JP4639526B2 - ディジタルサブトラクション装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、医療分野、工業分野などに用いられる、被検体の撮像部位をX線透視撮像してその撮像部位のサブトラクション像を得るディジタルサブトラクション装置に係り、特に、被検体の撮像部位のサブトラクション像を好適に高速に得る技術に関する。
【0002】
【従来技術】
従来のディジタルサブトラクション装置としては、例えば、医療分野で用いられる、被検体の所定の撮像部位のサブトラクション像を得るディジタルアンギオグラフィ装置がある。このディジタルアンギオグラフィ装置としては、例えば、特開平8-308823号公報に記載されたもののように、被検体の撮像部位を1回X線透視撮像するだけでその撮像部位のサブトラクション像を得れるものがある。以下に、このディジタルアンギオグラフィ装置により、被検体の所定の撮像部位のサブトラクション像を得る動作について、説明する。
【0003】
まず、造影剤が投与された被検体の所定の撮像部位を、X線透視撮像装置(X線管と、イメージインテンシファイアとテレビカメラなどで構成される撮像系とを備えたもの)でもってX線透過像として撮像し、この撮像したX線透視像をディジタルデータに変換してX線透過像を取得する。このX線透過像は、造影剤が投与された血管像などの高周波数成分が残っている画像であり、これをライブ像として用いる。一方、周波数特性変換回路によって、X線透過像(ライブ像)を構成する周波数成分を空間/周波数変換処理で取り出し、所定のしきい値周波数以上の周波数成分を除去し、これに周波数/空間変換処理を施して、前記X線透過像(ライブ像)から前記しきい値周波数以上の周波数成分を除去した高周波数成分除去画像を得ている。この高周波数成分除去画像は、造影剤が投与された血管像などの高周波数成分が除去された画像であり、これをマスク像として用いる。前記の空間/周波数変換処理としては、FFT(高速フーリエ変換)、カルーネン・レーベ変換、DCT(離散コサイン変換)、アダマール変換などの各変換方式がある。また、前記の周波数/空間変換処理としては、前記空間/周波数変換処理の逆変換(逆FFT、逆カルーネン・レーベ変換、逆DCT、逆アダマール変換など)がある。
【0004】
次に、遅延回路によって、後段の演算器へのX線透過像(ライブ像)の供給を前記周波数特性変換回路の処理時間分だけ遅延させることで、X線透過像(ライブ像)と高周波数成分除去画像(マスク像)とを後段の演算器に同期して供給している。そして、演算器は、X線透過像(ライブ像)から高周波数成分除去画像(マスク像)をサブトラクションしてサブトラクション像(サブトラクション画像)を求めている。なお、上述の所定のしきい値周波数は、サブトラクション像に残したい関心物(血管像など)を好適に除去し得る周波数値のことであり、このしきい値周波数を予め理論的あるいは実験的に求めておいて設定することで、サブトラクション像を得るようにしている。
【0005】
このように、造影剤が投与された被検体の所定の撮像部位を1回だけX線透視撮像するだけで、その撮像部位のサブトラクション像を得ることができるので、造影剤の投与前後の2回にわたってX線透視撮像する場合に比べて、被検体へのX線曝射線量が軽減できるとともに、X線透過像(ライブ像)から高周波数成分除去画像(マスク像)を生成していることから、造影剤投与前後の2回の撮像における被検体の体動などに起因するマスク像とライブ像の画像ずれを完全に無くすことができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
すなわち、上述した従来例では、撮影して得られたX線透過像(ライブ像)から所定のしきい値周波数以上の周波数成分を除去して高周波数成分除去画像(マスク像)を生成するという周波数特性変換処理に一定の時間がかかるため、X線透過像(ライブ像)を撮影した後、このX線透過像(ライブ像)から高周波数成分除去画像(マスク像)をサブトラクションすることで得られるサブトラクション像が生成されるまでには一定時間の遅延が生じ、被検体の動きに対して、サブトラクション像表示の追従性が悪いという問題がある。
【0007】
また、撮影して得られたX線透過像(ライブ像)から所定のしきい値周波数以上の周波数成分を除去して高周波数成分除去画像(マスク像)を生成するという周波数特性変換処理を、撮影して得られたX線透過像(ライブ像)ごとに行わなければならないので、撮影レートをこれ以上に向上させることができないという問題もある。
【0008】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、被検体の撮像部位のサブトラクション像を好適に高速に得ることができるディジタルサブトラクション装置を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載のディジタルサブトラクション装置は、被検体の所定の撮像部位のサブトラクション像を得るためのディジタルサブトラクション装置であって、(a)前記撮像部位にX線を照射し、その部位の複数枚のX線透過像を撮像するX線透視手段と、(b)前記X線透過像をディジタルデータに変換するデータ変換手段と、(c)前記ディジタルデータに変換されたX線透過像ごとに所定のしきい値周波数以上の周波数成分を除去した画像(以下、高周波数成分除去画像)を得る周波数特性変換手段と、(d)X線透過像である各基本画像と高周波数成分除去画像とのサブトラクションを行い、その撮像部位のサブトラクション像を求める演算手段と、(e)前記高周波数成分除去画像と、この高周波数成分除去画像を生成するためのX線透視像の所定回後に別途撮影されたX線透過像である基本画像とを前記演算手段に同期して供給する供給制御手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0010】
また、請求項2に記載のディジタルサブトラクション装置は、請求項1に記載のディジタルサブトラクション装置において、前記供給制御手段は、前記高周波数成分除去画像と、別途撮影されたX線透過像としての、この高周波数成分除去画像が生成された時刻より以降に撮影されたX線透過像である基本画像とを前記演算手段に同期して供給することを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項3に記載のディジタルサブトラクション装置は、請求項1または請求項2に記載のディジタルサブトラクション装置において、前記供給制御手段は、前記高周波数成分除去画像と、別途撮影されたX線透過像としての、この高周波数成分除去画像が生成されるまでに撮影されたX線透過像である基本画像とを前記演算手段に同期して供給することを特徴とするものである。
【0012】
【作用】
この発明の作用は次の通りである。
