JP4596626B2 - 成形品の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定の分子量分布を有するスチレン系樹脂組成物を用いて得られた樹脂板を特定の温度で加熱し、熱成形により成形品を製造する方法に関する。さらに詳しくは、押出成形法により製造された樹脂板を、より低温で真空成形、圧空成形でき、成形時間が短縮される加工法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に熱成形とは、熱可塑性プラスチック樹脂板を加熱軟化させ、軟らかい間に外力を加えて所要の型に押し当て、型と材料の間隙にある空気を排除して大気圧により型に密着させて成形する真空成形、および大気圧以上の圧縮空気か、真空を併用して成形する圧空成形等を総称した成形法である。
【0003】
さらに一般には、押出成形法により製造された樹脂板を用い、熱成形で目的の形状に成形する場合に、成形材料には広い温度領域にわたってその成形法に適正な粘度を保つ特性が要求される。
【0004】
例えば、ABS樹脂を使用して熱成形をしようとする場合、成形加工時の延伸倍率が大きくなるに伴い、材料粘度を適当に高めることが必要である。この場合ABS樹脂自体の平均分子量を大きくすることで溶融粘度を高めることが考えられるが、延伸時の粘度が増加し、加工温度を高くしなければならず、結果として成形加工する時間も延長される。
【0005】
また、延伸時の粘度特性を向上させるために、ABS樹脂に平均分子量の大きいAS樹脂と平均分子量の小さいAS樹脂との両成分を含有させたり、あるいはAS樹脂の分子量分布を調整する方法も提案されているが、やはり成形温度が高く、加工時間が長くなり、真空成形、圧空成形などで短時間での熱成形加工が充分であるとは言えない。
【0006】
さらに、延伸倍率が大きい場合には、成形品で不都合な偏肉が起こらないことや、かつ加工温度を低く、加工時間が短いことが望まれている。
これらの成形方法では、使用する成形装置、成形条件、さらにはその成形品形状に応じて容易に所望の溶融粘度にすることが望まれる。
【0007】
具体的に、ABS樹脂の押出成形法で得られた樹脂板を用いてブローイング・圧空成形により電気冷蔵庫の内箱、扉ライナーなどの成形品を製造する場合、延伸倍率は2〜7倍になり、次の様な成形加工性が要求される。
▲1▼樹脂板の加熱時の変形が少ないこと
通常、内箱、扉ライナーの熱成形は、樹脂板の加熱→エア(空気)注入によるブローイング→プラグによる強制延伸→真空吸引・圧空による金型転写→冷却→成形品の離型の工程からなる。
この場合樹脂板の加熱(輻射熱)と自重による変形が大きくなると、極端な場合装置との接触が発生したり、変形した個所の加熱ヒータとの距離が小さくなり、ヒータからの輻射熱による樹脂板の温度分布が極端に大きくなる。この樹脂板の加熱の工程で温度が極端になると、次のブローイングの工程で、樹脂板の温度の高い部分が延伸して、該個所が極端に厚みが薄くなったり、場合によっては破裂に至る。
【0008】
さらに、次のプラグ延伸の工程では、プラグ表面の凹凸が成形品に転写される。これは、ブローイングされた樹脂板の温度の高い部分は、材料粘度が低いため、接触したプラグの表面で加熱樹脂板がすべることがなく、次の工程まで接触したままであることから、プラグ表面の凹凸が強く転写されたままの外観不良の状態で最終工程を終えることがある。また、プラグ延伸の工程で延伸される部分に温度分布があると、温度が高く粘度が低くなっている部分が大きく延伸されて、肉厚の厚い部分と薄い部分が発生して、いわゆる偏肉現象が発生する。同時に、温度が低く粘度が高い部分はプラグにより速い速度で強制的に延伸されると、延伸方向への配向がほかの箇所より強く残ることになる。この場合、その後に熱が加わると、配向が緩和され、熱伸縮現象が起こり、形状自体が変化する。
また、温度が低く粘度が高い部分は、真空・圧空による金型転写の工程でも、金型の凹凸を再現できず、金型のコーナー部やリブ部などの曲率半径が小さい場合、追従して成形できず、成形品の該部分の曲率半径は大きくなる。
【0009】
▲2▼成形温度領域が広いこと。
特に、低い成形温度側で成形できる広い温度領域で良品が得られることが望まれる。ABS樹脂の連続相であるAS樹脂のガラス転移点温度は約100℃であるので、成形中の樹脂板温度はこれ以上の温度を保つように設定する。成形温度としては、高い温度を保って成形できることも望まれるが、上記▲1▼のように、温度が高いことに起因する成形安定性の低下もおこる。望ましくは、低温側で成形性が良好なことである。なぜなら熱エネルギーの低減を計れ、かつ成形安定性も得やすい。また、樹脂板をガラス転移点温度である100℃以上に加熱して、延伸加工を経た後、100℃以下に冷却して成形品となることから、特に延伸工程の温度が低温で問題なく成形できれば、加熱冷却時間が短い分、樹脂板の加熱から成形品の冷却までの全行程の時間が短くて済み、単位時間での生産性が向上する。
【0010】
▲3▼プラグ、金型との滑り性があること。
加熱、ブローイングされた樹脂板とプラグとの滑り性がないと、プラグ延伸工程では、プラグと接触していない部分のみが延伸されることになる。プラグと加熱、ブローイングされた樹脂板との接触面が大きいとプラグと接触していない面積は逆に小さくなり、この場合に滑り性がないと、プラグと接触していない小さい部分のみ延伸されて、この部分の肉厚も薄くなる。最終製品として偏肉が観られることになる。さらに、プラグ延伸の次の工程である真空・圧空による金型転写の工程でも、加熱樹脂板と金型との滑り性がないと、金型と接触していない部分のみ延伸されることになる。金型の凹凸部では、その形状に追従するためにさらに延伸したときに、滑り性がないと、凹部の内面に薄肉部が観られる。薄肉部は強度が小さく、外力により変形、割れが発生し易い。
【0011】
▲4▼金型への転写が良好なこと。
加熱された樹脂板はその後の加工工程では加熱されることがなく、冷却工程までの各工程で放熱し、樹脂板の温度は低下していく。また、延伸倍率も各工程を経るごとに上がっていく。このなかで、金型への転写工程は最終の延伸工程であるが、真空・圧空により延伸変形が充分でき、金型への転写が良好であることが求められる。金型転写が、不十分であると、金型のコーナー部やリブ部などの曲率半径が再現されず、後の工程で部品の挿入や勘合が出来なくなる。
【0012】
さらに近年、熱成形加工品の大型化、形状の複雑化、また、コストダウンを目的とした樹脂板肉厚の減少化や成形サイクル時間の短縮により、ますます上記成形性を満足することが困難になっている。
【0013】
【本発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述の課題を解決することにあり、押出成形法により製造された樹脂板を用いて、熱成形、とりわけ圧空成形などの成形法で、目的の形状に成形する場合に、成形適正温度が低く成形サイクルが短縮でき、目的の形状に成形する際に成形性が良好である成形方法を提供することにある。
【0014】
【問題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、樹脂組成物を構成する連続相が特定の分子量分布を有したスチレン系樹脂組成物を用いて押出成形した樹脂板を特定の温度に加熱することにより、成形サイクルが短縮でき、目的の形状にする際に成形性が良好であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0015】
