JP4592228B2 - 大断面高温部材のフラッシュ溶接方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば製鉄ラインの連続圧延用溶接におけるビレットのような大断面高温部材間の溶接に好適なフラッシュ溶接方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
棒鋼、線材等の連続圧延におけるフラッシュ溶接方法としては、例えば特開昭53−7559号公報に示されているような交流電源を用いたフラッシュ溶接方法が提案されている。この交流電源を用いたフラッシュ溶接方法においては、被溶接部材および溶接条件が、
部材温度 950〜1250℃
部材断面積 5000〜23000mm2
2次無負荷電圧 6〜10V
フラッシュ量 5〜13mm
フラッシュ時間 5〜10秒
後期フラッシュ速度1.0〜3.5mm/sec
に設定されている。
【0003】
この交流溶接方式による従来のフラッシュ溶接方法によれば、溶接機の性能(溶接時間、溶接品質)は、2次電圧と回路インピーダンスZが重要なパラメータとなり、前記条件を満たす交流回路インピーダンスZは60〜150μΩと規定されている。
【0004】
また、この従来方法においては、フラッシュ工程での部材送りを、フラッシュ前後期とも定速度送り、つまり予め送り速度を溶接前に定めるプリセット方式が採用されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
このような従来の交流溶接方式においては回路インピーダンスZがフラッシュ溶接性能を左右する。溶接機が得られる最大出力は、(2次電圧)/(回路インピーダンス)であるから、回路インピーダンスが大きいと溶接時間は長くなり、大断面部材では溶接不能となる。そこで、2次電圧を上げれば溶接可能となるが、品質が大きく低下する。要するに回路インピーダンスは低い程よく、2次電圧は必要溶接時間を満たす最低電圧にすることが最良の手段である。
【0006】
部材断面積10000mm2 以上の大断面高温部材を連続圧延するための溶接機においては、回路抵抗Rは30μΩまで下げることはできるが、部材が大きいことによる溶接機の大型化(クランプ、アプセット油圧、機械機構)、連続使用に耐え得るスパッタ対策等の機械制約上の問題により、回路リアクタンスX(60Hz換算)60μΩは不可能であり、100μΩ以下を実現することは実用上困難である。よって回路インピーダンスZ(下式)では、104μΩ以下は不可能であり、リアクタンスXが回路インピーダンスを決めることになる。
【0007】
【数1】
【0008】
回路インピーダンス100μΩの交流溶接機において、2次電圧7〜10Vの範囲では、最大出力電流は10万A以下となり、断面積22500mm2 の部材を10秒以内に溶接することは不可能であった。
【0009】
本発明の技術的課題は、リアクタンスX=100μΩ以上、部材断面積10000mm2 以上の条件において、短時間高品質溶接を実現できるようにすることにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る大断面高温部材のフラッシュ溶接方法は、断面積10000〜32400mm2 、内部温度900〜1200℃の大断面高温部材相互を、直流電源を用いたフラッシュ溶接機により、
2次無負荷電圧 7.5〜9.5V
フラッシュ量 7〜15mm
フラッシュ時間 10〜26秒
2次回路リアクタンス(60Hz換算) 100〜200μΩ
2次回路抵抗 45μΩ以下
の溶接条件でフラッシュ溶接することを特徴としている。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、図示実施形態について本発明を説明する。
まず、本発明の大断面高温部材のフラッシュ溶接方法に用いられる装置の構成について図2のブロック図に基づき説明する。
【0012】
このフラッシュバット溶接装置は、搬送ライン(図示せず)上に該ラインに沿って移動可能にクランプ装置1A,1Bが設置され、クランプ装置1A,1Bにより、断面積10000〜32400mm2 、温度900〜1200℃の一対の大断面高温部材すなわちビレット2a,2bをクランプして付き合わせ、これらビレット2a,2bを搬送中に近接・離反させることができるようになっている。すなわち、クランプ装置1A,1Bは、いずれも搬送ラインの速度に同期しながらビレット2a,2bをクランプするものであるが、クランプ装置相互の関係で見れば、一方(図2中の右側)のクランプ装置1Aは可動側(プラテン)、他方(図2中の左側)のクランプ装置1Bは固定側として構成され、可動側のクランプ装置1Aが固定側のクランプ装置1Bに対して溶接中、近接・離反し、フラッシュバット溶接が行われるようになっている。
【0013】
すなわち、クランプ装置1A,1Bは、ライン方向に伸縮可能な油圧シリンダ3を介して連結され、シリンダ3のボトム3aが固定側のクランプ装置1Bに、またシリンダ3のピストンロッド3bが可動側のクランプ装置1Aに、それぞれ固定されているとともに、ピストンロッド3bのロッド部は、ボトム3aの両端から突出するように構成されている。シリンダ3のボトム3aには、比例弁4が一体化して取り付けられ、油圧ユニット5に接続されている。また、ピストンロッド3bのボトム3a後端面より突出するロッド部の動き(進退動)を検出するポテンショメータ17が設置され、その出力に基づいてプラテン位置検出手段16がプラテンの位置(フラッシュ量)を検出するようになっている。
