JP2006206550A - δ−イミノマロン酸誘導体の製造方法、及びそのための触媒 - Google Patents
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Abstract
本発明は、アルキリデンマロン酸エステルのマイケル反応による、β−位、γ−位に置換基が、δ−位には官能基を有するジカルボン酸誘導体をエナンチオ選択的に製造する新規な方法、及びそのための触媒を提供する。
【解決手段】
本発明は、エンカルバメートとアルキリデンマロン酸エステルとをキラルな銅錯体触媒の存在下に反応させてエナンチオ選択的に対応するδ−イミノマロン酸エステル類を製造する方法、及びこのための触媒に関する。
【選択図】 なし
Description
本発明者らは、エンカルバメートがエナンチオ選択的な不斉反応において、アルデヒドやケトンに対する効率的な求核剤となることを報告してきた(非特許文献1〜3参照)。しかし、エンカルバメートが他の反応における求核剤となるかどうかということについては、さらに研究が必要であるとされている。
また、本発明は、エンカルバメートとアルキリデンマロン酸エステルとを反応させてδ−イミノマロン酸エステル類を製造するための銅錯体からなる触媒、より詳細には、エンカルバメートとアルキリデンマロン酸エステルとを反応させてエナンチオ選択的にδ−イミノマロン酸エステル類を製造するためのキラルな銅錯体からなる触媒に関する。
さらに、本発明は、エンカルバメート、好ましくは一般式(1)で表されるエンカルバメートの銅触媒の存在下における、アルキリデンマロン酸エステルに対する求核試薬としての使用(use)に関する。
で表される化合物が挙げられるが、これに限定されるものではない。
本発明のエンカルバメートは、二重結合に対する位置異性体が存在する。例えば、前記一般式(1)において、アミノ基に対する基R2が、トランス(E)となっているものと、シス(Z)になっているものが存在するが(R2が水素原子以外の場合)、本発明においては、トランス(E)体であっても、シス(Z)体であっても、またこれらの混合物であってもよいが、エナンチオ選択的な反応としたい場合にはトランス(E)体又はシス(Z)体のいずれか一方であることが好ましい。
また、本発明の方法におけるアルキリデンマロン酸エステルとしては、マロン酸エステルのメチレン部分に炭素−炭素二重結合(アルキリデン基)が導入されている化合物である。本発明の好ましいアルキリデンマロン酸エステルの例としては、次の一般式(2)
で表される化合物があげられるが、これに限定されるものではない。
本発明のアルキリデンマロン酸エステルは、アルキリデンの部分の二重結合に対する位置異性体が存在する(ふたつのR4基が相違している場合)。例えば、前記一般式(2)において、片方のCOOR4基に対する基R3が、トランス(E)となっているものと、シス(Z)になっているものが存在するが(R3が水素原子以外の場合)、本発明においては、トランス(E)体であっても、シス(Z)体であっても、またこれらの混合物であってもよいが、エナンチオ選択的な反応としたい場合にはトランス(E)体又はシス(Z)体のいずれか一方であることが好ましい。
これらの一般式(1)及び(2)を用いて、本発明の方法を化学反応式で示せば、次のとおりとなる。
この方法により製造される次の一般式(3)
で表される化合物は、δ位にイミノ基を有し、かつβ位に置換基R3、及びγ位に置換基R2を有し、合成化学上極めて有用な中間体となる。例えば、本発明の方法で製造されたδ−イミノマロン酸エステル類を、加水分解及び脱炭酸することにより、対応するδ−カルボニルカルボン酸を製造することができる。この方法で製造されるδ−カルボニルカルボン酸の例としては、次の一般式(4)
で表される化合物が挙げられる。
さらに、前記したδ−カルボニルカルボン酸を、さらに水素還元することにより、対応するδ−ヒドロキシカルボン酸を製造することができる。また、δ−ヒドロキシカルボン酸誘導体を製造する場合には、水素還元を先にするなど、加水分解、脱炭酸、水素還元を任意の順序で行うこともできるが、加水分解を先行させる方法が好ましい。この方法で製造されるδ−ヒドロキシカルボン酸の例としては、次の一般式(5)
で表される化合物が挙げられる。
また、本発明の方法により製造されたδ−イミノマロン酸エステル類を、水素還元及び脱炭酸することにより、対応するδ−アミノカルボン酸を製造することができる。この方法で製造されるδ−アミノカルボン酸の例としては、次の一般式(6)
で表される化合物が挙げられる。
