JP4598281B2 - 自動車製造工場内ダスト等の吸着用ネット - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
この発明は、自動車製造工場の特に塗装工程において自動車の表面に付着する可能性のあるダスト、粉塵、塗料ミスト等(以下、ダスト等という。)を吸着するようにした自動車製造工場内ダスト等の吸着用ネットに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車には、美麗な外見を形成する目的のみならず、過酷な自然条件に耐えかつ所期設定の耐用年数の維持を図るため、塗装を施すことは従来から一般に行われているところである。
【0003】
この場合、塗装過程において埃や粉塵等のダスト等が自動車に付着すると塗料が弾かれたような現象やダスト等による細かな凹凸が塗装面に生じるため、ダスト等の排除は大きな課題となっている。
【0004】
そのため塗装前の自動車を、静電気発生を利用したモップ又はマツヤニ等を含浸させたモップにより手作業により拭き取りを行っていた。また塗装現場においては、塗装ブース内はもちろんのこと幾段階にも行われる各塗装工程の前後(塗装直前及び塗装直後)の床面に水プール(水を張った水溜り)を設けたり、工場内の空気の清浄化を図るために不織布等を濾材とした空気濾過装置を設置したり、また作業員は静電服を着用する等してダスト等の混入又は除去を図る工夫もなされてはいたが、ダスト等を完全に無にすることは不可能であった。
【0005】
そこでこれを解決するものとして、例えば特開昭63−93372号公報に示されているように、広い合成樹脂製シートを塗装工場の壁や床に取り付け、これに粘着剤を塗布することも行われていたのである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前記合成樹脂製シートを壁や床に取り付ける前記従来例にあっては、前記のように取り付けた後に、刷毛又はローラー等によって粘着剤を塗布する方法を採っていたため、粘着剤としては比較的粘度の低いものを使用せざるを得ず、したがって壁面に取り付けた前記シートにこれを塗布すると、前記粘着剤が下方に垂れ流れ、その結果、シート面において粘着剤の量に多寡又は濃淡が生じ、ダスト等の吸着力にバラツキが生じることは避けられなかったのである。
【0007】
また前記のように粘着剤の垂れ流れを防止するために、塗布した粘着剤がやや固まるまで待ちつつ塗布を続行することを強いられるあまり、その作業はいきおいスーローペースにもなっていたのである。
【0008】
これを解決するものとして本発明者は特開2000−61227公報に示されている発明、すなわち所望幅を有するフレキシブルなシート状基材の片面に粘着剤を塗布し、この粘着剤を覆う剥離シートを貼着したダスト等吸着シートを提案した。このように剥離シートを貼着したものにあっては、製造元の工場から使用現場に運搬する上ですこぶる便利であり、かつ使用現場では剥離シートを剥すのみでただちに使用することができるという長所を有するものであったが、現実に実施したところ、これには以下2点において不都合が確認された。
【0009】
その第1点は、粘着力の高い粘着剤を使用することができなかった点である。すなわち前記剥離シートは、前記のように製造元から工場に搬送し、工場内の必要箇所に前記吸着シートを取り付ける時点まで必要とするものであり、使用時にはこの剥離シートを剥離し、粘着剤が塗布されている面を露出せしめる必要があるところ、この粘着剤の粘着力が強力であると、前記剥離シートの剥離が困難になるという矛盾が発生したのであった。
【0010】
ダスト等をより多く、より確実に吸着せしめるためには強力な粘着剤を用いればよいことは理の当然であるが、強力又は多量の粘着剤を塗布すると、吸着用のシート全面が粘着されることになり、しかも粘着面積が広いことが災いして剥離シートの剥離が困難になるという結果になっていたのである。
【0011】
