しかしながら、上記の如き従来の技術では、単一の袋体で構成されたエアバッグによって助手席乗員を拘束する構造であるため、助手席乗員に作用する反力を抑えながら拘束性能を向上することが困難であった。
本発明は、上記事実を考慮して、車室内形状の影響を受けることなく乗員を確実に拘束することができるエアバッグ装置を得ることが目的である。
上記目的を達成するために請求項1記載の発明に係るエアバッグ装置は、車両衝突時に、車体の車幅方向中央からずれて着座する乗員の前方で、乗員拘束用のエアバッグをガス圧によって展開させるエアバッグ装置であって、前記エアバッグは、前記乗員の前方における車幅方向外側部分で展開する第1エアバッグと、前記乗員の前方における車幅方向内側部分で展開する第2エアバッグとを有し、非拘束展開状態で前記第1エアバッグと第2エアバッグとに前記第1エアバッグが相対的に低圧となる内圧差を生じるように構成されることで、車両衝突時に展開して、前部を車体に当接させて衝撃荷重を支持可能な前記第1エアバッグの後部と、前部を車体における前記第1エアバッグの当接部位とは異なる部位に当接させて衝撃荷重を支持可能な前記第2エアバッグの後部とを、乗員に正対させるように構成されている。
請求項1記載のエアバッグ装置では、車両衝突時には、第1エアバッグ及び第2エアバッグがそれぞれガス圧によって乗員の前方で展開する。すなわち、エアバッグは車体と乗員との間で展開し、この乗員を拘束する。乗員の着座位置は、車体の車幅(左右)方向中央に対し左右何れかにずれているので、乗員前方の車体内形状(例えば、フロントウインドシールドガラスの曲率や、ピラーの有無等)は、乗員すなわちエアバッグの左右方向中央に対し非対称形状となっている。
ここで、本エアバッグ装置では、展開中又は展開後の第1エアバッグと第2エアバッグとに内圧差が生じる構成であるため、該第1エアバッグと第2エアバッグとで車体内形状への追従(変形)し易さが非対称とされ、展開されたエアバッグにおける車体の非対称性が吸収される。すなわち、同じ内圧で膨張すれば車体に強く押し付けられる側の第1エアバッグの内圧が第2エアバッグの内圧に比して低くなるように構成されているので、該第1エアバッグが車体に追従して相対的に大きく変形することでエアバッグ全体としての乗員当接部位の対称性(内圧を含む)が確保される。
これにより、本エアバッグ装置のエアバッグは、展開して第1エアバッグの前部及び第2エアバッグの前部が、車体の異なる部分(すなわち非対称形状部分)に当接して衝撃荷重を支持可能な状態で、第1エアバッグの後部と第2エアバッグの後部とが乗員に正対する。このため、乗員は車体に対し衝撃作用方向に沿って移動しながら拘束される。また、この拘束時に乗員(の主に胸部)が第1及び第2のエアバッグ間に確実に入り込むようになるため、乗員に作用する反力を抑えつつ拘束性能を向上することが実現される。乗員の衝撃荷重を確実に支持するために、第1及び第2のエアバッグは乗員側にて互いに離間しないように(離間量を制限するように)、直接的に又は連結部材を介して連結されていることが望ましい。
このように、請求項1記載のエアバッグ装置では、車室内形状の影響を受けることなく乗員を確実に拘束することができる。なお、第1エアバッグの後部と第2エアバッグの後部とが乗員に対し正対するとは、第1エアバッグの後部(後端部)と第2エアバッグの後部(後端部)とが乗員における左右対称部位(例えば、両肩等)にほぼ同時に当接するように、第1及び第2エアバッグの後部の前後位置がほぼ一致する状態(当接前の状態か、現に当接している状態かは問わない)を言う。また、第1及び第2エアバッグの前部は、乗員に当接する後部に対し前側に位置して、乗員よりも車両前方で車体に当接する部分、換言すれば、第1及び第2のエアバッグが後部に入力される乗員からの前後方向の衝突荷重を支持可能に車体に当接する部分を意味し、前端部には限られず、例えば、傾斜したフロントウインドシールドガラスの前端近傍から後端近傍までの部分に当接する第1及び第2エアバッグの上部(上前部)等を含む概念である。
請求項2記載の発明に係るエアバッグ装置は、請求項1記載のエアバッグ装置において、前記第1エアバッグと第2エアバッグとは、それぞれガスを排出するための圧力逃し部を有しており、前記第1エアバッグに設けた圧力逃し部のガス排出抵抗を前記第2エアバッグに設けた圧力逃し部のガス排出抵抗よりも小とした。
請求項2記載のエアバッグ装置では、エアバッグの展開中又は展開後において、第1エアバッグの圧力逃し部から抜け出るガス量が第2エアバッグの圧力逃し部から抜け出るガス量よりも大であるため、乗員の前方における車幅方向外側部分で展開する第1エアバッグの内圧が低くなる。第1エアバッグは、例えばフロントウインドシールドガラスの外端近傍に当接するが、内圧が低いために当接部位がフロントウインドシールドガラスに倣うように変形し、後方にずれたり、後部を車幅方向内側に移動させたりすることが防止される。
請求項3記載の発明に係るエアバッグ装置は、請求項2記載のエアバッグ装置において、前記第1エアバッグと第2エアバッグとは、それぞれガスを排出するための逃し孔を有しており、前記第1エアバッグに設けた逃し孔の面積を前記第2エアバッグに設けた逃し孔の面積よりも大とした。
請求項3記載のエアバッグ装置では、第1及び第2エアバッグが圧力逃し部としてそれぞれ逃し孔を有し、第1エアバッグの逃し孔の面積を第2エアバッグの逃し孔の面積よりも大とすることで、第1エアバッグのガス排出抵抗(係数)を第2エアバッグのガス排出抵抗よりも小としている。例えば、各逃し孔が円形である場合、径寸法によって両逃し孔の面積(ガス排出抵抗の大小)を容易に異ならせることができる。
請求項4記載の発明に係るエアバッグ装置は、請求項1記載のエアバッグ装置において、前記第1エアバッグに供給するガス量及び前記第2エアバッグに供給するガス量を、前記第1エアバッグと前記第2エアバッグとに内圧差が生じるように設定してある。このエアバッグ装置では、第1エアバッグに供給するガス量及び第2エアバッグに供給するガス量の設定によって、第1、第2のエアバッグに内圧差が生じ、車体の非対称性が吸収される。すなわち、仮にある供給ガス量で膨張すれば車体に強く押し付けられる側の第1又は第2エアバッグへの供給ガス量を制限しておけば、このエアバッグが車体に追従して変形することでエアバッグ全体としての乗員当接部位の対称性が確保される。このため、第1及び第2エアバッグの各後部が乗員に正対する。