すなわち、本発明はスチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体、および必要に応じこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体との単量体混合物を重合して得られるスチレン系共重合体の連続相と、ゴム状重合体にスチレン系単量体、シアン化ビニル単量体、および必要に応じこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体の単量体混合物からなる共重合体のグラフト枝がグラフト重合したグラフト共重合体の分散相を含有し、かつ、この連続相のスチレン系共重合体の重量平均分子量(Mw)が14万〜20万であり、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)が3.0〜10.0であり、さらに重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が2.0〜3.0であるスチレン系樹脂組成物から得られた樹脂板を温度110℃〜170℃に加熱し、ブローイングした後、延伸倍率2〜7倍に延伸し、熱成形することを特徴とする成形品の製造方法である。
【0016】
さらに好ましい実施態様は、スチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体、および必要に応じてこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体との単量体混合物を重合して得られるスチレン系共重合体(a)の連続相と、ゴム状重合体にスチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体、および必要に応じてこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体の単量体混合物からなる共重合体のグラフト枝がグラフト重合したグラフト共重合体(b)の分散相とからなり、かつ、この連続相のスチレン系共重合体(a)の重量平均分子量が14万〜17万であるスチレン系樹脂(A)100質量部に対して、スチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体、および必要に応じてこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体との単量体混合物を重合して得られる重合体で、60質量%以上がスチレン系単量体単位で、かつ重量平均分子量が670万以上である高分子量スチレン系重合体(B)0.1〜3質量部を配合してなる樹脂組成物を用いることである。
【0017】
より具体的には、連続相のスチレン系共重合体がスチレン−アクリロニトリル共重合体であり、分散相のグラフト共重合体がポリブタジエンおよび/またはスチレン−ブタジエン共重合体のゴム状重合体にスチレンとアクリリニトリルの単量体混合物からなる共重合体のグラフト枝がグラフト重合した重合体であるスチレン系樹脂およびスチレン系樹脂組成物を用いることができる。
【0018】
さらに、本発明は上記のスチレン系樹脂組成物から押出成形法で得られた樹脂板は、低温で加熱し、ブローイングした後、延伸倍率2〜7倍に延伸し、熱成形することができることにも特徴があるものである。
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず本発明のスチレン系樹脂組成物について述べる。
本発明はスチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体、および必要に応じこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体との単量体混合物を重合して得られるスチレン系共重合体の連続相と、ゴム状重合体にスチレン系単量体、シアン化ビニル単量体、および必要に応じこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体の単量体混合物からなる共重合体のグラフト枝がグラフト重合したグラフト共重合体の分散相を含有する。
【0020】
本発明に係るスチレン系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ジメチルスチレン、ビニルトルエンなどが挙げられ、これらのなかでもスチレンが好ましい。
シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリルなどが挙げられ、これらのなかでもアクリロニトリルが好ましい。
必要に応じて用いられるこれらの共重合可能な単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸イソボルニルなどのメタクリル酸エステル単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシルなどのアクリル酸エステル単量体、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸の無水物などの不飽和ジカルボン酸無水物単量体、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどの不飽和ジカルボン酸のイミド化合物単量体などが挙げられ、これらのビニル系単量体は、単独または2種以上を組み合わせても使用できる。
【0021】
本発明に用いるゴム状重合体としては、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレンなどのブタジエン系重合体、アクリル酸プロピル重合体、アクリル酸ブチル重合体などのアクリル酸エステル重合体、エチレン−プロピレン−共役ジエン系ゴムなどを挙げることができる。これらのゴム状重合体は単独でも2種以上を混合して使用することもできる。また、これらのなかでポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体が好ましい。
【0022】
スチレン系共重合体の製造方法としては、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法などの公知の方法があげられる。この際に使用される重合開始剤、連鎖移動剤としては、下記のグラフト共重合体を製造する際に使用されるものと同種のものをもちいることができる。
【0023】
グラフト共重合体の製造方法としては、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化−懸濁重合法などの公知の重合法を回分式および、または連続式と組み合わせて用いられる。これらのなかで、グラフト共重合体を製造する方法は乳化重合法によるのが好ましく、ラテックス状のゴム状重合体を用い、スチレン系単量体およびシアン化ビニル系単量体と必要に応じてこれらと共重合可能な単量体の単量体混合物を乳化重合法で重合するのが好ましい。
