JP4628720B2 - 動圧軸受装置用ハウジング及びこれを備えた動圧軸受装置、並びにこの動圧軸受装置を有するモータ - Google Patents

動圧軸受装置用ハウジング及びこれを備えた動圧軸受装置、並びにこの動圧軸受装置を有するモータ Download PDF

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本発明は、動圧軸受装置用のハウジングに関するものである。このハウジングを用いた動圧軸受装置は、情報機器、例えばHDD等の磁気ディスク装置、CD−ROM、CD−R/RW、DVD−ROM/RAM等の光ディスク装置、MD、MO等の光磁気ディスク装置等のスピンドルモータ用、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、プロジェクタのカラーホイール、あるいは電気機器、例えば軸流ファンなどの小型モータ用の軸受装置として好適である。
上記各種モータには、高回転精度の他、高速化、低コスト化、低騒音化、軽量化などが求められている。これらの要求性能を決定付ける構成要素の一つに当該モータのスピンドルを支持する軸受があり、近年では、この種の軸受として、上記要求性能に優れた特性を有する動圧軸受の使用が検討され、あるいは実際に使用されている。
上記動圧軸受の一例として、軸部およびフランジ部を有する回転部材をラジアル方向に非接触支持するラジアル軸受部と、回転部材をスラスト方向に非接触支持するスラスト軸受部とを備えたものが特開2002−061641号公報(特許文献1)に開示されている。この種の動圧軸受装置において、ラジアル軸受部を構成する軸受スリーブの内周面または軸部の外周面に動圧発生手段としての動圧溝が設けられる。また、スラスト軸受部を構成するフランジ部の両端面、あるいは、これに対向する面(例えば軸受スリーブの端面や、ハウジング底部の端面等)に動圧溝が設けられる。
ハウジングは、通常円筒状の側部と、側部の一端側に設けられた底部とを備えている。底部は、側部とは別体の底部材として、側部の一端側内周に固定される場合の他、側部と一体に形成される場合もある。これは主に金属により形成されるが、より安価に形成する為、樹脂にて形成されるハウジングを備えた動圧軸受が特開2003−314534号公報(特許文献2)に開示されている。
特開2002−061641号公報 特開2003−314534号公報
これらハウジングをはじめとする動圧軸受装置の各構成部品には、情報機器の益々の高性能化に伴って必要とされる高い回転性能を確保すべく、高い加工精度や組立て精度が求められ、また、情報機器の小型・軽量化に伴い動圧軸受装置の小型・軽量化も求められている。その一方で、動圧軸受装置に対するコスト低減の要求も益々厳しくなっている。
そこで、本発明は、非接触タイプの動圧軸受装置におけるハウジングのさらなる高精度化、軽量化および低コスト化を図ることを目的とする。
前記目的を達成するため、本発明は、内周に、軸部の外周面との間でラジアル軸受隙間を形成する軸受スリーブを固定するためのハウジングであって、HDDに組み込まれ、大気に開放されたシール空間を有する動圧軸受装置を構成し、潤滑油としてのジエステル油と接触して使用されるものにおいて、リニア型のポリフェニレンサルファイド(PPS)をベース樹脂とし、PAN系の炭素繊維を充填材として含み、Naイオン含有量が2000ppm以下で、溶融粘度が、310℃、せん断速度1000s-1にて500Pa・s以下の樹脂組成物で射出成形され、かつ型成形された動圧溝を有することを特徴とする。
かかる構成によれば、全てが金属材料で形成されたハウジングを、樹脂組成物に置換した構造となるので、軽量化が図られる。また樹脂組成物で形成されるため、射出成形可能なので、ハウジングを全て機械加工する場合に比べて生産性の向上が図れ、コスト低減が可能となる。
樹脂組成物のベース樹脂には、機械的強度をはじめ、耐油性、耐吸水性、耐熱性等に優れたものが好ましく、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニルサルフォン(PPSF)、ポリアミドイミド(PAI)等が適している。その中でも溶融状態での流動性を考慮するとポリフェニレンサルファイド(PPS)が特に好適である。