炭素数1〜20の炭化水素基としては、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜15、より好ましくは炭素数1〜10の炭化水素基、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルカジエニル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられるが、好ましくは孤立二重結合を有していないアルキル基、アリール基、アラルキル基が挙げられる。
アルケニル基としては、直鎖状でも分岐状でも或いは環状でもよい、例えば炭素数2〜20、好ましくは炭素数2〜15、より好ましくは炭素数2〜10、更に好ましくは炭素数2〜6のアルケニル基が挙げられ、その具体例としては、例えば、エテニル基、プロペニル基、1−ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基等が挙げられる。
アラルキル基としては、前記アルキル基の少なくとも1個の水素原子が前記アリール基で置換された、例えば炭素数7〜20、好ましくは炭素数7〜15のアラルキル基が挙げられ、その具体例としては、例えば、ベンジル基、2−フェニルエチル基、1−フェニルプロピル基、3−ナフチルプロピル基等が挙げられる。
置換基としては、置換基を有していてもよい炭化水素基、ハロゲン原子、ハロゲン化炭化水素基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアリールオキシ基、置換基を有していてもよいアラルキルオキシ基、置換アミノ基、ニトロ基、シアノ基等が挙げられる。
置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
置換基としてのハロゲン化炭化水素基は、上記炭化水素基の少なくとも1個の水素原子が上記ハロゲン原子により置換された炭化水素基が挙げられる。ハロゲン化炭化水素基の好ましい例としては、例えば、ハロゲン化アルキル基等が挙げられる。ハロゲン化アルキル基としては、例えば、クロロアルキル基、フルオロアルキル基などの炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基が好ましいものとして挙げられ、その具体例としては、例えば、クロロメチル基、ブロモメチル基、2−クロロエチル基、3−ブロモプロピル基、フルオロメチル基、フルオロエチル基、フルオロプロピル基、フルオロブチル基、フルオロペンチル基、フルオロヘキシル基、フルオロヘプチル基、フルオロオクチル基、フルオロノニル基、フルオロデシル基、ジフルオロメチル基、ジフルオロエチル基、フルオロシクロヘキシル基、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、ペンタフルオロエチル基、3,3,4,4,4−ペンタフルオロブチル基、ペルフルオロ−n−プロピル基、ペルフルオロイソプロピル基、ペルフルオロ−n−ブチル基、ペルフルオロイソブチル基、ペルフルオロ−tert−ブチル基、ペルフルオロ−sec−ブチル基、ペルフルオロペンチル基、ペルフルオロイソペンチル基、ペルフルオロ−tert−ペンチル基、ペルフルオロ−n−ヘキシル基、ペルフルオロイソヘキシル基、ペルフルオロヘプチル基、ペルフルオロオクチル基、ペルフルオロノニル基、ペルフルオロデシル基、2−ペルフルオロオクチルエチル基、ペルフルオロシクロプロピル基、ペルフルオロシクロペンチル基、ペルフルオロシクロヘキシル基等が挙げられる。
置換アルコキシ基(置換基を有するアルコキシ基)としては、前記アルコキシ基の少なくとも1個の水素原子が上記置換基で置換されたアルコキシ基が挙げられる。
置換基としての置換基を有していてもよいアリールオキシ基は、アリールオキシ基及び置換アリールオキシ基が挙げられる。アリールオキシ基としては、例えば炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜15、炭素数6〜10のアリールオキシ基が挙げられ、その具体例としては、例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、アントリルオキシ基等が挙げられる。
置換アリールオキシ基(置換基を有するアリールオキシ基)としては、前記アリールオキシ基の少なくとも1個の水素原子が上記置換基で置換されたアリールオキシ基が挙げられる。
置換アラルキルオキシ基(置換基を有するアラルキルオキシ基)としては、前記アラルキルオキシ基の少なくとも1個の水素原子が上記置換基で置換されたアラルキルオキシ基が挙げられる。
上記アミノ保護基におけるアルキル基、アリール基及びアラルキル基は上記炭化水素基のところで説明した各基と同じである。
