JP4625405B2 - Spr測定機器 - Google Patents

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Description

本発明は、SPR測定機器に関し、より詳細には、表面プラズモン共鳴(SPR)現象を用いた屈折率センサー等のSPR測定機器に関するものである。
表面プラズモン(SPR)現象は、例えば金等の金属表面の局所的屈折率を測定する手法として使われている。特に、特異的に結合する2つの生体分子の一方を金表面に固定し、他方が結合することによって局所的屈折率が大きくなるのを検出する手法は広く用いられている(非特許文献1参照)。このような測定法自体もSPRと呼ばれている。SPRでは、レセプターとリガンド、抗原と抗体、互いに相補する配列のDNAなどの、濃度の測定、解離定数、結合速度の測定が行われている。例えば、アデノウィルスの感染の初期段階で関与するファイバー部分とウィルスが感染する細胞表面物質との結合速度が測定されている。
従来、SPR法の光学系は、金属薄膜を形成した高屈折率透明材料に単色光を照射し、上記高屈折率透明材料にて全反射した光を受光素子で測定する。光源からの強い全反射光を測定するので、感度の低い安価な受光素子を用いることができる。また、単純な光学系で実現でき、例えば、光源にはLEDを、検出のための受光素子にはCCDカメラ等を用いることができ、共に安価な素子を用いることができる。このような特徴から、SPR法は安価で小型の測定器による高精度な測定にも適用できる。
さて、SPR法では一般に、金などの薄膜からのP偏光反射光強度の入射角依存性から屈折率を求める。最も広く使われているクレッチェマン光学系と楔型の入射光束とCCDのような2次元のイメージング素子とを用いる装置系では、CCDから得られる画像の反射強度データから反射率最小入射角度(SPR角度)を求め、SPR角度から屈折率を決定する(特許文献1参照)。
この場合、図8および9に示すように、画像の入射角度を表す軸がX軸、反射面上で入射面に垂直な方向の線上の反射位置を表す軸がY方向に並び、反射強度が画素の値になる画像が得られる。高感度測定のためには、反射率が最小になる入射角度(SPR角度)をこの画像から高精度に推定する必要がある。このアルゴリズムとしては、既知の方法を用いることができる(非特許文献2参照)。
しかし、光源、CCDを固定する光学系の温度による変形、振動による変形、光路のごみのよって生じるノイズのため、SPR角度の推定値にもドリフトやノイズが現れる。低ノイズ化を図るためには、フレームの異なる画像を加算し時間的に平均化するか、同じ屈折率を取ると考えられる反射点からのデータを加算し空間的に平均化することが考えられる。CCDや、CMOSカメラ素子のひとつの画素はノイズを含むが、これを平均化すると、安定した測定が可能である。しかし、前者の場合は時間分解能が低下し、また後者の場合は空間分解能が低下する。
また、特許文献1のように、SPRの影響を受けないS偏光で、P偏光の強度分布を規格化すると、装置の不完全さによるSPR曲線の歪みを補正でき、理論式である多層膜フレネル反射式へのフィッティング精度を高めることができ、SPR角度を精密に決定できる。
特許第3437619号明細書 Rajendrani Mukhopadhyay "Surface plasmon resonance instruments diversify" Anal Chem Product Review Anal. Chem. (2005), 77 313A-317A Knut Johansen et al. "Surface plasmon resonance: instrumental resolution using photo diode arrays" Meas. Sci. Technol. 2000 11 1630-1638
しかしながら、特許文献1のような、ランダム偏光の光をプリズムに入射し、該プリズムから出射した光を偏光プリズムにてP偏光とS偏光とに分割する方式では、偏光の分解後に、それぞれの偏光が通過する光路における、温度による変形等の影響の差が大きい場合は、S偏光による規格化を行っても、上記偏光の分解後の影響はキャンセルできない。この場合は、光学系が複雑になり、偏光を切り替える部品、または二個の光検出器が必要になる。また、偏光素子で分割した後の光路にノイズ源がある場合には、効果が無くなる。特に、偏光子の出射側表面の傷や汚れの影響を除くことができない。また、偏光子を回転させる場合には、偏光状態によって均一性が無くなり、S偏光による高精度な規格化が困難になる。
