JP4607342B2 - 金属イオン選択吸着材料及び金属イオン除去方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属イオン選択吸着材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、排水中の金属イオンを除去する方法として、水酸化カルシウムを添加してpH調整することが行われている。この方法によると、大量のスラッジが発生し、しかもそのスラッジには種々の金属が混在するため産業廃棄物として処理され、金属資源の再利用ができない、という問題があった。また、線状高分子や樹脂の中にキレート化剤を入れた廃液処理剤も知られているが、これらの有機系の材料は、廃液の種類によっては高分子や樹脂自体の化学的安定性が損なわれるという問題があった。
【0003】
近年、メソポーラスシリカの表面をメルカプトプロピルトリメトキシシランで表面修飾した材料が、水銀・鉛などの重金属を吸着することが報告された(Feng, et.al., Science, Vol.276, 923 (1997))。この報告によれば、メソポーラスシリカの表面に加水分解されたメルカプトプロピルトリメトキシシランの単層が形成されている。吸着に際してメルカプト基の硫黄と重金属イオンとが結合するモデルが提唱されており、メルカプト基が表面に多くあるほどメソポーラスシリカ単位質量あたりの吸着効率が向上すると考えられる。しかし、メソポラスシリカの表面の75%程度までしか表面修飾することができないのが現状である。また、一分子層が形成されているだけなので、比表面積は、表面修飾していないメソポーラスシリカのときと同じである。
【0004】
一方、最近各分野で注目されている材料として、無機・有機ハイブリッド材料がある。SiO4四面体で三次元網目構造が形成されているシリカガラスに対して、無機・有機ハイブリッドは、一般に、骨格を形成する三次元網目構造の一部が、SiO4四面体の架橋酸素の少なくとも1個以上が有機基で置換された四面体で形成されている。シロキサン骨格を修飾する有機基としては、メチル基、フェニル基などの炭化水素基および炭化水素基の一部の水素がフッ素になったフルオロ置換体、酸素を含むエポキシ基、窒素を含むアミノ基・シアノ基、硫黄を含むスルホン基・メルカプト基などが知られている。これらの有機基の役割として、シロキサン骨格への柔軟性の付与、酸素透過性の確保、撥水性の付与、親油性の発現、耐クラック性の向上などが挙げられる。また、無機成分としてシリカや各種の金属酸化物成分を含むことができるので、熱的・化学的安定性に優れるという特徴も兼ね備えている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、単位質量あたりの金属イオン吸着効率の高い無機・有機ハイブリッド材料を含む金属イオン選択吸着材料を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前記課題は、(1) メルカプトプロピルトリアルコキシシランと金属アルコキシドの原料を用いて得られる無機・有機ハイブリッド材料であって、Siに対するSH基のモル比が0.05以上1.0以下であり、シロキサン結合を含み、BET比表面積が0.2m2/g以上であり、Si以外の金属元素としてチタンを含有する無機・有機ハイブリッド材料を含む金属イオン選択吸着材料、
(2) Siに対するSi以外の金属元素のモル比が0.05以上0.5以下である(1)記載の金属イオン選択吸着材料、
(3) Si1原子に対するSi-CH3結合および/またはSi-H結合の割合が0.1以上0.95未満である(1)または(2)に記載の無機・有機ハイブリッド材料金属イオン選択吸着材料、
(4) (1)〜(3)のいずれかに記載の金属イオン選択吸着材料を用いて、酸性溶液又はオイル中の金属イオンを選択除去する金属イオン除去方法、
によって解決される。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明は、シロキサン骨格構造中にSH基を取り込むとともに、多孔質化することにより金属イオン吸着効率を上げた、無機・有機ハイブリッド材料を含む金属イオン吸着材料に関するものである。
