JP4606523B2 - ステロイド類の25位水酸化物の生物学的製造方法 - Google Patents

ステロイド類の25位水酸化物の生物学的製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、コレステロール以外のステロイド類の25位を生物学的に水酸化する方法に関するものである。
【従来の技術】
ステロイド類の25位を生物学的に水酸化する方法としては、ステロイド類の25位を水酸化することができる能力を有するストレプトマイセス属微生物を用いる方法が既に知られている(特開平7−123997号公報)。ストレプトマイセス属微生物として具体的には、ストレプトマイセス・スペシーズHB−103(Streptomyces species HB−103) が挙げられている。この菌を用いると、構造の複雑なステロイド類の25位を効率よくかつ簡易に直接水酸化することができる。
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ストレプトマイセス属以外の微生物を用いたコレステロール以外のステロイド類の25位を生物学的に水酸化する方法を提供することを目的とする。
【0002】
【課題を解決するための手段】
本発明は、多くの微生物のなかからアミコラータ(Amycolata)属又はスフィンゴモナス(Sphingomonas)属に属する微生物がステロイド類の25位を水酸化することができる能力を有するとの知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明は、ステロイド類の25位を水酸化することができる能力を有するアミコラータ(Amycolata)属又はスフィンゴモナス(Sphingomonas)属に属する微生物菌体または培養液にステロイド類(但し、コレステロールを除く)を添加して、ステロイド類の25位の炭素に結合している水素原子を水酸基に変えることを特徴とするステロイド類の25位水酸化物の生物学的製造方法を提供する。
【0003】
【発明の実施の形態】
本発明で対象とするステロイド類としては、コレステロール以外のステロイドであって、25位が炭素原子であってここに水素原子が結合しているかぎり、他の炭素原子はいずれの元素でもよいステロイド類である。たとえば、22位の炭素原子が酸素原子、イオウ原子、窒素原子などでも良い。また25位以外に置換基として、低級アルキル基、環状炭化水素基、トリアゾリンなどのヘテロ環基や、保護されていてもよい、水酸基、アミノ基、ヒドロキシ低級アルキル基、ヒドロキシ低級アルコキシ基、アシル基などを有していてもよい。またステロイド骨格中に1以上の不飽和結合を有していてもよく、さらにその不飽和結合が酸化されたエポキシ環を有していてもよい。
本発明は、対象とするステロイド類としては、下記一般式(I)で示される化合物が好ましい。
【0004】
【化1】
Figure 0004606523
【0005】
(式中、R1 は水素原子または保護されていてもよい水酸基を、R2 は水素原子または水酸基が保護されていてもよいヒドロキシ低級アルコキシ基を示すか、またはR1 とR2 で二重結合を形成するかエポキシ環を形成することを示す。R3 は水素原子または保護基を示し、R4 、R5 、R6 、R7 は、それぞれ水素原子を示すか、R4 とR5 、R6 とR7 の一方もしくは両方が二重結合を形成しているか、R5 とR6 で二重結合を形成し、R4 とR7 で共役二重結合を保護し得るジエノファイルと結合していることを示す。XはCH2 または酸素原子を示す。、但し、XがCH2 である場合には、R1 、R2 、R6 及びR7 が水素原子であり、R4 とR5 で二重結合を形成している場合を除く。)
【0006】
式中の保護基としては、例えば、アセチル基、ピバロイル基、メトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、p−トルエンスルホニル基などのアシル基、メチル基、メトキシメチル基などの置換されていてもよいアルキル基、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基などの置換シリル基などがあげられ、好ましくはトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基などがあげられる。
また、共役二重結合を保護し得るジエノファイルとしては、一般式(II)で示される化合物が用いられる。
【0007】
【化2】
Figure 0004606523
【0008】
(式中AおよびBは、同一または異なる基で1〜4個の炭素原子を有するアルコキシ基を表すか、あるいはAとBとは一緒にフェニルイミノ基またはo−フェニレン基を表す。Yは窒素原子またはメチン基(=CH−)を表す。)。このうち、好ましくは、4−フェニル−1,2,4−トリアゾリン−3,5−ジオン、マレイン酸ジエチルなどが用いられる。