さらに、可搬型のSPR装置の場合には、機械的動作部分が無く、固体素子だけで構成することによって、精度を上げる必要がある。また、電池動作を行うには、電力を必要としない方法が望まれ、受光素子の部品点数が少ないことが望まれる。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、温度による変動を受けにくく、製造コストを低減し、小型化が可能なSPR測定機器を提供することにある。
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1記載の発明は、試料の複素屈折率に依存して出現する一個の特徴点の位置を測定するSPR測定機器において、光源と、前記試料が配置される金属薄膜が形成されたプリズムと、前記光源から出射された光を楔型の光にし、該楔型の光を前記プリズムに入射することにより、前記金属薄膜に対して所定範囲の角度内の入射角の光を一度に入射する手段と、前記プリズムに入射され、前記金属薄膜にて反射された光を受光する受光手段と、前記光源と前記受光手段との間に配置され、前記光源からの光に空間的強度分布を発生させるフィルターであって、フィルター上に、それぞれSPR角度よりも低角度側の光と高角度側の光を遮断する2つのマーカーが形成されているフィルターとを備え、前記受光手段にて受光される光には、前記空間的強度分布が含まれており、前記受光手段において、前記フィルター上に形成された前記2つのマーカーに対応する前記空間的強度分布の強度が極小となる光を受光する位置の変動により、前記特徴点の、測定される光路のドリフトを含む信号から、前記試料の複素屈折率変化に依存しないドリフト成分を除くことを特徴とする。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記受光手段にて受光された光と該光の、前記受光手段における受光位置とから、前記金属薄膜による反射率の入射角依存性を示す反射率曲線を取得する手段をさらに備え、前記取得する手段は、前記反射率曲線から、前記特徴点に対応する入射角および前記受光手段における、空間的強度分布の強度が極小となる光を受光する位置に対応する入射角の代表値を求めることを特徴とする。
請求項3記載の発明は、試料の複素屈折率に依存して出現する一個の特徴点の位置を測定するSPR測定機器において、光源と、前記試料が配置される金属薄膜が形成されたプリズムと、前記光源から出射された光を楔型の光にし、該楔型の光を前記プリズムに入射することにより、前記金属薄膜に対して所定範囲の角度内の入射角の光を一度に入射する手段と、前記プリズムに入射され、前記金属薄膜にて反射された光を受光する受光手段と、前記光源と前記受光手段との間に配置され、前記受光手段にて受光された光に基づく測定値に、前記試料の屈折率変動に依存しない第1のパターンを挿入するためのフィルターであって、フィルター上に、それぞれSPR角度よりも低角度側の光と高角度側の光を遮断する2つのマーカーが形成されているフィルターとを備え、前記第1のパターンの変動により、前記測定値における、前記特徴点の、測定される光路のドリフトを含む第2のパターンから、前記試料の複素屈折率変化に依存しないドリフト成分を除くことを特徴とする。
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記測定値は、前記受光手段にて受光された光と該光の、前記受光手段における受光位置とから求められた、前記金属薄膜による反射率の入射角依存性を示す反射率曲線であり、前記第1のパターンに対応する入射角および前記第2のパターンに対応する入射角の代表値を求める手段をさらに備えることを特徴とする。
本発明によれば、温度による変動を受けにくく、温度制御を行う場合に比べて消費電力が少なく、製造コストが低いSPR測定機器を提供することが可能となる。このため、特に、小型・携帯用の装置として用いる場合に、有益である。
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