ところで、ポリフェニレンサルファイド(PPS)は、通常パラジクロロベンゼン(PDCB)と硫化ナトリウムとの重合反応により生成されるが、この際、副生成物としてNaCl等の塩も生成され、ポリフェニレンサルファイド(PPS)に混入する。そのため、動圧軸受装置の使用時、この樹脂をベース樹脂として形成された樹脂部分から潤滑油にNaイオンが溶出する場合がある。潤滑油にNaイオンが溶出すると、潤滑油の変性劣化や粘度変化を引き起こし、装置性能を低下させる恐れがある。そこで本発明では、上記ポリフェニレンサルファイド(PPS)をベース樹脂とする樹脂組成物内のNaイオン含有量を、2000ppm以下に抑えることとした。このような条件に適合する樹脂組成物のベース樹脂として、リニア型のポリフェニレンサルファイド(PPS)を挙げることができる。これによれば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)の副生成物であるNaCl等が減じられ、例えばNaイオンとしてポリフェニレンサルファイド(PPS)に含有される量も少なくなる。そのため、潤滑油中へのNaイオンの溶出量が抑えられ、軸受内部あるいは軸受外部の清浄度が保たれることで、軸受性能の低下が避けられる。
また、動圧軸受装置用のハウジングには、上述の要求特性の他、最近の電子機器の携帯化に伴い、高い強度や耐衝撃特性が要求される。また電子機器の小型化に伴い、ラジアル軸受隙間やスラスト軸受隙間を高精度に管理する観点から高い寸法安定性が要求される。そこで本発明では、ベース樹脂としてのポリフェニレンサルファイド(PPS)に、充填材として炭素繊維を配合した。これによれば、ハウジングの高強度化が図られると共に、樹脂の温度変化に伴う寸法変化が抑えられる。この結果、使用時におけるラジアル軸受隙間やスラスト軸受隙間を高精度に制御することが可能となり、軸受性能が確保される。また、炭素繊維は導電性を有するので、充填材としてベース樹脂に配合することで軸部材に高い導電性を持たせることができる。これにより、使用時に回転側の部材(例えばディスク等)側に帯電した静電気をハウジングを介して接地側部材に逃がすことができる。
上記要求特性の中でも、ハウジングには特に高強度が要求されるため、炭素繊維としては、3000MPa以上の引張り強度を有するものが好ましい。また、高強度と共に、高い導電性を兼ね備えたものとして、例えばPAN系(ポリアクリロニトリル系)の炭素繊維を挙げることができる。
これら炭素繊維をベース樹脂に配合することによる補強効果、寸法安定効果、静電除去効果等は、炭素繊維のアスペクト比を考慮することでより一層顕著に発揮される。すなわち、炭素繊維の繊維長が大きいほど補強効果や静電除去効果が高まり、繊維径が小さいほど耐摩耗性、特に摺動相手材の損傷が抑えられる。これらの観点から、具体的には炭素繊維のアスペクト比を6.5以上にするのが好ましい。
充填材としての炭素繊維のベース樹脂への充填量は10〜35vol%とするのが好ましい。これは、例えば充填量が10vol%未満だと、炭素繊維の充填による補強効果や静電除去効果が充分に発揮されず、また充填量が35vol%を超えると、ハウジングの成形性を確保することが困難になるためである。
成形時には、成形型に射出する溶融樹脂(樹脂組成物)の溶融粘度を考慮する必要がある。特にハードディスク等の記録ディスク駆動装置の小型化に伴い、これら駆動装置に組込まれる動圧軸受装置が小型化、つまりハウジングも小型化される。特にハウジングは上側端面および内底面に、微細な動圧溝を形成する場合があり、その場合寸法精度が製品の機能に直結する。そのため、樹脂組成物には、成形型(キャビティー)内に供給される時点での低い溶融粘度が要求される。これらの観点から、樹脂組成物の溶融粘度は、310℃、せん断速度1000s-1にて500Pa・s以下であることが望ましい。ここで、310℃は、射出成形機の溶融シリンダでの溶融樹脂の温度に該当する。これによれば、キャビティー内の樹脂部分に対応する領域に溶融樹脂を高精度に充填することができ、成形性が確保される。