本発明で対象とするステロイド類として、具体的には、1α,3β−ジヒドロキシ−5,7−コレスタジエン、2β−(3−ヒドロキシプロピルオキシ)−1α,3β−ジヒドロキシ−5,7−コレスタジエン、5α,8α−(3,5−ジオキソ−4−フェニル−1,2,4−トリアゾリジノ)−1,6−コレスタジエン−3β−オール、3β−ヒドロキシ−1,5,7−コレスタトリエン、1α,2α−エポキシ−5α,8α−(3,5−ジオキソ−4−フェニル−1,2,4−トリアゾリジノ)−6−コレステン−3β−オール,1α,2α−エポキシ−3β−ヒドロキシ−5,7−コレスタジエン、20(S)−(3−メチルブチルオキシ)−プレグナ−5,7−ジエン−1α,3β−ジオール、20(S)−(3−メチルブチルオキシ)−プレグナ−5−エン−1α,3β−ジオール等があげられる。
【0009】
本発明の方法によるとステロイド中の水酸基の位置あるいは水酸基の数に関係なく25位を水酸化しさらに二重結合の位置あるいは数に関係なく25位を直接水酸化することができる。
本発明で用いるステロイド類の25位を水酸化することができる能力を有するアミコーラタ(Amycolata)属に属する微生物としては、アミコラータ・サツルネア(Amycolata saturnea)A−1246株、アミコラータ・サツルネア(Amycolata saturnea) FERM BP−2307、アミコラータ・オートトロヒカ(Amycolata autotrophica)ATCC33796などの菌株をあげることができるが、アミコラータ属に属し、ステロイド類の25位を水酸化することができる能力を有する菌株であればいずれも使用可能である。又、スフィンゴモナス(Sphingomonas)属に属する微生物としては、スフィンゴモナス・パラパウシモビリス(Sphingomonas parapaucimobilis) IFO 15100 などがあげられ、ステロイド類の25位を水酸化することができる能力を有する菌株であればいずれも使用可能である。
これらのうち、アミコラータ・オートトロヒカ(Amycolata autotrophica)ATCC33796及びアミコラータ・サツルネア(Amycolata saturnea)A−1246株が好ましい。このアミコラータ・サツルネア(Amycolata saturnea)A−1246株は、本発明者らが土壌中より分離したものであって、次の菌学的性状を示す。
【0010】
(1)形態
栄養菌糸は合成寒天培地および天然寒天培地においてよく発達し、不規則的に分岐する。また隔壁は認められない。胞子はグリセリン・アスパラギン寒天培地およびスターチ無機塩寒天培地などで良好に形成される。顕微鏡で観察すると、胞子形成菌糸の分岐方法は、単純分岐で胞子は直線状に形成される。胞子は通常3個以上の連鎖が認められ、培養の後期には長い鎖上を呈し、表面は平滑である。胞子の形状は円筒形で、その大きさは0.5〜0.8×2.5〜4.3μmである。菌核、胞子のう、鞭毛胞子は観察されない。
【0011】
(2)各種培地における生育状態(30℃)
(2−1)シュークロース・硝酸塩寒天培地
培地上での生育状態は、中程度であり、コロニー裏面の色調は、淡褐色である。気菌糸の形成は中程度であり、クリーム色を呈する。可溶性色素は産生しない。
(2−2)グルコース・アスパラギン寒天培地
培地上での生育状態は、やや不良であり、コロニー裏面の色調は、クリーム色である。気菌糸の形成は中程度であり、白色を呈する。可溶性色素は産生しない。
(2−3)グリセリン・アスパラギン寒天培地
培地上での生育状態は、良好であり、コロニー裏面の色調は、淡黄色である。気菌糸の形成は良好であり、白色を呈する。可溶性色素は産生しない。
(2−4)スターチ・無機塩寒天培地
培地上での生育状態は、中程度であり、コロニー裏面の色調は、クリーム色である。気菌糸の形成は良好であり、白色を呈する。可溶性色素は産生しない。
【0012】
(2−5)チロシン寒天培地
培地上での生育状態は、中程度であり、コロニー裏面の色調は、赤褐色である。気菌糸の形成は良好であり、クリーム色を呈する。淡赤褐色の可溶性色素を産生する。
(2−6)栄養寒天培地
培地上での生育状態は、良好であり、コロニー裏面の色調は、淡黄色である。気菌糸の形成は良好であり、白色を呈する。可溶性色素は産生しない。
(2−7)イースト・麦芽寒天培地
培地上での生育状態は、良好であり、コロニー裏面の色調は、淡黄色である。気菌糸の形成はやや不良であり、白色を呈する。可溶性色素は産生しない。
(2−8)オートミール寒天培地
培地上での生育状態は、中程度であり、コロニー裏面の色調は、クリーム色である。気菌糸の形成はやや不良であり、白色を呈する。可溶性色素は産生しない。
(2−9)ペプトン・イースト・鉄寒天培地
培地上での生育状態は、中程度であり、コロニー裏面の色調は、淡褐色である。気菌糸の形成は中程度であり、クリーム色を呈する。可溶性色素は産生しない。