もっとも剥離シートに、例えばシリコン系の剥離剤を使用すると、剥離性がきわめてよいのであるが、このシリコン系の剥離剤を使用すると、自動車塗装においてはその塗装面に、塗料が弾かれたような現象が生じ、不良品となるために自動車塗装工場においては使用することができないため、非シリコン系に限定されるという厄介な条件が存在するのである。
【0012】
前記の不都合の第2点は、前記従来例において用いられていた基材がシートであった点である。このシートには通気口は存在しない。工場内のダスト等は、空気の流れにしたがって工場内を浮遊し、やがて粘着シートに付着することになるのではあるが、前記粘着シートに通気口が存在しないため、ダスト等の浮遊が阻害され、粘着シートに対するダスト等の捕捉量が少ないという結果が判明したのである(図5参照)。したがってこの粘着シートを工場の床に用いる場合には良好な性能を発揮するが、カーテン状に上から下方に垂下せしめて使用する点では十分な満足が得られないのであった。
【0013】
【課題を解決するための手段】
そこでこの発明に係る自動車製造工場内ダスト等の吸着用ネット(請求項1)は前記の課題を解決するために、所望幅を有するフレキシブルなネット状基材であって、該ネット状基材の単一の網目を構成する網脚の長さをLとし、該網脚の見掛け分径をDとした場合、0.1mm≦D<2.5mm、2.0mm≦L<8.0mmであって、且つ2<L/D<35の関係があり、該網目が開口している該ネット状基材に粘着剤を塗布することにより、該網脚に該粘着剤が付着している。
【0014】
またこの発明に係る自動車製造工場内ダスト等の吸着用ネット(請求項2)は前記の課題を解決するために、前記ネット状基材の表裏両面の前記網脚に前記粘着剤が付着されており、表裏両面に剥離剤を塗布した剥離シートを、前記粘着剤を覆うように、前記ネット状基材の表面及び裏面のいずれか一方に貼着したものである。
【0015】
さらにこの発明に係る自動車製造工場内ダスト等の吸着用ネットは、前記の課題を解決するために、前記ネット状基材は、単一の網目を構成する前記網脚の長さをLとし、前記網脚の見掛け分径をDとした場合、0.1mm≦D<2.5mm、2.0mm≦L<8.0mmであって2<L/D<35としたものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
次にこの発明に係る自動車製造工場内ダスト等の吸着用ネットの実施の形態を図1乃至5に基づいて述べると、1は所望の幅を有し長尺で、かつフレキシブルに形成されたネット状基材であり、例えば塩化ビニル、ポリオレフィン、ナイロン等の熱可塑性樹脂のモノフィラメント、マルチフィラメント又はその集合体(撚糸等)によって編網してある。合成樹脂の中でも熱可塑性樹脂は再利用(リサイクル)が比較的容易であるが、その中でも、塩化ビニルのネットを用いると、ナイロンやポリオレフィン等に比してダスト等が付着しても、再利用に支障を来さず、かつ再利用がきわめて容易であり最も利用価値が高く、一方、ポリオレフィン又はナイロン等のネットを用いると取り扱い性及び強度の点で良好となる。
【0017】
尚、前記ネット状基材1の網目構造としては、例えば平織り、ラッセル織り、魚網等に見られる蛙又織り、無結節織り又は撚網等いずれでもよく、また角目、菱目のいずれでもよい。
【0018】
2は前記ネット状基材1に塗布した粘着剤である。そしてこの粘着剤2としては、アクリル系、天然ゴム系、SBR、ブロックSIS、シリコンゴム系等を用いると、粘着力が高く、かつ粘着持続期間が長いので好ましい。またその性能としては下記の範囲がよい。
粘着力(g) 200〜700(JIS Z0237に準拠)
P.タック(g) 200〜700(JIS Z0237参考欄に準拠)
剥離力(g) 5〜 20(JIS Z0237に準拠)
ボールタック 5〜 20(JIS Z0237に準拠)
【0019】