アシル基としては、直鎖状でも分岐状でも或いは環状でもよい、例えば、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸等のカルボン酸由来の炭素数1〜20のアシル基が挙げられ、具体例としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ピバロイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ラウロイル基、ステアロイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
本発明の一般式(1)、一般式(3)、及び一般式(4)〜(6)で表される化合物における基R1及び基R2の好ましい例としては、それぞれ独立して、水素原子、前記した置換基を有してもよい炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜15、より好ましくは炭素数1〜10のアルキル基;前記した置換基を有してもよい炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜15のアリール基;又は、前記した置換基を有してもよい炭素数7〜20、好ましくは炭素数7〜15のアラルキル基が挙げられるが、より好ましくは水素原子、前記した置換基を有してもよい炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜15、より好ましくは炭素数1〜10のアルキル基;又は前記した置換基を有してもよい炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜15のアリール基が挙げられる。
本発明の一般式(2)、一般式(3)、及び一般式(4)〜(6)で表される化合物における基R4の好ましい例としては、それぞれ独立して、前記した置換基を有してもよい炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜15、より好ましくは炭素数1〜10のアルキル基;前記した置換基を有してもよい炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜15のアリール基;又は、前記した置換基を有してもよい炭素数7〜20、好ましくは炭素数7〜15のアラルキル基が挙げられるが、より好ましくは水素原子、前記した置換基を有してもよい炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜15、より好ましくは炭素数1〜10のアルキル基;又は前記した置換基を有してもよい炭素数6〜20、好ましくは炭素数6〜15のアリール基が挙げられる。
本発明の銅触媒は、前記した銅化合物を単独で使用するのではなく、ジアミンのような銅原子のリガンドとなり得る化合物と共に使用するか、このようなリガンドを有する銅錯体として使用のが好ましい。さらに、本発明の方法において、エナンチオ選択的な方法とするためには、キラルなジアミンをリガンドとして使用することがより好ましい。
ジアミンとしては、配位可能な孤立電子対を有する窒素原子を2個有するものが挙げられ、好ましい例としては、エチレンジアミン誘導体が挙げられる。キラルなジアミンの好ましい例としては、エチレンジアミン誘導体におけるエチレン基の2個の炭素原子がキラリティーを有するジアミンが挙げられる。
好ましいキラルなジアミンの例としては、次の3a〜3gに示されるジアミンが挙げられる。
本発明における銅触媒の好ましい例としては、Cu(OTf)2(式中、Tfはトリフルオロメタンスルホネートを示す。)、Cu(SbF6)2、CuClO4・4CH3CN等の銅塩と前記した3a〜3gに示されるキラルなジアミンをリガンドとする銅錯体が挙げられる。
溶媒としては、この反応に不活性なものであれば各種の有機溶媒を使用することができる。好ましい溶媒の例としては、ジクロルメタン(DCM)などのハロゲン化アルキル、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルエーテル(DME)、ジグライムなどのエーテル系溶媒などが挙げられる。
銅触媒の使用量は、触媒量でよく、通常は一般式(2)で表されるアルキリデンマロン酸エステル1モルに対して、0.001〜0.5モル、好ましくは0.01〜0.3モル、0.01〜0.1モル程度が使用される。また、一般式(1)で表されるエンカルバメートの使用量としては、一般式(2)で表されるアルキリデンマロン酸エステル1モルに対して、等量とすればよいが、通常は0.8〜1.5モル、0.9〜1.2モルの範囲で使用される。
本発明の方法はアルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
反応混合物中から、目的物を単離精製する方法としては、特に制限はなく、通常の抽出操作、分液操作、結晶化方法、蒸留法、クロマトグラフィーなどの単離精製手段により単離精製することができる。
