これら図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。ここでは、本発明に係る液滴吐出ヘッドをインクジェットプリンタに搭載されるインクジェットヘッドに適用した場合を例示し、該ヘッドよりインクが吐出する方向を下方として説明する。
図1乃至図3に示すインクジェットヘッド1は、流路ユニット2の上側から圧電アクチュエータ3を重ねて接合して構成される。両部品2,3は平面視略矩形状であり、便宜的にその長辺方向を「縦方向」、短辺方向を「横方向」とする。
図3には一部のみ示すが、流路ユニット2の下面にはノズル4が開口し、上面にはノズル4に連通する圧力室孔5が開口している。図1を参照すると、圧力室孔5は、横方向に長い略矩形状で、多数の圧力室孔5が流路ユニット2の上面に高密に配列されている。これら圧力室孔5は縦方向に略一定ピッチで並設されて複数の列をなし、横方向には千鳥状に配置されている。なお、各圧力室孔5は対応する1つのノズル4と連通し、流路ユニット2の下面には多数のノズル4が圧力室孔5と略同パターンで配列される。図3に戻り、これら圧力室孔5が圧電アクチュエータ3の下面で閉鎖されることによりインクジェットヘッド1に多数の圧力室6が形成される。流路ユニット2には、外部のインク供給源からのインクをその種類毎に貯留する共通インク室7が形成され、各圧力室6はこの共通インク室7の何れか1つと連通している。図1にはインクを流路ユニット2に導入するインク供給口47を示しており、流路ユニット2内には、該インク供給口47から共通インク室7及び各圧力室6を介して各ノズル4にインクを供給するためのインク流路が形成されている。
図2及び図3に示すように、圧電アクチュエータ3は、振動板であるボトム層8上に2つの圧電層9,10を積層してなる。ここでは、これら圧電層のうち下側を「中間層9」、上側を「トップ層10」と呼ぶ。ボトム層8は、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との混晶であるチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする圧電材料からなり、複数の圧力室6を覆うように、流路ユニット2の上面に配置されている。また、ボトム層8の厚みは20μm程度となっている。なお、ボトム層8の材料は、圧電材料には限られない。圧電層9,10は、ボトム層8と同様の圧電材料からなり、互いに積層されてボトム層8の上面に配置されている。この厚みも各20μm程度となっている。トップ層10の上部側には各圧力室6に対応し、各圧力室6の面積のほぼ全域と対向するように配置された略矩形状の個別電極11が設けられている。中間層9とトップ層10との間には各圧力室6に対応する上部定電位電極12が設けられ、ボトム層8と中間層9との間には多数の圧力室6に共通する下部定電位電極13が設けられている。
図2に示すように、個別電極11及び上部定電位電極12は互いの縦方向中心が略一致し、個別電極11の縦方向寸法は上部定電位電極12のそれよりも長い。そのため、個別電極11の縦方向中央部は上部定電位電極12と平面視で重なり、縦方向両端部は下部定電位電極13と平面視で重なっている。個別電極11の縦方向中央部と上部定電位電極12とで挟まれた部分は、これら電極11,12間で分極された第1活性部14をなす。また、個別電極11の縦方向各端部と下部定電位電極12とで挟まれた部分は、これら電極11,13間で分極された第2活性部15をなす。つまり、第1活性部14は圧力室6の中央部に対応して配置され、第2活性部15はこの第1活性部14の外側であって圧力室6の中央部の外側の部分に対応して配置される。
図1,図3に示すように、各個別電極11は、横方向に関してノズル4と反対側の端縁から、圧力室6と対向しない領域にまで横方向に突出するよう延びる部分を有し、この部分に端子部17が一体的に設けられている。上下の定電位電極12,13(図2及び図3参照)はそれぞれ、図示しない領域を上下に貫通するスルーホールを介し、トップ層10の上面に設けられた端子部18,19と電気的に導通している。このトップ層10の上面側には配線板20が重ねて設けられる。配線板20の下面側には、端子部17〜19と対応する接続端子が設けられており、配線板20は、これら接続端子が金属などの導電性材料からなる図示しないバンプ等を介して対応する端子部17〜19のそれぞれと電気的に導通するようにして、圧電アクチュエータ3に接合される。
