本発明は、概して、ホイールインモータ構造を採用した車両用駆動輪構造に係り、特に、コンパクトで且つ多機能な車両用駆動輪構造に関する。
従来、ホイールインモータ構造を採用した車両用駆動輪構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1には、各輪に2つの独立した駆動輪を並列に設置し、モータ制御によって駆動にのみならずこれら駆動輪間の回転差により操舵も実現する車両用駆動輪構造が開示されている。
特開2004−90903号公報
しかしながら、上記特許文献1記載の従来構造では、各輪にホイール、ベアリング、タイヤ等が2セットずつ必要となるため、部品点数が増加して製造コストが高くなると共に、構造が大型化するために大きなホイールハウスが必要となって車室内スペースを広くとることができなくなる。
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、コンパクトで且つ多機能な車両用駆動輪構造を提供することを主たる目的とする。
上記目的を達成するための本発明の第一の態様は、ホイールインモータ構造を採用した車両用駆動輪構造であって、車輪回転軸を中心軸として回転可能に設置された車輪取付部材と、車体側に各々固定され、独立に制御可能な2つの車輪駆動用モータとを備え、上記車輪取付部材の車両外側端には車輪が固定され、該車輪取付部材の車両内側端には車輪回転軸を中心とし、基準面が車輪回転軸に直交する円環状ギアが形成され、上記2つの車輪駆動用モータは、上記円環状ギアの円環内側に、車輪回転軸と直交する一方向に各モータの出力軸が揃うようにそれぞれ配置され、上記2つの車輪駆動用モータの各々の出力軸上には該出力軸と一体となって回転する駆動ギアがそれぞれ設けられ、該駆動ギアの各々は、上記円環状ギアと噛合する、車両用駆動輪構造である。
この第一の態様において、上記一方向は、任意の方向でよく、例えば、車両上下方向又は車両前後方向に平行な方向である。
また、この第一の態様において、上記2つの車輪駆動用モータを共通の回転軸まわりについて互いに逆方向に回転させると、各モータの上記駆動ギアは上記円環状ギアを車輪回転軸まわりに同方向に回転させる方向にそれぞれ回転しようとする。よって、上記2つの車輪駆動用モータを共通の回転軸まわりについて互いに逆方向に同トルクで回転させることによって、上記円環状ギアを車輪回転軸まわりに回転させ、車輪を駆動することができる。
さらに、この第一の態様において、上記2つの車輪駆動用モータを共通の回転軸まわりについて同方向に回転させると、各モータの上記駆動ギアは上記円環状ギアを車輪回転軸まわりに逆方向に回転させる方向にそれぞれ回転しようとする。よって、上記2つの車輪駆動用モータを共通の回転軸まわりについて同方向に同トルクで回転させると、各モータの上記駆動ギアの出力軸まわりの回転は上記円環状ギアを車輪回転軸まわりに回転させる点において互いに打ち消し合い、上記円環状ギアは車輪回転軸まわりには回転せず、上記駆動ギア及び各モータの出力軸と共に上記一方向に沿った上記2つの車輪駆動用モータ共通の回転軸まわりに回転することになる。
すなわち、この第一の態様において、上記2つの車輪駆動用モータを共通の回転軸まわりについて同方向に同トルクで回転させると、車輪全体を該一方向に沿ったモータ出力軸まわりに回転させることができる。これは、上記一方向が車両上下方向に平行であれば操舵が実現されることを意味し、上記一方向が車両前後方向に平行であればキャンバー角調整が実現されることを意味する。
このように、上記第一の態様によれば、2つのモータを独立に制御することによって、1つの構造で車輪の駆動と操舵又はキャンバー角調整とが実現されるため、コンパクトで且つ多機能な車両用駆動輪構造を実現することができる。
また、上記第一の態様によれば、2つのモータの回転方向に加えて回転トルクの大きさを制御することによって、モータ出力を駆動成分と転舵又はキャンバー角調整成分とに分配することができる。すなわち、2つのモータ間のトルク差を変化させることによって逆相成分(駆動)と同相成分(転舵又はキャンバー角調整)の割合を任意に変化させることができるため、モータ出力をロス無く使い切ることができる。これにより、要求されるモータ出力性能に対する体格や質量を低減することができる。
なお、この第一の態様において、上記車両用駆動輪構造が車輪回転制動機構を更に備え、該車輪回転制動機構が、上記車輪取付部材に固定され、車輪回転軸を中心軸として該車輪取付部材と共に回転する被制動回転部材と、該被制動回転部材の一部に摺接する摩擦材と、制動時に上記摩擦材を上記被制動回転部材の一部に押し付ける押圧手段とを含み、該押圧手段が、リンク機構によって上記2つの車輪駆動用モータの少なくとも一方と連結され、上記2つの車輪駆動用モータが共通の回転軸まわりについて同方向に駆動し、各出力軸の回転が上記駆動ギアと噛合した上記円環状ギアによって妨げられるとき、上記押圧手段が上記摩擦材を上記被制動回転部材に押し付けるように上記リンク機構を構成すると、上記2つの車輪駆動用モータを共通の回転軸まわりについて同方向に同トルクで回転させたときに、制動制御も実現されることになる。この場合も、モータ間のトルク差を変化させることによって駆動に使われる逆相成分と制動(及び/又は転舵若しくはキャンバー角調整)に使われる同相成分の割合を任意に変化させることができる。
また、この第一の態様において、上記車両用駆動輪構造がダブルウィッシュボーン式サスペンションに取り付けられたとき、アッパーアームに車両上下方向に揺動可能にナックルを取り付け、ロワーアームに上記2つの車輪駆動用モータの少なくとも一方を固定すると、上記2つの車輪駆動用モータを共通の回転軸まわりについて同方向に同トルクで回転させたときに、サスペンションストローク調整も実現されることになる。この場合も、モータ間のトルク差を変化させることによって駆動に使われる逆相成分とサスペンションストローク調整(及び/又は転舵若しくはキャンバー角調整若しくは制動)に使われる同相成分の割合を任意に変化させることができる。
