JP4597402B2 - 摩擦撹拌接合法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えば、自動車、電算機器、産業機械等における金属製構造部材を製造する際に用いられる摩擦撹拌接合法に関する。
【0002】
【従来の技術】
摩擦撹拌接合法は、固相接合法の範疇に入り、接合部材である金属材の種類に制限を受けない、接合熱に伴う熱歪みが極めて少ない等の優れた利点を有し、近年、様々な構造物の接合手段として用いられてきている。
【0003】
図5及び図6は、厚さ方向に段差を表面側にて生じる態様で突き合わされた2個の接合部材をこの摩擦撹拌接合により突合せ接合する場合について示している。
【0004】
同図において、(51)は薄肉の平板状第1接合部材、(52)は厚肉の平板状第2接合部材である。第1接合部材(51)と第2接合部材(52)とは互いに異なる種類の金属材からなるものであり、更にこれら両接合部材(51)(52)の肉厚も相異している。すなわち、図6に示すように第1接合部材(51)はその高温変形抵抗がY1'で肉厚がt1'のものであり、一方、第2接合部材(52)はその高温変形抵抗がY2'(但しY2'≠Y1')で肉厚がt2'(但しt2'>t1')のものである。
【0005】
ここでは、説明の便宜上、第1接合部材(51)の高温変形抵抗Y1'よりも第2接合部材(52)の高温変形抵抗Y2'の方が高い(即ちY2'>Y1')ものとして、説明を行う。
【0006】
各接合部材(51)(52)は幅方向の一端面(53)を突合せ面とするものであり、同図では、これら両接合部材(51)(52)は裏面同士が面一に連なる態様にして端面(53)(53)同士が突き合わされており(突合せ部55)、このため、厚さ方向に両者の肉厚差に対応した段差を表面側にて生じている。(54)は両接合部材(51)(52)の突合せ部(55)の位置における表面に形成された段部を示し、(54a)はこの段部(54)のすみ部を示している。
【0007】
(60)は摩擦撹拌接合用の接合工具である。この接合工具(60)は、径大の円柱状回転子(61)と、該回転子(61)の端面(61a)の回転中心部に回転軸線(Q’)上に沿って突出して一体に設けられた径小のピン状プローブ(62)とを備えた回転可能なものであって、前記プローブ(62)を接合ヘッド(63)とするものである。
【0008】
この接合工具(60)を用いて両接合部材(51)(52)の突合せ接合を行う場合には、突合せ部(55)に段差が生じているから、接合中に、摩擦熱にて軟化した両接合部材(51)(52)の肉が接合工具(60)のプローブ(62)近傍から飛散して肉不足に伴う接合欠陥が生じ易く、また摩擦熱の発生量の不足に伴う接合欠陥が生じ易く、このため、良好な接合部(W’)を形成することが困難であった。
【0009】
そこで、このような問題を解決するため、特開平10−249553号公報には、図6に示すように、回転している接合工具(60)のプローブ(62)を突合せ部(55)に埋入した状態に配置するとともに、回転子(61)をその回転軸線(Q’)が両接合部材(51)(52)に対して低位側の接合部材(即ち、第1接合部材(1))側に相対的に傾斜した状態に配置し、この状態で、プローブ(62)を突合せ部(55)に沿って両接合部材(51)(52)に対して相対的に移動させることにより、両接合部材(51)(52)を突合せ接合する方法が提案されている。なお、同図において、M’は接合方向を示し、R’は回転子(61)の回転方向を示している。
【0010】
この提案方法では、プローブ(62)近傍から飛散する両接合部材(51)(52)の肉を回転子(61)の端面(61a)で反射したり回転子(61)の端面(61a)内に収容したりすることができるようになって、肉不足に伴う接合欠陥の発生を防止できるようになるし、回転子(61)の回転軸線(Q’)の第1接合部材(51)側への傾斜角(θ’)を適宜変更することにより、摩擦熱の発生量を適度に調整することができるようになって、摩擦熱不足に伴う接合欠陥の発生を防止できるようになるという利点がある。さらに、この提案方法では、接合時に、回転子(61)の端面(61a)を、突合せ部(55)から突出している高位側の接合部材(即ち、第2接合部材(52))の肩部(52a)に圧接することによって、当該肩部(52a)をその表面が傾斜面になるように塑性変形させることができ、この結果、得られる突合せ接合継手において段部(54)に生じる応力集中を緩和できるようになるという利点がある。なお、P'は接合部材(51)(52)のプローブ埋入位置における表面の法線を示している。