上述のハウジングは、このハウジングと、流体の動圧作用で軸部材をラジアル方向に回転自在に非接触支持するラジアル軸受部と、流体の動圧作用で軸部材をスラスト方向に回転自在に非接触支持するスラスト軸受部とを備えた動圧軸受装置として提供可能である。この動圧軸受装置は、動圧軸受装置と、ロータマグネットと、ロータマグネットとの間で磁力を生じるステータコイルとを有するモータとして、上記情報機器用に提供することが好ましく、特にハードディスク(HDD)等の磁気ディスク駆動装置用として好適である。
以上のように、本発明によれば、より小サイズで軽量のハウジングが低コストで製造できる。また、樹脂部分からのイオン溶出が抑えられることにより動圧軸受装置の清浄度が保たれるので、所期の軸受性能を長期間安定して発揮することが可能となる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る動圧軸受装置1を組込んだ情報機器用スピンドルモータの一構成例を概念的に示している。この情報機器用スピンドルモータは、HDD等のディスク駆動装置に用いられるもので、軸部2を備えた回転部材3を回転自在に非接触支持する動圧軸受装置1と、例えば半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5と、モータブラケット(保持部材)6とを備えている。ステータコイル4はモータブラケット6の外周に取り付けられ、ロータマグネット5は回転部材3の外周に取り付けられている。動圧軸受装置1のハウジング7は、モータブラケット6の内周に例えば圧入接着等の手段により固定される。回転部材3には、磁気ディスク等のディスク状情報記録媒体Dが一又は複数枚保持される。ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間に発生する磁力でロータマグネット5が回転し、それによって回転部材3および軸部2が一体となって回転する。
動圧軸受装置1は、例えば図2に示すように、ハウジング7と、ハウジング7の一端側を覆い塞ぐ底部材10と、ハウジング7の内部に固定された軸受スリーブ8と、ハウジング7および軸受スリーブ8に対して相対回転する回転部材3とを備えている。なお、説明の便宜上、ハウジング7の底部材10によって覆われる側を下方向、覆われる側と反対の側を上方向として以下説明する。
回転部材3は、例えばハウジング7の上側を被冠するハブ部9と、軸受スリーブ8の内周に挿入される軸部2とで構成される。
ハブ部9は、ハウジング7の上側を覆う円盤状のプレート部9aと、プレート部9aの外周部から軸方向下方に延びた筒状部9bと、筒状部9bの外周に設けられたディスク搭載面9cおよび鍔部9dとを備えている。図示されていないディスク状情報記録媒体は、プレート部9aの外周に外嵌され、ディスク搭載面9cに載置される。そして、図示しない適当な保持手段によってディスク状情報記録媒体がハブ部9に保持される。
軸部2は、この実施形態ではハブ部9と一体に形成され、その下端に抜止めとしてフランジ部11を別体に備えている。フランジ部11は、金属製で例えばねじ結合等の手段により軸部2に固定される。
軸受スリーブ8は、例えば焼結金属からなる多孔質体、特に銅を主成分とする焼結金属の多孔質体で円筒状に形成される。
軸受スリーブ8の内周面8aには、図2に示すように、第1ラジアル軸受部R1と第2ラジアル軸受部R2のラジアル軸受面となる上下2つの領域が軸方向に離隔して設けられている。上記2つの領域には、例えば、図3に示すようなヘリングボーン形状の動圧溝8a1、8a2がそれぞれ形成されている。上側の動圧溝8a1は、軸方向中心m(上下の傾斜溝間領域の軸方向中央)に対して軸方向非対称に形成されており、軸方向中心mより上側領域の軸方向寸法X1が下側領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている。また、軸受スリーブ8の外周面8bには、1本又は複数本の軸方向溝8b1が軸方向全長に亘って形成されている。この実施形態では、3本の軸方向溝8b1を円周方向等間隔に形成している。