上記目的を達成するための本発明の第二の態様は、ホイールインモータ構造を採用した車両用駆動輪構造であって、車輪回転軸を中心軸として回転可能に設置された車輪取付部材と、車体側に固定された車輪駆動用両軸モータと、該車輪駆動用両軸モータの一方の出力軸の出力を変速及び/又は減速する変速・減速手段とを備え、上記車輪取付部材の車両外側端には車輪が固定され、該車輪取付部材の車両内側端には車輪回転軸を中心とし、基準面が車輪回転軸に直交する円環状ギアが形成され、上記車輪駆動用モータ及び上記変速・減速手段は、上記円環状ギアの円環内側に、車輪回転軸と直交する一方向に上記車輪駆動用モータの他方の出力軸及び上記変速・減速手段の出力軸が揃うようにそれぞれ配置され、上記車輪駆動用モータの他方の出力軸及び上記変速・減速手段の出力軸上には各軸と一体となって回転する駆動ギアがそれぞれ設けられ、上記駆動ギアの各々は、上記円環状ギアと噛合する、車両用駆動輪構造である。
この第二の態様において、上記一方向は、任意の方向でよく、例えば、車両上下方向又は車両前後方向に平行な方向である。
また、この第二の態様において、上記変速・減速手段がモータ出力を反転させて出力すると、上記駆動ギアは上記円環状ギアを車輪回転軸まわりに同方向に回転させる方向にそれぞれモータ回転軸まわりで回転しようとする。よって、上記変速・減速手段に車輪駆動用モータの出力を同トルクのまま回転方向を反転させて出力させることによって、上記円環状ギアを車輪回転軸まわりに回転させ、車輪を駆動することができる。
さらに、この第二の態様において、上記変速・減速手段がモータ出力を反転させずに出力すると、上記駆動ギアは上記円環状ギアを車輪回転軸まわりに逆方向に回転させる方向にそれぞれモータ回転軸まわりで回転しようとする。よって、上記変速・減速手段に車輪駆動用モータの出力をそのまま同トルク・同方向で出力させることによって、上記駆動ギアの出力軸まわりの回転は上記円環状ギアを車輪回転軸まわりに回転させる点において互いに打ち消し合い、上記円環状ギアは車輪回転軸まわりには回転せず、上記駆動ギア及びモータ出力軸及び上記変速・減速手段の出力軸と共に上記一方向に沿った上記車輪駆動用モータ該変速・減速手段共通の回転軸まわりに回転することになる。
すなわち、この第二の態様において、上記変速・減速手段にモータ出力を同方向・同トルクのまま出力させると、車輪全体をモータ及び上記変速・減速手段共通の回転軸まわりに回転させることができる。これは、上記一方向が車両上下方向に平行であれば操舵が実現されることを意味し、上記一方向が車両前後方向に平行であればキャンバー角調整が実現されることを意味する。
このように、上記第二の態様によれば、上記車輪駆動用モータ及び上記変速・減速手段を制御することによって、1つの構造で車輪の駆動と操舵又はキャンバー角調整とが実現されるため、コンパクトで且つ多機能な車両用駆動輪構造を実現することができる。
また、上記第二の態様によれば、上記変速・減速手段により上記駆動ギアの回転方向に加えて回転トルクの大きさを制御することによって、モータ出力を駆動成分と転舵又はキャンバー角調整成分とに分配することができる。すなわち、2つの出力軸間のトルク差を変化させることによって逆相成分(駆動)と同相成分(転舵又はキャンバー角調整)の割合を任意に変化させることができるため、モータ出力をロス無く使い切ることができる。これにより、要求されるモータ出力性能に対する体格や質量を低減することができる。
なお、この第二の態様において、上記車両用駆動輪構造が車輪回転制動機構を更に備え、該車輪回転制動機構が、上記車輪取付部材に固定され、車輪回転軸を中心軸として該車輪取付部材と一緒に回転する被制動回転部材と、該被制動回転部材の一部に摺接する摩擦材と、制動時に上記摩擦材を上記被制動回転部材の一部に押し付ける押圧手段とを含み、該押圧手段が、リンク機構によって上記車輪駆動用モータ及び上記変速・減速手段の少なくとも一方と連結され、上記車輪駆動用モータの出力軸及び上記変速・減速手段の出力軸が共通の回転軸まわりについて同方向に回転し、各出力軸の回転が上記駆動ギアと噛合した上記円環状ギアによって妨げられるとき、上記押圧手段が上記摩擦材を上記被制動回転部材に押し付けるように上記リンク機構を構成すると、上記車輪駆動用モータの出力軸及び上記変速・減速手段の出力軸が同方向に同トルクで回転したときに、制動制御も実現されることになる。この場合、上記変速・減速手段による変速制御によりこれら出力軸間のトルク差を変化させることによって駆動に使われる逆相成分と制動(及び/又は転舵若しくはキャンバー角調整)に使われる同相成分の割合を任意に変化させることができる。
また、この第二の態様において、上記車両用駆動輪構造がダブルウィッシュボーン式サスペンションに取り付けられたとき、アッパーアームに車両上下方向に揺動可能にナックルを取り付け、ロワーアームに上記車輪駆動用モータ及び上記変速・減速手段の少なくとも一方を固定すると、上記車輪駆動用モータの出力軸及び上記変速・減速手段の出力軸が共通の回転軸まわりについて同方向に回転させたときに、サスペンションストローク調整も実現されることになる。この場合も、これらの出力軸間のトルク差を変化させることによって駆動に使われる逆相成分とサスペンションストローク調整(及び/又は転舵若しくはキャンバー角調整若しくは制動)に使われる同相成分の割合を任意に変化させることができる。
本発明によれば、コンパクトで且つ多機能な車両用駆動輪構造を提供することができる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。なお、ホイールインモータ構造を採用した車両用駆動輪構造の基本概念、主要なハードウェア構成、作動原理、及び基本的な制御手法等については当業者には既知であるため、詳しい説明を省略する。
また、以下に説明する実施例及び添付図面においては、説明の便宜上、車両左側の駆動輪を例に挙げて説明する。前輪であるか後輪であるかは問わない。当業者には明らかなように、以下に説明する実施例及び添付図面に示された本発明に係る構造は、ミラー反転させることによって図示しない右輪にも当然適用可能である。
