JP4576031B2 - 新規α−グルコシダーゼ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高基質濃度下においても阻害を受けず、基質濃度の増加に伴い、酵素反応が活性化され、負の協同性を示す新規なα−グルコシダーゼに関する。
【0002】
【従来の技術】
α−グルコシダーゼは、微生物から動植物まで広く天然界に存在する酵素で、基質の非還元性末端のα−グルコシド結合を水解してα−D−グルコースを生成する。また、α−グルコシダーゼは水解反応のみならず、糖転移反応をも触媒し、様々なオリゴ糖や配糖体の酵素合成にも用いられている。しかし、通常のミカエリス−メンテン型酵素は、高基質濃度下においては反応速度が飽和し、さらに高い基質濃度下では触媒作用が阻害を浮け、反応速度が低下することが多い。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
これに反し、ミツバチのα−グルコシダーゼは、高基質濃度において阻害を受けずに、反応が活性化されるα−グルコシダーゼとして知られている。しかし、ミツバチのα−グルコシダーゼも、カルシウムイオンにより阻害を受けるなどの問題点があった。また、基質に対する親和性がミツバチのα−グルコシダーゼよりも、より高いものが求められていた。
【0004】
そこで本発明の目的は、高基質濃度下においても阻害を受けず、基質濃度の増加に伴い、酵素反応が活性化され、負の協同性を示し、カルシウムイオンにより阻害を受けない新規なα−グルコシダーゼを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、様々な起源のα−グルコシダーゼを鋭意研究し、高基質濃度下においても阻害を受けず、基質濃度の増加に伴い、酵素反応が活性化され、負の協同性を示す新規なα−グルコシダーゼを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、下記酵素化学的特性を有することを特徴とする新規α−グルコシダーゼである。
▲1▼作用および基質特異性:マルトース、マルトトリオース、ショ糖、フェニルα−グルコシド及びp−ニトロフェニルα−グルコシドに作用し、イソマルトース及び可溶性澱粉には作用しない。マルトース、フェニルα−グルコシド及びp−ニトロフェニルα−グルコシドに対しては、基質濃度の増加に伴い活性化され、負の協同性を示す。
▲2▼分子量:82,000
▲3▼至適pH:5.1
▲4▼pH安定性:4.9〜12
▲5▼温度安定性:45℃、15分間処理で90%以上の残存活性を示す。
▲6▼カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ナトリウムイオン、及びカリウムイオンにより酵素活性が活性化される。
【0007】
上記酵素化学的特性を有する新規α−グルコシダーゼの起源としては、マルハナバチが挙げられる。マルハナバチ(Bombus terrestris L.)は、膜翅目ミツバチ科マルハナバチ類に属するハナバチであり、近年、限定訪花性や振動集粉行動といった性質を持っていることから、温室トマトやナスの受粉に用いられ、注目されるようになった種である。
【0008】
これまでに報告されているα−グルコシダーゼは、その基質特異性から次の3種に分類されている。
1)ショ糖や合成基質であるフェニルα−グルコシドのような“heterogeneous”な基質に対して高い水解力をもつグループ
2)マルトオリゴ糖のような“homogeneous”な基質に対して高い水解力をもつグループ
3)低分子基質に対しては2)のグループに近いが、澱粉やグリコーゲンのような高分子基質に対しても加水分解力をもつグループ
【0009】
本発明の新規α−グルコシダーゼは、マルトオリゴ糖、ショ糖やフェニルα−グルコシドなどの合成基質に作用し、イソマルトースや可溶性澱粉には作用しないので、上記の分類法に当てはまらない例外的な酵素である。このようなα−グルコシダーゼは、これまでにもミツバチのα−グルコシダーゼが知られている。
