JP4575783B2 - 高電流容量電池 - Google Patents
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Description
1.一次電池
一次電池は、電気エネルギーを取り出すための酸化還元反応が、一方向にしか進まない電池であって、充電できない電池である。言い換えれば、一次電池は、二次電池と異なり、使い切りタイプの電池である。
一次電池の例としてのマンガン乾電池は、概して、正極活物質としての二酸化マンガン(MnO2)と、負極活物質としての亜鉛(Zn)とを備える。マンガン乾電池は更に、電解質として、塩化アンモニウム(NH4Cl)水溶液を固形化したものを備える。マンガン乾電池の酸化還元反応は、次式で表される。
Zn+2NH4Cl+2MnO2
→Zn(NH3)2Cl2+2MnOOH …(1)
マンガン乾電池は、安価であるため、広く用いられている。しかしながら、マンガン乾電池は、正極活物質として二酸化マンガンを用いているため、簡単に廃棄することが出来ない。
一次電池の例としてのアルミニウム電池は、概して、正極活物質としての二酸化マンガンと、負極活物質としてのアルミニウム合金(例えば、アルミニウム−クロム合金)と、電解質としての塩化アルミニウム水溶液とを備える。アルミニウム電池の主な酸化還元反応は、次式で表される。
Al+3O2+6H2O
→4Al(OH)3 …(2)
負極活物質として、亜鉛の代わりにアルミニウム合金を用いるアルミニウム電池は、マンガン乾電池と比べて、高い電流容量(単位重量当たりのワット数が大きい)を持つ。その理由は、アルミニウムの放電特性が、亜鉛の放電特性よりも、高いからである。言い換えれば、(1)式の反応において、負極側で、亜鉛が電解質に溶け込み、その結果、4e−の電子が発生する一方、(2)式の反応において、負極側で、アルミニウムが電解質に溶け込み、その結果、3倍の電子である12e−の電子が発生するからである。しかしながら、アルミニウム電池の電解質(塩化アルミニウム水溶液)は、負極活物質ないし負極(アルミニウム合金)を腐食し、(2)式の反応とともに、負極側で水素が発生する。このため、電池が膨張し、最悪の場合、電池が破裂する可能性がある。
このような水素の発生を少なくするため、アルミニウム電池の負極活物質は、アルミニウムの単体ではなく、アルミニウム合金が採用されている。しかしながら、市販できる程度にまで、水素の発生を回避することができない。また、このような水素の発生をさらに少なくするため、特開平06−187995号公報は、負極活物質に、アルキル基等の安定剤を添加したアルミニウム電池を開示している。しかしながら、このアルミニウム電池も、市販できる程度にまで、水素の発生を回避することができないと考えられる。
2.空気電池
正極活物質として、二酸化マンガンなどの酸化剤の代わりに、空気中の酸素(O2)を用いる空気電池は、一次電池と比べて、高い電流容量を持つ。その理由は、正極活物質としての空気中の酸素が、消粍しないからである。空気電池は更に、負極活物質としての金属(例えば、亜鉛、アルミニウム等)と、電解質としての電解液(例えば、水酸化カリウム水溶液、水酸化アルミニウム水溶液等)とを備える。空気電池の正極側で、空気中の酸素は、次式で表されるように、還元される。
O2+2H2O+4e
→4OH− …(3)
式(3)に示すように、空気電池は、酸化還元反応に用いられる水を必要とし、その水は、電解質の水分から供給される。このような水の消費量は、負極活物質としての金属の種類及び量に依存する。一方、このような水の供給量は、電解質の種類及び量に依存する。従って、水の消費量が、水の供給量よりも大きい場合、即ち、電解質の水分が、消粍する場合、空気電池は、その全電流容量を取り出される前に、動作しなくなる。このような現象は、ドライアップとして知られている。例えば、市販されているボタン型の空気亜鉛電池(負極活物質:亜鉛)の場合、水の消費量が、水の供給量よりも少ないため、電解質の水分は、ほとんど消耗しない。しかしながら、負極活物質としての亜鉛の量を増加させ、高電流容量の空気電池を製造する場合、ドライアップの問題を考慮する必要がある。或いは、ドライアップの問題を回避するために、亜鉛の量の増加に比例して、電解質の量を大きくする必要があり、その結果、空気電池が大きくなるという問題がある。