まず、図1〜6を用いて、本発明の一実施例(実施例1)に係る車両用駆動輪構造について説明する。
本実施例に係る車両用駆動輪構造100は、ホイール内に配置された2つのモータを独立して制御することによって、駆動及び操舵を1つのホイールインモータ構造によって実現可能にすると共に、車両走行状態に応じてモータ出力の駆動成分及び操舵成分の割合を任意に変化させることができるようにしたものである。
図1は本実施例に係る車両用駆動輪構造100を車両後部から見た概略背面図であり、図2は車両用駆動輪構造100を車両上面から見た概略上面図であり、図3は車両用駆動輪構造100のA−A断面(図1)を示す概略横断面図であり、図4は車両用駆動輪構造100を車両内側から見た概略側面図である。
車両用駆動輪構造100は、車両左右方向に略平行な車輪回転軸Xを中心軸として回転可能に設置された車輪取付部材101と、車輪取付部材101を車輪回転軸Xまわりに回転可能に支持すると共に、転舵時に転舵軸まわりに図示しない車輪と一緒に回転するナックル102とを有する。
車輪取付部材101の車両外側端には、図示しない車輪を取り付けるためのハブ101aが形成される。また、車輪取付部材101は、例えばボールベアリングなどを介してナックル102に支持されるフランジ部101bを有する。さらに、車輪取付部材101の車両内側端には、車輪回転軸Xを中心として基準面が車輪回転軸Xに直交する円環状のギア101cが形成される。
車両用駆動輪構造100は、更に、2つのモータ103及び104と、これらモータ103及び104それぞれのモータ出力軸105及び106と、モータ出力軸105及び106それぞれの軸上に各モータ出力軸と一体となって回転するように設けられた駆動ギア107及び108とを有する。
図示するように、2つのモータ103及び104は、車両上下方向において車輪回転軸Xを挟んで上下に(縦に)後部同士を突き合わせるように反対向きに配置される。よって、モータ出力軸105及び106は、車両上下方向に略平行な同軸上に位置し、共通の回転軸Zを定義する。後述するように、本実施例では、このモータ回転軸Zが転舵軸となる。
駆動ギア107は、図示するように、円環状ギア101cと一対のかさ歯車機構として噛合している。同様に、駆動ギア108も、図示するように、円環状ギア101cと一対のかさ歯車機構として噛合している。
モータ103及び104のハウジングは、車体Bに固定される。図1に示す車体Bは、モータ103及び104が固定されていることを示すために便宜的に描かれたものであり、形状・サイズ・相対的位置関係は必ずしも実際の構造とは一致しない。車体Bは、図2〜4では図示を省略する。
モータ出力軸105は、駆動ギア107の上方において、例えばボールベアリングなどを介してナックル102にモータ回転軸Zまわりに回転可能に支持される。同様に、モータ出力軸106は、駆動ギア108の下方において、例えばボールベアリングなどを介してナックル102にモータ回転軸Zまわりに回転可能に支持される。
ここでは、モータ103及び104を通電制御するための配線や回路の図示は省略しているが、モータ103及び104はそれぞれ独立に回転方向及び回転トルクを制御可能であるものとする。
次いで、このような構成の車両用駆動輪構造100の動作について図5及び6を用いて説明する。図5は車輪に駆動力のみを発生させる場合、図6は車輪を転舵のみさせる場合をそれぞれ示している。
図5(a)及び(b)に示すように、車輪に駆動力のみを発生させるときには、モータ103及び104を共通の回転軸Zまわりについて逆方向に同じトルクで回転させる。図示したような本実施例に係るモータ103及び104の配置により、モータ103及び104が共通の回転軸Zまわりについて互いに逆方向に回転すると、駆動ギア107が円環状ギア101cを車輪回転軸Xまわりに(すなわちYZ平面において)回転させようとする回転方向と、駆動ギア108が円環状ギア101cを車輪回転軸Xまわりに回転させようとする回転方向とが一致するため、円環状ギア101cが車輪回転軸Xまわりに回転する。
また、図6(a)及び(b)に示すように、車輪を転舵のみさせるときには、モータ103及び104を共通の回転軸Zまわりについて同じ方向に同じトルクで回転させる。図示したような本実施例に係るモータ103及び104の配置により、モータ103及び104が共通の回転軸Zまわりについて同じ方向に回転すると、駆動ギア107が円環状ギア101cを車輪回転軸Xまわりに回転させようとする回転方向と、駆動ギア108が円環状ギア101cを車輪回転軸Xまわりに回転させようとする回転方向とが逆向きになるため、モータ103及び104がそれぞれ発生させた回転トルクが互いに打ち消し合って、円環状ギア101cは車輪回転軸Xまわりには回転しない。よって、車輪に駆動力は発生しない。
代わりに、円環状ギア101cは、駆動ギア107及び108からモータ回転軸Zまわりについては同じ回転方向に力を受けるため、図示するように、モータ回転軸Zまわりに(すなわちXY平面において)回転する。
以上、モータ103及び104の発生させるトルクの大きさが等しいものとして軸Zまわりについてのモータ回転方向の違いによる作用の違いを説明した。すなわち、モータ103及び104の発生させるトルクの大きさが等しい場合、駆動ギア107及び108の回転方向が軸Zまわりについて同方向であれば車輪を駆動させずに転舵させることができ(据え切り)、逆方向であれば車輪を転舵させずに駆動させることができる(直進全力加速)。
車両用駆動輪構造100は、更に、モータ103及び104の出力トルクの大きさに差を付けることによって、モータ出力を任意の割合で逆相(駆動)成分と同相(転舵)成分とに配分することができる。
すなわち、モータ103及び104の出力トルクの大きさが異なると、駆動ギア107及び108がモータ回転軸Zまわりについて同じ方向に回転している場合であっても回転速度に差が生じることから、逆相成分が生じる。したがって、モータ103及び104の出力トルクの大きさを制御して駆動ギア107及び108間の回転速度差を調整することによって、モータ出力のうち駆動成分の割合と転舵成分との割合を任意に変化させることができる。