しかしながらミツバチのα−グルコシダーゼと本発明の新規α−グルコシダーゼでは、分子量が異なる(ミツバチ起源α−グルコシダーゼは分子量88,000)。さらに、酵素活性がカルシウムイオンにより阻害を受け、マグネシウムイオン、ナトリウムイオンに影響を受けないミツバチ起源のα−グルコシダーゼに対して、本発明の新規α−グルコシダーゼではカルシウムイオン、マグネシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンにより酵素活性が活性化されるという違いがある。また、ミツバチ起源のα−グルコシダーゼに比較して、本発明の新規α−グルコシダーゼの方が、マルトース、マルトトリオースやショ糖に対するKm(ミカエリス定数)が小さく、基質に対する親和力が高いことを示している。これらの特性と、マルトースや合成基質に対して、基質濃度の増加に伴い活性化され、負の協同性を示すことは、糖転移反応により、オリゴ糖や配糖体を生成させる際に非常に有効な特性であり、工業的な利用価値も高いものである。このような酵素化学的特性を有するα−グルコシダーゼは、これまでに知られていないので、新規な酵素であるといえる。
【0010】
なお、本発明の新規α−グルコシダーゼは、マルハナバチから各種クロマトグラフィーなどの手段を経て分離精製することができる。この分離精製方法の具体例は、後述する実施例に示す。
【0011】
また、本発明において、酵素の力価の測定は、0.2%マルトースを基質として、pH 5.0、37℃で反応を行ない、1分間に1μmolのマルトースを加水分解する酵素量を1単位とした。酵素反応により、フェニルα−グルコシドから生ずるフェノールの定量は、2,6−ジブロモ−N−クロロ−p−ベンゾキノンモノイミンを用いて測定を行なった。また、酵素反応により、p−ニトロフェニルα−グルコシドから生ずるp−ニトロフェノールの定量は、酵素反応溶液に炭酸ナトリウム溶液を添加して測定を行なった。
【0012】
【実施例】
以下に本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0013】
実施例1
(酵素の精製)
マルハナバチ(アピ株式会社製:はなまるくん)28.2gを−20℃で凍結させ、200mlの30mMリン酸緩衝液(pH 6.3)を加えて超音波処理を行なった後、4℃にて一晩攪拌した。この液を遠心分離(4℃,10,000×g,15分)し、上清を得た。沈澱には、200mlの30mMリン酸緩衝液(pH 6.3)に懸濁し、4℃にて一晩攪拌した後、遠心分離(4℃,10,000×g,15分)し、上清を得た。沈澱は再度同様の処理を行ない、上清を得た。
以上の3つの上清を混合し(500ml)、全飽和(354g)の硫安を添加して4℃にて一晩攪拌した。
【0014】
硫安全飽和溶液を遠心分離(4℃,22,000×g,20分)し、得られた上清を上清▲1▼とした。沈澱は30mlの30mMリン酸緩衝液(pH 6.3)に懸濁し、超音波処理後、遠心分離(4℃,14,000×g,15分)を行ない、上清▲2▼を得た。沈澱は、30mlの30mMリン酸緩衝液(pH 6.3)に懸濁し、遠心分離(4℃,14,000×g,15分)を行ない、上清▲3▼を得た。上清▲1▼はそのまま、上清▲2▼と▲3▼には95%飽和となるように硫安を加え、4℃にて一晩放置した。
【0015】
硫安95%飽和溶液を遠心分離(4℃,25,000×g,30分)し、得られた沈澱を予め硫安95%飽和溶液で平衡化したセライトと混合した。また、上清▲1▼は予め同硫安飽和溶液で平衡化したセライトで減圧濾過して、沈澱画分を回収した。これらのセライトをカラム(φ2.8×28cm)に充填し、硫安95%飽和から0%までの直線濃度勾配で塩析クロマトグラフィーを行なった。図1はその結果を示しており、マルターゼ活性は高濃度硫安に可溶な画分と、低濃度硫安に可溶な画分とに分離した。図中の−◆−は280nmにおける吸光度を、−○−はマルターゼ活性を、−▲−は硫安の飽和濃度(%)を示す。
【0016】
高濃度硫安に可溶な画分のうち、フラクション番号50〜110(180ml)を集め、10mMリン酸緩衝液(pH 7.8)に対して透析した。得られた透析液(275ml)を予め同緩衝液で平衡化したDEAE−Sepharose CL-6B(アマシャムフルマシアバイオテク(株)製)を充填したカラム(φ2.1×41cm)に供した。図2に結果を示したが、マルターゼ活性はその大部分を含む非吸着部分と、活性の低い2つの吸着部分とに分離した。図中の−◆−は280nmにおける吸光度を、−○−はマルターゼ活性を、−▲−は食塩(M)を示す。
【0017】
非吸着画分(フラクション番号1〜20:400ml)を集め、50mM酢酸緩衝液(pH 4.7)に対して透析し、予め同緩衝液で平衡化したCM−Sepharose CL-6B(アマシャムフルマシアバイオテク(株)製)を充填したカラム(φ2.1×41cm)に供した。同緩衝液で未吸着のタンパク質を十分に洗浄後、0.05〜1Mの酢酸緩衝液(PH 4.7)直線濃度勾配により溶出を行なった。図3に結果を示した。図中の−◆−は280nmにおける吸光度を、−○−はマルターゼ活性を、−▲−は酢酸緩衝液の濃度(M)を示す。フラクション番号115〜121(35ml)を、コロジオンバックにて0.5mlまで濃縮し、0.1M食塩を含有する50mM酢酸緩衝液(pH 5.7)に対して透析した。この透析液を予め同緩衝液で平衡化したBio-Gel P-100(日本バイオラッドラボラトリーズ(株)(株)製)を充填したカラム(φ1.3×40cm)に供した。図4に結果を示した。活性画分(フラクション番号31〜38:4ml)を集め、精製酵素標品とした。図中の−◆−は280nmにおける吸光度を、−○−はマルターゼ活性を示す。
