JP4632466B2 - 重研削用レジノイド研削砥石 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、無機質充填材を合成樹脂結合剤組織中に含むレジノイド研削砥石の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、粗加工や鋼片の疵取り加工等のように取り代の大きい研削加工には、一般にフェノール樹脂、エポキシ樹脂、或いはアクリル樹脂等の合成樹脂結合剤(レジンボンド)で砥粒を結合したレジノイド研削砥石が用いられる。合成樹脂結合剤は、ガラス質結合剤(ビトリファイドボンド)、金属質結合剤(メタルボンド)や電着結合剤等に比較して弾性率が低いことから、研削加工中に被削材から砥粒に作用する負荷を結合剤の弾性変形によって緩和できるためである。なお、上記の砥粒には、例えばアルミナ(Al2O3 )、炭化珪素(SiC )やアルミナ・ジルコニア(Al2O3 −ZrO2)質等の一般砥粒、或いはダイヤモンドや立方晶窒化ホウ素(cBN )等の超砥粒が用いられる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような用途のレジノイド研削砥石では、結合剤の物理的強度を高める骨材として、或いは化学的な研削助剤として機能させる目的で、結合剤中に微細な無機質充填材粒子が分散させられた結合剤組織を有している。結合剤の弾性変形は砥粒に作用する負荷を軽減するが、過度の弾性変形は砥粒の被削材への食い込みを妨げて却って研削性能を低下させるからである。また、被削材を研削加工するに際して、機械的な加工に併せて化学的な軟化或いは腐食作用を利用することが研削能率を高める上で有効となる場合もある。結合剤中に弾性率の高い無機質充填材を分散させれば過度な弾性変形を抑制でき、鉄系の被削材の場合にその無機質充填材の一部または全部を硫黄(S) 等を含む材料で構成すればその硫黄分の化学的な作用による研削効率向上が期待できる。このような目的で添加される無機質充填材としては、例えば、硫化鉄(FeS2)、硫酸カリウム(K2SO4 )、クリオライト(氷晶石:Na3[AlF6] )、酸化カルシウム(CaO )、塩化カリウム(KCl )等が挙げられる。
【0004】
ところで、研削加工中には研削砥石と被削材とが接触させられる研削点において研削熱が発生するため、研削砥石はその研削熱によって温度上昇させられて膨張する。このとき、前記のような砥粒の熱膨張係数は 1×10-6〜10×10-6(/℃) 程度である一方、合成樹脂結合剤を構成成分とする結合剤組織の熱膨張係数は 6×10-5(/℃) 程度以上であって、砥粒の熱膨張係数が合成樹脂結合剤のそれに比較して一桁以上低いため、化学的な接着力が低い砥粒と合成樹脂結合剤との界面に熱膨張係数の差に起因して緩みが生じ得る。そのため、温度上昇が大きい場合には、研削砥石の砥粒の保持力が不十分となって、十分な仕事を行わないまま脱落する砥粒が多くなることから、砥石磨耗が大きく研削比が低くなるという問題があった。
【0005】
上記の問題は、特に、製鋼における圧延加工に先立ってスラブ、ブルーム、或いはビレット等の鋼片に施される表面疵取りや皮むき等の重研削加工で顕著である。すなわち、鋳込みにより作製されたSUS、炭素鋼、チタン鋼等の鋼片の表面疵取りおよび皮むき研削は、取り代が大きく且つ高い加工能率が要求されることから、例えば直径400 〜600(mm) 程度、幅30〜80(mm)程度の大型の研削砥石に最大1000(kg)近くの垂直押し付け荷重をかけながら左右に往復移動させることにより行われる。そのため、研削点における発熱が大きく、研削直後においても被削材の表面温度が数百 (℃) 以上に達する程度の温度上昇があることから、加工中の研削砥石も著しく温度上昇させられ、熱膨張係数の差に基づいて砥粒の保持力が著しく低下するのである。