請求項5記載の発明に係るエアバッグ装置は、請求項1又は請求項4記載のエアバッグ装置において、前記第1エアバッグと第2エアバッグとは、非拘束でかつ同等のガス量で展開させた場合に対称的に展開するように形成されており、車両衝突時に前記第1エアバッグに供給されるガス量が第2エアバッグに供給されるガス量よりも少ない設定とされている。このエアバッグ装置では、それぞれ車体等にて拘束する(車体に当接させる)ことなく同じガス量で展開させた場合に対称的に展開する(すなわち、ガス容量が同等である)第1エアバッグ及び第2エアバッグへのガス供給量が異なるため、ガス供給量の少ない第1エアバッグは、第2エアバッグに対し内圧が低くなる。このため、第1エアバッグは、例えばフロントウインドシールドガラスの外端近傍に当接するが、該当接部位がフロントウインドシールドガラスに倣うように変形し、後方にずれたり、後部を車幅方向内側に移動させたりすることが防止される。
請求項6記載の発明に係るエアバッグ装置は、請求項5記載のエアバッグ装置において、前記第1エアバッグと第2エアバッグとは、共通のガス供給装置からガスが供給されるようになっており、前記ガス供給装置と前記第1エアバッグとを連通する第1ガス供給口の開口面積が、前記ガス供給装置と前記第2エアバッグとを連通する第2ガス供給口の開口面積よりも小である。このエアバッグ装置では、第1エアバッグと第2エアバッグとで、ガス供給装置からのガスが供給される(流入する)ガス供給口の開口面積(例えば、直径)を異ならせることで、ガス供給量が異なっている。このため、共通のガス供給装置によって容易に第1、第2エアバッグへのガス供給量(内圧差)を設定することが可能である。
また、以下の態様のエアバッグ装置が考えられる。
第1の態様に係るエアバッグ装置は、車両衝突時に、車体の車幅方向中央からずれて着座する乗員の前方で、乗員拘束用のエアバッグをガス圧によって展開させるエアバッグ装置であって、前記エアバッグは、前記乗員の前方における車幅方向外側部分で展開する第1エアバッグと、前記乗員の前方における車幅方向内側部分で展開する第2エアバッグとを有し、車両衝突時に展開して、前部を車体に当接させて衝撃荷重を支持可能な前記第1エアバッグの後部と、前部を車体における前記第1エアバッグの当接部位とは異なる部位に当接させて衝撃荷重を支持可能な前記第2エアバッグの後部とを、乗員に正対させるように構成されている。
このエアバッグ装置では、車両衝突時には、第1エアバッグ及び第2エアバッグがそれぞれガス圧によって乗員の前方で展開する。すなわち、エアバッグは車体と乗員との間で展開し、この乗員を拘束する。乗員の着座位置は、車体の車幅(左右)方向中央に対し左右何れかにずれているので、乗員前方の車体内形状(例えば、フロントウインドシールドガラスの曲率や、ピラーの有無等)は、乗員すなわちエアバッグの左右方向中央に対し非対称形状となっている。ここで、エアバッグは、展開して第1エアバッグの前部及び第2エアバッグの前部が、車体の異なる部分(すなわち非対称形状部分)に当接して衝撃荷重を支持可能な状態で、第1エアバッグの後部と第2エアバッグの後部とが乗員に正対するため、乗員は車体に対し衝撃作用方向に沿って移動しながら拘束される。また、この拘束時に乗員(の主に胸部)が第1及び第2のエアバッグ間に確実に入り込むようになるため、乗員に作用する反力を抑えつつ拘束性能を向上することが実現される。乗員の衝撃荷重を確実に支持するために、第1及び第2のエアバッグは乗員側にて互いに離間しないように(離間量を制限するように)、直接的に又は連結部材を介して連結されていることが望ましい。
このように、上記態様のエアバッグ装置では、車室内形状の影響を受けることなく乗員を確実に拘束することができる。なお、第1エアバッグの後部と第2エアバッグの後部とが乗員に対し正対するとは、第1エアバッグの後部(後端部)と第2エアバッグの後部(後端部)とが乗員における左右対称部位(例えば、両肩等)にほぼ同時に当接するように、第1及び第2エアバッグの後部の前後位置がほぼ一致する状態(当接前の状態か、現に当接している状態かは問わない)を言う。また、第1及び第2エアバッグの前部は、乗員に当接する後部に対し前側に位置して、乗員よりも車両前方で車体に当接する部分、換言すれば、第1及び第2のエアバッグが後部に入力される乗員からの前後方向の衝突荷重を支持可能に車体に当接する部分を意味し、前端部には限られず、例えば、傾斜したフロントウインドシールドガラスの前端近傍から後端近傍までの部分に当接する第1及び第2エアバッグの上部(上前部)等を含む概念である。
また、第2の態様に係るエアバッグ装置は、車両衝突時に、車体の車幅方向中央からずれて着座する乗員の前方で、乗員拘束用のエアバッグをガス圧によって展開させるエアバッグ装置であって、前記エアバッグは、前記乗員の前方における車幅方向外側部分で展開する第1エアバッグと、前記乗員の前方における車幅方向内側部分で展開する第2エアバッグとを有し、車両衝突時に前記第1エアバッグと前記第2エアバッグとを非対称に展開させることで、車体における前記第1エアバッグが当接する部分の形状と第2エアバッグが当接する部分の形状との非対称性を吸収させ、該第1エアバッグの後部と第2エアバッグの後部とが乗員に正対するようにしても良い。
このエアバッグ装置では、車両衝突時には、第1エアバッグ及び第2エアバッグがそれぞれガス圧によって乗員の前方で展開する。すなわち、エアバッグは車体と乗員との間で展開し、この乗員を拘束する。乗員の着座位置は、車体の車幅(左右)方向中央に対し左右何れかにずれているので、乗員前方の車体内形状(例えば、フロントウインドシールドガラスの曲率や、ピラーの有無等)は、乗員すなわちエアバッグの左右方向中央に対し非対称形状となっている。ここで、エアバッグを構成する第1エアバッグと第2エアバッグとが非対称に展開することで、車体における第1エアバッグが当接する部分の形状と第2エアバッグが当接する部分の形状との乗員すなわちエアバッグに対する非対称性(以下、単に車体の非対称性という)を吸収し、これにより第1エアバッグの後部(後端)と第2エアバッグの後部(後端)とが乗員に対し左右対称に当接するため、乗員は車体に対し衝撃作用方向に沿って移動しながら拘束される。また、この拘束時に乗員(の主に胸部)が左右のエアバッグ間に確実に入り込むようになるため、乗員に作用する反力を抑えつつ拘束性能を向上することが実現される。乗員の衝撃荷重を確実に支持するために、第1及び第2のエアバッグは乗員側にて互いに離間しないように(離間量を制限するように)、直接的に又は連結部材を介して連結されていることが望ましい。
このように、上記態様のエアバッグ装置では、車室内形状の影響を受けることなく乗員を確実に拘束することができる。なお、請求項2における非対称に展開するとは、展開後の形状や位置が非対称であることの他、展開過程で形状や展開程度(展開完了時間)を異ならせること等を含む概念である。また、第1エアバッグの後部と第2エアバッグの後部とが乗員に対し正対するとは、第1エアバッグの後部(後端部)と第2エアバッグの後部(後端部)とが乗員における左右対称部位(例えば、両肩等)にほぼ同時に当接するように、第1及び第2エアバッグの後部の前後位置がほぼ一致する状態(当接前の状態か、現に当接している状態かは問わない)を言う。
