JP4569049B2 - 質量分析装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エレクトロスプレイ質量分析装置(ESI−MS)、大気圧化学イオン化質量分析装置(APCI−MS)等の比較的大気圧に近い圧力下で試料をイオン化する質量分析装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
液体クロマトグラフ(LC)等で成分分離した液体試料を質量分析装置(MS)に導入して検出する場合、エレクトロスプレイ法(ESI)や大気圧化学イオン化法(APCI)などのイオン化インタフェースが利用される。これらイオン化法は何れも、比較的大気圧に近い圧力下で試料をイオン化するものであり、高い(つまり大気圧に近い)圧力状態にあるイオン化室と、ごく低い圧力状態(つまり高真空度の状態)にある質量分析室との間での圧力差を確保するため、両室の間に1乃至複数の中間室を設け、段階的にその真空度を高めるようにした構成が採用されている。
【0003】
このような構成では、イオン化室とその後段の中間室、又は中間室と更にその後段の中間室との間での差圧を確保するため、その頂部に微小なイオン通過孔(一般に「オリフィス」と呼ばれる)を有する円錐形状のスキマーが利用されている。また、中間室内には、イオンを後段に効率よく輸送するために、イオンレンズやイオンガイドと呼ばれるイオン輸送を補助する手段が用いられている。
【0004】
イオンレンズやイオンガイドの主たる作用は飛行するイオンを電界によって収束しつつ場合によっては加速するものであって、種々の形状のものが提案されている。その一つとして、イオン光軸の周囲に、その光軸方向に延伸するポール状の電極を互いに離間して偶数本配置した、いわゆるマルチポール型のイオンガイドが知られている(なお、本出願人が特開2000−149865号公報に記載の発明で提案しているように、ポール状電極は、同等の作用を有せば板状電極の集合体で置き換えることもできる)。このようなマルチポール型のイオンガイドでは、周方向に隣接するポール状電極には、同一の直流電圧にそれぞれ位相が反転した高周波電圧が重畳された電圧(換言すれば直流的にバイアスされた高周波電圧)が印加される。これにより発生する高周波電場によって、イオンガイド内に導入されたイオンは所定の周期で振動しながら進み、後段へと効率よく輸送されることになる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
LC/MSでは液体試料の殆どが溶媒であることが多いため、イオン化室では溶媒に起因する多量の低質量イオンが発生する。通常、溶媒は目的成分よりも早くLCのカラムを通過してイオン化室へと到達するから、これに起因する多量の低質量イオンがスキマーのオリフィスを通ってマルチポール型イオンガイドに導入されることになる。すると、イオンガイド内の空間電荷に影響を与え、あとから到来する高質量イオンの通過に悪影響を及ぼすことがある。その結果、目的とする高質量イオンの輸送効率が悪化し、ひいては分析感度を低下させるおそれがあった。
【0006】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、不所望の低質量イオンをできる限り排除して、目的とする高質量(多価イオンであれば質量数は小さい可能性もある)イオンを効率よく後段へと輸送することができるイオン輸送光学系を備えた質量分析装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために成された本発明は、イオン光軸上に通過孔を有するスキマーと、その後段にあってイオン光軸を取り囲んで互いに分離して配設された複数本のポール状電極から成るマルチポール型のイオンガイドとを含むイオン輸送光学系を具備し、直流電圧と高周波電圧とを重畳した電圧を前記イオンガイドの各ポール状電極に印加することにより前記スキマーの通過孔を通過したイオンを後段へと輸送する質量分析装置に於いて、
a)前記イオンガイドへ印加する直流電圧と前記スキマーに印加する直流電圧の少なくとも何れか一方を調整するための電圧調整手段と、
b)所定の質量よりも小さな質量を有するイオンを排除する静電場を前記スキマーと前記イオンガイドとの間の空間に形成するために、該イオンガイド及びスキマーへ印加される直流電圧の電圧差が前記所定の質量に応じた所定の値になるように前記電圧調整手段を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴としている。
【0008】
【発明の実施の形態、及び効果】
