JP4628979B2 - 不斉2−アザ−コープ転位を用いる光学活性ホモアリル第一級アミンの製造方法 - Google Patents
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このためにホモアリルアミン類を製造するための各種の方法が開発されてきている。例えば、イミン化合物にアリルマグネシウム試薬を反応させて光学活性ホモアリルアミン類を製造する方法(特許文献1参照)、アルデヒドと第一級アミンの存在下に、アリル錫などのアリル化試薬を、希土類ルイス酸触媒と界面活性剤の存在下に水媒体中において反応させる方法(特許文献2参照)、キラルなジルコニウム触媒の存在下で、イミン化合物を、アリル錫化合物と反応させて光学活性ホモアリルアミン類を製造する方法(特許文献3参照)等が報告されている。
一方、ホモアリル第一級アミンとカルボニル化合物とを脱水縮合させて得られるN−ホモアリルイミン類は、イミノ基の炭素−窒素二重結合においてコープ型のアリル転位(2−アザ−コープ転位)を起こし、別のホモアリル第一級アミンへと変換することが可能であることが報告されている(非特許文献3参照)。本発明者らも、ヒドロキシグリシンのアリル化反応を検討している際に、同様の2−アザ−コープ転位を見出してきている(非特許文献4)。
しかしながら、これらの2−アザ−コープ転位により、光学活性なホモアリル第一級アミンが得られるということについては報告されていない。
即ち、本発明は、次の一般式(1)
で表されるN−ホモアリルイミン化合物を、溶媒中で2−アザ−コープ転位させて、次の一般式(2)
で表される光学活性N−ホモアリルイミン化合物とし、次いでこれを加水分解して、次の一般式(3)
で表される光学活性ホモアリル第一級アミン化合物を製造する方法に関する。
より詳細には本発明は以下の事項に関する。
(1)次の一般式(1)
で表されるN−ホモアリルイミン化合物を、溶媒中で2−アザ−コープ転位させて、次の一般式(2)
で表される光学活性N−ホモアリルイミン化合物を製造する方法。
(2)前記一般式(1)で表されるN−ホモアリルイミン化合物を、溶媒中で2−アザ−コープ転位させて、前記一般式(2)で表される光学活性N−ホモアリルイミン化合物とし、次いでこれを加水分解して、前記一般式(3)で表される光学活性ホモアリル第一級アミン化合物を製造する方法。
(3)一般式(1)で表されるN−ホモアリルイミン化合物が、次の一般式(4)
で表される光学活性なホモアリル1級アミン化合物と、次の一般式(5)
で表されるアルデヒド化合物から製造されたものである前記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)一般式(1)、(2)、及び(4)におけるR1、R2が、R1とR2が一緒になって隣接する炭素原子と共に脂環式基を形成した基である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)R1とR2が一緒になって隣接する炭素原子と共に脂環式基を形成した基が、テルペン化合物又は糖から誘導される基である前記(4)に記載の方法。
(6)R1とR2が一緒になって隣接する炭素原子と共に脂環式基を形成した基が、樟脳又はその誘導体から誘導される基である前記(4)又は(5)に記載の方法。
(7)一般式(5)で表されるアルデヒド化合物がグリオキシル酸誘導体であり、生成物が光学活性アリルグリシン誘導体である請求項(3)〜(6)のいずれかに記載の方法。
で表される。即ち、R1及びR2が結合している炭素原子に結合しているアリル基が、イミノ基の炭素原子に転位し、炭素−窒素二重結合が転位するものである。このとき、一般式(1)で表されるN−ホモアリルイミン化合物におけるR1及びR2の部分がキラルであれば、2−アザ−コープ転位が立体選択的に進行し、生成物における一般式(2)で表される光学活性N−ホモアリルイミン化合物におけるR3が結合している炭素原子において光学活性体が得られる。本発明は、係る知見を見出したことを特徴とするものである。即ち、本発明の特徴は、キラルな部分を有している一般式(1)で表されるN−ホモアリルイミン化合物の2−アザ−コープ転位により、光学活性な一般式(2)で表される光学活性N−ホモアリルイミン化合物を製造することができることである。
次に、本発明の態様をさらに詳細に説明する。