【0013】
(3)生理的性質
(3−1)生育温度範囲:栄養寒天培地を使用した場合、20〜30℃の温度範囲で良好な生育が認められる。10℃以下および40℃以上では生育しない。
(3−2)好気性・嫌気性の区別:好気性である。
(3−3)ゼラチンの液化:陽性である。
(3−3)スターチの加水分解:陰性である。
(3−4)脱脂牛乳の凝固、ペプトン化:いずれも陰性である。
(3−5)メラニン様色素の生成:陰性である。
(3−6)硝酸還元能:陰性である。
【0014】
(4)各種炭素源の利用性:フリドハム・ゴトリーブ寒天培地上に各種の炭素源を加え、生育を見た場合、D−グルコース、シュークロース、D−キシロース、イノシトール、D−マンニット、D−フルクトースのいずれの炭素源も利用することができる。L−アラビノース、L−ラムノースおよびラフィノースは利用できない。
(5)細胞壁成分
細胞壁成分を全菌体の分解物を用いて調べた結果、ルシェバリエの分類(インターナショナル・ジャーナル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(International Journal of Systematic Bacteriology)vol. 20,p435〜443(1970))によるタイプIII細胞壁に属した。またミコール酸は含まれていない。
【0015】
以上の菌学的性状から本菌株が放線菌に属することは明確であり、インターナショナル・ジャーナル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(International Journal of Systematic Bacteriology)vol. 36,p29〜37(1986)に報告されている既知微生物の性状と比較したところ、本菌株は、アミコラータ・サツルネア(Amycolata saturnea)とほぼ一致した。以上の結果から、本菌株はアミコラータ・サツルネア(Amycolata saturnea)に属するものと判断し、アミコラータ・サツルネア(Amycolata saturnea)A−1246株と命名した。本菌株は、工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されている(平成7年8月7日、FERM BP−5544)。
本発明のコレステロール以外のステロイド類の25位を生物学的に水酸化する方法は、アミコラータ(Amycolata)属又スフィンゴモナス(Sphingomonas)属に属する微生物を含有する溶液中で、基質であるコレステロール以外のステロイド類を好気的条件下で水酸化させるものである。反応に必要な微生物菌体は、上記菌株を栄養源含有培地に接種し、好気的に培養することにより製造される。上記微生物の培養方法は、原則的には一般微生物の培養方法に準ずるが、通常は液体培養による振盪培養、通気撹拌培養などの好気的条件下で実施するのが好ましい。
【0016】
培養に用いられる培地としては、アミコラータ(Amycolata)属又スフィンゴモナス(Sphingomonas)属に属する微生物が利用できる栄養源を含有する培地であればよく、各種の合成、半合成培地、天然培地などいずれも利用可能である。培地組成としては炭素源としてのグルコース、マルトース、キシロース、フルクトース、シュークロース等を単独または組み合わせて用いることができる。窒素源としては、ペプトン、肉エキス、大豆粉、カゼイン、アミノ酸、酵母エキス、尿素等の有機窒素源、硝酸ナトリウム、硫酸アンモニウム等の無機窒素源を、単独または組み合わせて用いることができる。その他、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、塩化コバルト等の塩類、重金属類塩、ビタミン類も必要に応じ添加使用することができる。なお、培養中発泡が著しい場合には、公知の各種消泡剤を適宜培地中に添加することもできる。
【0017】
培養条件は、該菌株が良好に生育し得る範囲内で適宜選択することができる。通常、pH6〜7.5、28〜30℃で2〜8日程度培養する。上述した各種の培養条件は、使用微生物の種類や特性、外部条件等に応じて適宜変更でき、最適条件を選択できる。
このように調製した微生物菌体を含有する反応溶液にステロイド類を添加し、25位にヒドロキシ基を有するステロイド類を生産させる。すなわち培養中の微生物菌体を含む培養液をそのまま用いるか、培養終了後、遠心分離または濾過により分離した菌体を懸濁させた溶液を用いる。菌体の懸濁に使用できる溶液は、前記した培地であるか、あるいはトリス−酢酸、トリス−塩酸、コハク酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウムなどの緩衝液を単独または混合したものである。緩衝液のpHは、7.0〜8.5が好ましい。
【0018】