【0011】
ところで、摩擦撹拌接合では、接合部(W’)の内部周縁部における、回転子(61)の回転方向(R’)と接合方向(M’)とが一致した位置にある縁部は、一般にアドバンスドエッジと呼ばれており、一方、このアドバンスドエッジとは反対側の位置にある縁部は、リトリーティングエッジと呼ばれている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
而して、一般に摩擦撹拌接合は、接合部(W’)のアドバンスドエッジ近傍で空洞部を生じ易いという難点がある。この空洞部は、プローブ(62)の移動に伴って該プローブの移動方向後方側に連続して形成される接合欠陥であり、トンネル状の接合欠陥と呼ばれている。その発生原因は、アドバンスドエッジ側で第2接合部材(2)の肉の塑性流動が十分に行われなかったことに起因する。
【0013】
したがって、上述した提案方法において、接合工具(60)の回転子(61)の回転方向を、もし仮に、接合方向(M’)の後方側において、同図に示すように高温変形抵抗の低い第1接合部材(51)から高温変形抵抗の高い第2接合部材(52)へと回転する方向(R')に設定して、突合せ接合を行う場合には、上述したように接合部(W)のアドバンスドエッジ近傍にトンネル状接合欠陥が生じ易くなることはもとより、アドバンスドエッジ側に配置されている第2接合部材(52)は高温変形抵抗Y2'が高いものであるから当該第2接合部材(2)の肉がより一層塑性流動され難く、この結果、トンネル状接合欠陥が極めて発生し易くなるという難点があった。
【0014】
殊に、同図のように両接合部材(51)(52)が厚さ方向に段差を生じる態様で突き合わされている場合には、段部(54)のすみ部(54a)内に存在している空気が接合時に接合部(W’)の内部に巻き込まれてしまい、このため、かかるトンネル状接合欠陥がますます生じ易くなっていた。
【0015】
この発明は、このような技術背景に鑑みてなされたもので、その目的は、高温変形抵抗が相異する2個の接合部材を突合せ接合する摩擦撹拌接合法であって、両接合部材が厚さ方向に段差を表面側にて生じる態様で突き合わされている場合であっても、塑性流動不足に伴うトンネル状接合欠陥の発生を抑制することのできる摩擦撹拌接合法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、回転可能な接合ヘッドを備えた接合工具を用い、高温変形抵抗が相異する2個の接合部材を、厚さ方向に段差を表面側にて生じる態様で突き合わせるとともに、回転している接合ヘッドを両接合部材の突合せ部又はその近傍に表面側から埋入した状態に配置し、この状態で、接合ヘッドを突合せ部に沿って両接合部材に対して相対的に移動させることにより、両接合部材を突合せ接合する摩擦撹拌接合法であって、接合ヘッドの回転方向を、接合方向の後方側において、高温変形抵抗の高い接合部材から高温変形抵抗の低い接合部材へと回転する方向に設定して、突合せ接合を行うことを特徴としている。
【0017】
この摩擦撹拌接合法においては、接合ヘッドの回転方向を、接合方向の後方側において、高温変形抵抗の高い接合部材から高温変形抵抗の低い接合部材へと回転する方向に設定することにより、アドバンスドエッジ側には、両接合部材のうち高温変形抵抗の低い方の接合部材が配置されることになる。この結果、接合時に、摩擦熱にて軟化した当該接合部材の肉が接合ヘッドからの回転力を受けて迅速に塑性流動されるようになり、もってトンネル状接合欠陥の発生が抑制される。
【0018】
なお、この発明において、両接合部材の高温変形抵抗の高低についての比較は、接合温度での変形抵抗に基づいて行う。これを具体的に示すと、両接合部材の双方が例えばアルミニウム又はその合金からなる場合には、200〜600℃の範囲内における平均変形抵抗に基づいて比較することが望ましく、特に400〜550℃の範囲内における平均変形抵抗に基づいて比較することが最も望ましい。こうすることにより、トンネル状接合欠陥の発生を確実に抑制できるようになる。
【0019】