第3の態様に係るエアバッグ装置は、第1又は第2の態様において、前記エアバッグは、非拘束展開状態における前記第1エアバッグの容積と第2エアバッグの容積とを異ならせている構成としても良い。このエアバッグ装置では、非拘束展開状態(例えば車載前の自由状態で展開させた状態)における第1エアバッグ及び第2エアバッグの容積を異ならせておくことで、車体の非対称性が吸収され、第1及び第2エアバッグの各後端が乗員に正対する。
第4の態様に係るエアバッグ装置は、第1〜第3の何れかの態様のエアバッグ装置において、前記エアバッグは、非拘束展開状態で、前記第1エアバッグと第2エアバッグとが平面視で非対称形状になるように形成されている構成としても良い。このエアバッグ装置では、非拘束展開状態における第1エアバッグ及び第2エアバッグの平面視形状が非対称になるようにエアバッグを形成しておくことで、車体の非対称性が吸収され、第1及び第2エアバッグの各後部が乗員に正対する。なお、本請求項4におけるエアバッグには、第1エアバッグ及び第2エアバッグの平面断面視における形状が非対称になる(側面視形状が異なる)ように形成されたものも含む。
第5の態様に係るエアバッグ装置は、第1〜第4の何れかの態様のエアバッグ装置において、前記エアバッグは、非拘束展開状態で、前記第1エアバッグの方が第2エアバッグよりも車体前後方向に沿う荷重支持部長さが短くなる形状に形成されている構成としても良い。このエアバッグ装置では、乗員の前方における車幅方向外側部分で展開する第1エアバッグは、例えばフロントウインドシールドガラスにおける車幅方向中央部よりも大きく後方に廻り込むように曲率が大きくなる車幅方向外端の近傍部分(以下、フロントウインドシールドガラスの外端近傍という)に当接する。この第1エアバッグは、第2エアバッグよりも荷重支持部長さ、すなわち車体に当接する部分(前部)と乗員に当接する部分(後部)との間の前後方向に沿う距離が短いため、その後部位置を第2エアバッグの後部位置に略一致させることができる。すなわち、例えば非拘束展開状態における第1エアバッグ前部の位置が第2エアバッグ前部の位置と前後方向で略一致している構成では、第1エアバッグがフロントウインドシールドガラスの外端近傍に当接して全体として後方へ位置ずれし、該第1エアバッグの後部位置を第2エアバッグの後部位置に略一致する。また例えば、非拘束展開状態における第1エアバッグ前部の位置が第2エアバッグ前部の位置よりも後方に位置している構成では、第1エアバッグの後方へのずれ量が制限され、該第1エアバッグの後部位置を第2エアバッグの後部位置に略一致する。後者の例では、非拘束展開状態で第1及び第2エアバッグの後部位置が一致するように、エアバッグを形成しておくことも可能である。以上により、第1エアバッグが第2エアバッグに対して後方に位置ずれして乗員に当接することが防止される。
第6の態様に係るエアバッグ装置は、第1〜第5の何れかの態様のエアバッグ装置において、前記エアバッグは、非拘束展開状態で、前記第1エアバッグと第2エアバッグとが車両前方から見て非対称になるように形成されている構成としても良い。このエアバッグ装置では、それぞれ非拘束展開状態における第1エアバッグ及び第2エアバッグの車体前方(乗員とは反対側)から見た形状が異なるようにエアバッグを形成しておくことで、車体におけるエアバッグの前部が当接する部分の非対称性が吸収される。このため、第1及び第2エアバッグの各後部が乗員に正対する。
第7の態様に係るエアバッグ装置は、第1〜第6の何れかの態様のエアバッグ装置において、前記エアバッグは、非拘束展開状態で、前記第1エアバッグの方が第2エアバッグよりも上端の位置が低くなるように形成されている構成としても良い。このエアバッグ装置では、乗員の前方における車幅方向外側部分で展開しようとする第1エアバッグの上前方に、例えば全体として後傾するフロントウインドシールドガラスの外端近傍が位置する。ここで、第1エアバッグの上端が第2エアバッグの上端よりも低くなるようにエアバッグが形成されているため、第1エアバッグ前部の上部が上記フロントウインドシールドガラスの外端近傍に強く押し付けられることが防止される。このため、第1エアバッグは、後部が前部よりも車幅方向内側に位置するように移動する(押し込まれて傾斜する)ことが防止され、エアバッグ全体として適正な姿勢で乗員を拘束することができる。
第8の態様に係るエアバッグ装置は、第7の態様のエアバッグ装置において、前記エアバッグは、前記第1エアバッグの方が第2エアバッグよりも上下方向の展開高さが低くなる形状に形成されている構成としても良い。このエアバッグ装置では、第1エアバッグの上下高さが第2エアバッグの上下高さよりも低いため、第1エアバッグは、上記の通り後部が前部よりも車幅方向内側に位置するように移動することが防止され、また下端の高さ(上下方向の位置)を第2エアバッグの下端の高さに一致させることができる。
第9の態様に係るエアバッグ装置は、第7の態様のエアバッグ装置において、前記エアバッグは、非拘束状態で対称形状に展開するように形成された前記第1エアバッグと第2エアバッグとを、展開状態で前記第1エアバッグの上下方向中央部が第2エアバッグの上下方向中央部に対し下方にオフセットするように、互いに連結して構成されている構成としても良い。このエアバッグ装置では、非拘束展開状態で、第1エアバッグの上下方向中央の高さ(上下方向の位置)が、第2エアバッグの上下方向中央の高さよりも低位になるように、第1エアバッグと第2エアバッグとが連結されているため、対称形状の第1及び第2のエアバッグを用いて、上記の通り後部を前部よりも車幅方向内側に位置するように移動することを防止することができる。
さらに、第10の態様に係るエアバッグ装置は、上記第1又は第2の態様のエアバッグ装置において、前記第1エアバッグに供給するガス量及び前記第2エアバッグに供給するガス量を、前記第1エアバッグと前記第2エアバッグとが非対称に展開するように設定してある構成としても良い。このエアバッグ装置では、第1エアバッグに供給するガス量及び第2エアバッグに供給するガス量の設定によって、車体の非対称性が吸収される。すなわち、仮にある供給ガス量で膨張すれば車体に強く押し付けられる側の第1又は第2エアバッグへの供給ガス量を制限しておけば、このエアバッグが車体に追従して変形することでエアバッグ全体としての乗員当接部位の対称性が確保される。このため、第1及び第2エアバッグの各後部が乗員に正対する。