すなわち、請求項1に記載の発明によれば、被検体の所定の撮像部位に対して、X線透視手段で複数枚のX線透過像を撮像し、その撮像したX線透過像をデータ変換手段でディジタルデータに変換したX線透過像を得る。このX線透過像は、関心物の高周波数成分が残っている画像であり、これをライブ像として用いる。一方、周波数特性変換手段は、前記X線透過像ごとに所定のしきい値周波数以上の周波数成分を除去した高周波数成分除去画像を得る。この高周波数成分除去画像は、関心物の高周波数成分が除去された画像であり、これをマスク像として用いる。そして、供給制御手段は、高周波数成分除去画像(マスク像)と、この高周波数成分除去画像を生成するためのX線透視像の所定回後に別途撮影されたX線透過像である基本画像(ライブ像)とを演算手段に同期して供給する。演算手段は、基本画像(ライブ像)から高周波数成分除去画像(マスク像)をサブトラクションしてサブトラクション像を求める。
【0013】
したがって、高周波数成分除去画像(マスク像)の生成元であるX線透過像(ライブ像)ではなく、その高周波数成分除去画像(マスク像)が生成されたX線透過像とは別途に撮影されたX線透過像である基本画像(ライブ像)から、高周波数成分除去画像(マスク像)をサブトラクションしているので、周波数特性変換処理の所要時間分の遅延を含まない基本画像(ライブ像)をサブトラクションの対象とすることができ、除去されるべき低周波数成分の時間追従性は悪くなるものの、関心物である高周波数成分は別途に撮影された基本画像(ライブ像)に含まれているため、最小限の遅延でサブトラクション像などが表示される。
【0014】
また、請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明と同様の作用でX線透過像(ライブ像)と高周波数成分除去画像(マスク像)とが得られる。そして、供給制御手段は、高周波数成分除去画像(マスク像)と、別途撮影されたX線透過像としての、この高周波数成分除去画像(マスク像)が生成された時刻より以降に撮影されたX線透過像である基本画像(ライブ像)とを演算手段に同期して供給する。演算手段は、基本画像(ライブ像)から高周波数成分除去画像(マスク像)をサブトラクションしてサブトラクション像を求める。したがって、高周波数成分除去画像(マスク像)の生成元であるX線透過像(ライブ像)ではなく、その高周波数成分除去画像(マスク像)が生成された時刻以降のX線透過像である基本画像(ライブ像)から、高周波数成分除去画像(マスク像)をサブトラクションしているので、周波数特性変換処理の所要時間分の遅延を含まない基本画像(ライブ像)をサブトラクションの対象とすることができ、除去されるべき低周波数成分の時間追従性は悪くなるものの、関心物である高周波数成分は高周波数成分除去画像(マスク像)が生成された時刻以降の基本画像(ライブ像)に含まれているため、最小限の遅延でサブトラクション像などが表示される。
【0015】
また、請求項3に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明と同様の作用でX線透過像(ライブ像)と高周波数成分除去画像(マスク像)とが得られる。そして、供給制御手段は、高周波数成分除去画像(マスク像)と、別途撮影されたX線透過像としての、この高周波数成分除去画像(マスク像)が生成されるまでに撮影されたX線透過像(ライブ像)とを演算手段に同期して供給する。したがって、複数枚のX線透過像(ライブ像)に対して個別に同じ高周波数成分除去画像(マスク像)でサブトラクションすることになり、撮影して得られたX線透過像(ライブ像)ごとに高周波数成分除去画像(マスク像)を生成する必要が無いので、その時間分周波数変換処理時間を低減することができ、撮影レートを向上させる、すなわち、表示間隔を短くすることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照してこの発明のディジタルサブトラクション装置に係る一実施例としてのX線ディジタルアンギオグラフィ装置について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
<第1実施例>
図1は、この発明の第1実施例に係るX線ディジタルアンギオグラフィ装置の全体構成を示す正面図であり、図2は、X線透視装置を側面から見た図であり、図3は、画像処理部の構成を示すブロック図である。
【0018】
この第1実施例のX線ディジタルアンギオグラフィ装置は、ベッド1、X線透視手段としてのX線透視装置2、画像処理部3、モニタ4、制御部5、操作盤6などを備えて構成されている。
【0019】
ベッド1は、床面に設置されたベッド基台11と天板12を備えている。被検体Mは天板12上に載置される。この天板12はモータ13の駆動で水平移動可能であり、天板12上の被検体MとX線透視装置2との相対的な位置関係を被検体Mの体軸方向に変位することができる。モータ13の駆動制御は、制御部5により行われる。
【0020】
X線透視装置2は、X線管21、撮像系22を支持するC型アーム23がベッド1の近傍に定置された装置基台24の上部に支持されて構成されている。C型アーム23は、モータ25の駆動で図2の矢印方向に変位可能に装置基台24に支持されており、X線管21、撮像系22を被検体Mの体軸回りに変位可能に構成し、X線透過像の撮像方向の調整が可能となっている。モータ25の駆動制御は制御部5により行われる。
【0021】
X線管21と撮像系22とはC型アーム23の両端部に取り付けられており、天板12上の被検体Mを挟み込んだ状態で対向配置されている。X線管21から被検体Mの任意の撮像部位に向けて照射され、被検体Mを透過したX線は、撮像系22で受像され、その部位のX線透過像が撮像される。X線管21からのX線の照射は、X線高電圧発生装置26から所定の電力(X線管電圧およびX線管電流)がX線管21に供給されて行われる。X線高電圧発生装置26からX線管21への所定の電力の供給は制御部5に制御されて行われる。撮像系22は、イメージインテンシファイアとテレビカメラ、FPD(Flat Panel Detector)などで構成されている。撮像されたX線透過像は画像処理部3に与えられる。
【0022】
画像処理部3は、図3に示すように、データ変換手段としてのA/D(アナログtoディジタルデータ)変換器31と、高周波除去手段としての周波数特性変換回路32を備えた供給制御手段としての供給制御回路33と、演算手段としての演算器34と、階調変換回路35と、D/A(ディジタルtoアナログ)変換器36とで構成されている。
【0023】