図2及び図3を参照し、各個別電極11に付与される電位は、配線板20に実装されたドライバ23によって高電位とグランド電位との間で切り替えられるようになっている。対応する圧力室6の容積を変動させる駆動時には、個別電極11には例えば20V程度の高電位(以下「第1電位」と呼ぶ)が選択的に付与され、その後グランド電位(以下「第2電位」と呼ぶ)が付与される。一方、インクの吐出を要しない待機時には第2電位が付与される。また、配線板20を通じて上部定電位電極12には第1電位が常時付与され、下部定電位電極13には第2電位が常時付与される。このため、第1活性部14は、待機時に印加される電圧の方向と同方向に分極されて活性化され、第2活性部15は、駆動時に印加される電圧の方向と同方向に分極されて活性化されている。これら活性部を形成する一対の電極間に電位差が生じると、これら電極に挟まれた圧電層に電圧が印加されることとなり、積層方向の電界が生じる。圧電層の分極方向と電界方向とが同じ場合には逆圧電効果が生じ、圧電層9,10はその分極方向である積層方向に伸長し、該積層方向に直交する方向である水平方向に収縮する。
従って、待機時には、逆圧電効果の発揮に有効となる電圧が印加されていない第2活性部15は変形せず、有効となる電圧が印加されている第1活性部14は積層方向に伸張して水平方向に収縮する。このとき、中間層9はボトム層8に接合されているので、トップ層10と中間層9との間で水平方向への歪みに差が生じる。これによりボトム層8及び圧電層9,10は、圧力室6に向かう積層方向に突出変形する。駆動時は、逆圧電効果の発揮に有効となる電圧が印加されていない第1活性部14は変形から回復する。他方、有効となる電圧が印加された第2活性部15は積層方向に伸長して水平方向に収縮しようとするので、第2活性部15が圧力室6から離れる方向に反るように変形する。これら活性部14,15の変形の複合により圧力室6の容積が増大し、共通インク室7から圧力室6へとインクが供給されることとなる。そして、個別電極11の電位を下部定電位電極13と同電位にすると、上記同様ボトム層8及び圧電層9,10が圧力室6に向かうようにして積層方向に突出変形して圧力室6の容積が瞬時に減少する。これにより、この圧力室6内のインクがノズル4より下方に吐出される。
このように本インクジェットヘッド1においては、第1活性部14に対する電圧の印加と非印加との切替によって第1活性部14が変形する。これと同時に、第2活性部15に対する電圧の印加と非印加との切替が行われるが、この切替によって第2活性部15は、第1活性部14の変形が隣接する圧力室6に伝播するのを抑制するようにして変形する。このため、多数の圧力室6を高密化しても良好にクロストークを抑制することができる。
なお、本発明に係る液滴吐出ヘッド1の圧電アクチュエータ3の構成は上記のものに限られない。圧電アクチュエータが、各圧力室に対し2種の定電位電極と、1種の個別電極とを有し、これら3種の電極によって圧力室の中央部に対応する第1活性部と、この中央部よりも外側の部分に対応する第2活性部とが形成されていれば、どのように構成されていてもよい。なお、第2活性部15は圧力室6の外周縁よりも内側の領域を含んでいてもよい。これにより、第1活性部14だけでなく第2活性部15も圧力室6の容積変化に貢献することとなり、第1活性部14だけによる場合と比べ、圧力室6の容積変動量が大きくなる。
この圧電アクチュエータ3の製造時には、まずボトム層8、中間層9、トップ層10および各電極11〜13を前述した位置関係になるように互いに積層する。次に、この圧電アクチュエータ3の第1及び第2活性部14,15を分極するための分極工程を行うことにより、前述したようにインクを吐出するよう動作可能な圧電アクチュエータ3が作成される。この分極工程の詳細については後述する。
次に、図4乃至図6に基づいて圧電アクチュエータ3に電圧を印加するための配線構造について説明する。図4に示すように本配線構造は前述した配線板20を備えている。配線板20には、圧電アクチュエータ3に上側から重ねられて圧電アクチュエータ3の上部側に接合される矩形状のCOF部21と、このCOF部21の一端縁に接合された帯状の第1FPC部22と、COF部21の他端縁に接合された帯状の第2FPC部72とが含まれている。
COF部21を圧電アクチュエータ3に接合した状態において、第1FPC部22は圧電アクチュエータ3から外側へと一方向に引き出されるように設けられる。第2FPC部72は圧電アクチュエータ3から外側へと第1FPC部22とは反対の方向に引き出されるように設けられる。
COF部21及び各FPC部22,72は何れも公知のフレキシブル配線板である。各FPC部22,72は例えばハンダ付けによってCOF部21の端縁に接合され、この接合によって両部21,22,72に設けられている配線が電気的に導通し合う。なお、各FPC部22,72には、COF部21との接合部分とは反対側の端縁において、各配線のコンタクトが設けられている。これらコンタクトはインクジェットプリンタの所定箇所に配設された基板91上に実装されているレセプタクルコネクタ92,93に接続され得る。
