JP4634755B2 - ジルコニア質焼結体からなるスクレーパ - Google Patents

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本発明はスクレーパに関する。本発明において、スクレーパとはロールミルなどの粉砕機や混合機、混練機等に付着した処理物(粉体を含む)を掻き取るブレード類を指す。
代表的な混練機であるロールミルは回転する2本ないしはそれ以上のロールの間で圧縮及び剪断応力を用いてセラミック坏土の混練などに広く使用されている。
近年、液晶及びPDP等に代表されるフラットディスプレイの需要が急増しており、それに伴ってフラットディスプレイに用いられるガラスペーストや圧電フィルム等の需要が急増している。これらの製造には主としてロールミルが使用されているが、ローラに付着した処理物を掻き取るためにスクレーパが用られている。しかしながら、金属製のスクレーパでは金属が摩耗してその摩耗粉が不純物として混入するので好ましくなく、樹脂製では摩耗が多く短寿命であるためにコストがかかるなどの問題があり、セラミックス製のスクレーパが採用されつつある。
特許文献1にはジルコニアセラミックスからなる印刷用掻き取りスクレーパについて開示されているが、このスクレーパは印刷版面の余分な流動性の高いインクを掻き取る程度の使用では問題がないが、ロールミルに付着したガラスペーストや圧電フィルム材料などはインクに比べて強固に付着しているため掻き取る際の応力によりスクレーパの刃先の欠けなどが発生しやすかったり、十分に付着物を掻き取ることができないなどの問題点がある。また、この文献では使用するジルコニアセラミックスに、どのような特性をもたせるべきかなどの開示はない。
特開2000−343025号公報
本発明の目的は、スクレーパに適した組成と物性をもつジルコニアセラミックスを提供するとともに、その組成と物性をもつジルコニアセラミックススクレーパの最適な形状を解明し、スクレーパの刃先の欠けや掻き取り不充分がおきない耐摩耗性、耐衝撃性、耐久性のスクレーパを提供する点にある。
本発明者らは、前記のような現状を鑑み、鋭意研究を重ねてきた結果、ジルコニア質焼結体からなるスクレーパにおいて、Y/ZrOモル比、Al含有量をある特定の範囲にし、スクレーパ刃先角、表面粗さをある特定の範囲内とすることにより、刃先の欠けがなく、ロールミル等の粉砕機、混合機、混練機などの部材(印刷用版面ではない)に強固に付着した処理物を長期間にわたって安定して掻き取ることが出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の第1は、主としてZrOとYとからなるジルコニア質焼結体であって、Y/ZrOモル比が2/98〜4/96の範囲にあり、Alを全焼結体に対し0.05〜3重量%含有し、刃先厚さが0.15〜0.5mmであり、刃先形状が、一方の刃先角θ1が92°以上100゜未満他方の刃先角θ2が85〜95゜、θ1≧θ2の条件を満足する楔形であり、かつ刃先の表面粗さRaが0.2〜0.5μmであることを特徴とするスクレーパに関する。
本発明の第2は、正方晶系ジルコニアを70容積%以上含有し、かさ密度が5.9g/cm以上であり、平均結晶粒径が0.2〜1μmである請求項1記載のスクレーパに関する。
以下に本発明のジルコニア質焼結体からなるスクレーパが充足すべき各要件について詳細に説明する。
(1)刃先厚さ(tmm)が0.15〜0.5mmである点
本発明のジルコニア質焼結体よりなるスクレーパにおいては、刃先厚さが0.15〜0.5mmことが必要である。好ましくは0.2〜0.4mmである。刃先厚さが0.15mm未満の場合は、処理物を掻き取る時にスクレーパに加わる応力によりスクレーパ先端の欠けやたわみが大きくなり、掻き取り残りが多発するので好ましくなく、刃先厚さが0.5mmを越える場合には掻き取った付着物が刃先に強固に付着して、処理物の掻き取り抵抗が大きくなったり、粉砕機、混合機、混練機などの部材とスクレーパとの間に凝着した処理物が挟まって掻き取りがスムーズにできないので好ましくない。