造影剤が投与された被検体Mの所定の撮像部位のX線透過像が撮像されると、撮像系22からのその像の画像信号(アナログ信号)は、A/D変換器31でディジタルデータに変換されて、X線透過像が得られる。このX線透過像は、骨格などの低周波数成分や、造影剤が投与された血管像などの高周波数成分を含んだ画像であり、これをライブ像として用いる。このX線透過像(ライブ像)は、周波数特性変換回路32に与えられる。周波数特性変換回路32は、後述する処理によってX線透過像(ライブ像)から血管像などの高周波数成分を除去しマスク像を得る。供給制御回路33は、高周波数成分除去画像(マスク像)と、別途撮影されたX線透過像としての、この高周波数成分除去画像(マスク像)が生成された時刻より以降に撮影されたX線透過像である基本画像(ライブ像)とを演算器34に同期して供給する。この供給制御回路33の機能がこの発明の1つの特徴である。
【0024】
そして、演算器34では、直接供給される基本画像(ライブ像)と、周波数特性変換回路32を経て供給される高周波数成分除去画像(マスク像)とのサブトラクションを行いサブトラクション像を求めて階調変換回路35に与える。階調変換回路35では、サブトラクション像をモニタ5に表示したとき見やすい画像にするために、サブトラクション像を構成する各画素の濃度を調整(全画素を対象に、各画素の濃度に所定濃度を加算したり減算する)する。階調変換されたサブトラクション像はD/A変換器36に与えられ、そこでD/A変換されてモニタ4に表示される。なお、画像処理部3を構成する各部の動作制御は、制御部5により行われる。
【0025】
この第1実施例の周波数特性変換回路32は、X線透過像(ライブ像)から血管像などの高周波数成分を除去して高周波数成分除去画像(マスク像)を得ることを、実空間データのままで高速処理することを目的とするものである。
【0026】
周波数特性変換回路32は、実空間上で直線形状で表されるテンプレートフィルタでもってX線透過像(ライブ像)の高周波数成分を実空間上で除去する実空間フィルタリング部32aを備えている。この実空間フィルタリング部32aのテンプレートフィルタ形状は、例えば、図7に示すように、互いに直交するX,Y,Z軸で表される、実空間上の3次元直交座標系において、X,Y軸方向をテンプレートフィルタの矩形形状である底面大きさとし、Z軸方向をこのテンプレートのゲインとした四角柱形状で表されるものとしている。この実空間上で四角柱形状のテンプレートフィルタ(以下、適宜に「ボックスフィルタ」と呼ぶ)による処理方法は、図8に示すように、入力画像(入力される基本画像)における画素(i,j)の近傍(N×N点の正方形分)の平均濃度を出力画像の画素(i,j)の値とし、この平均処理を全画素について行うことで、X線透過像(ライブ像)から所定のしきい値周波数以上の周波数成分(高周波数成分)を除去した高周波数成分除去画像(マスク像)を得るものであり、移動平均フィルタ法と適宜に呼ぶこととする。
【0027】
なお、図8は、図7に示したボックスフィルタを、フィルタ処理しようとするX線透過像(ライブ像)の所定の複数個の画素上に位置させた状態をZ軸方向から見下ろした図である。図8では、ボックスフィルタのフィルタサイズを、説明の便宜上、3×3の正方形として図示し、画素(i,j)とその周囲の8画素とからなる9画素(9点)の平均値を画素(i,j)の値としているが、このフィルタサイズは、次に説明するように所定のしきい値周波数以上の周波数成分(高周波数成分)を除去する大きさに設定される。すなわち、このボックスフィルタは、そのフィルタサイズに応じてしきい値周波数が変更されることになる。つまり、フィルタサイズを大きくすればしきい値周波数を下げることになりぼかしの程度が大きくなるし、フィルタサイズを小さくすればしきい値周波数を上げることになりぼかしの程度が小さくなるのである。ボックスフィルタのフィルタサイズは、図7に示すように、例えば21×21点(TAP数×TAP数)の正方形としている。このTAP数はカーネルの点数のことでもある。また、標準的な空間的形状の血管像を好適に除去し得るしきい値周波数は、実験的あるいは理論的に求めておくことができるので、標準的な空間的形状の血管像を好適に除去し得るボックスフィルタのフィルタサイズも同様に実験的あるいは理論的に求めておいても良いし、そのフィルタサイズは初期値として設定しておいても良い。
【0028】
なお、上述の移動平均フィルタ法は、次に説明するようにすることで、高速に演算処理ができるように改良されたものである。例えば、フィルタサイズがN点×N点であるボックスフィルタを用いて移動平均を求めるには、ボックスフィルタが位置するN×N点の画素を正直に加算した合計値をボックスフィルタの点数分(N×N点)で平均することで、ボックスフィルタの中心の画素の値を算出し、この演算を全画素について個別に行なっていたのでは、演算量が膨大になり高速に演算処理することができないし、フィルタサイズが大きくなるにつれてその演算量は増加することになる。
【0029】
そこで、次に説明するようにして、上述の移動平均フィルタ法を高速に演算処理可能に改良している。すなわち、図9に示すように、N×N点の移動平均を求めるには、各画素についてN×N点の加算を正直に計算することなく、前回の結果に対して、更新される部分についての加減算を行うことで、簡単に計算でき、演算時間が短縮できる。例えば、1次元状の「A」〜「F」の画素に対して、1次元状の3点のボックスフィルタで移動平均する場合を例に挙げて説明する。「A」〜「C」の画素にボックスフィルタがある場合は、「A+B+C」の3点平均値が「B」画素の値となる。そして、ボックスフィルタを次の位置(「B」〜「D」の画素の位置)に移動させたときには、前回の値(「A+B+C」)から更新される部分(「D」が加わり、「A」が外される)についての加減算(−A+D)を行うだけでよく、前回と今回とで重複する加算を行なうという無駄が排除できるし、フィルタサイズが大きくなってもその演算量(演算の総量)は低減したまま一定である。この例では、説明の便宜上、ボックスフィルタを3点としているが、ボックスフィルタの点数が大きくなればなる程、全点について正直に順次加算していく演算量と、更新される部分の加減算のみを行なう演算量との差は大きくなり、効果的に改善されることがわかる。なお、図7,図8に示すようにN×N点のボックスフィルタの2次元移動平均の場合には、縦方向のN行累算値を、図9と同様の方法で求め、さらに横方向に図9と同様の方法を繰り返していけばよい。すなわち、N×N点のボックスフィルタの2次元移動平均の場合であっても、更新される部分の加減算は、1画素の加算および1画素の減算のみである。上述したように演算の総量を低減しているので、汎用のチップを用いて実空間フィルタリング部32aを構成することができ、撮像して得られたX線透過像(ライブ像)から極めて短時間で(リアルタイムに近く)高周波数成分除去画像を生成することができる。
【0030】
図1,図2に戻って、制御部5は、操作盤6からの各種の指示などによって、各装置、各部の駆動制御や動作制御を行う。この制御部5は、例えば、後述する動作を実現するプログラムを遂行するCPU(中央処理装置)で構成されている。
