本発明は、銀付調人工皮革の製造方法に関し、さらに詳しくは身体に直接接する衣料や手袋に適した銀付調人工皮革の製造方法に関する。
従来、表皮層を持つ銀付き調天然皮革素材の代替として、主に繊維からなるシート状物の表面に高分子弾性体からなる表皮層を設けた合成皮革や人工皮革が種々提案されてきている。そして現在では、一般的に用いられる天然皮革に近い風合いを持ちながら、通気・剥離・強度・摩耗性能などの機能においては同等以上の天然皮革代替品が実現している(例えば特許文献1や特許文献2など)。
しかし、特にこれら銀付き調皮革の中でも最も高級な素材とされるカーフや鹿革等の素材については、非常に柔軟で表皮層によるツッパリ感や硬さの発現が非常に少なくその再現が代替品では得られていないのが実情であった。従来の合成皮革や人工皮革では、その高級な風合いを実現できず、特に用途として、身体にフィットさせるスポーツ手袋等では最高級の天然皮革に対する人工皮革の着用感の差は大きかったのである。
従来品についてもう少し述べると、合成皮革の場合には繊維として織物を用いているために縦横斜めの方向で折り曲げの異方性が発生し、高級な風合いを実現できなかった。一方人工皮革においては不織布を使用するために異方性の問題は解決されるものの、例えば通常繊度の繊維を用いた場合には繊維の硬さが影響して柔軟な手触りを得ることができなかった。特許文献1や特許文献2などのように極細繊維を用いた場合には風合いこそ柔らかくなるものの、製造途中の工程でシートに張力がかかり、どうしてもある程度以上硬いシートしか製造できないという問題があった。
また、それらの高級素材はその生産量が少なく、しかも子牛等や特別の部位を用いるがゆえに1枚あたりの面積が小さいために、大量に大きなシート状物として生産可能な代替品の完成が強く待たれていた。
特開平10−77582号公報
特開平8−41786号公報
本発明の目的は、ソフトな風合いを持った柔軟な銀付調人工皮革、特に表面に銀面層を有するにもかかわらず突っ張り感が少ない銀付調人工皮革の製造方法を提供することである。
本発明の銀付調人工皮革の製造方法は、極細繊維形成性の多成分繊維から構成される繊維構造体に濃度が10重量%以下の高分子弾性体溶液を含浸、凝固して得られる基体層と、基体層より高密度の高分子弾性体を含む層であり該基体層より低伸度の支持層とから構成されている基材から、該多成分繊維中の少なくとも一成分を抽出除去する極細繊維化処理を行い、該処理後に支持層の物理的な除去、および表面に高分子弾性体を2〜50g/m2塗布することを特徴とする。
本発明によれば、ソフトな風合いを持った柔軟な銀付調人工皮革、特に表面に銀面層を有するにもかかわらず突っ張り感が少ない銀付調人工皮革の製造方法が提供される。
本発明の銀付調人工皮革は、極細繊維と高分子弾性体からなる繊維質基材の表面に高分子弾性体からなる銀面層が付与されたシート状物である。
本発明の人工皮革を構成する極細繊維としては、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン12などのポリアミド繊維、またはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維などを挙げることができる。特にナイロン等のポリアミド繊維を用いた場合にはモジュラスが低く、風合いの良好な素材となりやすく適している。さらに極細繊維の繊度としては平均繊度が0.1〜0.0001dtexの範囲であることが好ましい。また柔軟性と強度を両立させるためには、極細繊維が束状の形態をとることが好ましい。
本発明の人工皮革を構成する高分子弾性体としては、ポリウレタンエラストマー、ポリウレアエラストマー、ポリウレタン・ポリウレアエラストマー、ポリアクリル酸樹脂、アクリロニトリル・ブタジエンエラストマー、スチレン・ブタジエンエラストマー等が挙げられるが、なかでもポリウレタンエラストマー、ポリウレアエラストマー、ポリウレタン・ポリウレアエラストマー等のポリウレタン系のエラストマーであることが好ましい。これらポリウレタン系エラストマーは、例えば平均分子量500〜4000のポリエーテルグリコール、ポリエステルグリコール、ポリエステル・エーテルグリコール、ポリカプロラクトングリコール、ポリカーボネートグリコール等から選ばれた、一種または二種以上のポリマーグリコールと、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレジンイソシアネート、トリレジンイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート等の有機ジイソシアネートと、低分子グリコール、ジアミン、ヒドラジン、又は有機酸ヒドラジッド、アミノ酸ヒドラジッド等のヒドラジン誘導体等から選ばれた鎖伸長剤を反応させて得られるものである。
これら高分子弾性体は、シート状物に柔らかい風合いを与えるためにも繊維質基材中に多孔質状に存在していることが好ましい。高分子弾性体のゴム弾性に加えて多孔が変形することによる弾性を与えることができるからである。また表面に存在する銀面層を構成する高分子弾性体も同様なものが用いられる。