本発明における無機・有機ハイブリッドは、三次元網目構造状に発達した無機骨格を有し、その無機骨格の一部がSH基を含む有機基で修飾されたシロキサン結合から成っている。SH基を含む有機基としては、メルカプトプロピル基が挙げられる。Siに対するSH基のモル比が0.05より小さいときは、無機・有機ハイブリッドの単位質量あたりの吸着効率が低い。Siに対するSH基のモル比が高いほど金属イオンの吸着可能なサイトが増えるが、ゲル化が難しくなり、1.0より大きいときは、固体状の試料が得られない。また、窒素ガス吸着によって測定したBET比表面積が0.2m2/gより小さい場合、導入したSH基の大部分は金属イオンと接触できず、吸着効率が低下する。したがって、BET比表面積が0.2m2/gより小さい場合は、無機・有機ハイブリッドを粉砕して比表面積を増やす必要がある。
【0008】
本発明の無機・有機ハイブリッド材料は、金属、セラミックス、有機ポリマーなど他の材料と複合して用いることができる。たとえば、適量の有機バインダーと混ぜて、ビーズ状、ペレット状、シート状に成形することができる。また、本発明の無機・有機ハイブリッド材料は、単独または他の材料と混ぜて、メソポーラスシリカ・ゼオライト・多孔質金属フィルタ・多孔質アルミナなどの多孔体、基板、配管や容器の内壁など各種基材にコーティングして、多孔質膜として使用してもよい。
【0009】
本発明の無機・有機ハイブリッド材料は、メルカプトプロピルトリアルコキシシランと金属アルコキシドの原料を用いて得られる。メルカプトプロピルトリアルコキシシランとしては、たとえばトリメトキシメルカプトプロピルシランなどのSH基を含むオルガノアルコキシシランと、SH基を含まない金属アルコキシドであるアルコキシシランとを有機溶媒中で加水分解することにより得られる。SH基を含まないアルコキシシランとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-オクタデシルメチルジエトキシシラン、n-オクチルメチルジエトキシシラン、イソブチルメチルジクロロシラン、ジメトキシメチル-3,3,3-トリフルオロプロピルシラン,ジイソブチルジメトキシシラン、フェニルエチルジクロロシラン、t-ブチルフェニルジクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、ジメトキシメチルシラン、ジエトキシメチルシラン、フェニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノエチルアミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。加水分解においては、アルキルアルコキシシランなどの原料を均一に分散、溶解できる有機溶媒が使用される。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の各種アルコール、アセトン、トルエン、キシレン等である。
【0010】
本発明において加水分解には全アルコキシ基に対して、0.1〜3.0倍の水を使用することができる。水は有機溶媒で希釈して使用してもよい。加水分解に際して、酸・アルカリなどの触媒を使用してもよい。本発明の無機・有機ハイブリッド材料の無機骨格は、シロキサン結合を主骨格とするが、Si以外の金属元素としてチタンと酸素から成る結合を含む。それ以外に、Si以外の金属元素としては、 B, Al, Ge, Y, Zr, Nb, Taなどが挙げられる。シロキサン骨格中にM-O-M結合、M-O-Si結合を導入するには、SH基を含むオルガノアルコキシシランと、SH基を含まない金属アルコキシドであるアルコキシシランと、Si以外の金属のアルコキシドとを有機溶媒中に分散させ、同時に加水分解する。このときSH基を含まないアルコキシドは入れなくてもよい。Si以外の金属のアルコキシドが存在すると、SH基を含むオルガノアルコキシシランの加水分解・重縮合反応が促進され、ゲル化時間が短縮される利点がある。Si以外の金属のアルコキシドを用いる場合、アルコキシ基の一部をβ-ジケトン、β-ケトエステル、アルカノールアミン、アルキルアルカノールアミン、有機酸等で置換したアルコキシド誘導体も使用できる。Si以外の金属アルコキシドはSiに対してモル比で0.05以上0.5以下であるとき、特にゲル化時間短縮の効果が大きい。
【0011】
Si-CH3結合およびSi-H結合は、無機・有機ハイブリッド材料を疎水性にする効果を持ち、オイルやトルエンなどの非極性有機溶媒との濡れ性が向上し、オイルや非極性溶媒中の金属イオンの除去効率が高くなる。Si1原子に対するSi-CH3結合および/またはSi-H結合の割合は0.1以上0.95以下であるとき、オイルや非極性溶媒中の金属イオンの除去効率が特に高くなる。
【0012】
本発明におけるSH基含有の無機・有機ハイブリッド材料を含む金属イオン選択吸着材料は、金属イオン(M+)を含む液体と接触させると、たとえば