(2)刃先刃先角θ1が92°以上100゜未満であり、他方の刃先角θ2が85〜95゜よりなり、θ1≧θ2の条件を満足する楔形である点
本発明のジルコニア質焼結体からなるスクレーパにおいては、刃先形状が、一方の刃先角θ1が92゜以上100゜未満他方の刃先角θ2が85〜95゜(好ましくは87〜92゜)の楔形であることが必要であり、θ1≧θ2の条件を満足する楔形である。
刃先角θ1とθ2の角度およびθ1とθ2の関係が前記の条件を満さない場合は、掻き取った処理物が刃先に凝着して、粉砕機、混合機、混練機などの部材とスクレーパとの間に凝着した処理物が挟まって掻き取りがスムーズにできないし、掻き取る際の負荷応力により刃先が欠けたりするため好ましくない。なお、刃の奥行の大小は、本発明においては本質的に何の影響もない。
(3)刃先の表面粗さRaが0.2〜0.5μmである点
本発明のジルコニア質焼結体からなるスクレーパにおいては、刃先の表面粗さRaが0.2〜0.5μmであることが必要であり、好ましくはRaが0.25〜0.40μmである。表面粗さRaが0.2μm未満の場合は表面が滑らかすぎて滑りやすくなり、掻き取る際の粉砕機、混合機、混練機などの部材との摩擦抵抗が小さくなりすぎて掻き取りが不十分となるので好ましくなく、一方、Raが0.5μmを超える場合には粉砕機部材を傷つけやすいので好ましくない。
(4)Y/ZrOモル比が2/98〜4/96である点
本発明のジルコニア質焼結体からなるスクレーパにおいては、Y/ZrOモル比は2/98〜4/96であることが必要であり、好ましくは2.5/97.5〜3.5/96.5である。
通常ZrO原料中に少量含有することのあるHfOが混入していても良く、このHfO量を含めたZrOとHfOの合量をZrO量とする。
/ZrOモル比が2/98未満の場合には焼結体中の単斜晶系ZrO量が増加し、焼結体内部にクラックが発生して、スクレーパとして負荷のかかる状態ではクラックが進展し、割れや欠けが発生し、その結果、スクレーパの刃先に凹凸ができ、十分に粉砕機、混合機、混練機などの部材に付着した処理物を掻き取ることができないため好ましくない。一方、Y/ZrOモル比が4/96を越えると正方晶系ZrO量が低下し、立方晶系ZrO量が増加し、機械的特性が低下するので好ましくない。
(5)Alを(全焼結体に対し)0.05〜3重量%含有する点
本発明のジルコニア質焼結体からなるスクレーパにおいては、Alは0.05〜3重量%含有することが必要である。好ましくは0.1〜2重量%含有する。AlはZrO結晶粒界の強化効果があるので耐衝撃性及び耐摩耗性等の機械的特性がすぐれたものとなる。Al含有量が0.05重量%未満の場合は、Al添加の効果がなく、3.0重量%を越える場合は、ZrO結晶粒界にAl結晶粒子が多く存在することになり耐久性の低下が起こるので好ましくない。
(6)正方晶系ジルコニアを70容積%以上含有する点
本発明のジルコニア質焼結体からなるスクレーパにおいては、正方晶系ジルコニアを70容積%以上、とくに80容積%以上含有することが好ましい。正方晶系ジルコニアの含有量が70容積%未満の場合は、正方晶から単斜晶への応力誘起相変態効果が少なくなり、靭性の低下を生じ、負荷応力によってクラックが生成しやすくなり、刃先の欠けの発生や摩耗が大きくなるので好ましくない。
尚、本発明ではジルコニアの結晶相である単斜晶系ジルコニア(M)の存在の有無及び含有量、正方晶系ジルコニア(T)及び立方晶系ジルコニア(C)の量については以下の方法でX線回折により求める。