ただし、これらの製造方法では前記したゴム状重合体にグラフト枝がグラフト重合したグラフト共重合体単独のみでは得難く、ゴム状重合体にグラフトしていないスチレン系共重合体との混合物であるのが一般的である。
そこで、本発明では上記の製造法で得られた重合体をグラフト重合体(C)とし、グラフト共重合体が単独で得られた場合はグラフト共重合体とグラフト重合体(C)は同一であり、その他は上記で述べたスチレン系共重合体との混合物である。
【0024】
上記の製造方法におけるゴム状重合体と単量体混合物との組成比は、ゴム状重合体30〜60質量%の存在下に、単量体混合物40〜70質量%の範囲で選ぶのが好ましい。この際、ゴム状重合体の体積平均粒子径は、通常、0.2〜0.8μmの範囲で選定するのが好ましい。乳化重合法の場合、乳化剤、重合開始剤、連鎖移動剤を使用して、50〜90℃の温度範囲で行う。使用する乳化剤は公知のものが使用でき、特に限定されるものではない。たとえば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル酸エステル塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩などのアニオン性界面活性剤、また、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどのノニオン性界面活性剤、さらにはアルキルアミン塩などのカチオン性界面活性剤を使用することができる。また、これらの乳化剤は単独でも、併用しても使用することができる。
【0025】
重合開始剤としては、水溶性、油溶性の単独系、もしくはレドックス系のものでよく、例として、通常の過硫酸塩などの無機開始剤を単独で用いるか、あるいは亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ硫酸塩などと組み合わせてレドックス系開始剤として用いることもできる。さらに、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの有機過酸化物、アゾ化合物などを単独で用いるか、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートなどと組み合わせてレドックス系開始剤として用いることもできる。
これらの重合開始剤の使用量は、通常、単量体混合物に対して、0.1〜5質量%の範囲で選ばれる。
【0026】
連鎖移動剤としては、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類、または、ターピノーレン、α−メチルスチレンダイマーなどが挙げられる。
【0027】
本発明のスチレン系樹脂組成物は、前記したとおりスチレン系単量体等のスチレン系共重合体の連続相と、ゴム状重合体にスチレン系単量体等の単量体混合物からなる共重合体のグラフト枝がグラフト重合したグラフト共重合体の分散相を含有するものである。この連続相のスチレン系共重合体の重量平均分子量(Mw)が14万〜20万であり、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)が3.0〜10.0であり、さらに重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が2.0〜3.0であることを特徴とする。好ましくは連続相のスチレン系共重合体の重量平均分子量(Mw)が15〜18万であり、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)が3.2〜5.0であり、さらに重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が2.2〜2.8であることが好ましい。
【0028】
この連続相のスチレン系共重合体の重量平均分子量(Mw)が14万より小さい重量平均分子量から得られた樹脂板を用いると加熱途中での垂れ始めまでの時間が短く、成形開始までに垂れ下がりが大きく、極端な場合には加熱途中や成形工程への移動中に、垂れ下がった樹脂板とヒータとが接触することになり、実際の量産には適さない。また、20万より大きいと加熱による軟化までの時間を要し、本発発明の成形温度範囲で成形するためには、長い時間が必要となり従来の技術と変わらず全成形時間は短縮されない。
また、Mz/Mwが3.0未満や10を超えると、またMw/Mnが2.0未満や3.0を超えると本発明の成形温度で成形すると偏肉現象が起こり、肉厚が均一の製品が得にくい。
【0029】
以下、スチレン系樹脂組成物として好ましい実施態様であるスチレン系樹脂(A)と高分子量スチレン系重合体(B)を配合してなる樹脂組成物について詳述するがこれに限定されるものではない。
すなわち、スチレン系樹脂(A)は、スチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体、および必要に応じてこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体との単量体混合物を重合して得られるスチレン系共重合体(a)の連続相と、ゴム状重合体にスチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体、および必要に応じてこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体の単量体混合物からなる共重合体のグラフト枝がグラフト重合したグラフト共重合体(b)の分散相とからなり、かつ、この連続相のスチレン系共重合体(a)の重量平均分子量が14万〜17万であり、高分子量スチレン系重合体(B)は、スチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体、および必要に応じてこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体との単量体混合物を重合して得られる重合体で、60質量%以上がスチレン系単量体単位で、かつ重量平均分子量が670万以上であるスチレン系重合体である。
【0030】
本発明のスチレン系樹脂(A)を構成する各成分の含有割合は、スチレン系共重合体(a)とグラフト共重合体(b)との割合が、質量比で50〜85:50〜15質量%の範囲であることが好ましい。グラフト共重合体(b)成分に対するスチレン系共重合体(a)成分の割合が、上記の範囲外になると、高分子量スチレン系重合体(B)を配合したスチレン系樹脂組成物の耐衝撃性、引張り強さなどの物性が劣ったり、成形性が劣ったりして、好ましくない傾向があらわれる。また、このスチレン系樹脂組成物中のスチレン系共重合体(a)の成分の割合が多すぎると、熱成形加工時の溶融粘度が小さくなり樹脂板加熱時に自重による変形などが起こりやすくなる傾向がある。また、逆に少なすぎると溶融粘度が大きくなり、加工温度の上昇や成形サイクルの延長が必要となり、金型転写も不十分となりやすいので好ましくない傾向が生じやすい。
【0031】
なお、本発明のスチレン系共重合体(a)およびグラフト共重合体(b)におけるスチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体、および必要に応じてこれらと共重合可能な単量体の割合は、質量比で60〜80:15〜45:0〜20の範囲(ただし、単量体の合計は100質量%である。)であることが好ましい。