M+ + SH ⇔ SM + H+
によって表されるようなメカニズムで、液体中に溶解している金属イオンM+をハイブリッド中に取り込むことができる。上記の反応は平衡反応であり、平衡定数は金属イオンM+の種類によって異なるため、複数種類の金属イオンが溶解している液体の場合、平衡定数の差を利用して、選択的に金属イオンを除去できる。
【0013】
本発明における金属イオン選択吸着材料は、主骨格としてシロキサン結合を含むため、一般的な有機材料に比べて、耐熱性・耐溶剤性に優れており、SH基含有の有機系材料より苛酷な条件下でも、金属イオンの選択除去が行える。選択的に特定の金属イオンが吸着した金属イオン選択吸着材料は、溶液のpHを変えることで吸着したイオンを溶液中に放出できるので、吸着金属を再利用することが可能になる。
【0014】
【実施例】
(実施例1)
エタノール中でメルカプトプロピルトリメトキシシランとトリエトキシシランと予め2モル倍のアセト酢酸エチルで化学改質したチタンエトキシドを混合した。メルカプトプロピルトリメトキシシランと、トリエトキシシランと、チタンエトキシドのモル比は、5:5:1である。これらの混合物を全アルコキシ基に対して0.5モル倍の0.5Nの塩酸で加水分解して、70℃で乾燥することにより、直径1cm、高さ1cmの無機・有機ハイブリッドを作製した。得られたハイブリッドについて窒素ガス吸着によるBET比表面積を測定したところ0.3m2/gであった。
【0015】
このハイブリッドをBi, Pb, Ni, Alの金属イオンが各100mg/l溶解している1Nの硝酸溶液中に48時間浸漬した。硝酸溶液からハイブリッドを取り出し、さらにその溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過後、ICPで元素分析を行ったところ、溶液中の金属イオン濃度は、Bi <2mg/l, Pb 100mg/l, Ni 98.6mg/l, Al 100mg/lに変化しており、Biイオンを選択的に吸着していた。また、 Bi, Pb, Ni, Alの金属イオンが各5mg/l溶解しているシリコーンオイル中にこのハイブリッドを48時間浸漬したところ、Biイオン濃度が0.5mg/l以下まで低減した。
【0016】
(実施例2)
エタノール中でメルカプトプロピルトリメトキシシランと予め2モル倍のアセト酢酸エチルで化学改質したチタンエトキシドを混合した。メルカプトプロピルトリメトキシシランと、チタンエトキシドのモル比は、10:1である。これらの混合物を全アルコキシ基に対して1モル倍の水で加水分解して、70℃で乾燥することにより、無機・有機ハイブリッドを作製した。得られたハイブリッドは緻密体であったので、粉砕してBET比表面積0.27m2/gの粉末試料にした。
【0017】
このハイブリッドをB, Cd, Cr, Znの金属イオンが各100mg/l溶解している1Nの硝酸溶液中に48時間浸漬した。硝酸溶液からハイブリッドを取り出し、さらにその溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過後、ICPで元素分析を行ったところ、溶液中の金属イオン濃度は、B 100mg/l, Cd 100mg/l, Cr 53mg/l, Zn 100mg/lに変化しており、Crイオンを選択的に吸着していた。
【0020】
(実施例3)
エタノール中でメルカプトプロピルトリメトキシシランとトリエトキシシランと予め2モル倍のアセト酢酸エチルで化学改質したチタンエトキシドを混合した。メルカプトプロピルトリメトキシシランと、トリエトキシシランと、チタンエトキシドのモル比は、5:5:1である。これらの混合物を全アルコキシ基に対して0.5モル倍の0.5Nの塩酸で加水分解した。この加水分解液に、直径3cm、厚さ5mmのステンレスフィルタを浸漬して引き上げ、70℃で乾燥した。実施例1の結果から、ステンレスフィルタの表面にコーティングされた膜は、多孔質になっていると考えられる。
【0021】
このフィルタをBi, Pb, Ni, Alの金属イオンが各100mg/l溶解している1Nの硝酸溶液中に24時間浸漬した。硝酸溶液からフィルタを取り出し、さらにその溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過後、ICPで元素分析を行ったところ、溶液中の金属イオン濃度は、Bi 10mg/l, Pb 100mg/l, Ni 100mg/l, Al 100mg/lに変化しており、Biイオンを選択的に吸着していた。また、 Bi, Pb, Ni, Alの金属イオンが各5mg/l溶解しているシリコーンオイル中にこのハイブリッドを24時間浸漬したところ、Biイオン濃度が0.5mg/l以下まで低減した。