本発明における「炭化水素基」としては、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜15、炭素数1〜10の直鎖状又は分枝状のアルキル基;炭素数2〜20、好ましくは炭素数2〜15、炭素数2〜10の直鎖状又は分枝状のアルケニル基;炭素数2〜20、好ましくは炭素数2〜15、炭素数2〜10の直鎖状又は分枝状のアルキニル基;炭素数3〜15、好ましくは炭素数3〜10の飽和又は不飽和の単環式、多環式又は縮合環式の脂環式炭化水素基;炭素数6〜36、好ましくは炭素数6〜18、炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式の炭素環式芳香族基;炭素数6〜36、好ましくは炭素数6〜18、炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式の炭素環式芳香族基(アリール基)に、前記した炭素数1〜20のアルキル基が結合した、炭素数7〜40、好ましくは炭素数7〜20、炭素数7〜15のアラルキル基(炭素環式芳香脂肪族基)が挙げられる。これらの炭化水素基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ビニル基、1−メチル−ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、1−メチル−1−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、3−ブテニル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、ビシクロ[1.1.0]ブチル基、トリシクロ[2.2.1.0]ヘプチル基、ビシクロ[3.2.1]オクチル基、ビシクロ[2.2.2.]オクチル基、アダマンチル基、トリシクロ[3.3.1.1]デカニル基、ビシクロ[4.3.2]ウンデカニル基、トリシクロ[5.3.1.1]ドデカニル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントリル基、ベンジル基、フェネチル基、α−ナフチル−メチル基などが挙げられる。
本発明の本発明の一般式(1)で表されるN−ホモアリルイミン化合物におけるR1とR2は、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭化水素基であってもよいが、当該R1とR2が一緒になって置換基を有してもよい脂環式基を形成する場合には、N−ホモアリルイミン化合物がキラルであるだけでなく、イミノ基に隣接する炭素原子が脂環式基による環構造により固定化されることから、本発明の方法におけるより好ましい化合物とすることができる。
本発明の一般式(1)で表されるN−ホモアリルイミン化合物におけるR1若しくはR2又はR1とR2が一緒になって形成される脂環式基は、光学活性を有する基でなければならない。当該光学活性は、炭素原子における不斉であってもよく、軸不斉などの構造不斉であってもよいが、キラリティーを有し、いずれか1種の特定の立体構造を有するものでなければならない。
本発明の一般式(1)における好ましい「光学活性を有する基」としては、R1とR2が一緒になって形成される置換基を有してもよい脂環式基が光学活性な環状テルペン類、糖類などから誘導される基が挙げられる。より好ましい置換基を有してもよい脂環式基の例としては、光学活性な樟脳(カンファー)から誘導される基が挙げられる。
本発明の好ましい一般式(1)で表されるN−ホモアリルイミン化合物としては、次の式
本発明の一般式(1)で表されるN−ホモアリルイミン化合物における基R3は、一般式(5)で表されるアルデヒド化合物に由来するものであり、一般式(5)で表されるアルデヒド化合物の中でもさらに好ましい化合物としては、一般式(5)における基R3が−C(=O)−Ra基又は−COO−Ra基である場合が挙げられる。当該一般式(5)における置換基を有してもよい炭化水素基としては前記で説明したものと同じものが挙げられる。基R3における好ましい「置換基を有してもよい炭化水素基」としては、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜15、炭素数1〜10の直鎖状又は分枝状のアルキル基;前記した炭素数1〜20のアルキル基に酸素原子が結合したアルコキシ基;炭素数6〜36、好ましくは炭素数6〜18、炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式のアリール基、前記したアリール基に酸素原子が結合したアリールオキシ基;炭素数6〜36、好ましくは炭素数6〜18、炭素数6〜12の単環式、多環式、又は縮合環式の炭素環式芳香族基(アリール基)に、前記した炭素数1〜20のアルキル基が結合した、炭素数7〜40、好ましくは炭素数7〜20、炭素数7〜15のアラルキル基;前記したアラルキル基に酸素原子が結合したアラルキルオキシ基などが挙げられる。これらの基の置換基としては、前記してきた置換基群が挙げられる。