第11の態様に係るエアバッグ装置は、第10の態様のエアバッグ装置において、前記第1エアバッグと第2エアバッグとは、非拘束でかつ同等のガス量で展開させた場合に対称的に展開するように形成されており、車両衝突時に前記第1エアバッグに供給されるガス量が第2エアバッグに供給されるガス量よりも少ない設定とされている構成としても良い。このエアバッグ装置では、それぞれ車体等にて拘束する(車体に当接させる)ことなく同じガス量で展開させた場合に対称的に展開する(すなわち、ガス容量が同等である)第1エアバッグ及び第2エアバッグへのガス供給量が異なるため、ガス供給量の少ない第1エアバッグは、第2エアバッグに対し内圧が低くなる。このため、第1エアバッグは、例えばフロントウインドシールドガラスの外端近傍に当接するが、該当接部位がフロントウインドシールドガラスに倣うように変形し、後方にずれたり、後部を車幅方向内側に移動させたりすることが防止される。
第12の態様に係るエアバッグ装置は、第11の態様のエアバッグ装置において、前記第1エアバッグと第2エアバッグとは、共通のガス供給装置からガスが供給されるようになっており、前記ガス供給装置と前記第1エアバッグとを連通する第1ガス供給口の開口面積が、前記ガス供給装置と前記第2エアバッグとを連通する第2ガス供給口の開口面積よりも小である構成としても良い。このエアバッグ装置では、第1エアバッグと第2エアバッグとで、ガス供給装置からのガスが供給される(流入する)ガス供給口の開口面積(例えば、直径)を異ならせることで、ガス供給量が異なっている。このため、共通のガス供給装置によって容易に第1、第2エアバッグへのガス供給量(内圧差)を設定することが可能である。
以上説明したように本発明に係るエアバッグ装置は、車室内形状の影響を受けることなく乗員を確実に拘束することができるという優れた効果を有する。
先ず、本発明の参考例に係る助手席用エアバッグ装置について説明し、その後、本発明の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置について説明することとする。なお、以下の説明において前後左右の方向を用いて説明するときは、車載状態での乗員から見た前後左右上下方を示すものとし、また各図に適宜示す矢印FRは前方向、矢印UPは上方向、矢印LEは左方向をそれぞれ示している。
(第1参考例)
第1参考例に係る助手席用エアバッグ装置10について、図1〜図4に基づいて説明する。図1には、車載前の助手席用エアバッグ装置10の展開状態における該略全体構成が平面図にて示されている。また、図3には、助手席用エアバッグ装置10が適用された自動車40におけるエアバッグ展開直後の助手席42廻りの様子が斜視図にて示されており、図4には、助手席用エアバッグ装置10による助手席乗員の拘束状態が模式的な側面図にて示されている。図2に示される如く、この参考例では、助手席42は、自動車40の車体の車幅方向中央から左方にオフセットして配置されている。以下の説明では、助手席42の着座車を乗員Pという。
図1に示される如く、助手席用エアバッグ装置10は、ガス発生装置であるガス供給装置としてのインフレータ12と、インフレータ12から供給されるガスによって膨張展開する袋体としてのエアバッグ14とを備えている。インフレータ12は、内部にイグナイタ、着火剤、ガス発生剤(燃焼してガスを発生するもの、又は燃焼して圧縮不活性ガスの流路を開放するもの)等を収容して構成されている。インフレータ12は、図示しない衝突センサが衝突(前突)時に発する信号によってイグナイタに通電されると、着火剤がイグナイタによって点火され、ガス発生剤が燃焼して多量のガスを発生するようになっている。
エアバッグ14は、左右一対とされた第1エアバッグ16及び第2エアバッグ18を備えている。第1エアバッグ16及び第2エアバッグ18は、それぞれ袋状に形成されており、前端側に形成された開口部から供給される(流入する)ガスによって膨張展開し、後端側に当接する乗員Pの上体を支持するようになっている。この参考例では、乗員Pの前方左側(車幅方向外側)で展開する第1エアバッグ16と、乗員Pの前方右側で展開する第2エアバッグ18とが、エアバッグ14の左右方向中心線CLに対し非対称形状に形成されている。以下、具体的に説明する。
第1エアバッグ16は、図1に示される如く、平面視で略長円状に形成されると共に、図3に示される如く側面視では後端側が前端側よりも上下に大となる形状に形成されている。一方、中心線CLに対して第1エアバッグ16とは反対側に設けられている第2エアバッグ18は、図1に示される如く平面視で略長円状に形成されると共に、側面視では後端側が前端側よりも上下に大となる形状に形成されている。また、図示は省略する(第2参考例の図6が参考となる)が、第1エアバッグ16及び第2エアバッグ18における車体前後方向との直交面に沿う前後方向各部の断面は、それぞれ長径方向が上下方向に沿う略楕円形状とされている。
そして、図1に示される如く、車載前に非拘束で展開させた第1エアバッグ16は、車体前後方向に沿う長さL1が第2エアバッグ18の車体前後方向に沿う長さL2よりも小とされている。すなわち、エアバッグ14は、第1エアバッグ16と第2エアバッグ18との前端位置を略一致させると共に、非拘束展開状態では第1エアバッグ16が第2エアバッグよりも前後方向に短くなるように形成されている。
この第1エアバッグ16と第2エアバッグ18との長さの差ΔLは、乗員P(エアバッグ14の左右方向中心線CL)に対するフロントウインドシールドガラス44(図4参照)の非対称性を吸収するように決められている。具体的には、フロントウインドシールドガラス44は、車幅方向端部で中央部より大きく後方に廻り込むように該端部で曲率が大きくなる形状とされているため、助手席用エアバッグ装置10は、車幅方向外側部分の方が内側部分よりもフロントウインドシールドガラス44との前後方向、上下方向の距離が小となる構成とされている。このため、車室内で展開する第1エアバッグ16は、第2エアバッグ18よりもフロントウインドシールドガラス44に近接しているため、フロントウインドシールドガラス44に当接すると第2エアバッグ18に対し所定量だけ後方に位置ずれしようする構成とされる。そして、この参考例では、第1エアバッグ16の第2エアバッグ18に対する後方へのずれ量が、上記第1エアバッグ16と第2エアバッグ18との長さの差ΔLとして設定されている。
また、エアバッグ14は、第1エアバッグ16と第2エアバッグ18とにインフレータのガスを供給するためのガス供給部20を備えている。ガス供給部20は、展開した第1エアバッグ16及び第2エアバッグ18の前端近傍の下部間に位置するように配設されており(図4参照)、左端が第1エアバッグ16における展開状態で略右側を向く内側壁に連通すると共に、右端が第2エアバッグ18における展開状態で略左側を向く内側壁に連通している。エアバッグ14は、ガス供給部20内にインフレータ12のガス吹出口を位置させた状態で、該インフレータ12と共にモジュールケース(リテーナ)22に固定されて助手席用エアバッグ装置10(の主として機械部分)を構成している。この助手席用エアバッグ装置10は、図2及び図3に示される如く助手席42前方のインストルメントパネル48内に配設されている。