【0032】
また、上記のスチレン系樹脂(A)は、スチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体、および必要に応じてこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体との単量体混合物を重合して得られるスチレン系共重合体(a)の連続相と、ゴム状重合体にスチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体、および必要に応じてこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体の単量体混合物からなる共重合体のグラフト枝がグラフト重合したグラフト共重合体(b)の分散相とからなり、かつ、この連続相のスチレン系共重合体(a)の重量平均分子量が14万〜17万である。この範囲より小さいと、樹脂板の加熱による軟化までの時間は短くなるが、樹脂板の熱変形も大きくなり加熱制御が難しく好ましくない。また、この範囲を越えると、樹脂板の加熱による軟化までの時間を要し、本発明である特定の温度範囲で成形加工するためには、長い時間が必要となり好ましくはない。さらに、好ましくは、スチレン系共重合体(a)の重量平均分子量が15万〜16万である。
【0033】
本発明のスチレン系共重合体(a)は、前記スチレン系共重合体で述べたとおりの公知の製造方法にしたがって得られる。具体的には、スチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体、および必要に応じてこれらと共重合可能な他の単量体を、重合開始剤、必要に応じて連鎖移動剤の存在下で、乳化重合法、懸濁重合法または塊状重合法によって製造する方法があげられる。また、グラフト共重合体(b)を製造する際に副生するものでもよく、また別途製造したスチレン系共重合体とこれらの混合物でも良い。
【0034】
グラフト共重合体(b)の製造方法も、グラフト共重合体の製造方法で前記した方法で行うことができる。
【0035】
上記のスチレン系樹脂(A)として、代表的な例としてはABS樹脂、MBS樹脂、AES樹脂などをあげることができる。
【0036】
次に、本発明における高分子量スチレン系重合体(B)について説明する。該高分子量スチレン系重合体(B)は、スチレン系単量体、シアン化ビニル系単量体、および必要に応じてこれらの単量体と共重合可能なビニル系単量体との単量体混合物を重合して得られる重合体で、60質量%以上がスチレン系単量体単位で、かつ重量平均分子量が670万以上であるスチレン系重合体である。
【0037】
用いるスチレン系単量体としては、前記したスチレンなどが挙げられ、これらのなかでもスチレンが好ましい。
また、シアン化ビニル系単量体も前記したアクリロニトリルなどが挙げられ、これらのなかでもアクリロニトリルが好ましい。
必要に応じて用いられるこれらの共重合可能な単量体としては、前記したメタクリル酸メチルなどのメタクリル酸エステル単量体、アクリル酸メチルなどのアクリル酸エステル単量体、マレイン酸などの無水物などの不飽和ジカルボン酸無水物単量体、マレイミドなどの不飽和ジカルボン酸のイミド化合物単量体などが挙げられ、これらのビニル系単量体は、単独または2種以上を組み合わせても使用できる。
【0038】
本発明における高分子量スチレン系重合体(B)中のスチレン系単量体単位の含有量は、60質量%以上、好ましくは65質量%以上である。スチレン系単量体単位の含有量が60質量%未満では、高分子量スチレン系重合体(B)のスチレン系樹脂(A)への分散が低下し、成形品の外観が悪化する。
【0039】
高分子量スチレン系重合体(B)において、他の成分としてのシアン化ビニル単量体およびビニル系単量体単位の含有量が40質量%を越えると高分子量スチレン系重合体(B)のスチレン系樹脂(A)への分散が低下し、成形品の外観が悪化する。
【0040】
高分子量スチレン系重合体(B)が優れた熱成形加工特性の付与効果を持つためには、高分子量スチレン系重合体(B)の分子量を極めて高分子量にすることが必須であり、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定した重量平均分子量が670万以上が必要条件であり、好ましくは700万以上である。重量平均分子量が670万未満では、熱成形加工時の特性の付与効果が小さくなりやすい。
さらには、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が2.7以上であることが好ましい。極めて高分子量なのでMw/Mnが2.7以上であるほうが相溶性がよい。特に好ましくは3.0〜15である。
また、所定の分子量を得るには、後記する重合時に、用いる連鎖移動剤や触媒の使用量や重合温度などを調節して重合を行うことができる。
【0041】
上述した高分子量スチレン系重合体(B)を得る方法としては公知の方法を用いることができ、たとえば、重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、溶液重合などが挙げられ、これらの中では乳化重合法の適用が好ましい。この乳化重合法を適応した製造法において、使用する乳化剤は公知のものが使用でき、特に限定されるものではない。たとえば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル酸エステル塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩などのアニオン性界面活性剤、また、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルなどのノニオン性界面活性剤、さらにはアルキルアミン塩などのカチオン性界面活性剤を使用することができる。また、これらの乳化剤は単独でも、併用しても使用することができる。
【0042】
また、重合開始剤としては、水溶性、油溶性の単独系、もしくはレドックス系のものでよく、例として、通常の過硫酸塩などの無機開始剤を単独で用いるか、あるいは亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ硫酸塩などと組み合わせてレドックス系開始剤として用いることもできる。さらに、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの有機過酸化物、アゾ化合物などを単独で用いるか、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートなどと組み合わせてレドックス系開始剤として用いることもできる。
【0043】
本発明に使用する高分子量の高分子量スチレン系重合体(B)の重合後の回収方法は、例えば、乳化重合により得る場合には、得られた高分子量スチレン系重合体(B)の重合体を常温まで冷却し、硫酸、塩酸、リン酸などの酸、または、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、酢酸カルシウムなどの塩などの電解質により、酸凝固もしくは塩析させて重合体を沈殿せしめた後、さらに濾過、洗浄、乾燥して得ることができる。また、得られた重合体ラテックスを噴霧乾燥もしくは凍結乾燥などの手法で回収するなど、公知の回収方法を使用し得る。
