JP4592835B2 - 不溶性炭素電極及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、電気メッキにおいて陽極として用いられる、ガラス状炭素材からなる不溶性炭素電極、及び、その製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電気メッキは、金属の装飾や防錆、耐食性を高めるなどの目的から古くより行われている。この電気メッキでは、メッキされる金属を陰極とし、陽極としては電着させる金属を用いるのが一般的である。この陽極として、不溶性の導電性異種金属を用いるのが普通であるが、それ以外にグラファイト電極を用いる場合がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来用いられているグラファイト電極を構成する炭素材料は、その表面及び内部に多くの通気孔を含むために気液透過性材料であると共に、粒子間の結合も弱い。従って、電着中に電解液がグラファイト電極内部に侵入して崩壊したり、またグラファイト電極からの黒鉛粒子の離脱があるためにこの粒子がメッキ膜中に不純物として混入して膜特性に悪影響を与えるという問題を有していた。
【0004】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、電気メッキにおいて陽極として用いられる不溶性炭素電極において、電解中の電極の崩壊或いは粒子の離脱を抑えられる不溶性炭素電極、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は鋭意検討の結果、ガラス状炭素が電着用の電極として有用であることを見いだした。さらに、電解中の電極の崩壊或いは粒子の離脱を抑えるには、熱硬化性樹脂を炭素化して得られるガラス状炭素材の気孔を適度に制限することが有用であることを見いだすとともに、用いる樹脂原料の分子量と分散度の範囲を規定することで簡便に気孔の程度が適切なガラス状炭素材からなる不溶性炭素電極が得られることを発見して本発明に至った。
【0006】
本発明は、電気メッキにおいて陽極として用いられる不溶性炭素電極であって、ガラス状炭素材からなる不溶性炭素電極である。ここで、不溶性炭素電極は、電解浴中の電解質濃度が0.5mol/l以上、陽極と陰極と両極間の距離が3cm以上、両極間に印加される電圧が1〜3Vの範囲で使用される。
【0007】
請求項1の発明は、電気メッキにおいて陽極として用いられる不溶性炭素電極であって、直径0.1〜0.5μmの気孔が1mm2に10個以下で且つ固有抵抗値が5〜100μΩ・mであるガラス状炭素材からなる不溶性炭素電極である。ここで、気孔直径は、100倍で撮影した偏光顕微鏡写真を基にして、気孔数及び気孔径を実測したものである。また、固有抵抗値は、四端子法にて測定したものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1において、前記ガラス状炭素材は、重量平均分子量が1000以上で且つ前記重量平均分子量と数平均分子量の比で規定される分子量分布(以下、分散度ともいう)が1.1〜5.0の範囲にある熱硬化性樹脂を炭素化して得られる不溶性炭素電極である。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2において、前記ガラス状炭素材に、固有抵抗調整用の無機化合物が複合化されている不溶性炭素電極である。
【0010】
請求項4の発明は、電気メッキにおいて陽極として用いられる不溶性炭素電極の製造方法であって、重量平均分子量が1000以上で且つ前記重量平均分子量と数平均分子量の比で規定される分子量分布が1.1〜5.0の範囲にある熱硬化性樹脂を200℃以上の温度で加熱硬化した後、非酸化性雰囲気下で800℃以上の温度で炭素化して得られる請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス状炭素材からなる不溶性炭素電極の製造方法である。
【0011】
請求項5の発明は、請求項4において、前記熱硬化性樹脂に、固有抵抗調整用の無機化合物が複合化されている不溶性炭素電極の製造方法である。
【0012】
ガラス状炭素材は、熱硬化性樹脂の固相炭化から得られ、均質で等方性の組織を有し、そのかさ密度が1.5g/cm3 程度と一般黒鉛材に較べて低いにも拘らず気液不透過性、耐薬品性、耐酸化性などに優れていることからグラファイト電極より耐崩壊性に優れる。