以上により、エアバッグ14は、ガス供給部20を経由して第1エアバッグ16、第2エアバッグ18内にそれぞれインフレータのガスが供給されると、該第1エアバッグ16及び第2エアバッグ18がそれぞれ展開する構成とされている。この参考例では、第1エアバッグ16の後端16Aが乗員Pの左肩部に当接し、第2エアバッグ18の後端18Aが乗員Pの右肩に当接する構成とされている。なお、第1及び第2エアバッグ16、18の後端16A、18Aは、それぞれのエアバッグ16、18の乗員との当接(荷重支持)部位における水平面に沿う断面視における後端であり、第1及び第2エアバッグ16、18の乗員との当接範囲(上下方向の当接範囲)の各後端を結ぶ後縁として把握することも可能な概念である。したがって、第1及び第2エアバッグ16、18の展開状態で最も後方に位置する端部と後端16A、18Aが一致しない場合もありえる。また、この後端の概念は、後述する他の参考例、本発明の実施形態においても共通する。
また、図1に示される如く、第1エアバッグ16、第2エアバッグ18には、それぞれ左右方向外側に向けてガス抜き孔であるベントホール24、26が設けられている。
さらに、エアバッグ14は、膨張規制用のストラップ28、30、及び左右のエアバッグ16、18の連結用の連結部材としてのストラップ32を備えている。ストラップ28、30は、それぞれ第1エアバッグ16、第2エアバッグ18内に設けられ、該第1エアバッグ16、第2エアバッグ18における展開時に左右の側壁部を構成する部分間に掛け渡されている。このストラップ28、32の張力によって第1エアバッグ16、第2エアバッグ18の膨張量(左右方向の膨張幅)が規制されるようになっている。そして、左右のエアバッグ16、18は、ストラップ32にて連結されている。ストラップ32は、第1エアバッグ16と第2エアバッグ18との外面間におけるストラップ28、30の端部間に設けられており、その両端が第1エアバッグ16、第2エアバッグ18に縫い付けられている。このストラップ32が膨張展開時に左右のエアバッグ16、18の後端同士が互いに離間する(後端間の間隔が広がる)ことを防止する構成である。
このストラップ32は、上記第1エアバッグ16と第2エアバッグ18とが、長さの差ΔLの一部の長さだけ前後にずれる動作を許容するようになっている。すなわち、ストラップ32にて第1及び第2エアバッグ16、18が連結されたエアバッグ14は、ストラップ32の張力による拘束で現実には図1の如き展開状態を取ることはない構成とされている。すなわち、上記非拘束展開状態は、ストラップ32による拘束も排除して第1及び第2エアバッグ16、18が展開した状態であり、エアバッグ14は、展開しながらフロントウインドシールドガラス44に当接して、後端16A、18Aの前後位置を一致するように非対称性が矯正されるようになっている。これにより、膨張展開時に左右のエアバッグ16、18の後端同士が互いに離間する離間幅も確実に制限される構成である。なお、例えばフロントウインドシールドガラス44の形状が比較的フラットに近い構成では、長さの差ΔLが小さいので、第1及び第2エアバッグ16、18が長さの差ΔL分だけ前後にずれる動作を許容する長さを有するストラップ32を用いることも可能である。
以上により、展開状態のエアバッグ14は、図1に示される如く第1エアバッグ16と第2エアバッグ18とが前後方向の中央部で互いに接触しており、これらの後端16A、18A間に隙間Sが形成される構成である。また、上記ストラップ32が第1エアバッグ16、第2エアバッグ18を連結していることにより、エアバッグ14は、第1及び第2エアバッグ16、18の後端16A、18Aが当接する乗員Pによって前方に押圧された状態でも、該第1及び第2エアバッグ16、18におけるストラップ32の前方部分同士が接触する状態が維持され、これらの後端16A、18Aが互いに離間することが防止される構成である。
次に、第1参考例の作用を説明する。
上記構成の助手席用エアバッグ装置10では、自動車40が前突に至ると、衝突センサからの信号によってインフレータ12がガスを発生し、このガスはガス供給部20からエアバッグ14内に供給される。これにより、エアバッグ14では、内部にガスが供給された第1エアバッグ16及び第2エアバッグ18がそれぞれ膨張展開する。第1及び第2エアバッグ16、18の各前端は、車体を構成するフロントウインドシールドガラス44(及びフロントピラー46)に当接して乗員Pの荷重を支持可能な状態となっている。
乗員Pの上体が慣性によって助手席42に対し前方に移動すると、乗員Pは、左右の肩部をそれぞれ第1エアバッグ16の後端16A、第2エアバッグ18の後端18Aに当接しつつ該第1エアバッグ16、第2エアバッグ18を前方に押圧して(フロントウインドシールドガラス44に押し付けて)潰し、衝撃が吸収される。この衝撃吸収過程で、乗員Pの胸部は、ガス圧が作用しない第1エアバッグ16と第2エアバッグ18との後端16A、18A間の隙間Sに入り込み、衝撃吸収に伴い作用する反力すなわち衝撃荷重が緩和される。また、乗員Pの肩部が第1エアバッグ16、第2エアバッグ18を押圧するのに伴って各ベントホール24、26からガスが排出され、衝撃吸収過程で乗員Pの両肩部に作用する反力が増大することが防止される。
ここで、助手席用エアバッグ装置10では、エアバッグ14を構成する第1エアバッグ16と第2エアバッグ18とが、非拘束で展開する図1の状態では互いに非対称形状とされており、車載されて展開した状態では車室内形状の非対称性を吸収することができる。具体的には、エアバッグ14は、第2エアバッグ18と前端位置を略一致させた第1エアバッグ16の長さL1が第2エアバッグ18の長さL2よりも短いため、上記の如く湾曲しているフロントウインドシールドガラス44の乗員Pに対する左右の非対称性を吸収して、展開状態における第1エアバッグ16の後端16A、第2エアバッグ18の後端18Aの前後位置を略一致させることが実現された。
これにより、助手席用エアバッグ装置10では、エアバッグ14の後端16A、18Aを乗員Pに正対させて該乗員Pを適正な姿勢で拘束しつつ衝撃吸収を行うことができる。図2に想像線にて示される如く、非拘束状態で第2エアバッグ18と対称形状に展開する第1エアバッグを備えた比較例では、第1エアバッグの後端が第2エアバッグの後端よりも大きく後方に突出することがわかる。このため、比較例では、第1エアバッグが先に乗員Pに当接するために該乗員Pを不安定な姿勢で拘束したり、第1エアバッグ18のみが乗員の衝撃荷重を支持して該第2エアバッグ18が座屈したりすることが懸念されるが、助手席用エアバッグ装置10では、上記の如く項端16A、18Aの前後方向位置を一致させるため、比較例のような問題が生じることが防止されている。