また本発明で使用される高分子弾性体は、耐溶剤形態安定性の高い物であることが好ましい。例えば、見掛け密度0.2g/cm3以下の湿式フィルムを80℃の熱トルエン中に30分浸漬処理した時のフィルム厚みの変化率で判定した場合に、変化率が90〜100%で有ることが好ましく、95〜100%で有ることがさらに好ましい。耐溶剤形態安定性が低い場合、加工時に素材自体の厚みが維持できずへたりが発生し、最終的に製品密度が向上し風合いが硬くなったり、パリパリとした紙のようなものになる傾向にある。
本発明で用いられる繊維質基材における繊維の見掛け密度は0.1〜0.3g/cm3の範囲であることが好ましい。該基材における繊維の見掛け密度が小さすぎる場合には、その素材は非常に柔らかな特性を持つが、その強度が弱くなり過ぎる傾向にあり、製品としての加工性も困難となる。また見掛け密度が高すぎる場合には、基材中の空隙が少なくなり、変形時の応力の逃げ場が少なくなるため風合いが堅くなる傾向にある。さらにこれらの素材はその使用用途から厚みが0.3〜1.0mmの範囲であることが好ましい。また、該基材における高分子弾性体と繊維の比率が重量比5:95〜60:40の範囲であることも好ましく、10:90〜50:50で有ることがさらに好ましい。繊維質基材中の高分子弾性体の100%モジュラスとしては、10〜350MPaの範囲であることが好ましく、さらに20〜200MPaの範囲であることがより好ましい。
繊維質基材中では極細繊維の繊維間空隙に高分子弾性体が存在するが、極細繊維が繊維束を形成しており、高分子弾性体が繊維束の外部には存在しているが繊維束の内部には存在しないことが、シート状物に張力がかかった際の風合いを向上させるために好ましい。繊維束中に存在する極細繊維には初期の張力がかかりにくく、ある程度伸長した段階で繊維束全体としてシートの形態保持性を与えるためである。
本発明の銀付調人工皮革は、このような繊維質基材の表面に高分子弾性体からなる銀面層が付与されたシート状物であり、銀面層の厚さは10〜200μmであるものである。銀面を形成する高分子弾性体は、上記繊維質基材の繊維間空隙に存在する高分子弾性体と同様のものを使用することが出来る。高分子弾性体は全く同じ物でも異なった物であっても構わない。また銀面層の高分子弾性体のモジュラスとしては、1〜250MPaの範囲であることが好ましく、さらに2〜200MPaの範囲であることがより好ましい。銀面の厚みはこの範囲で有れば任意に設定することが可能であるが人工皮革全体の厚みに対して、風合い的にバランスの良い厚みを設定することができる。銀面層の厚みが10μmより小さい場合、表皮層が破れたり摩耗したりし、また繊維の色が表面に透けて浮き出てきたりという欠点が見られる。銀面層の厚みが200μmより大きい場合、高分子弾性体による層が分厚くなりすぎるためにゴムライクな質感となり、また表皮層のツッパリ感が大きく出てきて風合いの悪い物となる。
さらに表皮層中の極細繊維は表皮層を構成する高分子弾性体と非接合であることが好ましい。このように非接合の人工皮革とするためには、海島型の極細繊維束形成性繊維を用いたシート状物上に表皮層を形成した後に、繊維の海成分を溶解除去する方法などによって得ることができる。
本発明の銀付調人工皮革は、剪断剛性の値が0.01〜0.05N/cm・degであることが必要である。好ましくは0.015〜0.045N/cm・degの範囲であり、更に好ましくは、0.02〜0.04N/cm・degの範囲である。剪断剛性の値が、0.01N/cm・degより小さい場合、強度が弱く、使用が困難である。一方、0.05N/cm・degより大きい値の場合、表皮層からくるツッパリ感が大きくなり、その抵抗感から製品の着用感が悪化する。ここで剪断剛性とは、KES(Kawabata's Evaluation System for fabrics)による風合い測定法の剪断剛性Gに対応し、KES−F1法に準拠した測定法で得られたチャートにおいて、剪断角0.5°と2.5°の2点における傾きで求められる値で、縦と横の値の平均値であり、単位「gf/cm・deg」を「N/cm・deg」に換算した値である。この値は、剪断度合いを表した代用特性値であり、数字が小さいほど剪断されやすく反対に大きいほど剪断されにくいことを表している。さらに剪断剛性の縦と横との値の比が0.5〜2の範囲であることが好ましい。このような範囲内にある人工皮革は、方向による異方性が少ないものとなる。
さらに剪断角0.5°におけるヒステリシスの幅が0.03〜0.08N/cmであることが好ましく、さらには0.035〜0.075N/cmであることが好ましい。またさらに、剪断角5°におけるヒステリシスの幅が0.03〜0.08N/cmであることが好ましく、さらには0.035〜0.075N/cmであることが好ましい。
ここで剪断角におけるヒステリシスとは、KESによる風合い測定法の剪断角におけるヒステリシス2HGに対応する。剪断角0.5°におけるヒステリシスの幅とは、KES−F1法に準拠した測定法で得られたチャートにおいて、剪断角0.5°でのヒステリシスの幅2HGで求められる値で、縦と横の値の平均値であり、単位「gf/cm」を「N/cm」に換算した値である。この値は、少しの剪断に対する弾性を表す代用特性値であり、数値が大きいほど剪断方向にほんの少しひずませた時の素材の剪断歪がもどりにくいことを表している。