このような用途の研削砥石は、無機質充填材が添加されることによって結合剤組織の弾性変形が抑制されているが、このことも温度上昇の一因となっている。しかも、例えば900(℃) 程度の熱間で行われる重研削加工においては、砥石の温度上昇が一層著しくなるため、熱膨張差が拡大して一層研削効率が低下するのである。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、熱膨張に起因するレジノイド研削砥石の砥粒の脱落を抑制してその研削性能を高めることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
斯かる目的を達成するため、本発明の要旨とするところは、砥粒よりも熱膨張係数が大きい熱硬化性樹脂結合剤中に粒子状の無機質充填材が分散させられた結合剤組織によってその砥粒が結合されて成り、製鋼における圧延に先立って熱間の鋼片の表面疵を除去するための重研削用レジノイド研削砥石において、(a) 前記粒子状の無機質充填材の少なくとも一部は前記砥粒の熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数を有し前記結合剤組織の熱膨張を抑制して前記砥粒の脱落を抑制する機能を有する粒子状の低膨張充填材で構成され、(b)前記砥粒と前記結合剤組織との混合物がホット・プレス成形されることにより製造されたことにある。
【0008】
【発明の効果】
このようにすれば、レジノイド研削砥石を構成する結合剤組織は、砥粒の熱膨張係数よりも熱膨張係数の小さくその結合剤組織の熱膨張を抑制して前記砥粒の脱落を抑制する機能を有する粒子状の低膨張充填材が含まれることによってその熱膨張係数が低下させられることから、製鋼における圧延に先立って熱間の鋼片の表面疵を除去する重研削加工中に温度上昇した場合にもその熱膨張が抑制される。したがって、熱膨張係数が小さい砥粒とそれに比べて熱膨張係数が大きい熱硬化性樹脂結合剤を構成成分とする結合剤組織との界面の熱膨張係数の差に起因する緩みが抑制されるため、砥粒の脱落が好適に抑制されて研削性能が高められる。また、前記レジノイド研削砥石は、前記砥粒と前記結合剤組織との混合物がホット・プレス成形されることにより製造されたものであることから、レジノイド研削砥石は砥粒の保持力が一層高められ延いては研削性能が一層高められる。この作用は以下のように推定される。すなわち、レジノイド研削砥石を構成する砥粒、熱硬化性樹脂結合剤、および無機質充填材は、加熱により膨張させられた状態で加圧力によって緻密に結合させられ、その後の冷却過程においてそれぞれ収縮することとなる。そのため、膨張させられた状態で結合させられた砥粒、熱硬化性樹脂結合剤、および無機質充填材は、熱膨張係数が大きいものほど収縮量が大きいことから、砥粒よりも熱膨張係数が小さい低膨張充填材は、その砥粒よりも熱膨張係数が大きい熱硬化性樹脂結合剤によって圧縮される。したがって、圧縮された低膨張充填材から作用する反力によって熱硬化性樹脂結合剤による砥粒の保持力が高められると共に、研削加工中に温度上昇させられた際にも、熱膨張係数が相対的に小さい低膨張充填材によって熱硬化性樹脂結合剤の膨張延いては結合剤組織の膨張が抑制されるため、上記の圧縮力および反力によって砥粒の保持力が維持されると考えられるのである。
【0009】
【発明の他の態様】
ここで、好適には、前記のレジノイド研削砥石は、(a-2) 前記低膨張充填材を前記無機質充填材の全量に対して 30(%) 以下の容積比で含むものである。このようにすれば、低膨張充填材の量が十分に少なくされることから、無機質充填材のうちの研削助剤或いは骨材等として機能させられるものの割合を十分に大きくして十分な研削性能を保ちつつ、結合剤組織の熱膨張を抑制できる。因みに、結合剤組織に占める無機質充填材の容積比は研削砥石の用途に応じて略定められるため、その容積比を自由に設定することはできない。また、一般に、低膨張充填材として用い得るものは、熱膨張係数は小さいが研削助剤或いは骨材としての機能は殆どない。そのため、無機質充填材の全量に対して容積比で 30(%) を越えると、たとえ熱膨張に起因する砥粒の脱落を抑制しても、研削性能を向上できないのである。なお、一層好適には、低膨張充填材は容積比で 3〜 20(%) の範囲で添加される。