空気電池の例としての空気アルミニウム電池(負極活物質:アルミニウム)において、一般に、水の消費量は、水の供給量よりも大きい。このため、空気アルミニウム電池は、空気亜鉛電池と比べて、速くドライアップしてしまう。さらに、電解質として、例えば、水酸化アルミニウム水溶液を採用する場合、負極側で水素が発生する。
空気電池は、一般に、酸素の還元反応を促進することにより、放電効率を改善することが期待されている。
なお、空気電池は、電気エネルギーを取り出すための酸化還元反応が、一方向にしか進まない電池であって、本質的には一次電池である。
3.燃料電池
負極活物質として、亜鉛、アルミニウムなどの金属の代わりに、水素(H2)を用いる燃料電池は、一次電池又は空気電池と比べて、一次電池又は空気電池と比べて、高い電流容量を持つ。その理由は、負極活物質としての水素が、消粍しないからである。燃料電池の主な酸化還元反応は、次式で表され、水素と酸素から、水が生成される。
負極:H2→2H++2e
正極:2H++(1/2)O2+2e→H2O …(4)
燃料電池は、一般に、酸素の還元反応、及び/又は、水素の酸化反応を促進することにより、放電効率を改善することが期侍されている。
本発明のもう1つ目的は、一次電池又は空気電池の負極側で発生する水素に対処することにより、電池の安全性を向上させることである。
本発明の更なる目的は、負極側で発生する水素に対処することにより、負極活物質としてアルミニウム又はアルミニウム合金を使用する市販可能な空気電池を提供することである。
本発明の更なる目的は、空気電池又は燃料電池の化学反応を促進することにより、放電効率を改善することである。
本発明の更なる目的は、二酸化マンガンの代替物を使用することにより、環境にやさしい電池を提供することである。
本発明の他の目的は、以下に説明する発明の実施の形態を参照することによって、明らかになるであろう。
上記した目的を達成するために、本発明の高電流容量空気電池は、正極活物質である酸素を保持し通過させる空気格納構造(4)、及び、空気中の水分を吸入する性能を持つ電解質(5)のうち、少なくとも1つ(4,5)を備える。空気格納構造(4)は、炭素を主成分とした複数の粒状の多孔質セラミック(41)を備える。複数の多孔質セラミック(41)は、互いに接触し、空気格納構造(4)は、複数の多孔質セラミック(41)の隙間(42)に正極活物質である酸素を含む。電解質(5)は、塩化アルミニウム、及び、塩化カルシウムのうち、少なくとも1つを備える。負極活物質(2)は、アルミニウム又はアルミニウム合金である。
本発明の、電池用の気体格納構造は、水素及び酸素のうちの少なくとも1つを格納するために、炭素を主成分とした複数の粒状の多孔質セラミックを備える。
本発明の、空気電池用の電解液(5)は、塩化アルミニウム、及び、塩化カルシウムのうち、少なくとも1つを備える。
図1は、本発明の空気電池の外観を示す斜視図である。
図2は、図1に示される空気電池の断面図である。
図3は、図2に示される空気格納構造4の詳細図である。
図4は、隔壁及び通気膜を備える本発明の空気電池の概略断面図である。
図5は、セパレータとしての半透膜を備える本発明の空気電池の概略断面図である。
図6は、気体格納構造を備える本発明の一次電池の概略断面図である。
図7は、気体格納構造を備える本発明の燃料電池の概略斜視図である。