スキマーの通過孔を通過した直後のイオンの速度vはそのイオンの質量mには殆ど依存せず一定であるため、そのイオンが有する運動エネルギEは質量mにほぼ比例することになる。この運動エネルギEが小さいほどイオンはスキマーとイオンガイドとの間の空間に存在する電場の影響を受け易く、飛行軌道が変化し易い。本発明に係る質量分析装置ではこのことを利用し、スキマーに印加する直流電圧とイオンガイドに印加する直流電圧との電圧差を適宜に設定するように各直流電圧を調整することによって上記空間に適宜の静電場を発生させ、所定の質量よりも小さな質量を有するイオンがイオンガイドに導入されない、又は該イオンガイドが適切に後段へとイオンを輸送し得るような受容範囲内に導入されないようにする。
【0009】
なお、上記静電場の状態はスキマーとイオンガイドとの間の直流的な電圧差に依存するから、スキマー又はイオンガイドの直流電圧は接地電位であってもよいことは当然である。
【0010】
本発明の一態様としては、上記電圧差の目標値である所定値をオペレータが入力する構成とすることができる。また、本発明の別の態様としては、オペレータは排除したい低質量イオンの質量上限値を入力し、その値に応じて自動的に電圧差を算出する構成としてもよい。
【0011】
【発明の効果】
本発明に係る質量分析装置によれば、液体試料の溶媒に起因する低質量のイオンをイオンガイドの手前で排除することができるので、イオンガイド内の空間電位がこれら低質量イオンの影響を受けず、高質量イオンの輸送が妨げられることを防止できる。そのため、分析対象である高質量イオンの輸送効率が向上し、ひいては分析感度の向上を図ることができる。
【0012】
【実施例】
以下、本発明に係る質量分析装置の一実施例について図面を参照して説明する。図1は本実施例によるESI−MSの要部の構成図である。
【0013】
このMSは、図示しない液体クロマトグラフのカラムの出口端に接続されたノズル11が配設されて成るイオン化室10と、四重極フィルタ19及び検出器20が配設されて成る分析室18との間に、それぞれ隔壁で隔てられた第1中間室12及び第2中間室15が設けられている。イオン化室10と第1中間室12との間は細径の脱溶媒パイプ(ヒーテッドキャピラリ)13を介して、第1中間室12と第2中間室15との間は、頂点に小径のオリフィス16aを有する円錐形状のスキマー16を介してのみ連通している。
【0014】
イオン化室10内はノズル11から連続的に供給される試料液の気化分子によりほぼ大気圧になっており、第1中間室12内はロータリポンプにより約102Paの低真空状態まで真空排気される。また、第2中間室15内はターボ分子ポンプにより約10-1〜10-2Paの中真空状態まで真空排気され、分析室18内は同じくターボ分子ポンプにより約10-3〜10-4Paの高真空状態まで真空排気される。すなわち、イオン化室10から分析室18に向かって各室毎に真空度を高くすることにより、最終段の分析室18内が高真空状態に維持されるようにしている。
【0015】
液体試料はノズル11からイオン化室10内に噴霧され、液滴中の溶媒が蒸発する過程で試料分子はイオン化される。イオンが入り混じった微細液滴はイオン化室10と第1中間室12との差圧により脱溶媒パイプ13中に引き込まれ、脱溶媒パイプ13を通過する過程で溶媒が蒸発して更にイオン化が進む。第1中間室12内には対向する平板板状又はリング状のレンズ電極14が設けられており、このレンズ電極14により形成される電場によって脱溶媒パイプ13を介してのイオンの引き込みを助けると共に、イオンをスキマー16のオリフィス16a近傍に収束させる。
【0016】
収束されたイオンは、第1、第2中間室12、15の間の差圧によって引き込まれるようにスキマー16のオリフィス16aを通過し、後述するようにイオンガイド17によって収束されつつ分析室18へと送られる。分析室18では、特定の質量数(m/z)を有するイオンのみが四重極フィルタ19中央の長手方向の空間を通り抜け、検出器20に到達して検出される。
【0017】
図2は本装置のスキマー16及びイオンガイド17付近の模式的な斜視図、図3は同部分の詳細な構成図である。
【0018】
図2に示すように、イオンガイド17は複数の略円柱形状のポール状電極が光軸Cを中心とする所定径の円Aに外接するように互いに離間して配設された構成を有している。本例ではポール状電極は4本であるが、これに限るものではなく4本以上の偶数本とすることができる。また、上述したように実質的にポール状電極と看做すことができる構造であってもよい。
【0019】
イオンガイド17を構成する各ポール電極はイオンガイド用電圧印加部22に接続されており(但し、図3では煩雑さを避けるため一部のみ記載している)、周方向に隣接するポール状電極には、同一の直流電圧V1に互いに位相が反転した高周波電圧が重畳された電圧が印加されるようになっている。このような印加電圧によってポール状電極で囲まれた空間に生じる高周波電場により、該空間内に導入されたイオンは所定の周期で振動しながらイオン光軸Cにまとわりつくように進行する。一方、その前段のスキマー16にはスキマー用電圧印加部21より直流電圧V2が印加される。このスキマー用電圧印加部21及びイオンガイド用電圧印加部22は、制御部23の制御の下に電圧印加動作を行う。制御部23の実体はコンピュータであって、操作部24から入力された各種のパラメータに基づいて上記電圧印加部21、22のほか、MSの各部の制御を実行する。