また、剪断角5°におけるヒステリシスの幅とは、KES−F1に準拠した測定法で得られたチャートにおいて、剪断角5°でのヒステリシスの幅2HG5で求められる値で、縦と横の値の平均値であり、単位「gf/cm」を「N/cm」に換算した値である。この値は、大きな剪断に対する弾性を表す代用特性値であり、数値が大きいほど剪断方向に大きくひずませた時の素材の剪断歪がもどりにくいことを表している。この値が小さい場合、非常にソフトではあるが、衣料や手袋においては型くずれなどをすぐに起こしてしまい品位の低い物になる傾向にある。一方、この値が大きすぎる場合には、表皮層からくるツッパリ感を増すうえに歪みの回復が遅くシワになりやすい傾向にある。
このような銀付調人工皮革は、例えばもう一つの本発明である銀付調人工皮革の製造方法によって得ることができる。すなわち、極細繊維形成性の多成分繊維から構成される繊維構造体に高分子弾性体溶液を含浸、凝固して得られる基体層と、該基体層より低伸度の支持層とから構成されている基材から、該多成分繊維中の少なくとも一成分を抽出除去する極細繊維化処理を行い、該処理後に支持層の物理的な除去、および表面に高分子弾性体を塗布する銀付調人工皮革の製造方法である。
本発明で用いられる、極細繊維形成性の多成分繊維としては、例えば、多成分の高分子重合体からなる複合繊維が挙げられ、複合繊維の形態としては、例えば、海島型、貼り合わせ型等公知の紡糸方法が挙げられるが、溶剤溶解性の異なる2種以上の繊維形成性高分子を用いた海島型を用い一成分を抽出除去する方法が風合いを達成する上で最も好ましい。また紡糸後の延伸により繊維に必要な強度を与えることもできる。なかでもナイロン6/ポリエチレンの組み合わせが工業的に生産しやすいため好ましい。極細繊維の平均繊度としては0.1〜0.0001dtexの範囲となることが好ましく、そのように極細繊維化される極細繊維形成性繊維であることが好ましい。
本発明では繊維構造体を用いるが、これは上記のような極細繊維形成性の多成分繊維から構成されるものであり、高い風合いを実現するためには不織布を用いることが好ましい。長繊維を用いることもできるが一般的には短繊維からなるものが好ましく、従来公知のカード、ウェバー、クロスレイヤー等にかけてウェブを形成する。例えば得られたウェブの厚さ方向に対して、好ましくは500〜3000本/cm2、特に好ましくは、800〜2000本/cm2のバーブ貫通パンチング本数でニードルパンチングを施し、該繊維を絡合させ、不織布を作成する。バーブ貫通パンチング本数が少ない場合には、不織布の絡合が不十分となり強度不足となり、それを用いて加工を行うと加工途中で伸びが発生し、狙い通りの加工をコントロールしにくい傾向にある。逆にバーブ貫通パンチング本数が多くなると、ニードルパンチングを過剰に受け、絡合繊維の損傷が大きくなり、不織布にへたりが発生しやすい傾向にある。ここで、バーブ貫通パンチング本数とは、使用するニードルとして少なくとも1つのバーブを有するものを使用し、最先端に位置するバーブがウェブの厚さ方向にパンチングを行った時の打ち込み本数を1cm2当たりの値に換算した数値をいう。
得られた繊維構造体は加熱処理し、複合繊維の一成分、さらに好ましくは海島型繊維の海成分を軟化させた後、カレンダーロール等で加圧処理し、厚さ、見かけ密度および面平滑性の調整を行うことが好ましい。この調整は、目的とする人工皮革の用途により任意に設定できるが、例えば不織布の厚さは、0.5〜3.0mm、見かけ密度は0.25〜0.45g/cm3のフラット面とすることが好ましい。この場合、加熱されたカレンダーロールで加圧することにより、加熱処理と加圧処理とを同時に行うことができるので特に好ましい。
また、本発明ではこの段階であらかじめ伸度の小さい支持層を繊維構造体に一体化させることも好ましい。支持層としては、織編物などの伸びにくい特性を持った素材が用いられ、例えば基材の裏面側に貼り合わせる。貼り合わせる方法としては、接着剤を用いて貼り合わせることも、ニードルで繊維構造体を構成する繊維と絡ませることも、加熱されたカレンダーロールで加圧することによって、繊維の熱軟化点の低い成分を利用して貼り合わせることなどを挙げることが出来る。
本発明の製造方法ではこの繊維構造体に高分子弾性体溶液を含浸、凝固して基体層とする。まず、高分子弾性体を不織布等の繊維構造体中に含浸させるためには、通常、該高分子弾性体を有機溶剤溶液または分散液(水性エマルジョンを含む)の形で繊維構造体中に含浸させる。高分子弾性体は前述した繊維質基材に用いられるものであり、対溶剤形態安定性の高いものであることが好ましい。さらにここで含浸する高分子弾性体溶液は風合いを確保するために10重量%以下の濃度であることが必要である。
ここで、高分子弾性体の溶剤を含む溶液としては、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン等の高分子弾性体の良溶媒からなる溶液、これらに水、アルコール、メチルエチルケトン等を混合した溶液、または、これらに更に高分子弾性体を混合した溶液等が好ましく用いられる。含浸させる高分子弾性体の濃度は、人工皮革としてのソフト性等の点から、10%以下であることが必要であり、5〜9重量%であることが好ましい。濃度が高いと、高分子弾性体の量が多くなりすぎ、ゴムライクになる上、風合いが固くなる。一方、単純に濃度が低いと、風合いがソフトになると予想されやすいが、実際には加工時に素材自体の厚みが維持できず、最終的に基材中の繊維密度が向上し、風合いがパリパリとした紙のようなものになる傾向にある。含浸させる高分子弾性体溶液は、繊維構造体の重量に対して100〜500%の範囲で選定することが好ましい。