【0031】
操作盤6は、撮像部位や条件の設定、処理開始指示などを、操作者が行うためのものである。
【0032】
上記構成を有する実施例装置の動作を以下に説明する。
まず、被検体Mのある1箇所の撮像部位(例えば胸部)のサブトラクション像を得る場合の動作を説明する。
【0033】
この場合、まず、操作者により操作盤6から設定された撮像部位や条件(撮像方向など)に従って、制御部5は、モータ13を駆動制御して被検体Mを載置した天板12を水平移動させ、設定された撮像部位(胸部とする)を、X線管21、撮像系22の間の撮像位置に位置させ、モータ25を駆動制御してX線管21、撮像系22を被検体M(の撮像部位)の体軸回りに変位させ、撮像方向を調節する。この状態を図4に示す。図4では、撮像部位SBの下方からX線を照射してX線透過像を撮像するように撮像方向が調節されている。
【0034】
次に、被検体Mに造影剤を投与する。なお、造影剤を投与してから上記位置合わせ動作などを行ってもよい。いずれにしても、以下の撮像動作の前に、被検体Mに造影剤を投与しておき、撮像部位SBに造影剤が拡散した状態で操作者が操作盤6から処理開始を指示し、以下の撮像動作が実行される。
【0035】
処理開始が指示されると、制御部5はX線高電圧発生装置26を制御して、X線管21に所定の電力を供給させてX線を照射させ、造影剤が拡散された撮像部位SBのX線透過像を撮像させる。そして、制御部5は、画像処理部3の各部を制御して、X線透過像(ライブ像)を得るとともに、そのX線透過像(ライブ像)から高周波数成分除去画像(マスク像)を求め、この求めたマスク像と、このマスク像が生成された時刻より以降に撮影されたX線透過像である基本画像(ライブ像)とを演算器34に同期して供給して、演算器34でマスク像と基本画像(ライブ像)とのサブトラクションを行わせ、サブトラクション像をモニタ4に表示させる。
【0036】
具体的には、供給制御回路33は、図10(b)に示すように、撮像系22で撮像されてA/D変換器31でディジタルデータに変換されたX線透過像(ライブ像)「A」から高周波数成分除去画像(マスク像)「A´」を周波数特性変換回路32により求め、この求めたマスク像「A´」と、このマスク像「A´」が生成された時刻t2より以降に撮影されたX線透過像である基本画像(ライブ像)例えば「B」とを演算器34に同期して供給する。演算器34は、基本画像(ライブ像)「B」からマスク像「A´」をサブトラクションしてサブトラクション像「B−A´」を生成する。なお、次のサブトラクション像は、X線透過像(ライブ像)「B」から求めた高周波数成分除去画像「B´」と、このマスク像「B´」が生成された時刻t6より以降に撮影されたX線透過像である基本画像(ライブ像)「C」とを演算器34に同期して供給することで、マスク像「B´」と基本画像(ライブ像)「C」とによるサブトラクション像「C−B´」を生成している。あるX線透過像(ライブ像)から次のX線透過像(ライブ像)を撮影するまで時間(例えば、時刻t2〜t6までの時間など)は、種々の時間に設定されるが、この実施例では、例えば1/30秒としている。以降も同様にしてサブトラクション像の生成が行われる。
【0037】
したがって、高周波数成分除去画像(マスク像)の生成元であるX線透過像(ライブ像)ではなく、その高周波数成分除去画像(マスク像)が生成された時刻以降のX線透過像である基本画像(ライブ像)から、高周波数成分除去画像(マスク像)をサブトラクションしているので、周波数特性変換処理の所要時間分の遅延を含まない基本画像(ライブ像)をサブトラクションの対象とすることができ、除去されるべき低周波数成分の時間追従性は悪くなるものの、関心物である高周波数成分は高周波数成分除去画像が生成された時刻以降のX線透過像である基本画像(ライブ像)に含まれているため最小限の遅延でサブトラクション像などを表示することができ、被検体Mの動きに追従できるサブトラクション像を提供できる。
【0038】
具体的には、従来例装置では、図10(a)に示すように、X線透過像(ライブ像)ごとに高周波数成分除去画像を生成しているので、例えばX線透過像(ライブ像)「A」の周波数特性変換処理の開始時刻t1からサブトラクション像生成までの時刻t5までの遅延時間(t5−t1の時間)が必要であったので、被検体Mの動きに追従したサブトラクション像を得ることができなかった。しかしながら、この第1実施例装置によれば、図10(b)に示すように、高周波数成分除去画像(マスク像)「A´」と、この高周波数成分除去画像(マスク像)「A´」が生成された時刻t2より以降に撮影されたX線透過像である基本画像(ライブ像)例えば「B」とでサブトラクションするので、例えばX線透過像(ライブ像)「B」の撮影完了時刻t3からサブトラクション像生成までの時刻t5までの遅延時間(t5−t3の時間)で済み、被検体Mの動きに追従したサブトラクション像を得ることができる。
【0039】
次に、被検体MとX線透視装置2との相対的な位置関係を被検体Mの体軸方向に変位させて、例えば、図5に示すように、胸部から腹部にかけての領域SR内の複数の撮像部位のサブトラクション像を得る場合の動作を説明する。なお、この実施例では、X線透視装置2を固定し、これに対して被検体Mを載置した天板12を水平移動するように構成しているが、撮像状況をわかり易くするために、図5では、天板12上の被検体Mを固定し、これに対してX線透視装置2(X線管21、撮像系22)が変位しているように描いている。
【0040】
この場合、制御部5は、最初の撮像部位(図では、撮像領域SRの左端部側の撮像部位)を撮像位置に位置させ、撮像方向を調節する。そして、以下の撮像動作の前に被検体Mに造影剤を投与しておく。
【0041】
被検体Mの各撮像部位(領域SR)に造影剤が拡散し、処理開始が指示されると、上記1箇所の撮像領域SBのサブトラクション像を求めた手順と同様の手順で、最初の撮像部位のサブトラクション像を求め、天板12を図5の左方向に定速で移動させながら、以降の各撮像部位が撮像位置に位置するごとに、その撮像部位のサブトラクション像を順次求めていく。
【0042】
したがって、被検体MとX線透視装置との相対的な位置関係を被検体Mの体軸方向に変位させて、複数の連続する撮像部位に対するサブトラクション像を得る場合であっても、前述と同様の効果を有する。
【0043】
なお、天板12を固定し、X線透視装置2を天板12上の被検体Mの体軸方向に移動させることで、被検体MとX線透視装置との相対的な位置関係を被検体Mの体軸方向に変位させるように構成してもよい。
【0044】
また、被検体Mのある部位(例えば、胸部)を撮像位置に位置させた状態で、図6に示すように、X線管21、撮像系22をその部位の回り(体軸回り)に回転変位させながら、各撮像方向からのサブトラクション像を求めることもあるが、このような場合であっても、上記各動作と同様に、被検体Mの動きに追従したサブトラクション像を得ることができる。