負極活物質(負極)2は、金属、合金、その他の同様なもの(例えば、亜鉛、マグネシウム、リチウム、アルミニウムなど)を用いることができる。好ましくは、負極活物質2は、高い放電特性を持つアルミニウム又はアルミニウム合金(例えば、アルミニウムを主体とするジュラルミン等の合金又はアルミニウムと鉄の合金)である。負極活物質2の周囲は、空気格納構造4内の酸素(正極活物質)との直接接触を防ぐために、セパレータ3で覆われている。
セパレータ3は、親水性又は耐水性のセパレータ(例えば、ビスコース、化学繊維、発泡高分子等)を用いることができる。図2に示すセパレータ3は、親水性を有し、後述の電解質5をセパレータ3の内部に保有する。図5に示すセパレータ3は、耐水性を有し、電解質5の入れ物として機能する。図2に示すような親水性のセパレータを採用する空気電池1は、電解質の保持性が高いため、図5に示すような耐水性のセパレータを採用する空気電池1と比べて、長時間に渡って小さい電流を流すことができる。図5に示すような耐水性のセパレータを採用する空気電池1は、図2に示すような親水性のセパレータを採用する空気電池1と比べて、大きい電流を流すことができる。
図2に示す親水性のセパレータ3は、例えば、ビスコース、親水性の発泡高分子等を用いることができる。好ましくは、親水性のセパレータ3は、電解質5を負極活物質2と均一に接触させるために、高吸湿性である。親水性のセパレータ3は、負極活物質2と空気格納構造4内の酸素(正極活物質)との直接接触を防ぎ、また、電解質5を負極活物質2に効率良く接触させるために、セパレータ3は、厚みが必要であり、セパレータ3の厚さは、1μm以上であれば機能する。しかしながら、セパレータ3は、逆に厚過ぎると電気・抵抗が増大することから、好ましくは、セパレータ3の厚さは、1mmから10mmである。セパレータ3の周囲は、空気格納構造4内の空気と、容器10内の空気とに接している。
図5に示す耐水性のセパレータ3は、例えば、化学繊維、耐水性の発泡高分子等を用いることができる。好ましくは、耐水性のセパレータ3は、酸化還元反応を促進させるために、高イオン伝導性を有する。耐水性のセパレータ3は、負極活物質2と空気格納構造4内の酸素(正極活物質)との直接接触を防ぎ、また、電解質5を負極活物質2に接触させるために、セパレータ3は、電解質5の入れ物として機能する。セパレータ3は、厚過ぎると電気・抵抗が増大することから、好ましくは、セパレータ3の厚さは、0.01mmから10mmである。セパレータ3の周囲は、空気格納構造4内の空気と、容器10内の空気とに接している。
空気格納構造4は、正極活物質である酸素を保持し通過させる。図3に示される空気格納構造4の要素41は、例えば、炭素を主成分とした粒状の多孔質セラミックである。好ましくは、要素41は、球状の多孔質セラミックである。球状の多孔質セラミックを製造する方法は、a)例えば、クチクラを粉砕したもの、石炭を粉砕したもの、及び、石油から精製されるタールのうちの少なくとも1つと、塩化亜鉛若しくは硫酸銅とを混ぜて練合し、b)練合したものを、例えば、0.5mm粒径に成型し、c)成型されたものを無酸素状態で炭化し、d)炭化したものを水蒸気によって賦活する。賦活した球状の多孔質セラミックは、例えば、日本エンバイロケミカルズ株式会社から入手可能な「X7000H−3」である。好ましくは、球状の多孔質セラミックの直径は、おおよそ、0.5mm〜1.2mmである。また、多孔質セラミックは、灰分が少ない程良い。その理由は、灰分が、内部抵抗の成分となるからである。灰分の多量存在による内部抵抗は、負極活物質の放電特性を悪化させるが、通常入手可能な多孔質セラミックの灰分は、約4重量%であり、4重量%の灰分であれば、放電特性の悪化は、認められない。従って、好ましくは、多孔質セラミックの灰分は、4重量%以下である。加えて、好ましくは、多孔質セラミックの比表面積は、1000m2/g以上であり、さらに好ましくは、2000m2/g以上である。