本発明の一実施形態では、表面プラズモン現象を用いた屈折率センサー等のSPR測定機器において、温度による測定光学系の温度変動をキャンセルして、測定光学系の温度変動による影響を軽減している。本発明の一実施形態に係るSPR測定機器は、プリズムを用いて金属薄膜と光とを結合する光学系(所謂、クレッチマン配置、オットー配置)で効果がある。また、グレーティングを用いて結合する場合でも効果がある。
このような温度変動の軽減の一例として、本発明の一実施形態では、測定光学系において、光源と受光素子との間に、光源からの光に空間的な強度分布を発生させるためのフィルター、すなわち、光源から照射され、プリズムに備えられた金属薄膜に入射する光、または上記金属薄膜から反射された光の一部を遮断するフィルターが配置されている。このフィルターによって、例えばSPR角度を求める場合は、測定光の測定データ(入射角度に対する反射光強度の関係を示すデータ)において、SPR角度に対応するピーク(シグナル)から離れた位置に、上記フィルターの像によるピーク(シグナル)を挿入している。このフィルターの像によるシグナルは、測定試料の複屈折率の温度変化の影響を受けず、測定光学系の温度変化の影響のみを受けるシグナルであるので、このシグナルを利用して、測定データから測定光学系の温度変動分をキャンセルする。
また、本発明の一実施形態では、SPR測定の精度を向上するために、S偏光とP偏光とを切換えて出力する光源と、その切換えに同期して受光する受光素子を備えるようにしても良い。
(第1の実施形態)
本実施形態では、受光素子面上に、プリズムに備えられ、試料が配置された金属薄膜のSPR測定領域の屈折率に依存しない空間的パターンを発生させるためのフィルターを、光源と受光素子との間に配置している。このフィルターには、光を遮断するためのマスク(マーカーとも呼ぶ)が形成されており、このフィルターが光源とプリズムとの間に設けられている場合は、金属薄膜への入射光のうち、SPR角度から離れた角度の入射光の一部を遮断する。また、上記フィルターがプリズムと受光素子との間に設けられている場合は、金属薄膜にて反射された反射光のうち、SPR角度で反射される光から離れた角度で反射する光の一部を遮断する。この遮断により、受光素子にて検出された測定データにおいて、SPR角度に対応する(下向き)ピーク(SPR測定部分とも呼ぶ)から離れた部分に、マーカーによる空間的パターン(マーカーの像によるピーク)が生じる。すなわち、金属薄膜への入射光または反射光のうち、フィルターのマーカーによって遮断された光の入射角度では、光はほとんど透過していないので、上記測定データにおいて、遮断された入射角度において、マーカーの像によるピークが発生するのである。
このようなフィルターを用いると、受光素子では、SPR測定領域の屈折率に依存する第1のパターン(SPR角度に対応するピーク)と、SPR測定領域の屈折率に依存しない第2のパターン(マーカーの像によるピーク)とが重畳したパターンが得られる。この第1のパターンは、試料の複素屈折率変動と、測定光学系のドリフト(機械的ひずみ、変形および温度による変形を含む)成分を含むパターンである。よって、試料の複素屈折率が変動すれば、測定データ中で、第1のパターンであるSPR角度に対応するピークの位置は変動し、また、測定光学系の温度変動や機械的ひずみ、変形によっても、上記ピークは変動する。一方、第2のパターンである、マーカーの像によるピークは、試料の屈折率変動ではその位置が変化しないが、測定光学系の温度変動や機械的ひずみ、変形によってはその位置を変化させる。
なお、受光素子にて検出される測定データにおいて、測定対象がSPR角度の場合は、第1のパターンはSPR角度に対応するパターンとなるが、測定対象が、SPR波長、臨界角やブリュースター角である場合は、第1のパターンは測定対象に対応したピークとなる。すなわち、第1のパターンは、試料の複素屈折率に依存して出現する一個の特徴点(SPR角度、SPR波長、臨界角、ブリュースター角)の位置(例えば、金属薄膜への入射角度、入射光の波長)に対応付けることができる。よって、本実施形態では、第1のパターンの特徴点の位置を受光素子で測定し、それぞれの特徴点の位置を決定し、第1のパターンの変動を第2のパターンを基準に測定する。これによって、SPR測定機器としてのSPRセンサーの測定値の変動から、第1および第2のパターンが含む、測定光学系が有する装置の機械的ひずみ・変形、および測定光学系の温度による変形と、SPR測定領域の屈折率変動とを分離して測定することができる。