請求項2に係る発明は、回転可能な接合ヘッドを備えた接合工具を用い、高温変形抵抗及び肉厚がそれぞれY1及びt1である第1接合部材と、高温変形抵抗及び肉厚がそれぞれY2(但しY2≠Y1)及びt2である第2接合部材とを、厚さ方向に段差を表面側にて生じる態様で突き合わせるとともに、回転している接合ヘッドを両接合部材の突合せ部又はその近傍に表面側から埋入した状態に配置し、この状態で、接合ヘッドを突合せ部に沿って両接合部材に対して相対的に移動させることにより、両接合部材を突合せ接合する摩擦撹拌接合法であって、両接合部材がY2×t2<Y1×t1の関係式を満足して突き合わされているときには、接合ヘッドの回転方向を、接合方向の後方側において、第1接合部材から第2接合部材へと回転する方向に設定して、突合せ接合を行い、両接合部材がY2×t2>Y1×t1の関係式を満足して突き合わされているときには、接合ヘッドの回転方向を、接合方向の後方側において、第2接合部材から第1接合部材へと回転する方向に設定して、突合せ接合を行うことを特徴としている。
【0020】
この摩擦撹拌接合法においては、両接合部材の双方の高温変形抵抗に加えて更に双方の肉厚をも考慮して接合ヘッドの回転方向を設定することにより、トンネル状接合欠陥の発生が確実に抑制されるようになる。
【0021】
請求項3に係る発明は、上記請求項1又は2に係る発明において、前記接合工具の接合ヘッドは、径大の回転子の端面に突設された径小のプローブからなり、回転している回転子をその回転軸線が両接合部材に対して低位側の接合部材側に相対的に傾斜した状態に配置するとともに、回転している回転子の端面を突合せ部から突出している高位側の接合部材の肩部に圧接した状態に配置し、この状態で、突合せ接合を行うものである。
【0022】
これによれば、接合工具の回転子をその回転軸線が両接合部材に対して低位側の接合部材側に相対的に傾斜した状態に配置することにより、プローブ近傍から飛散する両接合部材の肉を回転子の端面で反射したり回転子の端面内に収容したりすることができるようになって、肉不足に伴う接合欠陥を防止できるようになる。
【0023】
また、回転子の端面を高位側の接合部材の肩部に圧接した状態に配置することにより、回転子の端面で当該肩部をその表面が傾斜面になるように塑性変形させ得るようになる。この結果、得られる突合せ接合継手において段部に生じる応力集中を緩和できるようになる。また、回転子の回転軸線の低位側の接合部材側への傾斜角を適宜変更したり、回転子の端面における外径を適宜変更したりすることにより、摩擦熱の発生量を適度に調整することができるようになって、摩擦熱不足に伴う接合欠陥の発生を防止できるようになる。
【0024】
また、回転子の端面を高位側の接合部材の肩部に圧接することで摩擦熱の発生量が増大し、この増大した摩擦熱を受けることによってアドバンスドエッジ側に配置されている接合部材の肉がより一層迅速に塑性流動されるようになり、この結果、トンネル状接合欠陥の発生が更に確実に抑制されるようになる。
【0025】
請求項4に係る発明は、径大の回転子の端面に突設された径小のプローブからなる回転可能な接合ヘッドを備えた接合工具を用い、高温変形抵抗及び肉厚がそれぞれY1及びt1である第1接合部材と、高温変形抵抗及び肉厚がそれぞれY2(但しY2≠Y1)及びt2である第2接合部材とを、第2接合部材を高位側に位置させて厚さ方向に段差を表面側にて生じる態様で突き合わせるとともに、この突合せ状態において、両接合部材はY2×t2>Y1×t1の関係式を満足しており、回転しているプローブを両接合部材の突合せ部又はその近傍に表面側から埋入した状態に配置するとともに、回転している回転子をその回転軸線が両接合部材に対して第1接合部材側に相対的に傾斜した状態に配置し、且つ回転している回転子の端面を突合せ部から突出している第2接合部材の肩部に圧接した状態に配置し、この状態で、プローブを突合せ部に沿って両接合部材に対して相対的に移動させることにより、両接合部材を突合せ接合する摩擦撹拌接合法であって、接合ヘッドの回転方向を、接合方向の後方側において、第2接合部材から第1接合部材へと回転する方向に設定して、突合せ接合を行うことを特徴としている。
【0026】
この摩擦撹拌接合においては、上記請求項3の発明と同じ理由により、アドバンスドエッジ側に配置された第1接合部材の肉が迅速に塑性流動されるようになり、この結果、トンネル状接合欠陥の発生が更に確実に抑制されるようになる。
【0027】
また、接合方向の後方側において、回転子の端面に圧接されている第2接合部材の肩部の肉が、回転子の端面からの圧接力と回転子の回転力とを受けることで第1接合部材側に塑性流動されるようになる。この結果、当該肩部の肉が段部のすみ部内に効率良く充填されるようになり、もって得られる突合せ接合継手の接合強度が向上する。