【0013】
熱硬化性樹脂としては従来よりノボラックやレゾールなどのフェノール樹脂やフラン樹脂或いはこれらの変性樹脂、ポリカルボジイミドなどが主として用いられているが、炭素化収率が60wt%以上の樹脂を使用するのが好ましい。
【0014】
ガラス状炭素材を不溶性電極の陽極に使用した場合、グラファイト電極に比べると非常に少ない。しかし、気孔を起点としてピット酸化的な陽極酸化が生じ、電極表面からの粒子の離脱などが生じる場合があることが判った。従って、好ましくは、気孔の殆どないガラス状炭素材を使用する。
【0015】
熱硬化性樹脂の原料は多く(例えばフェノール樹脂やフラン樹脂)は、硬化時に水を生成する縮合型の樹脂であり、この水が樹脂中に残留して炭素化後に気孔になると一般には理解されている。同時に、熱硬化性樹脂の成形時に樹脂中に巻き込まれた空気や樹脂中に存在する低沸点揮発分も気孔の原因となる。また熱硬化性樹脂の熱分解時に発生するH2 O、CH4 、CO2 などの分解ガスにより数μm程度の気孔が多量に発生するが、これらは600℃以上で生じる樹脂の収縮により、その殆どが消失することが知られている(E.Fitzer et al.,Carbon,7,643(1969))。
【0016】
ガラス状炭素材自体は非常に緻密な材料であるが、それでも表面部分に微小な開気孔が多く存在する。この表面の開気孔から消耗が始まるため、実質上無孔にすることが求められている。そのため、硬化時に生成する水に起因する気孔を除く方法として、例えば特公平4−55122号には硬化促進剤として酸触媒を用いると共に硬化を十分緩やかに行う方法が開示されており、又、特公平6−35324号には硬化処理速度を遅くして硬化を十分緩やかに行う方法が、特開昭60−171208号には親水性の樹脂を用いて水分子を樹脂中に均一分散させる方法が開示されている。しかし、こうした手法は硬化に非常に長い時間を有し、また、樹脂自体の調整にも時間のかかるものであった。そのため、汎用的な電極に使用するガラス状炭素材としてはコストの面で不利になる。
【0017】
上述以外に超高温熱間静水圧加圧(HIP)を用いて生成した気孔を消滅させる方法が特開平1−230471号に、又、縮合時に水などの揮発分が発生しない樹脂を用いる方法としてポリ付加非縮合型硬化反応性樹脂を用いる方法が特開平8−157205号に開示されている。これらの方法は気孔の問題を解決できると考えられるが、HIPを用いる方法は大掛かりな装置を必要とするため生産性に難があり、ポリ付加非縮合型硬化反応性樹脂を用いる方法はこの型の樹脂の多くが低沸点揮発分を多く含むために意図に反して成形時に気孔ができ易い。そのため、汎用的な電極に使用するガラス状炭素材としてはコスト面から不利になる。
【0018】
ところが、用いる樹脂原料の分子量と分散度の範囲を以下のように規定することで簡便に気孔を制御できることが判った。すなわち、重量平均分子量が1000以上であって、分散度が1.1〜6.0の熱硬化性樹脂を成形した後、200℃以上の温度で加熱硬化した後、非酸化性雰囲気下で800℃以上の温度で炭素化して得られるガラス状材を不溶性電極に使う。
【0019】
熱硬化性樹脂は焼成炭化処理により炭素に転化するものであれば特に規定されず、これらの内、重量平均分子量1000以上、分散度が1.1〜5.0の熱硬化性樹脂、好ましくは重量平均分子量5000以上、分散度が2.0〜5.0の熱硬化性樹脂が原料として用いられるが、炭素化収率の点からフェノール樹脂が適している。この範囲にある樹脂は、分散度の大きい樹脂より公知の方法例えば溶剤分別法などによって分別して得ることが可能である。なお、この範囲に入る熱硬化性樹脂が一部市販されており、これを利用することもできる。
【0020】
重量平均分子量が1000より低いと硬化時、或いは炭素化初期に低揮発成分として系外への離脱が多く生じ、結果として炭素化収率が低下すると共に気孔が最終製品であるガラス状炭素材中に生じ易い。また、分散度が大きいということは原料中に低い分子量から高い分子量までさまざまな分子量の高分子鎖が存在していることを意味し、分散度の大きい原料をそのまま硬化することは前述した低揮発成分の系外への離脱に加えて大小様々の分子量の不均一な硬化反応を引き起こし、結果として熱分解反応の不均一性やそれに伴う収縮率の不均一性、硬化縮合水の系外への脱離の不均一性などを生じ易い。本発明者は鋭意検討した結果、分散度が5.0以上になると得られるガラス状炭素材中に気孔が出来やすいことを確認した。分散度の下限は1.1であり低いほうが好ましいが、分別操作など原料樹脂の調整などに手間がかかることから2.0以上が好ましい。