d)炭化した多孔質セラミックを水蒸気によって賦活した後、e)賦活したものを精製水により洗浄し、f)洗浄したものを乾燥させる。e)精製水により洗浄することにより、粉末状の多孔質セラミック、又は、粒状化しなかった多孔質セラミックを取り除くことができる。空気格納構造4の要素41として、粉末状の多孔質セラミックを使用すると、粉末状の多孔質セラミックが、親水性のセパレータ3内に入り込み、その結果、粉末状の黒鉛セラミック内の酸素(正極活物質)と負極活物質2とが直接接触してしまうという問題、即ち、親水性のセパレータ3が機能しなくなるという問題がある。言い換えれば、空気格納構造4の要素41として、粒状(好ましくは球状)の多孔質セラミックを使用することにより、親水性のセパレータ3は、機能し続けることができる。なお、粉末状の多孔質セラミックは、耐水性のセパレータ3内に入り込まないため、賦活した粒状(好ましくは球状)の多孔質セラミックを洗浄しなくても良い。
このようにして製造した要素41(粒状(好ましくは球状)の多孔質セラミック)を互いに接触させ、要素41の隙間に正極活物質である酸素42を含ませることにより、図3に示すような空気格納構造4を得る。好ましくは、球状の要素41は、六方細密構造で容器10内に配置される。空気格納構造4は、空気中の酸素42を保持し、正極活物質である酸素42は、空気格納構造4を通過する。このような空気格納構造4によって、空気電池の化学反応(酸素の還元反応)を促進することが可能となり、これにより、放電効率を改善することができる。
セパレータ3の周囲に接する空気格納構造4(要素41)は、負極活物質2の表面を基準として1mm以上の厚さで、空気格納構造4に含まれる酸素が、正極活物質として機能する。言い換えれば、正極活物質である酸素が、ある程度、正極側に供給されないと、正極活物質は、実質的に消耗してしまうからである。逆に言えば、正極活物質である酸素が、正極側に連続的に供給されると、正極活物質である酸素は、正極側で還元され続け、正極活物質は、消耗しない。空気格納構造4(要素41)の厚さが、負極活物質2の表面を基準として10mm以上で、正極活物質が連続的に反応することを実験的に確認した。
好ましくは、空気格納構造4を製造する際に、f)要素41(多孔質セラミック)を乾燥させた後、g)要素41を、例えば4%の塩化ナトリウム水溶液中に置き、或いは、要素41中に塩化ナトリウム水溶液をしみ込ませ、その結果、要素41間の接触面積を増加させる。これにより、負極活物質2から放電された電子は、空気格納構造4中を通過し易くなり、内部抵抗が下がる。従って、高い電流容量を得ることができる。
なお、図2に示すように、集電極(正極)8は、正極活物質(空気格納構造4)と接するように設けられ、集電極8から電流を取り出すことができる。また、容器10は、負極活物質2と、セパレータ3と、空気格納構造4(正極活物質である酸素)と、電解液5と、集電極8とを収納する。負極端子6及び正極端子7は、それぞれ、負極活物質2及び集電極8と電気的に接続される。負極端子6及び正極端子7は、容器10を貫通して設けられている。負極端子6及び正極端子7の少なくとも一方と容器10との間の隙間を塞がないことにより、その隙間から、容器10の外部にある空気中の酸素を容器10の外部に取り込むことができる。なお、負極端子6及び正極端子7と容器10との間の隙間を塞ぎ、容器10に通気孔ないし通気口を設けることにより、空気中の酸素を、容器10の内部に取り込んでもよい。
図4に示すように、本発明の空気電池1は、空気格納構造4の要素41をある程度固定し、また、電極と端子とを繋ぐリード線及び電極の腐食(電解質5による腐食)を防止するために、空気格納構造4の上部を覆う隔壁11を備えることができる。隔壁11は、例えば、非腐食性の物質(例えば、プラスチック)である。隔壁11の一部には、通気手段12(例えば、通気膜)が設けられ、容器10の外部から内部に取り込んだ空気(酸素及び水分)は、通気手段12を介して、空気格納構造4内に取り込まれる。通気手段12は、例えば、ゴアテックス繊維である。