また、本発明の方法により得られたδ−イミノマロン酸エステル誘導体は、通常の合成化学における加水分解反応、還元反応、脱炭酸反応の反応条件により処理することができる。
さらに、本発明は、当該δ−イミノマロン酸エステル誘導体を、エナンチオ選択的の製造することができるので、各種の光学活性体を製造する際の極めて重要な中間体の製造方法を提供するものである。そして、本発明の方法におけるエナンチオ選択的な不斉反応で直接的にコントロールできる立体配置は、一般式(1)におけるR1が結合しているβ位の炭素であるが、R2が結合している炭素の立体も化合物2のシス−トランスで高立体選択的にコントロールすることができる。
このように、本発明は、医薬品、農薬、香料等の原料または合成中間体として有用な多置換カルボン酸誘導体の高立体選択的な触媒的不斉合成を可能にするだけでなく、さらに、生成物は多様性に富むため、コンビナトリアルケミストリーを指向した化合物群の合成法としても有用である。
以下に記載する実施例で使用したエンカルバメートは、スエンら文献(Suen, Y. H.; Horeau, A.; Kagan, H. B. Bull. Soc. Chim. Fr. 1965, 5, 1454.)に記載の方法に準じて製造した。また、キラルなジアミンリガンドは小林らの文献(S. Kobayashi, R. Matsubara, Y. Nakamura, H. Kitagawa, M. Sugiura, J. Am. Chem. Soc., 125, 2507~2515 (2003).)に記載の方法に準じて製造した。その他の化合物は市販品を必要に応じて精製して使用した。
この方法における反応式を次に示す。
(1)キラルジアミン銅錯体の製造
アルゴン雰囲気下、Cu(OTf)2 (0.02mmol)とリガンドA(0.022mmol)とを塩化メチレン(2ml)中、室温で12時間攪拌して、目的の銅錯体を製造した。
(2)キラルジアミン銅錯体を触媒として用いたマイケル反応
アルゴン雰囲気下、−78℃でキラルジアミン銅錯体(0.04mmol)の塩化メチレン溶液(0.5ml)にエチリデンマロン酸ジフェニル(0.11mmol)と前記反応式で示されるエンカルバメート(0.10mmol)の塩化メチレン(1ml)溶液を滴下し、6時間攪拌した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、塩化メチレンで3回抽出し、有機相を無水硫酸ナトリウム上で乾燥した。乾燥剤を濾別後、減圧濃縮して目的のイミン体を得た。
(3)イミン体の加水分解
得られたイミン体を(2 ml)に溶解し、臭化水素酸(0.2 ml)を加えた。室温で1.5分間攪拌した後、上記と同様の操作を行い、得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィーにて生成し白色固体を得た(収率98%、76%ee)。なお、生成物のケトンはキラルカラムを用いたHPLCにより光学純度を決定した。
1H−NMR(CDCl3, 400MHz) ;δ
0.90(d, 3H, J=6.9Hz, 3-Me), 2.65-2.90(m, 2H, 3-H and 4-H),
3.04-3.10(m, 1H, 4-H), 3.63-3.65(m, 1H, 2-H), 6.77-7.20(m, 13H, Ph-H), 7.56-7.60(m, 2H, Ph-H).
HPLC: ダイセルキラルセルAD
ヘキサン/イソプロピルアルコール=19/1
リテンションタイム 44分(minor), 47分(major).
この反応式を次ぎに示す。
この反応式を次ぎに示す。
この反応式を次ぎに示す。
この反応式を次ぎに示す。
この反応式を次ぎに示す。
Claims (14)
- エンカルバメートとアルキリデンマロン酸エステルとを銅触媒の存在下に反応させてδ−イミノマロン酸エステル類を製造する方法。
- 銅触媒が、キラルなリガンドを有するキラルな銅触媒である請求項1に記載の方法。
- キラルな銅触媒が、キラルジアミン銅錯体である請求項2に記載の方法。
- δ−イミノマロン酸エステル類の製造方法が、エナンチオ選択的な方法である請求項2〜4のいずれかに記載の方法。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の方法により製造されたδ−イミノマロン酸エステル類を、加水分解及び脱炭酸して、対応するδ−カルボニルカルボン酸を製造する方法。
- 請求項9又は10に記載の方法により製造されたδ−カルボニルカルボン酸を、水素還元して、対応するδ−ヒドロキシカルボン酸を製造する方法。
- 請求項1〜8のいずれかに記載の方法により製造されたδ−イミノマロン酸エステル類を、水素還元及び脱炭酸して、対応するδ−アミノカルボン酸を製造する方法。
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