【0021】
上述の熱硬化性樹脂は公知の方法によって目的の形状に成形すればよく、例えば、トランスファ成形法、射出成形法、圧縮成形法などがあるが本発明はこれら成形法に制限を受けない。また上述の範囲内にある樹脂の内、一種類を用いてもよく、炭素化収率を損ねない範囲で二種類以上を混合して用いてもよい。
【0022】
得られた成形体を200℃以上の温度、好ましくは300℃以下で硬化して硬化成形体とする。300℃より温度が高いと硬化反応と熱分解反応が同時に生じ易く、硬化成形体が脆くなったり気孔が増えるなどの問題を生じることがある。硬化時間は樹脂種により適宜選択すればよいが、短い場合には硬化が不十分となり炭素化後に割れ、ひびを生じやすく、また気孔量も増大するため、30時間以上、より好ましくは70時間以上であることが望ましい。
【0023】
得られた硬化樹脂は非酸化性雰囲気下で800℃以上の温度で炭素化される。
非酸化性雰囲気とは酸素を含まず、通常ヘリウム、アルゴン、窒素、水素、ハロゲンからなる群より選ばれた少なくとも一種類以上の気体よりなる雰囲気、或いは減圧または真空下の雰囲気のことをいう。
【0024】
炭素化時の昇温速度は成形体の形状や原料種に依存するので場合に応じて調整する必要があるが、熱分解時の収縮による亀裂を防ぐためにはゆっくりとした昇温が好ましく具体的には平均の昇温速度が10℃/h以下が好ましい。
【0025】
以上のように調整したガラス状カーボン材はその表面及び内部にわずかに気孔を有するのみである。その程度は、直径0.1〜0.5μm以下の気孔が1mm2 に10個以下である。
【0026】
上述の熱硬化性樹脂に、固有抵抗値調剤用の無機化合物として、黒鉛粉末、炭素質粉末、金属粉末、金属炭化物粉末、金属酸化物粉末を混合し、200℃以上の温度で加熱硬化した後、非酸化性雰囲気下で800℃以上の温度で炭素化して得られるガラス状炭素/無機化合物複合体からなる不溶性炭素電極とすることもできる。
【0027】
固有抵抗調整用の無機化合物フィラーが複合化されることにより、ガラス状炭素材が本来有する固有抵抗値を使用目的に応じて増減させることができる。無機化合物フィラーの複合化により、固有抵抗値を5〜100μΩ・mの範囲で増減可能である。
【0028】
上述の無機化合物フィラーのうち、黒鉛粉末としては、天然黒鉛粉末、人造黒鉛粉末があり、炭素質粉末としては、コークス紛末、メソカーボンマイクロビーズ粒、カーボンブラック、ガラス状カーボン粉末があり、金属粉末、金属炭化物粉末、金属酸化物粉末としては、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化タングステン、酸化ケイ素、酸化ホウ素などを例示することが出来る。これらは一種類を用いても良く、また二種類以上を混合して用いても良い。フィラー粒径は特に規定されないが好ましくは50μm以下、特に好ましくは30μm以下であることが望ましい。粒径が大きいと分散が十分に行われないことがある。
【0029】
また、製造方法は、熱硬化性樹脂に黒鉛粉末、炭素質粉末、金属粉末、金属炭化物粉末、金属酸化物粉末の無機化合物を混合し、200℃以上の温度で加熱硬化した後、非酸化性雰囲気下で800℃以上の温度で炭素化してガラス状炭素を基材とするガラス状炭素/無機化合物複合体を得る。
【0030】
成形並びに炭素化は前述の方法で行われる。こうして得られるガラス状カーボン材は従来の黒鉛材に比して気孔が少なく、緻密な組織を有するものである。このガラス状カーボン材を所望の形状に加工することにより不溶性電極とすることが出来るが、加工は熱硬化性樹脂の成形後に炭素化時の収縮率を考慮して行われていても良い。
【0031】
こうして得られたガラス状カーボン材からなる電極は、気孔の程度が適切であり、固有抵抗値も適切であって、硫酸や硝酸などの強酸に対する耐性に特に優れており、電極として有用である。
【0032】
【実施例】
以下、実施例と比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの範囲に限定されるものではない。
【0033】
実施例1