【0028】
【発明の実施の形態】
次に、この発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0029】
図1〜図4は、この発明の一実施形態を示している。この実施形態の摩擦撹拌接合により得られる突合せ接合継手は、自動車のテーラードブランク材として用いられるものである。
【0030】
図1において、(1)は薄肉の長尺平板状第1接合部材、(2)は厚肉の長尺平板状第2接合部材である。
【0031】
第1接合部材(1)と第2接合部材(2)とは、互いに異なる種類のアルミニウム又はその合金からなるものであり、このため互いに異なる高温変形抵抗を有している。さらに、両接合部材(1)(2)は互いに異なる肉厚を有している。
【0032】
ここで、図1(ロ)に示すように第1接合部材(1)の高温変形抵抗及び肉厚をそれぞれY1及びt1とし、一方、第2接合部材(2)の高温変形抵抗及び肉厚をそれぞれY2(但しY2≠Y1)及びt2とする。またt2はt1よりも大である(即ちt2>t1)とする。
【0033】
第1接合部材(1)の高温変形抵抗Y1と肉厚t1との積(即ちY1×t1)は、当該第1接合部材(1)の全高温変形抵抗に対応している。これと同じく、第2接合部材(2)の高温変形抵抗Y2と肉厚t2との積(即ちY2×t2)は、当該第2接合部材(2)の全高温変形抵抗に対応している。
【0034】
この実施形態では、説明の便宜上、第1接合部材(1)の高温変形抵抗Y1よりも第2接合部材(2)の高温変形抵抗のY2の方が大きく(即ちY2>Y1)、且つ、第1接合部材(1)の全高温変形抵抗Y1×t1よりも第2接合部材(2)の全高温変形抵抗Y2×t2の方が大きい(即ちY2×t2>Y1×t1)ものとして、説明を行う。
【0035】
各接合部材(1)(2)は、幅方向の一端面(3)を突合せ面とするものであって、この端面(3)は接合部材の表面及び裏面に対して垂直に形成されている。そして、これら両接合部材(1)(2)は、裏面同士が面一に連なる態様で端面(3)(3)同士が突き合わされており(突合せ部5)、このため、厚さ方向に両者の肉厚差に対応した段差を表面側にて生じている。更に、こうして突き合わされた両接合部材(1)(2)の突合せ部(5)裏面に、裏当て部材(図示せず)が当てられている。図1(ロ)において、(4)は、両接合部材(1)(2)の突合せ部(5)の位置における表面に形成された段部を示しており、(4a)はこの段部(4)のすみ部を示している。また、両接合部材(1)(2)は裏面同士が面一に連なる態様で突き合わされているから、この突合せ状態において、第2接合部材(2)が高位側に、第1接合部材(1)が低位側に位置されるものとなる。
【0036】
(10)は摩擦撹拌接合用の接合工具である。この接合工具(10)は、従来例で示されたもの(図5参照、60)と同じく、径大の円柱状回転子(11)と、該回転子(11)の端面(11a)の回転中心部に回転軸線(Q)上に沿って突出して一体に設けられた径小のピン状プローブ(12)とを備えた回転可能なものであって、前記ピン状プローブ(12)を接合ヘッド(13)とするものである。回転子(11)及びプローブ(12)は両接合部材(1)(2)よりも硬質で且つ接合時に発生する摩擦熱に耐え得る耐熱材料から形成されている。また、プローブ(12)の外周面には、摩擦熱にて軟化した両接合部材(1)(2)の肉を撹拌するための撹拌用凸部(図示せず)が設けられている。また、回転子(11)の端面(11a)の少なくとも外周縁部は、回転軸線(Q)に対して直交する平面内にあり、この実施形態では、回転子(11)の端面(11a)は平坦面からなる。なお、この発明では、回転子(11)の端面(11a)は、外周縁部から回転中心部に向かって窪んだ形状になっていても良い。
【0037】
この接合工具(10)を用いて両接合部材(1)(2)を突合せ接合する場合には、まず、接合工具(10)の回転子(11)をその回転軸線(Q)を中心に所定の回転方向(この回転方向については後述する)に回転させ、これによりプローブ(12)を回転させる。
【0038】