【0018】
以上の精製操作により得られた精製酵素標品は、ポリアクリルアミド電気泳動(PAGE)およびSDS−PAGEにおいて単一のタンパク質染色バンドを与えた。
【0019】
(精製酵素標品の分子量)
精製酵素標品(1.4μg)を、標準タンパク質(LIFE-TECHNOLOGIES製)と共にSDS-PAGEに供し、分子量の推定を行なった。その結果、精製酵素標品の分子量は82,000と推定された。
【0020】
(精製酵素標品の至適pH)
50μLの精製酵素溶液、50μLの2%マルトース溶液と400μLの各種pHのBritton-Robinson緩衝液を混合して、37℃にて10分間酵素反応を行なった際の酵素活性の相対比を求めた。図5に示したように、pH 5.1付近で最大活性を示し、反応至適pHはpH 5.1と求められた。
【0021】
(精製酵素標品のpH安定性)
10μLの精製酵素溶液と100μLの各種pHのBritton-Robinson緩衝液を混合して、5℃,24時間保持した。処理後の溶液100μLに50μLの2%マルトース溶液と350μLの1M酢酸緩衝液(pH 5.0)を混合して、37℃にて10分間酵素反応を行い、処理前の酵素活性に対する比を求めた。図6に示したように、pH 4.9〜12の範囲で90%以上の残存活性を示した。
【0022】
(精製酵素標品の温度安定性)
100μLの精製酵素溶液と200μLの0.1M酢酸緩衝液(pH 5.0)を混合して、各種温度で15分間処理を行なった。処理後、冷却して200μLの0.5%マルトース溶液を添加して37℃,10分間酵素反応を行い、処理前の酵素活性に対する比を求めた。図7に示したように、45℃まで90%以上の残存活性を示した。
【0023】
(金属塩の酵素活性に対する影響)
50μLの各種濃度の金属塩溶液、50μLの精製酵素溶液、200μLの0.5%マルトース溶液と200μLの1M酢酸緩衝液(pH 5.1)を混合して、37℃,10分間酵素反応を行い、金属塩無添加の酵素活性に対する比を求めた。図8〜11に結果を示した。図8中の−●−は塩化カルシウムを、−◆−は硝酸カルシウムの結果を示す。図9中の−●−は塩化マグネシウムを、−▲−は硫酸マグネシウムの結果を示す。塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム(図10)、塩化カリウム(図11)のいずれの金属塩においても、金属塩無添加の場合に比較して10〜20%程度、酵素活性が上昇した。
【0024】
(基質特異性)
マルトース、マルトトリオース、ショ糖、フェニルα−グルコシド、p−ニトロフェニルα−グルコシドを基質として、それぞれの基質の濃度を変化させて初速度を測定した。その結果をもとにLineweaver-Burkプロットから、速度パラメーターを求めた。図12〜16にLineweaver-Burkプロットの結果を、表1に速度パラメーターを示した。図15中、−●−はグルコースの生成速度を、−○−はフェノールの生成速度を示す。図16中、−●−はグルコースの生成速度を、−○−はp−ニトロフェノールの生成速度を示す。
【0025】
マルトースからのグルコースの生成速度(図12)は、基質濃度が低い場合にはミカエリス−メンテンの反応式に従ったが、基質濃度が高くなると活性化され、負の協同性を示した。マルトトリオース(図13)とショ糖(図14)からのグルコースの生成速度は、ミカエリス−メンテンの反応式に従った。フェニルα−グルコシドを基質とした場合(図15)には、グルコースの生成速度はミカエリス−メンテンの反応式に従ったが、フェノールの生成速度は高基質濃度では活性化され、負の協同性を示した。p−ニトロフェニルα−グルコシドを基質とした場合(図16)には、グルコースの生成速度は、高基質濃度で阻害が確認されたもののミカエリス−メンテンの反応式に従った。しかし、p−ニトロフェノールの生成速度は高基質濃度で活性化され、負の協同性を示した。
【0026】
【表1】
Figure 0004576031
【0027】