【0010】
また、好適には、(a-3) 前記低膨張充填材は、リチウムまたはマグネシウムを含む無機質材料である。このようにすれば、リチウムまたはマグネシウムを含む無機質材料は、充填材として用い得る材料の中でも極めて低い熱膨張係数を有することから、結合剤組織の熱膨張係数を一層低くすることができる。しかも、多量に添加しなくとも大きな効果を得られることから、研削助剤や骨材として機能する無機質充填材の量を一層多く保てるため、レジノイド砥石の研削性能が一層高められる。
【0011】
また、好適には、(a-4) 前記低膨張充填材は、β−ユークリプタイト、スポジューメン、ペタライト、およびコージライトのうち一乃至複数種類で構成されるものである。このようにすれば、上記の各材料は-6×10-6〜 2×10-6(/℃) 程度の低い熱膨張係数を有することから、結合剤組織の熱膨張係数を一層低くすることができる。
【0013】
また、好適には、前記のレジノイド研削砥石は、製鋼における鋼片の表面疵取りや皮むき等に用いられる重研削砥石である。このようにすれば、製鋼に用いられる重研削砥石は他の分野に比較して高周速、高負荷、および高温下で用いられることから、結合剤組織の熱膨張を抑制することによる砥粒の脱落抑制効果が一層顕著に得られる。
【0014】
また、好適には、前記の低膨張充填材は、融点が900(℃) 以上である。このようにすれば、熱間の重研削のような研削砥石の温度上昇が著しい研削加工においても低膨張充填材が熔融させられないことから、高温下でも結合剤組織の膨張が十分に抑制されて、砥粒の脱落が抑制される。
【0015】
また、好適には、前記の低膨張充填材の平均粒径は、砥粒の平均粒径の1/10000 〜1 程度の大きさである。このようにすれば、低膨張充填材の平均粒径が砥粒の平均粒径に比較して十分に小さいことから、低膨張充填材の添加による研削抵抗の上昇が抑制される。なお、平均粒径が砥粒の平均粒径の1/10000 よりも小さくなると充填材の嵩容積が大きくなるため、ホット・プレス等によって砥石材料粉末や坏土等から砥石を加圧成形するに際して、圧力抵抗が大きくなって設計厚みが容易にでなかったり、金型のクリアランス(隙間)から砥石材料粉末等が噴き出すことによって装填重量が減る等の不具合が生じる。
【0016】
また、好適には、前記の低膨張充填材は、修正モース硬度で11以下の硬度を有するものである。このようにすれば、低膨張充填材の硬度が砥粒に比べて十分に低いことから、低膨張充填材を添加することによる研削抵抗の上昇が抑制される。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において各部の寸法比等は必ずしも正確に描かれていない。
【0018】
図1は、本発明の一実施例のレジノイド研削砥石10を示す斜視図である。図において、レジノイド研削砥石10は、後述する図4に示されるビレット・グラインダ等に用いられる重研削用研削砥石であり、例えば、外径 610(mm)×厚さ75(mm)×内径203.2(mm) 程度の寸法を備えて、その回転軸32に取り付けるために機械的強度が高められた内周側の補強部10aと、研削に寄与する円筒状の研削面16を外周に備えた外周側の砥石部10bとから構成されている。後者の砥石部10bは、例えば砥粒12が結合剤組織14で結合されることにより、砥粒率 50(%) 程度(JIS R 6212に規定する組織6に相当)の緻密な組織に構成されており、気孔率は略零である。一方、前者の補強部10aは、砥石部10bよりも機械的強度を高める目的で、調合組成がそれとは異なるものとされている。