基質となるステロイド類は、粉末のままか、あるいは水溶性有機溶媒、例えばエタノールなどに溶解して微生物菌体を含有する反応溶液に添加すればよく、その添加量は、反応溶液1ml当り0.15〜0.60mgが好ましい。添加量を0.60mg/mlより多くすると、変換速度が遅くなり好ましくない。基質添加後は、27〜31℃で1〜3日間、好ましくは約1日間、振とうあるいは通気撹拌などの操作を行い、好気的条件下で反応を進行させることにより25位にヒドロキシ基を有するステロイド類を生産することができる。
【0019】
以上述べたとおり、アミコラータ(Amycolata)属又はスフィンゴモナス(Sphingomonas)属に属する微生物を用いることによりステロイド類を原料として25位にヒドロキシ基を有するステロイド類を製造することができるが、さらに、その微生物反応の際の反応溶液中にステロイド類と共にシクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体を共存させることにより、25位にヒドロキシ基を有するステロイド類への変換率を飛躍的に増大できる。
【0020】
本発明で使用するシクロデキストリンとしては、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンが挙げられる。またシクロデキストリン誘導体としては、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリン、グリコシル−β−シクロデキストリンやメチル化シクロデキストリンなとがあげられる。これらのうち、メチル化シクロデキストリンが好ましい。ここで、メチル化シクロデキストリンとは、シクロデキストリンの2,3または6位の水酸基の水素原子がメチル基で置換された化合物をいい、2および6位が完全にメチル化されたα−シクロデキストリン由来のヘキサキス−(2,6−O−ジメチル)−α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン由来のヘプタキス−(2,6−O−ジメチル)−β−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリン由来のオクタキス−(2,6−O−ジメチル)−γ−シクロデキストリン、あるいは2,3および6位が完全にメチル化されたα−シクロデキストリン由来のヘキサキス−(2,3,6−O−トリメチル)−α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン由来のヘプタキス−(2,3,6−O−トリメチル)−β−シクロデキストリンおよびγ−シクロデキストリン由来のオクタキス−(2,3,6−O−トリメチル)−γ−シクロデキストリン、あるいは2,3,6位の各6個、7個もしくは8個の水素基が部分的にメチル化された部分メチル化シクロデキストリン(以下、PMCDと略称することがある)を挙げることができる。メチル化率は50〜70%であるのが好ましく、最も好ましくは約61%である。本発明においては、上記メチル化シクロデキストリンの中から任意の一種または二種以上が選択されて用いられるが、特にβ−シクロデキストリン由来の部分メチル化シクロデキストリンが好適に用いられる。
【0021】
シクロデキストリン又はその誘導体の添加量は、反応溶液1ml当り0.1〜10mgが好ましく、より好ましい範囲は、0.5〜5mgである。シクロデキストリン又はその誘導体の添加量が反応溶液1ml当り0.1mg未満の場合は、25位にヒドロキシ基を有するステロイド類への変換率の改善効果が十分でなく、10mgを越えると、変換反応の反応速度が遅くなり、また反応溶液の発泡が著しくなり、微生物反応の継続が困難になる。
本発明では、シクロデキストリン類と同時に界面活性剤を共存することが有効な手段である。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤としてポリオキシエチレン・ソルビタン脂肪酸エステル(例えば Tween80(シグマ社製)、ソルビタン脂肪酸エステル(例えば Span 85(シグマ社製))、ポリオキシエチレンエーテル(例えば Brij 96(シグマ社製))や Triton X−100(シグマ社製)、ノニルフェノール(例えばノニポール45(三洋化成工業(株))製)、酸化エチレン−酸化プロピレンのブロック共重合物(例えば Pluronic L−61(旭電化工業(株)製)、および陰イオン性界面活性剤としてダイレックス(日本油脂(株)製)、トラックス(日本油脂(株)製)などを用いることができる。使用する非イオン界面活性剤の量は、0.1〜0.5%程度とするのが好ましい。
【0022】