次いで、含浸させた高分子弾性体を、繊維構造体中で凝固させる。高分子弾性体を凝固させる方法としては、公知の湿式凝固法、乾式凝固法のいずれによっても良いが、該基材中の高分子弾性体の凝固状態は、多孔質状に凝固していることが好ましい。
またこの凝固時に高分子弾性体からなる薄い被覆層をあらかじめ設けておくことも好ましい。極細繊維化する前に被覆層を設けた場合、その被覆層中にもぐりこんだ極細繊維形成性の繊維を極細繊維化することによって、被覆層と極細繊維が非接合となり、より風合いに優れたものとなる。ここで高分子弾性体からなる被覆層を作成するには、該基材の表面に、先に含浸させた高分子弾性体と同種または異種の高分子弾性体溶液の薄い被覆層を設けて凝固させればよい。すなわち、繊維構造体中に高分子弾性体溶液を含浸させた後、凝固させる前に、その繊維構造体の厚さ以上の広いクリアランスで、被覆層用の高分子弾性体溶液を塗布しスクイーズすることにより高分子弾性体量を調整し、凝固する方法である。ここでスクイーズする方法としては硬度の高いロール間で挟み込みながら実施する方法やロール上に精度の高いナイフによりクリアランスを調整した物で高分子弾性体溶液を掻き取る方法などを実施することができる。しかし風合いが固くなることから、被覆層の厚さとしては、2〜100μmの範囲であることが好ましい。
本発明では、繊維と高分子弾性体が凝固した基体層と、この基体層より低伸度の支持層とから構成されている基材を用いる。この支持層は、先に述べたように基体層を構成する繊維構造体にあらかじめ織編物等の支持層を一体化したものでも良く、またはモジュラスの高い高分子弾性体からなる層を裏面側に支持体として形成することも可能である。用いられる高分子弾性体の100%モジュラスとしては50〜700MPaのものの使用が可能であり、基体層の高分子弾性体の100%モジュラスの1〜5倍とすることが好ましい。裏面側に支持体を形成する時期としては、同時または基材を凝固後のタイミングで成形することも可能である。例えば同時に行う場合、基材用の高分子弾性体溶液を含浸し、絞った後、繊維構造体が回復すると共に裏面側より支持体となる硬い高分子弾性体溶液を50〜300μmの範囲で基材にしみこませて付与し、その後同時に凝固させる方法が採用できる。また凝固後に行う場合ならば、基材の凝固を湿式法で行い、支持体の凝固を乾式法で行う方法を採用することも好ましい。
本発明の製造方法は極細繊維形成性の多成分繊維を含む基体層とその基体層より低伸度の支持層とから構成されている基材から、多成分繊維中の少なくとも一成分を抽出除去する極細繊維化処理を行う。極細繊維化処理としては溶解除去剤に基材を浸漬し、ニップするなどの手法を採用することができる。ここで用いる一成分を抽出除去するための溶解除去剤としては、溶解除去する多成分繊維中の成分がポリアミドである場合には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属と低級アルコールとの混合液、蟻酸等を用いることができ、ポリエステルの場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ水溶液を用いることができ、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアクリレート等の場合には、ベンゼン、トルエン、キシレン等を用いることができる。
なかでも極細繊維形成性繊維として工業的に生産しやすいナイロン6/ポリエチレンの組み合わせを用いた場合には、溶解除去剤として80℃程度に加熱された熱トルエンを用いることが好ましい。この場合には、例えば80℃に加熱された熱トルエン中に基材を浸漬し、複合繊維の一成分であるポリエチレンを溶解、ニップする事で基材中より押し出す手法が採用される。溶解、ニップを繰り返すことにより、完全にポリエチレンを溶解抽出し、繊維を極細化することができる。
本発明においては基材中に低伸度の支持層が存在するために、極細繊維化の工程中でも形態の変化が起こらずに優れた風合いを維持することができる。この極細化処理の工程は抽出する成分の溶解性を高めるために加熱された溶剤を用いることが多く、またこの溶剤により基材中の高分子弾性体が膨潤しやすいために、基材は外力の影響を受けやすい状態になっているのである。この加工時に支持体が無い場合、基材にかける張力により得られる人工皮革は生産加工方向に大きく伸びてしまううえ、基材の巾が大きく縮む現象が起こり風合いが劣化する。さらにこの支持体の存在により、極細化工程以降の工程においても形態維持がより容易となるため、支持体の物理的な除去はできるだけ後の工程で行うことが好ましい。支持体は基材をスライスするなどの方法で容易に物理的に除去することができる。