なお、本実施形態では、受光素子によって測定される測定値から、装置の機械的ひずみ・変形、および測定光学系の温度による変形による影響を軽減することが重要であり、そのために、受光素子の測定値において、SPR角度等の特徴点の位置に対応するピーク(シグナル)と重ならないように、マーカーによるピーク(シグナル)を形成するようにしている。このために、フィルター上において、マーカーは、フィルターにおける、SPR測定部分に対応する領域から離れている領域に形成すれば良い。
図1は、本発明の一実施形態に係る、SPR角度を測定するためのSPRセンサーの光学系を示す図である。
図1では、光源としてのLED1と、BK7プリズム2との間に、図2に示すような、プリズムへの入射角度幅を規定するためのフィルターであって、測定データに第2のパターンを挿入するためのフィルター3を配置している。プリズム2は、両面テープ9を介してBK7基板8が接着されており、BK7基板8の、プリズム2側と対向する面には、金薄膜6が形成されている。この金薄膜6上に測定対象となる試料が配置される。
図1において、LED1から出射した光は、レンズ4によって平行光となりフィルター3に入射する。フィルター3には、図2のように、マーカー3aおよび3bが形成されており、このマーカー部分に入射した光は遮断される。フィルター3は、このマーカー3a、3bが形成された領域以外では、入射光を透過するフィルターである。このフィルター3は、光学系全体のドリフトをキャンセルする、または低減するためには、光源としてのLED1の近くに設置することが望ましいが、この配置に限らず、LED1とCCD13との間であれば、いずれの位置に配置しても良い。
なお、本実施形態において、マーカーを設けることにより、測定データに、試料の屈折率変化に依存しないピークを挿入することが重要であるので、SPR角度とは異なる入射角の光の一部を遮断することができれば良い。よって、マーカーの形は、図2のように短冊状に限らず、三角形状、円状、楕円状、しま模様などいずれの形をとっても良い。また、マーカーの数も2つに限らず、1つでも良いし、2つ以上でも良い。
すなわち、プリズム2に入射される光のうち、SPR角度から離れた角度の光を遮断するようにマーカーを配置すれば良いのである。この遮断された角度の光は試料に入射されない、ないしはされたとしてもその量は非常に少ないので、測定データ中において、上記遮断によるピーク(第2のパターン)は、試料の屈折率変動による影響をほとんど受けず、測定光学系の機械的ひずみや変形、温度による変形に依存したピークとなるのである。すなわち、上記遮断によるピークの時間変動が、測定光路の機械的ひずみ、変形および温度による変形によるドリフトと等価になる。
フィルター3を通過した光は偏光子5に入射し、プリズム2に形成された金薄膜6の入射面に対してP偏光となり、プリズム2に対して所定範囲の角度の入射光を入射する手段としてのシリンドリカルレンズ7に入射する。シリンドリカルレンズ7に入射した光は、該レンズによって、楔型の光に集光して、金薄膜6とBK基板8との界面に線状に集束する。このシリンドリカルレンズ7によって、平行光が楔型の光となるので、所定範囲の角度(入射角)の入射光を一度にプリズム2(金属膜6)へと入射することができる。すなわち、シリンドリカルレンズ7に入射される光の位置に応じて、プリズム2への入射角が決まる。
図1では、シリンドリカルレンズ7の領域7aから出射される光は、金薄膜2への入射角では低角度側となり、領域7bから出射される光は、上記入射角では高角度側となる。本実施形態では、シリンドリカルレンズ7の中央付近から出射される光の入射角度がSPR角度付近となるように、光学系を組んでいる。よって、フィルター3の中央付近を通過する光がSPR角度、またはその角度近傍の角度で金薄膜6へと入射する光となる。
よって、フィルター3に形成されているマーカー3a、3bは、フィルター3において、SPR角度近傍の角度で入射する光となる光が入射する位置から、空間的に離れた位置に形成される。すなわち、金薄膜2への入射光のうち、マーカー3aによって遮断された光の入射角は、SPR角度よりも低角度側であり、マーカー3bによって遮断された光の入射角は、SPR角度よりも高角度側となる。