これらの反応により製造された25位にヒドロキシ基を有するステロイド類を反応溶液から単離するには、既知の種々の方法を選択、組み合わせて行うことができる。例えば、酢酸エチル、n−ブタノール等を用いた溶媒抽出、シリカゲル等によるカラム法あるいは薄層クロマトグラフィー、液々分配クロマトグラフィー、逆相カラムを用いた分取用高速液体クロマトグラフィー、合成吸着樹脂を用いたカラムクロマトグラフィー等を、単独あるいは適宜組み合わせ、場合により反復使用することにより分離精製することができる。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。なお、下記の例中の%は特に断らない限り重量%を示す。
【0023】
【実施例】
実施例1
グルコース1.5%、バクトソイトン(ディフコ社製)1.5%、コーンスチープリカー(日本食品加工社製)0.5%、塩化ナトリウム0.4%、炭酸カルシウム0.2%(pH7.0)及び残部が水からなる種母用培地(以下、培地Aという)100mlを500ml容三角フラスコに入れ、120℃、20分間加熱滅菌した。これにアミコラータ・オートトロヒカ(Amycolata autotrophica)ATCC33796の凍結種母2mlを接種し、28℃、220rpm(振幅70mm)で2日間振とう培養し、種母培養液を調製した。
【0024】
次にグルコース2.0%、酵母エキス(オリエンタル酵母(株)製)0.2%、ペプトン(極東製薬(株)製)0.5%、大豆粉(エスサンミート:味の素(株)製)1.0%、コーンスチープリカー0.5%、第二リン酸カリウム0.04%、塩化ナトリウム0.04%、炭酸カルシウム0.2%(pH7.4)及び残部が水からなる変換培養用培地(以下、培地Bという)50mlを250ml容三角フラスコに入れ、120℃、20分間加熱滅菌した。これに先に調製した種母培養液2mlを接種し、28℃、2日間ロータリーシェーカーで培養し、3mlづつ培養液を試験管に分注する。
この3mlの培養液それぞれに、部分メチル化β−シクロデキストリン(メチル化率55.8%)を濃度0、0.5及び1.0重量%となるように添加し、ついで、下記のステロイドa、b、c又はdを250μg/mlになるようにエタノール溶液として添加した。ついで、30℃、ロータリーシェーカーにて17時間反応させた。
【0025】
【化3】
Figure 0004606523
【0026】
反応後、得られた培養液1mlを供栓付き遠心沈殿管に移し9mlのメタノールを加え密栓をした後、15分間混合した。混合液を3000rpm 、10分間遠心分離し、上清をHPLC分析した。HPLC装置はL−6000システム(日立製作所製)を用い、カラムはYMC A503CN(内径4.6mm、全長250mm;山村化学製)、溶離液はアセトニトリル:水=55:45を用い、流速1.0ml/分、カラム温度40℃で分析を行い、検出は205又は265nmにおける紫外吸収で行った。定量は化学合成で得たステロイドa、b、c又はdの25位水酸化体標品のHPLC上での面積値と比較して行った。
【0027】
【表1】
表−1(変換反応17時間後の分析値(単位μg/ml))
Figure 0004606523
【0028】
上記の結果から、本発明によればステロイド類から効率よく25位にヒドロキシ基を有するステロイド類を製造することができ、又部分メチル化シクロデキストリンが共存すると、ステロイド類の25位の水酸化率が向上することがわかる。
実施例2
基質として、ステロイドaを用い、PMCDの濃度を変化させた以外は、実施例1と同様にして6時間反応を行い、25位にヒドロキシ基を有するステロイド類の生成量を求めた。結果を表−2に示す。
【0029】
【表2】
表−2(反応6時間後の25位水酸化体生成量)
Figure 0004606523
上記の結果から、部分メチル化シクロデキストリンの至適濃度が1%であることがわかる。
実施例3
基質として、ステロイドaを用い、PMCDの濃度1%とし、基質の濃度を変化させた以外は、実施例1と同様にして6時間反応を行い、25位にヒドロキシ基を有するステロイド類の生成量を求めた。結果を表−3に示す。
【0030】
【表3】
表−3(反応6時間後の25位水酸化体生成量(単位μg/ml))
Figure 0004606523
上記の結果から、ステロイド類の至適濃度が250μg/mlであることがわかる。
実施例4
基質として、ステロイドaを用い、種々のシクロデキストリン又はその誘導体を1.0%の濃度で用い、Tween80を0又は0.2%用いた以外は、実施例1と同様にして6時間又は24時間反応を行い、25位にヒドロキシ基を有するステロイド類の生成量を求めた。結果を表−4及び5に示す。
【0031】
尚、用いたシクロデキストリン(CD)又はその誘導体は、以下のものである。
α−CD、β−CD、γ−CD、ヒドロキシプロピル−β−CD、マルトシル−β−CD
PMCD−a:部分メチル化シクロデキストリン(メチル化率 72.1%)
PMCD−b:部分メチル化シクロデキストリン(メチル化率 69.0%)
PMCD−c:部分メチル化シクロデキストリン(メチル化率 55.8%)