3は前記粘着剤2の上面に貼着した剥離シートであり、この剥離シート3には、その表裏にシリコン系を除く剥離剤が塗布されている。またこの剥離シート3は前記ネット状基材1の幅と同等又はそれより若干幅広でしかもフレキシブルに形成されている。この剥離シート3は、ネット状基材1に覆うように用いるため、強力な粘着力を有する粘着剤2と相対しても接触面が少なくてすみ、非シリコン系の剥離剤を用いた剥離シート3で十分に所期の目的を達成することができ、ネット状基材1の網目構造に基づく効果が発揮されるのである。
【0020】
そして剥離シート3はネット状基材1の片面にのみ用いてよい。すなわちネット状基材1の一方の面に前記粘着剤2を塗布すると、この塗布過程において、粘着剤2はネット状基材1の他の面(裏面)にも転移することになり、その結果、ネット状基材1の両面に粘着剤2が付着することにはなるが、前記剥離シート3をネット状基材1に貼着した後、全体をロール巻きすれば、1枚の剥離シート3は粘着剤2の間に必ず存在する状態で表裏の粘着剤2同士が剥離シート3を介して巻かれることになり、互いに粘着し合うことはないのである。もとよりネット状基材1の表裏それぞれに剥離シート3を貼着することを除外するものではない。
【0021】
またこの剥離シート3はクラフト紙、上質紙等をポリオレフィン系その他の合成樹脂製フィルムでラミネートしたものやポリエステル、opp、cpp等のフィルムを用いることができ、剥離剤としてはフッ素系、オレフィン系又はワックス系等を使用することができる。もっとも前記のように剥離剤としてはシリコン系のものもあり、剥離効果が最も良好とされているが、これを用いると塗装中に自動車表面の塗料が弾かれた現象を呈するので、自動車の塗装工場においては用いることができない。したがって非シリコン系の剥離剤を用いても、ネット状基材1は網目構造を有するので剥離シート3を剥離し易いという効果を十分に発揮することができるのである。
【0022】
以上のように構成されたダスト等吸着用ネットは工場で製造することができ、かつこれを使用現場への運搬に際してはロール状に巻くことによりコンパクト化を図ることができる。
【0023】
次に前記ネット状基材1における網目のサイズの決定について述べる。図4に網目の一例を示してあるが、1個の網目は通常4本の網脚によって形成されるが、そのうち相対向する一対の網脚の長さを各Lとし、この網脚の見掛け分径(直径)をDとし、他の相対向する一対の網脚の長さをL’とし、この網脚の見掛け分径をD’とすると、LとL’によって囲まれた空隙Kが網目となる。したがって網脚の長さが一定であるとネットの投影面積は見掛け分径D,D’の太さによって決定され、網目、すなわち空隙Kは網脚の長さL,L’によって決定されることになる。
【0024】
したがってネットの空隙率は、下記の式で表すことができる。
空隙率=1−網脚部分の投影面積/網脚を含むネット外郭面積
この結果、空隙率はL,L’/D,D’の値に比例することがわかる。
【0025】
図5に示すものは前記従来例に示したシートからなるもの1枚(同図において縦軸及び横軸がaのもの)と、網脚の長さ及び見掛け分径を変えたネット状基材1の供試体を複数種類作成の上、ダスト等の吸着状態を調べた結果を示す表である。ちなみに同図に示すダスト等の測定は、塗装工場から塗装待機室(セッティング室)で行ったものである。横軸に網脚の分径をmm単位で示し、縦軸に網脚の長さを0.5mm単位で示してある。したがって網脚の長さが一定であれば、分径が小であると空隙面積が大きいことになり、分径が一定であれば網脚の長さが長いほど空隙面積が大ということになる。
【0026】
以上の結果を前提に同図を見ると、網脚の分径のいかんにかかわらず網脚の長さが1.5mm程度の短いネット状基材1にあっては、ダスト等の捕捉量が少ないことが判明した。これはこのネット状基材1に塗布した粘着剤2によってネット状基材1の網目が閉塞されたためと推測される。
【0027】
一方、網脚の分径のいかんにかかわらず網脚が長過ぎるもの、例えば7.0mm以上である場合においてもダスト等の捕捉量が少ないことも判明した。これは網脚の長さが長いため、網目の空隙面積が広過ぎたことに起因するものと推測される。