次いで、図3に示すように、両接合部材(1)(2)の表面側において、回転している回転子(11)の回転軸線(Q)を第1接合部材(1)側に傾斜させる。そして、この状態で、回転しているプローブ(12)を段部(4)のすみ部(4a)内から突合せ部(5)中に埋入する。さらに、この回転子(11)の端面(11a)を、両接合部材(1)(2)に跨らせた態様で突合せ部(5)から突出している第2接合部材(2)の肩部(2a)に圧接する。図3において、Pは接合部材(1)(2)のプローブ埋入位置における表面の法線を示している。また、θ(但し0°<θ<90°)は、このPに対する回転子(11)の回転軸線(Q)の第1接合部材(1)側への傾斜角を示している。なお、この発明では、プローブ(12)の突合せ部(5)への埋入は、両接合部材(1)(2)の長さ方向の端面から行っても良い。また、プローブ(12)を突合せ部(2)に埋入した後で、回転子(11)の回転軸線(Q)を第1接合部材(1)側に傾斜させても良い。もとより、回転子(11)を傾斜させることで回転軸線(Q)が第1接合部材(1)側に傾斜した状態を実現するのではなく、回転子(11)の姿勢を下向きに固定しておき、両接合部材(1)(2)を水平面に対して傾斜させることにより、かかる状態を実現しても良い。
【0039】
そして、この状態で、プローブ(12)を突合せ部(5)に沿って移動させる。このプローブ(5)の移動方向(M)が接合方向となる。このとき、図2に示すように、回転子(11)の回転軸線(Q)を接合方向(M)の後方側に僅かに傾斜させて当該回転子(11)の端面(11a)における接合方向の前部を、第2接合部材(2)の肩部(2a)から浮き上がらせ、この状態で移動させることが望ましい。こうすることにより、回転子(11)の端面(11a)における接合方向の前部が第2接合部材(2)の肩部(2a)表面に存在することのある微細な凹凸に引っ掛かる不具合を防止し得るようになって、プローブ(12)をスムーズに所定方向に移動させることができるようになる。
【0040】
このプローブ(12)の移動に伴い、両接合部材(1)(2)の突合せ部(5)がプローブ(12)によりプローブ埋入位置にて次々に接合されていく。(W)は接合部を示している。
【0041】
ここで、回転子(11)の回転方向について説明する。
【0042】
この実施形態では、上述したように両接合部材(1)(2)はY2×t2>Y1×t1の関係式を満足して突き合わされていることから、回転子(11)の回転方向を、接合方向(M)の後方側において、第2接合部材(2)から第1接合部材(1)へと回転する方向(L)に設定する。
【0043】
このように回転子(11)の回転方向を設定して突合せ接合を行うことにより、トンネル状接合欠陥の発生を防止できるようになる。
【0044】
すなわち、プローブ(12)の回転に伴い発生する摩擦熱と、回転子(11)の端面(11a)と両接合部材(1)(2)の表面との摺動に伴い発生する摩擦熱とによって、両接合部材(1)(2)はプローブとの接触部分近傍において軟化する。そして、両接合部材(1)(2)の軟化部中の肉が、回転子(11)及びプローブ(12)の回転力を受けて撹拌混合されるとともにプローブ(12)の移動に伴って該プローブ(12)の通過溝を埋めるように塑性流動する。このとき、両接合部材(1)(2)のうちアドバンスドエッジ側に配置されている第1接合部材(1)は全高温変形抵抗の低いものであるから、当該第1接合部材(1)の肉は、この回転子(11)及びプローブ(12)の回転力を受けることで、プローブ通過溝を埋めるように迅速に塑性流動するようになり、このためプローブ通過溝内に肉が不足なく且つ迅速に充填されるようになる。このため、リトリーティング近傍はもとよりアドバンスドエッジ近傍においても空洞部が生じることがなくなる。
【0045】
こうしてプローブ通過溝内に肉が不足なく且つ迅速に充填されながら、当該肉が摩擦熱を急速に失って冷却固化される。
【0046】
さらに、接合方向(M)の後方側において、第2接合部材(2)の肩部(2a)が回転子(11)の端面(11a)からの圧接力を受けてその表面が傾斜面になるように塑性変形される。
【0047】
以上の現象がプローブ(12)の移動に伴って連続的に繰り返されていき、最終的に両接合部材(1)(2)が突合せ部(5)の全長にわたって接合一体化され、もって所望する突合せ接合継手が得られる。
【0048】
こうして得られた突合せ接合継手は、プローブ通過溝に両接合部材(1)(2)の肉が不足なく充填されており、つまり接合部(W)のアドバンスドエッジ近傍にトンネル状接合欠陥が発生していないので、高い接合強度を有している。
【0049】
さらに、この突合せ接合継手は、第2接合部材(2)の肩部(2a)が塑性変形されてその表面が傾斜面になるように形成されているので、段部(4)に生じる応力集中を緩和できるものとなっている。