このように、本実施例によれば、独立に制御可能な2つのモータを車輪の半径方向に平行な軸上に車両上下方向に縦に並べて配置し、それぞれがかさ歯車機構により車輪を回転させるように構成したことにより、簡易且つコンパクトな構造でありながらモータ制御のみで駆動及び操舵を双方とも可能とするホイールインモータ構造を実現することができる。
また、本実施例によれば、同じくモータ制御のみでモータ出力を駆動と操舵に任意の割合で配分することができるため、モータ出力をロス無く使い切ることができ、要求されるモータ出力性能に対する体格や質量を低減することができる。
次いで、図7〜9を用いて、本発明の別の一実施例(実施例2)に係る車両用駆動輪構造について説明する。
本実施例に係る車両用駆動輪構造200は、上記実施例1に係る車両用駆動輪構造100における2つのモータの配置を変更して、共通のモータ回転軸Zを車両前後方向に略平行となるようにし、2つのモータを独立して制御することによって、駆動及びキャンバー角調整を1つのホイールインモータ構造によって実現可能にすると共に、車両走行状態に応じてモータ出力の駆動成分及びキャンバー角調整成分の割合を任意に変化させることができるようにしたものである。
図7は車両用駆動輪構造200を車両内側から見た概略側面図であり、図8は車両用駆動輪構造200のB−B断面(図7)を示す概略横断面図であり、図9は車両用駆動輪構造200のC−C断面(図8)を示す概略背面図である。
車両用駆動輪構造200は、車両左右方向に略平行な車輪回転軸Xを中心軸として回転可能に設置された車輪取付部材201と、車輪取付部材201を車輪回転軸Xまわりに回転可能に支持すると共に、転舵時に図示しない車輪と一緒に回転するナックル202とを有する。
車輪取付部材201の車両外側端には、図示しない車輪を取り付けるためのハブ201aが形成される。また、車輪取付部材201は、例えばボールベアリングなどを介してナックル202に支持されるフランジ部201bを有する。さらに、車輪取付部材201の車両内側端には、車輪回転軸Xを中心として基準面が車輪回転軸Xに直交する円環状のギア201cが形成される。
車両用駆動輪構造200は、更に、2つのモータ203及び204と、これらモータ203及び204それぞれのモータ出力軸205及び206と、モータ出力軸205及び206それぞれの軸上に各モータ出力軸と一体となって回転するように設けられた駆動ギア207及び208とを有する。
図示するように、2つのモータ203及び204は、車両前後方向において車輪回転軸Xを挟んで前後に(横に)後部同士を突き合わせるように反対向きに配置される。よって、モータ出力軸205及び206は、車両前後方向に略平行な同軸上に位置し、共通の回転軸Yを定義する。
駆動ギア207は、図示するように、円環状ギア201cと一対のかさ歯車機構として噛合している。同様に、駆動ギア208も、図示するように、円環状ギア201cと一対のかさ歯車機構として噛合している。
モータ203及び204のハウジングは、車体Bに固定される。図8に示す車体Bは、モータ203及び204が固定されていることを示すために便宜的に描かれたものであり、形状・サイズ・相対的位置関係は必ずしも実際の構造とは一致しない。車体Bは、図7及び9では図示を省略する。
モータ出力軸205は、駆動ギア207の前方において、例えばボールベアリングなどを介してナックル202に共通の回転軸Yまわりに回転可能に支持される。同様に、モータ出力軸206は、駆動ギア208の後方において、例えばボールベアリングなどを介してナックル202に共通の回転軸Yまわりに回転可能に支持される。
ここでは、モータ203及び204を通電制御するための配線や回路の図示は省略しているが、モータ203及び204はそれぞれ独立に回転方向及び回転トルクを制御可能であるものとする。
本実施例において、車両用駆動輪構造200は、上記実施例1に係る車両用駆動輪構造100と同様に作動する。ただし、モータ出力軸の向きの違いにより、車両用駆動輪構造100では車両上下方向まわりの転舵を実現していた作用が、車両用駆動輪構造200では車両前後方向まわりのキャンバー角調整となる。
すなわち、車輪に駆動力のみを発生させるときには、モータ203及び204を共通の回転軸Yまわりについて逆方向に同じトルクで回転させることにより、円環状ギア201cを車輪回転軸Xまわりに回転させることができる。
また、車輪のキャンバー角調整のみを行うときには、モータ203及び204を共通の回転軸Yまわりについて同じ方向に同じトルクで回転させることにより、円環状ギア201cを共通の回転軸Yまわりに(すなわちXZ平面において)回転させることができる。
さらに、本実施例においても、モータ203及び204の出力トルクの大きさに差を付けることによって、モータ出力を任意の割合で逆相(駆動)成分と同相(キャンバー角調整)成分とに配分することができる。
なお、ここではキャンバー角調整をジオメトリ最適化制御の一環として記載したが、キャンバー角を調整し、タイヤを寝かせて、いわゆるキャンバースラストにより横すべりを生じさせ(横力を発生させ)、車両を旋回させることも可能である。このような制御を行う場合、本実施例に係るキャンバー角調整も操舵制御であると言い得る。
このように、本実施例によれば、独立に制御可能な2つのモータを車輪の半径方向に平行な軸上に車両前後方向に横に並べて配置し、それぞれがかさ歯車機構により車輪を回転させるように構成したことにより、簡易且つコンパクトな構造でありながらモータ制御のみで駆動及びキャンバー角調整を双方とも可能とするホイールインモータ構造を実現することができる。
また、本実施例によれば、同じくモータ制御のみでモータ出力を駆動とキャンバー角調整に任意の割合で配分することができるため、車両走行中に任意の割合でキャンバー角を調整してキャンバースラストによる車両旋回を実現することが可能な構成であると共に、モータ出力をロス無く使い切ることができるため、要求されるモータ出力性能に対する体格や質量を低減することができる。