【0022】
(比較例1)
メタノール中でメチルトリメトキシシランとトリメトキシシランと予め2モル倍のアセト酢酸エチルで化学改質したチタンエトキシドを混合した。メチルトリメトキシシランと、トリメトキシシランと、チタンエトキシドのモル比は、5:5:1である。これらの混合物を全アルコキシ基に対して0.5モル倍の0.5Nの塩酸で加水分解して、70℃で乾燥することにより、無機・有機ハイブリッドを作製した。得られたハイブリッドについて窒素ガス吸着によるBET比表面積を測定したところ0.5m2/gであった。
【0023】
このハイブリッドをBi, Pb, Ni, Alの金属イオンが各100mg/l溶解している1Nの硝酸溶液中に48時間浸漬した。硝酸溶液からハイブリッドを取り出し、さらにその溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過後、ICPで元素分析を行ったところ、溶液中の金属イオン濃度は、いずれのイオンについても100mg/lであり、吸着性は見られなかった。また、 Bi, Pb, Ni, Alの金属イオンが各5mg/l溶解しているシリコーンオイル中にこのハイブリッドを48時間浸漬したところ、金属イオン濃度の変化は見られなかった。
【0024】
(比較例2)
エタノール中でメルカプトプロピルトリメトキシシランと予め2モル倍のアセト酢酸エチルで化学改質したチタンエトキシドを混合した。メルカプトプロピルトリメトキシシランと、チタンエトキシドのモル比は、10:1である。これらの混合物を全アルコキシ基に対して1モル倍の水で加水分解して、70℃で乾燥することにより、無機・有機ハイブリッドを作製した。得られたハイブリッドは緻密体であった。
【0025】
このハイブリッドをB, Cd, Cr, Znの金属イオンが各100mg/l溶解している1Nの硝酸溶液中に48時間浸漬した。硝酸溶液からハイブリッドを取り出し、さらにその溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過後、ICPで元素分析を行ったところ、溶液中の金属イオン濃度の変化は見られなかった。
【0026】
【発明の効果】
本発明によれば、金属イオンを選択的に除去できる無機・有機ハイブリッド材料を含む金属イオン選択吸着材料を得ることができる。本発明の金属イオン選択吸着材料は、例えばフィルタや配管のライナーとして用いることにより、排水・廃油などに含まれる金属イオンを選択的に除去できる。本発明の材料は、選択的に特定の金属イオンを吸着するので、吸着した金属イオンを再生利用することが容易になる。
Claims (4)
- メルカプトプロピルトリアルコキシシランと金属アルコキシドの原料を用いて得られる無機・有機ハイブリッド材料であって、Siに対するSH基のモル比が0.05以上1.0以下であり、シロキサン結合を含み、BET比表面積が0.2m2/g以上であり、Si以外の金属元素としてチタンを含有する無機・有機ハイブリッド材料を含む金属イオン選択吸着材料。
- Siに対するSi以外の金属元素のモル比が0.05以上0.5以下である請求項1記載の金属イオン選択吸着材料。
- Si1原子に対するSi−CH3結合および/またはSi−H結合の割合が0.1以上0.95未満である請求項1または2に記載の金属イオン選択吸着材料。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の金属イオン選択吸着材料を用いて、酸性溶液又はオイル中の金属イオンを選択除去する金属イオン除去方法。
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JP2001511068A (ja) * | 1997-02-07 | 2001-08-07 | バッテル・メモリアル・インスティチュート | 表面官能化メゾ孔質物質とその製造方法 |
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- 2001-01-26 JP JP2001018912A patent/JP4607342B2/ja not_active Expired - Fee Related
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