混合PMCD−1:PMCD−a/PMCD−c=1/2混合物(メチル化率61.2%)
混合PMCD−2:PMCD−a/PMCD−c=2/1混合物(メチル化率66.7%)
DMCD:2,6−ジ−O−メチル−β−シクロデキストリン(メチル化率 66.6%)
TMCD:2,3,6−トリ−O−メチル−β−シクロデキストリン(メチル化率100 %)
混合PMCD−3:DMCD/TMCD=1/2混合物(メチル化率 88.9%)
混合PMCD−4:DMCD/TMCD=2/1混合物(メチル化率 77.7%)
【0032】
【表4】
表−4(反応6及び24時間後の25位水酸化体生成量(単位μg/ml))
Figure 0004606523
α−CD以外は添加効果が認められた。添加効果がもっとも高いのはPMCD−cであったが、その他のCDもTween80 との併用によって添加効果が増幅された(反応6時間)。Tween80 のみでは添加効果はわずかであった。
【0033】
【表5】
表−5(25位水酸化体生成量(単位μg/ml))
Figure 0004606523
【0034】
上記の結果からメチル化シクロデキストリンにおいてはそれぞれ添加効果が認められた。特にメチル化シクロデキストリンにおいては、平均メチル化率が61%でもっとも促進効果が高かった。
実施例5
基質として、ステロイドaを用い、PMCD非共存下又は1%共存下、各種微生物を用いた以外は、実施例1と同様にして6時間又は24時間反応を行い、25位にヒドロキシ基を有するステロイド類の生成量を求めた。結果を表−6に示す。
使用した菌を次に示す。
アミコラータ・サツルネア(Amycolata saturnea)A−1246株 FERM BP 5544
アミコラータ・オートトロヒカ(Amycolata autotrophica)ATCC33796
ストレプトマイセス・ロゼオスプロス(Streptomyces roseosprous) FERM BP 1574
スフィンゴモナス・パラパウシモビリス(Sphingomonas parapaucimobilis) IFO 15100
ストレプトマイセス・スペシーズHB−103(Streptomyces species HB−103) FERM BP 4318
【0035】
【表6】
表−6(25位水酸化体生成量(単位μg/ml))
Figure 0004606523
【0036】
実施例6
培地A100mlを500ml容量の三角フラスコに入れ、綿栓をした後121℃で20分間蒸気滅菌した。冷却後、アミコラータ・オウトトロフィカATCC33796を1白金耳無菌的に植菌し、28℃、210rpmで3日間振とう培養した。培地BにPMCD(メチル化率55.8%)を1.0%になるように添加した培地50mlを250ml容量の三角フラスコに入れ、綿栓をした後121℃で20分間高圧蒸気滅菌したものを4本用意し、上記培地Aの培養液1.0mlを無菌的に移し、28℃、220rpm(振幅70mm)で2日間培養した。対照としてPMCDを含まない培地Bで同様に培養した。これらの培養液に各々25mgのステロイドaを1mlのエタノールに溶解して各々添加し、さらに24時間上記条件で培養した。この培養液に、さらに25mgのステロイドaを1mlのエタノールに溶解して追加し、同様に24時間上記条件で培養した(ステロイドaの添加濃度1g/L)。反応後、得られた培養液1mlを共栓付き遠心沈殿管に移し9mlのメタノールを加え、密栓をした後、15分間混合した。混合液を3000rpm、10分間遠心分離し、上清をHPLC分析した。HPLC装置はL−6000システム(日立(株)製)を用い、カラムはYMC A503CN(内径4.6mm、全長250mm;山村化学製)、溶離液はアセトニトリル:水=55:45を用い、流速1.0ml/分、カラム温度40℃で分析を行い、検出は205又は265nmにおける紫外吸収で行った。定量は化学合成で得たステロイドaの25位水酸化体標品とのHPLC上の面積値と比較して行った。その結果、780mg/Lのステロイドaの25位水酸化体の生成を確認した。培地にPMCDを添加しない場合のステロイドaの25位水酸化体の生成量は9.1mg/Lであった。
【0037】
PMCDを含む培地Bで得た反応液200mlを3000rpm、10分間の遠心分離を行い、上清を得た後、アンバーライトXAD−7カラム(内径30mm、長さ140mm;オルガノ製)を通過させステロイドa及びその25位水酸化体を吸着させた。水洗及び50%メタノールでカラムを洗浄した後、100%メタノールで溶出し、溶出液を減圧濃縮乾固した。
次に、50gのワコーゲルC−300(和光純薬製)をn−ヘキサン:酢酸エチル=3:1で充填したカラムに濃縮乾固物を少量のn−ヘキサン:酢酸エチル=3:1に溶解し、カラム上端に吸着させ、n−ヘキサン:酢酸エチル=3:1を500ml通過させた後、n−ヘキサン:酢酸エチル=3:2で溶出した。溶出画分をHPLCで分析しステロイドaの25位水酸化体画分を減圧濃縮乾固した。