金薄膜6にて反射された光は、シリンドリカルレンズ10にて平行光となり、レンズ11に入射される。レンズ11に入射された光は、スリット12を介して、受光素子としてのCCD13に入射される。CCD13は、コンピュータ等のデータ処理装置(不図示)に接続されている。すなわち、CCD13にて受光された情報はデータ処理装置に送られ、該データ処理装置にて、本実施形態に係る処理を含む所定の処理が行われる。
図1の構成では、プリズム2への一度の光の入射で、所定範囲の角度の入射角を一度に入射することができる。よって、上記光学系において、光をプリズム2に入射し、金薄膜6にて反射された光をCCD13にて受光することにより、反射率の角度依存性を測定することができる。
さて、水をサンプルとして金薄膜6上に配置して測定を行ったところ、図3に示す、CCD13で測定される反射率の角度依存性が得られた。この角度依存性は、CCD13から送られてくる測定情報に基づいて、データ処理装置にて作成される。上記光学系では、金薄膜6への入射角度の違いによって、CCD13の受光面の位置が異なる。従って、CCD13の像は、1つの方向が入射角度になるのである。よって、角度依存性の情報は、CCD13の受光面の位置情報(ピクセル番号)に展開されることになる。
図3に示されるように、フィルター3上のマーカー3a、3bによって、入射角度の低角度側と高角度側にて光強度が制限されており、第2のパターンが観測される。また、マーカー3aによるピークと、マーカー3bによるピークとの間には、第1のパターンとしての、SPR角度に対応するピーク(SPR測定部分)が観測される。この図3に示す測定データには、測定光学系が有する装置の機械的ひずみ・変形、および測定光学系の温度による変形の少なくともいずれか一方が影響していることがある。よって、これらの影響は各ピークにも影響している。
データ処理装置は、上記測定データから、マーカーによる像(マーカーにより遮断された光の入射角)とSPR角度の代表値として、反射強度最小値のCCD受光面での位置のピクセル番号、すなわちマーカー3a、3bのピクセル番号と、SPRによる反射率最小の位置のピクセル番号、すなわちSPR角度のピクセル番号とを求める。マーカーのピクセル番号、およびSPR角度のピクセル番号は、非特許文献1に開示されている、図形的重心を形成する方法によって求めることができる。
この光学系にて、水の屈折率を測定したところ、マーカーのピクセル番号、およびSPR角度のピクセル番号は共に室温の変化に依存して変化した。
まず、試料の屈折率に変化がない場合について測定した。
所定の時間毎に、図3に示すような測定データを取得し、マーカー3bの代表位置、およびSPR測定部分の代表位置の時間変化を測定した。データ処理装置にて、マーカー3bの代表位置Aに対する、SPR測定部分の代表位置Bの時間変化を求めると、該関係は一次の関係となった。そこで、図4の時刻30秒から135秒の間で、上記マーカー3bの代表位置Aに対するSPR測定部分の代表位置Bの時間変化の関係を最小二乗法で求めた。該求められた一次の式の傾きaと切片bとを用いて、時刻135秒以降では、マーカー3bの代表位置Aから、SPR角度の代表位置Bの位置を推定した推定値C(C=a×マーカー3bの代表位置A+b)を求め、(SPR測定部分の代表位置B)−(推定値C)をプロットした。図4において、時刻135秒にて室温を変化させても、図4に示されるように、(SPR測定部分の代表位置B)−(推定値C)は、変動が少ないことが分かった。なお、図4において、記号Aが示すプロットは各時刻に対するマーカー3bの代表位置を示し、記号Bが示すプロットは各時刻に対するSPR測定部分の代表位置を示し、記号(B−C)が示すプロットは各時刻に対する(SPR測定部分の代表位置B)−(推定値C)を示す。
次に、試料の屈折率が変化する場合について測定した。
図5において、記号Aが示すプロットは各時刻に対するマーカー3bの代表位置を示し、記号Bが示すプロットは各時刻に対するSPR測定部分の代表位置を示し、記号(B−C)が示すプロットは各時刻に対する(SPR測定部分の代表位置B)−(推定値C)を示す。