【0044】
スチレン系樹脂組成物として好ましい実施態様は、スチレン系樹脂(A)100質量部に対して、60質量%以上がスチレン系単量体単位で、かつ重量平均分子量が670万以上であるスチレン系重合体からなる高分子量スチレン系重合体(B)0.1〜3質量部を配合してなる樹脂組成物である。さらには、スチレン系樹脂(A)100質量部に対して、高分子量スチレン系重合体(B)0.5〜2質量部を配合することである。
【0045】
高分子量スチレン系重合体(B)の重量平均分子量が670万より小さいと添加量を多くする必要があり、この場合には樹脂板の加熱による軟化までの時間を要し、本発明である特定の温度範囲で成形加工するためには、長い時間が必要となり好ましくない。また、0.1質量部未満だとスチレン系樹脂組成物の粘度の改良効果も少なく、成形温度が低く、加工時間は短いもののブロ−イング時の破裂や編肉が生じ、成形品としては好ましくない。また、3質量部を越えるとスチレン系樹脂組成物の粘度が大きくなり成形温度が上昇し、加工時間が長くなるので好ましくない。
【0046】
このスチレン系樹脂組成物を調整するには、(1)各々別々に製造された粉状、フレーク状、ビーズ状、ペレット状の重合体を所定量秤量して溶融混合する方法、(2)各々別々に製造されたラテックス状の重合体を所定量秤量して混合・凝固して粉状とする方法、(3)グラフト重合体(C)と高分子量スチレン系重合体(B)とをラテックス状態で混合・凝固して粉状とし、これにスチレン系共重合体(a)を溶融混合する方法、(4)グラフト重合する際に、予め調整した高分子量スチレン系重合体(B)のラテックスを存在させ、グラフト重合体(C)を製造する方法、(5)グラフト重合する際に、先に高分子量スチレン系重合体(B)を重合調整し、その後グラフト重合し、高分子量スチレン系重合体(B)とグラフト重合体(C)とを同時に製造する方法などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
本発明のスチレン系樹脂組成物を構成する各成分を溶融混合する方法は特に制限されるものではなく、一軸押出機、二軸押出機などの押出機、またはバンバリーミキサー、ニーダー・ルーダー、加圧ニーダー、加熱ロールなどの混練機など一般の公知の加工装置により、溶融混合して、樹脂組成物とすることができる。
【0048】
本発明のスチレン系樹脂組成物には、本発明の樹脂組成物の性質を害しない種類、および量の滑剤、離型剤、着色剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、耐光性安定剤、耐熱向上剤、充填剤、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、防カビ剤、脱臭剤などの各種樹脂添加剤をそのまま、または、マスターバッチの形で必要に応じて添加することができる。
【0049】
次に、熱成形法について説明する。
熱成形に使用する押出成形された樹脂板は、定尺切断されたカット板またはロール巻き板の形状で使用する。押出成形と熱成形が連動した装置構成の場合は、押出成形板が軟化状態で熱成形機に供給されるが、押出成形と熱成形が連動せず、単独運転の装置構成の場合は、押出成形された樹脂板は、押出成形後は室温まで十分冷却されてから熱成形に使用される。
熱成形時の加熱温度に影響されるが、ABS樹脂板では吸湿量が0.3%をえると発泡の危険があると考えれている。このため、押出成形された樹脂板は、製造後の保管には特に注意が必要である。わが国の梅雨時の湿度は高く、季節による保管環境も考慮が必要である。場合によっては、再度乾燥させ、適正な吸湿量に調整することで、発泡せず熱成形することも可能である。
【0050】
熱成形時の樹脂板の加熱は、良い成形品を生産するための重要な課題である。一般に、熱源はプラスチックに加熱効率のよい長波長の遠赤外線を放射するセラミックスヒータを用いる。これは、矩形で広い面積には多数個配列するが局部的な電圧調整、温度調整が行えるので効果的である。また、短波長の近赤外線を放射するヒータを用いる場合もある。ヒータにはその他石英管ヒータ、マイカヒータ、棒状のセラミックヒータ等がある。これらは、樹脂板の上下に配列し個別毎の電圧調整により樹脂板部位の加熱を企画する。以上の輻射加熱の他、接触加熱、熱風加熱方式等がある。
【0051】
樹脂板の厚みと加熱の関係も良い成形品を生産するための重要な課題である。樹脂板が薄い場合には、加熱時間が短くなるが加熱が終了すると樹脂板は厚い場合に比べ早く冷える。このため、加熱後成形が終了するまでに低下する温度を考慮して加熱温度を幾分高めに決める。または、加熱後成形開始までの時間を短くするなどの配慮が必要である。しかし、樹脂板が厚くなるにつれて、樹脂板の熱伝導性、赤外線の吸収率、熱膨張係数、比熱など特性が加熱条件に影響を及ぼすようになる。特に熱伝導率、赤外線の吸収率から、樹脂板の厚みが増せば表面と内面の温度差が大きくなり、内部が適温になるまで時間を要する。
【0052】
樹脂板の色相と加熱の関係も良い成形品を生産するための重要な課題である。赤外線加熱では樹脂板の着色が濃くなるほど赤外線の吸収が良くなり、同一ヒータで加熱する場合、加熱に要する時間は樹脂板の色の濃淡に大きく左右される。例えば、黒色は白色より赤外線の吸収が良く、また黄色よりは琥珀色が琥珀色よりは赤色が赤外線の吸収が良くなる。色の濃淡による赤外線吸収率の差異は、赤外線の波長が長くなるほど少なくなる。
【0053】
成形方法と加熱の関係も良い成形品を生産するための重要な課題である。熱成形では、樹脂板が成形の最終段階で適正成形温度、たとえば樹脂のガラス転移点温度を超える温度を保っていることが必要である。このため、成形を始める時の温度は加熱を始める時の樹脂板の温度と加熱が終了してから成形が終了するまでに低下する温度差を考慮して決めることになる。
【0054】
押出成形で得られる樹脂板の公差も良い成形品を生産するための重要な課題である。樹脂板毎、樹脂板内での公差が大きいと同じ条件で成形された各々の成形品は、同じ肉厚の成形品は得にくい。このため、展開倍率の小さい成形品を除き、熱成形に使用する樹脂板の公差を適正な範囲にすることで、得られる成形品の肉厚分布も適正な範囲になる。
【0055】
得られた成形品の肉厚分布は、成形品の優劣を明確にする。成形品は、ある規定された特定部分の肉厚を一定の範囲内に保っていることが、一般的に良い成形品である。この場合、樹脂板を不均一加熱することによって特定部分の伸びを調整する方法等がとられる。また、均一加熱の場合では、成形品の肉厚分布が一定であることはほとんどない。この場合、異なる樹脂原料で得られた同じ厚さ精度の樹脂板をもとに、均一加熱で同じ成形条件で得た成形品を比較して特定部分の肉厚の差が小さい程、良い成形品を得るのに好ましい樹脂と言える。
【0056】
熱成形では、真空成形で100kPa以下、圧空成形でも500kPa以下の加圧力で樹脂板が十分変形するようになるまで軟化させる必要がある。
量産の場合、一般に樹脂板の加熱温度は特性部位を赤外センサーでの測定値や、加熱時間によって制御される。