配線板20のCOF部21には、各個別電極11に印加する電圧を選択的に出力する2つのドライバ23,73が実装されている。図中左側に配置された第1ドライバ23は第1FPC部22に設けられた配線に対応して設けられたものであり、図中右側に配置された第2ドライバ73は第2FPC部72に設けられた配線に対応して設けられたものである。また、配線板20には、多数の個別配線24,74、電源線(VDD2)25,75、グランド線(VSS2)26,76、上部定電位配線(VCOM)27、下部定電位配線(COM)28、第1短絡線29、及び第2短絡線30が設けられている。なお、図示しないが配線板20の各FPC部22,72には、その他に、圧電アクチュエータ3の駆動態様を指定する波形信号線、ドライバ23,73から個別電極11へ出力される駆動信号をチャンネルごと指示する印字データ線、クロック信号等を出力するための複数の制御信号線、ドライバ23,73自体の電源電圧線(VDD1)(例えば3.3V)及び接地電圧線(VSS1)(例えば0V)等が設けられており、これら配線がドライバ23,73に接続されている。
各個別配線24,74は、各個別電極11に対応して設けられ、各個別電極11に第1及び第2の電位をインクの吐出タイミングに応じて付与するための配線である。各個別配線24,74は、対応するドライバ23,73から各個別電極11の端子部17に対応する配線板20上の接続端子に向けて延びている。
電源線(VDD2)25,75は、対応するドライバ23,73に電源供給するための配線であり、ドライバ23、73に接続されている。グランド線(VSS2)26,76は対応するドライバ23,73をグランド電位に接続するための配線であり、ドライバ23.73に接続されている。
上部定電位配線(VCOM)27は、上部定電位電極12に高電位である第1電位を常時付与するための配線であり、上部定電位電極12の端子部18に対応する配線板20上の接続端子に向けて延びている。下部定電位配線(COM)28は、下部定電位電極13にグランド電位である第2電位を常時付与するための配線であり、下部定電位電極13の端子部19に対応する配線板20上の接続端子に向けて延びている。
本実施形態では、上部定電位配線27及び下部定電位配線28が第1FPC部22のみに設けられており、第2FPC部72には設けられていない。第1短絡線29は、電源線25と上部定電位配線27とを接続する配線であり、第2短絡線30は、グランド線26と下部定電位配線28とを接続する配線である。これら第1及び第2短絡線29,30も第1FPC部22のみに設けられている。
図5は上記圧電アクチュエータ3及び配線構造の電気的構成を説明する電気回路を示している。但し、図5には第1ドライバ23に関連する構成のみを示している。図5に示すように、第1及び第2活性部14,15は、各電極11〜13を極板とする第1及び第2コンデンサ31,32とそれぞれ等価である。上部定電位配線(VCOM)27と下部定電位配線(COM)28とはこれらコンデンサ31,32を介して接続され、第1コンデンサ31が高電位側に位置する。コンデンサ31,32の充電時にはこれと等価の活性部14,15が変形し、コンデンサ31,32の放電時にはこれと等価の活性部14,15が変形状態から回復する。
ドライバ23は、第1コンデンサ31の充電/放電の状態と第2コンデンサ32の充電/放電の状態とが互いに逆の関係となるようにして、両コンデンサ31,32の状態を切り替える回路と等価であり、該回路は例えば電源線(VDD2)25とグランド線(VSS2)26との間に直列的に介在する2つのトランジスタ34,35より構成される。つまり、電源線25が第1トランジスタ34のコレクタに接続され、第1トランジスタ34のエミッタが第2トランジスタ35のコレクタに接続され、第2トランジスタ35のエミッタがグランド線26に接続される。そして個別配線24が、両トランジスタ34,35間を結ぶ配線と個別電極11との間を接続する。個別電極11は、第1活性部14と等価である第1コンデンサ31の低電位側極板として機能し、第2活性部15と等価である第2コンデンサ32の高電位側極板としても機能する。
前述したようにインクの吐出に際しては、個別電極11の電位をグランド電位である第2電位から高電位である第1電位へと立ち上げ、その後第1電位から第2電位へと立ち下げるという手順がとられる。また、待機時は個別電極11に第2電位が印加される。
個別電極11の電位の立ち上げは、第1トランジスタ34をONにして第2トランジスタ35をOFFにすることと等価である。このとき、電源線25が、第1トランジスタ34及び第2コンデンサ32を介して下部定電位配線28と接続され、第2コンデンサ32が充電される。個別電極11の電位の立ち下げは、第1トランジスタ34をOFFにして第2トランジスタ35をONにすることと等価である。このとき、上部定電位配線27が第1コンデンサ31及び第2トランジスタ35を介してグランド線26と接続され、第1コンデンサ31が充電される。また、立ち上げ時に充電された第2コンデンサ32が個別配線24、グランド線26、第2短絡線30及び下部定電位配線28により構成される閉回路上にあり、第2コンデンサ32に貯められた電荷が放電される。このときの各トランジスタ34,35のON/OFF設定は待機時にも維持される。そのため、個別電極11の電位の立ち上げ時を再び考慮すると、待機時に充電された第1コンデンサ31が上部定電位配線27、第1短絡線29及び個別配線24により構成される閉回路上にあり、第1コンデンサ31に貯められた電荷が放電される。