【0045】
また、実空間フィルタリング部32aは、実空間上で直線形状で表されるテンプレートフィルタでもって、X線透過像(ライブ像)の高周波数成分を実空間上で除去しており、次に説明するような効果がある。
【0046】
例えば、従来のガウス関数形状のテンプレートフィルタでは、図17に示すそのガウス曲線形状からもわかるように、X線透過像(ライブ像)を単純な加減算のみで処理することできないし、フィルタサイズ(N×N点)が例えば51(TAP数)×51(TAP数)点のように大きくなることでフィルタリングの演算量が膨大になり、従来例の場合における演算量は次に示す式(1)で表されて、リアルタイムに近い短時間での処理は不可能であった。なお、式(1)中のPは、1回の乗算と1回の加算との2回であり、式(1)中のG2 は、X線透過像(ライブ像)の全画素数である。例えば、参考までに式(1)に具体的な数値を代入してみる。
Figure 0004639526
【0047】
これに対して、上述した第1実施例では、実空間フィルタリング部32aは、実空間上で直線形状で表される、四角柱形状のテンプレートフィルタでもって、X線透過像(ライブ像)をフィルタリングするので、X線透過像(ライブ像)を単純な加減算のみで処理することできるし、さらに、フィルタリング処理における重複する演算(加算)を繰り返し実行することがないように演算量を軽減することができる。この第1実施例の場合におけるフィルタリングの演算量は次に示す式(2)で表される。なお、式(2)中のQは、1回の加算と1回の減算との2回であり、式(2)中のG2 は、前述の式(1)と同様に、X線透過像(ライブ像)の全画素数である。例えば、参考までに式(2)に具体的な数値を代入してみる。
Figure 0004639526
【0048】
式(1),(2)を比してわかるように、第1実施例の場合におけるフィルタリングの演算量は、フィルタ移動によって更新される部分についての単純な加減算を実行するだけで良く、式(2)中にTAP数が含まれていないことから、フィルタサイズに依らずに一定量でしかも式(1)に比べて大幅に低減され、リアルタイムに近い短時間での処理が可能となることがわかる。
【0049】
<第2実施例>
続いて、この発明のX線ディジタルサブトラクション装置の第2実施例に係るX線ディジタルアンギオグラフィ装置について説明する。図11は、この発明の第2実施例に係る実空間フィルタリング部40のテンプレートフィルタ形状を示す模式図である。図12は、この第2実施例に係る実空間フィルタリング部40のブロック図である。この第2実施例のX線ディジタルアンギオグラフィ装置は、第1実施例の実空間フィルタリング部32aに替えて、図12に示す実空間フィルタリング部40を採用し、第2実施例の実空間フィルタリング部40のテンプレートフィルタ形状を、四角柱形状から後述するような八角錐形状に替えた点以外については、前述の第1実施例と同様であるので、特にテンプレートフィルタ形状が実空間上で後述するような八角錐形状である実空間フィルタリング部40の構成および機能について詳細に説明するものとする。
【0050】
まず、実空間フィルタリング部40のテンプレートフィルタ形状について説明する。実空間フィルタリング部40のテンプレートフィルタ形状は、図11に示すように、互いに直交するX,Y,Z軸で表される、実空間上の3次元直交座標系において、X,Y軸方向をテンプレートフィルタの矩形形状である底面大きさとし、Z軸方向をこのテンプレートのゲインとし、Z軸方向に先細りとなる立体形状であって、かつ、テンプレートフィルタのZ方向の少なくとも中央から先細りの先端部にかけて八角錐形状で表されるものとしている。なお、このような実空間フィルタリング部40のテンプレートフィルタ形状を、説明の便宜上、略八角錐形状とも呼ぶこととする。
【0051】
実空間フィルタリング部40は、図12に示すように、入力されるX線透過像(ライブ像)の行方向に後述する所定のフィルタをかける行方向三角形フィルタ41と、この行方向三角形フィルタ41でフィルタ処理されたデータを記憶する記憶手段42と、この記憶手段42に記憶された行方向処理後のX線透過像(ライブ像)の列方向に後述する所定のフィルタをかける列方向三角形フィルタ43と、行方向三角形フィルタ41と記憶手段42と列方向三角形フィルタ43とを制御する制御手段44とを備えている。
【0052】
行方向三角形フィルタ41は、図13に示すように、更新される部分のうちで新たに加えられる、後述する三角形状の右側の下がり勾配部分の画素の値(図15(b)参照)を生成する第1の1次元フィルタブロック51と、更新される部分のうちで削除される、後述する三角形状の左側の上がり勾配部分の画素の値(図15(b)参照)を生成する第2の1次元フィルタブロック52と、これらの第1の1次元フィルタブロック51と第2の1次元フィルタブロック52とからの画像データを減算する減算器53と、この減算器53からの出力を累算して出力する累算回路54と、入力される基本画像を第1の1次元フィルタブロック51よりも所定量遅延させて第2の1次元フィルタブロック52に入力するための遅延回路55とを備えている。
【0053】
第1の1次元フィルタブロック51は、一方の入力ポートに入力される画像データ(基本画像の行方向についての一連の画像データ)から、他方の入力ポートから入力される画像データ(基本画像の行方向についての一連の画像データ)を減算して出力する減算器61と、入力される基本画像を減算器61の一方の入力ポートよりも所定量遅延させて減算器61の他方の入力ポートに入力するための遅延回路62と、この減算器61からの出力を累算して出力する累算回路63とを備えている。なお、第2の1次元フィルタブロック52も、第1の1次元フィルタブロック51と同様に構成されており、減算器61と累算回路62と遅延回路63とを備えている。
【0054】
なお、列方向三角形フィルタ43は、前述の行方向三角形フィルタ41と同様に構成されており、行方向三角形フィルタ41で処理されて記憶手段42に記憶されたX線透過像(ライブ像)の行方向のデータを、列方向にフィルタリング処理するものである。
【0055】
ここで、テンプレートフィルタ形状が実空間上で略八角錐形状である実空間フィルタリング部40について、そのフィルタリング機能について説明する。この実空間フィルタリング部40は、実空間の1次元形状が三角形をしている図14(a)に示す1次元フィルタを、図11に示すように2次元に拡張したものと等価である。図14(c)に示すように、行列(縦横)分離型のフィルタで構成することで、高速化に有利となる。なお、フィルタ係数の一例を図14(b),(c)に示す。例えば、図14(a)に示すように実空間形状が三角形である1次元フィルタを5点のものとすると、図14(b)に示すように左から順に「1,2,3,2,1」の係数となる。図14(b)に示す行(横)方向の1次元フィルタを列(縦)方向に並べると、図14(c)の右上側に示すような2次元フィルタとなる。また、図14(b)に示す行(横)方向の1次元フィルタを縦方向にしたもの、つまり上から順に「1,2,3,2,1」の係数としたものを、行(横)方向に並べると、図14(c)の左上側に示すような2次元フィルタとなる。そして、これらの2次元フィルタをその同一点同士の係数をかけることで、図14(c)の下側に示すような、行列(縦横)分離型のフィルタ、つまり、実空間上で略八角錐形状(略ピラミッド形状)であるテンプレートフィルタと等価な効果が得られる。