加熱途中での樹脂板の状態は次の通りとなる。(1)外周がクランプされた樹脂板を加熱すると、加熱によって膨張した余分の材料の行き場がなくなりうねり現象を起こす。(2)さらに加熱が進むとうねり現象は段々小さくなって元の平板に戻る。これは樹脂板製造時に内部応力を残したまま冷却固化されているので、樹脂のガラス転移点以上の温度に加熱されるとその応力が除々に解除されて収縮を始める。そして、この収縮量がそれまでの熱による膨張量よりも大きくなった時に樹脂板は元の平板に戻る。(3)引き続き加熱を続けると樹脂板は垂れ始める。この状態まで樹脂板が軟化すると成形が可能となる。樹脂板の軟化が進むと剛性が急速に低下し、自重で垂れ下がる。(4)さらに加熱を続けると、樹脂板は発泡したり、融解したりする。
【0057】
本発明は、上記記載の(2)の成形開始直前の状態の樹脂板の温度範囲を特定の値の温度110℃〜170℃に規定したものである。上述の通り、熱成形は加熱(軟化)、加圧(成形)、冷却(固化)の工程が必要で、加熱温度が低く成形できれば、加熱、冷却工程の常温からの温度差が小さく、同じ装置で同じ樹脂板を加熱温度が高く成形する場合より時間が短縮される。結果として、全成形時間は短縮され、同じ時間での生産台数は増加される。
【0058】
すなわち、前述したスチレン系樹脂組成物から得られた樹脂板を温度110℃〜170℃に加熱し、ブローイングした後、延伸倍率2〜7倍に延伸し、熱成形することによって良好な成形品を製造できるものである。
樹脂板の温度が110℃未満であると、連続相のスチレン系共重合体のガラス転移温度に近く、樹脂板の加熱による軟化ができず、加熱後のブローイングが不十分となり、成形時に目的とする形状まで延伸されない。また、温度170℃を超えると樹脂板の加熱による軟化が進み過ぎ、ブローイングで樹脂板が延伸され過ぎ、成形時に成形品にシワが発生する。さらに極端な場合に加熱後のブローイングで樹脂板の破裂が起こる。
また、延伸倍率2倍未満であると、実際にブローイングの工程はなしで、真空成形、圧空成形などの単純工程の成形で十分肉厚の均一性が得られる。また、7倍を超えると展開倍率が大きく、元の樹脂板の厚さに対する成形品の厚さが小さく、ブローイング→プラグによる延伸→真空・圧空による金型転写の一連の工程による延伸で肉厚の均一性を実際に保てない。
【0059】
これらのスチレン系樹脂組成物を用いた場合、 好ましくは、押出樹脂板の加熱温度は、115〜165℃の範囲であること、特に好ましくは、120〜160℃の範囲である。
さらに、本発明は上記のスチレン系樹脂組成物を用いると従来熱成形することが難しかった130℃未満でも行うことができ、樹脂板の低温加熱温度として好ましくは120℃以上130℃未満の範囲でも熱成形を行うことが出来るところにも本発明の特徴がある。
【0060】
本発明の熱成形を行う成形機、加熱方法、金型等の装置は特に制限されるものではなく、真空成形機、圧空成形機などの成形機、電気ヒータ、遠赤外線ヒータ、近赤外線ヒータなどの加熱方法、短形、棒状などのヒータ形状など一般の公知の装置により熱成形して成形品を製造することができる。特に電気冷蔵庫の内箱の用途に適する。
【0061】
【実施例】
下記の実施例および比較例で本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例に限定られるものではない。なお、各実施例および比較例中の部、%は断りがない限り全て質量基準である。また、各実施例および比較例中の各物性は、下記の方法によって評価、測定した。
【0062】
次に、スチレン系樹脂組成物について述べる。
(1)スチレン系共重合体の製造例
(a−1):攪拌機、加熱冷却装置、温度計、原料・助剤添加装置を備えたステンレス製オートクレーブに、スチレン30部、アクリロニトリル30部、第三リン酸カルシュウム0.07部、n−ドデシルメルカプタン0.65部、脱イオン水100部を仕込み、重合系内を窒素ガスで置換した。攪拌下、内温96℃に昇温し、過硫酸カリウム0.01部を添加し、重合反応を開始した。重合を開始してから直ちにスチレン40部を一定の速度で7時間かけて連続添加するとともに、内温を96℃で4時間維持し、その後30分かけて105℃に昇温し、1.5時間維持した。さらに30分かけて115℃に昇温し、3時間維持し重合を終了した。その後、冷却し、濾過、水洗、乾燥して、ビーズ状のスチレン系共重合体(a−1)を得た。この重合体の重量平均分子量は15.5万であった。
【0063】
(a−2):(a−1)で用いた反応容器に、スチレン60部、アクリロニトリル40部、第三リン酸カルシュウム4部、t−ドデシルメルカプタン0.15部、脱イオン水57部を仕込み、重合系内を窒素ガスで置換した。攪拌下、内温95℃に昇温し、t−ブチル−パーオキシ3,5,5−トリメチルヘキサネート0.05部を添加し、重合反応を開始した。重合を開始してからただちにスチレン33部、脱イオン水64部、過酸化カリウム0.35部を6.5時間にわたり連続添加するとともに、温度95℃で4時間保持し、さらに温度105℃で2時間、続いて115℃で3.5時間保持し重合を終了した。その後、冷却し、濾過、水洗、乾燥して、ビーズ状のスチレン系共重合体(a−2)を得た。この重合体の重合平均分子量は21.5万であった。
【0064】
(2)グラフト重合体の製造例
▲1▼ ゴム状重合体の製造
攪拌機、加熱冷却装置、温度計、圧力計、原料・助剤添加装置を備えたステンレス製オートクレーブに、窒素置換後、ブタジエン100部、ロジン酸カリウム2.5部、t−ドデシルメルカプタン0.4部、炭酸カリウム1.5部、脱イオン水100部を仕込み、攪拌下、内温を50℃に昇温した。
内温が50℃に達した時点で、過硫酸カリウム0.5部を添加した。数分後に発熱が起こり、重合の開始が確認された。内圧が9.8×104Paとなった時点で重合を終了し、冷却した。得られたゴム状重合体ラテックスの固形分濃度50%、ゴム状重合体の平均粒径0.31μmであった。
【0065】
▲2▼ グラフト重合体の製造
攪拌機、加熱冷却装置、温度計、原料・助剤添加装置を備えたステンレス製オートクレーブに、▲1▼で得られたゴム状重合体ラテックス200部(固形分として100部)と脱イオン水(ラテックス中の水分を含む)366部を仕込み、重合系内を窒素ガスで置換し、攪換下、内温60℃に昇温した。
内温が途中の58℃に達した時点で、脱イオン水13部に硫酸第一鉄7水塩0.005部、エチレンジアミン4酢酸4ナトリウム2水塩0.01部、ホルムアルデヒド・重亜硫酸ナトリウム2水塩0.3部よりなる溶液を添加した。内温が60℃に達した時点で、スチレン70部、アクリロニトリル30部、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン0.1部よりなる単量体混合物と脱イオン水27部、高級脂肪酸石鹸1.5部、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド0.4部よりなる溶液とを連続添加開始し、6時間で終了した。その後、70℃の温度で2時間反応を継続した後、内温を冷却した。得られたグラフト重合体ラテックスの固形分は33.0%であった。得られた混合ラテックスに老化防止剤1.5部を添加し、次いでラテックスを温度95℃に加熱した硫酸マグネシュウム水溶液に加えて凝固し、濾過、洗浄、乾燥して、白色粉末状の樹脂組成物を得た。このグラフト重合体をCとする。