図5において、試料としての上記の水に時刻225秒でメルカプトプロピオン酸(3MPA)を添加して、金薄膜6上に自己集積化膜を形成した。上記と同様にして、時刻0秒から180秒までの、上記マーカー3bの代表位置Aに対するSPR測定部分の代表位置Bの時間変化の関係を最小二乗法で求めて、求められた一次式の傾き、および切片を用いて、推定値Cを求めた。(SPR測定部分の代表位置B)−(推定値C)をプロットすると、図5に示すように、ドリフトの少ないプロットを得ることができた。
このように、測定データ中の第1のパターンと第2のパターンとを用いることにより、光学系の温度変動や装置の機械的ひずみ、変形の影響をキャンセル、ないしは軽減できることが分かる。
本実施形態では、データ処理装置は、所定の時刻毎に図3に示す測定データを取得し、各時刻毎に、マーカーのピクセル番号とSPR角度のピクセル番号とを取得する。次いで、マーカーのピクセル番号、およびSPR角度のピクセル番号を、測定時刻に対してそれぞれプロットする。次いで、データ処理装置は、SPR角度のピクセル番号の測定時間に対するプロットから、マーカーのピクセル番号の測定時間に対するプロットを差し引く演算を行う。これによって、光学系の機械的ひずみ、変形、および光学系の温度による変形の影響、すなわちこれら変形によるドリフトを除いた、ないしは軽減した、SPR角度の時間プロットを得ることができる。
すなわち、試料の複屈折率の温度変動では、測定データにおいてマーカーによるピークの位置は変化せず、マーカーによるピークの位置は、測定光学系(測定光路)の温度変動や機械的ひずみ、変形だけに影響を受けるため、SPR角度に対応するピークの温度変動からマーカーによるピークの温度変動を差し引くと、測定光学系の温度変動分および機械的ひずみ、変形の温度変動分をキャンセルすることができる。
よって、測定光学系の温度変動を軽減するための温度制御を行わなくても、上記温度変動による影響を軽減することができるので、消費電力を低減することができる。また、機械的可動部を設けなくても、SPR角度などの特徴点の位置を測定できるので、小型化が容易となる。さらに、上記温度制御や機械的可動部を必要としないので、製造コストを低減することができる。
なお、屈折率を測定するために、SPR角度を用いる以外にも、臨界角、ブリュースター角を用いても同様に、図2に示すようなフィルターを用いることによって、試料の屈折率の変化以外の変動によるドリフトをキャンセルできる。また、白色光源を用いて、反射光を分光することによって、SPR波長を測定する、SPR測定法においても、図2に示すようなフィルターを用いることによって同様の効果がある。
(第2の実施形態)
本実施形態では、時間的に、排他的に点滅する、S偏光を出射する光源とP偏光を出射する光源とからの光を合波し、該合波光を単一の光路を進行させ、上記点滅に同期する受光素子を制御することによって、時間的に、S偏光と、P偏光とを測定することで、光路中の試料の屈折率変化に依存しない変動成分、すなわち測定光路の温度による変動成分を分離することができる。
図6において、符号20は、P偏光とS偏光とを切換えて出射する光源である。光源20の後段には、入射光学系21が配置されている。この入射光学系21は、図1のレンズ4およびシリンドリカルレンズ7によって構成することができる。また、フィルター3を配置しても良い。入射光学系21の後段には、金薄膜6を有するプリズム2が配置されている。入射光学系21から、楔型の光をプリズム2に入射することで、所定範囲の角度(入射角)の入射光を一度にプリズム2(金属膜6)へと入射することができる。プリズム2の後段には、出射光学系22が配置されており、入射光学系21から出射され、金薄膜6にて反射された光が、出射光学系22に入射する。この出射光学系22は、図1のシリンドリカルレンズ10およびレンズ11によって構成することができる。出射光学系22の後段には、受光素子としてのCCD23が配置されている。CCD23は、コンピュータ等のデータ処理装置(不図示)に接続されている。すなわち、CCD23にて受光された情報はデータ処理装置に送られ、該データ処理装置にて、本実施形態に係る処理を含む所定の処理が行われる。
また、光源20には、光源ドライバー24が電気的に接続されており、光源ドライバー24は同期信号発生装置25に電気的に接続されている。CCD23にはカメラタイミング発生装置26が電気的に接続されており、カメラタイミング発生装置26も同期信号発生装置25に電気的に接続されている。
