蒸気供給通路23B1で代表して説明を行う。
本実施の形態においては、上記蒸気供給通路23B1の先端部131を、上記蒸気吹出部102内に挿入すると共に、蒸気吹出部102内で加熱室20側に屈曲させている。そして、先端部131の上面132を上方に反り返らせる一方、下面133は蒸気吹出部102の傾斜板110に沿って下方に延在させて、全体としてラッパ状にしている。また、先端部131内には、蒸気供給通路23B1からの過熱蒸気を上方と下方前方と下方後方とに分けるための上記吹出方向分離手段としての方向分離部材134が挿入されて、取り付け・固定されている。
上記方向分離部材134は、先端部131の全幅に渡って挿入されて先端部131内を上部と下部とに分ける第1分離部材135と、この第1分離部材135の中間部から下方に延在して先端部131内の上記下部を前部(扉12側)と後部とに分ける第2分離部材136とで、構成されている。そして、第1分離部材135は、斜め下方に流れてきた蒸気を上方に向かって吹き上げるための第1面137と、斜め下方に流れてきた蒸気をそのまま下方に向かって吹き出すための第2面138,139とを有して、くさび状に形成されている。
上記構成において、上記蒸気供給通路23B1の先端部131から吹き出される過熱蒸気は、先端部131の上面132と第1分離部材135の第1面137とによって、上方に吹き上げられる。また、先端部131の下面133と第1分離部材135の第2面138と第2分離部材136とによって、下方前方に吹き出される。また、先端部131の下面133と第1分離部材135の第2面139と第2分離部材136とによって、下方後方に吹き出される。
したがって、上記各蒸気供給通路23A1〜23A4,23B1〜23B4の先端からは、過熱蒸気が上方と下方前方と下方後方とに分けて吹き出されるのである。尚、方向分離部材134の形状は、図11に示す形状に限定されるものではなく、各蒸気供給通路23A1〜23A4,23B1〜23B4の先端から、過熱蒸気を上方と下方前方と下方後方とに分離して吹き出すことができる形状であればよい。
図12は、上記蒸気吹出部101,102内において、蒸気供給通路23A1〜23A4,23B1〜23B4の先端から、吹き出し方向を上方と下方前方と下方後方とに分けて過熱蒸気を吹き出す方法の他の例を示す。但し、図12においては、上記蒸気供給通路23B1で代表して説明を行う。
本実施の形態においては、上記蒸気供給通路23B1の先端部141を、上記蒸気吹出部102内に挿入すると共に、蒸気吹出部102内で加熱室20側に屈曲させている。さらに、先端部141は、蒸気吹出部102内で3つの通路に分割されている。そのうちの一つである第1通路142は、先端部141の上部に位置しており、上方に反り返っている。また、上記3つの通路のうちの一つである第2通路143は、先端部141の下部に位置しており、蒸気吹出部102の傾斜板110に沿って下方に且つ前方(扉12側)に延在している。また、上記3つの通路のうちの一つである第3通路144は、先端部141の下部に位置しており、蒸気吹出部102の傾斜板110に沿って下方に且つ後方に延在している。尚、上方に反り返っている第1通路142と、傾斜板110に沿って下方に延在している第2,第3通路143,144との間には、先端部から基端部に向かって狭くなるくさび状の通路保持材145を配置して、分割された各通路142〜144を保持している。
上記構成において、上記蒸気供給通路23B1内を流れてきた過熱蒸気は、先端部141の第1通路142によって上方に吹き上げられる。また、先端部141の第2通路143によって下方前方に吹き出される。また、先端部141の第3通路144によって下方後方に吹き出されるのである。
すなわち、本実施の形態においては、上記吹出方向分離手段を、上記先端部141の第1通路142,第2通路143および第3通路144によって構成するのである。
尚、上記各実施の形態においては、上記蒸気昇温室50を備えて、蒸気昇温室50からの過熱蒸気によって被加熱物90を加熱することができる加熱調理器1の場合を例に上げて説明している。しかしながら、この発明は、過熱蒸気による加熱調理と非過熱蒸気による加熱調理とを切り換え可能な加熱調理器の場合や、蒸気昇温室50が無く、蒸気発生装置40からの非過熱蒸気によって被加熱物を加熱する加熱調理器の場合にも適用可能であることは言うまでもない。
また、上記各実施の形態においては、二段加熱調理時に、上段に位置する上記第1被加熱物保持材としてトレイ107を配置し、下段に位置する上記第2被加熱物保持材としてラック24を配置している。しかしながら、上記第1,第2被加熱物保持材の具体的構成は、これに限定されるものではない。
また、上記各実施の形態においては、上記蒸気吹出部101,102から蒸気を上方と下方前方と下方後方との3方向に分離して吹き出す場合を例に説明している。しかしながら、加熱室20の両側に設けられた蒸気吹出部101,102から上方と下方との2方向に分離して蒸気を吹き出した場合にも、吹き出され蒸気は加熱室20の中央部で互いにぶつかりあって対流を発生させることができる。したがって、この場合にも、加熱室20内の被加熱物を周囲から略均等に加熱することができ、上下両面の焼き加減を略同様にして焼き斑を無くすことができる。
また、上記各実施の形態においては、この発明を二段加熱調理に適用した場合を例に説明している。しかしながら、加熱室20の両側に設けられた蒸気吹出部101,102から上方と下方前方と下方後方とに吹き出された蒸気は加熱室20の中央部で互いにぶつかりあって対流が発生するため、上記第1被加熱物保持材のみを用いた一段加熱調理の場合や、上記第2被加熱物保持材のみを用いた一段加熱調理の場合であっても、上記第1,第2被加熱物保持材上の被加熱物を周囲から略均等に加熱することができ、上下両面の焼き加減を略同様にして焼き斑を無くすことができる。