次いで、図10〜13を用いて、本発明の更に別の一実施例(実施例3)に係る車両用駆動輪構造について説明する。
本実施例に係る車両用駆動輪構造300は、上記実施例1に係る車両用駆動輪構造100に車輪の回転を制動するブレーキ機構を追加し、駆動及び制動を1つのホイールインモータ構造によって実現可能にすると共に、制動時にモータ出力の回生(駆動)成分及び摩擦制動成分の割合を任意に変化させることができるようにしたものである。
図10は車両用駆動輪構造300を車両後部から見た概略背面図であり、図11は車両用駆動輪構造300のD−D断面(図10)を示す概略横断面図であり、図12は車両用駆動輪構造300を車両内側から見た概略側面図であり、図13は摩擦制動時の車両用駆動輪構造300のD−D断面(図10)を示す概略横断面図である。
車両用駆動輪構造300は、車両左右方向に略平行な車輪回転軸Xを中心軸として回転可能に設置された車輪取付部材301と、車輪取付部材301を車輪回転軸Xまわりに回転可能に支持すると共に、転舵時に図示しない車輪と一緒に回転するナックル302とを有する。
車輪取付部材301の車両外側端には、図示しない車輪を取り付けるためのハブ301aが形成される。また、車輪取付部材301は、例えばボールベアリングなどを介してナックル302に支持されるフランジ部301bを有する。さらに、車輪取付部材301の車両内側端には、車輪回転軸Xを中心として基準面が車輪回転軸Xに直交する円環状のギア301cが形成される。
車両用駆動輪構造300は、更に、2つのモータ303及び304と、これらモータ303及び304それぞれのモータ出力軸305及び306と、モータ出力軸305及び306それぞれの軸上に各モータ出力軸と一体となって出力軸まわりに回転するように設けられた駆動ギア307及び308とを有する。
図示するように、2つのモータ303及び304は、車両上下方向において車輪回転軸Xを挟んで上下に(縦に)後部同士を突き合わせるように反対向きに配置される。よって、モータ出力軸305及び306は、車両上下方向に略平行な同軸上に位置し、共通の回転軸Zを定義する。
駆動ギア307は、図示するように、円環状ギア301cと一対のかさ歯車機構として噛合している。同様に、駆動ギア308も、図示するように、円環状ギア301cと一対のかさ歯車機構として噛合している。
モータ出力軸305は、駆動ギア307の上方において、例えばボールベアリングなどを介してナックル302に共通の回転軸Zまわりに回転可能に支持される。同様に、モータ出力軸306は、駆動ギア308の下方において、例えばボールベアリングなどを介してナックル302に共通の回転軸Zまわりに回転可能に支持される。
ここでは、モータ303及び304を通電制御するための配線や回路の図示は省略しているが、モータ303及び304はそれぞれ独立に回転方向及び回転トルクを制御可能であるものとする。
さらに、車両用駆動輪構造300は、車輪の回転を制動するためのブレーキ機構を備える。ブレーキ機構は、車輪取付部材301のハブ301aに固定され、車輪及び車輪取付部材301と一緒に車輪回転軸Xまわりに回転する円盤状のブレーキディスク309と、キャリパー機構310とから成る。
キャリパー機構310は、一対の狭持部310a及び310bと、一対の摩擦材310cとから成る。一対の摩擦材310cは、ブレーキディスク309の一部に車両左右方向からそれぞれ摺接するように一対の狭持部310a及び310bによってそれぞれ支持される。
狭持部310bは、リンク機構311により、モータ303及び304と連結される。リンク機構311は、車両前後方向に略平行で、一端がモータ303及び304に固定されたリンク311aと、車両左右方向に略平行で、一端が狭持部310bの車両後方側端とXY平面において回転可能に接続され、他端がリンク311aの車両後方側端とXY平面において回転可能に接続されたリンク311bとから成る。
一対の狭持部310a及び310bは、狭持部310bの車両後方端がXY平面において車両内側に引かれたときに、狭持部310bの車両前方端がXY平面においてブレーキディスク309側へ押圧され、これにより一対の狭持部310a及び310bが摩擦材310cをブレーキディスク309へ押圧するように、リンク機構として組み立てられる。
よって、本実施例において、モータ303及び304が共通の回転軸Zまわりに回転すると、図13に示すように、リンク311aがモータ303及び304と一緒にモータ回転軸Zまわりに回転し、リンク311bが車両内側方向へ引かれ、狭持部310bの車両後方端が車両内側に引かれ、狭持部310bの車両前方端がブレーキディスク309側へ押圧され、一対の狭持部310a及び310bが摩擦材310cをブレーキディスクに左右から押圧するため、摩擦による制動が実現される。
本実施例において、車両用駆動輪構造300は、上記実施例1に係る車両用駆動輪構造100と同様に作動する。ただし、ブレーキ機構が追加されたことにより、車両用駆動輪構造100では車両上下方向軸まわりの転舵を実現していた作用が、車両用駆動輪構造300では摩擦制動制御となる。
すなわち、車輪に駆動力のみを発生させるときには、モータ303及び304を共通の回転軸Zまわりについて逆方向に同じトルクで回転させることにより、円環状ギア301cを車輪回転軸Xまわりに回転させることができる。
また、車輪の摩擦制動制御のみを行うときには、モータ303及び304を共通の回転軸Zまわりについて同じ方向に同じトルクで回転させることにより、円環状ギア301cをモータ回転軸Zまわりに(すなわちXY平面において)回転させることができる。
さらに、本実施例においても、モータ303及び304の出力トルクの大きさに差を付けることによって、モータ出力を任意の割合で逆相(回生)成分と同相(摩擦制動)成分とに配分することができる。