なお、グラフト重合体Cのグラフト率は85.1%、また未グラフト共重合体の重量平均分子量は17.5万であった。したがって、このグラフト重合体Cは、グラフト共重合体(b)と未スチレン系共重合体からなる。
【0066】
(3)高分子量スチレン系重合体(B)
B−1:攪拌機、加熱冷却装置、温度計、原料・助剤添加装置を備えたステンレス製オートクレーブに、スチレン71部、アクリロニトリル24部、高級脂肪酸石鹸20部、脱イオン水2000部を仕込み、重合系内を窒素ガスで置換し、攪拌下で内温40℃に昇温した。内温が40℃になった時点で、脱イオン水26部に硫酸第一鉄7水塩0.005部、エチレンジアミン4酢酸4ナトリウム2水塩0.01部、ホルムアルデヒド・重亜硫酸ナトリウム2水塩0.3部よりなる溶液を加え、内温40℃に保持しt−ブチルハイドロパーオキサイド0.006部を連続滴下しながら、4時間30分加熱攪拌し重合を行った。さらに、スチレン5部、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド0.1部を30分かけて連続添加した。添加終了後、温度を70℃に昇温しさらに2時間反応を継続し、冷却して反応を終了した。得られたラテックスに硫酸マグネシュウム水溶液を加えて凝固し、濾過、洗浄、乾燥して高分子量スチレン系重合体(B−1)を得た。この重合体の重量平均分子量は702万で、Mw/Mnは10.2であった。
【0067】
B−2:B−1で用いた反応容器に、高級脂肪酸石鹸2.0部、脱イオン水80部を仕込み重合系内を窒素ガスで置換し、攪拌下で内温70℃に昇温した。内温が70℃になった時点で、脱イオン水26部に硫酸第一鉄7水塩0.005部、エチレンジアミン4酢酸4ナトリウム2水塩0.01部、ホルムアルデヒド・重亜硫酸ナトリウム2水塩0.3部よりなる溶液を加え、内温70℃に保持しながらスチレン70部、アクリロニトリル30部、過硫酸カリウム0.1部を連続滴下しながら、4時間30分攪拌し重合を行い、冷却して反応を終了した。得られたラテックスに硫酸マグネシュウム水溶液を加えて凝固し、濾過、洗浄、乾燥してスチレン系重合体B−2を得た。この重合体の重量平均分子量は170万で、Mw/Mnは8.5であった。
【0068】
上記スチレン系樹脂組成物を構成する各成分の重合体の物性値は、下記の方法で測定した。
(1)重量平均分子量
(イ)スチレン系共重合体(a−1)、(a−2)、グラフト共重合体(C)中の未グラフト共重合体、および高分子量スチレン系重合体(B)の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)装置を用い、次の条件で測定したもので、分子量はポリスチレン換算値である。
(ロ)ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)装置の測定条件
装置;東ソー(株)製、「SYSTEM−21」
カラム;PLgel MIXED−B
温度;40℃
溶媒;テトラヒドロフラン
検出;RI
濃度;0.2%
注入量;100μl
検量線;標準ポリスチレン(Polymer Laboratories製)に準拠。
【0069】
(ハ)スチレン系樹脂組成物の連続相のスチレン系共重合体の前処理条件
スチレン系樹脂組成物の試料約1.2×10-3kgを100ml三角フラスコに取り、メチルエチルケトン(MEK)30×10-3kgを加えた後、温度23℃で24時間攪拌し、その後遠心分離機でMEKに対する不溶分の分離を実施し、遠心分離操作後30分静置した。この遠心分離機の操作条件は次の通り設定した。
温度 :−9℃
回転数:20,000rpm
時間 :60分
この遠心分離操作で得られた上澄み液をメタノール150mlを入れてある300mlビーカーに入れて、析出させ、析出物を濾紙を用いて吸引濾過する。濾過物は真空乾燥機で温度23℃、24時間乾燥させた。得られた試料はスチレン系樹脂組成物の連続相のスチレン系共重合体として、GPC測定試料とした。
【0070】
(ニ)グラフト重合体(C)中の未スチレン系共重合体の分子量を測定するための前処理方法
グラフト重合体(C)ラテックス約20×10-3kgをメタノール100mlで析出、凝固させ、凝固物を濾紙を用いて吸引濾過する。濾過物は真空乾燥機で24時間、室温で乾燥させる。得られた試料の約1.2×10-3kgを100ml三角フラスコに取り、メチルエチルケトン(MEK)30×10-3kgを加えた後、温度23℃で24時間攪拌し、その後遠心分離器機でMEKに対する不溶分の分離を実施し、遠心分離操作後30分静置した。この遠心分離器の操作条件を次の通り設定した。
温度:−9℃
回転数:20,000rpm
時間:60分
遠心分離させた溶液の上澄液と沈殿物とを分離し、得られた上澄み液をメタノール150mlを入れてある300mlビーカーに入れて、析出させ、析出物を濾紙を用いて吸引濾過する。濾過物は真空乾燥機で室温で24時間乾燥させる。
得られた試料をGPC測定試料とした。
【0071】
(2)ゴム状重合体ラテックス中のゴム状重合体の体積平均粒子径の測定方法
本発明のゴム状重合体の粒子径分布は、レーザー回折散乱法で求めた。その測定条件は以下の通りである。
装置:COULTER LS 230(COULTER社製)
濃度:2.0%
希釈溶媒:蒸留水
解析ソフトウエアー:Version2.05
【0072】
(3)グラフト率の測定方法
重量平均分子量を測定する際に遠心分離操作で得られた沈殿物は真空乾燥機で乾燥し、不溶分Xとした。さらに、この不溶分の試料を用いてケルダール窒素法によって定量したアクリロニトリル単量体の質量Yと熱分解ガスクロマトグラフィーにより定量したスチレン単量体の質量Zを求め、グラフト率(%)=100×(Y+Z)/{X−(Y+Z)}の式から計算した。
【0073】
実施例1〜3、比較例1〜4
上記記載のスチレン系共重合体(a−1)、(a−2)、グラフト重合体C、高分子量スチレン系重合体(B)を表1および表2に記載の質量部割合で、二軸押出機で混練し、ペレット化した。
【0074】
このペレットを用い押出成形機によって樹脂板を成形し、この樹脂板について下記の方法で熱成形性を評価した。その結果を表1に示す。
(1)樹脂板成形
スチレン系樹脂組成物、および酸化チタンを含有した白色の着色マスターバッチを用いてTダイ付き押出成形機(日立造船株式会社製SHT−90)を使用して厚さ1.5mmの樹脂板を製造し、この樹脂板から400×400mmの樹脂板を切り出し、切り出した樹脂板の縦、横の周囲5cm毎に各7点の厚さ(計24点)をマイクロメーターで測定した。また、色差計(日本電色工業社製Σ80)で縦横の中心線から10cmはなれた平行線の交点である4ヶ所の色値を測定した。結果、厚さの公差は1.0%以内であること、各測定点の色値はL=92.87、a=−1.42、b=−0.73を中心としてΔE=0.3以内であることを確認した。
【0075】
(2)熱成形
次に、圧空・真空成形機(株式会社浅野研究所製FK−0431−10)を使用して熱成形を行った。熱成形を行った圧空・真空成形機の仕様は以下の通り固定して行った。
▲1▼加熱器 :両面輻射式加熱
ヒータ素子:遠赤外線クイックレスポンスヒータ(上下とも各16個)
ヒータ制御:1個毎添加率制御
加熱制御 :樹脂板温度遠隔測定制御
▲2▼真空ポンプ
型式 :RV−21 ロータリベーン式
電動機:3.7kW
排気量:2、000l/min.