本発明の製造方法では、このように極細繊維化処理した極細繊維と高分子弾性体からなる基材の表面に高分子弾性体を2〜50g/m2塗布し、銀付調人工皮革とする。塗布の方法はグラビア仕上げ等が用いられ、特には均一に広く塗布できるスプレー仕上げであることが好ましい。最高級の風合いを得るためには、この高分子弾性体の塗布量はできるだけ少ない事が好ましいが、あまりに少ない場合には基材表面の極細繊維立毛が残存し高級な銀付面を形成することができない。高分子弾性体としては皮革仕上げによく用いられる高分子弾性体であればいずれをも使用することができる。
また本発明の銀付調人工皮革は求める意匠により様々な加工を行うことができる。例えば、該基材表面にエンボス等の加工により柄を付与した後、高分子弾性体を塗布することにより立体的な柄を形成することができる。また高級な人工皮革にするためには厚みを調整することも重要であり、その使用用途によって厚みを0.30mmから1.00mmの範囲で調整することが好ましい。その調整方法としては、例えばまず支持体のある裏面側の層をスライスするなどの方法で取り除き、その後裏面側を150〜600メッシュの粒度のサンドペーパーを用いペーパーの速度を500〜1000m/minの範囲で複数回バフ掛けすることで厚みを調整することが出来る。
本発明の銀付調人工皮革に、この後染色等によってさらに色を付ける加工等を行うことも可能である。また、このようにして得られた人工皮革に必要に応じて柔軟剤を付与し、または揉み加工を施すことで、さらに柔軟な人工皮革とすることができる。ここで用いる柔軟剤には一般的に繊維素材に使用する柔軟剤を用いることが出来るが、そのソフト性からシリコーン系の柔軟剤が選択されることが多く、中でもその表面タッチの良好なアミド変性シリコーンやアミノ変性シリコーンを用いることがより好ましい。また、天然皮革の風合い向上に用いられる加脂剤を処理することもでき、柔軟剤と加脂剤を配合することでよりソフトでしっとり感のある素材とする事が可能となる。柔軟剤の付与の方法はディップニップ法、グラビア法、スプレー法等公知の方法で処理することが可能である。揉み加工としては一般的に公知な加工法が可能である。特にタンブラー等の張力のかからない状態での揉み加工が有効であり、また高圧のジェット気流で装置内を搬送しながら揉み加工を行うこともとても有効である。また該基材を突起のあるボードで叩きその衝撃等でもみほぐす加工や一定の範囲で基材を挟み込み基材を圧縮しながら回転させ揉む方法も可能である。ただし、一般的に行われる湯揉みなどの加工を行う場合は、液中に柔軟剤や加脂剤が脱落するおそれがあるため、実施する場合は柔軟剤の付与前に実施する必要があるが、この場合柔軟剤付与後に再度上記の乾燥状態で行う揉み加工を行わなければならない。
このようにして得られる本発明の人工皮革は、柔軟な銀付調人工皮革となり、高級な天然皮革と同様の表皮層のツッパリ感のない非常にソフトなものとなる。この人工皮革は身体につける衣料やスポーツ手袋に適しており、非常に柔らかな風合いとフィット感を得ることが出来る。さらに、本発明の銀付調人工皮革は、剪断方向に力がかかってもその歪みが戻りやすく、特にスポーツ手袋に適しており、高級な天然皮革と遜色のないフィット感を得ることが出来る。
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお各測定方法は下記の方法によった。
(1)全体厚さ
得られた素材より任意の点を7点10cm×10cmのサイズにサンプリングし、各サンプル毎に加重100g/cm2で5点測定した平均値を求め、7つの各サンプルにおける最大値と最小値を除いた5点の平均値を全体厚さとする。
(2)表皮層厚さ
得られた素材より任意の点を7点サンプリングし、各サンプルの断面電顕写真を撮影しその写真の表皮層における任意の位置5点の厚さを測定し、その平均値を求め、7つの各サンプルにおける最大値と最小値を除いた5点の平均値を表皮層厚さとする。
(3)高分子弾性体と繊維の比率
得られた素材より任意の点を5点10cm×10cmのサイズにサンプリングし、温度20℃、湿度60%のデシケータに12時間以上放置し試験片とする。温度20℃、湿度60%に保たれた室内でこの重量w1を測定した後、高分子弾性体のみを溶かす溶剤(実施例においてはジメチルホルムアミド)中に2時間放置し、取り出して絞った後、新鮮な溶剤中にさらに12時間放置し、高分子弾性体を完全に溶解除去する。そして十分に溶剤を除去、精製水を用いて水洗を行い、90℃に調整された乾燥機で十分に乾燥した後、温度20℃、湿度60%のデシケータに12時間以上放置し温度20℃、湿度60%に保たれた室内で得られたサンプルの重量w2を測定する。各5つのサンプルのw1の平均値W1と、w2の平均値W2を求める。高分子弾性体と繊維との比率を重量比 (W1−W2):W2で表す。
(4)繊維の見掛け密度
全体厚さから表皮層厚さを引いた厚さと、高分子弾性体と繊維の比率の測定時に測定し求めたW2より見掛け密度を計算する。単位は(g/cm3)で表す。
(5)剪断剛性;G
得られた素材より任意の点を5点30cm×30cmのサイズにサンプリングし、温度20℃、湿度60%のデシケータに12時間以上放置した後、20cm×20cmのサイズにカットし試験片とする。温度20℃、湿度60%に保たれた室内でKES−F1に準拠した測定法で、幅方向に剪断ずり速度0.417mm/秒(剪断ひずみ速度0.00834mm/秒)で変形させ力Wを10gf/cm与えて得られたチャートにおいて、剪断角0.5°と2.5°の2点におけるX軸の剪断角(度、deg)とY軸の1cmあたりに生じる力(Fs、gf/cm)との傾きで求められる値で、単位「gf/cm・deg」を「N/cm・deg」に換算した値である。