図7において、光源20は、LED27、29、P偏光を出射するように設定された偏光子28、S偏光を出射するように設定された偏光子30、カプラ31を備えている。このような構成において、LED27から出射した光は偏光子28によりP偏光となる。このP偏光は、カプラ31に入射して、入射光学系21へと出射され、入射光学系21を進行する。一方、LED29から出射した光は偏光子30にてS偏光となる。このS偏光についても、カプラ31に入射して、入射光学系21へと出射され、入射光学系21を進行する。よって、発生したP偏光、およびS偏光共に同一の光路を進行することになる。
なお、本明細書において、「P偏光」とは、プリズムに備えられた金属薄膜に入射する光がP偏光となることを指す。同様に、「S偏光」とは、上記金属薄膜に入射する光がS偏光となることを指す。
また、図7において、光源ドライバー24は、駆動回路32、駆動回路33、および排他的制御回路34を備えている。排他的制御回路34は、駆動回路32および33を介してそれぞれ、LED27および29の光のオンオフを制御する回路であって、同期信号発生装置25からの同期信号に応じて、排他的にLED27および29の一方の出力をオンにする。上記同期信号発生装置25は、CCD23の1フレーム毎にS偏光とP偏光との出射を切換えるような同期信号を発生する。この同期信号を受けて、排他的制御回路34は、各LEDの出力を制御する。よって、LED27からは、上記CCD23の1フレーム毎にオンオフが切換えられるので、同期信号に応じて電気的に点滅した出力を行う。また、LED29からは、LED27がオンのときはオフとなり出力せず、LED27がオフのときはオンとなり出力する。よって、LED29についても、同期信号に応じて電気的に点滅した出力を行うことになる。
上記同期信号が、カメラタイミング発生装置26に入力されると、カメラタイミング発生装置26は、該同期信号に応じて、CCD23を制御する。このようにすることで、光源20から出射されるP偏光とS偏光との切換えと、CCD23におけるフレームを撮るタイミングとを同期することができる。
このような構成において、同期信号発生装置25から同期信号を光源ドライバー24およびカメラタイミング発生装置26とに出力すると、光源20から、CCD23の1フレーム毎にP偏光とS偏光とを排他的に発光する。このとき発光した光は、入射光学系21を通ってプリズム2に入射し、金薄膜6にて反射して、出射光学系22を通ってCCD23にて受光される。
さて、SPR効果は、P偏光では観測されるが、S偏光では観測されない。一方、光路の変動によるCCD面上での像の移動は、P、S偏光双方の偏光で起こる。そこで、CCD23のフレームに同期して、S偏光とP偏光との切換えを行える光源20を用いている。これによって、光源以外の全ての光学系の変動を同様に受けた光が、CCD23にて受光される。この構成でCCD23の画像をデータ処理装置に取り込むと、フレーム時間である1/30秒毎に、S偏光、P偏光の反射強度が次々に得られる。このとき、データ処理装置にて、時間的に隣接するフレームのピクセル毎に、P偏光の像の反射強度をS偏光の像の反射強度で割り算すると、光学系の軸のずれや、温度による変形、ごみによるSPR曲線の変形を補正することができる。このような、SPR曲線の変形は、CCD23にて受光されるP偏光、S偏光双方に現れるので、SPR効果を受けないS偏光のSPR曲線によって、P偏光のSPR曲線を規格化することによって、上記測定光学系に生じる変形の影響のみをキャンセル、ないしは軽減することができる。
この場合、特許文献1にて開示される方式と比較して、受光装置を1つにすることができる。よって、受光装置の性能差に影響を受けることがないので、SPR曲線の変形をより効果的に抑えることができる。
また、本実施形態に係るSPR測定機器を用いて、第1の実施形態と同様に、水の屈折率を測定した。データ処理装置にて、CCD23にて得られたデータに基づいて、非特許文献1に記載された、図形的重心を形成する方法によってSPR角度を求め、時間変化を記録したところ、LED27、29等の測定光学系の温度の変動による光強度の変動により、SPR角度の推定精度が下がるのを低減できた。