即ち、焼結体及び加工した焼結体製品の表面は応力誘起相変態により正方晶から単斜晶に変態しており、真の結晶相を同定することができないので、焼結体表面を鏡面にまで研磨し、X線回折により回折角27〜34度の範囲で測定し、単斜晶系ジルコニアの有無及び含有量を次式から求める。
Figure 0004634755
また、正方晶系ジルコニア及び立方晶系ジルコニアは、単斜晶系ジルコニアの有無を確認した方法と同様にして、X線回折により、回折角70〜77度の範囲で測定し、次式により求める。
Figure 0004634755
なお、本発明においては上記X線回折から求まる立方晶系ジルコニアを30容積%以下、単斜晶系ジルコニアを5容積%以下まで許容できる。
なお、X線回折条件はX線源:CuKα、出力:40kV/40mA、発散スリット:1/2゜、散乱スリット:1/2゜、受光スリット:0.15mm、モノクロメータ受光スリット:0.8mm、カウンタ:シンチレーションカウンタ、モノクロメータ:湾曲型モノクロメータにより行う。
(7)かさ密度が5.9g/cm以上である点。
本発明のジルコニア質焼結体からなるスクレーパにおいては、かさ密度は5.9g/cm以上、とくに6.0g/cm以上であることが好ましい。なお、かさ密度の上限は6.1g/cmである。かさ密度が5.9g/cm未満の場合には摩擦、衝撃などの負荷応力に対する抵抗性が劣り、刃先の欠けや摩耗が大きくなるので好ましくない。
(8)平均結晶粒径が0.2〜1μmである点。
本発明のジルコニア質焼結体からなるスクレーパにおいては、平均結晶粒径は0.2〜1μm、とくに0.3〜0.8μmであることが好ましい。平均結晶粒径が0.2μm未満の場合は、靭性が低くなり、刃先加工時にチッピング等が起こるので好ましくなく、1μmを超える場合には耐摩耗性の低下をきたすので好ましくない。なお、本発明において平均結晶粒径は焼結体を鏡面仕上げし、熱エッチングを施し、走査電子顕微鏡にて観察し、インターセプト法により10点平均から求める。算出式としては、D=1.5×L/n〔D:平均結晶粒径(μm)、L:測定長さ(μm)、n:長さL当たりの結晶数〕を用いる。
本発明のジルコニア質焼結体からなるスクレーパは種々の方法で製造できる。
下記にその一例を示すが、この方法に限定されるものでない。
本発明では、液相法により精製したジルコニア粉体を使用することが大切である。即ち、ZrOとYの含有量が所定のモル比となるようにジルコニウム化合物(例えばオキシ塩化ジルコニウム)の水溶液とイットリウム化合物(例えば塩化イットリウム)の水溶液を均一に混合し、加水分解し、水和物を得、脱水し、乾燥後、400〜1250℃で仮焼し、Y、Al以外の不純物の少ないジルコニア粉体を得る方法が採用される。なお、SiOは1重量%まで許容でき、SiOが含有していることにより焼結性の向上に効果がある。
以外の成分の添加はジルコニウム化合物とイットリウム化合物の水溶液の混合物に塩の水溶液として所定量添加しても良いし、後記する仮焼粉体の粉砕・分散時に水酸化物、炭酸化物、酸化物等の形態で添加しても良い。
得られた仮焼粉体を湿式により粉砕、分散し、必要により公知の成形助剤(ワックスエマルジョン、PVA、アクリル系樹脂等)を加え、スプレードライヤー等の公知の方法で乾燥させて成形粉体を得る。得られた成形粉体粒度は平均粒子径0.5μm以下、より好ましくは0.4μm以下であることが必要である。平均粒子径が0.5μmを越える場合には焼結性の低下や焼結体に耐久性および機械的性質の低下を招く欠陥が多く含有するので好ましくない。