【0050】
また、この摩擦撹拌接合によれば、接合方向(M)の後方側において、摩擦熱にて軟化した第2接合部材(2)の肩部(2a)の肉が、回転子(11)の端面(11a)からの圧接力と回転子(11)の回転力とを受けることによって第1接合部材(1)側に塑性流動されるようになり、この結果、当該肩部(2a)の肉が段部(4)のすみ部(4a)内に効率良く充填されるようになる。したがって、得られた突合せ接合継手は、肩部(2a)の肉が段部(4)のすみ部(4a)内に不足なく充填されている、つまり高い接合強度を有するものとなる。
【0051】
その上、この摩擦撹拌接合法によれば、回転子(11)の端面(11a)を第2接合部材(2)の肩部(2a)に圧接することによって、摩擦熱をより多く発生させることができるので、この摩擦熱によって第1接合部材(1)の肉を、より一層迅速に塑性流動させることができる。したがって、トンネル状接合欠陥の発生をより一層確実に抑制することができる。
【0052】
もとより、この摩擦撹拌接合法によれば、プローブ近傍から飛散する両接合部材(1)(2)の肉を回転子(11)の端面(11a)で反射したり回転子(11)の端面(11a)内に収容したりすることができるようになって、肉不足に伴う接合欠陥を防止できるようになるし、その上、回転子(11)の回転軸線(Q)の第1接合部材(1)側への傾斜角を適宜変更したり、回転子(11)の端面(11a)における外径を適宜変更したりすることにより、摩擦熱の発生量を適度に調整することができるようになって、摩擦熱不足に伴う接合欠陥の発生を防止することができる。
【0053】
以上の実施形態の摩擦撹拌接合法では、両接合部材(1)(2)がY2×t2>Y1×t1の関係式を満足して突き合わされている場合について説明しているが、これとは逆に、両接合部材(1)(2)がY2×t2<Y1×t1の関係式を満足して突き合わされている場合には、回転子(11)の回転方向を、接合方向(M)の後方側において、第1接合部材(1)から第2接合部材(2)へと回転する方向(R)に設定して、突合せ接合を行う。こうすることにより、トンネル状接合欠陥の発生を抑制できるようになる。この場合における他の接合手順は、上述した接合手順と同じであり、重複する説明を省略する。
【0054】
以上、この発明の実施形態について説明したが、この発明は上記実施形態に限定されるものではなく、様々に設定変更可能である。
【0055】
例えば、上記実施形態では、接合工具(10)のプローブ(12)を突合せ部(5)に沿って移動させて接合を行う場合について示しているが、この発明では、この他に、プローブ(12)の位置を固定しておき、突合せ部(5)が順次このプローブ(12)を通過するように両接合部材(1)(2)を移動させて接合を行っても良い。この場合には、両接合部材(1)(2)の移動方向とは反対の方向が接合方向となる。
【0056】
【実施例】
次に、この発明の具体的実施例を説明する。
【0057】
<実施例1>
第1接合部材(1)として、平板状のアルミニウム合金材(材質A6063−T5、肉厚t1=1.0mm)からなるものを準備した。第2接合部材(2)として、平板状のアルミニウム合金材(材質A5052−H34、肉厚t2=2.0mm)からなるものを準備した。
【0058】
なお、6063−T5の400〜550℃の範囲内における平均変形抵抗と5052−H34の同温度範囲内における平均変形抵抗とを比較すると、5052−H34の方が高いことが一般に知られている。したがって、同温度範囲において第1接合部材(1)の全高温変形抵抗と第2接合部材(2)の全高温変形抵抗とを比較すると、第2接合部材(2)の方が高くなる。
【0059】
次いで、上記実施形態と同様に、両接合部材(1)(2)を裏面同士が面一に連なる態様にして突き合わせた。そして、接合工具(10)の回転子(11)の回転方向を、接合方向(M)の後方側において、第2接合部材(2)から第1接合部材(1)へと回転する方向(L)に設定して、上記実施形態で示された接合手順に従って、両接合部材(1)(2)の突合せ接合を行った。
【0060】
<比較例1>
接合工具(10)の回転子(11)の回転方向を、接合方向(M)の後方側において、第1接合部材(1)から第2接合部材(2)へと回転する方向(R)に設定して、突合せ接合を行った。用いた接合部材及び他の接合条件は、上記実施例1と同じである。
【0061】
<実施例2>