軸受スリーブ8の下側端面8cの、スラスト軸受部T2のスラスト軸受面となる領域には、例えば、図3(b)に示すようなスパイラル形状の動圧溝8c1が形成される。
ハウジング7は樹脂成形品であり、主に円筒状の側部7aで構成されている。側部7aの上側端面7a1の、スラスト軸受部T1のスラスト軸受面となる領域には、例えば図4に示すようなスパイラル形状の動圧溝7a11が形成される。この動圧溝7a11は、ハウジングの上側端面7a1を成形する金型の表面に動圧溝7a11の成形型を形成しておき、側部7aの成形時に前記成形型の形状を側部7aの上側端面7a1に転写することによって、側部7aの成形と同時に成形される。
また、側部7aの外周には、図2に示すように、上方に向かって漸次拡径するテーパ状の外壁7bが形成されている。このテーパ状の外壁7bは、筒状部9bの内周面9b1との間に、ハウジング7の下端側から上方に向けて半径方向寸法が漸次縮小した環状のシール空間Sを形成する。このシール空間Sは、軸部2およびハブ部9の回転時、スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間の外径側と連通する。
側部7aの下端部には、底部材10が圧入される圧入部7cが形成される。圧入部7cの内周面7c1は軸受スリーブ8が固定される内周面7dよりも大径であり、圧入部7cの肉厚は、その面上の側部7aに比べて薄くなっている。また、ハウジング7の外周(側部7aの外周)は、モータブラケット6の内周に固定される。なおハウジング7は上記のような側部7aと底部材10が別体のものの他に、一体に形成されるものでも構わない。(図示せず)
また、ハウジング7と軸受スリーブ8を樹脂で一体成形し、この部材と、軸部2および軸部2の下端に固定したフランジ部11が対向する領域に動圧発生手段(例えば、動圧溝)を備えた形状であっても構わない。
ハウジング7は樹脂成形品であるが、耐油性、耐吸水性、耐熱性等を考慮して、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフェニルサルフォン(PPSF)、ポリアミドイミド(PAI)等がベース樹脂として使用可能である。
この中でも、特にコスト面や成形時の流動性(粘度)を考慮すると、ポリフェニレンサルファイド(PPS)が好ましい。ところで、ポリフェニレンサルファイド(PPS)は一般的に硫化ナトリウムとパラジクロロベンゼンの重縮合反応により製造されるが、同時に副生成物である塩化ナトリウムを含む。そのため、適当な溶媒を用いてポリフェニレンサルファイド(PPS)を洗浄する必要がある。洗浄するための溶媒としては、少なくとも10以上の比誘電率を有するものであればよく、好ましくは20以上、より好ましくは50以上のものであればなおよい。さらに環境面も考慮すると、例えば水(比誘電率約80)が好ましく、特に超純水が好ましい。このような溶媒で洗浄を行うことにより、主にポリフェニレンサルファイド(PPS)末端基のNaが取り除かれるため、ポリフェニレンサルファイド(PPS)中のNa含有量を低減(例えば、2000ppm以下)させることができ、ハウジング7を形成する樹脂材料として使用可能となる。また、末端基のNaを取り除くことで結晶化速度が速まるメリットも有する。
ポリフェニレンサルファイド(PPS)には、架橋型ポリフェニレンサルファイド(PPS)、側鎖の少ないセミリニア型ポリフェニレンサルファイド(PPS)、更に側鎖の少ないリニア型ポリフェニレンサルファイド(PPS)に大別されるが、この中でも側鎖の少ないリニア型ポリフェニレンサルファイド(PPS)が、分子あたりの分子末端基の数が少なく、Na含有量が少ない点で、より好ましい。また、リニア型ポリフェニレンサルファイド(PPS)は、他タイプのポリフェニレンサルファイド(PPS)に比べて洗浄が容易であり、あるいは、洗浄により含有Naイオン量をほとんど低減する必要がない点でも好ましい材料である。含有イオン濃度でいえば、2000ppm以下のもの、より好ましくは1000ppm、更に好ましくは500ppm以下のものが上記リニア型ポリフェニレンサルファイド(PPS)に該当する。これによれば、潤滑油中へのNaイオン溶出量が抑えられるので、動圧軸受装置1や、回転部材3に保持されたディスク状情報記録媒体、あるいはディスクヘッド(図示せず)表面にNaイオンが析出するのを防ぐことができる。