(6)剪断角0.5°におけるヒステリシス;2HG
剪断剛性Gの測定時に得られたチャートにおいて、剪断角0.5°でのヒステリシスの幅で求められる値の平均値で、単位「gf/cm」を「N/cm」に換算した値である。
(7)剪断角5°におけるヒステリシス;2HG5
剪断剛性Gの測定時に得られたチャートにおいて、剪断角5°でのヒステリシスの幅で求められる値の平均値で、単位「gf/cm」を「N/cm」に換算した値である。
[参考例1]
まず、極細繊維形成性繊維を製造した。すなわちナイロン−6とポリエチレンをチップの状態で50:50の重量比で混合して押出機により溶融紡糸を行いポリエチレンが海成分の海島断面混合紡糸繊維を紡糸、延伸、捲縮、カットして繊度8dtex、51mm長の極細繊維形成性繊維である短繊維を作製した。得られた繊維の海成分であるポリエチレンを溶解除去して極細繊維化し、任意の繊維束の断面を電子顕微鏡写真にて2000倍に拡大・観察したところ、島成分の平均直径から算出した繊維の平均繊度は、0.0052dtexであった。
得られた極細化する前の極細繊維形成性の短繊維を、カードおよびクロスレイヤーを用いて積層し、裏側には支持体として太さ20番手のポリエステル繊維からなる縦糸横糸を持った平織物で2.54cm(1インチ)当たりの縦糸及び横糸の配設本数が20本の織物を重ね合わせた。そして極細繊維形成性繊維の積層品と支持体とを、3バーブのニードル針を用い、1400本/cm2の針密度でニードルパンチして、支持体である織物と極細繊維形成性繊維からなる不織布が一体化したものを作成した。得られた不織布は目付600g/m2、厚さ2.5mmであった。該不織布を150℃の乾燥機で加熱し、30℃の金属ロールで冷却ニップし固定化した。このニップ処理された不織布の目付は、580g/m2、厚さ1.9mmであった。
得られた極細繊維形成性繊維と支持体とからなる不織布に、ポリエーテルエステル系ポリウレタンの重量比8.5%濃度のジメチルホルムアミド(以下DMFとする)溶液にシリコーン系の凝固調節剤を添加したものを含浸し、不織布表面を基材厚さの108%にスクイーズして、表皮層に薄く一層残しながら余分なポリウレタン樹脂溶液を除去し2200g/m2となるよう付与した後、10%DMF水溶液の水バス中で凝固し、140℃で乾燥し基材を得た。含浸に用いたポリエーテルエステル系ポリウレタンを見掛け密度0.18g/cm3の湿式フィルムとし、80℃の熱トルエン中に30分浸漬処理したところ、フィルム厚みの変化率は97.6%であった。
その後、得られた基材を80℃の熱トルエンでディップ、ニップを繰り返し、海島断面混合紡糸繊維中の海成分であるポリエチレンを抽出除去した。得られた極細繊維を含む基材は、目付380g/m2であり加工前後の厚み変化率は96.7%と厚みを維持することが出来た。
該基材表面にエンボスで毛穴調シボ柄を持った外観を付与した後、仕上げ用高分子弾性体をスプレーを用い4.5g/m2となるように表面に塗布し、銀付き調の外観をもった基材を得た。この後該基材の表側より0.6mmの厚みとなるようにスライスを行い、支持体として貼り合わせていた織物の存在する層を切除した後、スライスした面を600メッシュの粒度のサンドペーパーを用いペーパーの速度を800m/minで2回バフ掛けし厚み0.50mmとなるよう調整を実施し銀付調の人工皮革を得た。さらにこのものに柔軟剤としてアミノ変性シリコーンと加脂剤を重量比2:1となるようにブレンドした処理液で固着量4%となるよう付与し、タンブラーにより揉み加工を行った。
得られた銀付調人工皮革における全体厚さは0.52mmであり、その断面の電顕写真から表皮層の厚みは30μmであった。また該基材における高分子弾性体と繊維との比率は40:60であり、このときの繊維見掛け密度は、0.282g/cm3であった。さらに、KES−F1に準拠した測定法で求められる剪断剛性Gは、タテ0.036N/cm・deg(3.67gf/cm・deg)、ヨコ0.039N/cm・deg(3.97g/cm・deg)で、平均値は、0.037N/cm・deg(3.82gf/cm・deg)であった。さらに剪断角0.5°におけるヒステリシス2HGは、タテ0.057N/cm・deg(5.77gf/cm・deg)、ヨコ0.058N/cm・deg(5.90g/cm・deg)で、平均値は、0.057N/cm(5.84gf/cm)であり、剪断角5.0°におけるヒステリシス2HG5は、タテ0.062N/cm・deg(6.32gf/cm・deg)、ヨコ0.065N/cm・deg(6.68g/cm・deg)で、平均値は、0.064N/cm(6.50gf/cm)であった。
この銀付調人工皮革を用いてゴルフ手袋を縫製したところ、表皮層によるツッパリ感が無く、非常にソフトで天然皮革の銀付き素材に非常に近い柔軟な質感がえられ、フィット感や装着感も良好なものであった。
[実施例1]