【0020】
上記構成に於いて、上述した如くイオンは差圧により引き込まれてスキマー16のオリフィス16aを通過するため、オリフィス16aを通過した直後のイオンの速度vはその質量mに依らずほぼ一定の値となる。これは本発明者らの実験によって確認されている。一方、そのときにイオンが有する運動エネルギEは、
E=(1/2)・m・v2
であるから、運動エネルギEは質量mに比例する。したがって、質量mが大きなイオンほど大きな運動エネルギEを有した状態でオリフィス16aを通過して第2中間室15へと導入される。
【0021】
スキマー16とイオンガイド17との間の空間に静電場が存在する場合、運動エネルギEが小さなイオンほどその電場の影響を受け易く、飛行軌道がイオン光軸Cから大きく外れ易くなる。例えば或る静電場が形成されている場合、高質量イオンは図3中にBHで示すような飛行軌跡を描いてイオンガイド17に導入され、その内部空間で振動しながら後段へと輸送される。一方、低質量イオンは静電場の影響をより強く受け、図3中にBLで示すようにスキマー16とイオンガイド17との直流電位差を乗り越えることができず、イオンガイド17内に侵入することができない。
【0022】
上記静電場の状態は電圧V1と電圧V2との電圧差ΔV(=|V2−V1|)に依存するから、この電圧差ΔVを調整することによりスキマー16を通過したもののイオンガイド17の手前で発散してしまうイオンの最大質量を決めることができる。逆に言えば、或る質量よりも小さな質量を有するイオンを発散させたい場合には、電圧差ΔVを調整すればよいことになる。本装置では、例えば、除去したい低質量イオンの最大質量をオペレータが操作部24より入力するものとする。制御部23は予めその質量と電圧差ΔVとの対応関係を示すテーブル(又は計算式)を有しており、上記入力に対応して電圧差ΔVを算出する。そして、その電圧差ΔVに基づいてV1、V2の値を決定し、電圧印加部21、22をそれぞれ制御する。もちろん、排除したいイオンの最大質量を入力する代わりに、電圧差ΔV自体をオペレータが入力する構成とするなど、様々な態様が考え得る。
【0023】
本装置によれば、溶媒に起因する低質量イオンはイオンガイド17に導入されず、イオンガイド17内の空間電荷はそれら低質量イオンの影響を受けない。そのため、遅れて導入される高質量イオンの通過を妨げることなく、高質量イオンは適切に収束されて分析室18へと送り込まれる。
【0024】
なお、上記実施例は本発明の単に一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変更や修正を行っても本発明に包含されることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例による質量分析装置の要部の構成図。
【図2】 本実施例の質量分析装置のスキマー及びイオンガイド付近の模式的な斜視図。
【図3】 本実施例の質量分析装置のスキマー及びイオンガイド付近の詳細な構成図。
【符号の説明】
10…イオン化室
11…ノズル
12…第1中間室
13…脱溶媒パイプ
14…レンズ電極
15…第2中間室
16…スキマー
16a…オリフィス
17…イオンガイド
18…分析室
19…四重極フィルタ
20…検出器
21…スキマー用電圧印加部
22…イオンガイド用電圧印加部
23…制御部
24…操作部
C…イオン光軸
Claims (1)
- イオン光軸上に通過孔を有するスキマーと、その後段にあってイオン光軸を取り囲んで互いに分離して配設された複数本のポール状電極から成るマルチポール型のイオンガイドとを含むイオン輸送光学系を具備し、直流電圧と高周波電圧とを重畳した電圧を前記イオンガイドの各ポール状電極に印加することにより前記スキマーの通過孔を通過したイオンを後段へと輸送する質量分析装置に於いて、
a)前記イオンガイドへ印加する直流電圧と前記スキマーに印加する直流電圧の少なくとも何れか一方を調整するための電圧調整手段と、
b)所定の質量よりも小さな質量を有するイオンを排除する静電場を前記スキマーと前記イオンガイドとの間の空間に形成するために、該イオンガイド及びスキマーへ印加される直流電圧の電圧差が前記所定の質量に応じた所定の値になるように前記電圧調整手段を制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とする質量分析装置。
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