すなわち、車両制動中に、2つのモータ303及び304を共通の回転軸Zまわりについて逆相で回転させると回生ブレーキが実現され、同相で回転させると摩擦ブレーキが実現される。換言すれば、車両用駆動輪構造300では、2つのモータを通電制御することによって、車両制動中に、回生ブレーキの割合と摩擦ブレーキの割合とを任意の比率にすることができる。例えば、できる限り回生ブレーキにより制動を行ってエネルギ回収を図り、回生ブレーキで停まりきれない部分についてのみ停車直前に摩擦制動を用いる、といった制御が可能となる。
このように、本実施例によれば、独立に制御可能な2つのモータを車輪の半径方向に平行な軸上に並べて配置し、それぞれがかさ歯車機構により車輪を回転させるように構成したことにより、簡易且つコンパクトな構造でありながらモータ制御のみで駆動及び摩擦制動を双方とも可能とするホイールインモータ構造を実現することができる。
また、本実施例によれば、同じくモータ制御のみで回生ブレーキと摩擦ブレーキの比率を任意に調整することができるため、簡易な構造でエネルギ回収と確実な制動とを両立させた制動システムを実現することができると共に、モータ出力をロス無く使い切ることができるため、要求されるモータ出力性能に対する体格や質量を低減することができる。
次いで、図14〜17を用いて、本発明の更に別の一実施例(実施例4)に係る車両用駆動輪構造について説明する。
本実施例に係る車両用駆動輪構造400は、上記実施例2に係る車両用駆動輪構造200がダブルウィッシュボーン式のサスペンションに取り付けられる場合に、駆動及びサスペンションストローク制御を1つのホイールインモータ構造によって実現可能にすると共に、車両走行状態に応じてモータ出力の駆動成分及びサスペンションストローク制御成分の割合を任意に変化させることができるようにしたものである。
図14は車両用駆動輪構造400を車両後部から見た概略背面図であり、図15は車両用駆動輪構造400のE−E断面(図14)を示す概略横断面図であり、図16は車両用駆動輪構造400を車両内側から見た概略側面図である。
車両用駆動輪構造400は、車両左右方向に略平行な車輪回転軸Xを中心軸として回転可能に設置された車輪取付部材401と、車輪取付部材401を車輪回転軸Xまわりに回転可能に支持すると共に、転舵時に図示しない車輪と一緒に回転するナックル402とを有する。
車輪取付部材401の車両外側端には、図示しない車輪を取り付けるためのハブ401aが形成される。また、車輪取付部材401は、例えばボールベアリングなどを介してナックル402に支持されるフランジ部401bを有する。さらに、車輪取付部材401の車両内側端には、車輪回転軸Xを中心として基準面が車輪回転軸Xに直交する円環状のギア401cが形成される。
車両用駆動輪構造400は、更に、2つのモータ403及び404と、これらモータ403及び404それぞれのモータ出力軸405及び406と、モータ出力軸405及び406それぞれの軸上に各モータ出力軸と一体となって回転するように設けられた駆動ギア407及び408とを有する。
図示するように、2つのモータ403及び404は、車両前後方向において車輪回転軸Xを挟んで前後に(横に)後部同士を突き合わせるように反対向きに配置される。よって、モータ出力軸405及び406は、車両前後方向に略平行な同軸上に位置し、共通の回転軸Yを定義する。
駆動ギア407は、図示するように、円環状ギア401cと一対のかさ歯車機構として噛合している。同様に、駆動ギア408も、図示するように、円環状ギア401cと一対のかさ歯車機構として噛合している。
モータ出力軸405は、駆動ギア407の前方において、例えばボールベアリングなどを介してナックル402に共通の回転軸Yまわりに回転可能に支持される。同様に、モータ出力軸406は、駆動ギア408の後方において、例えばボールベアリングなどを介してナックル402に共通の回転軸Yまわりに回転可能に支持される。
ここでは、モータ403及び404を通電制御するための配線や回路の図示は省略しているが、モータ403及び404はそれぞれ独立に回転方向及び回転トルクを制御可能であるものとする。
本実施例において、ナックル402の車両内側上端は、車両前後方向を軸としてXZ平面において回転可能なようにダブルウィッシュボーン式サスペンションのアッパーアーム409に取り付けられ、モータ403及び404のハウジングは、ダブルウィッシュボーン式サスペンションのロワーアーム410に固定される。
本実施例において、車両用駆動輪構造400は、上記実施例2に係る車両用駆動輪構造200と同様に作動する。ただし、ナックル402がアッパーアーム409に、モータ403及び404がロワーアーム410にそれぞれ接続されたことにより、車両用駆動輪構造100では車両上下方向軸まわりの転舵を実現していた作用が、車両用駆動輪構造400ではサスペンションストローク制御となる。
すなわち、車輪に駆動力のみを発生させるときには、モータ403及び404を共通の回転軸Yまわりについて逆方向に同じトルクで回転させることにより、円環状ギア401cを車輪回転軸Xまわりに回転させることができる。
また、サスペンションストロークの調整のみを行うときには、モータ403及び404を共通の回転軸Yまわりについて同じ方向に同じトルクで回転させることにより、円環状ギア401cをモータ回転軸Yまわりに(すなわちXZ平面において)回転させることができる。
この様子を図17に模式的に示す。図17(a)〜(c)は、ダブルウィッシュボーン式サスペンションのアッパーアーム409及びロワーアーム410の動きを車両背面から概略的に示した図である。
図17(a)はモータ出力をサスペンションストローク制御に配分していないときの状態を表しており、図17(b)及び(c)は2つのモータ403及び404を共通の回転軸Yまわりについて同方向に回転させた状態をそれぞれ表している。
車両用駆動輪構造400において、モータ403及び404のハウジングはロワーアーム410に固定されているため、モータ403及び404が共通の回転軸Yまわりに回転すると、ロワーアーム410の車体B側端が車両前後方向まわりに揺動して、ナックル402の車両上下方向位置が上下に移動する。アッパーアーム409の両端はそれぞれナックル402及び車体Bと揺動可能に接続されているため、このナックル402の上下方向の動きは許容される。