第1接合部材(1)として、平板状のアルミニウム合金材(材質A5083−H34、肉厚t1=1.0mm)からなるものを準備した。第2接合部材(2)として、平板状のアルミニウム合金材(材質A6063−T5、肉厚t2=3.0mm)からなるものを準備した。
【0062】
なお、5083−H34の400〜550℃の範囲内における平均変形抵抗と6063−T5の同温度範囲内における平均変形抵抗とを比較すると、5083−H34の方が高いことが一般に知られている。しかしながら、双方の肉厚をも考慮して各接合部材の全高温変形抵抗を算出し、同温度範囲内における第1接合部材(1)の全高温変形抵抗と第2接合部材(2)の全高温変形抵抗とを比較すると、第2接合部材(2)の方が高くなる。
【0063】
次いで、上記実施形態と同様に、両接合部材(1)(2)を裏面同士が面一に連なる態様にして突き合わせた。そして、接合工具(10)の回転子(11)の回転方向を、接合方向(M)の後方側において、第2接合部材(2)から第1接合部材(1)へと回転する方向(L)に設定して、上記実施形態で示された接合手順に従って、両接合部材(1)(2)の突合せ接合を行った。
【0064】
[接合結果]
上記実施例1、実施例2及び比較例1で得られた突合せ接合継手の接合部に対して顕微鏡による断面観察を行い、その接合状態を調べた。
【0065】
この結果、比較例1で得られた突合せ接合継手では、接合部(W)のアドバンスドエッジ近傍にトンネル状接合欠陥が多数発生していた。
【0066】
これに対して、実施例1及び実施例2で得られた突合せ接合継手では、いずれも、接合部(W)のリトリーティングエッジ近傍はもとよりアドバンスドエッジ近傍にもトンネル状接合欠陥が発生していなかった。したがって、この発明によれば、良好な接合部を形成できることを確認し得た。
【0067】
【発明の効果】
上述の次第で、請求項1の発明に係る摩擦撹拌接合法は、接合ヘッドの回転方向を、接合方向の後方側において、高温変形抵抗の高い接合部材から高温変形抵抗の低い接合部材へと回転する方向に設定して、突合せ接合を行うことを特徴としているから、この摩擦撹拌接合法によれば、アドバンスドエッジ側に配置されている接合部材の肉を迅速に塑性流動させ得るようになって、塑性流動不足に伴うトンネル状接合欠陥の発生を抑制することができる。
【0068】
請求項2の発明に係る摩擦撹拌接合法によれば、両接合部材の双方の高温変形抵抗に加えて更に双方の肉厚をも考慮して接合ヘッドの回転方向が設定されているので、トンネル状接合欠陥の発生を確実に抑制することができる。
【0069】
請求項3の発明に係る摩擦撹拌接合法によれば、回転子の端面を高位側の接合部材の肩部に圧接することにより、摩擦熱の発生量が増大し、この増大した摩擦熱によってアドバンスドエッジ側に配置された接合部材の肉をより一層迅速に塑性流動させ得るようになるため、トンネル状接合欠陥の発生をより一層確実に抑制することができる。更には、摩擦熱の発生量が増大するため、接合ヘッドの回転数や接合速度等の接合条件の適性範囲を拡大することができる。
【0070】
また、回転子の端面を高位側の接合部材の肩部に圧接することにより、当該肩部をその表面が傾斜面になるように塑性変形させることができるので、段部に生じる応力集中が緩和されている突合せ接合継手を得ることができる。
【0071】
さらには、プローブ近傍から飛散する両接合部材の肉を回転子の端面で反射したり回転子の端面内に収容したりすることができるようになって、肉不足に伴う接合欠陥をも防止することができる。
【0072】
その上、回転子の回転軸線の低位側の接合部材側への傾斜角を適宜変更することにより、摩擦熱の発生量を適度に調整することができるようになって、摩擦熱不足に伴う接合欠陥の発生を防止することができる。
【0073】
請求項4の発明に係る摩擦撹拌接合法によれば、第1接合部材の肉を迅速に塑性流動させ得るようになって、トンネル状接合欠陥の発生を更に確実に抑制することができる。
【0074】
さらには、第2接合部材の肩部の肉を段部のすみ部内に効率良く充填することができるようになって、得られる突合せ接合継手の接合強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施形態の摩擦撹拌接合法を示す図で、(イ)は両接合部材の接合途中の状態の斜視図、(ロ)はI−I線要部拡大断面図である。
【図2】図1(イ)中のII−II線要部拡大断面図である。