図2に戻り、集電極8は、例えば、炭素又は炭素化合物である。好ましくは、集電極8は、黒鉛化している炭素又は炭素化合物である。炭素又は炭素化合物は、灰分が少ない程良い。その理由は、灰分が、内部抵抗の成分となるからである。灰分の多量存在による内部抵抗は、負極活物質の放電特性を悪化させるが、通常入手可能な炭素又は炭素化合物の灰分は、約4重量%であり、4重量%の灰分であれば、放電特性の悪化は、認められない。従って、好ましくは、炭素又は炭素化合物の灰分は、4重量%以下である。
電解質5は、空気中の水分を吸入する性能を持つ。電解質5の1例は、塩化アルミニウム水溶液である。電解質5のもう1つの例は、塩化カルシウム水溶液である。電解質5は、空気中の水分を吸入する性能を持つため、酸化還元反応に用いられる水の消費量が多い場合であっても、その量に対応する水を空気中から取り込むことができる。言い換えれば、電解質5は、それ自身に内在する水分によって水を供給するだけでなく、空気中の水分を、容器10の通気手段(負極端子6及び正極端子7と容器10との間の隙間、容器10に設けられた通気孔ないし通気口など)と、通気手段12が設けられている場合には隔壁11の通気手段12とを介して、取り込むことができる。これにより、水の消費量が、水の供給量と平衡し、その結果、ドライアップ現象を回避し、電池の性能を十分に機能させることができる。
また、電解質5として、塩化アルミニウム水溶液を使用し、負極側で水素が発生する場合であっても、空気格納構造(気体格納構造)4は、空気中の酸素42を保持するとともに、負極側で発生する水素を保持することができる。これにより、電池の安全性を向上させることができる。言い換えれば、負極活物質2として、高い放電特性を持つアルミニウム又はアルミニウム合金を使用しても、負極側で発生する水素の問題を回避することができる。なお、容器10を、腐食性の物質(例えば、アルミニウム)の代わりに非腐食性の物質(例えば、プラスチック)で構成することにより、容器で発生する水素の問題(容器の崩壊)を回避することができる。
好ましくは、電解液5は、水分を吸入する性能を持つ物質を飽和濃度まで溶解した水溶液(例えば、飽和塩化アルミニウム水溶液、飽和塩化カルシウム水溶液など)である。その理由は、電解液5が、空気中の水分を吸入しても、電解液5の濃度が、飽和濃度で、一定になるからである。即ち、電解液5の濃度が安定することにより、安定した電流値及び電圧値を供給することができる。なお、塩化カルシウム水溶液は、塩化アルミニウム水溶液と比べて、高い吸水性を持つため、より安定した電流値及び電圧値を供給することができる。
さらに好ましくは、電解液5は、塩化アルミニウム及び塩化カルシウムの双方を飽和濃度まで溶解した水溶液である。塩化カルシウム水溶液は、空気中の二酸化酸素を取り込み、炭酸ガス水溶液を生成する一方、塩化カルシウム水溶液は、炭酸ガスと反応し、通電阻害物質(炭酸カルシウム)を生成する。しかしながら、塩化カルシウムだけでなく、塩化物塩(例えば、塩化アルミニウム)も含む水溶液のPhが、炭酸ガス水溶液のphと比べて、より小さい(より酸性である)ので、塩化アルミニウム及び塩化カルシウムの双方を溶解した水溶液は、塩化アルミニウムと炭酸ガスとが反応し難く、通電阻害物質(炭酸カルシウム)を生成し難い、という性質を持つ。従って、電解液5が、塩化アルミニウム及び塩化カルシウムの双方を含むことにより、放電効率を改善することができる。加えて、負極活物質(負極)2が、アルミニウム又はアルミニウム合金である場合、塩化物塩は、好ましくは、塩化アルミニウムである。塩化アルミニウム(塩化物塩)及び塩化カルシウムの双方を溶解した水溶液は、負極と同じ元素のアルミニウムをイオンとして有するため、酸化還元反応を促進することができる。これにより、放電効率を改善することができる。
また、好ましくは、電解質5は更に、中性塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム、塩化カリウム、その他の同様なもの、及びこれらの組み合わせ)を含む。中性塩の濃度が、0.1重量%以上で飽和濃度までの範囲で、中性塩は、機能して、イオン伝導体を増加させ、これにより、放電効率を改善することができる。好ましくは、中性塩の濃度は、飽和濃度である。