上記ベース樹脂には、充填材として炭素繊維が配合可能である。これによれば、ハウジング7の高強度化が図られると共に、ハウジング7の温度変化に伴う寸法変化を抑えて高い寸法安定性を得ることができる。この結果、使用時におけるラジアル軸受隙間やスラスト軸受隙間を高精度に制御することが可能となり、軸受性能を確保することができる。また、炭素繊維をベース樹脂に配合することで炭素繊維の持つ高い導電性が発現され、ハウジング7に充分な導電性(例えば体積抵抗で107Ω・cm以下)を持たせることができる。これにより、使用時にディスクに帯電する静電気を回転体3およびハウジング7(さらに軸受スリーブ8を経由する場合もある)を介して接地側部材(モータブラケット6など)に逃がすことができる。
炭素繊維には、例えばPAN系やPich系など種々のものが使用可能であるが、補強効果(成形品に必要とされる引張強度は120MPa)や衝撃吸収性の観点から、比較的高い引張強度(好ましくは3000MPa以上)を有するものが好ましく、特に高い導電性を併せ持つものとしては、PAN系炭素繊維が好ましい。
このPAN系炭素繊維としては、以下の寸法範囲のものを使用することができる。
(1)溶融樹脂を混練して射出成形する際には、炭素繊維が裁断されて短繊維化する。短繊維化が進行すると、強度や導電性等の低下が顕著となり、これらの要求特性を満足することが難しくなる。従って、樹脂に配合する炭素繊維としては、成形時の繊維の折れを見込んで長めの繊維を使用することが好ましく、具体的には平均繊維長100μm以上(より好ましくは1mm以上)の炭素繊維を使用するのが望ましい。
(2)その一方、射出成形工程においては、金型内で硬化した樹脂を取り出し、これを再度溶融させ、バージン樹脂組成物と混練して再使用(リサイクル使用)する場合がある。この場合、一部の繊維は繰返しリサイクルされることになるので、当初の繊維長が長すぎる場合には、リサイクルに伴う裁断により、繊維が当初の繊維長に比べて著しく短くなって、樹脂組成物の特性変化(溶融粘度の低下等)が顕著になる。かかる特性変化を最小限に抑えるため、繊維長はできるだけ短い方が好ましく、具体的には平均繊維長を500μm以下(好ましくは300μm以下)とするのが望ましい。
以上に述べた炭素繊維の繊維長の選択は、実際の射出成形工程で如何なる経歴の樹脂組成物を使用するかによって定めることができる。例えばバージン樹脂組成物のみを使用する場合、あるいはリサイクル樹脂組成物を混合使用する場合で、かつバージン樹脂組成物の比率が多い場合には、強度や導電性等の低下を抑制する観点から、上記(1)で述べた寸法範囲の炭素繊維を使用するのが好ましく、反対にリサイクル樹脂組成物の使用比率が多い場合には、リサイクルに伴う樹脂組成物の特性変化を抑制する観点から、上記(2)で述べた寸法範囲の炭素繊維を使用するのが望ましい。
なお、(1)および(2)の何れの炭素繊維でも、炭素繊維の繊維径が細いほど配合本数が増えるため、製品品質の均一化に有効であり、かつそのアスペクト比が大きいほど繊維補強による補強効果も高まる。従って、炭素繊維のアスペクト比は大きいほど望ましく、具体的には6.5以上のアスペクト比が好ましい。また、その平均繊維径は、作業性や入手性を考慮すると、5〜20μmが適当である。
上述の炭素繊維による補強効果や静電除去効果等を充分に発揮するため、炭素繊維のベース樹脂への充填量は10〜35vol%、より好ましくは15〜25vol%とするのがよい。これは、炭素繊維の充填量が10vol%未満だと、炭素繊維による補強効果や静電除去効果が充分に発揮されない他、他部材との摺動部分におけるハウジング7の耐摩耗性が確保されず、充填量が35vol%を超えると、ハウジング7の成形性が低下し、高い寸法精度を得ることが困難になるためである。