【0019】
図2は、レジノイド研削砥石10の研削面16近傍の断面を拡大して概念的に示す図である。上記の砥粒12は、例えば粒度が#20程度[すなわち平均粒径で 1000(μm)程度]で円柱状を成したシリンダ・タイプと称されるアルミナ(Al2O3 )系の砥粒であり、結合剤組織14中に略一様に分散させられると共に、一部は研削面16に露出している。この砥粒12の熱膨張係数は例えばα= 7×10-6(/℃) 程度である。一方、結合剤組織14は、例えば熱膨張係数が50×10-6(/℃) 程度と砥粒12のそれよりも遙かに大きいフェノール樹脂等の熱硬化性合成樹脂から成る合成樹脂結合剤18と、その合成樹脂結合剤18中に略一様に分散させられた無機質充填材20とから構成される。結合剤組織14中の合成樹脂結合剤18および無機質充填材20の容積比は、例えば 1:1 程度である。
【0020】
上記の無機質充填材20は複数種類の無機質材料粒子が混合されたものであって、例えば、研削助剤として機能する硫化鉄、骨材として機能する硫酸カリウム、クリオライト等(以下、研削助剤および骨材をまとめて一般充填材20aという)、および、β−ユークリプタイトから成る低膨張充填材20bから構成される。上記の一般充填材20aは、重研削用のレジノイド研削砥石の充填材(フィラー)として従来から用いられているものであり、例えば 0.5〜 50(μm)程度の平均粒径を備え、熱膨張係数はα=10×10-6〜 100×10-6(/℃) 程度である。一方、β−ユークリプタイトから成る低膨張充填材20bは、例えば2 〜8(μm)程度の平均粒径を備えたものであり、熱膨張係数はα=-6×10-6(/℃) 程度である。すなわち、結合剤組織14を構成する無機質充填材20は、熱膨張係数が砥粒12のそれよりも大きい一般充填材20aと、熱膨張係数が砥粒12のそれよりも小さい低膨張充填材20bとから構成されており、それらの容積比は例えば85:15程度である。
【0021】
なお、合成樹脂結合剤18と無機質充填材20との容積比、および砥粒12と結合剤組織14との容積比は、何れも同様な用途の従来のレジノイド研削砥石と同等であり、レジノイド研削砥石10は、従来の砥石において無機質充填材20を構成していた一般充填材20aの一部が低膨張充填材20bに置き換えられたものとなっている。そのため、合成樹脂結合剤18と無機質充填材20から成る結合剤組織14の熱膨張係数は、上記の低膨張充填材20bが含まれることによって、従来のものに比較して大幅に低下させられることとなる。したがって、低膨張充填材20bが結合剤組織14の熱膨張を抑制する膨張抑制剤として機能することから、研削砥石10は、研削加工中に温度上昇させられても、結合剤組織14の熱膨張に起因する砥粒12の脱落が生じ難くなっている。
【0022】
以上のように構成されるレジノイド研削砥石10は、例えば、図3に示される工程に従って製造される。先ず、予備混合工程S1において、例えばフェノール樹脂等の合成樹脂結合剤粉末と前記の無機質充填材20とを混合して所謂『ボンド粉』を作製する。このとき、一般充填材20aに加えて低膨張充填材20bが同時に混合される。次いで、攪拌混合工程S2において、砥粒12および液状フェノール樹脂等の液状の合成樹脂結合剤とこのボンド粉とを攪拌混合して所謂『坏土』を作製する。このとき、結合剤組織14中にガラス・ファイバ等の補強材が含まれる場合には、砥粒12等と同時に混合される。また、これら粉体混合工程S1および攪拌混合工程S2においては、各構成材料の調合比は、前述したような砥粒率や容積比等が得られるように定められる。そして、成形工程S3において、このように調整した坏土を、例えば所定の成形型内の外周部に供給し、内周部に別途調製した補強部10a用の坏土を供給して、熱間加圧成形(ホット・プレス)し、更に、熟成工程S4において結合剤組織14の種類毎に定められる温度でアフタ・キュアすることにより、前記図1に示されるレジノイド研削砥石10が得られる。