電解質5が液体であり、酸性である場合、更に好ましくは、電解質5は更に、ハロゲン化物と水素との化合物(例えば、塩化水素)を含む。塩化水素の濃度は、0.1重量%以上で、機能して、酸化還元反応によって生じる難溶性の生成物(例えば、式(2)におけるAl(OH)3)を水溶性に変化させることができる。即ち、通電阻害物質である難溶性の生成物を取り除き、これにより、放電効率を改善することができる。しかしながら、塩化水素が電解質5中に多量に存在することは、好ましくない。その理由は、多量の塩化水素が、電池としての反応以外に、能動的に負極活物質(例えば、アルミニウム)を溶解させるためである。従って、好ましくは、塩化水素の濃度は、0.1重量%である。
電解質5が液体であり、アルカリ性である場合、更に好ましくは、電解質5は更に、水溶性の塩基(例えば、水酸化ナトリウム、アンモニウム、水酸化カルシウム、その他の同様なもの、及びこれらの組み合わせ)を含む。水溶性の塩基は、0.1重量%以上で10重量%以下の範囲で、機能して、酸化還元反応によって生じる難溶性の生成物(例えば、式(2)におけるAl(OH)3)を水溶性に変化させることができる。即ち、通電阻害物質である難溶性の生成物を取り除き、これにより、放電効率を改善することができる。
なお、電解質5は、図2のように、セパレータ3の内部及び空気格納構造4の内部に保有されてもよく、或いは、図5のように、入れ物としてのセパレータ3の中に格納され、空気格納構造4の内部に保有されてもよい。
加えて、正極活物質としての二酸化マンガンの代わりに、空気中の酸素を使用し、さらに、空気格納構造4の要素41に二酸化マンガンを使用しないことにより、環境にやさしい電池を提供することができる。
なお、本発明の空気電池は、上述の実施形態及び後述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
例えば、図6に示すように、空気電池の空気格納構造4を、一次電池の気体格納構造63に採用することができるであろう。これにより、一次電池の電解質として塩化アルミニウム水溶液を使用し、負極65側で水素が発生する場合であっても、気体格納構造63は、負極側で発生する水素を保持することができる。なお、一次電池は、概して、正極61と、集電極62と、正極物質である酸素を保持する気体格納構造63と、セパレータ64と、負極活物質(負極)65とを備える。
また、図7に示すように、空気電池の空気格納構造4を、燃料電池の気体格納構造72,74に採用することができるであろう。これにより、燃料電池の酸化還元反応を促進することができる。なお、燃料電池(単セル)は、概して、セパレータ71と、気体格納構造を採用する燃料極72と、電解質73と、気体格納構造を採用する空気極74とを備える。
空気格納構造4の要素41は、日本エンバイロケミカルズ株式会社から入手可能な「X7000H−3」であり、球状の多孔質セラミックである。球状の多孔質セラミックの平均直径は、ほぼ0.5mmであり、この球状の多孔質セラミックを精製水により洗浄し、洗浄したものを乾燥させる。このようにして精製水により洗浄された球状の多孔質セラミックを、容器10に入れられたアルミニウム板(レーヨン繊維腐食布)の周囲に、50g充填する。球状の多孔質セラミックの比表面積は、1000m2/gである。
集電極8は、炭素を主体とする黒鉛板であり、その厚さは、0.5mmであり、幅は、55mmであり、長さは、90mmである。黒鉛板を、空気格納構造4(要素41間)の中に挿入する。
電解質5は、飽和濃度まで塩化アルミニウムを溶解した水溶液に、1重量%の塩酸を加えた電解液を用いる。この電解液が、アルミニウム板を覆うレーヨン繊維腐食布の内部に保有されるように、電解液をレーヨン繊維腐食布に40cc流し込む。このとき、電解液は、空気格納構造4の要素41にも、保有される。