【0014】
また、クランプ装置1A,1Bには、それぞれクランパ6a,6bの先にビレット2a,2bと接触可能な給電用のジョー7a,7bが設けられ、電源装置と電気的に接続されている。
【0015】
電源装置は、従来の交流溶接方式と異なり、溶接2次回路リアクタンスによる最大出力電流の影響を受けない特徴を持つ直流電源を採用する。直流電源には三相交全波整流式、インバータ式等があるが、直流方式であればよい。本実施形態ではインバータ式DC電源から構成されている。このインバータ式DC電源は、商用三相交流電源8からの交流電圧を全波整流とコンデンサ回路により一旦直流化し、IGBT(Insulated Gate Bi-polar Transistor)などの高速スイッチング素子により矩形波交流電圧に変換するインバータ11と、インバ−タ11が出力する矩形波交流電圧を降圧して低電圧に変換する複数台(ここでは2台)の並列接続された溶接トランス12a,12bと、これら溶接トランス12a,12bの2次側に配置されて各溶接トランス12a,12bで低電圧に変換された矩形波交流電圧を直流電圧に変換してビレット2a,2bに印加するダイオード整流器13a,13bとから構成されている。なお、インバータ電源の構成としては、基本的に矩形波交流電圧を出力可能なものであれば如何様なものでも採用可能である。矩形波交流電圧は300V以上、通常は約600V程度、最大電流は数千アンペアのレベルとなる。矩形波交流電圧は、溶接トランスにより10V以下の低電圧、10万アンペア以上の高電流に変換された後、ダイオード整流器により直流化し、2次導体、クランプジョーを通じて、ビレットへ給電される。溶接トランスとダイオード整流器については一体化したものが可能である。
【0016】
また、インバータと溶接トランス間でフラッシュ工程時の電流を検出する電流検出器14と、電流検出器14の検出結果とプラテン位置検出手段16が検出したプラテン位置とに基づいてドライバ18を介しアプセットシリンダの比例弁4を制御するとともに、電源装置のインバータ11に対し、フラッシュ工程とアプセット工程の開始や停止などのシーケンス制御のための信号を出力する機能、及び溶接装置全般の制御を司る機能を有する溶接制御装置15とを備えている。
【0017】
本実施形態のフラッシュ溶接方法に用いられる装置は、以上のように電源装置が、溶接2次回路リアクタンスによる最大出力電流の影響を受けない特徴を持つ直流電源の1つであるインバータ式DC電源から構成されているが、このような直流電源方式であっても、供給電源の内部抵抗、インバータ電源、溶接トランスからビレットまでを含むその全抵抗分を極力減らすことが必要である。特に直流化された出力端子より2次導体、クランプジョー、ビレットと流れる電流の経路からなる2次回路の、導体抵抗(断面積大、長さ小)、導体間の接触抵抗、クランプジョーとビレットとの接触抵抗等を少なくし、供給電源から高温のビレットまでを含む全体抵抗を45μΩ以下とすることを実現することで、2次無負荷電圧 8.5Vにおいて約20万アンペア近い最大出力電流を得ることが可能となる。
【0018】
一方、2次回路が囲む面積とその並列数によって、おおよそ2次回路リアクタンスが決まる。
【0019】
連続圧延するための溶接機においては、大断面部材のクランプ、アプセットシリンダ等の機械系の大型化(例えばクランプ油圧シリンダの大型化によるクランプ間距離が大きくなる等)、あるいは溶接トランスの大型化に伴い、低リアクタンスにすることができない。さらに2次導体部はフラッシュのスパッタに最も近くて晒される部分であり、連続使用に耐えうるスパッタ対策等の問題もある。以上より、溶接機設計・試作および実試験の経験から実現可能なリアクタンス値の下限は100μΩ(60Hz換算時)であり、リアクタンスが高ければ高い程、設計の自由度が増し、実用性も高くなる。
【0020】
しかしながら、フラッシュ時には、リアクタンスが大きいと電流立ち上がり時間が遅くなり、短絡する時間が長くなって、短絡が切れた後のアークの寿命も延びるため、深いクレータを発生させる。このため、リアクタンスが上がるに従って溶接品質が徐々に低下する。ある閥値から極端に品質が低下することはなく、部材断面積、2次電圧、許容溶接品質等によっても変化するため、上限値を規定することは難しいが、母材と同レベル品質を維持するための上限値はおよそ200μΩである。
【0021】
本実施形態装置により得られた部材断面積とフラッシュ時間の関係は、図1に示す通りである。ビレットの温度条件は約1000℃であり、圧延ラインでの入口ビレット温度としては最も多い値である。ここでは2次無負荷電圧 7.5V〜9.5V の範囲でのフラッシュ時間を規定しているが、フラッシュ時間と品質の両立が可能な2次電圧の最適値は、8.5V±0.3V程度の範囲である。高級鋼種で溶接部の介在物量等まで考慮する必要がある場合には、7.5 Vまで下げるほうがよく、逆に品質要求が厳しくなく、短溶接時間が必要なラインの場合には、9.5 Vまで上げることが可能である。いずれにせよ、この2次電圧範囲においては、溶接品質は母材と同等を保証される。フラッシュ量は、ビレットの初期端面の凹凸形状、鋼種、温度等により若干変動するため10〜15mmの値となるが、平滑端面での標準的な値は12mm程度である。