【0023】
図4は、ビレット・グラインダにおける上記のレジノイド研削砥石10の使用状態の一例を示す図である。図において、ビレット・グラインダは、図示しない製鋼の圧延工程や切削工程等に先立って、例えば角柱状の鋼片(ビレット)28の疵取りを行うためのものである。ビレット・グラインダにはビレット28が載せられた状態で紙面に垂直な水平方向すなわちビレット28の長手方向に往復移動させられる鋼片台30が備えられている。鋼片台30の上方には、レジノイド研削砥石10が回転軸32に嵌め込まれて回転可能に設けられており、その回転軸32は図に一点鎖線で示されるベルト34、36を介してモータ38によって回転させられるようになっている。また、モータ38やレジノイド研削砥石10等は、シリンダ装置40のピストン42の抜き差しに従って図の左右方向に移動させられる水平移動台44上に設けられており、その水平移動台44上には、更に一対のシリンダ装置46、46からのピストン48の突き出し量の差異によって回動軸50回りに回動させられるアーム52が設けられ、上記回転軸32は、そのアーム52に軸支されている。これらシリンダ装置40、46は、左方に配置される操作者がレバー54を操作することにより駆動される。そのため、レジノイド研削砥石10は、シリンダ装置40によって図に矢印Bで示される左右方向に移動させられると共に、シリンダ装置46、46によって図に矢印Cで示される上下方向に移動させられる。これにより、レジノイド研削砥石10とビレット28とがその長手方向およびそれと垂直な断面内における任意の位置に相対移動させられて、ビレット28の全面或いは図5に示されるようにその複数箇所に生じた多数の疵56が研削除去される。
【0024】
上記のような重研削に用いられる図4、5のビレット・グラインダにおいて、膨張抑制剤を含む本実施例のレジノイド研削砥石10によるビレット28を加工した結果を、研削砥石10の構成や加工条件と併せて比較例と共に下記の表1に示す。なお、下記の試験結果において、「砥石磨耗量」は研削砥石10の加工による重量減少量を、「被削材研削量」はビレット28の加工による重量減少量を、および「研削比」は「研削量/砥石摩耗量」を、それぞれ比較例を100 として表した相対値であり、研削比の数値が大きいほど高い研削性能を有することとなる。また、研削方式は何れも定電流研削であり、研削時間は何れも20分間である。
【0025】
【0026】
上記試験結果から明らかなように、本実施例のレジノイド研削砥石10によれば、無機質充填材20が一般充填材20aだけから構成される従来のレジノイド研削砥石に比較して 41(%) 程度も高い研削比が得られる。すなわち、レジノイド研削砥石10によれば、上述したビレット28の疵取り加工のような高負荷で温度上昇し易い重研削においても、加工中における砥粒12の脱落が少なく、少ない砥石摩耗量で多くの研削除去量が得られる。
【0027】
要するに、本実施例においては、レジノイド研削砥石10は、結合剤組織14に含まれる無機質充填材20の一部が砥粒12の熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数の低膨張充填材20bで構成される。そのため、レジノイド研削砥石10を構成する結合剤組織14は、砥粒12の熱膨張係数よりも熱膨張係数の小さい低膨張充填材20bが含まれることによってその熱膨張係数が低下させられることから、研削加工中に温度上昇した場合にもその熱膨張が抑制される。したがって、熱膨張係数が小さい砥粒12とそれに比べて熱膨張係数が大きい合成樹脂結合剤18を構成成分とする結合剤組織14との界面の熱膨張係数の差に起因する緩みが抑制されるため、砥粒12の脱落が好適に抑制されて研削性能が高められる。