本発明の方法における好ましい一般式(5)で表される「アルデヒド化合物」の具体例としては、例えば、グリオキシル酸などのアルデヒドカルボン酸類、グリオキシル酸エチルエステルなどのグリオキシル酸エステル類、フェニルグリオキサールなどのグリオキサール類などが挙げられる。
本発明の方法における2−アザ−コープ転位は、一般式(1)で表されるN−ホモアリルイミン化合物を製造した反応系で、当該N−ホモアリルイミン化合物を単離することなく、そのまま反応させることができことから、一般式(1)で表されるN−ホモアリルイミン化合物を製造した反応系でそのまま反応させる方法が好ましい。
例えば、一般式(4)で表される光学活性ホモアリルアミン化合物と、一般式(5)で表されるアルデヒド化合物とを、前記した反応条件で反応させ、反応系中で一般式(1)で表されるN−ホモアリルイミン化合物を生成させて、そのまま2−アザ−コープ転位を連続して行うことができる。
本発明の方法における2−アザ−コープ転位反応で得られた一般式(2)で表される光学活性N−ホモアリルイミン化合物は、次の反応式
この加水分解により、原料である光学活性なカルボニル化合物を定量的に回収することができ、これを繰り返して再利用することが可能である。
また、次の反応式にしたがってオキシムやヒドラゾン等へと変換することにより、光学活性ホモアリル第一級アミン化合物を遊離させることもできる。
により製造することができる。即ち、光学活性なカルボニル化合物と、アンモニア及びアリルボラン、アリルシランなどのアリル化剤の3成分をメタノールなどの溶媒中で反応させることにより製造することができる。
この反応における原料となる光学活性なカルボニル化合物は、前記した2−アザ−コープ転位反応の後の加水分解反応で副生する光学活性なカルボニル化合物であり、この化合物は繰り返して使用することができることから、本発明の方法は全体としては、一般式(5)で表されるアルデヒド化合物、アンモニア、及びアリル化剤の3成分から光学活性ホモアリル第一級アミンを製造する方法ということになる。
そして、本発明の方法において不斉源として繰り返し使用される光学活性なカルボニル化合物は、天然に豊富に存在し、安価であるテルペン類や糖類などを使用することができ、しかも窒素源としてはアンモニアを使用することができるので、光学活性ホモアリル1級アミン化合物を安価に製造することができる。
次の反応式
(1R)−(−)−カンファーキノン(1, 1.33 g, 8.0 mmol)に室温でアンモニア/メタノール溶液(約7 M, 12 mL)を加え攪拌した。その黄色溶液に、アリルボロン酸ピナコールエステル(2.02 g, 12.0 mmol)を室温で滴下した。反応混合物を室温で24時間撹拌した後、3N塩酸水溶液を加えて、pHを約1に調節した。30分後、混合物を分液ロートに移し、水層を塩化メチレンで洗浄した。さらに、水層を6N水酸化ナトリウム水溶液でpHを約10に調節し、塩化メチレンで3回抽出した。後者の塩化メチレン層を無水炭酸ナトリウムで乾燥し、ろ過、濃縮、減圧乾燥した後、中性シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=3/1)で精製することにより、目的の3−アリル−3−アミノ−1,7,7−トリメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−オンを収量1.33gで得た(収率80%)。
1H NMR (400MHz,CDCl3) δ:
5.85 (dddd, J = 16.9, 10.3, 8.0, 6.4 Hz, 1H), 5.22-5.12 (m, 2H),
2.25 (dd, J = 14.6, 6.2 Hz, 1H), 2.11 (dd, J = 14.6, 7.8 Hz, 1H),
1.94-1.83 (m, 1H), 1.85 (d, J = 3.2 Hz, 1H), 1.72-1.62 (m, 2H),
1.52-1.44 (m, 1H), 1.41 (brs, 2H), 1.07 (s, 3H), 1.00 (s, 3H),
0.91 (s, 3H).
13C NMR (100MHz,CDCl3) δ:
222.8, 133.3, 119.3, 61.9, 58.6, 52.5, 46.3, 42.5, 30.2, 23.3, 23.0,
20.9, 9.8.