【図3】図1(イ)中のIII−III線要部拡大断面図である。
【図4】接合後の状態を示す、図3に対応する図である。
【図5】従来の摩擦撹拌接合法を示す図で、両接合部材の接合途中の状態の斜視図である。
【図6】図5中のVI−VI線要部拡大断面図である。
【符号の説明】
1…第1接合部材
2…第2接合部材
5…突合せ部
10…接合工具
11…回転子
11a…回転子の端面
12…プローブ
13…接合ヘッド
R、L…接合ヘッドの回転方向
W…接合部
Claims (4)
- 回転可能な接合ヘッド(13)を備えた接合工具(10)を用い、
高温変形抵抗が相異する2個の接合部材(1、2)を、厚さ方向に段差を表面側にて生じる態様で突き合わせるとともに、
回転している接合ヘッド(13)を両接合部材の突合せ部(5)又はその近傍に表面側から埋入した状態に配置し、
この状態で、接合ヘッド(13)を突合せ部(5)に沿って両接合部材に対して相対的に移動させることにより、両接合部材を突合せ接合する摩擦撹拌接合法であって、
接合ヘッド(13)の回転方向を、接合方向(M)の後方側において、高温変形抵抗の高い接合部材から高温変形抵抗の低い接合部材へと回転する方向(R、L)に設定して、突合せ接合を行うことを特徴とする摩擦撹拌接合法。 - 回転可能な接合ヘッド(13)を備えた接合工具(10)を用い、
高温変形抵抗及び肉厚がそれぞれY1及びt1である第1接合部材(1)と、高温変形抵抗及び肉厚がそれぞれY2(但しY2≠Y1)及びt2である第2接合部材(2)とを、厚さ方向に段差を表面側にて生じる態様で突き合わせるとともに、回転している接合ヘッド(13)を両接合部材の突合せ部(5)又はその近傍に表面側から埋入した状態に配置し、
この状態で、接合ヘッド(13)を突合せ部(5)に沿って両接合部材に対して相対的に移動させることにより、両接合部材を突合せ接合する摩擦撹拌接合法であって、
両接合部材(1、2)がY2×t2<Y1×t1の関係式を満足して突き合わされているときには、接合ヘッド(13)の回転方向を、接合方向(M)の後方側において、第1接合部材(1)から第2接合部材(2)へと回転する方向(R)に設定して、突合せ接合を行い、
両接合部材(1、2)がY2×t2>Y1×t1の関係式を満足して突き合わされているときには、接合ヘッド(13)の回転方向を、接合方向(M)の後方側において、第2接合部材(2)から第1接合部材(1)へと回転する方向(L)に設定して、突合せ接合を行うことを特徴とする摩擦撹拌接合法。 - 前記接合工具(10)の接合ヘッド(13)は、径大の回転子(11)の端面(11a)に突設された径小のプローブ(12)からなり、
回転している回転子(11)をその回転軸線(Q)が両接合部材に対して低位側の接合部材(1)側に相対的に傾斜した状態に配置するとともに、回転している回転子の端面(11a)を突合せ部から突出している高位側の接合部材(2)の肩部(2a)に圧接した状態に配置し、
この状態で、突合せ接合を行う請求項1又は2記載の摩擦撹拌接合法。 - 径大の回転子(11)の端面(11a)に突設された径小のプローブ(12)からなる回転可能な接合ヘッド(13)を備えた接合工具(10)を用い、
高温変形抵抗及び肉厚がそれぞれY1及びt1である第1接合部材(1)と、高温変形抵抗及び肉厚がそれぞれY2(但しY2≠Y1)及びt2である第2接合部材(2)とを、第2接合部材(2)を高位側に位置させて厚さ方向に段差を表面側にて生じる態様で突き合わせるとともに、この突合せ状態において、両接合部材(1、2)はY2×t2>Y1×t1の関係式を満足しており、
回転しているプローブ(12)を両接合部材の突合せ部(5)又はその近傍に表面側から埋入した状態に配置するとともに、回転している回転子(11)をその回転軸線(Q)が両接合部材に対して第1接合部材(1)側に相対的に傾斜した状態に配置し、且つ回転している回転子の端面(11a)を突合せ部から突出している第2接合部材(2)の肩部(2a)に圧接した状態に配置し、
この状態で、プローブ(12)を突合せ部(5)に沿って両接合部材に対して相対的に移動させることにより、両接合部材を突合せ接合する摩擦撹拌接合法であって、
接合ヘッド(13)の回転方向を、接合方向(M)の後方側において、第2接合部材(2)から第1接合部材(1)へと回転する方向(L)に設定して、突合せ接合を行うことを特徴とする摩擦撹拌接合法。
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