ベース樹脂に炭素繊維等の充填材を配合した樹脂組成物の溶融粘度は、キャビティー内を溶融樹脂で高精度に充填するため、310℃、せん断速度1000s-1において500Pa・s以下に抑えるのがよい。従って、ベース樹脂の溶融粘度は、充填材の充填による粘度増加を補償するためにも、310℃、せん断速度1000s-1において100Pa・s以下であることが好ましい。
このように、ポリフェニレンサルファイド(PPS)をハウジング7のベース樹脂とすれば、高耐油性や低イオン溶出性、低吸水性、高耐熱性を備えたハウジング7が形成されるので、動圧軸受装置1およびこの動圧軸受装置1を組込んだディスク駆動装置の清浄度を高く保つことができる。さらには、PAN系をはじめとする炭素繊維を適量配合した樹脂組成物を、成形型内に射出し、ハウジング7を形成することで、強度、寸法安定性、静電除去性、成形性に優れたハウジング7を得ることができる。
なお、完成品としてのハウジング7は、そのサイズに関係なく使用可能であり、動圧軸受装置1に組込まれた状態で、ハードディスク(HDD)等の磁気ディスク駆動装置用として好適に使用することができる。
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は、この実施形態に限定されるものではない。
例えば、図2では、ハウジングの上側端面7a1とハブ部9の間にスラスト軸受部T1を形成した場合を例示しているが、このスラスト軸受部は底部材10の上側端面10aとフランジ部11の下側端面11bとの間に形成することもできる。また、上記実施形態では、1種類のベース樹脂(ポリフェニレンサルファイド)に炭素繊維を配合したものを説明したが、本発明の効果を妨げるものでない限り、他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂、あるいはゴム成分等の有機物を付加してもよく、また、炭素繊維に加えて金属繊維やガラス繊維、ウィスカ等の無機物を添加しても構わない。例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が離型剤として、カーボンブラックが導電化剤としてそれぞれ添加可能である。
本発明の有用性を明らかにするため、組成の異なる複数の樹脂組成物について、ハウジング7の要求特性に対する評価を行った。ベース樹脂には、1種類がリニア型および2種類が架橋型ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリカーボネイト(PC)の何れかを使用した。また、ベース樹脂に配合する充填材には、図5(a)に示すように、繊維径や繊維長が異なる(アスペクト比が異なる)3種類の炭素繊維(このうち2種類がPAN系、1種類がPich系)のうち何れか一を使用した。これらベース樹脂と充填材(炭素繊維)との組み合わせ、および配合比は図5(b)に示す通りである。
なお、この実施例では、リニア型ポリフェニレンサルファイド(PPS)として大日本インキ化学工業(株)製のLC−5Gを、2種類の架橋型ポリフェニレンサルファイド(PPSNo.1、No.2)としてNo.1から順に大日本インキ化学工業(株)製のT−4、大日本インキ化学工業(株)製のMB−600を、ポリエーテルサルフォン(PES)として住友化学工業(株)製の4100Gを、ポリカーボネイト(PC)として三菱エンジニアリングプラスチック(株)製のS−2000を使用し、2種類のPAN系炭素繊維(No.1、No.2)としてNo.1から順に東邦テナックス(株)製のHM35−C6S、東レ(株)製のMLD−1000を、1種類のPich系炭素繊維(No.1)として三菱化学(株)製のK223NMを使用した。また、この実施例では離型剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を配合しており、具体的には(株)喜多村製のKTL−620を使用した。