本配線構造には、個別配線24、電源線25、グランド線26、上部定電位配線27及び下部定電位配線28と共に2本の短絡線29,30が設けられているため、3種の電極11〜13に第1及び/又は第2電位を付与することができ、これら3種の電極11〜13によって構成される2種の活性部14,15を、クロストークが抑制されるようにして動作させることができる。
図4に戻り、本配線構造の構成についてより詳細に説明する。第1ドライバ23はCOF部21の上面側に実装され、第1FPC部22との接合部となる端縁に近接して配置されている。第1ドライバ23は平面視矩形状のICチップの形態をなし、その長手方向が端縁の延在方向と平行となるようにして配置されている。第1ドライバ23に対応する各個別配線24は、COF部21上にて、このように配置されるドライバ23から概ね反対側の端縁に向けて延在している。第2ドライバ73及びこれに対応する各個別配線74も同様の構成となっている。
第1FPC部22には、前述したように第1ドライバ23に対応する電源線25及びグランド線26と、上部定電位配線27及び下部定電位配線28の4つの配線が設けられている。第1FPC部22は略矩形帯状であり、これら4つの配線25〜28がそれぞれ第1FPC部22の延在方向と平行に延在している。なお、第1FPC部22は少なくとも、その表側面及び裏側面に銅などの配線が印刷形成されるポリイミドなどからなる基板部と、基板部の表側面及び裏側面をソルダレジストなどで被覆する保護部とを有している。上記4つの配線25〜28は基板部の表側面に印刷形成されて保護部で被覆されるが、図4(a)では便宜的に保護部の図示を省略している。
上記4つの配線25〜28からなる配線群が、第1FPC部22には2群設けられている。帯状の第1FPC部22はその延在方向に延びる一対の外縁を有することとなるが、一方の配線群は一対の外縁のうち一方に近接して設けられ、他方の配線群は一対の外縁のうち他方に近接して設けられている。配線群が配線板20の外縁に2群設けられているのは、たとえば、どちらか一方の外縁のみに配線群が設けられた場合、各配線25〜28が接続されるドライバ23および圧電アクチュエータ3の長手方向に対して、一方側からのみ電圧が供給されることとなり、ドライバ23および圧電アクチュエータ3の長手方向他方側に対して内部で電圧降下が発生して、吐出特性のばらつきを呈することがある。そのため、配線群は、ドライバ23および圧電アクチュエータ3の長手方向の両方側から電圧を供給することで、電圧降下が起こらないようにしている。また、各配線群の間には、図示しない複数の制御信号線や接地電圧線(VSS1)、電源電圧線(VDD1)がFPC部22の延在方向と平行に延在している。各配線群においては、下部定電位配線28、上部定電位配線27、グランド線26、電源線25が外縁側から中央側へとこの順で並んで設けられている。
4つの配線25〜28のうち電源線25及びグランド線26は第1ドライバ23に接続される必要がある。また、上部定電位配線27及び下部定電位配線28は圧電アクチュエータ3の端子部18,19との各接続端子まで延在させる必要があるが、これら接続端子は、COF部21上において、第1FPC部22側から見て第1ドライバ23よりも遠位側に配置されている。そこで、本配線構造においては、上部定電位配線27及び下部定電位配線28の組を外縁側に配置し、電源線25及びグランド線26の組を中央側に配置している。そのため、第1FPC部22及びCOF部21の延在方向の略全体に亘って設けられる上部定電位配線27及び下部定電位配線28を、第1ドライバ23の実装箇所の周辺部分において、第1ドライバ23の外縁側の領域を直線状に通過させることができる。また、電源線25及びグランド線26を、上部定電位配線27及び下部定電位配線28と交差するようなことなく第1ドライバ23に接続することができる。このようにして4つの配線25〜28を、これらが印刷形成される平面内において整然とコンパクトに配列することができる。
その上で、グランド電位を付与するための下部定電位配線28が高電位を付与するための上部定電位配線27よりも外縁側に配置されている。このため、外部からのノイズが発生する等しても電気的な不具合が生じにくくなる。また、グランド線26は電源線25よりも外縁側に配置されており、同様の作用効果を奏する。