重量平均分子量8000、分散度4.2の粉末フェノール樹脂を160℃で10分間、圧力100kg/cm3の条件で成形したのち、200℃で100時間硬化し、その後窒素ガス雰囲気下で、平均昇温速度5℃/hで1000℃まで昇温してガラス状カーボン材を得た。得られたガラス状カーボン材を破断し、鏡面に研磨した後偏光顕微鏡(100倍)でその組織を観察したが直径0.1〜0.5μmの気孔が1mm2に数個確認されるのみであった。固有抵抗値は、56μΩ・mであった。このガラス状カーボン材より電極を作製し、Watts氏浴(組成比は以下の通りNiSO4・7H2O/NiCl2・6H2O/H3BO3=11/1.5/1)を用いてpH=2、液温50℃、電流密度5A/dm2 の条件で♯500の研磨粉で研磨後、脱脂したステンレス鋼(SUS304)上にNiメッキした。電着中に電極の崩壊或いは粒子の離脱は認められず、Ni膜の剥離も認められなかった。
【0034】
実施例2
実施例1に於て粉末フェノール樹脂に粒径10μmの人造黒鉛紛を重量で50%添加して均一分散させたものを成形する以外は実施例1と同様にして電極を作製し、実施例1と同様の条件でNiメッキした。得られたガラス状カーボン材を破断し、鏡面に研磨した後偏光顕微鏡(100倍)でその組織を観察したが直径0.1〜0.5μmの気孔が1mm2に数個確認されるのみであった。固有抵抗値は、60μΩ・mであった。電着中に電極の崩壊或いは粒子の離脱は認められず、Ni膜の剥離も認められなかった。
【0035】
参考例3
重量平均分子量10000、分散度5.3の粉末ノボラック樹脂に活性炭を重量%で50%添加して均一に分散させ、160℃で10分間、圧力100kg/cm3の条件で成形したのち、200℃で100時間硬化し、その後窒素ガス雰囲気下で、平均昇温速度5℃/hで1000℃まで昇温してガラス状カーボン材を得た。得られたガラス状カーボン材を破断し、鏡面に研磨した後偏光顕微鏡(100倍)でその組織を観察したが直径0.1〜0.5μmの気孔が1mm2に多数確認されるのみであった。また、固有抵抗値は、121μΩ・mであった。このガラス状炭素を用いて実施例1と同様の条件で電着を行った。電着中に電極の崩壊はみとめられなかったが、粒子の離脱があった。Ni膜の剥離は認められなかった。
【0036】
比較例1
かさ密度1.77g/cm3 の高密度等方性黒鉛材(東洋炭素製IG−11)を用いて実施例1と同様の条件で電着を行った。電着中に電極から多数の粒子が離脱して崩壊し、浴が黒く濁った。ステンレス鋼(SUS304)上に形成されたNi膜中には黒鉛粒子が肉眼でも観察され、一部は手で強く擦ることで剥離した。
【0037】
【発明の効果】
本発明によると、電気メッキにおいて陽極として用いられる不溶性炭素電極において、生産性に富み且つ電着中に電極の崩壊或いは粒子の離脱が少ないガラス状炭素材からなる不溶性炭素電極を提供できる。
Claims (5)
- 電気メッキにおいて陽極として用いられる不溶性炭素電極であって、
直径0.1〜0.5μmの気孔が1mm2に10個以下で且つ固有抵抗値が5〜100μΩ・mであるガラス状炭素材からなる不溶性炭素電極。 - 前記ガラス状炭素材は、重量平均分子量が1000以上で且つ前記重量平均分子量と数平均分子量の比で規定される分子量分布が1.1〜5.0の範囲にある熱硬化性樹脂を炭素化して得られる請求項1に記載の不溶性炭素電極。
- 前記ガラス状炭素材に、固有抵抗調整用の無機化合物が複合化されている請求項1又は2に記載の不溶性炭素電極。
- 電気メッキにおいて陽極として用いられる不溶性炭素電極の製造方法であって、
重量平均分子量が1000以上で且つ前記重量平均分子量と数平均分子量の比で規定される分子量分布が1.1〜5.0の範囲にある熱硬化性樹脂を200℃以上の温度で加熱硬化した後、非酸化性雰囲気下で800℃以上の温度で炭素化して得られる請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス状炭素材からなる不溶性炭素電極の製造方法。 - 前記熱硬化性樹脂に、固有抵抗調整用の無機化合物が複合化されている請求項4に記載の不溶性炭素電極の製造方法。
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JP04152698A JP4592835B2 (ja) | 1998-02-24 | 1998-02-24 | 不溶性炭素電極及びその製造方法 |
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