評価項目は、供試体の(1)Naイオン含有量[ppm]、(2)Naイオン溶出量[μg/cm2]、(3)体積抵抗[Ω・cm]、(4)耐油性(引張強さ低下率)[%]、(5)リング摩耗深さ[μm]、(6)摺動相手材の摩耗深さ[μm]、の計6項目である。各評価項目の評価方法(評価項目値の測定方法)、および合否判定基準は以下に示す通りである。
(1)Naイオン含有量[ppm]
供試体(樹脂バルク体)を硫酸灰化法で灰化した後、稀塩酸に溶解し、原子吸光分光光度計によりNaイオン濃度を測定した。具体的な手順を以下に示す。(ア)供試体を0.10精秤し、濃硫酸0.3gを白金皿に採取する。(イ)ドラフター内で、供試体を電気加熱セラミック板上にて加熱炭化させ、マッフルを被せて煙が出なくなるまで加熱する。(ウ)白金皿を700℃のマッフル電気炉(高温炉)に移し、さらに40分間加熱することで供試体を完全に灰化させる。(エ)灰化後冷却した供試体に1.2N塩酸10ccを加え灰分を溶解する。(オ)これをポリエチレン製のメスフラスコに移しイオン交換水を加えることで定溶する(調整溶液化)。(カ)Na標準液を所定量に希釈した2次標準液を調整したものを別に用意し、この調整標準液を基に原子吸光分光光度計(データ処理装置を含む)にてNaイオン濃度係数を求める。(キ)上記手順(オ)で準備した調整溶液から原子吸光分光光度計を用いて供試体中の含有Naイオン濃度を測定した。(ク)供試体を変えて3回測定し、その平均値をとる。なお、合否判定基準としては、2000ppm以下を合格(○)、2000ppmを超えるものを不合格(×)とした。
(2)Naイオン溶出量[μg/cm2
インサート成形後の供試体(ハウジング)のNaイオン溶出量をイオンクロマトグラフィを用い測定した。具体的な手順を以下に示す。(ア)空のビーカに超純水を所定量入れ、その中に予め表面積を計算した供試体を投入する。(イ)上記ビーカを超音波洗浄機に一定時間セットし、供試体の表面および内部に含有するイオンを超純水中に溶出させる。他方、供試体を投入しない純水のみ入ったビーカも同様に超音波洗浄機に一定時間セットし、これをブランクとする。このとき用いる超音波洗浄機は周波数30〜50kHz、出力100〜150W程度のものが望ましい。(ウ)上記で準備した、供試体を投入した超純水に含有するNaイオン量を、イオンクロマトグラフィにより測定する(測定値A)。別途ブランクに含有するNaイオン量も同様に測定する(測定値B)。(エ)測定値Aから測定値Bを引いたものを、含供試体超純水1ml当りのNaイオン濃度とし、これにイオン溶出に用いた超純水量を乗算およびサンプルの表面積を除算することで、単位表面積当りのNaイオン溶出量[μg/cm2]とする。なお、合否判定基準としては、0.01μg/cm2以下を合格(○)、0.01μg/cm2を超えるものを不合格(×)とした。
(3)体積抵抗[Ω・cm]
JIS 7194による四探針法により測定を行った。なお、合否判定基準としては、107Ω・cm以下を合格(○)、107Ω・cmを超えるものを不合格(×)とした。
(4)耐油性(引張強さ低下率)[%]
JIS K7113で規定される一号ダンベルを、潤滑油中に浸漬し120℃の恒温槽に投入し、1000hまでの引張強度を100h毎に逐次測定し、試験開始時のサンプルの引張強度からの低下率を求めた。潤滑油には、ジエステル油としてジ(2−エチルヘキシル)アゼレートを使用した。引張強度測定はJIS K7113に規定される方法で行い、低下率は次に示す計算式から算出した。
[(試験開始時の引張強度)−(各測定時間での引張強度)/(試験開始時の引張強度)]×100 [単位:%]
なお、合否判定基準としては、浸漬開始後1000hにおいて、低下率が10%以下を合格(○)、10%を超えるものを不合格(×)とした。
(5)リング摩耗深さ[μm]および
(6)摺動相手材の摩耗深さ[μm]