なお、第1FPC部22の上面には、例えば抵抗器やコンデンサ等の複数の電子素子36が実装されており、これら電子素子36を介して4つの配線25〜28間が適宜接続されている。ここでは該電子素子36による電気的な作用について詳細に説明しないが、図4(a)に示すように、これら電子素子36は延在方向と直交する方向に略一直線状に並んで設けられている。即ち、これら電子素子36は第1FPC部22の延在方向に関して略同位置に設けられている。なお、第1FPC部22に電子素子36を実装すると、その電子素子36の実装箇所において第1FPC部22を自在に曲げにくくなってしまう。そこで複数の電子素子36を第1FPC部22の延在方向に関して同じ位置に配置したことにより、自在に曲げにくくなる箇所を極力減らし、第1FPC部22の取り回し易さや屈曲性が極力損なわれないようにしている。
第1短絡線29及び第2短絡線30はそれぞれ、上記4つの配線25〜28からなる2つの配線群の各々に設けられている。第1短絡線29は電源線25と上部定電位配線27とを接続するため、これら配線25,27間に介在するグランド線26と干渉しないよう配置され、第2短絡線30はグランド線26と下部定電位配線28とを接続するため、これら配線26,28間に介在する上部定電位配線27と干渉しないよう配置される必要がある。他方、4つの配線25〜28は前述したように第1FPC部22の基板部の表側面に整然とコンパクトに配置されている。
このため、第1及び第2短絡線29,30はそれぞれ、ジャンパ線37,38を基板部の裏側面に設けることによって実現される。具体的には、ジャンパ線37,38は基板部の裏側面に印刷形成されて保護部で被覆される所謂両面フレキシブルプリント基板であり、図4(b)では便宜的に保護部の図示を省略している。ジャンパ線37、38は、例えば、汎用のジャンパーケーブルで接続したり、ジャンパチップを設けて接続することで、両面フレキシブルプリント基板を用いなくとも、配線が表面のみにある片面フレキシブルプリント基板で行なうことが可能である。しかし、短絡させる配線が高密度に形成されていて、ジャンパーケーブルでの接続は、接続工程において作業困難で製造しにくく、また、ジャンパチップを設ける場合、ジャンパ線を流れる放電電流が大きいため、チップの定格電流を超えてしまうことがあり、チップが壊れやすい。このような構造でジャンパ線を設けることで、上記問題なくジャンパ構造をとることができる。また、基板部の表側面において第1及び第2短絡線29,30が、グランド線26又は上部定電位配線27を物理的に跨ぎ越すような架橋構造になるのを避けることができ、本配線構造が配線板20の厚さ方向に大型になるのを避けることができる。
第1FPC部22の基板部には、第1短絡線29を構成するジャンパ線37の一端部及び他端部の各々を貫通するスルーホール39,40が形成されている。一端部に設けられたスルーホール39は、基板部の表側面において、帯状の上部定電位配線27を部分的に切り欠くようにして形成された導電性を有する島状のランド部41内で開口している。このランド部41は、第1FPC部22の延在方向と直交する方向に、前述の電子素子36と一直線状に並ぶ位置に設けられている。他端部に設けられたスルーホール40は、基板部の表側面において、帯状の電源線26の幅方向中央部にて開口している。このスルーホール40は、ランド部41及び電子素子36から見て第1ドライバ23の近位側に配置されている。
各スルーホール39,40には導電材が充填され、これによりジャンパ線37とランド部41、及びジャンパ線37と電源線25とがそれぞれ電気的に導通される。そして、FPC部22の基板部の表側面において、ランド部41と上部定電位配線27とを跨ぐようにしてハンダ等の導電材(図示せず)が設置され、ランド部41が該導電材を介して上部定電位配線23と電気的に導通される。このようにして、上部定電位配線27は、導電材、ランド部41、スルーホール39、ジャンパ線37及びスルーホール40からなる第1短絡線29を介し、電源線25と導通される。
第2短絡線30はこれと同様構成であるため簡単に説明する。つまり、第1FPC部22の基板部には、第2短絡線30を構成するジャンパ線38の各端部を貫通するスルーホール43,44が形成されており、基板部の表側面では一方のスルーホール43が下部定電位配線28を部分的に切り欠くようにして形成されたランド部45内で開口し、他方のスルーホール44がグランド線27の幅方向中央部にて開口している。ランド部45は電子素子36と一直線状に並ぶよう配置され、他方のスルーホール44はランド部45及び電子素子36から見てドライバ23の近位側に配置されている。各スルーホール43,44には導電材が充填される。そして、ランド部45と下部定電位配線28とを跨ぐようにしてハンダ等の導電材(図示せず)が設置される。このようにして下部定電位配線28は、導電材、ランド部45、スルーホール43、ジャンパ線38及びスルーホール44からなる第2短絡線30を介し、グランド線27と導通される。