電圧計のクリップの一方をアルミニウム板(負極)に接続し、クリップの他方を黒鉛板(正極)に接続し、両極間の起電電圧を測定したところ、1.2Vの起電電圧を得た。さらに、その電圧計に、0.1Ωの抵抗を接続した電流計(例えば、横河電気株式会社から入手可能な直流電流・電圧計「2012」)を並列に接続したところ、2.1Aの電流を得た。0.1Ωの抵抗を取り外し、短絡電流を測定したところ、2.8Aの電流を得た。
さらに、その電圧計に、20Ωの抵抗を接続した電流計を並列に接続したところ、50mAの電流を得た。この状態を30日間放置したところ、起電電圧は、1Vとなり、電流は、50mAのままであった。
これまでの放電容量を計算したところ、実施例1の放電容量は、1.1V×0.05A×(24時間×30日間)=39.6Whであった。
このような酸化還元反応後のアルミニウム板を洗浄し、その重量を測定したところ、アルミニウム板の重量は、38gであり、反応前と比べて、4g減少した。
比較例1
比較例として市販のマンガン単一電池を用いて同様の試験をしたところ、起電電圧は、1.5Vであり、48時間で、1.5Vから1.0Vへの電圧低下が認められた。電圧低下の際の電流は、50mAであった。この場合の放電容量を計算したところ、比較例1の放電容量は、1.25V×0.05mA×(24時間×2日間)=3Whであった。
アルミニウム板を負極として採用する実施例1の空気電池の構成要素の総重量は、150gであった。また、比較例1としての単一電池の重量も、同様に150gであった。したがって、アルミニウムを負極として採用する実施例1の空気電池は、一般に普及している単一電池の13倍以上の放電容量が認められた。
電圧計のクリップの一方をアルミニウム板(負極)に接続し、クリップの他方を黒鉛板(正極)に接続し、両極間の起電電圧を測定したところ、1.5Vの起電電圧を得た。さらに、その電圧計に、0.1Ωの抵抗を接続した電流計を並列に接続したところ、1.1Aの電流を得た。0.1Ωの抵抗を取り外し、短絡電流を測定したところ、2.2Aの電流を得た。
電流計に接続された0.1Ωの抵抗を3Ωに取り替えた電圧及び電流測定器を用意する。即ち、3Ωの抵抗に電流計を直列に接続したものに、電圧計を並列に接続したものを用意し、電圧計及び電流計用のクリップの一方をアルミニウム板(負極)に接続し、クリップの他方を黒鉛板(正極)に接続する。終止電圧を1.0Vとして、起電電圧及び電流を計測した。7日と2時間17分で、実施例2の空気電池の起電電圧は、終止電圧に達した。
比較例1のマンガン単一電池を用いて同様の試験をしたところ、5時間49分で、比較例1の単位一電池の起電電圧は、終止電圧に達した。
実施例2の空気電池及び比較例1の単一電池の開始電圧は、ともに1.5Vであり、開始電圧での電流は、ともに0.5Aであった。また、終止電圧での電流は、ともに0.34Aであった。
実施例2の空気電池及び比較例1の単一電池の放電容量を、以下の式を用いて計算した。
放電容量=((1.5+1.0)/2)×((0.5+0.34)/2)×(放電時間(hr))
計算の結果、実施例2の空気電池の放電容量は、89.4Whであり、比較例1の単一電池の放電容量は、3.0Whであった。実施例2の空気電池及び比較例1の単一電池の重量は、ともに150gであった。以上から、実施例2の空気電池は、比較例1の単一電池に比べて、実用域での放電容量が約30倍となることが判明した。
負極活物質(負極)2としてのアルミニウム板の厚さは、5mmであり、幅は、100mmであり、長さ(高さ)は、150mmであり、アルミニウム板の重さは、210gである。塩化ビニール製の容器10の幅は、50mmであり、厚さは、50mmであり、高さは、160mmである。親水性のセパレータ3は、繊維質である発泡メラミン樹脂からなるスポンジである。精製水により洗浄された球状の多孔質セラミックを、容器10に入れられたアルミニウム板(スポンジ)の周囲に、940cc(676g)充填する。集電極8としての黒鉛板の厚さは、1mmであり、幅は、100mmであり、長さは、150mmである。実施例1と同様の電解液(飽和濃度まで塩化アルミニウムを溶解した水溶液に、1重量%の塩酸を加えた電解液)を、スポンジに150cc流し込む。