さらに、本実施例においても、モータ403及び404の出力トルクの大きさに差を付けることによって、モータ出力を任意の割合で逆相(駆動)成分と同相(サスペンションストローク制御)成分とに配分することができる。
すなわち、本実施例におけるサスペンションストローク制御は、単にジオメトリ最適化制御において用いることができるだけでなく、車両走行中に路面状態に応じて動的にモータを制御して同相成分の割合を決定することによって、アクティブ制振やロール補正などを行ういわゆるアクティブサスペンション機能を実現することができる。
このように、本実施例によれば、独立に制御可能な2つのモータを車輪の半径方向に平行な軸上に車両前後方向に横に並べて配置し、それぞれがかさ歯車機構により車輪を回転させるように構成したことにより、簡易且つコンパクトな構造でありながらモータ制御のみで駆動及びサスペンションストローク制御を双方とも可能とするホイールインモータ構造を実現することができる。
また、本実施例によれば、同じくモータ制御のみでモータ出力を駆動とサスペンションストローク制御に任意の割合で配分することができるため、車両走行中に任意の割合でサスペンションストローク量を調整してアクティブサスペンション機能を実現することが可能な構成であると共に、モータ出力をロス無く使い切ることができるため、要求されるモータ出力性能に対する体格や質量を低減することができる。
次いで、図18〜21を用いて、本発明の更に別の一実施例(実施例5)に係る車両用駆動輪構造について説明する。
これまでに説明してきた実施例1〜4はいずれも独立に制御可能なモータを2つ用いる構造であったが、本実施例に係る車両用駆動輪構造500は、1つのモータのみで上記実施例1〜4と等価な機能を実現するものである。すなわち、車両用駆動輪構造500は、上記実施例1〜4のいずれとも組み合わせることができる。ここでは、一例として、既述の実施例1と組み合わせた場合を例に挙げて説明する。
本実施例に係る車両用駆動輪構造500は、上記実施例1に係る車両用駆動輪構造100の一方のモータ(ここではモータ103)を両軸モータとし、他方のモータ(ここではモータ104)を変速・減速機構によって置き換えたものである。
図18は車両用駆動輪構造500を車両後部から見た概略背面図であり、図19は車両用駆動輪構造500のF−F断面(図18)を示す概略横断面図であり、図20は車両用駆動輪構造500を車両内側から見た概略側面図である。
車両用駆動輪構造500は、車両左右方向に略平行な車輪回転軸Xを中心軸として回転可能に設置された車輪取付部材501と、車輪取付部材501を車輪回転軸Xまわりに回転可能に支持すると共に、転舵時に図示しない車輪と一緒に回転するナックル502とを有する。
車輪取付部材501の車両外側端には、図示しない車輪を取り付けるためのハブ501aが形成される。また、車輪取付部材501は、例えばボールベアリングなどを介してナックル502に支持されるフランジ部501bを有する。さらに、車輪取付部材501の車両内側端には、車輪回転軸Xを中心として基準面が車輪回転軸Xに直交する円環状のギア501cが形成される。
車両用駆動輪構造500は、更に、両軸モータ503と、両軸モータ503の一方の出力軸上に取り付けられ、該一方の出力軸の出力を変速及び/又は減速する変速・減速機構504とを有する。
モータ503及び変速・減速器504のハウジングは、車体Bに固定される。図18に示す車体Bは、モータ503及び変速・減速器504が固定されていることを示すために便宜的に描かれたものであり、形状・サイズ・相対的位置関係は必ずしも実際の構造とは一致しない。車体Bは、図19〜21では図示を省略する。
変速・減速機構504は、入力ディスク504aと、複数のパワーローラ504bと、出力ディスク504cと、減速器504dとから成る。変速・減速機構504は、パワーローラ504bの角度を変えることにより、入力ディスク504aと出力ディスク504cの回転数の比を任意に設定することができる。また、減速器504dは、入力された回転をそのまま又は反転させて出力することができる。
車両用駆動輪構造500は、更に、両軸モータ503の他方の出力軸505と、変速・減速機構504の出力軸506と、出力軸505及び506それぞれの軸上に各出力軸と一体となって回転するように設けられた駆動ギア507及び508とを有する。
図示するように、モータ503と変速・減速機構504とは、車両上下方向において車輪回転軸Xを挟んで上下に(縦に)配置される。よって、出力軸505及び506は、車両上下方向に略平行な同軸上に位置し、共通の回転軸Zを定義する。
駆動ギア507は、図示するように、円環状ギア501cと一対のかさ歯車機構として噛合している。同様に、駆動ギア508も、図示するように、円環状ギア501cと一対のかさ歯車機構として噛合している。
出力軸505は、駆動ギア507の上方において、例えばボールベアリングなどを介してナックル502に共通回転軸Zまわりに回転可能に支持される。同様に、出力軸506は、駆動ギア508の下方において、例えばボールベアリングなどを介してナックル502に共通回転軸Zまわりに回転可能に支持される。
ここでは、モータ503及び変速・減速機構504を制御するための配線や回路の図示は省略しているが、モータ503の回転方向や回転トルク、並びに、変速・減速機構504の変速比・正転/反転はそれぞれ独立に制御可能であるものとする。
本実施例においては、変速・減速機構504を制御することによって、車両用駆動輪構造500を上記実施例1に係る車両用駆動輪構造100と同様に作動させることができる。
例えば、車輪に駆動力のみを発生させるために円環状ギア301cを車輪回転軸Xまわりに(すなわちYZ平面において)回転させたいときには、変速・減速機構504によってモータ503の変速・減速機構504側の出力を変速比1:1で変速すると共に減速器504dで回転方向を反転させないことによって、駆動ギア507及び508を共通回転軸Zまわりで逆方向に同トルクで回転させることができる。