また、マルトース、イソマルトース、可溶性澱粉に対する経時変化を求めた結果を、図17に示す。イソマルトースと可溶性澱粉の加水分解はほとんど認められなかった。図中の−●−はマルトースの結果を、−▲−は可溶性澱粉の結果を、−□−はイソマルトースの結果を示す。
【0028】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の新規α−グルコシダーゼは、高基質濃度下においても阻害を受けず、基質濃度の増加に伴い、酵素反応が活性化され、負の協同性を示すという特性を有している。従って、本発明の新規α−グルコシダーゼは、糖転移反応により、オリゴ糖や配糖体を生成させる際に非常に有効な特性であり、工業的な利用価値も高いものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】塩析物を塩析クロマトグラフィーにかけた溶出パターンを示す図で、図中の−◆−は280nmにおける吸光度を、−○−はマルターゼ活性を、−▲−は硫安の飽和濃度(%)を示す。
【図2】塩析クロマトグラフーの高濃度硫安に可溶な画分をDEAE-Sepharose CL-6Bを用いたイオン交換クトマトグラフィーにかけた溶出パターンを示す図で、図中の−◆−は280nmにおける吸光度を、−○−はマルターゼ活性を、−▲−は食塩(M)を示す。
【図3】DEAE-Sepharose CL-6Bを用いたイオン交換クトマトグラフィーに非吸着画分をCM-Sepharose CL-6Bを用いたイオン交換クトマトグラフィーにかけた溶出パターンを示す図で、図中の−◆−は280nmにおける吸光度を、−○−はマルターゼ活性を、−▲−は酢酸緩衝液の濃度(M)を示す。
【図4】CM-Sepharose CL-6Bを用いたイオン交換クトマトグラフィーにおける活性画分を、Bio-Gel P-100を用いたゲル濾過クトマトグラフィーにかけた溶出パターンを示す図で、図中の−◆−は280nmにおける吸光度を、−○−はマルターゼ活性を示す。
【図5】反応至適pHのパターンを示す図である。
【図6】pH安定性のパターンを示す図である。
【図7】温度安定性のパターンを示す図である。
【図8】カルシウム塩の酵素活性に与える影響を示す図で、図中の−●−は塩化カルシウムを、−◆−は硝酸カルシウムの結果を示す。
【図9】マグネシウム塩の酵素活性に与える影響を示す図で、図中の−●−は塩化マグネシウムを、−▲−は硫酸マグネシウムの結果を示す。
【図10】塩化ナトリウムの酵素活性に与える影響を示す図である。
【図11】塩化カリウムの酵素活性に与える影響を示す図である。
【図12】マルトースを基質として用いた際のLineweaver-Burkプロットである。
【図13】マルトトリオースを基質として用いた際のLineweaver-Burkプロットである。
【図14】ショ糖を基質として用いた際のLineweaver-Burkプロットである。
【図15】フェニルα−グルコシドを基質として用いた際のLineweaver-Burkプロットで、−●−はグルコースの生成速度を、−○−はフェノールの生成速度を示す。
【図16】フェニルα−グルコシドを基質として用いた際のLineweaver-Burkプロットで、−●−はグルコースの生成速度を、−○−はp−ニトロフェノールの生成速度を示す。
【図17】マルトース、イソマルトース、可溶性澱粉に対する経時変化を示す図である。図中の−●−はマルトースの結果を、−▲−は可溶性澱粉の結果を、−□−はイソマルトースの結果を示す。

Claims (2)

  1. 下記の酵素化学的特性を有するα−グルコシダーゼ。
    (1)作用および基質特異性:マルトース、マルトトリオース、ショ糖、フェニルα−グルコシド及びp−ニトロフェニルα−グルコシドに作用し、イソマルトース及び可溶性澱粉には作用しない。マルトース、フェニルα−グルコシド及びp−ニトロフェニルα−グルコシドに対しては、基質濃度の増加に伴い活性化され、負の協同性を示す。
    (2)分子量:82,000(SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により決定)
    (3)至適pH:5.1
    (4)pH安定性:4.9〜12
    (5)温度安定性:45℃、15分間処理で90%以上の残存活性を示す。
    (6)カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ナトリウムイオン、及びカリウムイオンにより酵素活性が活性化される。
  2. 酵素起源がマルハナバチである請求項1に記載のα−グルコシダーゼ。
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