ヒータ加熱後の樹脂板の温度は、日本電子株式会社製サーモビュアーJTG−6300で樹脂板表面温度分布を観察し、ブローイング成形直前の表面温度が均一になるように個々の加熱ヒーターの温度制御を行った。
【0076】
金型Aは一片270mm、深さ150mmの箱型で、深さ方向の4稜線のRは1.0mmであり、その他部位の角部のRはいずれも10.0mmである。この金型では延伸倍率が約3倍となる。この金型で成形に使用したプラグの形状は、一片225mm、高さ140mmで各角部のRは10mmである。また表面には、白色ネル布地を均一につけてある。
金型Bは一辺150mm、深さ150mmの箱型で、深さ方向の4稜線のRは1.0mmであり、その他部位の角部のRはいずれも8.0mmである。この金型では延伸倍率が約5倍となる。この金型で成形に使用したプラグの形状は、一片143mm、高さ137.5mmで各角部のRは8mmである。また表面には、白色ネル布地を均一につけてある。
【0077】
成形工程は次の通り行った。樹脂板を所定の温度まで加熱し、加熱終了し1秒後にブローイングを開始した。ブローイングは198kPaの圧縮空気を使用し、2秒間行った。プラグの降下は、加熱終了5.5秒後に開始した。真空成形、圧空成形はそれぞれ加熱終了7秒後、7.5秒後に開始し、真空度−97kPa、空気圧98kPaで20秒間保持した。
【0078】
1)偏肉比:得られた成形品を開口部の一辺の中央から底部の中央まで縦方向に切断し、切断面における最低肉厚Aを測定し、樹脂板の厚さBとの比(B/A)を偏肉比としてその値を示した。偏肉比が小さいほど偏肉が少なく好ましいことを示す。
2)曲率半径:成形品の4稜線部の開口部から底部への中間の深さとなる点を中心とした開口部と平行方向の曲率半径Rの測定値を示した。金型A,Bの該部位の半径R値は1.0mmであるので、該部位の曲率半径R値が1.0に近いほど型転写性がよいことを示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
表1および表2より、次のことが明らかになる。本発明に係るスチレン系樹脂組成物を使用することにより熱成形する場合の成形適性温度範囲が低温側にも広く、偏肉が少なく、型転写性が良好な成形品が得られる(実施例1〜2)。延伸倍率が高い場合でもこの効果がある(実施例3)。これに対して、本発明の必須要件を満たしていない比較例のスチレン系樹脂組成物は、編肉が大きいか(比較例1、3,4)、型転写性が劣り(比較例2)、成形適性範囲が高温側のみとなり、良好な成形品は得られない。
【0082】
【発明の効果】
本発明の特定の分子量分布を有するスチレン系樹脂組成物から得られた樹脂板を用いて、熱成形などの成形法で目的の形状に成形する際に、成形適正温度範囲が広く、かつ低い温度でも成形できるので成形サイクルが短縮でき、さらには目的の形状に成形する際に偏肉が小さく型転写性の優れた効果を発揮し、その工業的価値は極めて大である。
Claims (5)
- 下記のスチレン系樹脂組成物から得られた樹脂板を温度110℃〜170℃に加熱し、ブローイングした後、延伸倍率2〜7倍に延伸し、熱成形することを特徴とする成形品の製造方法。
スチレン系樹脂組成物とは、スチレン系単量体とシアン化ビニル系単量体との単量体混合物を重合して得られるスチレン系共重合体の連続相と、ゴム状重合体にスチレン系単量体とシアン化ビニル単量体との単量体混合物からなる共重合体のグラフト枝がグラフト重合したグラフト共重合体の分散相を含有し、かつ、この連続相のスチレン系共重合体の重量平均分子量(Mw)が14万〜20万であり、Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)が3.0〜10.0であり、さらに重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が2.0〜3.0であることを特徴とする樹脂組成物。 - スチレン系樹脂組成物が下記のスチレン系樹脂(A)100質量部に対して、高分子量スチレン系重合体(B)0.1〜3質量部を配合してなることを特徴とする請求項1記載の成形品の製造方法。
スチレン系樹脂(A)は、スチレン系単量体とシアン化ビニル系単量体との単量体混合物を重合して得られるスチレン系共重合体(a)の連続相と、ゴム状重合体にスチレン系単量体とシアン化ビニル系単量体との単量体混合物からなる共重合体のグラフト枝がグラフト重合したグラフト共重合体(b)の分散相とからなり、かつ、この連続相のスチレン系共重合体(a)の重量平均分子量が14万〜17万であり、高分子量スチレン系重合体(B)は、スチレン系単量体とシアン化ビニル系単量体との単量体混合物を重合して得られる重合体で、60質量%以上がスチレン系単量体単位で、かつ重量平均分子量が670万以上であるスチレン系重合体。 - スチレン系共重合体がスチレン−アクリロニトリル共重合体であり、分散相のグラフト共重合体がポリブタジエンおよび/またはブタジエン−スチレン共重合体のゴム状重合体にスチレンとアクリロニトリルの単量体混合物からなる共重合体のグラフト枝がグラフト重合した重合体であることを特徴とする請求項1乃至2記載の成形品の製造方法。
- スチレン系樹脂組成物を用いて押出成形法で得られた樹脂板を温度120℃以上130℃未満で加熱し、ブローイングした後、延伸倍率2〜7倍に延伸し、熱成形することを特徴とする請求項1乃至3記載の成形品の製造方法。
- 請求項1乃至4記載の製造方法で得られることを特徴とする成形品。
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