本発明の一実施形態に係る、SPR角度を測定するための光学系を示す図である。 本発明の一実施形態に係る、測定データに第2のパターンを挿入するためのフィルターを示す図である。 本発明の一実施形態に係る、受光素子にて測定された測定値における、入射角度と振幅との関係を示す図である。 本発明の一実施形態に係る、マーカーのピクセル番号とSPR角度のピクセル番号との代表値の時間変化を示す図である。 本発明の一実施形態に係る、マーカーのピクセル番号とSPR角度のピクセル番号との代表値の時間変化を示す図である。 本発明の一実施形態に係る、SPR角度を測定するための光学系を示す図である。 本発明の一実施形態に係る、光源および光源ドライバーの様子を示す図である。 従来の、入射角度と、反射面上で入射面に垂直な方向の線上の反射位置とを示す図である。 従来の、入射角度と、反射面上で入射面に垂直な方向の線上の反射位置とを示す図である。
符号の説明
1 LED
2 プリズム
3 フィルター
4、12 レンズ
5 偏光子
6 金薄膜
7、10 シリンドリカルレンズ
8 基板
9 両面テープ
13 CCD

Claims (4)

  1. 試料の複素屈折率に依存して出現する一個の特徴点の位置を測定するSPR測定機器において、
    光源と、
    前記試料が配置される金属薄膜が形成されたプリズムと、
    前記光源から出射された光を楔型の光にし、該楔型の光を前記プリズムに入射することにより、前記金属薄膜に対して所定範囲の角度内の入射角の光を一度に入射する手段と、
    前記プリズムに入射され、前記金属薄膜にて反射された光を受光する受光手段と、
    前記光源と前記受光手段との間に配置され、前記光源からの光に空間的強度分布を発生させるフィルターであって、フィルター上に、それぞれSPR角度よりも低角度側の光と高角度側の光を遮断する2つのマーカーが形成されているフィルターと、
    を備え、
    前記受光手段にて受光される光には、前記空間的強度分布が含まれており、
    前記受光手段において、前記フィルター上に形成された前記2つのマーカーに対応する前記空間的強度分布の強度が極小となる光を受光する位置の変動により、前記特徴点の、測定される光路のドリフトを含む信号から、前記試料の複素屈折率変化に依存しないドリフト成分を除くことを特徴とするSPR測定機器。
  2. 前記受光手段にて受光された光と該光の、前記受光手段における受光位置とから、前記金属薄膜による反射率の入射角依存性を示す反射率曲線を取得する手段をさらに備え、
    前記取得する手段は、前記反射率曲線から、前記特徴点に対応する入射角および前記受光手段における、空間的強度分布の強度が極小となる光を受光する位置に対応する入射角の代表値を求めることを特徴とする請求項1記載のSPR測定機器。
  3. 試料の複素屈折率に依存して出現する一個の特徴点の位置を測定するSPR測定機器において、
    光源と、
    前記試料が配置される金属薄膜が形成されたプリズムと、
    前記光源から出射された光を楔型の光にし、該楔型の光を前記プリズムに入射することにより、前記金属薄膜に対して所定範囲の角度内の入射角の光を一度に入射する手段と、
    前記プリズムに入射され、前記金属薄膜にて反射された光を受光する受光手段と、
    前記光源と前記受光手段との間に配置され、前記受光手段にて受光された光に基づく測定値に、前記試料の屈折率変動に依存しない第1のパターンを挿入するためのフィルターであって、フィルター上に、それぞれSPR角度よりも低角度側の光と高角度側の光を遮断する2つのマーカーが形成されているフィルターとを備え、
    前記第1のパターンの変動により、前記測定値における、前記特徴点の、測定される光路のドリフトを含む第2のパターンから、前記試料の複素屈折率変化に依存しないドリフト成分を除くことを特徴とするSPR測定機器。
  4. 前記測定値は、前記受光手段にて受光された光と該光の、前記受光手段における受光位置とから求められた、前記金属薄膜による反射率の入射角依存性を示す反射率曲線であり、
    前記第1のパターンに対応する入射角および前記第2のパターンに対応する入射角の代表値を求める手段をさらに備えることを特徴とする請求項3記載のSPR測定機器。
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