HR−ESIMS;
C8H21NO3Pとして、計算値: (M+H)+ 208.1696;
実測値: 208.1689.
次の反応式
実施例1で製造した光学活性ホモアリルアミン(103.6 mg, 0.5 mmol)のエタノール(0.6 mL)溶液に、−40℃でグリオキシル酸一水和物(46.0 mg, 0.5 mmol)のエタノール(0.6 mL)溶液を滴下した。−40℃で4日間撹拌した後、1N塩酸水溶液(5mL)を加えて、室温で1時間撹拌した。精製水を用いて反応混合物を分液ロートに移し、塩化メチレン(2回)とジエチルエーテル(1回)で洗浄した。水層を約2mLまで減圧濃縮後、イオン交換樹脂(DOWEX 50W−X2、H+型)のカラムに乗せた。精製水(100mL)で洗浄した後、1Nアンモニア水溶液(100mL)で溶出し、溶出液を約2mL程度まで減圧濃縮した。次に、イオン交換樹脂(Amberlite IRA 400、OH−型)のカラムに乗せ、精製水(100mL)で洗浄した後、1N塩酸(100mL)で溶出した。溶出液を減圧濃縮し、真空下で乾燥して目的の光学活性アリルグリシン誘導体を塩酸塩として47.8mg得た(収率63%)。このNMRスペクトルデータは文献値に一致した。また、絶対立体配置(標品との比較)およびエナンチオマー過剰率を、光学活性カラムを用いるHPLC分析により決定した結果、93%ee(S)と判明した。
HPLC分析::
カラム :CROWNPAK CR(+),直径0.4cm × 長さ15cm
溶離液 :0.1M HClO4水溶液;
流速 :0.5mL/min,
検出器 :UV(波長 200nm);
保持時間 :tR = 3.9分 (R), tR = 5.5分 (S)
次の反応式
実施例1で製造した光学活性ホモアリルアミン(103.3 mg, 0.5 mmol)とベンズアルデヒド(53.0 mg, 0.5 mmol)の1,2−ジクロロエタン(1.0 mL)溶液に、カンファースルホン酸(11.6 mg, 10 mol%)を加え、50℃で24時間撹拌した。この反応混合物に、ヒドロキシルアミン酢酸塩のメタノール溶液(0.12 M, 8 mL)を加え、50℃でさらに3時間撹拌した。室温に冷却後、反応混合物を減圧濃縮し、塩化メチレンと水を用いて分液ロートに移し、3N塩酸でpHを約1に調整した。塩化メチレン(3回)で洗浄後、水層を6N水酸化ナトリウム水溶液でpHを約10に調整し、塩化メチレン(3回)で抽出した。塩化メチレン層を無水炭酸ナトリウムで乾燥、ろ過、減圧濃縮した後、調製用薄層クロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=2/1)で精製した。溶出はヘキサン/イソプロピルアミン=10/1で行い、溶出液を減圧濃縮、真空下乾燥することにより、目的の光学活性1−フェニルブタ−3−エン−1−アミンを51.6mg得た(収率70%)。このNMRスペクトルデータは文献値に一致した。また、絶対立体配置(標品との比較)およびエナンチオマー過剰率を、光学活性カラムを用いるHPLC分析により決定した結果、96%ee(S)と判明した。
HPLC分析::
カラム :CHIRALCEL OD−H,直径0.4cm × 長さ25cm
溶離液 :ヘキサン/イソプロピルアルコール/ジエチルアミン(95/5/0.05);
流速 :1.0mL/min,
検出器 :UV(波長 254nm);
保持時間 :tR = 6.9分 (R), tR = 8.9分 (S)
Claims (3)
- 次の一般式(1)
で表されるN−ホモアリルイミン化合物を、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類及びニトリル類からなる群より選ばれる溶媒中で2−アザ−コープ転位させて、次の一般式(2)
で表される光学活性N−ホモアリルイミン化合物とし、次いでこれを次の反応式
にしたがって酸処理により加水分解して、次の一般式(3)
で表される光学活性ホモアリル第一級アミン化合物を製造する方法。 - 一般式(5)で表されるアルデヒド化合物がグリオキシル酸である請求項2に記載の方法。
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