得られた成形粉体は、公知の成形方法、例えばプレス成形、ラバープレス成形等の方法による成形方法でも十分に本発明の焼結体を得ることができ、さらには水を含有させた有機溶媒、可溶性高分子または水などを成形助剤として湿式または液中にて成形する方法でも十分に本発明の焼結体を得ることができる。また、鋳込成形法を採用する場合には、粉砕・分散スラリーに必要により公知のバインダー(例えばワックスエマルジョン、アクリル系樹脂等)を加え、石膏型あるいは樹脂型を用いて排泥鋳込、充填鋳込、加圧鋳込法により成形する。さらに、押出成形法を採用する場合には、粉砕・分散したスラリーを乾燥させ、整粒し、混合機を用いて水、バインダー(例えばメチルセルロース等)、可塑剤(例えばポリエチレングリコール等)、滑剤(例えばステアリン酸等)を混合して坏土を作製し、押出成形する。
次いで得られた成形体を1150〜1550℃、好ましくは1150〜1400℃で焼成することによって焼結体を得、所望の形状に加工してスクレーパが得られる。
スクレーパの加工はダイヤモンド砥石を用いて湿式で刃先の加工を含めてスクレーパの長手方向に研削加工するのがコスト等を考慮した場合有効である。本発明のスクレーパは靭性が高いため刃先エッジ部のチッピング等が起こりにくいので長手方向に研削加工しても何ら問題はない。さらに、必要に応じて加工前にHIP(ホットアイソスタティックプレス)処理を施すことにより摩擦、衝撃等に対する抵抗性を高くすることができ、機械的性質の向上、さらには耐久性の向上ができる。HIP処理は常圧焼結後、Arなどの不活性雰囲気、またはNもしくはO雰囲気下で1100〜1400℃で行うことが好ましい。
本発明は優れた耐摩耗性、耐衝撃性及び耐久性が高いため、粉砕機、混合機、混練機などの部材に付着した処理物を粉砕機、混合機、混練機などの部材を傷つけることなく、安定して掻き取ることが可能である。
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものでない。
実施例1〜5、比較例1〜5
純度99.6%のオキシ塩化ジルコニウムと純度99.9%の硝酸イットリウムを表の組成となるように水溶液にして混合した。次に、この水溶液を加熱環流下で加水分解し、Yが固溶した水和ジルコニウムの沈殿物を生成させ、脱水、乾燥し、400〜1000℃で1時間仮焼し、得られたジルコニア粉体を湿式にて粉砕した。なお、Al成分については、酸化物の形態で粉砕時に所定量添加混合した。得られた粉砕スラリーにバインダーを添加しスプレードライヤーで乾燥させ成形用粉体とした。この成形用粉体を用いてCIP(コールドアイソスタティックプレス)成形により成形し、1300〜1600℃で焼成して、140メッシュ及び600メッシュのレジンボンドダイヤモンド砥石を用いて研削加工を施し、30×210×0.7mmのスクレーパを作製した。
表に示すように刃先を加工し、3本ロールミル(ロール材質:92%アルミナ)に装着してアルミナ坏土を混練した。その結果を表に示す。
表から明らかなように、本発明のスクレーパは刃先のチッピングがなく、安定した掻き取りができることが明らかである。
Figure 0004634755
本発明のスクレーパの上面図である。 本発明のスクレーパの側面図である。 本発明のスクレーパ刃先形状を説明するための側面図(図2)の刃先部分拡大図である。

Claims (2)

  1. 主としてZrOとYとからなるジルコニア質焼結体であって、Y/ZrOモル比が2/98〜4/96の範囲にあり、Alを全焼結体に対し0.05〜3重量%含有し、刃先厚さが0.15〜0.5mmであり、刃先形状が、一方の刃先角θ1が92°以上100゜未満他方の刃先角θ2が85〜95゜、θ1≧θ2の条件を満足する楔形であり、かつ刃先の表面粗さRaが0.2〜0.5μmであることを特徴とするスクレーパ。
  2. 正方晶系ジルコニアを70容積%以上含有し、かさ密度が5.9g/cm以上であり、平均結晶粒径が0.2〜1μmである請求項1記載のスクレーパ。
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