【0028】
因みに、砥粒12は、物理化学的な結合とメカニカルな結合との複合的な作用で結合剤組織14に保持されている。そのため、結合剤組織14が温度上昇によって膨張させられると、相互の熱膨張係数の差に起因して、物理化学的な結合力が作用している砥粒12と樹脂結合剤18との界面が剥離し、その結果メカニカルな結合力が弱まることから緩みが生じ得る。これに対して、結合剤組織14の構成材料である無機質充填材20は、低膨張充填材20bも含めて合成樹脂結合剤18との接着性が砥粒12に比べて高いため、その界面が容易に剥離しない。そのため、合成樹脂結合剤18の熱膨張は無機質充填材20によって抑制されることとなる。このとき、低膨張充填材20bの熱膨張係数は砥粒12のそれよりも小さいことから、合成樹脂結合剤18の熱膨張が低膨張充填材20bによって抑制されることとなって、結合剤組織14と砥粒12との熱膨張量の差が小さくなり、その界面での剥離延いては砥粒12の脱落が抑制されるのである。
【0029】
しかも、本実施例においては、レジノイド研削砥石10が前述のようにホット・プレス成形で製造されることから、砥粒12の保持力が一層高められて研削性能が一層高められる。この作用は以下のように推定される。すなわち、レジノイド研削砥石10を構成する砥粒12、合成樹脂結合剤18、および無機質充填材20は、加熱により膨張させられた状態で加圧力によって緻密に結合させられ、その後の冷却過程においてそれぞれ収縮することとなる。そのため、膨張させられた状態で結合させられた砥粒12、合成樹脂結合剤18、および無機質充填材20は、熱膨張係数が大きいものほど収縮量が大きいことから、無機質充填材20のうち砥粒12よりも熱膨張係数が小さい低膨張充填材20bは、その砥粒12よりも熱膨張係数が大きい合成樹脂結合剤18によって圧縮される。したがって、圧縮された低膨張充填材20bから作用する反力によって合成樹脂結合剤18による砥粒12の保持力が高められると共に、研削加工中に温度上昇させられた際にも、熱膨張係数が相対的に小さい低膨張充填材20bによって合成樹脂結合剤18の膨張延いては結合剤組織14の膨張が抑制されるため、上記の圧縮力および反力によって砥粒12の保持力が一層高められると考えられる。
【0030】
また、本実施例においては、低膨張充填材20bが無機質充填材20の全量に対して 15(%) 程度の容積比で含まれることから、無機質充填材20のうちの研削助剤或いは骨材等として機能させられるものの割合が十分に大きく保たれている。そのため、熱膨張係数は小さいが研削助剤或いは骨材としての機能は殆どない低膨張充填材20bの量が、十分な熱膨張抑制効果が得られる範囲で少なくされていることから、砥粒12の脱落を抑制することによる研削性能の向上効果が好適に得られる。
【0031】
また、本実施例においては、低膨張充填材20bとしてリチウムを含むβ−ユークリプタイトが用いられている。そのため、β−ユークリプタイトは、-6×10-6(/℃) 程度の極めて低い熱膨張係数を有することから、結合剤組織14の熱膨張係数を一層低くすることができる。しかも、熱膨張係数が極めて低いことから多量に添加しなくとも前述のように容積比で僅か 15(%) 程度の置換量で十分な熱膨張抑制効果が得られるため、研削助剤や骨材として機能する無機質充填材20の量を一層多く保ち得てレジノイド砥石10の研削性能が一層高められる。なお、β−ユークリプタイトの融点は 1400(℃) 程度であることから、たとえ研削点が900(℃) 程度まで温度上昇させられても熔融させられず、膨張抑制効果は失われない。
【0032】