このようにして製造する空気電池を6個用意し、これらの空気電池を電気的に直列を構成した状態で接続した。このように直列接続された空気電池に、豪雪地帯で使用されている道路標識のLED発光型の矢羽根(6V・平均50mA消費型)を接続したところ、LEDは、点灯した。空気電池及び矢羽根を野外に設置し、LEDを連続点灯させたところ、LEDは、372日目に消灯した。
この実験後、アルミニウム板を洗浄し、その重量を測定したところ、アルミニウム板の重量は、10gであり、実験前と比べて、200g減少した。したがって、200gのアルミニウムから、2678Whの放電容量を得ることができた。即ち、実施例3の空気電池は、アルミニウム1g当り13.4Whを発生した。
このようにして製造する空気電池を6個用意し、これらの空気電池を電気的に直列を構成した状態で接続した。このように直列接続された空気電池に、高輝度型の白色LED(5V以上、0.5Aで動作するもの)を3個並列に接続した状態で、接続したところ、白色LEDは、点灯した。白色LEDは、摂氏20度、1気圧の常温、常圧下で、100日以上点灯試験を継続した。100日目を過ぎても、白色LEDは点灯し続けた。
電圧計のクリップの一方をアルミニウム板(負極)に接続し、クリップの他方を黒鉛板(正極)に接続し、両極間の起電電圧を測定したところ、1.15Vの起電電圧を得た。さらに、その電圧計に、0.1Ωの抵抗を接続した電流計を並列に接続したところ、1.9Aの電流を得た。0.1Ωの抵抗を取り外し、短絡電流を測定したところ、2.1Aの電流を得た。
電圧計のクリップの一方をアルミニウム板(負極)に接続し、クリップの他方を黒鉛板(正極)に接続し、両極間の起電電圧を測定したところ、1.40Vの起電電圧を得た。さらに、その電圧計に、0.1Ωの抵抗を接続した電流計を並列に接続したところ、2.85Aの電流を得た。0.1Ωの抵抗を取り外し、短絡電流を測定したところ、3.0Aの電流を得た。
Claims (7)
- 正極と負極と電解質を備えた空気電池であって、該空気電池は、
前記正極と前記負極との間に位置する前記電解質が、正極活物質である酸素を保持し通過させる空気格納構造(4)を備え、
空気格納構造(4)が、炭素を含有する複数の粒状の多孔質セラミック(41)を六方細密構造に配置した構造を備え、
粒状の多孔質セラミック(41)が、親水性を備える、空気電池。 - 請求項1に記載の空気電池であって、
粒状の多孔質セラミック(41)が、球状の多孔質セラミックであり、
球状の多孔質セラミックの直径が、0.5mm〜1.2mmである、空気電池。 - 請求項1に記載の空気電池であって、
複数の多孔質セラミック(41)が、互いに接触し、
空気格納構造(4)が、複数の多孔質セラミック(41)の隙間(42)に正極活物質である酸素を含む、空気電池。 - 請求項1に記載の空気電池であって、
空気格納構造(4)の内部に、空気中の水分を吸入する性能を持つ電解質(5)を保持する、空気電池。 - 請求項4に記載の空気電池であって、
電解質(5)が、塩化アルミニウム、及び、塩化カルシウムのうち、少なくとも1つを備える、空気電池。 - 請求項5に記載の空気電池であって、
電解質(5)は、塩化アルミニウム、及び、塩化カルシウムのうち、少なくとも1つが、それぞれ、飽和濃度まで溶解した水溶液である、空気電池。 - 請求項1に記載の空気電池であって、
該空気電池の負極活物質(2)は、アルミニウム又はアルミニウム合金である、空気電池。
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