リング状の供試体を、潤滑油中でディスク状の摺動相手材に所定荷重で押し当てた状態で供試体側を回転させるリングオンディスク試験にて測定した。具体的には、φ21mm(外径)×φ17mm(内径)×3mm(厚み)のリング状樹脂成形体を供試体として使用した。また、表面粗さRa0.04μm、φ30mm(直径)×5mm(厚み)のA5056製のディスク材を摺動相手材として使用した。潤滑油には、ジエステル油としてジ(2−エチルヘキシル)アゼレートを使用した。この潤滑油の40℃における動粘度は、10.7mm2/sである。リングオンディスク試験中、供試体に対する摺動相手材の面圧は0.25MPa、回転速度(周速)は1.4m/min、試験時間は14hours、油温は80℃とした。なお、合否判定基準は、リング摩耗深さについては、3μm以下を合格(○)、3μmを超えるものを不合格(×)とし、摺動相手材の摩耗深さについては、2μm以下を合格(○)、2μmを超えるものを不合格(×)とした。
図6に、各供試体の評価項目(1)〜(6)に関する評価結果を示す。比較例1のように、炭素繊維の配合比が小さいと(<10vol%)、供試体の体積抵抗が不充分であるばかりか、リングの耐摩耗性も確保できない。比較例2のように、炭素繊維の配合比が大きいと(>35vol%)、摺動相手材の耐摩耗性を確保することができない。比較例3のように、架橋型ポリフェニレンサルファイド(PPS)をベース樹脂として使用したものについては、潤滑油等への悪影響を無視できない程度の溶出Naイオンが検出された。比較例4のように、ポリエーテルサルフォン(PES)をベース樹脂としたものについてはリングの耐摩耗性を確保することができない。比較例5のように、ポリカーボネイト(PC)をベース樹脂としたものについては耐油性を満足しないばかりか、リングの耐摩耗性も確保することができない。これに対して、本発明に係る配合例1〜4では、清浄性(Naイオン溶出量)、静電除去性(体積抵抗)、耐油性(引張強さ低下率)、耐摩耗特性(リングおよび相手材の摩耗深さ)等全ての面において、比較例よりも優れた結果が得られた。
本発明の一実施形態に係る動圧軸受装置を組み込んだ情報機器用スピンド ルモータの断面図である。 一実施形態に係る動圧軸受装置の断面図である。 (a)は軸受スリーブの断面図、(b)は軸受スリーブを図3(a)のA 方向から見た図である。 ハウジングを図2のB方向から見た図である。 比較試験に供する供試体の組成である。 ハウジングの要求特性に対する評価結果である。
符号の説明
1 動圧軸受装置
2 軸部
3 回転部材
4 ステータコイル
5 ロータマグネット
6 モータブラケット(保持部材)
7 ハウジング
8 軸受スリーブ
8a1、8a2 動圧溝
8c 下側端面
9 ハブ部
10 底部材
11 フランジ部
R1、R2 ラジアル軸受部
T1、T2 スラスト軸受部

Claims (6)

  1. 内周に、軸部の外周面との間でラジアル軸受隙間を形成する軸受スリーブを固定するためのハウジングであって、HDDに組み込まれ、大気に開放されたシール空間を有する動圧軸受装置を構成し、潤滑油としてのジエステル油と接触して使用されるものにおいて
    リニア型のポリフェニレンサルファイド(PPS)をベース樹脂とし、PAN系の炭素繊維を充填材として含み、Naイオン含有量が2000ppm以下で、溶融粘度が、310℃、せん断速度1000s-1にて500Pa・s以下の樹脂組成物で射出成形され、かつ型成形された動圧溝を有することを特徴とする動圧軸受装置用ハウジング。
  2. 炭素繊維の引張り強度が3000MPa以上である請求項1に記載の動圧軸受装置用ハウジング。
  3. 炭素繊維のアスペクト比が6.5以上である請求項1又は2に記載の動圧軸受装置用ハウジング。
  4. 炭素繊維は、樹脂組成物に10〜35vol%含まれる請求項1〜3の何れか一項に記載の動圧軸受装置用ハウジング。
  5. 請求項1〜の何れか一項に記載の動圧軸受装置用ハウジングと、軸受スリーブと、軸部とを備えた動圧軸受装置。
  6. 請求項記載の動圧軸受装置と、ロータマグネットと、ロータマグネットとの間で磁力を生じるステータコイルとを有することを特徴とするモータ。
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