また、本実施例においては、レジノイド研削砥石10は、製鋼におけるビレット28の表面疵取り等に用いられる重研削砥石である。そのため、製鋼に用いられる重研削砥石10は他の分野に比較して高周速、高負荷、および高温下で用いられることから、結合剤組織14の熱膨張を抑制することによる砥粒12の脱落抑制効果が一層顕著に得られる。
【0033】
また、本実施例においては、低膨張充填材20bであるβ−ユークリプタイトの平均粒径は2 〜8(μm)程度であって、砥粒12の平均粒径 1000(μm)の5/1000程度の大きさである。そのため、低膨張充填材20bの平均粒径が砥粒12の平均粒径に比較して十分に小さいことから、低膨張充填材20bの添加による研削抵抗の上昇は殆ど生じない。しかも、β−ユークリプタイトの硬度は修正モース硬度で概略7 〜9 程度と低いため、その添加による研削抵抗の上昇が一層抑制される。
【0034】
次に、本発明の他の実施例を説明する。下記の表2、3は、砥粒12の種類や無機質充填材20中の低膨張充填材20bの置換比率等を異なるものとした研削砥石による加工試験結果を加工条件と併せて示したものである。表2に示す砥石においては、砥粒12として粒度#30程度、すなわち平均粒径で600(μm)程度の大きさのシリンダ状アルミナ砥粒を用い、砥粒率 46(%) 程度(JIS R 6212に規定する組織8に相当)の組織に構成している。また、樹脂結合剤18と無機質充填材20との容積比は研削砥石10と同様であるが、無機質充填材20中の低膨張充填材20bの置換比率は4(%) 程度である。下記の表2から明らかなように、SUS304から成るビレット28の疵取り加工においても、低膨張充填材20bを添加することによって研削比が向上する。但し、本実施例においては、低膨張充填材20bの置換比率が低いことから、研削比の向上は 25(%) 程度に留まっている。
【0035】
【0036】
また、上記の表3に示される研削砥石は、砥粒が粒度#12程度[平均粒径で 1700(μm)程度]の不定形のアルミナ−ジルコニア砥粒で構成される他は、研削砥石10と同様に構成されている。表3から明らかなように、アルミナ−ジルコニア砥粒が用いられた研削砥石でS45Cから成るビレット28の疵取り加工をする場合にも、低膨張充填材20bを添加することによって研削比が向上する。
なお、本実施例においては砥粒12の種類は相違するが、低膨張充填材20bの置換比率は容積比で 15(%) 程度と十分に大きいため、研削比の向上は 37(%) 程度であって実施例1と同程度の効果が得られた。
【0037】
以上、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施される。
【0038】
例えば、実施例においては、本発明がビレット・グラインダ用のレジノイド研削砥石10に適用された場合について説明したが、砥粒12の脱落性が問題となる条件下で用いられるレジノイド研削砥石であれば、スナッギング砥石、平面研削砥石や、カップ型砥石、円筒研削砥石、心なし研削砥石、内面研削砥石等の種々のレジノイド研削砥石にも本発明は同様に適用される。
【0039】
また、実施例においては、粒度#20或いは#30程度の円柱状のアルミナ系砥粒12が用いられたレジノイド研削砥石10や、#12程度のアルミナ−ジルコニア砥粒が用いられた研削砥石について説明したが、炭化珪素(SiC )砥粒等の他の一般砥粒、立方晶窒化ホウ素(CBN)砥粒やダイヤモンド砥粒等の超砥粒、或いはこれらの混合物が用いられるレジノイド研削砥石にも本発明は同様に適用され、砥粒12の粒度や形状等は適宜変更される。
【0040】
また、実施例においては、砥石部10bの内周側に補強部10aを備えたレジノイド研削砥石10に本発明が適用された場合について説明したが、本発明は、補強部10aを備えず全体が砥石部10bから成る一様な組織を備えた砥石や、補強部10aが樹脂やステンレス鋼等から成るコアによって構成されたレジノイド砥石、或いは、コアの周囲にセグメント砥石が貼り着けられたセグメント形砥石等にも同様に適用される。