【0056】
なお、図14に示してきた係数(「1,2,3,4,6,9」)は、図15に説明するように、重み度を示すものである。すなわち、図15(a)に示すように、図14(b)に示す1次元フィルタがX線透過像(ライブ像)の「A」〜「E」の画素に位置する場合に、それらの画素の値を何倍するかを示している。具体的に、画素「A」は図14(b)に示す1次元フィルタの係数「1」にあるので「A」を1倍したもの、つまり「A」のままとなり、画素「B」は図14(b)に示す1次元フィルタの係数「2」にあるので「B」を2倍したもの、つまり「2B」となり、画素「C」は図14(b)に示す1次元フィルタの係数「3」にあるので「C」を3倍したもの、つまり「3C」となり、画素「D」は図14(b)に示す1次元フィルタの係数「2」にあるので「D」を2倍したもの、つまり「2D」となり、画素「E」は図14(b)に示す1次元フィルタの係数「1」にあるので「E」を1倍したもの、つまり「E」のままとなる。
【0057】
図14(c)の下側に示すような、行列(縦横)分離型のフィルタ、つまり、実空間上で略八角錐形状(略ピラミッド形状)であるテンプレートフィルタは、列(縦)方向と行(横)方向とに分離すると、図15に示すように、前述の第1実施例での移動平均のアルゴリズムの延長で計算でき、フィルタリング処理における重複する演算(加算)を繰り返し実行することがないように演算量を軽減することができる。
【0058】
すなわち、第1の1次元フィルタブロック51は、図15(b)に示すように、更新される部分のうちで新たに加えられる、三角形状の下がり勾配部分の画素の値を生成する。図15(b)では、更新される部分のうちで新たに加えられる、三角形状の下がり勾配部分の画素の値は、「D+E+F」である。
【0059】
また、第2の1次元フィルタブロック52は、図15(b)に示すように、更新される部分のうちで削除される、三角形状の上がり勾配部分の画素の値を生成する。図15(b)では、更新される部分のうちで削除される、三角形状の上がり勾配部分の画素の値は、「A+B+C」である。
【0060】
図14(b)に示す1次元フィルタがX線透過像(ライブ像)の「A」〜「E」の画素に位置する場合には、図15(a)に示すように、重み付けされたもの「A+2B+3C+2D+E」が得られる。次に、図14(b)に示す1次元フィルタが画素1つ分移動してX線透過像(ライブ像)の「B」〜「F」の画素に位置する場合には、図15(a)に示したものから「A+B+C」を引くとともに「D+E+F」を加えることで、図15(b)に示すように、重み付けされたもの「B+2C+3D+2E+F」が得られる。したがって、図14(b)に示す1次元フィルタが画素1つ分移動してX線透過像(ライブ像)の「B」〜「F」の画素に位置する場合に、最初から正直に演算して、つまり、前回(図15(a)に示すもの)と今回(図15(b)に示すもの)とで重複する演算を行なうことで、図15(b)に示す重み付けされたもの「B+2C+3D+2E+F」を得る必要はない。次に、図14(b)に示す1次元フィルタがさらに画素1つ分移動してX線透過像(ライブ像)の「C」〜「G」の画素に位置する場合には、同様に、図15(b)に示したもの「B+2C+3D+2E+F」から「B+C+D」を引くとともに「E+F+G」を加えて重み付けされたもの「C+2D+3E+2F+G」が得られる。
【0061】
このように、フィルタ移動によって更新される部分の加減算は、3画素分の加算および3画素の減算のみであるので、この更新される部分の加減算を行なうだけで良い。
【0062】
次に、行方向三角形フィルタ41によって、図15(b)に示す「B+2C+3D+2E+F」を得る動作を、具体的に説明する。なおこの図15では、説明の便宜上、フィルタサイズを5点(TAP数=5点)としているので、第1の1次元フィルタブロック51の遅延回路62と、第2の1次元フィルタブロック52の遅延回路62と遅延回路55との遅延量は、次に示す式(3)により、それぞれ「3」に設定されている。
Figure 0004639526
【0063】
これらの遅延回路のパラメータ(遅延量)などがデジタルフィルタで言うところのTAP数に相当する。TAP数を変えることで、しきい値周波数の値を変更できる。なお、図15では、説明の便宜上、フィルタサイズを5点としていたが、この第2実施例では、図11に示すようにTAP数を51×51点とした場合には、第1の1次元フィルタブロック51の遅延回路62と、第2の1次元フィルタブロック52の遅延回路62と遅延回路55との遅延量は、「26」に設定される。制御手段44は、第1の1次元フィルタブロック51の累算回路63と、第2の1次元フィルタブロック52の累算回路63と、累算回路54との累算値の初期化や、第1の1次元フィルタブロック51の遅延回路62と、第2の1次元フィルタブロック52の遅延回路62と遅延回路55との遅延量の設定を行なう。
【0064】
例えば、X線透過像(ライブ像)の「A」〜「F」が行方向三角形フィルタ41に入力された時点での、この行方向三角形フィルタ41の各構成での処理状況について見てみる。第1の1次元フィルタブロック51の減算器61には「F」と「C」とが入力されて「F−C」が第1の1次元フィルタブロック51の累算回路63に入力される。第1の1次元フィルタブロック51の累算回路63は、(「C+D+E」+「F−C」)により「D+E+F」が出力される。また、遅延回路55の遅延量が「3」であるので、第2の1次元フィルタブロック52の減算器61には未だ「C」のみが入力されるだけで「C」が第2の1次元フィルタブロック52の累算回路63に入力される。第2の1次元フィルタブロック52の累算回路63は、(「A+B」+「C」)により「A+B+C」が出力される。減算器53では、第1の1次元フィルタブロック51の累算回路63から出力された「D+E+F」と、第2の1次元フィルタブロック52の累算回路63から出力された「A+B+C」との減算が行なわれ、(「D+E+F」−「A+B+C」)が出力される。累算回路54は、前回の値「A+2B+3C+2D+E」と、減算器53からの(「D+E+F」−「A+B+C」)とを累算し、「B+2C+3D+2E+F」を記憶手段42に出力する。
【0065】