このように本配線構造では、第1及び第2短絡線29,30を基板部の表側面に導電材を設置することによって容易に構成することができる。また、第1及び第2短絡線29,30を構成するに際して基板部の表側面に導電材が設置されるが、その導電材の設置箇所が第1FPC部22の延在方向に関して電子素子36の実装箇所と略同位置となっている。つまり、第1及び第2短絡線29,30は、電子素子36と協働して、第1FPC部22を自在に曲げ難くなる箇所が極力減るよう構成されており、これにより第1FPC部22の取り回し易さや屈曲性が極力損なわれないようになっている。
このように第1及び第2短絡線29,30の一方の接点(即ちスルーホール39,43の位置と略同等)を、他の電子素子36の実装箇所との関係に基づいて配置した場合、他方の接点(即ちスルーホール40,44の位置と略同等)はこれら電子素子36との干渉を避けるためもあってFPC部22の延在方向に関して変位させる必要が生じる。本配線構造では、この他方の接点が、電子素子36の実装箇所でもある一方の接点の位置から見てドライバ23側に位置している。しかも、第1及び第2短絡線29,30自体が、FPC部22上において、COF部21との接合される端縁に近接して設けられている。
そのため、第1及び第2活性部14,15から第1及び第2短絡線29,30までの配線長をなるべく短くすることができ、ドライバ23に入力する電圧の電圧降下をなるべく小さくすることができ、ドライバ23の破壊を防止できる。また、これら活性部14,15における電圧変動をなるべく小さくすることができる。これにより、圧電アクチュエータ3を安定して動作させることができるようになる。但し、配線長を更に短くするため、これら第1及び第2短絡線29,30をCOF21部上に設けてもよい。また、ジャンパ線37,38の形状は図4(b)に例示するL字形状に限られない。上記のような構成を実現することができ、且つ互いに干渉しないように配置可能であれば、どのような形状であってもよい。
ここで、本実施形態の特徴を明確にするために示す別構成の配線構造について図6を参照して説明する。図6に示す配線構造の配線板920においては、そのCOF部921において第1及び第2ドライバ923,973が実装され、各ドライバに対応する配線を設けた2つのFPC部922,972がCOF部921に接合されており、各FPC部922,927の構成は互いに同じである。即ち、何れのFPC部922,972においても、対応するドライバ923,973に接続される電源線925,975及びグランド線926,927と、圧電アクチュエータ3に所定の電位を付与するための上部定電位配線927,977及び下部定電位配線928,978と、電源線925,975及び上部定電位配線927,977を短絡する第1短絡線929,979と、グランド線926,976及び下部定電位配線928,978を短絡する第2短絡線930,980とが設けられている。
何れのFPC部922,972においても、その基板部の裏面側に設けたジャンパ線を利用して第1及び第2短絡線929,930を構成している。このように、2つのFPC部922,972が単一のCOF部921から互いに反対方向に引き出してなる所謂両側引き出し方式の配線構造において、両方のFPC部922,972が表裏両面に配線を設けるように構成されていると、各FPC部922,972の製造コストが嵩み、構造全体のコストが大きくなってしまう。
そこで、図4に示す本実施形態の第2FPC部72は、前述したように第2ドライバ73に対応する電源線75及びグランド線76のみを備えており、圧電アクチュエータ3に電位を付与するための配線、及びこのような配線に接続されるべき短絡線は省略されている。
第2FPC部72も第1FPC部21と同様に略矩形帯状であるが、備える配線数が少なくなっているため、その幅方向寸法が第1FPC部21よりも小さくなっている。従って、この配線構造をインクジェットヘッド1と共にインクジェットプリンタに搭載する場合に、配線構造がインクジェットプリンタの他の部材と干渉するおそれを小さくすることができる。
電源線75及びグランド線76の2つの配線はそれぞれ第2FPC部72の延在方向と平行に延在している。なお、第2FPC部72は少なくとも、その表側面に配線が印刷形成される基板部と、基板部の表側面及び裏側面を保護する保護部とを有している、所謂片面フレキシブルプリント配線板である。これら2つの配線75,76は、基板部の表側面に印刷されて保護部で被覆されるが、図4(a)では便宜的に保護部の図示を省略している。
これら2つの配線75,76からなる配線群が、第2FPC部72には2群設けられている。2群設けられているのは、第1FPC部22と同様にして、第2ドライバ73に対して電圧降下を起こさないようにするためである。帯状の第2FPC部72はその延在方向に延びる一対の外縁を有することとなるが、一方の配線群は一対の外縁のうち一方に近接して設けられ、他方の配線群は一対の外縁のうち他方に近接して設けられている。各配線群において、グランド線76及び電源線75が外縁側からこの順で並んで設けられている。このようにグランド線25が電源線26よりも外縁側に配置されるため、外部からのノイズが発生する等しても電気的な不具合が生じにくくなる。