【0041】
また、実施例においては、合成樹脂結合剤18としてフェノール樹脂が用いられていたが、エポキシ樹脂等の他の合成樹脂が結合剤として用いられた他のレジノイド研削砥石にも本発明は同様に適用される。
【0042】
また、実施例においては、粉末状の合成樹脂結合剤を用いてホット・プレス成形によってレジノイド研削砥石10を製造したが、流し込み成形によって製造されるレジノイド研削砥石にも本発明は同様に適用される。
【0043】
また、実施例においては、低膨張充填材20bとして平均粒径2 〜8(μm)程度、熱膨張係数-6×10-6(/℃) 程度のβ−ユークリプタイトが用いられていたが、低膨張充填材20bとしては、砥粒12よりも熱膨張係数が小さいものであれば種々の材料が用いられ得る。例えば、熱膨張係数が 0.5×10-6(/℃) 程度以下のスポジューメンやペタライト、熱膨張係数が 2×10-6(/℃) 程度のコージライト等を低膨張充填材20bとして用いても、実施例と同様な効果を得ることができる。なお、低膨張充填材20bの平均粒径は砥粒の平均粒径よりも十分に小さい範囲で適宜定められ、100(μm)程度以下であれば少ない添加量で十分な熱膨張抑制効果が得られる。
【0044】
また、レジノイド研削砥石10の砥粒率、気孔率、或いは結合剤組織14中の無機質充填材20の割合等は、研削加工用途に応じて適宜変更される。例えば、有気孔のレジノイド研削砥石にも本発明は適用され得る。
【0045】
その他、一々例示はしないが、本発明はその主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例のレジノイド研削砥石の全体を示す斜視図である。
【図2】図1の研削砥石の研削面近傍の断面を拡大して示す図である。
【図3】図1の研削砥石の製造工程を説明する工程図である。
【図4】図1のレジノイド研削砥石が適用されるビレット・グラインダの全体構成を模式的に示す図である。
【図5】ビレットの疵取り研削加工を説明する図である。
【符号の説明】
10:レジノイド研削砥石
12:砥粒
14:結合剤組織
16:研削面
18:合成樹脂結合剤
20:無機質充填材(20a:一般充填材、20b:低膨張充填材)
Claims (4)
- 砥粒よりも熱膨張係数が大きい熱硬化性樹脂結合剤中に粒子状の無機質充填材が分散させられた結合剤組織によって該砥粒が結合されて成り、製鋼における圧延に先立って熱間の鋼片の表面疵を除去するための重研削用レジノイド研削砥石において、
前記粒子状の無機質充填材の少なくとも一部は前記砥粒の熱膨張係数よりも小さい熱膨張係数を有し前記結合剤組織の熱膨張を抑制して前記砥粒の脱落を抑制する機能を有する粒子状の低膨張充填材で構成され、
前記砥粒と前記結合剤組織との混合物がホット・プレス成形されることにより製造されたことを特徴とする重研削用レジノイド研削砥石。 - 前記低膨張充填材を前記無機質充填材の全量に対して 30(%) 以下の容積比で含むものである請求項1の重研削用レジノイド研削砥石。
- 前記低膨張充填材は、リチウム(Li)またはマグネシウム(Mg)を含む無機質材料である請求項1の重研削用レジノイド研削砥石。
- 前記低膨張充填材は、β−ユークリプタイト(Li2O・Al2O3 ・2SiO2 )、スポジューメン(Li2O・Al2O3 ・4SiO2 )、ペタライト(Li2O・Al2O3 ・8SiO2 )、およびコージライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2 )のうち一乃至複数種類で構成されるものである請求項1の重研削用レジノイド研削砥石。
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