以上、上述した第2実施例では、実空間フィルタリング部40は、実空間上で直線形状で表され、略八角錐形状のテンプレートフィルタでもって、X線透過像(ライブ像)の高周波数成分を実空間上で除去しており、更新される部分の加減算のみを行なえば良いので、前述の第1実施例の場合と同等に、フィルタリングの演算量は、式(2)で表され、この式(2)中にTAP数が含まれていないことから、フィルタサイズに依らずに一定量でしかも、従来例の式(1)に比べて大幅に低減され、リアルタイムに近い短時間での処理が可能となる効果を有している。さらに、この第2実施例では、次に説明する点で、前述の第1実施例よりもさらに優れている。
【0066】
すなわち、第2実施例のテンプレートフィルタ形状(図11参照)は、前述の第1実施例のテンプレートフィルタ形状(図7参照)に比べて、理想的なテンプレートフィルタ形状(図17参照)に近似しているので、図16に示すように、前述の第1実施例の場合よりも、周波数特性に優れている。具体的には、前述の第1実施例のテンプレートフィルタでは0.25lp/mm(ラインペア/ミリ)付近でリンギング(MAXが0.15程度の山)が生じているが、このようなリンギングは第2実施例のテンプレートフィルタではかなり小さくなっていて僅かに存在しているだけであることから、前述の第1実施例に比べて、所定のしきい値周波数以上の周波数成分を良好に除去できることがわかる。
【0067】
また、しきい値周波数の値の変更が、遅延回路の遅延量の調整で実現でき、演算量は増減しないため、しきい値周波数の値に依らず、低減した一定時間で処理できる。したがって、所定の処理時間を確保したまま、しきい値周波数の値の変更の自由度が高いディジタルサブトラクション装置が提供できる。
【0068】
なお、この第2実施例では、実空間フィルタリング部40のテンプレートフィルタ形状を、図11に示すように、テンプレートフィルタのZ方向の少なくとも中央から先細りの先端部にかけて八角錐形状で表されるものとした略八角錐形状としているが、底面から先細りの先端部までの全部を八角錐形状としても良い。
【0069】
<第3実施例>
図18は、第3実施例装置の画像処理部の構成を示すブロック図である。この第3実施例は、前述の第1,第2実施例装置の供給制御回路33に替えて、後述する供給制御回路33aを設けたことを特徴とする。この供給制御回路33aは、高周波数成分除去画像(マスク像)と、別途撮影されたX線透過像としての、この高周波数成分除去画像(マスク像)が生成されるまでに撮影されたX線透過像である基本画像(ライブ像)とを演算器34に同期して供給するものである。この第3実施例装置では、供給制御回路33aのみが前述の第1,第2実施例装置とは異なるので、この第3実施例ではこの供給制御回路33aを詳細に説明するものとする。
【0070】
図18に示すように、供給制御回路33aは、例えば、前述の第1,第2実施例と同様の周波数特性変換回路32と、この周波数特性変換回路32で生成された高周波数成分除去画像(マスク像)を所定時間記憶する記憶回路71と、基本画像(ライブ像)を所定時間遅延させて出力する遅延回路72とを備えている。
【0071】
ここで、この第3実施例装置のサブトラクション処理動作を、図19を用いて説明する。
【0072】
図19に示すように、X線透過像(ライブ像)「A」が撮像して得られると(時刻t11)、このX線透過像(ライブ像)「A」の周波数特性を変換して高周波数成分除去画像(マスク像)「A´」を生成する周波数特性変換処理が行われる。この周波数特性変換処理の終了時刻がt14であったとすると、この第3実施例では、時刻t11〜t14の間に、X線透過像(ライブ像)「A」とは別のX線透過像(ライブ像)である基本画像(ライブ像)「A*」が撮影されている(時刻t13)。供給制御回路33aは、X線透過像(ライブ像)「A」から高周波数成分除去画像(マスク像)「A´」をサブトラクションしてサブトラクション像「A−A´」が生成され、基本画像(ライブ像)「A*」から前記と同じ高周波数成分除去画像(マスク像)「A´」をサブトラクションしてサブトラクション像「A*−A´」が生成されるように、記憶回路71と遅延回路72とを制御することで、演算器34へのライブ像とマスク像との同期供給を制御している。なお、次のサブトラクション像は、X線透過像(ライブ像)「B」と、このX線透過像(ライブ像)「B」から求めた高周波数成分除去画像「B´」とをサブトラクションしてサブトラクション像「B−B´」を生成し、X線透過像(ライブ像)である基本画像「B*」と、前記と同じ高周波数成分除去画像「B´」とをサブトラクションしてサブトラクション像「B*−B´」を生成している。あるX線透過像(ライブ像)から次のX線透過像(ライブ像)を撮影するまで時間(例えば、時刻t10〜t12までの時間など)は、種々の時間に設定されるが、この実施例では、例えば1/60秒としている。以降も同様にしてサブトラクション像の生成が行われる。
【0073】
したがって、複数枚のX線透過像(ライブ像)に対して個別に同じ高周波数成分除去画像(マスク像)でサブトラクションすることができ、撮影して得られたX線透過像(ライブ像)ごとに高周波数成分除去画像(マスク像)を生成する必要が無いので、その時間分周波数変換処理時間を低減することができ、撮影レートを向上させる、すなわち、表示間隔を短くすることができ、被検体の動きに追従できるサブトラクション像を提供できる。
【0074】
この発明は、上記の各実施例に限られるものではなく、下記のように変形実施することができる。
【0075】
(1)上述の第1実施例の供給制御回路33と第3実施例の供給制御回路33aとを組み合わせて構成しても良い。すなわち、この組み合わせた供給制御回路は、図20に示すように、高周波数成分除去画像(マスク像)と、別途撮影されたX線透過像としての、この高周波数成分除去画像(マスク像)が生成されるまでに撮影されたX線透過像である基本画像(ライブ像)とを演算器34に同期して供給するとともに、高周波数成分除去画像(マスク像)と、別途撮影されたX線透過像としての、この高周波数成分除去画像(マスク像)が生成された時刻より以降に撮影されたX線透過像である基本画像(ライブ像)とも演算器34に同期して供給するものである。この場合は、図20に示すように、遅延を低減し、かつ、撮影レートを向上させたディジタルサブトラクション装置を構成することができる。
【0076】
(2)上述の各実施例のディジタルサブトラクション装置における実空間フィルタリング32a,40を汎用チップでもってソフトウエア的に実現することもできる。
【0077】