このように、第1参考例に係る助手席用エアバッグ装置10では、フロントウインドシールドガラス44やフロントピラー46等にて規定される車室内形状の非対称性の影響を受けることなく乗員Pを確実に拘束することができる。
次に、本発明の他の参考例を説明する。なお、上記第1参考例又は前出の構成と基本的に同一の部品・部分については、上記第1参考例又は前出の構成と同一の符号を付して説明及び図示を省略する場合がある。
(第2参考例)
図5には、本発明の第2参考例に係る助手席用エアバッグ装置50が側面図にて示されており、図6には、助手席用エアバッグ装置50を構成するエアバッグ52の車体前後方向との直交面に沿う断面図が示されている。これらの図に示される如く、エアバッグ52は、車載前の展開状態で上端位置が第2エアバッグ18の上端位置よりも低位になる第1エアバッグ54を備える点で、第1エアバッグ16を備えるエアバッグ14とは異なる。この参考例では、第1エアバッグ54と第2エアバッグ18とは、車載前の展開状態で、前後方向の各部において下端の高位が略一致すると共に後端54A、18Aの前後方向の位置が略一致する構成とされている。
図6に示される如くエアバッグ52は、第1エアバッグ54の車体上下方向に沿う高さH1と、第2エアバッグ18の車体上下方向に沿う高さH2とが異なる、乗員側(又は乗員と反対側である前側から)見て中心線CLに対し非対称な形状に形成されている。そして、図5に示される如く、第1エアバッグ54は、前後方向の略全長に亘り第2エアバッグ18対し上端位置が低位になるように形成されている。すなわち、第1エアバッグ54は、前後方向の各部において第2エアバッグ18に対する高さの差ΔHが設定されるだけでなく、その後端54Aと上縁54Bとを結ぶ水平面に沿う長さL3が、第2エアバッグ18における同高位での後端18Aと上縁18Bとを結ぶ水平面に沿う長さL4よりも短い構成とされている。これらの長さL3、L4の差が、本発明における第1及び第2エアバッグの荷重支持部長さの差に相当する。
これにより、第1エアバッグ54の上縁54Bは、第2エアバッグ18の上縁18Bに対して、同高位の部分が車体後方側に位置するように形成されている。この参考例では、エアバッグ52は、上縁18Bと上縁54Bとを含む面がフロントウインドシールドガラス44の内面形状に倣うように形成されている。助手席用エアバッグ装置50の他の構成は、助手席用エアバッグ装置10の対応する構成と同じである。
第2参考例に係る助手席用エアバッグ装置50では、自動車40が前突に至ると、衝突センサからの信号によってインフレータ12がガスを発生し、このガスはガス供給部20からエアバッグ52内に供給され、第1エアバッグ54及び第2エアバッグ18がそれぞれ膨張展開する。図7に示す如く、第1及び第2エアバッグ54、18の各前端は、車体を構成する示すフロントウインドシールドガラス44(及びフロントピラー46)に当接して乗員Pの荷重を支持可能な状態となっている。
乗員Pの上体が慣性によって助手席42に対し前方に移動すると、乗員Pは、左右の肩部をそれぞれ第1エアバッグ54の後端54A、第2エアバッグ18の後端18Aに当接しつつ該第1エアバッグ54、第2エアバッグ18を前方に押圧して(フロントウインドシールドガラス44に押し付けて)潰し、衝撃が吸収される。この衝撃吸収過程で、乗員Pの胸部は、ガス圧が作用しない隙間Sに入り込み、衝撃吸収に伴い作用する反力すなわち衝撃荷重が緩和される。また、乗員Pの肩部が第1エアバッグ54、第2エアバッグ18を押圧するのに伴って各ベントホール24、26からガスが排出され、衝撃吸収過程で乗員Pの両肩部に作用する反力が増大することが防止される。
ここで、助手席用エアバッグ装置50では、エアバッグ52を構成する第1エアバッグ54と第2エアバッグ18とが、非拘束で展開する図1の状態では互いに非対称形状とされており、車載されて展開した状態では車室内形状の非対称性を吸収することができる。具体的には、エアバッグ52は、車両側面視において、第2エアバッグ18よりも車幅方向外側に位置する第1エアバッグ54の上縁54Bが、第2エアバッグ18の上縁18Bに対し同高位の部分に対し後方に位置する(前後方向の同じ位置では低位である)ため、換言すれば、上縁18B、54Bを滑らかに結ぶ仮想面がフロントウインドシールドガラス44の湾曲形状に略対応するため、第1エアバッグ4が第2エアバッグ18よりもフロントウインドシールドガラス44に強く押し付けられることが防止される。
これにより、第1エアバッグ54は、前端側をフロントウインドシールドガラス44に当接した状態でも、第2エアバッグ18に対し後方に位置ずれすることが防止される。また、第1エアバッグ54は、フロントウインドシールドガラス44における車幅方向内側部分よりも車室内を向くように湾曲している車幅方向外側部分に強く押し付けられることがないため、後端54Aを前端よりも車幅内方向に位置させるように車体前後方向に対し傾斜して展開してしまうことがない。
このため、助手席用エアバッグ装置50では、車載状態で展開した際にもエアバッグ52の左右の後端54A、18Aの車体前後方向における位置が略一致した状態が維持され、該後端54A、18Aを乗員Pに正対させて該乗員Pを適正な姿勢で拘束しつつ衝撃吸収を行うことができる。すなわち、この参考例においても、図2に想像線にて示すような展開状態になることが防止される。
このように、第2参考例に係る助手席用エアバッグ装置50では、フロントウインドシールドガラス44やフロントピラー46等にて規定される車室内形状の非対称性の影響を受けることなく乗員Pを確実に拘束することができる。
(第3参考例)
図8には、本発明の第3参考例に係る助手席用エアバッグ装置60が側面図にて示されており、図9には、助手席用エアバッグ装置60を構成するエアバッグ62の車体前後方向との直交面に沿う断面図が示されている。これらの図に示される如く、第1エアバッグ64の上端が前後方向の位略全長に亘り第2エアバッグ18の上端よりも低位であるエアバッグ62を備える点で、第2参考例に係る助手席用エアバッグ装置50と共通する。一方、助手席用エアバッグ装置60は、エアバッグ62を構成する第1エアバッグ64の形状が基本的に第2エアバッグ18の形状と中心線CLに対する対称形状である点で、第2参考例に係る助手席用エアバッグ装置50とは異なる。
図8に示される如く、第1エアバッグ64は、ガス供給部20との連結部分近傍を除き、車載前には第2エアバッグ18と略対称的に展開するように形成されている。そして、この参考例では、エアバッグ14の展開状態で、第1エアバッグ64の上下方向中央部C1が第2エアバッグ18の上下方向中央部C2よりも下側に位置するように、該第1エアバッグ16と第2エアバッグ18とを互いに連結している。これにより、エアバッグ62では、第1エアバッグと第2エアバッグとが中心線CLに対し位置が非対称となる構成である。具体的には、第1エアバッグ64は、第2参考例と同様に、後端64Aの前後方向の位置を第2エアバッグ18の後端18Aに略一致させると共に、上縁64Bを前後方向の略全長に亘り第2エアバッグ18の上縁18Bよりも低位となるように形成されている。すなわち、第1エアバッグ64の上縁64Bは、第2エアバッグ18の上縁18Bの同高位の部分に対し後方に位置する(上縁18Bの前後方向に同じ位置に位置する部分に対し低位となる)構成である。