また、車輪を転舵のみさせるために円環状ギア301cを共通回転軸Zまわりに(すなわちXY平面において)回転させたいときには、変速・減速機構504によってモータ503の変速・減速機構504側の出力を変速比1:1で変速すると共に減速器504dで回転方向を反転させることによって、駆動ギア507及び508を共通回転軸Zまわりで同方向に同トルクで回転させることができる。
さらに、本実施例においても、変速・減速機構504が変速比を1:1から変更して入力ディスク504aと出力ディスク504bに回転数の差を付けることによって、モータ出力を任意の割合で逆相(駆動)成分と同相(操舵)成分とに配分することができる。
変速時のパワーローラ504bの状態を図21に示す。図21(a)に示した状態では、パワーローラ504bが共通回転軸Zに平行な向きに制御されており、パワーローラ504bの入力端と出力端が同一の半径で共通回転軸Zまわりを旋回するため、変速比1:1が実現されている。この状態で、減速器504dが回転方向を反転させるように制御すれば駆動ギア507及び508は同じ方向に同じトルクで回転することになり、減速器504dが回転方向を反転させないように制御すれば駆動ギア507及び508は逆方向に同じトルクで回転することになる。
他方、図21(b)は、パワーローラ504bの入力端が共通回転軸Zまわりを旋回する半径が出力端の旋回半径よりも小さくなるようにパワーローラ504bが傾けられた状態を表しており、出力ディスク504cの回転数を入力ディスク504aの回転数より少なくすることができる。すなわち、駆動ギア507及び508間に回転数の差を付けることができる。
同様に、図21(c)は、パワーローラ504bの入力端が共通回転軸Zまわりを旋回する半径が出力端の旋回半径よりも大きくなるようにパワーローラ504bが傾けられた状態を表しており、出力ディスク504cの回転数を入力ディスク504aの回転数より多くすることができる。すなわち、駆動ギア507及び508間に回転数の差を付けることができる。
このように、本実施例によれば、変速・減速機構を用いて両軸モータの一方の出力軸の回転方向及び回転数を制御することにより、1つのモータが他の実施例と同様の機能を実現することができるため、モータ制御に関連した構成要素や制御処理が簡素化される。
既述のように、実施例5の説明において実施例1と等価な機能を実現させることを前提としたのは一例に過ぎず、実施例5に係る構成・構造は実施例1〜4のいずれにも適用することができる。
さらに言えば、上記実施例1〜4についても、独立に実施されることが前提となっているわけではなく、同時に実現することも可能である。
本発明は、ハイブリッド車や電気自動車などのモータにより車輪を駆動する方式の車両全般において駆動輪構造として利用できる。本構造は、採用する車両の外観、重量、サイズ、走行性能等は問わない。
本発明の実施例1に係る車両用駆動輪構造を車両後部から見た概略背面図である。
本発明の実施例1に係る車両用駆動輪構造を車両上面から見た概略上面図である。
本発明の実施例1に係る車両用駆動輪構造のA−A断面(図1)を示す概略横断面図である。
本発明の実施例1に係る車両用駆動輪構造を車両内側から見た概略側面図である。
車輪に駆動力のみを発生させる場合の本発明の実施例1に係る車両用駆動輪構造の動きを示す図である。
車輪を転舵のみさせる場合の本発明の実施例1に係る車両用駆動輪構造の動きを示す図である。
本発明の実施例2に係る車両用駆動輪構造を車両内側から見た概略側面図である。
本発明の実施例2に係る車両用駆動輪構造のB−B断面(図7)を示す概略横断面図である。
本発明の実施例2に係る車両用駆動輪構造のC−C断面(図8)を示す概略背面図である。
本発明の実施例3に係る車両用駆動輪構造を車両後部から見た概略背面図である。
本発明の実施例3に係る車両用駆動輪構造のD−D断面(図10)を示す概略横断面図である。
本発明の実施例3に係る車両用駆動輪構造を車両内側から見た概略側面図である。
摩擦制動時の本発明の実施例3に係る車両用駆動輪構造のD−D断面(図10)を示す概略横断面図である。
本発明の実施例4に係る車両用駆動輪構造を車両後部から見た概略背面図である。
本発明の実施例4に係る車両用駆動輪構造のE−E断面(図14)を示す概略横断面図である。
本発明の実施例4に係る車両用駆動輪構造を車両内側から見た概略側面図である。
本発明の実施例4に係る車両用駆動輪構造がダブルウィッシュボーン式サスペンションに取り付けられたときのアッパーアーム及びロワーアームの動きを車両背面から概略的に示した図である。
本発明の実施例5に係る車両用駆動輪構造を車両後部から見た概略背面図である。
本発明の実施例5に係る車両用駆動輪構造のF−F断面(図18)を示す概略横断面図である。
本発明の実施例5に係る車両用駆動輪構造を車両内側から見た概略側面図である。
変速時の本発明の実施例5に係る車両用駆動輪構造のパワーローラの状態を示す図である。
符号の説明
100、200、300、400、500 車両用駆動輪構造
101、201、301、401、501 車輪取付部材
101a、201a、301a、401a、501a ハブ
101b、201b、301b、401b、501b フランジ部
101c、201c、301c、401c、501c 円環状ギア
102、202、302、402、502 ナックル
103、104、203、204、303、304、403、404、503 モータ
105、106、205、206、305、306、405、406、505、506 出力軸
107、108、207、208、307、308、407、408、507、508 駆動ギア
309 ブレーキディスク
310 キャリパー機構
310a、310b 狭持部
310c 摩擦材
311 リンク機構
311a、311b リンク
409 アッパーアーム
410 ロワーアーム
504 変速・減速器
504a 入力ディスク
504b パワーローラ
504c 出力ディスク
504d 減速器