(3)上述の各実施例のディジタルサブトラクション装置では、周波数特性変換回路32に実空間フィルタリング部32a,40を用いているが、X線透過像(ライブ像)を構成する周波数成分を空間/周波数変換処理で取り出し、所定のしきい値周波数以上の周波数成分を除去し、これに周波数/空間変換処理を施して、前記X線透過像(ライブ像)から前記しきい値周波数以上の周波数成分を除去した高周波数成分除去画像(マスク像)を得る周波数特性変換回路32を採用しても良い。前記の空間/周波数変換処理としては、FFT(高速フーリエ変換)、カルーネン・レーベ変換、DCT(離散コサイン変換)、アダマール変換などの各変換方式がある。また、前記の周波数/空間変換処理としては、前記空間/周波数変換処理の逆変換(逆FFT、逆カルーネン・レーベ変換、逆DCT、逆アダマール変換など)がある。
【0078】
(4)上述の各実施例のディジタルサブトラクション装置は、上述の各実施例のように、被検体Mを人体などとして医療用に用いることもできるし、被検体MをBGA(Ball Grid Array)基板やプリント配線基板など各種の電子部品などとして非破壊検査用に用いることもできる。
【0079】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、請求項1に記載のディジタルサブトラクション装置によれば、高周波数成分除去画像の生成元であるX線透過像ではなく、別途撮影されたX線透過像である基本画像から、高周波数成分除去画像をサブトラクションしているので、周波数特性変換処理の所要時間分の遅延を含まない基本画像をサブトラクションの対象とすることができ、除去されるべき低周波数成分の時間追従性は悪くなるものの、関心物である高周波数成分は別途に撮影された基本画像に含まれているため最小限の遅延でサブトラクション像などを表示することができ、被検体の動きに追従できるサブトラクション像を提供できる。
【0080】
また、請求項2に記載のディジタルサブトラクション装置によれば、高周波数成分除去画像の生成元であるX線透過像ではなく、その高周波数成分除去画像が生成された時刻以降のX線透過像である基本画像から、高周波数成分除去画像をサブトラクションしているので、周波数特性変換処理の所要時間分の遅延を含まない基本画像をサブトラクションの対象とすることができ、除去されるべき低周波数成分の時間追従性は悪くなるものの、関心物である高周波数成分は高周波数成分除去画像が生成された時刻以降の基本画像に含まれているため最小限の遅延でサブトラクション像などを表示することができ、被検体の動きに追従できるサブトラクション像を提供できる。
【0081】
また、請求項3に記載のディジタルサブトラクション装置によれば、複数枚の基本画像に対して個別に同じ高周波数成分除去画像でサブトラクションすることができ、撮影して得られたX線透過像ごとに高周波数成分除去画像を生成する必要が無いので、その時間分周波数変換処理時間を低減することができ、撮影レートを向上させる、すなわち、表示間隔を短くすることができ、被検体の動きに追従できるサブトラクション像を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の第1実施例に係るディジタルアンギオグラフィ装置の全体構成を示す正面図である。
【図2】X線透視装置を側面から見た図である。
【図3】第1実施例装置に備えられた画像処理部の構成を示すブロック図である。
【図4】ある1箇所の撮像部位のサブトラクション像を得る場合の動作を説明するための図である。
【図5】被検体の体軸方向の複数の撮像部位のサブトラクション像を得る場合の動作を説明するための図である。
【図6】ある部位に対する複数の撮像方向からのサブトラクション像を得る場合の動作を説明するための図である。
【図7】第1実施例のテンプレートフィルタ形状を示す模式図である。
【図8】第1実施例の移動平均フィルタ法を説明するための模式図である。
【図9】第1実施例の移動平均フィルタの計算アルゴリズムを説明するための模式図である。
【図10】(a)は従来例によるサブトラクション処理動作シーケンスを示す模式図であり、(b)は第1実施例によるサブトラクション処理動作シーケンスを示す模式図である。
【図11】第2実施例のテンプレートフィルタ形状を示す模式図である。
【図12】この発明の第2実施例に係る実空間フィルタリング部のブロック図である。
【図13】この発明の第2実施例に係る行方向三角形フィルタの構成を示すブロック図である。
【図14】(a)〜(c)は第2実施例のピラミッド形フィルタを説明するための模式図である。
【図15】(a)、(b)は第2実施例のピラミッド形フィルタの計算アルゴリズムを説明するための模式図である。
【図16】各種フィルタの周波数特性を示す特性図である。
【図17】従来のガウス関数形状で表される理想的なテンプレートフィルタ形状を示す模式図である。
【図18】第3実施例装置の画像処理部の構成を示すブロック図である。
【図19】第3実施例装置によるサブトラクション処理動作シーケンスを示す模式図である。
【図20】第1,第3実施例の供給制御回路を組み合わせた場合のサブトラクション処理動作シーケンスを示す模式図である。
【符号の説明】
2 … X線透視装置
3 … 画像処理部
31 … A/D変換器
32 … 周波数特性変換回路
33 … 供給制御回路
33a… 供給制御回路
34 … 演算器
M … 被検体

Claims (3)

  1. 被検体の所定の撮像部位のサブトラクション像を得るためのディジタルサブトラクション装置であって、(a)前記撮像部位にX線を照射し、その部位の複数枚のX線透過像を撮像するX線透視手段と、(b)前記X線透過像をディジタルデータに変換するデータ変換手段と、(c)前記ディジタルデータに変換されたX線透過像ごとに所定のしきい値周波数以上の周波数成分を除去した画像(以下、高周波数成分除去画像)を得る周波数特性変換手段と、(d)X線透過像である各基本画像と高周波数成分除去画像とのサブトラクションを行い、その撮像部位のサブトラクション像を求める演算手段と、(e)前記高周波数成分除去画像と、この高周波数成分除去画像を生成するためのX線透視像の所定回後に別途撮影されたX線透過像である基本画像とを前記演算手段に同期して供給する供給制御手段とを備えたことを特徴とするディジタルサブトラクション装置。
  2. 請求項1に記載のディジタルサブトラクション装置において、前記供給制御手段は、前記高周波数成分除去画像と、別途撮影されたX線透過像としての、この高周波数成分除去画像が生成された時刻より以降に撮影されたX線透過像である基本画像とを前記演算手段に同期して供給することを特徴とするディジタルサブトラクション装置。
  3. 請求項1または請求項2に記載のディジタルサブトラクション装置において、前記供給制御手段は、前記高周波数成分除去画像と、別途撮影されたX線透過像としての、この高周波数成分除去画像が生成されるまでに撮影されたX線透過像である基本画像とを前記演算手段に同期して供給することを特徴とするディジタルサブトラクション装置。
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