【0022】
部材の温度が1000℃より大きく変化した場合には、必要なフラッシュ時間、フラッシュ量とも変化する。これはフラッシュ溶接におけるフラッシュ工程は部材端面を十分に加熱するためのものであるため、部材温度が高ければ必要入熱量も減り、逆に部材温度が低ければ高い入熱量が必要となることによるものである。部材温度とフラッシュ時間、フラッシュ量の関係は図3に示す通りであり、150角部材、温度1200℃、2次電圧 8.5Vでは、部材温度1000℃の場合に比べてフラッシュ時間は3秒短縮して12秒となり、フラッシュ量も3mm短縮する。逆に部材の温度が900℃と低い場合には、部材温度1000℃の場合に比べてフラッシュ時間は2秒増加し、フラッシュ量も2mm増加する。
【0023】
図4は0.2%Cの冷間鍛造用鋼を2次電圧8.5Vの条件で溶接した場合の溶接したままの継手の機械強度試験の結果である。引張り強度は母材と溶接部に差はなく、伸びが若干低下している程度である。この試験は溶接したままの試験結果であり、この品質レベルにあれば、実際に圧延された製品においては継手強度は上昇し、母材と全く同一の機械的性質を有するものとなる。
【0024】
また、10000mm2 以上の大断面部材をフラッシュ溶接する場合においては、溶接初期にはビレットに凹凸がなくフラッシュを継続させるほどの端面加熱、溶融層の形成も不十分であるため、単なる定速あるいは定加速度でビレットを送る方法では、フリージング現象を起こし、溶接は不可能となる。よって、本実施形態では、溶接出力(フラッシュ中の溶接電流もしくは電力:ここではインバータの出力電流)をモニタして短絡状態を検出し、ある閥値を超えた場合にはビレットを遠ざけ(引き)、閥値以下では近づける(押す)制御を行う構成としている。すなわち、電流検出器14によりインバータと溶接トランス間でフラッシュ工程時の電流を検出し、電流検出器14の検出結果とプラテン位置検出手段16が検出したプラテン位置とに基づいて溶接制御装置15がアプセットシリンダの比例弁4を制御して、フリージングを起こさず、フラッシュがスムーズに出るようにしている。
【0025】
以上のことから、温度900〜1200℃、断面積10000〜32400mm2 の高温大断面溶接継手が母材と同等の品質を得られる溶接条件は、以下のようになる。
2次無負荷電圧 7.5〜9.5V
フラッシュ量 7〜15mm
フラッシュ時間 10〜26秒
2次回路リアクタンス(60Hz換算) 100〜200μΩ
2次回路抵抗 45μΩ以下
【0026】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、180角までの大断面部材を短時間で溶接することが可能となり、溶接サイクルをラインサイクル内に収める必要のある現存する連続圧延ラインの殆ど全てに本発明を適用することが可能となった。
また、2次回路リアクタンスの許容値が大きく、2次導体の引き回しの自由度が大となり、簡素かつ小型な溶接機が得られ、コストを低く抑えられ、フラッシュのスパッタ付着等の問題も少なくなり、実操業上の問題もクリアできた。
さらに、高品質溶接継手が得られるため、C含有量の変化による継手品質変化もなく、0.01%〜0.9%の炭素鋼、伸線鋼、冷間鍛造用鋼、PC鋼等あらゆる鋼種に対応することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る大断面高温部材のフラッシュ溶接方法における部材断面積とフラッシュ時間の関係を示す実験結果のグラフである。
【図2】本実施形態に係る大断面高温部材のフラッシュ溶接方法に用いられる装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本実施形態に係る大断面高温部材のフラッシュ溶接方法における部材温度とフラッシュ時間、フラッシュ量の関係を示す実験結果のグラフである。
【図4】本実施形態に係る大断面高温部材のフラッシュ溶接方法により接合した0.2%Cの冷間鍛造用鋼の継手の機械強度試験の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
2a,2b ビレット(大断面高温部材)
8 商用三相交流電源
11 インバ−タ
12a,12b 溶接トランス
13a,13b ダイオード整流器
Claims (1)
- 断面積10000〜32400mm2 、内部温度900〜1200℃の大断面高温部材相互を、直流電源を用いたフラッシュ溶接機により、
2次無負荷電圧 7.5〜9.5V
フラッシュ量 7〜15mm
フラッシュ時間 10〜26秒
2次回路リアクタンス(60Hz換算) 100〜200μΩ
2次回路抵抗 45μΩ以下
の溶接条件でフラッシュ溶接することを特徴とする大断面高温部材のフラッシュ溶接方法。
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