次にHPLCにて乾固物を分離した。HPLC分離条件は、カラム;Inertsil Prep-ODS (20×250mm;ジーエルサイエンス社製)、溶出液;90%メタノール、流速;10ml/min、検出;265nmにおける紫外吸収で行った。その結果、97mgのステロイドaの25位水酸化体を得た。この分離物の核磁気共鳴、赤外吸収、及びマススペクトルを測定し構造解析を行った結果、ステロイドaの25位水酸化体であることが確認された。
得られた25位水酸化体の特性値を次に示す。
m.p.:169〜171℃
[α]D :-16.0(c0.5,MeOH, 21.8℃)
FAB-MS(M/Z):
414(M+H) + (Matrix;m-Nitrobenzyl Alcohol)
( 計算値413:C27413)
IRνmax cm-1:
3382,2959,2870,1449,1377,1267,1151,1047,930
UVλmax nm(ε) :
260(8860 sh),269(12300),280(12750),291(7210)
【0038】
1H-NMR(CDCl3) δ(ppm) :
5.72(1H,d,J=4Hz),5.40(1H,m),3.91(1H,m),3.33(1H,d,J=4Hz),
3.05(1H,d,J=4Hz),2.4〜2.5(2H,m),2.24(1H,t,J=11Hz),
2.1 〜2.15(1H,m),2.01(1H,d,J=5Hz),1.88〜1.95(2H,m),
1.78〜1.85(2H,m),1.66 〜1.71(1H,m),1.22 〜1.5(11H,m),
1.22(6H,s),1.05(3H,s),0.97(3H,d,J=7Hz),0.64(3H,s)
13C-NMR(CDCl3)δ(ppm) :
141.5(s), 133.7(s), 122.0(d), 115.9(d), 71.1(s), 67.2(d), 60.9(d),
60.2(d), 55.7(d), 54.5(d), 44.4(t), 42.7(s), 39.7(d), 38.8(t),
38.4(s), 36.9(t), 36.4(t), 36.1(d), 29.4(q), 29.2(q), 28.0(t),
23.0(t), 20.8(t), 20.6(t), 18.8(q), 15.2(q), 11.9(q)
【0039】
実施例7
基質として、ステロイドbを用い、実施例2と同様にして6時間反応を行い、25位にヒドロキシ基を有するステロイド類の定量を行った。結果を表−7に示す。
【表7】
表−7 反応6時間後の25位水酸化体生成量
Figure 0004606523
上記の結果から部分メチル化シクロデキストリンの至適濃度が0.5%であることがわかる。
【0040】
実施例8
基質としてステロイドbを用い、実施例3と同様にして6時間反応を行い、25位にヒドロキシ基を有するステロイド類の定量を行った。結果を表−8に示す。
【表8】
表−8 反応6時間後の25位水酸化体生成量
Figure 0004606523
上記の結果からステロイド類の至適濃度が250μg/mlであることがわかる。
【0041】
実施例9 ステロイドbの25位水酸化体の合成
実施例6と同様にしてPMCDを含む培地Bでアミコラータ オートトロヒカATCC33796株を培養し200mlの培養液をえた(フラスコ4本分)。これらの培養液に各々25mgのステロイドbを1mlのエタノールに溶解して各々添加し、24時間で培養した。この培養液に、さらに25mgのステロイドbを1mlのエタノールに溶解して追加し、同様に24時間で培養した(ステロイドbの添加濃度1g/L)。その結果、PMCDを含む培地Bにおいて778mg/Lのステロイドbの25位水酸化体を蓄積した。PMCDを含まない培地Bでの蓄積量は4.0mg/Lであった。
PMCDを含む培地Bで得た反応液200mlを3000rpm、10分間の遠心分離を行い上清を得た後、アンバーライトXAD−7カラム(内径30mm、長さ140mm;オルガノ製)に通過させステロイドb及びその25位水酸化体を吸着させた。水洗及び50%メタノールでカラムを洗浄した後、100%メタノールで溶出し、溶出液を減圧濃縮乾固した。
【0042】
次に、50gのワコーゲルC−300(和光純薬製)をジクロロメタン:エタノール=19:1で充填したカラムに濃縮乾固物を少量のジクロロメタン:エタノール=19:1に溶解し、カラム上端に吸着させジクロロメタン:エタノール=19:1で溶出した。溶出画分をHPLCで分析しステロイドbの25位水酸化体画分を減圧濃縮乾固した。その結果103mgのステロイドbの25位水酸化体を得た。
m.p.:155〜157℃(クロロホルムからの結晶)
〔α〕D :44.6(c 0.5, MeOH,22℃)
FAB-MS(m/z):
490(M)+ (マトリックス;m-ニトロベンジルアルコール Pos.)