【0028】
したがってこれを前提にして網脚の長さ及び分径を選択決定すればよいことになるが、図5に示す実験結果によると、ネット状基材1は単一の網目が次の(1)〜(3)の関係が成立する範囲であることが好ましい。すなわち、(1)0.1mm≦D<2.5mm、(2)2.0mm≦L<8.0mmであって、(3)2<L/D<35の範囲が好ましいが、さらにいうと前記(1)はDは0.2mm〜2.0mmが、(2)はLは3.0mm〜6.0mmが、また(3)は4〜10であることがより一層好ましいことがわかる。
【0029】
そして使用する現場は前記従来例と同様であるが、その際使用箇所に応じた寸法に裁断するものとする。またネット状基材1は塗装工場内においてカーテン状に垂下した後、剥離シート3を貼着したものにおいてはこれを除去し、粘着剤2を露出させて使用するのである。またこの場合、ネット状基材1が1枚のみの一重とすることも可能であるが、2枚、3枚のように複数枚重ねの状態で使用することも可能であり、さらに複数枚重ねの場合において網目をずらした張り方もある。尚、複数重ねのものにおいて網目の空隙面積の異なるネット状基材1の組み合わせもあり得る。
【0030】
【発明の効果】
前記のようにこの発明に係る自動車製造工場内ダスト等の吸着用ネットによれば、所望幅を有するフレキシブルなネット状基材に粘着剤を塗布し、また前記ネット状基材は、単一の網目を構成する網脚の長さをLとし、網脚の見掛け分径をDとした場合、0.1mm≦D<2.5mm、2.0mm≦L<8.0mmであって、2<L/D<35としてあるので、通気性がよく、ネット状基材の網脚を介してダスト等を含む空気が効果的に濾過されることになるため、浮遊するダスト等の捕捉量を大幅に高めることができるという効果を有するのである。
【0031】
またこの発明に係る自動車製造工場内ダスト等の吸着用ネットによると、所望幅を有するフレキシブルなネット状基材に粘着剤を塗布し、表裏両面に剥離剤を塗布した剥離シートを粘着剤を覆うように貼着し、また前記ネット状基材は、単一の網目を構成する網脚の長さをLとし、網脚の見掛け分径をDとした場合、0.1mm≦D<2.5mm、2.0mm≦L<8.0mmであって、2<L/D<35としてあるので、前記の効果に加え、粘着剤を塗布するネット状基材の実質的な面積は狭いものの、基材がネットであるために剥離シートの剥離が容易になるという効果を発揮する、強力かつ多量の粘着剤を使用することができるという効果を有するのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係る自動車製造工場内ダスト等の吸着用ネットにおいて剥離シートを一部剥離した状態の一実施例を示す斜視図である。
【図2】この発明に係る自動車製造工場内ダスト等の吸着用ネットの断面図である。
【図3】ネット状基材に対する粘着剤の付着状態を示す正面図である。
【図4】ネット状基材の網脚と分径の関係を示す説明図である。
【図5】ネット状基材に対するダスト等の付着状況の実験結果を示す表である。
【符号の説明】
1 ネット状基材
2 粘着剤
3 剥離シート
Claims (2)
- 所望幅を有するフレキシブルなネット状基材であって、該ネット状基材の単一の網目を構成する網脚の長さをLとし、該網脚の見掛け分径をDとした場合、0.1mm≦D<2.5mm、2.0mm≦L<8.0mmであって、且つ2<L/D<35の関係があり、該網目が開口している該ネット状基材に粘着剤を塗布することにより、該網脚に該粘着剤が付着していることを特徴とする自動車製造工場内ダスト等の吸着用ネット。
- 前記ネット状基材の表裏両面の前記網脚に前記粘着剤が付着されており、
表裏両面に剥離剤を塗布した剥離シートを、前記粘着剤を覆うように、前記ネット状基材の表面及び裏面のいずれか一方に貼着したことを特徴とする請求項1に記載の自動車製造工場内ダスト等の吸着用ネット。
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