また、図9に示される如く、第1エアバッグ64と第2エアバッグ18とは、ストラップ32を用いることなく連結され、かつ連通孔66を通じて連通している。具体的には、図10(A)に示される如く、第2エアバッグ18における展開状態で第1エアバッグ64側を向く側壁部分を構成する面に互いに交差する(この参考例では十字状の)切り込みを設けて複数(この参考例では4つ)の折り返し片68を形成し、第1エアバッグ16における上記切り込みに対応する位置には連通孔66を設けてある。
そして、図10(B)に示される如く、第1エアバッグ64の連通孔66に各折り返し片68挿通して折り返し、第1エアバッグ16の連通孔66周りの部位を各折り返し片68と第2エアバッグ18とで挟み込んだ状態で、各折り返し片68を第1エアバッグと共に第2エアバッグ18に縫い付けている。以上により、エアバッグ62は、第1エアバッグ16と第2エアバッグ18とが、連通孔66を通じて互いの後部間が連通すると共に、該連通孔66廻りが縫製によって互いに連結されて構成されている。助手席用エアバッグ装置60の他の構成は、助手席用エアバッグ装置50(10)の対応する構成と同じである。
以上により、第3参考例に係る助手席用エアバッグ装置60は、基本的に第2参考例に係る助手席用エアバッグ装置50と同様の作用効果を奏する。すなわち、第3参考例に係る助手席用エアバッグ装置60では、フロントウインドシールドガラス44やフロントピラー46等にて規定される車室内形状の非対称性の影響を受けることなく乗員Pを確実に拘束することができる。また、助手席用エアバッグ装置60では、第1エアバッグ64と第2エアバッグ18とが、連通孔66を貫通した各折り返し片68と共に縫い付けられて連結されているため、該連結部の強度が高い。しかも、ストラップ32やタイパネル78(後述)等の別部材を用いることなく第1エアバッグ64と第2エアバッグ18とを連結することができる。また、この連結部は、第1及び第2エアバッグ64、18と同様に、ガスが挿通することでガス圧によって膨張させられている膨張体の一部であるため、乗員拘束性能の向上に寄与する。
なお、上記第3参考例では、第1エアバッグ64と第2エアバッグ18とが中心線CLに対する対称形状に展開する構成としたが、例えば第1又は第2参考例のように第2エアバッグ18とは非対称形状に展開する第1エアバッグ64を、さらに上下方向にオフセットして第2エアバッグ18に連結するように構成しても良い。また例えば、第1エアバッグ64と第2エアバッグ18とを、連通孔66にて連通することなく、ストラップ32を介して連結するようにしても良い。
次に、本発明の実施形態を説明する。なお、上記第1〜第3参考例又は前出の構成と基本的に同一の部品・部分については、上記第1〜第3参考例又は前出の構成と同一の符号を付して説明及び図示を省略する場合がある。
(第1の実施形態)
図11には、本発明の第1の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置70が平面図にて示されている。この図に示される如く、助手席用エアバッグ装置70は、エアバッグ72を備えており、車載前には第1エアバッグ74が第2エアバッグ18と略対称形状に展開する点で、第1参考例に係る助手席用エアバッグ装置10とは異なる。すなわち、第1エアバッグ74は、車載前には、平面視で、同じ内圧が作用する第2エアバッグ18と中心線CLに対する対称形状に展開し、その後端74Aの前後方向の位置が第2エアバッグ18の後端18Aの位置と略一致する構成とされている。また、図示は省略するが、車載前の側面視において、第1エアバッグ74の展開形状が第2エアバッグの展開形状に略一致する構成とされている。
このエアバッグ72を構成する第1エアバッグ74には、第2エアバッグ18に設けられたベントホール26よりも大径のベントホール76が設けられている。このため、第1エアバッグ74は、第2エアバッグ18よりもガスが排出され易く、展開時の内圧が第2エアバッグ18の内圧よりも低くなる構成とされている。このため、第1エアバッグ74は、車載状態で展開することで、その前端がフロントウインドシールドガラス44の車幅方向外側端に押し付けられても、該フロントウインドシールドガラス44の内面形状に倣って変形し易く、後方に位置ずれしたり、車体前後方向に対し傾斜したりすることがない構成とされている。
また、エアバッグ72では、第1エアバッグ74の後端74Aと第2エアバッグ18の後端18Aとが、連結部材としてのタイパネル78によって連結されており、このタイパネル78の前方に隙間Sが位置している。すなわち、タイパネル78は、隙間Sの後向き開口端を閉塞している。このため、エアバッグ72には、ストラップ32が設けられていない。助手席用エアバッグ装置70の他の構成は、助手席用エアバッグ装置10の対応する構成と同じである。
第1の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置70では、自動車40が前突に至ると、衝突センサからの信号によってインフレータ12がガスを発生し、このガスはガス供給部20からエアバッグ72内に供給され、第1エアバッグ74及び第2エアバッグ18がそれぞれ膨張展開する。第1及び第2エアバッグ74、18の各前端は、車体を構成する示すフロントウインドシールドガラス44(及びフロントピラー46)に当接して乗員Pの荷重を支持可能な状態となっている。
乗員Pの上体が慣性によって助手席42に対し前方に移動すると、乗員Pは、左右の肩部をそれぞれ第1エアバッグ74の後端74A、第2エアバッグ18の後端18Aに当接しつつ該第1エアバッグ74、第2エアバッグ18を前方に押圧して(フロントウインドシールドガラス44に押し付けて)潰し、衝撃が吸収される。この衝撃吸収過程で、乗員Pの胸部は、タイパネル78によって胸部を支持されつつガス圧が作用しない隙間Sに入り込み、衝撃吸収に伴い作用する反力すなわち衝撃荷重が緩和される。また、乗員Pの肩部が第1エアバッグ16、第2エアバッグ18を押圧するのに伴って各ベントホール76、26からガスが排出され、衝撃吸収過程で乗員Pの両肩部に作用する反力が増大することが防止される。