このように本配線構造においては、両側引き出し方式の配線構造において、片側のFPC部(即ち第1FPC部22)のみ圧電アクチュエータ3側と接続される配線26,27を設けられており、このFPC部22にのみ、これら配線27,28とドライバ23側と接続される配線25,26とを短絡するための短絡線を設けている。他方のFPC部(即ち第2FPC部72)には、このような配線を設けていないため、その基板部の裏面側に配線を印刷形成されていなくてもよくなる。従って、このFPC部の製造コストを下げることができるようになり、配線構造全体のコストの低下に資する。
図5の電気回路を参照すると、第2ドライバ73を用いて圧電アクチュエータ3をクロストークが抑制されるようにして動作させるためには、第2ドライバ73に対応する電源線75は上部定電位配線27と接続される必要があり、グランド線76は下部定電位配線28と接続される必要がある。そこで、本実施形態では、第1及び第2FPC部22,72の各端縁がそれぞれ、同じ基板91に実装されたレセプタクルコネクタ72,73に接続されるようにしている。このため、当該基板上91において上部定電位配線21と導通される配線と、第2ドライバ73に対応する電源線75と導通される配線とを短絡すると共に、下部定電位配線22と導通される配線と、第2ドライバ73に対応するグランド線と導通される配線とを短絡すればよい。これにより、第2ドライバ73を用いて前述した圧電アクチュエータ3の動作を実行することができるようになる。
但し、第2ドライバ73に対応する短絡線から圧電アクチュエータ3の活性部14,15までの配線長は、第1ドライバ23に対応する短絡線29,30から活性部14,15までの配線長よりも長くなる。このように配線長が相違していると、活性部14,15における電圧降下の程度も相違するため、第2ドライバ73に接続された個別配線74を介して個別電極11に電位を付与したときのインクの吐出特性が、第1ドライバ23に接続された個別配線24を介して個別電極11に電位を付与したときのインクの吐出特性と相違する可能性がある。特に、配線長が小さいほどこの電圧降下が小さくなるため、第2ドライバ73の破壊を防止し、圧電アクチュエータ3の安定動作のためには、なるべく活性部から短絡線までの配線長が短いことが好ましい。
そのため、本配線構造においては、第1ドライバ23に接続されている個別配線24の本数が、第2ドライバ73に接続されている個別配線74の本数よりも少ない。即ち、圧電アクチュエータ3に設けられた全ての活性部14,15に対する第1ドライバ23により駆動される活性部14,15の割合が半分を超えている。このように、短絡線までの配線長が小さい第1ドライバ23によって駆動される活性部14,15の割合を高めることにより、圧電アクチュエータ3の動作をなるべく安定させることができる。
ここで、図1を参照すると、本配線構造が適用されるインクジェットヘッド1の流路ユニット2の上面には、4個のインク導入口47が開口している。各インク導入口47は、外部のインク供給源から互いに種類の異なるインクを導入するよう構成されると共に、互いに独立した共通インク室7(図3参照)に連通している。そのため、本インクジェットヘッド1は互いに色の異なる複数種類のインクを選択的に吐出可能になっている。つまり、圧電アクチュエータ3の上面には、4種類のインクの各々に対応して複数の個別電極11が設けられており、第1及び/又は第2電位が付与される個別電極11の選択によって吐出されるインクの種類が決まる構成となっている。以下では説明の便宜のため、これら4種類のインクが、互いに色の異なるブラックインク、シアンインク、イエローインク及びマゼンタインクであるとしている。
図4に戻ると、配線板20には、第1及び第2ドライバ23,73の何れかに接続された多数の個別配線24,74が設けられているが、これら多数の個別配線24,74は、対応するインクの色毎に固めて配置されている。本実施形態では、例えばブラックインクの吐出に利用される個別電極11と導通されるブラック用配線群48は、全て第2ドライバ73に接続されている。他方、シアン用配線群49、イエロー用配線群50、及びマゼンタ用配線群51は第1ドライバ23に対して、図面上側からこの順で配置されている。
このように、各ドライバ23,73によってインク吐出特性が相違する可能性がある場合において、インクの色に応じて接続されるドライバ23,73を何れか1つに絞ることにより、異なるインク間では互いの吐出特性に違いが残るかもしれないものの、配線群48〜51の一つに着目すると、当該配線群を構成する複数の個別配線に関しては互いのインクの吐出特性を均一にすることができる。
ここで、本インクジェットヘッド1及び配線構造の製造手順について説明する。まず身分極状態の圧電アクチュエータ3が、流路ユニット2と積層接合されると共に、各FPC部22,72とは未接合状態のCOF部21と接合される。その後、COF部21に各FPC部22,72が接合され、圧電アクチュエータ3の分極工程が行われる。なお、この段階において第1FPC部22のランド41,45には導電材が設置されておらず、第1及び第2短絡線29,30は完全に構成されていない状態となっている。