参考例1と同様にして極細繊維形成性繊維を得た。そして支持体である織物を用いない点以外は参考例1と同様にして、極細化する前の極細繊維形成性の短繊維を、カードおよびクロスレイヤーを用いて積層し、3バーブのニードル針を用い1400本/cm2の針密度でニードルパンチして不織布を作成した。得られた不織布は目付580g/m2、厚さ2.5mmであった。該不織布を150℃の乾燥機で加熱し、30℃の金属ロールで冷却ニップし固定化した。このニップ処理された不織布の目付は、560g/m2、厚さ1.9mmであった。
得られた極細繊維形成性繊維のみからなる不織布に、実施例1で用いたポリエーテルエステル系ポリウレタンを用い、重量比8.5%濃度のDMF溶液にシリコーン系の凝固調節剤を添加したものを含浸し、不織布表面を基材厚さの90%でナイフで絞り、目付2000g/m2となるよう付与した。この絞ったあとの基材の回復時に裏面側より100%伸長時のフィルム強度が23Mpaのポリエーテルエステル系ポリウレタンの重量比15%DMF溶液を目付200g/m2となるようにしみこませ、10%DMF水溶液の水バス中で凝固し、140℃で乾燥し、裏面側に高強度のウレタンによる支持体層を持った基材を得た。
その後、80℃のトルエンでディップ、ニップを繰り返し、ポリエチレンを抽出した。得られた極細繊維からなる基材は、目付360g/m2であり加工前後の厚み変化率は94.8%と厚みを維持することが出来た。
該基材表面にエンボスで毛穴調シボ柄を持った外観を付与した後仕上げ用処理剤をスプレーを用い4.5g/m2となるように表面に塗布し、銀付き調の外観をもった基材を得た。この後該基材の表側より0.6mmの厚みとなるようにスライスを行い、裏面側に存在する高強度のウレタン支持体層を切除した後、スライスした面を600メッシュの粒度のサンドペーパーを用いペーパーの速度を800m/minで2回バフ掛けし厚み0.50mmとなるよう調整を実施した。
このようにして得られた基材に柔軟剤としてアミノ変性シリコーンと加脂剤を重量比2:1となるようにブレンドした処理液で固着量4%となるよう付与し、タンブラーにより揉み加工を行った。得られた銀付き調人工皮革における全体の厚みは0.53mmであり、その断面の電顕写真から表皮層の厚みは30μmであった。また該基材における高分子弾性体と繊維の比率は39:61であり、このときの繊維見掛け密度は、0.281g/cm3であった。さらに、KES−F1に準拠した測定法で求められる剪断剛性Gは、タテ0.034N/cm・deg(3.44gf/cm・deg)、ヨコ0.034N/cm・deg(3.46g/cm・deg)で、平均値は、0.034N/cm・deg(3.45gf/cm・deg)であった。さらに剪断角0.5°におけるヒステリシス2HGは、タテ0.058N/cm・deg(5.95gf/cm・deg)、ヨコ0.059N/cm・deg(6.07g/cm・deg)で、平均値は、0.059N/cm(6.01gf/cm)であり、剪断角5.0°におけるヒステリシス2HG5は、タテ0.067N/cm・deg(6.81gf/cm・deg)、ヨコ0.064N/cm・deg(6.57g/cm・deg)で、平均値は、0.066N/cm(6.69gf/cm)であった。
この人工皮革を用いてゴルフ手袋を縫製したところ表皮層によるツッパリ感が無く非常にソフトで天然皮革の銀付き素材に非常に近い柔軟な質感がえられ、フィット感や装着感の良好なものとなった。
[比較例1]
実施例1と同じく、560g/m2、厚さ1.9mmの極細繊維成形性繊維のみからなる不織布を得た。得られた不織布に、参考例1,実施例1で用いたポリエーテルエステル系ポリウレタンを用い重量比8.5%濃度のDMF溶液にシリコーン系の凝固調節剤を添加したものを含浸し、不織布表面を基材厚さの108%のロール/ロール間クリアランスでスクイーズして、表皮層に薄く一層残しながら余分なポリウレタン樹脂溶液を除去し2200g/m2となるよう付与した後、10%DMF水溶液の水バス中で凝固し、140℃で乾燥し、支持体層を有しない基材を得た。
その後、80℃のトルエンでディップ、ニップを繰り返し、ポリエチレンを抽出したところ、ポリエチレンの除去が進むにつれ装置内での張力により基材に変形が生じ、生産加工方向に大きく伸びてしまい、加工装置が止まるなどのトラブルが多く発生した。また基材巾が大きく縮む現象が起こってしまいとても加工が続けられる状態にならなかった。
[比較例2]
実施例1と同じく、560g/m2、厚さ1.9mmの極細繊維成形性繊維のみからなる不織布を得た。得られた不織布に、参考例1,実施例1で用いたポリエーテルエステル系ポリウレタンを用い重量比12%濃度のDMF溶液にシリコーン系の凝固調節剤を添加したものを含浸し、不織布表面を基材厚さの75%にスクイーズして、余分なポリウレタン樹脂溶液を除去し1760g/m2付与した後、10%DMF水溶液の水バス中で凝固し、140℃で乾燥し、支持体層を有しない基材を得た。その後、80℃のトルエンでディップ、ニップを繰り返し、ポリエチレンを抽出した。得られた極細繊維からなる基材は、目付342.5g/m2であり加工前後の厚み変化率は96.5%と厚みを維持することが出来た。
該基材表面にエンボスで毛穴調シボ柄を持った外観を付与した後仕上げ用処理剤をスプレーを用い4.5g/m2となるように表面に塗布し、銀付き調の外観をもった基材を得た。この後該基材の表側より0.6mmの厚みとなるようにスライスを行い、スライスした面を600メッシュの粒度のサンドペーパーを用いペーパーの速度を800m/minで2回バフ掛けし厚み0.50mmとなるよう調整を実施した。