ここで、助手席用エアバッグ装置70では、第1エアバッグ74の内圧が第2エアバッグ18の内圧よりも低いため、換言すれば、第1エアバッグ74が第2エアバッグ18に対し非対称に展開するため、車載されて展開した状態では車室内形状の非対称性を吸収することができる。具体的には、内圧の低い第1エアバッグ74は、フロントウインドシールドガラス44に押し付けられると、内圧が高い場合よりも大きく潰れ、後端74Aが第2エアバッグ18の後端18Aよりも後方にずれることが防止される。また、内圧の低いエアバッグ74は、右側に隣接し内圧が比較的高い第2エアバッグ18によって、車幅方向内側への移動が規制され、後端74Aが前端よりも車幅方向内側に位置するように車体前後方向に対し傾斜してしまうことが防止される。
このため、助手席用エアバッグ装置70では、車載状態で展開した際にもエアバッグ72の左右の後端74A、18Aの車体前後方向における位置が略一致した状態が維持され、該後端54A、18Aを乗員Pに正対させて該乗員Pを適正な姿勢で拘束しつつ衝撃吸収を行うことができる。すなわち、この実施形態においても、図2に想像線にて示すような展開状態になることが防止される。
このように、第1の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置70では、フロントウインドシールドガラス44やフロントピラー46等にて規定される車室内形状の非対称性の影響を受けることなく乗員Pを確実に拘束することができる。
なお、上記第1の実施形態では、第1エアバッグ74と第2エアバッグ18とが同じ内圧では対称形状に展開する構成としたが、例えば第1〜第3参考例のように第1エアバッグ74と第2エアバッグ18とが非対称形状又は非対称位置を採るように構成しても良い。そして、第1エアバッグ74と第2エアバッグ18とで内圧を異ならせるために、ベントホールの開口面積を異ならせる構成に代えて、例えば、第1エアバッグ74と第2エアバッグ18との大きさ(ガス容量)を異ならせるようにしても良い。さらに、上記第1の実施形態では、エアバッグ72がタイパネル78を備えた例を示したが、例えばタイパネル78に代えて又はタイパネル78と共に、ストラップ32や第3参考例に示す連通孔66廻りの連結構造を採用しても良い。
(第2の実施形態)
図12には、本発明の第2の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置80が、ガス供給部20を通る平面断面図にて示されている。この図に示される如く、助手席用エアバッグ装置80は、エアバッグ82を備えており、車載前にはそれぞれ同じ内圧が作用する第1エアバッグ84が第2エアバッグ18と略対称形状に展開する点で、第1の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置70と共通する。すなわち、第1エアバッグ84は、車載前には、平面視で第2エアバッグ18と略対称的に展開し(ガス容量が同等とされ)、その後端84Aの前後方向の位置が第2エアバッグ18の後端18Aの位置と略一致する構成とされている。また、図示は省略するが、車載前の側面視において、第1エアバッグ74の展開形状が第2エアバッグの展開形状に略一致する構成とされている。
このエアバッグ82を構成するガス供給部20は、第1エアバッグ84にガスを供給するための第1ガス供給口86の開口面積が、第2エアバッグ18にガスを供給するための第2ガス供給口88の開口面積よりも小さい構成とされている。このため、助手席用エアバッグ装置80では、第1エアバッグ84に供給されるガス量が第2エアバッグ18に供給されるガス量よりも少なくなるようになっている。また、図示は省略するが、第1エアバッグ84のベントホールと第2エアバッグ18のベントホール26とは同じ開口面積を有する構成とされている。
そして、上記の通り第1エアバッグ84と第2エアバッグ18とは対称形状に展開可能なガス容量が互いに同等である構成であることから、助手席用エアバッグ装置80では、インフレータ12がガスを発生してガス供給部20を介して第1エアバッグ84、第2エアバッグ18にガスが供給された状態で、該第1エアバッグ84と第2エアバッグ18とで内圧が異なる、具体的には、第1エアバッグ84の内圧が第2エアバッグ18と比較して低くなる構成である。
したがって、第2の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置80は、基本的に第1の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置70と同様の作用効果を奏する。すなわち、第2の実施形態に係る助手席用エアバッグ装置80では、フロントウインドシールドガラス44やフロントピラー46等にて規定される車室内形状の非対称性の影響を受けることなく乗員Pを確実に拘束することができる。また、ガス供給部20の第1ガス供給口86と第2ガス供給口88との開口面積をことなせることで、第1エアバッグ84、第2エアバッグ18へのガス供給量を異ならせる構成であるため、インフレータ12を複数設ける必要がない。
なお、上記第2の実施形態では、第1エアバッグ74と第2エアバッグ18とが同じ内圧では対称形状に展開する構成としたが、例えば第1乃至第3参考例のように第1エアバッグ74と第2エアバッグ18とが非対称形状又は非対称位置を採るように構成しても良い。また、上記第2の実施形態では、第1エアバッグ84と第2エアバッグ18とでベントホールの開口面積が同じである例を示したが、第1エアバッグ84と第2エアバッグ18とでベントホールの開口面積が異なるように構成しても良い。さらに、第1エアバッグ84と第2エアバッグ18とで供給ガス量を変える構成として、例えば、がス発生量の異なる複数のインフレータ12を設けたり、インフレータ12のハウジングに設けたガス排出口を第1エアバッグ84側と第2エアバッグ18側とで異ならせても良い。
また、上記各実施形態では、第1エアバッグ74、84が第2エアバッグ18と一体的に形成された構成を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、第1エアバッグ16等と第2エアバッグ18とを独立した袋体として形成し、ストラップ32、タイパネル78、又は連結孔66回りの連結構造等にて連結するように構成しても良い。同様に、各参考例における第1エアバッグ16、54、64と第2エアバッグ18とを独立した袋体として形成し、ストラップ32、タイパネル78、又は連結孔66回りの連結構造等にて連結するように構成しても良い。
さらに、上記各実施形態では、本発明を助手席用エアバッグ装置70、80に適用した例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば後部座席用や左右方向の中央座席用など他のエアバッグ装置に本発明を適用しても良い。同様に、各参考例に係る構成を後部座席用や左右方向の中央座席用など他のエアバッグ装置に本発明を適用しても良い。