この分極工程においては、このような組立体を約100度の雰囲気下におき、各FPC部22,72の端部を分極装置に接続する。そして、個別配線24,74、上部定電位配線27,77及び下部定電位配線28,78を介し、圧電アクチュエータ3の各電極11〜13間で高電位差を生じさせることにより、第1及び第2活性部14,15を分極させる。
例えば、図7(a)では、上部定電位電極12には36V、個別電極11には0Vの電位を付与することにより、第1活性部14には、高電圧が付与されて第1活性部14が上向きに分極される。そして、図7(b)では、例えば、上部低電位電極12には28V、下部定電位電極13には−60V、個別電極11には28Vの電位をそれぞれ付与することにより、第2活性部15と、第1及び第2定電位電極12,13に挟まれた部分とが下向きに分極させる。
この後、第1FPC部22が分極装置から取り外されると共に、ランド部41と上部定電位配線27とを跨ぐようにしてハンダ等の導電材(図示せず)が設置され、ランド部45と下部定電位配線28とを跨ぐようにしてハンダ等の導電材(図示せず)が設置される。これにより第1及び第2短絡線29,30が構成される。また、第2FPC部72が分極装置から取り外され、基板91に実装されたレセプタクルコネクタ93に接続される。これにより、基板上91において上部定電位配線77と導通される配線と、第2ドライバ73に対応する電源線75と導通される配線とが短絡され、下部定電位配線28と導通される配線と、第2ドライバ73に対応するグランド線76と導通される配線とが短絡される。
このように、本インクジェットヘッド1及び配線構造においては、分極工程を行っているときには、第1及び第2短絡線29,30が完全に構成されておらず、第2FPC部72の電源線75及びグランド線76はそれぞれ上部定電位配線27及び下部定電位配線28と接続されていない。短絡線を構成したりこれら配線同士を接続した上で分極工程を行うと、例えば図7(a)に示す場合においては、電源線25,75と上部定電位配線27とが同電位となるため、電源線25,75を介して各ドライバ23,73に36Vの高電位が付与される。各ドライバ23,73は、主に各ドライバ23,73自体の電源電圧(例えば3.3V)と駆動用の電源電圧(例えば28V)とによる電圧値が最大定格電圧として規定されているため、このような状態で分極行程が行われると、この最大定格電圧を超える高電位が各ドライバ23,73に付与されてしまい、各ドライバ23,73の破壊を招く。同様に図7(b)に示す場合においても、グランド線26,76と下部定電位配線28とが同電位となるため、グランド線26,76を介して60Vの高電位が各ドライバ23,73に付与されてしまい、各ドライバ23,73の破壊を招く。このため、本配線構造においては、圧電アクチュエータ3の分極工程を終了した後に、第1及び第2短絡線29,30を構成ようにしている。
これまで本発明の実施形態について説明したが、上記構成は本発明の範囲内で適宜変更可能である。例えば「第1電位」が高電位、「第2電位」がグランド電位であるとしたが、この関係は逆となっていても圧電アクチュエータ3を同様にして動作させることができる。その場合、第1短絡線は、高電位を付与する側となる下部定電位配線と電源線とを短絡する配線となっていればよく、第2短絡線は、グランド電位を付与する側となる上部定電位配線とグランド線とを短絡する配線となっていればよい。
また、COF部21には、各配線群において、外側から下部定電位配線28、上部定電位配線27、グランド線26、電源線25いう順で外側から並んでいるのが好ましいが、圧電アクチュエータ3に接続される2本の配線、及びドライバ23に接続される2本の配線は、それぞれ順序を入れ替え可能である。つまり、圧電アクチュエータ3に接続される下部定電位配線28及び上部定電位配線27の2本の配線が4本の配線のうち外側2本の配線をなし、ドライバ23に接続されるグランド線26及び電源線25の2本の配線が4本の配線のうち内側2本の配線をなしていれば、配線の順序は図4に示すものに限られない。例えば、外側から上部定電位配線、下部定電位配線、グランド線及び電源線の順で並べてもよいし、下部定電位配線、上部定電位配線、電源線及びグランド線の順で並べる等してもよい。その場合、第1及び第2短絡線29,30は、適宜そのジャンパ線の長さ及び形状が変更される。
本配線構造は、インクジェットプリンタに搭載されるインクジェットヘッドに限られず、インク以外の液体、例えば着色液を吐出して液晶表示装置のカラーフィルタを製造する装置や、導電液を吐出して電気配線を形成する装置等に使用する液体吐出装置に搭載される液体吐出ヘッドに対しても好適に適用することができる。