このようにして得られた基材に柔軟剤としてアミノ変性シリコーンと加脂剤を重量比2:1となるようにブレンドした処理液で固着量4%となるよう付与し、タンブラーにより揉み加工を行った。
得られた銀付き調人工皮革における全体の厚みは0.52mmであり、その断面の電顕写真から表皮層の厚みは30μmであった。また該基材における高分子弾性体と繊維の比率は38:62であり、このときの繊維見掛け密度は、0.224g/cm3であった。さらに、KES−F1に準拠した測定法で求められる剪断剛性Gは、タテ0.065N/cm・deg(6.63gf/cm・deg)、ヨコ0.055N/cm・deg(5.63g/cm・deg)で、平均値は、0.060N/cm・deg(6.13gf/cm・deg)であった。さらに剪断角0.5°におけるヒステリシス2HGは、タテ0.069N/cm・deg(7.00gf/cm・deg)、ヨコ0.088N/cm・deg(8.93g/cm・deg)で、平均値は、0.078N/cm(7.97gf/cm)であり、剪断角5.0°におけるヒステリシス2HG5は、タテ0.076N/cm・deg(7.73gf/cm・deg)、ヨコ0.093N/cm・deg(9.53g/cm・deg)で、平均値は、0.085N/cm(8.63gf/cm)であった。
この人工皮革は生地としては非常にソフトで質感がよい物であったが実際にゴルフ手袋を縫製したところ表皮層によるツッパリ感から着用時手を動かす時に抵抗感があり、高級な天然皮革の装着感と大きく異なるものとなった。
[比較例3]
実施例1と同じく、560g/m2、厚さ1.9mmの極細繊維成形性繊維のみからなる不織布を得た。得られた不織布に、参考例1,実施例1で用いたポリエーテルエステル系ポリウレタンを用い重量比12%濃度のDMF溶液にシリコーン系の凝固調節剤を添加したものを含浸し、不織布表面を基材厚さの75%にスクイーズして、余分なポリウレタン樹脂溶液を除去し1760g/m2付与した後、10%DMF水溶液の水バス中で凝固し、140℃で乾燥した。その後、80℃のトルエンでディップ、ニップを繰り返し、ポリエチレンを抽出した。得られた極細繊維からなる基材は、目付342.5g/m2であり加工前後の厚み変化率は96.5%と厚みを維持することが出来た。
該基材表面にDMF溶液を用いて200メッシュで2ロール塗布し、乾燥後、320メッシュのサンドペーパーで研磨し、さらに、400メッシュのサンドペーパーで逆方向から研磨し基材表面を立毛させ、表面が多くの立毛繊維により覆われている基材を得た。この後該基材を厚みの半分にスライスを行い、このスライスした面を240メッシュの粒度のサンドペーパーを用いペーパーの速度を800m/minで3回バフ掛けし厚みを調整実施し、厚み0.40mmとした。このようにして得られた立毛のある基材に柔軟剤としてアミノ変性シリコーンと加脂剤を重量比2:1となるようにブレンドした処理液で固着量2%となるよう付与し、タンブラーにより揉み加工を行った。
次に、100%モジュラス4.3MPaのポリエーテルエステル系ポリウレタン溶液(濃度15%)を離型紙(AR―74M、厚さ0.25mm、旭ロール(株)製)上に塗布量、目付け150g/m2(wet)で塗布し、初めに100℃で3分間乾燥させた。このとき得られた高分子弾性体の層の厚みは平均15.0μmであった。次に100%モジュラス2.5MPaの架橋型ポリウレタンに3官能の架橋剤を1部加えた接着層用配合液を、理論上の接着層の厚みが27.7μmとなるよう、塗布量、目付け100g/m2(wet)で塗布し、100℃で30秒間乾燥させた後、その上にここで得られた立毛を持つ人工皮革を貼り合わせ、120℃で1分間乾燥し、次いで70℃で48時間エージングを行った後12時間放置冷却を行い離型紙を分離し表面に高分子弾性体の層を持った銀付き調人工皮革を得た。これをタンブラーにより揉み加工を行った。得られた銀付き調人工皮革における全体の厚みは0.45mmであり、その断面の電顕写真から表皮層の厚みは33μmであった。また該基材における高分子弾性体と繊維の比率は39:61であり、このときの繊維見掛け密度は、0.321g/cm3であった。
さらに、KES−F1に準拠した測定法で求められる剪断剛性Gは、タテ0.064N/cm・deg(6.57gf/cm・deg)、ヨコ0.060N/cm・deg(6.15g/cm・deg)で、平均値は、0.062N/cm・deg(6.36gf/cm・deg)であった。さらに剪断角0.5°におけるヒステリシス2HGは、タテ0.095N/cm・deg(9.70gf/cm・deg)、ヨコ0.107N/cm・deg(10.87g/cm・deg)で、平均値は、0.101N/cm(10.29gf/cm)であり、剪断角5.0°におけるヒステリシス2HG5は、タテ0.075N/cm・deg(7.67gf/cm・deg)、ヨコ0.081N/cm・deg(8.30g/cm・deg)で、平均値は、0.078N/cm(7.99gf/cm)であった。
この人工皮革は生地としては非常にソフトで質感がよい物であったが実際にゴルフ手袋を縫製したところ表皮層によるツッパリ感から着用時手を動かす時に抵抗感があり、高級な天然皮革の装着感と大きく異なるものとなった。