489(M-H)(マトリックス;m-ニトロベンジルアルコール Neg.)(490: C30H506についての計算値)
【0043】
IRνmax cm-1
3385, 2938, 2870, 1468, 1379, 1136, 1096, 1055, 910
UVλmax nm (ε) :
262(6570 sh), 272(9400), 282(10010), 294(5850)
1H-NMR(CDCl3) δ(ppm) :
5.71(1H,m,J=5.5,2.2Hz),5.40(1H,m,J=5.5,2.6Hz), 3.6〜4.0(7H,m),
2.5 〜2.7(2H,m),2.32(1H,dd,J=14,5Hz),2.10(1H,m),1.23〜2.0(22H,m),
1.22(6H,s),1.07(3H,s),0.96(3H,d,J=6.6Hz), 0.63(3H,s)
13C-NMR(CDCl3)δ(ppm):
141.0(s), 136.1(s), 124.6(d), 115.4(d), 82.3(d), 71.8(d), 71.1(s),
68.9(t), 67.0(d), 60.8(t), 55.9(d), 54.6(d), 44.4(t), 43.1(s),41.8(s),
39.2(t), 38.7(d), 36.4(t), 36.1(d), 35.2(t), 32.3(t), 29.4(q),29.2(q),
28.1(t), 23.0(t), 21.1(t), 20.8(t), 18.8(q), 15.9(q), 11.9(q)

Claims (15)

  1. ステロイド類の25位を水酸化することができる能力を有するアミコラータ(Amycolata)属に属する微生物菌体またはその培養液に2β−(3−ヒドロキシプロピルオキシ)−1α,3β−ジヒドロキシ−5,7−コレスタジエン及び1α,2α−エポキシ−3β−ヒドロキシ−5,7−コレスタジエンからなる群より選択されるステロイド類を添加して、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリン、またはメチル化シクロデキストリンの共存下で、ステロイド類の25位の炭素に結合している水素原子を水酸基に変えることを特徴とするステロイド類の25位水酸化物の生物学的製造方法。
  2. ステロイド類が2β−(3−ヒドロキシプロピルオキシ)−1α,3β−ジヒドロキシ−5,7−コレスタジエンである請求項1記載の製造方法。
  3. ステロイド類が1α,2α−エポキシ−3β−ヒドロキシ−5,7−コレスタジエンである請求項1記載の製造方法。
  4. アミコラータ属に属する微生物がアミコラータ・サツルネアである請求項1記載の製造方法。
  5. アミコラータ属に属する微生物がアミコラータ・サツルネアA−1246株(FERM BP 5544)である請求項1記載の製造方法。
  6. アミコラータ属に属する微生物がアミコラータ・オートトロヒカである請求項1記載の製造方法。
  7. アミコラータ属に属する微生物がアミコラータ・オートトロヒカATCC33796株である請求項1記載の製造方法。
  8. メチル化シクロデキストリンのメチル化率が50〜70%である請求項記載の製造方法。
  9. メチル化シクロデキストリンのメチル化率が61%である請求項記載の製造方法。
  10. β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンまたはメチル化シクロデキストリンの添加量が、反応溶液1mlあたり0.1〜10mgである請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
  11. β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンまたはメチル化シクロデキストリンの添加量が、反応溶液1mlあたり0.5〜5mgである請求項10記載の製造方法。
  12. 界面活性化剤を共存させることを特徴とする請求項1〜11記載の製造方法。
  13. 界面活性化剤が非イオン性界面活性化剤である請求項12記載の製造方法。
  14. 非イオン性界面活性化剤がポリオキシエチレン・ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンエーテル、TritonX−100、ノニルフェノールおよび酸化エチレン−酸化プロピレンのブロック共重合物からなる群より選ばれる1種以上である請求項13記載の製造方法。
  15. 非イオン性界面活性化剤の添加量が0.1〜0.5%である請求項13または14記載の製造方法。
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